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特許74755781,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの製造方法
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  • 特許-1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-19
(45)【発行日】2024-04-30
(54)【発明の名称】1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/04 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
C07F7/04 N
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020114176
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022012373
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】池野 正行
(72)【発明者】
【氏名】豊島 武春
(72)【発明者】
【氏名】崔 準哲
(72)【発明者】
【氏名】深谷 訓久
(72)【発明者】
【氏名】松本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】石坂 悠介
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-002888(JP,A)
【文献】国際公開第2011/148890(WO,A1)
【文献】特開2018-184395(JP,A)
【文献】特開2014-167091(JP,A)
【文献】特表2017-509741(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002489(WO,A1)
【文献】特開2014-065699(JP,A)
【文献】特開平04-230391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの製造方法であって、ジアセトキシジ‐tert-ブトキシシランと、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる1種以上とを混合して反応させて1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンを製造することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
更に、脱水剤を混合して反応させることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記脱水剤を、硫酸ナトリウムおよび硫酸マグネシウムから選ばれる1種以上とすることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
更に、有機溶剤を混合して反応させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶剤を、ペンタンおよびヘキサンから選ばれる1種以上とすることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサンは高度に制御された分子構造を持つため、シリコーンレジンや接着性を付与するためのシロキサン化合物を精密合成する際の原料として有用である。
【0003】
これまでにヘキサクロロジシロキサンを原料とする合成法が知られているが、この原料は加水分解性が極めて高いために取り扱いが難しく、また、高価であることが難点であった。1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサンを工業的に合成して応用していくことを考慮すると、より取り扱いが容易、かつ比較的安価であるアルコキシシランを出発原料とすることが望ましい。
【0004】
しかし、アルコキシシランが加水分解することで生成するシラノール基は、縮合性が高く、2分子のシラノール基、あるいは1分子のシラノール基およびアルコキシシリル基からシロキサン結合を連続的に生成し得る。このため、目的とする1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサンを合成する際、ダイマー化に留まらずにオリゴマー化やポリマー化まで進行してしまう。そのためアルコキシシランを出発原料とする際の縮合反応を制御し、1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサンを選択的に合成して単離することは困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Appl.Organometal.Chem.2003、17、52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラアルコキシジシロキサンの中でも1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの簡便な合成法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、
1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの製造方法であって、ジアセトキシジ‐tert-ブトキシシランと、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる1種以上とを混合して反応させて1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンを製造する製造方法を提供する。
【0008】
このような製造方法であれば、アルコキシシランを出発原料とし、1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンを簡便な方法で選択的に得ることができる。
【0009】
このとき、反応時に、更に脱水剤を混合して反応させることが好ましい。
【0010】
脱水剤の存在下で上記反応を行う事により、より反応効率を向上させることができる。
【0011】
またこのとき、前記脱水剤を、硫酸ナトリウムおよび硫酸マグネシウムから選ばれる1種以上とすることが好ましい。
【0012】
このようなものとすれば、本発明の効果をより一層向上させることができる。
【0013】
またこのとき、反応時に、更に有機溶剤を混合して反応させることが好ましい。
【0014】
有機溶剤の存在下で上記反応を行う事により、より反応効率を向上させることができる。
【0015】
またこのとき、前記有機溶剤を、ペンタンおよびヘキサンから選ばれる1種以上とすることが好ましい。
【0016】
このようなものとすれば、本発明の効果をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の製造方法であれば、アルコキシシランを出発原料とし、1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンを簡便な方法で選択的に得ることができる。得られたジシロキサンは、シリコーンレジンや接着性を付与するシロキサン成分を精密合成する際の原料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で得られた1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンのH-NMRスペクトルである。
図2】実施例1で得られた1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの29Si-NMRスペクトルである。
図3】実施例1で得られた1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンのX線結晶構造解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述のように、1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの効率的な製造方法が求められていた。
【0020】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ジアセトキシジ-tert-ブトキシシランならびに水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる1種以上とを混合し反応させることで、ダイマー化が選択的に進行し、1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンが効率的に得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
即ち、本発明は、
1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの製造方法であって、ジアセトキシジ‐tert-ブトキシシランと、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる1種以上とを混合して反応させて1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンを製造することを特徴とする製造方法である。
【化1】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明の1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの製造方法において、ジアセトキシジ‐tert-ブトキシシランが原料として用いられる。
【0024】
アセトキシ基は良好な脱離基であり、ヒドロキシ基へ置換されてダイマー化が進行する。アセトキシ基以外のカルボキシ基も、本反応に適用することができると考えられるが、取り扱いおよびコスト的観点から、アセトキシ基が最も良い。tert-ブトキシ基も脱離基として働き得るが、立体障害が高いため、水やシラノール基の求核置換反応の進行を抑え、シロキサンオリゴマーやポリマーの生成を防ぐ。
【0025】
本発明の製造方法において、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムから選ばれる1種以上を添加することにより、脱離したアセトキシ基を、酢酸ナトリウム又は酢酸カリウムの形で析出させることにより反応系中から除去することができる。より収率を高めることができる点から水酸化ナトリウムが好ましい。
【0026】
水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムの添加量の合計は、ジアセトキシジ-tert-ブトキシシランに対して2.0~2.2モル当量となる量が好ましく、より好ましくは2.0~2.05モル当量となる量である。このような範囲内であれば、未反応のジアセトキシジ-tert-ブトキシシランが残存することを抑え、かつ、ジアセトキシジ-tert-ブトキシシランの過剰な重合反応を抑えることができる。
【0027】
反応温度は特に限定されず、室温で行う事ができるが、副反応を抑制する点から、-10℃~0℃で反応を行う事が好ましい。
【0028】
反応時間は、反応温度及び反応の進行に応じて適宜変更すればよく、1時間~24時間が好ましい。
【0029】
本発明の製造方法において、反応系に更に脱水剤を添加してもよい。
【0030】
脱水剤は反応にて生じる水分子をトラップし、tert-ブトキシ基の加水分解縮合によるシロキサンオリゴマーやポリマーの生成を防ぐ。
【0031】
脱水剤としては、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム等の塩が挙げられ、これらの中でも硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムが好ましい。
【0032】
これらの塩を脱水剤として用いる場合の添加量は、ジアセトキシジ-tert-ブトキシシランに対して1.0~5.0モル当量となる量が好ましく、より好ましくは1.0~3.0モル当量となる量である。このような範囲内であれば、反応系中での混合攪拌を阻害することなく、発生した水を速やかに脱水する。
【0033】
また、脱水剤として、シリカゲル、ゼオライト等の多孔質吸着剤を用いることもできる。多孔質吸着剤の使用量は、ジアセトキシジ-tert-ブトキシシラン1質量部に対して1~10質量部となる量が好ましく、より好ましくは1~5質量部となる量である。このような範囲内であれば、反応系中での混合攪拌を阻害することなく、発生した水を速やかに除くことができる。
【0034】
また、本発明の製造方法において、反応の際に攪拌効率を向上させる目的で有機溶剤を添加してもよい。
【0035】
有機溶剤の具体的としてはペンタン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられ、中でも吸湿性の低さからペンタン、ヘキサンが好適である。
【0036】
有機溶剤の使用量は、ジアセトキシジ-tert-ブトキシシラン1質量部に対して5~100質量部となる量が好ましく、より好ましくは10~60質量部となる量である。
【実施例
【0037】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0038】
[実施例1]
不活性雰囲気下にて、三口フラスコにジアセトキシジ-tert-ブトキシシラン(信越化学工業株式会社製)0.31g及びヘキサン10mlを加え、0℃に冷却した。そこへ水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.08gを加え、0℃で12時間攪拌した。反応後、揮発成分を減圧留去し、ヘキサン中にて再結晶を行い、0.11gの無色結晶を得た。H-NMR、29Si-NMRおよびX線結晶構造解析の結果(図1~3)、得られた結晶は1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンであると同定され、その単離収率は53%であった。
【0039】
[実施例2]
不活性雰囲気下にて、三口フラスコにジアセトキシジ-tert-ブトキシシラン(信越化学工業株式会社製)0.61g及びペンタン16mlを加え、0℃に冷却した。そこへ水酸化ナトリウム0.17gと硫酸ナトリウム0.46gを加え、0℃で12時間混合攪拌した。反応後、揮発成分を減圧留去し、ヘキサン中にて再結晶を行い、0.28gの無色結晶を得た。H-NMR、29Si-NMRおよびX線結晶構造解析の結果、得られた結晶は1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンであると同定され、その単離収率は68%であった。
【0040】
[実施例3]
不活性雰囲気下にて、三口フラスコにジアセトキシジ-tert-ブトキシシラン(信越化学工業株式会社製)0.31g及びペンタン8mlを加え、0℃に冷却した。そこへ水酸化ナトリウム0.08gと硫酸マグネシウム0.15gを加え、0℃で12時間混合攪拌した。反応後、揮発成分を減圧留去し、ヘキサン中にて再結晶を行い、0.13gの無色結晶を得た。H-NMR、29Si-NMRおよびX線結晶構造解析の結果、得られた結晶は1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンであると同定され、その単離収率は68%であった。
【0041】
[実施例4]
不活性雰囲気下にて、三口フラスコにジアセトキシジ-tert-ブトキシシラン(信越化学工業株式会社製)0.31g及びペンタン8mlを加え、0℃に冷却した。そこへ水酸化カリウム0.12gと硫酸ナトリウム0.25gを加え、0℃で14時間混合攪拌した。反応後、揮発成分を減圧留去し、ヘキサン中にて再結晶を行うことで、0.08gの無色結晶を得た。H-NMR、29Si-NMRおよびX線結晶構造解析の結果、得られた結晶は1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンであると同定され、その単離収率は39%であった。
【0042】
[実施例5]
不活性雰囲気下にて、シュレンク管にジアセトキシジ-tert-ブトキシシラン(信越化学工業株式会社製)0.31g、ヘキサン8ml、及び内部標準としてメシチレン0.12gを加えた。25℃にて水酸化ナトリウム0.08gを加え、25℃で混合攪拌した。水酸化ナトリウムの添加から1時間後、3時間後、7時間後、22時間後にH-NMR、29Si-NMRを測定し、いずれの反応時間においても1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの生成を確認した。
【0043】
[実施例6]
不活性雰囲気下にて、シュレンク管にジアセトキシジ-tert-ブトキシシラン(信越化学工業株式会社製)0.31g、ヘキサン8ml、及び内部標準としてメシチレン0.12gを加え、-10℃に冷却した。水酸化ナトリウム0.08gを加え、-10℃で混合攪拌した。水酸化ナトリウムの添加から1時間後、3時間後、7時間後、22時間後にH-NMR、29Si-NMRを測定した。反応開始1時間後では1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの生成を確認できなかったが、3時間後、7時間後、22時間後ではいずれの反応時間においても1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの生成を確認した。
【0044】
[比較例1~4]
下記反応式に示すように、L、M(OH)及び脱水剤を表1に記載のものを用いて実施例1と同様の手法で反応を行ったが、いずれも反応生成物がゲル状となったため、目的の1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンを得ることができなかった。
【化2】
【0045】
【表1】
【0046】
実施例1~6の結果より、ジアセトキシジ‐tert-ブトキシシランと水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを混合すると、1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンの合成が可能であることが分かる。一方、比較例1~4の結果により、その他の金属の水酸化物を用いたり、ジアセトキシジ‐tert-ブトキシシランのアセトキシ基が塩素に置換された化合物を用いたりすると、目的の1,3-ジヒドロキシ-1,1,3,3-テトラ-tert-ブトキシジシロキサンを得ることができないことも判明した。
【0047】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3