(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】軌道算出装置、軌道算出方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/047 20230101AFI20240425BHJP
【FI】
G06Q10/047
(21)【出願番号】P 2021014884
(22)【出願日】2021-02-02
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】池内 光希
(72)【発明者】
【氏名】松田 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 洋
【審査官】永野 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-148532(JP,A)
【文献】特開2017-219979(JP,A)
【文献】特開2015-040780(JP,A)
【文献】特開2019-008689(JP,A)
【文献】特開2004-077360(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0409376(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111880561(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワーク形状の対象物
を情報収集端末
が移動する際の軌道を算出する軌道算出装置であって、
前記情報収集端末の移動距離を表すコスト関数
値を近似計算
するコスト関数計算部と、
前記コスト関数
値の近似計算の結果を前記移動距離に関する制約として、前記情報収集端末が前記対象物に関する情報を収集するための軌道を算出する軌道算出部と、を備え
、
前記軌道算出部は、
前記対象物が表すネットワークの枝が完全に被覆されたときに前記枝における情報収集の優先度に応じた重み付きの効用が加算される効用関数の値を最大化するように、前記軌道を算出する、
軌道算出装置。
【請求項2】
前記軌道算出部は、前記コスト関数が制約を満たす限り、貪欲
法に
基づいて前記効用が高い枝から選択
することにより、前記軌道を算出する、
請求項
1に記載の軌道算出装置。
【請求項3】
前記軌道算出部は、前記コスト関数が制約を満たす限り、追加で必要となる移動距離に対する得られる効用の比率が高い枝から選択
することにより、前記軌道を算出する、
請求項1
又は2に記載の軌道算出装置。
【請求項4】
前記コスト関数計算部は、前記コスト関数の計算を、被覆すべき枝を完全に被覆する枝集合被覆問題と、枝被覆を行う情報収集領域を最短で巡回する問題のそれぞれを近似的に解くことによって全体の解を求めるものであって、前記枝集合被覆問題を、前処理により幾何的な包含関係のみに基づく集合被覆問題に帰着させて解く、
請求項1から
3のいずれか1項に記載の軌道算出装置。
【請求項5】
ネットワーク形状の対象物
を情報収集端末
が移動する際の軌道を算出する軌道算出
装置が、
前記情報収集端末の移動距離を表すコスト関数
値を近似計算
するコスト関数計算ステップと、
前記コスト関数
値の近似計算の結果を前記移動距離に関する制約として、前記情報収集端末が前記対象物に関する情報を収集するための軌道を算出する
軌道算出ステップと、を
実行し、
前記軌道算出ステップは、
前記対象物が表すネットワークの枝が完全に被覆されたときに前記枝における情報収集の優先度に応じた重み付きの効用が加算される効用関数の値を最大化するように、前記軌道を算出する、
軌道算出方法。
【請求項6】
コンピュータを請求項1から
4のいずれか1項に記載の軌道算出装置における各部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道算出装置、軌道算出方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
災害発生後、被災地にカメラを搭載した無人航空機(unmanned aerial vehicles; 以下UAVと呼ぶ)を飛行させることで被災情報を収集する試みが注目されている。人工衛星による撮影よりも近距離で詳細な情報収集が可能であり、実際に国土地理院による台風被災地の撮影などが実施されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、地震による被災状況評価のためのUAV軌道算出方法が開示されている。この方法は、主に二次元的な広がりを持つ対象物に対する情報収集を目的としている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】A. Nedjati, G. Izbirak, B. Vizvari, and J. Arkat, "Complete coverage path planning for a multi-uav response system in post-earthquake assessment," Robotics, vol. 5, no. 4, p. 26, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通信インフラの早期復旧や物資輸送においては、特にネットワーク形状の対象物に関する情報収集が極めて重要である。例えば通信事業者は破損した架空ケーブルを修復する必要があるが、どこが破損しているかを正しく把握しなければならない。また、修復用物資や技術職員、電源車の派遣、非常用燃料の供給を行う必要があるが、被災地の場合、倒木や土砂崩れ、地割れなどが発生していることがあり、道路状況を把握しておくことが不可欠である。このように、通信網や輸送網をはじめとする社会基盤の破損状況把握、早期復旧には、架空通信網、電力網、道路網など、ネットワーク形状の対象物に対する情報収集が必要となる。
【0006】
ネットワーク形状の対象物の情報収集は、対象地域の網羅的な監視や負傷者の発見とは問題の性質が異なり、別の探索方策が必要である。例えば、架空通信網の場合、分岐点から分岐点までの架空ケーブルのどこか一か所が破損していた場合、その区間は通信することができない。道路に関しても同様で、交差点間のどこか一か所が不通となっていると、その道路は使用できない。すなわち、あるケーブルや道(グラフ理論の用語でいう「枝」)が使えるか否かは、そのケーブル全体、道全体を監視して初めて結論を下すことができる。このように、ネットワーク形状の対象物の場合、隣り合う2頂点間の連結性を保証できるように撮影を実施することが肝要である。UAVカメラの軌道設計もそれに応じたものが求められる。
【0007】
UAVカメラの軌道設計の従来技術として、例えば非特許文献1等に開示されている技術がある。しかし、非特許文献1等に開示されている従来技術においては、ネットワーク固有の性質を考慮しないため、ネットワーク形状の対象物の情報を効率よく収集するための最適軌道を算出することができないという問題がある。
【0008】
開示の技術は、ネットワーク形状の対象物の情報収集の効率を上げることを可能とする軌道算出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
開示の技術は、ネットワーク形状の対象物についての情報および情報収集端末に関する情報に基づいて軌道を算出する軌道算出装置であって、コスト関数に関する近似計算を行うコスト関数計算部と、前記コスト関数に関する計算結果に基づいて、前記情報収集端末が前記対象物に関する情報を収集するための軌道を算出する軌道算出部と、を備える軌道算出装置である。
【発明の効果】
【0010】
開示の技術によれば、ネットワーク形状の対象物の情報収集の効率を上げることを可能とする軌道算出装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図7】実施例1に係る人工的なネットワークの一例を示す図である。
【
図8】実施例1に係るシミュレーションの結果を示す図である。
【
図9】実施例2に係る実道路網の一例を示す図である。
【
図10】実施例2に係る実道路網の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(本実施の形態)を説明する。以下で説明する実施の形態は一例に過ぎず、本発明が適用される実施の形態は、以下の実施の形態に限られるわけではない。
【0013】
本実施の形態では、対象物の情報を効率よく収集するためのUAV(unmanned aerial vehicles)カメラの最適軌道を算出する技術について説明する。以下の説明において、参考文献を[1]、[2]等として示している。各参考文献名については、明細書の最後に記載した。
【0014】
(問題設定)
本実施の形態に係る技術を説明する前に、まずは、本実施の形態に関連する問題設定を与える。なお、以下で説明する問題設定は一例に過ぎず、適用可能な問題設定はこれに限られるわけではない。
【0015】
2次元の監視可能領域(
【0016】
【0017】
【数2】
は、実数の2つの組を表し、ここでは2次元平面のこと)を考える。対象ネットワークをG(V,E)と書き、ここでV={v
i}
i,E={e
j}
jはそれぞれ頂点と枝を表す。Gの連結性、単純性は仮定しない。頂点v
i∈Vは点v
i∈Ωであり、道路網であれば道路の交差点、架空通信網であれば架空線の分岐点を表す。枝e
j∈Eは単純曲線e
j⊂Ωであり、道路網であれば交差点間の道路、架空線であれば分岐点間の架空線を表す。故障率λ
H,λ
Nを,それぞれハザードエリアH⊂Ω、非ハザードエリアH
c=Ω-Hにおける、対象ネットワークの1kmあたりの平均故障数と定義する。重要度関数
【0018】
【0019】
【数4】
は非負実数全体の集合を表す)。例えばe
jを流れるトラヒック量に応じて定める。
【0020】
UAVはΩ内の撮影スポットから写真を撮ることができる。撮影スポットは有限箇所存在し、k∈Kによりインデックスされる。UAVは円盤領域
【0021】
【数5】
を撮影でき、これを撮影領域と呼ぶ。ここでλ
H,λ
N
【0022】
【数6】
は撮影領域の中心(これも撮影スポットと呼ぶことにする)であり、
【0023】
【0024】
【0025】
撮影スポット集合
【0026】
【数9】
に対し、効用関数を式(1)のように定める。
【0027】
【0028】
ここで|ej∩H|は枝ejのうちHと重なっている部分の長さ、|ej∩HC|は枝ejのうちHCと重なっている部分の長さである。この効用関数は、λH,λNが十分小さい場合に故障が完全に発見された枝の重み付き平均数を表す。ここで重みとは枝の重要度である。すなわち故障した枝ができるだけ多く見つけることを目指して設定された効用関数である。UAVによる撮影は、故障していない枝の把握、修理すべき枝の把握を目的としており、一か所でも故障している枝は(例え他の箇所が修正されたとしても)使うことはできない。このような事情を考慮し、撮影スポットによって完全に被覆されていない枝は効用関数に寄与しない。
【0029】
次に、UAV軌道最適化問題を定式化する。本問題は定められた飛行可能距離の中で効用関数をできるだけ最大化するための飛行ルートを求める問題である。UAVは指定されたUAV拠点を離発着するものとする。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【数14】
に現れるkの集合とする。このときUAV軌道最適化問題は式(2)のように表される。
【0034】
【0035】
ここで
【0036】
【数16】
はすべての(任意長の)kの列からなる集合であり、
【0037】
【0038】
【数18】
に含まれる撮影スポットをこの順に回った時の飛行距離である。またk
baseはUAV拠点である。Lは飛行可能距離である。この問題は、効用関数が非加法的なオリエンテーリング問題であり、効用関数が加法的な(通常の)オリエンテーリング問題を含むことから、NP困難である。
【0039】
さて以上の準備に基づき、本実施の形態で係るUAVの最適軌道の算出方法を述べる。式(2)の最適化問題は、効用関数が非加法的であるため、取り扱うのが難しい。非加法的な効用関数に対するオリエンテーリング問題を論じた文献も存在するが[3,4]、そこでは効用関数が劣モジュラ的であることを仮定している。しかし、本問題では劣モジュラ性も有しないため、既存技術をそのまま適用することはできない。そこで、まず式(2)で書かれた問題を「枝選択問題」へと変換する。変換された問題は効用関数が加法的となるため、扱いやすくなる。次にこの変換された問題を近似的に解くためのヒューリスティックなアルゴリズムを2つ述べる。またアルゴリズム内で計算が必要なコスト関数に関する計算法を最後に述べる。
【0040】
(枝選択問題への変換)
式(1)の効用関数は被覆された枝の集合に対して値が決まることに着目すると、式(2)は式(3)、(4)および(5)のような最適化問題へと変換できる。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
(アルゴリズム)
図1は、アルゴリズム1の処理手順を示す図である。
図2は、アルゴリズム2の処理手順を示す図である。式(3)、(4)および(5)の最適化問題を解くヒューリスティックなアルゴリズムがアルゴリズム1または2である。ただし、ここに記したアルゴリズムは実装の一例である。
【0048】
アルゴリズム1は、飛行長が条件を満たすかを確かめながら、効用が大きい枝から順に選択していくものである。アルゴリズム2は、飛行長が条件を満たすかを確かめながら、(効用)/(追加で必要となる飛行長)の値が大きい枝から順に選択していくものである。アルゴリズム1は大きな効用を持つ枝を取得できるものの、離れた枝間を飛ぶ状況が多く発生し飛行距離のロスが大きいと考えられる。これに対しアルゴリズム2はすでに選ばれた枝集合から近めの枝を選択していくことが多いため飛行距離のロスは小さめだが、大きな効用を持つ枝を見落とす可能性がある。実際には、アルゴリズム1および2のうち、得られた効用が高い方を採用するアルゴリズムでもよい。
【0049】
なお、このアルゴリズムはルーティング制約下での劣モジュラ最適化を論じた文献[5]をと類似するものであるが、コスト関数が単純な巡回セールスマン問題の最適値ではなく、枝被覆を考慮したより複雑なものになっている点と、下記の(注意)にあるような枝刈りが実施される点とが異なる。
【0050】
(注意)
アルゴリズム2はアルゴリズム1に比べて計算コストが高いため、(オプショナルではあるが)枝刈り処理が実施されている。アルゴリズム2の7,8行目ではすでに選択された枝集合から距離Rより離れた枝をそのループでの候補から外している。ここで
【0051】
【0052】
【数26】
はその近似性のため減少関数でないことから、10行目の
【0053】
【数27】
も本来の探索範囲を限定したものになっている。
【0054】
(コスト関数の計算)
アルゴリズム1の4行目、アルゴリズム2の9行目において、制約条件である式(4)を満たし、
【0055】
【0056】
【0057】
【数30】
をコスト関数と呼ぶ。厳密な計算はNP困難であるため、その近似解の計算方法を述べる。ここではこの問題を「枝被覆問題」、「撮影スポット巡回問題」に分けて解く方法を述べる。ただし、アルゴリズム1または2は、これらの計算方法に限定したものではない。
【0058】
(枝被覆問題)
与えられた枝集合
【0059】
【0060】
【数32】
が完全に被覆するような、撮影スポット集合
【0061】
【数33】
を求める問題を考える。これは幾何学的集合被覆問題であり、類似の問題を[6]でも議論されているが、そこでは枝が線分であったのに対し、本問題では枝は曲線的でもよい。ここでは、計算幾何学的な処理を前処理(アルゴリズム1または2を実行する前の処理)として実施し、その後、アルゴリズム1または2の中で集合被覆問題を解くという方法を述べる。前処理を実施するのは、撮影領域と枝の交点を求めたり、被覆関係を計算したりする計算幾何学的な処理をアルゴリズム1または2の中で繰り返し実行するのは計算コストが高いためである。
【0062】
まず前処理では、Skの境界を用いてUk∈KSKを互いに素な領域{Tl}lに分割する。そして、各撮影領域が有限個のTlでどのように表現できるか、そして各枝ejを被覆する最小のTlの集合は何かを計算し記録しておく。以上が前処理である。
【0063】
アルゴリズム1、2の中では、SkとTlの包含関係およびejとTlの包含関係を用いて集合被覆問題を解けばよい。すなわち、
【0064】
【0065】
【0066】
【数36】
を完全に被覆するような{S
k}
k∈Kの部分集合を求めればよい。ここで各S
kは台集合{T
l}
lの集合被覆問題は貪欲法[7]などで近似的に解くことができる。今回の問題の場合、制約条件である式(5)のため、解
【0067】
【数37】
の中にk
baseを加えておくことに注意する。
【0068】
以上の処理について
図3に例を示した。
図3は、枝被覆問題の解の一例を示す図である。前処理では、右に書いた式の包含関係を抽出し、記録しておく。アルゴリズム1、2の内部では、これらの包含関係に基づき、枝集合
【0069】
【数38】
を被覆する撮影領域集合を求める。例えば、貪欲法を用いた場合、以下のように動作する。S
1、S
2、S
3およびS
4のうち、T
1、T
6、T
8、T
11およびT
12を最も多く含むのはS
3である(T
6、T
8、T
11、T
12)。次に、残りのT
1を含むのはS
1である。以上で
【0070】
【数39】
が完全に被覆されたので、S
3およびS
1(あるいはその添え字3および1)を出力して終了する。
【0071】
(撮影スポット巡回問題)
巡回すべき撮影スポット集合
【0072】
【数40】
が与えられれば、その巡回ルートを決定する問題はユークリッド巡回セールスマン問題として解ける。近似アルゴリズムも多数知られている[8]ため、任意の手法を用いてよい。後述のシミュレーションでは、最近傍法を用いた。
【0073】
(機能構成例)
図4は、軌道算出装置の機能構成図である。
図4に示すように、軌道算出装置10は、入力部11と、前処理部12と、軌道算出部13と、コスト関数計算部14と、出力部15と、を備える。コスト関数計算部14は、枝被覆問題求解部141と、撮影スポット巡回問題求解部142と、を含む。
【0074】
入力部11は、アルゴリズムの実行に必要なGISデータ(ネットワーク情報、ハザードエリア情報、撮影スポットなど)およびパラメータ(λH、λN、Lなど)の入力を受ける。入力部11は、入力されたGISデータおよびパラメータを前処理部12および軌道算出部13に渡す。
【0075】
前処理部12は、前述の枝被覆問題を解くための前処理を実行(包含関係の抽出)する。
【0076】
軌道算出部13は、前述のアルゴリズム1またはアルゴリズム2に規定された処理を実行し、コスト関数に関する計算結果に基づいて、UAV等の情報収集端末が対象物に関する情報を収集するための軌道を算出する。
【0077】
ここで、軌道算出部13は、ネットワークの枝が完全に被覆された際に効用が加算されるような効用関数を最大化することができるものであって、情報収集の優先度に基づき効用に重みを付与することができるような効用関数を扱っても良い。また、軌道算出部13は、コスト関数が制約を満たす限り、貪欲に効用が高い枝から選択を行っても良い。さらに、軌道算出部13は、コスト関数が制約を満たす限り、追加で必要となる移動距離に対する得られる効用の比率が高い枝から選択を行っても良い。
【0078】
コスト関数計算部14は、コスト関数に関する近似計算を行う。コスト関数計算部14は、コスト関数の計算を、被覆すべき枝を完全に被覆する枝集合被覆問題と、枝被覆を行う情報収集領域を最短で巡回する問題のそれぞれを近似的に解くことによって全体の解を求めるものであって、枝集合被覆問題を、前処理により幾何的な包含関係のみに基づく集合被覆問題に帰着させて解く。
【0079】
具体的には、軌道算出部13は、
【0080】
【0081】
【0082】
枝被覆問題求解部141は、前処理部12の結果に基づき、枝被覆問題を解いて、
【0083】
【数43】
を得て、撮影スポット巡回問題求解部142に渡す。
【0084】
撮影スポット巡回問題求解部142は、撮影スポット巡回問題を解いて
【0085】
【0086】
軌道算出部13は、コスト関数に関する計算が終わり次第、計算結果(算出されたUAV軌道)を出力部15に渡す。
【0087】
出力部15は、軌道算出部13から渡されたUAV軌道を示す情報を出力する。
【0088】
次に、軌道算出装置の動作について説明する。
図5は、最適軌道算出処理のフローチャートである。
【0089】
ユーザ等の操作を受けて、入力部11は、GISデータおよびパラメータの入力を受ける(ステップS11)。前処理部12は、前処理を実行する(ステップS12)。ここで、前処理部12は、GISデータおよびパラメータに基づいて、枝被覆問題を解くための幾何的な包含関係の抽出を実行する。
【0090】
軌道算出部13は、アルゴリズム1、2等のアルゴリズムの実行を開始する(ステップS13)。そして、コスト関数の計算が必要になると、コスト関数計算部14の枝被覆問題求解部141は、前処理部12の実行結果を使用して、枝被覆問題を解く(ステップS14)。
【0091】
次に、撮影スポット巡回問題求解部142は、枝被覆問題の解に基づいて、撮影スポット巡回問題を解く(ステップS15)。軌道算出部13は、撮影スポット巡回問題の解を得て、残りのアルゴリズムを実行してUAV軌道を算出し、アルゴリズムの実行を終了する(ステップS16)。
【0092】
出力部15は、算出されたUAV軌道を示す情報を出力する(ステップS17)。
【0093】
(ハードウェア構成例)
軌道算出装置は、例えば、コンピュータに、本実施の形態で説明する処理内容を記述したプログラムを実行させることにより実現可能である。なお、この「コンピュータ」は、物理マシンであってもよいし、クラウド上の仮想マシンであってもよい。仮想マシンを使用する場合、ここで説明する「ハードウェア」は仮想的なハードウェアである。
【0094】
上記プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(可搬メモリ等)に記録して、保存したり、配布したりすることが可能である。また、上記プログラムをインターネットや電子メール等、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0095】
図6は、上記コンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
図6のコンピュータは、それぞれバスBで相互に接続されているドライブ装置1000、補助記憶装置1002、メモリ装置1003、CPU1004、インタフェース装置1005、表示装置1006、入力装置1007、出力装置1008等を有する。
【0096】
当該コンピュータでの処理を実現するプログラムは、例えば、CD-ROM又はメモリカード等の記録媒体1001によって提供される。プログラムを記憶した記録媒体1001がドライブ装置1000にセットされると、プログラムが記録媒体1001からドライブ装置1000を介して補助記憶装置1002にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体1001より行う必要はなく、ネットワークを介して他のコンピュータよりダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置1002は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータ等を格納する。
【0097】
メモリ装置1003は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置1002からプログラムを読み出して格納する。CPU1004は、メモリ装置1003に格納されたプログラムに従って、当該装置に係る機能を実現する。インタフェース装置1005は、ネットワークに接続するためのインタフェースとして用いられる。表示装置1006はプログラムによるGUI(Graphical User Interface)等を表示する。入力装置1007はキーボード及びマウス、ボタン、又はタッチパネル等で構成され、様々な操作指示を入力させるために用いられる。出力装置1008は演算結果を出力する。
【0098】
本実施の形態に係る軌道算出装置10によれば、UAVの飛行可能距離制限の下で、故障が完全に発見された枝の平均数を最大化するようなUAV軌道を求める処理を行うことが可能となる。アルゴリズムが最大化する対象の効用関数は、上述の2点間連結性を考慮したものであり、カメラ撮影により完全に被覆された枝のみ効用関数に寄与するように設計されているため、ネットワーク形状を持つ対象物固有の特徴を反映できている。また、優先的に撮影したい枝や、被災確率の高い枝がある場合には、適切にパラメータを設定することで、それらを考慮したUAV軌道を設計することもできる。
【0099】
以下では本実施の形態に係る軌道算出装置10を用いて、人工的なネットワーク(実施例1)と実道路網(実施例2)とに対し、シミュレーションを実施した結果について説明する。
【0100】
(実施例1:人工的なネットワーク)
図7は、実施例1に係る人工的なネットワークの一例を示す図である。これは長さ1の枝10本と、長さ2の枝1本と、長さ3の枝3本と、からなるグリッド上の木である。5本の太い枝が重要度の高い枝f(e
j)=3であり、その他の枝が重要度の高くない枝f(e
j)=1である。斜線で示される領域がハザードエリアHであり、故障率λ
H=0.02、その他の領域はλ
N=0.01である。白丸の点はUAVの拠点を表し、グリッドの原点(0,0)とする。撮影スポットはグリッドの半整数格子点上、つまり
【0101】
【数45】
と表される点上とする。撮影領域の半径r
kはkによらず1/2とする。アルゴリズム2におけるRは無限大とする。
【0102】
このとき、飛行制限長Lに対して、アルゴリズム1または2が達成する効用関数の値および厳密最適での効用関数の値を
図8に示した。アルゴリズム2(破線)は安定して厳密最適(一点鎖線)に近い値であり、アルゴリズム1(実線)も揺らぎがあるものの、おおむね厳密最適に近い値を示す。
【0103】
(実施例2:実道路網)
図9は、実施例2に係る実道路網の一例を示す図である。これは日本の群馬県渋川市の道路網とハザードエリアを表したものである。斜線で示される領域がハザードエリア(土砂災害危険箇所)であり故障率λ
H、それ以外の領域がλ
N=0.01である。また太線で書かれた曲線が高重要度の道路(緊急輸送道路)であり、細線で書かれた曲線がその他の道路である。高重要度の道路に含まれる枝はf(e
j)=F≧1、その他の道路に含まれる枝はf(e
j)=1をもつ。黒い点はUAV拠点、撮影スポットは200mメッシュのグリッド上の格子点、撮影領域の半径は200mである。アルゴリズム2におけるRは3kmとした。なお、
図9(及び結果の
図10)はオープンソースソフトウェアのGISツールであるQGIS[9]で作成した。渋川市の国土図、緊急輸送道路データ、土砂災害危険箇所のデータは国土交通省が公開している国土数値情報[10]から、道路網データはOpenStreetMap[11]から取得した。
【0104】
図10は、アルゴリズム2において、(λ
H,F)に応じて、L=50kmとして、UAVの軌道を計算したものである。(a)は、(λ
H,F)=(0.1,1)、(b)は、(λ
H,F)=(0.01,3)、(c)は、(λ
H,F)=(0.1,3)における計算結果である。(λ
H,F)=(0.1,1)ではハザードエリアが優先されていること(a)、(λ
H,F)=(0.01,3)では緊急輸送路が優先されていること(b)がそれぞれ示された。また(λ
H,F)=(0.1,3)ではハザードエリア内にある緊急輸送路が被覆されている(c)。以上より、本実施の形態に係る技術の有効性が示される。
【0105】
[参考文献]
[1] A. Nedjati, G. Izbirak, B. Vizvari, and J. Arkat, "Complete coverage path planning for a multi-uav response system in post-earthquake assessment," Robotics, vol. 5, no. 4, p. 26, 2016.
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[10] "Administrative division data," https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-N03-v24.html
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"Emergency transportation road data," https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-N10-v1 1.html.
[11] OpenStreetMap contributors, "Planet dump retrieved from https://planet.osm.org ," https://www.openstreetmap.org, 2017.
【0106】
(実施の形態のまとめ)
本明細書には、少なくとも下記の各項に記載した軌道算出装置、軌道算出方法およびプログラムが記載されている。
(第1項)
ネットワーク形状の対象物についての情報および情報収集端末に関する情報に基づいて軌道を算出する軌道算出装置であって、
コスト関数に関する近似計算を行うコスト関数計算部と、
前記コスト関数に関する計算結果に基づいて、前記情報収集端末が前記対象物に関する情報を収集するための軌道を算出する軌道算出部と、を備える、
軌道算出装置。
(第2項)
前記軌道算出部は、ネットワークの枝が完全に被覆された際に効用が加算されるような効用関数を最大化することができるものであって、情報収集の優先度に基づき効用に重みを付与することができるような効用関数を扱う、
第1項に記載の軌道算出装置。
(第3項)
前記軌道算出部は、前記コスト関数が制約を満たす限り、貪欲に効用が高い枝から選択を行う、
第1項または第2項に記載の軌道算出装置。
(第4項)
前記軌道算出部は、前記コスト関数が制約を満たす限り、追加で必要となる移動距離に対する得られる効用の比率が高い枝から選択を行う、
第1項から第3項のいずれか1項に記載の軌道算出装置。
(第5項)
前記コスト関数計算部は、前記コスト関数の計算を、被覆すべき枝を完全に被覆する枝集合被覆問題と、枝被覆を行う情報収集領域を最短で巡回する問題のそれぞれを近似的に解くことによって全体の解を求めるものであって、前記枝集合被覆問題を、前処理により幾何的な包含関係のみに基づく集合被覆問題に帰着させて解く、
第1項から第4項のいずれか1項に記載の軌道算出装置。
(第6項)
軌道算出装置が、ネットワーク形状の対象物についての情報および情報収集端末に関する情報に基づいて軌道を算出する軌道算出方法であって、
コスト関数に関する近似計算を行うステップと、
前記コスト関数に関する計算結果に基づいて、前記情報収集端末が前記対象物に関する情報を収集するための軌道を算出するステップと、を備える、
軌道算出方法。
(第7項)
コンピュータを第1項から第5項のいずれか1項に記載の軌道算出装置における各部として機能させるためのプログラム。
【0107】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0108】
10 軌道算出装置
11 入力部
12 前処理部
13 軌道算出部
14 コスト関数計算部
15 出力部
141 枝被覆問題求解部
142 撮影スポット巡回問題求解部