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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】粒子凝集デバイスとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240522BHJP
   G01N 1/28 20060101ALN20240522BHJP
【FI】
C12M1/00 A
G01N1/28 J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020186737
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076363
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】手島 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】酒井 洸児
(72)【発明者】
【氏名】上野 祐子
(72)【発明者】
【氏名】樫村 吉晃
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼江 悠加
(72)【発明者】
【氏名】大崎 寿久
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】BIOMICROFLUIDICS,2011年,Vol.5, No.034105,pp.1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
G01N 1/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁部と側壁部と天井部から囲まれ、複数の細胞を含む培養液を流すマイクロ流路を内部に備え、前記マイクロ流路の途中に前記培養液の流れ方向に沿って細胞凝集塊を収容可能な間隔をあけて間欠的に複数の渦流発生用堰部材を備え
前記堰部材において前記マイクロ流路下流側に位置する背面側の両側縁部に、該堰部材の背面両側縁側から背面中央側に向かう前記培養液の渦流を発生させるフランジ部からなる流れ調整部を備え、前記堰部材の背面側に前記フランジ部に挟まれて前記マイクロ流路の下流側に開口部を向ける凹部を備え、
前記堰部材と前記側壁部との間に前記マイクロ流路に沿って流れる培養液の流れを生成する間隙を備え、
前記天井部に前記マイクロ流路における前記堰部材背面側に通じる取出口を蓋により開閉自在に備えた、
粒子凝集デバイス。
【請求項2】
前記堰部材において前記マイクロ流路の流れ方向の幅(奥行き:W )が10μm以上500μm以下であり、前記堰部材の横幅(L )が10μm以上2000μm以下である請求項1に記載の粒子凝集デバイス。
【請求項3】
前記マイクロ流路の流路幅(流路横幅:D =2D +L )が20μm以上3000μm以下である請求項1または請求項2に記載の粒子凝集デバイス。
ただし、Dは前記堰部材の側面と該側面に隣接する流路壁との距離、Lは前記堰部材の横幅を示す
【請求項4】
前記マイクロ流路の流れ方向に沿う前記堰部材間の距離(D )が10μm以上3000μm以下である請求項1~請求項3いずれか一項に記載の粒子凝集デバイス。
【請求項5】
前記細胞凝集塊の大きさが半径3μm以上100μm以下である請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の粒子凝集デバイス。
【請求項6】
前記底壁部がガラス基板から構成され、前記側壁部と前記天井部が樹脂の成形体から構成され、前記堰部材が前記側壁部および前記天井部を構成する樹脂と同じ樹脂からなる請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の粒子凝集デバイス。
【請求項7】
底壁部と側壁部と天井部から囲まれ、複数の細胞を含む培養液を流すマイクロ流路を内部に備え、前記マイクロ流路の途中に前記培養液の流れ方向に沿って細胞凝集塊を収容可能な間隔をあけて間欠的に複数の渦流発生用堰部材を備え、前記堰部材において前記マイクロ流路下流側に位置する背面側の両側縁部に、該堰部材の背面両側縁側から背面中央側に向かう前記培養液の渦流を発生させるフランジ部からなる流れ調整部を備え、前記堰部材の背面側に前記フランジ部に挟まれて前記マイクロ流路の下流側に開口部を向ける凹部を備え、前記堰部材と前記側壁部との間に前記マイクロ流路に沿って流れる培養液の流れを生成する間隙を備え、前記天井部に前記マイクロ流路における前記堰部材背面側に通じる取出口を蓋により開閉自在に備えた粒子凝集デバイスを製造する方法であって、
ウェハ上に光硬化性のフォトレジストの薄膜層を形成し、該薄膜層にフォトマスクを通して部分的に光を照射し、光照射部分または光照射部分を除くように蝕刻して前記薄膜層の少なくとも一部にパターニングを行い、前記ウェハ上に鋳型を形成する工程と、
前記鋳型を用いて前記薄膜層の前記パターニングを樹脂層に転写し、前記樹脂層に前記マイクロ流路の主要部と前記堰部材を形成する工程と、
前記マイクロ流路の主要部に連通する導入部用開口部と導出部用開口部を前記樹脂層に形成する工程と、
前記樹脂層における前記マイクロ流路主要部の一部と前記導入部用開口部の一部および前記導出部用開口部の一部を閉じるように前記樹脂層に対し基板を接合し、前記基板と前記樹脂層により画成された前記マイクロ流路と導入部と導出部を形成する工程を具備する粒子凝集デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂層と前記基板の接合面にプラズマ照射により親水処理を施すことを特徴とする
請求項7に記載の粒子凝集デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子凝集デバイスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞アッセイは基礎生物学的な研究だけでなく、薬剤のスクリーニングや再生医療などの産業応用の分野でも幅広く用いられている。その際に扱われている細胞として、実験動物から摘出された組織より単離される初代継代培養細胞や無限増殖を行う株化細胞が用いられている。ところが、従来はどちらの細胞も単一細胞レベルでハンドリングされているので、本来由来する生体組織中における表現系や振る舞いと異なる性質を有する。
そこで、複数の細胞同士を人為的に会合させ、マイクロメートルサイズの細胞凝集塊であるスフェロイドを作製することで、より実際の生体組織の機能を再現しようとする研究が盛んに行われている。
【0003】
従来、細胞同士を会合させるために、微細加工技術を用いて培養基板表面に微小凹凸を作製し、微小な溝の内部に細胞を沈殿させることでスフェロイドを作製する手法が広く用いられてきた(非特許文献1参照)。
ところが、マイクロメートルサイズの溝内部では、その底面からの酸素や栄養分の循環が減少し、酸素や栄養分の供給される面が溝の上面に限られるため、溝底部の細胞から細胞死が誘導されてしまうという現象や、作製されたスフェロイドを回収することが困難であるという課題が挙げられていた。
【0004】
そこで、スフェロイド形成時に細胞周辺での培養液の循環を増加させるために、マイクロ流体デバイスを用いて流路中で常時培養液の流れを形成させながら、旋回流中において細胞を凝集させる技術が知られている(非特許文献2参照)。
非特許文献2によれば、絶えず新規の培養液を供給しながら細胞死を誘導することなくスフェロイドを作製することに実験的に成功したと記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】D. Kloβ, M. Fischer, A. Rothermel, J. C. Simon, A. A. Robitzki, Lab on a Chip,「Drug testing on 3D in vitro tissues trapped on a microcavity chip」, 2008, 8, 879-884.
【文献】H. Ota, T. Kodama, N. Miki, Biomicrofluidics,「Rapid formation of size-controlled three dimensional hetero-cell aggregates using micro-rotation flow for spheroid study」,2011, 5, 034105(2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2に記載の旋回流は4本の対向するマイクロ流路を用いることで、その中心部に微小な円周方向に回転する流れが発生し、その流れの中心位置に細胞が会合する現象を利用している。
しかしながら、特許文献2に記載の技術によると、旋回流を形成するために大面積のマイクロ流路を用意する必要があるため、マイクロ流体デバイス内部において単位面積あたりに作製できるスフェロイドの収率は、従来の溝内部を用いた作製手法に比べて極めて低くなると考えられる。このため、効率的にスフェロイドを作製する技術と作製したスフェロイドを確実に回収する技術の登場が求められていた。
【0007】
本願発明は、上述の背景に鑑みなされたもので、マイクロ流路内に堰部材を設けることで流れの一部を剥離し、堰部材の後流側によどみ点圧力よりも低い圧力領域における渦を誘導し、渦中で粒子どうしを会合させてスフェロイドなどの粒子凝集体とする技術とその粒子凝集体を回収する技術の提供を目的とする。
特に、本発明技術を用いることで、粒子の一種である細胞を捕捉し、細胞の凝集塊であるスフェロイドを形成できる粒子凝集デバイスとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態の粒子凝集デバイスは、底壁部と側壁部と天井部から囲まれ、複数の細胞を含む培養液を流すマイクロ流路を内部に備え、前記マイクロ流路の途中に前記培養液の流れ方向に沿って細胞凝集塊を収容可能な間隔をあけて間欠的に複数の渦流発生用堰部材を備え、前記堰部材において前記マイクロ流路下流側に位置する背面側の両側縁部に、該堰部材の背面両側縁側から背面中央側に向かう前記培養液の渦流を発生させるフランジ部からなる流れ調整部を備え、前記堰部材の背面側に前記フランジ部に挟まれて前記マイクロ流路の下流側に開口部を向ける凹部を備え、前記堰部材と前記側壁部との間に前記マイクロ流路に沿って流れる培養液の流れを生成する間隙を備え、前記天井部に前記マイクロ流路における前記堰部材背面側に通じる取出口を蓋により開閉自在に備えたことを特徴とする
【0009】
本発明の他の形態に係る粒子凝集デバイスの製造方法は底壁部と側壁部と天井部から囲まれ、複数の細胞を含む培養液を流すマイクロ流路を内部に備え、前記マイクロ流路の途中に前記培養液の流れ方向に沿って細胞凝集塊を収容可能な間隔をあけて間欠的に複数の渦流発生用堰部材を備え、前記堰部材において前記マイクロ流路下流側に位置する背面側の両側縁部に、該堰部材の背面両側縁側から背面中央側に向かう前記培養液の渦流を発生させるフランジ部からなる流れ調整部を備え、前記堰部材の背面側に前記フランジ部に挟まれて前記マイクロ流路の下流側に開口部を向ける凹部を備え、前記堰部材と前記側壁部との間に前記マイクロ流路に沿って流れる培養液の流れを生成する間隙を備え、前記天井部に前記マイクロ流路における前記堰部材背面側に通じる取出口を蓋により開閉自在に備えた粒子凝集デバイスを製造する方法であって、ウェハ上に光硬化性のフォトレジストの薄膜層を形成し、該薄膜層にフォトマスクを通して部分的に光を照射し、光照射部分または光照射部分を除くように蝕刻して前記薄膜層の少なくとも一部にパターニングを行い、前記ウェハ上に鋳型を形成する工程と、前記鋳型を用いて前記薄膜層の前記パターニングを樹脂層に転写し、前記樹脂層に前記マイクロ流路の主要部と前記堰部材を形成する工程と、前記マイクロ流路の主要部に連通する導入部用開口部と導出部用開口部を前記樹脂層に形成する工程と、前記樹脂層における前記マイクロ流路主要部の一部と前記導入部用開口部の一部および前記導出部用開口部の一部を閉じるように前記樹脂層に対し基板を接合し、前記基板と前記樹脂層により画成された前記マイクロ流路と導入部と導出部を形成する工程を具備することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粒子の一種である細胞を捕捉し、細胞の凝集塊であるスフェロイドを形成できる粒子凝集デバイスとその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る粒子凝集デバイスにおける堰部材を備えたマイクロ流路の各形態を示す部分断面図であり、(a)は第1の形態を示す部分断面図、(b)は第2の形態を示す部分断面図、(c)は第3の形態を示す部分断面図、(d)は第4の形態を示す部分断面図である。
図2】本発明に係る粒子凝集デバイスの製造方法の一例を示すもので、(a)はシリコン基板上に鋳型を形成した状態を示す断面図、(b)は鋳型の上にシリコーンゴムを配置して成形した状態を示す断面図、(c)は成形品と基板の接合面に親水化処理を施す状態を示す断面図、(d)は成形品と基板を接合して粒子凝集デバイスを構成した状態を示す断面図である。
図3】本発明に係る粒子凝集デバイスに培養液を流している状態を示すもので、(a)は培養液の流れに沿って堰部材の近傍に粒子が到達した状態を示す断面図、(b)は堰部材の周囲を粒子が通過する状態を示す断面図、(c)は堰部材を通過した粒子の一部が堰部材の背面側の渦に沿って集められる状態を示す断面図、(d)は板部材の背面側に複数の粒子が集合した状態を示す断面図である。
図4】本発明に係る粒子凝集デバイスに堰部材を備えたマイクロ流路の第5の形態を示す部分断面図であり、(a)は堰部材の背面側に粒子が集合した状態を示す部分断面図、(b)は堰部材の背面側に粒子としての細胞が集合した状態を示す部分断面図、(c)は堰部材の背面側に細胞が会合して生成したスフェロイドを示す部分断面図である。
図5】本発明に係る粒子凝集デバイスを潅流培養ポンプに接続して構成した細胞培養槽の一例を示す説明図である。
図6】本発明に係る粒子凝集デバイスの第6の形態を示す部分断面図であり、(a)は流路に沿ってスフェロイドを生成した状態を示す部分断面図、(b)は流路の天井部に蓋部材を取り付けた状態を示す部分断面図、(c)は流路の天井部に設けた蓋部材を取り出してスフェロイドをピペットにより取り出す状態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る粒子凝集デバイスAにおけるマイクロ流路の概形を示す水平断面図である。この例のマイクロ流路1は、左右の流路壁2、2と図1(a)では記載を略した底壁部および天井部に囲まれた横断面矩形状の流路であり、図1(a)の左側を流路上流、図1(a)の右側を流路下流として培養液などの流体を流すことができるようになっている。
マイクロ流路1の高さ、即ち、図1(a)における紙面垂直方向に沿うマイクロ流路1の縦幅は、任意のサイズで良いが、一例として、マイクロ流路1の横幅Dと同程度の高さ(縦幅)、あるいは、横幅Dの1/2~1/3とすることができる。マイクロ流路1の縦幅と横幅など、各部のサイズについては後に詳述する。
【0013】
図1(a)に示すマイクロ流路1の内部には、流路に沿って堰部材6が間欠的に複数配置されている。図1(a)に示す堰部材6は、図1(a)に示す断面において正方形に近い若干横長の長方形状に形成されている。
粒子凝集デバイス1において底壁部は例えばガラス基板から構成され、左右の流路壁2、2と天井部は例えば樹脂の成形体から構成される。堰部材6は、例えば流路壁2、2と天井部を構成する樹脂と同等樹脂からなる。マイクロ流路1における流体の流れ方向に直交する堰部材6の上端(図1(a)の紙面に直交する方向の一端)は、マイクロ流路1の天井部に一体化されている。また、左右の流路壁2、2と堰部材6の両側部との間に一定幅の間隙3が形成されている。
一例として、左右の流路壁2、2と天井部を樹脂の成形により作製する場合、成形時に左右の流路壁2、2と天井部に加え、マイクロ流路1と堰部材6を同時に作り込むことができる。粒子凝集デバイスAの製造方法についての詳細は後に詳述するが、図1(a)と方向の異なる断面を図2(d)、図5に示しておく。図2(d)、図5には、左右の流路壁2、2に加え、天井部4、底壁部5を描いている。
【0014】
代表的な横断面長方形状の堰部材6と仮定し、堰部材6の一方の側面6aと一方の流路壁2との距離(間隙3の幅)をD、堰部材6の他方の側面6bと他方の流路壁2との距離をD,堰部材6において流路の流れ方向の幅(奥行き)をW、堰部材6において流路の流れ方向に垂直な方向の横幅をL、流路の流れ方向に沿う堰部材6、6間の距離をDと定義することができる。
ここで、本実施形態のマイクロ流路1においては、堰部材6の幅(流路流れ方向に沿う堰部材6の奥行き)Wと、横幅Lは、10μm以上2000μm以下の範囲にあることが好ましい。また、マイクロ流路1の流路幅(流路横幅)D=(2D+L)は、20μm以上3000μm以下の範囲であることが望ましく、堰部材6、6間の距離Dは、10μm以上3000μm以下の範囲にあることが望ましい。
【0015】
図1(a)においてマイクロ流路1の上流端と下流端はそれぞれ記載が略されているが、上流端と下流端はそれぞれ培養液などの流体を供給するための図示略の潅流ポンプに接続されていることが好ましい。潅流ポンプとの接続構造については後に詳述する。
このため、潅流ポンプを作動させると、マイクロ流路1には、流路上流側から流路下流側に向かって(図1(a)の左側から右側に向かって)培養液などの流体の流れが生成される。図1(a)に示したマイクロ流路1は、単純な直線状に伸びる1本の流路として描かれているが、マイクロ流路1の延在方向は直線状に限らず、U字形状などに湾曲していても差し支えない。
【0016】
図1(b)は、図1(a)に示すマイクロ流路1と同等のマイクロ流路1に堰部材7を流路に沿って複数間欠的に配置した第2の実施形態を示す。この実施形態の堰部材7は図1(b)に示す断面において横に若干長い楕円形状(レーストラック形状)に形成されている。
この実施形態のマイクロ流路1と堰部材7に関し、距離(間隙3の幅)D、幅W、横幅L、流路幅D、距離Dについては、第1の実施形態の場合と同等サイズに形成されている。各部分のサイズについて図1(b)に符号を付して示す。
【0017】
図1(c)は、図1(a)に示すマイクロ流路1と同等のマイクロ流路1に堰部材8を流路に沿って複数間欠的に配置した第3の実施形態を示す。この実施形態の堰部材8は図1(c)に示す断面において鼓形に形成されている。
この実施形態のマイクロ流路1と堰部材8についても、距離(間隙3の幅)D、幅W、横幅L、流路幅D、距離Dの関係は、第1の実施形態と同等の関係に形成されている。各部分のサイズについて図1(c)に符号を付して示す。
図1(d)は、図1(a)に示すマイクロ流路1と同等のマイクロ流路1に堰部材9を流路に沿って複数間欠的に配置した第4の実施形態を示す。この実施形態の堰部材9は図1(d)に示す断面において菱形に形成されている。
この実施形態のマイクロ流路1と堰部材9においても、距離(間隙3の幅)D、幅W、横幅L、流路幅D、距離Dの関係は、第1の実施形態と同等の関係に形成されている。各部分のサイズについて図1(d)に符号を付して示す。
【0018】
図1(a)~図1(d)に示すいずれかのマイクロ流路1に対し、複数の細胞を含む新鮮な培養液(試料)を絶えず供給することで、より高密度にスフェロイドをアレイ化し、作製収率を向上させることのできる新規なマイクロ粒子凝集デバイスAを提供できる。
本実施形態では、単一のマイクロ流路1に堰部材6~9のいずれかを設けることで、堰部材6~9を隔てた各堰部材の下流域に発生する渦を利用する。
各堰部材に衝突した堰部材からみて上流に位置する培養液は、堰部材との表面張力を引力とする動力源として作用し、堰部材の周囲の側面に沿って流動し、進行する。その後、堰部材から剥離された培養液の流れは、堰部材の背面側下流域においてよどみ点圧力よりも低い圧力を有する箇所を生成し、この圧力抗力を原因とする渦を形成する。
【0019】
この渦は、レイノルズ数によりその形状を可変とし、マイクロ流路1でのレイノルズ数領域では双子渦となる。各堰部材により形成される堰部材からみて下流側に位置する流れ中の渦は、堰部材の両側面に沿って移動する直進性の粒子の重心位置を渦中心方向にずらすため、粒子の軌道を変化させて粒子を渦中に取り込むことができる。
例えば、マイクロメートルサイズの試料の一種である単一細胞は、堰部材との表面張力を十分に働かせる傾向が強く、軌道を変化させるために適した試料であるため、渦中心部に回収できることを観察できる。渦に回収された細胞同士は徐々にその数を増やし、目的の直径をもつスフェロイドを形成することが可能となる。渦の生成とスフェロイドの生成については、後に図3を基に詳細に説明する。
【0020】
図2は、マイクロ流路1の断面方向から見た作製工程の一例を示す。
図2(a)に示すシリコンウェハなどの基板10に光硬化性のネガティブレジストなどの薄膜層11Aを形成し、フォトマスクを通して必要部分に紫外線を照射する。
その後、エッチングなどによる蝕刻により未硬化のネガティブレジストを除去し、薄膜層11Aの一部からなる目的の形状の鋳型11とするパターニングを施す。
なお、ネガティブレジストに代えてポジティブレジストを用いて薄膜層11Aを形成し、フォトマスクを通して紫外線などの光照射を行って薄膜層11Aの必要部分を感光し、蝕刻しても良い。また、いずれのタイプのフォトレジストを用いる場合であっても、未硬化部分を除去する方法として、公知のフォトレジスト法に従う、いずれのパターン形成法を採用しても良い。
【0021】
その後、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの熱硬化性樹脂液の中に、鋳型11を備えた基板10を浸潤し、加熱硬化処理後剥離することで先のレジストのパターンを図2(b)に示すように樹脂層12側に転写することができる。その後、樹脂層12側に導入口となるべき溝(導入部用開口部)13と導出口となるべき溝(導出部用開口部)14を機械加工法により作製する。
【0022】
次いで、溝形成後の樹脂層12と別途用意したガラス基板15の表面に酸素プラズマなどのプラズマを照射して照射面を図2(c)に示すように親水処理面12a、15aとする。
次に、親水処理面同士を張り合わせるように樹脂層12とガラス基板15を貼り合わせることにより図2(d)に示すようにこれらを永久接合する。
この永久接合処理により、樹脂層12とガラス基板15に挟まれて部分的閉空間となったマイクロ流路1と該マイクロ流路1に接続する導入部16と導出部17を備えた粒子凝集デバイスAを得ることができる。
図2(b)~(c)に示すように樹脂層12に鋳型11のパターニング形状に合致した形状を転写すると、樹脂層12には、マイクロ流路1となるべき凹部形のマイクロ流路主要部2Aが複数形成される。これらマイクロ流路主要部2Aの開口部をガラス基板15で閉じることにより、マイクロ流路1を形成できる。
【0023】
なお、図2(d)は、マイクロ流路1と導入部16と導出部17が繋がっていない位置の断面を示すが、図2(d)に示す断面位置と異なる断面位置において導入部16と左側のマイクロ流路1が接続され、平面視U字状などのように蛇行している形状である。左側のマイクロ流路1と右側のマイクロ流路1が接続され、右側のマイクロ流路1に導出部17が接続されている。
よって、例えば、細胞などの粒子状試料を懸濁した培養液を用意し、これをシリンジを用い、導入部16を介しマイクロ流路1に注入し、一定の速度で試料としての培養液(流体)をマイクロ流路1内に導入することができる。
なお、図示略の潅流ポンプなどに導入部16と導出部17を接続することで潅流ポンプからマイクロ流路1に対し培養液などの流体を流すことができるようになっている。その場合の構造については後に詳述する。
【0024】
図3(a)~(d)を基にマイクロ流路1に対し図1(a)に示す堰部材6より若干薄い板状の堰部材20を設けた第5の実施形態の場合の作用効果について説明する。
この実施形態のマイクロ流路1と堰部材20においても、距離D、幅W、横幅L、流路幅D、距離Dの関係は、第1の実施形態と同等の関係に形成されている。
【0025】
図3(a)~(d)では、堰部材20の背面下流域で双子渦を形成し、マイクロ流路1の上流側から流れてくる粒子を捕捉する原理を示す。
堰部材20は、図1(a)~(d)で示したように断面長方形状やひし形、長円形状など、それらの形状は特に限定されないが、図3では一例として一般的な断面長方形状の堰部材20を例として示す。
マイクロ流路1に沿って流れる流体が形成する流線Sは、堰部材20が障壁となり、流路壁2との間隙3に一時的に集中し、その後、解放される分布を取る。マイクロ流路1の幅方向両側に流路壁2と堰部材20の間隙3がそれぞれ存在するが、それぞれの間隙3において流線は同等の分布となる。
【0026】
図3(b)~(d)に示すように流線Sが解放された堰部材20の下流側面側では堰部材20の内部方向に向かって渦が形成される傾向が強くなる。また、堰部材20の左右幅方向両側には同等幅の間隙3が形成されている。即ち、堰部材20の背面下流側に、堰部材20の左右周縁部側から堰部材20の背面中央側に向いて内向きに流れる双子渦Wを生成することができる。これらの双子渦Wは堰部材20の背面中央下流側において周囲の培養液の流れと逆向きに流れる。
このため、流線上にその重心が位置する粒子(微粒子)21は、堰部材20の背面下流側で堰部材20の左右両端縁側から中央部側に進行方向を変えて図3(c)に示すように移動し、確率的に堰部材20の背面下流側(背面側)の双子渦Wの内部側に移行する。堰部材20の背面下流側の双子渦Wの内部側には例えば図3(d)に示すように粒子21が複数密集する。
【0027】
なお、上述のように堰部材20の背面下流側に双子渦Wを生成できることは、換言すると、堰部材20の左右の両側縁部が双子渦Wを生成するための流れ調整部20cとなっていることを意味する。このような流れ調整部20cについては、図1(a)~(d)に示す何れの形状の堰部材6、7、8、9であっても適用されており、いずれの堰部材でも同様に双子渦Wを生成することができる。
図1(a)に示す堰部材6においては、その左右両側縁部が流れ調整部6cとなり、図1(b)に示す堰部材7においては、その左右両側縁部が流れ調整部7cとなる。図1(c)に示す堰部材8においては、その左右両側縁部8cが流れ調整部8cとなり、堰部材9においては、その左右両側縁部が流れ調整部9cとなる。
【0028】
図3に示す構成においてマイクロ流路1をその上流側から流れてくる粒子21を捕捉できる確率は、渦形成の可能性と高い相関を持ち、流速や流路の長さなどのパラメータにより、以下のように制御可能となる。
【0029】
「1」渦形成の可能性は、流体の流速が高くレイノルズ数が増加することによって上昇するため、粒子21を捕捉する確率を上昇させる傾向となる。
「2」流路壁2と堰部材20との間の狭窄部分、つまりは堰部材20において流れに垂直な方向の幅Ldが長ければ長いほど、上流側からくる粒子21と堰部材20の表面との間に働く相互作用が長時間働き、堰部材20のより下流側の渦中に粒子21を捕捉できる確率が上昇する。
【0030】
「3」マイクロ流路1の流れ方向に沿って隣り合う堰部材20の間隔が狭くなればなるほど渦形成が困難となるため、堰部材20間の距離Dは流路の高さ(縦幅)と同程度かそれ以上であることが望ましい。
「4」堰部材20と流路壁2との距離Dは、狭ければ狭いほど、粒子21を捕捉する確率を高める傾向となる。
「5」堰部材20の流れ方向の幅Wは、広ければ広いほど、一か所の堰部材20の下流側に捕捉できる粒子21の量を増加できる傾向となる。
【0031】
一度堰部材20の下流側に捕捉された粒子21は、渦内部で回転し、渦外部に放出される可能性は低い。そのため、次々と渦内部に粒子21が捕捉され、マイクロ流路1の高さ、堰部材20の流れ方向の幅W、流れに垂直な方向の幅L、堰部材20、20間の距離D、によって規定される空間の体積が飽和するまで捕捉される。
一度粒子21が堰部材20の下流部で飽和状態まで捕捉されると、それ以上は捕捉されず、粒子21はより下流の堰部材20へと移行し、上流部の堰部材20から順番に飽和状態が形成され、粒子21の捕捉状態は複数の堰部材20に沿ってアレイ化される。アレイ化の密度を上げたい場合は、堰部材20と流路壁2との距離D、堰部材20の流れ方向の幅W、堰部材20の流れに垂直な方向の幅L、堰部材20間の距離Dをそれぞれ微粒子が捕捉され易い範囲内でなるべく小さくする必要がある。
【0032】
本技術を用いることにより、ばらばらの状態で培養液中に単離された細胞を流路中に流し、堰部材20の背面下流域で捕捉し、長期培養を行うことが可能となる。
図4に示すように、細胞22は柔軟でその形状を変形しやすい特徴があるが、捕捉性能は剛直なポリスチレンなどの微粒子と変化なく、堰部材20の背面下流域に確実に捕捉することができる(図4(a)参照)。
図4は、マイクロ流路1に堰部材26を設けた第6の実施形態の構造を示すもので、この実施形態の堰部材26は、板状の堰部材本体26Aの右端側と左端側にそれぞれ流路の下流側に延在するフランジ部26Bを設けた構造を有する。また、堰部材本体26Aの右端側と左端側にフランジ部26Bを設けることで堰部材26の背面側に凹部26Dが形成されている。この凹部26Dはその開口部26Eをマイクロ流路1の下流側に向けて堰部材26の背面側に形成されている。
【0033】
繊維芽細胞や上皮細胞のように、細胞外マトリックスなどの個体の外部環境と接すると接着性を示す特徴がある接着性細胞を用い、堰部材26の背面下流域で長時間培養することで(図4(b)参照)、細胞の集まりがある一定以上の密度に達すると細胞同士が自発的に凝集し、スフェロイド25を形成する(図4(c)参照)。図4に示すフランジ部26B、26Bによる凹部26Dを設けた構造では細胞22を凝集し易く、スフェロイド25の生成を容易とする効果がある。フランジ部26B、26Bによる凹部26Dに双子渦Wで捕獲した細胞22が捕捉されやすく、凹部26Dの開口部26E側を双子渦Wで囲んで閉じるような流れを生成できるのでスフェロイド25の保持にも有利な構造となる。
本実施形態ではフランジ部26B、26Bが堰部材26の流れ調整部となっている。
【0034】
本技術で形成されるスフェロイド25の大きさは特に限定されないが、200μmの径以上に凝集すると内部側の細胞に栄養分が行き届かず細胞死が誘導されるため、200μm以下の径になるように形成することが望ましい。その際のマイクロ流路1の形状の一例として、堰部材の流れ方向の幅Wが10μm以上500μm以下、堰部材間の距離Dは、100μm以上500μm以下の範囲にあることが望ましい。
なお、マイクロ流路1と堰部材26においても、距離(間隙3の幅)D、幅W、横幅L、流路幅D、距離Dの関係は、第1の実施形態と同様の関係に形成される。
【0035】
先の何れかの実施形態において、流速の大小に拘らず、マイクロ流路1中に細胞培養液が満たされており、二酸化炭素雰囲気下の状態を保つことで、細胞の捕捉や培養中において細胞毒性を示すことはない。
また、先の何れかの実施形態において、マイクロ流路中を常に培養液の流れが形成可能な潅流培養系であることが望ましい。
【0036】
図5は、先のいずれかの実施形態に係るマイクロ流路1を備えた粒子凝集デバイス30と、潅流培養ポンプ31と、接続チューブ32と、可動ステージ33と、顕微鏡34を備えた細胞培養システム35の一例を示す。この例の細胞培養システム35は、例えば、内部を二酸化炭素雰囲気36に保持できる細胞培養槽37に設置されている。
細胞培養システム35では、スフェロイド形成の様子や、形成完了後のスフェロイドの形態観察などを可能にするため、細胞培養槽37の内部に上記の二酸化炭素雰囲気下での培養と潅流培養をチュービングを介し実現する還流式の潅流培養ポンプ(ペリスタポンプ)31を備える。さらに、可動ステージ33を備えた顕微鏡34を搭載した細胞培養システム35に図5に示すように粒子凝集デバイス30を組み込むことが望ましい。
【0037】
本技術において捕捉できる粒子は、一例として半径3μm~100μmの範囲にある粒子を指し、特に生体試料の一種である単一細胞を想定しているが、その大きさや種類は限定されない。例えば、ナノメートルスケールの半径を有するナノ粒子やウイルス、マイクロメートルスケールの細菌や寄生虫、も含まれる。また、細胞種は接着性の細胞を用いるが、特にその種類は限定されず、浮遊系の赤血球や単球、白血球などの細胞も含まれる。
【0038】
図6に示すようにマイクロ流路1に形成され、アレイ化されたスフェロイド25は、選別の上、選択的に単離できる操作を実施できることが望ましい。そこで、堰部材26の下流部の上面の天井部4が部分的にくり抜かれ、外部とのアクセスが可能であり、くり抜いた空洞部分に脱着可能な蓋40を設けることにより開閉自在とする構成を採用することが望ましい。
例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)とガラス基板を接合したマイクロ流路1の場合、堰部材26の背面下流域を生検トレパンなどでPDMS側に微小な穴をくり抜き、くり抜かれたPDMSの破片を再度差し込むことにより、蓋40としての機能が得られる。
そこで、細胞を流しスフェロイド25を形成する工程までは蓋40が設置されていてマイクロ流路1が閉空間となっており、スフェロイド形成後に任意の場所の蓋40をピンセット41などで抜き取ることで、その下部に位置するスフェロイド25に取出口を介してアクセス可能な構成とする。この構成により、先端を培養液で満たしたピペット42による、取出口を介した選択的なスフェロイド25の回収が可能となる。
【0039】
ところで、これまで説明した実施形態においては、図1図3図4に示す断面を水平断面として天井部4側から底壁部5側に堰部材6、7、8、9、20、26を延在させて設けた。しかし、マイクロ流路1の左右の流路壁2の一方から他方の流路壁2側にかけて堰部材6、7、8、9、20、26のいずれかを延在させて設けてもよい。
その場合、堰部材6、7、8、9、20、26のいずれかと天井部4との間に間隙を設け、堰部材6、7、8、9、20、26のいずれかと底壁部5との間に間隙を設ける構造を採用することができる。
これらの間隙から各堰部材6、7、8、9、20、26の背面下流側に粒子を凝集させる双子渦を生成し、粒子凝集体を生成することができる。
上述の構造は、3Dプリンタなどを用いることで実際に製造することができ、90°傾斜した流路を実現することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…マイクロ流路、2…流路壁、2A…マイクロ流路主要部、3…間隙、4…天井部、5…底壁部、6、7、8、9…堰部材、6c、7c、8c、9c…流れ調整部、
10…基板、11…鋳型、11A…薄膜層、12…樹脂層、13…溝(導入部用開口部)、14…溝(導出部用開口部)、16…導入部、17…導出部、20…堰部材、20c…流れ調整部、25…スフェロイド、26…堰部材、26B…フランジ部(流れ調整部)、30…凝集デバイス、31…潅流培養ポンプ、33…可動ステージ、34…顕微鏡、35…細胞培養システム、36…二酸化炭素雰囲気、37…細胞培養槽、40…蓋、41…ピンセット、42…ピペット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6