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特許7503251光子検出装置、受信装置、量子鍵配送システム及び量子信号の検出方法
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  • 特許-光子検出装置、受信装置、量子鍵配送システム及び量子信号の検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-12
(45)【発行日】2024-06-20
(54)【発明の名称】光子検出装置、受信装置、量子鍵配送システム及び量子信号の検出方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/70 20130101AFI20240613BHJP
   H04B 10/60 20130101ALI20240613BHJP
   H01L 31/107 20060101ALI20240613BHJP
   H01L 31/10 20060101ALI20240613BHJP
   G01J 11/00 20060101ALI20240613BHJP
   G01J 1/42 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H04B10/70
H04B10/60
H01L31/10 B
H01L31/10 G
G01J11/00
G01J1/42 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022578364
(86)(22)【出願日】2022-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2022002434
(87)【国際公開番号】W WO2022163577
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2021013986
(32)【優先日】2021-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業「光・量子を活用したSociety5.0実現化技術/社会実装に向けた量子暗号装置の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】吉野 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤原 幹生
(72)【発明者】
【氏名】富田 章久
(72)【発明者】
【氏名】小芦 雅斗
(72)【発明者】
【氏名】武岡 正裕
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雅英
【審査官】鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-294934(JP,A)
【文献】特開2003-37594(JP,A)
【文献】国際公開第2019/106971(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/180770(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/70
H04B 10/60
H01L 31/10
G01J 11/00
G01J 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子信号の検出結果を示す電流信号を出力する光子検出器と、
前記電流信号を電圧信号に変換する電流電圧変換部と、
前記電圧信号をアナログ-デジタル変換した出力信号を出力するアナログ-デジタル変換器と、
前記出力信号に所定の信号処理を行って、前記量子信号の検出結果を示す検出信号を出力する信号処理部と、を備え、
前記光子検出器から前記電流信号が出力されるタイミングと、クロック信号に基づいて決定される基準タイミングと、の間の時間差が判定範囲に収まらない場合には、前記検出信号は前記信号処理部から出力されない、
光子検出装置。
【請求項2】
前記アナログ-デジタル変換器は、
前記電流信号が入力するタイミングと、前記基準タイミングと、の間の第1の時間差が第1の判定範囲に収まる場合には、前記出力信号を前記信号処理部に出力し、
前記第1の時間差が前記第1の判定範囲に収まらない場合には、前記出力信号を破棄する、
請求項1に記載の光子検出装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、
前記出力信号が入力するタイミングと、前記基準タイミングと、の間の第2の時間差が第2の判定範囲に収まる場合には、前記検出信号を出力し、
前記第2の時間差が前記第2の判定範囲に収まらない場合には、前記検出信号を破棄する、
請求項1に記載の光子検出装置。
【請求項4】
前記時間差が前記判定範囲の下限閾値以上かつ前記判定範囲の上限閾値以下の場合、前記時間差が前記判定範囲に収まるものと判定され、
前記時間差が前記判定範囲の前記下限閾値よりも小さい場合、又は、前記判定範囲の前記上限閾値よりも大きい場合、前記時間差が前記判定範囲に収まらないものと判定される、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光子検出装置。
【請求項5】
前記時間差が前記判定範囲の下限閾値よりも大きく、かつ、前記判定範囲の上限閾値よりも小さい場合、前記時間差が前記判定範囲に収まるものと判定され、
前記時間差が前記判定範囲の前記下限閾値以下の場合、又は、前記判定範囲の前記上限閾値以上の場合、前記時間差が前記判定範囲に収まらないものと判定される、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光子検出装置。
【請求項6】
量子信号を検出する光子検出装置を備え、
前記光子検出装置は、
前記量子信号の検出結果を示す電流信号を出力する光子検出器と、
前記電流信号を電圧信号に変換する電流電圧変換部と、
前記電圧信号をアナログ-デジタル変換した出力信号を出力するアナログ-デジタル変換器と、
前記出力信号に所定の信号処理を行って、前記量子信号の検出結果を示す検出信号を出力する信号処理部と、を備え、
前記光子検出器から前記電流信号が出力されるタイミングと、クロック信号に基づいて決定される基準タイミングと、の間の時間差が判定範囲に収まらない場合には、前記検出信号は前記信号処理部から出力されない、
受信装置。
【請求項7】
量子信号を送信する送信装置と、
前記量子信号を検出する光子検出装置を備える受信装置と、を備え、
前記光子検出装置は、
前記量子信号の検出結果を示す電流信号を出力する光子検出器と、
前記電流信号を電圧信号に変換する電流電圧変換部と、
前記電圧信号をアナログ-デジタル変換した出力信号を出力するアナログ-デジタル変換器と、
前記出力信号に所定の信号処理を行って、前記量子信号の検出結果を示す検出信号を出力する信号処理部と、を備え、
前記光子検出器から前記電流信号が出力されるタイミングと、クロック信号に基づいて決定される基準タイミングと、の間の時間差が判定範囲に収まらない場合には、前記検出信号は前記信号処理部から出力されない、
量子鍵配送システム。
【請求項8】
量子信号の検出結果を示す電流信号を出力し、
前記電流信号を電圧信号に変換し、
前記電圧信号をアナログ-デジタル変換した出力信号を出力し、
前記出力信号に所定の信号処理を行って、前記量子信号の検出結果を示す検出信号を出力し、
前記電流信号が出力されるタイミングと、クロック信号に基づいて決定される基準タイミングと、の間の時間差が判定範囲に収まらない場合には、前記検出信号は出力されない、
量子信号の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光子検出装置、受信装置、量子鍵配送システム及び量子信号の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及が進むにつれて、通信の秘密保持・改竄防止や個人の認証など暗号技術の社会的なニーズが益々高まっている。こうした背景から、通信のセキュリティを確保するため、遠隔地間で乱数からなる安全な秘密鍵を共有する技術である、原理的に盗聴が困難とされる、量子鍵配送技術の利用が注目されている(特許文献1~5)。
【0003】
量子鍵配送においては、一般に、送信装置から受信装置へ量子信号が送信され、受信装置に設けられた複数の光子検出器を用いて量子信号を検出する。この場合、光子検出器の検出効率にばらつき(偏り)が有ると、盗聴に利用されるおそれが有る。暗号技術においては、こうした情報の偏りを利用した盗聴が広く知られている。そのため、盗聴を好適に防止するには、光子検出器の検出効率が均一であることが望ましいことが知られている。
【0004】
量子鍵配送においては、量子鍵を用いた量子暗号通信に対し、サイドチャネル攻撃などの様々な盗聴の試みがなされている。その中で、量子信号を検出する光子検出器の脆弱性を利用して、盗聴者が直接量子信号を盗聴することなく、光子検出器への量子信号の到達時間を操作することで盗聴を行う、タイムシフト攻撃と称する盗聴手法(非特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-75577号公報
【文献】特開2019-125961号公報
【文献】特表2019-522434号公報
【文献】特表2013-539327号公報
【文献】特開2010-166285号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Bing Qi, et. Al.,“TIME-SHIFT ATTACK IN PRACTICAL QUANTUM CRYPTOSYSTEMS”, 2007, Quantum Information and Computation, vol. 7, pp. 073-082
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、量子鍵配送においては、量子信号の検出するために複数の光子検出器が用いられる。量子信号を担う光子は理想的には1つが望ましいものの、実際には2個以上の光子である場合もある。しかし、いずれにしても量子信号の強度は微弱であるため、光子検出器には受信した微弱な信号を増幅して出力することができる、アバランシェフォトダイオード(APD:Avalanche PhotoDiode)が用いられる。
【0008】
APDは、ブレークダウン電圧を超える逆バイアスを印加した状態において光子が入射したときに生じる電子をきっかけとして電子雪崩現象が生じ、これにより信号を増幅することができる。そのため、量子鍵配送においては、量子信号の光子の入射タイミングと同期するように、APDに印加する逆バイアス電圧を高くする(例えば、特許文献1)。図10に、APDへの電圧印加のタイミングと、光子検出効率の時間依存性を模式的に示す。APDへの逆バイアス印加のタイミングと光子の入射タイミングとが一致したとき、APDの光子の検出効率は最大となる。しかし、APDへの逆バイアス印加のタイミングと光子の入射タイミングとの間には時間差が有る場合、時間差が大きくなるにつれてAPDの検出効率が低下することが知られている。つまり、APDの光子の検出効率には、光子の入射タイミング依存性が存在する。
【0009】
量子鍵配送では複数の光子検出器(APD)を用いるが、高い安全性を保証するためには、各光子検出器での光子の検出効率が等しいことが望ましい。しかし、光子検出器が有する光子の検出効率の入射タイミング依存性は個体差が存在する。図11に、複数の光子検出器の光子の検出効率の入射タイミング依存性の例を示す。図11では、X基底の0及び1ビット、Z基底の0及び1ビットを4つの光子検出器で検出する例を示した。図11に示すように、同じタイミング(例えば、図11のタイミングT)で光子が入射したとしても、複数の光子検出器の間では、光子の検出効率がばらついてしまう。
【0010】
複数の光子検出器のそれぞれは、量子信号のいずれかの基底の各ビットに割り当てられるため、光子検出器の光子の検出効率の入射タイミング依存性にばらつきが有ると、例えば各基底の各ビットの検出効率が解析され、結果として盗聴を許す事態が生じ得る。そのため、光子検出器の光子の検出効率の入射タイミング依存性の影響を防止ないしは抑制することが求められる。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、量子鍵配送における盗聴を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様である光子検出装置は、量子信号の検出結果を示す電流信号を出力する光子検出器と、前記電流信号を電圧信号に変換する電流電圧変換部と、前記電圧信号をアナログ-デジタル変換した出力信号を出力するアナログ-デジタル変換器と、前記出力信号に所定の信号処理を行って、前記量子信号の検出結果を示す検出信号を出力する信号処理部と、を備え、前記光子検出器から前記電流信号が出力されるタイミングと、クロック信号に基づいて決定される基準タイミングと、の間の時間差が判定範囲に収まらない場合には、前記検出信号は前記信号処理部から出力されないものである。
【0013】
本発明の一態様である受信装置は、量子信号を検出する光子検出装置を備え、前記光子検出装置は、前記量子信号の検出結果を示す電流信号を出力する光子検出器と、前記電流信号を電圧信号に変換する電流電圧変換部と、前記電圧信号をアナログ-デジタル変換した出力信号を出力するアナログ-デジタル変換器と、前記出力信号に所定の信号処理を行って、前記量子信号の検出結果を示す検出信号を出力する信号処理部と、を備え、前記光子検出器から前記電流信号が出力されるタイミングと、クロック信号に基づいて決定される基準タイミングと、の間の時間差が判定範囲に収まらない場合には、前記検出信号は前記信号処理部から出力されないものである。
【0014】
本発明の一態様である量子鍵配送システムは、量子信号を送信する送信装置と、前記量子信号を検出する光子検出装置を備える受信装置と、を備え、前記光子検出装置は、前記量子信号の検出結果を示す電流信号を出力する光子検出器と、前記電流信号を電圧信号に変換する電流電圧変換部と、前記電圧信号をアナログ-デジタル変換した出力信号を出力するアナログ-デジタル変換器と、前記出力信号に所定の信号処理を行って、前記量子信号の検出結果を示す検出信号を出力する信号処理部と、を備え、前記光子検出器から前記電流信号が出力されるタイミングと、クロック信号に基づいて決定される基準タイミングと、の間の時間差が判定範囲に収まらない場合には、前記検出信号は前記信号処理部から出力されないものである。
【0015】
本発明の一態様である量子信号の検出方法は、量子信号の検出結果を示す電流信号を出力し、前記電流信号を電圧信号に変換し、前記電圧信号をアナログ-デジタル変換した出力信号を出力し、前記出力信号に所定の信号処理を行って、前記量子信号の検出結果を示す検出信号を出力し、前記電流信号が出力されるタイミングと、クロック信号に基づいて決定される基準タイミングと、の間の時間差が判定範囲に収まらない場合には、前記検出信号は出力されないものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、量子鍵配送における盗聴を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】量子鍵配送システムの概要構成を示す図である。
図2】実施の形態1にかかる受信装置の基本構成を模式的に示す図である。
図3】実施の形態1にかかる受信装置の構成例を模式的に示す図である。
図4】実施の形態1にかかる光子検出装置の構成を模式的に示す図である。
図5】実施の形態1にかかる同期信号受信装置の構成を模式的に示す図である。
図6】実施の形態1にかかる光子検出装置での盗聴防止動作における信号の流れを示す図である。
図7】実施の形態1にかかる光子検出装置での盗聴防止動作のフローチャートである。
図8】実施の形態1にかかる光子検出装置での盗聴防止動作における信号の流れを示す図である。
図9】実施の形態1にかかる光子検出装置での盗聴防止動作のフローチャートである。
図10】APDへの電圧印加のタイミングと、光子検出効率の時間依存性を模式的に示す図である。
図11】複数の光子検出器の光子の検出効率の入射タイミング依存性の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。各図面においては、同一要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略される。
【0019】
実施の形態1
実施の形態1にかかる量子鍵配送システム1000について説明する。量子鍵配送システム1000は、例えば、位相エンコード又は偏波エンコードのBB84プロトコルが適用されたものとして構成される。
【0020】
図1に、量子鍵配送システム1000の概要構成を示す。量子鍵配送システム1000は、送信装置110、受信装置100、伝送路120及び130を有する。送信装置110は、伝送路120を介して、受信装置100への暗号鍵の付与に用いる量子信号Qと、量子信号Qの検出タイミングの制御に用いられる同期信号Sと、を受信装置100へ出力する。また、送信装置110及び受信装置100は、公開通信路である伝送路130を介して、例えば基底情報、テストビット、誤り訂正の情報などを含む信号を送受信することができる。
【0021】
量子信号Qは、単一光子、又は、量子効果が発現する程度の数の光子からなる光パルスとして送信される光信号である。
【0022】
本実施の形態では、同期信号Sは、量子信号Qの伝送に用いられる伝送路120によって送信される光信号である。量子信号Qと同期信号Sは、例えば異なる波長の光信号であり、波長多重されて受信装置100へ送信されてもよい。
【0023】
図2に、実施の形態1にかかる受信装置100の基本構成を模式的に示す。受信装置100は、光子検出装置10、同期信号受信装置20及びクロック信号生成部30を有する。受信装置100には、量子信号Q及び同期信号Sが入力され、量子信号Qは光子検出装置10により検出され、同期信号Sは同期信号受信装置20により受信される。
【0024】
クロック信号生成部30は、例えば位相同期回路(PLL:Phase Locked Loop)として構成され、クロック信号CLKを生成して、光子検出装置10及び同期信号受信装置20へ出力する。本構成では、クロック信号生成部30は、同期信号受信装置20から与えられる、同期信号Sの受信タイミングを通知する基準信号REFに応じて、クロック信号CLKのタイミングを調整する。クロック信号CLKは、後述する逆バイアスパルスタイミング信号及び出力電圧信号よりも高い時間精度を有する高速クロック信号として生成される。
【0025】
次いで、受信装置100について更に説明する。図3に、実施の形態1にかかる受信装置100の構成例を模式的に示す。受信装置100には、例えば、量子信号Q及び同期信号Sを波長分離する波長分離部40が設けられる。これにより、量子信号Qは光子検出装置10により検出し、同期信号Sは同期信号受信装置20により受信することが可能となる。波長分離部40は、例えばWDMカプラなどの任意の波長分離手段として構成することができる。
【0026】
次いで、光子検出装置10について説明する。ここでは、光子検出装置10の構成の理解を容易にするため、光子検出器であるアバランシェフォトダイオードが1つと、この1つのアバランシェフォトダイオードの出力電流を用いて、入射した光子を検出するための回路構成について説明する。なお、言うまでもないが、量子鍵配送において用いられる基底などに応じて、以下の図4に示す回路構成が光子検出装置に複数設けられる。また、送信される量子信号に適用されるエンコード方式(位相エンコードや偏波エンコードなど)に応じて、複数の光子検出器(アバランシェフォトダイオード)に光子を分配するための構成(簡略化のため不図示)が設けられることも、言うまでも無い。
【0027】
図4に、実施の形態1にかかる光子検出装置10の構成を模式的に示す。実施の形態1にかかる光子検出装置10は、タイミング生成部11、電源部12、アバランシェフォトダイオード(APD)13、電流電圧変換部14、サンプリング部15及び信号処理部16を有する。
【0028】
タイミング生成部11は、クロック信号CLKに応じて逆バイアスパルスタイミング信号S11を生成し、電源部12へ出力する。クロック信号CLKは、後述するように、同期信号受信装置20から供給される。
【0029】
電源部12は、逆バイアス電圧VB1を生成して、逆バイアスパルスタイミング信号S11に応じてAPD13に印加する。逆バイアス電圧VB1は、APD13のブレークダウン電圧以下の直流成分と、ブレークダウン電圧以上の逆バイアスパルス成分とを含む。
【0030】
APD13では、逆バイアスパルス成分がAPD13に印加されているタイミングで受光面に光子、すなわち量子信号Qが入射すると、生成された光電子によるアバランシェ(電子雪崩)効果によって電子が増倍される。これにより、APD13から出力電流I1が出力される。なお、光子が入射しない場合でもダークノイズが存在しており、出力電流I1は一定の値の電流として検出される。
【0031】
電流電圧変換部14は、出力電流I1(電流信号とも称する)を電圧信号である出力電圧信号S12に変換し、サンプリング部15へ出力する。ここでは、電流電圧変換部14として、トランスインピーダンスアンプ(以下TIA)などを用いる。
【0032】
サンプリング部15は、クロック信号CLKに応じて、出力電圧信号S12をサンプリングし、離散的な値を有する、すなわちデジタル信号である出力電圧信号S13を信号処理部16へ出力する。サンプリング部15は、2値のデジタル信号を出力してもよいし、アナログ-デジタル(AD)変換により生成した多値のデジタル信号を出力してもよい。ここでは、サンプリング部15として、アナログ-デジタル変換器(ADC)を用いる。
【0033】
信号処理部16は、クロック信号CLKに応じて、デジタル信号である出力電圧信号S13に所定の信号処理を行い、光子の受信結果を示す光子検出信号OUTを出力する。
【0034】
次に、同期信号受信装置20について説明する。図5に、実施の形態1にかかる同期信号受信装置20の構成を模式的に示す。同期信号受信装置20は、電源部21、フォトダイオード22、電流電圧変換部23及び基準信号生成部24を有する。
【0035】
電源部21は、逆バイアス電圧VB2を生成して、フォトダイオード22に印加する。逆バイアス電圧VB2は、例えば、数ボルト程度の直流電圧として出力される。
【0036】
フォトダイオード22は、逆バイアス電圧VB2が印加されている状態で受光面に同期信号S(この例では後述する同期信号Sd)が入射すると、入射光の強度に応じた出力電流I2を出力する。一般に、同期信号Sは量子信号Qと比べて光強度が強いため、同期信号Sを受信するフォトダイオード22の種類は特に限られず、APDを含む各種のフォトダイオードを用いることができる。
【0037】
電流電圧変換部23は、出力電流I2を電圧信号である出力電圧信号S21に変換し、基準信号生成部24へ出力する。ここでは、電流電圧変換部23として、トランスインピーダンスアンプ(以下TIA)などを用いる。
【0038】
基準信号生成部24は、出力電圧信号S21に応じて、デジタル信号である基準信号REFをクロック信号生成部30へ出力する。基準信号生成部24は、2値のデジタル信号を出力してもよいし、アナログ-デジタル(A/D)変換により生成した多値のデジタル信号を出力してもよい。基準信号生成部24は、例えば、クロック・データ・リカバリ(Clock Data Recovery:CDR)回路として構成されてもよい。
【0039】
次いで、盗聴を防止するための光子検出装置10の動作について説明する。図6に、実施の形態1にかかる光子検出装置10での盗聴防止動作における信号の流れを示す。図7は、実施の形態1にかかる光子検出装置10での盗聴防止動作のフローチャートである。
【0040】
上記したように、クロック信号CLKは、受信した同期信号Sに応じて生成されるため、正確なタイミング信号であると考え得る。これに対し、例えば盗聴者がタイムシフト攻撃を用いた盗聴を試みると、盗聴者が送信した偽の量子信号QFが受信装置100に入射することがある。
【0041】
偽の量子信号QFは、正しい量子信号Qよりも入射タイミングが早くなったり遅くなったりするので、量子信号の入射タイミングを検出することで、量子信号の真偽を判別することが可能である。そこで、本構成では、クロック信号CLKと量子信号の入射タイミング、すなわちAPD13から出力電流I1が出力されるタイミングとの時間差Δt(第1の時間差とも称する)を検出し、時間差Δtが所定範囲の外である場合には、受信した量子信号にかかる情報を破棄する。これにより、盗聴を防止することができる。以下、具体的に説明する。
【0042】
図6に示すように、本構成では、サンプリング部15が、クロック信号CLKに応じて、アナログ信号である出力電圧信号S12をサンプリングし、デジタル信号である出力電圧信号S13に変換している。ここで、APD13に量子信号Qが入射する時刻(出力電流I1が出力される時刻)をt、時刻tから出力電圧信号S12がサンプリング部15に到達するまでの時間をΔtd1、クロック信号CLKに基づいた基準タイミングをTrefと定義する。この場合、サンプリング部15が、出力電圧信号S12がサンプリング部15に到達する時刻t+Δtd1と、基準タイミングTrefと、の間の時間差Δtをモニタして、時間差Δtが所定範囲(第1の判定範囲とも称する)の外であるかを判定すればよい。サンプリング部15は、時間差Δtをモニタすることで、APD13から出力電流I1が出力されるタイミングを間接的にモニタしていることが理解できる。
【0043】
サンプリング部15は、例えば、時間差Δtをモニタし、時間差Δtが第1の閾値TH1(下限閾値とも称する)以上であり、かつ、第2の閾値TH2(上限閾値とも称する)以下であるかを判定する(図7のステップST1)。
【0044】
時間差Δtが第1の閾値TH1以上であり、かつ、第2の閾値TH2以下である場合、すなわち時間差Δtが第1の閾値TH1及び第2の閾値TH2で規定される判定範囲に収まっている場合、サンプリング部15は、受信した量子信号Qは真の量子信号であるものとして、A/D変換結果である出力電圧信号S13を出力する(図7のステップST2)。
【0045】
時間差Δtが第1の閾値TH1よりも小さい、又は、第2の閾値TH2よりも大きい場合には、すなわち時間差Δtが判定範囲外である場合、サンプリング部15は、受信した量子信号Qは偽の量子信号であるものとして、上述したA/D変換結果である出力電圧信号S13を出力せずに信号を破棄する(図7のステップST3)。
【0046】
以上、本構成によれば、サンプリング部15での時間差判定によって、クロック信号CLKからタイミングが所定値だけずれた量子信号の情報を破棄することができる。これにより、上述したとおり、盗聴を好適に防止することができる。
【0047】
特に、本構成によれば、光子検出器からの出力電流のタイミング、換言すれば光子検出器へ一定以上時間的にずれて入射する光子の情報を破棄することができるので光子検出器への光子入射タイミング依存性を利用するタイムシフト攻撃による盗聴を好適に防止することができる。
【0048】
また、上述の時間差判定は、サンプリング部15の代わりに、信号処理部16で行ってもよい。以下、信号処理部16で時間差判定を行う場合の光子検出装置10の盗聴防止動作について説明する。図8に、実施の形態1にかかる光子検出装置10での盗聴防止動作における信号の流れを示す。図9は、実施の形態1にかかる光子検出装置10での盗聴防止動作のフローチャートである。
【0049】
図8に示すように、本構成では、信号処理部16が、クロック信号CLKに応じて、出力電圧信号S13に所定の信号処理を行う。ここで、APD13に量子信号Qが入射する時刻tから出力電圧信号S13が信号処理部16に到達するまでの時間をΔtd2と定義する。この場合、信号処理部16が、出力電圧信号S13が信号処理部16に到達する時刻t+Δtd2と、基準タイミングTrefと、の間の時間差Δtをモニタして、サンプリング部15の場合と同様に、時間差判定を行えばよい。この場合でも、上述と同様に、サンプリング部15は、時間差Δtをモニタすることで、APD13から出力電流I1が出力されるタイミングを間接的にモニタしていることが理解できる。
【0050】
信号処理部16は、例えば、時間差Δt(第2の時間差とも称する)をモニタし、時間差Δtが第1の閾値TH1以上であり、かつ、第2の閾値TH2以下であるかを判定する(図9のステップST4)。
【0051】
時間差Δtが第1の閾値TH1及び第2の閾値TH2で規定される判定範囲(第2の判定範囲とも称する)に収まっている場合には、信号処理部16は、受信した量子信号Qは真の量子信号であるものとして、信号処理部16は、上述した信号処理を行う(図9のステップST5)。
【0052】
時間差Δtが判定範囲外である場合には、受信した量子信号Qは偽の量子信号であるものとして、信号処理部16は、上述した信号処理を行わず、出力電圧信号S13を破棄する(図9のステップST6)。
【0053】
以上、本構成によれば、信号処理部16での時間差判定によって、クロック信号CLKからタイミングが所定値だけずれた量子信号の情報を破棄することができる。これにより、サンプリング部15における場合と同様に、盗聴を好適に防止することができる。
【0054】
その他の実施の形態
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述の実施の形態では、単一光子検出器としてアバランシェフォトダイオードを用いるものとして説明したが、光子検出効率が光子の入射タイミングに依存する単一光子検出器であるかぎり、他の構成の単一光子検出器を適用してもよい。
【0055】
上述の実施の形態では、時間差が判定範囲の下限の閾値以上かつ上限の閾値以下である場合に判定範囲に収まるものとして説明したが、これは例示に過ぎない。例えば、時間差が判定範囲の下限の閾値よりも大きく、かつ、上限の閾値よりも小さい場合に判定範囲に収まるものとして判定してもよい。
【0056】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0057】
この出願は、2021年1月29日に出願された日本出願特願2021-13986を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0058】
10 光子検出装置
11、21 タイミング生成部
12、21 電源部
13 アバランシェフォトダイオード(APD)
14、23 電流電圧変換部
15 サンプリング部
16 信号処理部
20 同期信号受信装置
22 フォトダイオード
24 基準電圧生成部
30 クロック生成部
40 波長分離部
100 受信装置
110 送信装置
120、130 伝送路
1000 量子鍵配送システム
CLK クロック信号
I1、I2 出力電流
OUT 光子検出信号
Q 量子信号
REF 基準信号
S 同期信号
S11 逆バイアスパルスタイミング信号
S12、S13、S21 出力電圧信号
VB1、VB2 逆バイアス電圧
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
図11