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特許7505340揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤及び分解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-17
(45)【発行日】2024-06-25
(54)【発明の名称】揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤及び分解方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240618BHJP
   B09C 1/10 20060101ALI20240618BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240618BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240618BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C09K3/00 S ZAB
B09C1/10
C02F3/34 Z
C12N1/00 R
C12N1/20 D
C12N1/20 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020149912
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044335
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】本村 圭
(72)【発明者】
【氏名】榎本 幹司
(72)【発明者】
【氏名】中野 拓治
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-050318(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157556(WO,A1)
【文献】特開平06-285181(JP,A)
【文献】特開2012-040527(JP,A)
【文献】特開2003-292935(JP,A)
【文献】特開2005-087980(JP,A)
【文献】特開2007-295941(JP,A)
【文献】特開2010-104962(JP,A)
【文献】米国特許第06461510(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00
B09C1/00-1/10
C02F3/28-3/34
C12N1/00-7/08
C09K17/00-17/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物による揮発性有機ハロゲン化合物の分解を促進する揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤において、
パイナップルの果汁、
パイナップルの果実(果皮を含む)から得られる抽出物、及び
パイナップルの果実搾汁粕(果皮を含む)から得られる抽出物
の少なくとも1種を含有することを特徴とする揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤。
【請求項2】
前記パイナップルは、パイナップル科アナナス属に含まれるものであることを特徴とする請求項1の揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤。
【請求項3】
揮発性有機ハロゲン化合物を含む土壌及び/又は地下水に、請求項1又は2の分解促進剤含有液を供給することを特徴とする微生物による揮発性有機ハロゲン化合物の分解方法。
【請求項4】
揮発性有機ハロゲン化合物が、有機塩素系化合物である請求項3記載の揮発性有機ハロゲン化合物の分解方法。
【請求項5】
微生物がDehalococcoides属細菌、Clostridium属細菌、Dehalobacter属細菌、Sulfurospirillum属細菌、Desulfobacterium属細菌、Desulfomonas属細菌、Desulfomonile属細菌からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3又は4記載の揮発性有機ハロゲン化合物の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物による揮発性有機ハロゲン化合物の分解を促進することが可能な分解促進剤、および、それを用いた分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機塩素化合物などの揮発性有機ハロゲン化合物により汚染された土壌や地下水の浄化方法として、汚染地域が広範囲にわたる場合や、地上に操業中の施設がある場合には、地中に栄養源等を注入して汚染現場に生息している微生物を増殖・活性化させるバイオスティミュレーションや、優れた分解能を持つ微生物を地中に注入して汚染物質を分解するバイオオーグメンテーションが採用されている。いずれの場合においても、汚染物質分解微生物やその機能を補助する微生物を効率的に増殖・活性化させるための栄養剤が必要であり、塩素化エチレン分解微生物を活性化する作用を持つ有機資材など様々な栄養剤が提案されている。
【0003】
揮発性有機塩素化合物の分解微生物を活性化させる分解促進剤としては特許文献1~5に記載のものがある。
【0004】
特許文献1では多官能アルコールとのエステルを含む組成物、特許文献2では酵母、脂肪酸、炭水化物等を含む組成物、特許文献3ではアミノ酸とオキシカルボン酸の縮合反応生成物、特許文献4では、柑橘類の果実・果皮から得られる抽出物が記載されている。特許文献5には塩素化エチレン化合物分解微生物の栄養剤としてクエン酸が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2000-511969号公報
【文献】特開2005-185870号公報
【文献】特開2010-104962号公報
【文献】特許第6126588号
【文献】特開2002-1304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献3に記載の方法は、投与初期段階での微生物の活性が低く、特に塩素化エチレン化合物を多く含む土壌では完全浄化に長い時間を要するという問題があった。また、特許文献2に記載の方法においても、塩素化エチレン分解に対する促進効果は認められるものの、その程度は十分ではなく、完全浄化に長い時間を要するという問題があった。また、特許文献4のグリセリン/酵母エキス/ビタミン混合剤も含め、材料として複数の市販品を組み合わせる必要があるなどコスト面で課題があった。
【0007】
特許文献4で提案されている柑橘類の果実・果皮から得られる抽出物は、コスト面や安全性の点では有利である。しかし、柑橘類の果実・果皮には、ノビレチンやタンゲレチンなどの抗菌作用を持つ物質を多量に含まれており、目的微生物の増殖を阻害するなどの悪影響が懸念される。また、生物浄化技術の栄養剤として地中に注入した際に、土着の微生物生態系を大きく変化させるなどの影響も懸念される。
【0008】
本発明は、コスト面や安全性、環境適合性に優れており、有機塩素化合物に汚染された土壌の生物浄化技術に用いることで、安価かつ安全に浄化を実現できる揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤及び分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、次を要旨とするものである。
【0010】
[1] 微生物による揮発性有機ハロゲン化合物の分解を促進する揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤において、パイナップルの果汁、パイナップルの果実(果皮を含む)から得られる抽出物、及びパイナップルの果実搾汁粕(果皮を含む)から得られる抽出物の少なくとも1種を含有することを特徴とする揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤。
【0011】
[2] 前記パイナップルは、パイナップル科アナナス属に含まれるものであることを特徴とする[1]の揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤。
【0012】
[3] 揮発性有機ハロゲン化合物を含む土壌及び/又は地下水に、[1]又は[2]の分解促進剤含有液を供給することを特徴とする微生物による揮発性有機ハロゲン化合物の分解方法。
【0013】
[4] 揮発性有機ハロゲン化合物が、有機塩素系化合物である[3]記載の揮発性有機ハロゲン化合物の分解方法。
【0014】
[5] 微生物がDehalococcoides属細菌、Clostridium属細菌、Dehalobacter属細菌、Sulfurospirillum属細菌、Desulfobacterium属細菌、Desulfomonas属細菌、Desulfomonile属細菌からなる群から選ばれる少なくとも1種である[又は[4]記載の揮発性有機ハロゲン化合物の分解方法。
【発明の効果】
【0015】
パイナップル果汁は、塩素化エチレン分解微生物の栄養剤として利用されているクエン酸を豊富に含む。柑橘類にもクエン酸を豊富に含むものが存在するが、ノビレチンやタンゲレチンなどの抗菌作用を持つ物質を多量に含む場合も多く、生物浄化技術の栄養剤として利用するためには様々な制約が必要となる可能性がある。
【0016】
一方、パイナップルは柑橘類とは異なり、強い抗菌性を示す物質をほとんど含んでおらず、分解微生物に対する増殖阻害効果などが低い。代表的な柑橘類であるシークワーサーの果汁を塩素化エチレン分解微生物の培養液に添加すると、TOC換算で0.1g/L程度でも強い分解遅延効果が見られるが、同程度のパイナップル果汁では阻害効果が見られず、速やかな塩素化エチレン分解が達成できる。
【0017】
本発明の分解促進剤は、薬品・食品グレードの市販品を用いる従来技術と比較してコスト面や安全性、環境適合性に優れており、有機ハロゲン化合物に汚染された土壌の生物浄化技術に用いることで、安価かつ安全に浄化を実現できる。
【0018】
また、抗菌作用を示す物質をほとんど含まないため、柑橘類果汁を用いる従来技術と比較して分解微生物による浄化が効率よく進み、かつ土着の微生物生態系に対する負荷も低い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例の結果を示すグラフである。
図2】比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤は、下記A~Cのうち1種類または2種類以上を含有していることを特徴とする。
A:パイナップルの果汁
B:パイナップルの果実(果皮を含む)から得られる抽出物
C:パイナップルの果実搾汁粕(果皮を含む)から得られる抽出物
【0021】
パイナップルの種類は特に制限されるものではなく、パイナップル科に属する植物であればいずれでもよく、特にパイナップル科アナナス属に含まれるものが望ましい。
【0022】
上記B,Cの抽出物としては、水による抽出物が好適である。
【0023】
上記揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤含有液の土壌又は地下水への供給法には特に制限はないが、井戸管を通して供給するのが好適である。本発明の分解促進剤は、土壌又は地下水中における濃度が、TOC換算で0.01~0.5g/L、特に0.05~0.1g/Lとなるように土壌又は地下水に注入されることが好ましい。ただし、注入量は汚染の程度等に応じて決定すればよく、これに限定されない。
【0024】
本発明の揮発性有機ハロゲン化合物の分解促進剤は、上記A~C成分以外のその他の成分を含有することができる。
【0025】
上記その他の成分としては、例えば、微生物の栄養源となるブドウ糖、果糖、硫安、尿素、アンモニウム塩、硫黄化合物、リン化合物、塩化カリウム等のカリウム化合物、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウム化合物、酵母エキス、あるいはペプトン等とともに用いてもよい。
【0026】
本発明の分解促進剤は、揮発性有機ハロゲン化合物により汚染された土壌、地下水、その他の試料と接触させることにより、該揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解を促進する。本発明の対象となる揮発性有機ハロゲン化合物は、好ましくは、有機塩素系化合物であり、例えば、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、モノクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、トランス-1,2-ジクロロエチレン、1,3-ジクロロプロペン、テトラクロロエチレン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ビニルクロライド、等が挙げられる。
【0027】
なかでも、本発明の分解促進剤は、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン類、ビニルクロライド、等のクロロエテン類の分解を好適に促進することができる。テトラクロロエチレンは微生物により、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、モノクロロエチレン(ビニルクロライド)、エチレンに順次分解される。
【0028】
本発明の分解促進剤は、揮発性有機ハロゲン化合物の微生物による分解を促進するものであり、浄化対象となる土壌や地下水にもともと存在する微生物を利用してもよく、揮発性有機ハロゲン化合物の分解に有用な微生物とともに使用してもよい。また、そのような微生物を含む組成物とともに使用してもよい。即ち、浄化対象となる土壌や地下水に、揮発性有機ハロゲン化合物を分解する微生物が十分含まれる場合は本発明の分解促進剤や分解促進剤組成物をそのまま対象土壌に適用すればよい。一方、土壌中の微生物量が少ない場合や、分解を早めたい場合などには、予め用意した微生物ないし微生物を含む組成物とともに本発明の分解促進剤や分解促進剤組成物を適用してもよい。
【0029】
揮発性有機ハロゲン化合物の分解に有用な微生物としては、嫌気性微生物が好ましく、例えば、Dehalococcoides(デハロコッコイデス)属、Clostridium属、Dehalobacter属、Sulfurospirillum属、Desulfobacterium属、Desulfomonas属、Desulfomonile属等の微生物が挙げられる。
【実施例
【0030】
[実施例1、比較例1]
以下の実験により、嫌気性微生物による塩素化エチレン分解反応に対するパイナップル果汁の効果を検証した。
<実験条件>
[各種栄養剤添加条件における塩素化エチレンとしてのテトラクロロエチレンの分解活性評価]
塩素化エチレン分解微生物としてデハロコッコイデス属細菌を用いた。また、分解促進剤としてTOC換算で0.1、0.3、0.8g/Lのパイナップル果汁(実施例1)および柑橘類に属するシークワーサーの果汁(比較例1)を用いた。また、コントロール系列としてTOC換算で0.8g/Lのクエン酸三ナトリウム溶液を用いた。
【0031】
各分解促進剤を添加した、下記文献記載の人工培地(液量100mL)を含むバイアル瓶に、クエン酸添加人工培地を用いて予め前培養した種菌を終濃度1%になるように植菌した。100mg/mLのテトラクロロエチレン(PCE)溶液を0.2mL添加し、培養温度25℃、嫌気条件下にて培養を開始した。
【0032】
塩素化エチレン化合物の分解活性は培養槽ヘッドスペースのガス成分濃度をモニタリングすることで評価した。エチレン濃度はガスクロマトグラフ法により、PCE及びその分解産物(トリクロロエチレン(TCE)、ジクロロエチレン(DCE)、クロロエチレン(CE))濃度はヘッドスペース-ガスクロマトグラフ質量分析法により測定した。
【0033】
※人工培地記載文献:N.Okutsu,W.Tamura,M.Mizumoto,T.Ueno,H.Ishida,T.Iizumi.(2012)Field demonstration of bioaugmentation in trichloroethene-contaminated groundwater.Water Practice Technol.7:wpt2012053
【0034】
<結果・考察>
[各種栄養剤添加条件における塩素化エチレン分解活性評価]
パイナップル果汁添加系列の結果を図1、シークワーサー果汁添加系列の結果を図2に示す。
【0035】
図1の通り、パイナップル果汁(図1では「パイン」と記載)添加系列では、TOC換算で0.3g/L以下の条件において高い分解速度を示した。特に0.1g/Lではコントロール系列(クエン酸0.8g/L)と同程度の分解活性が認められた。
【0036】
一方、柑橘類であるシークワーサー果汁添加系列では、図2の通り、いずれの果汁濃度においても強い分解遅延効果が認められた。特に、DCE以降の分解がほぼ停止する傾向が見られた。PCEからDCEまでの分解は比較的多くの微生物種によって触媒されるが、CEをエチレンに分解する活性を持つ微生物は一部のデハロコッコイデス属細菌に限られる。柑橘類に含まれる抗菌性物質による効果により、デハロコッコイデス属細菌をはじめとする塩素化エチレン分解微生物あるいはそれをサポートする微生物の増殖および塩素化エチレン分解反応が阻害されているものと推察される。
図1
図2