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  • 特許-モード変換器及びその製造方法 図1
  • 特許-モード変換器及びその製造方法 図2A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】モード変換器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/14 20060101AFI20240626BHJP
【FI】
G02B6/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020189824
(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公開番号】P2022078865
(43)【公開日】2022-05-25
【審査請求日】2023-02-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年11月19日の Microoptics Conference 2019 にて、「A Broadband PLC-type Mode Converter Designed by Wavefront Matching Method」の演題で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】和田 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晋聖
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-068531(JP,A)
【文献】特開2016-151660(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0377812(US,A1)
【文献】米国特許第10234627(US,B1)
【文献】特開2013-007808(JP,A)
【文献】特開2006-227402(JP,A)
【文献】国際公開第2006/013805(WO,A1)
【文献】Sawada, Y. et al.,Development of fully three-dimensional wavefront matching method and its application to the design of ultrasmall Si mode converters,IEEE Conference Proceedings,2017年,Vol.2017 No.IPC,PP.427-428,doi:10.1109/IPCCon.2017.8116171
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12-6/14
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n(nは1以上の整数)以上のモードを伝搬可能な入力導波路と、
m(mは2以上の整数)以上のモードを伝搬可能な出力導波路と、
l(lはmより大きい整数)以上のモードを伝搬可能かつ、前記入力導波路及び前記出力導波路よりも導波路幅が大きく、前記入力導波路及び前記出力導波路の間に接続された第3の導波路と、
を備え、
前記入力導波路及び前記出力導波路は、前記第3の導波路の導波路幅方向の中心位置から対称位置にずらして配置され、
前記第3の導波路の少なくとも一部の導波路幅が、前記入力導波路の接続部分の導波路幅及び前記出力導波路の接続部分の導波路幅と異なり、
前記第3の導波路の少なくとも一部において、前記入力導波路から入力される1以上の特定のモードの重ね合わせである入力フィールドの順伝搬方向の波面と、前記出力導波路に出力される前記特定のモードとは異なるモードの重ね合わせである出力フィールドの逆伝搬方向の波面とが、一致するように、導波路幅が伝搬方向に非周期的に変調されている、
モード変換器。
【請求項2】
前記第3の導波路の少なくとも一部において、前記入力導波路から入力される1以上の特定のモードの重ね合わせである入力フィールドの順伝搬方向の波面と、前記出力導波路に出力される前記特定のモードとは異なるモードの重ね合わせである出力フィールドの逆伝搬方向の波面とが、一致するように、導波路幅が伝搬方向の位置zにおける微小区間Δzごとに設定されている、
請求項1に記載のモード変換器。
【請求項3】
前記特定のモードはLP01モードであり、
前記特定のモードとは異なるモードはLP11モードである、
請求項1又は2に記載のモード変換器。
【請求項4】
n(nは1以上の整数)以上のモードを伝搬可能な入力導波路と、
m(mは2以上の整数)以上のモードを伝搬可能な出力導波路と、
l(lはmより大きい整数)以上のモードを伝搬可能かつ、前記入力導波路及び前記出力導波路よりも導波路幅が大きく、前記入力導波路及び前記出力導波路の間に接続された第3の導波路と、
を備えるモード変換器の製造方法であって、
前記入力導波路及び前記出力導波路を、前記第3の導波路の導波路幅方向の中心位置から対称位置にずらして配置し、
前記入力導波路から入力される1以上の特定のモードの重ね合わせである入力フィールドの順伝搬方向の波面と、前記出力導波路に出力される前記特定のモードとは異なるモードの重ね合わせである出力フィールドの逆伝搬方向の波面とが、一致するように、前記第3の導波路の少なくとも一部の導波路幅を伝搬方向に非周期的に変調する、
モード変換器の製造方法。
【請求項5】
前記入力導波路から入力される1以上の特定のモードの重ね合わせである入力フィールドの順伝搬方向の波面と、前記出力導波路に出力される前記特定のモードとは異なるモードの重ね合わせである出力フィールドの逆伝搬方向の波面とが、一致するように、前記第3の導波路の少なくとも一部の導波路幅を伝搬方向の位置zにおける微小区間Δzごとに設定する、
請求項に記載のモード変換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチモード光ファイバを利用するモード多重伝送システムにおいて、伝搬する複数のモードを変換する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信システムでは、光ファイバ中で発生する非線形効果やファイバヒューズが問題となり、伝送の大容量化が制限されている。これらの制限を緩和するために、マルチコアやマルチモードファイバを用いた空間多重技術が検討されている。
【0003】
モード多重伝送技術においては、複数のモードを合分波するために、従来の光通信システムで用いられている基本モードから、高次モードへの変換並びに合波が必要である。また、伝送路においては、伝搬するモードごとに損失が異なっており、それによって生じるモード間損失差はモード多重伝送路の伝送容量を低下させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】G. Labroille et al, “Efficient and mode selective spatial mode multiplexer based on multi-plane light conversion,” Opt. Express, vol. 22, p.15599 (2014)
【文献】T. Fujisawa et al., “One chip, PLC three-mode exchanger based on symmetric and asymmetric directional coupler with integrated mode rotator, ” OFC2017 paper, W1B.2 (2017)
【文献】Y. Sakamaki et al., “New optical waveguide design based on wavefront matching method,” IEEE JLT, vol.25 pp.3511-3518 (2007).
【文献】T. Fujisawa et al., “Wide-bandwidth, low-waveguide-width-sensitivity InP-based multimode interference coupler designed by wavefront matching method,” IEICE ELEX, vol.8, pp.2100-2105 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モードの合分波並びにモードの損失差補償のために、これまで多種多様なモード合分波器やモード変換器(例えば非特許文献1,2)が提案されてきたが、何れの方式においても複雑な光学系もしくは波長依存性を有しており、挿入損失の増大もしくは動作帯域が制限される。
【0006】
本開示は上記の課題に鑑みられたものであり、簡易な構造で、広帯域なモード変換を実現するための光デバイスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のモード変換器は、
n(nは1以上の整数)以上のモードを伝搬可能な入力導波路と、
m(mは2以上の整数)以上のモードを伝搬可能な出力導波路と、
l(lはmより大きい整数)以上のモードを伝搬可能かつ、前記入力導波路及び前記出力導波路よりも導波路幅が大きく、前記入力導波路及び前記出力導波路の間に接続された第3の導波路と、
を備え、
前記第3の導波路の少なくとも一部の導波路幅が、前記入力導波路の接続部分の導波路幅及び前記出力導波路の接続部分の導波路幅と異なり、
前記第3の導波路の少なくとも一部において、前記入力導波路から入力される1以上の特定のモードの重ね合わせである入力フィールドの順伝搬方向の波面と、前記出力導波路に出力される前記特定のモードとは異なるモードの重ね合わせである出力フィールドの逆伝搬方向の波面とが、一致する。
【0008】
本開示のモード変換器の製造方法は、
n(nは1以上の整数)以上のモードを伝搬可能な入力導波路と、
m(mは2以上の整数)以上のモードを伝搬可能な出力導波路と、
l(lはmより大きい整数)以上のモードを伝搬可能かつ、前記入力導波路及び前記出力導波路よりも導波路幅が大きく、前記入力導波路及び前記出力導波路の間に接続された第3の導波路と、
を備えるモード変換器の製造方法であって、
前記入力導波路から入力される1以上の特定のモードの重ね合わせである入力フィールドの順伝搬方向の波面と、前記出力導波路に出力される前記特定のモードとは異なるモードの重ね合わせである出力フィールドの逆伝搬方向の波面とが、一致するように、前記第3の導波路の少なくとも一部の導波路幅を設定する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、簡易な構造で、広帯域なモード変換を実現するための光デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示のモード変換器の基準構造を示す。
図2A】導波路3の導波路幅を伝搬方向に変調しない基準構造におけるモードの入出力特性を示す。
図2B】本開示における導波路幅の変調を行った結果を示す。
図3】本開示における導波路幅の変調例を示す。
図4】具体的な工程フローチャートを示す。
図5】波面整合の反復回数と、入出力の透過率(損失)を示す。
図6】透過率の波長依存税の計算結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0012】
本開示の第1の実施例について説明する。図1は、本開示のモード変換器の基準構造を示したものである。入力側の導波路1と、出力側の導波路2と、その間に配置された導波路3の基準構造で構成される。導波路1はn(nは1以上の整数)以上のモードを伝搬可能であり、導波路2はm(mは2以上の整数)以上のモードを伝搬可能であり、導波路3はl(lはmより大きい整数)以上のモードを伝搬可能である。本実施形態では、n=m=2であり、導波路1及び導波路2はLP11モードまでを導波する2モード導波路の例を示す。導波路3の基準構造は、導波路1,2の導波路幅W,Wよりも大きい導波路幅Wを有しており、導波路高さHは同じである。
【0013】
本開示で実現する機能は、特定のモードを導波路1から入力した場合に、特定の異なるモードに変換して導波路2から出力するものである。特定のモードは、導波路1の伝搬可能なn以上のモードのうちの少なくとも一部のモードである。特定の異なるモードは、導波路2の伝搬可能なm以上のマルチモードのうちの少なくとも一部のモードである。以下、導波路1から導波路の2への光の伝搬方向をz方向であるとして説明する。
【0014】
図2Aに、導波路3の導波路幅を伝搬方向に変調しない基準構造におけるモードの入出力特性を示す。図2Bに、導波路3の導波路幅を伝搬方向に変調した基準構造におけるモードの入出力特性を示す。図2A及び図2Bにおいて、白の線は導波路3の形状を示す。図2Bに示す本開示の例では、導波路1から基本モードを入力した場合、導波路2から同じモードが得られるよう、導波路1、2の導波路3への接続位置は設計されている。またこの例では、導波路1、2の導波路3への接続位置は、伝搬方向のz軸上で異なり、導波路幅方向(x方向)における導波路3の中心位置から対称位置に導波路1,2が接続されている。
【0015】
図3に、本開示における導波路幅の変調例を示す。導波路1から入力された前記特定のモードは導波路3に入力され、入力フィールドを形成する。前記特定のモードはn以上のモードを有するため、入力フィールドはn以上のモードの重ね合わせとなる。一方、導波路3から導波路2に出力される前記特定の異なるモードは、m以上のモードを有し、出力フィールドはm以上のモードの重ね合わせとなる。本開示は、入力フィールドの順伝搬方向の断面方向フィールドの波面と出力フィールドの逆伝搬方向の断面方向フィールドの波面とが一致するように、導波路3の位置zにおける微小区間Δzごとの導波路幅Wを変化させる。
【0016】
図4に具体的な工程フローチャートを示す。
まず、導波路幅Wが一定の構造を基準構造として定める(S11)。
光の伝搬方向における任意の位置zの導波路幅Wを決定するために、
最適化位置zを設定し(S12)、
入力フィールドが順伝搬し位置zに至った時のフィールドと、出力フィールドが逆伝搬し位置zに至った時のフィールドと、を計算し(S13)、
これらのフィールドが一致するよう導波路幅Wを変化させる(S14)。
これらS12~S14の工程を、順次位置zを導波路3における導波路1との接続端から導波路2と接続される出力端まで走査し繰り返す。
【0017】
結果として、導波路3の任意の位置zにおいて、入力導波路1からの順伝搬フィールドと、出力導波路2からの逆伝搬フィールドが一致するような導波路3の構造が決定される。この構造を有する平面光波回路を製造することで、所望の入力フィールドから所望の出力フィールドを得る光デバイスが実現できる。ここで、平面導波路の製造方法は任意であるが、例えば、設計した導波路構造のパターンマスクを作製し、当該パターンマスクを用いたパターンニングによって導波路を形成することができる。なお、このようなフィールドの一致は、導波路3の少なくとも一部であってもよい。
【0018】
上記の導波路幅最適化手法は、非特許文献3、4に記載のシングルモードデバイスの設計と同様の手法を用いることができる。例えば、入力導波路1の入力端からの入力フィールドの順伝搬のフィールドの波面と、出力導波路2の出力端からの出力フィールドの逆伝搬させたフィールドの波面とが一致するように、波面整合法を用いて導波路幅Wを光の伝搬方向に沿って変動させ、特性を向上させる。しかしながら、その適用は入出力導波路がシングルモード導波路の場合に限られており、本開示のような、入出力が1対のマルチモード導波路の場合の特性改善に関してはまったく検討されておらず、また、本開示におけるような、導波路3におけるマルチモード干渉を利用してモード変換を生ずるモード変換器に関しては全く検討が行われていない。
【0019】
例えば、導波路1から基本モード、導波路2からLP11モードを出力する前提で最適化を行った結果の導波路幅形状を図2Bに示す。ここで、導波路1~3の比屈折率差Δを1.0%、導波路1の幅W及び導波路2の幅Wを11.0μm、導波路高さHを10.0μm、導波路3の導波路幅Wを30.0μm、各導波路長をL=L=100.0μm、L=4000.0μmとしている。
【0020】
図5に、波面整合の反復回数と、入出力の透過率(損失)を示す。およそ5回のS12~S14の計算反復により、広い波長帯域で-2dB以上の低損失性が得られていることがわかる。これは、基準構造において入力フィールドと出力フィールドが同じである構造に対して波面整合法を適用したことによるものである。
【0021】
図6に、透過率の波長依存税の計算結果を示す。波面整合法の設計においては、最適化する波長範囲がパラメータであり、1.5~1.6または1.3~1.7μmの2種類の波長範囲を想定した場合の結果を併記している。本結果から分かる通り、波長範囲を広げるとその分波長帯域は増加するが、波長帯域が狭いほうが、局所的に優れた損失特性を得ることができることがわかる。
【0022】
本実施例における導波路幅Wの非周期的な変調は、光の伝搬方向(図1のz方向)1μmに対して、光の伝搬方向に垂直な方向(図1のx方向)への変化幅は、最大±0.2μmである。これは、急激な光導波路幅Wの変調を禁止することで、波長依存性が滑らかとなり、再現性の優れた光回路を提供することができるからである。しかしながら、本開示は、この例に限定されるものではなく、より急峻な導波路幅Wの変動があっても勿論構わない。
【0023】
なお、実際に波面整合法で得られた伝搬方向に沿った導波路幅Wの変動に対し、伝搬方向において前後20点の導波路幅を平均化した値でスムージングした構造においても同等の特性が得られ、作製上、好ましい構造とすることができる。
【0024】
なお、本明細書においてはガラス系材料を用いた平面光波回路に関する実施例を記載したが、その材料は当然ほかのものであってもかまわない。たとえば、SiやInGaAsPなどの半導体、またポリマーなどの有機物を用いた平面光波回路であっても、本明細書記載の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0025】
また、使用する波長帯に関しても、本明細書記載の実施例では1.3~1.7μm程度としているが、より波長の長い中赤外領域(2μm以上)や可視光帯であっても構わない。
【0026】
導波路構造に関しても、本明細書記載の実施例においては、矩形の埋め込み型導波路に関するものを記載したが、他の導波構造、たとえば、リッジ導波路構造でも構わない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本開示は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1、2、3:導波路
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6