(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-03
(45)【発行日】2024-07-11
(54)【発明の名称】ポリアミンの検出方法、ポリアミンの検出試薬及びアプタマ
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20240704BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20240704BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240704BHJP
G01N 33/52 20060101ALI20240704BHJP
G01N 33/50 20060101ALN20240704BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12N15/115 Z ZNA
G01N33/53 S
G01N33/52 C
G01N33/50 G
G01N33/50 F
(21)【出願番号】P 2022060604
(22)【出願日】2022-03-31
【審査請求日】2023-04-17
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520388826
【氏名又は名称】長峯 邦明
(73)【特許権者】
【識別番号】520388837
【氏名又は名称】野村 綾子
(73)【特許権者】
【識別番号】520388848
【氏名又は名称】時任 静士
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】長峯 邦明
(72)【発明者】
【氏名】野村 綾子
(72)【発明者】
【氏名】時任 静士
(72)【発明者】
【氏名】池袋 一典
(72)【発明者】
【氏名】生田 昂
(72)【発明者】
【氏名】前橋 兼三
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 夕起
(72)【発明者】
【氏名】水上 潤二
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-200472(JP,A)
【文献】特開2020-039300(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110174386(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113583673(CN,A)
【文献】特表2004-534541(JP,A)
【文献】国際公開第2021/230204(WO,A1)
【文献】特表2016-540517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gカルテット面を有するアプタマとポルフィリン化合物とが複合化して形成されるGカルテット構造により発現するペルオキシダーゼ活性を測定することによる、ポリアミンの検出方法であって、前記ペルオキシダーゼ活性のポリアミンの濃度による差を、カリウムイオンの存在下で測定し、かつ、前記カリウムイオンの濃度を0mmol/dm
3より大きく50mmol/dm
3以下とすることを特徴とする、ポリアミンの検出方法。
【請求項2】
前記アプタマの配列が、下記の配列1A、配列1Bまたは配列1Cである、請求項
1に記載の検出方法。
配列1A:5’-GTGGGTAGGGCTGGGTTGG-3’
配列1B:5’-GTGGGTGGGCGGGTTGG-3’
配列1C:5’-GTGGGTAGGGCGGGTGGA-3’
【請求項3】
前記アプタマの配列が、下記の配列2である、請求項
1に記載の検出方法。
配列2:5’-GTGGG(NN)GGG(NN)GGG(NNN)GGN-3’
配列2のGGG及びGGのGが連続した部分の間のNは、それぞれ独立してA、C又はTである。
【請求項4】
前記アプタマの配列が、下記の配列3A、配列3B、配列3C、配列3D、配列3E、配列3F及び配列3Gからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
1に記載の検出方法。
配列3A:5’-GTGGGTAGGGCTGGGTTGG-3’
配列3B:5’-GTGGGTAGGGCGGGTTGG-3’
配列3C:5’-GTGGGTGGGCGGGTTGG-3’
配列3D:5’-GTGGGTAGGGCGGGTTGGA-3’
配列3E:5’-GTGGGTAGGGCGGGTTGGAT-3’
配列3F:5’-GT(I)GGTAGGGCGGTGTGG-3’
配列3G:5’-GGTGGTGGTGGTTGTGGTGGTGGTGG-3’
ただし、配列3Fの(I)は、イノシンである。
【請求項5】
前記ポルフィリン化合物がヘミンである、請求項1~
4の何れか一項に記載の検出方法。
【請求項6】
色素前駆体及び化学発光試薬からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いて、前記ペルオキシダーゼ活性を測定する、請求項1~
5の何れか一項に記載の検出方法。
【請求項7】
前記ポリアミンが、スペルミン及びスペルミジンからなる群から選ばれる少なくとも1種類である、請求項1~
6の何れか一項に記載の検出方法。
【請求項8】
唾液中のポリアミンを検出する、請求項1~
7の何れか一項に記載の検出方法。
【請求項9】
Gカルテット面を有するアプタマと、ポルフィリン化合物と、カリウムイオンとを含み、
前記アプタマと前記ポルフィリン化合物とが複合化して形成されるGカルテット構造により発現するペルオキシダーゼ活性のポリアミンの濃度による差を検出し、かつ、前記カリウムイオンの含有量が0mmol/dm
3より大きく50mmol/dm
3以下であることを特徴とする、ポリアミンの検出試薬。
【請求項10】
前記アプタマの配列が、下記の配列1A、配列1Bまたは配列1Cである、請求項
9に記載の検出試薬。
配列1A:5’-GTGGGTAGGGCTGGGTTGG-3’
配列1B:5’-GTGGGTGGGCGGGTTGG-3’
配列1C:5’-GTGGGTAGGGCGGGTGGA-3’
【請求項11】
前記アプタマの配列が、下記の配列2である、請求項
9に記載の検出試薬。
配列2:5’-GTGGG(NN)GGG(NN)GGG(NNN)GGN-3’
配列2のGGG及びGGのGが連続した部分の間のNは、それぞれ独立してA、C又はTである。
【請求項12】
前記アプタマの配列が、下記の配列3A、配列3B、配列3C、配列3D、配列3E、配列3F及び配列3Gからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項
9に記載の検出試薬。
配列3A:5’-GTGGGTAGGGCTGGGTTGG-3’
配列3B:5’-GTGGGTAGGGCGGGTTGG-3’
配列3C:5’-GTGGGTGGGCGGGTTGG-3’
配列3D:5’-GTGGGTAGGGCGGGTTGGA-3’
配列3E:5’-GTGGGTAGGGCGGGTTGGAT-3’
配列3F:5’-GT(I)GGTAGGGCGGTGTGG-3’
配列3G:5’-GGTGGTGGTGGTTGTGGTGGTGGTGG-3’
ただし、配列3Fの(I)は、イノシンである。
【請求項13】
前記ポルフィリン化合物がヘミンである、請求項
9~
12の何れか一項に記載の検出試薬。
【請求項14】
色素前駆体及び化学発光試薬からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物をさらに含む、請求項
9~
13の何れか一項に記載の検出試薬。
【請求項15】
前記ポリアミンが、スペルミン及びスペルミジンからなる群から選ばれる少なくとも1種類である、請求項
9~
14の何れか一項に記載の検出試薬。
【請求項16】
唾液中のポリアミン検出用である、請求項
9~
15の何れか一項に記載の検出試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミンの検出方法、ポリアミンの検出試薬及びアプタマに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症や癌などの種々の疾患において、早期診断の重要性が指摘されている。一般的に、疾患の診断は、被検者の細胞、血液、唾液、尿、涙などの検体の検査結果に基づく。
検体中のポリアミンは、被検者の体調や病気への罹患などにより、生体中に存在する種類や量が変化する。特に、がん細胞のような増殖が活発な細胞においては、ポリアミンの濃度が高くなる場合がある。
よって、がん診断におけるマーカーとして、ポリアミンは利用できる。例えば、特許文献1では、唾液に含まれるポリアミンに基づいて特定がんのリスクを調べる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の唾液中の微量のポリアミン等を調べる方法では、高価かつ高感度の質量分析装置(LC/MS)を用いて分析する必要がある。そのため、検査費用が高額である。また、測定や結果解析を行うために高い専門性や経験も求められる。
そこで、ポリアミン等の微量のマーカー成分を迅速で簡便に調べることができる検査方法の開発が望まれる。加えて、ポリアミンの総量のみならず、特定のポリアミンの存在の有無を分析できることや、特定のポリアミンについてその存在の有無や存在量を選択的に分析できることが望ましい。
本発明は、ポリアミンを選択的にかつ高感度で検出でき、複雑な検出系を必要としないポリアミンの検出方法、ポリアミンの検出試薬及びアプタマを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、微量のポリアミンを簡易な方法によって検査することを実現するために、検出に複雑な設備を必要としない高感度な検出方法及び当該検出方法に適した検出試薬の組成について検討した。その結果、カリウムイオンの存在下でポリアミンをアプタマと接触させることにより、微量のポリアミンを選択的に検出する際の感度が向上することを見出し、本発明に到達した。
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]Gリッチな配列を有するアプタマとポルフィリン化合物とが複合化して形成されるGカルテット構造により発現するペルオキシダーゼ活性を測定することによる、ポリアミンの検出方法であって、前記ペルオキシダーゼ活性のポリアミンの有無による差を、カリウムイオンの存在下で測定することを特徴とする、ポリアミンの検出方法。
[2]前記アプタマの配列が、下記の配列1である、[1]に記載の検出方法。
配列1:5’-GTGGG(NN)GGG(NN)GGG(NNN)GGN-3’
(但し、Nは、それぞれ独立して、A、C、G、T又は塩基がないことを意味する。)
[3]前記アプタマの配列が、下記の配列1A、配列1Bまたは配列1Cである、[1]又は[2]に記載の検出方法。
配列1A:5’-GTGGGTAGGGCTGGGTTGG-3’
配列1B:5’-GTGGGTGGGCGGGTTGG-3’
配列1C:5’-GTGGGTAGGGCGGGTGGA-3’
[4]前記ポルフィリン化合物がヘミンである、[1]~[3]の何れかに記載の検出方法。
[5]前記カリウムイオンの濃度を50mmol/dm3以下とする、[1]~[4]の何れかに記載の検出方法。
[6]色素前駆体及び化学発光試薬からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いて、前記ペルオキシダーゼ活性を測定する、[1]~[5]の何れかに記載の検出方法。
[7]前記ポリアミンが、スペルミン及びスペルミジンからなる群から選ばれる少なくとも1種類である、[1]~[6]の何れかに記載の検出方法。
[8]唾液中のポリアミンを検出する、[1]~[7]の何れかに記載の検出方法。
[9]Gリッチな配列を有するアプタマと、ポルフィリン化合物と、カリウムイオンとを含み;前記アプタマと前記ポルフィリン化合物とが複合化して形成されるGカルテット構造により発現するペルオキシダーゼ活性のポリアミンの有無による差を検出することを特徴とする、ポリアミンの検出試薬。
[10]前記アプタマの配列が、下記の配列1である、[9]に記載の検出試薬。
配列1:5’-GTGGG(NN)GGG(NN)GGG(NNN)GGN-3’
(但し、Nは、それぞれ独立して、A、C、G、T又は塩基がないことを意味する。)
[11]前記アプタマの配列が、下記の配列1A、配列1Bまたは配列1Cである、[9]又は[10]に記載の検出試薬。
配列1A:5’-GTGGGTAGGGCTGGGTTGG-3’
配列1B:5’-GTGGGTGGGCGGGTTGG-3’
配列1C:5’-GTGGGTAGGGCGGGTGGA-3’
[12]前記ポルフィリン化合物がヘミンである、[9]~[11]の何れかに記載の検出試薬。
[13]前記カリウムイオンの含有量が50mmol/dm3以下とする、[9]~[12]の何れかに記載の検出試薬。
[14]色素前駆体及び化学発光試薬からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物をさらに含む、[9]~[13]の何れかに記載の検出試薬。
[15]前記ポリアミンが、スペルミン及びスペルミジンからなる群から選ばれる少なくとも1種類である、[9]~[14]の何れかに記載の検出試薬。
[16]唾液中のポリアミン検出用である、[9]~[15]の何れかに記載の検出試薬。
[17]下記の配列1を有する、アプタマ。
配列1:5’-GTGGG(NN)GGG(NN)GGG(NNN)GGN-3’
(但し、Nは、それぞれ独立して、A、C、G、T又は塩基がないことを意味する。)
[18]前記配列1が、下記の配列1A、配列1Bまたは配列1Cである、[17]に記載のアプタマ。
配列1A:5’-GTGGGTAGGGCTGGGTTGG-3’
配列1B:5’-GTGGGTGGGCGGGTTGG-3’
配列1C:5’-GTGGGTAGGGCGGGTGGA-3’
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリアミンを選択的にかつ高感度で検出でき、複雑な検出系を必要としないポリアミンの検出方法、ポリアミンの検出試薬及びアプタマが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】G-quadruplexの安定化を説明するための模式図である。
【
図2】G-quadruplexが取りうる種々の構造の一例を示す。
【
図3】G-quadruplexが取りうる種々の構造の一例を示す。
【
図4】G-quadruplexが取りうる種々の構造の一例を示す。
【
図5】G-quadruplexが取りうる種々の構造の一例を示す。
【
図6】G-quadruplexが取りうる種々の構造の一例を示す。
【
図7】G-quadruplexが取りうる種々の構造の一例を示す。
【
図8】実施例Aにおいて、Oligo5-12-2を用いたときのスペルミンに対する吸光度変化を測定した結果を示す。
【
図9】実施例Aにおいて、Oligo5-12-2を用いたときのスペルミジンに対する吸光度変化を測定した結果を示す。
【
図10】実施例Aにおいて、Oligo5-12-2を用いたときのプトレスシンに対する吸光度変化を測定した結果を示す。
【
図11】実施例Aにおいて、種々のアプタマを用いたときのスペルミンに対する吸光度変化を測定した結果を示す。
【
図12】実施例Aにおいて、種々のアプタマを用いたときのスペルミジンに対する吸光度変化を測定した結果を示す。
【
図13】実施例Aにおいて、種々のアプタマを用いたときのプトレスシンに対する吸光度変化を測定した結果を示す。
【
図14】実施例B1において、各ポリアミンの存在下における405nm吸光度の変化量を測定した結果を示す。
【
図15】実施例C1において、G4/ヘミンDNAzymeのペルオキシダーゼ活性に基づくルミノール発光をプレートリーダーで測定した結果を示す。
【
図16】比較例C1において、G4/ヘミンDNAzymeのペルオキシダーゼ活性に基づくルミノール発光をプレートリーダーで測定した結果を示す。
【
図17】比較例C2において、G4/ヘミンDNAzymeのペルオキシダーゼ活性に基づくルミノール発光をプレートリーダーで測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一例について詳細に説明する。ただし、以下の説明は代表例であり、本発明は以下の記載に限定されない。
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0010】
<ポリアミンの検出方法>
本発明のポリアミンの検出方法(以下、「本発明の検出方法」と言う場合がある。)は、Gリッチな配列を有するアプタマとポルフィリン化合物とが複合化して形成されるGカルテット構造により発現するペルオキシダーゼ活性が、ポリアミンの非存在下で抑制された時と、ポリアミンの存在下で増幅された時との間で異なることを利用してポリアミンを検出する。そして、このペルオキシダーゼ活性をカリウムイオンの存在下で測定することを特徴とする。すなわち、本発明の検出方法は、Gリッチな配列を有するアプタマとポルフィリン化合物とが複合化して形成されるGカルテット構造により発現するペルオキシダーゼ活性を測定することによる、ポリアミンの検出方法であって、前記ペルオキシダーゼ活性のポリアミンの有無による差を、カリウムイオンの存在下で測定することを特徴とする。
【0011】
Gリッチな配列を有するアプタマは、ポルフィリン化合物と複合化する。そして、Gカルテット構造が形成される。このGカルテット構造において、Gリッチな配列を有するアプタマがポリアミンと接触することでGカルテット構造が安定化する。この結果、Gカルテット構造のペルオキシダーゼ活性が促進される。
ところが、本発明者の知見によれば、ポリアミンの非存在下であってもGカルテット構造は微量のペルオキシダーゼ活性を示すことがある。
そこで、本発明者は、Gカルテット構造のペルオキシダーゼ活性が、ポリアミンの非存在下で抑制された時と、ポリアミンの存在下で増幅された時との間の差を検出することに想到した。すなわち、ペルオキシダーゼ活性の差を検出すれば、ポリアミンを高感度で検出できると考えた。そして、実際に実験により確かめたところ、当該ペルオキシダーゼ活性の差を検出することにより、ポリアミンを高感度で検出でき、しかも、ポリアミンの選択性にも優れることが明らかとなった。
【0012】
本発明の検出方法では、検体中に含まれるポリアミンをペルオキシダーゼ反応の触媒として利用し、アプタマと接触させることにより検出できる。ポリアミンの検出は、通常、光学的及び電気的の少なくとも何れかの方式により行う。
本発明の検出方法は、ポリアミンを含む液体を準備する工程(以下、「試料準備工程」と言う場合がある。)及びこの液体中のポリアミンをアプタマと接触した状態で光学的及び電気的の少なくともいずれかの方式により検出する工程(以下、「検出工程」と言う場合がある。)を有してもよい。
【0013】
<ポリアミン>
本発明の検出方法は、液体中に含まれるポリアミンを検出対象とする。ポリアミンは、生体中に存在する化合物である。ポリアミンとしては、例えば、スペルミン、スペルミジン、プトレスシン等が挙げられる。本発明の検出方法は、これらのポリアミンの検出に好適であり、特にスペルミン及びスペルミジンの検出に好適である。本発明の検出方法における検出対象のポリアミンは、スペルミン及びスペルミジンからなる群から選ばれる少なくとも1種類が好ましい。
【0014】
本発明の検出方法が高感度であることから、検出対象のポリアミンは、唾液や血液等の体液や排泄物中に含まれるポリアミンが好ましく、唾液に含まれるポリアミンが特に好ましい。本発明の検出方法における試料準備工程では、スペルミン及びスペルミジンの少なくともいずれかを含有する液体を準備することが好ましい。
試料準備工程では、唾液や血液等の体液や排泄物を含む液体を準備することが好ましく、唾液を含む液体を準備することが特に好ましい。
【0015】
<アプタマとの接触>
本発明の検出方法は、ポリアミンをアプタマと接触した状態で検出する。ポリアミンをアプタマと接触させる方法は、ポリアミンを検出する際にアプタマと接触すれば、特に限定されない。好ましい具体例としては、検査対象の液体にポリアミンとアプタマの両方を含ませる方法、ポリアミンを検出する装置の検出部の、検査対象の液体と接する面の表面にアプタマを存在させる方法などが挙げられる。
また、ポリアミンに対するアプタマの量は、ポリアミンの検出感度がアプタマの存在により向上すれば限定されない。
【0016】
検査対象の液体にポリアミンとアプタマの両方を含ませる方法は、ポリアミンとアプタマを含む液体の調製方法は特に限定されない。ポリアミンを含む液体にアプタマを添加してもよく、ポリアミンを含む液体とアプタマを含む液体を混合してもよい。
ポリアミンを検出する装置の検出部の、検査対象の液体と接する面の表面にアプタマを存在させる場合は、ポリアミンをこれに接触させる。この場合、ポリアミンを検出する際にアプタマと接触すれば、特に限定されない。
【0017】
ポリアミンの検出工程は、通常、光学的及び電気的の少なくともいずれかの方式により行うことができる。電気的方式で検出する場合、検出部が備える電極(例えば、ゲート電極等)等の表面にアプタマを固定させておいてもよい。アプタマは、電極に直接固定させてもよく、後述するリンカーを介して固定させてもよい。また、アプタマは、必ずしも検出部に固定させずとも、検出対象の液体と接触した際に、該液体に接触できるように検出部内に存在させておいてもよい。
ポリアミンをアプタマと接触させる際は、ポリアミンを含む液体の全量をアプタマと接触させてもよいが、精度を向上させる観点から、滴下等により少量ずつ接触させることが好ましい。
【0018】
<検出工程(光学的方式)>
ポリアミンの検出工程を光学的方式で行う場合は、液体中のポリアミンをアプタマと接触した状態で光学的に検出できれば特に制限されない。検出工程を光学的方式で行う場合は、通常、ポリアミンとの接触により吸光度が変化する物質を用いることができる。また、吸光度の変化についても公知の方法により測定できる。
例えば、特定波長の吸光度の変化を測定する方法等が挙げられる。この場合、検出工程は、通常、ポリアミンを含む液体に光を照射する工程、及びポリアミンを含む液体を透過通過した光を検知測定する工程を有する。この特定波長は、吸光度が変化する物質とポリアミンの種類の組合せに応じて適宜変化する波長とすればよい。例えば、後述するヘミンを用いる場合、通常414nmにおける吸光度の変化を測定することにより、ポリアミンを検出できる。
【0019】
ポリアミンの検出は、ポリアミンがポルフィリン化合物と接触した状態で行うことが好ましい。そして、ポリアミンの検出は、ペルオキシダーゼ活性により吸光度が変化する物質の存在下で行うことが好ましい。これについては、以下のように推定される。
アプタマとポルフィリン化合物が存在すると、アプタマとポルフィリン化合物との複合体が形成される。この複合体により、過酸化水素を酸化還元することができる(ペルオキシダーゼ活性の発現)。ポリアミンは、アプタマと相互作用することによりアプタマのG-quadruplex構造を安定化させ、ポルフィルン化合物と複合体を形成してペルオキシダーゼ活性が発現することを促進する。ポリアミンは、この酸化還元反応の触媒として機能するとも言える。
【0020】
酸化還元反応により吸光度が変化する物質(以下、「吸光度変化物質」と言う場合がある。)の存在下で過酸化水素の酸化還元反応を行うと、ペルオキシダーゼ活性を検出できる。酸化還元反応により蛍光を発する物質(以下、「蛍光発生物質」と言う場合がある。)、酸化還元反応により発光強度が変化する物質(以下、「発光変化物質」と言う場合がある。)を用いることにより、ペルオキシダーゼ活性を利用してポリアミンを検出できる。以下、吸光度変化物質、蛍光発生物質、発光変化物質を纏めて「吸光度変化物質等」と言う場合がある。
【0021】
吸光度変化物質等は、過酸化水素の酸化還元反応により吸光度が変化する物質であれば、特段制限されない。例えば、2,2’-アジノビス[3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸]ジアンモニウム塩(ABTS)、オルト-フェニレンジアミン2塩酸塩(OPD)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)、OxiRed、Fe(CN)64-等を用いることができる。蛍光変化物質は、例えばAmpliteTM ADHP、Amplex Red等を用いることができる。
【0022】
ポルフィリン化合物としては、例えば、プロトポルフィリンIX、ヘム、ヘミン、亜鉛プロトポルフィリン、マグネシウムプロトポルフィリン、ヘマトポルフィリン、ベンゾポルフィリン、メタロポルフィリン、5-アミノレブリン酸、テキサフィリン、クロリン、プルプリン、バクテリオクロリン、フタロシアニン、ナフタロシアニン及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0023】
ポルフィリン化合物の分子量、サイズ、芳香環の平面性、細胞透過性の点から金属ポルフィリンが好ましく、嵩高くならない側鎖を有する金属ポルフィリンが更に好ましい。その理由としては、補欠分子族である金属ポルフィリンが、Gカルテット面を有するアプタマに配位した状態で、更に過酸化物を配位する空間が確保されやすく、ペルオキシダーゼ活性が発現しやすいことが考えられる。ポルフィリン化合物としては、へミンが特に好ましい。
【0024】
ポリアミンを吸光度変化物質等と接触させる方法は、検出工程で、ポリアミンを光学的方式で検出する際に接触していれば、特に限定されない。上述のポリアミンをアプタマと接触させるときに同時に接触させてもよいし、先に吸光度変化物質等と接触させてからアプタマと接触させてもよいし、先にアプタマと接触させてから吸光度変化物質等と接触させてもよい。
ポリアミンに対する吸光度変化物質等の量は、過酸化水素の酸化還元反応において吸光度を変化させられれば限定されない。
【0025】
<検出工程(電気的方式)>
ポリアミンの検出工程を電気的方式で行う場合は、検出工程において、液体中のポリアミンをアプタマと接触した状態で電気的に検出できれば特に制限されない。電気的方式での検出は、通常、電圧や電流等がポリアミンの存在により変化する液体について行う。電圧や電流等の変化についても、公知の方法により測定できる。
【0026】
ポリアミンの電気的方式での検出工程は、例えば、ポリアミンとの相互作用によりG-quadruplex構造が安定化したアプタマとポルフィリン化合物とで作られる複合体が触媒するによる反応によって電荷の移動が生じる系などにより行うことができる。この場合、アプタマは、電極とポルフィリン化合物との距離を小さくすることができると推定される。
他にも、ポルフィリン化合物などのポリアミンと酸化還元反応する物質とポリアミンとの反応によって電荷の移動が生じる系などにより行うことができる。この場合、アプタマは、電極と、ポリアミンと酸化還元反応する物質との距離を小さくすることができると推定される。
【0027】
ポリアミンの存在によって電気的特性が変化する別の系としては、後述するように、アンバイポーラ特性を有するナノカーボン等を電極に用いた系または電極に積層させた系が挙げられる。ナノカーボンの種類は、アンバイポーラ特性を有していれば特段制限されない。移動度の観点からグラフェンが好ましい。
ポリアミンをナノカーボンと接触させる方法は、ポリアミンを電気的方式で検出する際に接触していれば、特に限定されない。上述のポリアミンをアプタマと接触させるときに同時に接触させてもよいし、先にナノカーボンと接触させてからアプタマと接触させてもよいし、先にアプタマと接触させてからナノカーボンと接触させてもよい。
【0028】
<検出感度>
本発明の検出方法は、ポリアミンをアプタマと接触した状態で検出することにより、高感度に検出できる。具体的には、検出感度の下限は通常1×10-6mol/dm3であり、1×10-7mol/dm3であってよく、1×10-9mol/dm3であってよく、1×10-10mol/dm3であってよい。検出感度の上限は、特段制限されないが、通常5×10-3mol/dm3であり、2×10-3mol/dm3であってもよく、1×10-3mol/dm3であってもよい。非侵襲の簡易検査の場合には、検体に含まれる夾雑物の影響の除外のための希釈などを考慮し、上限は10×10-4~5×10-5mol/dm3が好ましい。
【0029】
本発明の検出方法は、ポリアミンの種類に応じて適切なアプタマ等の組合せを選択することにより、各ポリアミンの種類ごとに検出できる。また、本発明の検出方法は、光学的変化及び電気的変化の程度に応じて各ポリアミンの定量方法にも適用することができる。
唾液に含まれるスペルミンやスペルミジン等のポリアミンの量は、通常1×10-6~1×10-5mol/dm3である。尿に含まれるスペルミンやスペルミジン等のポリアミンの量は、通常1×10-8~1×10-7mol/dm3である。唾液や尿中のポリアミンを分析する場合、唾液や尿に含まれるポリアミン以外の夾雑物などによる影響を除くために、通常、唾液や尿を10~100倍程度に希釈してから分析する。本発明の検出方法は、唾液や尿等を用いたガンの診断等に適用できると考えられる。
【0030】
<その他の工程>
本発明の検出方法は、上述の試料準備工程及び検出工程以外の工程を有してもよい。このようなその他の工程としては、上述の試料導入工程により装置内に導入された液体試料を保持する試料保持工程、試料保持工程で保持された液体試料に光を照射する照射工程及び液体試料を通過した光を測定する測定工程等が挙げられる。この場合、上述の液体中のポリアミンを検出する検出工程が照射工程と測定工程を有しているとも言える。
【0031】
<ポリアミンの検出装置>
本発明のポリアミンの検出装置(以下、「本発明の検出装置」と言う場合がある。)は、液体中に含まれるポリアミンを、アプタマと接触した状態で検出できる。本発明の検出装置は、検出装置にポリアミンを含む液体を導入する試料導入部と、液体中のポリアミンを検出する検出部とを備え、前記検出部でアプタマに接触した状態のポリアミンを、光学的及び電気的の少なくともいずれかの方式により検出できる。
本発明の検出装置は、光学的方式の検出装置(以下、「光学的検出装置」と言う場合がある。)が好ましい。以下、光学的検出装置について説明する。
【0032】
<光学的検出装置>
光学的検出装置は、アプタマと接触した状態のポリアミンを光学的に検出できれば、特段制限されない。具体的には、例えば、上述の吸光度変化物質を用いる場合については、上述の試料導入部から装置内に導入された液体試料を保持する試料保持部、試料保持部に保持された液体試料に光を照射する照射部及び液体試料を通過した光を測定する測定部等を備える装置が挙げられる。この場合、上述の液体中のポリアミンを検出する検出部が照射部と測定部を有していることになる。
【0033】
試料保持部は、液体試料を保持して、その光学的物性を測定することができれば、特段制限されない。具体的には、例えば、液体試料を保持する容器状でもよいし、また、板状や凹み状でその上に液体試料を保持できる形状などもよい。試料導入部に光を照射する場合は、試料導入部が試料保持部を兼ねていてもよい。液体試料が唾液である場合、例えば、被検者が検体保持部を口で咥え、そこに唾液を付着させる態様とすることもできる。
【0034】
光学的検出装置は、検出部でアプタマに接触した状態のポリアミンによる光学的物性を測定する。光学的検出装置は、ポリアミンとアプタマを含む液体を導入できる構造になっている試料導入部またはアプタマを導入できる構造になっている試料保持部の少なくともいずれかを備えていることが好ましい。
【0035】
照射部は、液体試料に光を照射することができれば、特段制限されない。照射光は、アプタマに接触した状態のポリアミンの存在により、吸光度が変化する波長の光を用いる。
吸光度変化物質、ポリアミンとアプタマの種類やその組合せ等に応じて、吸光度が変化する波長の光を照射できればよい。例えば、吸光度変化物質としてABTSを用いる場合、414nmの波長を有する光を照射できることが好ましい。また、光源は、所望の波長の光を照射できれば特段制限されず、例えば、ハロゲンランプ、タングステンランプ、キセノンランプ、LED、レーザー等を用いることができる。
【0036】
測定部は、液体試料を通過した光を測定することができれば特段制限されない。そして、吸光度は、照射光強度と透過光強度との比から算出できる。また、この吸光度の強度から液体試料中のポリアミンの量を定量できる。
【0037】
<アプタマ>
アプタマは、検出対象のポリアミンの検出感度を向上させることができれば、その種類は限定されない。
アプタマは、標的の分子に対して特異的に結合する核酸分子である。アプタマは、ヌクレオチド残基をその構成単位とする。ヌクレオチド残基としては、例えば、リボヌクレオチド残基、デオキシリボヌクレオチド残基等が挙げられる。
【0038】
アプタマの核酸分子は、例えば、リボヌクレオチド残基から構成されるRNAでもよく、デオキシリボヌクレオチド残基から構成されるDNAでもよく、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの両方を含む核酸分子でもよい。核酸分子は、一本鎖核酸でもよいし、二本鎖核酸でもよい。一本鎖核酸としては、例えば、一本鎖RNA、一本鎖DNA等が挙げられる。二本鎖核酸としては、例えば、二本鎖RNA、二本鎖DNA、RNAとDNAとの二本鎖核酸等が挙げられる。核酸分子は、一本鎖核酸が好ましい。核酸分子において、各塩基は、例えば、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)及びウラシル(U)の天然塩基(非人工核酸)でもよいし、人工塩基(非天然塩基)でもよい。
【0039】
人工塩基は、例えば、修飾塩基及び改変塩基等が挙げられる。人工塩基は、天然塩基(A、C、G、TまたはU)と同様の機能を有する塩基が好ましい。天然塩基と同様の機能を有する人工塩基としては、例えば、グアニン(G)に代えてシトシン(C)に結合可能な人工塩基、シトシン(C)に代えてグアニン(G)に結合可能な人工塩基、アデニン(A)に代えてチミン(T)またはウラシル(U)に結合可能な人工塩基、チミン(T)に代えてアデニン(A)に結合可能な人工塩基、ウラシル(U)に代えて、アデニン(A)に結合可能な人工塩基等が挙げられる。
本発明において、A、G、C、T及び/またはUで表わされる塩基は、天然塩基である場合のみならず、各天然塩基と同様の機能を有する人工塩基も含む。
【0040】
修飾塩基は、例えば、メチル化塩基、フルオロ化塩基、アミノ化塩基、チオ化塩基等が挙げられる。修飾塩基の具体例としては、例えば、2’-フルオロウラシル、2’-アミノウラシル、2’-O-メチルウラシル、2-チオウラシル等が挙げられる。
本発明の検出方法及び本発明の検出装置においては、合成上及び安定性などの観点から、DNAアプタマ(A、T、C、G)が好ましく、Gカルテット面を有するG-quadruplexがより好ましい。また、立体的な変調を起こす可能性がある各種修飾を有さない系が好ましい。
【0041】
特に、高いペルオキシダーゼ活性を得るには、後述する補欠分子族とより安定な相互作用(配位)ができるアプタマ、具体的には、G-quadruplex構造をとるGカルテット面を有するアプタマと、そのアプタマにより安定(高速)にパーオキサイド付加物を生成できる可能性を有する金属錯体を有することが好ましい。
【0042】
G-quadruplex(グアニン四重鎖構造:G4)に関しては、テロメア部位中のGリッチな配列が精力的に研究されている。このGリッチな配列は、G-quadruplexと呼ばれる四重鎖DNA構造を形成できる。G-quadruplexには、四本のDNA鎖の全ての5’から3’への方向が同じ方向を向いているパラレル型と呼ばれるものや、二本は同じ方向を向いているが残りの二本は反対方向を向いているアンチパラレル型と呼ばれるものなど複数のパターンがある。
【0043】
G-quadruplexは、
図1に示すような特徴を有している。
図1に示すように、4つのG塩基がフーグスティーン型の水素結合を介してGカルテットと呼ばれる構造を形成している。さらにこのGカルテット面同士がπ-πスタッキング相互作用することによって構造を保持している。
【0044】
図1においては、Gリッチな配列を有するアプタマ21とポルフィリン化合物22とが複合化して形成されるGカルテット構造が、ポリアミン23によって安定化している。本発明者の検討によれば、ポリアミン23の非存在下であっても、アプタマ21とポルフィリン化合物22とが複合化して形成されるGカルテット構造は、微量のペルオキシダーゼ活性を示すことがある。
そして、
図1に示すように、ポリアミン23の存在下では、アプタマ21がポリアミン23と相互作用することによりG-quadruplex構造が安定化する。その結果、ポリアミン23の存在下では、ペルオキシダーゼ活性がポリアミン23の非存在下と比較して促進される。このペルオキシダーゼ活性によれば、過酸化水素の還元反応が促進される。よって、過酸化水素の酸化還元反応において吸光度が変化する吸光度変化物質等を用いれば、吸光度や色が変化する。吸光度や色の変化を評価することにより、唾液中のポリアミンの量を光学的に検出できる。また、この酸化還元反応及びこれに付随する反応により生じた電荷の変化を評価することにより、唾液中のポリアミンの量を評価できる。
【0045】
Gリッチな配列を有するアプタマにおいては、GGGやGGなどのGを連続する部分の間にA、C、Tを配列することにより、Gの連続部位への適切な距離をもたらし、後述のペルオキシダーゼ活性を向上させることもできる。また、部分的に二重鎖となる部分が生じて(ループ)、その空間的位置によっては、目的となるペルオキシダーゼ活性を低下させる場合もあるため、アプタマの配列の中でGの連続する数と順番、G以外の配列をどのような配列を選択するかが検出感度に重要である。したがって、アプタマの分子量(塩基数)は、適切な範囲であることが好ましい。具体的には、6~30塩基が好ましく、特に光学的方式により検出を行う場合は、11~25塩基がより好ましい。
【0046】
アプタマとしては、光学的検出にも電気的検出にも適用できることから、下記の配列1を有するアプタマが好ましい。
配列1:5’-GTGGG(NN)GGG(NN)GGG(NNN)GGN-3’
但し、Nは、それぞれ独立して、A、C、G、T又は塩基がないことを意味する。
【0047】
ポリアミンの選択性がよく、かつ、高感度で検出できる点から、アプタマとしては、下記の配列1A、下記の配列1Bまたは下記の配列1Cのアプタマがより好ましい。
配列1A:5’-GTGGGTAGGGCTGGGTTGG-3’
配列1B:5’-GTGGGTGGGCGGGTTGG-3’
配列1C:5’-GTGGGTAGGGCGGGTGGA-3’
【0048】
G-quadruplexの構造形成にはG-カルテット面とG-カルテット面との間において、以下で説明するように、金属イオンの配位が必要であり、カリウムイオンやナトリウムイオンなどが配位する。
【0049】
G-quadruplexには、種々の多芳香環化合物が配位する。特に、ヘムたんぱく質やヘム酵素等によるペルオキシダーゼ活性のメカニズムを利用できる観点から、そのペルオキシダーゼ活性に有利な、より平面性がよく、多環の分子全体のサイズがG-quadruplexのGカルテット面に効率よくπ-πスタッキングでき、中心金属にO22-パーオキサイドが付加したものから高原子価金属オキソ種が生成する補欠分子族が好ましい。
【0050】
例えば、中心金属としては、Fe2+、Ni2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、Zn2+等が好ましい。なかでも、複数の価数下において、D4h構造とアキシャル位に配位を有するものがより好ましい。例えば、サレンマンガン錯体やポルフィリン鉄錯体等などがある。芳香環の平面性と多環分子全体のサイズ、さらに細胞透過性などから金属ポルフィリンが好ましく、できるだけ嵩高くならないような側鎖を選択することが好ましい。なぜならば、補欠分子族である金属錯体がG-quadruplexとの複合の結果、十分なペルオキシダーゼ活性を獲得するためには、Gカルテット面の構成物を配位し、さらに、過酸化物を配位するだけの上下のスペースが必要であるからである。
【0051】
<特定範囲のカリウムイオンの濃度と特定配列のアプタマとの組み合わせによる、高感度ポリアミン検出に向けたペルオキシダーゼ活性の発現方法>
前述のように、G-quadruplexの構造形成には、G-カルテット面とG-カルテット面との間において金属イオンの配位が必要である。G-カルテット面及びG-カルテット間の空間サイズと金属イオンのイオン半径、電荷は、G-quadruplex構造と金属イオンの配位の結合定数との相関がある。
【0052】
なお、ナトリウムイオンよりはカリウムイオンの系内への影響が大きいと考えられる。このことは、ナトリウムイオンではイオン半径がやや小さいことにより、また、ルビジウムイオンやセシウムイオンではイオン半径が大きいことにより、安定な配位ができない傾向にあると考えられるからである。そして、カリウムイオンが特に、以下で説明するような、G-quadruplex構造にある程度の自由度を許容する機能を有する可能性があると考えられる。
【0053】
かかるG-quadruplex構造にある程度の自由度を許容する機能とは、以下の理由により必要とされる機能である。本発明者の鋭意検討の結果、ペルオキシダーゼ活性が高いG4-へミン複合体は、ポリアミンが系内に共存しない場合にもその活性を獲得する傾向があり、したがって、ポリアミンの存在下と非存在下での着色量の差(以下で吸光度の差と称す場合がある。)が充分に得られない恐れがある。
なるべく複雑で高価な検出系を用いない場合、ポリアミン濃度のorder estimationは従来法でも可能ではある。しかし、本発明者の知見によれば、例えば、10μmol/dm3未満のような数μmol/dm3未満の濃度範囲で、1μmol/dm3の濃度差を検出することは従来法では難しい場合がある。
【0054】
そこで、本発明者は、ポリアミンが存在しない状態で、ペルオキシダーゼ活性の発現に理想的なG-quadruplex構造をあえて形成しにくい反応系を構築することで、検出対象であるところのポリアミンのアシストにより、ペルオキシダーゼ活性を発現しやすくなるようなG-quadruplex―へミン複合体を形成することに想到し、本発明を完成した。
具体的には、グアニンのカルボキシル基に配位するカリウムイオンの存在により、ペルオキシダーゼ活性が発現しやすいG-quadruplex―へミン複合体を形成する。
【0055】
特定の配列とカリウムイオン濃度とを組み合わせることにより、前述の「広い検出感度マージン」を実現でき、簡易検査を実現し得ることがわかった。かかるアプタマとカリウムイオンとが相互作用することにより、結果的にG-quadruplex―へミン複合体が形成され、ペルオキシダーゼ活性が促進される。
【0056】
G-quadruplex―へミン複合体を形成するタイミングはいくつかあり特に限定されない。アプタマをfoldingする工程において、G-quadruplex―へミン複合体を形成することが好ましい。
【0057】
本発明者のさらなる検討により、かかるアプタマの特定の配列と特定の濃度範囲のカリウムイオンとを組み合わせることにより、簡易検出系での検出に耐えうるポリアミン検出感度を実現できることを見出した。ポリアミンの有無におけるペルオキシダーゼ活性の差による着色量の差を確保しうるアプタマは、円二色性スペクトルにおいてその特徴をパラメータ化できる可能性がある。
【0058】
円二色性スペクトルにおいては、G-quadruplexは種々の構造を取りうる。少なくとも
図2~
図7に示す種類の構造がある。平面芳香族性構造のへミンがあればパラレル構造であろうとこれまで考えられてきた。しかし、もともとG-quadruplexはテロメア部の末端に結合しており、70万超のG-カルテット構造により生体内の様々な機能の制御に関わっている。前記円二色性スペクトルによれば、G-カルテットが複合化したG-quadruplexの様々な構造の知見が得られる。
【0059】
本発明者は、前述のカリウム濃度によるポリアミンによるペルオキシダーゼ活性の発現を促進することの他に、ペルオキシダーゼ活性のポリアミンによる抑制があることも見出した。この抑制効果を実現することにより、特にスペルミンとスペルミジンの選択性が得られると考えられる。
カリウムイオン濃度の効果は、前述のような、ペルオキシダーゼ活性の着色量の光学検出の代わりに、ペルオキシダーゼ活性を、発光変化物質であるルミノール発光で検出することも顕著である。本発明においては、ポリアミンが系内に存在しないときのペルオキシダーゼ活性を抑え込むことが可能となった。そのため、バックグラウンドが低減する。結果、ルミノールを添加しての自発光検出方法を用いてのnM濃度域のポリアミンの検出が可能となる。よって、工程が多い修飾や大がかりな設備を要する質量分析装置を代替可能な簡易検出法が提供され得る。
【0060】
本発明におけるカリウムイオン濃度は、着色量の変化を検出する場合には0.1~50mmol/dm3が好ましい。本発明の特定の配列のアプタマとの組み合わせで特に、簡易な設備での検出を目指す場合においては、0.5~10mmol/dm3が好ましい。
カリウムイオン濃度は、自発光を検出する場合には着色量の変化を検出する場合よりも低濃度域のカリウムイオン濃度が好ましく、その範囲は0.1~10mmol/dm3が好ましく、1~10mmol/dm3がより好ましい。
本発明の特定の配列のアプタマとの組み合わせで測定時間を3分以内など、簡易迅速な検出を目指す場合においては、カリウムイオン濃度は5~10mmol/dm3が好ましい場合がある。
【0061】
<酸化還元反応の呈色>
コンジュゲートとして、標的物質に結合することによりG4DNAzymeがG4DNAzyme/ヘミン複合体を形成可能となる。このように、核酸、タンパク質若しくはペプチドまたはリガンド化合物と、G4DNAzymeとが結合しているコンジュゲートを用いることができる。ポルフィリン化合物とコンジュゲートとの接触は、好ましくは緩衝液中、20℃~30℃、静置または撹拌条件下で、数分間~数日間行われる。
その後、特定のカリウム濃度の緩衝液中(pH7.5~8.5)、90~98℃で1~10分間熱処理した後(前述のfoldingする工程)、20~30℃まで15~40分かけて冷却することにより、G―quadruplexを形成させてもよい。ヘミンとの接触は、得られたサンプル接触済みコンジュゲートにヘミン溶液を添加し、20~30℃で20~60分静置することにより行うことができ、これによりDNA(G4DNAzyme)/ヘミン複合体を形成できる。形成したG4DNAzyme/ヘミン複合体の測定または検出には、ヘミンの酸化作用を利用できる。
【0062】
G4DNAzyme/ヘミン複合体の検出には、例えば、G4DNAzyme/ヘミン複合体が結合している導電性電極の電位を利用できる。ヘミンは、電極上の電子を奪って還元状態となり、過酸化水素を還元して酸化状態に戻る。
この際、
図1に示すように、過酸化水素(H
2O
2)Wは、水(H
2O)Xへ還元される。例えば、微分パルスボルタンメトリにおいて、基準電極に対するピーク陰極電流が検出された場合、G4DNAzyme/ヘミン複合体の存在が検出されたことを意味する。また、微分パルスボルタンメトリにおいて、基準電極に対するピーク陰極電流の強さは、G4DNAzyme/ヘミン複合体の存在量の指標とすることができる。ピーク陰極電流の強さからG4DNAzyme/ヘミン複合体のレベルを測定できる。
【0063】
G4DNAzyme/ヘミン複合体の検出には、G4DNAzyme/ヘミン複合体のペルオキシダーゼ活性を利用してもよい。この方法では、反応処理後の溶液をペルオキシダーゼの基質と反応させて、当該基質の発色などを検出する。色素の発色が検出された場合、G4DNAzyme/ヘミン複合体の存在が検出されたことを意味する。また、色素の発色の強度は、G4DNAzyme/ヘミン複合体の存在量の指標とすることができる。
色素の発色の強度からG4DNAzyme/ヘミン複合体のレベルを測定できる。当該基質の発色は、G4DNAzyme/ヘミンが存在することを意味し、発色の程度がG4DNAzyme/ヘミン存在量の指標となる。ペルオキシダーゼの基質は多数知られている。
例えば、3,3’,5,5’-Tetramethylbenzidine(TMB)、3,3’-Diaminobendizine(DAB)、及びDAB10-Acetyl-3,7-dihydroxyphenoxazineなどの色素前駆体が挙げられる。
【0064】
光学的方式で検出を行う場合、前述のペルオキシダーゼ活性による過酸化水素の還元により呈色する色素前駆体の吸光度は、例えば、後述する実施例では、390nm、410nm、550nm、650nmの付近で増加する。この吸光度の変化は、スマートフォンなどのLEDバックライト光源に使われている405nm、450nmまたは650nmの発光バンドを光源として照射し、輝度や色調を色温度やRGBコード化するソフトを用いて数値化してもよいし、透過光をCMOSやフォトダイオードなどに受光させてその光の強度をモニターしてもよい。
また、電気的方式で検出を行う場合、例えば、特定の半導体や特定の電極などの基体の上にリンカーを介すなどしてアプタマを固定し、検体を滴下し、その中に含まれるスペルミンやスペルミジンにより生じる電荷を半導体の電界効果によって電流-電圧曲線のシフトによる、等電圧での電流変化などを検出することで検出を行うことができる。
【0065】
<ポリアミンの検出試薬>
本発明のポリアミンの検出試薬は、Gリッチな配列を有するアプタマと、ポルフィリン化合物と、カリウムイオンとを含む。Gリッチな配列を有するアプタマ、ポルフィリン化合物、カリウムイオンの詳細及び好ましい態様は、上述の各項で説明した通りである。
【0066】
本発明のポリアミンの検出試薬は、アプタマとポルフィリン化合物とが複合化して形成されるGカルテット構造により少なくとも発現するペルオキシダーゼ活性がポリアミンの非存在下で抑制された時と、ポリアミンの存在下で増幅された時との間での差をカリウムイオンの存在下で検出することを特徴とする。すなわち、本発明のポリアミンの検出試薬は、Gリッチな配列を有するアプタマと、ポルフィリン化合物と、カリウムイオンとを含み、このアプタマとポルフィリン化合物とが複合化して形成されるGカルテット構造により発現するペルオキシダーゼ活性のポリアミンの有無による差を検出する。ここで、ペルオキシダーゼ活性の差の測定法の詳細及び好ましい態様は、上述の通りである。
【0067】
本発明のポリアミンの検出試薬は、色素前駆体及び化学発光試薬からなる群から選ばれる少なくとも1種類をさらに含んでもよい。例えば、へミンに代表される金属ポルフィリン化合物;過酸化水素、ABTSに代表される呈色色素や色素前駆体;ルミノールで代表される化学発光試薬が挙げられる。これらは互いに共存してもよく、少なくとも一部が別々に、例えば、試験紙などにあらかじめしみ込ませておいてもよい。
【0068】
以上本発明の一例について説明したが、本発明は本明細書に開示の実施形態例に限定されず、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。本明細書に開示の実施形態は、その他の様々な形態で実施可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更が可能である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0070】
<ポリアミン>
スペルミン;ナカライテスク社製品。
スペルミジン;ナカライテスク社製品。
【0071】
<吸光度測定>
プレートリーダー(Multiskan Sky T,ThermoFisher Scientific社製品、あるいは、MPRA-100(アズワン社製品))を用いて、それぞれ、414nmと405nmの吸光度を測定した。
【0072】
<実施例A>
[アプタマ]
実施例Aで使用したアプタマを表1に示す。なお、表1中の配列番号6のアプタマ配列の(I)は、イノシンである。
【0073】
【0074】
[試料液の準備]
水に、NaH2PO4/Na2HPO4の合計が10mmol/dm3、塩化カリウムが0mmol/dm3、1mmol/dm3、10mmol/dm3、50mmol/dm3または100mmol/dm3の各濃度に、塩化マグネシウムが2mmol/dm3、及びTriton X-100(非イオン性界面活性剤)が0.003体積%となるように添加することにより、pH7.0の水溶液をそれぞれ調製した。
この水溶液に、表1に記載した各アプタマをウェル中で100μLにしたときに2μmol/dm3となるように加えた。続いて、95℃で10分間温浴により加熱した後、4℃の冷蔵庫で15分間冷却し、その後室温(25℃)で15分間静置することにより、アプタマ水溶液を調製した。このアプタマ水溶液95μLを96ウェルプレートの1つのウェルに入れた。
スペルミン、スペルミジン、またはプトレスシンを、10mmol/dm3のTris-HCl水溶液(pH7.0)を用いて、種々の濃度の水溶液(以下、両者を合わせて「ポリアミン水溶液」と言う場合がある。)を調製した。
【0075】
アプタマ水溶液を入れたウェルに、ポリアミン水溶液を2μL添加し、10秒間振とうした。ヘミン溶液(Dimethyl sulfoxideで100μmol/dm3に調製したもの)を1μL、40mmol/dm3のABTS(2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)水溶液(上述のpH7.0の水溶液を用いて調製したもの)を1μL、60mmol/dm3のH2O2水溶液(上述のpH7.0の水溶液を用いて調製したもの)を1μL添加し、10秒間振とうし、反応を促した。
【0076】
[ポリアミンの検出]
プレートリーダー(Multiskan Sky T,ThermoFisher Scientific)を用いて、ウェル中の試料液の414nmにおける吸光度を1分おきに測定し、11分後の吸光度をシグナルとした。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
図8、
図9、
図10は、Oligo5-12-2を用いて測定したときのスペルミン(
図8)、スペルミジン(
図9)、及びプトレスシン(
図10)に対する吸光度変化を示す。
表2は、Oligo5-12-2を用いたときのスペルミンの各濃度に対する吸光度の測定結果を示す。表3は、Oligo5-12-2を用いたときのスペルミジンの各濃度に対する吸光度の測定結果を示す。表4は、Oligo5-12-2を用いたときのプトレスシンの各濃度に対する吸光度の測定結果を示す。
【0081】
塩化カリウムの濃度が0から10mmol/dm
3まで増加するのに伴いスペルミンに対する応答強度は増加し、50mmol/dm
3以上では減少した(
図8)。この結果から、Oligo5-12-2においては、塩化カリウム濃度は10mmol/dm
3が最適であることが分かった。一方、Oligo5-12-2はスペルミジン、プトレスシンに対しては塩化カリウム濃度への依存性がなく、また、応答がほとんどなかった(
図9、10)。
以上の結果から、Oligo5-12-2はスペルミンに対する選択性を有することが示された。
【0082】
表1に示す各種のアプタマについて、同内容の実験をした。それぞれの最適塩化カリウム濃度においてスペルミン、スペルミジン、プトレスシンに対する吸光度変化を測定した結果を
図11、
図12、
図13に示す。また表5、表6、表7には各基質濃度に対する吸光度をまとめた。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
いずれのアプタマにおいても、塩化カリウム濃度は1mmol/dm3または10mmol/dm3が最適であった。また、いずれのアプタマの選択性に関しても塩化カリウムへの依存性がなく、スペルミン選択性を示すことが分かった。特にOligo5-12-2とOligo347-7-2はスペルミンに対する吸光度の変化量が大きく、この中では最適な配列といえる。
【0087】
<実施例B>
[アプタマ]
実施例B1~B5及び比較例B1~B2で使用したアプタマを表8に示す。
【0088】
【0089】
[実施例B1]
実施例Aにおいて、以下の表8の配列番号8のアプタマを用い、塩化カリウム濃度を0mmol/dm
3、10mmol/dm
3、100mmol/dm
3の3種類で調製し、アプタマ水溶液95μLを47.5μLとし、スペルミン、スペルミジン液を終濃度10μmol/dm
3とし、40mmol/dm
3のABTS(塩化カリウム濃度0mmol/dm
3のバッファー水溶液で調製したもの)を4μLとし、60mmol/dm
3のH
2O
2水溶液(塩化カリウム濃度0mmol/dm
3のバッファー水溶液で調製したもの)2μLずつ滴下し、プレートリーダー内に設置して10秒間振とうし、3分後及び8分後に405nmの吸光度を測定した以外は同様に試料液の調製と測定を行った。結果を表9、
図14に示す。
【0090】
【0091】
表9は各ポリアミンの存在下(終濃度10μmol/dm
3)における405nm吸光度の変化量(混合後3分後、8分後)を示す。
図14は、カリウムイオン濃度を変更したとき、各ポリアミンの存在下(終濃度10μmol/dm
3)における405nm吸光度の変化量(混合後3分)を示す。
表9、
図14に示すように、ポリアミンと検出試薬の混合後3分で、スペルミンにおいて特にカリウム濃度10mmol/dm
3近傍で吸光度変化が最大となった。このように、ペルオキシダーゼ活性が最大に発現されることを示す傾向がカリウム濃度10mmol/dm
3近傍で顕著となった。さらに反応が進行すると、8分後には表9に示すように、カリウム濃度10mmol/dm
3近傍で吸光度変変化のピークとなる傾向が維持された。
この結果から、(1)ポリアミン有無での吸光度変化の大きさは、カリウムイオン濃度により大きく変わること、(2)かかる吸光度変化を最大にするカリウム濃度の範囲があること、(3)当該範囲を超える量のカリウム濃度の場合には、ペルオキシダーゼ活性がポリアミンによりかえって抑制されることが示唆された。特に、実施例B1においては、カリウム濃度50mmol/dm
3近傍で吸光度が小さくなり、この領域で、スペルミンの検出選択性が増強されている。
【0092】
例えば濃度不明のポリアミンを検出する場合に、ポリアミンの有無による吸光度変化が大きければ、検出濃度マージンを十分広くとることが可能となる。このため、カリウム濃度を最適な範囲内とすることで、大掛かりな検出デバイスを必要としない、簡易検査器での検査を実現できる可能性がある。
【0093】
[実施例B2~B5]
実施例B1のアプタマを表8の通り変更し、塩化カリウム濃度を5mmol/dm3に変更し、ポリアミン(スペルミン、スペルミジン)を終濃度1μmol/dm3、5μmol/dm3、10μmol/dm3の3種類を調製した以外は、実施例B1と同内容の実験にて吸光度を測定した。これらのポリアミンの終濃度では、ペルオキシダーゼ活性の着色変化で検出した報告例がない。このような濃度範囲内でのポリアミンの検出は、きわめて高感度の検出である。その検出結果を表10、表11に示す。
【0094】
【0095】
【0096】
表10は各例でポリアミンを混合してから3分後の吸光度の変化量を示す。表11は各例でポリアミンを混合してから8分後における各終濃度のポリアミンの存在下での吸光度の変化量を示す。カリウムイオン濃度は、いずれの表でも5mmol/dm3である。
【0097】
検出器の精度、測定誤差を考慮すると、本実施例では吸光度変化が0.06以上であれば充分である。例えば、スペルミン1~5μmol/dm3の間で、吸光度変化が0.24以上あれば0.1μmol/dm3のポリアミンの検出が可能と考えられる。吸光度変化は、ポリアミンの非存在下、すなわち濃度0μmol/dm3との吸光度差である。
表10、表11に示す結果から、1~10μmol/dm3のポリアミンを良好な感度マージンで検査できることが示唆された。例えば実施例B4では、1μmol/dm3以下の濃度域においてはおよそ0.3μmol/dm3の有意差を検出できると考えられる。
【0098】
[比較例B1~B2]
実施例B1において、アプタマを表8の通り変更し、カリウムイオン濃度をそれぞれ、5mol/dm3と100mol/dm3に変更した以外は同内容の実験により、吸光度を測定した。結果を表12、表13に示す。
【0099】
【0100】
【0101】
比較例B1においてはカリウム濃度が5mol/dm3である。しかし、表12、表13に示すように、各ポリアミン濃度において吸光度の変化量が小さい。そのため、高感度で精度よくポリアミンを測定することは困難である。
【0102】
比較例B2においては、カリウム濃度が100mol/dm3であると、1μmol/dm3近傍のスペルミン濃度の測定感度の確保が難しい結果であった。比較例B2でも、簡易検査を実現し得る感度マージンがなく、簡易検出器での検査が困難である。
【0103】
<実施例C>
ルミノールを用いたABTSのない系で、自発光でポリアミンを検出することを目指した。実施例C1及び比較例C1では、前述の表1の配列番号1のアプタマを用いた。
【0104】
[実施例C1]
Oligo5-1アプタマー(f.c.1μM)をリン酸バッファー(10mM NaH
2PO
4/Na
2HPO
4、1mM KCl、0.003%(v/v)Triton-X、pH7.0)中で、95℃で10分熱処理したのち、30分かけて25℃まで徐冷した。次に、96穴白色ポリプロピレンプレートに10mM Tris-HClで希釈した5μLのスペルミン(f.c.0μM、0.1μM、0.5μM、1.0μM)と熱処理をした40μLのアプタマ(f.c.30nM)を添加し、室温で10秒間振とうした。次に、リン酸バッファーで希釈したヘミン(f.c.30nM)を5μL添加し、室温で1時間振とうし、G4/ヘミンDNAzymeを形成した。その後、基質(BMchemiluminescence(POD)、Roche)を加え、G4/ヘミンDNAzymeのペルオキシダーゼ活性に基づくルミノール発光をプレートリーダーで測定した。
図15に示すようにカリウム濃度(KCl)が1mmol/dm
3であると、0.2μmol/dm
3~1μmol/dm
3のポリアミンが検出可能であった。
【0105】
[比較例C1]
カリウム濃度(KCl)を0.5mmol/dm
3とした以外は同内容の実験を行った。
図16に示すように、発光カウント数がカリウム濃度1mmol/dm
3の半分程度に減った。簡易検査を実現し得る感度マージンを確保しにくい結果であった。
【0106】
[比較例C2]
実施例C1において、カリウム濃度を100mmol/dm
3とした以外は同内容の実験を行った。
図17に示すように、スペルミンの濃度上昇に伴う発光強度の増加が小さく、本発明で求めているポリアミンの検出は可能ではあるが、スペルミンの定量が困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、ポリアミンを選択的にかつ高感度で検出でき、複雑な検出系を必要としないポリアミンの検出方法、ポリアミンの検出試薬及びアプタマが提供される。
【符号の説明】
【0108】
21 アプタマ
22 ポルフィリン化合物
23 ポリアミン
W 過酸化水素(H2O2)
X 水(H2O)
【配列表】