(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-09
(45)【発行日】2024-07-18
(54)【発明の名称】SiC基板の製造方法及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20240710BHJP
C30B 33/12 20060101ALI20240710BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20240710BHJP
C30B 33/02 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B33/12
C30B23/06
C30B33/02
(21)【出願番号】P 2021504117
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2020008966
(87)【国際公開番号】W WO2020179795
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2019040072
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019069280
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019069281
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(73)【特許権者】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】金子 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 奈都紀
(72)【発明者】
【氏名】青木 一史
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-168052(JP,A)
【文献】特開2006-036561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 33/12
C30B 23/06
C30B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC下地基板を収容可能で
ある本体容器と、前記本体容器を収容する加熱炉と、を備え、
前記本体容器は、加熱によりSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を
前記本体容器の内部空間に発生さ
せ、
前記加熱炉は、Si元素を含む気相種の蒸気圧を
前記加熱炉の内部空間に発生させるとともに温度勾配が形成されるように加熱
し、
前記本体容器は、前記SiC下地基板の片面に成長層を形成する成長空間と、前記SiC下地基板の他の片面をエッチングするエッチング空間と、を有
し、
前記成長空間は、前記SiC下地基板が前記温度勾配の低温側に配置された状態で、前記温度勾配の高温側に配置される前記本体容器の一部と、前記SiC下地基板とを相対させることで形成され、
前記エッチング空間は、前記SiC下地基板が前記温度勾配の高温側に配置された状態で、前記温度勾配の低温側に配置される前記本体容器の一部と、前記SiC下地基板とを相対させることで形成される、SiC基板の製造装置。
【請求項2】
前記本体容器は、前記SiC下地基板と前記本体容器の間に設けられる基板保持具を有する、請求項
1に記載のSiC基板の製造装置。
【請求項3】
前記加熱炉は、前記本体容器内にドーパントガスを供給可能なドーパントガス供給手段を有する、請求項
1又は2に記載のSiC基板の製造装置。
【請求項4】
前記本体容器は、多結晶SiCを含む材料で構成される、請求項
1~3の何れかに記載のSiC基板の製造装置。
【請求項5】
前記加熱炉は、前記本体容器を収容可能な高融点容器と、
この高融点容器内にSi蒸気を供給可能なSi蒸気供給源と、を有する、請求項
1~4の何れかに記載のSiC基板の製造装置。
【請求項6】
SiC下地基板の片面に成長層を形成する成長工程と、前記SiC下地基板の他の片面をエッチングするエッチング工程と、を同時に行
い、
前記成長工程及びエッチング工程は、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させる本体容器の内部にSiC下地基板を収容し、前記本体容器を、Si元素を含む気相種の蒸気圧の環境下で温度勾配が形成されるように加熱し、
前記成長工程は、前記温度勾配の低温側に配置された前記SiC下地基板と、前記温度勾配の高温側に配置された前記本体容器の一部と、を相対させて成長層を形成し、
前記エッチング工程は、前記温度勾配の高温側に配置された前記SiC下地基板と、前記温度勾配の低温側に配置された前記本体容器の一部と、を相対させてエッチングする、SiC基板の製造方法。
【請求項7】
前記成長工程は、前記成長層のドーピング濃度を前記SiC下地基板のドーピング濃度と同じにする、請求項
6に記載のSiC基板の製造方法。
【請求項8】
前記成長工程は、前記成長層のドーピング濃度を前記SiC下地基板のドーピング濃度よりも低くする、請求項
6に記載のSiC基板の製造方法。
【請求項9】
前記成長工程は、前記成長層のドーピング濃度を前記SiC下地基板のドーピング濃度よりも高くする、請求項
6に記載のSiC基板の製造方法。
【請求項10】
前記エッチング工程及び前記成長工程は、Si元素を含む気相種の蒸気圧の環境を介して排気される空間に前記SiC
下地基板を配置して加熱する工程である、請求項
6~9の何れかに記載のSiC基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地基板層が薄いSiC基板の製造方法及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、SiC半導体デバイスのオン抵抗低減等を目的として、SiC基板を薄化する技術開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「インゴットから切り出された後のSiCウエハに対して、Si蒸気圧下で加熱することで表面をエッチングするSi蒸気圧エッチングを行うことで、厚みを100μm以下まで小さくする薄化工程を含むことを特徴とする薄型のSiCウエハの製造方法」の技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、SiCウエハの表面をエッチングすることで薄型のSiCウエハを得ることができる。一方で、SiCウエハを薄化する場合には、SiCウエハの強度が低下するため、SiCウエハの変形や破損の原因となってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、変形や破損を抑制しつつ下地基板層が薄いSiC基板を製造可能なSiC基板の製造方法及びその製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様のSiC基板の製造装置は、SiC下地基板を収容可能で、加熱によりSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させる本体容器と、
前記本体容器を収容し、Si元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させるとともに温度勾配が形成されるように加熱する加熱炉と、を備え、
前記本体容器は、前記SiC下地基板の片面に成長層を形成する成長空間と、前記SiC下地基板の他の片面をエッチングするエッチング空間と、を有する。
【0008】
このように、本体容器は、SiC下地基板の片面に成長層を形成する成長空間と、他の片面をエッチングするエッチング空間と、の両方を有することにより、被処理物であるSiC下地基板の変形や破損を抑制しながら下地基板層が薄いSiC基板を製造することができる。
【0009】
この態様において、前記成長空間は、前記SiC下地基板が前記温度勾配の低温側に配置された状態で、前記温度勾配の高温側に配置される前記本体容器の一部と、前記SiC下地基板とを相対させることで形成される。
このように、SiC下地基板と本体容器と相対させて成長空間を形成することにより、水平方向の温度分布を均一に保持可能な環境で成長させることができる。これにより、熱応力歪み等が少ない成長層を形成することができる。
【0010】
この態様において、前記エッチング空間は、前記SiC下地基板が前記温度勾配の低温側に配置された状態で、前記温度勾配の高温側に配置される前記本体容器の一部と、前記SiC下地基板とを相対させることで形成される。
このように、SiC下地基板と本体容器と相対させてエッチング空間を形成することにより、機械加工を用いずにSiC下地基板をエッチングすることができる。その結果、加工ダメージにより形成される加工変質層を形成することなく下地基板層を薄くすることができる。
【0011】
この態様において、前記本体容器は、前記SiC下地基板と前記本体容器の間に設けられる基板保持具を有する。
このように、SiC下地基板と本体容器との間に基板保持具を設けることにより、容易に成長空間とエッチング空間を形成することができる。
【0012】
この態様において、前記加熱炉は、前記本体容器内にドーパントガスを供給可能なドーパントガス供給手段を有する。
このように、ドーパントガスを供給可能に構成されていることにより、成長層のドーピング濃度を制御することができる。
【0013】
この態様において、前記本体容器は、多結晶SiCを含む材料で構成される。
このように、本体容器が多結晶SiCを含む材料で構成されることにより、加熱炉によって本体容器を加熱した際に、本体容器内にSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を発生させることができる。
【0014】
この態様において、前記加熱炉は、前記本体容器を収容可能な高融点容器と、この高融点容器内にSi蒸気を供給可能なSi蒸気供給源と、を有する。
このように、加熱炉が高融点容器とSi蒸気供給源を有することにより、本体容器を、Si元素を含む気相種の蒸気圧環境下で加熱することができる。これにより、本体容器内のSi元素を含む気相種の低下を抑制することができる。
【0015】
また、本発明はSiC基板の製造方法にも関する。すなわち、本発明の一態様のSiC基板の製造方法は、SiC下地基板の片面に成長層を形成する成長工程と、前記SiC下地基板の他の片面をエッチングするエッチング工程と、を同時に行う。
このように、SiC下地基板の片面に成長層を形成しつつ、他の片面をエッチングすることにより、被処理物であるSiC下地基板の変形や破損を抑制しながら下地基板層が薄いSiC基板を製造することができる。
【0016】
この態様において、前記成長工程及びエッチング工程は、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させる本体容器の内部にSiC下地基板を収容し、前記本体容器を、Si元素を含む気相種の蒸気圧の環境下で温度勾配が形成されるように加熱する。
【0017】
この態様において、前記成長工程は、前記温度勾配の低温側に配置された前記SiC下地基板と、前記温度勾配の高温側に配置された前記本体容器の一部と、を相対させて成長層を形成する。
【0018】
この態様において、前記エッチング工程は、前記温度勾配の高温側に配置された前記SiC下地基板と、前記温度勾配の低温側に配置された前記本体容器の一部と、を相対させてエッチングする。
【0019】
この態様において、前記成長工程は、前記成長層のドーピング濃度を前記SiC下地基板のドーピング濃度と同じにする。
このように、成長層のドーピング濃度をSiC下地基板と同じドーピング濃度とする場合には、伝導度を変えることなく下地基板層とは異なる成長層を形成することができる。例えば、下地基板層よりも熱応力歪を低減した成長層、基底面転位を低減した成長層、マクロステップバンチングの形成を抑制した成長層を形成することができる。
【0020】
この態様において、前記成長工程は、前記成長層のドーピング濃度を前記SiC下地基板のドーピング濃度よりも低くする。
このように、成長層のドーピング濃度をSiC下地基板よりも低いドーピング濃度とする場合には、成長層をデバイスの耐圧層とすることができるため、下地基板層を薄化して、SiC半導体デバイスのオン抵抗低減に寄与することができる。
【0021】
この態様において、前記成長工程は、前記成長層のドーピング濃度を前記SiC下地基板のドーピング濃度よりも高くする。
このように、成長層のドーピング濃度をSiC下地基板よりも高いドーピング濃度とする場合には、SiC基板を高ドープ基板とすることができ、SiC半導体デバイスのオン抵抗低減に寄与することができる。
【0022】
この態様において、前記エッチング工程及び前記成長工程は、Si元素を含む気相種の蒸気圧の環境を介して排気される空間に前記SiC基板を配置して加熱する工程である。
【発明の効果】
【0023】
開示した技術によれば、変形や破損を抑制しつつ下地基板層が薄いSiC基板を製造可能なSiC基板の製造方法及びその製造装置を提供することができる。
【0024】
他の課題、特徴及び利点は、図面及び特許請求の範囲とともに取り上げられる際に、以下に記載される発明を実施するための形態を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一実施の形態のSiC基板の製造装置の概略図である。
【
図2】一実施の形態のSiC基板の製造装置で成長及びエッチングするSiC基板の説明図である。
【
図3】一実施の形態のSiC基板の製造装置の説明図である。
【
図4】一実施の形態のSiC基板の製造方法の成長工程の説明図である。
【
図5】一実施の形態のSiC基板の製造方法のエッチング工程の説明図である。
【
図6】一実施の形態のSiC基板の製造方法で成長及びエッチングしたSiC基板の断面SEM像である。
【
図7】一実施の形態のSiC基板の製造方法で成長及びエッチングしたSiC基板の断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を、図面に示した好ましい一実施形態について、
図1~
図7を用いて詳細に説明する。本発明の技術的範囲は、添付図面に示した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、適宜変更が可能である。
【0027】
[SiC基板の製造装置]
以下、本発明の一実施形態であるSiC基板の製造装置について詳細に説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態に係るSiC基板の製造装置は、SiC下地基板10を収容可能で、加熱によりSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させる本体容器20と、前記本体容器20を収容し、Si元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させるとともに温度勾配が形成されるように加熱する加熱炉30と、を備える。
また、本体容器20は、SiC下地基板10の片面に成長層11を形成する成長空間S1と、SiC下地基板10の他の片面をエッチングするエッチング空間S2と、を有する。
【0029】
このようなSiC基板の製造装置を用いることで、
図2に示すように、SiC下地基板10の片面に成長層11を形成することと、他の片面をエッチングすることを同時に行うことができる。これにより、被処理物であるSiC下地基板10の変形や破損を抑制しつつ下地基板層12が薄いSiC基板を製造することができる。
【0030】
<SiC下地基板10>
SiC下地基板10としては、昇華法等で作製したインゴットから円盤状にスライスしたSiCウエハや、単結晶SiCを薄板状に加工したSiC基板を例示することができる。なお、単結晶SiCの結晶多型としては、何れのポリタイプのものも採用することができる。
【0031】
本明細書中の説明においては、SiC下地基板10の半導体素子を作る面(具体的にはエピ層を堆積する面)を主面101といい、この主面101に相対する面を裏面102という。また、主面101及び裏面102を合わせて表面といい、主面101と裏面102を貫通する方向を表裏方向という。
【0032】
なお、主面としては、(0001)面や(000-1)面から数度(例えば、0.4~8°)のオフ角を設けた表面を例示することができる(なお、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味する)。
【0033】
本明細書中の説明において、片面とは、主面101若しくは裏面102のことをいい、他の片面とは、片面に相対する面のことをいう。また、成長層11とは、処理前のSiC下地基板10上に形成された層のことをいい、下地基板層12とは、処理前のSiC下地基板10が残存している層のことをいう。
【0034】
なお、SiC下地基板10の大きさとしては、数センチ角のチップサイズから、6インチウエハや8インチウエハを例示することができる。
【0035】
<本体容器20>
本体容器20は、SiC下地基板10を収容可能であり、加熱処理時にSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させる構成であれば良い。例えば、本体容器20は、多結晶SiCを含む材料で構成されている。本実施形態では、本体容器20の全体が多結晶SiCで構成されている。このような材料で構成された本体容器20を加熱することで、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を発生させることができる。
【0036】
すなわち、加熱処理された本体容器20内の環境は、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の混合系の蒸気圧環境となることが望ましい。このSi元素を含む気相種としては、Si,Si2,Si3,Si2C,SiC2,SiCが例示できる。また、C元素を含む気相種としては、Si2C,SiC2,SiC,Cが例示できる。すなわち、SiC系ガスが本体容器20内に存在している状態となる。
【0037】
また、本体容器20のドーパント及びドーピング濃度は、形成したい成長層11のドーパント及びドーピング濃度に合わせて選択することができる。ドーパントとしては、Nを例示することができる。
【0038】
また、本体容器20の加熱処理時に、内部空間にSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を発生させる構成であれば、その構造を採用することができる。例えば、内面の一部に多結晶SiCが露出した構成や、本体容器20内に別途多結晶SiCを配置する構成等を示すことができる。
【0039】
本体容器20は、
図3に示すように、互いに嵌合可能な上容器21と下容器22とを備える嵌合容器である。上容器21と下容器22の嵌合部には、微小な間隙23が形成されており、この間隙23から本体容器20内の排気(真空引き)が可能なよう構成されている。
【0040】
本体容器20は、SiC下地基板10の片面に成長層11を形成する成長空間S1と、SiC下地基板10の他の片面をエッチングするエッチング空間S2と、を有する。
【0041】
成長空間S1は、前記SiC下地基板10が温度勾配の低温側に配置された状態で、温度勾配の高温側に配置された前記本体容器20の一部と、SiC下地基板10とを相対させること形成される。すなわち、加熱炉30に設けられる温度勾配により、少なくとも本体容器20の一部(例えば、上容器21の天面)がSiC下地基板10よりも高温となることで、成長空間S1が形成されている。
【0042】
成長空間S1は、SiC下地基板10と本体容器20の間に設けられた温度差を駆動力として、本体容器20のSi原子及びC原子をSiC下地基板10表面に輸送する空間である。
例えば、SiC下地基板10の主面101(又は、裏面102)の温度と、この主面101に相対する上容器21の天面の温度を比較した際に、主面101側の温度が低く、上容器21の天面側の温度が高くなるようSiC下地基板10を配置する(
図4参照)。このように、主面101と上容器21の天面との間に温度差を設けた空間(成長空間S1)を形成することで、温度差を駆動力として、上容器21の天面のSi原子及びC原子をSiC下地基板10の主面101に輸送することができる。
【0043】
エッチング空間S2は、SiC下地基板10が温度勾配の高温側に配置された状態で、温度勾配の低温側に配置される本体容器20の一部と、SiC下地基板10とを相対させること形成される。すなわち、加熱炉30に設けられる温度勾配により、少なくとも本体容器20の一部(例えば、下容器22の底面)がSiC下地基板10よりも低温となることで、エッチング空間S2が形成されている。
【0044】
エッチング空間S2は、SiC下地基板10と本体容器20の間に設けられた温度差を駆動力として、SiC下地基板10表面のSi原子及びC原子を本体容器20に輸送する空間である。
例えば、SiC下地基板10の裏面102(又は、主面101)の温度と、この裏面102に相対する下容器22の底面の温度を比較した際に、裏面102側の温度が高く、下容器22の底面側の温度が低くなるようSiC下地基板10を配置する(
図5参照)。このように、裏面102と下容器22の底面との間に温度差を設けた空間(エッチング空間S2)を形成することで、温度差を駆動力として、裏面102のSi原子及びC原子を下容器22の底面に輸送することができる。
【0045】
本体容器20は、SiC下地基板10と本体容器20との間に設けられる基板保持具24を有している。
本実施形態に係る加熱炉30は、本体容器20の上容器21から下容器22に向かって温度が下がるよう温度勾配を形成するよう加熱する構成となっている。そのため、SiC下地基板10を保持可能な基板保持具24を、SiC下地基板10と下容器22の間に設けることにより、SiC下地基板10と上容器21の間に成長空間S1を、SiC下地基板10と下容器22の間にエッチング空間S2をそれぞれ形成することができる。
【0046】
基板保持具24は、SiC下地基板10の少なくとも一部を本体容器20の中空に保持可能な構成であればよい。例えば、1点支持や3点支持、外周縁を支持する構成や一部を挟持する構成等、慣用の支持手段であれば当然に採用することができる。この基板保持具24の材料としては、SiC材料や高融点金属材料を採用することができる。
【0047】
<加熱炉30>
加熱炉30は、
図1に示すように、被処理物(SiC下地基板10等)を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することが可能な本加熱室31と、被処理物を500℃以上の温度に予備加熱可能な予備加熱室32と、本体容器20を収容可能な高融点容器40と、この高融点容器40を予備加熱室32から本加熱室31へ移動可能な移動手段33(移動台)と、を備えている。
【0048】
本加熱室31は、平面断面視で正六角形に形成されており、その内側に高融点容器40が配置される。
本加熱室31の内部には、加熱ヒータ34(メッシュヒーター)が備えられている。また、本加熱室31の側壁や天井には多層熱反射金属板が固定されている(図示せず。)。この多層熱反射金属板は、加熱ヒータ34の熱を本加熱室31の略中央部に向けて反射させるように構成されている。
【0049】
これにより、本加熱室31内において、被処理物が収容される高融点容器40を取り囲むように加熱ヒータ34が配置され、更にその外側に多層熱反射金属板が配置されることで、1000℃以上2300℃以下の温度まで昇温させることができる。
なお、加熱ヒータ34としては、例えば、抵抗加熱式のヒータや高周波誘導加熱式のヒータを用いることができる。
【0050】
また、加熱ヒータ34は、高融点容器40内に温度勾配を形成可能な構成を採用しても良い。例えば、加熱ヒータ34は、上側(若しくは下側)に多くのヒータが配置されるよう構成しても良い。また、加熱ヒータ34は、上側(若しくは下側)に向かうにつれて幅が大きくなるように構成しても良い。あるいは、加熱ヒータ34は、上側(若しくは下側)に向かうにつれて供給される電力を大きくすることが可能なよう構成しても良い。
【0051】
また、本加熱室31には、本加熱室31内の排気を行う真空形成用バルブ35と、本加熱室31内に不活性ガスを導入する不活性ガス注入用バルブ36と、本加熱室31内の真空度を測定する真空計37と、が接続されている。
【0052】
真空形成用バルブ35は、本加熱室31内を排気して真空引きする真空引ポンプと接続されている(図示せず。)。この真空形成用バルブ35及び真空引きポンプにより、本加熱室31内の真空度は、例えば、10Pa以下、より好ましくは1Pa以下、さらに好ましくは10-3Pa以下に調整することができる。この真空引きポンプとしては、ターボ分子ポンプを例示することができる。
【0053】
不活性ガス注入用バルブ36は、不活性ガス供給源と接続されている(図示せず。)。この不活性ガス注入用バルブ36及び不活性ガス供給源により、本加熱室31内に不活性ガスを10-5~10000Paの範囲で導入することができる。この不活性ガスとしては、ArやHe、N2等を選択することができる。
【0054】
また、不活性ガス注入用バルブ36は、本体容器20内にドーパントガスを供給可能なドーパントガス供給手段である。すなわち、不活性ガスにドーパントガス(例えば、N2等)を選択することにより、成長層11にドーパントをドープしてドーピング濃度を高めることができる。
【0055】
予備加熱室32は、本加熱室31と接続されており、移動手段33により高融点容器40を移動可能に構成されている。なお、本実施形態の予備加熱室32には、本加熱室31の加熱ヒータ34の余熱により昇温可能なよう構成されている。例えば、本加熱室31を2000℃まで昇温した場合には、予備加熱室32は1000℃程度まで昇温され、被処理物(SiC下地基板10や本体容器20、高融点容器40等)の脱ガス処理を行うことができる。
【0056】
移動手段33は、高融点容器40を載置して、本加熱室31と予備加熱室32を移動可能に構成されている。この移動手段33による本加熱室31と予備加熱室32間の搬送は、最短1分程で完了するため、1~1000℃/minでの昇温・降温を実現することができる。
このように急速昇温及び急速降温が行えるため、従来の装置では困難であった、昇温中及び降温中の低温成長履歴を持たない表面形状を観察することが可能である。
また、
図1においては、本加熱室31の下方に予備加熱室32を配置しているが、これに限られず、何れの方向に配置しても良い。
【0057】
また、本実施形態に係る移動手段33は、高融点容器40を載置する移動台である。この移動台と高融点容器40の接触部から、微小な熱を逃がしている。これにより、高融点容器40内に温度勾配を形成することができる。
【0058】
本実施形態の加熱炉30では、高融点容器40の底部が移動台と接触しているため、高融点容器40の上容器41から下容器42に向かって温度が下がるように温度勾配が設けられる。
なお、この温度勾配の方向は、移動台と高融点容器40の接触部の位置を変更することで、任意の方向に設定することができる。例えば、移動台に吊り下げ式等を採用して、接触部を高融点容器40の天井に設ける場合には、熱が上方向に逃げる。そのため温度勾配は、高融点容器40の上容器41から下容器42に向かって温度が上がるように温度勾配が設けられることとなる。なお、この温度勾配は、SiC下地基板10の表裏方向に沿って形成されていることが望ましい。
また、上述したように、加熱ヒータ34の構成により、温度勾配を形成してもよい。
【0059】
<高融点容器40>
本実施形態に係る加熱炉30内のSi元素を含む気相種の蒸気圧環境は、高融点容器40及びSi蒸気供給源44を用いて形成している。例えば、本体容器20の周囲にSi元素を含む気相種の蒸気圧の環境を形成可能な方法であれば、本発明のSiC基板の製造装置に採用することができる。
【0060】
高融点容器40は、高融点材料を含んで構成されている。例えば、汎用耐熱部材であるC、高融点金属であるW,Re,Os,Ta,Mo、炭化物であるTa9C8,HfC,TaC,NbC,ZrC,Ta2C,TiC,WC,MoC、窒化物であるHfN,TaN,BN,Ta2N,ZrN,TiN、ホウ化物であるHfB2,TaB2,ZrB2,NB2,TiB2,多結晶SiC等を例示することができる。
【0061】
この高融点容器40は、本体容器20と同様に、互いに嵌合可能な上容器41と下容器42とを備える嵌合容器であり、本体容器20を収容可能に構成されている。上容器41と下容器42の嵌合部には、微小な間隙43が形成されており、この間隙43から高融点容器40内の排気(真空引き)が可能なよう構成されている。
【0062】
高融点容器40は、高融点容器40内にSi元素を含む気相種の蒸気圧を供給可能なSi蒸気供給源44を有している。Si蒸気供給源44は、加熱処理時にSi蒸気を高融点容器40内に発生させる構成であれば良く、例えば、固体のSi(単結晶Si片やSi粉末等のSiペレット)やSi化合物を例示することができる。
【0063】
本実施形態に係るSiC基板の製造装置においては、高融点容器40の材料としてTaCを採用し、Si蒸気供給源44としてタンタルシリサイドを採用している。すなわち、
図3に示すように、高融点容器40の内側にタンタルシリサイド層が形成されており、加熱処理時にタンタルシリサイド層からSi蒸気が容器内に供給されることにより、Si蒸気圧環境が形成されるように構成されている。
この他にも、加熱処理時に高融点容器40内にSi元素を含む気相種の蒸気圧が形成される構成であれば採用することができる。
【0064】
本発明に係るSiC基板の製造装置によれば、SiC下地基板10を熱処理する本体容器20は、SiC下地基板10の片面に成長層11を形成する成長空間S1と、SiC下地基板10の他の片面をエッチングするエッチング空間S2と、を有する構成となっている。
このような構成により、これにより、SiC下地基板10の成長とエッチングを同時に行うことができ、SiC下地基板10の変形や破損を抑制しつつ下地基板層12が薄いSiC基板を製造することができる。
【0065】
また、本実施形態に係るSiC基板の製造装置によれば、SiC下地基板10を収容可能で、Si元素を含む気相種及びC原子を含む蒸気圧を内部空間に発生させる本体容器20と、本体容器20を収容し、Si元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させるとともに温度勾配が形成されるように加熱する加熱炉30と、を備える。
【0066】
このような構成により、SiC下地基板10と本体容器20の間に近熱平衡状態を形成可能であり、かつ、本体容器20内にSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧(Si,Si2、Si3,Si2C,SiC2,SiCの少なくとも何れかを含む気相種の分圧)環境が形成可能となる。
このような環境において、加熱炉30の温度勾配を駆動力として質量の輸送が起こり、結果としてSiC下地基板10の成長とエッチングが同時に進行する。これにより、SiC下地基板10の変形や破損を抑制しつつ下地基板層12が薄いSiC基板を製造することができる。
【0067】
また、本実施形態に係るSiC基板の製造装置によれば、本体容器20を、Si元素を含む気相種の蒸気圧環境(Si蒸気圧環境)下で加熱することにより、本体容器20内からSi元素を含む気相種が排気されることを抑制することができる。すなわち、本体容器20内のSi元素を含む気相種の蒸気圧と、本体容器20外のSi元素を含む気相種の蒸気圧とをバランスさせることにより、本体容器20内の環境を維持することができる。
【0068】
言い換えれば、本体容器20はSi元素を含む気相種の蒸気圧環境(例えばSi蒸気圧環境)が形成される高融点容器40内に配置されている。このように、Si元素を含む気相種の蒸気圧環境(例えばSi蒸気圧環境)を介して本体容器20内が排気(真空引き)されることで、成長空間S1及びエッチング空間S2内からSi原子が減少することを抑制することができる。これにより、成長空間S1及びエッチング空間S2内を成長及びエッチングに好ましい原子数比Si/Cを長時間維持することができる。
【0069】
また、本実施形態に係るSiC基板の製造装置によれば、成長空間S1は、SiC下地基板10が温度勾配の低温側に配置された状態で、温度勾配の高温側に配置される本体容器20の一部と、SiC下地基板10とを相対させることで形成されている。
このように、SiC下地基板10と本体容器20と相対させて成長空間S1を形成することにより、水平方向の温度分布を均一に保持可能な環境で成長させることができる。これにより、熱応力歪み等が少ない成長層11を形成することができる。
【0070】
また、本実施形態に係るSiC基板の製造装置によれば、本体容器20は多結晶SiCで構成されている。このような構成とすることにより、加熱炉30を用いて本体容器20を加熱した際に、本体容器20内にSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧のみを発生させることができる。
【0071】
[SiC基板の製造方法]
以下、本発明の一実施形態であるSiC基板の製造方法について詳細に説明する。
本実施形態に係るSiC基板の製造方法は、
図2に示すように、SiC下地基板10の片面に成長層11を形成する成長工程と、前記SiC下地基板10の他の片面をエッチングするエッチング工程と、を同時に行う。
なお、同実施形態において、先のSiC基板の製造装置と基本的に同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を簡略化する。
【0072】
なお、SiC下地基板10の片面に成長層11を形成する成長工程と、前記SiC下地基板10の他の片面をエッチングするエッチング工程と、を同時に可能な手法であれば採用することができる。例えば、SiC下地基板10の片面に成長ガスを供給し、SiC下地基板10の他の片面にエッチングガスを供給することで、成長及びエッチングを同時に行う手法(CVD法等)を採用しても良い。
【0073】
本実施形態に係る成長工程及びエッチング工程は、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させる本体容器20の内部にSiC下地基板10を収容し、この本体容器20を、Si元素を含む気相種の蒸気圧の環境下で温度勾配が形成されるように加熱する。
以下、本実施形態に係るSiC基板の製造方法の成長工程及びエッチング工程について、詳細に説明する。
【0074】
<成長工程>
本実施形態に係る成長工程は、温度勾配の低温側に配置されたSiC下地基板10と、温度勾配の高温側に配置された本体容器20の一部と、を相対させて成長層11を形成している。
図4は、成長機構の概要を示す説明図である。SiC下地基板10を配置した本体容器20を、1400℃以上2300℃以下の温度範囲で加熱することで、以下1)~5)の反応が成長空間S1内で持続的に行われ、結果として成長層11の成長が進行すると考えられる。
【0075】
1) Poly-SiC(s)→Si(v)+C(s)
2) 2C(s)+Si(v)→SiC2(v)
3) C(s)+2Si(v)→Si2C(v)
4) Si(v)+SiC2(v)→2SiC(s)
5) Si2C(v)→Si(v)+SiC(s)
【0076】
1)の説明:本体容器20(Poly-SiC(s))が加熱されることで、熱分解によってSiCからSi原子(Si(v))が脱離する。
2)及び3)の説明:Si原子(Si(v))が脱離することでSiC下地基板10表面に残存したC(C(s))は、本体容器20内のSi蒸気(Si(v))と反応することで、Si2C又はSiC2等となって本体容器20内に昇華する。
4)及び5)の説明:昇華したSi2C又はSiC2等が、温度勾配によってSiC下地基板10のテラスに到達・拡散し、ステップに到達することで下地基板層12の多型を引き継いで成長層11が成長する(ステップフロー成長)。
【0077】
すなわち、成長工程は、本体容器20内からSi原子を熱昇華させるSi原子昇華工程と、本体容器20内の表面に残存したC原子を本体容器20内のSi原子と結合させることで昇華させるC原子昇華工程と、を有する。
【0078】
具体的には、SiC下地基板10の片面(主面101又は裏面102)と、この片面よりも温度が高い本体容器20の天面と、を相対させて配置し、この間に成長空間S1を形成することにより、成長層11を成長させることができる。
【0079】
言い換えれば、成長工程は、SiC下地基板10と本体容器20の一部とを相対させて配置し、本体容器20の一部が高温側、SiC下地基板10が低温側となるよう温度勾配をつけて加熱している。この温度勾配により、本体容器20からSiC下地基板10にSi元素及びC元素を輸送して、SiC下地基板10に成長層11を成長させる。
【0080】
また、成長工程は、ドーパントガス供給手段(不活性ガス注入用バルブ36)を用いて、本体容器20内にドーパントガスを供給することにより、成長層11のドーピング濃度を調整することができる。
すなわち、ドーパントガスを供給しない場合には、本体容器20のドーピング濃度を引きついで成長層11が形成される。一方で、ドーパントガスを供給することで成長層11中のドーピング濃度を高めることができ、これにより、所望のドーピング濃度を有する成長層11を形成することができる。
【0081】
<エッチング工程>
本実施形態に係るエッチング工程は、温度勾配の高温側に配置されたSiC下地基板10と、温度勾配の低温側に配置された本体容器20の一部と、を相対させることでエッチングしている。
図5は、エッチング機構の概要を示す説明図である。SiC下地基板10を配置した本体容器20を、1400℃以上2300℃以下の温度範囲で加熱することで、以下1)~5)の反応がエッチング空間S2内で持続的に行われ、結果として下地基板層12のエッチングが進行すると考えられる。
【0082】
1) SiC(s)→Si(v)+C(s)
2) 2C(s)+Si(v)→SiC2(v)
3) C(s)+2Si(v)→Si2C(v)
4) Si(v)+SiC2(v)→2SiC(s)
5) Si2C(v)→Si(v)+SiC(s)
【0083】
1)の説明:SiC下地基板10(SiC(s))が加熱されることで、熱分解によってSiC下地基板10表面からSi原子(Si(v))が脱離する(Si原子昇華工程)。
2)及び3)の説明:Si原子(Si(v))が脱離することでSiC下地基板10表面に残存したC(C(s))は、本体容器20内のSi蒸気(Si(v))と反応することで、Si2C又はSiC2等となって本体容器20内に昇華する(C原子昇華工程)。
4)及び5)の説明:昇華したSi2C又はSiC2等が、温度勾配によって本体容器20内の底面(多結晶SiC)に到達し成長する。
【0084】
すなわち、エッチング工程は、SiC下地基板10の表面からSi原子を熱昇華させるSi原子昇華工程と、SiC下地基板10の表面に残存したC原子を本体容器20内のSi原子と結合させることで昇華させるC原子昇華工程と、を有する。
【0085】
具体的には、SiC下地基板10の他の片面(裏面102又は主面101)と、この他の片面よりも温度が低い本体容器20の底面と、を相対させて配置し、この間にエッチング空間S2を形成することにより、下地基板層12をエッチングすることができる。
【0086】
言い換えれば、エッチング工程は、SiC下地基板10と本体容器20の一部とを相対させて配置し、本体容器20の一部が低温側、SiC下地基板10が高温側となるよう温度勾配をつけて加熱している。この温度勾配により、SiC下地基板10から本体容器20にSi元素及びC元素を輸送して、SiC下地基板10をエッチングする。
【0087】
本手法におけるエッチング温度は、好ましくは1400~2300℃の範囲で設定され、より好ましくは1600~2000℃の範囲で設定される。
本手法における成長速度及びエッチング速度は、上記温度領域によって制御することができ、0.001~2μm/minの範囲で選択することが可能である。
本手法における成長時間及びエッチング時間は、所望の成長量及びエッチング量となるよう任意の時間に設定することができる。例えば、成長速度(エッチング速度)が1μm/minの時に、成長量(エッチング量)を1μmとしたい場合には、成長量(エッチング時間)は1分間となる。
本手法における温度勾配は、成長空間S1及びエッチング空間S2において、0.1~5℃/mmの範囲で設定される。
本手法においては、ドーパントガス(N2等)を供給することができ、本加熱室31に10-5~10000Paの範囲で導入することができる。
【実施例】
【0088】
以下の方法で実施例1、実施例2のSiC基板を製造した。
<実施例1>
以下の条件で、SiC下地基板10を本体容器20及び高融点容器40に収容した(配置工程)。
【0089】
[SiC下地基板10]
多型:4H-SiC
基板サイズ:横幅10mm×縦幅10mm×厚み0.3mm
オフ方向及びオフ角:<11-20>方向4°オフ
成長面:(0001)面
エッチング面:(000-1)面
ドーパント:N
ドーピング濃度:3×1018cm-3
なお、SiC下地基板10のドーパント及びドーピング濃度は、RAMAN分光により確認した。これらは二次イオン質量分析法(SIMS)等で確認することもできる。
【0090】
[本体容器20]
材料:多結晶SiC
容器サイズ:直径60mm×高さ4mm
基板保持具24の材料:単結晶SiC
SiC下地基板10と本体容器20の底面との距離:2mm
ドーパント:N
ドーピング濃度:1×1017cm-3以下(RAMAN分光検出限界以下)
【0091】
[高融点容器40]
材料:TaC
容器サイズ:直径160mm×高さ60mm
Si蒸気供給源44(Si化合物):TaSi2
【0092】
[成長工程及びエッチング工程]
上記条件で配置したSiC下地基板10を、以下の条件で加熱処理した。
加熱温度:1700℃
加熱時間:300min
温度勾配:1℃/mm
成長速度:5nm/min
エッチング速度:5nm/min
本加熱室31真空度:10-5Pa(ドーパントガス導入なし)
【0093】
図6は、上記条件で成長及びエッチングした実施例1のSiC基板を断面から倍率×10000で観察したSEM像である。
この実施例1の成長層11厚みは1.5μmであり、下地基板層12のエッチング量は1.5μmであった。
【0094】
また、この実施例1の成長層11のドーピング濃度は1×10
17cm
-3以下であり、下地基板層12のドーピング濃度は3×10
18cm
-3であった。すなわち、成長層11のドーピング濃度は、SiC下地基板10のドーピング濃度よりも低い。これは、
図6に示すように、成長層11が下地基板層12よりもSEM像コントラストが明るいことからも確認することができる。
【0095】
<実施例2>
以下の条件で、SiC下地基板10を本体容器20及び高融点容器40に収容した。
【0096】
[SiC下地基板10]
実施例1と同様のSiC下地基板10を用いた。
【0097】
[本体容器20]
実施例1と同様の本体容器20を用いた。
【0098】
[高融点容器40]
実施例1と同様の高融点容器40を用いた。
【0099】
[成長工程及びエッチング工程]
上記条件で配置したSiC下地基板10を、以下の条件で加熱処理した。
加熱温度:1800℃
加熱時間:60min
温度勾配:1℃/mm
成長速度:50nm/min
エッチング速度:50nm/min
本加熱室31真空度:13Pa(N2ガス導入)
【0100】
図7は、上記条件で成長及びエッチングした実施例2のSiC基板を断面から倍率×10000で観察したSEM像である。
この実施例2の成長層11厚みは3μmであり、下地基板層12のエッチング量は3μmであった。
【0101】
また、この実施例2の成長層11のドーピング濃度は2×10
19cm
-3であり、下地基板層12のドーピング濃度は3×10
18cm
-3であった。すなわち、成長層11のドーピング濃度は、SiC下地基板10のドーピング濃度よりも高い。これは、
図7に示すように、成長層11が下地基板層12よりもSEM像コントラストが暗いことからも確認することができる。
【0102】
本発明に係るSiC基板の製造方法によれば、SiC下地基板10の片面に成長層11を形成する成長工程と、SiC下地基板10の他の片面をエッチングするエッチング工程と、を同時に行う。これにより、SiC下地基板10の変形や破損を抑制しつつ下地基板層12が薄いSiC基板を製造することができる。
【0103】
また、本発明のSiC基板の製造方法によれば、成長層11のドーピング濃度をSiC下地基板10のドーピング濃度よりも低くすることができる。このように、成長層11のドーピング濃度をSiC下地基板10よりも低いドーピング濃度とする場合には、成長層11をデバイスの耐圧層とすることができるため、下地基板層12を薄化して、SiC半導体デバイスのオン抵抗低減に寄与することができる。
【0104】
また、本発明のSiC基板の製造方法によれば、成長層11のドーピング濃度をSiC下地基板10のドーピング濃度よりも高くすることができる。このように、成長層11のドーピング濃度をSiC下地基板10よりも高いドーピング濃度とする場合には、SiC基板を高ドープ基板とすることができ、SiC半導体デバイスのオン抵抗低減に寄与することができる。
【符号の説明】
【0105】
10 SiC下地基板
101 主面
102 裏面
11 成長層
12 下地基板層
20 本体容器
24 基板保持具
30 加熱炉
40 高融点容器
44 Si蒸気供給源
S1 成長空間
S2 エッチング空間