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特許7520033粉砕熱処理小麦粉の製造方法、粉砕熱処理小麦粉並びにベーカリー食品用ミックス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】粉砕熱処理小麦粉の製造方法、粉砕熱処理小麦粉並びにベーカリー食品用ミックス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 6/00 20060101AFI20240712BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20240712BHJP
【FI】
A21D6/00
A23L7/10 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021556160
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2020042357
(87)【国際公開番号】W WO2021095827
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019207309
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】312015185
【氏名又は名称】日清製粉プレミックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】柳下 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】光岡 徹弥
(72)【発明者】
【氏名】山本 城輔
(72)【発明者】
【氏名】中野 裕行
(72)【発明者】
【氏名】宮原 大輔
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-035074(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121570(WO,A1)
【文献】特開2008-278786(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107397137(CN,A)
【文献】特開2017-035059(JP,A)
【文献】特開2003-000164(JP,A)
【文献】特開2015-181463(JP,A)
【文献】特開2015-213460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 6/00
A23L 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉100質量部と、70℃以上の水及び/又は水蒸気20質量部以上55質量部以下とを、小麦粉100質量部に対して水を17質量部以上加える条件にて合わせて混合物を得、
該混合物を80℃以上120℃以下の雰囲気温度で3秒間以上60秒間以下加熱して、当該混合物の温度を80℃以上100℃以下とした後、粉砕する工程を有する粉砕熱処理小麦粉の製造方法。
【請求項2】
加熱した前記混合物を、粒状化工程を経ることなく粉砕する、請求項1に記載の粉砕熱処理小麦粉の製造方法。
【請求項3】
前記小麦粉が国内産麦を製粉した小麦粉である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記粉砕する工程によって、前記粉砕熱処理小麦粉を粒径400μm以下の粒子が90質量%以上である粒度分布に調整する、請求項1~3の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
未処理のときの糊化熱を100とした場合に10以上55以下の糊化熱を有し、
未処理のときのグルテンバイタリティを100とした場合に50以上90以下のグルテンバイタリティを有し、
粒径400μm以下の粒子が90質量%以上である粒度分布を有し、かつ
25℃で対粉500質量%に加水した場合の粘度が1Pa・s以上4Pa・s以下である粉砕熱処理小麦粉。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載の製造方法によって製造された粉砕熱処理小麦粉又は請求項5に記載の粉砕熱処理小麦粉を含有した、ベーカリー食品用ミックス。
【請求項7】
更に非熱処理小麦粉を含有し、粉砕熱処理小麦粉と非熱処理小麦粉との合計量100質量部に対し、粉砕熱処理小麦粉の量が1質量部以上40質量部以下であり、非熱処理小麦粉の量が60質量部以上99質量部以下である、請求項6に記載のベーカリー食品用ミックス。
【請求項8】
請求項1~4の何れか1項に記載の製造方法によって製造された粉砕熱処理小麦粉又は請求項5に記載の粉砕熱処理小麦粉と、非熱処理小麦粉とを混合する工程を有し、混合比率が粉砕熱処理小麦粉と、非熱処理小麦粉との合計量100質量部に対し、粉砕熱処理小麦粉が1質量部以上40質量部以下、非熱処理小麦粉が60質量部以上99質量部以下である、ベーカリー食品用ミックスの製造方法。
【請求項9】
小麦粉100質量部と、70℃以上の水及び/又は水蒸気20質量部以上55質量部以下とを合わせて混合物を得、
該混合物を80℃以上120℃以下の雰囲気温度で3秒間以上60秒間以下加熱して、当該混合物の温度を80℃以上100℃以下とした後、粉砕する工程を有する粉砕熱処理小麦粉の製造方法であって、
70℃以上の水を用い、且つ、水と水蒸気を組み合わせて用いる場合、両者の合計量のうち、水の割合が50質量%以上95質量%以下である、粉砕熱処理小麦粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類等のベーカリー食品の製造に用いられる熱処理小麦粉及びそれを利用したベーカリー食品用ミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
パン類、菓子類などのベーカリー類は、嗜好性の多様化により様々な風味、食感を特徴とする製品が市販されている。その中で、近年は、しっとり又は/及びもっちりした食感への要望が高まっている。
従来、パン類、菓子類等のベーカリー食品にしっとり又は/及びもっちりとした食感を付与する方法が種々提案されている。
例えば、原料にα化澱粉又はα化穀粉を使用する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、α化澱粉又は従来のα化穀粉は、生地にべたつきを生じさせ作業性を悪化させると同時に、得られた食品の食感をべたついたものにさせるという問題点がある。更に、澱粉は小麦粉よりも風味が劣るという難点もある。
【0003】
また、もっちりとした食感を有するパン類の製造方法として、原料小麦粉の一部を熱水と混合後、低温で長時間熟成することによって小麦粉中の澱粉をα化させた生地を使用する湯種製法が知られている(特許文献2)。ところが、本製法には、品質の安定に温度条件等の制御が必要なこと、製造に長時間を要すること等の課題があり、特に小規模ベーカリーではその実施が困難であるのが現状である。
【0004】
更に特許文献3には、しっとりもっちりとした食感を有し、経時的劣化が起こり難いベーカリー食品を製造可能な粉砕熱処理小麦粉として、小麦粉100質量部に対し、水を15質量部以上40質量部以下加えて混合物を得、該混合物を70℃以上100℃未満の雰囲気温度で3秒間以上60秒間以下加熱した後、粉砕する工程を有する粉砕熱処理小麦粉の製造方法が記載されている。しかしながら、この方法では、小麦粉中の澱粉のα化が十分でないため、特許文献1や特許文献2で得られる処理小麦粉を用いる場合と比較して、得られるパン等の品質、特にしっとりもっちりした食感及びその経時的劣化の抑制の点でなお改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-253111号公報
【文献】特開2000-262205号公報
【文献】特開2017-35074号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明の課題は、しっとり且つもっちり(以下単に「しっとりもっちり」とも記載する。)した食感を有し、十分なボリューム感ときめの細かい内相を有し、食感の経時的な劣化が起こり難いベーカリー食品を製造可能で、かつ二次加工性に優れ、該ベーカリー食品を効率よく製造し得る粉砕熱処理小麦粉及びベーカリー食品用ミックスを提供することに関する。
【0007】
本発明は、小麦粉100質量部と、70℃以上の水及び/又は水蒸気を20質量部以上55質量部以下とを合わせて混合物を得、該混合物を80℃以上120℃以下の雰囲気温度で3秒間以上60秒間以下加熱し、当該混合物の温度を80℃以上100℃以下とした後、粉砕する工程を有する粉砕熱処理小麦粉の製造方法である。
【0008】
また本発明は、未処理のときの糊化熱を100とした場合に10以上55以下の糊化熱を有し、
未処理のときのグルテンバイタリティを100とした場合に50以上90以下のグルテンバイタリティを有し、
粒径400μm以下の粒子が90質量%以上の粒度分布を有し、かつ
25℃で対粉500質量%に加水した場合の粘度が1Pa・s以上4Pa・s以下である粉砕熱処理小麦粉である。
【0009】
更に本発明は、前記粉砕熱処理小麦粉を含有するベーカリー食品用ミックスを提供するものである。また本発明は、前記粉砕熱処理小麦粉と、非熱処理小麦粉との合計量100質量部に対し、前記粉砕熱処理小麦粉1質量部以上40質量部以下と、非熱処理小麦粉60質量部以上99質量部以下とを混合するベーカリー食品用ミックスの製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本明細書において、粉砕熱処理小麦粉とは、粉砕処理及び熱処理の両方が施された小麦粉を指す。
【0011】
まず、本発明の粉砕熱処理小麦粉の製造方法について説明する。本発明の粉砕熱処理小麦粉の製造方法は、小麦粉100質量部と、70℃以上の水及び/又は水蒸気を20質量部以上55質量部以下とを合わせて混合物を得、該混合物を80℃以上120℃以下の雰囲気温度で3秒間以上60秒間以下加熱し、混合物の温度を80℃以上100℃以下とした後、粉砕する工程を有する。
【0012】
本発明の粉砕熱処理小麦粉の製造方法は、予め所定温度以上に加熱した水及び/又は水蒸気と、小麦粉とを合わせて混合物を得、該混合物に加熱処理を行うことを特徴の一つとする。以下、水及び/又は水蒸気と、小麦粉とを合わせて混合物を得る処理を混合処理ともいう。例えば特許文献3では、水と小麦粉の混合物を加熱処理することは記載されているものの、小麦粉と混合する水を予め加熱処理することは記載されていない。一方、本発明では、所定温度以上に加熱した水及び/又は水蒸気を小麦粉と混合した混合物を加熱処理することで、加温していない水と混合する場合と比較して小麦粉中の澱粉のα化が顕著に促進されるという利点がある。具体的には、小麦粉に添加する水は70℃以上、好ましくは75℃以上、更に好ましくは80℃以上に加熱する。小麦粉に混合する水の水温を70℃以上とすることで、小麦粉中の澱粉が十分にα化され、ベーカリー食品のしっとりもっちりした食感が優れ、且つ当該食感の経時変化も抑制されたものとなる。本明細書でいう水温とは常圧下での水温であり、上限は通常100℃である。
【0013】
本発明において、小麦粉に加水する水分として水蒸気を用いる場合、水蒸気の温度は、例えば100℃以上150℃以下であることが、澱粉の糊化及びそれに伴うしっとりもっちりした食感やその経時変化の抑制の点等で好ましく、110℃以上130℃以下であることがより好ましい。
【0014】
混合処理において、小麦粉と水及び/又は水蒸気との混合物は均質な混合物であることを要さず、混在状態であればよい。また、本明細書において、小麦粉と水及び/又は水蒸気との混合物を得るための小麦粉と水及び/又は水蒸気とを合わせる処理も、撹拌等の均質化のための操作を必須としない。しかし、小麦粉と水及び/又は水蒸気との混合物を得る際における撹拌等の均質化処理は、本発明から除外されるものではなく、求められる粉砕熱処理小麦粉の用途や品質等に応じて適宜行うことができる。小麦粉と水及び/又は水蒸気との混合物は、小麦粉に水及び/又は水蒸気を添加して得てもよく、水及び/又は水蒸気に対して小麦粉を添加しても得てもよいが、小麦粉に水及び/又は水蒸気を添加することが、混合・撹拌の均一性や簡便さの点で有利である。
【0015】
本発明の粉砕熱処理小麦粉の製造方法では、前記の混合処理において、小麦粉と混合する水及び/又は水蒸気の量が所定量である。水及び/又は水蒸気の量とは、水及び/又は水蒸気のうち、水のみを添加する場合は水の量であり、水蒸気のみを添加する場合は水蒸気の量であり、水及び水蒸気を添加する場合には両者の合計である。小麦粉と混合する水及び/又は水蒸気の量は小麦粉100質量部に対して20質量部以上55質量部以下であることを要する。加水量を20質量部以上にすることで小麦粉中の澱粉のα化が十分に行われ、しっとりもっちりした良好な食感が得られ、且つ当該食感が経時的に持続する。一方、55質量部以下とすることで、小麦粉中のタンパク質が熱で変質することによる製パン時のべたつきの低下を抑制でき、作業性に優れる利点がある。小麦粉と混合する水及び/又は水蒸気の量は小麦粉100質量部に対して23質量部以上50質量部以下であることが好ましく、23質量部以上50質量部未満であることがより好ましく、25質量部以上45質量部以下であることが特に好ましい。
【0016】
小麦粉と合わせる水及び/又は水蒸気(以下、「水分」という場合もある)は水のみであってもよく、水蒸気のみであってもよいが、水を含むことが澱粉をより均質に糊化させることができる点で好ましい。水と水蒸気を組み合わせて用いる場合、両者の合計量のうち、水の割合が50質量%以上95質量%以下であることが、澱粉の糊化の点で好ましく、65質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。なお特定量の水蒸気は、当該量の水を全て水蒸気とすることで入手できる。
【0017】
前記のように所定温度の水及び/又は水蒸気と小麦粉とを合わせてなる混合物を、80℃以上120℃以下の雰囲気温度で、3秒間以上60秒間以下加熱する(以下、本処理を単に「加熱処理」ともいう。)。ここでいう「雰囲気温度」は、被加熱物である混合物(小麦粉)の周囲の空間の気温であり、被加熱物自体の温度(混合物の温度)ではない。雰囲気温度が80℃以上及び加熱時間が3秒間以上であることで、混合物の温度を80℃以上に設定しやすく、小麦粉中の澱粉のα化が十分に行われやすい。また雰囲気温度が120℃以下及び加熱時間が60秒間以下であることで、混合物の温度を100℃以下に設定しやすい。これらの点から、好ましくは、加熱時間は4秒間以上30秒間以下である。また好ましくは、雰囲気温度は92℃以上110℃以下である。なお、本発明において、小麦粉と水分との混合と、加熱とは同時に行ってもよいし、混合後に加熱を行ってもよい。例えば、予め内部雰囲気を加熱しておいた容器内に、小麦粉と水分をそれぞれ投入することで、加熱と同時に、小麦粉と水分との混合を行うことができる。その場合、加熱時間の開始は、容器内への小麦粉と水分の投入時点となる。
【0018】
本発明の粉砕熱処理小麦粉の製造方法は、加熱処理において、混合物の温度を80℃以上100℃以下とすることも特徴の一つである。混合物の温度が80℃以上であることで、小麦粉中の澱粉のα化が十分に行われ、しっとりもっちりした良好な食感が得られる。また、100℃以下であることにより、しっとりもっちりした良好な食感が得られるほか、作業性、外観(ボリューム)、内相の点でも優れたベーカリー食品が得られる。これらの点から、混合物の温度は83℃以上98℃以下であることが好ましく、85℃以上95℃以下であることがより好ましい。本発明の粉砕熱処理小麦粉の製造方法において、混合物の温度は、加熱処理中に一度でも80℃以上100℃以下に達していればよい。例えば混合物の温度は加熱処理完了時に測定することができるが、上述した通り、加熱処理中に一度でも80℃以上100℃以下となっていれば、加熱処理完了の混合物の温度が80℃以上100℃以下の範囲外であってもよい。混合物の温度を前記範囲内とするためには、前記混合処理で小麦粉と合わせる水分の温度や量を前記の範囲内とするとともに、小麦粉と水分とが混合した時点から加熱処理開始時点までの時間を調整し、更に加熱処理における雰囲気温度及び加熱時間を前記範囲内とするなどの調整を行えばよい。小麦粉と所定温度の水分との混合と加熱処理とは連続的に行うことが加熱完了時の混合物の温度を後述する範囲内とするために好ましい。連続的とは、例えば、小麦粉と所定温度の水分との混合と加熱開始までを数秒内で行うことを指し、上述した、予め内部雰囲気を加熱しておいた容器内に小麦粉と水分をそれぞれ投入する場合を含む。なお、加熱処理装置において上述した混合物の温度を測定する場合、例えば、加熱処理に内部のエクストルーダーにより内容物を容器中で入口から出口まで移送させながら加熱する装置を用いる場合は、混合物の温度は出口における混合物の温度とすることができる。
【0019】
本発明に係る加熱処理は特に限定されず公知の加熱装置を用いて実施できるが、好ましくは、小麦粉中の澱粉を糊化させるために水及び/又は水蒸気を添加して加熱処理をする装置を用いることができる。加熱処理は、例えば、オートクレーブ、スチームオーブン等の公知の加熱装置を用いて実施できる。本発明に係る加熱処理の一例として、小麦粉と水及び/又は水蒸気とをアルミパウチ等、或いはヒートジャケット等で加熱可能な密閉容器に封入密閉し、加圧下で加熱する処理が挙げられる。小麦粉と水及び/又は水蒸気の導入前に、密閉容器の内部雰囲気を予め望ましい温度に加熱していてもよい。また密閉容器内部に適宜撹拌を行う機構を設けてもよい。また加圧は密閉容器中の加熱された水蒸気によりなされるものであってよい。また、本発明に係る加熱処理の他の一例として、小麦粉及び水を密閉容器内に導入し、必要に応じて該混合物を攪拌しつつ、当該導入と同時又は当該導入より前若しくは後に(好ましくは該導入と同時又は該導入より前に)、該容器内に飽和水蒸気を導入して加圧下で加熱する処理が挙げられる(この場合の飽和水蒸気の量は小麦粉に添加する水蒸気の量に含めるものとする)。これらの処理は、例えば一軸又は二軸型エクストルーダーを用いて実施できる。これらの場合、容器内に導入された水蒸気は小麦粉と直接接触するから、斯かる処理は水蒸気を小麦粉に直接接触させる加熱処理である。
【0020】
本発明の粉砕熱処理小麦粉の原料として使用する小麦粉としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、本発明の粉砕熱処理小麦粉の原料としては、国内産(日本産)麦を製粉した小麦粉(以下、「国内産麦小麦粉」ともいう。)が好ましい。後述する実施例21~23とその他の実施例の食感評価を比較するとわかる通り、本発明では原料に国内産麦小麦粉を用いることで、しっとりもっちりした食感に特に優れたものとなる。小麦の品質は、栽培される土壌や気候などの影響を受けて大きく変化し、同じ品種の小麦でも産地が異なれば品質が異なる。国内産麦と外国産麦とにおいても品質に違いがあるために前記の評価結果が異なるものと考えられる。
【0021】
本発明で用いる国内産麦小麦粉の原料となる小麦としては、現存する国内産小麦品種、及びそれらから派生した小麦品種(現存する国内産小麦品種の品種改良で生まれた小麦品種)の双方を用いることができる。本発明では、現存する国内産小麦品種及びその派生品種からなる群から選択される小麦品種を原料とする国内産麦小麦粉の1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
前記の現存する国内産小麦品種としては、現在までに日本で品種登録された小麦品種として下記のものを例示できる。
あおばの恋、あきたっこ、アブクマワセ、あやひかり、イワイノダイチ、キタカミコムギ、きたさちほ、キタノカオリ、きたほなみ、きたもえ、きぬあかり、きぬあずま、きぬいろは、きぬの波、キヌヒメ、コユキコムギ、さとのそら、さぬきの夢2000、さぬきの夢2009、しゅんよう、シラサギコムギ、シラネコムギ、シロガネコムギ、せときらら、タイセツコムギ、タクネコムギ、ダブル8号、タマイズミ、チクゴイズミ、ちくしW2号、チホクコムギ、つるきち、つるぴかり、ナンブコムギ、ニシノカオリ、ニシホナミ、ネノリゴシ、ネバリゴシ、ハナマンテ、ハルイブ、はるきらり、はるひので、ハルユタカ、ハレイブキ、ハレユタカ、バンドウワセ、フウセツ、ふくあかり、ふくさやか、ふくはるか、ふくほのか、ホクシン、ホロシリコムギ、もち姫、ゆきちから、ゆきはるか、ゆめあかり、ユメアサヒ、ゆめかおり、ゆめきらり、ユメシホウ、ユメセイキ、ゆめちから、銀河のちから、香育21号、春のかがやき、春よ恋、長崎W2号、東海103号、東海104号、東山42号、農林61号、福井県大3号、利根3号、ダブレ8号、ミナミノカオリ。
【0023】
国内産小麦品種は、品種の特性や製粉性等の観点から、薄力系(「薄力粉」と呼ばれることもある。)又は中力系(「中力粉」と呼ばれることもある。)と強力系(「強力粉」と呼ばれることもある。)とに大別される。本発明で用いる国内産麦小麦粉の原料となる小麦は、中力系又は強力系が好ましい。強力系の国内産小麦品種の小麦粉は通常タンパク含量が10.5~14質量%、中力系の国内産小麦品種の小麦粉は通常タンパク含量が8.0~10.5質量%である。ここでいうタンパク含量は、後述するグルテンバイタリティ測定における全粗タンパク含量として測定できる。前記の国内産小麦品種のうち、本発明で好ましく用いられるものとして、ゆめちから、ハルユタカ、春よ恋、きたほなみ、チクゴイズミやこれらの品種の派生品種から選ばれる少なくとも一種であることが入手容易性や得られるベーカリー食品にしっとりもっちりした良好な食感を付与する点で好ましい。平成28年度の国内産小麦の作付品種において、きたほなみは国内全作付面積の43%、春よ恋は6%、ゆめちからは6%、チクゴイズミは6%等となっており、これらは国内産小麦の代表的な品種である。
【0024】
本発明において粉砕熱処理小麦粉の原料となる小麦粉中、国内産小麦品種の小麦粉の割合は、上述した食感の向上の点から、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であってもよい。また粉砕熱処理小麦粉の原料となる小麦粉として外国産小麦粉を用いる場合においても、当該外国産小麦粉として中力系又は強力系を用いることが好ましい。強力系の外国産小麦品種の小麦粉は通常タンパク含量が10.5~14質量%、中力系の外国産小麦品種の小麦粉は通常タンパク含量が8.0~10.5質量%である。
【0025】
本発明の粉砕熱処理小麦粉の製造方法においては、小麦粉及び加温した水を含む混合物を前記のように加熱処理した後、得られた熱処理小麦粉を粉砕する。本発明では、加熱処理の後、加熱した混合物を、粒状化工程を経ることなく粉砕することが好ましい。粒状化工程とは、加熱した混合物を粒子状にして生地粒子とする工程を指す。粒状化工程の例としては、押出し造粒機、混合造粒機などを用いた造粒工程が挙げられる。また加熱した混合物を2つのロールにて延伸した後、延伸された生地を切断して粒状化したり、前述した加熱処理に混練機を用いた場合に該混練機から押し出されてくる混合物を小さく切断して粒状化する工程が挙げられる。生地粒子の粒子径としては、1mm~50mmが挙げられ、好ましくは5mm~20mmである。本発明では、加熱した混合物について、粒状化工程を経ることなく粉砕することで、製造時間の短縮化や製造設備の省スペース化の利点がある。
【0026】
加熱処理により得られた熱処理小麦粉を粉砕する際、粉砕処理の方法は特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば、ロール式粉砕、衝撃式粉砕、気流式粉砕、ピンミル式粉砕等が挙げられるが、このうち、ピンミル式粉砕又は気流式粉砕を好適に使用できる。粉砕は、後述する本発明の粉砕熱処理小麦粉の粒度、具体的には400μm以下の粒子の割合が90質量%以上となる粒度に粉砕されることが好ましく、91.5質量%以上であることがより好ましく、93質量%以上であることが更に好ましい。
【0027】
なお、本発明においては、熱処理小麦粉の粉砕に先立ち、該熱処理小麦粉に乾燥処理を施してもよい。前述の通り熱処理小麦粉は通常湿潤状態であるため、粉砕前に乾燥することによって粉砕処理をより適切に行うことができる。乾燥処理としては、棚乾燥、熱風乾燥、流動層乾燥等の公知の方法によって実施できる。また、粉砕と同時に乾燥を行ってもよい。また、粉砕の前に熱処理小麦粉の乾燥を行わない場合は、粉砕後に乾燥して、保存性を高めることが好ましい。乾燥時の乾燥温度は100℃超170℃以下であることが乾燥時間の短時間化や、熱処理粉を使用した製パンの作業性の点から好ましく、105℃以上170℃以下がより好ましく、120℃以上150℃以下が特に好ましい。
【0028】
次いで、本発明の粉砕熱処理小麦粉を説明する。本発明の粉砕熱処理小麦粉は、未処理のときの糊化熱を100とした場合に10以上55以下の糊化熱を有し、未処理のときのグルテンバイタリティを100とした場合に50以上90以下のグルテンバイタリティを有し、粒径400μm以下の粒子が90質量%以上の粒度分布を有し、かつ25℃で対粉500質量%に加水した場合の粘度が1Pa・s以上4Pa・s以下である。
【0029】
本発明の粉砕熱処理小麦粉は、前記糊化熱が55以下であることで吸水性及び膨潤性に優れ、パン類を調製したときにもっちりとした食感が良好となる。一方、前記糊化熱が10以上であることで、パン類を調製した場合、生地のべたつきが抑制されしっとりもっちりした食感が良好となるほか、作業性が向上する。これらの点から、前記糊化熱は、13以上50以下が好ましく、15以上47以下がより好ましい。
【0030】
本発明の粉砕熱処理小麦粉は前記グルテンバイタリティが未処理のときのグルテンバイタリティを100とした場合に90以下であることで、得られるベーカリー食品においてしっとりもっちりした良好な食感が得られる。前記グルテンバイタリティが未処理のときのグルテンバイタリティを100とした場合に50以上であることで、例えばこれを用いて得られるパン類のボリュームが大きくなり、内相のきめが細かくなるほか、しっとりもっちりした食感が良好となる。この観点から、前記グルテンバイタリティは55以上85以下が好ましく、60以上80以下がより好ましい。
【0031】
本発明の粉砕熱処理小麦粉は、前記粘度が1Pa・s以上であることで、小麦粉中の吸水性及び膨潤性を向上させ、例えば当該小麦粉を用いてパン類を調製した場合、もっちりとした食感に優れる。また前記粘度が4Pa・s以下であることで、澱粉粒の崩壊が抑制されて生地がべたつかず、離水を遅らせて焼成後の体積を大きくすることができるほか、きめ細やかな内相が得られ、且つしっとりもっちりした食感に優れる。一方、これらの観点から、本発明の粉砕熱処理小麦粉は前記粘度が1.1Pa・s以上3.7Pa・s以下であることが好ましく、1.2Pa・s以上3.5Pa・s以下であることがより好ましい。
【0032】
本発明の粉砕熱処理小麦粉は、粒径400μm以下の粒子の割合が90質量%以上であることで、例えばパン類の生地調製時に該小麦粉が水に速やかに溶解し、生地がべたつきにくい。また焼成後の食感がもっちり感に優れ、ざらつきを抑制できる。これらの点から本発明の粉砕熱処理小麦粉における粒径400μm以下の粒子は91.5質量%以上であることがより好ましく、93質量%以上であることが更に好ましい。
【0033】
前記の糊化熱、グルテンバイタリティ、粒度及び粘度をそれぞれ前記範囲内とした粉砕熱処理小麦粉は、上述した本発明の粉砕熱処理小麦粉の製造方法により好適に製造される。
【0034】
本発明における糊化熱、グルテンバイタリティ、粒度、及び粘度は下記のようにして測定する。以下、未処理粉とは、測定対象の粉砕熱処理小麦粉と同銘柄の小麦を製粉した熱処理前の小麦粉を指す。
《糊化熱の測定》
示差走査型熱量計(セイコー社製)を用い、粉砕熱処理小麦粉の乾物質量に対し4倍量の蒸留水を加えたアルミカプセルと、同量の蒸留水のみを加えたアルミカプセルを比較対照として、25℃から140℃まで毎分5℃で昇温し、対照との吸熱エネルギーの差異を測定する。そして糊化されるときに生じる吸熱エネルギーを乾物1gあたりの糊化熱(J/g)として表す。このようにして得られた糊化熱の未処理粉の糊化熱を100としたときの相対値を粉砕熱処理小麦粉の糊化熱とする。
【0035】
《グルテンバイタリティの測定》
(1)小麦粉の可溶性粗タンパク含量の測定:
(a)100mL容のビーカーに試料(小麦粉)を2g精秤して入れる。
(b)前記のビーカーに0.05規定酢酸40mLを加えて、室温で60分間撹拌して懸濁液を調製する。
(c)前記(b)で得た懸濁液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(d)前記で用いたビーカーを0.05規定酢酸40mLで洗って洗液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(e)前記(c)及び(d)で回収した濾液を一緒にして100mLにメスアップする。
(f)ティケーター社(スウェーデン)のケルテックオートシステムのケルダールチューブに前記(e)で得られた液体の25mLをホールピペットで入れて、分解促進剤(日本ゼネラル株式会社製「ケルタブC」;硫酸カリウム:硫酸銅=9:1(質量比))1錠及び濃硫酸15mLを加える。
(g)前記したケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック分解炉(DIGESTION SYSTEM 20 1015型)を用いて、ダイヤル4で1時間分解処理を行い、更にダイヤル9又は10で1時間分解処理を自動的に行った後、この分解処理に続いて連続的に且つ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック蒸留滴定システム(KJELTEC AUTO 1030型)を用いて、その分解処理を行った液体を蒸留及び滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記の数式により、試料(小麦粉)の可溶性粗タンパク含量を求める。
(数1)
可溶性粗タンパク含量(%)=0.14×(T-B)×F×N×(100/S)×(1/25)
式中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
B=ブランクの滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定するか又は力価の表示のある市販品を用いる)
N=窒素タンパク質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0036】
(2)小麦粉の全粗タンパク含量の測定:
(a)前記(1)で用いたのと同じティケーター社のケルテックオートシステムのケルダールチューブに、試料(小麦粉)を0.5g精秤して入れ、これに前記(1)の(f)で用いたのと同じ分解促進剤1錠及び濃硫酸5mLを加える。
(b)前記(1)で用いたのと同じケルテックオートシステムのケルテック分解炉を用いて、ダイヤル9又は10で1時間分解処理を行った後、この分解処理に続いて連続的に且つ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれている前記(1)で用いたのと同じケルテック蒸留滴定システムを用いて、前記で分解処理を行った液体を蒸留及び滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記の数式により、試料(小麦粉)の全粗タンパク含量を求める。
(数2)
全粗タンパク含量(%)=(0.14×T×F×N)/S
式中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(mL)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定)
N=窒素タンパク質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0037】
(3)グルテンバイタリティの算出:
前記(1)で求めた試料(小麦粉)の可溶性粗タンパク含量及び前記(2)で求めた試料(小麦粉)の全粗タンパク含量から、下記の数式により試料(小麦粉)のグルテンバイタリティを求める。このようにして得られたグルテンバイタリティの未処理粉の値を100としたときの相対値を粉砕熱処理小麦粉のグルテンバイタリティとする。
(数3)
グルテンバイタリティ(%)=(可溶性粗タンパク含量/全粗タンパク含量)×100
【0038】
《粘度の測定》
(1)バッターの調製
ボール(ホバート社製)に25℃の水を500mL注ぎ、その上に粉砕熱処理小麦粉(水分量は8.0質量%~15.0質量%の範囲内)を100g入れる。ワイヤーホイップ(ホバート社製)にて適当に撹拌し、粉と水を馴染ませた後、ミキサー(ホバート社製)にて1st=30秒間、2nd=240秒間撹拌する。
(2)測定方法
BM型粘度計を使用し、ミキサー撹拌後10分経過後の25℃での粘度を測定する。
【0039】
《粒度の測定》
500gの小麦粉に対して、目開き400μm試験用の篩を用いて60秒間手ぶるいする。試験用の篩上に残留する小麦粉の重量を測定し、500gで割算する。測定時の室温は25℃、湿度は70℃とする。粒度測定時の小麦粉の水分量は8.0質量%~15.0質量%の範囲内とする。当該水分量は加熱乾燥法で測定できる。
【0040】
本発明の粉砕熱処理小麦粉は、二次加工して種々の食品用途に用いることができ、代表的な用途としてベーカリー食品が挙げられる。本発明でいうベーカリー食品は、穀粉を主原料とし、これに必要に応じてイーストや膨張剤、水、食塩、砂糖等の副材料を加えて得られた発酵又は非発酵生地を、焼成、蒸し、フライ等の加熱処理に供して得られる食品をいう。本発明が適用可能なベーカリー食品の例としては、パン類、菓子類が挙げられる。パン類としては、食パン、フランスパン、ロールパン、コッペパン、クロワッサン、ピザ等が挙げられる。菓子類としては、ドーナツ、どら焼き、スポンジケーキ、バターケーキ、ホットケーキ、パンケーキ、マフィン、クッキー等が挙げられる。
【0041】
本発明の粉砕熱処理小麦粉は、ベーカリー食品用ミックスの原料として用いることができる。
本発明のベーカリー食品用ミックスは、本発明の粉砕熱処理小麦粉の製造方法で得られた粉砕熱処理小麦粉又は本発明の粉砕熱処理小麦粉を含有するものである。本発明者は、本発明の粉砕熱処理小麦粉の製造方法で得られた粉砕熱処理小麦粉又は本発明の粉砕熱処理小麦粉を用いることで、しっとりもっちりした食感を有し、十分なボリューム感ときめの細かい内相を有し、かつ食感の経時的な劣化が起こり難いベーカリー食品が得られることを見出した。しかしながら、本発明の粉砕熱処理小麦粉の製造方法により得られた粉砕熱処理小麦粉の物性や特性は種々のものが存在し、全てを明らかにして出願することは、物性の特定方法から開発する必要があるため長期の研究が必要であり、製品寿命の短い食品の分野において実際的には不可能である。そこで、本出願においては、本発明の粉砕熱処理小麦粉の製造方法で得られた粉砕熱処理小麦粉を含有することをベーカリー食品用ミックスの構成として規定することとした。以上の通り、出願時において本明細書に記載されていること以外に当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在した。
【0042】
本発明のベーカリー食品用ミックスは、本発明の粉砕熱処理小麦粉の製造方法で得られた粉砕熱処理小麦粉又は本発明の粉砕熱処理小麦粉に加えて、非熱処理小麦粉を含有することが、作業性、食感、外観、内相を良好なものにしやすい点で好ましい。非熱処理小麦粉としては、熱処理されていない未処理の小麦粉を用いることができ、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。非熱処理小麦粉は、外国産及び国内産小麦の何れを原料とする小麦粉も使用できる。特に粉砕熱処理小麦粉の原料に国内産麦小麦粉を用いる場合に、非熱処理小麦粉として、外国産小麦を原料とする小麦粉を用いることが、入手容易性の点で好ましい。
【0043】
本発明のベーカリー食品用ミックスが非熱処理小麦粉を含む場合、粉砕熱処理小麦粉の配合量は、粉砕熱処理小麦粉と非熱処理小麦粉の合計100質量部中、1質量部以上40質量部以下であることが好ましい。粉砕熱処理小麦粉の配合量を1質量部以上とすることで、ベーカリー食品において食感の改善効果が一層得やすくなる。粉砕熱処理小麦粉の配合量を40質量部以下とすることで、製菓・製パン性が良好となる。これらの観点から、ベーカリー食品用ミックス中の、粉砕熱処理小麦粉の配合量は、粉砕熱処理小麦粉と非熱処理小麦粉の合計100質量部中、粉砕熱処理小麦粉の配合量は、5質量部以上40質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上40質量部以下であることが更に好ましい。
【0044】
本発明のベーカリー食品用ミックスにおいて粉砕熱処理小麦粉と非熱処理小麦粉の合計100質量部中、非熱処理小麦粉の配合量は作業性、食感、外観、内相を良好なものとする効果が高い点から、60質量部以上99質量部以下であることが好ましく、65質量部以上95質量部以下であることがより好ましく、70質量部以上90質量部以下であることが更に好ましい。
更に、ベーカリー食品用ミックスにおける粉砕熱処理小麦粉と非熱処理小麦粉の合計量の割合は50質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましい。特に上記の量は、作業性、食感、外観、内相を良好なものとする効果が高い点から、一般的なパン用途において好ましい。
【0045】
ベーカリー食品用ミックスには、前記の粉砕熱処理小麦粉及び非熱処理小麦粉以外の他の成分を含有させることもできる。例えば、ライ麦粉、大麦粉、そば粉、米粉、豆粉、コーンフラワー等の小麦粉以外の穀粉;馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシースターチ、小麦澱粉、及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の処理を施した加工澱粉;炭酸水素ナトリウム、ベーキングパウダー、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム等の膨張剤或いはイースト;サラダ油等の油脂類;砂糖等の糖類;全卵、卵白、卵黄等の卵類;牛乳、脱脂粉乳、バター等の乳製品;食塩等の塩類;乳化剤、増粘剤、酸味料、香料、香辛料、着色料、果汁、果実、ビタミン類等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの他の成分は、粉砕熱処理小麦粉と非熱処理小麦粉との混合時に一緒に混合してもよいし、粉砕熱処理小麦粉と非熱処理小麦粉の一方に予め混合しておいてもよいし、粉砕熱処理小麦粉と非熱処理小麦粉の混合後に更に混合させてもよい。
【0046】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、上記又は下記の実施例に記載の好ましい構成を上記又は下記に記載の別の任意の好ましい構成と組み合わせることが可能である。なお、ここでいう好ましい構成とは更に好ましい、特に好ましい等の段階を一切問わず何れの段階のものを何れの段階のものとも組み合わせ可能とする。
【実施例
【0047】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0048】
(実施例1~23、比較例1~8)
ヒートジャケットと1軸エクストルーダーを備えた密閉容器を、予め表1に記載した雰囲気温度に達温させた。具体的には、蒸気を熱源としたヒートジャケットにより、密閉容器をその外部から加温し、容器内の雰囲気温度を表1に記載の温度に達温させた。
その後、表1に記載した品種・銘柄の小麦を製粉した小麦粉を用意した。表1に記載の所定温度に加熱した水及び水蒸気を表1に記載の量用意した。前記密閉容器に小麦粉と、前記の加熱した水及び/又は水蒸気とを入れて混合し、前記所定の雰囲気温度に設定された該密閉容器内で表1に記載の所定時間加熱した後、密閉容器から排出した。加熱完了時の混合物の温度(密閉容器出口における混合物の温度)は表1に示す温度であった。加熱処理後の混合物を粒状化工程を経ることなく棚乾燥によって130℃にて乾燥した後、ピンミルで得られる粉砕熱処理小麦粉が表1の粒度となるように粉砕し、混合物粒子を粉砕熱処理小麦粉として回収した。得られた粉砕熱処理小麦粉の粒度、未処理のときの糊化熱を100とした場合の糊化熱(糊化熱比)、未処理のときのグルテンバイタリティを100とした場合のグルテンバイタリティ(グルテンバイタリティ比)、25℃で対粉500質量%に加水した場合の粘度を前記方法によりそれぞれ測定した。なお、上記で用いた水及び水蒸気により、容器内は加圧下で加熱された。
【0049】
(比較例9)
加熱処理後の粉砕を行わなかった以外は実施例18と同様として熱処理小麦粉を得、粒度、未処理のときの糊化熱を100とした場合の糊化熱(糊化熱比)、未処理のときのグルテンバイタリティを100とした場合のグルテンバイタリティ(グルテンバイタリティ比)、25℃で対粉500質量%に加水した場合の粘度を前記方法によりそれぞれ測定した。
【0050】
(比較例10)
表1に記載した品種の小麦を製粉した小麦粉をそのままピンミルで粉砕し、粒度、未処理のときの糊化熱を100とした場合の糊化熱(糊化熱比)、未処理のときのグルテンバイタリティを100とした場合のグルテンバイタリティ(グルテンバイタリティ比)、25℃で対粉500質量%に加水した場合の粘度を前記方法によりそれぞれ測定した。
【0051】
(試験例1)
実施例1~23、比較例1~8の粉砕熱処理小麦粉及び比較例9、10の処理小麦粉を用いて、下記方法によりベーカリー食品の一種である食パンを製造した。得られた食パンを室温(25℃)で1日間静置した後、得られた食パンの食感、外観を10名の専門パネラーに下記評価基準に基づいて評価してもらった。また10名の専門パネラーには、食パン製造時の作業性について併せて評価してもらったほか、得られた食パンを室温(25℃)で3日間静置した後の食感も下記評価基準に基づいて併せて評価してもらった。各パネラーの評価点の平均を表1に示す。
【0052】
(食パンの製造方法)
市販の製パン用ミキサー(株式会社ダルトン製、万能混合機 型式5DM-03-r)におけるミキシングボウルに、小麦1CWを製粉した小麦粉320gと、評価対象の粉砕熱処理小麦粉又は処理小麦粉80gと、食塩8gと、砂糖32gと、生イースト(オリエンタル酵母工業製「オリエンタルイースト」)9.2gと、イーストフード(オリエンタル酵母工業製「Cイーストフード」)0.4gと、適正量の水とを投入し、ミキシング工程を実施してパン生地を調製した。具体的には低速で4分間ミキシングを行った後、高速で2分間ミキシングを行い、更に、16gの油脂を添加して低速で4分間ミキシングを行った後、高速で1分間混捏した(捏上温度27℃)。こうして得られたパン生地を、温度27℃、相対湿度75%の条件下で1時間発酵させた後、450gに分割して丸め、ベンチタイムを30分間とった後、パン生地を棒状にして食パン型に詰めた。そして、ホイロ(温度38℃、相対湿度85%の雰囲気下)を60分間行った後、温度200℃で30分間焼成して食パンを得た。
【0053】
(食パン製造時の作業性の評価基準)
5点:食パン製造の全工程を通じてパン生地にベタツキがなく、二次加工適性は良好。
4点:食パン製造の工程の一部においてパン生地にベタツキが発生するが、二次加工は問題ない。
3点:食パン製造の全工程を通じてパン生地にベタツキが発生するが、二次加工は問題ない。
2点:食パン製造の全工程を通じてパン生地にベタツキが発生し、パン生地の取り扱いに特段の注意をはらわないと二次加工が困難。
1点:食パン製造の全工程を通じてパン生地のベタツキが酷く、二次加工が困難。
【0054】
(食パンの食感の評価基準)
5点:全体が充分にしっとりもっちりした食感を有し、食味・食感は良好。
4点:部分的にしっとり感やソフト感に欠ける場合があるものの、全体としてはしっとりもっちりした食感を有し、食味・食感は問題ない。
3点:しっとり感やもっちり感が少し感じられる。
2点:全体にしっとり感やもっちり感が少なく、部分的にパサつく。
1点:全体に軟らか過ぎるか又はパサついた食感であり、食味・食感は不良。
【0055】
(食パンの外観(ボリューム)の評価基準)
5点:ボリュームが非常に大きく良好である。
4点:ボリュームが大きく良好である。
3点:ボリュームが若干大きい。
2点:ボリュームがやや小さく不良である。
1点:ボリュームが小さく不良である。
【0056】
(食パンの内相の評価基準)
5点:内相のきめが非常に細かく良好である。
4点:きめが細かく良好である。
3点:きめ細かさが若干みられる。
2点:きめがやや粗く不良である。
1点:きめが粗く不良である。
【0057】

【表1】
【0058】
表1に示す通り、本発明の製法を行い特定の糊化熱、グルテンバイタリティ、粒度分布及び粘度を満たす各実施例において、作業性、しっとりもっちりした食感、外観のボリューム感、きめの細かい内相、食感の経時的な劣化の抑制が実現されている。一方、混合処理における水分の量が小麦粉100質量部に対して20質量部未満又は55質量部超である比較例1及び2、混合処理における水の温度が70℃未満である比較例3及び4、加熱完了時の混合物の温度が80℃未満又は100℃超であるか加熱時間が3秒未満又は60秒超である比較例5~7、粉砕を行わなかった比較例9、加熱処理を行わなかった比較例10は、本発明の糊化熱、グルテンバイタリティ、粒度分布又は粘度の範囲外であり、且つ、作業性、食感、外観、内相の何れかにおいて劣っていることが判る。
【0059】
(試験例2)
試験例1において、評価対象の粉砕熱処理小麦粉として実施例2又は6で得られた粉砕熱処理小麦粉を用い、これと非熱処理小麦粉としての強力粉(小麦1CWを製粉した小麦粉)の配合量を表2に記載の所定量に適宜変更して、上記(食パンの製造方法)により食パンを製造した。得られた食パンを室温(25℃)で1日間静置した。食パン製造時の作業性及び食パンの食感、外観(ボリューム)及び内相を、10名の専門パネラーに前記試験例1と同じ評価基準に基づいて評価してもらった。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示す通り、粉砕熱処理小麦粉と非熱処理小麦粉の合計100質量部のうち、粉砕熱処理小麦粉を1~40質量部で含有する各実施製造例のベーカリー食品用ミックスは、作業性、食感、外観、内相ともに優れていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の製造方法によって製造された粉砕熱処理小麦粉及び本発明の粉砕熱処理小麦粉、並びにそれらを用いたベーカリー食品用ミックスによれば、しっとり且つもっちりした食感を有し、十分なボリューム感ときめの細かい内相を有し、かつ食感の経時的な劣化が起こり難いベーカリー食品が得られる。また、本発明の製造方法によって製造された粉砕熱処理小麦粉及び本発明の粉砕熱処理小麦粉、並びにそれらを用いたベーカリー食品用ミックスは、二次加工適性に優れているため、製造工程において生地のべたつきが生じにくく、作業性に優れ、該ベーカリー食品を効率よく製造することができる。