(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】受光素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 27/146 20060101AFI20240718BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
H01L27/146 F
H01L21/02 B
(21)【出願番号】P 2020190363
(22)【出願日】2020-11-16
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】目黒 達也
(72)【発明者】
【氏名】田中 保宣
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-170872(JP,A)
【文献】特開2013-243355(JP,A)
【文献】特表2020-516200(JP,A)
【文献】特開2020-167272(JP,A)
【文献】特開2009-123841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/146
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する炭化珪素半導体層と、
前記炭化珪素半導体層の上にシリコン酸化膜を介在させて貼り合わされたシリコン半導体層とを備え、
前記シリコン半導体層は、入射した光を光電変換する光検出部となる不純物拡散領域を有し、
前記炭化珪素半導体層は、前記凹部に形成され、前記光検出部の出力を増幅する信号増幅部となるソース/ドレイン領域を有している、受光素子。
【請求項2】
前記信号増幅部となるソース/ドレイン領域の上にゲート絶縁膜を介在させて形成されたゲート電極を有し、
前記ゲート絶縁膜は、前記炭化珪素半導体層と前記シリコン半導体層との間に介在するシリコン酸化膜と一体である、請求項1に記載の受光素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された受光素子を複数備えている、撮像素子。
【請求項4】
炭化珪素半導体層に凹部を形成する工程と、
前記凹部に、信号増幅部となる複数のソース/ドレイン領域を形成する工程と、
前記ソース/ドレイン領域を形成した前記炭化珪素半導体層の表面にシリコン酸化膜を形成する工程と、
前記シリコン酸化膜を形成する工程よりも後で、前記炭化珪素半導体層にシリコン半導体層を貼り合わせる工程と、
シリコン半導体層に光検出部となる不純物拡散領域を形成する工程とを備えている、受光素子の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン半導体層を貼り合わせる工程よりも後で、前記シリコン半導体層に前記凹部を露出する開口部を形成する工程をさらに備えている、請求項4に記載の受光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は受光素子及びその製造方法に関し、特に炭化珪素半導体とシリコン半導体とが複合された受光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
人が近づけない場所において種々の作業を行う手段として、遠隔操作型又は自立型のロボットが注目されている。中でも原子炉の廃炉作業等の高レベルの放射線にさらされる現場において使用できるロボットへの期待が高まっている。しかし、現在ロボットの制御に用いられているシリコン(Si)半導体デバイスは、放射線への耐性が低く、数十分から1時間程度しか作業を行うことができない。このため、高レベルの放射線環境においても長時間の使用が可能な新たな半導体デバイスが求められている。特に、ロボットの目となる撮像素子は外部環境にさらされるものであり、その改良は重要である。
【0003】
炭化珪素(SiC)半導体は、耐熱性及び放射線耐性に優れた半導体材料として期待されており、SiC半導体を用いることにより、高レベルの放射線環境においても長時間作動する半導体デバイスを実現できる可能性がある。しかし、SiC半導体はバンドギャップが大きいため、可視光が容易に透過してしまう。このため、可視光域の光電変換素子をSiC半導体により形成することは困難である。
【0004】
一方、異種基板のそれぞれの上に半導体素子を形成し、それを貼り合わせることが検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。このため、Si半導体層に形成された可視光域の光電変換素子と、SiC半導体層に形成された耐放射線性に優れた増幅素子とを組み合わせることにより、耐放射線性に優れた可視光域の受光素子を実現できる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、不純物注入を行ったSiC半導体層にSi半導体層を貼り合わせると、不純物注入を行った部分において剥がれが生じやすく、受光素子を安定して形成できないということを本願発明者らは見いだした。
【0007】
本開示の課題は、Si半導体とSiC半導体とを組み合わせた可視光域の受光素子を安定して形成できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の受光素子の一態様は、凹部を有する炭化珪素半導体層と、炭化珪素半導体層の上にシリコン酸化膜を介在させて貼り合わされたシリコン半導体層とを備え、シリコン半導体層は、入射した光を光電変換する光検出部となる不純物拡散領域を有し、炭化珪素半導体層は、凹部に形成され、光検出部の出力を増幅する信号増幅部となるソース/ドレイン領域を有している。
【0009】
本開示の受光素子の製造方法の一態様は、炭化珪素半導体層に凹部を形成する工程と、凹部に、信号増幅部となる複数のソース/ドレイン領域を形成する工程と、ソース/ドレイン領域を形成した炭化珪素半導体層の表面にシリコン酸化膜を形成する工程と、シリコン酸化膜を形成する工程よりも後で、炭化珪素半導体層にシリコン半導体層を貼り合わせる工程と、シリコン半導体層に光検出部となる不純物拡散領域を形成する工程とを備えている。
【発明の効果】
【0010】
本開示の受光素子によれば、Si半導体とSiC半導体とを組み合わせた可視光域の受光素子を安定して形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る受光素子を示す回路図である。
【
図2】一実施形態に係る受光素子のレイアウトを示す平面図である。
【
図3】
図2のIII-III線における断面図である。
【
図5】一実施形態に係る受光素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図6】一実施形態に係る受光素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図7】一実施形態に係る受光素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図8】一実施形態に係る受光素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図9】一実施形態に係る受光素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図10】一実施形態に係る受光素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図11】一実施形態に係る受光素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
【
図12】一実施形態に係る撮像素子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示すように、一実施形態の受光素子100は、光電変換素子であるフォトダイオードを含む光検出部101と、光検出部101の出力を増幅する信号増幅部102とを有している。信号増幅部102は、リセットトランジスタ(RST)、ソースフォロアトランジスタ(SF)、行選択トランジスタ(RS)を有している。φRにリセット信号、φXに行選択信号を加えることにより受光素子として駆動することができる。
図1には信号増幅部102を構成する各トランジスタがpチャネルMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)である例を示している。
【0013】
図2~
図4に示すように、本実施形態の受光素子100は、炭化珪素(SiC)半導体層111と、SiC半導体層111の上に形成されたシリコン酸化膜113と、シリコン酸化膜113の上に形成されたシリコン(Si)半導体層112とを有している。本実施形態において、SiC半導体層111は、n型の4H-SiC半導体基板である。
【0014】
SiC半導体層111は、凹部141を有している。凹部141の平面サイズは、形成するトランジスタのチャネル長及びチャネル幅等に応じて決めることができるが、例えば50nm~100μm×50nm~100μm程度とすることができる。凹部141の深さは50nm~200nm程度とすることができる。
【0015】
凹部141には、複数のソース/ドレイン領域142が形成されている。本実施形態において、ソース/ドレイン領域142は、p+型の不純物拡散層である。これらのソース/ドレイン領域142は、RSTランジスタ、SFトランジスタ、RSトランジスタのソース/ドレインを構成する。ソース/ドレイン領域142の上には、オーミック接触したオーミック電極145と、シリコン酸化膜113をゲート絶縁膜とするゲート電極146とが形成されている。
【0016】
Si半導体層112は、シリコン酸化膜113側から順次積層されたp+型不純物拡散層151とn+型不純物拡散層152とを有しており、光検出部101のフォトダイオードを構成する。Si半導体層112は、SiC半導体層111の凹部141の部分を避けて形成されている。
【0017】
SiC半導体層111及びSi半導体層112を覆うように層間絶縁膜114が形成されており、層間絶縁膜114には、各トランジスタ及びフォトダイオードの電極を引き出す配線115及び所定の電極同士を接続する配線(図示せず)が形成されている。
【0018】
本実施形態の受光素子100は以下のように形成することができる。まず、
図5に示すように、n型のSiC半導体層111にドライエッチングにより凹部141を選択的に形成する。本実施形態においては、SiC半導体層111として、(0001)4°のオフ角を有する4H-SiC半導体基板を用いた。
【0019】
次に、
図6に示すように、形成した凹部141にp型不純物を選択的にイオン注入した後、活性化して複数のソース/ドレイン領域142を形成する。p型不純物にはアルミニウム(Al)等を用いることができる。活性化は、例えば不純物注入を行ったSiC半導体層111上の全面にカーボンキャップ膜を形成した後、1700℃程度の熱処理を行えばよい。この後、ソース/ドレイン領域142を形成したSiC半導体層111にゲート絶縁膜となる厚さが20nm程度のシリコン酸化膜113Aを形成する。シリコン酸化膜113Aは、例えば1150℃程度の熱酸化により形成することができる。
【0020】
次に、
図7に示すように、シリコン酸化膜113Aを形成したSiC半導体層111に、あらかじめp
+型不純物拡散層151及びシリコン酸化膜113Bを形成したSOI(シリコンオンインシュレータ)基板120を貼り合わせる。SOI基板120は、例えば厚さが500nm~3μm程度のp型の活性層121が、Si支持層122及びBOX絶縁層123の上に形成されたものを用いることができる。p
+型不純物拡散層151は、例えば活性層121にホウ素(B)イオンを注入することにより形成することができる。シリコン酸化膜113Bは、例えばSPM(H
2SO
4/H
2O
2)洗浄により形成することができる。貼り合わせは、例えば0.5%程度の希フッ酸を用いた方法により行うことができる。
【0021】
次に、
図8に示すように、ウエットエッチングによりSi支持層122及びBOX絶縁層123を除去した後、貼り合わせた活性層121にn型不純物の注入を行い、p
+型不純物拡散層の上にn
+型不純物拡散層152を形成する。n型不純物には例えばリン(P)を用いることができる。
【0022】
次に、
図9に示すように、光検出部となるSi半導体層112の部分を残すように活性層121を選択的にドライエッチングする。これにより、凹部141が露出する開口部154が形成される。凹部141を露出させた後、シリコン酸化膜113に生じたダメージを取り除くために、再度熱酸化を行ってもよい。
【0023】
次に、
図10に示すように、オーミック電極145及びゲート電極146を形成する。オーミック電極145は、所定のソース/ドレイン領域142とオーミック接触するように、シリコン酸化膜113に設けられた開口部に形成する。オーミック電極145は、例えばニッケル-ニオブ(Ni-Nb)合金層を形成した後、熱処理をしてシリサイド化することにより形成できる。オーミック電極はニッケル-モリブデン合金層を使うこともできる。ゲート電極146は、シリコン酸化膜113上の所定の位置に形成する。ゲート電極146は、例えばアルミニウム電極、窒化チタン電極、シリコン電極とすることができる。但し、オーミック電極及びゲート電極はこのような構成に限らない。
【0024】
次に、
図11に示すように、層間絶縁膜114を形成した後、所定の電極を引き出す配線115及び所定の電極同士を接続する配線(図示せず)を形成する。
【0025】
SiC半導体層に不純物注入を行った後、熱酸化を行うと、不純物が注入された部分とされていない部分とにおいて熱酸化膜の膜厚に差が生じる。この熱酸化膜の膜厚のばらつきが貼り合わせたSi半導体層の剥がれの原因となる。本実施形態においては、不純物拡散層であるソース/ドレイン領域142は、凹部141に形成されている。このため、シリコン酸化膜113のソース/ドレイン領域142の上に形成された部分は、Si半導体層112との貼り合わせに関与しない。従って、Si半導体層112の剥がれが生じにくく、Si半導体とSiC半導体とを組み合わせた可視光域の受光素子を安定して形成できる。
【0026】
本実施形態の受光素子100は、増幅回路102がSiC半導体層111に形成されたSiC半導体素子であるため、耐放射線性及び耐熱性に優れている。一方、光電変換を行う光検出部101は、SiC半導体層111に貼り合わされたSi半導体層112に形成されているため、可視光域の光を効率良く光電変換することができる。
【0027】
本実施形態の受光素子100は、撮像素子の画素として用いることができ、
図12に示すような複数の画素がアレイ状に配置された撮像素子200とすることができる。撮像素子200の基板上には垂直選択回路及び水平選択回路等を形成することができる。
【0028】
本実施形態において、信号増幅部をpチャネルトランジスタにより形成する例を示したが、nチャネルトランジスタにより形成することもできる。nチャネルトランジスタを形成する場合は、例えばn型のSiC半導体基板の上にエピタキシャル成長させたp型のSiC半導体層に凹部を形成し、この凹部にn型の不純物拡散層を形成すればよい。
【0029】
Si半導体層112をSiC半導体層111に貼り合わせる前にp+型不純物拡散層151を形成し、Si半導体層112をSiC半導体層111に貼り合わせた後でn+型不純物拡散層152を形成する例を示したが、貼り合わせる前に両方の不純物拡散層を形成することも、貼り合わせた後に両方の不純物拡散層を形成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本開示の受光素子は、Si半導体とSiC半導体とが組み合わされた可視光域の受光素子を容易に実現でき、耐放射線性等が要求される分野において有用である。
【符号の説明】
【0031】
100 受光素子
101 光検出部
102 信号増幅部
111 SiC半導体層
112 Si半導体層
113 シリコン酸化膜
113A シリコン酸化膜
113B シリコン酸化膜
114 層間絶縁膜
115 配線
120 SOI基板
120 基板
121 活性層
122 Si支持層
123 BOX絶縁層
141 凹部
142 ソース/ドレイン領域
145 オーミック電極
146 ゲート電極
151 p+型不純物拡散層
152 n+型不純物拡散層
154 開口部
200 撮像素子