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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】前立腺癌の診断を補助する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20240718BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240718BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
G01N33/574 B
G01N33/53 V
C07K14/705
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020201372
(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公開番号】P2022089105
(43)【公開日】2022-06-15
【審査請求日】2023-03-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)第79回日本癌学会学術総会抄録、ウェブサイトの掲載日 2020年9月28日、ウェブサイトのアドレス https://www.meeting-schedule.com/jca2020/author.html (2)第79回日本癌学会学術総会、演題名 「自動化マイクロキャピラリー電気泳動法による高Gleason前立腺癌診断法のための血中Core型フコシル化PSA測定法の開発(Automated immunoassay system for serum core-type fucosylated PSA to predict high Gleason prostate cancer)(プログラム番号PE14-7-3)、ウェブサイトの掲載日 2020年10月1日、ウェブサイトのアドレス https://site2.convention.co.jp/jca2020/
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】野々村 祝夫
(72)【発明者】
【氏名】三善 英知
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和利
(72)【発明者】
【氏名】吉川 友康
(72)【発明者】
【氏名】伊逹 睦廣
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/065527(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/138457(WO,A1)
【文献】CE, Wang et al.,Development of a glycoproteomic strategy to detect more aggressive prostate cancer using lectin-immunoassays for serum fucosylated PSA,Clinical Proteomics,2019年04月06日,Vol.16 No.13,pp.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者由来試料中の、フコシル化糖鎖であるフコースα1→6糖鎖を有する遊離型前立腺特異抗原(FucfPSA)の量、及び遊離型前立腺特異抗原(fPSA)の量を求め、得られた値を下記式に当てはめて計算し、得られた値である%FucfPSAをもとに前立腺癌を判定することを含む、前立腺癌の診断を補助する方法。
%FucfPSA=(FucfPSA量/fPSA量)×100
【請求項2】
前記FucfPSAの量を、fPSAに結合する抗体である抗fPSA抗体とフコースα1→6糖鎖に親和性を有するレクチンを用いて測定することにより求める、請求項1に記載の前立腺癌の診断を補助する方法。
【請求項3】
前記FucfPSAの量を、被検者由来試料と前記抗体とを接触させ、得られた被検者由来試料中のFucfPSAと前記抗体との複合体1と遊離型非フコシル化前立腺特異抗原と前記抗体との複合体2とを、前記レクチンに対する親和性に基づいて分離し、前記分離した複合体1の量を測定し、得られた測定結果に基づいて求める、請求項2に記載の前立腺癌の診断を補助する方法。
【請求項4】
フコースα1→6糖鎖に親和性を有するレクチンがスギタケレクチン又はレンズマメレクチンである、請求項2に記載の前立腺癌の診断を補助する方法。
【請求項5】
被検者由来試料が血清、血漿又は血液である、請求項1に記載の前立腺の診断を補助する方法。
【請求項6】
更に被検者由来試料中の前立腺特異抗原の総量であるトータルPSA量を求め、得られた値を下記式に当てはめて計算し、得られた値であるFPIをもとに前立腺癌を判定することを含む、請求項1に記載の前立腺癌の診断を補助する方法。
FPI=トータルPSA量/(101-%FucfPSA)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌の新規な判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌に罹患すると血液中の前立腺特異抗原(prostate specific antigen:以下「PSA」と略記する。)の値が高くなることから、PSA値は、前立腺癌を判定するための最も重要な腫瘍マーカーとして認識されている。
【0003】
現在広く行われている前立腺癌の診断方法は、血清中のトータルPSA量(すなわち、遊離型PSAと結合型PSAの合計の量、以下、「トータルPSA量」と略記する。)を指標とする方法である。しかし、トータルPSA量は、前立腺肥大症や前立腺炎等の前立腺癌以外の前立腺の病気がある場合にもしばしば高値になることが知られている。そのため、トータルPSA量が高値であっても、前立腺癌と前立腺肥大とをトータルPSA量で鑑別することは困難である。
【0004】
そのため、トータルPSA量が異常高値であった患者には、前立腺癌に罹患しているか否かの確定診断を行うため組織検査(生検)を行う。
生検では、採取した前立腺の組織の一部を顕微鏡で検査し、細胞の組織状態(組織型)をグレード別に分類してスコア(点数)化する。悪性度を判定するために、1番広い領域と2番目に広い領域の組織増を1~5段階の組織分類に当てはめる。その点数の合計値がグリーソンスコアであり、悪性度の最も低いスコア2から最も悪性度の高いスコア10までの9段階に分類される。診断にあたっては、「悪性度が低い(低リスク、2~6)」、「中間(中間リスク、7)」、「悪性度が高い(高リスク、8~10)」と判定する。
【0005】
しかし、生検の結果前立腺癌ではないと判定される場合も多かった。すなわち、本来ならば生検を行う必要がない患者にも生検を行うという、過剰な検査を行っていた場合が多かった。しかも生検には感染や出血の危険が伴い、また患者の身体的負担・経済的負担が大きいとういう問題がある。
更に、生検の結果グリーソンスコアが6以下の場合、病期等のその他の指標も併せて考慮の上、積極的な治療を行わずに経過観察を行う監視療法を選択することができる。しかし、現在の用いられているマーカーは、前立腺癌であるか否かを判定することはできるものの、リスクの程度(低リスク~高リスク)を判別又は予測することはできない。
【0006】
そのため、より診断の特異度が高く、不要な生検を回避することができる新たな診断方法の確立が望まれている現状にある。
【0007】
一方、フコシル化は癌および炎症における重要な糖鎖修飾の一つであり、core型、Lewis型、H型の3種類が存在する。高リスク前立腺癌ではCore型フコシル化タンパクが高発現し、前立腺癌の浸潤、転移に重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。
【0008】
例えば、ヒイロチャワンタケレクチン又はスギタケレクチンを用いたレクチン抗体ELISAを用いた測定で、患者の尿中のコアフコシル化糖鎖を有する遊離型PSA量が、前立腺癌の悪性度の進行に従って低下することが明らかになった(特許文献1)。
【0009】
また、特許文献2には、被検者由来血清検体中のフコシル化PSAとフコースα1→6糖鎖特異的レクチンとを反応させ、反応したレクチンを検出することを含む前立腺癌の検出方法であって、フコシル化PSAとレクチンとの反応工程及びそれ以降の処理工程からなる工程群の少なくとも一工程のpHを8.5よりも高く11.0未満に調整する方法が開示されている。該方法により測定した血中フコシル化PSA-フコースα1→6特異的レクチンの複合体の値は、前立腺癌のリスク(悪性度)が高いほど増大する(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】WO2017/138457号パンフレット
【文献】WO2019/065527号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記したようないずれの判定方法でも、グリーソンスコアと相関した判定は行えず、患者の不要な生検を行ってしまう場合を改善することは困難であった。そのため、前立腺癌の確定診断を得るためには、相変わらず患者に対し過剰な検査を行わざるを得ないのが現状である。
【0012】
本発明は、上記した状況に鑑みなされたもので、不要な生検を回避しながら前立腺癌を判定できる新たな判定方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は上記問題点を解決すべく鋭意研究の結果、血中の遊離型PSA量に対するcore型フコシル化PSA量の比率が、前立腺癌患者で有意に高くなることを見出した。そして、該比率が前立腺癌を判定するための新たなマーカーとなることを見出した。
また、本発明者等は、前立腺癌患者のうち生検を行う必要があると判断されるグリーソンスコアが6より高い患者で、該マーカーが高くなることを見出した。そして、このマーカーを用いれば、より高い特異度で前立腺癌の悪性度を判定することができ、該マーカーが生検の要否を判定するためのマーカーとして有用であることを見出した。
以上の知見に基づき、本発明者らは本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は以下の構成よりなる。
[1]被検者由来試料中の、フコシル化糖鎖であるフコースα1→6糖鎖を有する遊離型PSA(FucfPSA)の量、及び遊離型PSA(fPSA)の量を求め、得られた値を下記式に当てはめて計算し、得られた値である%FucfPSAをもとに前立腺癌を判定することを含む、前立腺癌の診断を補助する方法。
%FucfPSA=(FucfPSA量/fPSA量)×100
[2]前記FucfPSAの量を、fPSAに結合する抗体である抗fPSA抗体とフコースα1→6糖鎖に親和性を有するレクチンを用いて測定することにより求める、前記[1]に記載の前立腺癌の診断を補助する方法。
[3]前記FucfPSAの量を、被検者由来試料と前記抗体とを接触させ、得られた被検者由来試料中のFucfPSAと前記抗体との複合体1と遊離型非フコシル化前立腺特異抗原と前記抗体との複合体2とを、前記レクチンに対する親和性に基づいて分離し、前記分離した複合体1の量を測定し、得られた測定結果に基づいて求める、前記[2]に記載の前立腺癌の診断を補助する方法。
[4]フコースα1→6糖鎖に親和性を有するレクチンがスギタケレクチン又はレンズマメレクチンである、前記[2]又は[3]に記載の前立腺癌の診断を補助する方法。
[5]被検者由来試料が血清、血漿又は血液である、前記[1]~[4]のいずれか一つに記載の前立腺の診断を補助する方法。
[6]更に被検者由来試料中のPSAの総量であるトータルPSA量を求め、得られた値を下記式に当てはめて計算し、得られた値であるFPIをもとに前立腺癌を判定することを含む、前記[1]に記載の前立腺癌の診断を補助する方法。
FPI=トータルPSA量/(101-%FucfPSA)
【発明の効果】
【0015】
本発明の前立腺癌の診断を補助する方法によれば、前立腺癌を高い特異度で判定できる。また、グリーソン分類に相関した悪性度を判定でき、生検の要否を判定できるので、本来は生検の必要のない者に対する不要な生検を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】フコースα1→6糖鎖を有するPSAの一例の模式図である。
図2】実施例1で使用したマイクロチップの模式図である。
図3】実施例1で使用したマイクロチップのチップ内流路の模式図である。
図4】実施例1で得られた、%Fuc-PSAを前立腺癌患者(Pca)と非癌者(Negative)で比較した結果を示す。
図5】実施例1で得られた、FPIを前立腺癌患者(Pca)と非癌者(Negative)で比較した結果を示す。
図6】実施例1で得られた、%FucPSAを、グリーソンスコアがGS7-9の前立腺患者(GS7-9)と、非癌者及びGS6以下の前立腺癌患者(Negative-GS6)と、で比較した結果を示す。
図7】実施例1で得られた、FPIを、グリーソンスコアがGS7-9の前立腺患者(GS7-9)と、非癌者及びGS6以下の前立腺癌患者(Negative-GS6)とで比較した結果を示す。
図8】実施例1で得られたFPI、%FucPSA、トータルPSA量、及びFucfPSA値の測定結果をもとに行ったROC解析の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《本発明に係るPSAについて》
本発明に係る「結合型PSA」とは、α1-アンチキモトリプシンやα2-マクログロブリンなどの結合タンパク質と結合して複合体を形成したPSAをいう。
【0018】
本発明に係る「遊離型PSA」とは、α1-アンチキモトリプシンやα2-マクログロブリンなどの結合タンパク質と結合していないPSAをいう。以下、「fPSA」と略記する場合がある。
【0019】
糖鎖のフコシル化(フコース付加)には、core型、Lewis型、H型の3種類のタイプがあるが、本発明に係るフコシル化はCore型の「フコースα1→6糖鎖」の付加である。
【0020】
本発明に係る「フコースα1→6糖鎖」を有するPSA(フコシル化PSA)の糖鎖の構造の一例を下記式(I)に示す。
【0021】
【化1】
【0022】
また、式(I)の糖鎖を有するPSAの一例を、図1に模式図で示す。すなわち、糖鎖はPSAタンパク質のアスパラギン残基(N)に結合している。
【0023】
本発明に係る「フコースα1→6糖鎖を有する遊離型PSA」を、以下「FucfPSA」と略記する場合がある。
【0024】
《前立腺癌の診断を補助する方法》
本発明の前立腺癌の診断を補助する方法は、
「被検者由来試料中の、FucfPSAの量、及びfPSAの量を求め、得られた値を式[%FucfPSA=(FucfPSA量/fPSA量)×100]に当てはめて計算し、得られた値である%FucfPSAをもとに前立腺癌を判定することを含む、前立腺癌の診断を補助する方法」、又は
「更に被検者由来試料中の前立腺特異抗原の総量であるトータルPSA量を求め、得られた値を式[FPI=トータルPSA量/(101-%FucfPSA)]に当てはめて計算し、得られた値であるFPIをもとに前立腺癌を判定することを含む、前立腺癌の診断を補助する方法」
である。
【0025】
<1.被検者由来試料>
本発明に係る被検者由来試料(以下、「被検試料」又は単に「試料」ともいう。)としては、被検者であるヒト由来の試料であって、例えば血液、血漿、血清、精液、膀胱洗浄物、尿、組織抽出液、前立腺組織切片、前立腺組織生検試料等、あるいはこれらから調製されたもの等が挙げられる。中でも血清、血漿等が好ましい。特に血清が好ましい。
【0026】
<2.%Fuc-fPSAを決定する方法>
本発明の前立腺癌の診断を補助する方法における「%FucfPSA」とは、被検者由来試料中のfPSA量に対するFucfPSA量の比率[(FucfPSA量/fPSA量)×100]である。
以下に、%FucfPSAに係るfPSA量を測定する方法とFucfPSA量を測定する方法について説明する。
【0027】
(1)fPSA量を測定する方法
【0028】
本発明に係る試料中のfPSA量を測定する方法としては、
(1)-1.試料中のfPSA量を直接測定する方法、又は
(1)-2.試料中のFucfPSA量と非フコシル化fPSA(非FucfPSA)量を測定し、その量の和からfPSA量を求める方法
が挙げられる。
【0029】
(1)-1.試料中のfPSA量を直接測定する方法
fPSA量を直接測定する方法としては、公知のfPSA量を測定する方法が挙げられる。例えば、抗fPSA抗体を用いた公知の免疫学的測定法等が挙げられる。
【0030】
本発明に係る抗PSA抗体は、PSAに結合する抗体であればよく、fPSAと結合型PSAの両方に結合できる抗体と、fPSAに特異的に結合する抗体(抗fPSA抗体)を含む。
抗PSA抗体が特にfPSAに特異的に結合する抗体である場合には、「抗fPSA抗体」と記載する。また、抗PSA抗体が、fPSAと結合型PSAに結合できる抗体と抗fPSA抗体を含む場合は、単に「抗PSA抗体」と記載する。
【0031】
本発明に係る抗PSA抗体は、それぞれ上記した性質を持っているものであればよく、市販品でも常法により適宜調製されたものでもよく、それぞれモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。また、これらを単独であるいはこれらを適宜組み合わせて用いる等は任意である。
【0032】
本発明に係る抗PSA抗体の由来は特に限定されず、市販品、あるいは細胞融合技術や遺伝子組換え技術等を利用した自体公知の方法等によって産生された、上記した如き性質を有するものは全て使用可能である。
【0033】
また、本発明に係る抗PSA抗体は、抗体のFab、Fab’、F(ab')2、Fv、Fd、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合したFv(sdFv)、VL、VH、ダイアボディー((VL-VH)2もしくは(VH-VL)2)、トリアボディー(三価抗体)、テトラボディー(四価抗体)、ミニボディー((scFV-CH3)2)、IgG-delta-CH2、scFv-Fc、(scFv)2-Fcフラグメント等であってもよい。
【0034】
本発明に係る抗PSA抗体のうち、fPSAと結合型PSAに結合できる抗体の市販品としては、例えばAnti PSAモノクローナル抗体 PSA10(Anti PSAモノクローナル抗体 クローンNo. PSA10、富士フイルム和光純薬(株))、Anti PSAモノクローナル抗体 (5A6)(HyTest社)、Anti PSAモノクローナル抗体(5G6)(HyTest社)、Anti PSAモノクローナル抗体(PS6)(HyTest社)、Anti PSAモノクローナル抗体(PSA14)(富士フイルム和光純薬(株))、Anti-Prostate Specific Antigen 抗体(EP1588Y)(アブカム社)、Anti-Prostate Specific Antigen 抗体(A67-B/E3)(アブカム社)、Anti-Prostate Specific Antigen 抗体(35H9)(アブカム社)、Anti-Prostate Specific Antigen 抗体(KLK3/801)(アブカム社)、Anti-Prostate Specific Antigen 抗体(3E6)(アブカム社)、Anti-Prostate Specific Antigen 抗体(8301)(アブカム社)、Anti-Prostate Specific Antigen 抗体(A5D5)(アブカム社)、Anti-Prostate Specific Antigen 抗体(PSA 28/A4)(アブカム社)、Anti-Prostate Specific Antigen 抗体(1H12)(アブカム社)等が挙げられる。
【0035】
本発明に係る抗PSA抗体のうち、抗fPSA抗体の市販品としては、例えばAnti PSAモノクローナル抗体 PSA12(Anti PSAモノクローナル抗体 クローンNo. PSA12、富士フイルム和光純薬(株))、Anti PSAモノクローナル抗体(8A6)(HyTest社)、Anti PSAモノクローナル抗体(PS1)(HyTest社)、Anti PSAモノクローナル抗体(クローン108)(Anogen社)、Anti-Prostate Specific Antigen 抗体(PS2)(アブカム社)、Anti-Prostate Specific Antigen 抗体(2H9)(アブカム社)等が挙げられる。
【0036】
本発明に係る抗PSA抗体は、検出可能な標識物質で標識されていてもよい。
【0037】
該抗体を標識するために用いられる標識物質としては、例えば自体公知のEIA、RIAあるいはFIA等において一般に用いられている標識物質が挙げられ、抗体の標識方法も、標識物質に応じた自体公知の標識方法から適宜選択される。
【0038】
本発明に係る試料中のfPSA量を直接測定する方法の具体例としては、例えば以下の方法が挙げられる。
【0039】
試料と抗PSA抗体である第1抗体と、抗PSA抗体が検出可能な標識物質で標識された標識第2抗体とを反応させ、第1抗体とfPSAと標識第2抗体との複合体を生成させる。次いで、該複合体を構成する標識第2抗体の標識物質に由来するシグナルを測定することにより、該複合体の量を測定する。得られた測定値をもとに、常法により試料中のfPSA量を求める。該複合体の量を測定する前に、fPSAに結合しなかった第1抗体及び標識第2抗体を除去する操作を適宜行ってもよい。
【0040】
上記方法において、第1抗体と第2抗体の少なくとも一方は抗fPSA抗体である。また、第1抗体と第2抗体のエピトープは異なることが好ましい。
【0041】
上記方法において、fPSA量は、予め濃度既知のfPSA標準を用いて同様に測定を行って得られた結果を用いた、常法による定量値換算を行って求めればよい。すなわち、濃度既知のfPSAを用いて、試料中のfPSA量を測定したときと同じ試薬を用い同様の操作を行って、シグナルを測定する。得られた測定値と使用したfPSA標準の濃度の検量線を作成する。試料を用いた測定で得られたシグナル測定値を、当該検量線にあてはめることにより、該試料中のfPSA量を求める。
【0042】
上記方法に用いられる第1抗体は、固相に固定化されていることが好ましい。該固相の種類としては、例えば通常の免疫学的測定法等で用いられる不溶性担体が挙げられ、抗体の該固相への固定化は、通常この分野で利用される自体公知の担持方法に従って行えばよい。
【0043】
上記した標識抗PSA抗体の標識物質に由来するシグナルを測定する方法としては、標識物質の種類により異なるが、標識物質が有している何らかの方法により検出し得る性質に応じ適宜選択して実施すればよい。
【0044】
fPSA量は、市販されているfPSA測定用キットを用いて測定してもよい。そのようなキットとしては、例えばHuman Circulating Cancer BioMarker Panel 1 セレクトキット(LUMINEX社製)等)、フリーPSA・アボット(アボット社)、ルミパルス フリーPSA(富士レビオ(株))、ビトロス フリーPSA(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス(株))、ST AIA-PACK free PSA(東ソー(株))、エクルーシスTM試薬 free PSA(ロシュ・ダイアグノスティックス(株))等が挙げられる。
【0045】
上記(1)-1の方法も含め、も含め、本明細書における測定方法においては、特段の記載のない限り、自体公知の免疫学的測定法等の分野で用いられている分離・測定装置、各種試薬類等は、全て該方法に使用できる。また、測定に使用する後記の本発明に係るレクチン、及び固相の種類は、使用する測定装置や、実施する測定方法に従って適宜選択され、測定に使用する抗体及び試薬類の使用濃度は、通常この分野で用いられる濃度範囲から適宜選択すればよい。抗体を標識するために用いられる標識物質は、該標識物質の測定方法や測定装置などに応じて適宜選択される。また、測定を実施するに際しての測定条件等(反応温度、反応時間、反応時のpH、測定波長、測定装置等)は、自体公知の方法に従い、適宜選択すればよい。
【0046】
(1)-2.試料中のFucfPSA量と非FucfPSA量を測定し、その量の和からfPSA量を求める方法
例えばフコシル化糖鎖に親和性を有するレクチンを用い、FucfPSAと非FucfPSAとを該レクチンに対する親和性に基づいて分離することを含む方法が挙げられる。
【0047】
[本発明に係るレクチン]
フコシル化糖鎖に親和性を有するレクチンとしては、フコースα1→6糖鎖に親和性を有するレクチンが挙げられる。フコースα1→6糖鎖に親和性を有するが、それ以外の糖鎖には親和性を有さない、フコースα1→6糖鎖に特異的なレクチンが好ましい。
【0048】
そのような性質を持つレクチンとしては、例えばスギタケレクチン(Pholiota squarrosa lectin、以下「PhoSL」と略記する。)やレンズマメレクチン(Lens culimaris agglutinin、以下「LCA」と略記する。)が挙げられる。
【0049】
以下に説明する方法において、「親和性に基づいて分離する」とは、例えば、分離する対象を、その「結合の強さの違いに基づいて分離する」ことを意味する。例えば「第1複合体と第2複合体とを本発明に係るレクチンに対する親和性に基づいて分離する」とは、「第1複合体と第2複合体とを、第1複合体の本発明に係るレクチンに対する結合の強さと第2複合体の本発明に係るレクチンに対する結合の強さの違いに基づいて分離する」ことを意味する。
【0050】
本発明に係るレクチンを用いる、上記(1)-2の方法としては、例えば本発明に係るレクチンを用い、試料中のFucfPSA量と非FucfPSA量を別々に測定し、その和からfPSA量を求める方法が挙げられる。また、本発明に係るレクチンを用い、試料中のFucfPSA量と非FucfPSA量の両方を一工程で分別測定し、その和からfPSA量を求めてもよい。
【0051】
本発明に係るレクチンを用い、試料中のFucfPSA量と非FucfPSA量を別々に測定し、その和からfPSA量を求める方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
【0052】
「試料を本発明に係るレクチンと反応させて、FucfPSAと本発明に係るレクチンとの複合体を生成させる。次いで、該複合体と本発明に係るレクチンに結合しなかった非FucfPSAとを、例えばB/F分離等により分離する。分離したレクチンに結合したfPSA量を測定することにより、FucfPSA量を求める。また、分離したレクチンに結合しなかったfPSA量を求めることにより、非FucfPSA量を求める。得られたFucfPSA量と非FucfPSA量の和を求めることにより、fPSA量を得る。」
【0053】
当該方法として、例えば下記[方法1]及び[方法2]が挙げられ、収率の面で[方法2]が好ましい。
【0054】
[方法1]
試料を、本発明に係るレクチンをアガロースビーズ等の固相に固定化した充填剤を充填したカラムに流す。FucfPSAは充填剤上の本発明に係るレクチンに結合し、非FucfPSAを含むその他の物質は、本発明に係るレクチンに結合せずにカラムから溶出される。そこで、溶出液中のfPSA量を測定すれば、「非FucfPSA量」が得られる。次いで、カラムを適当な緩衝液で洗浄後、そのカラムに約2~5倍のカラム容量の乳糖含有緩衝液(0.4M)を流し、FucfPSAを溶出させる。溶出液中のfPSA量を測定すれば、「FucfPSA量」が得られる。
得られた「非FucfPSA量」と「FucfPSA量」との和を求めることにより、「fPSA量」が得られる。
【0055】
上記[方法1]におけるFucfPSA量及び非FucfPSA量の測定は、上記「(1)-1.試料中のfPSA量を直接測定する方法」の項に記載された方法と同様になされればよい。
【0056】
[方法2]
試料を、本発明に係るレクチンを固定化したマイクロタイタープレートやポリスチレンビーズ等の固相と接触させる。FucfPSAは固相上の本発明に係るレクチンに結合する。非FucfPSAは、本発明に係るレクチンに結合せず、液相中に存在する。固相と液相を分離し、液相中のfPSA量を測定すれば、「非FucfPSA量」が得られる。次いで、固相に結合したfPSA量を測定すれば、FucfPSA量が得られる。
【0057】
上記[方法2]における液相中の非FucfPSA量の測定は、上記(1)-1の項に記載されたfPSA量の測定方法と同様になされればよい。
【0058】
上記[方法2]において、固相に結合したFucfPSA量は、例えば以下の方法で測定すればよい。
【0059】
固相に結合したFucfPSAと標識抗fPSA抗体とを反応させ、固相上に本発明に係るレクチンとFucfPSAと標識抗fPSA抗体との複合体を形成させる。次いで、該複合体を構成する標識抗fPSA抗体の標識物質に由来するシグナルを測定することにより、該複合体の量を測定する。予め濃度既知のfPSA標準を用いて同様に測定を行って得られた結果を用いた、常法による定量値換算を行ってFucfPSA量を求めればよい。
【0060】
得られた「非FucfPSA量」と「FucfPSA量」との和を求めることにより、「fPSA量」が得られる。
【0061】
また、本発明に係るレクチンを用い、試料中のFucfPSA量と非FucfPSA量の両方を一工程で分別測定し、その和からfPSA量を求める方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
【0062】
「試料と、抗fPSA抗体とを反応させて、試料中のFucfPSAと抗fPSA抗体との複合体(第1複合体)と、非FucfPSAと抗fPSA抗体との複合体(第2複合体)を生成させる。両複合体を本発明に係るレクチンの存在下に、該レクチンに対する親和性に基づいて分離(分別)した後、第1複合体の量と第2複合体の量を測定することにより、FucfPSAと非FucfPSAの両方を一工程(ワンステップ)で分別測定する。得られた第1複合体の量と第2複合体の量の和を求めることによりfPSA量(fPSA量)を得る。」
【0063】
当該方法の具体例として、例えば下記[方法3]又は[方法4]の工程による方法が挙げられる。
【0064】
[方法3]
1)試料と、標識物質で標識された標識抗fPSA抗体とを接触させて、標識抗fPSA抗体とFucfPSAとの複合体(第1複合体)と、標識抗fPSA抗体と非FucfPSAとの複合体(第2複合体)を形成させる工程、
2)上記1)の工程で得られた第1複合体と第2複合体とを、本発明に係るレクチンの存在下に、本発明に係るレクチンに対する親和性に基づいて分離(分別)する工程、
3)第1複合体及び第2複合体を構成する標識抗fPSA抗体の標識物質に由来するシグナルを測定することにより、上記2)の工程で分離した第1複合体の量及び第2複合体の量を測定する工程、
4)上記3)の工程で得られた第1複合体の量と第2複合体の量の和を求め、その和をfPSA量とする工程。
【0065】
[方法4]
1)試料と、抗PSA抗体が標識物質で標識された標識第1抗体と、抗PSA抗体である第2抗体とを接触させて、標識第1抗体とFucfPSAと第2抗体との複合体(第1複合体)と、標識第1抗体と非FucfPSAと第2抗体との複合体(第2複合体)を形成させる工程、
2)上記1)の工程で得られた第1複合体と第2複合体とを、本発明に係るレクチンの存在下に、本発明に係るレクチンに対する親和性に基づいて分離(分別)する工程、
3)第1複合体及び第2複合体を構成する標識第1抗体の標識物質に由来するシグナルを測定することにより、上記2)の工程で分離した第1複合体の量及び第2複合体の量を測定する工程、
4)上記3)の工程で得られた第1複合体の量と第2複合体の量の和を求め、その和をfPSA量とする工程。
【0066】
上記[方法4]に用いられる第1抗体と第2抗体の少なくとも一方は、抗fPSA抗体である。第1抗体と第2抗体のエピトープは異なることが好ましい。
【0067】
上記[方法3]及び[方法4]において、抗PSA抗体又は本発明に係るレクチンは、測定方法に応じて固相に固定化されていてもよい。
【0068】
上記[方法3]及び[方法4]において、本発明に係るレクチンの存在下に本発明に係るレクチンに対する親和性に基づいて分離(分別)する工程の具体例は、「(3)%FucfPSAを決定する方法」の中で後述する。
【0069】
「(1)fPSA量を測定する方法」としては、(1)-2の方法が好ましく、一工程でFucfPSAと非FucfPSAを測定する方法が、測定作業の煩雑さを考慮するとより好ましい。中でも[方法4]が好ましい。
【0070】
(2)FucfPSA量を測定する方法
方法としては、「FucfPSAの量を、抗fPSA抗体とフコースα1→6糖鎖に親和性を有するレクチンを用いて測定することにより求める方法」が挙げられ、例えば、以下の方法が挙げられる。
(2)-1.試料中のFucfPSA量を直接測定する方法、
(2)-2.試料中のfPSA量から非FucfPSA量を差し引いた値をFucfPSA量とする方法。
【0071】
(2)-1.試料中のFucfPSA量を直接測定する方法
例えば、「被検者由来試料と抗fPSA抗体とを接触させ、得られた被検者由来試料中のFucfPSAと抗fPSA抗体との複合体(第1複合体)と非FucfPSAと抗fPSA抗体との複合体(第2複合体)とを、本発明に係るレクチンに対する親和性に基づいて分離し、分離した第1複合体の量を測定し、得られた測定結果に基づいてFucfPSA量を求める方法」が挙げられる。
【0072】
具体的には、例えば上記(1)-2の項に記載された方法に従って、FucfPSAと非FucfPSAを分離し、FucfPSA量を測定すればよい。なお、この場合には非FucfPSA量を測定する必要はない。
【0073】
より具体的には、例えば上記[方法1]又は[方法2]の方法に従ってFucfPSAを測定する方法が挙げられ、[方法2]がより好ましい。
【0074】
さらに、上記(1)-2の項に記載された方法に従って、FucfPSAと非FucfPSAを一工程で測定することにより、FucfPSA量を測定してもよい。この場合には、非FucfPSA量を測定する必要はない。またFucfPSA量と非FucfPSA量の和を求める必要もない。
【0075】
具体的には、例えば、以下の方法が挙げられる
【0076】
[方法3’]
1)試料と、標識物質で標識された標識抗fPSA抗体とを接触させて、標識抗fPSA抗体とFucfPSAとの複合体(第1複合体)と、標識抗fPSA抗体と非FucfPSAとの複合体(第2複合体)を形成させる工程、
2)上記1)の工程で得られた第1複合体と第2複合体とを、本発明に係るレクチンの存在下に、本発明に係るレクチンに対する親和性に基づいて分離(分別)する工程、
3)第1複合体を構成する標識抗fPSA抗体の標識物質に由来するシグナルを測定することにより、上記2)の工程で分離した第1複合体の量を測定する工程。
【0077】
[方法4’]
1)試料と、抗PSA抗体が標識物質で標識された標識第1抗体と、抗PSA抗体である第2抗体とを接触させて、標識第1抗体とFucfPSAと第2抗体との複合体(第1複合体)と、標識第1抗体と非FucfPSAと第2抗体との複合体(第2複合体)を形成させる工程、
2)上記1)の工程で得られた第1複合体と第2複合体とを、本発明に係るレクチンの存在下に、本発明に係るレクチンに対する親和性に基づいて分離(分別)する工程、
3)第1複合体を構成する標識第1抗体の標識物質に由来するシグナルを測定することにより、上記2)の工程で分離した第1複合体の量を測定する工程。
【0078】
上記[方法4’]に用いられる第1抗体と第2抗体の少なくとも一方は抗fPSA抗体である。第1抗体と第2抗体のエピトープは異なることが好ましい。
【0079】
上記[方法3’]及び[方法4’]において、抗PSA抗体、抗fPSA抗体及び本発明に係るレクチンは、測定方法に応じて固相に固定化されていてもよい。。
【0080】
(2)-2.試料中のfPSA量から非FucfPSA量を差し引いた値をFucfPSA量とする方法
【0081】
(2)-2の方法において、「fPSA量」は、上記した「(1)fPSA量を測定する方法」の項に記載された方法により求めればよい。
【0082】
(2)-2の方法において、「非FucfPSA量」は、例えば上記(1)-2の項に記載された方法に従って、FucfPSAと非FucfPSAを分離する。次いで、分離した非FucfPSA量を測定すればよい。この場合には、FucfPSA量を測定する必要はない。試料中のFucfPSA量と非FucfPSA量の両方を一工程で測定する方法によることが好ましい。中でも[方法3]、又は[方法4]の方法に従って分離された非FucfPSA量のみを測定する方法が、より好ましい。[方法4]の方法に従って分離された非FucfPSA量のみを測定する方法が、特に好ましい。
【0083】
FucfPSA量を求めるには、上記の方法により非FucfPSAの量を測定し、別途測定した同じ試料中のfPSA量から、得られた非FucfPSA量を差し引けばよい。
【0084】
そして、「(2)FucfPSA量を測定する方法」としては、(2)-1の方法が好ましい。(2)-1の方法において、[方法3’]及び[方法4’]が好ましい。[方法4’]がより好ましい。
【0085】
本発明に係るレクチンの使用量は、例えば本発明に係るレクチンのフコースα1→6糖鎖に対する結合定数と、試料中のFucfPSAの量を考慮して定めてもよい。
【0086】
例えば、フコースα1→6糖鎖に対する親和性が強く、FucfPSAに結合すれば再解離しない本発明に係るレクチンを用いる場合には、測定時には、試料中のFucfPSAの80%以上が本発明に係るレクチンと複合体を形成している程度に、十分な量の本発明に係るレクチンを使用する。
【0087】
例えば、フコースα1→6糖鎖fPSAに対する親和性が十分ではなく、一旦FucfPSAに結合しても再解離してしまうような本発明に係るレクチンを用いる場合には、再解離した後でも、測定時には、試料中のFucfPSAの80%以が本発明に係るレクチンと複合体を形成している程度に、十分な量の本発明に係るレクチンを使用する必要がある。
【0088】
以上の条件を満たすために使用する本発明に係るレクチンの量は、試料中のFucfPSAに対して過剰量(飽和量)の本発明に係るレクチンを使用することが好ましい。
【0089】
(3)%FucfPSAを求める方法
本発明に係る%FucfPSAを求める方法に用いられるfPSA量の測定方法としては、上記「(1)fPSA量を測定する方法」の項に記載された方法が挙げられる。
【0090】
本発明に係る%FucfPSAを決定する方法に用いられるFucfPSA量の測定方法としては、上記「(2)FucfPSA量を測定する方法」の項に記載された方法が挙げられる。
【0091】
%FucfPSAを求める具体的方法の例としては、例えば以下の[方法A]及び[方法B]が挙げられる。
【0092】
[方法A]
上記「(2)FucfPSA量を測定する方法」の項に記載された[方法1]又は[方法2]でFucfPSA量を測定する。別途、上記「(1) fPSA量を測定する方法」の項に記載された方法でfPSA量を測定する。得られたfPSA量に対するFucfPSA量の比率[(FucfPSA量/fPSA量)×100]を求め、%FucfPSAを決定する。
【0093】
[方法B]
上記「(2)FucfPSA量を測定する方法」の項に記載された[方法3]及び[方法3’]、又は[方法4]及び[方法4’]で、FucfPSA量と非FucfPSA量の両方を一工程で分離測定し測定する。得られた値をもとに[FucfPSA量/(FucfPSA量と非FucfPSA量との和)]×100の値を求め、%FucfPSAを決定する。
【0094】
%FucfPSAを求める方法としては、[方法B]が好ましく、[方法4]及び[方法4’]で測定を行い、%Fc-fPSAを求めることが、より好ましい。
【0095】
なお、本発明において%FucfPSAを求める場合、FucfPSA量とfPSA量は、単位又は実測値の種類が同じであれば、fPSA量やFucfPSA量(PSAタンパク質量)であっても、それらの濃度であっても、測定の実測値(蛍光強度、吸光度等のシグナル値、ピーク面積、又はピーク高さ等)であってもよい。
【0096】
例えば、上記(1)-2又は上記(2)-1の方法において、FucfPSAと非FucfPSAを後記するキャピラリー電気泳動法で分離(分別)した場合には、各分離画分のピーク面積を求め、[FucfPSA画分のピーク面積/(FucfPSA画分のピーク面積+非FucfPSA画分のピーク面積)]×100の値を、%FucfPSAとすればよい。
【0097】
また、例えば、FucfPSAと非FucfPSAを分離(分別)し、それぞれを蛍光標識抗PSA抗体を用いて検出した場合、例えば[FucfPSA画分の蛍光量/(FucfPSA画分の蛍光量+非FucfPSA画分の蛍光量)]×100の値を、%FucfPSAとすればよい。
【0098】
%FucfPSAを求める方法の一実施態様として、[方法B]において、[方法4]及び[方法4’]でfPSA量とFucfPSA量を測定し、%FucfPSAを決定する方法を例に取り、以下に説明する。
【0099】
1)試料と、抗PSA抗体が標識物質で標識された標識第1抗体と、抗PSA抗体である第2抗体とを接触させて、標識第1抗体とFucfPSAとの複合体(第1複合体)と、標識第1抗体と非FucfPSAと第2抗体との複合体(第2複合体)を形成させる。
2)上記1)の工程で得られた第1複合体と第2複合体とを、本発明に係るレクチンの存在下に本発明に係るレクチンに対する親和性に基づいて分離(分別)する。
3)該第1複合体及び第2複合体を構成する標識第1抗体の標識物質に由来するシグナルを測定することにより、上記2)の工程で分離した第1複合体の量及び第2複合体の量を測定する。
4)上記3)の工程で得られた第1複合体の量と第2複合体の量の和(fPSA量)を求め、上記3)の工程で得られた第1複合体の量の、当該和に対する比率を求めることにより、%FucfPSAを求める。
【0100】
第1抗体と第2抗体の少なくとも一方は、抗fPSA抗体である。第1抗体は、抗fPSA抗体であることが好ましい。
【0101】
例えば上記方法[方法3]、[方法4]、[方法3’]、[方法4’]等の本発明に係るレクチンを用いた測定において、(標識)第1抗体とFucfPSAとの複合体(第1複合体)と、(標識)第1抗体と非FucfPSAと第2抗体との複合体(第2複合体)とを本発明に係るレクチンの存在下に本発明に係るレクチンに対する親和性に基づいて分離(分別)する工程は、例えばHPLC-レクチンカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や、キャピラリー電気泳動により実施することができる。キャピラリー電気泳動法がより好ましい。
【0102】
HPLC-レクチンカラムを用いたHPLCは、常法に従ってなされればよい。例えば本発明に係るレクチンを担持させた充填剤を用いたHPLCにより、FucfPSAと非FucfPSAを分離測定する方法が挙げられる。
【0103】
キャピラリー電気泳動で本発明に係るレクチンを用いてFucfPSA及びfPSA量を測定し%FucfPSAを決定する方法の具体例を、以下に説明する。
【0104】
例えばまずPSAを含有する試料と、本発明に係る抗fPSA抗体を標識物質で標識した標識抗fPSA抗体とを接触・反応させ、得られた反応液中の[標識抗fPSA抗体-FucfPSA]複合体と[標識抗fPSA抗体-非FucfPSA]複合体とを、本発明に係るレクチンの存在下でキャピラリー電気泳動を実施することにより分離し、[標識抗fPSA抗体-FucfPSA](第1複合体)由来の標識物質の量、及び[標識抗fPSA抗体-非FucfPSA](第2複合体)由来の標識物質の量を測定する。試料中のfPSA量は、第1複合体と第2複合体の標識物質の量の和とする。そして、得られたfPSA量に対するFucfPSA量の比率(%FucfPSA)を求める。
【0105】
第1複合体由来の標識物質の量及び第2複合体由来の標識物質の量は、キャピラリー電気泳動で得られたそれぞれのピーク面積値に対応するので、それぞれのピーク面積値を使用して、該比率を求めればよい。
【0106】
上記の方法に用いられる抗fPSA抗体及びその標識物質の具体例は、上記した通りである。
【0107】
本発明においては、キャピラリー電気泳動の中でも、キャピラリーチップ又はマイクロキャピラリーチップで行われる電気泳動を実施することが好ましい。
【0108】
キャピラリー電気泳動は、用いられる泳動溶液により、キャピラリーゾーン電気泳動やキャピラリーゲル電気泳動に分類されるが、本発明の方法は何れにも適用し得る。分離の精度を考慮すると、上記の中でもキャピラリーゲル電気泳動が好ましい。
【0109】
本発明に係るレクチンは、泳動溶液に含有させればよい。但し、キャピラリー電気泳動により分離する間、本発明に係るレクチンはFucfPSAと該本発明に係るレクチンとが完全に結合することができる量よりも高濃度であることが望ましい。
【0110】
キャピラリー電気泳動に供せられる試料や抗体等を溶解させる溶液、泳動溶液の種類、添加剤、キャピラリー電気泳動の具体的な条件は、自体公知の方法に準ずればよい。
【0111】
本発明に係るレクチンと親和性を有するフコースα1→6糖鎖糖鎖を持つfPSAは、担体中の本発明に係るレクチンと相互作用するので泳動度が減衰する。一方、フコースα1→6糖鎖糖鎖を持たないPSAは、本発明に係るレクチンとの相互作用が低下するので、泳動度の減衰の程度が低くなる。そこで、移動度の違いによりFucfPSAの泳動画分と非FucfPSAの泳動画分を、それぞれ特定することができる。
【0112】
キャピラリー電気泳動によるFucfPSAの測定方法の具体例として、本発明に係るレクチンとしてPhoSLを用い、抗fPSA抗体を蛍光物質で標識した標識第1抗体を用い、抗PSA抗体をDNAで標識した第2抗体を用いて、レクチン親和性を利用したマイクロチップキャピラリー電気泳動を行い、PSAの糖鎖に対するレクチンの親和性の程度に基づいてPSAを分離し、蛍光検出器で測定する方法を以下に示す。
【0113】
すなわち、PSAを含有する試料1~50μLと、通常0.001~10μM、好ましくは0.01~1μMの蛍光標識抗fPSA抗体を含有する試液とを反応させる。
【0114】
キャピラリー電気泳動に用いられる試料は、生体から採取した試料であってもよいし、生体から採取した試料を脱塩や各種の精製工程を得て調製した試料であってもよい。
【0115】
得られた反応液と、通常0.001~10μM、好ましくは0.01~1μMのDNA標識抗PSA抗体を含有する試液2~50μLと、泳動用緩衝液と、内部標準物質(例えば蛍光物質:HiLyte647(AnaSpec社製)等)を、1~10psiで30~60秒の加圧法により、例えば、内径5~500μm、好ましくは50~200μm、より好ましくは50~100μm、長さ1~10cmのキャピラリーに導入する。20~40℃保温下に5秒~30分、好ましくは10秒~15分反応させる。得られた[蛍光標識抗fPSA抗体-FucfPSA-DNA標識抗PSA抗体]の複合体と[蛍光標識抗fPSA抗体-非FucfPSA-DNA標識抗PSA抗体]の複合体とを、PhoSL(0.1 mg/mL~20 mg/mL)の存在下に1000~5000Vの電圧を10秒~60分印加することにより電気泳動を行って、分離する。そして、複合体の泳動状態を蛍光検出器やUV検出器等の検出器により測定してエレクトロフェログラムを得る。
【0116】
FucfPSAのピーク([蛍光標識抗fPSA抗体]-[FucfPSA]-[DNA標識抗PSA抗体]の複合体を含む)と、その他のfPSAのピーク([蛍光標識抗fPSA抗体]-[非FucfPSA]-[DNA標識抗PSA抗体]の複合体を含む)は、その泳動位置から区別することができる。そこで、試料中のFucfPSA量はそのピークのピーク面積とする。また、得られたFucfPSAのピーク面積と、非FucfPSAのピーク面積の和を遊離PSA量とする。
【0117】
以上のように、キャピラリー電気泳動を用いれば、fPSA量とFucfPSA量とを、同一検体で一度に測定することができる。
【0118】
%FucfPSAは、得られたピーク面積の比率、すなわち[FucfPSA画分のピーク面積/(FucfPSA画分のピーク面積+非FucfPSA画分のピーク面積)]×100の値を求めることにより得られる。
【0119】
キャピラリー電気泳動は、市販の全自動測定装置を用いて行ってもよい。例えばミュータスワコーi30(富士フイルム和光純薬(株)製)等が挙げられる。
【0120】
<3.FPIを決定する方法>
本発明に係るFPIは、被検者由来試料中のPSAの総量であるトータルPSA量を求め、得られた値を下記式
FPI=トータルPSA量/(101-%FucfPSA量)
に当てはめて計算することにより得られる。
【0121】
FPIを得るために用いられる%FucfPSA量は、上記「<2.%FucfPSA量を決定する方法>」の項に記載された方法で求めればよい。
【0122】
(1)トータルPSA量の測定方法
FPIを得るために用いられる被検者由来試料中のトータルPSA量は、%FucfPSA量を求めるために使用した試料を採取した被検者と同じ被検者由来の、被検試料中のPSAの総量である。トータルPSA量は、その量(PSAタンパク質量)であっても、その濃度であっても、測定の実測値(蛍光強度、吸光度等のシグナル値、ピーク面積、又はピーク高さ等)であってもよい。
【0123】
トータルPSA量は、抗PSA抗体又はその断片を用い、自体公知のELISA等の免疫学的手法によって測定することにより求められる。また、市販のトータルPSA測定キットを使用して測定してもよい。
市販のトータルPSA量を測定するキットとしては、例えばAIA-パックCLTM PSA(東ソー(株))、トータルPSA・アボット(アボットジャパン合同会社)、DELfIATM PSA Kit (パーキンエルマー社製)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
(2)FPIを決定する方法
以上の方法で得られたトータルPSA量と%FucfPSAを上記式当てはめることによりFPIを得ることができる。
【0125】
例えば、%FucfPSA及びトータルPSA量が下記の場合のFPIを決定する方法は以下の通りとなる。
%FucfPSA=41 (%)
トータルPSA量=30 (ng/mL)
FPI=30/(101-41)=0.5
【0126】
<4.前立腺癌の診断を補助する方法>
本発明の前立腺癌の診断を補助する方法としては、前記「<2.%FucfPSAを決定する方法>」で得られた%FucfPSA、又は前記「<3.FPIを決定する方法>」で得られたFPIをもとに前立腺癌を判定することを含む。
【0127】
すなわち、上記「<2.%FucfPSAを決定する方法>」の項に記載の方法により%FucfPSAを決定する。その結果をもとに、%FucfPSAを指標として前立腺癌を判定するための、データ(例えば%FucfPSA、%FucfPSAとカットオフ値との比較、%FucfPSAの増加の程度等の情報)を得る。
または、上記「<3.FPIを決定する方法>」の項に記載の方法によりFPIを決定する。その結果をもとに、FPIを指標として前立腺癌を判定するための、データ(例えばFPI、FPIとカットオフ値との比較、FPIの増加の程度等の情報)を得る。
【0128】
(1)前立腺癌の判定
得られたデータを用いて、例えば以下の方法で、前立腺癌の判定(診断・検査)を行う。
【0129】
被検者由来試料を用いて得られた該%FucfPSA又はFPIが、予め定めたカットオフ値(基準値)と同値又はそれより高い場合には、試料を提供した被検者は前立腺癌に罹患している(前立腺癌陽性)、またはその可能性が高い、等の判定が可能である。
【0130】
また、当該%FucfPSA又はFPIのカットオフ値又はその値の範囲に対応させて複数の判定区分を設定して判定する方法が挙げられる。例えば、[(1)前立腺のおそれはない、(2)前立腺のおそれは低い、(3)前立腺の兆候がある、(4)前立腺のおそれが高い、等]の判定区分を設定する。そして、被検者由来試料の%FucfPSA又はFPIがどの判定区分に入るかを判定することにより、前立腺癌の判定を行うことが可能である。
【0131】
また、同一被検者において、ある時点で決定した被検者由来試料の%FucfPSA又はFPIと、異なる時点で決定した当該%FucfPSA又はFPIとを比較し、当該%FucfPSA又はFPIの増減の有無及び/又は増減の程度を評価することによって、前立腺癌の進行度や悪性度の診断、あるいは術後の予後診断が可能である。
すなわち、当該%FucfPSA又はFPIの増加が認められたという検査結果が得られた場合には、前立腺癌へ病態が進行した(あるいは前立腺癌の悪性度が増した)、又は前立腺癌への病態の進行の兆候が認められる(あるいは前立腺癌の悪性度が増す兆候が認められる)との判定が行える。
また、当該%FucfPSA又はFPIの変動が認められないという検査結果が得られた場合には、前立腺癌の病態に変化はないとの判定が可能である。
【0132】
本発明に係る前立腺癌の診断を補助する方法で用いられるカットオフ値(基準値)は、前立腺癌を有することが確認されている者(前立腺癌者)由来の試料と前立腺癌を有さないことが確認されている者(非癌者)由来の試料(基準試料)を用いて、それぞれ上記方法により%FucfPSA又はFPIを得る。そして、前立腺癌者由来の被検試料を用いて得られた%FucfPSA又はFPIと基準試料を用いて得られた%FucfPSA又はFPIの境界値等を元に設定されればよい。基準試料を用いて得られたの測定値の平均値を基準値と設定してもよい。
「非癌者」は健常者でもよく、前立腺肥大等の患者であってもよい。
【0133】
また、カットオフ値は、例えば常法により、Relative Operating Characteristic curve(ROC曲線)を用いた解析により求めてもよい。
【0134】
(2)高リスク前立腺癌の判定
本発明に係る前立腺癌の判定を補助する方法によれば、トータルPSA量等の臨床試験の結果前立腺癌が疑われる被検者を対象にして、高リスク前立腺癌の判定が可能である。
この判定を行う場合には、FPIをマーカーとすることが好ましい。
【0135】
尚、本発明においては、グリーソンスコアが7(GS7)及びそれ以上の患者を、高リスク前立腺癌患者とする。
【0136】
例えば生検によりGS7以上であることが確認されている者由来の試料(GS7試料)を用いて、上記方法により%FucfPSA又はFPIを得て、高リスク前立腺癌患者判定のためのカットオフ値を得る。。
そして、前立腺癌が疑われる被検者由来の被検試料を用いて%FucfPSA又はFPIを得る。被検者由来試料を用いて得られた%FucfPSA又はFPIを、GS7試料を用いて得られた値から得られたカットオフ値と比較する。前立腺癌が疑われる被検者由来の被検試料を用いて得られた%FucfPSA又はFPIがGS7試料を用いて得られたカットオフ値以上の場合には、被検者は高リスク前立腺癌患者と判定し、生検等の精密検査を行う対象とする。一方、前立腺癌が疑われる被検者由来の被検試料を用いて得られた%FucfPSA又はFPIがGS7試料を用いて得られたこれらの値未満の場合には、生検は行わずに監視療法を選択する、対象とする。
【0137】
別の方法としては、生検によりGS6以下であることが確認されている者由来の試料(GS6試料)を用いて、上記方法により%FucfPSA又はFPIを得て、高リスク前立腺癌患者判定のためのカットオフ値を得る。
そして、前立腺癌が疑われる被検者由来の被検試料を用いて%FucfPSA又はFPIを得る。被検者由来試料を用いて得られた%FucfPSA又はFPIを、GS6試料を用いて得られた値から得られたカットオフ値と比較する。前立腺癌が疑われる被検者由来の被検試料を用いて得られた%FucfPSA又はFPIがGS6試料を用いて得られたカットオフ値より高値の場合には、被検者は高リスク前立腺癌患者と判定し、生検等の精密検査を行う対象とする。一方、前立腺癌が疑われる被検者由来の被検試料を用いて得られた%FucfPSA又はFPIがGS6試料を用いて得られたこれらの値以下の場合には、生検は行わずに監視療法を選択する、対象とする。
【0138】
FPIを用いて本発明の前立腺癌を判定する場合の具体例を以下に示す。
【0139】
[例1]
(1)非癌者由来試料を用いてFPIを決定する。
(2)被検者由来試料を用いてFPI´を決定する。
(3)該FPI´を該FPIと比較し、該FPI´が該FPIと同じ又はそれより高い場合に、試料を提供した被検者は前立腺癌に罹患している(前立腺癌陽性)、またはその可能性が高いと判定する。
【0140】
[例2]
(1)非癌者由来試料を用いてFPIを決定し、該FPIに基づいて前立腺癌を判定するための、該FPIのカットオフ値を設定する。
(2)被検者由来試料を用いてFPIを決定する。
(3)該FPIを上記(1)で設定したカットオフ値と比較し、該FPIが該カットオフ値と同じかそれより高い場合に、試料を提供した被検者は前立腺癌に罹患している(前立腺癌陽性)、またはその可能性が高いと判定する。
なお、適切なカットオフ値を定めれば、被検者の判定の度に改めてカットオフ値を設定する必要はない。
【0141】
[例3]
(1)GS7以上であることが確認されている前立腺癌患者由来試料を用いてFPIを決定する。
(2)前立腺癌が疑われる被検者由来試料を用いてFPI´を決定する。
(3)該FPI´を該FPIと比較し、該FPI´が該FPIと同じ又はそれより高い場合に、試料を提供した被検者はGS7以上の高リスク前立腺癌に罹患している、またはその可能性が高いと判定する。
また、該FPI´が該FPIよりも低い場合には、試料を提供した被検者はGS6以下の低リスク前立腺癌に罹患している、またはその可能性が高いと判定する。
そして、高リスク前立腺癌と判定された患者は、生検などの精密検査を行う対象とする。一方、低リスク前立腺癌と判定された患者は、監視療法を選択する対象とする。
【0142】
従来の前立腺癌の判定用マーカーは、特異度が不十分であった。そのため、生検所見が陰性であった患者でも、前立腺癌の可能性を排除するために繰り返し生検を受ける必要があった。その結果、生検には感染や出血等の危険性があるにも関わらず、不必要な生検が多数行われているという問題点があった。
【0143】
これに対し、本発明の前立腺癌の診断を補助する方法によれば、高い特異度及び高い感度で、且つ非侵襲的手段によって、生検を行う必要のある高リスク前立腺癌を判定することができる。
【0144】
《前立腺癌の診断補助用キット》
本発明に係る前立腺癌判定用キットは、
「(1)本発明に係るレクチンと、
(2)被検者由来試料の%FucfPSA又はFPIを決定し、その値を基に前立腺癌又は高リスク前立腺癌を判定する判定手順が記載された取扱説明書と
を含む、前立腺癌判定用キット。」
である。
【0145】
本発明に係るレクチン及びその好ましい態様と具体例等の詳細は、上記の(1)-2の「本発明に係るレクチン」の項に記載した通りである。
本発明に係るレクチンは、適当な緩衝液中に懸濁させた懸濁液等の溶液状態の試液での形態であってもよく、若しくは凍結品や凍結乾燥品であってもよい。
【0146】
該キットは、更に本発明に係る抗PSA抗体(fPSAと結合型PSAに結合できる抗体又は/及び抗fPSA抗体)を含んでいてもよい。その好ましい態様と具体例等の詳細は、上記「<2.%FucfPSAを決定する方法>」の本発明に係るPSA抗体に関する説明に記載した通りである。
【0147】
本発明に係る抗PSA抗体は、適当な緩衝液中に懸濁させた懸濁液等の溶液状態の試液での形態であってもよく、若しくは凍結品や凍結乾燥品であってもよい。
本発明に係るレクチンが試液の形態である場合、本発明に係る抗PSA抗体は、本発明に係るレクチンを含有する試液中に共存させてもよいし、本発明に係るレクチンとは別の試液、凍結品、又は凍結乾燥品として含んでいてもよい。
【0148】
本発明に係るレクチン及び本発明に係る抗PSA抗体の該試液中の濃度は、各試液を混合した時点で目的の測定の反応が開始されるような濃度であればよい。具体的には、前記した「《前立腺癌の診断を補助する方法》」の項に記載した通りである。また該試液を構成する溶媒の具体例も、前記した「《前立腺癌の診断を補助する方法》」の項に記載した通りである。
【0149】
本発明のキットを構成する本発明に係るレクチン又は/及び本発明に係る抗PSA抗体を含有する試液中には、通常この分野で用いられる添加剤、例えば試薬類、例えば緩衝剤、反応促進剤、糖類、タンパク質、塩類、界面活性剤等の安定化剤、防腐剤等であって、fPSAと本発明に係るレクチンとの反応を阻害しないものが含まれていてもよい。またこれら試薬の濃度等も、通常この分野で通常用いられる濃度範囲から適宜選択すればよい。
【0150】
以下に実施例等を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【実施例
【0151】
実施例1.
【0152】
(1)試料
前立腺の生検で前立腺癌であると判定され、組織病理学的診断(グリーソンスコアの決定)を行った前立腺癌患者165名、及び前立腺の生検で前立腺癌陰性であると確認された非癌者87名から採取した血清を試料として用いた。
患者の背景を表1にまとめて示す。
【0153】
【表1】
【0154】
(2)トータルPSA量の測定
トータルPSA測定キットであるAIA-パックCLTM PSA反応試薬(東ソー(株))、及び、全自動化学発光酵素免疫測定装置AIA-CL2400(東ソー(株))を用いて、キット添付のプロトコルに従って、各試料中のトータルPSA量を求めた。
【0155】
(3)キャピラリー電気泳動による測定
(i)DNA標識抗PSA抗体の調製
以下の手順に従って、DNAが結合したPSA抗体Fab’フラグメントを調製した。
【0156】
すなわち、抗ヒトPSAマウスモノクローナル抗体 PSA10(Anti PSAモノクローナル抗体 クローンNo. PSA10、富士フイルム和光純薬(株)製)を常法に従い調製した抗PSA抗体PSA10 Fab'フラグメントを用い、常法によりリンカー結合250bpDNA断片と反応させた。得られた反応物を精製し、250bpDNA断片が結合した抗PSA抗体PSA10 Fab'フラグメント(以下、「DNA標識抗PSA抗体」と略記する。)を調製した。
【0157】
なお、用いた抗ヒトPSAマウスモノクローナル抗体(Anti PSAモノクローナル抗体 クローンNo.PSA10)は、ヒトPSAに対して親和性を有する抗体で、結合型PSAとfPSAに結合する。すなわち該抗体は、FucfPSAと非FucfPSAに結合する。
【0158】
(ii)蛍光標識抗fPSA抗体の調製
Anti PSAモノクローナル抗体 PSA10とは異なるPSAのエピトープを認識し、fPSAのみと特異的に結合する抗ヒトPSAモノクローナル抗体 PSA12(Anti PSAモノクローナル抗体 クローンNo. PSA12、富士フイルム和光純薬(株)製)を常法により処理して、抗PSA抗体PSA12 Fab'フラグメントを得た。得られたフラグメントのアミノ基に、常法により蛍光物質HiLyte647(AnaSpec社製)を導入して、HiLyte647標識抗fPSA抗体PSA12 Fab'フラグメント(以下、「蛍光標識抗fPSA抗体」と略記する。)を得た。
【0159】
(iii)試料・試液の調製
・泳動用試料Aの調製
試料2μL、上記(ii)で調製した1μM 蛍光標識抗fPSA抗体を1μL、及び泳動緩衝液1[5% (w/v) ポリエチレングリコール(PEG20000)、3%(w/v) グリセロール、150mM NaCl、0.01% BSA、75mM Tris-HCl(pH 7.5)、10mM MESを含有する]7μLを0.5mLチューブに加えて混合して反応させ、10μLの反応液を調製した。
上記反応で得られた、[蛍光標識抗fPSA抗体-fPSA]複合体を含有する反応液(10μL)を、泳動用試料Aとした。
なお、この反応液中の蛍光標識抗fPSA抗体の最終濃度は、100nMである。
【0160】
・泳動緩衝液2(PhoSL含有)の調製
4.5% (w/v) ポリエチレングリコール(PEG8000)、3%(w/v) グリセロール、10mM NaCl、0.01 % BSAを含有する75mM Tris-HClバッファー(pH 7.5)を調製した。これにPhoSL(VECTOR社製)を終濃度4mg/mLとなるように添加・混合したものを調製し、泳動緩衝液2とした。
・泳動緩衝液3の調製
2% (w/v) ポリエチレングリコール(PEG20000)、3%(w/v) グリセロール、0.01 % BSA、125mM HEPES、75mM Tris-HClを含有するバッファー(pH調製なし)を、泳動緩衝液3とした。
・泳動緩衝液4の調製
2% (w/v) ポリエチレングリコール(PEG20000)、3%(w/v) グリセロール、0.01 % BSAを含有する75mM Tris-HClバッファー(pH 7.5)を、泳動緩衝液4とした。
・DNA標識抗体液(DNA標識抗PSA抗体含有)の調製
上記(i)1)で得られたDNA標識抗PSA抗体 100nMを含有するバッファー[2% (w/v) ポリエチレングリコール(PEG20000)、0.5mM EDTA(2Na)、3%(w/v) グリセロール、50mM NaCl、0.01 % BSA、75mM BisTris(pH 6.0)を含有する。]を調製し、DNA標識抗体液とした。
・蛍光液の調製
30nM HiLyte647、20%(w/v) グリセロールを含有する50mM BisTris(pH 6.0)を、蛍光液とした。蛍光液は測定装置(ミュータスワコー i30)の検出部での位置確認等の調整のために用いられる。
【0161】
(iv)電気泳動
全自動蛍光免疫測定装置ミュータスワコー i30(富士フイルム和光純薬(株)製)を用い、装置の取扱説明書に従い、以下に示した手順にてマイクロチップキャピラリー電気泳動を行った。
すなわち、上記(iii)で調製した泳動用試料A 5.4μLを、ミュータスワコー i30専用マイクロチップの所定ウェル(SPウェル)に分注した。次いで、下記のように該マイクロチップの各ウェルに上記(iii)で調製した各試液を分注した。
・R2ウェル(R2(FLB)ウェル、R2(LB)ウェル):泳動緩衝液2(PhoSL含有)を10.0μLずつ、
・R3ウェル:泳動緩衝液3を10.0μL、
・R4ウェル:泳動緩衝液4を5.4μL、
・C1ウェル:DNA標識抗体液を3.0μL、
・FDウェル:蛍光液を7.0μL。
【0162】
使用したマイクロチップの模式図を図2に示す。
【0163】
図2においてWasteウェルは、各ウェル(R2、R3、R4、C1)の試液及び泳動用試料Aを分析用流路に導入する際の廃液だめ(ドレイン用ウェル)として使用する。
【0164】
次いで、各4つのWasteウェル(ドレイン用ウェル)間に30秒間、-5psiの圧力を印加して、チップの分析用流路に泳動用試料A及び各試液を導入した。
【0165】
更に、チップの分析用流路に泳動用試料A及び各試液を導入した後、以下の方法でPSAの分離及び検出を行った。
使用したマイクロチップのチップ内流路を模式化したものを図3に示す。
図3において、WはWasteウェルを示す。R3ウェル側が陰極、R2(LB)ウェル側が陽極になる。また、図3において、泳動用試料A及び各ウェルの試液の配置部分を点部分と白部分(点のない部分)とに色分けして示す。
【0166】
図3のR3ウェル-R2(LB)ウェル間に4000Vの電圧を印加して、30℃で、試液中のDNA標識抗PSA抗体を泳動用試料A中の[蛍光標識抗fPSA抗体-fPSA]複合体と接触させて、[蛍光標識抗fPSA抗体-fPSA-DNA標識抗PSA抗体]の複合体を形成させ、これを等速電気泳動(ITP)で濃縮した。等速電気泳動の泳動方向は図3に“ITP”と点線により示される。
【0167】
fPSAを捕捉するための各標識抗体による免疫反応時間は約200秒であった。
【0168】
ここで形成された複合体は、具体的には[蛍光標識抗fPSA抗体-FucfPSA-DNA標識抗PSA抗体]の複合体(第1複合体)と[蛍光標識抗fPSA抗体-非FucfPSA-DNA標識抗PSA抗体]の複合体(第2複合体)である。
【0169】
R2(FLB)ウェルまで等速電気泳動されて、複合体がR2(FLB)ウェルを通り抜けたことを電圧の変化で判断して、陰電極をR3からR2(FLB)に切り替えた。そして、更に検出部分(R2(FLB)とR2(LB)のチャネルクロス部分から2cm下流のキャピラリー部分)で、[蛍光標識抗fPSA抗体-fPSA-DNA標識抗PSA抗体]の複合体のピークが検出されるまでPhoSLの存在下でキャピラリーゲル電気泳動(CE)を行った。CEが行われた位置及び電気泳動の泳動方向は、図3に“CE”と点線により示した。
【0170】
検出は、635nmレーザー励起によりR2(FLB)とR2(LB)のチャネルクロス部分から2cm下流のキャピラリー部分の蛍光強度を、フォトダイオード(富士フィルム(株)製)により経時的に測定することによって行った。
【0171】
また、PhoSLを含有しない泳動緩衝液2を用いる以外は、上記と同じ泳動用試料A及び泳動用試液及び測定装置を用い、上記と同様の方法を実施して、PSAの分離及び検出を行った。
【0172】
第2複合体のピークはPhoSLを含有しない泳動緩衝液2を用いた場合に出現するピークと同じ位置に出現する。一方、PhoSLと反応した[蛍光標識抗fPSA抗体- FucfPSA -DNA標識抗PSA抗体]の複合体(第1複合体)は、PhoSLと反応しない[蛍光標識抗fPSA抗体- FucfPSA -DNA標識抗PSA抗体]の複合体(第2複合体)と比べて泳動に時間がかかるので、ピークの出現が遅れる。すなわち、第1複合体のピークは、第2複合体のピークの後に出現する。
【0173】
得られた第1複合体の画分のピーク面積及び第2複合体の画分のピーク面積を、測定装置付属の解析用ソフトで求めた。
【0174】
次いで、得られた第1複合体の画分のピーク面積と第2複合体の画分のピーク面積を用い、試料中のfPSA量に対するFucfPSA量の比率(%)(%FucfPSA)を計算した。
【0175】
具体的な算出方法は、以下の通りである。
・fPSA量=[第1複合体の画分のピーク面積]+[第2複合体の画分のピーク面積]
・fPSA量に対するFucfPSA量の比率(%)(%FucfPSA)
=[第1複合体の画分のピーク面積]/[fPSA量]×100
【0176】
次いで、各患者のトータルPSA量(D)、及び上記で得られた同じ患者の%FucfPSAを下記式に当てはめ、FPIを算出した。
FPI=トータルPSA量/(101-%FucfPSA)
【0177】
以上の結果をもとに、更にRelative Operating Characteristic curve(ROC曲線)による解析を行った。
【0178】
(5)結果
1)非癌との区別
図4に、得られた非癌者(Negative)と前立腺癌患者(PCa)の%FucfPSAを比較した結果を示す。また、図5に、非癌者(Negative)と前立腺癌患者(PCa)のFPIを比較した結果を示す。2群間の比較はMann Whitney U検定で行った。
図4及び図5から明らかな通り、%FucfPSA及びFPIは、非癌者より前立腺癌患者において有意に高値を示した(ともにP<0.0001)。
以上の結果から、%FucfPSA及びFPIをマーカーとして用いて、前立腺癌を判定できることがわかる。
【0179】
2)高リスク前立腺癌とその他との区別
図6に、非癌者及びグリーソンスコア6(GS6)以下の前立腺癌患者(Negative-GS6)と、グリーソンスコア7-9の高リスク前立腺癌患者(GS7-9)について、%FucfPSAを比較した結果を示す。また、図7に、非癌者及びGS6以下の前立腺癌患者(Negative-GS6)と、GS7-9の高リスク前立腺癌患者(GS7-9)について、FPIを比較した結果を示す。2群間の比較はMann Whitney U検定で行った。
図6及び図7から明らかな通り、%FucfPSA及びFPIは、グリーソンスコアとも関連を認め、非癌者及びGS6の前立腺癌患者に比較して、GS7-9の前立腺癌患者では有意に高値を示した(ともにP<0.0001)。
以上の結果から、%FucfPSA及びFPIをマーカーとして用いて、高リスク前立腺癌患者を判定できることがわかる。さらにこの結果から、%FucfPSA及びFPIをマーカーとして用いることにより、前立腺癌の疑いのある患者に対し、生検を行う必要があるか否かを判定することができる。すなわち、本発明の方法により高リスク前立腺癌患者と判定された場合には、当該患者は生検を行うことを選択する対象とする。
3)ROC曲線解析
上記で得られたGS7-9の前立腺癌患者の%FucfPSA、FPI、FucfPSA、及びトータルPSA量をもとに、ROC曲線解析を行った。統計解析はSPSS ver24を使用した。
得られた結果を図8に示す。
図8における各マーカーに対応する線のスタイルと、それぞれのAUC(Area under the curve)値を下記表2にまとめた。
【0180】
【表2】
【0181】
ROC曲線解析の結果、FPIは、カットオフ0.43の時、感度は90%、特異度36%であった。
%FucfPSAは、カットオフ87%の時、感度は91%、特異度38%であった。
一方、公知のPcaマーカーであるFucfPSA量、およびトータルPSA量において90%の感度を達成した場合の特異度は、それぞれ11%、および12%であった。
【0182】
以上のROC曲線解析の結果から、本発明の%FucfPSA、及びFPIをマーカーとして用いて前立腺癌を判定すれば、公知の前立腺癌マーカー、すなわちトータルPSA量や血清FucfPSA量を用いた判定方法と比べて高い感度及び特異度で前立腺癌を判定できることがわかる。またこのことから、本発明の該マーカーを用いて前立腺癌を判定すれば、上記公知の前立腺癌マーカーに基づく判定よりも診断精度の高い判定が行えることがわかる。
更にROC曲線解析の結果から、FPI及び%FucfPSAは、グリーソンスコアと有意に関連しており、高リスク前立腺癌を高い特異度で判断するための有望なマーカーとなることがわかった。AUC値を比較すると、特にFPIが高リスク前立腺癌の判定用マーカーとしても有望であることがわかった。
【0183】
グリーソンスコアが6以下の前立腺癌患者に対しては、病期等のその他の指標も併せて考慮の上、積極的な治療を行わずに経過観察を行う監視療法を選択することができる。しかし、現在用いられている前立腺癌マーカーでは、前立腺癌の悪性度やグリーソンスコアを予測することは困難であった。
しかしながら本発明のマーカーであるFPI及び%FucfPSAは、GS7以上の患者でGS6未満の者よりも有意にその値が高く、またROC曲線解析からも明らかな通り、高い特異度でグリーソンスコア7以上の患者を判定できる。そのため、その結果をもとに生検を行うか否かを判定することができる。またこのことより無駄な生検を行うことを回避することができ、被検者の負担及び生検に伴うリスクを回避することができることが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8