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特許7539067モード特性補償器、マルチモード増幅システム及びモード多重伝送システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】モード特性補償器、マルチモード増幅システム及びモード多重伝送システム
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/12 20060101AFI20240816BHJP
   G02F 1/01 20060101ALI20240816BHJP
   H04B 10/294 20130101ALI20240816BHJP
   H01S 3/10 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
G02B6/12 311
G02F1/01 C
H04B10/294
H01S3/10 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021069858
(22)【出願日】2021-04-16
(65)【公開番号】P2022164394
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】森 崇嘉
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】今田 諒太
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晋聖
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝憲
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-003721(JP,A)
【文献】特開2020-148968(JP,A)
【文献】特開2020-140001(JP,A)
【文献】特開2018-036582(JP,A)
【文献】特開2020-013934(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0247037(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103698848(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12-6/14
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-1/39
H01S 3/00-3/30
H04B 10/00-10/90
JST7850/JST Plus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4以上の基本モードを互いに異なるモードで主導波路に合波し、前記主導波路の4以上のモードをモードごとに基本モードで分波する、モード合分波機能を備えるモード特性補償器であって、
前記主導波路と非接触の平行導波路を伝搬する基本モードを前記主導波路の高次モードに結合させ、前記主導波路との間でモード変換を発生させるカプラーを備え、
前記カプラーは、それぞれ、
カプラーごとに予め定められた高次モードに、前記平行導波路から前記主導波路に結合させる2つの結合部と、
前記2つの結合部の間に配置され、前記平行導波路及び前記主導波路が結合せずかつ前記平行導波路と前記主導波路との間で伝搬遅延差を生じさせる、遅延量の可変な遅延部と、
を備え、
前記カプラーは、それぞれ、前記遅延部の未調整時の遅延量が、前記平行導波路から前記主導波路に結合する前記高次モードの光のパワーが極大となる複数の値のうち、当該遅延量に相当する光の位相差の波数による微分の絶対値が最小となる値に設定されており、
前記主導波路におけるモード間の強度差が各基本モードの強度差よりも小さくなるように、前記カプラーに備わる前記遅延部の遅延量が調整されている、
モード特性補償器。
【請求項2】
前記カプラーは、それぞれ、前記遅延部の温度を調整するヒーターを備え、
前記遅延部の温度を調整することで、前記遅延部の遅延量が調整される、
請求項1に記載のモード特性補償器。
【請求項3】
前記主導波路は、長手方向に導波路幅が連続的に変化するテーパー部を持ち、
前記テーパー部は、E13モード及びE31モードをLP21bモード及びLP02モードに変換する、
請求項1又は2に記載のモード特性補償器。
【請求項4】
前記結合部は、所望の光の波長範囲に対して、前記平行導波路を伝搬するモードの実効屈折率が、前記主導波路のモードの実効屈折率と排他的に一致する、導波路幅、高さ及び比屈折率差を備え、
前記結合部における前記平行導波路及び前記主導波路の導波路間隔及び当該導波路間隔の結合長が、モード変換により前記平行導波路を導波する光パワーの0.4~0.6倍が前記主導波路を伝搬するよう定められている、
請求項1から3のいずれかに記載のモード特性補償器。
【請求項5】
複数のモードを有する波長多重信号を増幅するマルチモード光増幅器と、
増幅後の波長多重信号をモードごとに分波するモード分波器と、
前記モード分波器で分波された波長多重信号ごとに波長利得補償を行う波長利得補償器と、
波長利得補償された波長多重信号間の利得差を補償し、前記利得差を補償後の波長多重信号を、前記モード分波器で分波前のモードに変換し、合波する、請求項1から4のいずれかに記載のモード特性補償器と、
を備えるマルチモード増幅システム。
【請求項6】
n(nは4以上の整数)個の波長多重信号を発する送信機と、
n個の波長多重信号を互いに異なるモードのモード多重信号に合波する、請求項1から4のいずれかに記載のモード特性補償器と、
前記モード特性補償器で合波されたモード多重信号を伝搬するマルチモードファイバと、
前記マルチモードファイバで伝搬されたモード多重信号を、モードごとに分離するモード分波器と、
前記モード分波器でモードごとに分離されたn個の波長多重信号を、波長ごとに分離し、受信する受信機と、
を備えるモード多重伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、4以上のモードの強度差を補償可能にする装置、並びにこれを備えるマルチモード増幅システム及びモード多重伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
モード多重伝送において、マルチモード伝送路中のモード間の損失差を補償するMDL(Mode Dependent Loss)補償器が提案されている(例えば、非特許文献1及び2参照)。非特許文献1は3モードのモード間の損失差を補償する空間型MDL補償器であり、非特許文献2は3モードのモード間の損失差を補償するPLC(Planar Lightwave Circuit)型のMDL補償器である。一方で、6モードのモード多重伝送を可能にする合分波器が提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】T. Mizuno et al., “Mode dependent loss equalizer and impact of MDL on PDM-16QAM few-mode fibre transmission,” ECOC2015, P5.9 (2015)
【文献】N. Sugawara et al., “3-Mode PLC-Based Mode Dependent Loss Equalizer in MDM Transmission,”OECC2019, TuE2-2 (2019)
【文献】N. Hanzawa et al., “Demonstration of PLC-based six-mode multiplexer for mode division multiplexing transmission,” ECOC2015, P2.6 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1及び2は3モードのモード間の強度差を補償することができるが、3モードよりも多いモードについてはモードごとに強度差をダイナミックに補償するデバイスは実現されていなかった。
【0005】
本開示は、4モード以上であっても、モード間の強度差を補償可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のモード特性補償器は、
4以上の基本モードを互いに異なるモードで主導波路に合波し、前記主導波路の4以上のモードをモードごとに基本モードで分波するモード合分波機能を備えるモード特性補償器であって、
前記主導波路と非接触の平行導波路を伝搬する基本モードを前記主導波路の高次モードに結合させ、前記主導波路との間でモード変換を発生させるカプラーを備え、
前記カプラーは、それぞれ、
カプラーごとに予め定められた高次モードに、前記平行導波路から前記主導波路に結合させる複数の結合部と、
前記複数の結合部の間に配置され、前記平行導波路及び前記主導波路が結合せずかつ前記平行導波路と前記主導波路との間で伝搬遅延差を生じさせる、遅延量の可変な遅延部と、
を備え、
前記主導波路から出力されるモード間の強度差が各基本モードの強度差よりも小さくなるように、前記カプラーに備わる遅延部の遅延量が定められている。
【0007】
本開示のマルチモード増幅システムは、
複数のモードを有する波長多重信号を増幅するマルチモード光増幅器と、
増幅後の波長多重信号をモードごとに分波するモード分波器と、
前記モード分波器で分波されたモードごとに波長利得補償を行う波長利得補償器と、
波長利得補償された波長多重信号間の利得差を補償し、前記利得差を補償後の波長多重信号を、前記モード分波器で分波前のモードに変換し、合波する、本開示のモード特性補償器と、
を備える。
【0008】
本開示のモード多重伝送システムは、
n(nは4以上の整数)個の波長多重信号を発する送信機と、
n個の波長多重信号を互いに異なるモードのモード多重信号に合波する、本開示のモード特性補償器と、
前記モード特性補償器で合波されたモード多重信号を伝搬するマルチモードファイバと、
前記マルチモードファイバで伝搬されたモード多重信号を、モードごとに分離するモード分波器と、
前記モード分波器でモードごとに分離されたn個の波長多重信号を、波長ごとに分離し、受信する受信機と、
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、4モード以上であっても、モード間の強度差を補償可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るモード特性補償器を説明する図である。
図2】カプラーの構造の一例である。
図3】カプラーの構造パラメータの説明図を示す。
図4】各カプラーの構造パラメータの値の一例を示す。
図5】カプラー24(WINC#4)における導波路幅と実効屈折率を示す。
図6】WINC構造の結合部の模式図を示す。
図7】結合長Lに対するLP11aモードからLP11aモード及びLP11bからLP21aモードの透過率の一例であり、(a)はg=5.5μm、(b)はg=6.5μm、(c)はg=7.5μmの場合を示す。
図8】Lに対する式(5)及び(6)の特性を示す。
図9】温度に対する波長特性の一例を示す。
図10】本実施形態に係るマルチモード増幅システムの構成例を示す。
図11】本実施形態に係る光伝送システム構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0012】
(実施形態例1)
図1は、本実施形態のモード特性補償器を説明する図である。本実施形態のモード特性補償器は、全ての導波路の高さhが一定の場合の6モードのモード合分波器であり、さらに6モードの損失差・利得差を補償する機能を備える。図1では、本開示の一例として、6つの基本モード(LP01)モードが入力され、互いに異なる6つのモード(LP01モード、LP11aモード、LP11bモード、LP21aモード、LP21bモード、LP02モード)に合波する例を示す。
【0013】
モード特性補償器は、主導波路11及び副導波路12,13に非接触であり、カプラーを持つm本(mは3以上の整数)の脇導波路15~19をさらに備える。脇導波路15~19は、所望の光の波長範囲に対して、伝搬するモードの実効屈折率が主導波路11の低次側のm個の高次モードの実効屈折率と排他的に一致していることを特徴とする。
【0014】
図1ではm=5の場合の構成例を示し、脇導波路15はカプラー21-2を持ち、脇導波路16はカプラー21-3を持ち、脇導波路17はカプラー21-4を持ち、脇導波路18はカプラー21-5を持ち、脇導波路19はカプラー21-6を持つ。各カプラーは、主導波路11との間でモード変換を発生させ、光パワーを移行させる。図1では、カプラーを「coupler」と表示している。
【0015】
モード特性補償器は、主導波路11、副導波路12,13及び脇導波路15~19に非接触である少なくとも1本の中間導波路14を備える。主導波路11、副導波路12,13、中間導波路14及び脇導波路15~19は、導波路の高さhが同じであり、主導波路11、副導波路12,13、中間導波路14及び脇導波路15~19の少なくとも1つがLP11aモードをLP11bモードに変換するモード回転子25、26を含む。また、主導波路11は、長手方向に導波路幅が連続的に増加し、カプラー22で副導波路12から主導波路11に結合したE31モードをE13モードに変換するテーパー31を含む。また、主導波路11は、長手方向に導波路幅が連続的に減少し、E13モード及びE31モードをLP21bモード及びLP02モードに変換するテーパー32を含む。この6モード合分波器に備わる各カプラーを後述のWINCディバイダ(波長無依存カプラー型任意分岐比ディバイダ)にすることにより、ヒーターによるダイナミックなモード制御が可能となる。
【0016】
図2は、各カプラー21~24(coupler1、coupler2、coupler3、coupler4)が備えるWINCディバイダの構造の一例である。カプラー21は、カプラー21-2~21-6を含む。なお、図1の各カプラー21~24は、このように複数ある結合部を1つに省略して図示している。
【0017】
各カプラーは、2つの平行導波路111及び112により構成されており、複数の結合部121及び122を備え、結合部121及び122の間に並行する導波路111及び112間で伝搬遅延差を生じる遅延部123を有している。導波路111上の結合部121側の端部にポート#1が配置され、導波路112上の結合部121側の端部にポート#2が配置され、導波路111上の結合部122側の端部にポート#3が配置され、導波路112上の結合部122側の端部にポート#4が配置されている。
【0018】
遅延部123には、遅延量ΔLを調整するヒーターが備わっている。結合部121及び122では、伝搬するモードの半分程度、例えば0.4~0.6倍のパワーが他方の導波路に移るよう結合長Lや導波路間隔gなどのパラメータが設定されている。図2では、一例として、「3dB mode divider」と記載している。遅延部の導波路111の長さLは、L+2Lで表される。遅延部の導波路112の長さLは、L+ΔLで表される。導波路111及び112の幅w及びw、高さh、導波路間隔g、結合長Lなどのパラメータを適切に設計し、ヒーターにより遅延量ΔLを調整することで、モードの強度比率を変えることが出来る。すなわち、各モードについて強度調整が可能となるため、各モードの強度差を補償することができる。
【0019】
図3に、各カプラーの構造パラメータの説明図を示す。導波路20が、曲率半径Rで曲がり、角度θのところで逆方向にS字形状に曲がっている例を示す。x軸方向の長さs、半径R、z軸方向の長さLは下記式の関係がある。
【数1】
上式により、LとRが定まれば、sを求めることができる。
【0020】
図4に、各カプラーの構造パラメータの値の一例を示す。カプラー21(WINC#1)では入力ポート#2から入力されたLP01モードが出力ポート#3ではLP11aモードに、カプラー22(WINC#2)では入力ポート#2から入力されたLP11aモードが出力ポート#3ではE31モードに、カプラー23(WINC#3)では入力ポート#2から入力されたLP11aモードが出力ポート#3ではE31モードに、カプラー24(WINC#4)では入力ポート#2から入力されたLP11bモードが出力ポート#3ではLP21aモードに、変換される。
【0021】
図5にWINC#4における導波路幅と実効屈折率を示す。カプラー24(WINC#4)では、LP11bモードからLP21aモードを好きな割合で励振したい。一方で、LP11aモードがLP01モードに変換されてしまう。図6に、カプラー24におけるWINC構造の結合部の模式図を示す。図6で示すように、LP11aモードは主導波路11をそのまま抜け、LP11bモードがLP21aモードに3dBに分割するような動作となる設計が必要になる。
【0022】
図7に、カプラー24の導波路間隔gを、(a)5.5μm、(b)6.5μm、(c)7.5μmに設定した場合の、結合長Lに対するLP11aモードからLP11aモード(ポート#1からポート#3)への透過率、およびLP11bモードからLP21aモード(ポート#2からポート#3)への透過率を示す。例えば、g=7.5μm、L=10mmのとき、LP11aモードからLP11aモード(ポート#1からポート#3)への透過率は略1、LP11bモードからLP21aモード(ポート#2からポート#3)への透過率は略0.5である。このため、g=7.5μm、L=10mmのとき、LP11aモードは主導波路11をそのまま抜け、LP11bモードがLP21aモードに3dBに分割する動作となる。このように、導波路間隔g及び結合長Lを調整することで、LP11aモードは主導波路11をそのまま抜け、LP11bモードがLP21aモードに3dBに分割する動作となることが分かる。
【0023】
以上により、6モードの各モードについてWINCディバイダ構造により各モードの強度を調整し、モード間損失差およびモード利得差を補償するデバイスを実現することが出来る。
【0024】
なお、本開示のモード特性補償器は、逆方向から6モードのモード多重信号を入力することで、モード間の強度差を補償した基本モードを出力するモード分波器として機能する。このため、本開示はモード間の強度差を補償可能なモード合分波器を提供することができる。また、本実施形態例では6モードについて例示したが、各モードについてWINC構造を用いることで任意のモード数でモードの損失差、利得差の補償が実現可能である。
【0025】
(実施形態例2)
本実施形態では、6モードのモード特性補償器について、波長依存性を低減する設計として、遅延部における導波路111及び112間の遅延量ΔLを調整する例について説明する。
【0026】
図2のポート#2にLP01モードの光を入射した場合の、ポート#3からのLP11aモードの光の出力パワーは、次式で表される。
【数2】
【0027】
ここで、A3は図2のポート#3の複素振幅、κは結合部121及び122での結合係数、Lは結合部121及び122での結合長である。また、結合部121及び122の結合(偶奇)モード、導波路111,112を伝搬するモードの伝搬定数をそれぞれβ、β、β、βとしたとき、
(数3)
q=(β-β)/2
δ=(β-β)/2
Δφ=β(L+L)-β(L+L
とする。ここで、Lは遅延部の導波路111の長さ、Lは遅延部の導波路112の長さである。
【0028】
今、中心波長を1550nmとし、中心波長において、導波路111,112のLP11a、LP01モードが位相整合し(δ=0)、結合部121及び122が適切に動作する設計(qL=π/4)において、ポート#2にLP01モードの光を入射した場合の、ポート#3からのLP11aモードの光の出力パワーは、
【数4】
となる。
【0029】
広帯域に100%に近い透過率を得るためには、上式が1で、なおかつ、Δφの波長依存性が小さければよい。よって、広帯域設計のための条件式は下記である。
【数5】
【数6】
なお、k=(q-δ1/2、λは光の波長、k(波数)を2π/λ、N、Nはそれぞれ導波路111、112の群屈折率である。
【0030】
図8にLに対する式(5)及び(6)の特性を示す。図8(a)はWINC#1、図8(b)はWINC#2、図8(c)はWINC#3、図8(d)はWINC#4の特性を示す。そこで、式(6)の値が0に近くかつ式(5)の値が1に近い値になるように、WINC#1~#4のLを選択する。例えば、WINC#1:L=2618μm、WINC#2:L=10626m、WINC#3:L=6590μm、WINC#4:L=3408μmにおいて広帯域設計となる。Lは全てのWINCに対して4000μmである。その他の構造パラメータは図4に示すとおりである。
【0031】
図9に、温度に対する波長特性の一例を示す。図9(a)はWINC#1、図9(b)はWINC#2、図9(c)はWINC#3、図9(d)はWINC#4の特性を示す。図9に示すように、各波長において、温度を80°にすると透過率は60%程度まで低下し、温度を0°にすると透過率は100%近くまで上げることができる。このため、導波路112の遅延部123のヒーターの温度を調整することで、広帯域にモードの強度を調整できる。
【0032】
(実施例形態3)
図10に、本開示に係るマルチモード増幅システムの構成例を示す。6モード(LP01,LP11a,LP11b,LP21a,LP21b,LP02モード)の利得補償の構成例を示す。6モード対応のマルチモードEDFA(Erbium-Doped Fiber-Optical Amplifier)81の後段のモード分波器82により各モードが基本モードであるLP01モードに変換される。マルチモードEDFA81に入力される信号が波長多重信号の場合、モード分波器82では、増幅後の波長多重信号がモードごとに分波される。それぞれの波長多重信号は、波長利得補償器(DWG補償)83を通り、モードごとに波長間の利得差の補償が行われる。
【0033】
その後、モード間の利得差を補償する機能を有するモード合波器84による合波する。このとき、波長利得補償器83は、モード分波器82で分波前のモードに変換し、合波する。モード合波器84は、実施例形態1及び2で説明した本開示のモード特性補償器を用いることができる。このため、波長利得補償器83で波長利得補償された波長多重信号間の利得差を補償することができる。
【0034】
なお、6モード全てを使う必要はなく、モード数を限定して励振しても良く、モード分波器で全ての6モードを分波しても良いし、限定的なモードだけを分波しても良い。また、マルチモードEDFA81に代えて、複数のモードを有する波長多重信号を増幅可能な任意のマルチモード光増幅器を用いることができる。
【0035】
図11に本開示に係るモード多重伝送システムの構成例を示す。本システムでは、n個の波長多重信号を送信する波長多重信号送信機91と、n個の波長多重信号を波長分離し受信する波長多重信号受信機92と、各波長多重信号送信機91からの波長多重信号を互いに異なるモードのモード多重信号に合波するモード合波器93と、モード多重信号をモードごとに分離するモード分波器94と、モード合波器93及びモード分波器94を接続するモード数がnであるマルチモードファイバ95と、を有している。モード合波器93及びモード分波器94の少なくともいずれかは、実施形態例1または2に記載のモード特性補償器を用いる。
【0036】
モード合波器93は、n個の波長多重信号を互いに異なるモードのモード多重信号に合波する。本開示のモード多重伝送システムは、本開示のモード特性補償器を備えるため、モード間の強度差の少ないモード多重信号をマルチモードファイバ95において伝送することができる。
【0037】
また、モード分波器94は、マルチモードファイバ95で伝搬されたn個のモード多重信号をモードごとに分離する。これにより、n個の波長多重信号がモード分波器94から出力される。本開示のモード多重伝送システムは、本開示のモード特性補償器を備えるため、モード多重信号にモード間の強度差が生じた場合であっても、モード間の強度差を補償し、均一な強度の波長多重信号を受信機92に出力することができる。
【0038】
伝送の中継では、マルチモードアンプ96、さらには利得補償器97を有していてもよい。マルチモードアンプ96及び利得補償器97は、図10に示す構成を採用することができる。例えば、マルチモードアンプ96はマルチモードEDFA81を備え、利得補償器97はモード分波器82、波長利得補償器83及びモード合波器84を備える。
【0039】
なお、本明細書においてはガラス系材料を用いた平面光波回路に関する実施例を記載したが、その材料は当然ほかのものであってもかまわない。たとえば、SiやInGaAsPなどの半導体、またポリマーなどの有機物を用いた平面光波回路であっても、本明細書記載の実施形態例と同様の効果を得ることができる。また、使用する波長帯に関しても、本明細書記載の実施形態例では1.5~1.6μm程度としているが、より波長の長い中赤外領域(2μm以上)や可視光帯であっても構わない。
【0040】
以上説明したように、本開示のモード特性補償器は、
6モードを主導波路に合波する光合波器であって、
各モードを主導波路に結合するカプラー(21~24)に、
WINCディバイダと、
各WINCディバイダの遅延部の遅延量ΔLを可変とする手段(遅延部の温度を調整するヒーター)と、を備え、
各カプラーに備わる遅延部の遅延量ΔLを調整することで、各モードの強度差を補償可能にする。これにより、本実施形態のモード特性補償器は、モード損失差・利得差補償器として機能する。
【0041】
ここで、本開示のモード特性補償器は、
n(nは4以上の整数)個のモードが伝搬可能であり、長手方向に導波路幅が連続的に変化するテーパー部を持つ主導波路(11)と、
前記主導波路11に非接触であり、前記主導波路との間でモード変換を発生させ、光パワーを移行させる結合部を持つ導波路(12~16)と、
を基板上に備えるモード特性補償補償器であって、
m(mは2以上の整数)以上のモードを伝搬可能な導波路1と
導波路1(111)と平行した導波路2(112)と、
平行に配置された前記導波路1と前記導波路2のそれぞれが近接する結合部を2つ以上有し、
導波路間で結合しない領域である遅延導波路部を前記結合部の間に有し、
導波路1と導波路2の遅延部において生ずる光波の位相遅延差Δτが前記遅延部の遅延量ΔLにより調整され、
導波路1と導波路2が近接する部分において、
所望の光の波長範囲に対して、導波路2を伝搬するモードの実効屈折率が、導波路1のm-1個のモードの実効屈折率と排他的に一致するよう導波路幅・高さ・比屈折率差が調整され、
結合部の長さ及び結合部における導波路間隔が、モード変換により導波路2を導波する光パワーの0.4~0.6倍が導波路1を伝搬するよう定められることを特徴とするモード合分波器を具備し、
モードごとに強度を調節できることを特徴とし、
脇導波路15から主導波路11に結合したLP11aモードは主導波路11をそのまま抜け、
中間導波路14のLP01モードが、主導波路11のLP21aモード、中間導波路14のLP01モードに3dBに分割される、
構成を採用した。
【0042】
(本開示の効果)
6モードのモード特性補償器について、WINC構造を用いることでダイナミックにモードの強度を調整することが出来、本デバイスを伝送路中で用いることで、モード依存損失の補償、マルチモード増幅器に用いることでモード利得差補償が可能となる。
【0043】
(本開示のポイント)
4以上のモードのモード合波器の結合器(Asymmetric Directional Coupler:ADC)にWINCディバイダに適用することにより、ヒーターによるダイナミックなモード間の利得差の補償の制御が可能になる。
特に、導波路間隔g及び結合長Lを適切に設計することで、LP11aモードは主導波路11をそのまま抜け、LP11bモードがLP21aモードに3dBに分割するような動作設計が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本開示は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
11:主導波路
12、13:副導波路
14:中間導波路
15、16、17、18、19:脇導波路
20:導波路
21-2,21-3,21-4,21-5,21-6,22,23,24:カプラー
81:マルチモードEDFA
82:モード分波器
83:波長利得補償器
84:モード合波器
91:波長多重信号送信機
92:波長多重信号受信機
93、94:モード合分波器
95:マルチモードファイバ
96:マルチモードアンプ
97:利得補償器
111、112:導波路
121、122:結合部
123:遅延部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11