(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】電極構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240816BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
G01N27/04 Z
(21)【出願番号】P 2021124227
(22)【出願日】2021-07-29
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 洸児
(72)【発明者】
【氏名】山口 真澄
(72)【発明者】
【氏名】三浦 重徳
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-25510(JP,A)
【文献】特許第7065433(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第101654651(CN,A)
【文献】化学とマイクロ・ナノシステム,2021年,第20巻, 第1号,第15-18頁
【文献】2019 IEEE 19th International Conference on Bioinformatics and Bioengineering (BIBE),2019年,pp.800-803,DOI 10.1109/BIBE.2019.00149
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
G01N 27/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に巻かれた第1電極と、前記第1電極とは非接触に設けられ、且つ筒状又は半筒状に巻かれた第2電極と、を備え、
前記第1電極が前記第2電極を囲んで、前記第1電極及び第2電極が多層円筒構造を構成し、
前記多層円筒構造中の前記第1電極及び第2電極間の空隙部が、細胞培養部となっている、電極構造体。
【請求項2】
前記第1電極の、前記多層円筒構造の径方向における内向きの面に、第1絶縁層が積層されて、第1薄膜が構成され、
前記第2電極の、前記多層円筒構造の径方向における内向きの面に、第2絶縁層が積層されて、第2薄膜が構成され、
前記第1薄膜及び第2薄膜間の空隙部が、前記細胞培養部となっている、請求項1に記載の電極構造体。
【請求項3】
前記第1電極が、その巻かれている方向に対して直交する方向に延ばして設けられている第1軸部と接続され、
前記第2電極が、その巻かれている方向に対して直交する方向に延ばして設けられている第2軸部と接続されている、請求項1又は2に記載の電極構造体。
【請求項4】
前記第1軸部が第1軸状導電層を有し、前記第1電極及び第1軸状導電層が電気的に接続され、
前記第2軸部が第2軸状導電層を有し、前記第2電極及び第2軸状導電層が電気的に接続されている、請求項3に記載の電極構造体。
【請求項5】
前記第1軸部及び第2軸部を介して、前記第1電極及び第2電極間の電位差が測定可能となっている、請求項4に記載の電極構造体。
【請求項6】
前記第1電極、第2電極、第1絶縁層及び第2絶縁層が、光透過性を有する、請求項2~5のいずれか一項に記載の電極構造体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の電極構造体の製造方法であって、
常温で非導電性である基板の一方の面上に、前記第1電極を積層するための第1犠牲層と、前記第2電極を積層するための第2犠牲層と、を形成する工程(A)と、
前記第1犠牲層の前記基板側とは反対側の面上に、前記第1電極を形成し、前記第2犠牲層の前記基板側とは反対側の面上に、前記第2電極を形成する工程(B)と、
前記第1犠牲層及び第2犠牲層に、その外部から刺激を加えることにより、前記第1犠牲層及び第2犠牲層を溶解させ、前記第1犠牲層上に形成されていた前記第1電極と、前記第2犠牲層上に形成されていた前記第2電極と、を前記基板上で遊離させるとともに、前記第2電極を筒状又は半筒状に巻き、前記第1電極を、前記第2電極を囲んで筒状に巻くことにより、前記多層円筒構造を形成する工程(C)と、を有する、電極構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
創薬及び再生医療の分野において、細胞とその足場となる生体材料を用いて、細胞の三次元培養組織(以下、単に「三次元培養組織」と称する)を人工的に形成する技術が注目されている。三次元培養組織は、例えば、従来の動物実験に代わる創薬スクリーニングのツールとしてだけでなく、失った生体組織を補うための移植組織としての応用も期待されている。
【0003】
三次元培養組織においては、細胞の二次元培養組織(以下、単に「二次元培養組織」と称する)の場合よりも物質の拡散性が低いために、細胞への栄養の供給や細胞での代謝物の除去が難しく、細胞培養の維持が難しいことが懸念されている。そのため、培養に必要な液体を組織内部に送液することを目的として、組織内部に巡らせるための管状の培養血管組織が求められており、物質を適切に輸送できる三次元培養血管組織を効率的に形成する手法の確立が重要な課題となっている。
【0004】
三次元培養血管組織を形成する上での重要な要素として、培養血管組織の円筒構造とバリア機能の2点が挙げられる。円筒構造は、細胞を培養する際の足場として必要な構造物である。円筒構造は、組織ゲル内で細胞を培養することで自発的に形成させたり、その他にも、管状の鋳型を用いて細胞を培養して形成する方法が検討されている(非特許文献1参照)。一方、バリア機能とは、物質の透過を血管により制御する機能であり、目的の生体組織へ適切に物質を輸送する上で必要となる。培養血管組織においては、バリア機能を示す主要な指標の1つとして、血管組織の電気抵抗値が広く用いられている。例えば、シート状の形状に培養した血管組織(血管シート)を挟む2枚の電極を配置することで、血管シートの電気抵抗値を測定する手法が開示されている(非特許文献2参照)。すなわち、適切な機能を有する三次元培養血管組織の形成方法を検討するときには、培養血管組織の円筒構造の形成を幾何学的に制御し易く、血管シートの電気抵抗値を容易に測定できる細胞の培養環境が必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】A. Shimizu et al., Lab Chip, 20 (11), 1917-1927 (2020)
【文献】B. Srinivasan et al., J. Lab. Autom., 20 (2), 107-126 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1及び2で開示されている技術も含めて、従来技術では、培養血管組織の円筒構造の形成と、電極の配置と、を両立させることが困難であり、このような問題点を解決できる先行技術は、開示されていない。特に、組織ゲルや鋳型を用いて、培養血管組織の円筒構造を形成する場合、円筒構造の外部には電極を配置するスペースがなく、さらに、マイクロメートル(μm)~ミリメートル(mm)スケールで形成される円筒構造の内部に電極を配置することも難しかった。
【0007】
ここまでは、三次元培養血管組織を例に挙げて、その形成と評価について説明した。しかし、円筒構造を有し、かつ電極を備えた構造体であって、前記電極によって電位差を測定するための対象物を前記円筒構造内に配置可能な構造体は、三次元培養血管組織に限定されず、種々の対象物への適用が可能である。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、円筒構造を有し、かつ電極を備えた構造体であって、前記電極によって電位差を測定するための対象物を前記円筒構造内に配置可能な構造体と、その製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、筒状に巻かれた第1電極と、前記第1電極とは非接触に設けられ、且つ筒状又は半筒状に巻かれた第2電極と、を備え、前記第1電極が前記第2電極を囲んで、前記第1電極及び第2電極が多層円筒構造を構成し、前記多層円筒構造中の前記第1電極及び第2電極間の空隙部が、細胞培養部となっている、電極構造体である。
【0010】
また、本発明の一態様は、前記電極構造体の製造方法であって、常温で非導電性である基板の一方の面上に、前記第1電極を積層するための第1犠牲層と、前記第2電極を積層するための第2犠牲層と、を形成する工程(A)と、前記第1犠牲層の前記基板側とは反対側の面上に、前記第1電極を形成し、前記第2犠牲層の前記基板側とは反対側の面上に、前記第2電極を形成する工程(B)と、前記第1犠牲層及び第2犠牲層に、その外部から刺激を加えることにより、前記第1犠牲層及び第2犠牲層を溶解させ、前記第1犠牲層上に形成されていた前記第1電極と、前記第2犠牲層上に形成されていた前記第2電極と、を前記基板上で遊離させるとともに、前記第2電極を筒状又は半筒状に巻き、前記第1電極を、前記第2電極を囲んで筒状に巻くことにより、前記多層円筒構造を形成する工程(C)と、を有する、電極構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、円筒構造を有し、かつ電極を備えた構造体であって、前記電極によって電位差を測定するための対象物を前記円筒構造内に配置可能な構造体と、その製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電極構造体の製造に用いる電極シートの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す電極シートにおいて、最表層となっている絶縁層と、第1支持体と、第2支持体と、を取り除いた状態の一例を模式的に示す平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る電極構造体の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図3に示す電極構造体を、回路を形成した状態で模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る電極構造体の製造方法の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る電極構造体の製造方法の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る電極構造体の製造方法の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図8】実施例1の電極構造体における、第1電極及び第2電極間の電位差の測定結果を示すグラフである。
【
図9】実施例1の電極シートにおける、第1電極及び第2電極間の電位差の測定結果を示すグラフである。
【
図10】実施例2で作製した三次元培養血管組織について、位相差顕微鏡を用いて取得した撮像データである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。なお、以降の説明で用いる図は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0014】
<<電極シート>>
まず、本発明の一実施形態に係る電極構造体の製造に用いる、電極シートについて、図面を参照しながら説明する。本明細書において、電極シートとは、特に断りのない限り、本実施形態の電極構造体を構成する前の段階の、多層円筒構造を有さず、電極を有するシートを意味する。
【0015】
はじめに、電極シート中の各部の構成全般について、以下、説明する。
図1は、本実施形態における電極シートの一例を模式的に示す斜視図である。
ここに示す電極シート101は、基板11と、基板11の一方の面11a上に設けられた第1電極131及び第2電極132と、を備えている。第1電極131は、平らなシート状であり、後述する電極構造体においては、筒状に巻かれた状態となり、ここに示す電極シート101の段階では、筒状に巻かれる前の状態である。第2電極132は、平らなシート状であり、後述する電極構造体においては、筒状又は半筒状に巻かれた状態となり、ここに示す電極シート101の段階では、筒状又は半筒状に巻かれる前の状態である。
【0016】
電極シート101において、基板11と第1電極131との間には、さらに第1犠牲層121が設けられ、基板11と第2電極132との間には、さらに第2犠牲層122が設けられている。
第1電極131の基板11側とは反対側の面上には、さらに第1絶縁層141が設けられ、第2電極132の基板11側とは反対側の面上には、さらに第2絶縁層142が設けられている。第1絶縁層141及び第2絶縁層142は、いずれも平らなシート状である。
第1犠牲層121及び第2犠牲層122は、後述する電極構造体の製造時まで一時的に、電極シート101において、第1電極131及び第2電極132をそれぞれ、基板11に接着するための層である。第1犠牲層121は第1電極131を積層するための層であり、第2犠牲層122は第2電極132を積層するための層である。第1犠牲層121及び第2犠牲層122は、その外部から刺激が加えられることにより、溶解する。
【0017】
第1犠牲層121、第1電極131及び第1絶縁層141はいずれも膜状であり、本実施形態においては、第1電極131及び第1絶縁層141の積層物を第1薄膜91と称する。
第2犠牲層122、第2電極132及び第2絶縁層142はいずれも膜状であり、本実施形態においては、第2電極132及び第2絶縁層142の積層物を第2薄膜92と称する。
後述するように、第1電極131及び第2電極132は、互いに離間して配置されており、基板11の一方の面11aに対して直交する方向において、第1電極131及び第1絶縁層141の積層構造が認められない部位は、第1薄膜91に該当せず、同方向において、第2電極132及び第2絶縁層142の積層構造が認められない部位は、第2薄膜92に該当せず、このような観点で、第1薄膜91と第2薄膜92のそれぞれの境界が決定される。
【0018】
基板11の一方の面11a側の上方から、第1犠牲層121、第1電極131及び第1絶縁層141を見下ろして平面視したときの、第1犠牲層121、第1電極131及び第1絶縁層141の平面形状は、いずれも矩形であり、正方形及び長方形のいずれであってもよく、ここでは長方形である場合を示している。第1犠牲層121、第1電極131及び第1絶縁層141の前記平面形状は、矩形以外であってもよいが、後述する多層円筒構造中の空隙部(細胞培養部)の大きさがより大きくなる点では、矩形であることが好ましい。
上記のように平面視したときの、第1犠牲層121、第1電極131及び第1絶縁層141の大きさは、すべて同一であってもよいし、一部のみ同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいが、電極シート101の製造がより容易である点では、すべて同一であることが好ましい。
上記のように平面視したときの、第1犠牲層121、第1電極131及び第1絶縁層141の外周の位置は、すべて一致していてもよいし、一部のみ一致していてもよいし、すべて一致していなくてもよいが、電極シート101の製造がより容易である点では、すべて一致していることが好ましい。
【0019】
第2犠牲層122、第2電極132及び第2絶縁層142の配置形態も、上述の第1犠牲層121、第1電極131及び第1絶縁層141の配置形態と同様である。
すなわち、基板11の一方の面11a側の上方から、第2犠牲層122、第2電極132及び第2絶縁層142を見下ろして平面視したときの、第2犠牲層122、第2電極132及び第2絶縁層142の平面形状は、いずれも矩形であり、正方形及び長方形のいずれであってもよく、ここでは長方形である場合を示している。第2犠牲層122、第2電極132及び第2絶縁層142の前記平面形状は、矩形以外であってもよいが、後述する多層円筒構造中の空隙部(細胞培養部)の大きさがより大きくなる点では、矩形であることが好ましい。
上記のように平面視したときの、第2犠牲層122、第2電極132及び第2絶縁層142の大きさは、すべて同一であってもよいし、一部のみ同一であってもよいし、すべて異なっていてもよいが、電極シート101の製造がより容易である点では、すべて同一であることが好ましい。
上記のように平面視したときの、第2犠牲層122、第2電極132及び第2絶縁層142の外周の位置は、すべて一致していてもよいし、一部のみ一致していてもよいし、すべて一致していなくてもよいが、電極シート101の製造がより容易である点では、すべて一致していることが好ましい。
【0020】
基板11の前記一方の面11aのうち、第1犠牲層121及び第2犠牲層122が設けられていない一の領域上には、第1電極131及び第2電極132とは別途に、基板11に直接接触して第3導電層133が設けられ、他の一の領域上には、第1電極131及び第2電極132とは別途に、基板11に直接接触して第4導電層134が設けられている。すなわち、基板11と第3導電層133との間、並びに、基板11と第4導電層134との間には、いずれも、第1犠牲層121又は第2犠牲層122のような犠牲層が設けられていない。
第3導電層133と第4導電層134は、基板11上において、互いに離間して配置されている。
【0021】
第1電極131及び第3導電層133は、第1軸状導電層135によって接続されている。すなわち、第1電極131及び第1軸状導電層135は電気的に接続され、第3導電層133及び第1軸状導電層135は電気的に接続されている。
第2電極132及び第4導電層134は、第2軸状導電層136によって接続されている。すなわち、第2電極132及び第2軸状導電層136は電気的に接続され、第4導電層134及び第2軸状導電層136は電気的に接続されている。
【0022】
第3導電層133の基板11側とは反対側の面の一部の領域上には、第3導電層133に直接接触して、導電性の第1コンタクトパッド151が設けられている。そして、第3導電層133の基板11側とは反対側の面のうち、第1コンタクトパッド151が設けられていない領域上には、第3絶縁層143が設けられている。すなわち、第3導電層133上において、第1コンタクトパッド151は、その周囲を第3絶縁層143で囲まれている。
第4導電層134の基板11側とは反対側の面の一部の領域上には、第4導電層134に直接接触して、導電性の第2コンタクトパッド152が設けられている。そして、第4導電層134の基板11側とは反対側の面のうち、第2コンタクトパッド152が設けられていない領域上には、第4絶縁層144が設けられている。すなわち、第4導電層134上において、第2コンタクトパッド152は、その周囲を第4導電層134で囲まれている。
【0023】
基板11の一方の面11a側の上方から、電極シート101を見下ろして平面視したときの、第3導電層133及び第1コンタクトパッド151の平面形状は、いずれも矩形であり、正方形及び長方形のいずれであってもよく、ここでは長方形である場合を示している。第3導電層133及び第1コンタクトパッド151の前記平面形状は、矩形以外であってもよい。
【0024】
第4導電層134及び第2コンタクトパッド152の配置形態も、上述の第3導電層133及び第1コンタクトパッド151の配置形態と同様である。
すなわち、基板11の一方の面11a側の上方から、電極シート101を見下ろして平面視したときの、第4導電層134及び第2コンタクトパッド152の平面形状は、いずれも矩形であり、正方形及び長方形のいずれであってもよく、ここでは長方形である場合を示している。第4導電層134及び第2コンタクトパッド152の前記平面形状は、矩形以外であってもよい。
【0025】
電極シート101においては、第3導電層133及び第1コンタクトパッド151が電気的に接続されているため、第1電極131、第1軸状導電層135、第3導電層133及び第1コンタクトパッド151はすべて、電気的に接続されている。
同様に、電極シート101においては、第4導電層134及び第2コンタクトパッド152が電気的に接続されているため、第2電極132、第2軸状導電層136、第4導電層134及び第2コンタクトパッド152はすべて、電気的に接続されている。
【0026】
第1軸状導電層135の基板11側とは反対側の面上には、第1軸状導電層135に直接接触して、第1軸状絶縁層145が設けられており、本実施形態においては、第1軸状導電層135及び第1軸状絶縁層145の積層物を第1軸部81と称する。第1軸部81は、第1軸状導電層を有していることで、導電性を有する。
第2軸状導電層136の基板11側とは反対側の面上には、第2軸状導電層136に直接接触して、第2軸状絶縁層146が設けられており、本実施形態においては、第2軸状導電層136及び第2軸状絶縁層146の積層物を第2軸部82と称する。第2軸部82は、第2軸状導電層136を有していることで、導電性を有する。
【0027】
基板11の一方の面11a側の上方から、電極シート101を見下ろして平面視したときの、第1軸状導電層135及び第1軸状絶縁層145の平面形状は、いずれも長方形(棒状)であることが好ましい。
上記のように平面視したときの、第1軸状導電層135及び第1軸状絶縁層145の大きさは、同一であってもよいし、異なっていてもよいが、電極シート101の製造がより容易である点では、同一であることが好ましい。
上記のように平面視したときの、第1軸状導電層135及び第1軸状絶縁層145の外周の位置は、すべて一致していてもよいし、一部のみ一致していてもよいし、すべて一致していなくてもよいが、電極シート101の製造がより容易である点では、すべて一致していることが好ましい。
第1軸部81においては、第1軸状導電層135及び第1軸状絶縁層145の大きさが同一であり、第1軸状導電層135及び第1軸状絶縁層145の外周の位置がすべて一致していることが好ましい。
【0028】
第2軸状導電層136及び第2軸状絶縁層146の配置形態も、上述の第1軸状導電層135及び第1軸状絶縁層145の配置形態と同様である。
すなわち、基板11の一方の面11a側の上方から、電極シート101を見下ろして平面視したときの、第2軸状導電層136及び第2軸状絶縁層146の平面形状は、いずれも長方形(棒状)であることが好ましい。
上記のように平面視したときの、第2軸状導電層136及び第2軸状絶縁層146の大きさは、同一であってもよいし、異なっていてもよいが、電極シート101の製造がより容易である点では、同一であることが好ましい。
上記のように平面視したときの、第2軸状導電層136及び第2軸状絶縁層146の外周の位置は、すべて一致していてもよいし、一部のみ一致していてもよいし、すべて一致していなくてもよいが、電極シート101の製造がより容易である点では、すべて一致していることが好ましい。
第2軸部82においては、第2軸状導電層136及び第2軸状絶縁層146の大きさが同一であり、第2軸状導電層136及び第2軸状絶縁層146の外周の位置がすべて一致していることが好ましい。
【0029】
基板11の前記一方の面11a上において、第3導電層133、第1コンタクトパッド151及び第3絶縁層143の積層物は、第1軸部81によって、第1薄膜91と接続されている。第4導電層134、第2コンタクトパッド152及び第4絶縁層144の積層物は、第2軸部82によって、第2薄膜92と接続されている。
【0030】
図2は、
図1に示す電極シート101において、最表層となっている絶縁層、すなわち、第1絶縁層141、第2絶縁層142、第3絶縁層143、第4絶縁層144、第1軸状絶縁層145及び第2軸状絶縁層146と、後述する第1支持体と、後述する第2支持体と、を取り除いた状態の一例を模式的に示す平面図である。
図2を参照して、電極シート101中の各導電層の配置形態について、より詳細に説明する。
なお、
図2以降の図において、既に説明済みの図に示すものと同じ構成要素には、その説明済みの図の場合と同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0031】
図2に示すように、第1電極131及び第2電極132は、互いに離間して配置されており、互いに絶縁されている。そして、第1電極131の第2電極132に対向している外周と、第2電極132の第1電極131に対向している外周とは、互いに平行である。
第1電極131は、その一の外周(ここでは、換言すると、第1電極131の長手方向)に対して平行な方向に延ばして設けられている第1軸状導電層135と接続されている。第1軸状導電層135の第1電極131側の一部は、ここに示すように、第1電極131の第2電極132に対向している周縁部に接触しており、この部位では、第1電極131と第1軸状導電層135は一体化している。ただし、基板11と第1軸状導電層135との間には、第1犠牲層121又は第2犠牲層122のような犠牲層が設けられていない。
第3導電層133は、その一の外周(ここでは、換言すると、第3導電層133の短手方向)に対して平行な方向に延ばして設けられている第1軸状導電層135と接続されている。
【0032】
一方、第2電極132は、その一の外周(ここでは、換言すると、第2電極132の長手方向)に対して平行な方向に延ばして設けられている第2軸状導電層136と接続されている。第2軸状導電層136の第2電極132側の一部は、ここに示すように、第2電極132の第1電極131に対向している周縁部に接触しており、この部位では、第2電極132と第2軸状導電層136は一体化している。ただし、基板11と第2軸状導電層136との間には、第1犠牲層121又は第2犠牲層122のような犠牲層が設けられていない。
第4導電層134は、その一の外周(ここでは、換言すると、第4導電層134の短手方向)に対して平行な方向に延ばして設けられている第2軸状導電層136と接続されている。
第1軸状導電層135と第2軸状導電層136は、互いに離間して配置されており、平行に配置されていることが好ましい。
【0033】
図1に示すように、電極シート101において、第1軸部81の基板11側とは反対側の面上には、第1軸部81の長手方向に沿って、さらに第1支持体161及び第2支持体162が、互いに非接触に設けられている。第1支持体161及び第2支持体162は、いずれも、後述する電極構造体の製造時に、第1薄膜91を自己組織的に筒状に巻くときの、巻き付きの足場となる。
【0034】
第1支持体161は円柱状であるが、柱状又筒状であれば、その他の形状であってもよく、例えば、角柱状、円筒状又は角筒状であってもよい。
【0035】
第1支持体161及び第2支持体162の長手方向(換言すると中心軸方向)は、第1軸部81の長手方向と同じであることが好ましい。そして、第1支持体161及び第2支持体162は、基板11上において、直線上に配置されていることが好ましい。
【0036】
第1支持体161の、その長手方向における両端部のうち、第2支持体162側の端部は、第1薄膜91の基板11側とは反対側の面のうち、第2薄膜92側の領域上に配置されている。すなわち、第1支持体161の前記端部は、第1薄膜91上に差し掛かって配置されている。一方、第1支持体161の前記端部は、第2薄膜92上には差し掛かって配置されていない。
第2支持体162の、その長手方向における両端部のうち、第1支持体161側の端部は、第1薄膜91の基板11側とは反対側の面のうち、第2薄膜92側の領域上に配置されている。すなわち、第2支持体162の前記端部も、第1薄膜91上に差し掛かって配置されている。一方、第2支持体162の前記端部は、第2薄膜92上には差し掛かって配置されていない。
このような配置形態によって、第1支持体161の前記端部と、第2支持体162の前記端部と、の間は、空隙部となっている。したがって、第1支持体161の前記端部と、第2支持体162の前記端部と、を結ぶ方向においては、第2薄膜92全体が前記空隙部中に納まって配置されている。
【0037】
第1支持体161及び第2支持体162の、これらの中心軸方向に対して直交する方向における幅の最大値(例えば、第1支持体161及び第2支持体162が円柱状又は円筒状である場合には、円柱又は円筒の外径(直径))は、50~2000μmであることが好ましい。前記幅の最大値がこのような範囲であることで、後述する多層円筒構造中で、目的とする三次元培養組織をより容易に作製できる。
【0038】
図1及び
図2に示すように、第1電極131及び第1絶縁層141には、これらの積層方向に一繋がりに貫通して(換言すると、第1薄膜91には、その厚さ方向に貫通して)、複数個の第1細孔919が設けられている。
【0039】
第1細孔919の大きさは、培養対象の1個の細胞が第1細孔919を通過できない大きさであれば特に限定されず、細胞の種類に応じて任意に選択できる。本明細書において、「細孔の大きさ」とは、細孔の長さ方向に対して直交する方向に薄膜(例えば、第1細孔919の場合には第1薄膜91)の断面を形成したときの、前記断面における細孔の開口部の大きさ、又は薄膜の表面における細孔の開口部の大きさ、を意味する。第1細孔919の大きさがこのように設定されるのは、後述する電極構造体中の多層円筒構造の外部に、培養対象の細胞が漏出するのを防止するためである。例えば、第1細孔919の前記開口部の形状が、ここに示すように円形である場合には、第1細孔919の前記開口部の直径は6μm以下であることが好ましい。一方、第1細孔919の大きさが過小とならないようにするためには、第1細孔919の前記開口部の直径は1μm以上であることが好ましい。そして、第1細孔919の前記開口部の直径は1~6μmであることがより好ましい。
【0040】
ここでは、第1細孔919の数は28個であるが、第1細孔919の数は、後述する第1薄膜91の筒状への巻きを妨げない範囲で、目的に応じて任意に選択できる。例えば、第1薄膜91の筒状への巻きを妨げない効果がより高くなる点では、第1薄膜91の表面の面積値に対する、第1薄膜91の表面における第1細孔919の開口部の面積の合計値の比率([第1薄膜91の表面における第1細孔919の開口部の面積の合計値]/[第1薄膜91の表面の面積値])は、0超0.5以下であることが好ましい。
【0041】
図1及び
図2に示すように、第2電極132及び第2絶縁層142には、これらの積層方向に一繋がりに貫通して(換言すると、第2薄膜92には、その厚さ方向に貫通して)、複数個の第2細孔929が設けられている。
【0042】
第2細孔929の大きさは、培養対象の1個の細胞が第2細孔929を通過できる大きさであれば特に限定されず、細胞の種類に応じて任意に選択できる。すなわち、第2細孔929の大きさは、第1細孔919の大きさよりも大きい。第2細孔929の大きさがこのように設定されるのは、後述する電極構造体中の多層円筒構造の内部で、培養対象の細胞が第2薄膜92を介して移動するのを可能とするためである。例えば、第2細孔929の前記開口部の形状が、ここに示すように円形である場合には、第2細孔929の前記開口部の直径は6μm以上であることが好ましい。一方、第2細孔929の大きさが過大とならないようにするためには、第2細孔929の前記開口部の直径は50μm以下であることが好ましい。そして、第2細孔929の前記開口部の直径は6~50μmであることがより好ましい。
【0043】
ここでは、第2細孔929の数は6個であるが、第2細孔929の数は、後述する第2薄膜92の筒状への巻きを妨げない範囲で、目的に応じて任意に選択できる。例えば、第2薄膜92の筒状への巻きを妨げない効果がより高くなる点では、第2薄膜92の表面の面積値に対する、第2薄膜92の表面における第2細孔929の開口部の面積の合計値の比率([第2薄膜92の表面における第2細孔929の開口部の面積の合計値]/[第2薄膜92の表面の面積値])は、0超0.5以下であることが好ましい。
【0044】
第1薄膜91の第2薄膜92に対向している外周と、第2薄膜92の第1薄膜91に対向している外周と、は互いに平行であることが好ましい。
第1薄膜91及び第2薄膜92が並列に配置されている方向に対して直交する方向(ここでは、平面形状がいずれも長方形である第1薄膜91及び第2薄膜92の長手方向)において、第1薄膜91の両端部(ここでは短辺)は、第2薄膜92の両端部(ここでは短辺)よりも突出していることが好ましい。
第1薄膜91及び第2薄膜92が上記のように配置されている電極シート101を用いることで、後述する電極構造体をより容易に製造できる。
【0045】
図1に示すように、第1薄膜91と第2薄膜92の間は、第1絶縁層141等の、ここまでで説明したいずれかの絶縁層と同様の組成の絶縁層14が充填されていることが好ましい。このように絶縁層14が設けられた電極シート101は、より容易に製造できる。
【0046】
第1電極131、第2電極132、第3導電層133、第4導電層134、第1軸状導電層135及び第2軸状導電層136の厚さは、それぞれ独立に、0.3~10nmであることが好ましい。そして、第1電極131及び第2電極132の厚さは、第3導電層133、第4導電層134、第1軸状導電層135及び第2軸状導電層136の厚さに対して、同等以下であることが好ましい。
第1電極131の厚さがこのような範囲である場合、第1絶縁層141の厚さに対する、第1電極131の厚さの比率を調節することで、後述する電極構造体における、第1薄膜91(換言すると、後述する第1電極)の、その筒状に巻かれた状態での曲率を、任意に調節することがより容易となる。第2電極132の場合も同様である。すなわち、第2電極132の厚さがこのような範囲である場合、第2絶縁層142の厚さに対する、第2電極132の厚さの比率を調節することで、後述する電極構造体における、第2薄膜92(換言すると、後述する第2電極)の、その筒状に巻かれた状態での曲率を、任意に調節することがより容易となる。
一方、第3導電層133、第4導電層134、第1軸状導電層135及び第2軸状導電層136の厚さがこのような範囲である場合、電極シート101をより容易に製造できる。
【0047】
第1絶縁層141、第2絶縁層142、第3絶縁層143、第4絶縁層144、第1軸状絶縁層145及び第2軸状絶縁層146の厚さは、それぞれ独立に、10~1000nmであることが好ましい。そして、第1絶縁層141の厚さは、第2絶縁層142の厚さよりも厚いことが好ましく、第2絶縁層142、第3絶縁層143、第4絶縁層144、第1軸状絶縁層145及び第2軸状絶縁層146の厚さよりも厚くてもよい。
第1絶縁層141の厚さがこのような範囲である場合、第1電極131の厚さが上記数値範囲内であることにより、後述する電極構造体の製造時に、第1薄膜91(第1電極131)を自己組織的に、筒状に巻くことがより容易となる。第2絶縁層142の場合も同様である。すなわち、第2絶縁層142の厚さがこのような範囲である場合、第2電極132の厚さが上記数値範囲内であることにより、後述する電極構造体の製造時に、第2薄膜92(第2電極132)を自己組織的に、筒状に巻くことがより容易となる。
一方、第3絶縁層143、第4絶縁層144、第1軸状絶縁層145及び第2軸状絶縁層146の厚さがこのような範囲である場合、電極シート101をより容易に製造できる。
【0048】
第1絶縁層141の厚さは、50~250nmであることがより好ましい。第1絶縁層141の厚さがこのような範囲ある場合、第1絶縁層141の厚さに対する、第1電極131の厚さの比率を調節することで、後述する電極構造体における、第1薄膜91(換言すると、後述する第1電極)の、その筒状に巻かれた状態での曲率を、任意に調節することがより容易となる。第2絶縁層142の場合も同様である。すなわち、第2絶縁層142の厚さは、50~250nmであることがより好ましい。第2絶縁層142の厚さがこのような範囲ある場合、第2絶縁層142の厚さに対する、第2電極132の厚さの比率を調節することで、後述する電極構造体における、第2薄膜92(換言すると、後述する第2電極)の、その筒状に巻かれた状態での曲率を、任意に調節することがより容易となる。
【0049】
第1絶縁層141の厚さに対する、第1電極131の厚さの比率([第1電極131の厚さ]/[第1絶縁層141の厚さ])は、1/3000~1/1であることが好ましく、1/1200~1/4であることがより好ましい。前記比率がこのような範囲であることで、後述する電極構造体における、第1薄膜91(後述する第1電極)の筒状に巻かれた状態を、より安定して維持できる。
第2絶縁層142の厚さに対する、第2電極132の厚さの比率([第2電極132の厚さ]/[第2絶縁層142の厚さ])も、1/3000~1/1であることが好ましく、1/1200~1/4であることがより好ましい。前記比率がこのような範囲であることで、後述する電極構造体における、第2薄膜92(後述する第2電極)の筒状に巻かれた状態を、より安定して維持できる。
【0050】
第1電極131、第2電極132、第1絶縁層141及び第2絶縁層142は、光透過性を有することが好ましい。このような場合、後述する電極構造体において、多層円筒構造中の細胞又は三次元培養組織を、より容易に観察できる。
【0051】
基板11の一方の面11a側の上方から、電極シート101を見下ろして平面視したときの、第1薄膜91の大きさは、第2薄膜92の大きさよりも大きい。その理由は、後述する電極構造体において、筒状に巻かれた第1電極が、筒状又は半筒状に巻かれた第2電極を囲んで、第1電極及び第2電極が多層円筒構造を構成可能とするためである。
【0052】
第1薄膜91及び第2薄膜92の大きさは、後述する電極構造体において内包する細胞の種類、細胞培養によって作製する、目的とする培養組織の形状等に応じて、適宜選択できる。
【0053】
第1薄膜91の長手方向の長さ(換言すると、第1薄膜91の第2薄膜92に対向している外周の長さ)は、200~10000μmであることが好ましい。
第1薄膜91の短手方向の長さ(換言すると、前記第1薄膜91の長手方向に直交する方向の長さ、例えば、第1薄膜91の第3導電層133に対向している外周の長さ、又は第1薄膜91の第4導電層134に対向している外周の長さ)は、20~5000μmであることが好ましい。そして、第1薄膜91の厚さによって決定される、第1薄膜91の、その筒状に巻かれた状態での曲率が、目的とする値となるように、第1薄膜91の短手方向の長さを設定することが好ましい。
ここで、長手方向及び短手方向のいずれであるかによらず、第1薄膜91の長さとは、基板11の一方の面11a側の上方から、第1薄膜91を見下ろして平面視したときの第1薄膜91の長さであり、第1薄膜91において、第1電極131及び第1絶縁層141の外周の位置が一致していない場合には、長さの一方の起点と、他方の起点は、同一の層に存在しないこともある。
【0054】
第2薄膜92の長手方向の長さ(換言すると、第2薄膜92の第1薄膜91に対向している外周の長さ)は、200~10000μmであることが好ましく、前記第1薄膜91の長手方向の長さよりも短いことが好ましい。
第2薄膜92の短手方向の長さ(換言すると、前記第2薄膜92の長手方向に直交する方向の長さ、例えば、4つの外周のうち、第2薄膜92の第3導電層133側の外周の長さ、又は第2薄膜92の第4導電層134側の外周の長さ)は、20~5000μmであることが好ましく、前記第1薄膜91の短手方向の長さよりも短いことが好ましい。そして、第2薄膜92の厚さによって決定される、第2薄膜92の、その筒状に巻かれた状態での曲率が、目的とする値となるように、第2薄膜92の短手方向の長さを設定することが好ましい。
ここで、長手方向及び短手方向のいずれであるかによらず、第2薄膜92の長さは、上記の第1薄膜91の場合と同様に定義される。
【0055】
第1薄膜91において、短手方向の長さに対する、長手方向の長さの比率([第1薄膜91の長手方向の長さ]/[第1薄膜91の短手方向の長さ])は、1~10であることが好ましい。前記比率がこのような範囲であることで、後述する電極構造体における、第1薄膜91(後述する第1電極)の筒状に巻かれた状態を、より安定して維持できる。
第2薄膜92において、短手方向の長さに対する、長手方向の長さの比率([第2薄膜92の長手方向の長さ]/[第2薄膜92の短手方向の長さ])は、1~10であることが好ましい。前記比率がこのような範囲であることで、後述する電極構造体における、第2薄膜92(後述する第2電極)の筒状に巻かれた状態を、より安定して維持できる。
【0056】
第1犠牲層121、第1電極131及び第1絶縁層141の、それぞれ長手方向及び短手方向の長さは、例えば、上述の第1薄膜91の長手方向及び短手方向の長さと同じであってよい。
第2犠牲層122、第2電極132及び第2絶縁層142の、それぞれ長手方向及び短手方向の長さは、例えば、上述の第2薄膜92の長手方向及び短手方向の長さと同じであってよい。
【0057】
第1電極131及び第2電極132間の距離は、第1電極131及び第2電極132間の絶縁を安定して保持する点では、10μm以上であることが好ましい。一方、第1電極131及び第2電極132間の距離は、この距離が過剰となることが避けられる点では、1000μm以下であることが好ましい。そして、第1電極131及び第2電極132間の距離は、10~1000μmであることがより好ましい。
本明細書において、第1電極及び第2電極間の距離とは、第1電極の外周上の1点と、第2電極の外周上の1点と、の間の距離の最小値を意味し、電極シート101においては、第1電極131の第2電極132に対向している外周上の1点と、第2電極132の第1電極131に対向している外周上の1点と、の間の距離の最小値である。
なお、第1電極131及び第2電極132間に、第1軸状導電層135又は第2軸状導電層136が存在する場合には、第1電極131及び第2軸状導電層136間の距離、又は、第2電極132及び第1軸状導電層135間の距離が、上述の第1電極131及び第2電極132間の距離と同様であることが好ましい。第1電極131及び第2軸状導電層136間の距離、及び、第2電極132及び第1軸状導電層135間の距離も、上述の第1電極及び第2電極間の距離と同様に定義される。
【0058】
第1電極131及び第2電極132間に、第2軸状導電層136が存在しない場合にも、第1電極131及び第2軸状導電層136間の距離は、上述の第1電極131及び第2電極132間の距離と同様であることが好ましい。その理由も、上述の第1電極131及び第2電極132間の距離の場合と同じである。
【0059】
第1軸部81及び第2軸部82の幅は、いずれも、後述する電極構造体の製造時に、第1薄膜91(第1電極131)及び第2薄膜92(第2電極132)を自己組織的に筒状に巻くことが妨げられない限り、特に限定されない。例えば、第1軸部81及び第2軸部82の幅は、それぞれ独立に、50μm以上であることが好ましい。第1軸部81及び第2軸部82の幅がこのような範囲であることで、第1薄膜91及び第2薄膜92の変形時に生じる応力による、これら軸部の切断が高度に抑制される。一方、第1軸部81及び第2軸部82の幅は、それぞれ独立に、200μm以下であることが好ましい。第1軸部81及び第2軸部82の幅がこのような範囲であることで、電極シート101と後述する電極構造体を、より小型化できる。そして、第1軸部81及び第2軸部82の幅は、それぞれ独立に、50~200μmであることがより好ましい。
ここで、第1軸部81の幅とは、基板11の一方の面11a側の上方から、第1軸部81を見下ろして平面視したときの第1軸部81の幅であり、第1軸部81において、第1軸状導電層135及び第1軸状絶縁層145の外周の位置が一致していない場合には、幅の一方の起点と、他方の起点は、同一の層に存在しないこともある。第2軸部82の幅も、第1薄膜91の場合と同様に定義される。
【0060】
第1コンタクトパッド151の長手方向及び短手方向の長さは、それぞれ独立に、1000~5000μmであることが好ましい。前記長手方向及び短手方向の長さがこのような範囲であることで、後述する電極構造体において、第1電極及び第2電極間の電位差を測定するときに、第1コンタクトパッド151にプローブを接触させる操作を、より容易に行うことができる。ただし、第1コンタクトパッド151の前記平面形状が長方形である場合には、前記長手方向の長さは、前記短手方向の長さよりも長い。
【0061】
第1コンタクトパッド151の厚さは、特に限定されないが、100nm以上であることが好ましい。第1コンタクトパッド151の厚さがこのような範囲であることで、後述する電極構造体において、第1電極及び第2電極間の電位差を測定するときに、第1コンタクトパッド151にプローブを接触させる操作を繰り返しても、第1コンタクトパッド151の破損が高度に抑制される。一方、第1コンタクトパッド151の厚さは、2000μm以下であることが好ましい。第1コンタクトパッド151の厚さがこのような範囲であることで、電極シート101と後述する電極構造体を、より薄層化できる。そして、第1コンタクトパッド151の厚さは、100nm~2000μmであることがより好ましい。
【0062】
第2コンタクトパッド152の厚さも、上記の第1コンタクトパッド151の場合と同じ理由で、上記の第1コンタクトパッド151の厚さと同様であることが好ましい。すなわち、第2コンタクトパッド152の厚さは、100nm以上であることが好ましく、2000μm以下であることが好ましく、100nm~2000μmであることがより好ましい。
【0063】
第3導電層133及び第4導電層134の、それぞれ長手方向及び短手方向の長さは、例えば、それぞれ独立に、1000~7000μmであることが好ましい。ただし、第3導電層133又は第4導電層134の前記平面形状が長方形である場合には、前記長手方向の長さは、前記短手方向の長さよりも長い。
【0064】
第1犠牲層121及び第2犠牲層122の厚さは、特に限定されない。例えば、第1犠牲層121又は第2犠牲層122に対して刺激が加えられたときに、これら犠牲層がより速やかに溶解する点では、第1犠牲層121及び第2犠牲層122の厚さは、それぞれ独立に、20~1000nmであることが好ましい。
【0065】
電極シート101において、基板11は、第1薄膜91、第2薄膜92、第1軸部81及び第2軸部82を担持している。
基板11の大きさは、これらを担持可能であれば、特に限定されない。
基板11の厚さも、特に限定されないが、50~200μmであることが好ましい。
【0066】
次に、電極シート中の各部の構成材料について、以下、説明する。
第1電極131、第2電極132、第3導電層133、第4導電層134、第1軸状導電層135及び第2軸状導電層136は、十分な導電性を有する。このような条件を満たせば、これら導電層の構成材料(換言すると導電性材料)は、特に限定されない。
これら導電層の構成材料、特に第1電極131及び第2電極132の構成材料は、薄膜を形成可能なものが好ましく、溶液中に浸漬されたときに体積変化しないか、又は体積変化が小さいものが好ましく、光透過性が高いものが好ましく、細胞活性を有しないか、又は細胞活性が低いものが好ましい。
【0067】
第1電極131、第2電極132、第3導電層133、第4導電層134、第1軸状導電層135及び第2軸状導電層136の構成材料(導電性材料)として、より具体的には、例えば、グラフェン、カーボンナノチューブ等の導電性炭素材料;二硫化モリブデン等の平面状物質等が挙げられる。
【0068】
第1電極131、第2電極132、第3導電層133、第4導電層134、第1軸状導電層135及び第2軸状導電層136の構成材料(導電性材料)は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。ただし、本実施形態においては、これら導電層の構成材料は、1種のみであることが好ましい。
【0069】
第1電極131、第2電極132、第3導電層133、第4導電層134、第1軸状導電層135及び第2軸状導電層136の構成材料(導電性材料)、特に第1電極131及び第2電極132の構成材料は、導電性炭素材料であることが好ましく、グラフェンであることがより好ましい。グラフェンは、生体適合性が高く、しかも透明性が高いため、後述する電極構造体において、多層円筒構造中の細胞又は三次元培養組織を、蛍光顕微鏡によってより容易に観察できる。グラフェンの光透過率は97.7%であり、グラフェンは、金、銀、銅等の導電性金属材料よりも、光透過性が高い。
【0070】
第1絶縁層141、第2絶縁層142、第3絶縁層143、第4絶縁層144、第1軸状絶縁層145及び第2軸状絶縁層146は、導電性を有しないか、又は導電性を有していないと見做せる程度に、導電性が極めて低い。このような条件を満たせば、これら絶縁層の構成材料(換言すると絶縁性材料)は、特に限定されない。
これら絶縁層の構成材料、特に第1絶縁層141及び第2絶縁層142の構成材料は、薄膜を形成可能なものが好ましく、溶液中に浸漬されたときに体積変化しないか、又は体積変化が小さいものが好ましく、光透過性が高いものが好ましく、細胞活性を有しないか、又は細胞活性が低いものが好ましい。
【0071】
第1絶縁層141、第2絶縁層142、第3絶縁層143、第4絶縁層144、第1軸状絶縁層145及び第2軸状絶縁層146の構成材料(絶縁性材料)として、より具体的には、例えば、ポリパラキシレン、ポリパラキシレン誘導体、ポリイミド、各種フォトレジスト等の高分子化合物;二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(別名:アルミナ、Al2O3)等の無機酸化物等が挙げられる。
前記ポリパラキシレン誘導体としては、例えば、ポリクロロパラキシレン,ポリフルオロパラキシレン等のポリハロゲン化パラキシレン等が挙げられる。
【0072】
第1絶縁層141、第2絶縁層142、第3絶縁層143、第4絶縁層144、第1軸状絶縁層145及び第2軸状絶縁層146の構成材料(絶縁性材料)は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。ただし、本実施形態においては、これら導電層の構成材料は、1種のみであることが好ましい。
【0073】
例えば、導電層の構成材料(導電性材料)がグラフェンであり、絶縁層の構成材料(絶縁性材料)がポリパラキシレン又はポリパラキシレン誘導体である場合には、ポリパラキシレン又はポリパラキシレン誘導体の分子中には多くの芳香環が存在するため、これら芳香環とグラフェンとの間で、π電子同士の相互作用が発現し、その結果、導電層と絶縁層の密着性が高くなる。そのため、例えば、後述するように第1薄膜91又は第2薄膜92を自己組織的に筒状に巻くときに、第1電極131及び第1絶縁層141間の剥離、及び、第2電極132及び第2絶縁層142間の剥離、を高度に抑制できる。
【0074】
本明細書においては、ある特定の化合物において、1個以上の水素原子が水素原子以外の基で置換された構造が想定される場合、このような置換された構造を有する化合物を、上述の特定の化合物の「誘導体」と称する。
本明細書において、「基」とは、特に断りのない限り、複数個の原子が結合した構造を有する原子団だけでなく、1個の原子も包含するものとする。
【0075】
第1薄膜91中の第1絶縁層141の表面(第1電極131側とは反対側の面)には、タンパク質層が設けられていてもよい。第1絶縁層141の表面では、細胞を生着させるため、前記タンパク質層が設けられていることにより、細胞の生着性が向上する。
前記タンパク質層は、タンパク質を主成分として含有する層であり、例えば、タンパク質層において、タンパク質層の総質量に対する、タンパク質の含有量の割合は、50質量%以上であることが好ましい。一方、前記割合は100質量%以下である。
前記タンパク質としては、例えば、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン等の、細胞外マトリクスとして機能するタンパク質が挙げられる。
前記タンパク質層が含有する前記タンパク質は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0076】
第2薄膜92中の第2絶縁層142の表面(第2電極132側とは反対側の面)にも、第1薄膜91の場合と同様に、タンパク質層が設けられていてもよいし、設けられていなくてもよいが、通常は、第1薄膜91のみにタンパク質層が設けられていれば十分である。
【0077】
第1犠牲層121及び第2犠牲層122の構成材料は、その外部から刺激が加えられることにより、溶解する性質を有していれば、特に限定されない。前記刺激としては、例えば、化学物質の作用、温度変化、光照射等が挙げられる。
第1犠牲層121及び第2犠牲層122として、より具体的には、例えば、物理ゲルの1種であるアルギン酸カルシウムゲルで構成されたものが挙げられる。アルギン酸カルシウムゲルは、クエン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤の添加、又はアルギン酸リアーゼ等の酵素の添加によって、ゾルへ転移して溶解する。アルギン酸リアーゼは、細胞の生着性に与える影響が小さい点で、特に好ましい。
【0078】
第1支持体161及び第2支持体162は、絶縁性を有する。このような条件を満たせば、これら支持体の構成材料(換言すると絶縁性材料)は、特に限定されない。
第1支持体161及び第2支持体162の構成材料として、より具体的には、例えば、ホウケイ酸ガラス、シリコーンゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。
第1支持体161は、その外側の面(換言すると、後述する電極構造体において、第1薄膜91と接触する側の面)が、疎水性材料、帯電ポリマー等によってコーティングされていてもよい。例えば、第1薄膜91中の第1絶縁層141の構成材料がポリパラキシレン又はポリパラキシレン誘導体である場合には、第1絶縁層141の表面(第1電極131側とは反対側の面)が負電荷を帯びているため、第1支持体161の外側の面がカチオン性ポリマーによってコーティングされている場合、後述する電極構造体において、第1支持体161と第1絶縁層141との密着性が向上する。前記カチオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリリジン,ポリオルニチン等が挙げられ、これらは細胞活性に影響しない点でも好適である。
【0079】
第1コンタクトパッド151及び第2コンタクトパッド152は、十分な導電性を有する。このような条件を満たせば、これらコンタクトパッドの構成材料(換言すると導電性材料)は、特に限定されない。
第1コンタクトパッド151及び第2コンタクトパッド152の構成材料として、より具体的には、例えば、金、銅、白金、アルミニウム、クロム等が挙げられる。
【0080】
基板11の構成材料は、常温で非導電性であれば、特に限定されないが、基板11の平坦性を高くすることが可能なものが好ましく、後述する電極構造体において、多層円筒構造中の細胞又は三次元培養組織の蛍光顕微鏡による観察を妨げないものが好ましい。
基板11の構成材料として、より具体的には、例えば、ホウケイ酸ガラス等のガラス;ポリスチレン等の樹脂;シリコン等が挙げられる。
本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15~25℃の温度等が挙げられる。
【0081】
<<電極構造体>>
次に、本発明の一実施形態に係る電極構造体について、図面を参照しながら説明する。本実施形態の電極構造体は、上述の電極シートを用いて得られる。
図3は、本実施形態の電極構造体の一例を模式的に示す斜視図である。ここに示す電極構造体1は、
図1に示す電極シート101を用いて製造できる。
【0082】
電極構造体1は、筒状に巻かれた第1電極1310と、第1電極1310とは非接触に設けられ、且つ筒状又は半筒状に巻かれた第2電極1320と、を備えている。
第1電極1310は、このように巻かれている点を除けば、先に説明した第1電極131と同じであり、第2電極1320は、このように巻かれている点を除けば、先に説明した第2電極132と同じである。
電極構造体1において、第1電極1310は第2電極1320を囲んでおり、半筒状の第2電極1320の全体は、筒状の第1電極1310中空部に含まれている。これにより、第1電極1310及び第2電極1320は、2層円筒構造90を構成している。
【0083】
なお、ここでは、第2電極1320は半筒状に巻かれているが、第1電極1310のように、筒状に巻かれていてもよい。
【0084】
第1電極1310は、より具体的には、第1絶縁層1410との積層物である第1薄膜910の状態で筒状に巻かれている。すなわち、第1電極1310において、第1電極1310の露出面は、筒の外側に向いており(凸面であり)、第1電極1310の第1絶縁層1410側の面は、筒の内側に向いている(凹面である)。第1絶縁層1410は、このように巻かれている点を除けば、先に説明した第1絶縁層141と同じであり、第1薄膜910は、このように巻かれている点を除けば、先に説明した第1薄膜91と同じである。すなわち、第1薄膜910は、第1電極1310の、2層円筒構造90の径方向における内向きの面に、第1絶縁層1410が積層されて、構成されている。
【0085】
第2電極1320は、より具体的には、第2絶縁層1420との積層物である第2薄膜920の状態で半筒状に巻かれている。すなわち、第2電極1320において、第2電極1320の露出面は、半筒の外側に向いており(凸面であり)、第2電極1320の第2絶縁層1420側の面は、半筒の内側に向いている(凹面である)。第2絶縁層1420は、このように巻かれている点を除けば、先に説明した第2絶縁層142と同じであり、第2薄膜920は、このように巻かれている点を除けば、先に説明した第2薄膜92と同じである。すなわち、第2薄膜920は、第2電極1320の、2層円筒構造90の径方向における内向きの面に、第2絶縁層1420が積層されて、構成されている。
【0086】
2層円筒構造90中の第1電極1310及び第2電極1320間の空隙部(換言すると、第1薄膜910及び第2薄膜920間の空隙部)は、適度な大きさを有しており、培養液を充填することが可能であり、細胞7の生着時の足場となる第1絶縁層1410も存在するため、細胞培養部として好適である。
【0087】
電極構造体1において、第1薄膜910は第1軸部81と接続され、第1軸部81は基板11に固定されており、第1薄膜910は、第1軸部81を支点にして、巻かれている。一方、第2薄膜920は第2軸部82と接続され、第2軸部82は基板11に固定されており、第2薄膜920は、第2軸部82を支点にして、巻かれている。
【0088】
このように、電極構造体1においては、筒状に巻かれた第1薄膜910が、半筒状に巻かれた第2薄膜920を囲んで、第1薄膜910及び第2薄膜920が2層円筒構造90を構成しているともいえる。
【0089】
本明細書において、「筒状に巻かれた第1電極」とは、第1電極の形状が完全に筒状であるか、又は完全に筒状であるとまでは言えないが、一見して筒状であると見做せる程度に巻かれた形状を有していることを意味する。第1電極の形状が完全な筒状である場合には、第1電極の外周間には隙間が認められず、第1電極の形状が完全な筒状ではない場合には、第1電極の外周間には隙間が認められるが、この隙間が極めて微小である場合には、第1電極が筒状に巻かれていると見做す。これらの点は、「筒状に巻かれた第2電極」、「筒状に巻かれた第1薄膜」、「筒状に巻かれた第2薄膜」の場合も同様である。
「半筒状に巻かれた第2電極」とは、第2電極の形状が完全に半筒状である(筒をその中心軸を含む平面で2分割した形状である)か、又は完全に半筒状であるとまでは言えないが、一見して半筒状であると見做せる程度に巻かれた形状を有していることを意味する。「半筒状に巻かれた第2薄膜」も同様である。
【0090】
平面に展開された状態の第1薄膜910(すなわち、筒状に巻かれる前の第1薄膜91)の短手方向の長さに対する、筒状の第1薄膜910の、その巻かれている方向の外周の長さの比率([筒状の第1薄膜910の、その巻かれている方向の外周の長さ]/[筒状に巻かれる前の第1薄膜91の短手方向の長さ])は、0.7~1.5であることが好ましい。前記比率がこのような範囲であることで、筒状に巻かれた第1薄膜910の形状を、より安定して保持できる。第1薄膜910の形状が完全な筒状ではない場合には、第1薄膜910の外周間に存在する隙間を排除して、外周の長さを特定する。
【0091】
平面に展開された状態の第2薄膜920(すなわち、筒状又は半筒状に巻かれる前の第2薄膜92)の短手方向の長さに対する、筒状又は半筒状の第2薄膜920の、その巻かれている方向の外周の長さの比率([筒状又は半筒状の第2薄膜920の、その巻かれている方向の外周の長さ]/[筒状又は半筒状に巻かれる前の第2薄膜92の短手方向の長さ])は、0.7~1.5であることが好ましい。前記比率がこのような範囲であることで、筒状又は半筒状に巻かれた第2薄膜920の形状を、より安定して保持できる。筒状又は半筒状の第2薄膜920における前記外周の長さは、筒状の第1薄膜910における前記外周の長さの場合と同様に特定される。
【0092】
筒状の第2薄膜920の、その中心軸方向に対して直交する方向における幅の最大値(例えば、第2薄膜920が円筒状である場合には、円筒の外径(直径))は、筒状の第1薄膜910の、その中心軸方向に対して直交する方向における幅の最大値(例えば、第1薄膜910が円筒状である場合には、円筒の外径(直径))よりも小さければよく、特に限定されない。第2薄膜920が半筒状である場合には、この第2薄膜920が同じ曲率で筒状になった場合を想定し、この筒状の第2薄膜920が、上記の筒状の第2薄膜920と同様の大きさであることが好ましい。
【0093】
筒状の第1薄膜910の、その中心軸方向に対して直交する方向における幅の最大値(例えば、第1薄膜910が円筒状である場合には、円筒の外径(直径))は、50~2000μmであることが好ましい。前記幅の最大値がこのような範囲であることで、2層円筒構造90中で、目的とする三次元培養組織をより容易に作製できる。
【0094】
第1支持体161の前記幅の最大値に対する、筒状の第1薄膜910の前記幅の最大値の比率([筒状の第1薄膜910の、その中心軸方向に対して直交する方向における幅の最大値]/[第1支持体161の、その中心軸方向に対して直交する方向における幅の最大値])は、1~1.1であることが好ましい。前記比率がこのような範囲である第1薄膜910は、その形状及び大きさが、目的どおりに、又はそれに極めて近く高精度に巻かれている。
第2支持体162の前記幅の最大値に対する、筒状の第1薄膜910の前記幅の最大値の比率も、同様である。
【0095】
第1薄膜910の曲率に対する、第2薄膜920の曲率の比率([第2薄膜920の曲率]/[第1薄膜910の曲率])は、0~0.8であることが好ましい。前記比率がこのような範囲であることで、2層円筒構造90中で、目的とする三次元培養組織をより容易に作製できる。
【0096】
筒状の第1薄膜910の、その中心軸方向における長さ、に対する、筒状又は半筒状の第2薄膜920の、その中心軸方向における長さの比率([筒状又は半筒状の第2薄膜920の、その中心軸方向における長さ]/[筒状の第1薄膜910の、その中心軸方向における長さ])は、0超0.8以下であることが好ましい。前記比率がこのような範囲であることで、2層円筒構造90中で、目的とする三次元培養組織をより容易に作製できる。
【0097】
電極シート101における、第1電極131と第1軸部81との配置関係は、電極構造体1においてもそのまま維持される。したがって、電極構造体1において、第1電極1310は、その巻かれている方向に対して直交する方向(換言すると、筒状の第1電極1310の中心軸方向)に延ばして設けられている第1軸部81と接続されていることが好ましい。
第2電極1320でも同様であり、電極構造体1において、第2電極1320は、その巻かれている方向に対して直交する方向(換言すると、筒状の第2電極1320の中心軸方向)に延ばして設けられている第2軸部82と接続されていることが好ましい。
【0098】
先の説明のとおり、第1軸部81は第1軸状導電層135を有し、第2軸部82は第2軸状導電層136を有しているため、第1電極1310及び第1軸状導電層135は電気的に接続され、第2電極1320及び第2軸状導電層136は電気的に接続されている。したがって、電極構造体1においては、第1軸部81及び第2軸部82を介して、第1電極1310及び第2電極1320間の電位差が測定可能となっている。
さらに、電極構造体1においては、第1電極1310、第1軸状導電層135、第3導電層133及び第1コンタクトパッド151はすべて、電気的に接続されている。そして、第2電極1320、第2軸状導電層136、第4導電層134及び第2コンタクトパッド152もすべて、電気的に接続されている。したがって、第1コンタクトパッド151及び第2コンタクトパッド152にそれぞれプローブを接触させることで、電極構造体1を各種の電圧計又は電流計に接続可能であり、例えば、第1電極1310及び第2電極1320間の電位差が測定可能となっている。
【0099】
図4は、電極構造体1の断面を模式的に示す断面図である。ここでは、電極構造体1に電流計を接続して回路を形成した状態を模式的に示している。ただし、
図4中では、電極構造体1中の一部の構成の図示を省略している。
【0100】
電極構造体1においては、各構成要素について、ここまでに説明した点以外は、先に説明した電極シート101の場合と同じである。そこで、各構成要素についてのこれ以上の詳細な説明は省略する。
【0101】
2層円筒構造90中の、第1薄膜910及び第2薄膜920間の空隙部において、細胞を培養すると、第1薄膜910の第2薄膜920側の表面に沿って細胞が増殖し、三次元培養組織が形成される。この三次元培養組織は、2層円筒構造90の構造を反映して、円筒構造を有する。そして、第1薄膜910中には第1電極1310が存在し、第2薄膜920中には第2電極1320が存在する。したがって、電極構造体1においては、第1電極1310及び第2電極1320間の電位差を測定することで、三次元培養組織の電気抵抗値を測定できる。
【0102】
第1支持体161及び第2支持体162が、柱状ではなく筒状である場合には、その中空部に細胞の培養時に培養液を満たすことができ、培養液を灌流させることで、培養状態をより健全に保つことができる。ただし、中空部の培養液は、2層円筒構造90の外部の培養液とは、混在させないように調節する。
【0103】
電極構造体1において培養する細胞は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択できる。前記細胞として、より具体的には、例えば、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、脳微小血管内皮細胞等が挙げられる。
【0104】
電極構造体1において、例えば、三次元培養血管組織を作製した場合、その電気抵抗値を測定することで、血管により物質の透過を制御する、いわゆるバリア機能を評価できる。そして、適切な三次元培養血管組織を作製後に、さらに、他の細胞を培養するときに、この三次元培養血管組織を利用することによって、他の細胞に栄養物質等の物質を適切に輸送でき、また、他の細胞の代謝物等の不要物も適切に輸送できる。
【0105】
HUVECは、例えば、培養開始から5日程度で、細胞同士の結合が形成され、バリア機能が生じる。そのため、培養開始の初日と培養開始から数日後の電気抵抗値を測定し、その差を比較することで、円筒構造を形成したHUVECのバリア機能を評価できる。第1支持体161及び第2支持体162としてガラス管等を用いた場合には、三次元培養血管組織に対する薬剤の透過性を評価するための蛍光指示薬を送液することも可能である。ただし、ここに挙げたのは、電極構造体1の利用の一例に過ぎない。
【0106】
電極構造体1においては、マイクロメートル(μm)~ミリメートル(mm)スケールで形成された2層円筒構造90の内部に、第1電極1310及び第2電極1320が配置され、さらに、三次元培養血管組織が配置可能であり、これまでにない構造が実現可能である。
【0107】
ここでは、三次元培養血管組織を例に挙げて、その形成と評価について説明したが、2層円筒構造90の内部に配置可能な、電位差を測定するための対象物は、三次元培養血管組織に限定されず、種々の対象物への適用が可能である。
【0108】
ここまでは、本実施形態の電極構造体として、2層円筒構造を備えたものについて説明したが、2層ではなく3層以上の多層円筒構造を備えた電極構造体であってもよい。3層以上の多層円筒構造を備えた電極構造体においては、その単位体積当たりの電極(電極構造体1においては、第1電極1310及び第2電極1320)の数を増大させることができ、より高度な電位差の測定が可能である。
本明細書においては、2層以上の円筒構造をすべて包括して、「多層円筒構造」と称する。
【0109】
3層以上の多層円筒構造を備えた電極構造体としては、例えば、これまでに説明した筒状の第1薄膜に囲まれた状態で、第2薄膜が渦を巻くように2層以上に巻かれて構成されたものが挙げられる。
3層以上の多層円筒構造を備えた電極構造体は、円筒構造の層数が異なる点を除けば、これまでに説明した2層円筒構造を備えた電極構造体と同様であってよい。
【0110】
以上の説明のように、本実施形態の電極構造体は、2層以上の多層円筒構造を有し、かつ第1電極及び第2電極を備えており、前記第1電極及び第2電極によって電位差、電気抵抗値を測定するための細胞等の対象物を、前記多層円筒構造内に配置(内包)可能である。
【0111】
本実施形態の電極構造体は、三次元培養血管組織に限らず、細胞、生体組織等の生体材料について、その電位差、電気抵抗値を測定するための生体用電極として用いるのに好適である。
また、多層円筒構造内に、前記生体材料以外のものを配置する(内包させる)ことによって、本実施形態の電極構造体は、生体用電極以外の用途で用いることも可能である。
【0112】
<<電極構造体の製造方法>>
本実施形態の電極構造体の製造方法としては、常温で非導電性である前記基板(常温で非導電性である基板)の一方の面上に、前記第1犠牲層(前記第1電極を積層するための第1犠牲層)と、前記第2犠牲層(前記第2電極を積層するための第2犠牲層)と、を形成する工程(A)と、前記第1犠牲層の前記基板側とは反対側の面上に、前記第1電極を形成し、前記第2犠牲層の前記基板側とは反対側の面上に、前記第2電極を形成する工程(B)と、前記第1犠牲層及び第2犠牲層に、その外部から刺激を加えることにより、前記第1犠牲層及び第2犠牲層を溶解させ、前記第1犠牲層上に形成されていた前記第1電極と、前記第2犠牲層上に形成されていた前記第2電極と、を前記基板上で遊離させるとともに、前記第2電極を筒状又は半筒状に巻き、前記第1電極を、前記第2電極を囲んで筒状に巻くことにより、前記多層円筒構造を形成する工程(C)と、を有する製造方法が挙げられる。
本実施形態の電極構造体は、例えば、前記電極シートを製造した後、前記電極シートにおいて、前記第2電極を筒状又は半筒状に巻き、前記第1電極を、前記第2電極を囲んで筒状に巻いて、前記多層円筒構造を形成することにより、製造できる。
以下、図面を参照しながら、本実施形態の電極構造体の製造方法について説明する。
【0113】
図5~
図6は、本実施形態の電極構造体の製造方法の一例を模式的に示す斜視図である。ここでは、
図3に示す電極構造体1を例に挙げて、その製造方法について説明する。
【0114】
<工程(A)>
前記工程(A)においては、
図5(a)に示すように、基板11の一方の面11a上に、第1犠牲層121及び第2犠牲層122を形成する。
第1犠牲層121及び第2犠牲層122の形成方法は、第1犠牲層121及び第2犠牲層122の構成材料の種類に応じて任意に選択でき、特に限定されない。第1犠牲層121及び第2犠牲層122の形成方法としては、通常の薄膜の形成方法が挙げられ、より具体的には、例えば、化学蒸着(CVD)法、スピンコーティング法、インクジェットプリンティング法、蒸着法,エレクトロスプレイ法等が挙げられる。
【0115】
工程(A)においては、例えば、基板11の一方の面11a上のうち、第1電極131及び第2電極132の形成予定領域にのみ、犠牲層を形成することで、これら犠牲層を第1犠牲層121及び第2犠牲層122としてもよい。また、基板11の一方の面11a上の、第1電極131及び第2電極132の形成予定領域とそれ以外の領域(例えば、全面であってもよい)に、犠牲層を形成した後、第1電極131及び第2電極132の形成予定領域にのみ犠牲層を残し、それ以外の領域からは犠牲層を取り除くことにより、犠牲層のパターニングを行うことで、第1犠牲層121及び第2犠牲層122を形成してもよい。また、このように、第1電極131及び第2電極132の形成予定領域以外の領域にも犠牲層を形成した場合には、直ちに目的とする形状の第1犠牲層121及び第2犠牲層122を形成せずに、その他にも犠牲層を残しておき、後述する導電層13のパターニング時に、不要な導電層13とともに、不要な犠牲層を取り除くことで、この段階で目的とする形状の第1犠牲層121及び第2犠牲層122を形成してもよい。
【0116】
<工程(B)>
前記工程(B)においては、
図5(d)に示すように、第1犠牲層121の基板11側とは反対側の面上に、第1電極131を形成し、第2犠牲層122の基板11側とは反対側の面上に、第2電極132を形成する。このとき、電極シート101を製造するためには、第1電極131及び第2電極132以外に、さらに、第3導電層133、第4導電層134、第1軸状導電層135及び第2軸状導電層136も形成する。
【0117】
そのためには、
図5(b)に示すように、基板11の一方の面11a上の、第1犠牲層121及び第2犠牲層122の形成領域と、それ以外の領域と、に導電層13を形成する。このとき、基板11の一方の面11aの、第1犠牲層121及び第2犠牲層122の形成領域も含めた全面上に、導電層13を形成してもよい。導電層13は、例えば、基板11以外の箇所で別途作製した導電層13を、基板11の一方の面11a上の目的とする領域に転写する方法等、公知の方法で形成できる。
【0118】
次いで、
図5(c)に示すように、導電層13の基板11側とは反対側の面上のうち、第1犠牲層121及び第2犠牲層122が形成されていない領域に、第1コンタクトパッド151及び第2コンタクトパッド152を別々に形成する。第1コンタクトパッド151及び第2コンタクトパッド152は、例えば、化学蒸着(CVD)法等、公知の方法で形成できる。
この段階で第1コンタクトパッド151及び第2コンタクトパッド152を形成しておくことで、電極シート101(電極構造体1)を効率的に製造できる。
【0119】
次いで、
図5(d)に示すように、導電層13をパターニングすることで、第1細孔を未形成の第1電極131、第2細孔を未形成の第2電極132、第3導電層133、第4導電層134、第1軸状導電層135及び第2軸状導電層136を形成する。この段階では、第1電極131、第2電極132、第3導電層133、第4導電層134、第1軸状導電層135及び第2軸状導電層136については、最終的に目的とする形状であってもよいし、そうでなくてもよく、目的とする形状でない場合には、後の適した工程で、最終的に目的とする形状に調節してもよい。
【0120】
次いで、工程(C)に先立ち、
図6(a)に示すように、基板11の一方の面11a上の、第1電極131、第2電極132、第3導電層133、第4導電層134、第1軸状導電層135及び第2軸状導電層136の形成領域と、それ以外の領域と、に絶縁層14を形成する。このとき、基板11の一方の面11aの、第1電極131、第2電極132、第3導電層133、第4導電層134、第1軸状導電層135及び第2軸状導電層136の形成領域も含めた全面上に、絶縁層14を形成してもよい。絶縁層14は、例えば、化学蒸着(CVD)法等、公知の方法で形成できる。
【0121】
次いで、フォトレジストを用いてフォトリソグラフィー法により、第2電極132、第2軸状導電層136、第1軸状導電層135、第3導電層133及び第4導電層134の形成領域にのみ、フォトレジスト層を残し、その他の領域からはフォトレジスト層を取り除くことにより、絶縁層14上でフォトレジスト層をパターニングする。このとき、第2電極132の形成領域のうち、後述する第2細孔の形成領域からは、フォトレジスト層を取り除く。次いで、基板11上の、このフォトレジスト層をパターニングした側の全面に、2層目の絶縁層14を形成する。このときの絶縁層14の形成方法は、1層目の絶縁層14の形成方法と同様である。次いで、フォトレジストを用いてフォトリソグラフィー法により、第1電極131の形成領域にのみ、フォトレジスト層を残し、その他の領域からはフォトレジスト層を取り除くことにより、2層目の絶縁層14上でフォトレジスト層をパターニングする。このとき、第1電極131の形成領域のうち、後述する第1細孔の形成領域からは、フォトレジスト層を取り除く。次いで、フォトレジスト層で被覆されていない絶縁層14を除去する。絶縁層14は、例えば、酸素プラズマによるエッチング等、公知の方法で除去できる。次いで、フォトレジスト層を除去する。以上により、基板11の一方の面11a上に、第1絶縁層141、第2絶縁層142、第3絶縁層143、第4絶縁層144、第1軸部81及び第2軸部82を形成する。このとき、第1電極131及び第2電極132間には、絶縁層14を残してもよい。
図5(d)に示す段階で、第1電極131、第2電極132、第3導電層133、第4導電層134、第1軸状導電層135又は第2軸状導電層136が、最終的に目的とする形状でなかった場合には、エッチング等による絶縁層14の除去時に同時に、これら電極又は導電層を目的とする形状に調節(パターニング)してもよい。
以上により、
図6(b)に示すように、基板11の一方の面11a上に、第1薄膜91及び第2薄膜92を形成する。
【0122】
ここまで、第1薄膜91、第2薄膜92、第1軸部81、第2軸部82、第3導電層133、第4導電層134、第3絶縁層143、第4絶縁層144、第1コンタクトパッド151及び第2コンタクトパッド152の形成について説明したが、これらの形成方法及び形成順は、ここに示すものに限定されない。
【0123】
次いで、
図6(c)に示すように、第1軸部81の基板11側とは反対側の面上に第1支持体161を設け、第2軸部82の基板11側とは反対側の面上に第2支持体162を設ける。第1支持体161及び第2支持体162はそれぞれ、マイクロマニピュレータを用いることにより、第1軸部81及び第2軸部82上に設けることができる。
以上により、電極シート101が得られる。
【0124】
第1薄膜91中の第1絶縁層141の表面(第1電極131側とは反対側の面)と、第2薄膜92中の第2絶縁層142の表面(第2電極132側とは反対側の面)と、のいずれか一方又は両方には、必要に応じて、先に説明したタンパク質層を設けてもよい。
前記タンパク質層は、例えば、タンパク質水溶液等のタンパク質溶液を、タンパク質層の形成対象物に接触させ、乾燥させて、タンパク質を目的とする箇所に物理的に吸着させることにより、形成できる。より具体的には、例えば、前記タンパク質溶液中にタンパク質層の形成対象物を浸漬する方法、タンパク質層の形成対象物に前記タンパク質溶液を滴下する方法、マイクロコンタクトプリンティング法、微小流路によるパターニング法,インクジェットプリンティング法等によって、タンパク質層の形成対象物に前記タンパク質溶液を接触させることができる。特に、ここに挙げた5種の方法のうち、前記タンパク質溶液中にタンパク質層の形成対象物を浸漬する方法以外は、第1絶縁層141の表面と、第2絶縁層142の表面と、のいずれか一方のみにタンパク質層を形成するのに好適である。
第1絶縁層141又は第2絶縁層142の表面にタンパク質層を設ける場合には、第1絶縁層141における第1細孔919の表面、又は第2絶縁層142における第2細孔929の表面にも、タンパク質層を設けてもよいし、設けなくてもよい。
【0125】
次いで、
図7(a)に示すように、第1薄膜91中の第1絶縁層141の表面に、培養対象の細胞7を播種し、保持させる。第1絶縁層141の表面に前記タンパク質層を設けた場合には、前記タンパク質層の表面に細胞7を播種し、保持させる。第1絶縁層141(第1薄膜91)の表面上の細胞7は、第1薄膜91中の第1細孔919に入り込むことが抑制される。
【0126】
<工程(C)>
以上により、電極シート101を作製した後は、第1犠牲層121及び第2犠牲層122に、その外部から刺激を加えることにより、第1犠牲層121及び第2犠牲層122を溶解させ、第1犠牲層121上に形成されていた第1電極131と、第2犠牲層122上に形成されていた第2電極132と、を基板11上で遊離させる。そして、それとともに、第2電極132を筒状又は半筒状に巻き、第1電極131を、第2電極132を囲んで筒状に巻くことにより、
図7(b)に示すように、2層円筒構造90を形成する。これにより、目的とする電極構造体1が得られる。細胞7は、2層円筒構造90に内包される。
【0127】
第1犠牲層121及び第2犠牲層122への刺激の加え方は、刺激の種類に応じて、任意に選択できる。例えば、化学物質を作用させることで刺激を加える場合には、化学物質の水溶液等の溶液を、第1犠牲層121及び第2犠牲層122に接触させればよい。このとき、電極シート101を前記溶液中に浸漬してもよい。前記溶液は、細胞7の生着性に影響を与えないため、細胞7は2層円筒構造90に良好に内包される。
【0128】
第1犠牲層121及び第2犠牲層122を溶解させると、第1薄膜91中の第1電極131及び第1絶縁層141に生じる機械的性質の勾配により、第1薄膜91が自己組織的に曲がり、筒状に巻かれた状態となる。同様に、第2犠牲層122が溶解すると、第2薄膜92中の第2電極132及び第2絶縁層142に生じる機械的性質の勾配により、第2薄膜92が自己組織的に曲がり、筒状に巻かれた状態となる。ここで、第1薄膜91中の第1電極131及び第1絶縁層141における機械的性質としては、例えば、これらに生じる残留応力又はこれらの厚さ方向における弾性等が挙げられる。同様に、第2薄膜92中の第2電極132及び第2絶縁層142における機械的性質としては、例えば、これらに生じる残留応力又はこれらの厚さ方向における弾性等が挙げられる。このとき、第1軸部81を支点にして第1薄膜91の巻きが生じ、第2軸部82を支点にして第2薄膜92の巻きが生じるが、同一の曲げ応力を加えた場合に、第1薄膜91及び第2薄膜92の曲率は、これの厚さに依存して決定される。そのため、例えば、第1絶縁層141の厚さと、第2絶縁層142の厚さに、差を持たせておくことで、第1薄膜91及び第2薄膜92の巻きを、互いに異なる曲率で生じさせ、2層円筒構造90を形成する。
【0129】
第1薄膜91の巻きは、第1支持体161及び第2支持体162の外周面に沿って生じ、筒状の第1薄膜910となる。第1薄膜910の表面は、第1支持体161及び第2支持体162の外周面に接触し、好ましくは密着する。一方、第2薄膜92の巻きは、第1支持体161及び第2支持体162間の空隙部で生じ、筒状又は半筒状の第2薄膜920となる。
【0130】
ここまでは、2層円筒構造を備えた電極構造体の製造方法について説明したが、2層ではなく3層以上の多層円筒構造を備えた電極構造体も、同様の方法で製造できる。
【0131】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【実施例】
【0132】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0133】
[実施例1]
<<電極構造体の製造>>
濃度が1%wt/vоlのアルギン酸ナトリウム水溶液を、スピンコーティング法によって、ホウケイ酸ガラス製のガラス基板(厚さ150μm)の一方の面上に塗工した。この塗工後のガラス基板を、濃度が0.1mol/Lの塩化カルシウム水溶液中に浸漬することで、ガラス基板の前記一方の面上にアルギン酸カルシウムのゲル層を形成した。塩化カルシウム水溶液中から、前記ゲル層を備えたガラス基板を取り出し、蒸留水で洗浄した後、自然乾燥させた。以上により、犠牲層を形成した。次いで、ガラス基板上の第1電極及び第2電極の形成予定領域にのみ、前記ゲル層(犠牲層)を残し、その他の領域からは前記ゲル層を取り除くことにより、ガラス基板上で前記ゲル層をパターニングした。以上により、ガラス基板の一方の面上に、前記ゲル層で構成された第1犠牲層及び第2犠牲層を形成した(工程(A))。
【0134】
銅箔上で単層グラフェンを成長させ、銅箔をエッチングし、蒸留水上に単層グラフェンを浮かべた。そして、第1犠牲層及び第2犠牲層を形成後のガラス基板を用いて、その第1犠牲層及び第2犠牲層側の面で単層グラフェンを掬うことにより、ガラス基板の第1犠牲層及び第2犠牲層を形成した側の面上に、これら犠牲層を覆うように、単層グラフェンを転写した。
【0135】
次いで、マスクを介した熱蒸着法により、ガラス基板側からクロム層及び金層がこの順に積層されて構成された2つのコンタクトパッド、すなわち、第1コンタクトパッド及び第2コンタクトパッドを、前記導電層上に形成した。これらコンタクトパッドは、導電層の両端部近傍の領域に、第1電極を挟む配置となるように形成した。これらコンタクトパッドはいずれも、その平面形状が長方形であり、大きさが1mm×3mmであり、クロム層の厚さが10nmであり、金層の厚さが100nmであった。
【0136】
次いで、第1電極の形成予定領域と、第3導電層の形成予定領域と、これらを接続する第1軸状導電層の形成予定領域と、に前記導電層を一体に残し、さらに、第2電極の形成予定領域と、第4導電層の形成予定領域と、これらを接続する第2軸状導電層の形成予定領域と、にも前記導電層を一体に残し、ただし、これら一体に残した導電層同士を非接触とした。以上により、ガラス基板の第1犠牲層及び第2犠牲層を形成した側の面上に、第1犠牲層を覆うように、第1細孔を未形成の第1電極を形成し、第2犠牲層を覆うように、第2細孔を未形成の第2電極を形成し、さらに、ガラス基板上に直接、第3導電層、第4導電層、第1軸状導電層及び第2軸状導電層を形成した(工程(B))。
【0137】
次いで、ガラス基板の第1コンタクトパッド及び第2コンタクトパッドを形成した側の全面に、化学気相成長(CVD)法でクロロパラキシレンを蒸着することにより、クロロパラキシレンからなる絶縁層(厚さ100nm)を形成した。そして、フォトレジストを用いてフォトリソグラフィー法により、第2電極、第2軸状導電層、第1軸状導電層、第3導電層及び第4導電層の形成領域にのみ、フォトレジスト層を残し、その他の領域からはフォトレジスト層を取り除くことにより、絶縁層上でフォトレジスト層をパターニングした。このとき、第2電極の形成領域のうち、第2細孔の形成領域からは、フォトレジスト層を取り除いた。さらに、ガラス基板上の、このフォトレジスト層をパターニングした側の全面に、CVD法でクロロパラキシレンを蒸着することにより、2層目のクロロパラキシレンからなる絶縁層(厚さ150nm)を形成した。そして、フォトレジストを用いてフォトリソグラフィー法により、第1電極の形成領域にのみ、フォトレジスト層を残し、その他の領域からはフォトレジスト層を取り除くことにより、2層目の絶縁層上でフォトレジスト層をパターニングした。このとき、第1電極の形成領域のうち、第1細孔の形成領域からは、フォトレジスト層を取り除いた。そして、フォトレジスト層で被覆されていない絶縁層を、酸素プラズマによるエッチングで除去するとともに、第1電極131及び第1絶縁層141の積層物に、これらを貫通する第1細孔を形成し、第2電極132及び第2絶縁層142の積層物に、これらを貫通する第2細孔を形成し、さらに、フォトレジスト層をアセトンによる処理で除去した。以上により、第1電極のガラス基板側とは反対側の面に第1絶縁層(厚さ250nm)を形成し、第2電極のガラス基板側とは反対側の面に第2絶縁層(厚さ100nm)を形成し、第1軸状導電層のガラス基板側とは反対側の面に第1軸状絶縁層(厚さ100nm)を形成し、第2軸状導電層のガラス基板側とは反対側の面に第2軸状絶縁層(厚さ100nm)を形成し、第3導電層のガラス基板側とは反対側の面のうち、第1コンタクトパッドが設けられていない領域に第3絶縁層(厚さ100nm)を形成し、第4導電層のガラス基板側とは反対側の面のうち、第2コンタクトパッドが設けられていない領域に第4絶縁層(厚さ100nm)を形成した。ここまでで、第1電極、第2電極、第1軸状導電層、第2軸状導電層、第3導電層及び第4導電層の形状を、最終的に目的とする形状に調節するとともに、第1軸部と第2軸部を形成した。第1細孔は、直径3μmのものを50個形成し、第2細孔は、直径15μmのものを20個形成した。以上により、第1薄膜及び第2薄膜を形成した。
【0138】
次いで、第1軸部及び第2軸部上に、円筒支持体としてガラスファイバを設置した状態で、第1薄膜上に、HUVECを含有する細胞懸濁液を載せることにより、第1薄膜上にHUVECを播種した。
以上により、電極シートを得た。
【0139】
次いで、この細胞を播種後の電極シートに、アルギン酸リアーゼ水溶液を接触させた。これにより、第1犠牲層及び第2犠牲層を溶解させ、第1犠牲層上に形成されていた第1電極と、第2犠牲層上に形成されていた第2電極を、ガラス基板上で遊離させるとともに、第2電極(第2薄膜)を半筒状に巻き、第1電極(第1薄膜)を、この半筒状の第2電極を囲んで筒状に巻くことにより、2層円筒構造を形成した(工程(C))。
以上により、HUVECを2層円筒構造内に内包する、目的とする電極構造体を製造した。
【0140】
<<第1電極及び第2電極間の電位差の測定>>
上記で得られた、細胞を含む電極構造体において、第1電極及び第2電極間の電位差を測定した。このときの測定結果を
図8に示す。さらに、2層円筒構造を形成する前の、細胞を播種後の前記電極シートにおいても、同様に第1電極及び第2電極間の電位差を測定した。このときの測定結果を
図9に示す。
【0141】
図8及び
図9から明らかなように、第1電極及び第2電極を巻く前後で、電位差の測定結果に大きな相違点はなかった。すなわち、電極構造体の製造過程で、第1電極、第2電極、第1軸部及び第2軸部に破断等は認められず、得られた電極構造体は、細胞シートの電気抵抗値を測定可能であることを確認できた。
【0142】
[実施例2]
<<電極構造体の製造>>
実施例1の場合と同じ方法で、電極シートを製造した。
次いで、電極シート中の第1薄膜の表面にフィブロネクチンをコーティングすることにより、フィブロネクチン層を形成した。そして、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を含有する細胞懸濁液を、第1薄膜上のフィブロネクチン層に接触させることにより、フィブロネクチン層上にHUVECを播種した。
次いで、このHUVECを播種後の電極シートに、アルギン酸リアーゼ水溶液を接触させた。これにより、第1犠牲層及び第2犠牲層を溶解させ、これら犠牲層上に形成されていた第1電極及び第2電極を、ガラス基板上で遊離させるとともに、第2電極(第2薄膜)を半筒状に巻き、第1電極(第1薄膜)を、この半筒状の第2電極を囲んで筒状に巻くことにより、2層円筒構造を形成した。
以上により、HUVECを2層円筒構造内に内包する、目的とする電極構造体を製造した。
【0143】
<<三次元培養血管組織の作製>>
上記で得られた電極構造体において、HUVECを培養することで、2層円筒構造内の第1薄膜及び第2薄膜間で細胞シートを形成し、円筒構造の三次元培養血管組織を作製した。このとき、位相差顕微鏡を用いて取得した三次元培養血管組織の撮像データを
図10に示す。この時点では、伸展の途中の細胞シートによって、1重の円筒構造が形成されていた。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明は、細胞の三次元培養組織の作製に利用可能である。
【符号の説明】
【0145】
1…電極構造体, 11…基板, 11a…基板の一方の面, 121…第1犠牲層, 122…第2犠牲層, 131…筒状に巻かれる前の第1電極, 132…半筒状に巻かれる前の第2電極, 1310…筒状に巻かれた第1電極, 1320…半筒状に巻かれた第2電極, 135…第1軸状導電層, 136…第2軸状導電層, 1410…筒状に巻かれた第1絶縁層, 1420…半筒状に巻かれた第2絶縁層, 81…第1軸部, 82…第2軸部, 90…2層円筒構造, 910…筒状に巻かれた第1薄膜, 920…半筒状に巻かれた第2薄膜