(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】エラストマー及び繊維構造体を備えたエラストマー複合体
(51)【国際特許分類】
B29B 15/10 20060101AFI20240819BHJP
C08F 220/26 20060101ALI20240819BHJP
B29K 105/06 20060101ALN20240819BHJP
B29K 21/00 20060101ALN20240819BHJP
【FI】
B29B15/10
C08F220/26
B29K105:06
B29K21:00
(21)【出願番号】P 2019221049
(22)【出願日】2019-12-06
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109841
【氏名又は名称】堅田 健史
(72)【発明者】
【氏名】孝治 慎之助
(72)【発明者】
【氏名】黒川 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】グン 剣萍
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-132876(JP,A)
【文献】特表2011-516753(JP,A)
【文献】特開2018-164967(JP,A)
【文献】特開2016-186143(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0111658(US,A1)
【文献】特開2007-113122(JP,A)
【文献】特開2006-214015(JP,A)
【文献】特開2021-088686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/00-13/12
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
C08F 220/26
C08J 5/04-5/10
C08J 5/24
D04B 1/00-1/28
D04B 21/00-21/20
D06M 13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー複合体であって、
エラストマーと、繊維構造体とを備えてなり、
前記エラストマー複合体の水平方向(X方向)における切創力Sxと、前記X方向に対して垂直方向(Y方向)における切創力Syが下記(式1)を満たすものであり、
2<Sx/Sy (式1)
〔式1中、Sx及びSyは、ISO 13997(JIS T 8052)に準拠した測定方法により測定した値である〕
前記エラストマー複合体を前記X方向に沿って50mm、前記Y方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験をした際、応力0.5MPaにおける前記X方向の伸び率Exとし、かつ、
前記エラストマー複合体を前記Y方向に沿って50mm、前記X方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記Y方向に対して引張試験をした際、応力0.5MPaにおける前記Y方向の伸び率Eyが下記(式2)又は下記(式3)を満た
し、
1.5<Ex/Ey (式2)
1.5<Ey/Ex (式3)
前記エラストマーは、下記化学式(I)で表されるモノマーと、下記化学式(II)で表されるモノマーとを含んでなるものであり、
【化1】
〔化学式(I)〕
〔化学式(I)中、
R
1
は水素原子又はメチル基であり、
R
2
はメチル基又はフェニル基であり、
nは1~3の整数である。〕
【化2】
〔化学式(II)〕
〔化学式(II)中、
R
3
は水素原子又はメチル基であり、
R
4
は水素原子、直鎖又は分岐鎖を有するアルキル基又はアルケニル基、或いは環式脂肪族炭化水素基であり、
nは1~3の整数である。〕
前記繊維構造体は、複数の繊維から構築される三次元構造を備えた編物であることを特徴とする、エラストマー複合体。
【請求項2】
前記エラストマー複合体の伸び率Exが15%以上であり、又は、
前記エラストマー複合体の伸び率Eyが15%以上であることを特徴とする、請求項1に記載のエラストマー複合体。
【請求項3】
前記化学式(I)で表されるモノマーが、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジ(エチレングリコール)エチルエーテル(メタ)アクリレート、及びトリ(エチレングリコール)エチルエーテル(メタ)アクリレートからなる群から選択される一種又は二種以上の混合物である、請求項
1又は2に記載のエラストマー複合体。
【請求項4】
前記化学式(II)で表されるモノマーが、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートからなる群から選択される一種又は二種以上の混合物である、請求項
1~3
の何れか一項に記載のエラストマー複合体。
【請求項5】
前記繊維構造体を構成する繊維は、引張強度が1GPa以上であることを特徴とする、請求項1~
4の何れか一項に記載のエラストマー複合体。
【請求項6】
請求項1~
5の何れか一項に記載のエラストマー複合体を用いた、表層材。
【請求項7】
請求項
6に記載の表層材を備えた、ロボット。
【請求項8】
エラストマー複合体の製造方法であって、
エラストマーを構成するモノマーと、繊維構造体とを用意し、
前記エラストマーを構成するモノマーを重合し前記エラストマーを形成し、及び、
前記エラストマーと前記繊維構造体とを複合化することを含んでなり、
前記エラストマー複合体が、
前記エラストマー複合体の水平方向(X方向)における切創力Sxと、前記X方向に対して垂直方向(Y方向)における切創力Syが下記(式1)を満たすものであり、
2<Sx/Sy (式1)
〔式1中、Sx及びSyは、ISO 13997(JIS T 8052)に準拠した測定方法により測定した値である〕
前記エラストマー複合体を前記X方向に沿って50mm、前記Y方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験をした際、応力0.5MPaにおける前記X方向の伸び率Exとし、かつ、
前記エラストマー複合体を前記Y方向に沿って50mm、前記X方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記Y方向に対して引張試験をした際、応力0.5MPaにおける前記Y方向の伸び率Eyが下記(式2)又は下記(式3)を満た
し、
1.5<Ex/Ey (式2)
1.5<Ey/Ex (式3)
前記エラストマーは、下記化学式(I)で表されるモノマーと、下記化学式(II)で表されるモノマーとを含んでなるものであり、
【化1】
〔化学式(I)〕
〔化学式(I)中、
R
1
は水素原子又はメチル基であり、
R
2
はメチル基又はフェニル基であり、
nは1~3の整数である。〕
【化2】
〔化学式(II)〕
〔化学式(II)中、
R
3
は水素原子又はメチル基であり、
R
4
は水素原子、直鎖又は分岐鎖を有するアルキル基又はアルケニル基、或いは環式脂肪族炭化水素基であり、
nは1~3の整数である。〕
前記繊維構造体は、複数の繊維から構築される三次元構造を備えた編物であることを特徴とする、エラストマー複合体の製造方法。
【請求項9】
前記エラストマー複合体が、請求項1~7の何れか一項に記載のエラストマー複合体である、請求項
8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー及び繊維構造体を備えたエラストマー複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軽量性、柔軟性、伸縮性、高強度性、又は耐久性等を備えた複合体(材料)が要求されている。特に、様々な分野において機能性材料として用いられる複合体の開発が要求されている。
【0003】
このような複合体の従前の例としては、柔軟性を有するシリコーン樹脂、軽量かつ高強度な炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、特定の柔軟性ポリマーと高強度繊維からなる複合体、又は、強度が高く自己修復性を有することから耐久性に優れた自己修復性エラストマー等が提案されている。
【0004】
例えば、非特許文献1(「Facile Synthesis of Novel Elastomers with Tunable Dynamics for Toughness, Self-healing and Adhesion」)では、DEEA、MEA、PDEA、PEA、BZA等と、CHA、TBA、IBA等との組み合わせにより、強度が高く自己修復性を有するエラストマーを簡易な方法で得られることが提案されている。
【0005】
また、特許文献1(特開2016-186143号公開公報)では、高強度紡績糸を用いた高強力、耐折性、軽量性に優れる編織物等の繊維構造物、及びこれらからなる防護材を提供する為に、ポリパラフェニレンテレフタルアミド長繊維の捲縮糸を用いた織物が提案されている。
【0006】
特許文献2(特表2009-535525号公開公報)では、機械方向に非常に低い伸び率を有し、機械の横方向に比較的弱い力で伸長することを可能とする為に、布地の繊維が機械方向に平行な又は±45°の範囲内の角度を形成する繊維方向で配置されてなる不織布が提案されている。
【0007】
さらに、特許文献3(特表2017-531737号公開公報)では、両性高分子電解質(PA)ハイドロゲルによって、耐摩耗性を実現する一方で、人体からの拒絶反応を予防し、かつ、高い負荷を実現する為に、布地とPAハイドロゲルとを備えた複合材料が提案されている。
【0008】
しかしながら、軽量性、柔軟性、伸縮性(可撓性)、高強度性、及び耐久性等を備えた複合体の開発が未だ要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-186143号公開公報
【文献】特表2009-535525号公開公報
【文献】特表2017-531737号公開公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】「Facile Synthesis of Novel Elastomers with Tunable Dynamics for Toughness, Self-healing and Adhesion」〔Liang Chen, et, al; Journal of Materials Chemistry A, 7(29), 17334-17344 (2019)〕
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、軽量かつ高強度ではあるものの、柔軟性及び伸縮性という機能性には欠けるため、可動性の確保といった機能を実現するには不向きである。他方、柔軟性ポリマーと高強度繊維からなる複合体もまた、柔軟性を実現するものの、伸縮性という点で未だ検討する余地がある。本発明は、正に、これらの機能性を実現することを解決すべき課題として認識し、軽量性、柔軟性及び伸縮性(可撓性)と、並びに、高強度性、及び耐久性とを充足させるエラストマー複合体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、エラストマーと繊維構造体とにより構成されてなり、特定の数式(I)及び(2)を充足することにより、柔軟性、伸縮性、耐久性、強度性、及び保護性を実現することができるエラストマー複合体を提案することができる。
【0013】
〔本発明の一の態様〕
本発明はその一の態様として以下のものを提案することができる。
〔1〕エラストマー複合体であって、
エラストマーと、繊維構造体とを備えてなり、
前記エラストマー複合体の水平方向(X方向)における切創力Sxと、前記X方向に対して垂直方向(Y方向)における切創力Syが下記(式1)を満たすものであり、
2<Sx/Sy (式1)
〔式1中、Sx及びSyは、ISO 13997(JIS T 8052)に準拠した測定方法により測定した値である〕
前記エラストマー複合体を前記X方向に沿って50mm、前記Y方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験をした際、応力0.5MPaにおける前記X方向の伸び率Exとし、かつ、
前記エラストマー複合体を前記Y方向に沿って50mm、前記X方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記Y方向に対して引張試験をした際、応力0.5MPaにおける前記Y方向の伸び率Eyが下記(式2)又は下記(式3)を満たすことを特徴とする、エラストマー複合体。
1.5<Ex/Ey (式2)
1.5<Ey/Ex (式3)
〔2〕前記エラストマー複合体の伸び率Exが15%以上であり、又は、
前記エラストマー複合体の伸び率Eyが15%以上であることを特徴とする、〔1〕に記載のエラストマー複合体。
〔3〕前記エラストマーは、下記化学式(I)で表されるモノマーと、下記化学式(II)で表されるモノマーとを含んでなるものである、〔1〕又は〔2〕に記載のエラストマー複合体。
〔4〕前記化学式(I)で表されるモノマーが、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジ(エチレングリコール)エチルエーテル(メタ)アクリレート、及びトリ(エチレングリコール)エチルエーテル(メタ)アクリレートからなる群から選択される一種又は二種以上の混合物である、〔3〕に記載のエラストマー複合体。
〔5〕前記化学式(II)で表されるモノマーが、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートからなる群から選択される一種又は二種以上の混合物である、請求項〔3〕又は〔4〕に記載のエラストマー複合体。
〔6〕前記繊維構造体を構成する繊維は、引張強度が1GPa以上であることを特徴とする、〔1〕~〔5〕の何れか一項に記載のエラストマー複合体。
〔7〕前記繊維構造体は、織物、編物、不織布、又は織布であることを特徴とする、〔1〕~〔6〕の何れか一項に記載のエラストマー複合体。
〔8〕〔1〕~〔7〕の何れか一項に記載のエラストマー複合体を用いた、表層材。
〔9〕〔8〕に記載の表層材を備えた、ロボット。
〔10〕エラストマー複合体の製造方法であって、
エラストマーを構成するモノマーと、繊維構造体とを用意し、
前記エラストマーを構成するモノマーを重合し前記エラストマーを形成し、及び、
前記エラストマーと前記繊維構造体とを複合化することを含んでなり、
前記エラストマー複合体が、
前記エラストマー複合体の水平方向(X方向)における切創力Sxと、前記X方向に対して垂直方向(Y方向)における切創力Syが下記(式1)を満たすものであり、
2<Sx/Sy (式1)
〔式1中、Sx及びSyは、ISO 13997(JIS T 8052)に準拠した測定方法により測定した値である〕
前記エラストマー複合体を前記X方向に沿って50mm、前記Y方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験をした際、応力0.5MPaにおける前記X方向の伸び率Exとし、かつ、
前記エラストマー複合体を前記Y方向に沿って50mm、前記X方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記Y方向に対して引張試験をした際、応力0.5MPaにおける前記Y方向の伸び率Eyが下記(式2)又は下記(式3)を満たすものである、エラストマー複合体の製造方法。
1.5<Ex/Ey (式2)
1.5<Ey/Ex (式3)
〔11〕前記エラストマー複合体が、〔1〕~〔7〕の何れか一項に記載のエラストマー複合体である、〔10〕に記載の製造方法。
〔12〕〔10〕に記載の製造方法より製造された、〔1〕~〔7〕の何れか一項に記載のエラストマー複合体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるエラストマー複合体によれば、軽量性、柔軟性、伸縮性、耐久性、高強度性(特に、耐切創性)、及び異方性(伸縮性及び強度性に関する)を相加的相乗的に実現することができ、取り分け、一定方向における伸縮性を実現することを可能とした機能性エラストマー複合体を提案することができる。その結果、高強度性と柔軟性を要求する材料を提案することが可能となり、例えば、介護ロボットのように、高強度性と耐久性を有しながら、可動領域は伸縮性を有し、人体と接触する部位は柔軟性を有するといった高次元の機能性材料を提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明によるエラストマー複合体の一例を示した概略図である。
【
図2】
図2は、本発明によるエラストマー複合体がロボットの関節部分の表層材として使用したものを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔定義〕
「ISO 13997:1999」は、「Protective clothing-Mechanical properties-Determination of resistance to cutting by sharp objects (MOD)」であり、日本工業規格(JIS)では、「JIS T 8052:2005」として、「防護服-機械的特性-鋭利物に対する切創抵抗性試験方法」と規定されている。
「伸び率」は、例えば、JIS L 1096 織物及び編物の生地試験方法に記載のグラブ法によって測定することができる。
【0017】
〔エラストマー複合体〕
エラストマー複合体は、エラストマーと、繊維構造体とを備えてなる。本発明にあっては、下記する特定の数式(1)、及び数式(2)又は数式(3)を充足することを特徴とするものである。本発明によるエラストマー複合体は、例えば、
図1に示すような三次元立体構造とした場合、水平方向(X方向)、前記X方向に対して垂直方向(Y方向)、そして、厚み方向(Z方向)として数値を測定し算出することができる。
【0018】
(切創力比:Sx/Sy)
本発明におけるエラストマー複合体は、前記エラストマー複合体の水平方向(X方向)における切創力Sxと、前記X方向に対して垂直方向(Y方向)における切創力Syが下記(式1)を満たすものである。
2<Sx/Sy (式1)
【0019】
本発明にあっては、Sx/Syは2超過であり、好ましくは3超過であり、より好ましくは5超過である。Sx/Syが上記数値であることにより、即ち、前記X方向に高い切創力を有することで、柔軟性、伸縮性、耐久性、強度性、及び保護性が要求される部材、例えば、ロボットの駆動部など、傷などダメージを受け易い部位において特定方向の保護機能が高い表層材を提供可能となる。
【0020】
Sx及びSyは、ISO 13997(JIS T 8052)に準拠した測定方法により測定した値である。この測定方法は、試料と接触させた試験用刃物に負荷荷重を徐々に加えながら、試験用刃物をゆっくりと移動させ、刃物が試料を貫通したときの力から、切創抵抗性(切創力)を評価する方法である。刃物と、試料の下に位置する試料ホルダとの電気的な接触により、試料の貫通を検出する。具体的には、試験装置に取り付けた試験片上を、試験測定用刃物が150mm/minの速度で20mm移動して試験片を切断する時に必要な切断荷重(N)で測定することができる。
【0021】
(伸び率比:Ex/Ey又はEy/Ex)
本発明におけるエラストマー複合体は、前記エラストマー複合体を前記X方向に沿って50mm、前記Y方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験をした際、応力0.5MPaにおける前記X方向の伸び率Exとし、かつ、前記エラストマー複合体を前記Y方向に沿って50mm、前記X方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記Y方向に対して引張試験をした際、応力0.5MPaにおける前記Y方向の伸び率Eyが下記(式2)又は下記(式3)を満たすものである。
1.5<Ex/Ey (式2)
1.5<Ey/Ex (式3)
【0022】
本発明にあっては、Ex/Eyは1.5超過であり、好ましくは2超過であり、より好ましくは3超過である。Ex/Eyが上記数値であることにより、即ち、前記X方向に高い伸縮性を有することから、柔軟性、伸縮性、耐久性、強度性、及び保護性が要求される部材、例えば、ロボットの駆動部等の伸縮する箇所に駆動部の伸縮方向とエラストマー複合体の高い伸縮性を有する方向(X方向)を一致させて設置することにより、Ex/Ey
が高い数値であるほど駆動部が抵抗なく駆動することが可能となる。
【0023】
本発明にあっては、Ey/Exは1.5超過であり、好ましくは2超過であり、より好ましくは3超過である。Ey/Exが上記数値であることにより、即ち、前記Y方向に高い伸縮性を有することから、柔軟性、伸縮性、耐久性、強度性、及び保護性が要求される部材、例えば、ロボットの駆動部等の伸縮する箇所に駆動部の伸縮方向とエラストマー複合体の高い伸縮性を有する方向(Y方向)を一致させて設置することにより、Ey/Exが高い数値であるほど駆動部が抵抗なく駆動することが可能となる。
【0024】
また、エラストマー複合体が、Ex/Ey又はEy/Exが上記数値を満たし、かつ、前記切創力比(Sx/Sy)が前記数値を満たす場合においては、特に、伸び率の高い方向と切創力が高い方向が直交することから、より好適には、ロボットの駆動部等の伸縮する箇所に設置する表層材として用いることができる。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、エラストマー複合体の伸び率Exが15%以上であり、好ましくは30%以上であり、より好ましくは60%以上であることが好ましい。また、エラストマー複合体の伸び率Eyが15%以上であり、好ましくは30以上であり、より好ましくは60%以上であることが好ましい。
【0026】
Ex又はEyが15%以上であれば、柔軟性、伸縮性、耐久性、強度性、及び保護性が要求される部材、例えば、多くの可動部材に適用することが可能となり、伸び率Ex又はEyが30%以上であれば、例えば、ヒト型ロボットの最も高い伸び率を必要とされる膝部材及び肘部材等にも適用可能となる。また、伸び率Ex又はEyが60%以上であれば、ヒト型ロボット以外のより高い伸び率を必要とする駆動部材に用いることが可能となる他、必要とされる伸び率が低い場合であっても、より小さい力で伸ばすことが可能となるため好ましい。
【0027】
Ex及びEyは、JIS L 1096に準拠した測定方法により測定した値である。この測定方法は、試料をX方向に沿って100mm、Y方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験を行う。測定された荷重(N)を試料の断面積で割ることで応力を算出し、0.1MPaにおける伸び率を測定した。また、Eyは、試料をY方向に沿って100mm、X方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験を行う。測定された荷重(N)を試料の断面積で割ることで応力を算出し、0.1MPaにおける伸び率を測定することができる。
【0028】
(エラストマー)
「エラストマー」は、本発明にあっては、主として、弾性を示す化学物質を意味する。本発明にあっては、「エラストマー」は、ゴム、樹脂(熱硬化性樹脂系エラストマー又は熱可塑性エラストマー)、弾性プラスチック等、弾性を示す物質であれば全て包含する。
【0029】
「ゴム」としては、天然ゴム(ゴムの木に包含されるcis-ポリイソプレン、加硫ゴム)、合成ゴムがある。合成ゴムとしては、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレン(ブチルゴム)、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、及びシリコーンゴム等からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物が挙げられる。
【0030】
「熱硬化性樹脂系エラストマー」としては、上記したものであるが、ウレタンゴム、シリコーンゴム、及びフッ素ゴム等からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物が挙げられる。「熱可塑性エラストマー」としては、ポリスチレン系、ポリオレフィン/アルケン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、及びポリアミド系等からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物が挙げられる。なお、本発明にあっては、物質の分類(ゴム、樹脂)が異なるものであっても、その名称に拘泥することなく使用することができる。
【0031】
本発明の好ましい一の態様にあっては、エラストマーは、下記化学式(I)で表されるモノマーと、下記化学式(II)で表されるモノマーとを含んでなるものである。
【0032】
【0033】
化学式(I)中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2はメチル基又はフェニル基であり、nは1~3の整数である。
【0034】
上記化学式(I)で表されるモノマーとしては、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジ(エチレングリコール)エチルエーテル(メタ)アクリレート、トリ(エチレングリコール)エチルエーテル(メタ)アクリレートが挙げられ、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、及びフェノキシエチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される一種又は二種以上の混合物が好ましくは用いられる。
【0035】
【0036】
化学式(II)中、R3は水素原子又はメチル基であり、R4は、水素原子、直鎖又は分岐鎖を有すアルキル基又はアルケニル基(好ましくは炭素数1~20程度であり、より好ましくは炭素数1~10程度であり、最も好ましくは炭素数1~6程度である)、環式脂肪族炭化水素基であり、nは1~3の整数である。
【0037】
上記化学式(I)で表されるモノマーと、上記化学式(II)で表されるモノマーとを含むエラストマーは、強度が高く自己修復性を有することから耐久性に優れた特徴を有するため、本発明において好適に用いることができる。
【0038】
直鎖又は分岐鎖を有すアルキル基又はアルケニル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、s-ペンチル基、n-ヘキシル基、s-ヘキシル基、1,1-ジメチル-n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペテニル基、1-ヘキセニル基、及び1-オクテニル基からなる群から選択される一種又は二種以上の組み合わせが例示される。
【0039】
環式脂肪族炭化水素基としては、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、又はシクロドデカン等の単環シクロアルカン;シクロプロペン、シクロブテン、シクロプロペン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環シクロアルケン;ビシクロウンデカン、デカヒドロナフタレン等の二環式アルカン;ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環式アルケン;キュバン、バスケタン、ハウサン等の多環式化合物;及びスピロ化合物からなる群から選択される一種又は二種以上の組み合わせが例示される。
【0040】
上記化学式(II)で表されるモノマーとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートからなる群から選択される一種又は二種以上の混合物が挙げられ、イソボルニル(メタ)アクリレートが好ましくは用いられる。
【0041】
〈調製〉
エラストマーは、それを構成する物質(例えば、モノマー)を重合等することによって調製することができる。重合方法としては、例えば、エラストマーを構成するモノマーをラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合、重縮合等の重合方法を用いることができ、好ましくはラジカル重合を用いることができる。重合に際しては、重合開始剤、安定剤、促進剤、溶媒、イオン物質、加熱又はUV線等を使用することができる。
【0042】
ラジカル重合に用いる重合開始剤としては、ジハロゲン、アゾ化合物、有機過酸化物、酸化剤と還元剤を組み合わせたレドックス開始剤等を用いることができる。ラジカル重合には、溶媒を用いてもよい。モノマーと重合開始剤、場合によって溶媒を混合し、重合開始剤の種類に応じて、加熱又はUV光照射などにより重合開始剤からラジカルを発生させることで重合反応を開始する。重合完了後、必要に応じて精製処理などを行い、目的とするエラストマーを得ることができる。
【0043】
(繊維構造体)
本発明にあっては、高分子複合体は、繊維構造体を備えてなるものである。繊維構造体は、高分子複合体において、主として、高強度性(特に、耐切創性)、異方性(伸縮性及び高強度性に関して)として機能するものである。
【0044】
本発明にあっては、繊維構造体は、一又は複数の繊維から構築される二次元、又は三次元の構造体であり、高分子複合体に対して、高強度性(耐切創性)の向上、特に、強度(耐切創力)及び伸縮性に関する異方性を高分子複合体に付与する。繊維の組成、繊維構造体における二次元又は三次元の構造により、強度(耐切創力)を向上させることができる。また、強度性および伸縮性に関する異方性については、特に三次元の構造により制御することができる。繊維構造体として、高強度繊維(例えば、ポリアミド繊維等)を用いて編物を形成する場合、編物の横方向と縦方向で異方性を有する繊維構造体を得ることができる。編物の構成を制御することで、強度(耐切創力)及び伸縮性に関する異方性を制御することができる。
【0045】
〈繊維〉
繊維は、柔軟性、強度性、伸縮性を構築することが可能なものであれば天然又は合成のいずれであってもよいが、好ましくは、(化学)合成繊維が使用される。繊維としては精製繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維、無機物繊維、無機物及び有機物による合成繊維等が挙げられる。
【0046】
「精製繊維(天然高分子)」としては、セルロース系繊維(リヨセル、テンセル)が例示される。「再生繊維(天然高分子)」としては、セルロース系繊維(レーヨン、ビスコースレーヨン、ポリノジック、キュプラ、銅アンモニアレーヨン)、タンパク質系繊維(カゼイン繊維、落花生タンパク繊維、とうもろこしタンパク繊維、大豆タンパク繊維、再生絹糸)、その他の繊維(アルギン繊維、キチン繊維、マンナン繊維、ゴム繊維)等が例示される。「半合成繊維(半合成高分子)」としては、セルロース系繊維(アセテート、トリアセテート、酸化アセテート)、タンパク質系繊維(プロミックス)、天然ゴム系繊維(塩化ゴム、塩酸ゴム)等が例示される。「合成繊維(合成高分子)」としては、ポリアミド系繊維(ナイロン、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ナイロン)、芳香族ポリアミド系繊維(アラミド)、ポリビニルアルコール系(ビニロン)、ポリ塩化ビニリデン系(ビニリデン)、ポリ塩化ビニル系繊維(ポリ塩化ビニル)、ポリエステル系繊維(ポリエステル)、ポリアクリロニトリル系繊維(ポリアクリロニトリル繊維、モダクリル繊維)、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレンル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリスチレン繊維)、ポリエーテルエステル系繊維(レクセ、サクセス)、ポリウレタン系繊維(ポリウレタン)、ポリイミド系繊維(ポリイミド)、アクリレート系繊維、エチレンビニールアルコール系繊維、ポリクラール系繊維等が例示される。「炭素繊維」としては、アクリル繊維又はピッチ(石油、石炭、コールタールなどの副生成物)を原料に高温で炭化して作った繊維であり、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維が挙げられる。また、ガラス繊維(石英ガラス等の無アルカリガラス繊維)、人造鉱物繊維(ロックウール、グラスウール、セラミックファイバー)が使用可能である。
【0047】
本発明にあっては、好ましくは、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ガラス繊維、(超高分子量)ポリエチレン繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維、炭素繊維等が好ましくは用いられる。
【0048】
繊維は、フィラメント(長繊維:マルチフィラメント、単繊維:モノフィラメント)、ステープル(短繊維)であってよい。また、紡糸後に、延伸(引き伸し、適度な強さと伸度を繊維に付与する処理)を行ってよい。また、撚り、延伸等を行う作業として、延伸糸(FOY)、半延伸糸(POY)、延伸加工糸(DTY)を行ってもよい。さらに、紡糸後、紡績(ステープルを紡いで糸にすること)、混紡(二種以上の異なったステープルを混ぜ合わせて紡績すること)、撚糸(フィラメント糸及び紡績糸に撚りをかけること)、交撚(二種類以上のちがった種類の糸を混ぜながら撚りをかけること)等を行って、所望の繊維形態(糸)とすることができる。また、繊維の断面もまた、円形、楕円形、多角形、Y字形、星形等の様々な形状とすることができ、また、繊維の中を空洞とした中空繊維として構成することができる。
【0049】
本発明にあっては、前記繊維構造体を構成する繊維は、引張強度が1GPa以上のものであれば好ましいものとして使用できる。
【0050】
繊維は、紡糸、糸とした後に、「織物」、「編物」、「織布」、「不織布」又はこれらの混合体(布地又は生地形態)として形成され、繊維構造体とすることができる。
【0051】
(複合化)
本発明にあっては、高分子と繊維構造体を複合化する。複合化された高分子複合体は、軽量性、柔軟性、伸縮性、及び高強度(特に、耐切創性)、並びに、耐久性及び異方性(伸縮性及び強度性に関する)を発揮させることができる。本発明の好ましい態様によれば、上記諸機能を全て十分に発揮させるために、高分子と繊維構造体の相互作用を適切に調製することが好ましい。
【0052】
〔エラストマー複合体の製造方法〕
本発明の一の態様として、エラストマー複合体の製造方法を提案することができ、その製造方法は、
エラストマーを構成するモノマーと、繊維構造体とを用意し、
前記エラストマーを構成するモノマーを重合し前記エラストマーを形成し、及び、
前記エラストマーと前記繊維構造体とを複合化することを含んでなり、
前記エラストマー複合体が、
前記エラストマー複合体の水平方向(X方向)における切創力Sxと、前記X方向に対して垂直方向(Y方向)における切創力Syが下記(式1)を満たすものであり、
2<Sx/Sy (式1)
〔式1中、Sx及びSyは、ISO 13997(JIS T 8052)に準拠した測定方法により測定した値である〕
前記エラストマー複合体を前記X方向に沿って50mm、前記Y方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験をした際、応力0.5MPaにおける前記X方向の伸び率Exとし、かつ、
前記エラストマー複合体を前記Y方向に沿って50mm、前記X方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記Y方向に対して引張試験をした際、応力0.5MPaにおける前記Y方向の伸び率Eyが下記(式2)又は下記(式3)を満たすものである。
1.5<Ex/Ey (式2)
1.5<Ey/Ex (式3)
【0053】
本発明にあっては、前記エラストマーを構成するモノマーを重合することは、前記繊維構造体(存在下)において前記エラストマーを構成するモノマーを重合することが提案される(好ましい)。例えば、前記エラストマーを構成するモノマーと前記繊維構造体とを混合した後に重合し、又は、前記繊維構造体に前記エラストマーを構成するモノマーを付与した後に重合することであってよい(より好ましい)。或いは、前記エラストマーを構成するモノマーを重合することは、前記エラストマーを構成するモノマーのみで重合してもよい。この場合、得られたエラストマーと、繊維構造体に付与して、複合化をすることとなる。
【0054】
複合化させる方法としては、エラストマーと繊維構造体を接着させた後に、熱プレスを行い複合化させる方法等を用いることができる。
【0055】
エラストマー、繊維構造体の内容、材料、調製等は、〔エラストマー複合体〕の項で説明したのと同様であってよい。
【0056】
本発明にあっては、上記エラストマー複合体の製造方法で製造されたエラストマー複合体もまた、本発明の一の態様で提案することができる。
【0057】
〔用途〕
本発明によるエラストマー複合体は機能性材料として使用される。従って、例えば、製品の表層材として使用することができる。特に好ましくは、ロボットの表層材(外装材)として使用することが可能である。従って、本発明にあっては、本発明によるエラストマー複合体で形成された表層材を備えてなるロボットを提案することができる。実際、
図2に示す通り、ロボットの関節部分において表層材として使用する。特に、(介護)ロボットは、直接被介護者と触れ合うことから、その表層材には、柔軟性が求められ、かつ、ロボット内部を保護する機能(強度性)及び耐久性が必要であり、他方、ロボットの駆動部(可動領域)においては、伸縮性(可撓性)及び柔軟性(特に、一定方向)を備える必要がある。よって、本発明によるエラストマー複合体は、当該必要性を充足させた(介護)ロボット用表層材として好ましくは使用される。
【実施例】
【0058】
本発明の内容を以下の実施例を用いて説明するが、本発明の範囲は、これら実施例に限定して解釈されるものではない。また、本明細書に開示された様々な本発明の態様は、本実施例から当業者が容易に本発明を実施することができるものである。
【0059】
〔繊維の調製〕
(1)ポリアリレート繊維編物
22texのゼクシオン繊維(KBセーレン社製)を用意し、これを用いて経編して、厚さ1.03mm、目付61.18g/m2のポリアリレート繊維編物を得た。
(2)ガラス繊維編物
67.5texのガラス繊維(セントラルグラスファイバー社製)を用意し、これを用いて経編して、厚さ0.7mm、目付370g/m2のガラス繊維編物を得た。
【0060】
〔エラストマー用原料溶液の調製〕
下記表1に記載した原料を混合し、各エラストマー1~5の原料溶液を調製した。表1中、各原料の混合量はモル比で表した。
【0061】
【0062】
〔エラストマー複合体の調製〕
各エラストマー複合体を以下のようにして調製した。
【0063】
〔実施例1〕
2枚のガラス板の間に2.0mmのスペーサを挟み込み、その間に、ポリアリレート繊維編物をセットし、エラストマー1の原料溶液を流し込み、ガラス面からUVを10時間照射することでエラストマー複合体1を得た。
【0064】
〔実施例2~5〕
エラストマー1の原料溶液を、エラストマー2~5の原料溶液に代えた以外は実施例1と同様にしてエラストマー複合体2~5を得た。
【0065】
〔実施例6~10〕
ポリアリレート繊維編物を、ガラス繊維編物に代えた以外は実施例1~5と同様にしてエラストマー複合体6~10を得た。
【0066】
〔比較例1~5〕
ポリアリレート繊維編物を用いなかったこと以外は実施例1~5と同様にしてエラストマー1~5を得た。
【0067】
〔評価試験〕
実施例1~10のエラストマー複合体及び比較例1~5のエラストマーに関して、以下の評価を行った。
【0068】
〔切創力評価〕
測定試料(エラストマー複合体およびエラストマー)をX方向に100mm、Y方向に50mmにアラミド繊維用ハサミを用いて切断した。切創力試験装置(TDM-100)の測定部に前記試料片を貼り付け、試験測定用刃物が150mm/minの速度で20mm移動して試験片を切断するときの切断荷重Sxを測定した。同様に、測定試料をY方向に100mm、X方向に50mmに切断した試料を上記と同様に試験を行い、切断荷重Syを測定した。その測定結果は下記表2に記載した通りであった。
【0069】
〔伸び率評価〕
測定試料(エラストマー複合体およびエラストマー)をX方向に100mm、Y方向に10mmにレーザーカッターを用いて切断した。この試料片の厚さを測定し、オートグラフ(AG-Xplus、島津製作所製、ロードセル20kN)を用いて、引張速度50mm/minで引張試験を行い、0.5MPaにおける伸び率Exを測定した。同様に、測定試料をY方向に100mm、X方向に10mmに切断した試料を上記と同様に引張試験を行い、0.5MPaにおける伸び率Eyを測定した。その測定結果は下記表2に記載した通りであった。
【0070】
〔評価結果〕
下記表2に示された通り、本願発明(実施例)は、比較例と対比して、切創力比(Sx/Sy)及び伸び率比(Ex/Ey又はEy/Ex)が高いことがわかる。これらの結果から、特定方向の保護機能および伸縮性において、優れた効果を発揮することが明らかに理解される。
【0071】
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のエラストマー複合体は、高強度、柔軟性、伸縮性の機能を有し、一定方向に対して高い伸縮性を有することから、人体と直接かつ柔軟に接触することが可能であり、可動領域を自在に実現できるように可撓性と伸縮性とを実現することが可能となり、また、内部構造体を保護する強度を備えた素材(例えば、ロボット用表層材)として好適である。