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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】マルチモード伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H04J 14/04 20060101AFI20240826BHJP
   H04B 10/2581 20130101ALI20240826BHJP
   G02F 3/00 20060101ALN20240826BHJP
【FI】
H04J14/04
H04B10/2581
G02F3/00 501
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021132361
(22)【出願日】2021-08-16
(65)【公開番号】P2023026914
(43)【公開日】2023-03-01
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】森 崇嘉
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】山下 陽子
(72)【発明者】
【氏名】今田 諒太
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晋聖
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0353242(US,A1)
【文献】国際公開第2021/166112(WO,A1)
【文献】特開2017-191185(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122667(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/083018(WO,A1)
【文献】特開2017-156308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04J 14/04
H04B 10/2581
G02F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレント変調信号光を送信するN個(Nは2以上の整数)の光送信機と、
伝搬モードの数がL(Lは2以上の整数)であるマルチモード光ファイバと、
M個の前記コヒーレント変調信号光を受信するM個の光受信機と、
入力される複数の信号光をLモードのマルチモードに変換して前記マルチモード光ファイバに入力するモード合波器と、
前記マルチモード光ファイバのマルチモードの信号光を複数の信号光に分波するモード分波器と、
を備えるマルチモード伝送システムであって、
前記モード合波器の前段、及び前記モード分波器の後段の少なくとも一方に光線形変換器を備えており、
前記モード合波器から前記モード分波器までの間における伝達行列の逆行列に複素定数を乗じた行列で、
前記モード合波器の前段の前記光線形変換器は、N個の前記コヒーレント変調信号光をN個(NはN以上の整数)のコヒーレントな中間信号光に変換し、前記モード合波器に入力し、
前記モード分波器の後段の前記光線形変換器は、前記モード分波器が分波したM個のコヒーレントな中間信号をM個のコヒーレント変調信号光に変換し、前記光受信機に入力する
ことを特徴とするマルチモード伝送システム。
【請求項2】
前記光線形変換器は、光ユニタリ変換器及び光利得変換器で構成され、前記伝達行列に応じて前記光利得変換器における光増幅量/光減衰量を設定されることを特徴とする請求項1に記載のマルチモード伝送システム。
【請求項3】
前記モード合波器及び前記モード分波器の少なくとも一方が非選択的であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチモード伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モ-ド分割多重技術を用いたマルチモード光ファイバ伝送技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信システムにおいて、モ-ド分割多重技術を用いたマルチモード光ファイバ伝送を行う場合、光送信機から送出される光信号を光ファイバの高次モードに変換する必要があり、非特許文献1に開示されるようなモード合分波器が検討されている。
モード合分波器とマルチモードファイバを用いた伝送システムでは、デバイスごとの挿入損失のほか、モード依存損失を低減するようなモード合分波器が検討されている(例えば、非特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】K. Saitoh, N. Hanzawa, T. Sakamoto, T. Fujisawa, Y. Yamashita, T. Matsui, K. Tsujikawa, and K. Nakajima, “PLC-based mode multi/demultiplexers for mode division multiplexing,” Opt. Fiber Technol., vol. 35, pp. 80-92, Feb. 2017.
【文献】M. Shirata, T. Fujisawa, T. Sakamoto, T. Matsui, K. Nakajima, and K. Saitoh, “Design of small mode-dependent-loss scrambling-type mode (de)multiplexer based on PLC,” Opt. Express, vol. 28, no. 7, pp. 9653-9665, Mar. 2020.
【文献】M. Reck, A. Zeilinger, H. J. Bernstein, and P. Bertani, “Experimental realization of any discrete unitary operator,” Phys. Rev. Lett., vol. 73, no. 1, pp. 58-61, Jul. 1994.
【文献】W. R. Clements, P. C. Humphreys, B. J. Metcalf, W. S. Kolthammer, and I. A. Walsmley, “Optimal design for universal multiport interferometers,” Optica, vol. 3, no. 12, pp. 1460-1465, Dec. 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチモード光ファイバ伝送を行う場合、光送信機から送出される光信号を光ファイバの高次モードに変換するモード合分波器が必要である。マルチモード光ファイバ伝送には、モード合分波器の挿入損失やモード依存損失により光信号を受信機側で正しく復元することが困難になる。
【0005】
また、マルチモード光ファイバ伝送を行う場合、モード合波器として非特許文献2のような非選択的なモード合分波器を配置することもある。この場合、モード合分波器で励振されるモードと光ファイバ中のモードとが異なると大きな伝送損失が発生する。このため、マルチモード光ファイバ伝送で非選択的なモード合分波器を配置した場合、モード合波器で励振されるモードと光ファイバ中のモードとを一致させなければならない。
【0006】
つまり、従来のマルチモード伝送システムには、モード合分波器の存在により光信号伝送性能が劣化するという課題があった。そこで、本発明は、前記課題を解決するために、モード合分波器による光信号伝送性能の劣化を防止できマルチモード伝送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るマルチモード伝送システムは、送信側のモード合波器の前段、受信側のモード分波器の後段の少なくとも一方において光信号に適切な干渉及び損失を与えることとした。
【0008】
具体的には、本発明に係るマルチモード伝送システムは、
コヒーレント変調信号光を送信するN個(Nは2以上の整数)の光送信機と、
伝搬モードの数がL(Lは2以上の整数)であるマルチモード光ファイバと、
M個の前記コヒーレント変調信号光を受信するM個の光受信機と、
入力される複数の信号光をLモードのマルチモードに変換して前記マルチモード光ファイバに入力するモード合波器と、
前記マルチモード光ファイバのマルチモードの信号光を複数の信号光に分波するモード分波器と、
を備えるマルチモード伝送システムであって、
前記モード合波器の前段、及び前記モード分波器の後段の少なくとも一方に光線形変換器を備えており、
前記モード合波器から前記モード分波器までの間における伝達行列の逆行列に複素定数を乗じた行列で、
前記モード合波器の前段の前記光線形変換器は、N個の前記コヒーレント変調信号をN個(NはN以上の整数)のコヒーレントな中間信号光に変換し、前記モード合波器に入力し、
前記モード分波器の後段の前記光線形変換器は、前記モード分波器が分波したM個のコヒーレントな中間信号をM個のコヒーレント変調信号光に変換し、前記光受信機に入力することを特徴とする。
【0009】
本マルチモード伝送システムは、光線形変換器により、モード合分波器や伝送路の特性に合わせ、複数の光信号に対して干渉及び損失を与えておく。光線形変換器の設定を変えることで任意のモード合分波器に対応することができる。従って、本発明は、モード合分波器による光信号伝送性能の劣化を防止できマルチモード伝送システムを提供することができる。
【0010】
前記光線形変換器は、光ユニタリ変換器及び光利得変換器で構成され、前記伝達行列に応じて前記光利得変換器における光増幅量/光減衰量を設定されることを特徴とする。
【0011】
本マルチモード伝送システムは、任意のモード合分波器に対応することができるため、、前記モード合波器及び前記モード分波器の少なくとも一方が非選択的であることを特徴とする。
【0012】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、モード合分波器による光信号伝送性能の劣化を防止できマルチモード伝送システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るマルチモード伝送システムを説明する図である。
図2】本発明に係るマルチモード伝送システムを説明する図である。
図3】本発明に係るマルチモード伝送システムが備えるb×a光線形変換器の構成を説明する図である。本図では、a=b=3である。
図4】本発明に係るマルチモード伝送システムが備えるb×a光線形変換器の構成を説明する図である。本図では、a=b=4である。
図5】本発明に係るマルチモード伝送システムが備えるb×a光線形変換器の構成を説明する図である。本図では、a=3、b=4である。
図6】本発明に係るマルチモード伝送システムが備えるb×a光線形変換器の構成を説明する図である。本図では、a=3、b=4である。
図7】本発明に係るマルチモード伝送システムが備える光利得変換器の構成を説明する図である。
図8】本発明に係るマルチモード伝送システムが備えるb×a光線形変換器の構成を説明する図である。本図では、a=3、b=4である。
図9】本発明に係るマルチモード伝送システムが備えるb×a光線形変換器の構成を説明する図である。本図では、a=3、b=4である。
図10】ユニタリ変換器の構成を説明する図である。
図11】ユニタリ変換器の構成を説明する図である。
図12】本発明に係るマルチモード伝送システムを説明する図である。
図13】本発明に係るマルチモード伝送システムが備えるb×a光線形変換器の構成を説明する図である。本図では、a=b=3である。
図14】本発明に係るマルチモード伝送システムを説明する図である。
図15】本発明に係るマルチモード伝送システムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0016】
本発明は、送信側のモード合波器の前段部に、入力光信号の干渉および損失を適切に与える光線形変換器を配置してモード合波器におけるモード励振比を制御し、モード依存損失を均一化することを特徴とする。また、本発明は、受信側のモード分波器の後段部にも出力光信号の干渉および損失を適切に与える光線形変換器を配置してモード間クロストークを補償し、モード依存損失を均一化することを特徴とする。
【0017】
(実施形態1)
図1は、本実施形態のマルチモード伝送システムを説明する図である。本システムは、N(N≧2)モードの光送信機10と、M(M≧2)モードの光受信機20と、L(L≧2)モードのマルチモード光ファイバ30と、を備える。具体的には、本システムは、
コヒーレント変調信号光を送信するN個(Nは2以上の整数)の光送信機10と、
伝搬モードの数がL(Lは2以上の整数)であるマルチモード光ファイバ30と、
M個の前記コヒーレント変調信号光を受信するM個の光受信機20と、
入力される複数の信号光をLモードのマルチモードに変換してマルチモード光ファイバ30に入力するモード合波器40と、
マルチモード光ファイバ30のマルチモードの信号光を複数の信号光に分波するモード分波器50と、
を備える。
【0018】
本システムは、さらに、モード合波器40の前段に光線形変換器60、及びモード分波器50の後段に光線形変換器70を備えており、
モード合波器40からモード分波器50までの間における伝達行列の逆行列に複素定数を乗じた行列で、
光線形変換器60は、N個の前記コヒーレント変調信号をN個(NはN以上の整数)のコヒーレントな中間信号光に変換し、モード合波器40に入力し、
光線形変換器70は、モード分波器50が分波したM個の中間信号をM個のコヒーレント変調信号光に変換し、光受信機20に入力する
ことを特徴とする。
【0019】
本実施形態では、送信側の機能について説明する。図2は、本システムの送信側の構造を説明する図である。本システムの送信側は、
コヒーレント変調信号光をシングルモード光ファイバ15に出射するN個(図2ではN=3)の光送信機10と、
c本(図2ではc=4)のシングルモード光ファイバ16からd個(図2ではd=L=3)のマルチモードに変換するモード合波器40と、
モード合波器40の前段でa個(図2ではa=N=3)のコヒーレント変調信号光に対して適切な干渉および損失を与えてb個(図2ではb=c=N=4)のコヒーレント変調信号光を得るb×a光線形変換器60で構成される。
なお、図2は一例であるので、N、N、L、a、b、c、dの数は図2の値に限定されない。
【0020】
図3は、光線形変換器60の構成を説明する図である。光線形変換器60は、光ユニタリ変換器(61、63)及び光利得変換器62で構成され、前記伝達行列に応じて光利得変換器62における光増幅量/光減衰量を設定されることを特徴とする。
【0021】
光の入力複素振幅列{x}=(x,x,...,x
複素複素振幅列{y}=(y,y,...,y
の対応を伝達行列Tで表すとき、{y}=T{x}で表すことができる。
伝達行列Tを特異値分解すると、ユニタリ行列U、Vと特異値を対角成分に持つ行列Sを用いて
【数1】
と表すことができる。なお、行列Vの肩についている「+」は随伴行列を意味する。つまり、伝達行列Tの光線形変換器60は、図3のような構成(a×aユニタリ変換器61、光利得変換器62、及びb×bユニタリ変換器63)とすることができる。ここで、ユニタリ行列U及びVの変換は非特許文献3及び4に示されるようなユニタリ変換器、行列Sは利得変換器である光増幅器または減衰器を用いることができる。
【0022】
図4は、光線形変換器60の具体的な干渉計の配置を説明するダイアグラムである。ダイアグラムの記法は非特許文献3に開示されている手法である。図4では、光線形変換器60がa=b=4の場合の4×4光線形変換器の場合である。a=3、b=4のように、正方行列ではない場合は、図5に示すように入力ポートを1つ用いない、または図6のように3×3ユニタリ変換器と4×4ユニタリ変換器を組み合わせることにより構成可能である。
【0023】
通常、チャネル利用効率の観点から、
N=L,
a≧L,
b≧L,
c≧L,
d≧L,
d≧a
とする。
【0024】
例えば、図2のように、送信機10の数Nが3、マルチモード光ファイバのモード数Lが3、モード合波器40と光線形変換器60が4モードスクランブラである場合を考える。この場合、4モードスクランブラの3モードを使うので、N=L=3、a=b=4(光線形変換器60)、c=d=4(モード合波器40)の変換行列M=USVを有するが、送信機の数Nは3なので、図6のように線形変換器60の入力4つのうち3つの入力ポートを使う。
【0025】
光線形変換器60(b×a光線形変換器)において、b行a列の変換行列の特異値のうち、1より大きい特異値の個数p、1より小さい特異値の個数qとする。このとき、図3から図6で示したように、b×a光線形変換器は、p個の光増幅器(光パワーの増幅率は特異値の2乗に一致させる)とq個の光減衰器(光パワーの減衰率は特異値の2乗に一致させる)を有する光利得変換器62、a×aユニタリ変換器61、及びb×bユニタリ変換器63で構成される。例えば、特異値が1.1,1,0.9の場合、図7に示すように、1.1に対応する導波路はパワーが1.1=1.21倍になるように光増幅器を配置し、0.9に対応する導波路はパワーが0.9=0.81倍になるように光減衰器を配置する。
【0026】
なお、光線形変換器60(b×a光線形変換器)において、a×aユニタリ変換器61またはb×bユニタリ変換器63の変換行列が単位行列となる場合は、そのユニタリ変換器を配置しなくても良い。具体的には、図6において[U]のb×bユニタリ変換器63が単位行列である場合、図8のようにb×bユニタリ変換器63が不要である。また、図6において[V]のa×aユニタリ変換器61が単位行列である場合、図9のようにa×aユニタリ変換器61が不要である。
【0027】
なお、光線形変換器60(b×a光線形変換器)において、a>Nの場合は、a×aユニタリ変換器の入力導波路のうちN本を選択するものとする。
【0028】
前述した光ユニタリ変換器(61、63)は、n×n行列の変換において、n本の入出力導波路81と、n×(n-1)/2個の2×2光分配器と、n×(n+1)/2個の位相シフタで構成される。図10は3×3光ユニタリ変換器の構成例である。また、図11は4×4光ユニタリ変換器の構成例である。図10及び図11のように、1つの2×2光分配ユニット82は、2つの2×2光等分配器と2つの位相シフタを用いたマッハツェンダ干渉計で構成することができる。光ユニタリ変換器(61、63)は、2×2光分配ユニット82を非特許文献3のように多段に接続することで構成される。
【0029】
光ユニタリ変換器(61、63)の構成方法は、非特許文献3や4のように任意性がある。このため、光ユニタリ変換器(61、63)の構成や光利得変換器62の設定を変更することで、次のような光線形変換器60を設計することができる。
【0030】
(1)モード合波器の特性を補償
モード合波器40の伝達行列をTとする。この場合、モード合波器40の前段に、当該伝達行列の逆行列T -1に複素定数α倍を乗じたαT -1の変換を行う光線形変換器60を配置する。上述したように、光線形変換器60の伝達行列USVを、光ユニタリ変換器(61、63)の構成や光利得変換器62の構成を調整してαT -1とする。光線形変換器60の配置によりモード合波器40のモード選択性を高め、モード依存損失を均一化することができる。
【0031】
(2)モード合波器からマルチモードファイバへの結合までの特性を補償
モード合波器40からマルチモード光ファイバ30への結合を表す伝達行列をTとする。この場合、モード合波器40の前段に、モード合波器40の伝達行列Tとマルチモード光ファイバ30への結合の伝達行列Tとの積Tcs=Tの逆行列Tcs -1に複素定数α倍を乗じたαTcs -1の変換を行う光線形変換器60を配置する。上述したように、光線形変換器60の伝達行列USVを、光ユニタリ変換器(61、63)の構成や光利得変換器62の構成を調整してαTcs -1とする。光線形変換器60の配置により、モード合波器40のモード選択性を高め、且つ送信機側のモード依存損失を均一化することができる。
【0032】
(3)通信システム全体の特性を補償
マルチモード光ファイバ30のモード間クロストークおよびモード依存損失、すなわち、マルチモード光ファイバ30の伝達行列をTとする。伝達行列Tが既知である場合、モード合波器40の前段に、前述の伝達行列Tcs=Tとの積Tfcs=Tの逆行列Tfcs -1に複素定数α倍を乗じたαTfcs -1の変換を行う光線形変換器60を配置する。上述したように、光線形変換器60の伝達行列USVを、光ユニタリ変換器(61、63)の構成や光利得変換器62の構成を調整してαTfcs -1とする。光線形変換器60の配置により、モード合波器40のモード選択性を高め、送信機側のモード依存損失を均一化することができ、さらに、マルチモード光ファイバ30のモード間クロストークおよびモード依存損失を送信機側で補償することが可能となる。
【0033】
(実施形態2)
実施形態1では、図1のマルチモード伝送システムのうち、送信側の機能について説明した。本実施形態では受信側の機能について説明する。図12は、本システムの受信側の構造を説明する図である。本システムの受信側は、
シングルモード光ファイバ25中を伝搬するコヒーレント変調信号光を受光するM個(図12ではM=3)の光受信機20と、
d個(図12ではd=L=3)のマルチモードからc個(図12ではc=M=4)のシングルモードに変換してシングルモード光ファイバ26に出射するモード分波器50と、
モード分波器50の後段でb個(図12ではb=c=M=4)のコヒーレント変調信号光に対して適切な干渉および損失を適切に与えてa個(図12ではa=M=3)のコヒーレント変調信号光を得るa×b光線形変換器70で構成される。
なお、図12は一例であるので、M、M、L、a、b、c、dの数は図12の値に限定されない。
【0034】
図13は、光線形変換器70の構成を説明する図である。光線形変換器70は、光ユニタリ変換器(71、73)及び光利得変換器72で構成され、前記伝達行列に応じて光利得変換器72における光増幅量/光減衰量を設定されることを特徴とする。
【0035】
図3図13とを比較するとわかるように、光線形変換器70は図3の光線形変換器60の構成の左右を逆転した構成である。従って、光線形変換器70についても実施形態1での説明と同様に、光ユニタリ変換器(71、73)の構成や光利得変換器72の設定を変更することで、次のような光線形変換器を設計することができる。
なお、以下の説明では、送信機側で説明した伝達行列U、S及びVで説明しているが、送信機側の光線形変換器と受信機側の光線形変換器との伝達行列を一致させる必要は無い。系に応じた伝達行列を用いればよい。
【0036】
(1)モード分波器の特性を補償
モード分波器50の伝達行列をTとする。この場合、モード分波器50の後段に、当該伝達行列の逆行列T -1に複素定数α倍を乗じたαT -1の変換を行う光線形変換器70を配置する。上述したように、光線形変換器70の伝達行列VSUを、光ユニタリ変換器(71、73)の構成や光利得変換器72の構成を調整してαT -1とする。光線形変換器70の配置によりモード分波器50のモード選択性を高め、モード依存損失を均一化することができる。
【0037】
(2)マルチモードファイバからモード分波器への結合までの特性を補償
モード分波器50からマルチモード光ファイバ30への結合を表す伝達行列をTとする。この場合、モード分波器50の後段に、モード分波器50の伝達行列Tとマルチモード光ファイバ30からの結合の伝達行列Tとの積Tsc=Tの逆行列Tsc -1に複素定数α倍を乗じたαTsc -1の変換を行う光線形変換器70を配置する。上述したように、光線形変換器70の伝達行列VSUを、光ユニタリ変換器(71、73)の構成や光利得変換器72の構成を調整してαTsc -1とする。光線形変換器70の配置により、モード分波器50のモード選択性を高め、且つ受信機側のモード依存損失を均一化することができる。
【0038】
(3)通信システム全体の特性を補償
マルチモード光ファイバ30のモード間クロストークおよびモード依存損失、すなわち、マルチモード光ファイバ30の伝達行列をTをとする。伝達行列Tが既知である場合、モード分波器50の後段に、前述の伝達行列Tsc=Tとの積Tscf=Tの逆行列Tscf -1に複素定数α倍を乗じたαTscf -1の変換を行う光線形変換器70を配置する。上述したように、光線形変換器70の伝達行列VSUを、光ユニタリ変換器(71、73)の構成や光利得変換器72の構成を調整してαTscf -1とする。光線形変換器70の配置により、モード分波器50のモード選択性を高め、受信機側のモード依存損失を均一化することができ、さらに、マルチモード光ファイバ30のモード間クロストークおよびモード依存損失を受信機側で補償することが可能となる。
【0039】
(実施形態3)
図1のように、マルチモード光ファイバ30中を伝搬するモード数L、モード合波器40の入力モード数N、モード分波器50の出力モード数Mの全てが一致している場合(a=b=c=d)、次のシステム構成とすることができる。
(1)送信側又は受信側に1つの光線形変換器
当該場合においては、図4または図5で説明した構成の光線形変換器を送信側と受信側のいずれかに配置すればよい。つまり、光線形変換器60と光線形変換器70のいずれか一方でよい。
(2)送信側と受信側の双方に光線形変換器
図8または図9の構成を送信部および受信部の両方に配置して、伝達行列を対角行列にする。例えば、モード合波器からモード分波器までを考えた伝達行列Tscs=T を特異値分解した伝達行列USVに対して、光線形変換器60ではVの逆行列、光線形変換器70ではUの逆行列の変換を行う。Sに対応する部分は、送信機10または受信機20で対応する。
【0040】
なお、マルチモード光ファイバ30中を伝搬するモード数L、モード合波器40の入力モード数N、モード分波器50の出力モード数Mのいずれかが一致しない場合、送信側と受信側の双方に光線形変換器が必要である。この場合、どちらの光線形変換器をどこの伝達行列に対応させるかを予め決めておく必要がある。例えば、光線形変換器60は、モード合波器40及びモード合波器40からマルチモード光ファイバ30への結合までの特性を補償し、光線形変換器70は、マルチモード光ファイバ30、マルチモード光ファイバ30からモード分波器50への結合、及びモード分波器50の特性を補償してもよい。また、光線形変換器60は、モード合波器40、モード合波器40からマルチモード光ファイバ30への結合、マルチモード光ファイバ30、及びマルチモード光ファイバ30からモード分波器50への結合までの特性を補償し、光線形変換器70は、モード分波器50のみの特性を補償してもよい。
【0041】
(実施形態4)
図14は、マルチモード光ファイバ30として2LPモードファイバ(L=3)を採用し、モード合波器40として非特許文献2の2+2=4非選択的モード合波器(c=d=4)を用いる例を説明する図である。非選択的モード合波器は、図14に示すように、3つのY分岐導波路を組み合わせた構造であり、光線形変換器60からの基本モードの光を合波して3つのモード(LP01、LP11a、LP11b)をマルチモード光ファイバ30に励振する。
【0042】
b×a光線形変換器60の変換行列をモード合波器40の伝達行列の逆行列(a=b=4)とすれば、光線形変換器60の入力ポートとモード合波器40における励振モードを1:1で対応させることができる。したがって、N=3個の送信機10によって送出されたコヒーレント変調信号光を、光線形変換器60のa=4つの入力ポートのうち3つに入力することで、マルチモード光ファイバ30を伝搬可能なL=3モードを励振することができる。また、光線形変換器60は、実施形態1で説明したように、モード合波器40自体や、モード合波器40からマルチモード光ファイバ30に入射するときに生じるモード依存損失も補償することができる。
【0043】
図15は、受信側を説明する図である。モード分波器50として非特許文献2の2+2=4非選択的モード分波器(c=d=4)を用いる例である。非選択的モード分波器は、図15に示すように、3つのY分岐導波路を組み合わせた構造であり、マルチモード光ファイバ30からの3つのモード(LP01、LP11a、LP11b)を分波して4つの基本モードの信号として出力する。
【0044】
光線形変換器70は、モード分波器50を通過した後に得られる4つのコヒーレント変調信号光について、基本モードの3つのコヒーレント変調信号光に復元することができる。
【0045】
なお、本実施形態では3つのモードで例示したが、3つより大きいモードでも有効である。
【0046】
(発明のポイント)
本発明に係るマルチモード伝送システムは、モード合波器の前処理、またはモード分波器の後処理として、光線形変換器を導入することで、システム全体の伝達行列を自在に変化させ、伝送品質を制御する。
例えば、光線形変換器は、マルチモード光ファイバのクロストーク、モード損失差および伝送後に求められるモード依存損失差に応じ、マルチモード光ファイバ中を伝搬する複数の伝搬モードの励振比率を調整できる。
【0047】
(発明の効果)
本発明により、モ-ド分割多重技術を用いたマルチモード光ファイバ伝送において、光線形変換器のパラメータ(ユニタリ変換器の構成、光増幅/減衰器の利得、及び位相シフタのシフト量)を変更することで、モード合分波器とマルチモード光ファイバの励振モード数を制御できるようになり、モード合分波におけるモード依存損失も補償可能となる。
【符号の説明】
【0048】
10:送信機
15、16:シングルモード光ファイバ
20:受信機
25、26:シングルモード光ファイバ
30:マルチモード光ファイバ
40:モード合波器
50:モード分波器
60、70:光線形変換器
61、63、71、73:ユニタリ変換器
62、72:光利得変換器(増幅器/減衰器)
81:入出力導波路
82:2×2光分配ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図11
図12
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図15