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特許7542829キラリティ検出装置、キラリティ検出方法、分離装置及び分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-23
(45)【発行日】2024-09-02
(54)【発明の名称】キラリティ検出装置、キラリティ検出方法、分離装置及び分離方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/72 20060101AFI20240826BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20240826BHJP
【FI】
G01N27/72
G01N27/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021519505
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2020019479
(87)【国際公開番号】W WO2020230893
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2019092958
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】戸川 欣彦
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 寛明
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩史
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-181071(JP,A)
【文献】特表2010-527284(JP,A)
【文献】特表2015-512159(JP,A)
【文献】特表2005-526607(JP,A)
【文献】国際公開第2009/075359(WO,A1)
【文献】特表2017-529323(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0099238(US,A1)
【文献】国際公開第2017/221250(WO,A1)
【文献】ABENDROTH, John M.,Spin Selectivity in Photoinduced Charge-Transfer Mediated by Chiral Molecules,ACS Nano,2019年04月24日,Vol.13 No.5,pp.4928-4946
【文献】KIMURA, T.,Room-Temperature Reversible Spin Hall Effect,PHYSICAL REVIEW LETTERS,2007年,Vol.98,pp.156601-1~156601-4
【文献】FONTANESI, Claudio,Spin-Dependent Proceses Measured without a Permanent Magnet,Adv. Mater.,2018年,Vol.30,pp.1707390-1~1707390-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
G01N 27/72-27/9093
B01D 57/00-57/02
C07B 57/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キラル物質のキラリティを検出するためのキラリティ検出装置であって、
前記キラル物質を含む被検物に電圧を印加するための第1電極及び第2電極と、前記被検物と接触するように設けられたスピン検出層と、電源部と、制御部とを備え、
前記電源部及び前記制御部は、第1電極と第2電極との間に電圧を印加することにより前記被検物に電界を形成するように設けられ、
前記制御部は、前記スピン検出層の前記電界の方向を横切る方向に生じる電圧又は前記スピン検出層と前記被検物との間に生じる電圧を検出するように設けられ、かつ、検出された電圧に基づき前記キラル物質のキラリティを検出するように設けられたことを特徴とするキラリティ検出装置。
【請求項2】
前記スピン検出層は、強磁性体を含み、
前記制御部は、前記スピン検出層と前記被検物との間に生じる電圧を検出するように設けられた請求項1に記載のキラリティ検出装置。
【請求項3】
キラル物質のキラリティを検出するためのキラリティ検出装置であって、
前記キラル物質を含む被検物に電気的に接続した第3電極及び第4電極と、前記被検物と接触するように設けられたスピン注入層と、電源部と、制御部とを備え、
前記電源部及び前記制御部は、前記スピン注入層に電流を流すように設けられ、
前記制御部は、第3電極及び第4電極を用いて前記キラル物質の前記電流の方向を横切る方向に生じる電圧を検出するように設けられ、かつ、検出された電圧に基づき前記キラル物質のキラリティを検出するように設けられたことを特徴とするキラリティ検出装置。
【請求項4】
キラル物質を含む被検物に電界を生じさせた際に前記被検物と接触するように設けられたスピン検出層の前記電界の方向を横切る方向に生じる電圧又は前記スピン検出層と前記被検物との間に生じる電圧を検出するステップと、
検出された電圧に基づき前記キラル物質のキラリティを検出するステップとを含むキラリティ検出方法。
【請求項5】
キラル物質の右手系と左手系とを分離するための分離装置であって、
前記右手系及び前記左手系を含む溶液、液体又は気体が流れるように設けられた流路と、前記流路を流れる前記溶液、前記液体又は前記気体に電界を形成するように設けられた電圧印加部と、前記電界よりも下流の前記溶液、前記液体又は前記気体に磁場を形成するように設けられた磁場印加部とを備え、
前記電界により生じた前記キラル物質のスピン偏極と、前記磁場との相互作用を利用して前記右手系と前記左手系とを分離することを特徴とする分離装置。
【請求項6】
右手系及び左手系とを含むキラル物質にスピン偏極が生じるように前記キラル物質を含む溶液、液体又は気体に電圧を印加するステップと、
前記スピン偏極が生じた前記キラル物質を含む前記溶液、前記液体又は前記気体に磁場が生じるように磁場を印加するステップとを含み、
前記スピン偏極と、前記磁場との相互作用を利用して前記右手系と前記左手系とを分離することを特徴とする分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラリティ検出装置、キラリティ検出方法、分離装置、分離方法及びキラル物質装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対掌性(キラリティ)がある分子構造を有する物質やキラリティがある結晶構造を有する物質(以後、これらをまとめてキラル物質という)が知られている。例えば、乳酸C3H6O3はキラリティがある分子構造を有し、像と鏡像の関係にあるD-乳酸とL-乳酸が存在する。また、水晶(SiO2の結晶)はキラリティがある結晶構造を有する。水晶は、SiO4の四面体が頂点を共有する結晶構造を有し、SiO4のつながり方に注目すると、結晶の伸長方向(c軸)に対してラセンを形成しており、ラセンが右巻きの結晶(右水晶)と左巻きの結晶(左水晶)とが存在する。右水晶の結晶構造と左水晶の結晶構造は像と鏡像の関係にある。
キラル物質は右手系と左手系とで性質が異なる場合があり、キラル物質のキラリティの検出方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
分子性のキラル物質では、キラル誘発スピン選択(CISS)効果によりスピン偏極電子が生成されることが知られている(例えば、特許文献3参照)。また、強磁性体などが示すスピン偏極がスピン吸収材に吸収されると、スピンの向きとスピンの流れの直交した方向に電荷の流れが生じること(逆スピンホール効果)が知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、スピン流を検出することができる非局所スピンバルブが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-13351号公報
【文献】特開2015-31605号公報
【文献】特表2015-512159号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】T. Kimura et al., Phys. Rev. Lett. 98, 156601 (2007)
【文献】F. J. Jedema et al., Nature 416, 713 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のキラリティ検出方法では、被検物が溶液に含まれるキラル物質又はガス状物質などに限定され、固体状物質のキラリティを検出することは難しい。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、様々な状態のキラル物質のキラリティを検出することができるキラリティ検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、キラル物質のキラリティを検出するためのキラリティ検出装置であって、前記キラル物質を含む被検物に電圧を印加するための第1電極及び第2電極と、前記被検物と接触するように設けられたスピン検出層と、電源部と、制御部とを備え、前記電源部及び前記制御部は、第1電極と第2電極との間に電圧を印加することにより前記被検物に電界を形成するように設けられ、前記制御部は、前記スピン検出層の前記電界の方向を横切る方向に生じる電圧又は前記スピン検出層と前記被検物との間に生じる電圧を検出するように設けられ、かつ、検出された電圧に基づき前記キラル物質のキラリティを検出するように設けられたことを特徴とするキラリティ検出装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
前記電源部及び前記制御部は、第1電極と第2電極との間に電圧を印加することによりキラル物質を含む被検物に電界を形成するように設けられる。このように電界を形成すると、キラリティ誘起スピン選択性(CISS)効果によりキラル物質にスピン偏極電子を生成することができる。
CISS効果とは、電子がキラル高分子を通過するとスピン偏極する効果である。CISS効果が高分子以外のキラル物質(例えば無機系キラル結晶)でも生じることは本発明者等が行った実験により明らかになった。
前記制御部は、被検物と接触するように設けられたスピン検出層の前記電界の方向を横切る方向に生じる電圧又はスピン検出層と被検物との間に生じる電圧を検出するように設けられる。検出される電圧は、キラル物質のキラリティにより異なるため、検出された電圧に基づきキラル物質のキラリティを検出することができる。このことは、本発明の発明者等が行った実験により明らかになった。
スピン検出層に生じる電圧は、逆スピンホール効果で生じると考えられる。
また、スピン検出層と被検物との間に生じる電圧は、非局所スピンバルブと同様の効果で生じると考えられる。
また、CISS効果の逆効果がキラル物質(例えば無機系キラル結晶)で生じることは本発明者等が行った実験により明らかになった。前記スピン検出層に電界を印加すると、相反定理で結びつく逆効果が成立するため、キラル物質に電圧が発生する。この電圧は前記電圧印加部を利用して検出することが可能である。検出される電圧は、キラル物質のキラリティにより異なるため、検出された電圧に基づきキラル物質のキラリティを検出することができる。キラリティ検出装置に対して、電源部と制御部をつなぎかえることにより、逆過程に対して動作することは、本発明の発明者等が行った実験により明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態のキラリティ検出装置の概略斜視図である。
図2】本発明の一実施形態のキラリティ検出装置の概略斜視図である。
図3】本発明の一実施形態のキラリティ検出装置の概略斜視図である。
図4】本発明の一実施形態のキラリティ検出装置の概略斜視図である。
図5】本発明の一実施形態のキラリティ検出装置の概略斜視図である。
図6】本発明の一実施形態の分離装置の概略図である。
図7】本発明の一実施形態の分離装置の概略図である。
図8】本発明の一実施形態のキラル物質装置の概略斜視図である。
図9】CrNb3S6を被検物として作製した測定用デバイスの写真である。
図10】WCを被検物として作製した測定用デバイスの写真である。
図11】CrNb3S6又はWCに電圧を印加した際の電圧検出用電極間の電圧の変化及び電気抵抗値の変化を示すグラフである。
図12】CrNb3S6又はWCに電圧を印加した際のスピン検出層(Pt層)に生じる電圧の変化を示すグラフ及びスピン検出層の電気抵抗値を示すグラフである。
図13】CrNb3S6に電圧を印加した際のスピン検出層(Pt層)に生じる電圧の変化を示すグラフ及びスピン検出層の電気抵抗値を示すグラフである。
図14】(a)はCrSi2を被検物として作製した測定用デバイスの写真であり、(b)(c)はこのデバイスを用いた電圧検出実験の結果を示すグラフである。
図15】(a)はNbSi2を被検物として作製した測定用デバイスの写真であり、(b)(c)はこのデバイスを用いた電圧検出実験の結果を示すグラフである。
図16】(a)は左水晶を被検物として作製した測定用デバイスの写真であり、(b)はこのデバイスを用いた電圧検出実験の結果を示すグラフである。
図17】(a)は右水晶を被検物として作製した測定用デバイスの写真であり、(b)はこのデバイスを用いた電圧検出実験の結果を示すグラフである。
図18】(a)はキラル分子分散溶液を被検物として作製した測定用デバイスの写真であり、(b)はこのデバイスを用いた電圧検出実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のキラリティ検出装置は、キラル物質のキラリティを検出するためのキラリティ検出装置であって、前記キラル物質を含む被検物に電圧を印加するための第1電極及び第2電極と、前記被検物と接触するように設けられたスピン検出層と、電源部と、制御部とを備え、前記電源部及び前記制御部は、第1電極と第2電極との間に電圧を印加することにより前記被検物に電界を形成するように設けられ、前記制御部は、前記スピン検出層の前記電界の方向を横切る方向に生じる電圧又は前記スピン検出層と前記被検物との間に生じる電圧を検出するように設けられ、かつ、検出された電圧に基づき前記キラル物質のキラリティを検出するように設けられたことを特徴とする。
【0011】
前記スピン検出層は強磁性体を含むことが好ましく、前記制御部は前記スピン検出層と前記被検物との間に生じる電圧を検出するように設けられたことが好ましい。制御部により検出される電圧は、スピンバルブのようにスピン偏極に応じて変化するため、右手系キラル物質と左手系キラル物質とを判別することが可能になる。
本発明は、キラル物質のキラリティを検出するためのキラリティ検出装置であって、前記キラル物質を含む被検物に電気的に接続した第3電極及び第4電極と、前記被検物と接触するように設けられたスピン注入層と、電源部と、制御部とを備え、前記電源部及び前記制御部は、前記スピン注入層に電流を流すように設けられ、前記制御部は、第3電極及び第4電極を用いて前記キラル物質の前記電流の方向を横切る方向に生じる電圧を検出するように設けられ、かつ、検出された電圧に基づき前記キラル物質のキラリティを検出するように設けられたことを特徴とするキラリティ検出装置も提供する。
本発明は、キラル物質を含む被検物に電界を生じさせた際に前記被検物と接触するように設けられたスピン検出層の前記電界の方向を横切る方向に生じる電圧又は前記スピン検出層と前記被検物との間に生じる電圧を検出するステップと、検出された電圧に基づき前記キラル物質のキラリティを検出するステップとを含むキラリティ検出方法も提供する。
【0012】
本発明は、キラル物質の右手系と左手系とを分離するための分離装置であって、前記右手系及び前記左手系を含む溶液、液体又は気体が流れるように設けられた流路と、前記流路を流れる前記溶液、前記液体又は前記気体に電界を形成するように設けられた電圧印加部と、前記電界よりも下流の前記溶液、前記液体又は前記気体に磁場を形成するように設けられた磁場印加部とを備え、前記電界により生じた前記キラル物質のスピン偏極と、前記磁場との相互作用を利用して前記右手系と前記左手系とを分離することを特徴とする分離装置も提供する。
【0013】
本発明は、右手系及び左手系とを含むキラル物質にスピン偏極が生じるように前記キラル物質を含む溶液、液体又は気体に電圧を印加するステップと、前記スピン偏極が生じた前記キラル物質を含む前記溶液、前記液体又は前記気体に磁場が生じるように磁場を印加するステップとを含み、前記スピン偏極と、前記磁場との相互作用を利用して前記右手系と前記左手系とを分離することを特徴とする分離方法も提供する。
【0014】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0015】
キラリティ検出装置及びキラリティ検出方法
図1~5は、それぞれ本実施形態のキラリティ検出装置の概略斜視図である。
本実施形態のキラリティ検出装置20は、キラル物質のキラリティを検出するためのキラリティ検出装置であって、キラル物質を含む被検物9に電圧を印加するための電圧印加用電極3a、3bと、被検物9と接触するように設けられたスピン検出層4と、電源部5と、制御部7とを備え、電源部5及び制御部7は、電圧印加用電極3a、3bの間に電圧を印加することにより被検物9に電界を形成するように設けられ、制御部7は、スピン検出層4の前記電界の方向を横切る方向に生じる電圧又はスピン検出層4と被検物9との間に生じる電圧を検出するように設けられ、かつ、検出された電圧に基づきキラル物質のキラリティを検出するように設けられたことを特徴とする。
【0016】
キラル物質とは、対掌性(キラリティ)がある分子構造を有する物質やキラリティがある結晶構造を有する物質である。キラル物質には右手系と左手系とが存在する。キラル物質の右手系と左手系とは鏡像異性体である。キラル物質は、無機系物質であってもよく、高分子であってもよく、有機分子であってもよく、液晶であってもよい。
【0017】
キラリティ検出装置20は、物質のキラリティを検出する装置である。例えば、キラリティ検出装置20は、被検物9に含まれる物質がキラリティを有するか否かを検出する装置であってもよい。また、キラリティ検出装置20は、被検物9に含まれるキラル物質が右手系か、左手系か、又は右手系と左手系とが混在したキラル物質(例えばラセミ体)かを判別する装置であってもよい。また、キラリティ検出装置20は、キラル物質に含まれる右手系と左手系との比率を検出する装置であってもよい。また、キラリティ検出装置20は、キラル物質の配向性・異方性を計測する装置であってもよい。
【0018】
被検物9は、キラリティ検出装置20の被検対象である。被検物9は、固体であってもよく、液体であってもよく、気体であってもよい。被検物9が固体である場合、被検物9は、単結晶であってもよく、多結晶であってもよく、微晶質であってもよく、粉末の凝集体であってもよい。被検物9が固体である場合、図1~3に示したキラリティ検出装置20のように被検物9はキラル物質層2である。
【0019】
被検物9が液体である場合、被検物9は、キラル物質分子を含む溶液であってもよく、液状のキラル物質であってもよく、キラル物質の粒子が液体中に分散した懸濁液であってもよく、液晶であってもよい。
被検物9が気体である場合、被検物9は、気体のキラル物質であってもよく、キラル物質を含む混合ガスであってもよく、キラル物質の微粒子が浮遊する気体であってもよい。
被検物9が液体又は気体である場合、図4、5に示したキラリティ検出装置20のように、電圧印加用電極3a、3b及びスピン検出層4を設けた流路16に被検物9(キラル物質を含む溶液、液体又は気体11)を流す又は溜めることができる。
【0020】
電源部5は、電圧印加用電極3a、3bに電力を供給する部分である。また、電源部5は、制御部7に電力を供給するように設けられてもよい。また、電源部5から電圧印加用電極3a、3bに供給する電力は制御部7により制御されてもよい。電源部5は、電池であってもよく、電力系統から供給される電力を利用した電源部であってもよい。電源部5から電圧印加用電極3a、3bに供給される電力は制御部7により制御することができる。
【0021】
制御部7はキラリティ検出装置20を制御する部分である。制御部7はコンピュータであってもよく、マイクロコントローラであってもよく、制御基板であってもよい。制御部7は、電圧検出回路(電圧計測部6a、6b、6c)又は電力調節回路を含むことができる。
【0022】
電圧印加用電極3a、3bは、被検物9に電圧を印加するための電極である。電圧印加用電極3a、3bは、電極3aと電極3bとの間に電圧を印加することにより被検物9に電界が生じるように設けられる。電極3a、3bを用いて被検物9に電界を発生させると、キラリティ誘起スピン選択性(CISS)効果により被検物9に含まれるキラル物質にスピン偏極電子を生じさせることができる。
CISS効果とは、電子がキラル高分子を通過するとスピン偏極する効果である。CISS効果が高分子以外のキラル物質(例えば無機系キラル結晶)でも生じることが本発明者等が行った実験により明らかになった。
【0023】
被検物9が固体である場合、電圧印加用電極3a、3bは、例えば、図1図3に示したキラリティ検出装置20のように被検物9の側部又は上面上に電極3aと電極3bを配置することができる。
被検物9が液体又は気体である場合、電圧印加用電極3a、3bは、例えば、図4、5に示したキラリティ検出装置20のように、流路16中に電界が生じるように設けることができる。この場合、電圧印加用電極3a、3bは、板状電極であってもよく、リング状電極であってもよく、メッシュ状電極であってもよい。
【0024】
スピン検出層4は、被検物9で生じさせたスピン偏極のスピンを吸収する層である。スピン検出層4は、被検物9と接触するように設けられる。スピン検出層4の材料は、スピン流―電荷流の変換効率が大きい物質とすることができる。この場合、逆スピンホール効果により、スピン検出層4に電荷の流れが生じる。逆スピンホール効果では、スピン偏極がスピン吸収材に吸収されると、スピンの向きとスピンの流れの直交した方向に電荷の流れが生じる。このため、スピン検出層4に生じる起電力の向きや大きさは、被検物9で生じさせたスピン偏極のスピンの向きに応じて変わる。
この場合、スピン検出層4は、図1、2、4、5に示したキラリティ検出装置20のように設けることができる。
【0025】
スピン検出層4の材料は、スピンホール角が大きいスピン吸収材料が好ましい。例えば、スピン軌道相互作用が大きい物質(Pt, W など)、トポロジカル絶縁体、(ワイル)半金属、2次元ガス系、金属/酸化物や金属/分子などのハイブリッド膜、酸化物、分子、誘電体、半導体、ラシュバ系などが挙げられる。
【0026】
スピン検出層4の材料は、強磁性材料であってもよい。このようなスピン検出層4を被検物9と接触させることにより、スピンバルブのように、被検物9に含まれるキラル物質のスピン偏極がスピン検出層4と被検物9との間に起電力を発生させることができる。この場合、スピン検出層4は、一様磁化状態となるように形状が異方的なものが望ましい。
この場合、スピン検出層4は、図3に示したキラリティ検出装置20のように設けることができる。
【0027】
スピン検出層4は、例えば、図1図4に示したキラリティ検出装置20のように、電圧印加用電極3a、3bの間に配置してもよい。また、スピン検出層4は、例えば、図2、3、5に示したキラリティ検出装置20のように電圧印加用電極3a、3bの間に配置しなくてもよい。なお、電圧印加用電極3a、3bを用いて被検物9のキラル物質に生じさせたスピン偏極は、電極3aと電極3bの間のキラル物質にのみ生じるのではなく、被検物9の電界を発生させていない部分のキラル物質にもスピン偏極を生じさせる。このことは本発明者等が行った実験により明らかになった。
【0028】
キラリティ検出装置20は、電圧検出用電極8a~8cを有することができる。例えば、図1に示したキラリティ検出装置20は、被検物9のx方向の電圧を検出することができるように設けられた電極8a、8bを有している。また、図3に示したキラリティ検出装置20は、被検物9と電気的に接続した電極8cを有し、電極8cを用いてスピン検出層4と被検物9との間の電圧を検出することができる。
電圧印加用電極3a・3b、スピン検出層4、電圧検出用電極8a~8cなどは、例えば、蒸着法、吹付法、塗布法などで形成することができる。
【0029】
次に、キラリティ検出装置20を用いて被検物9に含まれるキラル物質のキラリティを検出する方法について説明する。以下の方法は制御部7によりキラリティ検出装置20を制御することにより実行することができる。また、制御部7は、以下の方法を実行できるように設けられる。また、以下の方法は、制御部7を用いずに手動で実行してもよい。
【0030】
図1、2、4、5に示したキラリティ検出装置20を用いた検出方法について説明する。この方法では、被検物9に磁場は印加しない。これらの装置では、電圧計測部6a又は制御部7は、スピン検出層4のy方向の電圧を検出できるように設けられる。また、スピン検出層4の材料には、スピン偏極を電荷流に変換するような材料とすることができる。例えば、スピン検出層4の材料はPt、Wなどである。
【0031】
まず、電圧印加用電極3a、3bの間に電圧を印加し、被検物9に電界を生じさせる。このように電界を生じさせると、キラリティ誘起スピン選択性(CISS)効果により被検物9に含まれるキラル物質にスピン偏極を生じさせることができる。被検物9に右手系のキラル物質が含まれる場合に生じるスピン偏極の偏極方向は、検物9に左手系のキラル物質が含まれる場合に生じるスピン偏極の偏極方向と逆になると考えられる。
【0032】
次に、電圧計測部6a又は制御部7を用いてスピン検出層4のy方向の電圧を検出する。スピン検出層4は被検物9と接触するように設けられるため、被検物9に含まれるキラル物質がスピン検出層4に接触し、逆スピンホール効果によりキラル物質のスピン偏極がスピン検出層4に電荷流を引き起こす。右手系キラル物質と左手系キラル物質とではスピン偏極の偏極方向が逆であるため、スピン検出層4に引き起こされる電荷流の向きも逆となり起電力の向きが逆になると考えられる。このため、電圧計測部6a又は制御部7を用いてスピン検出層4のy方向の電圧を検出して起電力の向きや大きさを判別基準と比較することにより、被検物9に含まれるキラル物質が右手系か左手系かなどを判別することができる。
【0033】
図3に示したキラリティ検出装置20を用いた検出方法について説明する。この装置では、スピン検出層4の材料に強磁性材料を用いる。また、電圧計測部6a又は制御部7は、スピン検出層4と被検物9との間の電圧を検出できるように設けられる。この方法では、スピン検出層4から生じる磁場以外の磁場は被検物9に印加しない。
【0034】
まず、電圧印加用電極3a、3bの間に電圧を印加し、被検物9に電界を生じさせる。このように電界を生じさせると、キラリティ誘起スピン選択性(CISS)効果により被検物9に含まれるキラル物質にスピン偏極を生じさせることができる。
【0035】
次に、電圧計測部6a又は制御部7を用いてスピン検出層4と被検物9との間の電圧を検出する。強磁性体からなるスピン検出層4は被検物9と接触するように設けられるため、非局所スピンバルブのように、強磁性体の磁化状態に応じてキラル物質のスピン偏極がスピン検出層4と被検物9との間に起電力を生じさせる。右手系キラル物質と左手系キラル物質とではスピン偏極の偏極方向が逆であるため、スピン検出層4と被検物9との間に生じる起電力は右手系キラル物質と左手系キラル物質とでは異なる。このため、電圧計測部6a又は制御部7を用いてスピン検出層4と被検物9との間の電圧を検出して起電力の向きや大きさを判別基準と比較することにより、被検物9に含まれるキラル物質が右手系か左手系かなどを判別することができる。
【0036】
CISS効果の逆効果によるキラリティ検出装置
上述のキラリティ検出装置20では、CISS効果を利用してキラル物質のキラリティを検出していたが、本実施形態では、CISSの逆効果を利用してキラル物質のキラリティを検出する。従って、本実施形態では、上述のスピン検出層4がスピン注入層4となり、上述の電圧印加用電極3a、3bが被検物9に生じる電圧を検出するための電極3a、3bとなる。装置の構成は、上述のキラリティ検出装置20と同様である。
【0037】
本実施形態のキラリティ検出装置20は、キラル物質のキラリティを検出するためのキラリティ検出装置であって、キラル物質を含む被検物9に電気的に接続した電極3a及び電極3bと、被検物9と接触するように設けられたスピン注入層4と、電源部5と、制御部7とを備え、電源部5及び制御部7は、スピン注入層4に電流を流すように設けられ、制御部7は、電極3a及び電極3bを用いて前記キラル物質の前記電流の方向を横切る方向に生じる電圧を検出するように設けられ、かつ、検出された電圧に基づき前記キラル物質のキラリティを検出するように設けられたことを特徴とする。
本実施形態では、電源部5はスピン注入層4に電力を供給し、制御部7は電極3a、3bを用いて電圧を検出し、検出された電圧に基づきキラル物質のキラリティを検出する。
【0038】
分離装置、分離方法
図6図7は、本実施形態の分離装置の概略図である。
本実施形態の分離装置25は、キラル物質の右手系と左手系とを分離するための分離装置25であって、前記右手系及び前記左手系を含む溶液、液体又は気体が流れるように設けられた流路16と、流路16を流れる前記溶液、前記液体又は前記気体に電界を形成するように設けられた電圧印加部12と、前記電界よりも下流の前記溶液、前記液体又は前記気体に磁場を形成するように設けられた磁場印加部13とを備え、前記電界により生じた前記キラル物質のスピン偏極と、前記磁場との相互作用を利用して前記右手系と前記左手系とを分離することを特徴とする。
【0039】
本実施形態の分離装置25は、溶液中、液体中又は気体中の右手系キラル物質17と左手系キラル物質18とを分離する装置である。従って、分離前の溶液、液体、又は気体には、右手系キラル物質17と左手系キラル物質18の両方が含まれる。
【0040】
本実施形態の分離装置25は、キラル物質を含む溶液、液体又は気体11を流すように設けられた流路16を備える。流路16中には、キラル物質を含む溶液、液体又は気体11に電界を生じさせるように設けられた電圧印加用電極3a、3b(電圧印加部12)が設けられている。電圧印加用電極3a、3bは、生じさせる電界の方向が流路16の流れの方向と平行になるように設けることができる。
【0041】
電源部5a(電圧印加部12)を用いて電極3aと電極3bとの間に電圧を印加し電界を生じさせると、キラリティ誘起スピン選択性(CISS)効果により流路16を流れる右手系キラル物質17と左手系キラル物質18にスピン偏極を生じさせることができる。右手系キラル物質17で生じるスピン偏極の偏極方向は、左手系キラル物質18で生じるスピン偏極の偏極方向と逆になると考えられる。なお、図6図7における右手系キラル物質17と左手系キラル物質18の矢印の向きの関係は模式的なものであり、その向きに限定するものではない。
【0042】
磁場印加部13は、電圧印加用電極3a、3bの間に生じさせた電界よりも下流の流路16中に磁場を形成するように設けられる。磁場印加部13は、例えば、電源部5a、5b、5cとコイル19、19a、19bを含むことができる。また、磁場印加部13、13a、13bは、永久磁石であってもよく、微小磁石であってもよい。また、磁場印加部13、13a、13bは、流路16中に形成する磁場の向きが流路16の流れの方向、電圧印加用電極3a、3bの間に生じさせた電界の向き、又は右手系キラル物質17と左手系キラル物質18のスピン偏極方向と平行となるように設けることができる。
【0043】
例えば、磁場印加部13は、図6に示した分離装置25のように設けることができる。この装置では、流路16に巻きつくようにコイル19が設けられており、このコイル19に電源部5bを用いて直流電流を流す。このことにより、流路16中に流れの方向と平行な磁場を発生させることができる。
スピン偏極が生じた右手系キラル物質17と、スピン偏極が生じた左手系キラル物質18とがこのような磁場中を流れると、スピン偏極の偏極方向と磁場の方向との関係で、右手系キラル物質17と左手系キラル物質18とのうち一方が流路16を流れる速度が速くなり、他方が流路16を流れる速度が遅くなる。このため、流路16の流れ中において右手系キラル物質17と左手系キラル物質18とを分離することができる。従って、この分離装置25ではクロマトグラフィー的に右手系キラル物質17と左手系キラル物質18とを分離する。
【0044】
例えば、磁場印加部13a、13bを、図7に示した分離装置25のように設けることができる。磁場印加部13a、13bは、漏れ磁場を利用して流路16中に磁場を形成するように設けられる。磁場印加部13aは、電源部5bとコイル19aとを含み漏れ磁場を流路16中に形成するように設けられる。磁場印加部13bは、電源部5cとコイル19bとを含み、漏れ磁場を流路16中に形成するように設けられる。磁場印加部13aにより形成される磁場と磁場印加部13bにより形成される磁場は同じ流路断面に位置する。
【0045】
スピン偏極が生じた右手系キラル物質17と、スピン偏極が生じた左手系キラル物質18とがこのような磁場中を流れると、スピン偏極の偏極方向と磁場の方向との関係で、右手系キラル物質17と左手系キラル物質18とのうち一方が磁場印加部13aにより形成される磁場中を流れ、他方が磁場印加部13bにより形成される磁場中を流れる。このため、流路16の流れ中において右手系キラル物質17と左手系キラル物質18とを分離することができる。
【0046】
流路16は、磁場印加部13aにより形成される磁場中を流れたキラル物質が流路16aを流れ、磁場印加部13bにより形成される磁場中を流れたキラル物質が流路16bを流れるように分岐している。このため、磁場を用いて分離した右手系キラル物質17と左手系キラル物質18とが混合することを抑制することができる。従って、流路16aと流路16bからそれぞれキラル物質を回収することにより、右手系キラル物質17と左手系キラル物質18と分けて回収することができる。
【0047】
キラル物質装置
図8は、本実施形態のキラル物質装置の概略斜視図である。
本実施形態のキラル物質装置30は、キラル物質層2と、キラル物質層2に電界を形成することができるように設けられた第1電圧印加用電極3a及び第2電圧印加用電極3bと、キラル物質層2と接触するように設けられたスピン検出層4とを備え、第1電圧印加用電極3a及び第2電圧印加用電極3bは、第1電圧印加用電極3a及び第2電圧印加用電極3bのうち少なくとも一方が入力信号を入力するように設けられ、かつ、入力信号を入力することによりキラル物質層2に電界を形成するように設けられ、入力信号に応じてスピン検出層4の電界を横切る方向に生じる電圧が変化することを特徴とする。
【0048】
キラル物質装置30は、キラル物質の特性を利用した装置であり、トランジスタであってもよく、メモリであってもよく、論理素子であってもよい。
【0049】
キラル物質層2は、キラル物質を含む層である。キラル物質層2は、右手系キラル物質及び左手系キラル物質のうちどちらか一方を主に含む層とすることができる。また、キラル物質層2は、右手系キラル物質からなる層と左手系キラル物質からなる層とが組み合わされた構造を有してもよい。
キラル物質層2は、単結晶であってもよく、多結晶であってもよく、微晶質であってもよく、液晶であってもよく、粉末の凝集体であってもよい。また、キラル物質層2は、キラル物質を含むゲルであってもよい。また、キラル物質層2は、導電体であってもよく、半導体であってもよく、絶縁体であってもよい。
【0050】
第1電圧印加用電極3a及び第2電圧印加用電極3bは、キラル物質層2に電界を形成するための電極である。第1電圧印加用電極3aと第2電圧印加用電極3bとの間に電圧を印加することによりキラル物質層2に電界が形成される。キラル物質装置30は、図8に示した装置のように一対の電圧印加用電極3a、3bを有してもよく、電圧印加用電極3a、3bの対を複数有してもよい。
【0051】
電極3a、3bを用いてキラル物質層2に電界を発生させると、キラリティ誘起スピン選択性(CISS)効果によりキラル物質層2に含まれるキラル物質にスピン偏極電子を生じさせることができる。また、キラル物質層2に形成する電界の向きが変わると、スピン偏極の向きが変わる。
【0052】
スピン検出層4は、キラル物質層2で生じさせたスピン偏極のスピンを吸収する層である。スピン検出層4は、例えば、図8に示したキラル物質装置30のように、電圧印加用電極3a、3bの間に配置してもよい。また、スピン検出層4は、電圧印加用電極3a、3bの間に配置しなくてもよい。
また、一対の電圧印加用電極3a、3bを複数設ける場合、電圧印加用電極3a、3bの対と隣接する電圧印加用電極3a、3bの対との間にスピン検出層4を複数配置してもよい。このことにより、出力信号を出力するスピン検出層4を選択することが可能になる。
【0053】
入力部26は、電圧印加用電極3a、3bのうち少なくとも一方に入力信号を入力し、電圧印加用電極3a、3bの間のキラル物質層2に電界を形成するように設けられる。このため、入力信号に応じて変化する電界をキラル物質層2に形成することができる。例えば、入力部26は、入力信号に応じてキラル物質層2に形成される電界の向きが変わるように設けることができる。キラル物質層2の電界の向きが変わると、キラル物質層2のスピン偏極の向きも変わる。このため、図8に示した装置30のようにスピン検出層4を設けている場合、入力信号に応じてスピン検出層4の電界を横切る方向に生じる電圧の向きも変わる。この電圧の向きを出力部27から出力信号として出力することにより、入力信号を出力信号に変換することができる。
なお、上記のキラリティ検出装置20などについての説明は、矛盾がない限りキラル物質装置についても当てはまる。
【0054】
第1キラリティ検出実験
被検物をキラル物質であるCrNb3S6として図1のような装置Aを作製した。CrNb3S6には、16.9μm×9.5μm×500nmの単結晶を用いた。CrNb3S6のc軸(らせん軸)はx方向となるようにCrNb3S6を配置した。また、スピン検出層は、2μm×9.5μm×25nmのPt層とした。Pt層の抵抗率は450μΩcmであり、CrNb3S6単結晶の抵抗率は650μΩcmであった。
作製した装置Aの写真を図9に示す。配線(1)(2)が電圧印加用電極でありCrNb3S6単結晶のx方向に電圧を印加する電極である。配線(5)(6)が電圧検出用電極でありCrNb3S6単結晶のx方向の電圧を検出する電極である。配線(4)(8)は、Pt層の端部に接続し、Pt層のy方向の電圧を検出する電極である。
【0055】
被検物を非キラル物質であるWC(タングステンカーバイト)として図1のような装置Bを作製した。WCには、16.4μm×8.4μm×40nmのサイズのものを用いた。また、スピン検出層は、2μm×8.4μm×25nmのPt層とした。Pt層の抵抗率は450μΩcmであり、WCの抵抗率は530μΩcmである。
作製した装置Bの写真を図10に示す。配線(1)(2)が電圧印加用電極でありWCのx方向に電圧を印加する電極である。配線(4)(5)が電圧検出用電極でありWCのx方向の電圧を検出する電極である。配線(3)(6)は、Pt層の端部に接続し、Pt層のy方向の電圧を検出する電極である。
【0056】
装置AのCrNb3S6単結晶に流れる電流((1)→(2))が-5mAから5mAとなるように配線(1)(2)の間に印加する電圧を変化させて配線(5)(6)間の電圧Vxx(CrNb3S6単結晶のx方向の電圧)及び配線(4)(8)間の電圧Vxy(Pt層のy方向の電圧)を測定した。また、測定値からCrNb3S6単結晶の抵抗値Rxx及びPt層の抵抗値Rxyを算出した。
CrNb3S6単結晶を流れる電流が配線(1)から配線(2)へ流れるときの電流値をプラスとし、電流が配線(2)から配線(1)へ流れるときの電流値をマイナスとした。電圧Vxxは、配線(5)の電位が配線(6)の電位より高いときにプラスの電圧とした。電圧Vxyは、配線(4)の電位(CrNb3S6にプラスの電流が流れる方向を向いて右側)が配線(8)の電位(CrNb3S6にプラス電流が流れる方向を向いて左側)よりも高いときにプラスの電圧とした。
【0057】
装置BのWCに流れる電流((1)→(2))が-5mAから5mAとなるように配線(1)(2)の間に印加する電圧を変化させて配線(4)(5)間の電圧Vxx(WCのx方向の電圧)及び配線(3)(6)間の電圧Vxy(Pt層のy方向の電圧)を測定した。また、測定値からWCの抵抗値Rxx及びPt層の抵抗値Rxyを算出した。
WCを流れる電流が配線(1)から配線(2)へ流れるときの電流値をプラスとし、電流が配線(2)から配線(1)へ流れるときの電流値をマイナスとした。電圧Vxxは、配線(4)の電位が配線(5)の電位より高いときにプラスの電圧とした。電圧Vxyは、配線(3)の電位(WCにプラスの電流が流れる方向を向いて右側)が配線(6)の電位(WCにプラスの電流の流れる方向を向いて左側)よりも高いときにプラスの電圧とした。
【0058】
横方向の測定電圧値Vxxの変化を示すグラフを図11(a)に示し、算出された抵抗値Rxxの変化を示すグラフを図11(b)に示す。装置A、BのいずれでもVxxは、配線(1)(2)間に印加する電圧に応じて変化した。また、Rxxは一定であった。
Pt層の縦方向の測定電圧値Vxyの変化を示すグラフを図12(a)に示し、算出された抵抗値Rxyの変化を示すグラフを図12(b)に示す。装置B(WC)ではVxyは出力されずRxyはゼロであったのに対し、装置A(CrNb3S6)では、CrNb3S6にプラスの電流が流れるように電圧が印加するとPt層にプラスの電圧Vxyが生じ、CrNb3S6にマイナスの電流が流れるように電圧が印加するとPt層にマイナスの電圧Vxyが生じた。電圧Vxyと、CrNb3S6に流れる電流Iとは比例関係にあった。また、作製した装置AにおいてRxyはCrNb3S6に流す電流Iが大きくなるほど少しずつ大きくなりやや非線形な振舞いを示した。
【0059】
従って、被検物がキラル物質である場合、被検物に電流を流すとスピン検出層であるPt層に起電力が生じることがわかった。このことから、被検物に電流を流しスピン検出層に起電力が生じるか否かを調べることにより、キラル物質か否かを判別することができることがわかった。
スピン検出層に起電力が生じた理由は、キラリティ誘起スピン選択性(CISS)効果によりキラル物質にスピン偏極状態が生じ、このスピン偏極状態が、逆スピンホール効果によりスピン軌道相互作用が大きい物質であるPt(スピン検出層)の電荷流に変換され起電力が生じたためと考えられる。
【0060】
次に、装置Aを用いて電圧印加電極を変更して電圧Vxy(Pt層のy方向の電圧)を測定した。具体的には、図13(a)に示した実線矢印のように配線(5)と配線(2)との間に電流を流した際の配線(4)(8)間の電圧Vxy(Pt層のy方向の電圧)を測定した。また、図13(a)に示した点線矢印のように配線(6)と配線(2)との間に電流を流した際の配線(4)(8)間の電圧Vxy(Pt層のy方向の電圧)を測定した。電圧VxyからPt層の抵抗値Rxyを算出した。
なお、印加電圧電極間の距離(CrNb3S6単結晶における電流が流れる距離)は、実線矢印のほうが点線矢印よりも長い。また、電流Iのプラス・マイナス及び電圧Vxyのプラス・マイナスは、上述の装置Aを用いた測定と同じである。
【0061】
図13(b)は電圧Vxyの変化を示すグラフであり、図13(c)は抵抗値Rxyの変化を示すグラフである。電圧Vxyは、図12(a)の装置Aでの測定結果と同様に、CrNb3S6にプラスの電流が流れるように電圧が印加するとPt層にプラスの電圧Vxyが生じ、CrNb3S6にマイナスの電流が流れるように電圧が印加するとPt層にマイナスの電圧Vxyが生じた。
【0062】
従って、スピン検出層であるPt層を印加電圧用電極の間に配置していない場合でもスピン検出層に起電力が生じることがわかった。
キラル物質の電流が流れていない領域に接触するように設けたスピン検出層に起電力が生じる理由としては、キラリティ誘起スピン選択性(CISS)効果によりキラル物質に生じるスピン偏極状態は、キラル物質の電流が流れていない部分のスピン偏極を引き起こすと考えられる。この引き起こされたスピン偏極が逆スピンホール効果によりPt(スピン検出層)の電荷流に変換され起電力が生じたと考えられる。距離依存性はあるものの、比較的長い距離に渡って 起電力が検出可能であることがわかった。具体的には、数μm 程度の検出に加えて 10mm 程度の距離まで信号を検出している。
【0063】
キラリティ判別実験
スピン検出層に生じる起電力からキラル物質の左手系と右手系を判別できるかどうかを確かめる実験を行った。
左手系のキラル物質にはCrSi2(P6422(D6 5))のバルク多結晶を用いた。CrSi2は、左巻きらせんの原子配列を有する結晶構造を有する。多結晶中のらせん軸の向きはバラバラである(無配向試料)。
図14(a)にCrSi2バルク多結晶を用いて作製した装置Cの写真を示す。CrSi2バルク多結晶の両端には電圧印加用電極である配線(1)(2)を設けている。配線(1)(2)の間には、2つのPt層を設け、左側のPt層の両端に配線(3)(5)を接続し、右側のPt層の両端に配線(4)(6)を接続した。
【0064】
装置CのCrSi2バルク多結晶に流れる電流((1)→(2))が-21mAから21mAとなるように配線(1)(2)の間に印加する電圧を変化させて配線(3)(4)間の電圧Vxx(CrSi2バルク多結晶のx方向の電圧)及び配線(4)(6)間の電圧Vxy(Pt層のy方向の電圧)を測定した。
CrSi2バルク多結晶を流れる電流が配線(1)から配線(2)へ流れるときの電流値をプラスとし、電流が配線(2)から配線(1)へ流れるときの電流値をマイナスとした。電圧Vxxは、配線(3)の電位が配線(4)の電位より高いときにプラスの電圧とした。電圧Vxyは、配線(4)の電位(CrSi2バルク多結晶にプラスの電流が流れる方向を向いて右側)が配線(6)の電位(CrSi2バルク多結晶にプラスの電流が流れる方向を向いて左側)よりも高いときにプラスの電圧とした。
【0065】
x方向の測定電圧値Vxxの変化を示すグラフを図14(b)に示し、Pt層のy方向の測定電圧値Vxyの変化を示すグラフを図14(c)に示す。電圧値Vxxは、配線(1)(2)間に印加する電圧に応じて変化した。電圧値Vxyは、CrSi2バルク多結晶にプラスの電流が流れるように電圧が印加されるとマイナスの電圧となり、CrSi2バルク多結晶にマイナスの電流が流れるように電圧が印加されるとプラスの電圧となった。電圧Vxyと、CrSi2バルク多結晶に流れる電流Iとは比例定数がマイナスの比例関係にあった。
【0066】
右手系のキラル物質にはNbSi2(P6422(D6 4))のバルク多結晶を用いた。NbSi2は、右巻きらせんの原子配列を有する結晶構造を有する。多結晶中のらせん軸の向きはバラバラである(無配向試料)。
図15(a)にNbSi2バルク多結晶を用いて作製した装置Dの写真を示す。NbSi2バルク多結晶の両端には電圧印加用電極である配線(1)(2)を設けている。配線(1)(2)の間には、2つのPt層を設け、左側のPt層の両端に配線(3)(5)を接続し、右側のPt層の両端に配線(4)(6)を接続した。
【0067】
装置DのNbSi2バルク多結晶に流れる電流((1)→(2))が-21mAから21mAとなるように配線(1)(2)の間に印加する電圧を変化させて配線(5)(6)間の電圧Vxx(NbSi2バルク多結晶のx方向の電圧)及び配線(4)(6)間の電圧Vxy(Pt層のy方向の電圧)を測定した。
NbSi2バルク多結晶を流れる電流が配線(1)から配線(2)へ流れるときの電流値をプラスとし、電流が配線(2)から配線(1)へ流れるときの電流値をマイナスとした。電圧Vxxは、配線(5)の電位が配線(6)の電位より高いときにプラスの電圧とした。電圧Vxyは、配線(4)の電位(NbSi2バルク多結晶にプラスの電流が流れる方向を向いて右側)が配線(6)の電位(NbSi2バルク多結晶にプラスの電流が流れる方向を向いて左側)よりも高いときにプラスの電圧とした。
【0068】
x方向の測定電圧値Vxxの変化を示すグラフを図15(b)に示し、Pt層のy方向の測定電圧値Vxyの変化を示すグラフを図15(c)に示す。電圧値Vxxは、配線(1)(2)間に印加する電圧に応じて変化した。電圧値Vxyは、NbSi2バルク多結晶にプラスの電流が流れるように電圧が印加されるとプラスの電圧となり、NbSi2バルク多結晶にマイナスの電流が流れるように電圧が印加されるとマイナスの電圧となった。電圧Vxyと、NbSi2バルク多結晶に流れる電流Iとは比例定数がプラスの比例関係にあった。
【0069】
これらの実験から右手系キラル物質を用いた装置のスピン検出層に生じる起電力の向きは、左手系キラル物質を用いた装置のスピン検出層に生じる起電力の向きと逆であることがわかった。このことから、被検物(キラル物質)に電流を流しスピン検出層に生じる起電力の向きを調べることにより、キラル物質を右手系か左手系かを判別することができることがわかった。
スピン検出層に生じる起電力の向きが逆になる理由としては、キラリティ誘起スピン選択性(CISS)効果によりキラル物質のスピン偏極状態の偏極方向が、右手系と左手系とで逆になると考えられる。このため、逆スピンホール効果によりスピン流が変換されて生じるスピン検出層の起電力の向きも、右手系と左手系とで逆になると考えられる。
【0070】
無配向試料である多結晶キラル物質を用いた装置C、Dでも、スピン検出層に起電力が生じたことから、スピン検出層で生じる起電力の向きは、スピン軸の向きに関わらずキラル物質が右手系か左手系かで決まることがわかった。従って、CISS効果は、キラル物質の分子レベル(又は結晶レベル)で成立することがわかった。このことから、溶液中のキラル物質、キラル物質である液晶、キラル物質である絶縁体でも同様に右手系か左手系かを判別することができると考えられる。
【0071】
第2キラリティ検出実験
上述の第1キラリティ検出実験及びキラリティ判別実験では、被検物であるキラル物質に導電体を用いたが、第2キラリティ検出実験では被検物に絶縁体である左水晶と右水晶を用いて実験を行った。左水晶は、結晶構造に左巻きのらせんの原子配列を有する左手系のキラル物質であり、右水晶は、結晶構造に右巻きのらせんの原子配列を有する右手系のキラル物質である。なお、水晶は絶縁体であるため、キラル物質には電流は流れない。そこで、CISS効果の逆効果を用いて測定を行った。つまり、Pt層の両端に電圧を印加し、キラル物質に発生する電圧を検出する。
【0072】
図16(a)に左水晶を用いて作製した装置Eの写真を示す。左水晶の両端には電圧検出用電極である配線(1)(2)を設けている。配線(1)(2)の間にPt層を設け、Pt層の両端に配線(3)(4)を接続した。このPt層は第1キラリティ検出実験ではスピン検出層として機能したが、逆効果を用いる第2キラリティ検出実験では、電圧印加用電極として機能する。
配線(3)(4)を用いてPt層に印加する電圧(パルス電圧)を変化させて配線(1)(2)間の電圧Vyx(水晶のx方向の電圧)を測定した。
Pt層を流れる電流が配線(3)から配線(4)へ流れるときの電流値をプラスとし、電流が配線(4)から配線(3)へ流れるときの電流値をマイナスとした。電圧Vyxは、配線(1)の電位(Pt層にプラスの電流が流れる方向を向いて右側)が配線(2)の電位(Pt層にプラス電流が流れる方向を向いて左側)よりも高いときにプラスの電圧とした。
【0073】
水晶のx方向の測定電圧値Vyxの変化を示すグラフを図16(b)に示す。図16(b)ではPt層に印加する電圧を電流値I(mA)で示している。
配線(3)(4)に印加する電圧を変化させると、水晶に起電力が生じた。また、左水晶に発生する測定電圧値Vyxと、Pt層に印加する電圧とは比例定数がマイナスの比例関係にあった。このように電圧値Vyxの変化傾向は、第1キラリティ検出実験及びキラリティ判別実験と同様であった。
【0074】
図17(a)に右水晶を用いて作製した装置Fの写真を示す。右水晶の両端には電圧検出用電極である配線(1)(2)を設けている。配線(1)(2)の間にPt層を設け、Pt層の両端に配線(3)(4)を接続した。このPt層は第1キラリティ検出実験ではスピン検出層として機能したが、逆効果を用いる場合は、電圧印加用電極として機能する。
配線(3)(4)を用いてPt層に印加する電圧(パルス電圧)を変化させて配線(1)(2)間の電圧Vyx(水晶のx方向の電圧)を測定した。
Pt層を流れる電流が配線(3)から配線(4)へ流れるときの電流値をプラスとし、電流が配線(4)から配線(3)へ流れるときの電流値をマイナスとした。電圧Vyxは、配線(1)の電位(Pt層にプラスの電流が流れる方向を向いて右側)が配線(2)の電位(Pt層にプラス電流が流れる方向を向いて左側)よりも高いときにプラスの電圧とした。
【0075】
右水晶のx方向の測定電圧値Vyxの変化を示すグラフを図17(b)に示す。図17(b)ではPt層に印加する電圧を電流値I(mA)で示している。
配線(3)(4)に印加する電圧を変化させると、水晶に起電力が生じた。また、右水晶に発生する測定電圧値Vyxと、Pt層に印加する電圧とは比例定数がプラスの比例関係にあった。このように電圧値Vyxの変化傾向は、第1キラリティ検出実験及びキラリティ判別実験と同様であった。
【0076】
装置Eと装置Fにおける実験結果から、キラル物質に生じる起電力の向きを調べることにより、絶縁体であるキラル物質が右手系か左手系かであるかを判別することができることがわかった。
絶縁体であるキラル物質を用いた装置Eと装置Fのキラル物質に起電力が生じる理由は、次のように考えられる。Pt層に電圧を印加した場合、スピンホール効果によりスピン流がPt層からキラル物質に注入され、キラル物質にスピン偏極が生じる。このキラル物質のスピン偏極は、キラリティ誘起スピン選択性(CISS)効果の逆効果により、キラル物質中に起電力を生じさせると考えられる。
【0077】
第3キラリティ検出実験
第3キラリティ検出実験では、キラル分子である酒石酸を分散させたキラル分子分散溶液を被検物として実験を行った。
図18(a)に装置Gの写真を示す。装置Gでは、ガラス基板上に3本の白金電極を設けており、上の白金電極の両端に配線(1)(2)を接続し、中間の白金電極の両端に配線(3)(4)を接続し、下の白金電極の両端に配線(5)(6)を接続している。そして、3本の白金電極と重なるように基板上にキラル分子分散溶液を滴下している。
【0078】
装置Gのキラル分子分散溶液に流れる電流(上の白金電極から下の白金電極へ流れる電流)が-100μAから+100μAとなるように配線(2)(6)の間に印加する電圧を変化させて配線(3)(4)間の電圧Vを測定した。
キラル分子分散溶液を流れる電流が配線(2)から配線(6)へ流れるときの電流値をプラスとし、電流が配線(6)から配線(2)へ流れるときの電流値をマイナスとした。
電圧Vは、配線(3)の電位(キラル分子分散溶液にプラスの電流が流れる方向を向いて右側)が配線(4)の電位(キラル分子分散溶液にプラスの電流が流れる方向を向いて左側)よりも高いときにプラスの電圧とした。
【0079】
測定電圧値Vの変化を示すグラフを図18(b)に示す。電圧値Vは、配線(2)(6)間に印加する電圧に応じて変化した。電圧値Vは、キラル分子分散溶液にプラスの電流が流れるように電圧が印加されるとマイナスの電圧となり、キラル分子分散溶液にマイナスの電流が流れるように電圧が印加されるとプラスの電圧となった。電圧Vと、キラル分子分散溶液に流れる電流Iとは比例定数がマイナスの比例関係にあった。
このように電圧値Vの変化傾向は、第1及び第2キラリティ検出実験並びにキラリティ判別実験と同様であった。
【符号の説明】
【0080】
2:キラル物質層 3a、3b: 電圧印加用電極 4:スピン検出層 5、5a、5b、5c:電源部 6a、6b、6c:電圧計測部 7:制御部 8a、8b、8c:電圧検出用電極 9:被検物 11:キラル物質を含む溶液、液体又は気体 12:電圧印加部 13、13a、13b:磁場印加部 15:流路部材 16、16a、16b:流路 17:右手系キラル物質 18:左手系キラル物質 19、19a、19b:コイル 20:キラリティ検出装置 25:分離装置 26:入力部 27:出力部 30:キラル物質装置
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