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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】癌を検出する方法および検出試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20240830BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240830BHJP
   C07K 16/32 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
G01N33/574 A ZNA
C07K14/47
C07K16/32
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021516037
(86)(22)【出願日】2020-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2020016607
(87)【国際公開番号】W WO2020218121
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2019082912
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 幸嗣
(72)【発明者】
【氏名】大西 なおみ
(72)【発明者】
【氏名】辻川 和丈
(72)【発明者】
【氏名】野々村 祝夫
(72)【発明者】
【氏名】植村 元秀
(72)【発明者】
【氏名】神宮司 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大竹 則久
(72)【発明者】
【氏名】河合 康俊
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/217087(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0153240(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0141273(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0077695(US,A1)
【文献】国際公開第2018/079689(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0045915(US,A1)
【文献】JINGUSHI, Kentaro et al.,Extracellular vesicles isolated from human renal cell carcinoma tissues disrupt vascular endothelial cell morphology via azurocidin,International Journal of Cancer,2018年,Vol.142,pp.607-617
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃癌、乳癌及び肺癌からなる群から選択される癌を検出する方法であって、
血液検体において、アズロシディン(AZU1)量を測定することを含み、
測定値があらかじめ設定された基準値を超えた場合に癌が検出されたとする、方法。
【請求項2】
大腸癌を検出する方法であって、
血液検体において、AZU1量を測定することを含み、
測定値があらかじめ設定された基準値を超えた場合に癌が検出されたとし、
前記検体において、AZU1が存在する細胞分泌微粒子と同一の細胞分泌微粒子上に存在する第二のマーカーを、さらに検出することを含み、
前記第二のマーカーは表2に記載されたいずれか少なくとも1つである、方法。
【表1-1】

【表1-2】
【請求項3】
AZU1量の測定が、AZU1を特異的に認識する抗体を用いて行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記検体において、AZU1が存在する細胞分泌微粒子と同一の細胞分泌微粒子上に存在する第二のマーカーを、さらに検出することを含み、
前記第二のマーカーは表2に記載されたいずれか少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【表2-1】

【表2-2】
【請求項5】
前記第二のマーカーがCD81、CD63、CD9およびホスファチジルセリンのうち少なくとも1つを含む、請求項2または4に記載の方法。
【請求項6】
第二のマーカーの検出が、第二のマーカーを特異的に認識する抗体または受容体を用いて行われる、請求項2、4または5に記載の方法。
【請求項7】
血液検体に対して使用される試薬であって、
AZU1を特異的に認識する抗体を含む、胃癌、乳癌及び肺癌からなる群から選択される癌の検出に使用するための試薬。
【請求項8】
表2に記載されたいずれかの第二のマーカーを特異的に認識する抗体または受容体をさらに含む、請求項7に記載の試薬。
【表3-1】

【表3-2】
【請求項9】
血液検体に対して使用される試薬であって、
AZU1を特異的に認識する抗体と、
表2に記載されたいずれかの第二のマーカーを特異的に認識する抗体または受容体とを含む、大腸癌の検出に使用するための試薬。
【表4-1】

【表4-2】
【請求項10】
前記第二のマーカーが、CD81、CD63、CD9およびホスファチジルセリンの少なくとも1つを含む、請求項8または9に記載の試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アズロシディン(以下、「AZU1」という)を測定対象とする癌の検出方法および検出試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
癌を検出するための腫瘍マーカーとしては、一般的に表1に示すようなものが挙げられる。しかし、いずれのマーカーも癌の早期における陽性率は低く、良性腫瘍や炎症における偽陽性や悪性度の高い癌では検出できないなど課題のあるものも多い。そのため、これらの癌を高い精度で検出可能な腫瘍マーカーの発見および検査法の開発が望まれている。
【0003】
【表1】
【0004】
ところで、AZU1は、別名ヘパリン結合タンパク質(HBP)または37kDaカチオン性抗菌タンパク質(CAP37)としても知られる、非活性型セリンプロテアーゼの一つである。AZU1はその機能として、単球に対する化学遊走作用およびグラム陰性菌に対する抗菌作用を有する。AZU1は好中球のアズール顆粒に存在し、感染部位に遊走した好中球から放出されることによって、血管漏出および浮腫形成を誘導して炎症を促進し生体防御に寄与している(非特許文献1~5)。
【0005】
AZU1と疾患との関連は、体液中のAZU1量を測定することによる感染症および敗血症の診断方法が既に開示されている(特許文献1~3)。さらに近年では、体液中の細胞外小胞を分離してAZU1を検出することによる腎細胞癌の診断方法が報告されている(特許文献4、非特許文献6)。
【0006】
AZU1と癌との関連は、乳癌、前立腺癌、大腸癌においてAZU1のメッセンジャーRNA発現量が増加していることが報告されている(非特許文献6)。しかし今日まで、これらを含む腎細胞癌以外の癌において、生検よりも低侵襲的に採取可能な体液中でのAZU1の動態に関する報告はなく、体液中のAZU1が腎細胞癌以外の癌の検出に適用できるか不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5166522号公報
【文献】特許第5488885号公報
【文献】特許第5818916号公報
【文献】国際公開第2018/079689号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【文献】J Leukoc Biol. 2009 Mar;85(3):344-51
【文献】Trends Immunol. 2009 Nov;30(11):538-46
【文献】Nat Med. 2001 Oct;7(10):1123-7.
【文献】Trends Immunol. 2009 Nov;30(11):547-56
【文献】Thromb Haemost. 2009 Aug;102(2):198-205
【文献】Int J Cancer. 2018 Feb 1;142(3):607-617
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、癌を簡便かつ高い精度で検出する方法、および前記方法に利用できる試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した結果、体液中のAZU1が健常者と比較して癌患者で有意に高値を示すという知見を得て、AZU1が癌の検出マーカーとなり得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]癌(ただし腎細胞癌を除く)を検出する方法であって、検体において、アズロシディン(AZU1)量を測定することを含み、測定値があらかじめ設定された基準値を超えた場合に癌が検出されたとする、方法。
[2]前記癌が、胃癌、乳癌、大腸癌及び肺癌からなる群から選択される、[1]に記載の方法。
[3]AZU1量の測定が、AZU1を特異的に認識する抗体を用いて行われる、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記検体において、AZU1が存在する細胞分泌微粒子と同一の細胞分泌微粒子上に存在する第二のマーカーを、さらに検出することを含み、前記第二のマーカーは表2に記載されたいずれか少なくとも1つである、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記第二のマーカーがCD81、CD63、CD9およびホスファチジルセリンのうち少なくとも1つを含む、[4]に記載の方法。
[6]第二のマーカーの検出が、第二のマーカーを特異的に認識する抗体または受容体を用いて行われる、[4]または[5]に記載の方法。
[7]AZU1を特異的に認識する抗体を含む、癌(ただし腎細胞癌を除く)の検出に使用するための試薬。
[8]前記癌が、胃癌、乳癌、大腸癌及び肺癌からなる群から選択される、[7]に記載の試薬。
[9]表2に記載されたいずれかの第二のマーカーを特異的に認識する抗体または受容体をさらに含む、[7]又は[8]に記載の試薬。
[10]前記第二のマーカーが、CD81、CD63、CD9およびホスファチジルセリンの少なくとも1つを含む、[9]に記載の試薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、癌を簡便かつ高い精度で検出する方法、および前記方法に利用できる試薬が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例8において、GPIアンカー型AZU1恒常発現CHO-K1細胞を用いたCELISAによる、ハイブリドーマ細胞培養上清のスクリーニング結果を示す図。
図2】実施例9において、分泌型AZU1を用いたELISAによる、ハイブリドーマ細胞培養上清のスクリーニング結果を示す図。
図3】実施例13において、細胞分泌微粒子を用いたELISAによる、抗AZU1モノクローナル抗体の固相抗体としての性能評価結果を示す図。
図4】実施例13において、細胞分泌微粒子を用いたELISAによる、抗AZU1モノクローナル抗体のビオチン標識抗体としての性能評価結果を示す図。
図5】実施例14において、ELISAの固相抗体として抗CD81抗体、抗CD9抗体、抗CD63抗体のいずれを用いても、AZU1を含む細胞分泌微粒子を検出可能であることを示す図。
図6】実施例15-1において、健常者群と胃癌患者群における、固相抗体として抗CD81抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図7】実施例15-2において、健常者群と胃癌患者群における、固相抗体として抗CD9抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図8】実施例15-3において、健常者群と胃癌患者群における、固相抗体として抗CD63抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図9】実施例15-4において、健常者群と胃癌患者群における、固相抗体として抗AZU1抗体、ビオチン標識抗体として抗CD81抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図10】実施例15-5において、健常者群と胃癌患者群における、固相抗体として抗AZU1抗体、ビオチン標識抗体として抗CD9抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図11】実施例15-6において、健常者群と胃癌患者群における、固相抗体として抗AZU1抗体、ビオチン標識抗体として抗CD63抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図12】実施例16において、健常者群と胃癌患者群における、固相受容体としてTim4-hFc、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図13】比較例1において、健常者群と胃癌患者群における、CEA測定値のボックスプロットを示す図。
図14】実施例17において、健常者群および胃癌患者群間における、固相抗体として抗CD81抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度の受信者動作特性(ROC)曲線解析の結果を示す図。
図15】実施例17において、健常者群および胃癌患者群間における、固相抗体として抗CD9抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のROC曲線解析の結果を示す図。
図16】実施例17において、健常者群および胃癌患者群間における、固相抗体として抗CD63抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のROC曲線解析の結果を示す図。
図17】実施例17において、健常者群および胃癌患者群間における、固相抗体として抗AZU1抗体、ビオチン標識抗体として抗CD81抗体を用いたELISA吸光度のROC曲線解析の結果を示す図。
図18】実施例17において、健常者群および胃癌患者群間における、固相抗体として抗AZU1抗体、ビオチン標識抗体として抗CD9抗体を用いたELISA吸光度のROC曲線解析の結果を示す図。
図19】実施例17において、健常者群および胃癌患者群間における、固相抗体として抗AZU1抗体、ビオチン標識抗体として抗CD63抗体を用いたELISA吸光度のROC曲線解析の結果を示す図。
図20】実施例17において、健常者群および胃癌患者群間における、固相受容体としてTim4-hFc、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のROC曲線解析の結果を示す図。
図21】実施例17において、健常者群および胃癌患者群間における、CEA測定値のROC曲線解析の結果を示す図。
図22】実施例18-1において、健常者群と乳癌患者群における、固相抗体として抗CD81抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図23】実施例18-2において、健常者群と乳癌患者群における、固相抗体として抗CD9抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図24】実施例18-3において、健常者群と乳癌患者群における、固相抗体として抗CD63抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図25】実施例19-1において、健常者群と大腸癌患者群における、固相抗体として抗CD81抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図26】実施例19-2において、健常者群と大腸癌患者群における、固相抗体として抗CD9抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図27】実施例19-3において、健常者群と大腸癌患者群における、固相抗体として抗CD63抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図28】実施例20-1において、健常者群と肺癌患者群における、固相抗体として抗CD81抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図29】実施例20-2において、健常者群と肺癌患者群における、固相抗体として抗CD9抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図30】実施例20-3において、健常者群と肺癌患者群における、固相抗体として抗CD63抗体、ビオチン標識抗体として抗AZU1抗体を用いたELISA吸光度のボックスプロットを示す図。
図31】実施例21において、健常者、肺癌、大腸癌、乳癌、および胃癌の各群における、血清検体に含まれる遊離AZU1濃度のボックスプロットを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1]本発明の癌を検出する方法
本発明の第一の態様は、癌(ただし腎細胞癌を除く)を検出する方法であり、検体においてAZU1量を測定することを含む。これは、健常な検体と比べて、癌の血液等の生体試料中に特徴的にAZU1が存在することに基づく方法である。検体におけるAZU1量の測定は、通常インビトロ(in vitro)で行われる。
本発明の方法により、後述する実施例が示す通り、従来知られたCEAなどの腫瘍マーカーを測定した場合に比べて、癌を高い感度と特異度で検出することができる。
【0015】
なお、本発明の方法は、癌を検出する段階までを含むものであり、癌の診断に関する最終的な判断行為は含まれない。医師は、本発明の方法による検出結果等を参照して、癌を診断したり治療方針を立てたりする。
通常、癌を検出する対象(被検動物)は、ヒトである。
【0016】
本発明において測定の対象となる検体としては、例として血液、尿、唾液、涙液、腹水、腹腔洗浄液、脳脊髄液、および細胞もしくは組織の抽出液等が挙げられる。検体採取の容易性を考慮すると、血液、尿、唾液および涙液が好ましい。他の検査項目への汎用性を考慮すると、血液がより好ましい。血液は、全血のまま用いても、血清、血漿、血球などの血液成分に分離して用いてもよいが、血清または血漿を用いることが好ましい。検体の希釈倍率は特に制限されないが、例えば無希釈から100倍希釈の範囲で、使用する検体の種類や状態に応じて適宜選択すればよい。
なお、検体は通常、後述する細胞から分泌される微粒子(細胞分泌微粒子)を含む。
【0017】
本発明が対象とする疾患は、癌(ただし腎細胞癌を除く)である。好ましくは胃癌、乳癌、大腸癌、および/または肺癌であり、より好ましくは胃癌である。
【0018】
本発明において測定対象であるAZU1は、UniPotKBのアクセッション番号P20160において開示されているヒトAZU1タンパク質のアミノ酸配列のうち、27残基目のイソロイシンから248残基目のプロリンまでの配列を少なくとも含むペプチド、または、前記配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドである。前記同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。また、このペプチドは、前記配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸からなるペプチドであってもよい。なお、数個とは、好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個、さらに好ましくは2~5個をいう。また、前記配列の片側又は両側に他のペプチドフラグメントを有していてもよい。
【0019】
本発明において測定されるAZU1は、可溶性タンパク質として存在するものを測定してもよく、細胞から分泌される微粒子上に存在するものを測定してもよく、又はそれら両方を測定してもよい。微粒子上に存在するAZU1を測定する場合は、当該微粒子上に第二のマーカーと共存しているものを測定してもよい。
細胞から分泌される微粒子の例として、エクソソームが挙げられる。エクソソームとは、脂質二重膜で構成された、通常50~200nmの直径を有する膜小胞である。エクソソームは、テトラスパニン類やインテグリン類などの膜タンパク質、多胞体形成に関連するタンパク質、熱ショックタンパク質などを多く含むことが知られている。またエクソソームを構成する脂質二重膜は、その膜表面にホスファチジルセリンを有することが知られている。エクソソームに多く含まれる代表的な分子を表2に示す。
【0020】
本発明における第二のマーカーとは、細胞分泌微粒子上に存在する分子であれば特に制限されないが、好ましくは前述した表2に示すタンパク質およびホスファチジルセリンからなる群に含まれる少なくとも1つを指し、より好ましくはCD81、CD63、CD9およびホスファチジルセリンの少なくとも1つを含む。なお、表2に示すタンパク質には、それと高い相同性(80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上)を有するアミノ酸配列を含むペプチドも含まれるものとする。
第二のマーカーは2種以上であってもよいため、「第二の」という語は「AZU1の他の」という意味で理解されてよい。
本発明において検出される第二のマーカーは、細胞分泌微粒子上に存在する分子であれば特に制限されないが、好ましくは表2に示すタンパク質およびホスファチジルセリンであって、AZU1が存在する細胞分泌微粒子と同一の細胞分泌微粒子上に存在するものである。
【0021】
【表2-1】
【0022】
【表2-2】
【0023】
本発明の検出方法において、AZU1量を測定する方法、および細胞分泌微粒子上に共存する第二のマーカーのうち少なくとも1つとAZU1とを測定(検出)する方法は、AZU1量の測定が妨げられない限りにおいて特に制限されない。例えば、AZU1を特異的に認識する抗体を用いる免疫測定法や、質量分析法を利用した方法が挙げられる。
AZU1を特異的に認識する抗体を用いる免疫測定法の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0024】
[a]AZU1を特異的に認識する抗体および標識したAZU1を用い、標識したAZU1および検体に含まれるAZU1が、前記抗体に競合的に結合することを利用した競合法。
[b]AZU1を特異的に認識する抗体を固定化したチップに検体を接触させ、当該抗体とAZU1との結合に依存したシグナルを検出する表面プラズモン共鳴を用いた方法。
[c]蛍光標識した、AZU1を特異的に認識する抗体を用い、当該抗体とAZU1とが結合することで蛍光偏光度が上昇することを利用した蛍光偏光免疫測定法。
【0025】
[d]AZU1を特異的に認識する2つの抗体(うち1つは標識した抗体)を用い、当該2つの抗体とAZU1との3者の複合体を形成させるサンドイッチ法。このとき当該2つの抗体は、エピトープの異なる2種類の抗体であることが好ましい。
[e]前処理として、AZU1を特異的に認識する抗体により検体中のAZU1を濃縮後、AZU1と抗体との結合物を質量分析装置により検出する方法。
[f]蛍光標識した、AZU1を特異的に認識する抗体を用い、当該抗体をAZU1に結合させた後に流路内で測定対象を整列させ、個々の粒子に励起光を照射したときに得られる散乱光と蛍光をもとに当該抗体と測定対象が結合した複合体を計数するフローサイトメトリー法。
【0026】
これらのうち[d]および[e]の方法が簡便かつ汎用性が高いが、多検体を処理する上では[d]の方法が試薬および装置に関する技術が十分確立されている点でより好ましい。
【0027】
AZU1を特異的に認識する抗体は特に制限されないが、AZU1タンパク質そのもの、AZU1の部分領域からなるオリゴペプチド、AZU1の全長または部分領域をコードするポリヌクレオチドなどを免疫原として、動物に免疫することで得ることができる。
【0028】
なお、免疫原として、AZU1タンパク質そのもの、またはAZU1の部分領域からなるオリゴペプチドを用いると、前記タンパク質または前記オリゴペプチドを調製する過程でその構造が変化する可能性がある。そのため、得られた抗体が、所望の抗原に対して高い特異性や結合力を有さない可能性があり、結果として検体に含まれるAZU1を正確に定量できなくなる可能性がある。一方、免疫原として、AZU1の全長または部分領域をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを用いると、免疫された動物の体内でAZU1が構造変化を受けずに発現されるため、所望の抗原に対して高い特異性および結合力(すなわち高親和性)を有した抗体が得られるため好ましい。
【0029】
免疫に用いる動物は、抗体産生能を有するものであれば特に限定はなく、マウス、ラット、ウサギなど通常免疫に用いる哺乳動物でもよいし、ニワトリなど鳥類を用いてもよい。
【0030】
AZU1を特異的に認識する抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であるのが好ましい。
【0031】
AZU1を特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマ細胞の樹立は、技術が確立された方法の中から適宜選択して行えばよい。一例として、前述した方法で免疫した動物からB細胞を採取し、前記B細胞とミエローマ細胞とを電気的にまたはポリエチレングリコール存在下で融合させ、HAT培地により所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞の選択を行い、選択したハイブリドーマ細胞を限界希釈法によりクローニングを行うことで、AZU1を特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を樹立することができる。
【0032】
本発明で用いるAZU1を特異的に認識する抗体の選定は、宿主発現系に由来する、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型AZU1に対する親和性に基づいて行えばよい。
【0033】
なお、前記宿主としては特に限定はなく、当業者がタンパク質の発現に通常用いる、大腸菌や酵母などの微生物細胞、昆虫細胞、動物細胞の中から適宜選択すればよいが、ジスルフィド結合もしくは糖鎖付加といった翻訳後修飾により、天然型のAZU1に近い構造を有するタンパク質の発現が可能な、哺乳細胞を宿主として用いると好ましい。哺乳細胞の一例としては、従来用いられている、ヒト胎児腎由来293T細胞株、サル腎由来COS-7細胞株、チャイニーズハムスター卵巣由来CHO-K1細胞株またはヒトから単離された癌細胞などが挙げられる。
【0034】
本発明の癌検出方法で用いる抗体の精製は、技術が確立された方法の中から適宜選択して行えばよい。一例として、前述した方法で確立した、抗体を産生するハイブリドーマ細胞を培養後、その培養上清を回収し、必要に応じ硫酸アンモニウム沈殿により抗体濃縮後、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、またはプロテインA、プロテインG、もしくはプロテインLなどを固定化した担体を用いたアフィニティークロマトグラフィーによって抗体の精製が可能である。
【0035】
本発明において、同一の細胞分泌微粒子上に存在するAZU1量の測定と第二のマーカーの検出とをともに行う場合には、AZU1を認識する抗体に加えて、第二のマーカーを特異的に認識する抗体又は受容体(以降「抗体等」とも記す)をさらに用いることが好ましい。
【0036】
本発明において第二のマーカーとしては、CD81、CD63、CD9およびホスファチジルセリンの少なくとも1つを含むことが好ましく、それらを特異的に認識する抗体又は受容体としては、抗CD81抗体、抗CD63抗体、抗CD9抗体またはホスファチジルセリン受容体であることが好ましい。
【0037】
本発明において使用する抗CD81抗体、抗CD63抗体および抗CD9抗体は、前述のAZU1を認識する抗体と同様の方法によって得ることができる。
【0038】
本発明において使用するホスファチジルセリン受容体は特に制限されないが、例えばAnnexin V、MFG-E8、Tim1、Tim3、Tim4が挙げられ、ホスファチジルセリンに対して高い特異性と結合力を有するTim4(国際公開第2016/088689号)が好ましい。Tim4は、少なくともホスファチジルセリンに対する結合ドメイン(IgVドメイン)のアミノ酸配列を有しているものであればよく、例えばTim4タンパク質そのもの、Tim4のIgVドメインを含む部分領域からなるペプチド、Tim4のIgVドメインを含む部分領域に他のペプチドフラグメントを結合した融合タンパク質を用いることができる。
【0039】
なお、前述したサンドイッチ法で結合定量法を行う際に用いる標識した抗体等は、ペルオキシダーゼまたはアルカリ性ホスファターゼといった酵素、蛍光物質、化学発光物質、ラジオアイソトープまたは機能性微粒子といった検出装置で検出可能な物質、もしくはビオチンに対するアビジンのように特異的に結合する相手が存在する物質等で標識すればよく、その標識も技術が十分確立された方法を用いて行えばよい。
【0040】
本発明の方法において、質量分析法を利用してAZU1を検出し定量測定する方法について、以下に具体的に説明する。
検体が血液である場合は、前処理工程として、血液に多く含まれるアルブミン、イムノグロブリン、トランスフェリン等のタンパク質をAgilent Human 14等で除去した後、イオン交換、ゲルろ過または逆相クロマトグラフィー等でさらに分画することが好ましい。
【0041】
測定は、タンデム質量分析(MS/MS)、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析(LC/MS/MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF/MS)、表面増強レーザー脱離イオン化質量分析(SELDI-MS)等により行うことができる。
【0042】
本発明の検出方法では、測定により得たAZU1量が、対照から算出した基準値(カットオフ値)を超えた場合に、癌が検出されたと判定することが好ましい。
判定に用いるAZU1量は、測定値または換算濃度値の何れでもよい。なお、換算濃度値は、AZU1を標準試料として作成された検量線に基づいて測定値から換算される値をいう。標準試料の濃度決定は、質量分析を用いた標準ペプチドの検量線に基づいて測定値から換算される値としてもよい。
カットオフ値は、健常人と癌患者とから採取した検体をそれぞれ測定し、受信者動作特性(ROC)曲線により最適な感度と特異度を示す測定値に適宜設定することができる。
【0043】
本発明の癌を検出する方法は、癌を治療する方法に適用することができる。すなわち、本発明により、患者における癌(ただし腎細胞癌を除く)を治療する方法であって、
(i)AZU1量の測定値があらかじめ設定した基準値を超えるものとして患者を同定する工程、及び
(ii)前記同定された患者に対して治療を施す工程、を含む方法が提供される。
前記工程(i)の同定において、AZU1量の測定は、AZU1を特異的に認識する抗体を用いて行われてもよいし、質量分析法を用いて行われてもよい。
前記工程(ii)の治療としては、外科的切除、薬物療法、放射線療法等が挙げられるが特に限定されない。
【0044】
[2]本発明の癌を検出する試薬
本発明の第二の態様は、癌(ただし腎細胞癌を除く)を検出するための試薬であり、AZU1を特異的に認識する抗体を含んでいる。
【0045】
本発明の試薬は、さらに、表2に示す第二のマーカーを特異的に認識する抗体又は受容体をさらに含んでいることが好ましい。第二のマーカーを特異的に認識する抗体又は受容体(抗体等)は特に制限されないが、例えばCD81、CD63、CD9およびホスファチジルセリンの少なくとも1つを特異的に認識する抗体又は受容体であることが好ましく、抗CD81抗体、抗CD63抗体、抗CD9抗体またはホスファチジルセリン受容体のいずれかであることがより好ましい。ホスファチジルセリン受容体は特に制限されないが、例えばAnnexin V、MFG-E8、Tim1、Tim3、Tim4が挙げられ、ホスファチジルセリンに対して高い特異性と結合力を有するTim4が好ましい。Tim4は、少なくともホスファチジルセリンに対する結合ドメイン(IgVドメイン)のアミノ酸配列を有しているものであればよく、例えばTim4タンパク質そのもの、Tim4のIgVドメインを含む部分領域からなるペプチド、Tim4のIgVドメインを含む部分領域に他のペプチドフラグメントを結合した融合タンパク質を用いることができる。
【0046】
本発明の試薬および測定方法を、前述したサンドイッチ法の3つの方式について以下に具体的に説明する。ただし、本発明の試薬および測定方法は、これら3つの方式に限定されるものではない。
【0047】
[方式1]2ステップサンドイッチ法
本方式で用いる試薬は、2種類の抗体等(以下、「抗体等1」および「抗体等2」とする)を含む。抗体等1と抗体等2は、測定対象物質に対する結合部位が互いに異なることが好ましい。抗体等1および抗体等2の組み合わせは、例えば下記[a]~[c]の3通りが挙げられる。
[a]抗体等1:AZU1を特異的に認識する抗体、抗体等2:AZU1を特異的に認識する抗体であって抗体等1とは同一または別の抗体
[b]抗体等1:AZU1を特異的に認識する抗体、抗体等2:第二のマーカーを特異的に認識する抗体又は受容体
[c]抗体等1:第二のマーカーを特異的に認識する抗体又は受容体、抗体等2:AZU1を特異的に認識する抗体
【0048】
本方式の試薬は、以下の[1]~[3]に示す方法で作製することができる。
[1]まず、抗体等1をイムノプレートや磁性粒子等のB/F分離可能な担体に結合させる。結合方法は、疎水結合を利用した物理的結合であってもよいし、2物質間を架橋可能なリンカー試薬などを用いた化学的結合であってもよい。
[2]担体に前記抗体等1を結合させた後、非特異的結合を避けるため、担体表面をウシ血清アルブミン、スキムミルク、市販のイムノアッセイ用ブロッキング剤などでブロッキング処理を行い1次試薬とする。
[3]他方の抗体等2を標識し、得られた標識抗体等を含む溶液を2次試薬として準備する。抗体等2に標識する物質としては、ペルオキシダーゼまたはアルカリ性ホスファターゼといった酵素、蛍光物質、化学発光物質、ラジオアイソトープまたは機能性微粒子といった検出装置で検出可能な物質、もしくはビオチンに対するアビジンのように特異的に結合する相手が存在する物質等が好ましい。また、2次試薬の溶液としては、抗原抗体反応が良好に行える緩衝液、例えばリン酸緩衝液、Tris-HCl緩衝液などが好ましい。
このようにして作製した本方式の試薬は、必要に応じ凍結乾燥させてもよい。
【0049】
次に、本方式で作製した試薬を用いてAZU1を検出し測定するには、以下の[4]~[6]に示す方法で行えばよい。
[4]前述した[2]で作製した1次試薬と検体とを一定時間、一定温度のもと接触させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分間から180分間反応させればよい。
[5]未反応物質をB/F分離により除去し、続いて[3]で作製した2次試薬と一定時間、一定温度のもと接触させ、サンドイッチ複合体を形成させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分間から180分間反応させればよい。
[6]未反応物質をB/F分離により除去し、標識抗体等の標識物質を定量し、既知濃度のAZU1を標準として作成した検量線により、検体中のAZU1濃度を定量する。
【0050】
[方式2]1ステップサンドイッチ法
本方式で用いる試薬は、前述の方式1と同様に抗体等1および抗体等2を含む。
【0051】
本方式の試薬を作製するには、方式1の[1]~[2]に示した方法で担体に抗体等1を結合させブロッキング処理を行ったものを作製し、前記抗体等固定化担体に、標識した抗体等2を含む緩衝液をさらに添加すればよい。
このようにして作製した本方式の試薬は、必要に応じ凍結乾燥させてもよい。
【0052】
次に、本方式で作製した試薬を用いてAZU1を検出し測定するには、以下の[7]~[8]に示す方法で行えばよい。
[7]前述した方法で作製した試薬と検体とを一定時間、一定温度のもと接触させ、サンドイッチ複合体を形成させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分間から180分間反応させればよい。
[8]未反応物質をB/F分離により除去し、標識抗体等の標識物質を定量し、既知濃度のAZU1を標準として作成した検量線により、検体中のAZU1濃度を定量する。
【0053】
[方式3]ホモジニアスサンドイッチ法
本方式で用いる試薬は、前述の方式1および2と同様に抗体等1および抗体等2を含み、ストレプトアビジンで被覆された、励起光により励起される標識物質をさらに含む。前記のストレプトアビジン被覆標識物質としては、例えばAlphaScreenストレプトアビジンドナービーズ(PerkinElmer製)を好適に使用できる。
【0054】
本方式の試薬は、以下の[9]~[10]に示す方法で作製することができる。
[9]まず、抗体等1をビオチンで標識する。前記ビオチン標識は、従来公知の方法により行えばよく、例えばBiotin labeling Kit-NH2標識キット(同仁化学研究所製)を用いた方法が挙げられる。
[10]他方の抗体等2を、一重項酸素によりシグナルを発する物質で標識する。この一重項酸素は、前記ストレプトアビジン被覆標識物質を励起した時に発生するものである。前記シグナルは蛍光シグナルが好ましい。前記シグナル発生物質としては、例えばAlphaLISAアクセプタービーズ(PerkinElmer製)を好適に使用できる。抗体等2とシグナル発生物質の結合方法は特に制限されず、例えば、シアノ水素化ホウ素ナトリウムを利用した、シグナル発生物質表面のアルデヒド基に対する還元的アミノ化架橋が挙げられる。
【0055】
次に、本方式で作製した試薬を用いてAZU1を検出し測定するには、以下の[11]~[13]に示す方法で行えばよい。
[11]前述した[9]で作製したビオチン標識抗体等1、[10]で作製したシグナル発生物質標識抗体等2、および検体を、一定時間、一定温度、遮光条件下のもと接触させ、サンドイッチ複合体を形成させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分間から180分間反応させればよい。
[12]続いてストレプトアビジン被覆標識物質を添加して一定時間、一定温度、遮光条件下のもと接触させ、ビオチン標識抗体とストレプトアビジン被覆標識物質とを結合させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分間から180分間反応させればよい。
[13]分析装置を用いて、励起光を照射したときにシグナル発生物質標識抗体等から発せられるシグナルを定量し、既知濃度のAZU1を標準として作成した検量線により、検体中のAZU1濃度を定量する。分析装置としては、例えばEnSpire(Pe
rkinElmer製)を好適に使用できる。
【0056】
本発明の試薬に含まれる試薬成分の量は、検体量、検体の種類、試薬の種類、測定の手法等の諸条件に応じて適宜設定すればよい。例えば、検体として血清や血漿を20μL使用して、サンドイッチ法によりAZU1量の測定を行う場合、当該検体20μLを抗体等と反応させる反応系当たり、担体へ結合させる抗体等1の量が100ngから1000μgであってよく、標識した抗体等2の量が2ngから20μgであってよい。
【0057】
本発明の試薬は、用手法での測定にも利用可能であり、自動免疫診断装置を用いた測定にも利用可能である。特に自動免疫診断装置を用いた測定は、検体中に含まれる内在性の測定妨害因子や競合酵素の影響を受けることなく測定が可能で、かつ短時間に検体中のAZU1が定量可能であるため、好ましい。
【0058】
本発明第二の態様の別の側面は、AZU1を特異的に認識する抗体の、癌(ただし腎細胞癌を除く)を検出するための試薬の製造における使用である。また、AZU1を特異的に認識する抗体、及び表2に記載されたいずれかの第二のマーカーを特異的に認識する抗体または受容体の、癌(ただし腎細胞癌を除く)を検出するための試薬の製造における使用である。
また、本発明の別の側面は、AZU1を特異的に認識する抗体の、癌(ただし腎細胞癌を除く)の検出における使用である。また、AZU1を特異的に認識する抗体、及び表2に記載されたいずれかの第二のマーカーを特異的に認識する抗体または受容体の、癌(ただし腎細胞癌を除く)の検出における使用である。
【実施例
【0059】
以下に本発明を具体的に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]GPIアンカー型AZU1発現プラスミドの作製
ヒトAZU1タンパク質のアミノ酸配列のうち27残基目のイソロイシンから248残基目のプロリンまでの配列をコードする領域をPCR法により増幅した。アミノ酸配列DYKDDDDK(配列番号1)からなるFLAGタグペプチドのコード領域と、胎盤型アルカリ性ホスファターゼに由来するGPIアンカーのシグナルペプチドのコード領域を含むプラスミドpFLAG1(Sigma-Aldrich製)に、前記のPCR増幅産物をIn-fusion HD cloning kit(タカラバイオ製)を用いて挿入し、N末端側にはFLAGタグペプチドが、C末端側にはGPIアンカーのシグナルペプチドがそれぞれ付加されたGPIアンカー型AZU1を発現可能なプラスミドを作製した。
【0061】
[実施例2]分泌型AZU1発現プラスミドの作製
FLAGタグペプチドのコード領域と、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)のC末端側7アミノ酸配列CKVLRRH(配列番号2)からなるBNCペプチド(特開2009-240300号)のコード領域を含むプラスミドpFLAG1(Sigma-Aldrich製)に、実施例1で作製したAZU1コード領域のPCR増幅産物をIn-fusion HD cloning kit(タカラバイオ製)を用いて挿入し、N末端側にはFLAGタグペプチドが、C末端側にはBNCペプチドがそれぞれ付加された分泌型AZU1を発現可能なプラスミドを作製した。
【0062】
[実施例3]GPIアンカー型AZU1恒常発現CHO-K1細胞の作製
実施例1で作製したGPIアンカー型AZU1発現プラスミドを、常法に従ってチャイニーズハムスター卵巣由来CHO-K1細胞株に遺伝子導入後、10%FBS添加Ham’s F12培地(富士フイルム和光純薬製)を用いて5%CO2インキュベータにて37℃で24時間培養した。培養後、抗生物質G418溶液(Thermo Fisher Scientific製)を250μg/mLとなるよう添加し、さらに3週間培養した。抗FLAG抗体を用いてセルソーターによりGPIアンカー型AZU1を恒常的に発現するCHO-K1細胞を獲得した。
【0063】
[実施例4]分泌型AZU1一過性発現293T細胞の作製
実施例2で作製した分泌型AZU1発現プラスミドを、常法に従ってヒト胎児腎由来293T細胞株に遺伝子導入後、10%FBS添加D-MEM培地(富士フイルム和光純薬製)を用いて5%CO2インキュベータにて37℃で培養し、AZU1を一過性発現させた。
【0064】
[実施例5]分泌型AZU1溶液の回収
実施例4で作製した分泌型AZU1一過性発現293T細胞を72時間培養した後に、培養液を遠心分離し、上清を分泌型AZU1溶液として回収した。
【0065】
[実施例6]超遠心法による細胞分泌微粒子の回収
293T細胞株、実施例4で作製した分泌型AZU1一過性発現293T細胞、ヒト腎癌由来ACHN細胞株、ならびにAZU1-FLAG発現ACHN細胞(特許文献4および非特許文献6)を、AMICON ULTRA-15、100 KDa cutoff(Merck Millipore製)で限外ろ過したFBSを10%添加したD-MEM培地を用いて5%CO2インキュベータにて37℃で48時間培養した後に、以下の方法で細胞分泌微粒子を回収した。
【0066】
[1]培養液60mLを、4℃、2000×gで30分間遠心し、上清を回収した。
[2]上記の遠心上清を、4℃、16000×gで30分間遠心し、上清を回収した。
[3]上記の遠心上清を、4℃、100000×gで16時間超遠心を行い、上清を除去して沈殿を回収した。
[4]上記の超遠心沈殿にPBSを加え、4℃、100000×gで16時間超遠心を行い、上清を除去して沈殿を回収した。
[5]上記の超遠心沈殿にPBSを200μL添加し、ピペッティングにより懸濁し、細胞分泌微粒子を回収した。
【0067】
[実施例7]免疫および細胞融合
4匹のBalb/cマウスに対して、実施例1で構築したGPIアンカー型AZU1発現プラスミド40μg/匹の投与を7日ごとに計6回行った後、脾臓細胞を採取した。常法に従い、回収した脾臓細胞とマウスミエローマSp2/0細胞株をポリエチレングリコール存在下で融合し、HAT(Sigma-Aldrich製)を添加したGIT培地(富士フイルム和光純薬製)で約10日間培養することによりハイブリドーマ細胞を選択した。
【0068】
[実施例8]抗AZU1抗体産生細胞のスクリーニング(1)
抗AZU1抗体を産生するハイブリドーマ細胞を、実施例3で作製したGPIアンカー型AZU1恒常発現CHO-K1細胞を用いて、以下に示す細胞酵素免疫測定法(CELISA)によりスクリーニングした。
【0069】
[1]96ウェルマイクロプレート(Falcon製)に、GPIアンカー型AZU1恒常発現CHO-K1細胞を5×104個/ウェル添加し、10%FBS添加Ham’s F12培地(富士フイルム和光純薬製)を用いて5%CO2インキュベータにて37℃で24時間培養した。
[2]PBSにより3回洗浄を行い、1%BSAを含むPBSで2μg/mLに希釈したマウスIgG(陰性対照、NC)および市販のマウス抗AZU1抗体(R&D Systems製)(陽性対照、PC)ならびに無希釈のハイブリドーマ細胞培養上清を、50μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[3]PBSにより3回洗浄を行い、1%BSAを含むPBSで20000倍希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスイムノグロブリンG-Fc抗体(Sigma-Aldrich製)を50μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
【0070】
[4]PBSにより3回洗浄を行い、TMB Microwell Peroxidase Substrate(SeraCare Life Sciences製)を50μL/ウェル添加し、室温で10分間放置した。
[5]1mol/Lリン酸水溶液を50μL/ウェル添加して反応を停止した。
[6]吸光プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定した。
測定結果を図1に示す。6つのハイブリドーマ細胞培養上清(1-2、1-7、1-8、1-13、1-14および1-15)から高いシグナルが検出された。
【0071】
[実施例9]抗AZU1抗体産生細胞のスクリーニング(2)
抗AZU1抗体を産生するハイブリドーマを、実施例5で作製した分泌型AZU1溶液を用いて、以下に示すサンドイッチELISAによりスクリーニングした。
【0072】
[1]Maxisorp 96ウェルマイクロプレート(Thermo Fisher Scientific製)に、炭酸緩衝液(pH9.8)で2μg/mLに希釈した抗FLAG抗体を50μL/ウェル添加し、4℃で一晩放置して固相化した。
[2]0.05% Tween 20を含むTBS(TBST)により3回洗浄を行い、SuperBlock(PBS)(Thermo Fisher Scientific製)を200μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[3]TBSTにより3回洗浄を行い、1%BSAを含むPBSで5倍希釈した実施例5で作製した分泌型AZU1を50μL/ウェル添加し、室温で2時間放置した。
【0073】
[4]TBSTにより3回洗浄を行い、1%BSAを含むPBSで2μg/mLに希釈したマウスIgG(陰性対照、NC)および市販のマウス抗AZU1抗体(R&D Systems製)(陽性対照、PC)ならびに無希釈のハイブリドーマ細胞培養上清を、50μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[5]TBSTにより3回洗浄を行い、1%BSAを含むPBSで20000倍希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスイムノグロブリンG-Fc抗体(Sigma-Aldrich製)を50μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[6]TBSTにより3回洗浄を行い、SureBlue Reserve TMB(SeraCare Life Sciences製)を50μL/ウェル添加し、室温で10分間放置した。
【0074】
[7]1mol/Lリン酸水溶液を50μL/ウェル添加して反応を停止した。
[8]吸光プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定した。
測定結果を図2に示す。7つのハイブリドーマ細胞培養上清(1-2、1-5、1-7、1-8、1-13、1-14および1-15)から高いシグナルが検出された。
【0075】
[実施例10]抗AZU1抗体産生細胞のクローニング
実施例8および実施例9の結果に基づいて選択された3つのハイブリドーマ細胞(1-2、1-8および1-14)を、限界希釈法によりクローニングを行い、HT(Sigma-Aldrich製)添加GIT培地からHTを含まないGIT培地に馴化培養し、最終的に3つの抗AZU1抗体産生細胞株(クローン1-2、1-8および1-14)を樹立した。
【0076】
[実施例11]抗AZU1モノクローナル抗体の作製
実施例10で樹立した3つの抗AZU1抗体産生細胞(クローン1-2、1-8および1-14)の培養上清から、Protein Gカラムを用いて、常法に従いモノクローナル抗体を精製した。各精製抗体をPBSで透析後、280nmにおける吸光度を測定してタンパク質濃度を定量した。
【0077】
[実施例12]ビオチン標識抗体の作製
抗CD81抗体、抗CD9抗体および抗CD63抗体(いずれもフロンティア研究所製)ならびに実施例11で調製した3つの抗AZU1抗体(クローン1-2、1-8および1-14)をそれぞれ、Biotin labeling Kit-NH2標識キット(同仁化学研究所製)を用いて、製品取扱説明書に記載されたプロトコルに従いビオチン標識した。
【0078】
[実施例13]抗AZU1モノクローナル抗体の性能評価(1)
実施例6で作製した293T、293T-AZU1、ACHN、ACHN-AZU1細胞由来の分泌微粒子を、表3に記載された8通りのサンドイッチELISAにより測定した。
【0079】
【表3】
【0080】
具体的な方法を以下に示す。
[1]Maxisorp 96ウェルマイクロプレート(Thermo Fisher Scientific製)に、炭酸緩衝液(pH9.8)で4μg/mLに希釈した表3に記載の固相抗体を50μL/ウェル添加し、4℃で一晩放置して固相化した。
[2]PBSにより3回洗浄を行い、SuperBlock(PBS)(Thermo Fisher Scientific製)を300μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[3]PBSにより3回洗浄を行い、1%BSAを含むPBSで10倍希釈した超遠心沈殿を50μL/ウェル添加し、室温で2時間放置した。
【0081】
[4]PBSにより3回洗浄を行い、1%BSAを含むPBSで2μg/mLになるように希釈した表3に記載のビオチン標識抗体を50μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[5]PBSにより3回洗浄を行い、1%BSAを含むPBSで50000倍希釈したStreptavidin-PolyHRP40(Stereospecific Detection technologies製)を50μL/ウェル添加し、室温で30分間放置した。
[6]PBSにより3回洗浄を行い、SureBlue Reserve TMB(SeraCare Life Sciences製)を50μL/ウェル添加し、室温で10分間放置した。
【0082】
[7]1mol/Lリン酸水溶液を50μL/ウェル添加して反応を停止した。
[8]吸光プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定した。
【0083】
測定結果を図3および図4に示す(NCは陰性対象)。抗AZU1抗体を固相抗体、ビオチン標識抗体のいずれかに用いることにより、AZU1を含む細胞分泌微粒子を検出可能であることが示された。特にクローン1-14において高い検出感度を有することが示された。
以降、抗AZU1抗体について、特に明示されていない場合はクローン1-14を指すものとする。
【0084】
[実施例14]抗AZU1モノクローナル抗体の性能評価(2)
実施例6で作製した293T、293T-AZU1、ACHN、ACHN-AZU1細胞由来の分泌微粒子を、表4に記載された3通りのサンドイッチELISAにより測定した。
【0085】
【表4】
【0086】
具体的な方法は、実施例13と同様である。
測定結果を図5に示す(NCは陰性対象)。抗CD81抗体、抗CD9抗体、抗CD63抗体のいずれを固相抗体として用いても、AZU1を含む細胞分泌微粒子を検出可能であることが示された。
【0087】
[実施例15]健常者および胃癌患者の血清検体のAZU1測定(1)
本実施例で使用した健常者血清検体の内訳を表5に示す。健常者血清はいずれも、東ソー株式会社バイオサイエンス事業部倫理委員会の承認および検体提供者の同意を受けて、東ソー株式会社東京研究センター健康管理センターにて採取されたものである。
【0088】
【表5】
【0089】
本実施例で使用した胃癌患者血清検体の内訳を表6に示す。胃癌患者血清はPROMEDDX社およびBioIVT社から購入したものである。いずれも、各社の製品添付書類に倫理委員会承認済のプロトコルで収集されたことが明記されている。
【0090】
【表6】
【0091】
上記の血清検体を、表7に記載された6通りのサンドイッチELISAにより測定した。
【0092】
【表7】
【0093】
具体的な方法を以下に示す。
[1]Maxisorp 96ウェルマイクロプレート(Thermo Fisher Scientific製)に、炭酸緩衝液(pH9.8)で4μg/mLに希釈した表7に記載の固相抗体を50μL/ウェル添加し、4℃で一晩放置して固相化した。
[2]PBSにより3回洗浄を行い、SuperBlock(PBS)(Thermo Fisher Scientific製)を300μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[3]PBSにより3回洗浄を行い、1%BSAおよび0.05mg/mL異好性阻止試薬HBR1(Scantibodies Laboratory製)を含むPBSで5倍希釈した血清検体を50μL/ウェル添加し、室温で2時間放置した。
【0094】
[4]PBSにより3回洗浄を行い、1%BSAを含むPBSで2μg/mLになるように希釈した表7に記載のビオチン標識検出抗体を50μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[5]PBSにより3回洗浄を行い、1%BSAを含むPBSで50000倍希釈したStreptavidin-PolyHRP40(Stereospecific Detection technologies製)を50μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[6]PBSにより3回洗浄を行い、SureBlue Reserve TMB(SeraCare Life Sciences製)を50μL/ウェル添加し、室温で10分間放置した。
【0095】
[7]1mol/Lリン酸水溶液を50μL/ウェル添加して反応を停止した。
[8]吸光プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定した。
【0096】
6通りのサンドイッチELISAにおける吸光度のボックスプロットを図6~11に示す。6通りのサンドイッチELISAにおける、健常者群および胃癌患者群の吸光度の最小値、25パーセンタイル、中央値、75パーセンタイル、最大値、95%信頼区間における吸光度の範囲、およびマン・ホイットニーのU検定のp値を表8に示す。いずれのサンドイッチELISAにおいても、胃癌患者群において健常者群と比較して高値傾向を示し、特に実施例15-1、15-2、15-6に示した固相抗体とビオチン標識抗体の組合せを用いた場合にp<0.05であり統計学的な有意差が認められた。
【0097】
【表8】
【0098】
[実施例16]健常者および胃癌患者の血清検体のAZU1測定(2)
実施例15で使用したものと同じ血清検体を、以下に示すサンドイッチELISAにより測定した。
[1]Maxisorp 96ウェルマイクロプレート(Thermo Fisher Scientific製)に、PBSで4μg/mLに希釈したホスファチジルセリン受容体Tim4-hFc(富士フイルム和光純薬製)を50μL/ウェル添加し、4℃で一晩放置して固相化した。
[2]PBSにより3回洗浄を行い、SuperBlock(PBS)(Thermo Fisher Scientific製)を300μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[3]TBSにより3回洗浄を行い、1%BSA、2mM CaCl2および0.05mg/mL異好性阻止試薬HBR1(Scantibodies Laboratory製)を含むTBSで5倍希釈した血清検体を50μL/ウェル添加し、室温で2時間放置した。
【0099】
[4]2mM CaCl2を含むTBSにより3回洗浄を行い、1%BSAおよび2mM CaCl2を含むTBSで2μg/mLになるように希釈したビオチン標識抗AZU1抗体(クローン1-14)を50μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[5]2mM CaCl2を含むTBSにより3回洗浄を行い、1%BSAおよび2mM CaCl2を含むTBSで50000倍希釈したStreptavidin-PolyHRP40(Stereospecific Detection technologies製)を50μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[6]2mM CaCl2を含むTBSにより3回洗浄を行い、SureBlue Reserve TMB(SeraCare Life Sciences製)を50μL/ウェル添加し、室温で10分間放置した。
【0100】
[7]1mol/Lリン酸水溶液を50μL/ウェル添加して反応を停止した。
[8]吸光プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定した。
吸光度のボックスプロットを図12に示す。健常者群および胃癌患者群の吸光度の最小値、25パーセンタイル、中央値、75パーセンタイル、最大値、95%信頼区間における吸光度の範囲、およびマン・ホイットニーのU検定のp値を表9に示す。胃癌患者群において健常者群と比較して高値傾向を示し、p<0.05であり統計学的な有意差が認められた。
【0101】
【表9】
【0102】
[比較例1]健常者および胃癌患者血清検体のCEA測定
実施例15および16で使用したものと同じ血清検体を、全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-2000(東ソー製)を評価用装置として癌胎児性抗原CEA測定試薬(東ソー製、承認番号20100EZZ00112000)を用いて、既存の代表的な胃癌マーカーであるCEAを測定した。
【0103】
測定値のボックスプロットを図13に示す。健常者群および胃癌患者群のCEA濃度の最小値、25パーセンタイル、中央値、75パーセンタイル、最大値、95%信頼区間におけるCEA濃度の範囲、およびマン・ホイットニーのU検定のp値を表10に示す。
【0104】
【表10】
【0105】
[実施例17]AZU1とCEAの胃癌検出性能の比較
実施例15~16、比較例1の測定結果に基づく、健常者群および胃癌患者群間における受信者動作特性(ROC)曲線解析の結果を図14~21に、ROC曲線下面積(AUC)および95%信頼区間におけるAUCの範囲を表11に示す。実施例15-1、15-2、15-5、15-6、および16において、CEAと比較してAUCが上回り、優れた胃癌検出性能を有することが示された。
【0106】
【表11】
【0107】
実施例15および16についてはROC曲線解析において感度+特異度-1で算出されるYouden Indexが最大となる値を、比較例1については一般的なCEAの基準値である5.0ng/mLをカットオフ値として設定した場合の、感度および特異度を表12に示す。実施例15-1、15-2、15-6、および16において、CEAと比較して感度が上回り、かつ特異度は同等であり、優れた胃癌検出性能を有することが示された。
【0108】
【表12】
【0109】
[実施例18]乳癌患者血清検体の測定
本実施例で使用した健常者血清検体は実施例15~16、比較例1で使用したものと同じである。本実施例で使用した乳癌患者血清検体の内訳を表13に示す。乳癌患者血清検体はいずれもPROMEDDX社から購入したものであり、倫理委員会承認済のプロトコルで収集されたことが製品添付書類に明記されている。
【0110】
【表13】
【0111】
上記の検体を、表7の条件1~3に記載されたサンドイッチELISAにより測定した。具体的な方法は、実施例15と同様である。
【0112】
吸光度のボックスプロットを図22~24に示す。健常者群および乳癌患者群の吸光度の最小値、25パーセンタイル、中央値、75パーセンタイル、最大値、95%信頼区間における吸光度の範囲、およびマン・ホイットニーのU検定のp値を表14に示す。いずれのサンドイッチELISAにおいても、乳癌患者群において健常者群と比較して高値傾向を示し、p<0.05であり統計学的な有意差が認められた。
【0113】
【表14】
【0114】
[実施例19]大腸癌患者血清検体の測定
本実施例で使用した健常者血清検体は実施例15~16、比較例1で使用したものと同じである。本実施例で使用した大腸癌患者血清検体の内訳を表15に示す。大腸癌患者血清検体はいずれもPROMEDDX社から購入したものであり、倫理委員会承認済のプロトコルで収集されたことが製品添付書類に明記されている。
【0115】
【表15】
【0116】
上記の検体を、表7の条件1~3に記載されたサンドイッチELISAにより測定した。具体的な方法は、実施例15と同様である。
【0117】
吸光度のボックスプロットを図25~27に示す。健常者群および大腸癌患者群の吸光度の最小値、25パーセンタイル、中央値、75パーセンタイル、最大値、95%信頼区間における吸光度の範囲、およびマン・ホイットニーのU検定のp値を表16に示す。いずれのサンドイッチELISAにおいても、大腸癌患者群において健常者群と比較して高値傾向を示し、特に実施例20-1および20-3に示した固相抗体とビオチン標識抗体の組合せを用いた場合にp<0.05であり統計学的な有意差が認められた。
【0118】
【表16】
【0119】
[実施例20]肺癌患者血清検体の測定
本実施例で使用した健常者血清検体は実施例15~16、比較例1で使用したものと同じである。本実施例で使用した肺癌患者血清検体の内訳を表17に示す。肺癌患者血清検体はいずれもPROMEDDX社から購入したものであり、倫理委員会承認済のプロトコルで収集されたことが製品添付書類に明記されている。
【0120】
【表17】
【0121】
上記の検体を、表7の条件1~3に記載されたサンドイッチELISAにより測定した。具体的な方法は、実施例15と同様である。
吸光度のボックスプロットを図28~30に示す。健常者群および肺癌患者群の吸光度の最小値、25パーセンタイル、中央値、75パーセンタイル、最大値、95%信頼区間における吸光度の範囲、およびマン・ホイットニーのU検定のp値を表18に示す。いずれのサンドイッチELISAにおいても、肺癌患者群において健常者群と比較して高値傾向を示し、特に実施例20-2に示した固相抗体とビオチン標識抗体の組合せを用いた場合にp<0.05であり統計学的な有意差が認められた。
【0122】
【表18】
【0123】
[実施例21]健常人および各種癌患者の血清検体の遊離AZU1測定
本実施例で使用した血清検体の内訳を表19に示す。健常者血清検体はいずれも、東ソー株式会社バイオサイエンス事業部倫理委員会の承認および検体提供者の同意を受けて、東ソー株式会社東京研究センター健康管理センターにて採取されたものである。肺癌、大腸癌、乳癌、および胃癌血清検体はいずれも、PROMEDDX社およびBioIVT社から購入したものであり、各社の製品添付書類に倫理委員会承認済のプロトコルで収集されたことが明記されている。
【0124】
【表19】
【0125】
上記の血清検体に含まれる遊離AZU1の濃度を、市販のAZU1 ELISAキット(Sino Biological製、製品番号SEK10660)を用いたサンドイッチELISAにより測定した。なお、本実施例によって測定されるAZU1は、可溶性タンパク質として存在するAZU1と、細胞分泌微粒子上に存在するAZU1の両方である。
【0126】
具体的な方法を以下に示す。
[1]Maxisorp 96ウェルマイクロプレート(Thermo Fisher Scientific製)に、PBSで2μg/mLに希釈したウサギ抗ヒトAZU1モノクローナル抗体を100μL/ウェル添加し、4℃で一晩放置して固相化した。
[2]0.05% Tween20を含むTBSにより3回洗浄を行い、2%BSAおよび0.05% Tween20を含むTBSを300μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[3]0.05% Tween20を含むTBSにより3回洗浄を行い、0.1%BSA、0.05% Tween20および0.05mg/mL異好性阻止試薬HBR1(Scantibodies Laboratory製)を含むTBSで10倍に希釈された血清検体、又は前述の希釈液に組換えヒトAZU1を添加して調製した既知濃度の標準試料を100μL/ウェル添加し、室温で2時間放置した。
【0127】
[4]0.05% Tween20を含むTBSにより3回洗浄を行い、0.5%BSAおよび0.05% Tween20を含むTBSで0.5μg/mLになるように希釈したHRP標識ウサギ抗ヒトAZU1ポリクローナル抗体を100μL/ウェル添加し、室温で1時間放置した。
[5]0.05% Tween20を含むTBSにより3回洗浄を行い、SureBlue Reserve TMB(SeraCare Life Sciences製)を200μL/ウェル添加し、室温で10分間放置した。
[6]1mol/L硫酸水溶液を50μL/ウェル添加して反応を停止した。
[7]吸光プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定した。
[8]組換AZU1を標準品として検量線を作成し、検体中の遊離AZU1濃度を算出した。
【0128】
血清検体に含まれる遊離AZU1濃度のボックスプロットを図31に示す。健常者群および各種癌患者群の吸光度の最小値、25パーセンタイル、中央値、75パーセンタイル、最大値、95%信頼区間における遊離AZU1濃度の範囲、およびそれぞれの癌種群と健常者群を比較した場合のマン・ホイットニーのU検定のp値を表20に示す。いずれの癌種においても健常者群と比較して高値傾向を示し、p<0.05であり統計学的な有意差が認められた。
【0129】
【表20】
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明により、癌を簡便かつ高い精度で検出する方法、および前記方法に利用できる試薬が提供される。これらは、各種癌のスクリーニング、治療効果判定、および術後経過観察の用途に好適に用いることができるため、産業上非常に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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【配列表】
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