(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】光触媒および光触媒を用いた過酸化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 27/24 20060101AFI20240903BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20240903BHJP
C01B 15/027 20060101ALI20240903BHJP
C01B 21/082 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B01J27/24 M
B01J35/39
C01B15/027
C01B21/082 K
(21)【出願番号】P 2020130283
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019164574
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020039239
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横野 照尚
(72)【発明者】
【氏名】滕 鎮遠
(72)【発明者】
【氏名】須▲崎▼ 友文
(72)【発明者】
【氏名】堤内 出
(72)【発明者】
【氏名】仮屋 伸子
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105032463(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104607240(CN,A)
【文献】特開2017-100923(JP,A)
【文献】特開2011-195412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 15/027
C01B 21/082
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化炭素に、
砒素及びアンチモンから選ばれる少なくとも1種の元素を担持する、光触媒。
【請求項2】
前記窒化炭素100重量%に対する前記元素の含有量が、1重量%以上80重量%以下である、請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
原料として水と酸素とを用い、かつ、触媒として
、窒化炭素に、窒素を除く第15族元素、炭素とケイ素を除く第14族元素、及びホウ素とアルミニウムを除く第13族元素、から選ばれる少なくとも1種の元素を担持する、光触媒を用い、光照射により前記水と前記酸素とを反応させる工程を含む、過酸化水素の製造方法。
【請求項4】
前記光触媒において、前記窒化炭素100重量%に対する前記元素の含有量が1重量%以上80重量%以下である、請求項3に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項5】
前記光触媒において、前記元素が、リン、砒素、及びアンチモンから選ばれる少なくとも1種の元素である、請求項3又は4に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項6】
前記原料が酸素を含む水である、請求項
3~5のいずれか1項に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項7】
酸素を含むガスを水中に放出する工程を含む、請求項
6に記載の過酸化水素の製造方法。
【請求項8】
光触媒の製造方法であって、
前記光触媒は、窒化炭素に、窒素を除く第15族元素、炭素とケイ素を除く第14族元
素、及びホウ素とアルミニウムを除く第13族元素、から選ばれる少なくとも1種の元素を担持し、
窒素と、炭素と、窒素を除く第15族元素、炭素とケイ素を除く第14族元素、及びホウ素とアルミニウムを除く第13族元素、から選ばれる少なくとも1種の元素と、を含む原料を反応させて前記窒化炭素を生成する反応工程を有し、
前記反応工程において、前記原料中の窒素を除く第15族元素、炭素とケイ素を除く第14族元素、及びホウ素とアルミニウムを除く第13族元素、から選ばれる少なくとも1種の元素の含有量が、前記窒化炭素100重量%に対して、1重量%以上80重量%以下である、光触媒の製造方法。
【請求項9】
前記原料が、窒素及び炭素を含む化合物と、窒素を除く第15族元素、炭素とケイ素を除く第14族元素、及びホウ素とアルミニウムを除く第13族元素、から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物とを含む、請求項
8に記載の光触媒の製造方法。
【請求項10】
前記元素が、リン、砒素、及びアンチモンから選ばれる少なくとも1種の元素である、請求項8又は9に記載の光触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒およびその製造方法、ならびに光触媒を用いた過酸化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、取扱い性や、貯蔵性、環境への安全性に優れる強力な酸化剤であり、漂白剤や、洗浄剤、殺菌剤等の用途で幅広く利用されている。
【0003】
近年、過酸化水素の製造方法としては、アントラキノン法が主に用いられている(特許文献1)。アントラキノン法とは、溶媒に溶解させたアントラヒドロキノンを酸素と反応させ、アントラヒドロキノンを酸化し、酸素を還元させることにより、アントラキノンとともに過酸化水素水を発生させる方法である。しかしながら、アントラキノン法においては、有機溶媒を除去する必要があること、及び副反応を起こしたアントラキノンの再生が必要であること等により、製造工程が複雑化してしまう問題がある。
また、アントラキノン法以外では、水素と酸素とを直接反応させて過酸化水素を製造する直接合成法が研究されている(非特許文献1)。しかしながら、この直接合成法においては、水素と酸素との反応に伴う爆発の危険という問題がある。
【0004】
上記の2つの方法における問題点を回避することができる過酸化水素の製造方法として、光触媒による過酸化水素合成を用いた方法に関する研究が行われている。
しかしながら、この光触媒による過酸化水素合成においては、原料として安価な水を用いた場合、収率が低くなるため、酢酸溶液や2-プロパノール水溶液等の有機溶液を用いることが必要となる、という問題がある(特許文献2)。また、過酸化水素の高い酸化能により触媒が酸化されてしまうため、収率の低下や製造工程の複雑化が生じてしまうという問題がある。
【0005】
水と酸素とを原料とする過酸化水素の製造用の光触媒としては、C3N4が注目されている。
例えば、分子で修飾したC3N4(非特許文献2及び3)、及びNaBH4を用いて還元したC3N4(非特許文献4)を光触媒として用いて、水と酸素とを原料として過酸化水素を生成する方法が報告されているが、いずれの方法においても非常に収率が低く効率が悪い、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-135230号公報
【文献】特開2010-188240号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Dr. Richard J. Lewis, Prof. Graham J. Hutchings, ChemCatChem, 11, 298-308 (2019)
【文献】Yusuke Kofuji, Takayuki Hirai, et al., ACS Catalysis, 6, 7021-7029 (2016)
【文献】Shiraishi Y, Hirai T, et al., Angewandte Chemie, 53, 13454-13459 (2014)
【文献】Zedong Zhu, et al., Applied Catalysis B, 232, 19-25 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した問題を解決するため、本発明は、有機溶媒等を使用することなく、かつ、連続的に高効率で過酸化水素を製造する方法を提供することのできる光触媒及びその製造方法、並びに該触媒を用いた過酸化水素の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、光触媒に特定の元素を担持させることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 窒化炭素に、窒素を除く第15族元素、炭素とケイ素を除く第14族元素、及びホウ素とアルミニウムを除く第13族元素、から選ばれる少なくとも1種の元素を担持する、光触媒。
[2] 前記窒化炭素100重量%に対する前記元素の含有量が、1重量%以上80重量%以下である、[1]に記載の光触媒。
[3] 前記元素が、リン、砒素、及びアンチモンから選ばれる少なくとも1種の元素である、[1]又は[2]に記載の光触媒。
[4] 原料として水と酸素とを用い、かつ、触媒として[1]~[3]のいずれかに記載の光触媒を用い、光照射により前記水と前記酸素とを反応させる工程を含む、過酸化水素の製造方法。
[5] 前記原料が酸素を含む水である、[4]に記載の過酸化水素の製造方法。
[6] 酸素を含むガスを水中に放出する工程を含む、[5]に記載の過酸化水素の製造方法。
[7] [1]~[3]のいずれかに記載の光触媒の製造方法であって、
窒素と、炭素と、窒素を除く第15族元素、炭素とケイ素を除く第14族元素、及びホウ素とアルミニウムを除く第13族元素、から選ばれる少なくとも1種の元素と、を含む原料を反応させて前記窒化炭素を生成する反応工程を有し、
前記反応工程において、前記原料中の窒素を除く第15族元素、炭素とケイ素を除く第14族元素、及びホウ素とアルミニウムを除く第13族元素、から選ばれる少なくとも1種の元素の含有量が、前記窒化炭素100重量%に対して、1重量%以上80重量%以下である、光触媒の製造方法。
[8] 前記原料が、窒素及び炭素を含む化合物と、窒素を除く第15族元素、炭素とケイ素を除く第14族元素、及びホウ素とアルミニウムを除く第13族元素、から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物とを含む、[7]に記載の光触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、有機溶媒等を使用することなく、かつ、連続的に高効率で過酸化水素を製造する方法を提供することのできる光触媒及びその製造方法、並びに該触媒を用いた過酸化水素の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1~4、及び比較例1において、触媒を懸濁させた水溶液のpHを1.7とした場合における、過酸化水素の生成量の経時変化を示すグラフである。
【
図2】実施例1~4、及び比較例1において、触媒を懸濁させた水溶液のpHを7とした場合における、過酸化水素の生成量の継時変化を示すグラフである。
【
図3】実施例3、及び比較例1において、触媒を懸濁させた水溶液のpHを7又は13とした場合における、過酸化水素の生成量の継時変化を示すグラフである。
【
図4】実施例5~7、及び比較例1~3における、触媒を懸濁させた水溶液のpHを7とした場合における、過酸化水素の生成量の継時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これら説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0013】
<1.光触媒>
本発明の一実施形態である光触媒(以下、単に「光触媒」とも称する)は、窒化炭素に、窒素を除く第15族元素、炭素とケイ素を除く第14族元素、及びホウ素とアルミニウムを除く第13族元素、から選ばれる少なくとも1種の元素を担持する、光触媒である。
光触媒とは、光によって励起状態になり、化学反応を促進できる物質である。
【0014】
窒化炭素とは、主構造がC3N4の化学式で表される化合物である。この主構造がC3N4の化学式で表される化合物とは、本発明の効果が奏される範囲で、C3N4の結晶格子の一部が欠落している構造、他の元素により置換された構造、C3N4の構造以外の構造等を有していてもよいという意味である。
【0015】
窒化炭素の形態は、特段制限されず、例えば、グラファイト状窒化炭素(黒鉛状C3N4、g-C3N4)や、α-C3N4、立方晶C3N4、擬立方晶C3N4等の高分子状窒化炭素を用いることができ、特に、可視光、近紫外光の吸収効率の高さ、製造の容易さの観点から、グラファイト状窒化炭素であることが好ましい。
上述の窒化炭素に、後述の元素が担持されると活性点が形成され、本発明の効果が奏される、つまり、過酸化水素の生成効率が向上すると考えられる。ここで、担持とは、例えば単独の陽イオンとして、塩として、または錯体として母材である窒化炭素に付着させることであり、あらかじめ付着させておいてもよいし、母材と元素を別々に反応容器に加え、反応容器内で付着させてもよい。
【0016】
窒化炭素に担持される、窒素(N)を除く第15族元素とは、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)であり、炭素(C)とケイ素(Si)を除く第14族元素とは、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、鉛(Pb)であり、及びホウ素(B)とアルミニウム(Al)を除く第13族元素とは、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)であり、P、As、Sbであることが好ましく、特に、Sbであることが好ましい。Sbは、最外殻電子配置がd10となっているSb5+もしくはSb3+の状態で、特に高い活性を持つと考えられる。
窒化炭素に担持される元素は、これらの元素から選ばれる1種で用いてもよく、2種以上を任意の組合せ及び比率で用いてもよい。
【0017】
上記の担持される元素の含有量は、例えば、g-C3N4に担持されていない元素を除去するため、元素担持ずみ光触媒60mgに対し、80~100℃の熱水100mLで洗浄を3~5回繰り返した後に、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析を行うことで評価できる。窒化炭素(上記の担持される元素等を除く窒化炭素自体)を100重量%とした場合に、上記の担持される元素の含有量は、活性点の密度は高い方がよいこと、一方で、光触媒(窒化炭素)を覆うことによる光触媒に達する光量の減少は抑える必要があるという観点から、通常1重量%以上であり、5重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましく、40重量%以上であることがさらに好ましく、また、通常200重量%以下であり、120重量%以下であることが好ましく、80重量%以下であることがより好ましい。g-C3N4に担持されていない元素を除去するための洗浄として、5回以上熱水で実施する代わりに、常温水で3回繰り返して実施してもよい。常温水で洗浄した場合、熱水で洗浄した場合よりも、金属担持量が若干多く計測されることがある。なお、添加元素の存在量に関しては、大量に添加しない限り、仕込みとほぼ同量であると推測される。
【0018】
窒化炭素は、上記の元素以外の元素を担持していてもよく、該元素としては、例えば、ホウ素、酸素、ケイ素、アルミニウムが挙げられる。
【0019】
光触媒の形状は、特段制限されず、例えば、粒子状、膜状、ネット状、繊維状等の形状とすることができるが、単独で使用してもよく、凝集させたものを使用してもよい。また、支持体に固定させて使用してもよい。
【0020】
光触媒が粒子状である場合、その平均粒子径は、特段制限されないが、光の散乱を抑えるためには高い結晶性が有利であり、そのために平均粒子径は大きくなるが、一方で活性点を増やすためには比表面積を大きくすることが有利であり、平均粒子径は小さいことが望まれる。この観点から、通常0.02μm以上であり、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましく、また、通常30μm以下であり、10μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましい。
平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定することができる。具体的には、粒子が確認できる倍率、例えば10000~100000倍の倍率の写真で、水平方向の直線に対する粒子の左右の境界線による切片の最長の値を、任意の50個の一次粒子について求め、平均値をとることにより求められる。
【0021】
光触媒の比表面積は、特段制限されないが、上記の平均粒子径の好適範囲の理由と同様の理由から、通常0.1m2/g以上であり、1m2/g以上であることが好ましく、3m2/g以上であることがより好ましく、5m2/g以上であることがさらに好ましく、また、通常500m2/g以下であり、200m2/g以下であることが好ましく、100m2/g以下であることがより好ましく、50m2/g以下であることがさらに好ましい。
比表面積は、公知の方法により測定することができる。
【0022】
光触媒の製造方法は、特段制限されず、窒化炭素に特定の元素を担持させることのできる公知の方法を利用することができ、例えば、以下に示す本願発明の別の実施形態である光触媒の製造方法により製造することができる。
本発明の別の実施形態である光触媒の製造方法(単に「光触媒の製造方法」とも称する)は、窒素と、炭素と、窒素を除く第15族元素、炭素とケイ素を除く第14族元素、及びホウ素とアルミニウムを除く第13族元素、から選ばれる少なくとも1種の元素(「担持される元素」又は「担持元素」とも称する)と、を含む原料を反応させて前記窒化炭素を生成する反応工程を有し、
前記反応工程において、前記原料中の窒素を除く第15族元素、炭素とケイ素を除く第14族元素、及びホウ素とアルミニウムを除く第13族元素、から選ばれる少なくとも1種の元素の含有量が、前記窒化炭素100重量%に対して、1重量%以上80重量%以下である、製造方法である。該製造方法は、上記の反応工程以外の任意の工程を含み得る。
以下、上記の製造方法を詳細に説明するが、具体的には、例えば、上記の担持される元素を含む化合物、及び窒素及び炭素を含むメラミン等の化合物等を含む原料をエタノール等の有機溶媒に溶解させ、混合した後、500℃以上570℃以下で、好ましくは530℃以上570℃以下で焼成することにより、光触媒を製造することができる。
【0023】
光触媒の製造方法は、原料を準備する原料準備工程を含んでいてよい。原料は、窒素と、炭素と、担持元素とを少なくとも含んでいれば特段制限されず、通常2種類以上の化合物を含む。例えば、原料として、窒素及び炭素を含む化合物と担持元素を含む化合物とを用いる(含む)態様であってよく、また、窒素及び炭素を含む化合物と、1種類の担持元素を含む化合物と、該炭素元素とは異なる他の担持元素を含む化合物とを用いる(含む)態様であってもよい。
【0024】
<2.過酸化水素の製造方法>
本発明の別の実施形態である過酸化水素(H2O2)の製造方法(以下、単に「過酸化水素の製造方法」とも称する)は、原料として水と酸素とを用い、触媒として上述の光触媒を用い、光照射により前記水と前記酸素とを反応させる工程(反応工程)を含む、過酸化水素の製造方法である。なお、前記酸素は、その一部として、光触媒反応により水から生成する酸素も利用することができる。
なお、反応工程において、上述の光触媒を用いることは必須であるが、他の触媒を同時に用いることもできる。
【0025】
原料としての水の態様は、特段制限されないが、光触媒と接触する分子の数を多くするの観点から、液体であることが好ましい。
原料としての酸素の態様は、特段制限されないが、常温での保存、搬送、導入の便の観点から、気体(ガス)であることが好ましい。
また、上記の反応工程より前に、酸素を含むガスを水中に放出する工程(水中への酸素放出工程)を有していてもよい。該工程を導入することにより、原料として、酸素を含む水を用いることができ、有利である。酸素を含むガスに含まれる酸素以外のガスとしては、後述の雰囲気ガスとして用い得るガスを用いることができる。
酸素を含むガスを水中に放出する際の酸素の流量は、特段制限されないが、光触媒と接触する分子の数を多くする観点から、1Lの水に対し、標準状態換算で、通常0.1L/分以上であり、0.3L/分以上であることが好ましく、1L/分以上であることがより好ましく、3L/分以上であることがさらに好ましく、また、通常150L/分以下であり、50L/分以下であることが好ましく、20L/分以下であることがより好ましく、12.5L/分以下であることがさらに好ましい。
【0026】
水は、pH調整剤等によりpHが調整されていてもよい。この場合、pH調整された水溶液の触媒を懸濁させた状態でのpHは、特段制限されないが、過酸化水素の生成量の増加の観点、および反応器に用いる部材の自由度の観点から、通常1~14であり、5~11であることが好ましく、6~8であることがより好ましく、7~8であることがさらに好ましい。なお、上記pH調整剤等には、pHの調整を目的に添加された材料のみならず、他の目的で添加されるものであって、添加された結果としてpHが変化されるような材料も含まれる。
【0027】
反応器は、水と酸素とを反応させることができ、光を透過させることができるものであれば特段制限されず、一般的な反応器を用いることができる。光の透過については、反応器の全体が透過性を有するものであっても、一部分が透過性を有するものであってもよい。
反応時の水及び酸素の扱いは、特段制限されず、反応時において水及び/又は酸素を反応器外部から反応器内に常時流入させる態様でもよく、また、反応前に反応器内に水及び酸素を封入したものを反応させる態様でもよい。
反応時における反応器内の温度は、特段制限されないが、通常0℃以上であり、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがさらに好ましく、また、通常100℃以下であり、90℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることがさらに好ましい。
反応時における反応器内の圧力は、特段制限されないが、安全性の観点から、通常0.001Pa以上であり、0.01Pa以上であることが好ましく、0.03Pa以上であることがより好ましく、0.1Pa以上であることがさらに好ましく、また、通常0.9Pa以下であり、0.5Pa以下であることが好ましく、0.3Pa以下であることがより好ましく、0.2Pa以下であることがさらに好ましい。
【0028】
反応時において酸素を反応器外部から反応器内に常時流入させる態様において、酸素をガスとして用いる場合、反応器内への酸素ガスの流量は、特段制限されないが、1Lの水に対し、標準状態換算で、通常0.1L/分以上であり、0.3L/分以上であることが好ましく、1L/分以上であることがより好ましく、3L/分以上であることがさらに好ましく、また、通常150L/分以下であり、50L/分以下であることが好ましく、20L/分以下であることがより好ましく、12.5L/分以下であることがさらに好ましい。
【0029】
反応器内の雰囲気は、特段制限されず、大気であってもよく、酸素ガスで充填されていてもよく、また、酸素ガス以外の雰囲気ガスを導入してもよい。雰囲気ガスとしては、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましい。
【0030】
反応容器内における光触媒に対する水の比率は、特段制限されないが、一定容積の反応器から効率よく過酸化水素を得る観点から、重量比率で、通常10以上であり、30以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、200以上であることがさらに好ましく、また、通常30000以下であり、10000以下であることが好ましく、5000以下であることがより好ましく、2000以下であることがさらに好ましい。
【0031】
反応容器に対する水の体積比率は、特段制限されないが、酸素をガスとして用いた場合、一定容積の反応器から効率よく過酸化水素を得る観点から、通常10体積%以上であり、20体積%以上であることが好ましく、40体積%以上であることがより好ましく、60体積%以上であることがさらに好ましく、また、通常99.9体積%以下であり、99体積%以下であることが好ましく、95体積%以下であることがより好ましく、90体積%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
光照射に用いる光線の種類は、特段限定されず、例えば、紫外線、可視光線等を用い得る。
光源の種類も特段制限されないが、紫外線、可視光線を用いる場合、例えば、太陽光、キセノンランプ、超高圧UVランプ、超高圧水銀UVランプ、メタルハライドUVランプ、低圧水銀UVランプ、UV-LED、エキシマランプ等を用いることができる。また、光源は、1種類で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
光線の波長は、特段制限されないが、g-C3N4の光吸収の吸収端が450nmにあることから、通常250nm以上であり、300nm以上であることが好ましく、375nm以上であることがより好ましく、また、通常600nm以下であり、500nm以下であることが好ましく、450nm以下であることがより好ましい。
【0034】
光線の強度は、特段制限されないが、通常10mW/cm2以上であり、30mW/cm2以上であることが好ましく、80mW/cm2以上であることがより好ましく、また、通常5000mW/cm2以下であり、1000mW/cm2以下であることが好ましく、200mW/cm2以下であることがより好ましい。
光線の強度は、過酸化水素の生成反応の進行に応じて、適宜変更することもできる。
【0035】
過酸化水素の製造方法は、反応工程の後に、過酸化水素を回収する工程(回収工程)を有していてもよく、該工程により、反応工程で製造された過酸化水素をそのまま回収することができる。
反応工程での反応が終わった後、未反応の水及び酸素、並びに光触媒は、回収して別の反応系で再利用することができる。
【0036】
<3.過酸化水素の製造システム>
本発明の別の実施形態である過酸化水素の製造システムは、上述の光触媒を用い、水と酸素とを光照射により反応させることのできる、過酸化水素の製造システムである。
システムの態様は、特段制限されないが、例えば、原料として水と酸素とを用い、触媒として上述の光触媒を用い、光照射により前記水と前記酸素とを反応させることのできるシステムが挙げられる。
原料や反応器、反応条件に関する態様は、上述の<2.過酸化水素の製造方法>で示した態様を採用することができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
<光触媒の製造>
[実施例1]
0.5mmolのNaSbF6をエタノール(50mL)に溶解し1時間超音波処理を行った後、4gのメラミンを溶液中に添加した。さらに1時間超音波処理した後、回転蒸発により溶媒を除去し、窒素雰囲気中で20℃から560℃まで2.2℃/分の温度上昇率で昇温し、560℃で4時間保持した。調製した黄色の生成物を脱塩水で3回洗浄した後、真空乾燥炉で一晩乾燥させ、光触媒を得た。以下の実施例2、3、4及び比較例1について、g-C3N4が形成されていることをX線回折により確認しており、実施例5~9及び比較例2、3についても、g-C3N4が形成されていると推測される。
【0039】
NaSbF6の量を1mmolに変更したこと以外は、実施例1と同様に光触媒を製造した。
【0040】
[実施例3]
NaSbF6の量を3mmolに変更したこと以外は、実施例1と同様に光触媒を製造した。
【0041】
[実施例4]
NaSbF6の量を5mmolに変更したこと以外は、実施例1と同様に光触媒を製造した。
【0042】
[実施例5]
NaSbF6の量を15mmolに変更したこと以外は、実施例1と同様に光触媒を製造した。
【0043】
[実施例6]
0.5mmolのNaSbF6を、15mmolのNaAsF6に変更したこと以外は、実施例1と同様に光触媒を製造した。
【0044】
[実施例7]
0.5mmolのNaSbF6を、15mmolのNaPF6に変更したこと以外は、実施例1と同様に光触媒を製造した。
【0045】
[実施例8]
NaSbF6の量を10mmolに変更したこと以外は、実施例1と同様に光触媒を製造した。
【0046】
[実施例9]
NaSbF6の量を20mmolに変更したこと以外は、実施例1と同様に光触媒を製造した。
【0047】
[比較例1]
4gのメラミンを窒素雰囲気中で20℃から560℃まで2.2℃/分の温度上昇率で昇温し、560℃で4時間保持した。調製した生成物を脱塩水で3回洗浄した後、真空乾燥炉で一晩乾燥させた。
【0048】
[比較例2]
0.5mmolのNaSbF6を、15mmolのNaFに変更したこと以外は、実施例1と同様に光触媒を製造した。
【0049】
[比較例3]
0.5mmolのNaSbF6を、15mmolのNaCuF6に変更したこと以外は、実施例1と同様に光触媒を製造した。
【0050】
<Sb担持量の評価>
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例8、実施例5、比較例1、比較例2の光触媒60mgに対し、80~100℃の熱水100mLで洗浄を3~5回以上繰り返した後に、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析を行い、窒化炭素に対するSb担持量を評価した。触媒全重量に対するSbの重量、および担体である窒化炭素に対するSbの重量は以下の表1の通りであった。なお、上記の3~5回以上の洗浄により、光触媒の表面に残存している遊離のSbイオンは除去されている。
【0051】
【0052】
<過酸化水素の製造>
石英製の反応器(容量50ml)内で、水、もしくはpH調整した水(40ml)に触媒(60mg)を加え、ゴムセプタムで反応器を密閉した。pH調整については後述する。触媒を超音波処理により15分間分散させた後、酸素ガスによる反応器内の水のバブリングを30分間実施した。酸素ガスは0.5L/分の流量で導入し、30分間での全導入量は15Lであった。その後、酸素ガス導入を停止し、キセノンランプの光(フィルター透過前の強度は100mW/cm2)を長波長透過(780nm>λ>420nm)フィルターを介して反応器に導入し、水と酸素を反応させて過酸化水素を生成した。反応器内の圧力は1気圧、温度は室温(20~30℃)で反応を実施した。過酸化水素の定量は、KMnO4を用いた酸化還元滴定、及び4-アミノアンチピリンを用いた比色分析により実施した。
【0053】
<実験1-1>
実施例1~4、及び比較例1の光触媒を用いて、過酸化水素の生成量の光照射開始時からの経時変化を調べる実験を行った。この実験の結果を
図1に示す。
上記のpH調整した水として、水に0.1MのNaOH水溶液及び0.1MHCl水溶液を加えて、触媒を懸濁させた水溶液がpHを1.7となるよう調整したものを用いた。
図1から、本願実施形態に係る元素が担持された光触媒を用いた実施例1~4は、該元素で担持されていない光触媒を用いた比較例1よりも、過酸化水素の生成量が増加することが分かった。
また、実施例1~4の比較から、NaSbF
6の仕込み量の増加、つまり、窒化炭素へのSbの担持量の増加に伴い、過酸化水素の生成量が増加することが分かった。
【0054】
<実験1-2>
実施例5、8、9の光触媒を用いて、光照射下の過酸化水素生成量がNaSbF6の仕込み量にどのように依存するかを調べた。ただし、過酸化水素の製造において、水溶液は純水を用いた。光照射を120分行った後の過酸化水素生成量は下記の表2のようになった。この結果から、過酸化水素生成に最適なNaSbF6の仕込み量は、4gのメラミンに対して15mmol程度のNaSbF6であることが分かった。
【0055】
【0056】
<実験2>
実施例1~4、及び比較例1の光触媒を用いて、過酸化水素の生成量の光照射開始時からの経時変化を調べる実験を行った。この実験の結果を
図2に示す。
上記のpH調整した水として、水に0.1MのNaOH水溶液及び0.1MHCl水溶液を加えて、触媒を懸濁させた水溶液のpHを7に調整したものを用いた。
図2から、実験1と同様に、本願実施形態に係る元素が担持された光触媒を用いた実施例1~4は、該元素で担持されていない光触媒を用いた比較例1よりも、過酸化水素の生成量が増加することが分かった。
また、実験1と同様に実施例1~4の比較から、NaSbF
6の仕込み量の増加、つまり、窒化炭素へのSbの担持量の増加に伴い、過酸化水素の生成量が増加することが分かった。
実験1と2とを比較すると、NaSbF
6の仕込み量が0.5mmolのときは、pHの相違による過酸化水素の生成量の相違は見られなかったが、NaSbF
6の仕込み量が1~5mmolのときは、pH=7の方がpH=1よりも過酸化水素の生成量が多かった。また、比較例1については、pHの相違による過酸化水素の生成量の相違は見られなかった。
【0057】
<実験3>
実施例3及び比較例1の光触媒を用いて、過酸化水素の生成量の光照射開始時からの経時変化を調べる実験を行った。この実験の結果を
図3に示す。
上記のpH調整した水として、水に0.1MのNaOH水溶液及び0.1MHCl水溶液を加えて、pHを7及び13に調整したものを用いた。
図3から、実施例3におけるpH=7とpH=13との比較から、pH=7の方がpH=13よりも過酸化水素の生成量が多かった。
上記の実験1と2との比較結果を参照すると、pH=1.7及びpH=13よりも、pH=7の方が過酸化水素の生成量が多かった。つまり、pH調整した水は、酸性やアルカリ性であるよりも、中性である方が好ましいことが分かった。
【0058】
<実験4>
実施例5~7、及び比較例1~3の光触媒を用いて、過酸化水素の生成量の光照射開始時からの経時変化を調べる実験を行った。この実験の結果を
図4に示す。
ただし、過酸化水素の製造において、水溶液は純水を用いた。
図4から、実験1と同様に、本願実施形態に係る元素が担持された光触媒を用いた実施例1~4は、該元素で担持されていない光触媒を用いた比較例1よりも、過酸化水素の生成量が増加することが分かった。
また、実施例5~7の比較から、窒化炭素に担持される元素について、P、As、Sbの順に多くなることが分かった。
【0059】
<実験5>
光触媒として実施例5の光触媒を用いて、過酸化水素の生成量のpH依存性を調べる実験を行った。ただし、過酸化水素の製造において、純水に0.1MのNaOH水溶液および0.1MのHCl水溶液を加えて水溶液のpHを調整した。光照射を120分間行った後の過酸化水素生成量は下記の表3のようになった。この結果から、上述の過酸化水素の製造方法の説明における記載の通り、本触媒での過酸化水素製造において、pHは6~11であることが好ましいことが確認された。
【0060】
【0061】
<実験6>
光触媒として実施例5の光触媒を用い、水溶液としてリン酸緩衝溶液、もしくは0.1M NaHCO3 水溶液を用いて実験を行った。光照射を120分行った後の過酸化水素生成量は下記の表4のようになった。この結果から、リン酸緩衝溶液は本光触媒を用いた過酸化水素製造において好適であることが分かった。
【0062】
【0063】
上記実験1~6から、本願実施形態に係る光触媒を用いることにより、有機溶媒等を使用することなく、かつ、連続的に高効率で過酸化水素を製造することができることが分かった。