(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】水中付着生物防汚剤
(51)【国際特許分類】
A01N 47/46 20060101AFI20240909BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20240909BHJP
C07C 331/20 20060101ALN20240909BHJP
【FI】
A01N47/46
A01P17/00
C07C331/20
(21)【出願番号】P 2023137043
(22)【出願日】2023-08-25
(62)【分割の表示】P 2019050271の分割
【原出願日】2019-03-18
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2018056928
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業マッチングプランナープログラム「企業ニーズ解決試験」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】303028147
【氏名又は名称】バッセル化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北野 克和
(72)【発明者】
【氏名】野方 靖行
(72)【発明者】
【氏名】大平 朗
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/035891(WO,A1)
【文献】特開平09-124586(JP,A)
【文献】特表2002-539184(JP,A)
【文献】特開2002-370907(JP,A)
【文献】特開平09-067317(JP,A)
【文献】中嶋菜摘、野方靖行、吉村えり奈、千葉一裕、北野克和,β-シトロネロール誘導体イソシアナート化合物の合成とフジツボキプリス幼生に対する付着阻害活性の評価,Sessile Organisms,日本,日本付着生物学会,2018年11月28日,35(2),53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
C07C
A01P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】
[式中、
R
1はホルミル基若しくはアセチル基で置換されたアミノ基を示し、
R
2はイソチオシアノ基であり、
R
3及びR
4はそれぞれ独立して水素又はメチル基を示し、
R
5は水素又はメチル基を示し、
nは1~10を示す。]
で表されるイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する水中付着生物防汚剤。
【請求項2】
下記の一般式(II):
【化2】
[式中、
R
1はホルミル基若しくはアセチル基で置換されたアミノ基を示し、
R
2はイソチオシアノ基であり、
R
3及びR
4はそれぞれ独立して水素又はメチル基を示す。]
で表されるイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する水中付着生物防汚剤。
【請求項3】
下記の一般式(III):
【化3】
[式中、
R
1はホルミル基若しくはアセチル基で置換されたアミノ基を示し、
R
2はイソチオシアノ基であり、
R
3及びR
4はそれぞれ独立して水素又はメチル基を示す。]
で表されるイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する水中付着生物防汚剤。
【請求項4】
R
3及びR
4のいずれか一方又は双方がメチル基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の水中付着生物防汚剤。
【請求項5】
下記の構造を有する化合物:
【化4】
から選択されるイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する水中付着生物防汚剤。
【請求項6】
塗料、溶液、又は乳剤の形態である、請求項1~5のいずれか一項に記載の水中付着生物防汚剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水中付着生物防汚剤で水中付着生物の付着対象物を処理することを含む、水中付着生物を防除する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中付着生物の防汚活性を有する新規イソチオシアナート化合物、及びこれを有効成分として含有する水中付着生物防汚剤に関する。本発明はまた、上記イソチオシアナート化合物を用いた水中付着生物を防除する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋生物の中で、フジツボ類、イガイ類及びコケムシ類等は、水中付着生物として知られている。水中付着生物は、船舶、漁網又はブイのような漁業施設又は資材、火力発電所若しくは原子力発電所等の冷却水取水施設、又は水族館等の海水取水施設等の表面及び/又は内部に付着する。水中付着生物がこれらの施設又は資材に付着すると、例えば、船舶の航行性能低下、冷却水取水量の減少による発電能力の低下のような影響が生じ、多大な被害をもたらし得る。
【0003】
水中付着生物を防除するために、船舶等の付着対象物に塗布することで水中付着生物の付着を実質的に抑制する防汚剤が使用されてきた。従来、トリブチルスズオキシド(tributyltin oxide, TBTO)のような有機スズ化合物又は亜酸化銅等の重金属化合物を有効成分として含有する水中付着生物防汚剤が使用されてきた。特に、有機スズ化合物を有効成分として含有する防汚剤は、優れた防汚効果を有することから、船舶の底部を塗装するための塗料の形態で広く使用されてきた。しかしながら、有機スズ化合物は、巻き貝の不妊化のように、他の海洋生物に対しても影響を及ぼすことが明らかとなった。このため、現在、我が国では、有機スズ化合物を有効成分として含有する防汚剤の製造及び使用は禁止されている。
【0004】
現在では、亜酸化銅又は特定の農薬を有効成分として含有する水中付着生物防汚剤が使用されている。しかしながら、これらの化合物は、水中付着生物に対する殺生物活性によってその防汚活性を発現すると考えられている。このため、これらの化合物も、海洋への拡散によって海洋環境汚染を引き起こすことが懸念される。
【0005】
そこで、近年では、水中付着生物に対する忌避活性を有する天然生理活性物質をリード化合物として、新規な水中付着生物防汚剤を開発する試みが進められている。本発明者等はこれまでに、海洋底棲生物が有する付着阻害物質を参考にして、フジツボ等の水中付着生物に対して、殺生することなく忌避的に作用して付着を防汚するイソニトリル化合物を開発している(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4152092号公報
【文献】特許第4920002号公報
【文献】特許第4933261号公報
【文献】特許第6164610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のように、様々な構造を有する化合物を有効成分とする水中付着生物防汚剤が知られている。しかしながら、これらの防汚剤には、防汚活性のレベル、製造コスト及び/又は安全性の観点から、さらなる改良の余地が存在した。
本発明は、公知の防汚剤と比較して優れた特性を備える新規水中付着生物防汚剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、イソチオシアノ基を有する特定の構造を有する化合物が、フジツボのキプリス幼生に対して高い付着阻害活性を有するだけでなく、毒性が低いことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
[1] 下記の一般式(I):
【化1】
[式中、
R
1は水酸基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、イソシアノ基、イソチオシアノ基、アミノ基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、有機スルホニルオキシ基、又はイミド基を示し、前記アミノ基は、ホルミル基若しくはアセチル基で置換されていても良く、前記有機スルホニルオキシ基及びイミド基は、炭素数1~4のアルキル基によって置換されていても良く、
R
2は、イソシアノ基又はイソチオシアノ基から選ばれ、
R
3及びR
4はそれぞれ独立して水素又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
R
5は水素又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
nは1~10を示し、
但し、R
1及びR
2のいずれか一方又は双方がイソチオシアノ基である。]
で表されるイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
[2] 下記の一般式(II):
【化2】
[式中、
R
1は水酸基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、イソシアノ基、イソチオシアノ基、アミノ基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、有機スルホニルオキシ基、又はイミド基を示し、前記アミノ基は、ホルミル基若しくはアセチル基で置換されていても良く、前記有機スルホニルオキシ基及びイミド基は、炭素数1~4のアルキル基によって置換されていても良く、
R
2は、イソシアノ基又はイソチオシアノ基から選ばれ、
R
3及びR
4はそれぞれ独立して水素又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
但し、R
1及びR
2のいずれか一方又は双方がイソチオシアノ基である。]
で表されるイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
[3] 下記の一般式(III):
【化3】
[式中、
R
1は水酸基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、イソシアノ基、イソチオシアノ基、アミノ基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、有機スルホニルオキシ基、又はイミド基を示し、前記アミノ基は、ホルミル基若しくはアセチル基で置換されていても良く、前記有機スルホニルオキシ基及びイミド基は、炭素数1~4のアルキル基によって置換されていても良く、
R
2は、イソシアノ基又はイソチオシアノ基から選ばれ、
R
3及びR
4はそれぞれ独立して水素又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
但し、R
1及びR
2のいずれか一方又は双方がイソチオシアノ基である。]
で表されるイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
[4] R
3及びR
4のいずれか一方又は双方がメチル基である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
[5] 下記の構造を有する化合物:
【化4】
から選択されるイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
[6] 上記[1]~[5]のいずれかに記載のイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する水中付着生物防汚剤。
[7] 塗料、溶液、又は乳剤の形態である、上記[6]に記載の水中付着生物防汚剤。[8] 上記[6]又は[7]に記載の水中付着生物防汚剤で水中付着生物の付着対象物を処理することを含む、水中付着生物を防除する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、公知の防汚剤と比較して優れた特性を備える新規水中付着生物防汚剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
<本発明化合物>
本発明は、下記の一般式(I):
【化5】
[式中、
R
1は水酸基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、イソシアノ基、イソチオシアノ基、アミノ基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、有機スルホニルオキシ基、又はイミド基を示し、前記アミノ基は、ホルミル基若しくはアセチル基で置換されていても良く、前記有機スルホニルオキシ基及びイミド基は、炭素数1~4のアルキル基によって置換されていても良く、
R
2は、イソシアノ基又はイソチオシアノ基から選ばれ、
R
3及びR
4はそれぞれ独立して水素又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
R
5は水素又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
nは1~10を示し、
但し、R
1及びR
2のいずれか一方又は双方がイソチオシアノ基である。]
で表されるイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を提供する。
【0012】
上記の通り、一般式(I)において、R1は水酸基(-OH)、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、イソシアノ基(-NC)、イソチオシアノ基(-NCS)、アミノ基(-NH2)、アシルオキシ基(-OC(O)R)、アルコキシ基(-OR)、アルコキシカルボニル基(-C(O)OR)、アリール基、有機スルホニルオキシ基、又はイミド基を示す。
【0013】
上記アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基は、限定するものではないが、例えば炭素数3以下のもの、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、エテニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基(プロパルギル基)が挙げられる。
【0014】
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられる。
上記アミノ基は、ホルミル基(-CHO)若しくはアセチル基(-C(O)CH3、-Ac)で置換されていてもいなくても良い。
【0015】
上記アシルオキシ基としては、例えば、アセチルオキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、オクタノイルオキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等の、直鎖若しくは分岐鎖を有する好ましくは炭素数1~8の鎖状アシルオキシ基、及び炭素数1~4のアルキル基、すなわちメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の置換基によって置換されていても良いベンゾイルオキシ基が挙げられる。
【0016】
上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基等の、好ましくは炭素数1~18のアルコキシ基が挙げられる。例えば、限定するものではないが、アルコキシ基はメトキシ基である。
【0017】
上記アルコキシカルボニル基としては、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基、オクタデシルオキシカルボニル基等の、好ましくは炭素数1~18のアルコキシ基にカルボニル基が結合した基が挙げられる。
【0018】
上記アリール基としては、限定するものではないが、例えば置換基を有していても良いフェニル基が挙げられる。置換基としては、限定するものではないが、例えば水酸基、ハロゲン原子、ニトロ基、アルキル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基等が挙げられる。
【0019】
上記有機スルホニルオキシ基としては、例えば、メタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、p-トルエンスルホニルオキシ基等が挙げられる。例えば、限定するものではないが、有機スルホニルオキシ基は、p-トルエンスルホニルオキシ基である。有機スルホニルオキシ基は、炭素数1~4のアルキル基、すなわちメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の置換基を有していても良い。
【0020】
上記イミド基としては、例えば、フタルイミド基、スクシンイミド基等が挙げられる。イミド基は、炭素数1~4のアルキル基、すなわちメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の置換基を有していても良い。
【0021】
一般式(I)において、R2は、イソシアノ基(-NC)又はイソチオシアノ基(-NCS)から選ばれ、R1及びR2のいずれか一方又は双方がイソチオシアノ基である。
【0022】
また、一般式(I)において、R3及びR4は、それぞれ独立して水素又は炭素数1~4のアルキル基を示す。前記アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基が挙げられる。例えば、限定するものではないが、R3及びR4は、いずれか一方又は双方が炭素数1のアルキル基、すなわちメチル基である。
【0023】
また、一般式(I)において、R5は水素又は炭素数1~4のアルキル基を示す。アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基が挙げられる。
【0024】
また、一般式(I)において、nは1~10を示し、好ましくはnは1~5を示し、より好ましくはnは1~3を示す。nは、R1~R5の種類に応じ、合成の容易性や水中付着生物防汚効果等を考慮して、適宜選択することができる。
上記一般式(I)で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物は、後に詳細に記載するように、優れた水中付着生物防汚効果を有する。
【0025】
上記した通り、一般式(I)で表される本発明の化合物は、R1及びR2のいずれか一方又は双方がイソチオシアノ基である。本発明の化合物が水中付着生物防汚効果をもたらすメカニズムについては、特に理論に拘束されるものではないが、このイソチオシアノ基が効果と関連し得ることが想定される。一方、例えばR2のみがイソチオシアノ基である場合、R1は、下記で記載する塗膜形成成分として使用される樹脂等との相溶性を有するような構造を有するように選択することが好ましい場合がある。従って、特にR1は、使用される樹脂、硬化剤、界面活性剤等との適合性、あるいは付着対象物を処理する塗料、溶液又は乳剤の形態の水中付着生物防汚剤の効果等に応じて、適宜選択することができる。
【0026】
本発明の化合物の一例は、上記一般式(I)において、R5がメチルであり、nが1である化合物である。この化合物は、下記の一般式(II)として表すことができる。
【0027】
従って、一実施形態において、本発明は、下記一般式(II):
【化6】
[式中、
R
1は水酸基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、イソシアノ基、イソチオシアノ基、アミノ基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、有機スルホニルオキシ基、又はイミド基を示し、前記アミノ基は、ホルミル基若しくはアセチル基で置換されていても良く、前記有機スルホニルオキシ基及びイミド基は、炭素数1~4のアルキル基によって置換されていても良く、
R
2は、イソシアノ基又はイソチオシアノ基から選ばれ、
R
3及びR
4はそれぞれ独立して水素又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
但し、R
1及びR
2のいずれか一方又は双方がイソチオシアノ基である。]
で表されるイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を提供する。
【0028】
本発明の化合物の更なる例は、上記一般式(I)において、R5が水素であり、nが5である化合物である。この化合物は、下記の一般式(III)として表すことができる。
【0029】
従って、一実施形態において、本発明は、下記一般式(III):
【化7】
[式中、
R
1は水酸基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、イソシアノ基、イソチオシアノ基、アミノ基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アリール基、有機スルホニルオキシ基、又はイミド基を示し、前記アミノ基は、ホルミル基若しくはアセチル基で置換されていても良く、前記有機スルホニルオキシ基及びイミド基は、炭素数1~4のアルキル基によって置換されていても良く、
R
2は、イソシアノ基又はイソチオシアノ基から選ばれ、
R
3及びR
4はそれぞれ独立して水素又は炭素数1~4のアルキル基を示し、
但し、R
1及びR
2のいずれか一方又は双方がイソチオシアノ基である。]
で表されるイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を提供する。
【0030】
本発明のイソチオシアナート化合物としては、より具体的には、限定するものではないが、例えば下記の構造を有する化合物1~17が挙げられる。
【0031】
化合物1:7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン-1-オール
【化8】
【0032】
化合物2:酢酸7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル
【化9】
【0033】
化合物3:安息香酸7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル
【化10】
【0034】
化合物4:p-トルエンスルホン酸7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル
【化11】
【0035】
化合物5:1-クロロ-7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン
【化12】
【0036】
化合物6:1-ブロモ-7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン
【化13】
【0037】
化合物7:1-ヨード-7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン
【化14】
【0038】
化合物8:1-フルオロ-7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン
【化15】
【0039】
化合物9:7-イソチオシアノ-1-メトキシ-3,7-ジメチルオクタン
【化16】
【0040】
化合物10:N-(7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル)ホルムアミド
【化17】
【0041】
化合物11:N-(7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル)アセトアミド
【化18】
【0042】
化合物12:N-(7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル)フタルイミド
【化19】
【0043】
化合物13:1-イソシアノ-7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン
【化20】
【0044】
化合物14:1,7-ジイソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン
【化21】
【0045】
化合物15:7-イソシアノ-1-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン
【化22】
【0046】
化合物16:N-(11-イソチオシアノ-11-メチルドデシル)ホルムアミド
【化23】
【0047】
化合物17:N-(11―イソチオシアノ-11-メチルドデシル)アセトアミド
【化24】
【0048】
本発明において、上記の一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物、及び上記化合物1~17は、遊離形態の化合物として使用することもでき、化合物と対イオンとの塩として使用することもできる。本発明の化合物の塩の対イオンとしては、限定するものではないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、若しくは置換若しくは非置換のアンモニウムイオンのようなカチオン、又は塩化物イオン、臭化物イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、マレイン酸イオン、フマル酸イオン、安息香酸イオン、アスコルビン酸イオン、パモ酸イオン、コハク酸イオン、ビスメチレンサリチル酸イオン、メタンスルホン酸イオン、エタンジスルホン酸イオン、プロピオン酸イオン、酒石酸イオン、サリチル酸イオン、クエン酸イオン、グルコン酸イオン、アスパラギン酸イオン、ステアリン酸イオン、パルミチン酸イオン、イタコン酸イオン、グリコール酸イオン、p-アミノ安息香酸イオン、グルタミン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、シクロヘキシルスルファミン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、イセチオン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン若しくは過塩素酸イオンのようなアニオンが好ましい。
【0049】
上記の一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物、及び上記化合物1~17は、該化合物又はその塩の溶媒和物として使用することもできる。前記化合物又はその塩と溶媒和物を形成し得る溶媒としては、限定するものではないが、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸、エタノールアミン若しくは酢酸エチルのような有機溶媒、又は水が好ましい。
【0050】
上記一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物、及び具体例として示す上記化合物1~17は、本願明細書の記載、及び当分野における技術常識に基づいて、合成することができる。以下の実施例において、化合物1~17の製造方法の一例を記載する。得られた化合物の構造は、例えば赤外吸収分光法(IR)、質量分析法(MS)、核磁気共鳴法(NMR)等の当分野で通常用いられる手段によって決定することができる。
【0051】
<水中付着生物防汚剤>
本発明は、上記のイソチオシアナート化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する水中付着生物防汚剤を提供する。本明細書において、水中付着生物とは、海水中又は淡水中に生息するあらゆる付着生物を包含し、例えば貝類、フジツボ類、コケムシ類、ヒドロ虫類、藻類等が挙げられる。
【0052】
本発明の一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物は、高い防汚活性(例えば付着阻害活性)を発現し、且つ/又は、高い安全性を発現することができる。本発明において、「防汚活性」は、付着対象物に対する水中付着生物の付着を阻害又は抑制する、付着阻害活性を意味する。本発明において、「高い安全性」は、限定するものではないが、例えば、低い毒性、及び/又は高い生分解性を意味する。本発明の水中付着生物防汚剤が前記のような特性を有する理由は、以下のように説明することができる。なお、本発明は、以下の作用・原理に限定されるものではない。
【0053】
本発明の一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物の付着阻害活性は、通常、忌避、及び生育阻害の少なくともいずれかの態様で、典型的には、忌避の態様で発現することができる。本発明の一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物は、前記の態様で水中付着生物の付着阻害活性を発現することにより、殺生物活性に基づく防汚剤と比較して、低い毒性で且つ高い防汚活性を発現することができる。
【0054】
本発明の水中付着生物防汚剤は、有効成分である一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物に加えて、場合により1種以上のさらなる成分を含有しても良い。この場合、本発明の水中付着生物防汚剤は、有効成分である一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物と、場合により1種以上のさらなる成分とを含有する組成物として提供することができる。
【0055】
本発明の水中付着生物防汚剤を含有する組成物において、有効成分である一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物は、上記組成物の総質量に対して、0.1~50質量%の範囲で含有されることが好ましく、0.1~30質量%の範囲で含有されることがより好ましい。前記の範囲で一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物を含有することにより、水中付着生物の防汚効果を発現することができる。
【0056】
前記1種以上のさらなる成分としては、限定するものではないが、例えば、塗膜形成成分、溶媒及び界面活性剤等を挙げることができる。それ故、本発明の水中付着生物防汚剤は、以下の形態:有効成分である一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物と、1種以上の塗膜形成成分とを含有する塗料の形態;有効成分である一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物と、1種以上の溶媒とを含有する溶液の形態;或いは、有効成分である一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物と、1種以上の界面活性剤とを含有する乳剤の形態;として提供することができる。
【0057】
塗膜形成成分としては、特に限定するものではないが、塗料分野で通常使用される基体樹脂及び硬化剤のような各種成分を使用することができる。前記基体樹脂は、限定するものではないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、フタル酸樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂及びウレタン樹脂等を挙げることができる。前記硬化剤は、限定するものではないが、例えば、ポリイソシアネート樹脂等を挙げることができる。
【0058】
溶媒としては、特に限定するものではないが、塗料分野で通常使用される水又は有機溶媒のような各種成分を使用することができる。前記有機溶媒としては、例えば、キシレン及びトルエンのような芳香族炭化水素、シクロヘキサン及びエチルシクロヘキサンのような脂環式炭化水素、並びにn-ヘキサンのような飽和脂肪族炭化水素を挙げることができる。
【0059】
界面活性剤としては、特に限定するものではないが、塗料分野で通常使用されるアニオン系界面活性剤(例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩若しくは脂肪酸塩)、カチオン系界面活性剤(有機アンモニウム塩)又はノニオン系界面活性剤(例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル)を使用することができる。
【0060】
本発明の水中付着生物防汚剤を含有する組成物は、所望により、可塑剤、溶媒、乾燥剤、反応促進剤及び反応遅延剤、又は着色顔料等の塗料分野で通常使用される追加の成分をさらに含有しても良い。これらの追加の成分の配合量は、前記で説明した本発明の水中付着生物の防汚剤の効果を阻害しない範囲で、所望の目的に応じて適宜設定すればよい。
【0061】
本発明の水中付着生物防汚剤を含有する組成物(例えば塗料、溶液又は乳剤)は、有効成分である一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物に加えて、場合により1種以上のさらなる活性成分を含有しても良い。さらなる活性成分としては、例えば、硫酸銅、亜酸化銅、ビス-2-ピリジンジチオール銅塩、ピリジントリフェニルボロン、トリフェニル(オクタデシルボロン)、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメイト又はテトラエチルチウラムジスルフィドのような、公知の水中付着生物防汚剤に加えて、特許第4152092号公報、特許第4920002号公報、特許第4933261号公報、及び特許第6164610号公報に記載されるような水中付着生物防汚剤を挙げることができる。前記のようなさらなる活性成分を含有することにより、本発明の組成物による防汚効果をさらに向上させることができる。
【0062】
本発明の水中付着生物防汚剤は、様々な水中付着生物に対して適用することができる。本発明の防汚剤を適用し得る水中付着生物としては、限定するものではないが、例えば、フジツボ類(例えばそのキプリス幼生)、イガイ類、コケムシ類及びヒドロ虫類を挙げることができる。前記のような水中付着生物に本発明の水中付着生物防汚剤を適用することにより、付着対象物に対する該水中付着生物の付着を効果的に阻害することができる。
【0063】
本発明の水中付着生物防汚剤は、前記の水中付着生物が付着し得る様々な付着対象物に対して適用することにより、効果的に防汚活性を発現することができる。本発明の防汚剤を適用し得る付着対象物としては、限定するものではないが、例えば、船舶、漁網若しくはブイのような漁業施設及び資材、カキ若しくはホタテのような魚介類の養殖施設及び資材、火力発電所若しくは原子力発電所等の冷却水取水施設、水族館等の海水取水施設等の表面及び/若しくは内部、海苔の養殖に用いる網及び支柱、並びに海水の塩濃度センサーを挙げることができる。本発明の水中付着生物防汚剤は、低い毒性及び/又は高い生分解性を有することから、安全性が高い。このため、本発明の水中付着生物防汚剤は、養殖施設及び資材のような、薬剤の残留性が大きな問題となる付着対象物に対しても、適用することができる。前記のような付着対象物に本発明の水中付着生物防汚剤を適用することにより、水中付着生物の付着を効果的に阻害することができる。
【0064】
一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物は、様々な水中付着生物に対して高い付着阻害活性を有する。それ故、本発明はまた、本発明の水中付着生物防汚剤で水中付着生物の付着対象物を処理することを含む、水中付着生物を防除する方法に関する。
【0065】
本発明の方法は、所望により、本発明の水中付着生物防汚剤に加えて、さらなる薬剤で水中付着生物を処理することをさらに含んでもよい。さらなる薬剤としては、前記で説明したさらなる活性成分であることが好ましい。この場合、本発明の水中付着生物防汚剤及びさらなる薬剤で付着対象物を処理する順序は特に限定されない。例えば、本発明の水中付着生物防汚剤とさらなる薬剤とを同時に(単一の若しくは別々の製剤として)用いて処理しても良く、又は逐次的に用いて処理しても良い。本発明の水中付着生物防汚剤に加えて、さらなる薬剤で水中付着生物を処理することにより、付着対象物に対する水中付着生物の付着をより顕著に阻害することができる。
【0066】
なお、本発明の一般式(I)及び/又は(II)若しくは(III)で表される化合物の防汚効果は、下記の実施例に記載するように、あるいは特許第4933261号公報又はNogataらの文献(Nogataら, Biofouling, 2004年, 第20巻、p87-91)を参照して、該化合物の付着阻害活性を測定することにより、評価することができる。
【0067】
本発明の水中付着生物防汚剤で付着対象物を処理する場合、前記で説明した組成物(例えば塗料、溶液又は乳剤)の形態で使用することが好ましい。この場合、塗料分野で通常使用される塗料等の適用方法(例えば塗装方法)を用いることができる。
【0068】
以上のように、本発明の水中付着生物防汚剤は、水中付着生物の付着を特異的に阻害することによって防汚効果を発現することができる。また、本発明の水中付着生物防汚剤は、付着対象物が存在する周囲環境の生態系において迅速に生分解されることができる。
【0069】
従来報告されている水中付着生物防汚剤の中には、付着生物を殺生することによって付着を阻害しているものがあり、これは付着生物に対する毒性を有することから、実際の使用において問題を有していたが、本発明の水中付着生物防汚剤ではそのような問題を引き起こすことはない。また、本発明の水中付着生物防汚剤の効果は、実験室内での付着試験だけでなく、実際に海洋試験で実証されている。
従って、本発明により、防汚効果が高く、安全性が高く、且つ/又は製造コストの低い水中付着生物防汚剤を提供することが可能となる。
【実施例】
【0070】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0071】
[実施例1 化合物の合成]
化合物1
7-イソシアノ-3,7-ジメチルオクタン-1-オール140mgをテトラヒドロフラン5mLに溶解した後、硫黄36mg、セレン3mg、及びトリエチルアミン0.3mLを加え、20時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=2:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:0~1:1)により精製し、目的とする7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン-1-オール(化合物1)を140mg得た。化合物1のNMRデータを以下に示す。
【0072】
【化25】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 3.73-3.65 (2H, m), 1.65-1.54 (4H, m), 1.51-1.29 (10H, m), 1.21-1.15 (1H, m), 0.92 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 129.3, 61.4, 61.1, 43.3, 39.9, 37.0, 29.3, 29.1, 29.0, 21.9, 19.6.
【0073】
化合物2
酢酸7-イソシアノ-3,7-ジメチルオクチル203mgをテトラヒドロフラン5mLに溶解した後、硫黄42mg、セレン5mg、及びトリエチルアミン0.3mLを加え、19時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=2:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:0~2:1)により精製し、目的とする酢酸7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル(化合物2)を297mg得た。化合物2のNMRデータを以下に示す。
【0074】
【化26】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 4.09-4.01 (2H, m), 2.01 (3H, s), 1.72-1.27 (14H, m), 1.22-1.16 (10H, m), 0.88 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 171.2, 130.0, 62.9, 61.4, 43.4, 36.7, 35.5, 29.8, 29.0, 21.8, 21.1, 19.4.
【0075】
化合物3
安息香酸7-イソシアノ-3,7-ジメチルオクチル275mgをテトラヒドロフラン5mLに溶解した後、硫黄55mg、セレン4mg、及びトリエチルアミン0.3mLを加え、19時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=2:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:0~2:1)により精製し、目的とする安息香酸7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル(化合物3)を297mg得た。化合物3のNMRデータを以下に示す。
【0076】
【化27】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 7.95 (2H, m), 7.43 (1H, m), 7.32 (2H, m), 4.30-4.22 (2H, m), 1.75-1.69 (1H, m), 1.57-1.56 (1H, m), 1.50-1.44 (2H, m), 1.37-1.21 (10H, m), 1.15-1.08 (1H, m), 0.88 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 166.6, 132.9, 130.5, 130.3, 129.3, 128.4, 63.4, 61.3, 43.3, 37.0, 35.6, 29.9, 28.9, 21.8, 19.4.
【0077】
化合物4
p-トルエンスルホン酸7-イソシアノ-3,7-ジメチルオクチル105mgをテトラヒドロフラン5mLに溶解した後、硫黄13mg、セレン2mg、及びトリエチルアミン0.1mLを加え、21時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=2:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:0~4:1)により精製し、目的とするp-トルエンスルホン酸7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル(化合物4)を110mg得た。化合物4のNMRデータを以下に示す。
【0078】
【化28】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 7.72 (2H, d, J = 8.1 Hz), 7.29 (2H, d, J = 8.1 Hz), 3.99 (2H, m), 2.39 (3H, s), 1.68-1.67 (1H, m), 1.55-1.51 (2H, m), 1.46-1.33 (11H, m), 1.24-1.23 (1H, m), 1.14-1.09 (1H, m), 0.77 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 144.8, 133.2, 130.1, 127.9, 121.3, 68.9, 62.3, 61.4, 43.2, 42.9, 36.4, 35.7, 29.0, 21.7, 18.8.
【0079】
化合物5
1-クロロ-7-イソシアノ-3,7-ジメチルオクタン196mgをテトラヒドロフラン5mLに溶解した後、硫黄40mg、セレン4mg、及びトリエチルアミン0.3mLを加え、20時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=2:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:0~4:1)により精製し、目的とする1-クロロ-7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン(化合物5)を238mg得た。化合物5のNMRデータを以下に示す。
【0080】
【化29】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 3.63-3.53 (2H, m), 1.83-1.78 (1H, m), 1.71-1.66 (1H, m), 1.63-1.30 (12H, m), 1.21-1.15 (1H, m), 0.92 (3H, d, J = 6.9 Hz); (150.8 MHz, CDCl
3) δ 129.5, 61.5, 43.3, 39.7, 36.5, 30.2, 29.1, 21.8, 18.9.
【0081】
化合物6
1-ブロモ-7-イソシアノ-3,7-ジメチルオクタン134mgをテトラヒドロフラン5mLに溶解した後、硫黄40mg、セレン4mg、及びトリエチルアミン0.2mLを加え、14時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=2:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:0~10:1)により精製し、目的とする1-ブロモ-7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン(化合物6)を131mg得た。化合物6のNMRデータを以下に示す。
【0082】
【化30】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 3.49-3.46 (1H, m), 3.43-3.41 (1H, m), 1.90-1.88 (1H, m), 1.72-1.25 (13H, m), 1.21-1.15 (1H, m), 0.92 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 129.9, 61.4, 43.3, 39.9, 36.4, 32.2, 31.4, 29.1, 21.8, 18.9.
【0083】
化合物7
1-ヨード-7-イソシアノ-3,7-ジメチルオクタン90mgをテトラヒドロフラン5mLに溶解した後、硫黄14mg、セレン10mg、及びトリエチルアミン0.1mLを加え、14時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=2:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:0~20:1)により精製し、目的とする1-ヨード-7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン(化合物7)を71mg得た。化合物7のNMRデータを以下に示す。
【0084】
【化31】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 3.29-3.25 (1H, m), 3.12-3.16 (1H, m), 1.91-1.85 (1H, m), 1.69-1.30 (15H, m), 1.21-1.15 (1H, m), 0.90 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 129.1, 60.6, 42.4, 39.8, 35.1, 32.7, 28.1, 27.8, 20.8, 17.7, 4.3.
【0085】
化合物8
1-フルオロ-7-イソシアノ-3,7-ジメチルオクタン240mgをテトラヒドロフラン10mLに溶解した後、硫黄77mg、セレン10mg、及びトリエチルアミン0.5mLを加え、21時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=2:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:0~10:1)により精製し、目的とする1-フルオロ-7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン(化合物8)を238mg得た。化合物8のNMRデータを以下に示す。
【0086】
【化32】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 4.58-4.45 (2H, m), 1.81-1.62 (2H, m), 1.60-1.33 (12H, m), 1.23-1.17 (1H, m), 0.96 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 129.9, 82.7 (d, J = 147.3 Hz), 61.5, 43.4, 37.3 (d, J = 30.3 Hz), 36.7, 29.2 (d, J = 5.0 Hz), 29.0, 21.7, 19.3.
【0087】
化合物9
7-イソシアノ-1-メトキシ-3,7-ジメチルオクタン216mgをテトラヒドロフラン10mLに溶解した後、硫黄44mg、セレン26mg、及びトリエチルアミン0.4mLを加え、21時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=2:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:0~1:1)により精製し、目的とする7-イソチオシアノ-1-メトキシ-3,7-ジメチルオクタン(化合物9)を205mg得た。化合物9のNMRデータを以下に示す。
【0088】
【化33】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 3.44-3.35 (2H, m), 3.33 (3H, s), 1.68-1.54 (4H, m), 1.53-1.18 (10H, m), 1.22-1.10 (1H, m), 0.92 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 129.7, 71.0, 61.4, 58.7, 43.4, 37.0, 36.7, 29.7, 29.0, 21.9, 19.6.
【0089】
化合物10
N-(7-イソシアノ-3,7-ジメチルオクチル)ホルムアミド1.37gをテトラヒドロフラン15mLに溶解した後、硫黄261mg、セレン32mg、及びトリエチルアミン2.1mLを加え、20時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=1:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:0~5:1)により精製し、目的とするN-(7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル)ホルムアミド(化合物10)を1.26g得た。化合物10のNMRデータを以下に示す。
【0090】
【化34】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 8.17 (1H, s), 5.55 (1H, br), 3.39-3.22 (2H, m), 1.60-1.27 (15H, m), 1.23-1.14 (1H, m), 0.93 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 161.1, 129.5, 61.4, 43.4, 36.6, 36.3, 30.5, 29.1, 29.0, 21.8, 19.4.
【0091】
化合物11
N-(7-イソシアノ-3,7-ジメチルオクチル)アセトアミド35mgをテトラヒドロフラン3mLに溶解した後、硫黄12mg、セレン4mg、及びトリエチルアミン0.02mLを加え、40時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=1:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:0~5:1)により精製し、目的とするN-(7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル)アセトアミド(化合物11)を49mg得た。化合物11のNMRデータを以下に示す。
【0092】
【化35】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 5.46 (1H, br), 3.32-3.23 (2H, m), 1.98 (3H, s), 1.58-1.34 (13H, m), 1.33-1.31 (1H, m), 0.93 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 170.1, 129.5, 61.4, 43.4, 37.8, 36.7, 30.5, 29.1, 29.0, 23.5, 21.8, 19.5.
【0093】
化合物12
N-(7-イソシアノ-3,7-ジメチルオクチル)フタルイミド220mgをテトラヒドロフラン6mLに溶解した後、硫黄44mg、セレン26mg、及びトリエチルアミン0.4mLを加え、21時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=2:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:0~4:1)により精製し、目的とするN-(7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル)フタルイミド(化合物12)を205mg得た。化合物12のNMRデータを以下に示す。
【0094】
【化36】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 7.83 (2H, s), 7.70 (2H, s), 3.73-3.66 (2H, m), 1.70-1.67 (1H, m), 1.59-1.15 (13H, m), 1.20-1.15 (1H, m), 0.97 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 168.4, 133.7, 132.2, 129.7, 123.0, 61.1, 43.3, 36.6, 36.3, 35.6, 30.5, 29.0, 21.8, 19.3.
【0095】
化合物13
N-(7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル)ホルムアミド120mgをピリジン1mLに溶解した後、p-トルエンスルホニルクロリド110mgを加え、室温で16時間攪拌した。反応液に飽和食塩水10mLを加えた後、酢酸エチル100mLで抽出した。有機層を塩酸(3M)、飽和炭酸水素ナトリウム水、及び飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4:1)により精製し、目的とする1-イソシアノ-7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン(化合物13)を36mg得た。化合物13のNMRデータを以下に示す。
【0096】
【化37】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 3.48-3.39 (2H, m), 1.78-1.72 (1H, m), 1.70-1.65 (1H, m), 1.63-1.31 (12H, m), 1.23-1.17 (1H, m), 0.94 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 155.6, 130.0, 61.3, 43.3, 39.8, 39.71, 39.67, 36.3, 36.0, 29.8, 29.1, 29.0, 21.7, 18.8.
【0097】
化合物14
1,7-ジイソシアノ-3,7-ジメチルオクタン24mgをテトラヒドロフラン3mLに溶解した後、硫黄53mg、セレン8mg、及びトリエチルアミン0.08mLを加え、41時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=2:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10:0~4:1)により精製し、目的とする1,7-ジイソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン(化合物14)を24mg得た。化合物14のNMRデータを以下に示す。
【0098】
【化38】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 3.61-3.51 (2H, m), 1.79-1.73 (1H, m), 1.66-1.30 (13H, m), 1.23-1.17 (1H, m), 0.94 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 130.0, 129.7, 61.4, 43.3, 43.2, 36.8, 36.4, 30.0, 29.1, 29.0, 21.7, 19.0.
【0099】
化合物15
8-イソチオシアノ-2,6-ジメチル-2-オクテン183mgを塩化メチレン4mLに溶解し、トリメチルシリルシアニド0.3mL、過塩素酸銀395mgを加え室温で24時間攪拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水4mLを添加し、室温でさらに15分間攪拌した後、セライトでろ過し酢酸エチル150mLで洗いこんだ。有機層を水、飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=4:1)により精製し、目的とする7-イソシアノ-1-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン(化合物15)を36mg得た。化合物15のNMRデータを以下に示す。
【0100】
【化39】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 3.61-3.52 (2H, m), 1.77-1.74 (1H, m), 1.65-1.57 (1H, m), 1.55-1.44 (11H, m), 1.38-1.30 (1H, m), 1.24-1.18 (1H, m), 0.95 (3H, d, J = 6.9 Hz);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 152.82, 129.61, 57.25, 43.18, 42.52, 36.82, 36.31, 30.05, 29.15, 29.05, 21.51, 19.00.
【0101】
化合物16
N-(11-イソシアノ-11-メチルドデシル)ホルムアミド1.08gをテトラヒドロフラン15mLに溶解した後、硫黄164mg、セレン14mg、及びトリエチルアミン1.4mLを加え、24時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=1:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1:10~1:20)により精製し、目的とするN-(11-イソチオシアノ-11-メチルドデシル)ホルムアミド(化合物16)を1.2g得た。化合物16のNMRデータを以下に示す。
【0102】
【化40】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 8.16 (1H, s), 5.59 (1H, br), 3.32-3.26 (2H, m), 1.61-1.10 (24H, m);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 161.0, 129.3, 61.3, 43.1, 38.2, 29.50, 29.48, 29.40, 29.37 (x2), 29.1, 28.9, 26.8, 24.3.
【0103】
化合物17
N-(11-イソシアノー11-メチルドデシル)アセトアミド1.29gをテトラヒドロフラン15mLに溶解した後、硫黄186mg、セレン16mg、及びトリエチルアミン1.6mLを加え、24時間加熱還流した。反応液はシリカゲルを用いたショートカラムクロマトグラフィ(ヘキサン/酢酸エチル=1:1)により粗分離した後、さらにシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=1:10~1:20)により精製し、目的とするN-(11―イソチオシアノ-11-メチルドデシル)アセトアミド(化合物17)を1.4g得た。化合物17のNMRデータを以下に示す。
【0104】
【化41】
1H NMR (600 MHz, CDCl
3) δ 5.58 (1H, br), 3.25-3.20 (2H, m), 1.98 (3H, s), 1.60-1.55 (2H, m), 1.53-1.46 (2H, m), 1.45-1.35 (8H, m), 1.34-1.22 (12H, m);
13C NMR (150.8 MHz, CDCl
3) δ 169.9, 129.3, 61.3, 43.1, 39.7, 29.6,29.5, 29.44, 29.39 (x2), 29.2, 28.9, 26.9, 24.4, 23.4.
【0105】
[実施例2 フジツボキプリス幼生付着試験]
化合物1~17、及び比較例として公知の防汚剤である硫酸銅を用い、特許第4933261号公報に記載の方法又はNogataらの文献に記載の方法(Biofouling, 2004年, 第20巻、p87-91)に従い、タテジマフジツボのキプリス幼生に対する付着防止効果を評価した。
【0106】
タテジマフジツボのキプリス幼生を、25℃のインキュベーター内に静置した天然海水中で生育させた。下記の試験には、孵化後5日目に得られたフジツボ幼生を、2日間4℃で保存したものを使用した。
【0107】
24ウェルのポリスチレン製マルチウェルプレート(3.2 ml/ウェル、ウェル直径15.5 mm、ウェル高さ17.6 mm、コーニング社製)の各ウェルに、約2 mlの試験化合物のメタノール溶液を分注した後、該マルチウェルプレートを風乾させてメタノールを蒸発させた。試験化合物は、まず、最終濃度が0.01、0.03、0.1、0.3、1、3及び10 μg/mlとなるように分注したウェルを準備し、各試験化合物について予備的な試験で得られたデータにおけるフジツボ幼生の付着率及び/又は死亡率に応じて、最終濃度が0.001、0.003、30及び100μg/mlとなるように試験化合物を含むウェルを追加した。
【0108】
その後、各ウェルに、予め濾過した2 mlの天然海水と共にそれぞれ6個体のフジツボキプリス幼生を移植し、25℃のインキュベーター内に静置し、フジツボ幼生を生育させた。前記の手順において、試験化合物を含まないメタノール溶液を分注することによって、対照区の試験を実施した。各試験化合物の1濃度試験区及び対照区につき、4連(4ウェル)の試験を実施した。
【0109】
試験開始48時間後に、各ウェルにおけるフジツボ幼生の付着個体数及び死亡個体数を、実体顕微鏡下で計数した。各ウェルにおけるフジツボ幼生の付着率(%)及び死亡率(%)をそれぞれ算出した。各試験化合物について、投与量-付着率応答曲線を作成し、フジツボ幼生の付着を50%阻害する濃度(EC50)を決定した。同様に、各試験化合物について、投与量-死亡率応答曲線を作成し、フジツボ幼生を50%死亡させる濃度(LC50)を決定した。結果を表1に示す。
【0110】
【0111】
表1の結果から明らかなように、化合物1~17は、いずれも優れた付着防止効果を有するものであった。また、化合物1~17の付着防止効果は、フジツボ幼生に対する毒性によるものではなく、忌避効果によるものであることも示された。
【0112】
[実施例3 海洋評価試験]
酢酸7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクチル(化合物2)と1-クロロ-7-イソチオシアノ-3,7-ジメチルオクタン(化合物5)をキシレンに溶解し、シリコーンオイル、アクリル樹脂、及びポリブデンOHと混合して浸漬試験用の溶液を調製した後、ポリエチレン無結節網(6節、400デニール、60本)に浸漬塗布して風乾した後に35cm×45cmの鉄枠に固定し、北海道南かやべの海面下3mに2017年10月より2017年12月までの3か月間浸漬保持し、防汚効果を評価した。結果を表2に示す。
【0113】
【0114】
表2に示すように、化合物2又は化合物5を塗布したポリエチレン無結節網では、水中付着生物(ヒドロ虫類、貝類、藻類)の付着はほとんど観察されなかったが、化合物を塗布しなかった場合には顕著な付着が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明により、水中付着生物に対して毒性を示すことなく付着を阻害することができる防汚剤として利用可能な新規化合物が得られた。本発明により、水中生物が生息する環境に対して悪影響を及ぼすことなく、防汚効果を発揮することができる。