(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】合成ガスの製造装置および合成ガスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/26 20060101AFI20240910BHJP
B01J 29/035 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C01B3/26
B01J29/035 M
(21)【出願番号】P 2020147387
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 將行
(72)【発明者】
【氏名】上野 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】森 智比古
(72)【発明者】
【氏名】西井 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】中坂 佑太
(72)【発明者】
【氏名】吉川 琢也
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-089815(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221697(WO,A1)
【文献】特開2004-269398(JP,A)
【文献】特開2014-217793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00 - 3/58
B01J 29/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素および水素を含む合成ガスを製造する合成ガスの製造装置であって、
メタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスを供給する原料ガス供給部と、
還元ガスを供給する還元ガス供給部と、
触媒構造体を加熱する加熱部を備え、前記原料ガス供給部から前記原料ガスが供給されると共に前記還元ガス供給部から前記還元ガスが供給され、前記原料ガスおよび前記還元ガスを
前記触媒構造体に流通しながら
、前記加熱部により前記触媒構造体を加熱し、前記原料ガスに含まれるメタンおよび二酸化炭素から一酸化炭素および水素を含む合成ガスを生成する合成ガス生成部と、
を備え、
前記触媒構造体は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質と、を備え、
前記担体が、互いに連通する通路を内部に有し、
前記触媒物質が、非貴金属の金属微粒子であり、前記担体の少なくとも前記通路に存在していることを特徴とする合成ガスの製造装置。
【請求項2】
前記合成ガス生成部に供給される前記原料ガスの供給量(A)および前記還元ガスの供給量(B)の合計量(A+B)に対する、前記合成ガス生成部に供給される前記還元ガスの供給量(B)の含有割合(B×100/(A+B))は、0.01体積%以上である、請求項1に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項3】
前記合成ガス生成部における前記触媒構造体の加熱温度は、500℃以上1150℃以下である、請求項1または2に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項4】
前記触媒構造体の触媒活性をリフレッシュするリフレッシュ部をさらに備え、
前記リフレッシュ部は、前記原料ガス供給部から前記合成ガス生成部への前記原料ガスの供給を停止し
ながら、
加熱状態の前記触媒構造体に
前記還元ガスを供給し続ける、請求項1~3のいずれか1項に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項5】
前記合成ガス生成部における前記触媒構造体の加熱温度は、600℃以上1000℃以下である、請求項4に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項6】
前記金属微粒子が、鉄(Fe)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)からなる群より選択される少なくとも1種の非貴金属を含んで構成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項7】
前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造の一次元孔、二次元孔および三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔および前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し、
前記金属微粒子の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、かつ、前記拡径部の内径以下であり、
前記通路の平均内径は、前記一次元孔、前記二次元孔および前記三次元孔のうちのいずれかを構成する孔の短径および長径の平均値から算出され、
前記触媒物質が、少なくとも前記拡径部に
包接されて存在し
ている、請求項1~6のいずれか1項に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項8】
前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔および前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、請求項7に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項9】
前記合成ガス生成部から排出される生成ガスから、前記合成ガスとメタンおよび二酸化炭素とを分離する分離部をさらに備える、請求項1~
8のいずれか1項に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項10】
前記分離部で分離したメタンおよび二酸化炭素を前記合成ガス生成部に供給する第1供給部をさらに備える、請求項
9に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項11】
前記合成ガス生成部から排出される生成ガスから、水素を分離して前記合成ガス生成部に供給する第2供給部をさらに備える、請求項1~
10のいずれか1項に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項12】
前記合成ガス生成部から排出される生成ガス中の一酸化炭素および水素を検出する検出部をさらに備える、請求項1~
11のいずれか1項に記載の合成ガスの製造装置。
【請求項13】
一酸化炭素および水素を含む合成ガスを製造する合成ガスの製造方法であって、
メタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスと還元ガスとを触媒構造体に供給する工程S1と、
前記原料ガスおよび前記還元ガスを前記触媒構造体に流通しながら前記触媒構造体を加熱し、前記原料ガスに含まれるメタンおよび二酸化炭素から一酸化炭素および水素を含む合成ガスを生成する工程S2と、
を有し、
前記触媒構造体は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質と、を備え、
前記担体が、互いに連通する通路を内部に有し、
前記触媒物質が、非貴金属の金属微粒子であり、前記担体の少なくとも前記通路に存在していることを特徴とする合成ガスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合成ガスの製造装置および合成ガスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策として、地球温暖化の原因物質であるメタン(CH4)および二酸化炭素(CO2)から一酸化炭素(CO)および水素(H2)を含む合成ガスに変換する技術であるドライリフォーミングが注目されている。
【0003】
このような合成ガスを製造する際に用いる触媒として、例えば、特許文献1には、担体としてマンガンや所定のアルカリ土類金属等を含む酸素欠損ペロブスカイト型の複合酸化物を用い、かつ、担持金属としてニッケルを用いた触媒が記載されている。
【0004】
しかし、メタンおよび二酸化炭素から一酸化炭素および水素を含む合成ガスに変換する反応は、800℃以上の高温で行われる。特許文献1に記載されている触媒では、担体の外表面に、触媒物質であるニッケルが担持されている。高温下では、ニッケル粒子同士の凝集や、ニッケル表面への炭素析出(コーキング)が生じるため、触媒活性が低下しやすい。
【0005】
触媒粒子同士の接着を抑制し、触媒粒子の比表面積を増加させる方法として、例えば、特許文献2には、基材表面に触媒粒子を固定した後、酸化処理および還元処理を所定の条件で行う方法が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献2に記載されている基材表面に触媒粒子が固定された触媒構造体においても、触媒構造体が高温の反応場に配されることによって、触媒活性が低下する。また、触媒粒子の比表面積の減少によって低下した触媒機能をリフレッシュするために、触媒粒子の比表面積を増加させるための酸化処理および還元処理を再度施す必要があり、作業が非常に煩雑である。
【0007】
また、特許文献3には、ニッケルを複合酸化物上に担持させたドライリフォーミング用の触媒が記載されている。上記と同様に、ドライリフォーミングでは、触媒表面にコーキングを生じやすいため、触媒活性の低下を招きやすい。
【0008】
ドライリフォーミングにおける触媒活性の低下は、メタンと水蒸気を反応させるスチームリフォーミングに比べ、ドライリフォーミングの原料中の炭素含有比率が高いことに起因する。また、コーキングにより、反応管内の触媒層を閉塞させると問題が生じる。特に、上記特許文献に記載されるニッケル担持触媒は、非貴金属系触媒の中では高い触媒活性を持つ反面、貴金属系触媒と比べて、コーキングが起こりやすく、触媒活性の維持が困難である。
【0009】
本発明者らは、特許文献4において、ゼオライトなどの多孔質構造体に金属の触媒物質を内在させることで優れた触媒活性を有する触媒構造体を開示している。特許文献4に記載される触媒構造体は、ドライリフォーミングに用いられても、金属の触媒物質が担体に内在することでコーキングを抑制し、特許文献3のようなコーキングによる急激な触媒の失活を防いでいる。他方で、コーキングの抑制により長期間における触媒活性の維持を実現したことにより、新たな触媒の劣化モードがみられるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-255911号公報
【文献】特開2016-2527号公報
【文献】特開2014-200705号公報
【文献】国際公開第2018/221697号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示の目的は、非貴金属の触媒物質を備える触媒構造体でドライリフォーミングを行っても、触媒活性の低下を長期間に亘って抑制でき、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを安定して製造できる、合成ガスの製造装置および合成ガスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1] 一酸化炭素および水素を含む合成ガスを製造する合成ガスの製造装置であって、メタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスを供給する原料ガス供給部と、還元ガスを供給する還元ガス供給部と、前記原料ガス供給部から前記原料ガスが供給されると共に前記還元ガス供給部から前記還元ガスが供給され、前記原料ガスおよび前記還元ガスを触媒構造体に流通しながら前記触媒構造体を加熱し、前記原料ガスに含まれるメタンおよび二酸化炭素から一酸化炭素および水素を含む合成ガスを生成する合成ガス生成部と、を備え、前記触媒構造体は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質と、を備え、前記担体が、互いに連通する通路を内部に有し、前記触媒物質が、非貴金属の金属微粒子であり、前記担体の少なくとも前記通路に存在していることを特徴とする合成ガスの製造装置。
[2] 前記合成ガス生成部に供給される前記原料ガスの供給量(A)および前記還元ガスの供給量(B)の合計量(A+B)に対する、前記合成ガス生成部に供給される前記還元ガスの供給量(B)の含有割合(B×100/(A+B))は、0.01体積%以上である、上記[1]に記載の合成ガスの製造装置。
[3] 前記合成ガス生成部における前記触媒構造体の加熱温度は、500℃以上1150℃以下である、上記[1]または[2]に記載の合成ガスの製造装置。
[4] 前記触媒構造体の触媒活性をリフレッシュするリフレッシュ部をさらに備え、前記リフレッシュ部は、前記原料ガス供給部から前記合成ガス生成部への前記原料ガスの供給を停止し、前記還元ガスを前記触媒構造体に流通しながら前記触媒構造体を加熱する、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の合成ガスの製造装置。
[5] 前記合成ガス生成部における前記触媒構造体の加熱温度は、600℃以上1000℃以下である、上記[4]に記載の合成ガスの製造装置。
[6] 前記金属微粒子が、鉄(Fe)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)からなる群より選択される少なくとも1種の非貴金属を含んで構成される、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の合成ガスの製造装置。
[7] 前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造の一次元孔、二次元孔および三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔および前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し、前記触媒物質が、少なくとも前記拡径部に存在している、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の合成ガスの製造装置。
[8] 前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔および前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、上記[7]に記載の合成ガスの製造装置。
[9] 前記金属微粒子の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、かつ、前記拡径部の内径以下である、上記[7]または[8]に記載の合成ガスの製造装置。
[10] 前記合成ガス生成部から排出される生成ガスから、前記合成ガスとメタンおよび二酸化炭素とを分離する分離部をさらに備える、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の合成ガスの製造装置。
[11] 前記分離部で分離したメタンおよび二酸化炭素を前記合成ガス生成部に供給する第1供給部をさらに備える、上記[10]に記載の合成ガスの製造装置。
[12] 前記合成ガス生成部から排出される生成ガスから、水素を分離して前記合成ガス生成部に供給する第2供給部をさらに備える、上記[1]~[11]のいずれか1つに記載の合成ガスの製造装置。
[13] 前記合成ガス生成部から排出される生成ガス中の一酸化炭素および水素を検出する検出部をさらに備える、上記[1]~[12]のいずれか1つに記載の合成ガスの製造装置。
[14] 一酸化炭素および水素を含む合成ガスを製造する合成ガスの製造方法であって、メタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスと還元ガスとを触媒構造体に供給する工程S1と、前記原料ガスおよび前記還元ガスを前記触媒構造体に流通しながら前記触媒構造体を加熱し、前記原料ガスに含まれるメタンおよび二酸化炭素から一酸化炭素および水素を含む合成ガスを生成する工程S2と、を有し、前記触媒構造体は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質と、を備え、前記担体が、互いに連通する通路を内部に有し、前記触媒物質が、非貴金属の金属微粒子であり、前記担体の少なくとも前記通路に存在していることを特徴とする合成ガスの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、非貴金属の触媒物質を備える触媒構造体でドライリフォーミングを行っても、触媒活性の低下を長期間に亘って抑制でき、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを安定して製造できる、合成ガスの製造装置および合成ガスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態の合成ガスの製造装置および製造方法を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態の合成ガスの製造装置および製造方法で用いられる触媒構造体の一例について、内部構造が分かるように概略的に示す斜視図(一部を横断面で示す)である。
【
図3】
図3は、実施形態の合成ガスの製造装置および製造方法で用いられる触媒構造体の一部を拡大した概略断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態の合成ガスの製造装置および製造方法で用いられる触媒構造体の他の例を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
本発明者らは、上記のように、特許文献4において、ゼオライトなどの多孔質構造体に金属の触媒物質を内在させることで優れた触媒活性を有する触媒構造体を既に開示している。特許文献4に記載される触媒構造体は、ドライリフォーミングに用いられても、金属の触媒物質が担体に内在することでコーキングを抑制し、特許文献3のようなコーキングによる急激な触媒の失活を防いでいる。
【0017】
他方で、コーキングの抑制により長期間における触媒活性の維持を実現したことにより、新たな触媒の劣化モードがみられるようになった。この新たな劣化モードは、徐々に触媒の活性を低下させるものであり、従来知られていたコーキングによる急激な触媒の失活とは異なる傾向を示した。この異なる傾向は、ドライリフォーミング時の副反応である逆シフト反応により副生成物として生成した水(H2O)分子による、金属触媒の酸化に起因していることを本発明者らは見出した。そして、本発明者らは、このような知見に基づいて、本開示を完成させるに至った。
【0018】
実施形態の合成ガスの製造装置は、一酸化炭素および水素を含む合成ガスを製造する合成ガスの製造装置であって、メタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスを供給する原料ガス供給部と、還元ガスを供給する還元ガス供給部と、前記原料ガス供給部から前記原料ガスが供給されると共に前記還元ガス供給部から前記還元ガスが供給され、前記原料ガスおよび前記還元ガスを触媒構造体に流通しながら前記触媒構造体を加熱し、前記原料ガスに含まれるメタンおよび二酸化炭素から一酸化炭素および水素を含む合成ガスを生成する合成ガス生成部と、を備え、前記触媒構造体は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質と、を備え、前記担体が、互いに連通する通路を内部に有し、前記触媒物質が、非貴金属の金属微粒子であり、前記担体の少なくとも前記通路に存在している。
【0019】
実施形態の合成ガスの製造方法は、一酸化炭素および水素を含む合成ガスを製造する合成ガスの製造方法であって、メタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスと還元ガスとを触媒構造体に供給する工程S1と、前記原料ガスおよび前記還元ガスを前記触媒構造体に流通しながら前記触媒構造体を加熱し、前記原料ガスに含まれるメタンおよび二酸化炭素から一酸化炭素および水素を含む合成ガスを生成する工程S2と、を有し、前記触媒構造体は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの触媒物質と、を備え、前記担体が、互いに連通する通路を内部に有し、前記触媒物質が、非貴金属の金属微粒子であり、前記担体の少なくとも前記通路に存在している。
【0020】
[合成ガスの製造装置の構成]
図1は、実施形態の合成ガスの製造装置および製造方法を示すブロック図である。
図2は、合成ガスの製造装置および製造方法で用いられる触媒構造体の一例について、内部構造が分かるように概略的に示す斜視図(一部を横断面で示す)である。
図3は、合成ガスの製造装置および製造方法で用いられる触媒構造体の一部を拡大した概略断面図である。
【0021】
図1に示す合成ガスの製造装置1(以下、単に製造装置ともいう)は、一酸化炭素および水素を含む合成ガスを製造する装置であり、原料ガス供給部2、還元ガス供給部3、および合成ガス生成部4を備える。
【0022】
原料ガス供給部2は、メタン供給部2aおよび二酸化炭素供給部2bを備え、メタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスを合成ガス生成部4に供給する。メタン供給部2aは、例えばメタンガスのボンベやメタンガス発生機などから構成され、合成ガス生成部4に供給するメタンガスの供給量を制御することができる。二酸化炭素供給部2bは、例えば二酸化炭素ガスのボンベや二酸化炭素ガス発生機などから構成され、合成ガス生成部4に供給する二酸化炭素の供給量を制御することができる。
【0023】
還元ガス供給部3は、還元ガスを合成ガス生成部4に供給する。還元ガス供給部3は、例えば還元ガスのボンベや還元ガス発生機などから構成され、合成ガス生成部4に供給する還元ガスの供給量を制御することができる。還元ガスは、合成ガス生成部4の触媒構造体収容部4aに収容される触媒構造体40の酸化を抑制して触媒構造体40の触媒活性の低下を抑制すること、酸化状態の触媒構造体40を還元して触媒構造体40の触媒活性をリフレッシュすることができる。触媒構造体40の触媒活性がリフレッシュされると、所定の活性以上であるが最大活性よりも低い触媒構造体40の触媒活性を回復できることに加えて、所定の活性以下に低下した触媒構造体40の触媒活性を再生できる。還元ガスは、水素が含まれていればよく、供給形態としては不活性ガス(窒素やアルゴン)で希釈した状態で水素を供給しても良い。また、水素はドライリフォーミングの過程で、所定の原料ガスから水素だけが脱離するように、投入されていてもよい。
【0024】
合成ガス生成部4は、触媒構造体40を収容する触媒構造体収容部4aおよび加熱炉のような不図示の加熱部を備え、触媒構造体収容部4a内の触媒構造体40が加熱部によって所定の温度に加熱される。合成ガス生成部4には、原料ガス供給部2からメタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスが供給されると共に、還元ガス供給部3から還元ガスが供給される。合成ガス生成部4は、触媒構造体収容部4a内の触媒構造体40に原料ガスおよび還元ガスを流通しながら、触媒構造体40を加熱し、原料ガスに含まれるメタンおよび二酸化炭素から一酸化炭素および水素を含む合成ガスを生成する。
【0025】
具体的には、原料ガス供給部2からメタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスを合成ガス生成部4に供給するとともに、合成ガス生成部4の内部に設けられる触媒構造体40を加熱することによって、供給されたメタンおよび二酸化炭素が触媒構造体40によって反応し、これによって一酸化炭素および水素を含む合成ガスを生成することができる。合成ガス生成部4では、このような合成ガスの生成反応、すなわちドライリフォーミング反応が行われる。
【0026】
合成ガス生成部4における触媒構造体40の加熱温度は、500℃以上1150℃以下の温度範囲内であることが好ましい。原料ガスから合成ガスへの改質効率、および触媒構造体40の改質特性が熱によって低下する可能性があるため、合成ガス生成部4における触媒構造体40の加熱温度は、より好ましくは500℃以上1000℃以下、さらに好ましくは500℃以上900℃以下である。
【0027】
さらに、ドライリフォーミングが行われている間に、合成ガス生成部4への原料ガスの供給に加えて、還元ガスが還元ガス供給部3から合成ガス生成部4に供給される。加熱している触媒構造体40には、原料ガスに加えて還元ガスが供給される。ドライリフォーミング時の逆シフト反応で生成した副生成物としての水分子による触媒物質45の酸化によって低下する触媒物質45の触媒活性について、ドライリフォーミング時に、還元ガスを触媒構造体40に供給することによって、触媒構造体40に対する還元ガスの還元処理で、触媒構造体40の担体41に内在する触媒物質45の酸化を抑制し、ドライリフォーミングによる触媒物質45の触媒活性の低下を抑制できる。このように、合成ガスの製造装置1は、原料ガスおよび還元ガスを合成ガス生成部4に供給することによって、ドライリフォーミングによる触媒構造体40の触媒活性の低下を長期間に亘って抑制できると共に、合成ガスを長期間に亘って安定して製造できる。
【0028】
触媒構造体収容部4aの合成ガス生成部4内における配置状態は、触媒構造体収容部4aの内部に収容される加熱状態の触媒構造体40が触媒構造体収容部4a内を流通する原料ガスおよび還元ガスに接触することができればよい。例えば、
図1に示すように、原料ガスおよび還元ガスを供給する配管および合成ガス生成部4の接続部分と、合成ガス生成部4および生成ガスを排出する配管の接続部分とを連結するように、触媒構造体収容部4aを配置する。
【0029】
合成ガス生成部4から排出される生成ガスには、少なくとも一酸化炭素および水素を含む合成ガスが含有される。こうして、製造装置1は、原料ガスを反応させて合成ガスを製造できる。
【0030】
生成ガスに含まれる合成ガスの含有割合は、触媒構造体40の加熱温度や原料ガスの供給量のようなドライリフォーミングの条件などを調整することによって、適宜調整できる。
【0031】
下記で詳細に説明するように、製造装置1で用いられる触媒構造体40では、触媒物質45が担体41に内在する。一方、従来では、触媒物質が基材や担体の外表面に担持されている。このような触媒物質の担持状態の違いが、異なるメカニズムで触媒物質の触媒活性を低下すると考えられる。
【0032】
触媒物質の触媒活性の低下を抑制することに対して、従来では、触媒物質の表面に生じるコーキングに着目し、コーキングの発生の抑制や、発生したコーキングの分解を行っている。一方で、本実施形態では、コーキングの抑制で長期間における触媒物質の触媒活性の維持を実現したことによって新たに発見した触媒物質の劣化モードである触媒物質の酸化に着目し、触媒物質の酸化の抑制や、酸化した触媒物質の還元を行う。
【0033】
このように、実施形態の合成ガスの製造装置1では、触媒物質45を内在する触媒構造体40に対して、原料ガスと共に還元ガスを供給する。原料ガスおよび還元ガスを触媒構造体40に流通しながら触媒構造体40を加熱することによって、触媒構造体40は、原料ガスに含まれる一酸化炭素および水素を反応させて、メタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスを製造する。さらに、還元ガスが合成ガスの製造中に触媒構造体40へ供給されるため、触媒構造体40に対する還元ガスの還元処理によって、合成ガスの製造に伴う触媒構造体40の酸化を抑制し、触媒構造体40の触媒活性の低下を抑制できる。その結果、製造装置1は、合成ガスを長期間に亘って安定して製造できる。
【0034】
また、合成ガス生成部4に供給される原料ガスの供給量(A)および還元ガスの供給量(B)の合計量(A+B)に対する、合成ガス生成部4に供給される還元ガスの供給量(B)の含有割合(B×100/(A+B))は、好ましくは0.01体積%以上、より好ましくは0.25体積%以上、さらに好ましくは4.50体積%以上である。合成ガス生成部4に供給される還元ガスの含有割合(B×100/(A+B))が0.01体積%以上であると、還元ガスの還元処理により、合成ガスの製造に伴う触媒構造体40の酸化を効率的に抑制できるため、触媒構造体40の触媒活性の低下をさらに抑制できる。
【0035】
また、製造装置1は、触媒構造体40の触媒活性を選択的にリフレッシュするリフレッシュ部5をさらに備えることが好ましい。リフレッシュ部5は、原料ガス供給部2から合成ガス生成部4への原料ガスの供給を停止し、還元ガスを触媒構造体40に流通しながら触媒構造体40を加熱する。
【0036】
リフレッシュ部5は、原料ガス供給部2から合成ガス生成部4への原料ガスの供給を停止し、合成ガス生成部4におけるドライリフォーミングを停止する。また、リフレッシュ部5は、合成ガス生成部4への原料ガスの供給を停止しながら、合成ガス生成部4への還元ガスの供給を行う。すなわち、リフレッシュ部5は、選択的に、合成ガス生成部4におけるドライリフォーミングを停止しながら、合成ガス生成部4内の触媒構造体40に対する還元ガスの還元処理を行う。
【0037】
このように、リフレッシュ部5は、原料ガスおよび還元ガスのうち、選択的に還元ガスのみを触媒構造体40に流通する。そのため、ドライリフォーミングを停止して、ドライリフォーミングによる触媒物質45の触媒活性の低下を回避すると共に、酸化によって触媒活性の低下した触媒物質45を還元ガスで還元処理して、触媒物質45の触媒活性を積極的にリフレッシュする。
【0038】
触媒構造体40による合成ガスの製造効率が所望値以下に低下したとき、低下した合成ガスの製造効率を積極的に増加したいときなどに、リフレッシュ部5によって、酸化している触媒構造体40の還元処理を行う。例えば、原料ガス中のメタン量と生成ガス中のメタン量とから算出されるメタン転化率(生成ガス中のメタン量×100/原料ガス中のメタン量)が所定の値以下になった場合には、リフレッシュ部5によって、触媒構造体40の還元処理を行う。
【0039】
また、リフレッシュ部5による合成ガス生成部4への原料ガスの未供給かつ還元ガスの供給時、合成ガス生成部4における触媒構造体40の加熱温度について、下限値は、好ましくは600℃以上、より好ましくは700℃以上、さらに好ましくは800℃以上であり、上限値は、好ましくは1000℃以下、より好ましくは900℃以下である。原料ガスを流通せずに還元ガスを流通している触媒構造体40の加熱温度が600℃以上であると、酸化した触媒構造体40を効率的に還元処理できるため、触媒構造体40の触媒活性をさらにリフレッシュできる。上記触媒構造体40の加熱温度が1000℃以下であると、合成ガスを効率よく製造できる。
【0040】
また、製造装置1は、合成ガス生成部4から排出される生成ガスから、合成ガスとメタンおよび二酸化炭素とを分離する分離部6をさらに備えてもよい。分離部6は、例えば深冷分離式の分離部であり、排出される生成ガスを、合成ガス生成部4におけるドライリフォーミングで未反応のメタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスと、一酸化炭素および水素を含む合成ガスとに分離する。排出される生成ガス中に含まれる未反応の原料ガスを分離することによって、合成ガスを高い割合で得ることができる。
【0041】
また、製造装置1は、分離部6で分離したメタンおよび二酸化炭素を合成ガス生成部4に供給する第1供給部7をさらに備えてもよい。第1供給部7は、合成ガス生成部4に供給する未反応のメタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスの供給量を制御することができる。第1供給部7から合成ガス生成部4に供給された原料ガスは、ドライリフォーミングに再利用することができるため、原料ガスの使用量を低減することができる。
【0042】
また、製造装置1は、合成ガス生成部4から排出される生成ガスから、水素を分離して合成ガス生成部4に供給する第2供給部8をさらに備えてもよい。第2供給部8は、生成ガスから、合成ガス生成部4におけるドライリフォーミングで製造した少なくとも一部の水素を分離し、当該水素を合成ガス生成部4に供給する。第2供給部8は、合成ガス生成部4に供給する水素の供給量を制御することができる。第2供給部8から合成ガス生成部4に供給された水素は、還元ガスとして、触媒構造体40の還元処理に利用することができるため、還元ガスの使用量を低減することができる。
【0043】
また、製造装置1は、合成ガス生成部4から排出される生成ガス中の一酸化炭素および水素を検出する検出部9をさらに備えてもよい。検出部9が生成ガス中の一酸化炭素および水素を検出できる場合には、製造装置1が正常に稼働していることを判断できる。一方、検出部9が生成ガス中の一酸化炭素および水素を検出できない場合には、製造装置1が異常であることを判断できる。迅速なドライリフォーミングに関連する部分を停止や点検、修理が可能となる。
【0044】
なお、
図1では、メタン供給部2aおよび二酸化炭素供給部2bによって、メタンおよび二酸化炭素を個別に合成ガス生成部4へ供給している一例を示しているが、メタンおよび二酸化炭素を混合させた混合ガスを合成ガス生成部4に供給してもよい。
【0045】
また、メタン供給部2aから供給されるメタンの濃度や二酸化炭素供給部2bから供給される二酸化炭素の濃度は、特に限定されるものではない。例えば、これらの濃度は、100%でもよいし、窒素やアルゴンなどの不活性ガスと混合して、所定値に調整してもよい。不活性ガスを用いる場合、図示しない不活性ガス供給部から製造装置1に不活性ガスが供給される。
【0046】
また、触媒構造体40の設置状態について、
図1では、触媒構造体40が触媒構造体収容部4a内に収容される一例を説明しているが、加熱状態の触媒構造体40が原料ガスおよび還元ガスに接触することができれば特に限定されるものではない。例えば、触媒構造体40は、合成ガス生成部4内の一部もしくは全部に収容されてもよい。また、触媒構造体40によるドライリフォーミングは、例えば、固定床、超臨界固定床、スラリー床、流動床等で実施することができる。その中でも、好ましくは、固定床、超臨界固定床、スラリー床である。
【0047】
また、分離部6および第2供給部8の配置構成について、
図1では、分離部6から排出される生成ガスが第2供給部8に供給される一例を示しているが、分離部6および第2供給部8の配置順を変えて、第2供給部8から排出される生成ガスが分離部6に供給されるように構成してもよい。
【0048】
[合成ガスの製造方法]
実施形態の合成ガスの製造方法(以下、単に製造方法ともいう)は、一酸化炭素および水素を含む合成ガスを製造するための方法であり、例えば
図1に示す製造装置1を用いて行われる。
【0049】
実施形態の合成ガスの製造方法は、工程S1(第1供給工程S1)および工程S2(生成工程S2)を有する。
【0050】
第1供給工程S1は、メタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスと還元ガスとを触媒構造体に供給する。
図1に示す製造装置1では、合成ガス生成部4の内部に設けられる触媒構造体収容部4a内の触媒構造体40に対して、原料ガス供給部2から原料ガスが供給されると共に、還元ガス供給部3から還元ガスが供給される。
【0051】
生成工程S2は、第1供給工程S1で供給された原料ガスおよび還元ガスを触媒構造体に流通しながら触媒構造体を加熱し、原料ガスに含まれるメタンおよび二酸化炭素から一酸化炭素および水素を含む合成ガスを生成する。製造装置1では、合成ガス生成部4で所定の温度に加熱されている触媒構造体40によって、原料ガス中のメタンおよび二酸化炭素から、一酸化炭素および水素を含む合成ガスが生成される。さらに、製造装置1では、ドライリフォーミング中に還元ガス供給部3から還元ガスを触媒構造体40に供給することによって、ドライリフォーミング時に発生した水分子による触媒構造体40の触媒活性の低下を長期間に亘って抑制できる。
【0052】
また、合成ガスの製造方法は、メタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスの触媒構造体への供給を停止し、還元ガスの触媒構造体への供給をする工程S11(リフレッシュ工程S11)をさらに有してもよい。製造装置1では、リフレッシュ部5によって、原料ガス供給部2から合成ガス生成部4への原料ガスの供給が停止される。そして、リフレッシュ部5は、還元ガス供給部3から合成ガス生成部4への還元ガスの供給を停止せずに継続する。還元ガスを触媒構造体40に流通しながら、触媒構造体40を加熱する。こうして、選択的に、ドライリフォーミングを停止し、酸化によって触媒活性の低下した触媒構造体40を還元ガスで還元処理して、触媒構造体40の触媒活性をリフレッシュする。
【0053】
また、合成ガスの製造方法は、生成工程S2で生成される生成ガスから、合成ガスとメタンおよび二酸化炭素とを分離する工程S12(分離工程S12)をさらに有してもよい。製造装置1では、分離部6によって、生成工程S2で生成される生成ガスから、未反応のメタンおよび二酸化炭素を含む原料ガスと、一酸化炭素および酸素を含む合成ガスとに分離される。そのため、合成ガスを高い割合で得ることができる。
【0054】
また、合成ガスの製造方法は、分離工程S12で分離したメタンおよび二酸化炭素を生成工程S2に供給する工程S13(第2供給工程S13)をさらに有してもよい。製造装置1では、第1供給部7によって、未反応のメタンおよび二酸化炭素が合成ガス生成部4で行われる生成工程S2に供給される。そのため、メタンおよび二酸化炭素は生成工程S2で行われるドライリフォーミングに再利用され、原料ガスの使用量を低減することができる。
【0055】
また、合成ガスの製造方法は、生成工程S2で生成される生成ガスから、水素を分離して生成工程S2に供給する工程S14(第3供給工程S14)をさらに有してもよい。製造装置1では、第2供給部8によって、生成工程S2で生成される生成ガスから少なくとも一部の水素が分離され、分離された水素が生成工程S2に供給される。生成工程S2やリフレッシュ工程S11において、水素は還元ガスとして触媒構造体の還元処理に再利用されるため、還元ガスの使用量を低減することができる。
【0056】
また、合成ガスの製造方法は、生成工程S2で生成される生成ガス中の一酸化炭素および水素を検出する工程S15(検出工程S15)をさらに有してもよい。製造装置1では、検出部9によって、生成工程S2で生成される一酸化炭素および水素が検出される。
【0057】
[触媒構造体の構成]
実施形態の合成ガスの製造装置および製造方法において、合成ガス生成部4に収容される触媒構造体40は、
図2~3に示すように、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体41と、担体41に内在する少なくとも1つの触媒物質45とを備える。
【0058】
触媒構造体40において、複数の触媒物質45,45,・・・は、担体41の多孔質構造の内部に包接されている。触媒物質45は、触媒能(触媒活性)を有する物質であり、具体的に非貴金属の金属微粒子である。
【0059】
担体41は、多孔質構造であり、好適には、複数の孔42a,42a,・・・が形成されることにより、互いに連通する通路42を内部に有する。担体41の内部にある通路42は、担体41の外部とも連通する。触媒物質45は、担体41の少なくとも通路42に存在しており、好ましくは担体41の少なくとも通路42に保持されている。
【0060】
このような構成により、担体41内での触媒物質45の移動が規制され、触媒物質45、45同士の凝集が有効に防止されている。その結果、触媒物質45としての有効表面積の減少を効果的に抑制することができ、触媒物質45の触媒活性は長期に亘って持続する。すなわち、触媒構造体40によれば、触媒物質45の凝集による触媒活性の低下を抑制でき、触媒構造体40としての長寿命化を図ることができる。また、触媒構造体40の長寿命化により、触媒構造体40の交換頻度を低減でき、使用済みの触媒構造体40の廃棄量を大幅に低減することができ、省資源化を図ることができる。
【0061】
また、通路42は、ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔および三次元孔のうちのいずれかと、上記一次元孔、上記二次元孔および上記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部43とを有していることが好ましく、このとき、触媒物質45は、少なくとも拡径部43に存在していることが好ましく、少なくとも拡径部43に包接されていることがより好ましい。
【0062】
これにより、触媒物質45の担体41内での移動がさらに規制され、触媒物質45の離脱や、触媒物質45、45同士の凝集をさらに有効に防止することができる。包接とは、触媒物質45が担体41に内包されている状態を指し、ゼオライトの合成によって形成された規則的な通路以外を介して、ゼオライトの外部と接触していないことを意味する。このとき、触媒物質45と担体41とは、必ずしも直接的に互いが接触している必要はなく、触媒物質45と担体41との間に他の物質(例えば、界面活性剤等)が介在した状態で、触媒物質45が担体41に間接的に保持されていてもよい。
【0063】
ここでいう一次元孔とは、一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の孔、もしくは複数の一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の複数の孔(複数の一次元チャンネル)を指す。また、二次元孔とは、複数の一次元チャンネルが二次元的に連結された二次元チャンネルを指し、三次元孔とは、複数の一次元チャンネルが三次元的に連結された三次元チャンネルを指す。そのため、拡径部には、スーパーケージのように孔がゼオライトの規則的な構造として広がっているものは含まれない。
【0064】
図3では触媒物質45が拡径部43に包接されている構成を例示しているが、この構成だけには限定されず、触媒物質45は、その一部が拡径部43の外側にはみ出した状態で通路42に存在していてもよい。また、触媒物質45は、拡径部43以外の通路42の部分(例えば通路42の内壁部分)に部分的に埋設され、または固着等によって保持されていてもよい。
【0065】
また、拡径部43は、上記一次元孔、上記二次元孔および上記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔42a,42a同士を連通していることが好ましい。これにより、担体41の内部に、一次元孔、二次元孔または三次元孔とは異なる構成の通路が設けられるので、触媒物質45の機能をより発揮させることができる。
【0066】
また、通路42は、担体41の内部に、分岐部または合流部を含んで三次元的に形成されており、拡径部43は、通路42の上記分岐部または合流部に設けられることが好ましい。
【0067】
担体41に形成された通路42の平均内径DFは、上記一次元孔、二次元孔および三次元孔のうちのいずれかを構成する孔42aの短径および長径の平均値から算出され、例えば、好ましくは0.1nm以上1.5nm以下であり、より好ましくは0.5nm以上0.8nm以下である。また、拡径部43の内径DEは、例えば、好ましくは0.5nm以上50nm以下であり、より好ましくは1.1nm以上40nm以下、さらに好ましくは1.1nm以上3.3nm以下である。拡径部43の内径DEは、例えば後述する前駆体材料(A)の細孔径、および包接される触媒物質45の平均粒径DCに依存する。拡径部43の内径DEは、触媒物質45を包接し得る大きさである。
【0068】
担体41は、ゼオライト型化合物で構成される。ゼオライト型化合物としては、例えば、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)、陽イオン交換ゼオライト、シリカライト等のケイ酸塩化合物、アルミノホウ酸塩、アルミノヒ酸塩、ゲルマニウム酸塩等のゼオライト類縁化合物、リン酸モリブデン等のリン酸塩系ゼオライト類似物質などが挙げられる。中でも、ゼオライト型化合物はケイ酸塩化合物であることが好ましい。
【0069】
ゼオライト型化合物の骨格構造は、MTW型、MFI型(ZSM-5)、FER型(フェリエライト)、LTA型(A型)、MOR型(モルデナイト)、LTL型(L型)などの中から選択され、好ましくはMFI型であり、その中でもSilicalite-1であることがより好ましい。ゼオライト型化合物には、各骨格構造に応じた孔径を有する孔が複数形成されており、例えばMFI型の最大孔径は0.636nm(6.36Å)、平均孔径0.560nm(5.60Å)である。
【0070】
以下、触媒物質45について詳しく説明する。触媒物質45は非貴金属の金属微粒子である。金属微粒子は一次粒子の状態で通路42に存在している場合と、一次粒子が凝集して形成された二次粒子の状態で通路42に存在している場合とがある。いずれの場合にも、金属微粒子の平均粒径DCは、好ましくは、通路42の平均内径DFよりも大きく、かつ拡径部43の内径DE以下である(DF<DC≦DE)。このような触媒物質45は、通路42内では、好適には拡径部43に包接されており、担体41内での触媒物質45の移動が規制される。よって、触媒物質45が流体から外力を受けた場合であっても、担体41内での触媒物質45の移動が抑制され、担体41の通路42に分散配置された拡径部43、43、・・のそれぞれに包接された触媒物質45、45、・・同士が接触するのを有効に防止することができる。
【0071】
金属微粒子の平均粒径DCは、1nm以上13.0nm以下であることが好ましい。金属微粒子の平均粒径DCが当該範囲内であると、触媒活性は十分に増加し、平均粒径DCが小さくなるにつれて、触媒活性は向上する。また、高い触媒活性と耐コーキング性の両立の観点から、金属微粒子の平均粒径DCは、好ましくは9.0nm以下であり、より好ましくは4.5nm以下である。また、金属微粒子が後述のように鉄(Fe)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1種の非貴金属を含んで構成される微粒子である場合、金属微粒子の平均粒径DCが当該範囲内であると、触媒活性と共に耐コーキング性の両方が十分に向上する。
【0072】
また、金属微粒子の金属元素(M)は、触媒構造体40に対して、0.5質量%以上7.6質量%以下で含有されているのが好ましく、0.5質量%以上6.9質量%以下で含有されているのがより好ましく、0.5質量%以上2.5質量%以下で含有されているのがさらに好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下で含有されているのが最も好ましい。金属元素(M)は、非貴金属元素である。例えば、金属元素(M)がNiである場合、Ni元素の含有量(質量%)は、{(Ni元素の質量)/(触媒構造体40の全元素の質量)}×100で表される。
【0073】
金属微粒子は、酸化されていない金属を含んで構成されていればよく、例えば、単一の金属で構成されていてもよく、または2種以上の金属の混合物で構成されていてもよい。なお、本明細書において、金属微粒子を構成する(材質としての)「金属」は、1種の金属元素(M)を含む単体金属と、2種以上の金属元素(M)を含む金属合金とを含む意味であり、1種以上の金属元素を含む金属の総称である。また、金属微粒子と金属元素が同じ金属酸化物が使用環境で還元され結果的に金属微粒子の組成になる場合、前記金属酸化物は実質的に金属微粒子とみなすことができる。
【0074】
このような非貴金属の金属微粒子としては、触媒活性の観点から、鉄(Fe)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)からなる群より選択される少なくとも1種の非貴金属を含んで構成されることが好ましい。特に、金属微粒子は、価格と性能の両立の観点から、ニッケル(Ni)を含んで構成されることが特に好ましい。
【0075】
また、金属微粒子を構成する金属元素(M)に対する、担体41を構成するケイ素(Si)の割合(原子数比Si/M)は、10以上1000以下であることが好ましく、50以上200以下であるのがより好ましい。上記割合が1000より大きいと、触媒活性が低く、触媒物質としての作用が十分に得られない可能性がある。一方、上記割合が10よりも小さいと、金属微粒子の割合が大きくなりすぎて、担体41の機械的強度が低下する傾向にある。なお、ここでいう金属微粒子は、担体41の内部に存在し、または保持された微粒子をいい、担体41の外表面41aに担持または付着した金属微粒子を含まない。
【0076】
[触媒構造体の機能]
触媒構造体40は、上記のとおり、多孔質構造の担体41と、担体41に内在する少なくとも1つの触媒物質45とを備える。触媒構造体40は、担体41に内在する触媒物質45が流体と接触することにより、触媒物質45の機能に応じた触媒能を発揮する。具体的に、触媒構造体40の外表面41aに接触した流体は、外表面41aに形成された孔42aから担体41内部に拡散により流入して通路42内に誘導され、通路42内を通って移動し、他の孔42aを通じて触媒構造体40の外部へ出る。流体が通路42内を通って移動する経路において、通路42に存在する触媒物質45と接触することによって、触媒物質45に応じた触媒反応が生じる。また、触媒構造体40は、担体41が多孔質構造であることにより、分子篩能を有する。
【0077】
まず、触媒構造体40の分子篩能について、流体がメタン含有ガスと二酸化炭素である場合を例として説明する。なお、メタン含有ガスとは、メタンとメタン以外のガスとを含む混合ガスのことをいう。また、触媒構造体40に対して、メタン含有ガスと二酸化炭素を順に接触させてもよく、同時に接触させてもよい。
【0078】
孔42aの孔径以下、言い換えれば、通路42の内径以下の大きさを有する分子で構成される化合物(例えば、メタン、二酸化炭素)は、担体41内に拡散により流入することができる。一方、孔42aの孔径を超える大きさを有する分子で構成されるガス成分は、担体41内へ拡散により流入することができない。このように、流体が複数種類の化合物を含んでいる場合に、担体41内に拡散により流入することができない物質の反応は規制され、担体41内に拡散により流入することができる物質を反応させることができる。本実施形態では、メタンおよび二酸化炭素の反応や、還元ガスおよび触媒物質45の反応が進行する。
【0079】
反応によって担体41内で生成した物質のうち、孔42aの孔径以下の大きさを有する物質のみが孔42aを通じて担体41の外部へ出ることができ、反応生成物として得られる。一方、孔42aから担体41の外部へ出ることができない物質は、担体41の外部へ出ることができる大きさの物質に変換させれば、担体41の外部へ出ることができる。このように、触媒構造体40を用いることにより、特定の反応生成物を選択的に得ることができる。本実施形態では、メタンおよび二酸化炭素が反応して、一酸化炭素および水素を含む合成ガスが反応生成物として得られる。
【0080】
触媒構造体40では、通路42の拡径部43に触媒物質45が包接されている。触媒物質45(金属微粒子)の平均粒径DCが、通路42の平均内径DFよりも大きく、拡径部43の内径DEよりも小さい場合には(DF1<DC1<DE1)、拡径部43と触媒物質45の間に小通路44が形成される。小通路44に拡散により流入した流体は、触媒物質45と効率よく接触する。各触媒物質45は、拡径部43に包接されているため、担体41内での移動が制限されている。これにより、担体41内における触媒物質45同士の凝集が防止される。さらに、触媒物質45と流体との大きな接触面積を安定して維持することができる。
【0081】
本実施形態では、触媒構造体40を用いることにより、メタンおよび二酸化炭素を原料として、一酸化炭素および水素を含む合成ガスを製造することができる。この触媒反応は、好ましくは500℃以上1150℃以下、例えば800℃以上の高温下で行った場合でも、触媒物質45は、担体41に内在しているため、加熱による影響を受けにくい。
【0082】
また、上記のドライリフォーミング時に、担体41に内在している触媒物質45が酸化されるため、触媒物質45の触媒活性が徐々に低下する。孔42aから担体41に拡散により流入した還元ガスが酸化した触媒物質45に接触すると、酸化した触媒物質45が還元されて、触媒物質45の触媒活性がリフレッシュされる。その結果、合成ガスを長期間に亘って安定して製造できる。
【0083】
[触媒構造体の製造方法]
以下、触媒構造体の製造方法の一例を説明する。
【0084】
(ステップS1-1:準備工程)
まず、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)を準備する。前駆体材料(A)は、好ましくは規則性メソ細孔物質であり、触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物の種類(組成)に応じて適宜選択できる。
【0085】
ここで、触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物がケイ酸塩化合物である場合には、規則性メソ細孔物質は、細孔径1nm以上50nm以下の細孔が1次元、2次元または3次元に均一的な大きさかつ規則的に発達したSi-O骨格からなる化合物であることが好ましい。このような規則性メソ細孔物質は、合成条件によって様々な合成物として得られる。合成物の具体例としては、例えばSBA-1、SBA-15、SBA-16、KIT-6、FSM-16、MCM-41等が挙げられ、中でもMCM-41が好ましい。SBA-1の細孔径は10nm以上30nm以下、SBA-15の細孔径は6nm以上10nm以下、SBA-16の細孔径は6nm、KIT-6の細孔径は9nm、FSM-16の細孔径は3nm以上5nm以下、MCM-41の細孔径は1nm以上10nm以下である。また、このような規則性メソ細孔物質としては、例えばメソポーラスシリカ、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスメタロシリケート等が挙げられる。
【0086】
前駆体材料(A)は、市販品および合成品のいずれであってもよい。前駆体材料(A)を合成する場合には、公知の規則性メソ細孔物質の合成方法を採用することができる。例えば、前駆体材料(A)の構成元素を含有する原料と、前駆体材料(A)の構造を規定するための鋳型剤とを含む混合溶液を調製し、必要に応じてpHを調整して、水熱処理(水熱合成)を行う。その後、水熱処理により得られた沈殿物(生成物)を回収(例えば、ろ別)し、必要に応じて洗浄および乾燥し、さらに焼成することで、粉末状の規則性メソ細孔物質である前駆体材料(A)が得られる。ここで、混合溶液の溶媒としては、例えば水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒などを用いることができる。また、原料は、担体の種類に応じて選択されるが、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)等のシリカ剤、フュームドシリカ、石英砂等が挙げられる。また、鋳型剤としては、各種界面活性剤、ブロックコポリマー等を用いることができ、規則性メソ細孔物質の合成物の種類に応じて選択することが好ましい。例えばMCM-41を作製する場合には、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等の界面活性剤が好適である。水熱処理は、例えば、密閉容器内で、80℃以上800℃以下、5時間以上240時間以下、0kPa超2000kPa以下の処理条件で行うことができる。焼成処理は、例えば、空気中で、350℃以上850℃以下、2時間以上30時間以内の処理条件で行うことができる。
【0087】
(ステップS1-2:含浸工程)
次に、準備した前駆体材料(A)に、非貴金属の金属含有溶液を含浸させ、前駆体材料(B)を得る。
【0088】
金属含有溶液は、金属微粒子を構成する金属元素(M)に対応する金属成分(例えば、金属イオン)を含有する溶液であればよく、例えば、溶媒に、金属元素(M)を含有する金属塩を溶解させることにより調製できる。このような金属塩としては、例えば、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられ、中でも硝酸塩が好ましい。溶媒としては、例えば水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒などを用いることができる。
【0089】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる方法は、特に限定されないが、例えば、後述する焼成工程S1-3の前に、粉末状の前駆体材料(A)を撹拌しながら、金属含有溶液を複数回に分けて少量ずつ添加することが好ましい。また、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液がより浸入し易くなる観点から、前駆体材料(A)に金属含有溶液を添加する前に、予め添加剤として界面活性剤を前駆体材料(A)に添加しておくことが好ましい。このような添加剤は、前駆体材料(A)の外表面を被覆する働きがあり、その後に添加される金属含有溶液が前駆体材料(A)の外表面に付着することを抑制し、金属含有溶液が前駆体材料(A)の細孔内部により浸入し易くなると考えられる。
【0090】
このような添加剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどの非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、分子サイズが大きく前駆体材料(A)の細孔内部には浸入できないため、細孔の内部に付着することはなく、金属含有溶液が細孔内部に浸入することを妨げないと考えられる。非イオン性界面活性剤の添加方法としては、例えば、後述する焼成工程S1-3の前に、非イオン性界面活性剤を、前駆体材料(A)に対して50質量%以上500質量%以下添加するのが好ましい。非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量が50質量%未満であると、上記の抑制作用が発現し難く、非イオン性界面活性剤を前駆体材料(A)に対して500質量%よりも多く添加すると、溶液の粘度が上がりすぎる。
【0091】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)の量(すなわち、前駆体材料(B)に内在させる金属元素(M)の量)を考慮して、適宜調整することが好ましい。例えば、後述する焼成工程S1-3の前に前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量は、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液中の金属元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算して、10以上1000以下となるように調整することが好ましく、50以上200以下となるように調整することがより好ましい。例えば、前駆体材料(A)に金属含有溶液を添加する前に、添加剤として界面活性剤を前駆体材料(A)に添加した場合、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を上記原子数比Si/Mに換算して50以上200以下とすることで、金属微粒子の金属元素(M)を触媒構造体に対して0.5質量%以上7.6質量%以下で含有させることができる。前駆体材料(B)の細孔内部に存在する金属元素(M)の量は、金属含有溶液の金属濃度や、上記添加剤の有無、その他温度や圧力等の諸条件が同じであれば、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量に概ね比例する。また、前駆体材料(B)に内在する金属元素(M)の量は、触媒構造体の担体に内在する金属微粒子を構成する金属元素の量と比例関係にある。したがって、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を上記範囲に制御することにより、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液を十分に含浸させることができ、さらには、触媒構造体の担体に内在させる金属微粒子の量を調整することができる。
【0092】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させた後は、必要に応じて、洗浄処理を行ってもよい。洗浄溶液として、水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒等を用いることができる。また、前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させ、必要に応じて洗浄処理を行った後、さらに乾燥処理を施すことが好ましい。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥、150℃以下の高温乾燥等が挙げられる。なお、金属含有溶液に含まれる水分および洗浄溶液の水分が前駆体材料(A)に多く残った状態で後述の焼成処理S1-3を行うと、前駆体材料(A)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥させることが好ましい。
【0093】
(ステップS1-3:焼成工程)
次に、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るため、前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成して、前駆体材料(C)を得る。
【0094】
焼成処理は、例えば、空気中で、350℃以上850℃以下、2時間以上30時間以下の処理条件で行うことが好ましい。このような焼成処理により、規則性メソ細孔物質の孔内に含浸された金属成分が結晶成長して、孔内で非貴金属の金属微粒子や非貴金属の金属酸化物微粒子が形成される。
【0095】
(ステップS1-4:水熱処理工程)
次いで、前駆体材料(C)および構造規定剤を混合した混合溶液を調製し、前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理して、触媒構造体を得る。
【0096】
構造規定剤は、触媒構造体の担体の骨格構造を規定するための鋳型剤であり、例えば界面活性剤を用いることができる。構造規定剤は、触媒構造体の担体の骨格構造に応じて選択することが好ましく、例えばテトラメチルアンモニウムブロミド(TMABr)、テトラエチルアンモニウムブロミド(TEABr)、テトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)等の界面活性剤が好適である。
【0097】
前駆体材料(C)および構造規定剤の混合は、水熱処理工程時に行ってもよいし、水熱処理工程の前に行ってもよい。また、上記混合溶液の調製方法は、特に限定されず、前駆体材料(C)と構造規定剤と溶媒とを同時に混合してもよいし、前駆体材料(C)と構造規定剤とをそれぞれ溶媒に分散させた後に、それぞれの分散溶液を混合してもよい。溶媒としては、例えば水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒などを用いることができる。また、混合溶液は、水熱処理を行う前に、酸または塩基を用いてpHを調整しておくことが好ましい。
【0098】
水熱処理は、公知の方法で行うことができ、例えば、密閉容器内で、80℃以上260℃以下、5時間以上240時間以内、0kPa超2000kPa以下の処理条件で行うことが好ましい。また、水熱処理は、塩基性雰囲気下で行われることが好ましい。
【0099】
ここでの反応メカニズムは必ずしも明らかではないが、次のように考えている。前駆体材料(C)を原料として水熱処理を行うことにより、前駆体材料(C)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造は次第に崩れるが、前駆体材料(C)の細孔内部での金属微粒子の位置は概ね維持されたまま、構造規定剤の作用により、触媒構造体の担体としての新たな骨格構造(多孔質構造)が形成される。このようにして得られた触媒構造体は、多孔質構造の担体と、担体に内在する金属微粒子を備え、さらに担体はその多孔質構造により複数の孔が互いに連通した通路を有し、触媒構造体に担持される金属微粒子の少なくとも一部が担体の通路に存在している。
【0100】
また、上記水熱処理工程において、前駆体材料(C)および構造規定剤を混合した混合溶液を調製して、前駆体材料(C)を水熱処理しているが、これに限らず、前駆体材料(C)および構造規定剤を混合することなく、前駆体材料(C)を水熱処理してもよい。
【0101】
水熱処理後に得られる沈殿物(触媒構造体)は、回収(例えば、ろ別)後、必要に応じて洗浄処理、乾燥処理および焼成処理を施すことが好ましい。洗浄溶液としては、水、アルコール等の有機溶媒、これらの混合溶媒等を用いることができる。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、沈殿物に水分が多く残った状態で焼成処理を行うと、触媒構造体の担体としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥させることが好ましい。また、焼成処理は、例えば、空気中で、350℃以上850℃以下、2時間以上30時間以内の処理条件で行うことができる。このような焼成処理により、触媒構造体に付着していた構造規定剤が焼失する。また、触媒構造体は、使用目的に応じて、回収後の沈殿物に対して焼成処理を施すことなくそのまま用いることもできる。例えば、触媒構造体の使用する環境が、酸化性雰囲気の高温環境である場合には、使用環境に一定時間晒すことで、構造規定剤は焼失する。この場合、焼成処理を施した場合と同様の触媒構造体が得られるので、焼成処理を施す必要がない。
【0102】
前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液中の金属元素(M)が比較的酸化され易いFe、Co、Ni等の金属成分を含む場合には、上記水熱処理工程後に得られる沈殿物に還元処理を行うことが好ましい。この場合、含浸処理(ステップS1-2)の後の工程(ステップS1-3~S1-4)における熱処理により、金属成分が酸化されてしまう。そのため、水熱処理工程(ステップS1-4)で形成される担体には、非貴金属の金属酸化物微粒子が内在することになる。そのため、担体に非貴金属の金属微粒子が内在する触媒構造体を得るためには、上記水熱処理後に、回収した沈殿物を焼成処理し、さらに水素ガス等の還元ガス雰囲気下で還元処理することが望ましい。還元処理を行うことにより、担体に内在する金属酸化物微粒子が還元され、金属酸化物微粒子を構成する金属元素(M)に対応する金属微粒子が形成される。その結果、担体に金属微粒子が内在する触媒構造体が得られる。なお、このような還元処理は、必要に応じて行えばよく、例えば、触媒構造体の使用する環境が還元雰囲気である場合には、触媒構造体を使用環境に一定時間晒すことで、金属酸化物微粒子は還元される。この場合、還元処理した場合と同様の触媒構造体が得られるので、還元処理を施す必要がない。
【0103】
[触媒構造体の変形例]
図4は、実施形態の合成ガスの製造装置および製造方法で用いられる触媒構造体の他の例を概略的に示す斜視図である。
【0104】
図2に示す触媒構造体40は、担体41と、担体41に内在する触媒物質45とを備えるが、実施形態の合成ガスの製造装置および製造方法で用いられる触媒構造体は、この構成だけに限定されるものではない。例えば、
図4に示すように、触媒構造体40aが、担体41に内在する触媒物質45に加えて、担体41の外表面41aに保持された少なくとも1つの他の触媒物質45aを更に備えていてもよい。
【0105】
この触媒物質45aは、一または複数の触媒能を発揮する物質である。触媒物質45aが有する触媒能は、触媒物質45が有する触媒能と同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、触媒物質45と触媒物質45aの双方が同一の触媒能を有する物質である場合、触媒物質45aの材料は、触媒物質45の材料と同一であってもよいし、異なっていてもよい。本構成によれば、触媒構造体40aに保持される触媒物質の含有量を増加することができ、触媒構造体の触媒活性を更に促進することができる。
【0106】
この場合、担体41に内在する触媒物質45の含有量は、担体41の外表面41aに保持された触媒物質45aの含有量よりも多いことが好ましい。これにより、担体41の内部に保持された触媒物質45による触媒能が支配的となり、触媒物質45の触媒能が安定的に発揮される。
【0107】
上記したように、実施形態の合成ガスの製造装置および製造方法によれば、触媒物質を担体に内在する触媒構造体の触媒活性低下の原因が担体に内在する触媒物質の酸化であることを発見し、さらには触媒構造体に還元ガスを供給することによって、ドライリフォーミングを行っても、触媒構造体の触媒活性の低下を長期間に亘って抑制でき、一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを長期間に亘って安定して製造できる。
【0108】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0109】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0110】
(実施例1-1)
まず、次のようにして、触媒構造体1を製造した。
【0111】
シリカ剤としてのテトラエトキシシラン(TEOS)(和光純薬工業株式会社製)、および鋳型剤としての界面活性剤(ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)(和光純薬工業株式会社製))を混合した混合溶液を作製し、適宜pH調整を行い、密閉容器内で、80℃以上350℃以下、100時間で、水熱処理を行った。その後、水熱処理で生成した沈殿物をろ別し、水およびエタノールで洗浄し、さらに600℃、24時間、空気中で焼成して、前駆体材料(A)としてMCM-41を得た。
【0112】
次に、硝酸ニッケル(II)六水和物(和光純薬工業株式会社製)を水に溶解させて、非貴金属の金属含有溶液を調製した。その後、粉末状の前駆体材料(A)に金属含有溶液を複数回に分けて少量ずつ添加し、室温(20℃±10℃)で12時間以上乾燥させて、前駆体材料(B)を得た。
【0113】
なお、金属含有溶液を添加する前の前駆体材料(A)に対して、添加剤としてのポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル(NIKKOL BO-15V、日光ケミカルズ株式会社製)の水溶液を添加する前処理を行い、その後、上記のように金属含有溶液を添加した。
【0114】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量は、金属含有溶液中に含まれる金属元素(M)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M)に換算したときの数値が100になるように調整した。
【0115】
次に、上記のようにして得られた金属含有溶液を含浸させた前駆体材料(B)を、600℃、24時間、空気中で焼成して、前駆体材料(C)を得た。
【0116】
次に、上記のようにして得られた前駆体材料(C)、および構造規定剤としてのテトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)を混合して混合溶液を作製し、密閉容器内で水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水洗し、100℃で12時間以上乾燥させ、さらに550℃、24時間、空気中で焼成し、触媒構造体1を得た。触媒構造体1を観察したところ、触媒物質であるNi(金属微粒子)は、担体に内在および担体の外表面に担持されていた。担体に内在するNiは、担体の外表面に担持されるNiに比べて、多かった。
【0117】
次に、
図1に示す合成ガスの製造装置における合成ガス生成部の内部に触媒構造体1を設置した。前処理として、触媒構造体1を水素雰囲気下、700℃、1.5時間の条件で還元した。続いて、触媒構造体1を700℃に加熱しながら、合成ガス生成部に原料ガス(メタンおよび二酸化炭素)と還元ガス(水素)とを表1に示す比率で、20時間、GHSV=2400h
-1で供給した。
【0118】
合成ガス生成部から排出した生成ガスの流速を計測した後、生成ガス中の成分を水素炎イオン化検出器(FID)および熱伝導度検出器(TCD)を用いて分析した。その後、計測した生成ガスの流速とFID/TCDの分析結果とから生成ガス中のメタン量を導き、以下の式(1)からメタン転化率を算出した。さらに、CHN元素分析装置(CHN analyzer)(CE-440、EXETER ANALYTICAL,INC.社製))により、3時間後および20時間後の触媒構造体1上の炭素の質量を測定し、以下の式(2)から炭素量(コーク量)を算出した。これらの結果についても表1に示す。メタン転化率が大きいほど、合成ガスの製造率が大きい。
【0119】
メタン転化率(%)=生成ガス中のメタン量(cm3/h)×100/原料ガス中のメタン量(cm3/h) ・・・式(1)
【0120】
炭素量(質量%)=炭素の質量の測定値×100/(触媒構造体の質量+炭素の質量の測定値)
【0121】
(実施例1-2~1-4)
合成ガス生成部に供給する原料ガス(メタンと二酸化炭素)と還元ガス(水素)とについて、表1に示す値に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、メタン転化率および炭素量を測定した。
【0122】
(比較例1-1)
還元ガスを合成ガス生成部に供給せず、合成ガス生成部に供給する原料ガス(メタンと二酸化炭素)について、表1に示す値に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、メタン転化率および炭素量を測定した。
【0123】
(比較例1-2)
触媒構造体1を市販のニッケル系触媒(商品コード:31276、品名:Nickel on silica-alumina,catalyst、Alfa Aesar社製)に換えて、原料ガスを合成ガス生成部に供給せず、合成ガス生成部に供給する原料ガス(メタンと二酸化炭素)について、表1に示す値に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、メタン転化率および炭素量を測定した。比較例1-2で用いたニッケル系触媒では、Ni(金属微粒子)は、担体に内在せずに、担体の外表面にのみ担持されていた。なお、比較例1-2では、3時間以内の時点で、合成ガス生成部の内圧が非常に上昇して危険であったため、合成ガスの製造を途中で中止した。炭素量は、中止時点における、担体の外表面に担持されるNi粒子に基づいて測定した。
【0124】
【0125】
表1から、実施例1-1~1-4の製造装置では、メタン転化率が長期間に亘って良好であった。この理由として、原料ガス(メタンおよび二酸化炭素)に還元ガスである水素を微量混合させて触媒構造体に供給することによって、触媒構造体の触媒活性の低下が長期間に亘って抑制できたためである。また、触媒構造体上への炭素の析出が検出限界以下であった。以上から、合成ガスを長期間安定して製造できることが明らかとなった。
【0126】
(実施例2-1~2-4)
まず、合成ガス生成部に供給する原料ガス(メタンと二酸化炭素)と還元ガス(水素)とについて、表2に示す値に変更し、これらのガスを48時間供給した以外は、実施例1-1と同様にして、メタン転化率(リフレッシュ前)を測定した。続いて、表2に示すリフレッシュ条件で触媒構造体のリフレッシュ処理を行い、リフレッシュ後のメタン転化率(リフレッシュ後)を測定した。そして、リフレッシュ後のメタン転化率からリフレッシュ前のメタン転化率を引いた値を再賦活率として算出した。
【0127】
【0128】
実施例2-1~2-4より、合成時にメタンと二酸化炭素に還元ガスを混合すると再賦活率が向上した。さらに、還元ガスの混合量が多くなる程、その効果が発現し、例えば、リフレッシュ前のメタン転化率およびリフレッシュ後のメタン転化率は、実施例2-1が最も優れていた。
【0129】
(実施例3-1~3-3)
まず、意図的に触媒構造体を酸化させて触媒活性を低下させるため、還元ガスを合成ガス生成部に供給せず、合成ガス生成部に供給する原料ガス(メタンと二酸化炭素)について、表3に示す値に変更し、これらのガスを48時間供給した以外は、実施例1-1と同様にして、メタン転化率(リフレッシュ前)を測定した。続いて、表3に示すリフレッシュ条件で触媒構造体のリフレッシュ処理を行い、リフレッシュ後のメタン転化率(リフレッシュ後)を測定した。そして、再賦活率を算出した。
【0130】
【0131】
実施例3-1~3-3より、リフレッシュ処理時の温度が上昇すると、触媒構造体の再賦活率も向上することがわかった。
【0132】
(実施例4-1)
まず、意図的に触媒構造体を酸化させて触媒活性を低下させるため、還元ガスを合成ガス生成部に供給せず、合成ガス生成部に供給する原料ガス(メタンと二酸化炭素)について、表4に示す値に変更し、これらのガスを48時間供給した以外は、実施例1-1と同様にして、メタン転化率(リフレッシュ前)を測定した。
【0133】
続いて、表4に示すデコーキング条件で、触媒構造体のコークを空気中の酸素で除去するデコーキング処理を行った。
【0134】
続いて、表4に示すリフレッシュ条件で触媒構造体のリフレッシュ処理を行い、リフレッシュ後のメタン転化率を測定した。再賦活率は、実施例3-1の再賦活率と同程度であった。参考として、実施例3-1を表4に示す。
【0135】
【0136】
比較例1-2に挙げられているような従来型の触媒に本件のリフレッシュ処理を行っても触媒活性が回復せず、触媒活性を回復させるには、高温下で酸素を供給してコークをガス化させるデコーキング処理が有効である。一方、実施例3-1と実施例4-1に示すように、当該開示における触媒構造体では、還元ガスによる還元処理だけで触媒活性のリフレッシュが可能であった。これは、従来触媒と異なる新たな劣化モードが触媒構造体に存在し、この新たな劣化モードは、触媒構造体に含まれる触媒物質の酸化に起因していると考えられる。
【符号の説明】
【0137】
1 合成ガスの製造装置
2 原料ガス供給部
2a メタン供給部
2b 二酸化炭素供給部
3 還元ガス供給部
4 合成ガス生成部
4a 触媒構造体収容部
5 リフレッシュ部
6 分離部
7 第1供給部
8 第2供給部
9 検出部
40、40a 触媒構造体
41 担体
41a 担体の外表面
42 通路
42a 孔
43 拡径部
44 小通路
45、45a 触媒物質