(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-13
(45)【発行日】2024-09-25
(54)【発明の名称】芳香族多環縮合環化合物の製造方法、新規芳香族多環縮合環化合物、有機半導体インクおよび有機半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
C07D 495/04 20060101AFI20240917BHJP
H01L 27/00 20060101ALI20240917BHJP
H01L 31/08 20060101ALI20240917BHJP
H10K 39/32 20230101ALI20240917BHJP
H10K 30/60 20230101ALI20240917BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240917BHJP
C07C 1/20 20060101ALN20240917BHJP
C07C 13/66 20060101ALN20240917BHJP
C07C 13/62 20060101ALN20240917BHJP
C09D 11/52 20140101ALN20240917BHJP
【FI】
C07D495/04 101
C07D495/04 CSP
H01L27/00
H01L31/08 Z
H10K39/32
H10K30/60
C07B61/00 300
C07C1/20
C07C13/66
C07C13/62
C09D11/52
(21)【出願番号】P 2020130217
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 栄一
(72)【発明者】
【氏名】陳 梦青
(72)【発明者】
【氏名】尚 睿
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 済
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0173027(US,A1)
【文献】特開2014-058516(JP,A)
【文献】特開2011-032197(JP,A)
【文献】Organic Letters,2009年,Vol.11(14),p.3076-3079
【文献】Advanced Energy Materials,2018年,Vol.8(24),p.1801212(1-6), Supporting Information
【文献】Chemistry of Materials,2019年,Vol.31(17),p.6359-6379
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 495/04
H10K 39/
H01L 27/
H10K 30/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(II)’で表される芳香族多環縮合環化合物。
【化1】
(式(II)’中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、及びR
8は、それぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよい芳香族環基から選択され、Ar
1及びAr
2はチオフェン環であり、nは0以上の整数を示す。)
【請求項2】
p型共役高分子、および、下記一般式(III)で表されるn型化合物を含有する活性層、を備える有機半導体デバイス。
【化2】
(式(III)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10は、それぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよい芳香族環基から選択され、X
1、X
2は、それぞれ独立にハロゲン原子を示し、p、qは、それぞれ独立に0から4までの整数を示す。r、sは、それぞれ独立に0または1を示し、nは0以上の整数を示す。)
【請求項3】
前記活性層は、[60]フラーレン、[70]フラーレン、[60]PCBM、[70]PCBM、bis[60]PCBM、bis[70]PCBM、[60]SIMEF、[70]SIMEF、[60]ICBA、[70]ICBA、[60]ICMA、および[70]ICMAからなる群より選択される少なくとも1種類のフラーレン化合物を含有する、請求項
2に記載の有機半導体デバイス。
【請求項4】
前記活性層は、多環芳香族化合物又は1,8-ジヨードオクタンを含有する、請求項
2又は
3に記載の有機半導体デバイス。
【請求項5】
前記有機半導体デバイスが光電変換素子である請求項
2~
4のいずれか1項に記載の有機半導体デバイス。
【請求項6】
波長940nmの光を照射した際の外部量子効率(EQE)が50%以上である、請求項
2乃至
5のいずれか1項に記載の有機半導体デバイス。
【請求項7】
p型共役高分子と、
下記一般式(III)で表されるn型化合物と、[60]フラーレン、[70]フラーレン、[60]PCBM、[70]PCBM、bis[60]PCBM、bis[70]PCBM、[60]SIMEF、[70]SIMEF、[60]ICBA、[70]ICBA、[60]ICMA、および[70]ICMAからなる群より選択される少なくとも1種類のフラーレン化合物と、溶剤と、を含み、前記n型化合物に対する前記フラーレン化合物の重量比が2.0以下である、有機半導体インク。
【化3】
(式(III)中、R
1
、R
2
、R
3
、R
4
、R
5
、R
6
、R
7
、R
8
、R
9
、及びR
10
は、それぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよい芳香族環基から選択され、X
1
、X
2
は、それぞれ独立にハロゲン原子を示し、p、qは、それぞれ独立に0から4までの整数を示す。r、sは、それぞれ独立に0または1を示し、nは0以上の整数を示す。)
【請求項8】
多環芳香族化合物及び/又は1,8-ジヨードオクタンを含有する、請求項
7に記載の有機半導体インク。
【請求項9】
請求項
2~
6のいずれか1項に記載の有機半導体デバイスを用いたフォトディテクタ。
【請求項10】
波長700~1200nmの光を検知するために用いる、請求項
9に記載のフォトディテクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族多環縮合環化合物の製造方法、新規芳香族多環縮合環化合物、有機半導体インクおよび有機半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
イメージセンサーに求められる役割は多様化しており、特に機械処理による作動認識、空間計測、空間マッピング、形状認識などで利用される機会が増加している。センサーによる認識としては、可視光のみならず人間が感知できない赤外光の反射光を処理することが行われているが、近赤外領域での光電変換効率が不十分であった(例えば非特許文献1、2参照)。
【0003】
近赤外領域での光電変換効率(外部量子効率)を向上させるため、これまでのところ,CMOSの光電変換の原理に基づき、光電変換層が光を吸収して励起子を発生させ電荷分離させるため、内部量子効率を向上させた吸光度の高い光電変換層とすること、或いは、光電変換層を厚膜化して吸光度を向上させること、が検討されてきている。
【0004】
非特許文献3には、バンドギャップが狭められた非フラーレン化合物、及びその合成方法が記載されている。この非フラーレン化合物は、分子の中央に電子供与性部位をもち、両サイドに電子求引性部位を持つ骨格からなっている。近赤外領域での光電変換効率(外部量子効率)を向上させるため、CMOSの光電変換の原理に基づき、光電変換層が光を吸収して励起子を発生させ電荷分離させるため、内部量子効率を向上させた吸光度の高い光電変換層とすること、或いは、光電変換層を厚膜化して吸光度を向上させることが必要であるが、十分な電子供与性基となる部位の合成が困難であり、好ましい電子供与性部位の種類は限られていた(非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】DOI:10.1021/acs.chemmater.9b00966,Chem.Mater.(2019)
【文献】ACS Appl.Mater.Interfaces 2018,10,11063-11069.
【文献】Adv.Energy Mater.,2018,8,1801212.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
より高い光電変換効率を有する半導体デバイスに使用するn型半導体の分子設計が行われているが、電子供与部位の骨格合成が難しかった。さらに、これらの電子供与部位は、貴金属を用いたカップリング反応を用いるため、貴金属が化合物に残存する問題もあった。近赤外センサーなどの有機半導体デバイスの外部量子効率を向上させるためには吸収領域の長波長化が必要であり、高い電子供与性を持った芳香族多環縮合環化合物の合成方法の確立が不可欠であった。本発明の課題は、高い電子供与性を持った芳香族多環縮合環化合物の新たな製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、貴金属を用いない、電子供与
性部位である芳香族多環縮合環の応用範囲の広い合成法を確立し、その合成法を用いて新規化合物を製造した。さらに、該電子供与性部位を組み込んだn型化合物を製造し、p型共役高分子と当該n型化合物を含有する活性層を備えた有機半導体デバイスを構築することにより、高い外部量子効率(EQE)を有する有機半導体デバイスが得られることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
(1)下記式(I)で表される化合物と、二価の鉄化合物と、三価のリン化合物と、マグネシウムと、を共存させ、酸化反応させる反応工程、を含む、下記式(II)で表される芳香族多環縮合環化合物の製造方法。
【化1】
(式(I)及び式(II)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、及びR
8は、それぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよい芳香族環基から選択され、Ar
1、及びAr
2はそれぞれ独立に5員環または6員環を有する、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素及び芳香族複素環から選択される。式(I)中、Z
1、Z
2、Z
3、及びZ
4は、それぞれ独立に置換基を有していてもよいシリル基またはメチル基から選択され、nは0以上の整数を示す。)
(2)前記反応工程において、マグネシウム環化体を形成する際に、ハロゲン化リチウムを共存させる、(1)に記載の製造方法。
(3)前記反応工程において、酸化反応が、空気、酸素、ハロゲン化合物、及び有機過酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一つを酸化剤として用いる、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)前記式(II)中、Ar
1およびAr
2がチオフェン環である、(1)乃至(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)下記式(II)’で表される芳香族多環縮合環化合物。
【化2】
(式(II)’中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、及びR
8は、それぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよい芳香族環基から選択され、Ar
1及びAr
2はチオフェン環であり、nは0以上の整数を示す。)
(6)(5)に記載の化合物を中間体として用いて反応させ、製造される、下記一般式(III)で表されるn型半導体化合物の製造方法。
【化3】
(式(III)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、及びR
8は、上式(II)’と同義であり、R
9、R
10は、それぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよい芳香族環基から選択され、X
1、X
2は、それぞれ独立にハロゲン原子を示し、p、qは、それぞれ独立に0から4までの整数を示す。r、sは、それぞれ独立に0または1を示し、nは0以上の整数を示す。)
(7)p型共役高分子、および、下記一般式(III)で表されるn型化合物を含有する活性層、を備える有機半導体デバイス。
【化4】
(式(III)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10は、それぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよい芳香族環基から選択され、X
1、X
2は、それぞれ独立にハロゲン原子を示し、p、qは、それぞれ独立に0から4までの整数を示す。r、sは、それぞれ独立に0または1を示し、nは0以上の整数を示す。)
(8)前記活性層は、[60]フラーレン、[70]フラーレン、[60]PCBM、[70]PCBM、bis[60]PCBM、bis[70]PCBM、[60]SIMEF、[70]SIMEF、[60]ICBA、[70]ICBA、[60]ICMA、および[70]ICMAからなる群より選択される少なくとも1種類のフラーレン化合物を含有する、(7)に記載の有機半導体デバイス。
(9)前記活性層は、多環芳香族化合物又は1,8-ジヨードオクタンを含有する、(7)又は(8)に記載の有機半導体デバイス。
(10)前記有機半導体デバイスが光電変換素子である(7)~(9)のいずれかに記載の有機半導体デバイス。
(11)波長940nmの光を照射した際の外部量子効率(EQE)が50%以上である、(7)乃至(10)のいずれかに記載の有機半導体デバイス。
(12)p型共役高分子と、式(III)で表されるn型化合物と、[60]フラーレン、[70]フラーレン、[60]PCBM、[70]PCBM、bis[60]PCBM、bis[70]PCBM、[60]SIMEF、[70]SIMEF、[60]ICBA、[70]ICBA、[60]ICMA、および[70]ICMAからなる群より選択される少なくとも1種類のフラーレン化合物と、溶剤と、を含み、前記n型化合物に対する前記フラーレン化合物の重量比が2.0以下である、有機半導体インク。
(13)多環芳香族化合物及び/又は1,8-ジヨードオクタンを含有する、(12)に記載の有機半導体インク。
(14)(7)~(11)のいずれかに記載の有機半導体デバイスを用いたフォトディテクタ。
(15)波長700~1200nmの光を検知するために用いる、(14)に記載のフォトディテクタ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い電子供与性を持った芳香族多環縮合環化合物の新たな製造方法が提供される。また、当該製造方法で製造される芳香族多環縮合環化合物は、新規芳香族多環縮合環化合物を含む。さらに、当該製造方法で得られる化合物は、高い電子供与性部位を含む芳香族多環縮合環を有する、有機半導体デバイス用のn型低分子化合物として使用
できる。さらに、これを用いることで、外部量子効率(EQE)の高い有機半導体デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を説明するが、本発明の実施の形態は以下の形態に制限されるものではない。
【0011】
本発明の一形態は、下記式(I)で表される化合物と、二価の鉄化合物と、三価のリン化合物と、マグネシウムと、を共存させ、系中でマグネシウム環化体を形成し、酸化反応させる反応工程、を含む、下記式(II)で表される芳香族多環縮合環化合物の製造方法である。
【化5】
【0012】
式(I)及び式(II)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、及びR8は、それぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基、及び置換基を有していてもよい芳香族環基から選択される。
上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、2-メチルプロピル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、シクロヘキシルメチル基、ネオペンチル基、2-エチルブチル基、イソプロピル基、2-ブチル基、シクロヘキシル基、3-ペンチル基、tert-ブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、2-エチルヘキシル基、2-ブチルオクチル基等の直鎖状、分岐鎖状若しくは環状のアルキル基が挙げられる。このうち好ましくは炭素数20以下のアルキル基である。
【0013】
上記芳香族基としては,フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フルオレニル基、フェナンスレニル基、アズレニル基などのアリール基、チエニル基,イミダゾリル基,ピラゾリル基,チアゾリル基,などのヘテロアリール基が挙げられる。このうち好ましくは炭素数12以下の単環、2縮合環アリール基、又は単環ヘテロアリール基である。更に好ましくは、炭素数6以下の単環のアリール基、またはチエニル基である。
【0014】
置換基を有してもよい基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、アリー
ルチオ基、ヘテロアリールチオ基、アミノ基、アシル基、アミノアシル基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、イミド基及びシリル基などが挙げられる。
【0015】
具体的にはメチル基、エチル基などの炭素数1~15程度のアルキル基;
エチニル基、プロピレニル基などの炭素数2~10程度のアルケニル基;
アセチレニル基など炭素数2~10程度のアルキニル基;
フェニル基、ナフチル基などの炭素数6~20程度のアリール基;
チエニル基、フリル基、ピリジル基などの炭素数3~20程度のヘテロアリール基;
メトキシ基,エトキシ基、プロポキシ基などの炭素数1~15程度のアルコキシ基;
フェノキシ基、ナフトキシ基などの炭素数6~20程度のアリールオキシ基;
ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基などのなどの炭素数3~20程度のヘテロアリールオキシ基;
メチルチオ基、エチルチオ基などの炭素数1~15程度のアルキルチオ基;
フェニルチオ基、ナフチルチオ基などの炭素数6~20程度のアリールチオ基;
ピリジルチオ基、チエニルチオ基などのなどの炭素数3~20程度のヘテロアリールチオ基;
ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などの炭素数1~20程度の置換基を有していてもよいアミノ基;
アセチル基、ピバロイル基などの炭素数2~20程度のアシル基;
アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基などの炭素数2~20程度のアシルアミノ基;3-メチルウレイド基などの炭素数2~20程度のウレイド基;
メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基などの炭素数1~20程度のスルホンアミド基;
ジメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基などの炭素数1~20程度のカルバモイル基;
エチルスルファモイル基などの炭素数1~20程度のスルファモイル基;
ジメチルスルファモイルアミノ基などの炭素数1~20程度のスルファモイルアミノ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭素数2~6程度のアルコキシカルボニル基;
フェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基などの炭素数7~20程度の芳香族炭化水素オキシカルボニル基;
ピリジルオキシカルボニル基などの炭素数6~20程度の芳香族複素環炭化水素オキシカルボニル基;
メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、取りフルオロメタンスルホニル基などの炭素数1~6程度のアルキルスルホニル基;
ベンゼンスルホニル基、モノフルオロベンゼンスルホニル基などの炭素数6~20程度のアリールスルホニル基;
チエニルスルホニル基などの炭素数3~20程度のヘテロアリールオキシスルホニル基;フタルイミドなどの炭素数4~20程度のイミド基;
又は、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基で3置換されているシリル基などが挙げられる。
【0016】
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、及びR8として特に好ましくは、総炭素数15以下の、置換基を有してもよいアルキル基、総炭素数20以下の、置換基を有してもよい単環アリール基、又は総炭素数15以下置換基を有してもよい単環ヘテロアリール基である。
【0017】
Ar1、及びAr2はそれぞれ独立に5員環または6員環を有する、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素及び芳香族複素環から選択される。Ar1、Ar2は、好ましくは、それぞれ独立に置換されていてもよいアリール基、または,置換されていてもよいヘテロアリール基である。
【0018】
具体的には、上記R1~R8の具体例であげた、アリール基及びヘテロアリール基が挙げられる。置換基を有してもよい基の置換基としては、上記R1~R8であげたものと同様のものがあげられる.
Ar1、Ar2としてより好ましくは、総炭素数15以下の、置換基を有してもよい単環アリール基、または、総炭素数15以下置換基を有してもよい単環ヘテロアリール基である。特に好ましくは置換基を有してもよいチオフェン環である。置換基として、上記であげた中でも、さらに好ましくは炭素数1~15程度のアルキル基、炭素数1~15程度のアルコキル基及びハロゲン原子である。
【0019】
式(1)中、Z1、Z2、Z3、及びZ4は、それぞれ独立に置換基を有していてもよいシリル基またはメチル基から選択される。
シリル基としては,トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基、n-ブチルジメチルシリル基、ジメチルエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジメチルイソプロピルシリル基、トリイソプリピルシリル基,tert-ブチルジメチル基などがあげられるが、特に好ましくは、立体障害が小さいメトキシ基またはトリメチルシリル基である。
【0020】
nは0以上の整数を表し、好ましくは0から5の整数である。
【0021】
(二価の鉄化合物)
本形態の反応工程で上記式(I)の化合物と共存させる「二価の鉄化合物」とは、化合物中の鉄が二価であることを意味する。
二価の鉄化合物としては、FeCl2、FeBr2、FeI2、Fe(OAc)2、Fe(acac)2、などの化合物が挙げられる。反応工程で共存させる二価の鉄化合物の量は特に限定されないが、一般式(I)の化合物に対し二価の鉄化合物は1mol%から30mol%の範囲内であり、より好ましくは1mol%から20mol%の範囲内である。
【0022】
(三価のリン化合物)
本形態の反応工程で上記式(I)の化合物と共存させる「三価のリン化合物」とは、化合物中のリンが三価であることを意味する。
三価のリン化合物としては、例えばシグマーアルドリッチ社の「Buchwald ポートフォリオ2019パラダサイクルと配位子」や「クロスカップリング反応のための Pd 触媒・配位子 アプリケーションガイド」に記載の三価のリン配位子から選ばれる。この中でもトリフェニルホスフィン及びトリ(オルトトリル)ホスフィンが、簡易的かつ安価に用いることのできる点で好ましく、トリtert-ブチルホスフィンが反応性をあげることができる点で好ましい。Buchwaldのリン配位子は、基質によって最適の配位子を選ぶことで本形態の反応による一般式(II)の化合物の収率を向上させることができる点で好ましい。二価の鉄化合物に対し三価のリン化合物をモル比で1:1~1:3の比率で用いることが好ましく、特に好ましくは1:1.5~1:2.5の比率である。
【0023】
(マグネシウム)
本形態の反応工程で上記式(I)の化合物と共存させるマグネシウムは特に限定されず、マグネシウム金属であってよく、マグネシウム含有化合物であってもよい。マグネシウ
ム含有化合物としては、アルドリッチ社製のRiekeマグネシウム、ターボマグネシウムなどがあげられる。共存させるマグネシウムの量は、一般式(I)の化合物1molに対し3モル~10モルが好ましいが、系中の撹拌効率を落とさないためには3モル~5モルが特に好ましい。
【0024】
(ハロゲン化リチウム)
本形態の反応工程では、ハロゲン化リチウムを更に共存させることが好ましい。ハロゲン化リチウムを更に共存させることで、マグネシウム試薬を活性化させることから好ましい。ハロゲン化リチウムとしては塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムなどが挙げられ、これらのハロゲン化リチウムは、マグネシウムと等モル数共存させることが好ましい。具体的には、マグネシウム:ハロゲン化リチウムのモル比が1:0.5~1:1.5であることが好ましく、1:0.8~1:1.2であることがより好ましい。
【0025】
(溶媒)
本形態の反応は、通常溶媒中で行う。その際に用いる溶媒としては、例えば
トルエン、クロロベンゼンなどの芳香族系溶媒;
エーテル、1,4-ジオキサン、THFなどのエーテル系溶媒;
ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族系溶媒;
塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒;などから選択できる。このうちトルエン、テトラヒドロフランを用いることが好ましい。これらの溶媒は単独で用いても、2種以上を混合してもよく、例えば、基質等の溶解度が低い溶媒を用いる場合にはハロゲン系溶媒やエーテル系溶媒を組み合わせると反応成績が向上し、また、溶存酸素濃度の低い溶媒を用いる場合には非極性溶媒、より好ましくは炭化水素系溶媒を組み合わせると反応成績が向上する。
【0026】
(酸化剤)
本形態の反応工程では、酸化剤を用いて酸化反応を行うことが好ましい。酸化剤としては、空気、酸素、ハロゲン化合物;例えば、ヨウ素、臭素、テトラブチルアンモニウムトリブロマイド、ブロミン-1,4-ジオキサン複合体、1,2-ジブロモ-1,1,2,2-テトラクロロエタン、1,2-ジクロロエタンピリジニウムブロマイドパーブロマイド、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセンハイドロゲントリブロマイド、NBS、5,5-ジブロモメルドラム酸、トリメチルシリルブロマイド、1-クロロ-2-イオドエタン、NIS、テトラメチルアンモニウムジクロロイオデート、ピリジンイオダインモノクロライド、TMSI、有機過酸化物;例えばジアシルパーオキサイド、アルキルパーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、パーオキシカーボネート、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、アルキルハイドロパーオキサイド、mCPBA、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ビス(トリメチルシリル)パーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2-ハイドロパーオキシ-4,5-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、メチルエチルケトンパーオキサイド、が挙げられる。
副反応を抑える面から、求核性の弱い酸化剤が好ましい。
【0027】
(反応温度)
本形態の反応工程における反応温度は、通常-5℃以上、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上で行われ、特に好ましくは25℃程度~溶媒の沸点程度の範囲で行われ、反応の進行速度に応じて、用いる溶媒の還流温度までの範囲で任意に設定可能である。酸化が遅いとき(つまり収率の悪いとき)は、反応溶液中に超音波、マイクロ波を照射することや、反応溶液をオートクレーブ処理すること、を併用することが好ましい。
【0028】
反応時間は、通常30分以上24時間以下であるが、用いる溶媒の種類やその他の反応条件にも依存するので、任意に設定すればよい。また、反応の進行度合いは、高速液体ク
ロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。反応終了後は、公知の単離・精製方法を用いて、目的とする一般式(II)の化合物を得ることができる。なお、鉄化合物を除去するために、更に希塩酸水溶液で抽出することが好ましい。
【0029】
以上の方法により一般式(II)で表される芳香族多環縮合環化合物を製造することができる。このような上記一般式(II)で表される化合物の好ましい具体例を以下に示す。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
本発明の別の形態は、下記式(II)’で表される芳香族多環縮合環化合物であり、新規化合物である。
【化9】
式(II)’中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、及びR
8は、それぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよい芳香族環基から選択され、Ar
1、及びAr
2はチオフェン環であり、nは0以上の整数を示す。
【0034】
また、本発明の別の形態は、上記式(II)’で表される芳香族多環縮合間化合物を準備するステップ、及び上記化合物を中間体として、下記一般式(III)で表される化合物を製造するステップ、を含むn型半導体化合物の製造方法である。
【化10】
【0035】
式(III)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、及びR8は、上式(II)と同義であり、R9、R10は、それぞれ独立に置換基を有していてもよいアルキル基、及び置換基を有していてもよい芳香族環基から選択され、X1、X2は、それぞれ独立にハロゲン原子を示し、p、qは、それぞれ独立に0から4までの整数を示す。r、sは、それぞれ独立に0または1を示し、nは0以上の整数を示す。
【0036】
R9及びR10で表されるアルキル基は、炭素数6以上20以下の直鎖又は分岐のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数が7以上、更に好ましくは炭素数が8以上であり、また、より好ましくは炭素数が15以下であり、更に好ましくは炭素数が12以下である。
【0037】
炭素数6以上20以下の直鎖又は分岐の炭化水素基としては、n-オクチル基、n-デシル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基等の直鎖アルキル基;2-エチルヘキシル基、2-ブチルオクチル基等の分岐を有する1級アルキル基;2-オクチル基、2-ノニル基、2-デシル基等の分岐を有する2級アルキル基;等が挙げられる。
これらのうち、R9及びR10は、1級の分岐鎖炭化水素基であることが好ましい。
【0038】
X1及びX2は、溶解性を向上させる観点からはフッ素原子であることが好ましく、活性層を形成したときの分子配列の面から、塩素原子であることが好ましい。
【0039】
r及びsは、1又は、片方は0であることが好ましい。p及びqは、1又は2であることが好ましい。nは、溶解度の観点から0又は1であることが好ましい。
【0040】
一般式(III)で表されるn型化合物は、例えば,非特許文献3(Adv.Energy Mater.、8巻、1801212(2018年))に記載の方法により合成できる。
【0041】
(n型有機半導体化合物)
上記式(III)の化合物は、n型有機半導体化合物として、有機半導体デバイスの活性層に含有させることができる一般式(III)で表されるn型化合物は、溶液中の吸収極大が850nm以上1200nm以下の範囲にあり、赤外線フォトディテクタ用の光電変換素子として適切なバンドギャップを有する。
有機半導体デバイスの活性層には、上記n型有機半導体化合物のほか、n型フラーレン化合物及びp型共役高分子を含むことができる。このような有機半導体デバイスの活性層は、本発明の別の実施形態である。
【0042】
(n型フラーレン類)
本実施形態に係る有機半導体デバイスの活性層は、n型有機半導体として、n型フラーレン類を含有してもよい。n型フラーレン類は、1種単独又は2種以上を混合して用いることができる。本実施形態においては、p型共役高分子及びn型化合物を含有する活性層に、n型フラーレン類を加えることで、電子移動度の向上とn型化合物の近赤外領域の吸収とを両立させることができる。
【0043】
n型フラーレン類は、特に限定されず、n型半導体として公知のフラーレン類を用いることができる。公知のフラーレン類としては、フラーレン-C60、フラーレン-C70、フラーレン-C76、フラーレン-C78、フラーレン-C84、フラーレン-C240、フラーレン-C540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブ等の無修飾フラーレン;及びこれらの一部が水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基、シリル基、エーテル基、アミノ基、シリル基等によって置換されたフラーレン誘導体;が挙げられる。
【0044】
具体的なフラーレン誘導体としては、[60]PCBM、[70]PCBM、bis[60]PCBM、bis[70]PCBM、[60]SIMEF、[70]SIMEF、[60]ICBA、[70]ICBA、[60]ICMA、[70]ICMA、MP-C60、[60]PCBiB、[60]PCBH等が挙げられる。
これらのうち、無修飾フラーレンは、[60]フラーレン又は[70]フラーレンであることが好ましい。
【0045】
また、フラーレン誘導体は、[60]PCBM、[70]PCBM、bis[60]PCBM、bis[70]PCBM、[60]SIMEF、[70]SIMEF、[60]ICBA、[70]ICBA、[60]ICMA、又は[70]ICMAであることが好ましく、[60]PCBM、[70]PCBM、又は[70]SIMEFであることがより好ましい。
【0046】
活性層中におけるn型化合物に対するn型フラーレン類の重量比は、特に限定されず、
通常0.2以上、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、また、通常2.0以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下である。当該重量比を上記範囲内とすることにより、活性層の混合溶液中での溶解性を担保することができる。
【0047】
(p型共役高分子)
本実施形態に係る有機半導体デバイスの活性層は、p型有機半導体として、p型共役高分子を含有する。p型共役高分子としては、例えば正孔輸送性高分子が挙げられ、電子を供与しやすい性質がある構成単位を有する正孔輸送性高分子であることが好ましい。また、p型共役高分子は、n型有機半導体と混合して塗布により膜を形成できるものであることが好ましい。
【0048】
正孔輸送性高分子中、正孔輸送性に優れる部分構造としては、具体的には、ベンゾジチオフェン構造、チオフェン構造、カルバゾール構造、ジベンゾフラン構造、トリアリールアミン構造、ナフタレン構造、フェナントレン構造又はピレン構造が挙げられる。
具体的なp型共役高分子としては、例えば一般式(IV)で表されるp型共役高分子が挙げられる。なお、式(IV)中、nは正の数である。
【0049】
【0050】
活性層中、p型共役高分子に対するn型化合物の重量比は、通常0.5以上、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.65以上、また、通常1.5以下、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.0以下である。
また、活性層中、p型共役高分子に対するn型フラーレン類の重量比は、通常0.4以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、また、通常2.0以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下である。
活性層の形成方法は、特に限定されず、既知の方法により成膜できるが、典型的には塗布法である。
【0051】
塗布法で活性層を成膜する場合、有機溶媒に、有機半導体であるp型共役高分子,n型化合物、及びn型フラーレン類、に加え、添加物としてその他必要な物質を溶解して有機半導体インクを調製し、該有機半導体インクをスピンコート法などにより基板上に塗布し、乾燥することで形成する。スピンコートの条件は、有機半導体インクの粘度等を考慮して、定法に従い、適宜決定すればよい。乾燥の条件は、有機半導体インク中の有機溶媒を除去できる限り特に限定されず、例えば有機半導体インクを大気圧下、70℃~130℃で5分~20分間加熱アニールすることにより有機半導体インクを乾燥することができる。これらの有機半導体インクもまた、本発明の別の形態である。
【0052】
有機半導体インク中のp型共役高分子、n型化合物及びn型フラーレン類の含有量は、塗布により活性層を形成できれば特段限定されない。
有機半導体インク中のp型共役高分子の含有量は、通常0.5質量%以上であり、0.7質量%以上であってもよく、また、通常1.5質量%以下であり、1.3質量%以下であってもよい。
有機半導体インク中のn型フラーレン類の含有量は、通常0.3質量%以上であり、0.4質量%以上であってもよく、また、通常1.5質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよい。
【0053】
また、有機半導体インク中のn型化合物の含有量は、通常0.7質量%以上であり、1.0質量%以上であってもよく、また、通常2.0質量%以下であり、1.8質量%以下であってもよい。
本実施形態において、有機半導体インク中のn型化合物に対するn型フラーレン類の重量比は、通常0.3以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、また、通常2.0以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下である。当該重量比を上記範囲内とすることにより、n型フラーレンの高電子移動度によるEQE向上の効果がある。
【0054】
有機半導体インクに用いられる有機溶媒としては、特に限定されず、一般的に有機半導体デバイスの活性層を形成するための塗布液に用いられる有機溶媒を使用することができる。具体的には、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素溶媒、THF、ジブチルエーテル等のエーテル溶媒の有機溶媒が挙げられる。一般に、有機半導体は、これらの有機溶媒への溶解性が高いためである。また、これらの有機溶媒を用いることで、光電変換効率の向上も期待できる。
【0055】
上記有機溶媒のうち、有機溶媒は、有機半導体の種類にもよるが、キシレン、クロロベンゼンまたはクロロホルムであることが好ましい。また、溶解性を調整する場合には、有機溶媒は、2種類以上の混合有機溶媒であってもよい。なお、含有比は特段限定されず、1:9~9:1の範囲であればよい。これらの有機溶媒は、沸点の差が、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下がさらに好ましい。
【0056】
有機半導体インクは、p型共役高分子、n型化合物およびn型フラーレン類に加え、バルクへテロ構造を安定化する目的から、添加物を含有することが好ましい。
添加物としては、p型有機半導体の芳香族部位及びn型有機半導体の芳香族部位のスタッキングを促進し、またp型有機半導体とn型有機半導体とのバルクヘテロ構造形成を促進することができる化合物が挙げられ、例えば多環芳香族化合物、1、8-ジヨードオクタン等が挙げられる。
【0057】
多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、ピレンなどが挙げられる。これらのうち、添加物は、1-クロロナフタレンなどの2環式縮合環であることが好ましい。
有機半導体インク中の添加物の含有量は、インク中に通常1.5質量%以上、好ましくは2.0質量%以上、また、通常4.0質量%以下、好ましくは3.5質量%以下である。
【0058】
さらに、有機半導体インクは、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の成分を含有してもよい。その他成分の含有量は、通常、有機溶媒に対し2.0質量%以下である。
【0059】
(例示化合物)
以下、式(III)の化合物の具体例を例示する。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
(デバイス)
有機半導体デバイスが光電変換素子の場合、光電変換素子の構造は、例えば特開2007-324587号公報の記載などを参照することができ、特段限定されず、例えば、透明基板上に、透明電極、電子輸送層、活性層(光電変換層)、正孔輸送層、及び金属電極の順に積層された構造であってよく、透明基板上に、透明電極、正孔輸送層、活性層(光電変換層)、電子輸送層、及び金属電極の順に積層された構造であってもよい。
【0064】
透明電極は、450nm以上の可視光において、平均透過率が80%以上である材料からなる電極である。透明電極を形成する材料としては、透明電極を形成できれば特段の制限はないが、スズをドープしたインジウム酸化物(ITO)、亜鉛をドープしたインジウム酸化物(IZO)、タングステンをドープしたインジウム酸化物(IWO)、亜鉛とアルミニウムとの酸化物(AZO)、酸化インジウム(In2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)等があげられる。
【0065】
金属電極は、上記透明電極と対をなす電極である。金属電極を構成する材料としては特段限定されず、金、白金、銀、アルミニウム、ニッケル、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム、クロム、銅、コバルトの等の金属又はその合金が挙げられる。
金属電極が透明電極である形態、すなわち一対の電極が透明電極であることが好ましい。この場合、金属電極は、上記透明電極を形成する材料で形成され、一対の電極が同じ材料から形成されていてもよく、異なっていてもよい。
金属電極の膜厚は、特に限定されず、透明性を出したい場合には通常10nm程度であればよい。一方、透明性を求めないのであれば、耐久性等を考慮して40nm以上、さらに好ましくは、100nm以上にしてもよい。
【0066】
電子輸送層及び正孔輸送層の構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の部材及びその製造方法を使用することができる。
【0067】
有機半導体デバイスが光電変換素子である場合、光電変換素子は、フォトディテクタとして光センサーや撮像素子に備えられ、使用される。その場合の光センサー及び撮像素子の構成は、既知のものを適用すればよい。
本実施形態に係る有機半導体デバイスは、p型有機半導体に適切なn型有機半導体と組み合わせて活性層を形成することで、700~1200nmにおける外部量子効率(EQE)を少なくともその一部の波長で50%以上とすることができ、より好ましくは波長940nmにおけるEQEが50%以上、さらに好ましくは700~1200nmの全ての波長でEQEを50%以上とすることができる。
【0068】
このような活性層を有する有機半導体デバイス(光電変換素子)を用いることで、波長700~1200nmの光を検知するために用いるフォトディテクタを得ることができる。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例により本発明の実施態様を説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。なお、反応式中の化合物の下部に付されている番号が化合物番号である。
化合物の同定は、マススペクトル(島津製作所製LCMS-IT-TOF)のAPCI法(大気圧化学イオン化法)により行った。
【0070】
<実験例1>
【化15】
化合物1(1.05g,4.0mmol)、化合物2(228.1mg,2.0mmol)、Pd(PPh
3)
2Cl
2(70.2mg,0.1mmol)、dppb(85.3mg,0.2mmol)をシュレンク管に入れ、窒素置換した。これに、DBU(609mg,4.0mmol)とDMSO(10mL)を加え、80℃で4時間加熱した。室温まで冷却後、飽和塩化アンモニウム水(15mL)を加え、エーテル(50mL×2回)で抽出した。有機層を飽和食塩水(50mL)で洗い、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過した。有機層を減圧濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;10%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、化合物3を69%の収率で得た。
MS (APCI+)294.1
【0071】
<実験例2>
【化16】
フェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液(11.0mL,9.0mmol)をシュレンク管に入れ、0℃まで冷やした。これに、THF(2mL)に溶かした化合物3(588.6mg,2.0mmol)を5分かけて滴下した後、室温まで昇温し、12時間撹拌した。反応溶液を氷水に注ぎ、酢酸エチル(15mLx2)で抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後濾過した。有機層を減圧濃縮し、得られた粗生成物を酢酸エチル/ヘキサンに溶かして再結晶させ、化合物4を83%の収率で得た。
MS (APCI+)545.2
【0072】
<実験例3>
【化17】
化合物4(545.6mg,1.0mmol)のメタノール(10mL)のサスペンシ
ョン溶液にCAN(219.3mg,0.4mmol)を加えた後、50℃まで昇温し、12時間撹拌した。室温まで冷却後、反応溶液を濾過し、沈殿をメタノールで懸洗し、化合物5を90%収率で得た。
MS (APCI+)570.3
【0073】
<実施例1>
【化18】
シュレンク管にLiCl(25.4mg,0.60mmol)を加え、加熱乾燥した後、これにFeCl
2(5.2mg,0.04mmol)、PPh
3(21.0mg,0.08mmol)、Mg粉末(14.6mg,0.60mmol)、化合物5(114.1mg,0.20mmol)を窒素気流下で加えた。この混合物にTHF(0.4mL)を加え、室温で7時間撹拌した後、1,2-ジクロロプロパン(39μL,0.40mmol)をゆっくり加え、さらに室温で12時間撹拌した。反応溶液をクロロホルム(30mL)で希釈し、有機層を1M塩酸(15mL)で洗い、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後濾過した。有機層を減圧濃縮し、得られた粗生成物をクロロホルムーメタノールに溶かして再結晶させ、実施例1の化合物を92%の収率で得た。
MS (APCI+)508.7
【0074】
<実験例4>
【化19】
nBuLi(1.6M,66mL)とジイソプロピルアミン(10.6g)のTHF(40mL)から調製された、LDA(105mmol)に、化合物6(6.4g,50mmol)のTHF(50mL)溶液を-78℃で10分かけて滴下した。混合溶液をさらに-78℃で撹拌し、ヨウ素(13.9g,55mmol)のエーテル溶液(40mL)を10分かけて滴下した。反応溶液を室温まで昇温し、さらに1時間撹拌した後、エーテル(100mL)を加え、氷水(300mL)に注いだ。水層を1M塩酸で弱酸性にし、酢酸エチル(300mL)で抽出した。これらの有機層を合わせ、硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過した。有機層を減圧濃縮し、得られた粗生成物をエタノール-水から再結晶させ,化合物7を84%の収率で得た。
MS (APCI+)253.9
【0075】
<実験例5>
【化20】
化合物7(10.6g,41.7mmol)のメタノール(80mL)溶液に、濃硫酸1mLを加え、80℃で14時間撹拌した。室温まで冷却後、氷水(100mL)に注ぎ、炭酸水素ナトリウムを加え中和した。エーテル(100mL×2回)で抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過した。有機層を減圧濃縮し、化合物8を定量的(収率100%)に得た。
MS (APCI+)267.9
【0076】
<実験例6>
【化21】
化合物8(1.07g,4.0mmol)、化合物2(250.9mg,2.2mmol)、Pd(PPh
3)
2Cl
2(140.4mg,0.2mmol)、dppb(170.6mg,0.4mmol)をシュレンク管に入れ、窒素置換した。これにDMSO(40mL)を加え、DBU(1.22mg,8.0mmol)を5分で滴下した。この反応溶液を80℃で6時間加熱した。室温まで冷却後、飽和塩化アンモニウム水(60mL)を加え、酢酸エチル(60mL×2回)で抽出した。有機層を飽和食塩水(50mL)で洗い、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過した。有機層を減圧濃縮し、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;10%酢酸エチル/ヘキサン)で精製し、化合物9を48%の収率で得た。
MS (APCI+)306.0
【0077】
<実験例7>
【化22】
フェニルマグネシウムブロマイドのTHF溶液(10.0mL,10mmol)をシュレンク管に入れ、0℃まで冷やした。これに、THF(5mL)に溶かした化合物9(612.7mg,2.0mmol)を5分かけて滴下した後、室温まで昇温し12時間撹拌した。反応溶液を氷水に注ぎ、酢酸エチル(15mL×2回)で抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過した。有機層を減圧濃縮し、得られた粗生成物を酢酸エチル/ヘキサンに溶かして再結晶させ、化合物10を49%の収率で得た。
MS (APCI+)554.1
【0078】
<実験例8>
【化23】
化合物10(443.8mg,0.8mmol)のメタノール(2mL)サスペンション溶液に、CAN(175.4mg,0.32mmol)を加えた後、40℃まで昇温し12時間撹拌した。室温まで冷却後、反応溶液を濾過し、沈殿をメタノールで懸洗し、化合物11を75%収率で得た。
MS (APCI+)582.2
【0079】
<実施例2>
【化24】
シュレンク管に、LiCl(25.4mg,0.60mmol)を加え、加熱乾燥した後、これにFeCl
2(2.6mg,0.02mmol)、PPh
3(10.5mg,0.04mmol)、Mg粉末(14.6mg,0.60mmol)、化合物11(116.6mg,0.20mmol)を窒素気流下で加えた。この混合物に、THF(0.4mL)を加え、室温で7時間撹拌した後、1,2-ジクロロプロパン(39μL,0.40mmol)をゆっくり加え、さらに室温で12時間撹拌した。反応溶液をクロロホルム(20mL)で希釈し、有機層を1M塩酸(15mL)で洗い、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後濾過した。有機層を減圧濃縮し、得られた粗生成物をクロロホルムーメタノールに溶かして再結晶させ、実施例2の化合物を93%の収率で得た。
MS (APCI+)520.1
【0080】
<実施例3~9>
実施例1及び2において、表1中の構造欄に示す実施例1及び2の化合物の置換基Arを、表1中の置換基欄に示す置換基に変更したもの、及び実施例1及び2の化合物の芳香環を増加させたもの、を合成した。
【0081】