(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-19
(45)【発行日】2024-09-30
(54)【発明の名称】SiC基板の製造方法、その製造装置、及び、エピタキシャル成長方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20240920BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
(21)【出願番号】P 2021516243
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017642
(87)【国際公開番号】W WO2020218482
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2019086713
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(73)【特許権者】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】金子 忠昭
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-158858(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188381(WO,A1)
【文献】特開2007-112661(JP,A)
【文献】国際公開第2014/020694(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対する2つのSiC単結晶基板を
SiC材料で構成された本体容器内に配置し加熱し、一方のSiC単結晶基板から他方のSiC単結晶基板に原料を輸送する、SiC基板の製造方法。
【請求項2】
一方の前記SiC単結晶基板が高温側、他方の前記SiC単結晶基板が低温側となるよう前記2つのSiC単結晶基板を加熱する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記2つのSiC単結晶基板を準閉鎖空間に配置し加熱する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記2つのSiC単結晶基板を原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間に配置し加熱する、請求項1~
3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記2つのSiC単結晶基板を原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間に配置し加熱する、請求項1~
4の何れかに記載の製造方法。
【請求項6】
複数のSiC単結晶基板を収容可能な本体容器を備え、
前記本体容器は、隣り合う2つの前記SiC単結晶基板を相対するよう設置可能な設置具
と、Si蒸気供給源と、を有する、SiC基板の製造装置。
【請求項7】
前記本体容器は、Si原子及びC原子を含む材料で構成される、請求項
6に記載の製造装置。
【請求項8】
前記設置具は、Si原子及びC原子を含む材料で構成される、請求項
6又は7に記載の製造装置。
【請求項9】
前記設置具は、隣り合う2つの前記SiC単結晶基板を略平行となるよう設置可能である、請求項
6~8の何れかに記載の製造装置。
【請求項10】
隣り合う2つの前記SiC単結晶基板における一方の前記SiC単結晶基板が高温側、他方の前記SiC単結晶基板が低温側となるよう前記本体容器を加熱可能な加熱炉をさらに備える、請求項
6~9の何れかに記載の製造装置。
【請求項11】
前記加熱炉は、前記本体容器を収容可能な高融点容器を有する、請求項
10に記載の製造装置。
【請求項12】
前記高融点容器は、Si蒸気供給材料を有する、請求項
11に記載の製造装置。
【請求項13】
SiC材料で構成された本体容器内で、一方のSiC単結晶基板から、他方のSiC単結晶基板に原料を輸送し、前記他方のSiC単結晶基板の多形を引き継いで結晶成長させる、エピタキシャル成長方法。
【請求項14】
一方のSiC単結晶基板が高温側、他方のSiC単結晶基板が低温側となるよう加熱する、請求項
13に記載のエピタキシャル成長方法。
【請求項15】
Si蒸気圧空間を介して排気される原料輸送空間に前記SiC単結晶基板を配置して成長させる、請求項
13又は14に記載のエピタキシャル成長方法。
【請求項16】
前記SiC単結晶基板を準閉鎖空間に配置し加熱する、請求項
13~15の何れかに記載のエピタキシャル成長方法。
【請求項17】
前記SiC単結晶基板を原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間に配置し加熱する、請求項
13~16の何れかに記載のエピタキシャル成長方法。
【請求項18】
前記SiC単結晶基板を原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間に配置し加熱する、請求項
13~16の何れかに記載のエピタキシャル成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC基板の製造方法、その製造装置、及び、エピタキシャル成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC(炭化シリコン)半導体デバイスは、Si(シリコン)やGaAs(ガリウムヒ素)半導体デバイスに比べて高耐圧及び高効率であり、さらに高温動作が可能であるため、高性能半導体デバイスとして注目されている。
【0003】
通常、SiC半導体デバイスは、SiC結晶成長を経て作製される。SiC結晶成長には様々な成長方法が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の気相エピタキシャル成長方法は、TaCを含む材料で構成されるTaC容器に、SiC多結晶を含む材料で構成されるSiC容器を収容し、当該SiC容器の内部に下地基板を収容した状態において、当該TaC容器内がSi蒸気圧となるように、かつ、温度勾配が発生する環境でTaC容器を加熱する。その結果、SiC容器の内面がエッチングされることで昇華したC原子と、雰囲気中のSi原子と、が結合することで、下地基板上に3C-SiC単結晶のエピタキシャル層が成長する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、結晶成長における原料であるSiC容器が成長プロセスを経る毎に消耗するため、経済性の観点において改善の余地がある。
【0007】
本発明は、新規なSiC基板の製造方法及び製造装置、及び、エピタキシャル成長方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、相対する2つのSiC単結晶基板を加熱し、一方の前記SiC単結晶基板から他方の前記SiC単結晶基板に原料を輸送する。
これにより、相対するSiC単結晶基板表面を互いに結晶成長の原料とすることができるため、経済性に優れたSiC基板の製造方法を実現することができる。
【0009】
本発明の好ましい形態では、一方の前記SiC単結晶基板が高温側、他方の前記SiC単結晶基板が低温側となるよう前記2つのSiC単結晶基板を加熱する。
これにより、2つのSiC単結晶基板の間における温度勾配を駆動力とする原料輸送を実現することができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記2つのSiC単結晶基板を準閉鎖空間に配置し加熱する。
これにより、2つのSiC単結晶基板の間における原料輸送を準閉鎖空間において実現することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記2つのSiC単結晶基板をSiC材料で構成された本体容器内に配置し加熱する。
これにより、SiC単結晶基板間に形成される原料輸送空間において、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を発生させることができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記2つのSiC単結晶基板を、原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間に配置して加熱する。
これにより、SiC-Si平衡蒸気圧環境下で原料が好適に輸送される。なお、SiC-Si平衡蒸気圧環境の詳細については、後述する。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記2つのSiC単結晶基板を原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間に配置し加熱する。
これにより、SiC-C平衡蒸気圧環境下で原料が好適に輸送される。なお、SiC-C平衡蒸気圧環境の詳細については、後述する。
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、複数のSiC単結晶基板を収容可能な本体容器を備え、前記本体容器は、隣り合う2つの前記SiC単結晶基板を相対するよう設置可能な設置具を有する。
これにより、相対するSiC単結晶基板表面を互いに結晶成長の原料とすることができるため、経済性に優れたSiC基板の製造装置を実現することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記本体容器は、Si原子及びC原子を含む材料で構成される。
これにより、SiC単結晶基板間に形成される原料輸送空間において、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を発生させることができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記設置具は、Si原子及びC原子を含む材料で構成される。
これにより、原料輸送空間において、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を発生させることができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記設置具は、隣り合う2つの前記SiC単結晶基板を略平行となるよう設置可能である。
これにより、隣接するSiC単結晶基板の間における原料輸送のフラックスを略一様にすることができ得る。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記本体容器は、Si蒸気供給源を有する。
これにより、原料輸送空間を、SiC-Si平衡蒸気圧環境とすることができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、隣り合う2つの前記SiC単結晶基板における一方の前記SiC単結晶基板が高温側、他方の前記SiC単結晶基板が低温側となるよう前記本体容器を加熱可能な加熱炉をさらに備える。
これにより、2つのSiC単結晶基板の間における温度勾配を駆動力とする原料輸送を実現することができる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記加熱炉は、前記本体容器を収容可能な高融点容器を有する。
これにより、所望の蒸気圧環境を保持することができる。
【0021】
また、本発明は、エピタキシャル成長方法にも関する。すなわち、本発明の一態様のエピタキシャル成長方法は、一方のSiC単結晶基板から、他方のSiC単結晶基板に原料を輸送し、前記他方のSiC単結晶基板の多形を引き継いで結晶成長させる。
【0022】
本発明の好ましい形態では、一方のSiC単結晶基板が高温側、他方のSiC単結晶基板が低温側となるよう加熱する。
【0023】
本発明の好ましい形態では、Si蒸気圧空間を介して排気される原料輸送空間に前記SiC単結晶基板を配置して成長させる。
【0024】
本発明の好ましい形態では、前記SiC単結晶基板を準閉鎖空間に配置し加熱する。
【0025】
本発明の好ましい形態では、前記SiC単結晶基板を原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間に配置し加熱する。
【0026】
本発明の好ましい形態では、前記SiC単結晶基板を原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間に配置し加熱する。
【0027】
本発明の好ましい形態では、前記高融点容器は、Si蒸気供給材料を有する。
これにより、所望の蒸気圧環境を保持することができる。
【発明の効果】
【0028】
開示した技術によれば、新規なSiC基板の製造方法及びその製造装置、及び、エピタキシャル成長方法を提供することができる。
【0029】
他の課題、特徴及び利点は、図面及び特許請求の範囲とともに取り上げられる際に、以下に記載される発明を実施するための形態を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態のSiC基板の製造方法の説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態のSiC基板の製造方法の説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態のSiC基板の製造方法の説明図である。
【
図4】本発明の一実施形態のSiC基板の製造装置の説明図である。
【
図5】本発明の一実施形態のSiC基板の製造装置の説明図である。
【
図6】参考例1におけるSiC基板におけるBPD数の評価に関する説明図。
【
図7】参考例2におけるSiC基板表面のSEM像である。
【
図8】参考例2におけるSiC基板表面のSEM像である。
【
図9】参考例3におけるSiC基板の成長速度と加熱温度との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を、図面に示した好ましい一実施形態について、
図1~
図9を用いて詳細に説明する。本発明の技術的範囲は、添付図面に示した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、適宜、変更が可能である。
【0032】
《SiC基板の製造方法》
以下、本発明の一実施形態のSiC基板の製造方法(以下、単に製造方法という。)について詳細に説明する。
【0033】
本発明は、相対するSiC単結晶基板11及び12を加熱し、SiC単結晶基板11及びSiC単結晶基板12の間において原料を輸送することで、SiC単結晶基板11及び12のエッチング及び結晶成長を行う製造方法として把握することができる。
【0034】
具体的には、製造方法は、SiC単結晶基板11及び12を相対させて設置する設置工程と、加熱によりSiC単結晶基板11及び12間で原料輸送を行う加熱工程と、を含む。
【0035】
〈設置工程〉
本発明の一実施形態に係る設置工程は、一方のSiC単結晶基板11と、他方のSiC単結晶基板12と、を相対(対峙)させて設置する工程である。これらのSiC単結晶基板11及び12は、好ましくは、隣り合うよう、かつ、略平行となるよう設置される。
【0036】
〈SiC単結晶基板〉
以下、SiC単結晶基板11及び12の詳細について、説明する。
【0037】
SiC単結晶基板11及び12としては、昇華法等で作製したインゴットから円盤状にスライスしたSiCウエハや、SiC単結晶を薄板状に加工したSiC基板を例示することができる。なお、SiC単結晶の結晶多形としては、何れのポリタイプのものも採用することができる。
【0038】
SiC単結晶基板表面としては、(0001)面や(000-1)面から数度(例として、0.4~8°)のオフ角を設けた表面を例示することができる(なお、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味する)。
【0039】
原子レベルで平坦化されたSiC単結晶基板表面には、ステップ-テラス構造が確認される。このステップ-テラス構造は、1分子層以上の段差部位であるステップと、{0001}面が露出した平坦部位であるテラスと、が交互に並んだ階段構造となっている。
【0040】
ステップは、1分子層(0.25nm)が最小高さ(最小単位)であり、この1分子層が複数重なることで、様々なステップ高さを形成している。本明細書中の説明においては、ステップが束化(バンチング)して巨大化し、各ポリタイプの1ユニットセルを超えた高さを有するものをマクロステップバンチング(Macro Step Bunching:MSB)という。
【0041】
すなわち、MSBとは、4H-SiCの場合には4分子層を超えて(5分子層以上)バンチングしたステップであり、6H-SiCの場合には6分子層を超えて(7分子層以上)バンチングしたステップである。
【0042】
MSBは、成長層形成時の表面にMSB起因の欠陥が発生することや、SiC半導体デバイスにおける酸化膜信頼性の阻害要因の1つであるため、SiC単結晶基板表面には形成されていないことが望ましい。
【0043】
SiC単結晶基板11及び12の大きさとしては、数センチ角のチップサイズから、6インチ、8インチ等、6インチ以上のウェハサイズを例示することができる。
【0044】
SiC単結晶基板11は、主面113(図示せず。)及び裏面114を有する。また、SiC単結晶基板12は、主面123及び裏面124(図示せず。)を有する。
【0045】
本明細書中の説明において、表面は、主面及び裏面の双方のことをいう。片面は、主面及び裏面の何れか一方のことをいい、他の片面は片面に相対する同一の基板の面のことをいう。
本明細書中の説明において、成長層111は、処理前のSiC単結晶基板11上に形成された層のことをいう。成長層121は、処理前のSiC単結晶基板12上に形成された層のことをいう。
【0046】
SiC単結晶基板表面上に形成される成長層の表面は、好ましくは、基底面転位(Basal Plane Dislocation:BPD)密度が限りなく低減されている。そのため、SiC単結晶基板表面は、好ましくは、BPD密度が限りなく低減されている。また、成長層の形成において、BPDは、好ましくは、貫通刃状転位(Threading Edge Dislocation:TED)を含む他の欠陥・転位に変換される。
【0047】
〈加熱工程〉
本発明の一実施形態に係る加熱工程は、SiC単結晶基板11及び12を加熱し、例として、SiC単結晶基板11からSiC単結晶基板12に原料を輸送する原料輸送工程を含む。このとき、SiC単結晶基板11及び12の間に、原料輸送空間S0が形成される。
【0048】
加熱工程は、例として、一方のSiC単結晶基板11が高温側、他方のSiC単結晶基板12が低温側となるよう、SiC単結晶基板11及び12の間に、温度勾配を有する原料輸送空間S0を形成する。
【0049】
図1に示すように、SiC単結晶基板11が温度勾配の高温側に設置されることで、一方のSiC単結晶基板11(裏面114)のエッチングと、他方のSiC単結晶基板12(主面123)における成長層121の形成と、が同時に行われる。
【0050】
図2に示すように、SiC単結晶基板11が温度勾配の低温側に設置されることで、裏面114における成長層111の形成と、主面123のエッチングと、が同時に行われる。
【0051】
加熱工程は、好ましくは、SiC単結晶基板11及び12を準閉鎖空間において加熱する。なお、本明細書中の説明において、準閉鎖空間とは、空間内部の真空引きは可能であるが、空間内部で発生した蒸気の少なくとも一部を閉じ込め可能な空間のことをいう。
【0052】
(原料輸送工程)
図3に示すように、本実施形態に係る原料輸送空間S0において、以下の1)~5)の反応に基づく原料輸送が持続的に行われ、例として成長層121が形成される、と把握することができる。
【0053】
1) SiC(s)→Si(v)+C(s)
2) 2C(s)+Si(v)→SiC2(v)
3) C(s)+2Si(v)→Si2C(v)
4) Si(v)+SiC2(v)→2SiC(s)
5) Si2C(v)→Si(v)+SiC(s)
【0054】
1)の説明:SiC単結晶基板11の裏面114が熱分解されることで、裏面114からSi原子(Si(v))が脱離する。
2)及び3)の説明:Si原子(Si(v))が脱離することで裏面114に残存したC(C(s))は、原料輸送空間S0内のSi蒸気(Si(v))と反応することで、Si2C又はSiC2等となって原料輸送空間S0内に昇華する。
4)及び5)の説明:昇華したSi2C又はSiC2等が、温度勾配によってSiC単結晶基板12の主面123のテラスに到達・拡散し、ステップに到達することで主面123の多形を引き継いで成長層121が成長・形成される(ステップフロー成長)。
【0055】
原料輸送工程は、SiC単結晶基板11からSi原子を熱昇華させるSi原子昇華工程と、SiC単結晶基板11の裏面114に残存したC原子を原料輸送空間S0内のSi原子と結合させることで昇華させるC原子昇華工程と、を含む。
【0056】
原料輸送工程は、原料の輸送元としてのSiC単結晶基板表面を、Si原子昇華工程及びC原子昇華工程に基づきエッチングするエッチング工程を含む。
【0057】
原料輸送工程は、原料の輸送先としてのSiC単結晶基板表面において、上記ステップフロー成長に基づく成長層形成を行う成長工程を含む。
【0058】
成長工程は、原料輸送空間S0中を拡散したSi2C又はSiC2等が輸送先において過飽和となり凝結する、と把握することができる。
成長工程は、物理気相輸送(Physical Vapor Transport)に基づく、と把握することができる。
【0059】
本発明の一実施形態に係る原料輸送の駆動力は、形成された温度勾配に起因するSiC単結晶基板11及び12間の蒸気圧差である、と把握することができる。
よって、SiC単結晶基板11及び12のそれぞれの表面における温度差のみならず、相対するSiC材料の表面等の結晶構造に起因する化学ポテンシャル差も、原料輸送の駆動力である、と把握することができる。
【0060】
本発明の一実施形態に係る原料輸送は、輸送元又は輸送先がSiC単結晶基板でなくともよい。具体的には、準閉鎖空間を形成するSiC材料は、輸送元又は輸送先となり得る。
【0061】
本発明の一実施形態に係る原料輸送は、ドーパントガス供給手段を用いて、準閉鎖空間内にドーパントガスを供給することにより、成長層111のドーピング濃度を調整することができる。一方、ドーパントガスを供給しない場合には、準閉鎖空間内のドーピング濃度を引き継いで成長層111又は121が形成される。
【0062】
本発明の一実施形態に係る原料輸送は、好ましくは、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種を有する環境下で行われ、より好ましくは、SiC-Si平衡蒸気圧環境下で行われ、より好ましくは、SiC-C平衡蒸気圧環境下で行われる。
【0063】
本明細書中の説明において、SiC-Si蒸気圧環境とは、SiC(固体)とSi(液相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧の環境のことをいう。また、SiC-C平衡蒸気圧環境とは、SiC(固相)とC(固相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧の環境のことをいう。
【0064】
本発明の一実施形態に係るSiC-Si平衡蒸気圧環境は、原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間が加熱されることで形成される。また、本発明の一実施形態に係るSiC-C平衡蒸気圧環境は、原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間が加熱されることで形成される。
【0065】
本発明の一実施形態に係る加熱温度は、好ましくは、1400~2300℃の範囲で設定され、より好ましくは、1600~2000℃の範囲で設定される。
【0066】
本発明の一実施形態に係る加熱時間は、所望のエッチング量となるよう任意の時間に設定することができる。例えば、エッチング速度が1μm/minの時に、エッチング量を1μmとしたい場合には、加熱時間は1分間となる。
【0067】
本発明の一実施形態に係る温度勾配は、例として、0.1~5℃/mmの範囲で設定される。
【0068】
本発明の一実施形態に係る温度勾配は原料輸送空間S0において一様であることが望ましい。
【0069】
本発明の一実施形態に係るエッチング量及び成長量は、例として、0.1~20μmの範囲であるが、必要に応じて、適宜、変更される。
【0070】
本発明の一実施形態に係るエッチング速度及び成長層の成長速度は、上記温度領域によって制御することができ、例として、0.001~2μm/minの範囲で設定できる。
【0071】
本発明の一実施形態に係るエッチング量及び成長量は同等である、と把握することができる。
【0072】
本発明の一実施形態に係る加熱工程は、エッチング工程に基づきSiC単結晶基板表面上のMSBの形成を分解・抑制するバンチング分解工程を含む、と把握することができる。
【0073】
本発明の一実施形態に係るエッチング工程においてエッチングされるSiC単結晶基板上の表面層は、例として、機械的な加工(例えば、スライスや研削・研磨)やレーザー加工を経て、傷や潜傷、歪み等の加工ダメージが導入された歪層E211である、と把握することができる。
【0074】
《SiC基板の製造装置》
以下、本発明の一実施形態であるSiC基板の製造装置(以下、単に製造装置という。)について、
図4及び
図5を用いて詳細に説明する。なお、先の製造方法に示した構成と基本的に同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を簡略化する。
【0075】
図4に示すように、製造装置は、本体容器20、加熱炉30及び高融点容器40を備える。
【0076】
〈本体容器〉
本体容器20は、SiC単結晶基板11及び12を収容可能であり、加熱処理時にSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させる構成であればよい。
【0077】
本体容器20は、例として、SiC多結晶を含む材料で構成されている。本発明の一実施形態では、本体容器20の全体がSiC多結晶で構成されている。このため、本体容器20の少なくとも一部は、原料輸送における輸送元又は輸送先となり得る。
【0078】
加熱処理された本体容器20内の環境は、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の混合系の蒸気圧環境となることが望ましい。このSi元素を含む気相種としては、Si,Si2,Si3,Si2C,SiC2,SiCを例示することができる。また、C元素を含む気相種としては、Si2C,SiC2,SiC,Cを例示することができる。
【0079】
本体容器20のドーパント及びドーピング濃度は、形成したい成長層111又は121のドーパント及びドーピング濃度に合わせて選択することができる。ドーパントとしては、N元素を例示することができる。
【0080】
また、本体容器20の加熱処理時に、内部空間にSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を発生させる構成であれば、その構造を採用することができる。例として、内面の一部にSiC多結晶が露出した構成や、本体容器20内に別途、SiC多結晶を設置する構成等を示すことができる。
【0081】
本体容器20は、
図4に示すように、互いに嵌合可能な上容器23及び下容器24を備える嵌合容器である。上容器23と下容器24の嵌合部には、微小な間隙25が形成されており、この間隙25から本体容器20内の排気(真空引き)が可能なよう構成されている。
【0082】
本体容器20は、SiC単結晶基板11及び12の間に形成される原料輸送空間S0を有する。原料輸送空間S0は、Si蒸気圧空間を介して排気される(
図5等参照)。原料輸送空間S0における原料輸送機構は、上述の通りである。
【0083】
〈Si蒸気供給源〉
本体容器20は、Si蒸気供給源26(
図4において図示せず、
図5においては図示)を有する。Si蒸気供給源26は、本体容器20内の準閉鎖空間の原子数比Si/Cを、1を超えるよう調整する目的で用いられる。Si蒸気供給源としては、固体のSi(Si片やSi粉末等のSiペレット)やSi化合物を例示することができる。
【0084】
例えば、本発明の一実施形態のように、本体容器20の全体がSiC多結晶で構成されている場合には、Si蒸気供給源26を設置することで、本体容器20内の原子数比Si/Cが1を超える。具体的には、化学量論比1:1を満たすSiC多結晶の本体容器20内に、化学量論比1:1を満たすSiC単結晶基板11及び12と、Si蒸気供給源26と、を設置した場合には、本体容器20内の原子数比Si/Cは1を超えることとなる。
【0085】
本発明の一実施形態に係るSiC-Si平衡蒸気圧環境は、原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間が加熱されることで形成される。また、本発明の一実施形態に係るSiC-C平衡蒸気圧環境は、原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間が加熱されることで形成される。
【0086】
〈設置具〉
設置具21及び22は、SiC単結晶基板11の少なくとも一部を本体容器20の中空に保持可能な構成であればよい。例として、1点支持や3点支持、外周縁を支持する構成や一部を挟持する構成等、慣用の支持手段であれば当然に採用することができる。設置具21及び22の材料は、好ましくは、SiC材料である。本発明の一実施形態では、設置具21及び22を用いる場合について例示するが、設置具21のみによっても、SiC単結晶基板11及び12を相対するよう設置可能であることは勿論である。
【0087】
設置具21及び22は、SiC単結晶基板11及び12が隣り合うよう、かつ、略平行となるよう、SiC単結晶基板11及び12を保持する。
【0088】
設置具21及び22は、SiC単結晶基板11及び12が所定距離、離間するようSiC単結晶基板11及び12を保持する。このとき、所定距離は、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下、より好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは、7mm以下、さらに好ましくは5mm以下、さらに好ましくは3.5mm以下、さらに好ましくは3mm以下、さらに好ましくは2.7mm以下である。当該所定距離は、好ましくは0.7mm以上、より好ましくは1.0mm以上、より好ましくは1.2mm以上、さらに好ましくは1.5mm、さらに好ましくは1.7mm以上である。
【0089】
〈加熱炉〉
加熱炉30は、本体容器20の上容器23から下容器24に向かって温度が下がる/上がるよう温度勾配を形成するよう加熱する構成となっている。これにより、SiC単結晶基板11の厚み方向に温度勾配が形成される。そのため、例として、設置具21をSiC単結晶基板11及び12の間に設け、設置具22をSiC単結晶基板12及び下容器24の間に設けることで、原料輸送空間S0を形成することができる。
【0090】
加熱炉30は、
図4に示すように、被処理物(SiC単結晶基板11及び12等)を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することが可能な本加熱室31と、被処理物を500℃以上の温度に予備加熱可能な予備室32と、本体容器20を収容可能な高融点容器40と、この高融点容器40を予備室32から本加熱室31へ移動可能な移動手段33(移動台)と、を備えている。
【0091】
本加熱室31は、平面断面視で正六角形に形成されており、その内側に高融点容器40が設置される。
【0092】
本加熱室31内は、加熱ヒータ34(メッシュヒータ)が備えられている。また、本加熱室31の側壁や天井には多層熱反射金属板が固定されている(図示せず。)。多層熱反射金属板は、加熱ヒータ34の熱を本加熱室31の略中央部に向け反射させるように構成されている。
【0093】
加熱ヒータ34は、本加熱室31内において、被処理物が収容される高融点容器40を取り囲むように設置される。このとき、加熱ヒータ34の外側に多層熱反射金属板が設置されることで、1000℃以上2300℃以下の温度範囲における昇温が可能となる。
【0094】
加熱ヒータ34は、例として、抵抗加熱式のヒータや高周波誘導加熱式のヒータを採用することができる。
【0095】
加熱ヒータ34は、高融点容器40内に温度勾配を形成可能な構成を採用してもよい。
加熱ヒータ34は、例として、上側(若しくは下側)に多くのヒータが設置されるよう構成してもよい。また、加熱ヒータ34は、上側(若しくは下側)に向かうにつれて幅が大きくなるように構成してもよい。あるいは、加熱ヒータ34は、上側(若しくは下側)に向かうにつれて供給される電力を大きくすることが可能なよう構成してもよい。
【0096】
本加熱室31には、本加熱室31内の排気を行う真空形成用バルブ35と、本加熱室31内に不活性ガスを導入する不活性ガス注入用バルブ36と、本加熱室31内の真空度を測定する真空計37と、が接続されている。
【0097】
真空形成用バルブ35は、本加熱室31内を排気して真空引きする真空引ポンプと接続されている(図示せず。)。この真空形成用バルブ35及び真空引きポンプにより、本加熱室31内の真空度は、好ましくは、10Pa以下、より好ましくは、1Pa以下、最も好ましくは、10-3Pa以下に調整することができる。この真空引きポンプとしては、ターボ分子ポンプを例示することができる。
【0098】
不活性ガス注入用バルブ36は、不活性ガス供給源と接続されている(図示せず。)。
この不活性ガス注入用バルブ36及び不活性ガス供給源により、本加熱室31内に不活性ガスを10-5~104Paの範囲で導入することができる。この不活性ガスとしては、Ar等を選択することができる。
【0099】
不活性ガス注入用バルブ36は、本体容器20内にドーパントガスを供給可能なドーパントガス供給手段である。すなわち、不活性ガスにドーパントガス(例として、N2等)を選択することにより、成長層111のドーピング濃度を高めることができる。
【0100】
予備室32は、本加熱室31と接続されており、移動手段33により高融点容器40を移動可能に構成されている。なお、本実施形態の予備室32には、本加熱室31の加熱ヒータ34の余熱により昇温可能なよう構成されている。例として、本加熱室31を2000℃まで昇温した場合には、予備室32は1000℃程度まで昇温され、被処理物(SiC単結晶基板11や本体容器20、高融点容器40等)の脱ガス処理を行うことができる。
【0101】
移動手段33は、高融点容器40を載置して、本加熱室31及び予備室32間を移動可能に構成されている。
【0102】
移動手段33による本加熱室31と予備室32間の搬送は、最短1分程で完了するため、1~1000℃/minでの昇温・降温を実現することができる。これにより、急速昇温及び急速降温が行えるため、昇温中及び降温中の低温成長履歴を持たない表面形状を観察することが可能である。また、
図4においては、本加熱室31の下方に予備室32を設置しているが、これに限られず、何れの方向に設置してもよい。
【0103】
本実施形態に係る移動手段33は、高融点容器40を載置する移動台である。この移動台と高融点容器40の接触部と、が熱の伝播経路となる。これにより、移動台と高融点容器40の接触部側が低温側となるよう高融点容器40内に温度勾配を形成することができる。
【0104】
本実施形態の加熱炉30では、高融点容器40の底部が移動台と接触しているため、高融点容器40の上容器41から下容器42に向かって温度が下がるように温度勾配が設けられる。
【0105】
温度勾配の方向は、移動台と高融点容器40の接触部の位置を変更することで、任意の方向に設定することができる。例として、移動台に吊り下げ式等を採用して、接触部を高融点容器40の天井に設ける場合には、熱が上方向に逃げる。そのため、温度勾配は、高融点容器40の上容器41から下容器42に向かって温度が上がるように温度勾配が設けられることとなる。なお、この温度勾配は、SiC単結晶基板11及び12の厚さ方向に沿って形成されていることが望ましい。また、上述したように、加熱ヒータ34の構成により、温度勾配を形成してもよい。
【0106】
〈高融点容器〉
本実施形態に係る加熱炉30内のSi元素を含む気相種の蒸気圧環境は、高融点容器40及びSi蒸気供給材料44を用いて形成している。例として、本体容器20の周囲にSi元素を含む気相種の蒸気圧の環境を形成可能な方法であれば、本発明のSiC基板の製造装置に採用することができる。
【0107】
高融点容器40は、好ましくは、本体容器20を構成する材料の融点と同等若しくはそれ以上の融点を有する、高融点材料を含んで構成されている。
【0108】
高融点容器40は、例として、汎用耐熱部材であるC、高融点金属であるW,Re,Os,Ta,Mo、炭化物であるTa9C8,HfC,TaC,NbC,ZrC,Ta2C,TiC,WC,MoC、窒化物であるHfN,TaN,BN,Ta2N,ZrN,TiN、ホウ化物であるHfB2,TaB2,ZrB2,NB2,TiB2、SiC多結晶等を例示することができる。
【0109】
図5に示すように、高融点容器40は、本体容器20と同様に、互いに嵌合可能な上容器41と、下容器42と、を備える嵌合容器であり、本体容器20を収容可能に構成されている。上容器41と下容器42の嵌合部には、微小な間隙43が形成されており、この間隙43から高融点容器40内の排気(真空引き)が可能なよう構成されている。
【0110】
高融点容器40は、高融点容器40内にSi元素を含む気相種の蒸気圧を供給可能なSi蒸気供給材料44を有している。
【0111】
〈Si蒸気供給材料〉
Si蒸気供給材料44は、加熱処理時にSi蒸気を高融点容器40内に発生させる構成であればよく、例として、固体のSi(Si片やSi粉末等のSiペレット)やSi化合物を例示することができる。
【0112】
Si蒸気供給材料44は、例として、高融点容器40の内壁を被覆する薄膜である。
【0113】
高融点容器40がTaC等の金属化合物である場合、Si蒸気供給材料44は、例として、高融点容器40を構成する金属原子及びSi原子のシリサイド材料である。
【0114】
高融点容器40は、その内側にSi蒸気供給材料44を有することにより、本体容器20内Si元素を含む気相種の蒸気圧環境を維持することができる。これは、本体容器20内のSi元素を含む気相種の蒸気圧と、本体容器20外のSi元素を含む気相種の蒸気圧と、がバランスされるため、と把握することができる。
【0115】
参考例1~3を、以下に示す。
《参考例1》
以下の条件で、SiC単結晶基板E10を本体容器20に収容し、さらに本体容器20を高融点容器40に収容した。
【0116】
〈SiC単結晶基板E10〉
多形:4H-SiC
基板サイズ:横幅(10mm)、縦幅(10mm)、厚み(0.3mm)
オフ方向及びオフ角:<11-20>方向4°オフ
成長面:(0001)面
MSBの有無:無し
【0117】
〈本体容器20〉
材料:SiC多結晶
容器サイズ:直径(60mm)、高さ(4mm)
SiC単結晶基板E10とSiC材料との距離:2mm
容器内の原子数比Si/C:1以下
【0118】
〈高融点容器40〉
材料:TaC
容器サイズ:直径(160mm)、高さ(60mm)
Si蒸気供給材料44(Si化合物):TaSi2
【0119】
上記条件で配置したSiC単結晶基板E10を、以下の条件で加熱処理した。
加熱温度:1700℃
加熱時間:300min
温度勾配:1℃/mm
成長速度:5nm/min
本加熱室31の真空度:10-5Pa
【0120】
図6は、成長層E11において、BPDから他の欠陥・転位(TED等)に変換した変換率を求める手法の説明図である。
図6(a)は、加熱工程により成長層E11を成長させた様子を示している。この加熱工程では、SiC単結晶基板E10に存在していたBPDが、ある確率でTEDに変換される。そのため、成長層E11の表面には、100%変換されない限り、TEDとBPDが混在していることとなる。
図6(b)は、KOH溶解エッチング法を用いて成長層E11中の欠陥を確認した様子を示している。このKOH溶解エッチング法は、約500℃に加熱した溶解塩(KOH等)にSiC単結晶基板E10を浸し、転位や欠陥部分にエッチピットを形成し、そのエッチピットの大きさ・形状により転位の種類を判別する手法である。この手法により、成長層E11表面に存在しているBPD数を得る。
図6(c)は、KOH溶解エッチング後に成長層E11を除去する様子を示している。
本手法では、エッチピット深さまで機械研磨やCMP等により平坦化した後、熱エッチングにより成長層E11を除去して、SiC単結晶基板E10の表面を表出させている。
図6(d)は、成長層E11を除去したSiC単結晶基板E10に対し、KOH溶解エッチング法を用いてSiC単結晶基板E10中の欠陥を確認した様子を示している。この手法により、SiC単結晶基板E10表面に存在しているBPD数を得る。
【0121】
図6に示した一連の順序により、成長層E11表面に存在するBPDの数(
図6(b)参照)と、SiC単結晶基板E10表面に存在するBPDの数(
図6(d))と、を比較することで、加熱工程中にBPDから他の欠陥・転位に変換したBPD変換率を得ることができる。
【0122】
参考例1の成長層E11表面に存在するBPDの数は約0個cm-2であり、SiC単結晶基板E10表面に存在するBPDの数は1000個cm-2であった。
すなわち、表面にMSBが存在しないSiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間に配置し加熱することによりBPDが低減・除去される、と把握することができる。
【0123】
参考例1では、本体容器20内の原子数比Si/Cが1以下となるよう、本体容器20内に、SiC-C平衡蒸気圧環境が形成されている。
上記の方法におけるエッチング工程を含む加熱工程と、本発明の一実施形態に係るエッチング工程を含む加熱工程と、は同一の反応素過程に基づくため、本発明の一実施形態に係るエッチング工程においてもBPDが低減・除去され得る、と把握することができる。
【0124】
《参考例2》
以下の条件で、SiC単結晶基板E10を本体容器20に収容し、さらに本体容器20を高融点容器40に収容した
【0125】
〈SiC単結晶基板E10〉
多形:4H-SiC
基板サイズ:横幅(10mm)、縦幅(10mm)、厚み(0.3mm)
オフ方向及びオフ角:<11-20>方向4°オフ
成長面:(0001)面
MSBの有無:有り
【0126】
〈本体容器20〉
材料:SiC多結晶
容器サイズ:直径(60mm)、高さ(4mm)
SiC単結晶基板E10とSiC材料との距離:2mm
Si蒸気供給源26:Si片
容器内の原子数比Si/C:1を超える
【0127】
本体容器20内に、SiC単結晶基板と共にSi片を収容することで、容器内の原子数比Si/Cが1を超える。
【0128】
〈高融点容器40〉
材料:TaC
容器サイズ:直径160mm×高さ60mm
Si蒸気供給材料44(Si化合物):TaSi2
【0129】
上記条件で配置したSiC単結晶基板E10を、以下の条件で加熱処理した。
加熱温度:1800℃
加熱時間:60min
温度勾配:1℃/mm
成長速度:68nm/min
本加熱室31真空度:10-5Pa
【0130】
図7は、成長層E11の成長前のSiC単結晶基板E10表面のSEM像である。
図7(a)は倍率×1000で観察したSEM像であり、
図7(b)は倍率×100000で観察したSEM像である。
この成長層E11の成長前のSiC単結晶基板E10表面には、MSBが形成されており、高さ3nm以上のステップが、平均42nmのテラス幅で配列していることが把握することができる。なお、ステップ高さは、AFMにより測定した。
【0131】
図8は、成長層E11の成長後のSiC単結晶基板E10表面のSEM像である。
図8(a)は倍率×1000で観察したSEM像であり、
図8(b)は倍率×100000で観察したSEM像である。
この参考例2の成長層E11表面には、MSBは形成されておらず、1.0nm(フルユニットセル)のステップが、14nmのテラス幅で規則正しく配列していることが把握することができる。なお、ステップ高さは、AFMにより測定した。
【0132】
そのため、表面にMSBが存在するSiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間に配置し加熱することによりMSBが分解された成長層E11が形成される、と把握することができる。
【0133】
参考例2では、本体容器20内の原子数比Si/Cが1を超えるようSi蒸気供給源26が設置されているため、本体容器20内に、SiC-Si平衡蒸気圧環境が形成されている。
上記の方法におけるエッチング工程を含む加熱工程と、本発明の一実施形態に係るエッチング工程を含む加熱工程と、は同一の反応素過程に基づくため、本発明の一実施形態に係るエッチング工程においてもSiC単結晶基板表面上のMSBは分解され得る、と把握することができる。
【0134】
《参考例3》
図9は、本発明に係るSiC単結晶基板の製造方法にて成長させた加熱温度と成長速度の関係を示すグラフである。このグラフの横軸は温度の逆数であり、このグラフの縦軸は成長速度を対数表示している。SiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1を超える空間(本体容器20内)に配置して、SiC単結晶基板E10に成長層E11を成長させた結果を〇印で示す。また、SiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1以下である空間(本体容器20内)に配置して、SiC単結晶基板E10に成長層E11を成長させた結果を×印で示している。
【0135】
また、
図9のグラフでは、SiC-Si平衡蒸気圧環境におけるSiC基板成長の熱力学計算の結果を破線(アレニウスプロット)で、SiC-C平衡蒸気圧環境におけるSiC基板成長の熱力学計算の結果を二点鎖線(アレニウスプロット)にて示している。
【0136】
本手法においては、SiC原料とSiC基板間の蒸気圧環境が、SiC-C平衡蒸気圧環境又はSiC-C平衡蒸気圧環境となる条件下で、化学ポテンシャル差や温度勾配を成長駆動力として、SiC単結晶基板E10を成長させている。この化学ポテンシャル差は、SiC多結晶とSiC単結晶の表面で発生する気相種の分圧差を例示することができる。
【0137】
ここで、SiC原料(輸送元)とSiC基板(輸送先)から発生する蒸気の分圧差を成長量とした場合、SiC成長速度は以下の数1で求められる。
【0138】
【0139】
ここで、TはSiC原料側の温度、miは気相種(SixCy)の分子量、kはボルツマン定数である。
また、P輸送元i-P輸送先iは、原料ガスが過飽和な状態となって、SiCとして析出した成長量であり、原料ガスとしてはSiC,Si2C,SiC2が想定される。
【0140】
すなわち、破線は、SiC(固体)とSi(液相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧環境において、SiC多結晶を原料としてSiC単結晶を成長させた際の熱力学計算の結果である。
具体的には、数1を用いて、以下の条件(i)~(iv)で熱力学計算を行った。(i)体積一定のSiC-Si平衡蒸気圧環境であること,(ii)成長駆動力は、本体容器20内の温度勾配と、SiC多結晶とSiC単結晶の蒸気圧差(化学ポテンシャル差)であること,(iii)原料ガスは、SiC,Si2C,SiC2であること,(iv)原料がSiC単結晶基板E10のステップに吸着する吸着係数は0.001であること。
【0141】
また、二点鎖線は、SiC(固相)とC(固相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧環境において、SiC多結晶を原料としてSiC単結晶を成長させた際の熱力学計算の結果である。
具体的には、数1を用いて、以下の条件(i)~(iv)で熱力学計算を行った。(i)体積一定のSiC-C平衡蒸気圧環境であること,(ii)成長駆動力は、本体容器20内の温度勾配と、SiC多結晶とSiC単結晶の蒸気圧差(化学ポテンシャル差)であること,(iii)原料ガスはSiC,Si2C,SiC2であること,(iv)原料がSiC単結晶基板E10のステップに吸着する吸着係数は0.001であること。
なお、熱力学計算に用いた各化学種のデータはJANAF熱化学表の値を採用した。
【0142】
この
図9のグラフによれば、SiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1を超える空間(本体容器20内)に配置して、SiC単結晶基板E10に成長層E11を成長させた結果(〇印)は、SiC-Si平衡蒸気圧環境におけるSiC成長の熱力学計算の結果と傾向が一致していることがわかる。
また、SiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1以下である空間(本体容器20内)に配置して、SiC単結晶基板E10に成長層E11を成長させた結果(×印)は、SiC-C平衡蒸気圧環境におけるSiC成長の熱力学計算の結果と傾向が一致していることを把握することができる。
【0143】
SiC-Si平衡蒸気圧環境下においては、1960℃の加熱温度で1.0μm/min以上の成長速度を達成することが推定される。また、2000℃以上の加熱温度で2.0μm/min以上の成長速度を達成することが推定される。
一方、SiC-C平衡蒸気圧環境下においては、2000℃の加熱温度で1.0μm/min以上の成長速度を達成することが推定される。また、2030℃以上の加熱温度で2.0μm/min以上の成長速度を達成することが推定される。
【0144】
本発明によれば、SiC単結晶基板表面におけるエッチング及び成長層形成のそれぞれを、雰囲気を変えることなく加熱条件を調整することで、自在に実施することができる。これにより、SiC半導体プロセスの最適化を図ることができる。
【0145】
また、本発明によれば、SiC単結晶基板の片面において成長層が形成される傍ら、他の片面においてエッチングが行われるため、SiC単結晶基板の変形や破損を抑制しつつ、成長層直下の下地基板層が薄いSiC基板を製造することができる。
【0146】
また、本発明によれば、SiC単結晶基板表面がSiC-Si平衡蒸気圧環境下でエッチングされることにより、MSBの形成が抑制され、表面平坦化されたSiC単結晶基板を製造することができ得る。
【0147】
また、本発明によれば、SiC単結晶基板表面がSiC-C平衡蒸気圧環境下でエピタキシャル成長することにより、SiC半導体デバイスの耐圧層として好適に機能するBPDフリーな成長層を有する、SiC単結晶基板を製造することができ得る。
【符号の説明】
【0148】
S0 原料輸送空間
11、12、E10 SiC単結晶基板
113、123 主面
114、124 裏面
111、121、E11 成長層
20 本体容器
21、22 設置具
23、41 上容器
24、42 下容器
25、43 間隙
26 Si蒸気供給源
30 加熱炉
40 高融点容器
44 Si蒸気供給材料