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特許7565046がんの骨転移を検出する方法及び検出試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-02
(45)【発行日】2024-10-10
(54)【発明の名称】がんの骨転移を検出する方法及び検出試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20241003BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20241003BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20241003BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20241003BHJP
   C07K 14/475 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/574 A
G01N27/62 V
C12N15/12
C07K14/475
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021558347
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2020042388
(87)【国際公開番号】W WO2021100621
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2019211488
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植村 元秀
(72)【発明者】
【氏名】野々村 祝夫
(72)【発明者】
【氏名】氏家 剛
(72)【発明者】
【氏名】明庭 昇平
(72)【発明者】
【氏名】大竹 則久
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150314(WO,A1)
【文献】特開2019-045486(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107462720(CN,A)
【文献】WINDRICHOVA, J. et al.,MIC1/GDF15 as a Bone Metastatic Disease Biomarker,ANTICANCER RESEARCH,2017年03月,Vol.37,pp.1501-1506
【文献】SELANDER, K. S. et al.,Serum Macrophage Inhibitory Cytokine-1 Concentrations Correlate with the Presence of Prostate Cancer,Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention,2007年03月,Vol.16, No.3,pp.532-537
【文献】WINDRICHOVA, J. et al.,An Assessment of Novel Biomarkers in Bone Metastatic Disease Using Multiplex Measurement and Multiva,Technology in Cancer Research & Treatment,2018年10月21日,Vol.17,pp.1-7
【文献】DUAN, L. et al.,The role of GDF15 in bone metastasis of lung adenocarcinoma cells,ONCOLOGY REPORTS,2019年02月21日,Vol.41,pp.2379-2388
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体において、インタクト増殖分化因子15(GDF15)プロペプチド量を測定することを含み、前記検体は血液成分である、がん(但し、去勢抵抗性前立腺がんを除く)の骨転移を検出する方法。
【請求項2】
検体において、GDF15プロペプチド断片量を測定することを含み、前記検体は血液成分である、がん(但し、去勢抵抗性前立腺がんを除く)の骨転移を検出する方法。
【請求項3】
検体において、インタクトGDF15プロペプチド量とGDF15プロペプチド断片量との合計量を測定することを含み、前記検体は血液成分である、がん(但し、去勢抵抗性前立腺がんを除く)の骨転移を検出する方法。
【請求項4】
前記GDF15プロペプチド断片が、以下の(A)及び/又は(B)に記載のGDF15プロペプチド断片を含む、請求項2又は3に記載の方法。
(A)以下の特徴を有する、GDF15プロペプチド断片。
配列番号2に示すGDF15アミノ酸配列の58残基目のリジンから少なくとも167残基目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列、又はこれと80%以上の同一性を有する配列を含む。
(B)以下の特徴を有する、GDF15プロペプチド断片。
配列番号2に示すGDF15アミノ酸配列の74残基目のグルタミン酸から少なくとも167残基目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列、又はこれと80%以上の同一性を有する配列を含む。
【請求項5】
去勢抵抗性前立腺がんではない前立腺がん、腎がん、肺がん、乳がん、甲状腺がん、膵がん、膀胱がん、大腸がん、メラノーマ、骨髄腫又はリンパ腫の骨転移を検出する、請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
GDF15プロペプチドを認識する抗体を用いた抗原抗体反応を用いて前記測定を行う
、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
質量分析法を用いて前記測定を行う、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
GDF15プロペプチドを特異的に認識する抗体を含み、血液成分検体に対して使用される、がん(但し、去勢抵抗性前立腺がんを除く)の骨転移を検出するための試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中の増殖分化因子15(Growth and Differentiation Factor 15、以降「GDF15」とも記す)タンパク質のプロペプチド及びその分解物を指標として、測定対象とするがん(但し、去勢抵抗性前立腺がん(Castration Resistant Prostate Cancer。以下、「CRPC」とする)を除く)の骨転移を検出する方法及び検出試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
がんが進行するとがん細胞は転移能を有するようになり、がん組織から遊離したがん細胞は血管を通って体内の各所へと運ばれる。血流量が多い肺や肝臓、成長因子が豊富なリンパ節や骨基質は、がんの転移先となりやすいとされている。がんが骨に転移すると転移性骨腫瘍と呼ばれ、骨痛、脊髄圧迫、病的骨折、骨転移巣に対する手術、放射線療法、高カルシウム血症といった骨関連事象(Skeletal Related Event)が発生し、Quality of Lifeや予後に悪影響を与えることが知られている。
【0003】
骨転移が疑われた場合、まずは単純X線やComputed Tomographyによる検査で骨折のリスク評価や治療法の選択がなされる。骨シンチグラフィー、18F-fluorodeoxyglucose-Positron Emission Tomography、Positron Emission Tomography-Computed Tomography、Magnetic Resonance Imaging(以降「MRI」とも記す)は、骨転移の診断に有用性が高く骨転移診療ガイドライン(2015年)においても推奨されている。どの方法も一長一短があり、これらの画像診断をがん種や骨転移の性質に合わせて使い分け、骨転移巣を検出する。
【0004】
体外診断マーカーとしては、表1に示す骨代謝マーカーが骨転移治療のモニタリングに有用となり得るとの報告がある。しかし、骨代謝マーカーが治療効果の直接的な予測因子であることは検証されておらず、国内外のガイドラインにおいても日常診療における使用は推奨されていない。
【0005】
画像診断は骨転移の診断において有用性が高いものの、読影者間差が生じる、被曝を伴う、装置(全身MRI)が普及していないといった課題もある。そのため、骨転移を簡便に高い精度で検出可能なマーカーの発見および検査法の開発が望まれている。
【0006】
【表1】
【0007】
GDF15は、マクロファージ阻害サイトカイン1(Macropharge Inhibitory Cytokine 1:MIC-1)や非ステロイド系抗炎症薬活性化遺伝子1(Nonsteroidal anti-inflammatory drug-Activated Gene 1:NAG-1)と同一のタンパク質であり、TGF-βファミリーに属する。GDF15は分泌シグナル及びプロペプチドを含むプレプロGDF15として発現後、分泌シグナルが切断されプロGDF15として細胞外へ分泌される。プロGDF15はプロペプチドを介して細胞外マトリックスに貯蔵され、フューリン様プロテアーゼによりプロペプチドから二量体を形成した状態でGDF15が切り離され血中へ放出される(非特許文献1)。プロGDF15は全長で分子量40,000付近、GDF15成熟体は分子量15,000付近に分画されることが報告されている(非特許文献2)。
【0008】
GDF15は、膵臓がんや大腸がん等の様々ながんで血中の成熟体量が増加することが確認されており(非特許文献3~8)、前立腺がんにおいては転移や悪性度に伴う予後判定の指標となり得るとの報告もある(非特許文献9~12)。
【0009】
GDF15プロペプチドは、CRPC、膵臓がん、大腸がん、肺がん、乳がん、食道がん、胃がん、肺小細胞がんにおいて、血中量の増加が報告されている(特許文献1~2)。特許文献1には、インタクトGDF15プロペプチドと骨転移の指標EOD、BSIとの間には高い相関は見られないと記載されている。しかし、その一方で、インタクトGDF15プロペプチドが高値では骨転移等の悪性進展が認められ、CRPCの悪性進展のマーカーとなりうることが示唆されたとも記載されている。このように特許文献1には相反する記載が見られ、GDF15プロペプチドと骨転移との関係は不明であった。
【0010】
なお、GDF15プロペプチド(以降、「GDPP」とも記す)は、プロGDF15のN末端側に位置する165残基のポリペプチドである。より具体的には、本明細書におけるGDF15プロペプチドは、配列番号1に示すヒトGDF15のcDNA(GeneBank Accession No.:NM_004864)に基づくアミノ酸配列(配列番号2)において、開始メチオニンから29残基目のアラニンまでのシグナルペプチドに続く、30残基目のロイシンから194残基目のアルギニンまでの配列を少なくとも含む、又は、前記配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2017/150314号パンフレット
【文献】特開2019-045486号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Prostate Cancer Prostatic Dis. 2012;15(4):320-328
【文献】Cancer Res. 2005;65(6):2330-2336
【文献】BMC Cancer. 2014;14:578-588
【文献】Biochemical Pharmacology. 2013;85:597-606
【文献】Clin Cancer Res. 2009;15(21):6658-6664
【文献】Clin Cancer Res. 2011;17:4825-4833
【文献】Clin Cancer Res. 2003;9:2642-2650
【文献】Clin Cancer Res. 2006;12:442-446
【文献】Cancer Epidemiol Biomarders Prev. 2007;16(3):532-537
【文献】Anticancer Research. 2016;36:1973-1978
【文献】Anticancer Research. 2017;37(3):1501-1505
【文献】Technology in Cancer Research & Treatment. 17:1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、がんの骨転移を簡便かつ高い精度で検出する方法、及び前記方法に利用できる試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した結果、前立腺がん(但し、CRPCを除く)、腎がん、肺がん、乳がん、甲状腺がん、膵がん、膀胱がん、大腸がん、メラノーマ、骨髄腫又はリンパ腫の骨転移症例において、GDF15プロペプチドを認識する抗体を用いたイムノアッセイにより、血液中のGDF15プロペプチドは健常検体および各種がんの非骨転移症例検体と比較して、これらのがんの骨転移症例検体で増加を示すという知見を得て、GDF15プロペプチドががん(但し、CRPCを除く)の骨転移を検出するマーカーとなり得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]検体において、インタクト増殖分化因子15(GDF15)プロペプチド量を測定することを含む、がん(但し、去勢抵抗性前立腺がんを除く)の骨転移を検出する方法。
[2]検体において、GDF15プロペプチド断片量を測定することを含む、がん(但し、去勢抵抗性前立腺がんを除く)の骨転移を検出する方法。
[3]検体において、インタクトGDF15プロペプチド量とGDF15プロペプチド断片量との合計量を測定することを含む、がん(但し、去勢抵抗性前立腺がんを除く)の骨転移を検出する方法。
[4]前記GDF15プロペプチド断片が、以下の(A)及び/又は(B)に記載のGDF15プロペプチド断片を含む、[2]又は[3]に記載の方法。
(A)以下の特徴を有する、GDF15プロペプチド断片。
配列番号2に示すGDF15アミノ酸配列の58残基目のリジンから少なくとも167残基目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列、又はこれと80%以上の同一性を有する配列を含む。
(B)以下の特徴を有する、GDF15プロペプチド断片。
配列番号2に示すGDF15アミノ酸配列の74残基目のグルタミン酸から少なくとも167残基目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列、又はこれと80%以上の同一性を有する配列を含む。
[5]去勢抵抗性前立腺がんではない前立腺がん、腎がん、肺がん、乳がん、甲状腺がん、膵がん、膀胱がん、大腸がん、メラノーマ、骨髄腫又はリンパ腫の骨転移を検出する、[1]~[4]の何れかに記載の方法。
[6]GDF15プロペプチドを認識する抗体を用いた抗原抗体反応を用いて前記測定を行う、[1]~[5]の何れかに記載の方法。
[7]質量分析法を用いて前記測定を行う、[1]~[5]の何れかに記載の方法。
[8]GDF15プロペプチドを特異的に認識する抗体を含む、がん(但し、去勢抵抗性前立腺がんを除く)の骨転移を検出するための試薬。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、がん(但し、CRPCを除く)の骨転移を簡便かつ高い精度で検出する方法、及び前記方法に利用できる試薬が提供される。
また、本発明の試薬はGDF15プロペプチドを検出するものであり、GDF15はTFG-βファミリーの一種であるため、がん細胞から放出されるサイトカインによる破骨細胞活性化の程度を反映している可能性がある。その場合、既存の骨修飾薬(Bone Modifying Agents)の治療効果を反映することが推測される。したがって、本発明の試薬は、がん(但し、CRPCを除く)の骨転移治療におけるコンパニオン診断薬にもなり得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】良性(生検陰性)、前立腺がん(骨転移なし)および前立腺がん転移性骨腫瘍の血清における各種マーカー測定値のボックスプロットを示す図である。
図2】前立腺がん(骨転移なし)と前立腺がん転移性骨腫瘍、または、良性(生検陰性)と前立腺がん転移性骨腫瘍の血清における各種マーカーの受信者動作特性(ROC)曲線解析の結果を示す図である。
図3】前立腺がん(骨転移なし)と前立腺がん転移性骨腫瘍の血清血漿同時採血品を用いた各種マーカーのROC曲線解析の結果を示す図である。
図4】腎がん(骨転移なし)および腎がん転移性骨腫瘍の血清における各種マーカーのボックスプロットを示す図である。
図5】腎がん(骨転移なし)および腎がん転移性骨腫瘍の血清における各種マーカーのROC曲線解析の結果を示す図である。
図6】健常、肺がん転移性骨腫瘍または乳がん転移性骨腫瘍の血漿における各種マーカーのボックスプロットを示す図である。
図7】健常、肺がん転移性骨腫瘍または乳がん転移性骨腫瘍の血漿における各種マーカーのROC曲線解析の結果を示す図である。
図8】CRPCにおける骨転移なし症例および転移性骨腫瘍症例の血清における各種マーカーのボックスプロットを示す図である。
図9】CRPCではない前立腺がんにおける骨転移なし症例および転移性骨腫瘍症例の血清における各種マーカーのボックスプロットを示す図である。
図10】CRPCではない前立腺がんにおける骨転移なし症例および転移性骨腫瘍症例の血清における各種マーカーのROC曲線解析の結果を示す図である。
図11】肺がん(転移なし)、肺がん(骨以外への転移)および肺がん転移性骨腫瘍の検体種別各種マーカーのボックスプロットを示す図である。
図12】肺がんにおける骨転移なし症例および転移性骨腫瘍症例の検体種別各種マーカーのROC曲線解析の結果を示す図である。
図13】乳がん(転移なし)、乳がん(骨以外への転移)および乳がん転移性骨腫瘍の検体種別各種マーカーのボックスプロットを示す図である。
図14】乳がんにおける骨転移なし症例および転移性骨腫瘍症例の検体種別各種マーカーのROC曲線解析の結果を示す図である。
図15】健常、甲状腺がん、膵がん、膀胱がん、大腸がん、メラノーマ、骨髄腫およびリンパ腫の転移性骨腫瘍の血漿における各種マーカーのボックスプロットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<1>本発明のがん(但し、CRPCを除く)の骨転移を検出する方法
本発明の第一の態様は、がん(但し、CRPCを除く)の骨転移を検出する方法であり、検体においてGDF15プロペプチド量を測定することを含む。これは、健常者および非骨転移がん患者の検体と比べて、がん(但し、CRPCを除く)の骨転移を有する患者の血液等の生体試料中に特徴的にGDF15プロペプチドが存在することに基づく方法である。検体におけるGDF15プロペプチド量の測定は、通常インビトロ(in vitro)で行われる。
この方法により、後述する実施例が示すように、従来知られた骨代謝マーカー(ALP)を測定した場合に比べて、がん(但し、CRPCを除く)の骨転移を検出する際に、高い感度と特異度で検出することができる。
【0019】
なお、本発明の方法は、がん(但し、CRPCを除く)の骨転移を検出する段階までを含むものであり、骨転移の診断に関する最終的な判断行為は含まれない。医師は、本発明の方法による検出結果等を参照して、骨転移を診断したり治療方針を立てたりする。
通常、骨転移を検出する対象(被検動物)は、ヒトである。
【0020】
本態様において測定対象であるGDF15プロペプチドには、配列番号2に示すGDF15アミノ酸配列の30残基目のロイシンから194残基目のアルギニンまでのアミノ酸配列、又は前記配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むインタクトGDF15プロペプチド(以下、「iGDPP」とも記す)と、GDF15プロペプチド断片とが含まれる。インタクトGDF15プロペプチドは、プロセシングを受けていない(分解されていない)GDF15プロペプチドを指す。GDF15プロペプチド断片には、dNT57-GDPP(配列番号2のアミノ酸配列の58残基目から167残基目までのアミノ酸配列、又は前記配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチド)、dNT73-GDPP(配列番号2のアミノ酸配列の74残基目から167残基目までのアミノ酸配列、又は前記配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチド)、及びその他のペプチド断片が含まれる。その他のペプチド断片は、GDF15プロペプチドがプロセシングを受けた後のペプチド断片であれば特に限定されず、配列番号2のアミノ酸配列の一部の配列、又は前記配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドが好ましい。
【0021】
本発明の検出方法において、GDF15プロペプチド量を測定する方法は特に制限されない。例えば、GDF15プロペプチドを特異的に認識する抗体を用いる抗原抗体反応を利用した方法や、質量分析法を利用した方法が例示できる。
【0022】
GDF15プロペプチドを特異的に認識する抗体を用いる抗原抗体反応を利用した測定方法の具体例としては、以下のものが挙げられる。
(a)標識した測定対象及び測定対象を特異的に認識する抗体を用い、標識した測定対象及び検体に含まれる測定対象が、前記抗体に競合的に結合することを利用した競合法。
(b)測定対象を特異的に認識する抗体を固定化したチップに検体を接触させ、当該抗体と測定対象との結合に依存したシグナルを検出する表面プラズモン共鳴を用いた方法。
(c)蛍光標識した測定対象を特異的に認識する抗体を用い、当該抗体と測定対象とが結合することで蛍光偏光度が上昇することを利用した蛍光偏光免疫測定法。
【0023】
(d)エピトープの異なる2種類の、測定対象を特異的に認識する抗体(うち1つは標識した抗体)を用い、当該2つの抗体と測定対象との3者の複合体を形成させるサンドイッチ法。
(e)前処理として測定対象を特異的に認識する抗体により検体中の測定対象を濃縮後、その結合タンパクのポリペプチドを質量分析装置等により検出する方法。
(d)、(e)の方法が簡便かつ汎用性が高いが、多検体を処理する上では(d)の方法が試薬及び装置に関する技術が十分確立されている点でより好ましい。
【0024】
GDF15プロペプチドを特異的に認識する抗体としては、GDF15プロペプチドのN末端領域を特異的に認識する、例えば配列番号2の30残基目のロイシンから57残基目のアルギニンまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体が、iGDPP量の測定に好ましく用いることができる。また、GDFプロペプチドのC末端領域を特異的に認識する、例えば配列番号2の74残基目のグルタミン酸から196残基目のアルギニンまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体が、iGDPP量とGDPP断片量との合計量(総GDPP、以降「tGDPP」とも記す)の測定に好ましく用いることができる。
【0025】
GDF15プロペプチドを特異的に認識する抗体は、GDF15プロペプチドそのもの、GDF15プロペプチドの部分領域からなるオリゴペプチド、プロGDF15タンパク質のインタクトまたは部分領域をコードするポリヌクレオチドなどを免疫原として、動物に免疫することで得ることができる。
免疫に用いる動物は、抗体産生能を有するものであれば特に限定はなく、マウス、ラット、ウサギなど通常免疫に用いる哺乳動物でもよいし、ニワトリなど鳥類を用いてもよい。
【0026】
なお、免疫原として、GDF15プロペプチドそのもの、またはGDF15プロペプチドの部分領域からなるオリゴペプチドを用いると、前記タンパク質または前記オリゴペプチドを調製する過程でその構造が変化する可能性がある。そのため、得られた抗体が、所望の抗原に対して高い特異性や結合力を有さない可能性があり、結果として検体中に含まれるGDF15プロペプチド量を正確に定量できなくなる可能性がある。一方、免疫原として、プロGDF15タンパク質のインタクトまたは部分領域をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを用いると、免疫された動物の体内で構造変化を受けずに導入した通りのGDF15プロペプチドタンパク質のインタクトまたは部分領域が発現されるため、検体中のGDF15プロペプチドに対し、高い特異性及び結合力(すなわち高親和性)を有した抗体が得られるため好ましい。
【0027】
GDF15プロペプチドを特異的に認識する抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよいが、モノクローナル抗体であるのが好ましい。
【0028】
GDF15プロペプチドを特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマ細胞の樹立は、技術が確立された方法の中から適宜選択して行えばよい。一例として、前述した方法で免疫した動物からB細胞を採取し、前記B細胞とミエローマ細胞とを電気的にまたはポリエチレングリコール存在下で融合させ、HAT培地により所望の抗体を産生するハイブリドーマ細胞の選択を行ない、選択したハイブリドーマ細胞を限界希釈法によりモノクローン化を行なうことで、GDF15プロペプチドを特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を樹立することができる。
【0029】
本発明のがん(但し、CRPCを除く)の骨転移を検出する方法で用いる、GDF15プロペプチドを特異的に認識する抗体、例えば、GDF15プロペプチドを特異的に認識するモノクローナル抗体の選定は、宿主発現系に由来する、GPI(glycosyl phosphatidyl inositol)アンカー型GDF15プロペプチドまたは分泌型GDF15プロペプチドに対する親和性に基づいて行えばよい。
【0030】
なお、前記宿主としては特に限定はなく、当業者がタンパク質の発現に通常用いる、大腸菌や酵母などの微生物細胞、昆虫細胞、動物細胞の中から適宜選択すればよいが、ジスルフィド結合もしくは糖鎖付加といった翻訳後修飾により、天然型のGDF15プロペプチドに近い構造を有するタンパク質の発現が可能な、哺乳細胞を宿主として用いると好ましい。哺乳細胞の一例としては、従来用いられている、ヒト胎児腎臓由来細胞(HEK)293T細胞株、サル腎臓細胞COS7株、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはヒトから単離された癌細胞などが挙げられる。
【0031】
本発明のがん(但し、CRPCを除く)の骨転移の検出方法で用いる抗体の精製は、技術が確立された方法の中から適宜選択して行えばよい。一例として、前述した方法で樹立した、抗体を産生するハイブリドーマ細胞を培養後、その培養上清を回収し、必要に応じ硫酸アンモニウム沈殿による抗体濃縮後、プロテインA、プロテインG、またはプロテインLなどを固定化した担体を用いたアフィニティークロマトグラフィー及び/またはイオン交換クロマトグラフィーにより、抗体の精製が可能である。
【0032】
なお、前述したサンドイッチ法で抗原抗体反応を行なう際に用いる標識した抗体は、前述した方法で精製した抗体をペルオキシダーゼやアルカリ性フォスファターゼなどの酵素等で標識すればよく、その標識も技術が十分確立された方法を用いて行なえばよい。
【0033】
本発明の検出方法において、質量分析法を利用してGDF15プロペプチドを検出する方法について、以下に具体的に説明する。
【0034】
検体が血液である場合は、前処理工程として血液に多く含まれるアルブミン、イムノグロブリン、トランスフェリン等のタンパク質をAgilent Human 14等で除去した後、イオン交換、ゲル濾過または逆相HPLC等でさらに分画することが好ましい。
測定は、タンデム質量分析(MS/MS)、液体クロマトグラフィ・タンデム質量分析(LC/MS/MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(matrix assisted laser desorption ionization time-of-flight mass spectrometry、MALDI-TOF/MS)、表面増強レーザーイオン化質量分析(surface enhanced laser desorption ionization mass spectrometry、SELDI-MS)等により行うことができる。
【0035】
本発明の検出方法では、測定により得たGDF15プロペプチド量が、対照から算出した基準値(Cutoff値)を超えた場合に、がん(但し、CRPCを除く)の骨転移が検出されたと判定することが好ましい。
【0036】
判定に用いるGDF15プロペプチド量は、測定値もしくは換算濃度値の何れでもよい。なお、換算濃度値は、GDF15プロペプチドを標準試料として作成された検量線に基づいて測定値から換算される値をいう。標準試料の濃度決定は、質量分析を用いた標準ペプチドの検量線に基づいて測定値から換算される値としてもよい。
基準値(Cutoff値)は、非骨転移がん患者検体と骨転移を有するがん(但し、CRPCを除く)患者検体とをそれぞれ測定し、受信者動作特性(ROC)曲線解析により最適な感度と特異度を示す測定値に適宜設定することができる。
【0037】
本発明の骨転移を検出する方法は、転移性骨腫瘍を治療する方法に適用することができる。すなわち、本発明により、患者における転移性骨腫瘍を治療する方法であって、
(i)GDF15プロペプチド量の測定値が予め設定した基準値を超えるものとして患者を同定する工程、及び
(ii)前記同定された患者に対して治療を施す工程、を含む方法が提供される。
前記工程(i)の同定において、GDF15プロペプチド量の測定は、GDF15プロペプチドを特異的に認識する抗体を用いて行われてもよいし、質量分析法を用いて行われてもよい。
前記工程(ii)の治療としては、外科的治療、薬物療法、放射線療法等が挙げられるが特に限定されない。
【0038】
<2>本発明のがん(但し、CRPCを除く)の骨転移を検出するための試薬
本発明の第二の態様は、GDF15プロペプチドを認識する抗体を含む、がん(但し、CRPCを除く)の骨転移を検出するための試薬である。前記抗体は、通常は、配列番号2で表されるプロGDF15の30残基目のロイシンから196残基目のアルギニンまでの領域内の抗原決定基に結合する抗体である。
【0039】
本態様において抗体の認識対象であるGDF15プロペプチドには、インタクトGDF15プロペプチド及び/又はGDF15プロペプチド断片が含まれ、GDF15プロペプチド断片には、dNT57-GDPP、dNT73-GDPP、及びその他のペプチド断片が含まれる。これらのプロペプチド及びプロペプチド断片の説明は、前述した第一の態様に準ずる。
【0040】
本発明の試薬を前述したサンドイッチ法に利用する場合は、前記抗体としてエピトープの異なる2種類の抗体を含むことが必要である。
【0041】
本発明の検出試薬は、さらに、骨代謝マーカーを特異的に認識する抗体を含む、骨代謝マーカーの検出試薬を含んでいてもよい。骨代謝マーカーとしては、例えば表1に示すものが挙げられる。
【0042】
本発明の試薬に含まれる抗体は、抗体そのものであってもよく、標識されていてもよく、固相に固定化されていてもよい。
【0043】
本発明の試薬のうち、前述したサンドイッチ法の一態様である2ステップサンドイッチ法に利用する場合について、以下に具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
まず、本発明の試薬は、以下の(I)から(III)に示す方法で作製することができる。
(I)まず、サンドイッチ法で用いる、GDF15プロペプチドを特異的に認識する、エピトープの異なる2種類の抗体(以下、「抗体1」及び「抗体2」とする)のうち、抗体1をイムノプレートや磁性粒子等のB/F(Bound/Free)分離可能な担体に結合させる。結合方法は、疎水結合を利用した物理的結合であってもよいし、2物質間を架橋可能なリンカー試薬などを用いた化学的結合であってもよい。
【0045】
(II)担体に前記抗体1を結合させた後、非特異的結合を避けるため、担体表面を牛血清アルブミン、スキムミルク、市販のイムノアッセイ用ブロッキング剤などでブロッキング処理を行ない1次試薬とする。
【0046】
(III)他方の抗体2を標識し、得られた標識抗体を含む溶液を2次試薬として準備する。抗体2に標識する物質としては、ペルオキシダーゼ、アルカリ性フォスファターゼといった酵素、蛍光物質、化学発光物質、ラジオアイソトープなどの検出装置で検出可能な物質、又はビオチンに対するアビジンなど特異的に結合する相手が存在する物質等が好ましい。また、2次試薬の溶液としては、抗原抗体反応が良好に行える緩衝液、例えばリン酸緩衝液、Tris-HCl緩衝液等が好ましい。
このようにして作製した本発明の試薬は必要に応じ凍結乾燥させてもよい。
【0047】
なお、1ステップサンドイッチ法の場合は、前述した(I)~(II)同様に担体に抗体1を結合させブロッキング処理を行なったものを作製し、前記抗体固定化担体に、標識した抗体2を含む緩衝液をさらに添加して試薬を作製すればよい。
【0048】
次に、前述した方法で得られた試薬を用いて、2ステップサンドイッチ法でGDF15プロペプチドを検出し測定するには、以下の(IV)から(VI)に示す方法で行なえばよい。
(IV)(II)で作製した1次試薬と検体とを一定時間、一定温度のもと接触させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分から180分間反応させればよい。
【0049】
(V)未反応物質をB/F分離により除去し、続いて(III)で作製した2次試薬と一定時間、一定温度のもと接触させ、サンドイッチ複合体を形成させる。反応条件は、温度4℃から40℃の範囲で、5分から180分間反応させればよい。
【0050】
(VI)未反応物質をB/F分離により除去し、標識抗体の標識物質を定量し、既知濃度のGDF15プロペプチド溶液を標準とし作成した検量線により、検体中のヒトGDF15プロペプチド濃度を定量する。
【0051】
検出試薬に含まれる抗体等の試薬成分の量は、検体量、検体の種類、試薬の種類、検出の手法等の諸条件に応じて適宜設定すればよい。具体的には、例えば、後述するように検体として2.5倍希釈した血清や血漿を50μL使用して、サンドイッチ法によりGDF15プロペプチド量の測定を行う場合、当該検体50μLを抗体と反応させる反応系当たり、担体へ結合させる抗体量が100ngから1000μgであってよく、標識抗体量が2ngから20μgであってよい。
【0052】
本発明のがん(但し、CRPCを除く)の骨転移検出試薬は、用手法での検出にも利用可能であり、自動免疫診断装置を用いた検出にも利用可能である。特に自動免疫診断装置を用いた検出は、検体中に含まれる内在性の測定妨害因子や競合酵素の影響を受けることなく検出が可能で、かつ短時間に検体中のGDF15プロペプチド並びに骨代謝マーカーの濃度が定量可能であるため、好ましい。
【0053】
本発明の第二の態様の別の側面は、GDF15プロペプチドを特異的に認識する抗体の、がん(但し、CRPCを除く)の骨転移を検出するための試薬の製造における使用である。
また、本発明の第二の態様の別の側面は、GDF15プロペプチドを特異的に認識する抗体の、がん(但し、CRPCを除く)の骨転移の検出における使用である。
【0054】
本発明のがん(但し、CRPCを除く)の骨転移を検出する方法及び本発明の検出試薬の対象となる検体(被検試料)は、通常はがん患者から採取したものである。より具体的には、去勢抵抗性前立腺がんではない前立腺がん、腎がん、肺がん、乳がん、甲状腺がん、膵がん、膀胱がん、大腸がん、メラノーマ、骨髄腫又はリンパ腫の患者から採取したものを挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、好ましくは去勢抵抗性前立腺がんではない前立腺がん、腎がん、肺がん、乳がんの患者から採取したものであり、更に好ましくは腎がん、肺がん、乳がんの患者から採取したものである。
すなわち、本発明の方法において好ましく検出される骨転移は、去勢抵抗性前立腺がんではない前立腺がん、腎がん、肺がん、乳がん、甲状腺がん、膵がん、膀胱がん、大腸がん、メラノーマ、骨髄腫又はリンパ腫の骨転移である。
【0055】
本発明に係る検体としては、全血、血球、血清、血漿などの血液成分、細胞または組織の抽出液、尿、脳脊髄液などが挙げられる。血液成分や尿などの体液を検体として用いると、がん(但し、CRPCを除く)の骨転移を簡便かつ非侵襲的に検出できるため好ましく、検体採取の容易性、他の検査項目への汎用性を考慮すると、血液成分を検体として用いるのが特に好ましい。
本発明において検体を検出に供する際は、患者から採取した上記血液等の試料をそのまま用いてもよく、あるいは希釈や抗凝固剤の添加等の適宜処理を施したものでもよい。検体を希釈する場合、その希釈倍率は無希釈から100倍希釈の中から使用する検体の種類や状態に応じて適宜選択すればよく、例えば、血清や血漿の場合は、2.5倍希釈した検体を50μL用いればよい。
【0056】
また、本発明に係る検体の採取時期は、がんと診断された後のいずれの時期でも特に限定されず、がんの初期又は進行期であってもよく、また手術療法、薬物療法、放射線療法等何らかの治療を施した後でもよく、何らかの加療後の経過観察期間であってもよく、いずれの段階で採取した検体であっても、本発明の方法に供することができる。
【実施例
【0057】
以下に本発明を具体的に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0058】
<実施例1> GDF15プロペプチド測定試薬の調製
特許文献2の記載に基づいて2種類のGDPP測定試薬を作製し、測定に用いた。1つはGDPPのN末端領域を認識する抗体(TS-GDPP02)とC末端領域を認識する抗体(TS-GDPP04)の組み合わせで、インタクトGDPP(iGDPP)を検出する。もう一方は、C末端領域を認識する抗体の組み合わせ(TS-GDPP04とTS-GDPP08)で、iGDPPとN末端領域が欠落したGDF15プロペプチド断片(dNT57-GDPP及びdNT73-GDPPを含む)の両方を検出する。後者で検出される値を、総GDPP(tGDPP)とする。
【0059】
<実施例2> 前立腺がん血清検体における転移性骨腫瘍の判別性能
本実施例で使用した血清検体パネル(計54症例)の内訳を表2に示す。いずれも大阪大学泌尿器科学講座にて同一プロトコルにて収集された検体であり、インフォームドコンセントの承諾及び大阪大学内の臨床研究審査委員会の承認を受けて提供された。
【0060】
【表2】
【0061】
本検討ではアルカリフォスファターゼ(ALP)、Prostate Specific Anigen(PSA)、iGDPP、tGDPPおよびGDF15を測定し、前立腺がんにおける転移性骨腫瘍の判別性能を比較した。PSA、iGDPPおよびtGDPPは専用測定試薬と全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-600II(東ソー(株)製)にて、GDF15は市販ELISAキット(R&D社)を用いて測定値を算出した。ALPは採血直近の保険診療時の測定値を参照した。各種測定値のボックスプロットを図1に、マン・ホイットニーのU検定による有意差検定結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
前立腺がんにおける転移性骨腫瘍の判別性能はALPを除く4種のマーカーで有意差が認められ、iGDPPおよびtGDPPが最も高いP値を示した。良性である生検陰性例と前立腺がん転移性骨腫瘍の判別性能はiGDPP、tGDPPおよびGDF15で有意差が認められ、tGDPPが最も高いP値を示した。
【0064】
次に、前立腺がんにおける転移性骨腫瘍の判別性能を受信者動作特性(ROC)曲線解析にて実施した。解析結果を図2に、AUC(Area Under the Curve、ROC曲線下面積)を表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
前立腺がんにおける転移性骨腫瘍の判別性能および良性である生検陰性例と前立腺がん転移性骨腫瘍の判別性能はいずれもiGDPPおよびtGDPPがALP含む他のマーカーと比較して優れていることが示された。
【0067】
<実施例3> 前立腺がん血清/血漿同時採血検体における転移性骨腫瘍の判別性能
実施例2で解析した前立腺がん血清検体のうち、血清血漿同時採血が行われた症例(前立腺がん(骨転移なし)9例、前立腺がん転移性骨腫瘍16例)を用いて、血清血漿間における各種マーカーの診断性能をマン・ホイットニーのU検定またはROC解析で比較した。U検定のP値とAUCを表5に、ROC解析を図3に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
GDF15およびPSAの診断性能は血清血漿間で大きな差異は認められなかった。一方、iGDPPの診断性能は血清と比較して血漿で大幅に向上することが明らかとなった。先行研究でGDPPはプロテアーゼ等で分解を受けやすい傾向が示されており、iGDPPの検出は血漿を用いる方が好ましいことが示唆された。
【0070】
<実施例4> 腎がん血清検体における転移性骨腫瘍の判別性能
本実施例で使用した血清検体パネル(計29症例)の内訳を表6に示す。いずれも大阪大学泌尿器科学講座にて同一プロトコルにて収集された検体であり、インフォームドコンセントの承諾及び大阪大学内の臨床研究審査委員会の承認を受けて提供された。
【0071】
【表6】
【0072】
本検討ではALP、iGDPP、tGDPPおよびGDF15を測定し、腎がん血清検体における転移性骨腫瘍の判別性能を比較した。iGDPPおよびtGDPPは専用測定試薬と全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-600II(東ソー(株)製)にて、GDF15は市販ELISAキット(R&D社)を用いて測定値を算出した。ALPは採血直近の保険診療時の測定値を参照した。各種測定値のボックスプロットを図4に、ROC解析を図5に、マン・ホイットニーのU検定による有意差検定結果およびROC解析によるAUCを表7に示す。
【0073】
【表7】
【0074】
ALPは前立腺がんと同じく腎がんにおいても転移性骨腫瘍の判別性能が低いことが示された。一方、iGDPPとGDF15は腎がん血清検体において良好な判別性能を有していることが示された。
【0075】
<実施例5> 肺がんおよび乳がん血漿検体における転移性骨腫瘍の判別性能
本実施例で使用した血漿検体パネル(計29症例)の内訳を表8に示す。健常人血清検体はBioreclamationIVT社より、各種がん血清検体はPROMEDDX社から購入し、各社の製品添付書類に倫理委員会承認済のプロトコルで収集されたことが明記されている。
【0076】
【表8】
【0077】
本検討ではiGDPP、tGDPPおよびGDF15を測定し、健常と肺がん転移性骨腫瘍または乳がん転移性骨腫瘍の判別性能を比較した。iGDPPおよびtGDPPは専用測定試薬と全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-600II(東ソー(株)製)にて、GDF15は市販ELISAキット(R&D社)を用いて測定値を算出した。各種測定値のボックスプロットを図6に、マン・ホイットニーのU検定による有意差検定結果を表9に示す。
【0078】
【表9】
【0079】
肺がん転移性骨腫瘍または乳がん転移性骨腫瘍の判別性能はiGDPPが最も優れていることが示された。GDF15も比較的良好な判別性能が認められたが、一部の健常人において血中濃度が上昇することが判別性能の低下にいたったものと考えられる。
【0080】
次に、肺がん転移性骨腫瘍または乳がん転移性骨腫瘍の判別性能をROC曲線解析にて実施した。解析結果を図7に、AUCを表10に示す。
【0081】
【表10】
【0082】
肺がん転移性骨腫瘍または乳がん転移性骨腫瘍の判別性能は、いずれもiGDPPが最も優れていることが示された。
【0083】
本発明の上記実施例により、GDPPプロペプチドは骨転移の指標とされるALPに比べて転移性骨腫瘍の判別性能が有意に高いことが示された。更に、血漿検体を用いた場合、iGDPPはGDF15よりも転移性骨腫瘍の判別性能が優れていることが示された。
【0084】
<実施例6> 去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)ではない前立腺がん(非CRPC)の血清検体における転移性骨腫瘍の判別性能
実施例2で使用した前立腺がん血清検体パネル(計40症例)をCRPC/非CRPC、転移性骨腫瘍なし/ありで分類した内訳を表11に示す。
【0085】
【表11】
【0086】
本検討ではiGDPP、tGDPP、GDF15およびアルカリフォスファターゼ(ALP)を測定し、CRPC群および非CRPC群における転移性骨腫瘍の判別性能を比較した。iGDPPおよびtGDPPは専用測定試薬と全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-600II(東ソー(株)製)にて、GDF15は市販ELISAキット(R&D社)を用いて測定値を算出した。ALPは採血直近の保険診療時の測定値を参照した。CRPC群の各種測定値のボックスプロットを図8に、非CRPC群の各種測定値のボックスプロットを図9に、マン・ホイットニーのU検定による有意差検定結果を表12に示す。
【0087】
【表12】
【0088】
CRPC群ではいずれのマーカーも有意差が認められなかったが、非CRPC群ではiGDPPおよびtGDPPで有意差が認められた。
【0089】
次に、非CRPC群における転移性骨腫瘍の判別性能を受信者動作特性(ROC)曲線解析にて実施した。解析結果を図10に、AUC(Area Under the Curve、ROC曲線下面積)を表13に示す。
【0090】
【表13】
【0091】
非CRPC群における転移性骨腫瘍の判別性能はiGDPPおよびtGDPPがALP含む他のマーカーと比較して優れていることが示された。
【0092】
<実施例7> 肺がんの血清および血漿検体における転移性骨腫瘍の判別性能
本実施例で使用した血清および血漿検体パネル(計27症例)の内訳を表14に示す(転移性骨腫瘍の血漿検体は実施例5と同一症例)。使用した検体はBioreclamationIVT社・PROMEDDX社から購入したもので、製品添付書類に倫理委員会承認済のプロトコルで収集されたことが明記されている。
【0093】
【表14】
【0094】
本検討ではiGDPP、tGDPPを測定し、肺がんにおける転移性骨腫瘍の判別性能を比較した。iGDPPおよびtGDPPは専用測定試薬と全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-600II(東ソー(株)製)を用いて測定値を算出した。各種測定値のボックスプロットを図11に、マン・ホイットニーのU検定による有意差検定結果を表15に示す。
【0095】
【表15】
【0096】
血清検体では有意差が認められなかったが、血漿検体ではiGDPPおよびtGDPPのいずれも有意差が認められた。同一症例の血清/血漿ペア検体による評価ではないため一概には言い切れないが、血清と血漿で判別性能が異なる要因としてはプロテアーゼによる分解等の検体中の安定性に起因する影響が考えられる。
【0097】
次に、肺がんにおける転移性骨腫瘍の判別性能を受信者動作特性(ROC)曲線解析にて実施した。解析結果を図12に、AUC(Area Under the Curve、ROC曲線下面積)を表16に示す。
【0098】
【表16】
【0099】
血漿検体のiGDPPもしくはtGDPPの測定は、優れた肺がん転移性骨腫瘍の判別性能を有することが示された。
【0100】
<実施例8> 乳がんの血清および血漿検体における転移性骨腫瘍の判別性能
本実施例で使用した血清および血漿検体パネル(計28症例)の内訳を表17に示す(転移性骨腫瘍の血漿検体は実施例5と同一症例)。使用した検体はBioreclamationIVT社・PROMEDDX社から購入したもので、製品添付書類に倫理委員会承認済のプロトコルで収集されたことが明記されている。
【0101】
【表17】
【0102】
本検討ではiGDPP、tGDPPを測定し、乳がんにおける転移性骨腫瘍の判別性能を比較した。iGDPPおよびtGDPPは専用測定試薬と全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-600II(東ソー(株)製)を用いて測定値を算出した。各種測定値のボックスプロットを図13に、マン・ホイットニーのU検定による有意差検定結果を表18に示す。
【0103】
【表18】
【0104】
乳がんの転移性骨腫瘍に関しては一部GDPP濃度が上昇する症例が存在するものの、症例数が少ないこともあり統計学的な有意差は認められなかった。
【0105】
次に、乳がんにおける転移性骨腫瘍の判別性能を受信者動作特性(ROC)曲線解析にて実施した。解析結果を図14に、AUC(Area Under the Curve、ROC曲線下面積)を表19に示す。
【0106】
【表19】
【0107】
乳がんにおける転移性骨腫瘍判別に関しては、血漿検体のtGDPP測定でやや良好な性能が示された。
【0108】
<実施例9> 種々のがん血漿検体における転移性骨腫瘍の判別性能
本実施例で使用した血漿検体パネル(計34症例)の内訳を表20に示す。使用した検体はBioreclamationIVT社・PROMEDDX社から購入したもので、製品添付書類に倫理委員会承認済のプロトコルで収集されたことが明記されている。
【0109】
【表20】
【0110】
本検討ではiGDPPおよびtGDPPを測定し、各種がんにおける転移性骨腫瘍の判別性能を比較した。iGDPPおよびtGDPPは専用測定試薬と全自動エンザイムイムノアッセイ装置AIA-600II(東ソー(株)製)を用いて測定値を算出した。各種測定値のボックスプロットを図15に示す。
症例数が少ないがん種もあり、十分な有意差検定の評価はできなかったが、iGDPPおよびtGDPPは健常と比較して明確に血中濃度が上昇しており、各種がんにおける転移性骨腫瘍を判別可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明により、がん(但し、CRPCを除く)の骨転移を検出することができる方法及び試薬が提供される。これにより、従来の骨代謝マーカーでは判別の難しいがん(但し、CRPCを除く)の骨転移の有無を血液診断等で簡便かつ精度高く検出することができる。その結果、がん(但し、CRPCを除く)の骨転移の検出を簡便にし、治療法の選択ならびに治療効果判定が可能となるため、産業上非常に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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