(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】抗ヒトハプトグロビン抗体、及びこれを用いた炎症性腸疾患の判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20241011BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20241011BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20241011BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20241011BHJP
【FI】
G01N33/53 D
C07K16/18 ZNA
C12N15/13
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2021522775
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2020020669
(87)【国際公開番号】W WO2020241617
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019100737
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】三善 英知
(72)【発明者】
【氏名】高松 真二
(72)【発明者】
【氏名】森下 康一
(72)【発明者】
【氏名】新▲崎▼ 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】梶原 康宏
(72)【発明者】
【氏名】真木 勇太
(72)【発明者】
【氏名】木戸脇 佳代子
(72)【発明者】
【氏名】伊逹 睦廣
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-063161(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204295(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0266124(US,A1)
【文献】特表2010-506144(JP,A)
【文献】特表2008-507704(JP,A)
【文献】特表2012-507723(JP,A)
【文献】Molecular Biology Reports,2012年,Vol.39,pp.5659-5667
【文献】Serum acute phase proteins for determining disease activity of ulcerative colitis and Crohn disease,1991年,[PubMed], [検索日:2024.03.29], インターネット: <URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1722373/>
【文献】Serum proteomic variation study in patients with Crohn disease,2008年,[PubMed], [検索日:2024.03.29], インターネット: <URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18478474/>
【文献】Hybridoma,1989年,Vol. 8, No. 5,p. 551-560
【文献】Analytical biochemistry,2020年,Vol. 593, No. 113588,p.1-6,Available online 22 January 2020
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00-19/00
G01N 33/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む、炎症性腸疾患の判定を補助するための方法であって、
(1)ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗ヒトハプトグロビン抗体である抗体1を用いて、被検者由来試料中のヒトハプトグロビン量を測定する工程、
(2)上記(1)の結果に基づいて、炎症性腸疾患を判定するための工程;
炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎またはクローン病であり、
被検者由来試料が血清、血漿、又は全血であり、
該抗体1が、Hpt1-1型、Hpt2-1型、及びHpt2-2型のすべてに結合でき、さらにプロヒトハプトグロビンにも結合することができ、
ヒトハプトグロビンの量が基準値よりも高い場合に潰瘍性大腸炎またはクローン病に罹患している可能性があると判定する、方法。
【請求項2】
工程(1)が下記の工程を含む、請求項1に記載の炎症性腸疾患の判定を補助するための方法:
(1-i)被検者由来試料と該抗体1とを接触させて、ヒトハプトグロビンと該抗体1との複合体1を形成させる工程、
(1-ii)該複合体1の量を測定する工程。
【請求項3】
工程(1)が、さらに抗体1とは認識するエピトープが異なる、ヒトハプトグロビンを認識する抗体2を組合せて用いることを特徴とする、請求項1に記載の炎症性腸疾患の判定を補助するための方法。
【請求項4】
工程(1)が下記の工程を含む、請求項1に記載の炎症性腸疾患の判定を補助するための方法:
(1-i)被検者由来試料と、該抗体1と、抗体1とは認識するエピトープが異なる、ヒトハプトグロビンを認識する抗体である抗体2とを接触させて、ヒトハプトグロビンと該抗体1と該抗体2との複合体2を形成させる工程、
(1-ii)該複合体2の量を測定する工程。
【請求項5】
該抗体1と該抗体2のいずれか一方が不溶性担体に固定化されており、他方が標識物質で標識されている、請求項3に記載の炎症性腸疾患の判定を補助するための方法。
【請求項6】
ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗ヒトハプトグロビン抗体を用いて、被検者由来試料中のヒトハプトグロビン量を測定することを特徴とする、炎症性腸疾患の判定のためのデータを得るための方法であって、炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎またはクローン病であり、被検者由来試料が血清、血漿、又は全血であ
り、該抗ヒトハプトグロビン抗体が、Hpt1-1型、Hpt2-1型、及びHpt2-2型のすべてに結合でき、さらにプロヒトハプトグロビンにも結合することができる、方法。
【請求項7】
ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗ヒトハプトグロビン抗体を含んでなる、炎症性腸疾患を判定するためにヒトハプトグロビン量を測定するためのキットであって、炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎またはクローン病であ
り、該抗ヒトハプトグロビン抗体が、Hpt1-1型、Hpt2-1型、及びHpt2-2型のすべてに結合でき、さらにプロヒトハプトグロビンにも結合することができる、キット。
【請求項8】
該抗ヒトハプトグロビン抗体とは認識するエピトープが異なる、ヒトハプトグロビンに結合する抗体を更に含んでなる、請求項7に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)は、潰瘍性大腸炎とクローン病に大別される、腸管に炎症を繰り返す難治性の慢性炎症疾患で、近年その患者数が増加している。炎症性腸疾患の診断は、大腸内視鏡検査や消化管造影検査、病理組織検査等によって行われる。炎症性腸疾患に罹患した患者は非罹患者に比較して発癌リスクが高いため、長期にわたり検査を続ける必要がある。しかしながら、大腸内視鏡検査は侵襲性が高く、被検者である患者の身体的負担が大きい。
【0002】
そのため、通常は炎症反応を反映する血清C反応性蛋白(CRP)や白血球数等の血液検査項目や、医師が判断した重症度をもとに算出される疾患活動性指数等を考慮して、総合的に疾病の診断を行っている。
【0003】
しかしながら、血液検査の結果は必ずしも炎症性腸疾患の病態を反映しているとは言えない。また、疾患活動性指数は診断の客観性に乏しいという問題がある。
【0004】
そのため、非侵襲的に炎症性腸疾患の診断を行うことのできるバイオマーカーを用いた診断も行われつつある。
【0005】
例えば、腸管の炎症度を反映する非侵襲性のマーカーとして、便中カルプロテクチンが知られている。便中カルプロテクチンの値は、血清バイオマーカーと比較して、腸管局所の炎症をより直接的に反映していると考えられる。しかし、炎症性腸疾患が疑われる患者の場合、軟便や水様便の場合が多い。このような状態の試料を用いた測定では測定値に誤差が出やすいという問題がある。
【0006】
また、ヒトハプトグロビンは肝臓で合成される急性期反応蛋白であり、潰瘍性大腸炎やクローン病で血中濃度が変動することが知られている(特許文献1、特許文献2)。潰瘍性大腸炎患者及びクローン病患者の血清ヒトハプトグロビン濃度の測定も行われている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2009-526233号公報
【文献】特表2012-529508号公報
【文献】特表2012-507723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
炎症性腸疾患を判定するための特異性が高く、炎症性腸疾患の疾患活動性(disease activity)や治療効果を適切に反映するバイオマーカーは未だ知られていない。このような状況から、低侵襲性で、炎症性腸疾患の病態を反映し、且つ客観的な診断が行える判定方法の開発が求められている。
本発明は、上記した状況に鑑みなされたもので、測定が簡便で、臨床症状を正しく反映する炎症性腸疾患の判定方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、炎症性腸疾患を高い精度で判定できる優れたバイオマーカーを見出すべく鋭意検討した結果、ヒトハプトグロビンのα鎖が持つ配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗体を樹立した。そして、該抗体を用いてヒトハプトグロビンの測定を行うことにより、炎症性腸疾患を高い確度で判定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下の構成よりなる。
「[1]ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗ヒトハプトグロビン抗体。
[2]下記の工程を含む、炎症性腸疾患の判定方法:
(1)ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗ヒトハプトグロビン抗体である抗体1を用いて、被検者由来試料中のヒトハプトグロビン量を測定する工程、
(2)上記(1)の結果に基づいて、炎症性腸疾患を判定するための工程。
[3]工程(1)が下記の工程を含む、上記[2]に記載の炎症性腸疾患の判定方法:
(1-i)被検者由来試料と該抗体1とを接触させて、ヒトハプトグロビンと該抗体1との複合体1を形成させる工程、
(1-ii)該複合体1の量を測定する工程。
[4]工程(1)が、さらに抗体1とは認識するエピトープが異なる、ヒトハプトグロビンを認識する抗体2を組合せて用いることを特徴とする、上記[2]又は[3]に記載の炎症性腸疾患の判定方法。
[5]工程(1)が下記の工程を含む、上記[2]~[4]のいずれか一つに記載の炎症性腸疾患の判定方法:
(1-i)被検者由来試料と、該抗体1と、抗体1とは認識するエピトープが異なる、ヒトハプトグロビンを認識する抗体である抗体2とを接触させて、ヒトハプトグロビンと該抗体1と該抗体2との複合体2を形成させる工程、
(1-ii)該複合体2の量を測定する工程。
[6]該抗体1と該抗体2のいずれか一方が不溶性担体に固定化されており、他方が標識物質で標識されている、上記[4]又は[5]に記載の炎症性腸疾患の判定方法。
[7]被検者由来試料が血清、血漿、又は全血である、上記[2]~[6]のいずれか一つに記載の炎症性腸疾患の判定方法。
[8]ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗ヒトハプトグロビン抗体を用いて、被検者由来試料中のヒトハプトグロビン量を測定することを特徴とする、炎症性腸疾患の判定のためのデータを得るための方法。
[9]ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗ヒトハプトグロビン抗体を含んでなる、炎症性腸疾患を判定するためにヒトハプトグロビン量を測定するためのキット。
[10]該抗ヒトハプトグロビン抗体とは認識するエピトープが異なる、ヒトハプトグロビンに結合する抗体を更に含んでなる、上記[9]に記載のキット。」
【0011】
本発明の炎症性腸疾患の判定方法は、医師等の診断を補助する方法として用いることができる。
また、上記方法は、すべてin vitroで実施される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗体を用いた本発明の判定方法によれば、低侵襲性で且つ確度の高い炎症性腸疾患の判定が可能となるという優れた効果を奏する。
また、本発明の判定方法による判定結果は、患者に対して大腸内視鏡検査を行う必要があるか否かを判断するための指標の一つとなる。それ故、本発明の判定方法を実施することにより、本来ならば大腸内視鏡検査を行う必要のない患者にまで当該検査を行うような過剰診療を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、ヒトハプトグロビンの模式図である。
【
図2】
図2は、実施例1で得られたHpt1-1型及びHpt2-2型に対する10-7G2A抗体の反応性を検討した結果を示す電気泳動図である。
【
図3】
図3は、実施例2で得られた、ヒトハプトグロビンα鎖断片に対する10-7G2A抗体の反応性を検討した結果を示す電気泳動図である。
【
図4】
図4は、実施例2において、10-7G2A抗体エピトープの二次スクリーニングに使用したヒトハプトグロビンα鎖のペプチド断片の一覧である。
【
図5】
図5は、実施例2において得られた、10-7G2A抗体の阻害実験の結果である。
図5において、(a)は、試料として大腸癌細胞株HCT116にヒトハプトグロビン遺伝子を導入して安定過剰発現する樹立株を、L-フコース添加培養液で培養して得た培養上清を用いた阻害アッセイの結果を示す。
図5(b)は、試料に膵癌患者の血清を用いた阻害アッセイの結果を示す。 また、
図5(a)及び
図5(b)において、(1)はコントロールペプチド溶液を用いた測定結果を、(2)は合成ペプチド1を用いた測定結果を破線で、(3)は合成ペプチド3を用いた測定結果を実線で、それぞれ示す。
【
図6】
図6は、実施例3で得られた、健常人、潰瘍性大腸炎患者、及びクローン病患者の血清を用いて、10-7G2A抗体と3-1抗体を用いた測定で得られたヒトハプトグロビン量(relative unit)の分布図を表す。
【
図7】
図7は、実施例4で得られた、健常人、及びCRP高値健常人の血清を用い、10-7G2A抗体と3-1抗体を用いた測定で得られたヒトハプトグロビン量(relative unit)の分布図を表す。
【
図8】
図8は、実施例4で得られた、健常人の血清CRP値(対数)と血清ヒトハプトグロビン量(対数)との相関図である。
【
図9】
図9は、実施例5で得られた、潰瘍性大腸炎患者のClinical activity Index (CAI)と血清ヒトハプトグロビン量との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、新規な抗ヒトハプトグロビン抗体、これを用いた炎症性腸疾患の判定方法、及びこれに用いられるキットに関する。
【0015】
<1.炎症性腸疾患>
本発明にかかる炎症性腸疾患とは、一般に炎症性腸疾患として分類される潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む。好ましくは潰瘍性大腸炎およびクローン病である。
【0016】
<2.ヒトハプトグロビン>
ハプトグロビンは、哺乳類の血中に存在する肝臓由来の糖タンパク質であり、溶血時に遊離したヘモグロビンと結合するため、溶血時には血中濃度が低下することが一般に知られている。本発明に係るハプトグロビンは、ヒト由来のヒトハプトグロビンを指す。
ヒトハプトグロビンは、α鎖及びβ鎖の二つのサブユニットから構成される。α鎖とβ鎖が結合した前駆体プロハプトグロビンが、セリンプロテアーゼのC1RLPによりα鎖とβ鎖に切断され、両鎖がS-S結合を介して連結した成熟型ハプトグロビンとなる。
ヒトハプトグロビン(αβ)の模式図を
図1に示す。
【0017】
ヒトハプトグロビンのα鎖には、α1鎖とα2鎖の2種類があり、α1鎖は約10kDa、α2鎖は約18kDaである。β鎖は約39kDaである。よって、ヒトハプトグロビンは、Hpt1-1型((α1β)2)、Hpt2-1型((α1β)m(α2β)n)、及びHpt2-2型((α2β)n)の三つの型に分類される。m及びnは1以上の整数であり、同じであっても異なっていてもよい。
三つの型のβ鎖は同じである。また、α2鎖は鎖内にS-S結合を2つ持つため、Hpt2-1型及びHpt2-2型は、α鎖β鎖の多量体として存在する。
【0018】
本発明に係るα鎖のアミノ酸配列としては、例えば配列番号2で表されるα1鎖のアミノ酸配列、及び配列番号3で表されるα2鎖のアミノ酸配列が挙げられる。
【0019】
上記配列番号2で表されるα1鎖のアミノ酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列(QCKNYY)を、そのN末端から51番目~56番目に有する。
上記配列番号3で表されるα2鎖のアミノ酸配列は、該配列番号1で表されるアミノ酸配列を、そのN末端から51番目~56番目、及び110番目~115番目の二ヶ所に有する。
【0020】
また、本発明に係るα鎖のアミノ酸配列の具体例としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列の他、上記した配列番号2で表されるアミノ酸配列の1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列を有するものであって、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するもの、又は上記した配列番号2で表されるアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは95%以上、さらにより好ましくは97%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するものであって、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するものが挙げられる。
【0021】
また、本発明に係るα鎖のアミノ酸配列の別の具体例としては、配列番号3で表されるアミノ酸配列の他、上記した配列番号3で表されるアミノ酸配列の1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列を有するものであって、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するもの、又は上記した配列番号3で表されるアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは95%以上、さらにより好ましくは97%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するものであって、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するものが挙げられる。
【0022】
<3.本発明の抗体(抗体1)>
本発明の抗体は、「ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗ハプトグロビン抗体」である。該抗体を、以下、「本発明の抗体1」、又は単に「抗体1」と略記する場合がある。
【0023】
上記したようにヒトハプトグロビンのα1鎖のアミノ酸配列には、配列番号1で表されるアミノ酸配列が一ヶ所存在する。α2鎖のアミノ酸配列には、配列番号1で表されるアミノ酸配列が二ヶ所存在する。本発明の抗体1は、このα1鎖とα2鎖が有する配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗体である。
すなわち、本発明の抗体1は、α1鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域、及びα2鎖の配列番号1のアミノ酸配列の領域(2つのうちの少なくとも一つ)を認識して、Hpt1-1型, Hpt2-1型, 及びHpt2-2型に結合する抗体である。
【0024】
本発明の抗体1としては、「ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の一次構造を特異的に認識する抗体」、又は「ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域内の立体構造を特異的に認識する抗体」が含まれる。
【0025】
また、本発明の抗体1が認識するヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表される6アミノ酸の領域は、ヒトハプトグロビンの糖鎖が結合していない領域である。そのため、本発明の抗体1は、ヒトハプトグロビンだけでなく、プロヒトハプトグロビンにも結合する。
【0026】
本発明の抗体1は、上記した特性を有する抗ヒトハプトグロビン抗体であればよく、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体がより好ましい。また、市販品でも常法により適宜調製されたものでもよい。さらに後記する本発明の抗体1を用いたヒトハプトグロビンの測定においては、これらを単独であるいはこれらを適宜組み合わせて用いる等は任意である。
【0027】
本発明の抗体1は、抗体1の抗原結合断片であってもよい。抗原結合断片とは、抗体の断片であって、抗原結合部位を有するものを意味する。具体的には、例えば抗体1のFab、Fab’、F(ab')2、Fv、Fd、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合したFv(sdFv)、VL、VH、ダイアボディー((VL-VH)2もしくは(VH-VL)2)、トリアボディー(三価抗体)、テトラボディー(四価抗体)、ミニボディー((scFV-CH3)2)、IgG-delta-CH2、scFv-Fc、(scFv)2-Fcフラグメント等であって、ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合するものが挙げられる。
【0028】
本発明の抗体1を取得するために、免疫原(抗原)として用いられるものとしては、(a)本発明に係るヒトハプトグロビンのα鎖のアミノ酸配列(例えば配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列)を持つポリペプチド、(b)本発明に係るヒトハプトグロビンのα鎖のアミノ酸配列(例えば配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列)の部分配列であって、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含有するポリペプチド、又は(c)ヒトハプトグロビン(全長)が挙げられる。
【0029】
本発明の抗体1を取得するために免疫原として用いられる(a)本発明に係るヒトハプトグロビンのα鎖のアミノ酸配列(例えば配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列)を持つポリペプチド、又は(b)本発明に係るヒトハプトグロビンのα鎖のアミノ酸配列(例えば配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列)の部分配列であって、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含有するポリペプチドは、そのアミノ酸配列に従って、一般的な化学法製法により製造することができる。例えば、フルオレニルメチルオキシカルボニル法(Fmoc法)、t-ブチルオキシカルボニル法(tBoc法)等の通常の化学合成法により、該ポリペプチドを得ることができる。また、市販のペプチド合成機を用いて化学合成することもできる。また、ペプチド合成品を製造する業者に委託した製造品でもよい。
【0030】
本発明の抗体1を取得するために免疫原として用いられる(c)ヒトハプトグロビン(全長)は、ヒト大腸癌細胞株HCT116(ATCC)にヒトハプトグロビン遺伝子を導入し安定過剰発現させた細胞の培養上清等の、癌細胞株の培養液又は培養上清から、例えば抗ヒトハプトグロビン抗体カラムを用いる方法で、抽出及び精製することにより得ることができる。または市販のヒトハプトグロビンの精製品等を用いることもできる。
【0031】
上記した免疫原となる抗原蛋白質の精製は、自体公知の方法、例えばヒトハプトグロビン抗体又は抗ヒトハプトグロビンα鎖抗体をコートしたセファロースビーズを用いたアフィニティークロマトグラフィー等の幾つかのクロマトグラフィー技術を組み合わせて行えばよい。
【0032】
本発明のポリクローナル抗体1を得る方法としては、上記した如き方法で得られた免疫原を、常法[例えば免疫実験学入門、第2刷、松橋直ら、(株)学会出版センター、1981等に記載の方法等]に従って、例えば馬、牛、羊、兎、山羊、モルモット、ラット、マウス等の動物に免役する常法により作製し、常法によりヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗体を選択すればよい。
【0033】
また、本発明のモノクローナル抗体1を得る方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、上記した如き方法で得られた免疫原を免疫した、例えばラット、マウス等の動物の、例えば脾細胞、リンパ球等の免疫感作された細胞と、例えば骨髄腫細胞等の永久的に増殖する性質を有する細胞とを、ケラーとミルシュタインらにより開発された自体公知の細胞融合技術(Nature, 256, 495, 1975)により融合させてハイブリドーマを作製し、ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを選択する。選択した該ハイブリドーマを培地中で培養するか、動物の腹腔内に投与して腹水中に抗体を産生させて、該培養物又は腹水より目的のモノクローナル抗体を採取すればよい。あるいは、遺伝子組換え技術等を応用した自体公知の方法(Eur.J.Immunol., 6, 511, 1976)により上記した如き性質を有する抗体を産生する細胞を作製し、この細胞を培養することにより目的の本発明のモノクローナル抗体1を採取すればよい。
【0034】
本発明の抗体1の産生方法の一例を、モノクローナル抗体を製造する方法を例にとり、以下に説明する。
【0035】
すなわち、免疫原[(a)本発明に係るヒトハプトグロビンのα鎖のアミノ酸配列(例えば配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列)を持つポリペプチド、(b)本発明に係るヒトハプトグロビンのα鎖のアミノ酸配列(例えば配列番号2又は配列番号3で表されるアミノ酸配列)の部分配列であって、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含有するポリペプチド、又は(c)ヒトハプトグロビン(全長)]と、完全(若しくは不完全)フロイントアジュバント等のアジュバントとを混合して懸濁液を作製する。この懸濁液を前述の如き適当な動物に、通常1ng~10mgの量の抗原を、通常1~5週間毎に、好ましくは2~5週間毎に、通常2~10回、好ましくは3~8回、皮下、静脈内あるいは腹腔内に投与して免疫する。
【0036】
最終免疫から3~4日後に、免疫した動物から脾臓やリンパ節を無菌的に摘出する。摘出する臓器としては、脾臓が最も好ましい。摘出した脾臓から、脾細胞を常法により調製する。得られた脾細胞と、例えばNS-1,Sp2,Sp2/0,X63等のミエローマ細胞とを常法に従い細胞融合する。細胞融合の方法としては、ポリエチレングリコールを用いる方法、細胞電気融合法等が挙げられるが、ポリエチレングリコールを用いる方法が簡便で好ましい。
【0037】
次いで、常法に従って、ハイブリドーマをHAT培地を用いて選択する。
選択されたハイブリドーマを培養し、培養上清を採取する。その培養上清を通常のELISA法、間接免疫蛍光法や、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動後にポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜を用いるウェスタンブロット免疫染色法等に供して、ヒトハプトグロビンを特異的に認識し、且つ配列番号1で表されるアミノ酸配列に特異的に結合する抗体を産生する細胞(ハイブリドーマ)を選択する。
次いで、限界希釈法によるクローニングを数回行い、安定して高力価の抗体を産生することが認められたものを本発明のモノクローナル抗体1産生ハイブリドーマ株として選択する。
以上の方法で、目的とする本発明のモノクローナル抗体1を産生するハイブリドーマを獲得することができる。
【0038】
獲得したハイブリドーマから本発明のモノクローナル抗体1を取得するには、上記方法により得られたハイブリドーマを培養し、得られた培養上清から常法によりモノクローナル抗体1を精製すればよい。
【0039】
ハイブリドーマを培養する方法としては、動物の腹腔内にハイブリドーマを投与する腹水形成法や、該ハイブリドーマを培養する細胞培養法等の常法が挙げられる。
【0040】
培養上清やマウス腹水からのモノクローナル抗体の精製は、硫酸アンモニウム塩折法、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、分子ふるいクロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択及び組み合わせて行えばよい。
【0041】
本発明者等は、ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する新規な抗体1を樹立し、「10-7G2A抗体」と命名した。
【0042】
<4.炎症性腸疾患の判定方法>
本発明の炎症性腸疾患の判定方法は、
「下記の工程を含む、炎症性腸疾患の判定方法:
(1)ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗ヒトハプトグロビン抗体である抗体1を用いて、被検者由来試料中のヒトハプトグロビン量を測定する工程、
(2)上記(1)の結果に基づいて、炎症性腸疾患を判定するための工程。」
である。
【0043】
また、本発明の方法は、このように本発明の抗体1を用いて被検者由来試料中のヒトハプトグロビン量を測定することを特徴とする、炎症性腸疾患の判定のためのデータを得るための方法も含む。
【0044】
1)試料
本発明の炎症性腸疾患の判定方法に用いられる試料としては、被検者であるヒト由来の、血清、血漿、血液、膵液、唾液、リンパ液、髄液等体液、大腸及び小腸等の腸組織、該組織の抽出液,該組織の組織切片,該組織の生検試料、該組織の洗浄液、あるいはこれらから調製されたもの等が挙げられる。中でも、血清、血漿、又は血液が好ましい。血清が特に好ましい。
【0045】
2)ヒトハプトグロビンの測定方法
本発明の炎症性腸疾患の判定方法において、ヒトハプトグロビン量を測定する工程に係るヒトハプトグロビン量の測定方法としては、上記の<3.本発明の抗体(抗体1)>の項に記載された本発明の抗体1を用いる以外は、ヒトハプトグロビン量を測定する常法によりなされればよい。
例えば被検者由来試料と、本発明の抗体1とを接触させて、ヒトハプトグロビンと該抗体1の複合体(以下、複合体1と略記する場合がある)を形成させ、当該複合体1の量を測定する方法が挙げられる。
中でも、本発明の抗体1として本発明者らが樹立した10-7G2A抗体を用いることが好ましい。
【0046】
本発明に係るヒトハプトグロビンの測定方法は、本発明の抗体1と、該抗体1とは認識するエピトープが異なる、ヒトハプトグロビンを認識する抗体を組合せて使用する方法がより好ましい。
「本発明の抗体1とは認識するエピトープが異なる、ヒトハプトグロビンを認識する抗体」を、以下、「本発明に係る抗体2」、又は単に「抗体2」と略記する場合がある。
【0047】
本発明に係る抗体2は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体がより好ましい。市販品でも常法により適宜調製されたものでもよい。また、これらを単独であるいはこれらを適宜組み合わせて用いる等は任意である。
【0048】
また、抗体2は、抗体2の抗原結合断片であってもよく、具体的には、例えば抗体2のFab、Fab’、F(ab')2、Fv、Fd、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合したFv(sdFv)、VL、VH、ダイアボディー((VL-VH)2もしくは(VH-VL)2)、トリアボディー(三価抗体)、テトラボディー(四価抗体)、ミニボディー((scFV-CH3)2)、IgG-delta-CH2、scFv-Fc、(scFv)2-Fcフラグメント等であって、ヒトハプトグロビンを特異的に認識するものが挙げられる。
【0049】
抗体2の由来は特に限定されないが、例えばウサギ、ラット、マウス、羊、山羊、馬等に由来する、上記した性質を有するものが挙げられる。市販品、あるいは例えば「免疫学実験入門、第2刷、松橋直ら、(株)学会出版センター、1981」等に記載の方法で取得されたものであって、上記した性質を有するものを使用すればよい。
【0050】
抗体2は、常法によるポリクローナル抗体の作製方法又はモノクローナル抗体の作製方法に従い、ヒトハプトグロビン又はその断片を動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製し、スクリーニングすることによって得ることができる。尚、抗原となるヒトハプトグロビンについては、常法により、例えば抗ヒトハプトグロビン抗体カラムを用いる方法により、癌細胞株の培養液又は培養上清から抽出することにより得ることができ、市販のものを用いても構わない。また、抗体2は、市販のものを用いてもよい。
【0051】
抗体2として用いられる抗体は、本発明の抗体1とは認識するエピトープが異なる、ヒトハプトグロビンを認識する抗体であって、本発明の抗体1とは、ヒトハプトグロビンに対する結合が競合しない抗体が好ましい。例えばヒトハプトグロビンのβ鎖を認識する抗体等が挙げられる。
そのような抗体の例としては、市販品としては、例えばImmunology Consultants laboratory, Inc.のAffinity Purified Rabbit anti-Human Haptoglobin (カタログNo.RHPT-80ALY、ポリクローナル抗体)等が挙げられる。
また、WO2017/204295に開示された、本発明者らが樹立した3-1抗体、及び3-5抗体が挙げられる。3-1抗体及び3-5抗体は、ヒトハプトグロビンのβ鎖を認識し、S-S結合が切断されたヒトハプトグロビンは認識しない抗体である。
【0052】
本発明に係る具体的なヒトハプトグロビン量の測定方法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、簡易イムノクロマトグラフィーによる測定法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法、質量分析法、免疫比ろう法、免疫比濁法等の免疫凝集法に準じた測定法、イムノブロット法等が挙げられる。中でも酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、免疫比ろう法、免疫比濁法が好ましく、酵素免疫測定法(EIA)がより好ましい。
これらの測定原理としては、例えばサンドイッチ法、競合法、二抗体法等が挙げられ、サンドイッチ法が好ましい。また、不溶性担体等を用い、B/F分離を行うヘテロジニアスな方法で測定することも、B/F分離を行わないホモジニアスな方法で測定することも可能である。
【0053】
〔サンドイッチ法による本発明に係るヒトハプトグロビンの測定方法〕
本発明に係るヒトハプトグロビンの測定方法において、サンドイッチ法による測定方法としては、被検者由来試料と該抗体1と該抗体2とを接触させて、ヒトハプトグロビンと該抗体1と該抗体2との複合体(以下、複合体2と略記する場合がある)を形成させ、当該複合体2の量を測定する方法が挙げられる。
【0054】
上記サンドイッチ法による測定方法に用いられる、抗体1及び/又は抗体2は、標識物質等で標識されているものが好ましい。例えば本発明の抗体1が標識物質で標識された抗体1(標識抗体1)を用いる場合、標識抗体1の標識物質量に基づいて複合体2を測定すればよく、例えば抗体2が標識物質で標識された抗体2(標識抗体2)を用いる場合、標識抗体2の標識物質量に基づいて複合体2を測定すればよい。
【0055】
抗体1又は抗体2を標識するために用いられる標識物質としては、例えば通常の免疫測定法等において用いられるペルオキシダーゼ(POD),マイクロペルオキシダーゼ,アルカリホスファターゼ,β-ガラクトシダーゼ,グルコースオキシダーゼ,グルコース-6-リン酸脱水素酵素,アセチルコリンエステラーゼ,リンゴ酸脱水素酵素,ルシフェラーゼ等の酵素類;例えば放射免疫測定法(Radioimmunoassay、RIA)で用いられる99mTc,131I,125I,14C,3H、32P,35S等の放射性同位元素;例えば蛍光免疫測定法(Fluoroimmunoassay、FIA)で用いられるフルオレセイン,ダンシル,フルオレスカミン,クマリン,ナフチルアミン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、ローダミンXイソチオシアネート、スルフォローダミン101、ルシファーイエロー、アクリジン、アクリジンイソチオシアネート、リボフラビンあるいはこれらの誘導体等の蛍光性物質;例えばルシフェリン,イソルミノール,ルミノール,ビス(2,4,6-トリフロロフェニル)オキザレート等の発光性物質;例えばフェノール,ナフトール,アントラセンあるいはこれらの誘導体等の紫外部に吸収を有する物質;例えば4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル,3-アミノ-2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシル,2,6-ジ-t-ブチル-α-(3,5-ジ-t-ブチル-4-オキソ-2,5-シクロヘキサジエン-1-イリデン)-p-トリルオキシル等のオキシル基を有する化合物に代表されるスピンラベル化剤としての性質を有する物質等の標識物質;例えばHiLyte Fluor 647、HiLyte Fluor 488、HiLyte Fluor 555、HiLyte Fluor 680、HiLyte Fluor 750等のHiLyte系色素〔いずれもハイライトバイオサイエンス社(HiLyte Bioscience, Inc.)商品名〕;例えばAlexa Fluor Dye 350、Alexa Fluor Dye 430、Alexa Fluor Dye 488、Alexa Fluor Dye 532、Alexa Fluor Dye 546、Alexa Fluor Dye 555、Alexa Fluor Dye 568、Alexa Fluor Dye 594、Alexa Fluor Dye 633、Alexa Fluor Dye 647、Alexa Fluor Dye 660、Alexa Fluor Dye 680、Alexa Fluor Dye 700、Alexa Fluor Dye 750等のAlexa系色素〔いずれもモレキュラープローブス社(Molecular Probes)商品名〕;例えばCy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7等のCyDye系色素〔いずれもアマシャムバイオサイエンス社(Amersham Biosciences)商品名〕;例えばクーマシーブリリアントブルーR250,メチルオレンジ等の色素等、通常この分野で用いられている標識物質が全て挙げられる。中でも、ペルオキシダーゼ,マイクロペルオキシダーゼ,アルカリホスファターゼ,β-ガラクトシダーゼ,グルコースオキシダーゼ,グルコース-6-リン酸脱水素酵素,アセチルコリンエステラーゼ,リンゴ酸脱水素酵素,ルシフェラーゼ等の酵素類が好ましく、ペルオキシダーゼがより好ましい。
【0056】
また、上記した如き標識物質を抗体1又は抗体2に結合させる(標識する)には、例えば自体公知のEIA、RIA、FIA等の免疫測定法等において一般に行われている自体公知の標識方法を適宜利用して行えばよい。
【0057】
例えば、酵素標識法、p.62、石川栄治著、学会出版センター,1991年;医化学実験講座、第8巻、山村雄一監修、第1版、中山書店、1971;図説 蛍光抗体、川生明著、第1版、(株)ソフトサイエンス社、1983年;酵素免疫測定法、石川栄治、河合忠、室井潔編、第2版、医学書院、1982年等;モレキュラー クローニング ア ラボラトリー マニュアル セカンド エディション、J.サムブルック,E.F.フリッシュ,T.マニアティス、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー プレス等に記載の方法)や、アビジン(又はストレプトアビジン)とビオチンの反応を利用した常法等を適宜利用して行えばよい。
【0058】
また、上記した如き標識物質を蛋白質に結合させる(標識する)キットも各種市販されているので、それらを用い、キットに添付の取扱説明書に従って、抗体1又は抗体2の標識を行ってもよい。
【0059】
また、高速液体クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法を実施する場合、抗原抗体複合物と遊離の標識抗体とをより明確に分離するために、例えばDNA、RNA等の核酸等の分離向上物質を結合させてもよい(特許第3070418号、特許第3531372号等)。
【0060】
尚、測定に用いられる標識抗体1又は標識抗体2を含有する溶液中には、通常この分野で安定化剤として使用されているもの、例えば糖類、蛋白質、界面活性剤等が、通常この分野で使用される濃度範囲内で含有されていてもよい。
【0061】
上記の如く抗体1及び/又は抗体2を標識する場合、遊離の標識物質で標識された抗体(標識抗体)と複合体とを分離する必要がある。そのため、例えば複合体2を形成する場合、抗体1と抗体2のいずれかの抗体を標識物質で標識し、標識しない残りの抗体1又は抗体2を不溶性担体に固定化することが好ましい。この場合、抗体1を不溶性担体に固定し、抗体2を標識物質で標識することが好ましい。遊離の標識抗体と複合体の分離は、公知のB/F分離法により分離することができる。
【0062】
抗体1又は抗体2を固定化する不溶性担体としては、通常の免疫学的測定法等で用いられるものであればいずれも使用可能である。具体的には例えばポリスチレン,ポリプロピレン,ポリアクリル酸,ポリメタクリル酸,ポリアクリルアミド,ポリグリシジルメタクリレート,ポリ塩化ビニール,ポリエチレン,ポリクロロカーボネート,シリコーン樹脂,シリコーンラバー等の合成高分子化合物、例えば多孔性ガラス,スリガラス,セラミックス,アルミナ,シリカゲル,活性炭,金属酸化物等の無機物質等が挙げられる。また、これら不溶性担体は、マイクロタイタープレート、ビーズ、チューブ、多数のチューブが一体成形された専用のトレイ、ディスク状片、微粒子(ラテックス粒子)、等多種多様の形態で使用し得る。なかでもマイクロプレートやビーズは、洗浄の容易さおよび多数の検体(試料)を同時処理する際の操作性等の点から好ましい。
【0063】
本発明の抗体1又は抗体2を不溶性担体に固定化させる方法は、通常この分野で利用される方法に準じてなされればよく、特に限定されない。通常この分野で利用される自体公知の固定化方法は全て挙げられ、例えば、化学的結合法(共有結合により固定化する方法)、物理的に吸着させる方法等が挙げられる。
【0064】
その好ましい例としては、例えば、抗体1又は抗体2を通常0.1μg/mL~20mg/mL、好ましくは1μg/mL~5mg/mLの範囲で含む溶液と不溶性担体とを接触させ、適当な温度で所定時間反応させて抗体1又は抗体2が結合した不溶性担体(固相)を得る方法が挙げられる。
【0065】
抗体1又は抗体2の溶液を調製するための溶媒としては、抗体1又は抗体2が不溶性担体上に吸着あるいは結合するのを妨げる性質を有するものでなければよく、例えば精製水、例えばpH 5.0~10.0、好ましくはpH 6.5~8.5の中性付近に緩衝作用を有する緩衝液(例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液、等)が好ましい。また、これらの緩衝液中の緩衝剤濃度としては、通常10~500 mM、好ましくは10~300 mMの範囲から適宜選択される。また、この溶液中には、抗体1又は抗体2が不溶性担体上に吸着あるいは結合するのを妨げない量であれば、例えば糖類、NaCl等の塩類、界面活性剤、防腐剤、蛋白質等が含まれていてもよい。
【0066】
尚、通常この分野で行われているブロッキング処理、すなわち、上述のごとくして得られた抗体1又は抗体2が結合した不溶性担体を、さらにヒトハプトグロビンとは無関係の蛋白質、例えばヒト血清アルブミン、牛血清アルブミン、スキムミルク等の乳蛋白質、卵白アルブミン、市販のブロッキング剤(例えばブロックエース(DSファーマバイオメディカル(株)製)等を含有する溶液中に浸漬する処理を行うことは、測定時の非特異的反応を防ぐ点から望ましい。
【0067】
また、この分野で用いられているアビジン-ビオチン反応のような非常に強固な結合反応を利用して抗体1又は抗体2を不溶性担体に固定化することも可能である。
【0068】
更に、上述の如く、抗体1又は抗体2を固定化した不溶性担体は、自体公知の免疫比濁法や免疫比ろう法にも用いることができる。
【0069】
標識抗体1又は標識抗体2を用いた反応の結果生成する複合体中の標識量を測定する方法としては、標識物質の種類により異なるが、標識物質が有している何らかの方法により検出し得る性質に応じて、それぞれ所定の方法に従い実施すればよい。例えば、標識物質が酵素の場合には、免疫測定法の常法、例えば「酵素免疫測定法」(蛋白質 核酸 酵素 別冊 No.31、北川常廣・南原利夫・辻章夫・石川榮治編集、51~63,共立出版(株)、1987)等に記載された方法に準じて測定を行えばよい。標識物質が放射性物質の場合には、例えばRIAで行われている常法に従い、該放射性物質の出す放射線の種類および強さに応じて液浸型GMカウンター、液体シンチレーションカウンター、井戸型シンチレーションカウンター、HPLC用カウンター等の測定機器を適宜選択して使用し、測定を行えばよい(例えば医化学実験講座、第8巻、山村雄一監修、第1版、中山書店、1971等参照)。標識物質が蛍光性物質の場合には、例えば蛍光光度計等の測定機器を用いるFIAで行われている常法、例えば「図説 蛍光抗体、川生明著、第1版、(株)ソフトサイエンス社、1983」等に記載された方法に準じて測定を行えばよい。標識物質が発光性物質の場合には、フォトカウンター等の測定機器を用いる常法、例えば「酵素免疫測定法」(蛋白質 核酸 酵素 別冊 No.31、北川常廣・南原利夫・辻章夫・石川榮治編集、252~263、共立出版(株)、1987)等に記載された方法に準じて測定を行えばよい。標識物質が紫外部に吸収を有する物質の場合には、分光光度計等の測定機器を用いる常法によって測定を行えばよい。標識物質がスピンの性質を有する場合には、電子スピン共鳴装置を用いる常法、例えば「酵素免疫測定法」(蛋白質 核酸 酵素 別冊 No.31、北川常廣・南原利夫・辻章夫・石川榮治編集、264~271、共立出版(株)、1987)等に記載された方法に準じてそれぞれ測定を行えばよい。
【0070】
更に、標識物質が酵素である場合は、これを発色試薬と反応させて発色反応に導き、その結果生成する色素量を分光光度計等により測定する方法等の自体公知の方法が挙げられる。尚、発色反応を停止させるために、例えば反応液に1~6Nの硫酸等の酵素活性阻害剤や、キットに添付の反応停止剤を添加する等、通常この分野で行われている反応停止方法を利用してもよい。
【0071】
上記発色試薬としては、例えばテトラメチルベンジジン(TMB)、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMBZ)、o-フェニレンジアミン、o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシド、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、N-エチル-N-スルホプロピル-m-アニシジン(ADPS)、p-ニトロフェニルリン酸等、通常この分野で用いられる発色試薬が挙げられる。また、これらの使用濃度は、通常この分野で用いられる濃度範囲から適宜設定すればよい。
また、発色反応を停止させるには、例えば反応液に1~6Nの塩酸等の酵素活性阻害剤を添加する等、通常この分野で行われている反応停止方法を利用すればよい。
【0072】
また、標識されていない抗体のみを用いてヒトハプトグロビンを測定する方法としては、例えば得られた複合体に由来する性質を利用して測定する方法、具体的には、複合体自体が有するプロテアーゼ活性等の酵素活性や蛍光偏向度を吸光度として測定する方法、或いは、表面プラズモン共鳴などのホモジニアスイムノアッセイ系等の方法が挙げられる。
【0073】
上記本発明に係るヒトハプトグロビン量の測定方法に用いられる抗体1及び抗体2の濃度は、測定方法に応じて、通常この分野で使用される範囲で適宜設定されればよい。
【0074】
本発明に係るヒトハプトグロビン量の測定方法に用いられる、試薬及びその測定時の濃度、測定を実施するに際しての測定条件等(反応温度、反応時間、反応時のpH,測定波長、測定装置等)は、すべて自体公知の上記した如き免疫学的測定法の測定操作法に準じて選択すればよい。使用する自動分析装置、分光光度系等も通常この分野で使用されているものは、いずれも例外なく使用し得る。
【0075】
本発明に係るヒトハプトグロビン量の測定方法に用いられる抗体1及び抗体2の溶液に用いられる溶媒としては、緩衝液が好ましい。該緩衝液としては、通常この分野で使用されるものであれば特に限定されないが、通常pH 5.0~10.0、好ましくはpH 6.5~8.5の中性付近に緩衝作用を有するものが挙げられる。具体的には、例えばトリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液等の、通常抗原抗体反応を利用した測定法に用いられている緩衝液は全て挙げられる。これらの緩衝液の緩衝剤濃度としては、通常10~1000 mM、好ましくは10~300 mMの範囲から適宜選択される。また、そのpHとしては抗原抗体反応を抑制しない範囲であれば特に限定されないが、通常5~9の範囲が好ましい。
【0076】
本発明に係るヒトハプトグロビンの測定方法の具体例として、標識物としてペルオキシダーゼ(POD)を用い、不溶性担体に固定化した本発明の抗体1と、PODで標識した抗体2を用いて試料中のヒトハプトグロビン濃度を測定する場合の方法を以下に記載する。
【0077】
すなわち、ヒトハプトグロビンを含有する被検者由来試料を、本発明の抗体1を固定化した不溶性担体(本発明の抗体1を0.1ng~0.1mg含有)と接触させ、4~40℃で3分~20時間反応させて不溶性担体上に、本発明の抗体1とヒトハプトグロビンの複合体を生成させる。次に、PODで標識した抗体2を含有する溶液10~100μL(抗体2を0.01ng~0.1mg含有)と4~40℃で3分~20時間反応させて、抗体1-ヒトハプトグロビン-標識抗体2の複合体を不溶性担体上に生成させる。続いて、TMBZ溶液等の発色液を添加した後、一定時間反応させ、1N HCl等の反応停止液を加えて反応を停止させ、波長450nmの吸光度を測定する。
一方、濃度既知のヒトハプトグロビンについて上記と同じ試薬を用い同様の操作を行って測定値と濃度の検量線を作成する。上記測定で得られた測定値を、当該検量線にあてはめることにより、本発明に係るヒトハプトグロビンの量を求める。
【0078】
また本発明の抗体1として本発明者らが樹立した10-7G2A抗体を用い、抗体2としてWO2017/204295に開示された3-1抗体を用いて試料中のヒトハプトグロビン濃度を測定する方法としては、例えば被検者由来試料と、10-7G2A抗体と3-1抗体とを接触させ、ヒトハプトグロビンと10-7G2A抗体と3-1抗体との複合体(複合体2)を形成させ、当該複合体2を測定する方法が挙げられる。そのより具体的な方法は、例えば以下のとおりである。
【0079】
すなわち、試料中のヒトハプトグロビンを、10-7G2A抗体を固定化した不溶性担体(10-7G2A抗体を0.1ng~0.1mg含有)と接触させ、4~40℃で3分~20時間反応させて不溶性担体上に、10-7G2A抗体とヒトハプトグロビンの複合体を生成させる。次に、PODで標識した3-1抗体を含有する溶液10~100μL(3-1抗体を0.01ng~0.1mg含有)と4~40℃で3分~20時間反応させて、10-7G2A抗体-ヒトハプトグロビン―POD標識3-1抗体の複合体(複合体2)を不溶性担体上に生成させる。続いて、TMBZ溶液等の発色液を添加した後、一定時間反応させ、1N HCl等の反応停止液を加えて反応を停止させ、波長450nmの吸光度を測定する。
一方、濃度既知のヒトハプトグロビンについて上記と同じ試薬を用い同様の操作を行って測定値と濃度の検量線を作成する。上記測定で得られた測定値を、当該検量線にあてはめることにより、本発明に係るヒトハプトグロビンの量を求める。
【0080】
尚、ヒトハプトグロビンの量は、ヒトハプトグロビンの実際の量(ヒトハプトグロビンのタンパク質量)でなくてもよい。濃度が判っている精製ヒトハプトグロビンを用いて測定を行った測定実測値(蛍光強度、吸光度等のシグナル値等)を基準の値とし、その値に対する被検者由来試料を用いて同様の測定を行ったヒトハプトグロビンの測定実測値の相対値(relative unit)であってもよい。
【0081】
本発明に係るヒトハプトグロビンの測定方法は、用手法に限らず、自動分析装置を用いた測定系で行ってもよい。尚、用手法又は自動分析装置を用いて測定を行う場合の試薬類等の組み合わせ等については、特に制約はなく、適用する自動分析装置の環境、機種に合わせて、或いは、他の要因を考慮にいれて最も良いと思われる試薬類等の組み合わせを適宜選択して用いればよい。
【0082】
3)炎症性腸疾患の判定方法
本発明の炎症性腸疾患の判定方法は、被検者由来試料中のヒトハプトグロビン量を、上記した「2)ヒトハプトグロビンの測定方法]に記載された測定方法により測定し、その測定結果に基づいて判定する方法である。
【0083】
すなわち、本発明の抗体1を用い、上記した「2)ヒトハプトグロビンの測定方法」の項に記載の方法により被検者由来試料中のヒトハプトグロビンの量を測定し、その結果を基に、炎症性腸疾患を判定するための、ヒトハプトグロビンに関するデータ(例えばヒトハプトグロビンの存在の有無、濃度、量の増加の程度等の情報)を得る。得られたデータを用いて、例えば下記の方法で、炎症性腸疾患の判定(診断・検査)を行う。
【0084】
例えば予め基準値(カットオフ値)を設定しておき、本発明に係るヒトハプトグロビンの測定結果(測定値)がその基準値以上の場合には、試料を提供した被検者は炎症性腸疾患(例えば潰瘍性大腸炎やクローン病)に罹患している可能性がある、又はその可能性が高い等の判定が可能である。ヒトハプトグロビンの測定結果(測定値)が基準値未満の場合には、該被検者は炎症性腸疾患に罹患していない可能性がある(炎症性腸疾患陰性)又は罹患している可能性が低い、等の判定が可能である。
【0085】
上記基準値は、炎症性腸疾患患者と非炎症性腸疾患(非潰瘍性大腸炎や非クローン病)患者由来試料を用いて上記測定方法により試料中のヒトハプトグロビン量を測定し、その値の境界値等を元に設定されればよい。非炎症性腸疾患者のヒトハプトグロビン量の平均値を基準値と設定してもよい。
【0086】
また、当該検体中のヒトハプトグロビンの量又はその量的範囲(測定値又は測定値の範囲)に対応させて複数の判定区分を設定して判定する方法が挙げられる。例えば、[(1)炎症性腸疾患のおそれはない、(2)炎症性腸疾患のおそれは低い、(3)炎症性腸疾患の兆候がある、(4)炎症性腸疾患のおそれが高い等]の判定区分を設定する。そして、被検者由来試料のヒトハプトグロビン量の測定結果がどの判定区分に入るかを判定することにより炎症性腸疾患の判定を行うことが可能である。
【0087】
また、同一被検者において、ある時点で測定された被検者由来試料中のヒトハプトグロビンの測定結果と、異なる時点で測定された被検者由来試料中のヒトハプトグロビンの測定結果とを比較し、測定結果(測定値)の増減及び/又は増減の程度を評価することによっても判定が可能である。例えば、測定結果(測定値)の増加が認められた場合には、試料を提供した被検者が炎症性腸疾患へ病態が進行した可能性がある等の判定が可能である。
ヒトハプトグロビンの測定値の変動が認められないという場合には、該被験者の炎症性腸疾患の病態に変化はないとの判定が可能である。
測定結果(測定値)の減少が認められた場合には、該被験者の炎症性腸疾患の病態が改善されたとの判定が可能である。
【0088】
本発明の炎症性腸疾患の判定方法により被検者である患者が炎症性腸疾患に罹患している可能性がある、又はその可能性が高いと判定された場合には、更に大腸内視鏡検査や消化管造影検査、病理組織検査等の、侵襲的検査をおこなうことを選択できる。
一方、本発明の炎症性腸疾患の判定方法により被検者である患者が炎症性腸疾患に罹患していない可能性がある又はその可能性が低いと判定された場合には、上記侵襲的検査は行わずに、必要に応じて経過観察を行うという治療方針を選択することができる。
【0089】
<5.炎症性腸疾患の判定を補助する方法>
本発明に係る炎症性腸疾患の判定を補助する方法(以下、本発明に係る補助方法と略記する場合がある。)は、
(1)本発明の抗体1を用いて試料中のヒトハプトグロビン量を測定する工程、及び
(2)上記(1)の測定結果に基づいて炎症性腸疾患の判定を補助する工程
を含む。
本発明に係る補助方法は、医師等による炎症性腸疾患の診断を補助する方法として用いることができる。
尚、本発明のデータを得る方法における試料、ヒトハプトグロビン量を測定する工程、及び炎症性腸疾患の判定を補助する工程については、<4.炎症性腸疾患の判定方法>の項で説明した試料、ヒトハプトグロビンの測定方法、及び炎症性腸疾患の判定方法に準じてなされればよく、その好ましい例、具体例等も同じである。
【0090】
<6.炎症性腸疾患の判定を行うための装置>
本発明に係る炎症性腸疾患の判定を行うための装置(以下、本発明に係る判定装置と略記することがある。)は、少なくとも(1)測定部及び(2)処理部を備えている。更に、(3)判定部、(4)出力部及び(5)入力部を備えていてもよい。
【0091】
本発明に係る判定装置における(1)測定部は、本発明の抗体1を用いて試料中のヒトハプトグロビンを測定するように構成されている。具体的には、上記測定方法において免疫学的測定法に用いられる装置等の測定装置が挙げられる。
本発明に係る判定装置における(2)処理部は、(1)測定部にて測定された、ヒトハプトグロビン量を算出するよう構成されている。
本発明に係る判定装置における(3)判定部は、(2)処理部にて得られる算出結果に基づいて炎症性腸疾患を判定するよう構成されている。
本発明に係る判定装置における(4)出力部は、(2)処理部にて得られる算出結果又は/及び(3)判定部にて得られる判定結果を出力するよう構成されている。
本発明に係る判定装置における(5)入力部は、操作する者の操作を受けて、(1)測定部又は/及び(2)処理部へ当該(1)測定部又は/及び(2)処理部を作動させるための信号を送るよう構成されている。
尚、上記本発明に係る判定装置の(1)測定部、(2)処理部及び(3)判定部を用いた測定、算出及び判定については、<4.炎症性腸疾患の判定方法>の項で説明した方法に準じてなされればよく、好ましい例、具体例等もそれに準じてなされる。
【0092】
上記本発明に係る判定装置によれば、本発明の判定方法又は/及び本発明のデータを得る方法を簡便、短時間且つ精度よく行うことができる。
【0093】
<7.炎症性腸疾患判定用試薬>
本発明に係る炎症性腸疾患判定用試薬(以下、本発明に係る試薬と略記する場合がある。)とは、本発明の抗体1を構成要件として含むものである。本発明に係る該試薬は、更に本発明に係る抗体2を含んでいてもよい。
本発明に係る該試薬に含まれる本発明の抗体1については、<3.本発明の抗体(抗体1)>の項で説明した通りであり、好ましい例、具体例等も同じである。抗体2については、「4.炎症性腸疾患の判定方法」の項の抗体2に関する説明で述べたものと同じであり、好ましい例、具体例等も同じである。
【0094】
上記本発明に係る試薬中の抗体1及び抗体2の濃度は、測定方法に応じて、通常この分野で使用される範囲で適宜設定されればよい。また、該試薬中には、通常この分野で用いられる試薬類、例えば緩衝剤、反応促進剤、糖類、タンパク質、塩類、界面活性剤等の安定化剤、防腐剤等を含んでいてもよい。これらは、共存する試薬の安定性を阻害せず、本発明に係る抗体1の反応を阻害しないものである。また、これらの濃度は、通常この分野で通常用いられる濃度範囲から適宜選択すればよい。
【0095】
<8.本発明の炎症性腸疾患を判定するためのキット>
本発明のキットは、
「ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗ヒトハプトグロビン抗体(本発明の抗体1)を含んでなる、炎症性腸疾患を判定するためにヒトハプトグロビン量を測定するためのキット。」である。
【0096】
該キットは、更に本発明に係る抗体2を含んでいてもよい。
【0097】
すなわち、本発明のキットの具体例としては、
(1)本発明の抗体1(ヒトハプトグロビンのα鎖の配列番号1で表されるアミノ酸配列の領域に特異的に結合する抗ヒトハプトグロビン抗体)を含む試薬、を含む炎症性腸疾患を判定するためのキット(本発明のキット1)、又は
(2)本発明の抗体1を含む試薬と、抗体2(抗体1とは認識するエピトープが異なる、ヒトハプトグロビンを認識する抗体)を含む試薬、を含む炎症性腸疾患を判定するためのキット(本発明のキット2)、
が挙げられる。
【0098】
上記本発明のキット1及びキット2に含まれる本発明の抗体1は、上記の<3.本発明の抗体(抗体1)>の項で述べたものと同じであり、好ましいものも同じである。
上記本発明のキット2に含まれる抗体2は、上記の<4.炎症性腸疾患の判定方法>の項の抗体2に関する説明で述べたものと同じであり、好ましい例、具体例等も同じである。
抗体1又は抗体2は不溶性担体に担持されていてもよい。また、標識物質で標識されていてもよい。
【0099】
本発明のキットのそれぞれの構成要素の好ましい態様、具体例及び濃度等については、上記の<4.炎症性腸疾患の判定方法>の項で述べた通りである。
【0100】
上記本発明のキット1及びキット2における試薬中の抗体1及び抗体2の濃度は、測定方法に応じて、通常この分野で使用される範囲で適宜設定されればよい。また、これら試薬中には、通常この分野で用いられる試薬類、例えば緩衝剤、反応促進剤、糖類、タンパク質、塩類、界面活性剤等の安定化剤、防腐剤等を含んでいてもよい。これらは、共存する試薬の安定性を阻害せず、本発明に係る抗体1及び抗体2の反応を阻害しないものである。また、これらの濃度は、通常この分野で通常用いられる濃度範囲から適宜選択すればよい。
【0101】
更に本発明のキット1及び2は、本発明の抗体1や抗体2の他に、該抗体を用いたヒトハプトグロビン量の免疫測定等の測定に必要な試薬を必要量備えていてもよい。
【0102】
本発明のキット1及びキット2は、当該ヒトハプトグロビンを測定する際に用いられる検量線作成用のヒトハプトグロビンの標準品が組み合わされていてもよい。該標準品は、市販の標準品を用いても、公知の方法に従って、製造されたものを用いてもよい。
【0103】
更にまた本発明のキットには、本発明の炎症性腸疾患の判定方法での使用のための説明書等を含ませておいても良い。当該「説明書」とは、当該方法における特徴・原理・操作手順、判定手順等が文章又は図表等により実質的に記載されている当該キットの取扱説明書、添付文書、あるいはパンフレット(リーフレット)等を意味する。
【0104】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0105】
実施例1.α鎖に反応性を有する抗ヒトハプトグロビンモノクローナル抗体(10-7G2A抗体)の取得
(1)ヒトハプトグロビンの作製
Oncotarget, 9(16), 12732-44., 2018 に記載の方法によりヒト大腸癌細胞株HCT116 (ATCC)にヒトハプトグロビン遺伝子を導入して得られたヒトハプトグロビンを安定過剰発現する樹立株を、10 % fetal bovine serum (FBS; HyClone, Logan, UT), 100 U/mL penicillin,及び100 μg/mL streptomycinを添加したRPMI with L-glutamine and NaHCO3(nacalai tesque社製)で37 ℃、5 % CO2条件下に培養した。培養用プレートはIWAKI 培養用プレート10 cmおよび15 cm (IWAKI, Tokyo, Japan) を用いた。
培養後、FBSを含有しないRPMIに1mMのL-フコースを添加したものを用いて細胞を96時間培養した後、培養上清を回収した。
得られた培養上清をPERISTA bio-mini-pump(ATTO, Japan, Tokyo)を用いてヒトハプトグロビン抗体カラムにアプライした(0.5 mL/min、4 ℃、一晩)。尚、ヒトハプトグロビン抗体カラムは、抗ヒトハプトグロビンポリクロナール抗体 (Dako社製) 7.5 mgをHi-Trap-NHS-activated HP (GEヘルスケア社製) にカップリングさせて作製した。
次いで、Column Washing Buffer (50 mM Na2HPO4, 50 mM NaH2PO4, 0.5 M NaCl, pH 7.4)を1.0 mL/minで15分、抗体カラムにアプライし、抗体カラムを洗浄した。更に、Elution buffer ( 0.1 M Glycine, pH 2.7)を0.5 mL/minで20分、抗体カラムにアプライし、ヒトハプトグロビンを抗体カラムから溶出させた。
得られた溶出液にNeutralization buffer (2M Tris-HCl, pH8.0)を1.0 mL加えて、溶出液を中和した。次いで溶出液をAmicon Column(Millipore, Massachusetts, U.S.A)を用いて約200倍に濃縮し、さらに脱塩を行い、ヒトハプトグロビンを精製した。
以上のカラム処理はすべて4 ℃で行った。
【0106】
(2)抗ヒトハプトグロビンモノクローナル抗体の作製
上記で作製したヒトハプトグロビン 200 μgをフロイント完全アジュバンドとともにBALB/cマウスに免疫した。次いで、2週間間隔でヒトハプトグロビン50 μg を2回免疫し、最後にヒトハプトグロビン100 μgを免疫した。その後、脾臓を摘出し、脾臓細胞とミエローマ細胞(SP2/0)とをポリエチレングリコールを用いる常法(特開平5-244983に記載)により融合させ、これをGIT培地(富士フイルム和光純薬(株)製)で培養した。
【0107】
(3)抗ヒトハプトグロビンモノクローナル抗体の一次スクリーニング
抗マウスIgG抗体(ウサギ)(シグマアルドリッチ社製)をマイクロプレート1ウェルあたり0.25 μgを固定化した。その後、牛血清アルブミン(BSA)やカゼイン等で、ブロッキング処理した。
上記(2)で得られた細胞培養液の上清、あるいは培養液(対照)50 μLをウェルに加えて60分間静置した。その後、PBSに0.1 % Tween20を添加した洗浄液(PBS-T)でウェルを3回洗浄した。
次いで、上記(1)で得られたヒトハプトグロビンを250 ng/mL となるようにPBSに溶解し、その50 μLをウェルに加え、60分間静置した。その後、PBS-Tでウェルを3回洗浄した。
次いで、POD標識抗ヒトハプトグロビンポリクロナール抗体[ポリクローナル抗体はDAKO社より購入し、常法(石川栄治著、「酵素標識法」、学会出版センター,1991年、p.62の方法)によりPODで標識した]を加えて、30分間静置した。その後、PBS-Tでウェルを3回洗浄した。
更に、基質溶液(o-フェニレンジアミン(OPD)(富士フイルム和光純薬(株)製))50μLを加えて、30分間発色させ、1M 硫酸溶液100μLを添加し、反応停止させた。その後、吸光度計を用いて得られた溶液の、492nmでの吸光度を測定した。この結果より、発光した抗ヒトハプトグロビンモノクローナル抗体を、一次候補として選別した。
【0108】
(4)抗ヒトハプトグロビンモノクローナル抗体の二次スクリーニング
上記(3)で得られた数種類の抗ヒトハプトグロビンモノクローナル抗体を用いて、下記ウエスタンブロッティングを行い、その中からヒトハプトグロビンα鎖に反応性を有する抗体を選別した。
即ち、まず、50 mMリン酸緩衝液を用い、ヒトハプトグロビン1-1型精製品(Haptoglobin,Phenotype 1-1、Hpt1-1型、シグマアルドリッチ社製)及びヒトハプトグロビン2-2型精製品(Haptoglobin,Phenotype 2-2、Hpt2-2型、シグマアルドリッチ社製)をそれぞれ100μg/mLとなるように調製し、試料用緩衝液1( 0.25 M Tris-HCl pH 6.8, 8 % SDS, 40% グリセロール, 0.02 % BPB, 20 % 2-メルカプトエタノールと3:1で混合し、95℃, 5分処理したものを試料とした。
次いで、当該試料4 μLを12.5 %ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行った。得られた泳動ゲルを、Bio-Rad社のブロッティングシステムを用いて、セミドライでPVDF膜にプロトコールに従いブロッティングした。転写後のPVDF膜は、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル株式会社製)4 %を含むリン酸緩衝液によりブロッキングした。
POD標識した一次候補の抗ヒトハプトグロビンモノクローナル抗体を、ブロックエース4 %を含むリン酸緩衝液で200倍希釈した液に該膜を浸漬し室温で1時間反応させた。反応後の当該膜を0.05 % Tween20を含むリン酸緩衝液で3回洗浄した。洗浄後、当該膜をβ-NADH(オリエンタル酵母工業(株)製)20mg、Nitro-TB(同仁化学製)3mg及び0.2%過酸化水素水50 μLを溶解したリン酸緩衝液(50 mM PB、pH 7.5)10 mLに10~30 分浸漬して青色に発色させた。発色後、精製水で該膜を洗浄して反応を停止させた。
【0109】
この結果より、ヒトハプトグロビン1-1型のα1鎖(10KDa近辺のバンド)及びヒトハプトグロビン2-2型のα2鎖(18KDa近辺のバンド)の両方と反応性を有する抗体を選定した。即ち、α鎖に結合能を有する抗体を取得した。該抗体を「10-7G2A抗体」と命名した。
10-7G2A抗体を用いた時の泳動結果を
図2に示す。
図2中、レーン1は試料としてHpt1-1型を用いた結果を、レーン2は試料としてHpt2-2型を用いた結果をそれぞれ示す。
【0110】
実施例2.α鎖に反応性を有する抗ヒトハプトグロビンモノクローナル抗体(10-7G2A抗体)の抗原結合部位の確認
(1)ヒトハプトグロビンα鎖断片の調製
1)cDNAの作成及びPCRクローニング
ヒトハプトグロビン(Hpt2)のcDNAを、ヒト肝癌細胞株 HepG2(ATCC)の全RNAからRT-PCRによる常法でクローニングした。
クローニングしたcDNAをpGEM-T Easy ベクター(Promega, Wisconsin, USA)にサブクローニングした。得られた組換えベクターを用いて大腸菌を形質転換し、この大腸菌を液体培地で増殖させてから菌体を遠心により回収し、プラスミド精製キットを用いて、プラスミドを回収した。
精製したプラスミドの一部を制限酵素EcoRVおよびXhoIで消化し、切断した。得られたDNA断片をゲルから切り出し精製し、pcDNA3.1-Hyg(+)(Invitrogen, CA, USA)のEcoRV-XhoI部位にライゲーションして、組換えプラスミドを得た。
【0111】
2)ヒトハプトグロビンα鎖断片をコードするcDNA断片の調製
上記1)で得られた組換えプラスミドを鋳型として用いて、以下の方法でα鎖断片をコードするcDNA断片を作製した。
【0112】
まず、下記表1記載のHpt-α-F1とHpt-α-R1のプライマー対を用いてPCRを行い、ヒトハプトグロビンα2鎖フラグメントの全長のアミノ酸配列をコードするcDNAを増幅した。
また、下記表1の組合せ3~7に記載のプライマー対を用いてPCRを行い、ヒトハプトグロビンα2鎖フラグメントの断片のアミノ酸配列をコードする各種cDNAを増幅した。
上記PCRでは、最初の変性を95℃、3分行った後、[98℃、10秒→57℃、15秒→68℃、35秒]の反応を40サイクル行い、最後に68℃、7分間反応させた。
上記PCRに使用したプライマー対、及び該プライマー対で増幅されるcDNAの塩基配列がコードするヒトハプトグロビンのα鎖フラグメント断片のアミノ酸配列を、下記表1にまとめて示す。
【0113】
【0114】
3)ハプトグロビンα鎖断片ペプチドの発現
上記で得られたハプトグロビンα鎖のアミノ酸配列断片をコードする各cDNA断片はpGEM-Teasy ベクターにそれぞれサブクローニングした。サブクローニングした個々のベクターを用いて大腸菌を形質転換し、液体培地を用いて形質転換した大腸菌を増殖後、プラスミド精製キットを用いてそれぞれのベクターを精製した。精製ベクターの一部を用いて制限酵素NheIおよびEcoRIで消化し、電気泳動後、電気泳動ゲルから切断片を精製し、pCIneo発現ベクター(Promega社)のNheI-EcoRI部位にライゲーションしてそれぞれの組換えプラスミドを得た。
得られた組換えプラスミドを用いて、常法によりHEK293T細胞にトランスフェクションし、トランスフェクションしたHEK293T細胞をOPTI-MEM培地で2日間培養し、目的のヒトハプトグロビンα鎖断片を一過性発現させ、該断片を含む上清を回収した。
【0115】
別に、HEK293T細胞へ、Hpt2遺伝子全長とPCR cloningによって得たC1rlp遺伝子をco-transfectionによって導入し、得られた形質導入細胞を培養し、全長のヒトハプトグロビンとC1RLPを共発現することによってヒトハプトグロビンα2鎖フラグメントを得た。
尚、C1RLPは、全長のハプトグロビンをα1鎖とβ鎖あるいはα2鎖とβ鎖に切断する酵素である。
【0116】
(2)10-7G2A抗体エピトープの一次スクリーニング
上記で得られた、トランスフェクションしたHEK293T細胞の、各ヒトハプトグロビンα鎖断片を含む培養上清を試料として用いてSDS-PAGEを行った後、PVDF膜に転写した。PVDF膜をブロッキング処理後、10-7G2A抗体を室温で一時間反応させた。PVDF膜をPBS-Tで3回洗浄後、HRP(Horseradish peroxidase)標識anti-mouse IgG(2次抗体)と室温で一時間反応させ、再度PVDF膜をPBS-Tで3回洗浄後、ImmunoStarTM Zeta(富士フイルム和光純薬(株)製)を用いて発光させ、FUSION Chemiluminescence imaging system (Vilber-Lourmat, Marne la Vallee, France)を用いて画像化した。
【0117】
【0118】
図3において、各レーンはそれぞれ細胞のLysateを10-7G2A又は抗βアクチン抗体でWestern Blotした結果を示す。
レーン1:トランスフェクションしていないHEK293T細胞の培養上清
レーン2:全長のヒトハプトグロビンとC1RLPを共発現することによって得られたヒトハプトグロビンα2鎖フラグメント
レーン3:α2鎖フラグメントの全長
レーン4:配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
レーン5:配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
レーン6:配列番号15で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
レーン7:配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
レーン8:配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるペプチド
【0119】
レーン3の「α2鎖フラグメントの全長」は、配列番号3で表されるアミノ酸配列のうち、N末端から18番目アミノ酸までのシグナルペプチドと、C末端のアミノ酸が切断された、19番目のVから160番目のQまでの142アミノ酸のアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0120】
また、
図3の結果より、βアクチンのWestern blotにより、各タンパクがほぼ同量の濃度であることがわかった。
【0121】
図3の結果をもとに、配列番号13~17に共通するアミノ酸配列であって、配列番号18で表されるアミノ酸配列(DDGCPKPPEIAHGYVEHSVRYQCKNYYKLRTEGDGVYTLNNE)の領域は、10-7G2A抗体のエピトープを含む領域であると推定し、選択した。
【0122】
(3)10-7G2A抗体エピトープの二次スクリーニング
1)ヒトハプトグロビンα鎖断片ペプチドライブラリーの作製
ヒトハプトグロビンのα鎖の、上記で選択した領域のアミノ酸配列のペプチドライブラリーを設計した。すなわち、配列番号3で表されるアミノ酸配列(α2鎖のアミノ酸配列)上の配列番号18で表されるアミノ酸配列の位置をもとに、
図4に記載のPep#1~Pep#6のペプチドを設計し、合成した。
各ペプチドのアミノ酸配列と、本明細書における配列番号との関係を下記表2に示す。
【0123】
【0124】
ペプチド合成は、Rink Amide樹脂(50-80μmolスケール、WATANABE CHEMICAL INDUSTRIES, LTD.製)を用い、ペプチド合成機 Prelude(Protein Technologies、Inc.製)、又はPentelute等によって開発された高速流動ペプチド合成機を用い、Fmocペプチド固相合成法(SPPS)により、行った。
【0125】
ペプチド合成機 Preludeを用いる場合は、以下の方法でペプチド合成を行った(I. Sakamoto, K. Tezuka, K. Fukae, K. Ishii, K. Taduru, M. Maeda, M. Ouchi, K. Yoshida, Y. Nambu, J. Igarashi, N. Hayashi, T. Tsuji, Y. Kajihara, Chemical synthesis of homogeneous human glycosyl-interferon-beta that exhibits potent antitumor activity in vivo, Journal of the American Chemical Society 134(12) (2012) 5428-31.)。
すなわち、ジメチルホルムアミド(DMF)中で、Fmoc-AA-OH(4.6当量)を、HCTU(4.0当量)およびN-メチルモルホリン(16当量)を用いて15分間反応させて、樹脂にカップリングさせた。このカップリング工程は2回行った。樹脂をDMFで洗浄した後、20%ピペリジンを含むDMF(5 mL)で5分間反応させ、Fmoc基を脱保護した。以上のカップリング反応は、ペプチド伸長の完了まで繰り返した。
【0126】
一方、高速流動ペプチド合成機を用いる場合は、Fmoc-AA-OH(1.0 mmol)を0.38M HBTU (DMFを2.5 mL、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)を0.5 mL含有する溶液)と反応させて、樹脂にカップリングさせた。エピマー化を抑制するためにFmoc-CysとFmoc-Hisを結合させる場合には、DIEAの量を0.19 mLに変えたFmoc-AA-OH 含有溶液を用いた。Fmoc基の脱保護は該合成機のフローシステムを用いて行った。
3分のサイクル(カップリング、洗浄、脱保護、および洗浄)を、ペプチド伸長が完了するまで70℃で、用手法で繰り返した(M.D. Simon, P.L. Heider, A. Adamo, A.A. Vinogradov, S.K. Mong, X. Li, T. Berger, R.L. Policarpo, C. Zhang, Y. Zou, X. Liao, A.M. Spokoyny, K.F. Jensen, B.L. Pentelute, Rapid flow-based peptide synthesis, Chembiochem : a European journal of chemical biology 15(5) (2014) 713-20.)。
【0127】
ペプチド合成機又は高速流動ペプチド合成機を用いた合成で全てのアミノ酸をカップリングした後、ペプチジル樹脂を82.5% TFA、5% フェノール、5% 水、5% チオアニソール、2.5% 1,2-エタンジチオールを含有する溶液 10 mL、または95% トリフルオロ酢酸(TFA)、2.5% 水、2.5%トリイソプロピルシランを含有する溶液 10mLで処理し、全ての側鎖保護基を除去し、アミノ酸を樹脂から開裂させ、粗ペプチドを含有する混合物を得た。得られた混合物に氷冷エーテルを添加して沈殿物を得、沈殿物を0.1% TFAを含有する10%アセトニトリルに溶解した。得られた粗ペプチドを含有する混合物を凍結乾燥した。
【0128】
2)10-7G2A抗体のエピトープの二次スクリーニング
上記(3)1)で得られたPep#1~Pep#6の粗ペプチドを含有する混合物を、96穴プレート(PierceTM、Amine-binding, Maleic Anhydride 96-well Plates, Thermo SCIENTIFIC製)へ、製造元の説明書に従って固定化した。次いで、POD標識10-7G2A抗体と反応させて、各合成ペプチドに対する10-7G2A抗体の結合特性を検証した。
その結果、10-7G2A抗体はPep#2及びPep#3と結合することが確認された。
【0129】
以上の検証結果に基づき、Pep#2及びPep#3のアミノ酸配列をもとに、Pep#7~Pep#19を設計した。次いで、上記(3)1)の方法で、表2に記載のPep#7~Pep#19アミノ酸配列を有するペプチドを合成した。
得られた各合成ペプチドを、それぞれ96穴プレート(PierceTM、Amine-binding, Maleic Anhydride 96-well Plates, Thermo SCIENTIFIC製)へ、製造元の説明書に従って固定化した。次いで、POD標識10-7G2A抗体と反応させて、各合成ペプチドに対する10-7G2A抗体の結合特性を検証した。
その結果、10-7G2A抗体は特にPep#18と結合することが確認された。
【0130】
以上の検証結果に基づき、Pep#18のアミノ酸配列をもとに、アラニンスキャニング変異導入法による10-7G2A抗体のエピトープ解析を行うために、Pep#22~Pep#29のアミノ酸配列を設計した。次いで、上記(3)1)の方法で、表2に記載のPep#22~Pep#29アミノ酸配列を有するペプチドを合成した。
得られた各合成ペプチドを、それぞれ96穴プレート(PierceTM、Amine-binding, Maleic Anhydride 96-well Plates, Thermo SCIENTIFIC製)へ、製造元の説明書に従って固定化した。次いで、POD標識10-7G2A抗体と反応させて、各合成ペプチドに対する10-7G2A抗体の結合特性を検証した。
【0131】
検証の結果、10-7G2A抗体は、Pep#22、Pep#23、及びPep#26と反応性を示した。このことから、Pep#22とPep#23に共通する配列であるQCKNYY(配列番号1)を、10-7G2A抗体のエピトープ候補として特定した。
【0132】
3)10-7G2A抗体の阻害実験
(i)試料
大腸癌細胞株HCT116にヒトハプトグロビン遺伝子を導入して安定過剰発現する樹立株を、L-フコース添加培養液で培養して得た培養上清、又は膵癌患者の血清を1/100に希釈して試料として用いた。2% BSAを含むMOPS緩衝液をコントロールとした。
【0133】
(ii)合成ペプチド溶液
上記(3)1)の方法で、ペプチド1(QCKNYY、配列番号1)、ペプチド2(YYNKCQ、配列番号46)、及び対照ペプチド(LPECEA、配列番号47)の粗ペプチドを得た。
ペプチド2のアミノ酸配列は、ペプチド1の逆配列である。
次いで逆相HPLCカラム Proteonaviを用い、逆相HPLCを行った。
【0134】
目的の生成物を含有する画分を集め、凍結乾燥した。ペプチド1を57%、ペプチド2を47%、および対照ペプチドを50%の単離収率で得た。
それぞれの精製ペプチドをPBSに溶解して合成ペプチド溶液として用いた。
【0135】
(iii)ELISA(阻害アッセイ)
iMark TM Microplate Reader(バイオラッド社)を使用し、以下の方法で試料中のヒトハプトグロビン量を測定した。
まず、抗ヒトハプトグロビン抗体のFabフラグメント(DAKO製)を、96ウェルELISAプレートに固定化した。該プレートを、3%BSAを含有するPBSでブロッキング処理した。
上記(i)で調製した試料を各ウェルに入れ、室温(RT)で1時間インキュベートした。 各ウェルを0.1% Tween 20を含有するPBS(PBS-T)で3回洗浄した。POD標識10-7G2A抗体および合成ペプチド溶液の混合液を各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した。次いでテトラメチルベンジシン(TMBZ、Sigma-Aldrich Co. LLC、St Louis、米国)を各ウェルに加え、15分間インキュベートして発色させた。1N硫酸を各ウェルに加え、反応を停止させた。
波長450nmでの吸光度を測定した。
【0136】
尚、合成ペプチド溶液は、POD標識10-7G2A抗体との反応時の合成ペプチドの濃度が、それぞれ50μg/mL、150μg/mL、250μg/mL、400μg/mL、又は500μg/mLとなるように加えた。
また、上記で用いたPOD標識10-7G2A抗体は、実施例1で得られた10-7抗体を、常法(石川栄治著、「酵素標識法」、学会出版センター,1991年、p.62の方法)により西洋ワサビペルオキシダーゼで標識したものである。
【0137】
一方、合成ペプチド溶液の代わりに対照ペプチドを含有する合成ペプチド溶液を使用する以外は、上記と同様の方法でヒトハプトグロビン量を測定した。
【0138】
(iv)結果
得られた結果を
図5に示す。
図5(a)は、試料として、大腸癌細胞株HCT116にヒトハプトグロビン遺伝子を導入して安定過剰発現する樹立株を、L-フコース添加培養液で培養して得た培養上清を用いた阻害アッセイの結果を示す。
図5(b)は、試料に膵癌患者の血清を用いた阻害アッセイの結果を示す。
また、
図5(a)及び
図5(b)において、(1)はコントロールペプチド溶液を用いた測定結果を、(2)は合成ペプチド1を用いた測定結果(破線)を、(3)は合成ペプチド3を用いた測定結果(実線)を、それぞれ示す。
また、
図5において、縦軸はコントロールペプチドを用いた測定で得られた吸光度を100とした場合の、各濃度の合成ペプチド存在下に測定を行って得られた吸光度の割合(%)を示す。
【0139】
図5(a)及び
図5(b)の結果から明らかなように、合成ペプチド1は、10-7G2A抗体のヒトハプトグロビンへの結合を阻害した。また、合成ペプチド1の逆アミノ酸配列を持つ合成ペプチド2は合成ペプチド1と同様に、10-7G2A抗体のヒトハプトグロビンへの結合を阻害した。
以上の結果から、10-7G2A抗体のエピトープとして、配列番号1で表されるアミノ酸配列を特定した。
【0140】
実施例3.10-7G2A抗体を用いたヒトハプトグロビンの測定及び炎症性腸疾患の判定
(1)試料及び試薬類の調製
1)試料
潰瘍性大腸炎患者(n=45)、クローン病患者(n=20)、及び健常人(n=67)の血清を1/5,000に希釈して試料とした。肝癌細胞株HepG2の培養上清をコントロールとした。
【0141】
2)使用抗体
抗体1:実施例2で認識部位を特定した抗ヒトハプトグロビンモノクローナル抗体である10-7G2A抗体を用いた。
抗体2:WO2017/204295の実験例3に記載の方法により得られた、3-1抗体を用いた。
【0142】
3)抗体固定化プレート
10-7G2A抗体 5μg/mL(50mM炭酸ナトリウム緩衝液, pH9.6)を、常法によりNUNC-IMMUNO MODULEプレート(コスモ・バイオ(株))に固定化した後、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル(株)製)1%を含むリン酸緩衝食塩水(PBS)によりブロッキングし、10-7G2A抗体が固定化されたプレートを得た。
【0143】
4)POD標識3-1抗体液
3-1抗体は常法によりFab'断片とした後、常法(石川栄治著、「酵素標識法」、学会出版センター,1991年、p.62の方法)によりペルオキシダーゼ(POD)標識した。次いで、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル(株)製)10%を含むTBSで希釈し、POD標識3-1抗体液(1.06 μmol/L)を得た。使用時はブロックエース(DSファーマバイオメディカル(株)製)10%を含むTBSで5000倍希釈して使用した。使用時の、POD標識3-1抗体液の濃度は、2.12×10-1 pmol/Lである。
【0144】
5)発色液等
下記の各試液を調製した。
発色液:5 mmol/L 3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMBZ)溶液(シグマアルドリッチ社製)
反応停止液:1N HCl
洗浄液:0.05 %ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート (Tween20)を含むトリス緩衝生理食塩水
【0145】
(2)ヒトハプトグロビンの測定
iMark TM Microplate Reader(バイオラッド社)を使用し、以下の方法で試料中のヒトハプトグロビン量を測定した。
【0146】
上記3)で得られた抗体固定化プレートのウェルに試料50 μLを加え、室温で60分反応させた。反応後、ウェルに300μ/ウェルの洗浄液を加えて、ウェルを3回洗浄した。次いで、POD標識3-1抗体液を50 μL/ウェルl加え室温で60分反応させた。反応後、ウェルに300μ/ウェルの洗浄液を加えて、ウェルを3回洗浄した。次に、ウェルに、発色液 50 μL/ウェルを加え、室温で20分反応させた。反応停止液を50μL/ウェル添加し、反応を停止させた。波長450nmでの吸光度を測定した。
【0147】
一方、ヒトハプトグロビン2-2型精製品(Haptoglobin,Phenotype 2-2、Hpt2-2、シグマアルドリッチ社製)を、2%BSAを含むMOPS緩衝液で0、0.001、0.004、0.016、0.063、0.250、1 μg/mLに希釈して、上記方法と同様の方法でヒトハプトグロビン量の測定を行い、波長450nmでの吸光度を測定し、検量線を作成した。
【0148】
Hpt2-2型精製品1μg/mLの場合の吸光度値を1と定めた(基準)。そして、被検者由来試料を用いた上記測定で得られた吸光度の、基準に対する相対値を求めた。該相対値を「relative unit」と表す。
有意差検定は、予測分析ソフトウェアであるJMP pro 14を用い、Wilcoxon検定により行った、すべてのペアのノンパラメトリックな比較を表す。
得られた結果を
図6に示す。
また、測定結果を表3に示す。
【0149】
【0150】
図6及び表3から明らかなとおり、10-7G2A抗体と3-1抗体の組み合わせを用いてヒトハプトグロビン量を測定して得られたヒトハプトグロビン量は、健常人と比較して、潰瘍性大腸炎患者、及びクローン病患者で、有意に高くなった。
以上の結果から、本発明の判定方法により炎症性腸疾患の判定が可能であることが分かった。
【0151】
実施例4.健常人の血清ヒトハプトグロビン量と血清CRP値との関係の検討
血清ヒトハプトグロビン量と、炎症性マーカーとして知られる血清CRP値との相関を、以下の方法で検証した。
【0152】
まず、臨床検査で血清CRP値が高値であると判定された健常人の血清(n=70)を用い、実施例3と同じ方法で、血清中のヒトハプトグロビン量を測定した。
【0153】
上記測定で得られた、血清CRP値が高値である健常人(CRP高値健常人)の血清ヒトハプトグロビン量の測定結果を
図7に示す。
また、実施例3で得られた健常人(n=20)の血清ヒトハプトグロビン量の測定結果を
図7に併せて示す。尚、この実施例3の健常人の血清CRP値はすべて正常値であった。
【0154】
さらに、血清CRP値が高値である健常人および血清CRP値が正常値である健常人(n=90)の、血清ヒトハプトグロビン量と血清CRP値との関係を、統計学的に解析した。解析は、予測分析ソフトウェアであるJMP pro 14を用い、ピアソンの積率相関係数の検定により行った。
【0155】
得られた結果を
図8に示す。すなわち、
図8は、健常人の血清CRP値(対数)と血清ヒトハプトグロビン量(対数)との相関図である。解析の結果、血清ヒトハプトグロビン量とCRP値との関係は、解析相関係数ρ=0.139、p値=0.223であった。
【0156】
図7の結果から明らかなとおり、CPR値が高値である健常人は、CRP値が正常値である健常人と比較して血清ヒトハプトグロビン量は上昇していなかった。
また、
図8の結果から明らかなとおり、血清ヒトハプトグロビン量と血清CRP値の間には相関関係も認められなかった。
【0157】
ハプトグロビンもCRPも、共に炎症性疾患で増加することが知られているが、鋭敏度においてはCRPの方がハプトグロビンよりも優れていると考えられてきた。しかしながら、以上の結果から、ヒトハプトグロビン量はCRP値と相関せず、炎症性腸疾患に罹患していない被検者では、血清CRP値が上昇しても、ヒトハプトグロビン量は上昇していないことが明らかになった。この結果は、CRP値の上昇は腸の炎症を反映しているとは言えないことを示している。
一方、実施例3、
図6の結果から明らかなように、血清ヒトハプトグロビン量は、炎症性腸疾患で有意に上昇していた。
【0158】
以上のことより、本実施例において確認された血中ヒトハプトグロビン量の上昇は、単なる全身炎症を反映しているのではなく、腸管特異的な炎症を反映していることがわかった。言い換えれば、本発明の抗体1を用いたヒトハプトグロビン量の測定法により、血中ヒトハプトグロビン量は炎症性腸疾患特異的に上昇することが確認された。
【0159】
実施例5.潰瘍性大腸炎患者の血清ヒトハプトグビン量とCAIとの関係の検討
実施例3の測定で得られた潰瘍性大腸炎患者の血清ヒトハプトグロビン量と、同じ潰瘍性大腸炎患者の、臨床所見によって決定した潰瘍性大腸炎活動指標の一つであるClinical activity(CAIと略記する。)との関連を、統計学的に解析した。解析は実施例1と同様に、予測分析ソフトウェアであるJMP pro 14を用い、ピアソンの積率相関係数の検定により行った。
【0160】
得られた結果を
図9に示す。すなわち、
図9は、潰瘍性大腸炎患者のCAIと血清ヒトハプトグロビン量との相関図である。
解析の結果、血清ヒトハプトグロビン量とCAIとの関係は、解析相関係数ρ=0.574、p値=0.0001であった。
すなわち、潰瘍性大腸炎では、血清ヒトハプトグロビン量は、潰瘍性大腸炎の活動指標として臨床で使用されているCAIと、正の相関関係にあることが確認された。
【0161】
以上の結果からも、本発明の判定方法によれば、炎症性腸疾患の局所の病態を反映した、客観的な炎症性腸疾患の判定を行うことができることが裏付けられた。
【配列表】