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特許7572679深部体温推定装置、深部体温推定方法および深部体温推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-16
(45)【発行日】2024-10-24
(54)【発明の名称】深部体温推定装置、深部体温推定方法および深部体温推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/01 20060101AFI20241017BHJP
   G01K 17/00 20060101ALI20241017BHJP
   G01K 13/20 20210101ALI20241017BHJP
【FI】
A61B5/01 250
G01K17/00 Z
G01K13/20 331
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021007045
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2022111549
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 優生
(72)【発明者】
【氏名】桑原 啓
(72)【発明者】
【氏名】都甲 浩芳
(72)【発明者】
【氏名】高河原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石原 隆子
(72)【発明者】
【氏名】平田 晃正
(72)【発明者】
【氏名】上松 涼太
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-217224(JP,A)
【文献】特開2020-065823(JP,A)
【文献】特開2020-162952(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0180027(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象者の心拍数または脈拍数を測定するように構成された第1測定部と、
前記測定対象者の近傍の温度を測定するように構成された第2測定部と、
前記測定対象者の近傍の湿度を測定するように構成された第3測定部と、
前記第1、第2、第3測定部の測定結果に基づいて、前記測定対象者の第1部位の深部に流入出する熱量と前記第1部位の皮膚に流入出する熱量と前記測定対象者の第2部位の深部に流入出する熱量と前記第2部位の皮膚に流入出する熱量とを算出するように構成された熱量算出部と、
前記熱量に基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度および深部温度を算出するように構成された温度算出部と、
第1予備計算時に前記測定対象者の第1部位と第2部位のそれぞれの皮膚温度および深部温度を初期値に設定し、前記熱量を算出するためのメッツ数を、前記第1測定部の測定結果を用いて算出する代わりに前記測定対象者の状態が安静状態のときの固定値に設定し、前記第2、第3測定部の測定結果の代わりに温度中性域に相当する温度の固定値と湿度の固定値を設定して、前記熱量算出部に前記熱量を算出させ、前記温度算出部に前記皮膚温度および深部温度を算出させるように構成された第1制御部と、
第2予備計算時に前記熱量を算出するためのメッツ数を、前記第1測定部の測定結果を用いて算出する代わりに前記測定対象者の状態が安静状態のときの固定値に設定し、前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、前記第1予備計算時の前記温度算出部の算出結果を設定して、前記第2、第3測定部の測定結果に基づいて前記熱量算出部に前記熱量を算出させ、前記温度算出部に前記皮膚温度および深部温度を算出させるように構成された第2制御部と、
本計算時に前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、前記第2予備計算時の前記温度算出部の算出結果を設定して、前記第1、第2、第3測定部の測定結果に基づいて前記熱量算出部に前記熱量を算出させ、前記温度算出部に前記皮膚温度および深部温度を算出させるように構成された第3制御部とを備え、
前記第1部位は前記測定対象者の体幹部で、前記第2部位は前記測定対象者の四肢部、または前記第1部位は前記測定対象者の上半身で、前記第2部位は前記測定対象者の下半身であることを特徴とする深部体温推定装置。
【請求項2】
請求項1記載の深部体温推定装置において、
前記熱量算出部は、
前記第1、第2予備計算時に前記測定対象者が安静状態という設定の基に前記測定対象者の運動による前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの発熱量を算出し、前記本計算時に前記第1測定部の測定結果に基づいて前記発熱量を算出するように構成された発熱量算出部と、
前記第1予備計算時に前記温度中性域に相当する温度と前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度とに基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれにおける皮膚と外気間の第1熱交換量を算出し、前記第2予備計算時と前記本計算時に前記第2測定部の測定結果と前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度とに基づいて、前記第1熱交換量を算出するように構成された第1熱交換量算出部と、
前記第1、第2予備計算時に前記測定対象者が安静状態という設定と前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度と深部温度とに基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれにおける深部と皮膚間の第2熱交換量を算出し、前記本計算時に前記第1測定部の測定結果と前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度と深部温度とに基づいて、前記第2熱交換量を算出するように構成された第2熱交換量算出部と、
前記第1、第2予備計算時と前記本計算時に前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度と深部温度とに基づいて、前記測定対象者の深部における前記第1部位と前記第2部位間の第3熱交換量を算出するように構成された第3熱交換量算出部とを含むことを特徴とする深部体温推定装置。
【請求項3】
請求項2記載の深部体温推定装置において、
前記第1熱交換量算出部は、前記測定対象者の皮膚が衣服で覆われている割合を考慮して、前記第1熱交換量を算出することを特徴とする深部体温推定装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の深部体温推定装置において、
前記熱量算出部は、
前記第1予備計算時に前記温度中性域に相当する温度の固定値と湿度の固定値と前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度と深部温度とに基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれにおける皮膚蒸散量を算出し、前記第2予備計算時と前記本計算時に前記第2、第3測定部の測定結果と前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度と深部温度とに基づいて、前記皮膚蒸散量を算出するように構成された皮膚蒸散量算出部をさらに含むことを特徴とする深部体温推定装置。
【請求項5】
請求項4記載の深部体温推定装置において、
前記熱量算出部は、外気と前記測定対象者の深部間の第4熱交換量を設定するように構成された第4熱交換量設定部と、
前記第1、第2予備計算時と前記本計算時に前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度と深部温度とに基づいて、前記測定対象者の第1部位皮膚層の代謝量と第1部位深部層の代謝量と第2部位皮膚層の代謝量と第2部位深部層の代謝量を算出するように構成された代謝量算出部とをさらに含むことを特徴とする深部体温推定装置。
【請求項6】
請求項5記載の深部体温推定装置において、
前記温度算出部は、
前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位の発熱量Q1,U,Q1,L、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれにおける皮膚と外気間の第1熱交換量Q3,U,Q3,L、 前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれにおける深部と皮膚間の第2熱交換量Q6,U,Q6,L、前記測定対象者の深部における前記第1部位と前記第2部位間の第3熱交換量Q、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれにおける皮膚蒸散量Q4,U,Q4,L、外気と前記測定対象者の深部間の第4熱交換量Q、前記測定対象者の第1部位皮膚層の代謝量Q2,US、第1部位深部層の代謝量Q2,UC、第2部位皮膚層の代謝量Q2,LS、第2部位深部層の代謝量Q2,LC、前記測定対象者の第1部位皮膚層の熱容量WCUS、第1部位深部層の熱容量WCUC、第2部位皮膚層の熱容量WCLS、第2部位深部層の熱容量WCLC、直前に算出した第1部位皮膚層の温度の推定値TUS[t]、第1部位深部層の温度の推定値TUC[t]、第2部位皮膚層の温度の推定値TLS[t]、第2部位深部層の温度の推定値TLC[t]に基づいて、
【数1】
により、時刻(t+Δt)における第1部位皮膚層の温度の推定値TUS[t+Δt]、第1部位深部層の温度の推定値TUC[t+Δt]、第2部位皮膚層の温度の推定値TLS[t+Δt]、第2部位深部層の温度の推定値TLC[t+Δt]を算出することを特徴とする深部体温推定装置。
【請求項7】
第1予備計算時に測定対象者の第1部位と第2部位のそれぞれの皮膚温度および深部温度を初期値に設定し、前記測定対象者の第1部位の深部に流入出する熱量と前記第1部位の皮膚に流入出する熱量と前記測定対象者の第2部位の深部に流入出する熱量と前記第2部位の皮膚に流入出する熱量とを算出するためのメッツ数を前記測定対象者の状態が安静状態のときの固定値に設定し、前記測定対象者の近傍の温度と近傍の湿度として温度中性域に相当する温度の固定値と湿度の固定値を設定して、前記熱量を算出する第1ステップと、
前記第1予備計算時に前記第1ステップで算出した熱量に基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度および深部温度を算出する第2ステップと、
第2予備計算時に前記測定対象者の近傍の温度を測定する第3ステップと、
前記第2予備計算時に前記測定対象者の近傍の湿度を測定する第4ステップと、
前記第2予備計算時に前記熱量を算出するためのメッツ数を前記測定対象者の状態が安静状態のときの固定値に設定し、前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、前記第2ステップの算出結果を設定して、前記第3、第4ステップの測定結果に基づいて前記熱量を算出する第5ステップと、
前記第2予備計算時に前記第5ステップで算出した熱量に基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度および深部温度を算出する第6ステップと、
本計算時に前記測定対象者の心拍数または脈拍数を測定する第7ステップと、
前記本計算時に前記測定対象者の近傍の温度を測定する第8ステップと、
前記本計算時に前記測定対象者の近傍の湿度を測定する第9ステップと、
前記本計算時に前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、前記第6ステップの算出結果を設定して、前記第7、第8、第9ステップの測定結果に基づいて前記熱量を算出する第10ステップと、
前記本計算時に前記第10ステップで算出した熱量に基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度および深部温度を算出する第11ステップとを含み、
前記第1部位は前記測定対象者の体幹部で、前記第2部位は前記測定対象者の四肢部、または前記第1部位は前記測定対象者の上半身で、前記第2部位は前記測定対象者の下半身であることを特徴とする深部体温推定方法。
【請求項8】
請求項7記載の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とする深部体温推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象者の深部体温を推定する深部体温推定装置、深部体温推定方法および深部体温推定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、熱中症により多くの人が救急搬送されており、2019年5月から9月の全国における熱中症による救急搬送者数の累計は、71317人であった(非特許文献1参照)。熱中症の診療や熱中症のリスク軽減のために、深部体温の測定が有効であるといわれている(非特許文献2参照)。
【0003】
深部体温を監視するためには、直腸温、膀胱温、食道温などを測定する必要があり、日常生活のなかでこれらの測定を実施することは難しい。そこで、深部体温を推定する方法として、測定対象者の心拍数、雰囲気の気温から深部温度を簡易的に推定する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、深部体温の推定精度が低いという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-65823号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】“2019年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況”,総務省,[2020年3月31日検索],<https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/heatstroke_geppou_2019.pdf>
【文献】“熱中症診療ガイドライン 2015”,一般社団法人日本救急医学会,2015年,[2019年3月31日検索],<https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/heatstroke2015.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、測定対象者の深部体温を従来よりも高精度に推定することができる深部体温推定装置、深部体温推定方法および深部体温推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の深部体温推定装置は、測定対象者の心拍数または脈拍数を測定するように構成された第1測定部と、前記測定対象者の近傍の温度を測定するように構成された第2測定部と、前記測定対象者の近傍の湿度を測定するように構成された第3測定部と、前記第1、第2、第3測定部の測定結果に基づいて、前記測定対象者の第1部位の深部に流入出する熱量と前記第1部位の皮膚に流入出する熱量と前記測定対象者の第2部位の深部に流入出する熱量と前記第2部位の皮膚に流入出する熱量とを算出するように構成された熱量算出部と、前記熱量に基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度および深部温度を算出するように構成された温度算出部と、第1予備計算時に前記測定対象者の第1部位と第2部位のそれぞれの皮膚温度および深部温度を初期値に設定し、前記熱量を算出するためのメッツ数を、前記第1測定部の測定結果を用いて算出する代わりに前記測定対象者の状態が安静状態のときの固定値に設定し、前記第2、第3測定部の測定結果の代わりに温度中性域に相当する温度の固定値と湿度の固定値を設定して、前記熱量算出部に前記熱量を算出させ、前記温度算出部に前記皮膚温度および深部温度を算出させるように構成された第1制御部と、第2予備計算時に前記熱量を算出するためのメッツ数を、前記第1測定部の測定結果を用いて算出する代わりに前記測定対象者の状態が安静状態のときの固定値に設定し、前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、前記第1予備計算時の前記温度算出部の算出結果を設定して、前記第2、第3測定部の測定結果に基づいて前記熱量算出部に前記熱量を算出させ、前記温度算出部に前記皮膚温度および深部温度を算出させるように構成された第2制御部と、本計算時に前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、前記第2予備計算時の前記温度算出部の算出結果を設定して、前記第1、第2、第3測定部の測定結果に基づいて前記熱量算出部に前記熱量を算出させ、前記温度算出部に前記皮膚温度および深部温度を算出させるように構成された第3制御部とを備え、前記第1部位は前記測定対象者の体幹部で、前記第2部位は前記測定対象者の四肢部、または前記第1部位は前記測定対象者の上半身で、前記第2部位は前記測定対象者の下半身であることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の深部体温推定装置の1構成例において、前記熱量算出部は、前記第1、第2予備計算時に前記測定対象者が安静状態という設定の基に前記測定対象者の運動による前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの発熱量を算出し、前記本計算時に前記第1測定部の測定結果に基づいて前記発熱量を算出するように構成された発熱量算出部と、前記第1予備計算時に前記温度中性域に相当する温度と前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度とに基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれにおける皮膚と外気間の第1熱交換量を算出し、前記第2予備計算時と前記本計算時に前記第2測定部の測定結果と前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度とに基づいて、前記第1熱交換量を算出するように構成された第1熱交換量算出部と、前記第1、第2予備計算時に前記測定対象者が安静状態という設定と前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度と深部温度とに基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれにおける深部と皮膚間の第2熱交換量を算出し、前記本計算時に前記第1測定部の測定結果と前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度と深部温度とに基づいて、前記第2熱交換量を算出するように構成された第2熱交換量算出部と、前記第1、第2予備計算時と前記本計算時に前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度と深部温度とに基づいて、前記測定対象者の深部における前記第1部位と前記第2部位間の第3熱交換量を算出するように構成された第3熱交換量算出部とを含むことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の深部体温推定装置の1構成例において、前記第1熱交換量算出部は、前記測定対象者の皮膚が衣服で覆われている割合を考慮して、前記第1熱交換量を算出することを特徴とするものである。
また、本発明の深部体温推定装置の1構成例において、前記熱量算出部は、前記第1予備計算時に前記温度中性域に相当する温度の固定値と湿度の固定値と前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度と深部温度とに基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれにおける皮膚蒸散量を算出し、前記第2予備計算時と前記本計算時に前記第2、第3測定部の測定結果と前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度と深部温度とに基づいて、前記皮膚蒸散量を算出するように構成された皮膚蒸散量算出部をさらに含むことを特徴とするものである。
また、本発明の深部体温推定装置の1構成例において、前記熱量算出部は、外気と前記測定対象者の深部間の第4熱交換量を設定するように構成された第4熱交換量設定部と、前記第1、第2予備計算時と前記本計算時に前記温度算出部によって直前に算出された皮膚温度と深部温度とに基づいて、前記測定対象者の第1部位皮膚層の代謝量と第1部位深部層の代謝量と第2部位皮膚層の代謝量と第2部位深部層の代謝量を算出するように構成された代謝量算出部とをさらに含むことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の深部体温推定装置の1構成例において、前記温度算出部は、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位の発熱量Q1,U,Q1,L、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれにおける皮膚と外気間の第1熱交換量Q3,U,Q3,L、 前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれにおける深部と皮膚間の第2熱交換量Q6,U,Q6,L、前記測定対象者の深部における前記第1部位と前記第2部位間の第3熱交換量Q、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれにおける皮膚蒸散量Q4,U,Q4,L、外気と前記測定対象者の深部間の第4熱交換量Q、前記測定対象者の第1部位皮膚層の代謝量Q2,US第1部位深部層の代謝量Q2,UC第2部位皮膚層の代謝量Q2,LS第2部位深部層の代謝量Q2,LC、前記測定対象者の第1部位皮膚層の熱容量WCUS第1部位深部層の熱容量WCUC第2部位皮膚層の熱容量WCLS第2部位深部層の熱容量WCLC、直前に算出した第1部位皮膚層の温度の推定値TUS[t]、第1部位深部層の温度の推定値TUC[t]、第2部位皮膚層の温度の推定値TLS[t]、第2部位深部層の温度の推定値TLC[t]に基づいて、時刻(t+Δt)における第1部位皮膚層の温度の推定値TUS[t+Δt]、第1部位深部層の温度の推定値TUC[t+Δt]、第2部位皮膚層の温度の推定値TLS[t+Δt]、第2部位深部層の温度の推定値TLC[t+Δt]を算出することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の深部体温推定方法は、第1予備計算時に測定対象者の第1部位と第2部位のそれぞれの皮膚温度および深部温度を初期値に設定し、前記測定対象者の第1部位の深部に流入出する熱量と前記第1部位の皮膚に流入出する熱量と前記測定対象者の第2部位の深部に流入出する熱量と前記第2部位の皮膚に流入出する熱量とを算出するためのメッツ数を前記測定対象者の状態が安静状態のときの固定値に設定し、前記測定対象者の近傍の温度と近傍の湿度として温度中性域に相当する温度の固定値と湿度の固定値を設定して、前記熱量を算出する第1ステップと、前記第1予備計算時に前記第1ステップで算出した熱量に基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度および深部温度を算出する第2ステップと、第2予備計算時に前記測定対象者の近傍の温度を測定する第3ステップと、前記第2予備計算時に前記測定対象者の近傍の湿度を測定する第4ステップと、前記第2予備計算時に前記熱量を算出するためのメッツ数を前記測定対象者の状態が安静状態のときの固定値に設定し、前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、前記第2ステップの算出結果を設定して、前記第3、第4ステップの測定結果に基づいて前記熱量を算出する第5ステップと、前記第2予備計算時に前記第5ステップで算出した熱量に基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度および深部温度を算出する第6ステップと、本計算時に前記測定対象者の心拍数または脈拍数を測定する第7ステップと、前記本計算時に前記測定対象者の近傍の温度を測定する第8ステップと、前記本計算時に前記測定対象者の近傍の湿度を測定する第9ステップと、前記本計算時に前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、前記第6ステップの算出結果を設定して、前記第7、第8、第9ステップの測定結果に基づいて前記熱量を算出する第10ステップと、前記本計算時に前記第10ステップで算出した熱量に基づいて、前記測定対象者の前記第1部位と前記第2部位のそれぞれの皮膚温度および深部温度を算出する第11ステップとを含み、前記第1部位は前記測定対象者の体幹部で、前記第2部位は前記測定対象者の四肢部、または前記第1部位は前記測定対象者の上半身で、前記第2部位は前記測定対象者の下半身であることを特徴とするものである。
また、本発明の深部体温推定プログラムは、前記の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、測定対象者の心拍数と測定対象者近傍の温度だけでなく、測定対象者近傍の湿度を測定して、測定対象者の第1部位と第2部位の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出し、算出した熱量から測定対象者の深部体温を推定するので、従来よりも高精度に深部体温を推定することができる。また、本発明では、本計算に先立って第1、第2予備計算を行うことにより、測定対象者の第1部位と第2部位のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施例に係る深部体温推定装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、測定対象者の身体の2部位2層モデルと、測定対象者の各部位・各層に流入出する熱量を示す図である。
図3図3は、本発明の実施例に係る深部体温推定装置の本計算のときの動作を説明するフローチャートである。
図4図4は、本発明の実施例に係る深部体温推定装置の予備計算Iのときの動作を説明するフローチャートである。
図5図5は、本発明の実施例に係る深部体温推定装置の予備計算IIのときの動作を説明するフローチャートである。
図6図6は、本発明の実施例に係る深部体温推定装置の予備計算IIIのときの動作を説明するフローチャートである。
図7図7は、本発明の実施例に係る深部体温推定装置の本計算のときの第3制御部の動作を説明するフローチャートである。
図8図8は、本発明の実施例に係る深部体温推定装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施例に係る深部体温推定装置の構成を示すブロック図である。深部体温推定装置は、第1測定部1と、第2測定部2と、第3測定部3と、発熱量算出部4と、代謝量算出部5と、熱伝達・熱放射量算出部6(第1熱交換量算出部)と、皮膚蒸散量算出部7と、呼気蒸散量設定部8(第4熱交換量設定部)と、熱交換量算出部9(第2熱交換量算出部)と、熱交換量算出部10(第3熱交換量算出部)と、温度算出部11と、第1制御部13と、第2制御部14と、第3制御部15とを備えている。
【0016】
発熱量算出部4と代謝量算出部5と熱伝達・熱放射量算出部6と皮膚蒸散量算出部7と呼気蒸散量設定部8と熱交換量算出部9と熱交換量算出部10とは、熱量算出部12を構成している。
【0017】
第1測定部1は、測定対象者の心拍数または脈拍数を測定する。第1測定部1は、例えば、測定対象者の心電位を計測するウエア型あるいはベルト型の心電計と、心電計が計測した心電位から心拍数を算出する算出部とから構成される。あるいは、第1測定部1は、測定対象者の脈波を計測する腕時計型あるいはイヤホン型の脈波計と、脈波計が計測した脈波から心拍数(脈拍数)を算出する算出部とから構成される。
【0018】
第2測定部2は、測定対象者近傍の温度(測定対象者の雰囲気の気温)を測定する。第2測定部2は、例えば、温度計から構成される。あるいは、第2測定部2は、外部の気象システムから測定対象者の近傍の気象データを取得するようにしてもよい。
【0019】
第3測定部3は、測定対象者近傍の湿度(測定対象者の雰囲気の湿度)を測定する。第3測定部3は、例えば、湿度計から構成される。あるいは、第3測定部3は、第2測定部2と同様に、外部の気象システムから測定対象者の近傍の気象データを取得するようにしてもよい。
【0020】
熱量算出部12は、測定対象者の心拍数と測定対象者近傍の温度と測定対象者近傍の湿度とに基づいて、測定対象者の体幹部(第1部位)と四肢部(第2部位)の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出する。
温度算出部11は、熱量算出部12によって算出された熱量に基づいて、測定対象者の体幹部と四肢部のそれぞれの皮膚温度および深部温度を算出する。
【0021】
第1制御部13は、第1予備計算時に第1測定部1の測定結果を用いる代わりに測定対象者の状態を安静状態と設定し、第2、第3測定部2,3の測定結果の代わりに温度中性域に相当する温度の固定値と湿度の固定値を設定して、熱量算出部12に熱量を算出させ、温度算出部11に皮膚温度および深部温度を算出させる。
【0022】
第2制御部14は、第2予備計算時に第1測定部1の測定結果を用いる代わりに測定対象者の状態を安静状態と設定し、体幹部と四肢部のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、第1予備計算時の温度算出部11の算出結果を設定して、熱量算出部12に熱量を算出させ、温度算出部11に皮膚温度および深部温度を算出させる。
【0023】
第3制御部15は、本計算時に体幹部と四肢部のそれぞれの皮膚温度の初期値および深部温度の初期値として、第2予備計算時の温度算出部11の算出結果を設定して、第1、第2、第3測定部1~3の測定結果に基づいて熱量算出部12に熱量を算出させ、温度算出部11に皮膚温度および深部温度を算出させる。
【0024】
[深部体温推定方法:時間ステップごとの深部体温変化の計算方法]
本発明は、図2に示すように、測定対象者の身体が体幹部Uと四肢部Lの2部位で構成され、体幹部Uと四肢部Lの2部位がそれぞれ深部層Cと皮膚層Sの2層を有するものとみなす。すなわち、測定対象者の身体は、体幹部深部層UCと、体幹部皮膚層USと、四肢部深部層LCと、四肢部皮膚層LSとからなる。本発明は、取得する温湿度と心拍数情報とを基に、測定対象者の各部・各層に流入出する、時々刻々と変化する熱量を算出し、熱量の変化から、測定対象者の各部位・各層の温度変化を推定する。
【0025】
本実施例では、センサデータを取得する時間ステップごとの深部体温変化の計算方法を説明する。本実施例では、上述のとおり、測定対象者の身体を体幹部と四肢部の2部位で構成されるものとみなした場合の計算例を記載しているが、体幹部を上半身に置き替え、四肢部を下半身に置き替えてもよい。つまり、測定対象者の身体を第1部位と第2部位の任意の2部位で構成されるものとしてよい。
【0026】
式(1)~式(4)に、それぞれ測定対象者の体幹部皮膚層USの温度変化、体幹部深部層UCの温度変化、四肢部皮膚層LSの温度変化、四肢部深部層LCの温度変化を推定する式の例を示す。TUS[t]は時刻tにおける体幹部皮膚層USの温度[℃]、TUC[t]は時刻tにおける体幹部深部層UCの温度[℃]、TLS[t]は時刻tにおける四肢部皮膚層LSの温度[℃]、TLC[t]は時刻tにおける四肢部深部層LCの温度[℃]である。
【0027】
【数1】
【0028】
【数2】
【0029】
【数3】
【0030】
【数4】
【0031】
1,Uは測定対象者の運動による体幹部Uの発熱量[W]、Q1,Lは運動による四肢部Lの発熱量[W]である。Q2,USは測定対象者の体幹部皮膚層USの代謝量[W]、Q2,UCは体幹部深部層UCの代謝量[W]、Q2,LSは四肢部皮膚層LSの代謝量[W]、Q2,LCは四肢部深部層LCの代謝量[W]である。Q3,U(第1熱交換量)は測定対象者の体幹部Uにおける皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量[W]、Q3,L(第1熱交換量)は四肢部Lにおける皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量[W]である。
【0032】
4,Uは測定対象者の体幹部Uにおける皮膚蒸散量、Q4,Lは四肢部Lにおける皮膚蒸散量である。Q5(第4熱交換量)は測定対象者の呼気蒸散量[W]である。Q6,U(第2熱交換量)は測定対象者の体幹部Uにおける深部と皮膚間の熱交換量[W]、Q6,L(第2熱交換量)は四肢部Lにおける深部と皮膚間の熱交換量[W]である。Q7(第3熱交換量)は測定対象者の深部における体幹と四肢間の熱交換量[W]である。
【0033】
WCUSは測定対象者の体幹部皮膚層USの熱容量[J/℃]、WCUCは体幹部深部層UCの熱容量[J/℃]、WCLSは四肢部皮膚層LSの熱容量[J/℃]、WCLCは四肢部深部層LCの熱容量[J/℃]である。Δtは計算ステップ時間であり、例えば1[s]以下とする。
また、時刻t+Δtにおける平均皮膚温Tsk[t+Δt]、深部体温T[t+Δt]は式(5)、式(6)のようになる。
【0034】
【数5】
【0035】
【数6】
【0036】
sf_conf_USは測定対象者の体表面全体に対する体幹部Uの表面積の割合[%]、sf_conf_LSは体表面全体に対する四肢部Lの表面積の割合[%]である。熱容量WCUS,WCUC,WCLS,WCLC、割合sf_conf_US,sf_conf_LSは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。
【0037】
本実施例の深部体温推定装置の動作には、本計算と、本計算に先立って行われる予備計算とがあるが、まず基本となる本計算について説明する。図3は本実施例の深部体温推定装置の本計算のときの動作を説明するフローチャートである。
【0038】
第1測定部1は、測定対象者の心拍数を測定する(図3ステップS100)。第2測定部2は、測定対象者近傍の温度(測定対象者の雰囲気の気温)を測定する(図3ステップS101)。第3測定部3は、測定対象者近傍の湿度(測定対象者の雰囲気の湿度)を測定する(図3ステップS102)。
【0039】
[運動による発熱量Q1の算出]
次に、発熱量算出部4は、第1測定部1によって測定された心拍数に基づいて、測定対象者の運動による体幹部Uの深部層における発熱量Q1,U[W]、運動による四肢部Lの深部層における発熱量Q1,L[W]をそれぞれ式(7)、式(8)のように算出する(図3ステップS103)。
【0040】
【数7】
【0041】
【数8】
【0042】
式(7)、式(8)は、文献「“健康づくりのための運動指針2006 ~生活習慣病予防のために~”,厚生労働省,2006年,<https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/07/dl/s0719-3c.pdf>」に開示されている。weightは測定対象者の重量[kg]、ex_conf_Uは測定対象者の全身に対する体幹部Uの筋肉量の割合[%]、ex_conf_Lは全身に対する四肢部Lの筋肉量の割合[%]である。重量weight、割合ex_conf_U,ex_conf_Lは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。
【0043】
また、METs[t]はメッツ数を表している。発熱量算出部4は、第1測定部1が取得した時刻tにおける心拍数HR[t][bpm]、安静時心拍数HRrest、最大心拍数HRmaxを用いて、式(9)または式(10)のいずれか一方の式によりMETs[t]を算出すればよい。
【0044】
【数9】
【0045】
【数10】
【0046】
式(10)は、文献「J.R.Wicks,et al.,“HR Index-A Simple Method for the Prediction of Oxygen Uptake”,Medicine and Science in Sports and Exercise,2011」に開示されている。
安静時心拍数HRrest、最大心拍数HRmaxは、それぞれ過去の測定で得られた既知の値として、実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。また、式(7)、式(8)で用いるMETs[t]に関しては、瞬時値だけでなく、時間平均値(例えば、6分間の平均値)を用いてもよい。
【0047】
[代謝量Q2の算出]
次に、代謝量算出部5は、温度算出部11がΔt前に算出した、時刻tにおける測定対象者の平均皮膚温の推定値Tsk[t][℃]と深部体温の推定値T[t][℃]とに基づいて、測定対象者の体幹部皮膚層USの代謝量Q2,US[W]、体幹部深部層UCの代謝量Q2,UC[W]、四肢部皮膚層LSの代謝量Q2,LS[W]、四肢部深部層LCの代謝量Q2,LC[W]をそれぞれ式(11)~式(14)のように算出する(図3ステップS104)。
【0048】
【数11】
【0049】
【数12】
【0050】
【数13】
【0051】
【数14】
【0052】
式(11)~式(14)は、文献「Ronald J Spiegel,“A Review of Numerical Models for Predicting the Energy Deposition and Resultant Thermal Response of Humans Exposed to Electromagnetic Fields”,IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques,Volume32,Issue8,1984」に開示されている。Askinは代謝に関する定数、volume_USは測定対象者の体幹部皮膚層USの体積[m3]、volume_LSは四肢部皮膚層LSの体積[m3]、weight_Uは測定対象者の体幹部Uの重量[kg]、weight_Lは四肢部Lの重量[kg]である。定数Askin、体積volume_US,volume_LS、重量weight_U,weight_Lは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。
【0053】
sk0は測定対象者の発汗が始まる平均皮膚温の基準温度、T0は発汗が始まる深部体温の基準温度である。後述のように、平均皮膚温の初期値Tsk[0]、深部体温の初期値T[0]、体幹部皮膚層USの温度の初期値TUS[0]、体幹部深部層UCの温度の初期値TUC[0]、四肢部皮膚層LSの温度の初期値TLS[0]、四肢部深部層LCの温度の初期値TLC[0]は、第1制御部13、第2制御部14、第3制御部15によって設定される。時刻t=0の初回の算出では、Tsk[t]=Tsk[0]、T[t]=T[0]、TUS[t]=TUS[0]、TUC[t]=TUC[0]、TLS[t]=TLS[0]、TLC[t]=TLC[0]である。
【0054】
また、代謝量算出部5は、式(12)、式(14)のMを式(15)のように算出する。
【0055】
【数15】
【0056】
式(15)は、文献「AA Ganpule,et al.,“Interindividual variability in sleeping metabolic rate in Japanese subjects”,European Journal of Clinical Nutrition,volume 61,2007」に開示されている。weight_Cは測定対象者の深部の重量[kg]、heightは測定対象者の身長[cm]、ageは測定対象者の年齢である。sexcoefは測定対象者が男性の場合に0.5473、測定対象者が女性の場合に0.5473×2となる定数である。activity_levelは身体活動レベル、Acoefは代謝調整用のパラメータである。重量weight_C、身長height、年齢age、定数sexcoef、activity_level、パラメータAcoefは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。
【0057】
activity_levelの設定例としては、測定対象者の生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合は1.5程度とすればよい。測定対象者が座位中心の仕事をしているが、職場内での移動や立位での作業、接客等を含む場合、あるいは通勤、買物、家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合は、activity_levelを1.75程度とすればよい。測定対象者が移動や立位の多い仕事への従事者である場合、あるいはスポーツなど余暇における活発な運動習慣を持っている場合は、activity_levelを2.0程度とすればよい。このように、測定対象者の運動状況に応じてactivity_levelを適宜設定すればよい。
【0058】
[皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量Q3の算出]
次に、熱伝達・熱放射量算出部6は、第2測定部2によって測定された測定対象者近傍の温度Ta[t][℃]と、温度算出部11がΔt前に算出した、時刻tにおける時刻tにおける測定対象者の平均皮膚温の推定値Tsk[t][℃]と体幹部皮膚層USの温度の推定値TUS[t][℃]と四肢部皮膚層LSの温度の推定値TLS[t][℃]とに基づいて、測定対象者の体幹部Uにおける皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量Q3,U[W]、四肢部Lにおける皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量Q3,L[W]を算出する(図3ステップS105)。第2測定部2が測定対象者の衣服外の気温Ta[t][℃]を測定する場合、熱伝達・熱放射量Q3,U,Q3,Lは式(16)、式(17)のようになる。
【0059】
【数16】
【0060】
【数17】
【0061】
割合sf_conf_US,sf_conf_LSについては上記のとおりである。fcl_USは体幹部Uの衣服による伝熱効率を表す定数、fcl_LSは四肢部Lの衣服による伝熱効率を表す定数、coverageは四肢部Lを衣服が覆う割合[%]である。割合sf_conf_US,sf_conf_LS、定数fcl_US,fcl_LS、割合coverageは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよい。定数fcl_US,fcl_LS、割合coverageについては、測定対象者の服装に応じて適宜設定すればよい。
【0062】
HSは測定対象者の空気との熱交換係数[W/℃]である。熱伝達・熱放射量算出部6は、熱交換係数HS[W/℃]を式(18)により算出する。
【0063】
【数18】
【0064】
sfは測定対象者の体表面積[m2]である。熱伝達・熱放射量算出部6は、体表面積sf[m2]を測定対象者の重量weight[kg]と身長height[m]とから算出することができる。体表面積sf[m2]の算出式としては、DuBoisの式や藤本の式等の推定式がある。
【0065】
cmは対流熱伝達係数[W/℃/m2]、Hrは放射熱伝達係数[W/℃/m2]である。熱伝達・熱放射量算出部6は、対流熱伝達係数Hcm[W/℃/m2]、放射熱伝達係数Hr[W/℃/m2]を、それぞれ式(19)、式(20)により算出する。
【0066】
【数19】
【0067】
【数20】
【0068】
式(19)、式(20)は、文献「D.Fiala,et al.,“A computer model of human thermoregulation for a wide range of environmental conditions:the passive system”,Journal of Applied Physiology,1985」に開示されている。Vairは風速[m/s]である。熱伝達・熱放射量算出部6は、風速Vair[m/s]として、風速計等で測定された実測値を用いてもよいし、文献等で開示されている衣服内の風速の既知の値を用いてもよい。
【0069】
熱伝達・熱放射量算出部6は、第2測定部2が測定対象者の衣服内の温度Ta[t][℃]を測定する場合、熱伝達・熱放射量Q3,U,Q3,Lを式(21)、式(22)により算出する。
【0070】
【数21】
【0071】
【数22】
【0072】
[皮膚蒸散量Q4の算出]
次に、皮膚蒸散量算出部7は、第2測定部2によって測定された測定対象者近傍の温度Ta[t][℃]と、第3測定部3によって測定された測定対象者近傍の相対湿度humidity[t][%]と、温度算出部11がΔt前に算出した、時刻tにおける平均皮膚温の推定値Tsk[t][℃]と深部体温の推定値T[t][℃]とに基づいて、測定対象者の体幹部Uにおける皮膚蒸散量Q4,U[W]、四肢部Lにおける皮膚蒸散量Q4,L[W]をそれぞれ式(23)、式(24)により算出する(図3ステップS106)。
【0073】
【数23】
【0074】
【数24】
【0075】
sw_conf_USは測定対象者の体表面全体に対する体幹部Uの発汗量の割合[%]、sw_conf_LSは体表面全体に対する四肢部Lの発汗量の割合[%]である。割合sw_conf_US,sw_conf_LSは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。swは全身の皮膚蒸散量[W]である。皮膚蒸散量算出部7は、皮膚蒸散量sw[W]を式(25)により算出することができる。
【0076】
【数25】
【0077】
min(E,Emax)はEとEmaxのうちいずれか小さい方を採用することを意味する。Eは、測定対象者の皮膚における不感蒸散と有感蒸散の和[W]である。皮膚蒸散量算出部7は、不感蒸散と有感蒸散の和E[W]を式(26)により算出することができる。
【0078】
【数26】
【0079】
PIは測定対象者の皮膚における不感蒸散[W]、Qevは水の蒸発熱[J/g]である。不感蒸散PI[W]、蒸発熱Qev[J/g]は、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。swrateは有感蒸散[g/min]である。皮膚蒸散量算出部7は、有感蒸散swrate[g/min]を式(27)により算出することができる。
【0080】
【数27】
【0081】
式(27)は、文献「D.Fiala,et al.,“Computer prediction of human thermoregulatory and temperature responses to a wide range of environmental conditions”,International Journal of Biometeorology,volume 45,2001」に開示されている。aij,bij(i=1,2,j=0,1)は、発汗係数である。発汗係数aij,bijは、それぞれ既知の値であり、測定対象者の汗のかき易さに応じて実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。具体的には、low(汗をかき難い)、normal(普通)、high(汗をかき易い)の3水準に応じて、式(28)に示すように発汗係数aij,bijを設定すればよい。
【0082】
【数28】
【0083】
一方、Emaxは最大蒸発熱[W]である。皮膚蒸散量算出部7は、第2測定部2が測定対象者の衣服外の気温Ta[t][℃]を測定し、第3測定部3が測定対象者の衣服外の相対湿度humidity[t][%]を測定する場合、最大蒸発熱Emax[W]を式(29)により算出することができる。
【0084】
【数29】
【0085】
また、皮膚蒸散量算出部7は、第2測定部2が測定対象者の衣服内の温度Ta[t][℃]を測定し、第3測定部3が測定対象者の衣服内の相対湿度humidity[t][%]を測定する場合、最大蒸発熱Emax[W]を式(30)により算出することができる。
【0086】
【数30】
【0087】
割合sw_conf_US,sw_conf_LS,coverageについては上記のとおりである。fpcl_USは測定対象者の体幹部Uにおける衣服による伝熱効率を表す定数、fpcl_LSは四肢部Lにおける衣服による伝熱効率を表す定数、Emax_coefは最大蒸発熱に関する定数である。定数fpcl_US,fpcl_LS,Emax_coefは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。
【0088】
cは空気の風速に依存した対流による熱移動[W・m2/℃]である。皮膚蒸散量算出部7は、熱移動Hc[W・m2/℃]を式(31)により算出することができる。
【0089】
【数31】
【0090】
式(29)~式(31)は、文献「I.Laakso,et al.,“Dominant factors affecting temperature rise in simulations of human thermoregulation during RF exposure”,Physics in Medicine and Biology,Volume 56,2011」に開示されている。Psは測定対象者の皮膚層での飽和水蒸気圧[kPa]である。皮膚蒸散量算出部7は、飽和水蒸気圧Ps[kPa]を式(32)により算出することができる。
【0091】
【数32】
【0092】
aは湿度を計測している雰囲気中での飽和水蒸気圧[kPa]である。皮膚蒸散量算出部7は、飽和水蒸気圧Pa[kPa]を式(33)により算出することができる。
【0093】
【数33】
【0094】
[呼気蒸散量Q5の決定]
次に、呼気蒸散量設定部8は、測定対象者の呼気による蒸散量Q5[W]を式(34)のように設定する(図3ステップS107)。呼気蒸散量Q5[W]は、外気と測定対象者の深部間の熱交換量に相当する。
【0095】
【数34】
【0096】
[深部と皮膚間の熱交換量Q6の算出]
次に、熱交換量算出部9は、第1測定部1によって測定された心拍数HR[t][bpm]と、温度算出部11がΔt前に算出した、時刻tにおける体幹部皮膚層USの温度の推定値TUS[t][℃]と体幹部深部層UCの温度の推定値TUC[t][℃]と四肢部皮膚層LSの温度の推定値TLS[t][℃]と四肢部深部層LCの温度の推定値TLC[t][℃]と平均皮膚温の推定値Tsk[t][℃]と深部体温の推定値T[t][℃]とに基づいて、測定対象者の体幹部Uにおける深部と皮膚間の熱交換量Q6,U[W]、四肢部Lにおける深部と皮膚間の熱交換量Q6,L[W]をそれぞれ式(35)、式(36)により算出する(図3ステップS108)。
【0097】
【数35】
【0098】
【数36】
【0099】
割合sf_conf_US,sf_conf_LSについては上記のとおりである。hxは測定対象者の皮膚と深部間の熱交換係数である。熱交換量算出部9は、熱交換係数hxを式(37)により算出することができる。
【0100】
【数37】
【0101】
METs[t]については上記のとおりである。a,b,e,hx0,hx1,hx_maxは熱交換係数に関わるパラメータである。パラメータa,b,e,hx0,hx1,hx_maxは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、実験を通じて適宜設定すればよい。
【0102】
[体幹部と四肢部間の熱交換量Q7の算出]
次に、熱交換量算出部10は、温度算出部11がΔt前に算出した、時刻tにおける体幹部深部層UCの温度の推定値TUC[t][℃]と四肢部深部層LCの温度TLC[t][℃]と平均皮膚温の推定値Tsk[t][℃]と深部体温の推定値T[t][℃]とに基づいて、測定対象者の深部における体幹部Uと四肢部L間の熱交換量Q7[W]を式(38)により算出する(図3ステップS109)。
【0103】
【数38】
【0104】
hccは測定対象者の深部における体幹部Uと四肢部Lの熱交換係数である。熱交換量算出部10は、熱交換係数hccを式(39)により算出することができる。
【0105】
【数39】
【0106】
f,hcc0は熱交換係数に関わるパラメータである。パラメータf,hcc0は、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、実験を通じて適宜設定すればよい。hcc_Tは熱交換係数hccの温度寄与分、hcc_Mは熱交換係数hccのMETs寄与分である。熱交換量算出部10は、熱交換係数hccの温度寄与分hcc_Tを式(40)により算出することができる。
【0107】
【数40】
【0108】
hcc_Tmaxはhcc_Tの規定の上限値である。また、熱交換量算出部10は、熱交換係数hccのMETs寄与分hcc_Mを式(41)により算出することができる。
【0109】
【数41】
【0110】
hcc_Mmaxはhcc_Mの規定の上限値である。hcc1は熱交換係数に関わるパラメータである。上限値hcc_Tmax,hcc_Mmax、パラメータhcc1は、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、実験を通じて適宜設定すればよい。aveMETs[t]は、メッツ数の時間平均値(例えば、6分間の平均値)である。パラメータa,bについては上記のとおりである。
【0111】
こうして、発熱量算出部4と代謝量算出部5と熱伝達・熱放射量算出部6と皮膚蒸散量算出部7と呼気蒸散量設定部8と熱交換量算出部9と熱交換量算出部10とにより、各熱量Q1,U,Q1,L,Q2,US,Q2,UC,Q2,LS,Q2,LC,Q3,U,Q3,L,Q4,U,Q4,L,Q5,Q6,U,Q6,L,Q7を算出することができる。
【0112】
温度算出部11は、時刻tにおける測定対象者の体幹部皮膚層USの温度の推定値TUS[t][℃]と、体幹部皮膚層USの代謝量Q2,US[W]と、体幹部Uにおける皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量Q3,U[W]と、体幹部Uにおける皮膚蒸散量Q4,U[W]と、体幹部Uにおける深部と皮膚間の熱交換量Q6,U[W]とに基づいて、Δt後の体幹部皮膚層USの温度の推定値TUS[t+Δt][℃]を式(1)により算出する(図3ステップS110)。
【0113】
温度算出部11は、時刻tにおける測定対象者の体幹部深部層UCの温度の推定値TUC[t][℃]と、体幹部Uの深部層における発熱量Q1,U[W]と、体幹部深部層UCの代謝量Q2,UC[W]と、呼気蒸散量Q5[W]と、体幹部Uにおける深部と皮膚間の熱交換量Q6,U[W]と、深部における体幹部Uと四肢部L間の熱交換量Q7[W]とに基づいて、Δt後の体幹部深部層UCの温度の推定値TUC[t+Δt][℃]を式(2)により算出する(図3ステップS111)。
【0114】
温度算出部11は、時刻tにおける測定対象者の四肢部皮膚層LSの温度の推定値TLS[t][℃]と、四肢部皮膚層LSの代謝量Q2,LS[W]と、四肢部Lにおける皮膚と外気間の熱伝達・熱放射量Q3,L[W]と、四肢部Lにおける皮膚蒸散量Q4,L[W]と、四肢部Lにおける深部と皮膚間の熱交換量Q6,L[W]とに基づいて、Δt後の四肢部皮膚層LSの温度の推定値TLS[t+Δt][℃]を式(3)により算出する(図3ステップS112)。
【0115】
温度算出部11は、時刻tにおける測定対象者の四肢部深部層LCの温度の推定値TLC[t][℃]と、四肢部Lの深部層における発熱量Q1,L[W]と、四肢部深部層LCの代謝量Q2,LC[W]と、四肢部Lにおける深部と皮膚間の熱交換量Q6,L[W]と、深部における体幹部Uと四肢部L間の熱交換量Q7[W]とに基づいて、Δt後の四肢部深部層LCの温度の推定値TLC[t+Δt][℃]を式(4)により算出する(図3ステップS113)。
【0116】
こうして、温度の推定値TUS[t+Δt],TUC[t+Δt],TLS[t+Δt],TLC[t+Δt]をそれぞれ逐次計算することができる。
そして、温度算出部11は、Δt後の平均皮膚温の推定値Tsk[t+Δt][℃]を式(5)により算出する(図3ステップS114)。また、温度算出部11は、Δt後の深部体温の推定値T[t+Δt][℃]を式(6)により算出する(図3ステップS115)。
【0117】
深部体温推定装置は、以上のステップS100~S115の処理を周期Δt毎に行う。Δt後の次の計算では、直前の回で算出したTUS[t+Δt],TUC[t+Δt],TLS[t+Δt],TLC[t+Δt],Tsk[t+Δt],T[t+Δt]を、それぞれTUS[t],TUC[t],TLS[t],TLC[t],Tsk[t],T[t]として、ステップS100~S115の処理を行うようにすればよい。
【0118】
次に、ステップS100~S115の本計算の前に行う予備計算について説明する。本実施例では、以下の予備計算により測定環境中での測定対象者の各部位・各層の初期温度を推定した後、ステップS100~S115で説明した本計算によりΔt毎に測定対象者の深部体温を推定する。
【0119】
[各部位・各層の初期温度推定のための予備計算I]
図4は本実施例の深部体温推定装置の予備計算Iのときの動作を説明するフローチャートである。予備計算I(第1予備計算)では、温度中性域に相当する気温と湿度の等温・等湿度の温熱環境下において測定対象者の深部体温が一定で、測定対象者が安静状態で、測定対象者が衣服を着用していないという条件で、前記の熱量を算出して各部位・各層の温度を算出する処理を一定時間行う。
【0120】
具体的には、第1制御部13は、測定対象者近傍の温度Ta[t]=30[℃]、測定対象者近傍の相対湿度humidity[t]=0.5、測定対象者の体幹部皮膚層USの温度の初期値TUS[0]=35[℃]、体幹部深部層UCの温度の初期値TUC[0]=37.2[℃]、四肢部皮膚層LSの温度の初期値TLS[0]=35[℃]、四肢部深部層LCの温度の初期値TLC[0]=37.2[℃]と設定する(図4ステップS200)。
【0121】
また、第1制御部13は、体幹部Uの衣服による伝熱効率を表す定数fcl_US、四肢部Lの衣服による伝熱効率を表す定数fcl_LS、体幹部Uにおける衣服による伝熱効率を表す定数fpcl_US、四肢部Lにおける衣服による伝熱効率を表す定数fpcl_LSを全て1とし(fcl_US=fcl_LS=fpcl_US=fpcl_LS=1)、METs[t],aveMETs[t]を1とする(図4ステップS200)。
【0122】
さらに、第1制御部13は、式(5)、式(6)においてt+Δt=0として計算した値を平均皮膚温の初期値Tsk[0][℃]、深部体温の初期値T[0][℃]として設定し、基準温度Tsk0=Tsk[0][℃]、T0=T[0][℃]と設定する(図4ステップS200)。第1制御部13は、ステップS200で設定した値以外のパラメータについては、ステップS103~S115で説明した値を設定する。
【0123】
発熱量算出部4、代謝量算出部5、熱伝達・熱放射量算出部6、皮膚蒸散量算出部7、呼気蒸散量設定部8、熱交換量算出部9、熱交換量算出部10、温度算出部11の動作(図4ステップS201~S213)は、ステップS103~S115と同様である。ステップS103~S115と異なる設定についてはステップS200で説明したとおりである。
【0124】
第1制御部13は、t=0から一定の計算時間t=t1に達するまで(図4ステップS214においてYES)、ステップS201~S213の処理を周期Δt毎に実行させる。計算時間t1は、平均皮膚温の推定値Tsk[t+Δt][℃]が定常状態になる程度の値に設定しておけばよい。
【0125】
[各部位・各層の初期温度推定のための予備計算II]
図5は本実施例の深部体温推定装置の予備計算IIのときの動作を説明するフローチャートである。予備計算II(第1予備計算)では、予備計算Iにより計算した温度TUS[t+Δt],TUC[t+Δt],TLS[t+Δt],TLC[t+Δt],Tsk[t+Δt],T[t+Δt]の最終値を各部位・各層の温度の初期値として、温度中性域に相当する気温と湿度の等温・等湿度の温熱環境下において測定対象者が安静状態で、測定対象者が衣服を着用していないという条件で、前記の熱量を算出して各部位・各層の温度を算出する処理を一定時間行う。
【0126】
具体的には、第1制御部13は、測定対象者近傍の温度Ta[t]=30[℃]、測定対象者近傍の相対湿度humidity[t]=0.5とし、予備計算IでのTUS[t+Δt]の最終値を測定対象者の体幹部皮膚層USの温度の初期値TUS[0]、予備計算IでのTUC[t+Δt]の最終値を体幹部深部層UCの温度の初期値TUC[0]、予備計算IでのTLS[t+Δt]の最終値を四肢部皮膚層LSの温度の初期値TLS[0]、予備計算IでのTLC[t+Δt]の最終値を四肢部深部層LCの温度の初期値TLC[0]とする(図5ステップS300)。
【0127】
また、第1制御部13は、体幹部Uの衣服による伝熱効率を表す定数fcl_US、四肢部Lの衣服による伝熱効率を表す定数fcl_LS、体幹部Uにおける衣服による伝熱効率を表す定数fpcl_US、四肢部Lにおける衣服による伝熱効率を表す定数fpcl_LSを全て1とし(fcl_US=fcl_LS=fpcl_US=fpcl_LS=1)、METs[t],aveMETs[t]を1とする(図5ステップS300)。
【0128】
さらに、第1制御部13は、式(5)、式(6)においてt+Δt=0として計算した値を平均皮膚温の初期値Tsk[0]、深部体温の初期値T[0]として設定する(図5ステップS300)。第1制御部13は、ステップS300で設定した値以外のパラメータについては、ステップS103~S115で説明した値を設定する。なお、基準温度Tsk0,T0についてはステップS200で設定した値のままとする。
【0129】
発熱量算出部4、代謝量算出部5、熱伝達・熱放射量算出部6、皮膚蒸散量算出部7、呼気蒸散量設定部8、熱交換量算出部9、熱交換量算出部10、温度算出部11の動作(図5ステップS301~S313)は、ステップS103~S115と同様である。ステップS103~S115と異なる設定についてはステップS300で説明したとおりである。
【0130】
第1制御部13は、t=0から一定の計算時間t=t2に達するまで(図5ステップS314においてYES)、ステップS301~S313の処理を周期Δt毎に実行させる。計算時間t2は、深部体温の推定値T[t+Δt][℃]が定常状態になる程度の値に設定しておけばよい。
なお、予備計算I、予備計算IIの場合、熱伝達・熱放射量算出部6は、式(16)、式(17)を用いてもよいし、式(21)、式(22)を用いてもよい。
【0131】
[各部位・各層の初期温度推定のための予備計算III]
図6は本実施例の深部体温推定装置の予備計算IIIのときの動作を説明するフローチャートである。予備計算III(第2予備計算)では、予備計算IIにより計算した温度TUS[t+Δt],TUC[t+Δt],TLS[t+Δt],TLC[t+Δt],Tsk[t+Δt],T[t+Δt]の最終値を各部位・各層の温度の初期値として、測定対象者が安静状態で、測定対象者が衣服を着用しているという条件で、前記の熱量を算出して各部位・各層の温度を算出する処理を一定時間行う。
【0132】
具体的には、第2制御部14は、予備計算IIでのTUS[t+Δt]の最終値を測定対象者の体幹部皮膚層USの温度の初期値TUS[0]、予備計算IIでのTUC[t+Δt]の最終値を体幹部深部層UCの温度の初期値TUC[0]、予備計算IIでのTLS[t+Δt]の最終値を四肢部皮膚層LSの温度の初期値TLS[0]、予備計算IIでのTLC[t+Δt]の最終値を四肢部深部層LCの温度の初期値TLC[0]とする(図6ステップS400)。
【0133】
また、第2制御部14は、METs[t],aveMETs[t]を1とする。さらに、第2制御部14は、式(5)、式(6)においてt+Δt=0として計算した値を平均皮膚温の初期値Tsk[0]、深部体温の初期値T[0]として設定し、基準温度Tsk0=Tsk[0][℃]、T0=T[0][℃]と設定する(図6ステップS400)。第2制御部14は、ステップS400で設定した値以外のパラメータについては、ステップS103~S115で説明した値を設定する。
【0134】
第2測定部2は、測定対象者近傍の温度(測定対象者の雰囲気の気温)を測定する(図6ステップS401)。第3測定部3は、測定対象者近傍の湿度(測定対象者の雰囲気の湿度)を測定する(図6ステップS402)。
【0135】
発熱量算出部4、代謝量算出部5、熱伝達・熱放射量算出部6、皮膚蒸散量算出部7、呼気蒸散量設定部8、熱交換量算出部9、熱交換量算出部10、温度算出部11の動作(図6ステップS403~S415)は、ステップS103~S115と同様である。ステップS103~S115と異なる設定についてはステップS400で説明したとおりである。
【0136】
第2制御部14は、t=0から一定の計算時間t=t3に達するまで(図6ステップS416においてYES)、ステップS401~S415の処理を周期Δt毎に実行させる。計算時間t3は、深部体温の推定値T[t+Δt][℃]が定常状態になる程度の値に設定しておけばよい。
【0137】
なお、予備計算I、予備計算II、予備計算IIIでは、測定対象者の状態を安静状態、すなわちMETs[t]=aveMETs[t]=1とするため、心拍数の測定は不要である。また、予備計算IIIでは、熱伝達・熱放射量算出部6は、本計算と同様に、第2測定部2が測定対象者の衣服外の気温Ta[t][℃]を測定する場合、式(16)、式(17)を用い、第2測定部2が測定対象者の衣服内の温度Ta[t][℃]を測定する場合、式(21)、式(22)を用いるようにすればよい。
【0138】
[本計算]
本計算では、予備計算IIIにより計算した温度TUS[t+Δt],TUC[t+Δt],TLS[t+Δt],TLC[t+Δt],Tsk[t+Δt],T[t+Δt]の最終値を各部位・各層の温度の初期値として、ステップS100~S115の処理を行う。
【0139】
図7は本計算のときの第3制御部15の動作を説明するフローチャートである。第3制御部15は、本計算に先立って、予備計算IIIでのTUS[t+Δt]の最終値を測定対象者の体幹部皮膚層USの温度の初期値TUS[0]、予備計算IIIでのTUC[t+Δt]の最終値を体幹部深部層UCの温度の初期値TUC[0]、予備計算IIIでのTLS[t+Δt]の最終値を四肢部皮膚層LSの温度の初期値TLS[0]、予備計算IIIでのTLC[t+Δt]の最終値を四肢部深部層LCの温度の初期値TLC[0]とする(図7ステップS500)。
【0140】
さらに、第3制御部15は、式(5)、式(6)においてt+Δt=0として計算した値を平均皮膚温の初期値Tsk[0]、深部体温の初期値T[0]として設定する(図7ステップS500)。基準温度Tsk0,T0についてはステップS400で設定した値のままとする。
そして、第3制御部15は、ステップS100~S115の処理を開始させる。
【0141】
以上のように、本実施例では、測定対象者の心拍数と測定対象者近傍の温度だけでなく、測定対象者近傍の湿度を測定して、測定対象者の各部位・各層に流入出する熱量を算出し、算出した熱量から測定対象者の深部体温を推定するので、従来よりも高精度に深部体温を推定することができる。また、本実施例では、本計算に先立って予備計算を行うことにより、各部位・各層の温度の初期値を設定することができる。
【0142】
なお、本実施例では、測定対象者の心拍数を用いる場合について説明しているが、心拍数の代わりに脈拍数を用いてもよい。
【0143】
本実施例の発熱量算出部4と代謝量算出部5と熱伝達・熱放射量算出部6と皮膚蒸散量算出部7と呼気蒸散量設定部8と熱交換量算出部9と熱交換量算出部10と温度算出部11と第1制御部13と第2制御部14と第3制御部15とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図8に示す。
【0144】
コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インタフェース装置(I/F)202とを備えている。I/F202には、第1測定部1と第2測定部2と第3測定部3などが接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の深部体温推定方法を実現させるための深部体温推定プログラムは記憶装置201に格納される。CPU200は、記憶装置201に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。プログラムをネットワークを通して提供することも可能である。
【0145】
また、発熱量算出部4と代謝量算出部5と熱伝達・熱放射量算出部6と皮膚蒸散量算出部7と呼気蒸散量設定部8と熱交換量算出部9と熱交換量算出部10と温度算出部11と第1制御部13と第2制御部14と第3制御部15とを、複数のコンピュータ機器に分散させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明は、人体の深部体温を推定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0147】
1… 第1測定部、2…第2測定部、3…第3測定部、4…発熱量算出部、5…代謝量算出部、6…熱伝達・熱放射量算出部、7…皮膚蒸散量算出部、8…呼気蒸散量設定部、9…熱交換量算出部、10…熱交換量算出部、11…温度算出部、12…熱量算出部、13…第1制御部、14…第2制御部、15…第3制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8