(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】深部体温推定装置、深部体温推定方法および深部体温推定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/01 20060101AFI20241024BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20241024BHJP
G01K 13/20 20210101ALI20241024BHJP
G01K 17/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61B5/01 100
A61B5/02 G
A61B5/01 250
G01K13/20 331
G01K17/00 Z
(21)【出願番号】P 2021007044
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 優生
(72)【発明者】
【氏名】桑原 啓
(72)【発明者】
【氏名】都甲 浩芳
(72)【発明者】
【氏名】高河原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石原 隆子
(72)【発明者】
【氏名】平田 晃正
(72)【発明者】
【氏名】上松 涼太
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-065823(JP,A)
【文献】特開2017-217224(JP,A)
【文献】特開2016-028662(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0134396(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00- 5/01
A61B 5/02- 5/03
A61B 5/06- 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象者の身体が第1部位と第2部位の2部位で構成され、前記第1部位と前記第2部位がそれぞれ深部層と皮膚層の2層を有するものとみなしてモデル化した場合において前記測定対象者の深部温度を推定する深部体温推定装置であって、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数を測定するように構成された第1測定部と、
前記測定対象者の皮膚温度を測定するように構成された第2測定部と、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度とに基づいて、前記測定対象者の第1部位と第2部位の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出するように構成された熱量算出部と、
前記熱量に基づいて、前記測定対象者の前記第1部位の深部温度と前記第2部位の深部温度とを算出するように構成された温度算出部とを備え
、
前記第1部位は、前記測定対象者の体幹部であり、
前記第2部位は、前記測定対象者の四肢部であり、
前記熱量算出部は、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数に基づいて、前記測定対象者の運動による前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの発熱量を算出するように構成された発熱量算出部と、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記温度算出部によって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量を算出するように構成された第1熱交換量算出部と、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記温度算出部によって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量を算出するように構成された第2熱交換量算出部と、
前記温度算出部によって直前に算出された深部温度に基づいて、前記測定対象者の体幹部深部層の代謝量と四肢部深部層の代謝量を算出するように構成された代謝量算出部と、
外気と前記測定対象者の深部間の第3熱交換量を設定するように構成された第3熱交換量設定部とを含み、
前記温度算出部は、前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの前記発熱量と、前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の前記第1熱交換量と、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の前記第2熱交換量と、前記体幹部深部層の前記代謝量と前記四肢部深部層の前記代謝量と、外気と前記測定対象者の深部間の前記第3熱交換量と、前記測定対象者の前記体幹部深部層の熱容量と前記四肢部深部層の熱容量とに基づいて、前記体幹部深部層の温度の推定値と前記四肢部深部層の温度の推定値とを算出することを特徴とする深部体温推定装置。
【請求項2】
測定対象者の心拍数または脈拍数を測定するように構成された第1測定部と、
前記測定対象者の皮膚温度を測定するように構成された第2測定部と、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度とに基づいて、前記測定対象者の第1部位と第2部位の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出するように構成された熱量算出部と、
前記熱量に基づいて、前記測定対象者の深部温度を算出するように構成された温度算出部とを備え、
前記第1部位は、前記測定対象者の体幹部であり、
前記第2部位は、前記測定対象者の四肢部であり、
前記熱量算出部は、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数に基づいて、前記測定対象者の運動による前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの発熱量を算出するように構成された発熱量算出部と、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記温度算出部によって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量を算出するように構成された第1熱交換量算出部と、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記温度算出部によって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量を算出するように構成された第2熱交換量算出部と、
前記温度算出部によって直前に算出された深部温度に基づいて、前記測定対象者の体幹部深部層の代謝量と四肢部深部層の代謝量を算出するように構成された代謝量算出部と、
外気と前記測定対象者の深部間の第3熱交換量を設定するように構成された第3熱交換量設定部とを含み、
前記温度算出部は、
前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部の発熱量Q
1,U,Q
1,L、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量Q
4,U,Q
4,L、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量Q
5、外気と前記測定対象者の深部間の第3熱交換量Q
3、前記測定対象者の体幹部深部層の代謝量Q
2,U、四肢部深部層の代謝量Q
2,L、前記測定対象者の体幹部深部層の熱容量WC
UC、四肢部深部層の熱容量WC
LC、直前に算出した体幹部深部層の温度の推定値T
UC[t]、四肢部深部層の温度の推定値T
LC[t]に基づいて、
【数1】
により、時刻(t+Δt)における体幹部深部層の温度の推定値T
UC[t+Δt]、四肢部深部層の温度の推定値T
LC[t+Δt]を算出することを特徴とする深部体温推定装置。
【請求項3】
請求項
1または2記載の深部体温推定装置において、
前記第2測定部は、前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの皮膚温度を測定し、
前記第1熱交換量算出部は、前記第2測定部の測定結果を用いて前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量を算出し、
前記第2熱交換量算出部は、前記第2測定部の測定結果を用いて前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量を算出することを特徴とする深部体温推定装置。
【請求項4】
測定対象者の身体が第1部位と第2部位の2部位で構成され、前記第1部位と前記第2部位がそれぞれ深部層と皮膚層の2層を有するものとみなしてモデル化した場合において前記測定対象者の深部温度を推定する深部体温推定方法であって、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数を測定する第1ステップと、
前記測定対象者の皮膚温度を測定する第2ステップと、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度とに基づいて、前記測定対象者の第1部位と第2部位の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出する第3ステップと、
前記熱量に基づいて、前記測定対象者の前記第1部位の深部温度と前記第2部位の深部温度とを算出する第4ステップとを含
み、
前記第1部位は、前記測定対象者の体幹部であり、
前記第2部位は、前記測定対象者の四肢部であり、
前記第3ステップは、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数に基づいて、前記測定対象者の運動による前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの発熱量を算出する発熱量算出ステップと、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記第4ステップによって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量を算出する第1熱交換量算出ステップと、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記第4ステップによって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量を算出する第2熱交換量算出ステップと、
前記第4ステップによって直前に算出された深部温度に基づいて、前記測定対象者の体幹部深部層の代謝量と四肢部深部層の代謝量を算出する代謝量算出ステップと、
外気と前記測定対象者の深部間の第3熱交換量を設定する第3熱交換量設定ステップとを含み、
前記第4ステップは、前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの前記発熱量と、前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の前記第1熱交換量と、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の前記第2熱交換量と、前記体幹部深部層の前記代謝量と前記四肢部深部層の前記代謝量と、外気と前記測定対象者の深部間の前記第3熱交換量と、前記測定対象者の前記体幹部深部層の熱容量と前記四肢部深部層の熱容量とに基づいて、前記体幹部深部層の温度の推定値と前記四肢部深部層の温度の推定値とを算出するステップを含むことを特徴とする深部体温推定方法。
【請求項5】
測定対象者の心拍数または脈拍数を測定する第1ステップと、
前記測定対象者の皮膚温度を測定する第2ステップと、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度とに基づいて、前記測定対象者の第1部位と第2部位の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出する第3ステップと、
前記熱量に基づいて、前記測定対象者の深部温度を算出する第4ステップとを含み、
前記第1部位は、前記測定対象者の体幹部であり、
前記第2部位は、前記測定対象者の四肢部であり、
前記第3ステップは、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数に基づいて、前記測定対象者の運動による前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの発熱量を算出する発熱量算出ステップと、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記第4ステップによって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量を算出する第1熱交換量算出ステップと、
前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記第4ステップによって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量を算出する第2熱交換量算出ステップと、
前記第4ステップによって直前に算出された深部温度に基づいて、前記測定対象者の体幹部深部層の代謝量と四肢部深部層の代謝量を算出する代謝量算出ステップと、
外気と前記測定対象者の深部間の第3熱交換量を設定する第3熱交換量設定ステップとを含み、
前記第4ステップは、
前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部の発熱量Q
1,U,Q
1,L、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量Q
4,U,Q
4,L、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量Q
5、外気と前記測定対象者の深部間の第3熱交換量Q
3、前記測定対象者の体幹部深部層の代謝量Q
2,U、四肢部深部層の代謝量Q
2,L、前記測定対象者の体幹部深部層の熱容量WC
UC、四肢部深部層の熱容量WC
LC、直前に算出した体幹部深部層の温度の推定値T
UC[t]、四肢部深部層の温度の推定値T
LC[t]に基づいて、
【数2】
により、時刻(t+Δt)における体幹部深部層の温度の推定値T
UC[t+Δt]、四肢部深部層の温度の推定値T
LC[t+Δt]を算出するステップを含むことを特徴とする深部体温推定方法。
【請求項6】
請求項
4または
5記載の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とする深部体温推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象者の深部体温を推定する深部体温推定装置、深部体温推定方法および深部体温推定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、熱中症により多くの人が救急搬送されており、2019年5月から9月の全国における熱中症による救急搬送者数の累計は、71317人であった(非特許文献1参照)。熱中症の診療や熱中症のリスク軽減のために、深部体温の測定が有効であるといわれている(非特許文献2参照)。
【0003】
深部体温を監視するためには、直腸温、膀胱温、食道温などを測定する必要があり、日常生活のなかでこれらの測定を実施することは難しい。そこで、深部体温を推定する方法として、測定対象者の心拍数、雰囲気の気温から深部温度を簡易的に推定する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、深部体温の推定精度が低いという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“2019年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況”,総務省,[2020年3月31日検索],<https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/heatstroke_geppou_2019.pdf>
【文献】“熱中症診療ガイドライン 2015”,一般社団法人日本救急医学会,2015年,[2019年3月31日検索],<https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/heatstroke2015.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、測定対象者の深部体温を従来よりも高精度に推定することができる深部体温推定装置、深部体温推定方法および深部体温推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、測定対象者の身体が第1部位と第2部位の2部位で構成され、前記第1部位と前記第2部位がそれぞれ深部層と皮膚層の2層を有するものとみなしてモデル化した場合において前記測定対象者の深部温度を推定する深部体温推定装置であって、前記測定対象者の心拍数または脈拍数を測定するように構成された第1測定部と、前記測定対象者の皮膚温度を測定するように構成された第2測定部と、前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度とに基づいて、前記測定対象者の第1部位と第2部位の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出するように構成された熱量算出部と、前記熱量に基づいて、前記測定対象者の前記第1部位の深部温度と前記第2部位の深部温度とを算出するように構成された温度算出部とを備え、前記第1部位は、前記測定対象者の体幹部であり、前記第2部位は、前記測定対象者の四肢部であり、前記熱量算出部は、前記測定対象者の心拍数または脈拍数に基づいて、前記測定対象者の運動による前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの発熱量を算出するように構成された発熱量算出部と、前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記温度算出部によって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量を算出するように構成された第1熱交換量算出部と、前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記温度算出部によって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量を算出するように構成された第2熱交換量算出部と、前記温度算出部によって直前に算出された深部温度に基づいて、前記測定対象者の体幹部深部層の代謝量と四肢部深部層の代謝量を算出するように構成された代謝量算出部と、外気と前記測定対象者の深部間の第3熱交換量を設定するように構成された第3熱交換量設定部とを含み、前記温度算出部は、前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの前記発熱量と、前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の前記第1熱交換量と、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の前記第2熱交換量と、前記体幹部深部層の前記代謝量と前記四肢部深部層の前記代謝量と、外気と前記測定対象者の深部間の前記第3熱交換量と、前記測定対象者の前記体幹部深部層の熱容量と前記四肢部深部層の熱容量とに基づいて、前記体幹部深部層の温度の推定値と前記四肢部深部層の温度の推定値とを算出することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の深部体温推定装置は、測定対象者の心拍数または脈拍数を測定するように構成された第1測定部と、前記測定対象者の皮膚温度を測定するように構成された第2測定部と、前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度とに基づいて、前記測定対象者の第1部位と第2部位の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出するように構成された熱量算出部と、前記熱量に基づいて、前記測定対象者の深部温度を算出するように構成された温度算出部とを備え、前記第1部位は、前記測定対象者の体幹部であり、前記第2部位は、前記測定対象者の四肢部であり、前記熱量算出部は、前記測定対象者の心拍数または脈拍数に基づいて、前記測定対象者の運動による前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの発熱量を算出するように構成された発熱量算出部と、前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記温度算出部によって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量を算出するように構成された第1熱交換量算出部と、前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記温度算出部によって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量を算出するように構成された第2熱交換量算出部と、前記温度算出部によって直前に算出された深部温度に基づいて、前記測定対象者の体幹部深部層の代謝量と四肢部深部層の代謝量を算出するように構成された代謝量算出部と、外気と前記測定対象者の深部間の第3熱交換量を設定するように構成された第3熱交換量設定部とを含み、前記温度算出部は、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部の発熱量Q1,U,Q1,L、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量Q4,U,Q4,L、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量Q5、外気と前記測定対象者の深部間の第3熱交換量Q3、前記測定対象者の体幹部深部層の代謝量Q2,U、四肢部深部層の代謝量Q2,L、前記測定対象者の体幹部深部層の熱容量WCUC、四肢部深部層の熱容量WCLC、直前に算出した体幹部深部層の温度の推定値TUC[t]、四肢部深部層の温度の推定値TLC[t]に基づいて、時刻(t+Δt)における体幹部深部層の温度の推定値TUC[t+Δt]、四肢部深部層の温度の推定値TLC[t+Δt]を算出することを特徴とするものである。
また、本発明の深部体温推定装置の1構成例において、前記第2測定部は、前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの皮膚温度を測定し、前記第1熱交換量算出部は、前記第2測定部の測定結果を用いて前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量を算出し、前記第2熱交換量算出部は、前記第2測定部の測定結果を用いて前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量を算出することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明は、測定対象者の身体が第1部位と第2部位の2部位で構成され、前記第1部位と前記第2部位がそれぞれ深部層と皮膚層の2層を有するものとみなしてモデル化した場合において前記測定対象者の深部温度を推定する深部体温推定方法であって、前記測定対象者の心拍数または脈拍数を測定する第1ステップと、前記測定対象者の皮膚温度を測定する第2ステップと、前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度とに基づいて、前記測定対象者の第1部位と第2部位の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出する第3ステップと、前記熱量に基づいて、前記測定対象者の前記第1部位の深部温度と前記第2部位の深部温度とを算出する第4ステップとを含み、前記第1部位は、前記測定対象者の体幹部であり、前記第2部位は、前記測定対象者の四肢部であり、前記第3ステップは、前記測定対象者の心拍数または脈拍数に基づいて、前記測定対象者の運動による前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの発熱量を算出する発熱量算出ステップと、前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記第4ステップによって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量を算出する第1熱交換量算出ステップと、前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記第4ステップによって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量を算出する第2熱交換量算出ステップと、前記第4ステップによって直前に算出された深部温度に基づいて、前記測定対象者の体幹部深部層の代謝量と四肢部深部層の代謝量を算出する代謝量算出ステップと、外気と前記測定対象者の深部間の第3熱交換量を設定する第3熱交換量設定ステップとを含み、前記第4ステップは、前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの前記発熱量と、前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の前記第1熱交換量と、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の前記第2熱交換量と、前記体幹部深部層の前記代謝量と前記四肢部深部層の前記代謝量と、外気と前記測定対象者の深部間の前記第3熱交換量と、前記測定対象者の前記体幹部深部層の熱容量と前記四肢部深部層の熱容量とに基づいて、前記体幹部深部層の温度の推定値と前記四肢部深部層の温度の推定値とを算出するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の深部体温推定方法は、測定対象者の心拍数または脈拍数を測定する第1ステップと、前記測定対象者の皮膚温度を測定する第2ステップと、前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度とに基づいて、前記測定対象者の第1部位と第2部位の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出する第3ステップと、前記熱量に基づいて、前記測定対象者の深部温度を算出する第4ステップとを含み、前記第1部位は、前記測定対象者の体幹部であり、前記第2部位は、前記測定対象者の四肢部であり、前記第3ステップは、前記測定対象者の心拍数または脈拍数に基づいて、前記測定対象者の運動による前記体幹部と前記四肢部のそれぞれの発熱量を算出する発熱量算出ステップと、前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記第4ステップによって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量を算出する第1熱交換量算出ステップと、前記測定対象者の心拍数または脈拍数と皮膚温度と前記第4ステップによって直前に算出された深部温度とに基づいて、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量を算出する第2熱交換量算出ステップと、前記第4ステップによって直前に算出された深部温度に基づいて、前記測定対象者の体幹部深部層の代謝量と四肢部深部層の代謝量を算出する代謝量算出ステップと、外気と前記測定対象者の深部間の第3熱交換量を設定する第3熱交換量設定ステップとを含み、前記第4ステップは、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部の発熱量Q1,U,Q1,L、前記測定対象者の前記体幹部と前記四肢部のそれぞれにおける深部と皮膚間の第1熱交換量Q4,U,Q4,L、前記測定対象者の深部における前記体幹部と前記四肢部間の第2熱交換量Q5、外気と前記測定対象者の深部間の第3熱交換量Q3、前記測定対象者の体幹部深部層の代謝量Q2,U、四肢部深部層の代謝量Q2,L、前記測定対象者の体幹部深部層の熱容量WCUC、四肢部深部層の熱容量WCLC、直前に算出した体幹部深部層の温度の推定値TUC[t]、四肢部深部層の温度の推定値TLC[t]に基づいて、時刻(t+Δt)における体幹部深部層の温度の推定値TUC[t+Δt]、四肢部深部層の温度の推定値TLC[t+Δt]を算出するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の深部体温推定プログラムは、前記の各ステップをコンピュータに実行させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、測定対象者の心拍数だけでなく、測定対象者の皮膚温度を測定して、測定対象者の第1部位と第2部位の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出し、算出した熱量から測定対象者の深部体温を推定するので、従来よりも高精度に深部体温を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施例に係る深部体温推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、測定対象者の身体の2部位2層モデルと、測定対象者の各部位・各層に流入出する熱量を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例に係る深部体温推定装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の実施例に係る深部体温推定装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施例に係る深部体温推定装置の構成を示すブロック図である。深部体温推定装置は、第1測定部1と、第2測定部2と、発熱量算出部3と、代謝量算出部4と、呼気蒸散量設定部5(第3熱交換量設定部)と、熱交換量算出部6(第1熱交換量算出部)と、熱交換量算出部7(第2熱交換量算出部)と、温度算出部8とを備えている。
発熱量算出部3と代謝量算出部4と呼気蒸散量設定部5と熱交換量算出部6と熱交換量算出部7とは、熱量算出部9を構成している。
【0016】
第1測定部1は、測定対象者の心拍数または脈拍数を測定する。第1測定部1は、例えば、測定対象者の心電位を計測するウエア型あるいはベルト型の心電計と、心電計が計測した心電位から心拍数を算出する算出部とから構成される。あるいは、第1測定部1は、測定対象者の脈波を計測する腕時計型あるいはイヤホン型の脈波計と、脈波計が計測した脈波から心拍数(脈拍数)を算出する算出部とから構成される。
【0017】
第2測定部2は、測定対象者の皮膚温度を測定する。第2測定部2は、例えば温度計から構成される。第2測定部2は、第1測定部と一体化した温度計であってもよい。また、第2測定部2を複数の温度計から構成し、測定対象者の複数個所の皮膚温度を測定する構成とすることもできる。
【0018】
また、第2測定部2を赤外線サーモグラフィから構成してもよい。赤外線サーモグラフィは、測定対象者から放射された赤外線放射エネルギーを検出して、見かけの温度に変換し、温度分布を示す画像データとして計測する。第2測定部を赤外線サーモグラフィから構成することで、測定対象者の所定の領域の皮膚温度を測定することができる。
第1測定部1と第2測定部2とは、一体型の測定器でもよいし、個別の測定器でもよい。
【0019】
熱量算出部9は、測定対象者の心拍数と皮膚温度とに基づいて、測定対象者の体幹部(第1部位)と四肢部(第2部位)の深部と皮膚とに流入出する熱量を算出する。
温度算出部8は、熱量算出部9によって算出された熱量に基づいて、測定対象者の深部温度を算出する。
【0020】
[深部体温推定方法:時間ステップごとの深部体温変化の計算方法]
本発明は、
図2に示すように、測定対象者の身体が体幹部Uと四肢部Lの2部位で構成され、体幹部Uと四肢部Lの2部位がそれぞれ深部層Cと皮膚層Sの2層を有するものとみなす。すなわち、測定対象者の身体は、体幹部深部層UCと、体幹部皮膚層USと、四肢部深部層LCと、四肢部皮膚層LSとからなる。本発明は、取得する皮膚温度と心拍数情報とを基に、測定対象者の各部位・各層に流入出する、時々刻々と変化する熱量を算出し、熱量の変化から、測定対象者の各部位・各層の温度変化を推定する。
【0021】
本実施例では、センサデータを取得する時間ステップごとの深部体温変化の計算方法を説明する。本実施例では、上述のとおり、測定対象者の身体を体幹部と四肢部の2部位で構成されるものとみなした場合の計算例を記載しているが、体幹部を上半身に置き替え、四肢部を下半身に置き替えてもよい。つまり、測定対象者の身体を第1部位と第2部位の任意の2部位で構成されるものとしてよい。
【0022】
式(1)、式(2)に、それぞれ測定対象者の体幹部深部層UCの温度変化、四肢部深部層LCの温度変化を推定する式の例を示す。TUC[t]は時刻tにおける体幹部深部層UCの温度[℃]、TLC[t]は時刻tにおける四肢部深部層LCの温度[℃]である。
【0023】
【0024】
【0025】
Q1,Uは測定対象者の運動による体幹部Uの発熱量[W]、Q1,Lは運動による四肢部Lの発熱量[W]である。Q2,Uは測定対象者の体幹部深部層UCの代謝量[W]、Q2,Lは四肢部深部層LCの代謝量[W]である。Q3(第3熱交換量)は測定対象者の呼気蒸散量[W]である。Q4,U(第1熱交換量)は測定対象者の体幹部Uにおける深部と皮膚間の熱交換量[W]、Q4,L(第1熱交換量)は四肢部Lにおける深部と皮膚間の熱交換量[W]である。Q5(第2熱交換量)は測定対象者の深部における体幹部Uと四肢部L間の熱交換量[W]である。
【0026】
WCUCは測定対象者の体幹部深部層UCの熱容量[J/℃]、WCLCは四肢部深部層LCの熱容量[J/℃]である。Δtは計算ステップ時間であり、例えば1[s]以下とする。また、時刻tにおける平均皮膚温Tsk[t]は式(3)のようになる。時刻t+Δtにおける深部体温T[t+Δt]は式(4)のようになる。
【0027】
【0028】
【0029】
sf_conf_USは測定対象者の体表面全体に対する体幹部Uの表面積の割合[%]、sf_conf_LSは体表面全体に対する四肢部Lの表面積の割合[%]である。熱容量WCUC,WCLC、割合sf_conf_US,sf_conf_LSは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。TUS[t]は時刻tにおける体幹部皮膚層USの温度[℃]、TLS[t]は時刻tにおける四肢部皮膚層LSの温度[℃]である。TUS[t],TLS[t]は第2測定部2によって測定される。
【0030】
図3は本実施例の深部体温推定装置の動作を説明するフローチャートである。第1測定部1は、測定対象者の心拍数を測定する(
図3ステップS100)。第2測定部2は、測定対象者の皮膚温度を測定する(
図3ステップS101)。このとき、第2測定部2は、少なくとも体幹部Uと四肢部Lの2箇所の皮膚温度を測定する。
【0031】
[平均皮膚温T
skの算出]
温度算出部8は、第2測定部2によって測定された体幹部皮膚層USの温度T
US[t][℃]と四肢部皮膚層LSの温度T
LS[t][℃]とに基づいて、時刻tにおける平均皮膚温T
sk[t]を式(3)のように算出する(
図3ステップS102)。
【0032】
[運動による発熱量Q
1の算出]
次に、発熱量算出部3は、第1測定部1によって測定された心拍数に基づいて、測定対象者の運動による体幹部Uの深部層における発熱量Q
1,U[W]、運動による四肢部Lの深部層における発熱量Q
1,L[W]をそれぞれ式(5)、式(6)のように算出する(
図3ステップS103)。
【0033】
【0034】
【0035】
式(5)、式(6)は、文献「“健康づくりのための運動指針2006 ~生活習慣病予防のために~”,厚生労働省,2006年,<https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/07/dl/s0719-3c.pdf>」に開示されている。weightは測定対象者の重量[kg]、ex_conf_Uは測定対象者の全身に対する体幹部Uの筋肉量の割合[%]、ex_conf_Lは全身に対する四肢部Lの筋肉量の割合[%]である。重量weight、割合ex_conf_U,ex_conf_Lは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。
【0036】
また、METs[t]はメッツ数を表している。発熱量算出部3は、第1測定部1が取得した時刻tにおける心拍数HR[t][bpm]、安静時心拍数HRrest、最大心拍数HRmaxを用いて、式(7)または式(8)のいずれか一方の式によりMETs[t]を算出すればよい。
【0037】
【0038】
【0039】
式(8)は、文献「J.R.Wicks,et al.,“HR Index-A Simple Method for the Prediction of Oxygen Uptake”,Medicine and Science in Sports and Exercise,2011」に開示されている。
安静時心拍数HRrest、最大心拍数HRmaxは、それぞれ過去の測定で得られた既知の値として、実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。また、式(5)、式(6)で用いるMETs[t]に関しては、瞬時値だけでなく、時間平均値(例えば、6分間の平均値)を用いてもよい。
【0040】
[代謝量Q
2の算出]
次に、代謝量算出部4は、温度算出部8がΔt前に算出した、時刻tにおける深部体温の推定値T[t][℃]に基づいて、測定対象者の体幹部深部層UCの代謝量Q
2,U[W]、四肢部深部層LCの代謝量Q
2,L[W]をそれぞれ式(9)、式(10)のように算出する(
図3ステップS104)。
【0041】
【0042】
【0043】
式(9)、式(10)は、文献「Ronald J Spiegel,“A Review of Numerical Models for Predicting the Energy Deposition and Resultant Thermal Response of Humans Exposed to Electromagnetic Fields”,IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques,Volume32,Issue8,1984」に開示されている。Askinは代謝に関する定数、volume_USは測定対象者の体幹部皮膚層USの体積[m3]、volume_LSは四肢部皮膚層LSの体積[m3]、weight_Uは測定対象者の体幹部Uの重量[kg]、weight_Lは四肢部Lの重量[kg]である。定数Askin、体積volume_US,volume_LS、重量weight_U,weight_Lは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。
【0044】
T[0]は深部体温T[t]の演算時の初期値である。本実施例では、深部体温T[t]の初期値T[0]として、別の温度測定装置によって測定した実測値または一般的な安静時の既知の値などの実際に即した値を用いる。時刻t=0の初回の代謝量Q2の算出では、T[t]=T[0]である。
また、代謝量算出部4は、式(9)、式(10)のMを式(11)のように算出する。
【0045】
【0046】
式(11)は、文献「AA Ganpule,et al.,“Interindividual variability in sleeping metabolic rate in Japanese subjects”,European Journal of Clinical Nutrition,volume 61,2007」に開示されている。weight_Cは測定対象者の深部の重量[kg]、heightは測定対象者の身長[cm]、ageは測定対象者の年齢である。sexcoefは測定対象者が男性の場合に0.5473、測定対象者が女性の場合に0.5473×2となる定数である。activity_levelは身体活動レベル、Acoefは代謝調整用のパラメータである。重量weight_C、身長height、年齢age、定数sexcoef、activity_level、パラメータAcoefは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、計算の実施において適宜設定すればよい。
【0047】
activity_levelの設定例としては、測定対象者の生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合は1.5程度とすればよい。測定対象者が座位中心の仕事をしているが、職場内での移動や立位での作業、接客等を含む場合、あるいは通勤、買物、家事、軽いスポーツ等のいずれかを含む場合は、activity_levelを1.75程度とすればよい。測定対象者が移動や立位の多い仕事への従事者である場合、あるいはスポーツなど余暇における活発な運動習慣を持っている場合は、activity_levelを2.0程度とすればよい。このように、測定対象者の運動状況に応じてactivity_levelを適宜設定すればよい。
【0048】
[呼気蒸散量Q
3の設定]
次に、呼気蒸散量設定部5は、測定対象者の呼気による蒸散量Q
3[W]を式(12)のように設定する(
図3ステップS105)。呼気蒸散量Q
3[W]は、外気と測定対象者の深部間の熱交換量に相当する。
【0049】
【0050】
[深部と皮膚間の熱交換量Q
4の算出]
次に、熱交換量算出部6は、第1測定部1によって測定された心拍数HR[t][bpm]と、第2測定部2によって測定された体幹部皮膚層USの温度T
US[t][℃]と四肢部皮膚層LSの温度T
LS[t][℃]と、温度算出部8が算出した平均皮膚温T
sk[t][℃]と、温度算出部8がΔt前に算出した、時刻tにおける体幹部深部層UCの温度の推定値T
UC[t][℃]と四肢部深部層LCの温度の推定値T
LC[t][℃]と深部体温の推定値T[t][℃]とに基づいて、測定対象者の体幹部Uにおける深部と皮膚間の熱交換量Q
4,U[W]、四肢部Lにおける深部と皮膚間の熱交換量Q
4,L[W]をそれぞれ式(13)、式(14)により算出する(
図3ステップS106)。
【0051】
【0052】
【0053】
割合sf_conf_US,sf_conf_LSについては上記のとおりである。hxは測定対象者の皮膚と深部間の熱交換係数である。熱交換量算出部6は、熱交換係数hxを式(15)により算出することができる。
【0054】
【0055】
min(X,Y)はXとYのうちいずれか小さい方を採用することを意味する。METs[t]については上記のとおりである。a,b,e,hx0,hx1,hx_maxは熱交換係数に関わるパラメータである。パラメータa,b,e,hx0,hx1,hx_maxは、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、実験を通じて適宜設定すればよい。
【0056】
Tsk[0]は平均皮膚温Tsk[t]の演算時の初期値である。本実施例では、体幹部深部層UCの温度の初期値TUC[0]、四肢部深部層LCの温度の初期値TLC[0]として、別の温度測定装置によって測定した実測値または一般的な安静時の既知の値などの実際に即した値を用いる。時刻t=0の初回の熱交換量Q4の算出では、Tsk[t]=Tsk[0]である。
【0057】
[体幹部と四肢部間の熱交換量Q
5の算出]
次に、熱交換量算出部7は、第1測定部1によって測定された心拍数HR[t][bpm]と、温度算出部8が算出した平均皮膚温T
sk[t][℃]と、温度算出部8がΔt前に算出した、時刻tにおける体幹部深部層UCの温度の推定値T
UC[t][℃]と四肢部深部層LCの温度T
LC[t][℃]と深部体温の推定値T[t][℃]とに基づいて、測定対象者の深部における体幹部Uと四肢部L間の熱交換量Q
5[W]を式(16)により算出する(
図3ステップS107)。
【0058】
【0059】
hccは測定対象者の深部における体幹部Uと四肢部Lの熱交換係数である。熱交換量算出部7は、熱交換係数hccを式(17)により算出することができる。
【0060】
【0061】
f,hcc0は熱交換係数に関わるパラメータである。パラメータf,hcc0は、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、実験を通じて適宜設定すればよい。hcc_Tは熱交換係数hccの温度寄与分、hcc_Mは熱交換係数hccのMETs寄与分である。熱交換量算出部7は、熱交換係数hccの温度寄与分hcc_Tを式(18)により算出することができる。
【0062】
【0063】
hcc_Tmaxはhcc_Tの規定の上限値である。また、熱交換量算出部7は、熱交換係数hccのMETs寄与分hcc_Mを式(19)により算出することができる。
【0064】
【0065】
hcc_Mmaxはhcc_Mの規定の上限値である。hcc1は熱交換係数に関わるパラメータである。上限値hcc_Tmax,hcc_Mmax、パラメータhcc1は、それぞれ既知の値であり、実際に即した値を用いればよく、実験を通じて適宜設定すればよい。aveMETs[t]は、メッツ数の時間平均値(例えば、6分間の平均値)である。パラメータa,bについては上記のとおりである。
【0066】
こうして、発熱量算出部3と代謝量算出部4と呼気蒸散量設定部5と熱交換量算出部6と熱交換量算出部7とにより、各熱量Q1,U,Q1,L,Q2,U,Q2,L,Q3,Q4,U,Q4,L,Q5を算出することができる。
【0067】
温度算出部8は、時刻tにおける測定対象者の体幹部深部層UCの温度の推定値T
UC[t][℃]と、体幹部Uの深部層における発熱量Q
1,U[W]と、体幹部深部層UCの代謝量Q
2,U[W]と、呼気蒸散量Q
3[W]と、体幹部Uにおける深部と皮膚間の熱交換量Q
4,U[W]と、深部における体幹部Uと四肢部L間の熱交換量Q
5[W]とに基づいて、Δt後の体幹部深部層UCの温度の推定値T
UC[t+Δt][℃]を式(1)により算出する(
図3ステップS108)。
【0068】
温度算出部8は、時刻tにおける測定対象者の四肢部深部層LCの温度の推定値T
LC[t][℃]と、四肢部Lの深部層における発熱量Q
1,L[W]と、四肢部深部層LCの代謝量Q
2,L[W]と、四肢部Lにおける深部と皮膚間の熱交換量Q
4,L[W]と、深部における体幹部Uと四肢部L間の熱交換量Q
5[W]とに基づいて、Δt後の四肢部深部層LCの温度の推定値T
LC[t+Δt][℃]を式(2)により算出する(
図3ステップS109)。
【0069】
こうして、温度の推定値T
UC[t+Δt],T
LC[t+Δt]をそれぞれ逐次計算することができる。
そして、温度算出部8は、Δt後の深部体温の推定値T[t+Δt][℃]を式(4)により算出する(
図3ステップS110)。
【0070】
深部体温推定装置は、以上のステップS100~S110の処理を周期Δt毎に行う。Δt後の次の計算では、直前の回で算出したTUC[t+Δt],TLC[t+Δt],T[t+Δt]を、それぞれTUC[t],TLC[t],T[t]として、ステップS100~S110の処理を行うようにすればよい。
【0071】
本実施例では、測定対象者の心拍数だけでなく、測定対象者の皮膚温度を測定して、測定対象者の各部位・各層に流入出する熱量を算出し、算出した熱量から測定対象者の深部体温を推定するので、従来よりも高精度に深部体温を推定することができる。
【0072】
なお、本実施例では、測定対象者の心拍数を用いる場合について説明しているが、心拍数の代わりに脈拍数を用いてもよい。
【0073】
本実施例の発熱量算出部3と代謝量算出部4と呼気蒸散量設定部5と熱交換量算出部6と熱交換量算出部7と温度算出部8とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を
図4に示す。
【0074】
コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インタフェース装置(I/F)202とを備えている。I/F202には、第1測定部1と第2測定部2などが接続される。このようなコンピュータにおいて、本発明の深部体温推定方法を実現させるための深部体温推定プログラムは記憶装置201に格納される。CPU200は、記憶装置201に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。プログラムをネットワークを通して提供することも可能である。
【0075】
また、発熱量算出部3と代謝量算出部4と呼気蒸散量設定部5と熱交換量算出部6と熱交換量算出部7と温度算出部8とを、複数のコンピュータ機器に分散させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、人体の深部体温を推定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1…第1測定部、2…第2測定部、3…発熱量算出部、4…代謝量算出部、5…呼気蒸散量設定部、6,7…熱交換量算出部、8…温度算出部、9…熱量算出部。