(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-07
(45)【発行日】2024-11-15
(54)【発明の名称】観測地点最適化装置、観測地点最適化方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 17/18 20060101AFI20241108BHJP
G06F 17/10 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
G06F17/18 Z
G06F17/10 Z
(21)【出願番号】P 2021072440
(22)【出願日】2021-04-22
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124844
【氏名又は名称】石原 隆治
(72)【発明者】
【氏名】池内 光希
(72)【発明者】
【氏名】松田 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 洋
【審査官】坂庭 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-021552(JP,A)
【文献】特開2017-180598(JP,A)
【文献】金谷拓実、廣森聡仁、山口弘純、東野輝夫,都市環境における人流推定を目的としたセンサ配置最適化手法の提案,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2013年03月07日,Vol. 112, No.493,pp.323-328(MoMuC2012-72),ISSN 0913-5685
【文献】KUMAR, Ritesh et al.,Practical Beacon Placement for Link Monitoring Using Network Tomography,IEEE Journal on Selected Areas in Communications,米国,IEEE Xplore [online],2006年11月30日,Vol.24, No.12,pp.2196-2209,インターネット<URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/4016142>
【文献】SAKIYAMA, Akie et al.,Efficient sensor position selection using graph signal sampling theory,2016 IEEE International Conference on Acoustics, Speech and Signal Processing(ICASSP),米国,IEEE Xplore [online],2016年05月19日,pp.6225-6229,インターネット<URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/7472874>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/18
G06F 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象ネットワークに関する情報と、前記対象ネットワークで連結性の確認対象とする頂点集合を示す対象頂点集合とを少なくとも入力する入力部と、
前記対象ネットワークの枝の中から、観測地点となる枝を示す観測枝
のサンプリング分布に従って、前記観測枝の集合である観測枝集合を取得する観測地点取得部と、
前記観測枝
集合が取得された下で、前記頂点集合に含まれる頂点間の連結性に関する信頼度を計算する信頼度計算部と、
前記信頼度を用いて、前記観測枝が観測されたときの利得を表す観測効用の期待値を計算する観測期待効用計算部と、
前記観測地点取得部による前記観測枝集合の取得と前記信頼度計算部による前記信頼度の計算と前記観測期待効用計算部による前記期待値の計算とが逐次的に繰り返されることにより得られた複数の前記期待値を用いて、観測効用の期待値がより高くなる観測枝集合を取得できるように、前記サンプリング分布を更新する更新部と、
を有
し、
前記観測地点取得部による前記観測枝集合の取得と前記信頼度計算部による前記信頼度の計算と前記観測期待効用計算部による前記期待値の計算との逐次的な繰り返しと、前記更新部による前記サンプリング分布の更新とを所定の終了条件を満たすまで繰り返す、観測地点最適化装置。
【請求項2】
前記対象ネットワークと前記対象頂点集合とに対して、前記対象頂点集合に含まれる任意の2頂点間が連結であるときに1、連結でないときに0をとる関数を表現する二分決定図を構築する二分決定図構築部を有し、
前記信頼度計算部は、
前記二分決定図を用いた動的計画法により前記信頼度を計算する、請求項1に記載の観測地点最適化装置。
【請求項3】
前記対象ネットワークに関する情報には、前記対象ネットワークの各枝の稼働率が含まれ、
前記観測期待効用計算部は、
前記稼働率に従って、稼働している観測枝を示す稼働観測枝と、稼働していない観測枝を示す非稼働観測枝とをサンプリングし、
前記稼働観測枝と前記非稼働観測枝から前記観測効用を計算し、
前記観測効用のサンプリング平均を計算することで、前記期待値を計算する、請求項1又は2に記載の観測地点最適化装置。
【請求項4】
前記入力部は、
前記対象ネットワークの枝を観測する場合に必要となるコストと、前記コストに関する制約情報とを入力し、
前記観測地点取得部は、
前記観測枝のコストが前記制約情報を満たすように、前記観測枝を取得する、請求項1乃至3の何れか一項に記載の観測地点最適化装置。
【請求項5】
前記観測地点取得部は、
前
記サンプリング分布
に従って、クロスエントロピー法より前記観測枝をサンプリングすることで、前記観測枝を取得する、請求項1乃至4の何れか一項に記載の観測地点最適化装置。
【請求項6】
前記観測効用は、前記対象頂点集合に含まれる2頂点間が連結している確率の二値エントロピーである、請求項1乃至5の何れか一項に記載の観測地点最適化装置。
【請求項7】
対象ネットワークに関する情報と、前記対象ネットワークで連結性の確認対象とする頂点集合を示す対象頂点集合とを少なくとも入力する入
力手順と、
前記対象ネットワークの枝の中から、観測地点となる枝を示す観測枝
のサンプリング分布に従って、前記観測枝の集合である観測枝集合を取得する観測地点取得手順と、
前記観測枝
集合が取得された下で、前記頂点集合に含まれる頂点間の連結性に関する信頼度を計算する信頼度計算手順と、
前記信頼度を用いて、前記観測枝が観測されたときの利得を表す観測効用の期待値を計算する観測期待効用計算手順と、
前記観測地点取得手順による前記観測枝集合の取得と前記信頼度計算手順による前記信頼度の計算と前記観測期待効用計算手順による前記期待値の計算とが逐次的に繰り返されることにより得られた複数の前記期待値を用いて、観測効用の期待値がより高くなる観測枝集合を取得できるように、前記サンプリング分布を更新する更新手順と、
をコンピュータが実行し、
前記観測地点取得手順による前記観測枝集合の取得と前記信頼度計算手順による前記信頼度の計算と前記観測期待効用計算手順による前記期待値の計算との逐次的な繰り返しと、前記更新手順による前記サンプリング分布の更新とを所定の終了条件を満たすまで繰り返す、観測地点最適化方法。
【請求項8】
コンピュータを、請求項1乃至6の何れか一項に記載の観測地点最適化装置として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観測地点最適化装置、観測地点最適化方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
道路網や通信網等のネットワークでは、連結性と呼ばれる概念が重要である。離れた地点間で物資を運搬するには、それらの地点が道路で連結されている必要があるし、離れた機器間で通信を行うには、それらの機器が通信ノードや通信ケーブル等で連結されている必要がある。このように、連結性はネットワークの最も基本的かつ普遍的な概念であり、故障や災害等によってネットワークの損傷が考えられる場合には、その連結性を評価したり確保したりする営みは極めて重要となる。
【0003】
確率的に変動し得るネットワークの連結性を定量的に表したものとして、ネットワーク信頼度(以下、信頼度ともいう。)と呼ばれるものがある。信頼度とは、ネットワークを「枝が確率的に切断されるグラフ」という数学的対象と捉えたとき、ある頂点間が連結する確率を評価したものである。この信頼度を効率的に計算する技術は、これまで多く提案されている(例えば、非特許文献1や非特許文献2等)。また、信頼度の高いネットワークを実現するための枝の設置方法を算出する技術(例えば、非特許文献3等)や、信頼度を高めるのに最も寄与している枝を特定する技術(例えば、非特許文献4等)も提案されている。例えば、これらの従来技術を道路網に適用することで、災害に対して頑健性の高い道路網を実現することが可能であると考えられる。
【0004】
ところで、例えば、災害発生の物資輸送や通信インフラの早期復旧においては、特にネットワーク形状の対象物の情報収集が極めて重要である。例えば、以下のような問題を考える。
【0005】
問題:施設Aと施設Bは災害時に緊急車両が行き来する必要がある。もし道路が被災し、施設Aと施設Bの間が陸路で到達することが不可能となれば、空路等の代替手段を確保しなければならないため、施設Aと施設Bの間の連結性は迅速かつ高確度で知る必要がある。そのため、以下のような事前方策や事後方策を検討する。
【0006】
・事前方策
災害に備えて、道路状況を正確に把握できる監視カメラを道路網上の何箇所かに予め設置しておくことを考える。しかし、監視カメラは設置コストや運営コストの面から設置可能数が限定されている。では、連結性を把握する意味で最大の効果を発揮するには、どの箇所に監視カメラを設置するのが最適か。
【0007】
・事後方策
災害発生後、道路状態を確認するための情報収集部隊を現地に派遣する。しかし、人的リソースや時間的制約の観点から、被災可能性のある全ての道路を調査しに行くことはできない。では、連結性を把握する意味で最大の効果を発揮するには、どの道路を調査しに行くことが最適か。
【0008】
上記と同様の問題は通信ネットワークの連結性に関しても考えることができる。
【0009】
被災したネットワークの連結性を定量的に測るには、従来技術を用いて信頼度を計算すればよい。しかし、上記の問題ではネットワークを部分的に監視したり調査したりすることが可能であり、これにより信頼度を確定的にすることができる状況を考えている。このように、輸送網や通信網をはじめとする社会基盤の破損状況把握においては、信頼性のようなネットワーク特有の大局的な性質を迅速かつ高確度で把握するために、ネットワークのどの箇所を観測(監視、調査、撮影、計測等)すればよいかを策定することが極めて肝要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Saito, Hiroshi. "Geometric evaluation of survivability of disaster-affected network with probabilistic failure." IEEE INFOCOM 2014-IEEE Conference on Computer Communications. IEEE, 2014.
【文献】Hardy, Gary, Corinne Lucet, and Nikolaos Limnios. "K-terminal network reliability measures with binary decision diagrams." IEEE Transactions on Reliability 56.3 (2007): 506-515.
【文献】Nishino, Masaaki, et al. "Optimizing network reliability via best-first search over decision diagrams." IEEE INFOCOM 2018-IEEE Conference on Computer Communications. IEEE, 2018.
【文献】Gertsbakh, Ilya, and Yoseph Shpungin. "Network reliability importance measures: combinatorics and monte carlo based computations." WSEAS Transactions on Computers 7.4 (2008): 216-227.
【文献】De Boer, Pieter-Tjerk, et al. "A tutorial on the cross-entropy method." Annals of operations research 134.1 (2005): 19-67.
【文献】Kroese, Dirk P., Kin-Ping Hui, and Sho Nariai. "Network reliability optimization via the cross-entropy method." IEEE Transactions on Reliability 56.2 (2007): 275-287.
【文献】Ikeda, Yasuhiro, Ryoichi Kawahara, and Hiroshi Saito. "Generating a network reliability formula by using binary decision diagrams." IEICE Communications Express 4.9 (2015): 299-303.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、非特許文献1や非特許文献2は連結性、信頼性の評価を目指したものであり、枝を観測し状態を確定させるような状況を考えていない。非特許文献3は信頼性を高めるネットワーク設計を目指したものであり、既存のネットワークが確率的に損傷し、それを観測できる状況を考えたものではない。非特許文献4は信頼性に大きく貢献する枝を特定できるが、枝を観測した際に得られる情報量を評価したものではない。
【0013】
本発明の一実施形態は、上記の点に鑑みてなされたもので、対象ネットワークの信頼性に関する情報を効率よく取得可能な観測地点を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、一実施形態に係る観測地点最適化装置は、対象ネットワークに関する情報と、前記対象ネットワークで連結性の確認対象とする頂点集合を示す対象頂点集合とを少なくとも入力する入力部と、前記対象ネットワークの枝の中から、観測地点となる枝を示す観測枝を取得する観測地点取得部と、前記観測枝が取得された下で、前記頂点集合に含まれる頂点間の連結性に関する信頼度を計算する信頼度計算部と、前記信頼度を用いて、前記観測枝が観測されたときの利得を表す観測効用の期待値を計算する観測期待効用計算部と、を有し、前記観測地点取得部は、前記期待値を最大化するように前記観測枝を取得する。
【発明の効果】
【0015】
対象ネットワークの信頼性に関する情報を効率よく取得可能な観測地点を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】観測地点最適化処理のアルゴリズムの一例を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る観測地点最適化装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図6】本実施形態に係る観測地点最適化装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図7】実施例における観測地点最適化結果を説明するための図(その1)である。
【
図8】実施例における観測地点最適化結果を説明するための図(その2)である。
【
図9】実施例における観測地点最適化結果を説明するための図(その3)である。
【
図10】実施例における観測地点最適化結果を説明するための図(その4)である。
【
図11】実施例における観測地点最適化結果を説明するための図(その5)である。
【
図12】実施例における観測地点最適化結果を説明するための図(その6)である。
【
図13】実施例における観測地点最適化結果を説明するための図(その7)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態では、対象ネットワークの信頼性に関する情報を効率よく取得可能な観測地点(つまり、最適な観測地点)を得ることが可能な観測地点最適化装置10について説明する。ここで、対象ネットワークとは最適な観測地点を求める対象となるネットワークのことであり、信頼性の評価を必要とする任意のネットワークを対象とすることが可能である。例えば、道路網、通信網、交通網、回路網等を対象ネットワークとすることが可能である。
【0018】
本実施形態に係る観測地点最適化装置10は、後述する観測地点最適化処理を実行することで、観測に要するコスト制約の下で、対象ネットワークの信頼性に関して取得可能な情報量を最大化するような観測枝の集合を求めることができる。ここで、観測とは、ネットワーク上の枝に対して監視、調査、撮影、計測等を行い、その枝が機能しているか否か(つまり、頂点間を接続しているか否か)を確かめることをいう。また、観測枝とは、観測が行われた枝のことをいう。
【0019】
<理論的構成>
以下、本実施形態の理論的構成について説明する。
【0020】
≪問題設定≫
対象ネットワークをG(V,E)と表し、頂点集合V及び枝集合Eをそれぞれ
【0021】
【数1】
とする。ここで、本実施形態では、主に、Gは無向単純連結グラフであるものとするが、有向グラフや非単純グラフへの拡張も可能である。
【0022】
なお、以下では、誤解の恐れが無い場合は枝ej∈Eをj∈Eと表すこともある。同様に、誤解の恐れが無い場合は頂点vi∈Vをi∈Vと表すこともある。
【0023】
各枝ej∈Eは稼働率pj∈[0,1]を持ち、それぞれ独立に確率pjで稼働(つまり、頂点間を接続)し、確率1-pjで故障(つまり、頂点間の接続を切断)しているものとする。対象ネットワークの状態(以下、NW状態ともいう。)は各枝の稼働状態を表したバイナリベクトルy∈{0,1}|E|で表され、そのj番目の成分yjが1のときは枝ejが稼働していることを表し、0のときは枝ejが故障していることを表す。
【0024】
NW状態yにおいて対象ネットワークの2頂点s,t∈Vが連結であるとは、頂点sと頂点tの間にyj=1の枝のみからなる道が存在することをいう。
【0025】
頂点集合K⊂Vに対して、K間連結性指示関数φK(y):{0,1}|E|→{0,1}を、NW状態yにおいてKに含まれる任意の2頂点間が連結であるときにφK(y)=1、それ以外のときにφK(y)=0となる関数として定める。
【0026】
次に、「観測」の概念を導入する。部分枝集合M⊂Eに対して、観測Mを行うとは、各枝ej∈Mの稼働状態yjを知ることである。このようなMを観測枝集合と呼ぶ。また、観測Mを行った後の枝ej∈Mの稼働率をmj∈{0,1}と表す。このmjは、稼働状態yjと実質的に同じものであるが、観測を行って稼働率が0か1に収束したものであることを強調するため、異なる記号を用いている。
【0027】
観測Mの結果、mj=0となった枝の集合(これを故障枝集合と呼ぶ。)をM0⊂M、mj=1となった枝の集合(これを稼働枝集合と呼ぶ)をM1⊂Mとする。このとき、観測結果(M0,M1)はMの分割であり、M0∪M1=M、かつ、M0∩M1=φが成り立つ。なお、単にφと記載した場合は空集合を表す。
【0028】
観測にあたってはコスト(以下、観測コストともいう。)が発生する。一般には任意の観測コスト関数C:2E→[0,∞)により観測コストを定めてよい。以下では、観測コスト関数C(・)の一例として、各枝のコスト和を用いる。つまり、各枝ej∈Eはコストcj≧0を持ち、観測Mを行った際の観測コストは、C(M)=Σj∈Mcjで与えられるものとする。すなわち、観測コストC(M)は、観測Mに含まれる各枝ejのコストcjの和で与えられるものとする。
【0029】
以上の定義に基づいて、各事象の確率を定式化する。
【0030】
未観測時にNW状態がyである確率は、
【0031】
【数2】
で与えられる。ただし、0
0=1であるものとする。
【0032】
観測Mが行われた下で、稼働枝集合がM1、故障枝集合がM0となる確率(ただし、(M0,M1)はMの分割)は、
【0033】
【0034】
また、観測結果が(M0,M1)の下で、NW状態がyである確率は、
【0035】
【数4】
である。ただし、χ(・)は引数が真のとき1、偽のとき0をとる指示関数である。ここで、Pr(y)=Pr(y|φ,φ)が成り立つ。
【0036】
さて、観測Mの観測結果(M0,M1)が得られた下でのK間信頼度を
【0037】
【数5】
で定義する。なお、これは従来技術で論じられてきた、観測を行わないときのK間信頼度r
K(φ,φ)、特にネットワーク全体としての連結性(全頂点間の連結性、つまりK=V)に関するネットワーク信頼度r
K(φ,φ)の一般化とみなすことができる。
【0038】
上記のK間信頼度rK(M0,M1)を用いて、観測結果(M0,M1)を得たときの利得を表す関数として観測効用U(M0,M1)を定義する。本実施形態は観測効用U(M0,M1)としてrK(M0,M1)を引数とする任意の関数を採用することができるが、以下では一例として負の二値エントロピー
【0039】
【数6】
を用いることにする。なお、logの底は2である。
【0040】
上記の数6に示す観測効用U(M0,M1)は、rK(M0,M1)=0.5で最小値-1をとり、0又は1に近付くほど値が大きくなってrK(M0,M1)=0又は1で最大値0をとる。rK(M0,M1)=0.5は、K間が連結しているか否かがちょうど半々の確率であり、不確定性が高いことを意味している。一方で、rK(M0,M1)=0又は1は、K間が非連結であるか連結であるかが確定していることを意味している。すなわち、観測結果としてはrK(M0,M1)が0又は1に近い方が好ましい状態であり、ゆえに、U(M0,M1)の値が大きいほど観測結果(M0,M1)による利得は大きいと考えることができる。なお、観測効用はその定義によりKにも依存するため、Kを明示する場合は観測効用U(M0,M1)をUK(M0,M1)と表してもよい。以降では、Kを固定して考えるため、観測効用はU(M0,M1)で表す。
【0041】
次に、観測Mを行うことの有効性を表す関数として観測期待効用EU(M)を定義する。これは観測効用U(M0,M1)の観測結果に関する期待値により表す。すなわち、
【0042】
【数7】
と定義する。ここで、上記の数7におけるΣは、(M
0,M
1)に関して全観測結果パターンで和をとることを表す。なお、U(M
0,M
1)=-H(r
K(M
0,M
1))とした場合、EU(M)は、観測Mを行うという条件に関する条件付きエントロピーに他ならない。
【0043】
最後に、本実施形態で解く最適化問題(以下、枝選択的観測期待効用最大化問題ともいう。)を定式化する。この問題は、以下のように記述される。
【0044】
【数8】
ここで、L≧0は与えられた予算であり、上述したようにC(・)として各枝のコスト和を用いる場合は、いわゆるナップサック制約となっている。なお、Lの具体例としては、例えば、道路上に設置可能な監視カメラの台数、道路を調査するために派遣可能な人数等が挙げられる。
【0045】
上述したように、観測効用U(M0,M1)は頂点集合K間の連結性が観測Mによってどの程度確定するか(つまり、連結性に関する情報をどの程度取得できるか)を表すものであり、また、観測期待効用EU(M)は観測Mが行われたときにおける観測効用U(M0,M1)の期待値である。したがって、例えば、観測期待効用EU(M)を最大化する観測枝集合Mに含まれる枝に対して監視カメラ等を事前に設置しておけば、災害が発生し、道路網が断片的に不通となった場合であっても、特定の頂点間(Kに含まれる頂点間)が道路網によって到達可能である否かの判断をより確定的に下せるようになる。言い換えれば、観測期待効用EU(M)を最大化する観測枝集合Mに含まれる枝を観測対象とすることで、Kに含まれる頂点間の到達性に関する情報(つまり、対象ネットワーク(又はその一部)の信頼性に関する情報)を効率的に得ることができるようになり、災害時等にはKに含まれる頂点間の到達可能性をより確定的に判断することが可能となる。なお、K⊂Vは連結性(到達可能性)を知りたい頂点の集合であり、K=Vであってもよい。
【0046】
≪簡単な例≫
以下、簡単なネットワークを対象として、対象ネットワークの信頼性に関する情報を効率よく取得可能な観測地点を得るにあたって観測期待効用EU(M)が適した指標となっていることを示す。
【0047】
まず、
図1に示すグラフで表されるネットワークを考える。このネットワークは、頂点集合V={v
1,v
2,v
3,v
4}、枝集合E={e
1,e
2,e
3,e
4}を持ち、各枝の稼働率は(p
1,p
2,p
3,p
4)=(1.0,0.5,0.8,1.0)が与えられている。また、連結性を知りたい頂点集合をK={v
1,v
4}とする。更に、各枝のコストを1、予算をL=1とする。つまり、最大1本の枝しか観測できないとする。
【0048】
なお、
図1に示すグラフは多重辺を有している非単純グラフであるが、
図2に示すように頂点v
5及びv
6と枝e
5及びe
6を追加し、追加枝e
5,e
6のコストをL+1(つまり、観測枝の候補に含めない)、稼働率を1.0とすれば、
図1に示すグラフは
図2に示す多重辺なしのグラフに帰着できる。このため、
図2に示すグラフを
図2に示すグラフに帰着させることで、これまでに説明した定式化をそのまま適用することが可能である。
【0049】
このとき、各枝を観測した際の観測期待効用は以下のように求められる。
【0050】
・e1又はe4のいずれか一方を観測した場合
確率1.0でrK=(1.0-0.5×0.2)=0.9であるため、EU({e1})=EU({e4})=-1.0×H(0.9)≒-0.47
・e2を観測した場合
確率0.5でrK=1、確率0.5でrK=0.8であるため、EU({e2})=-0.5×H(1)-0.5×H(0.8)≒-0.5×0.72=-0.36
・e3を観測した場合
確率0.8でrK=1、確率0.2でrK=0.5であるため、EU({e3})=-0.8×H(1)-0.2×H(0.5)=-0.2×1.0=-0.2
したがって、この場合、e3を観測するのが最も有効ということになる。この例では、e2とe3はネットワークのトポロジー上では対称的な位置にあるが、稼働率の違いが観測期待効用の違いとして反映されているといえる。
【0051】
次に、
図3に示すグラフで表されるネットワークを考える。このネットワークは、頂点集合V={v
1,v
2,v
3,v
4,v
5}、枝集合E={e
1,e
2,e
3,e
4}を持ち、各枝の稼働率は(p
1,p
2,p
3,p
4)=(1.0,0.5,1.0,0.5)が与えられている。また、連結性を知りたい頂点集合をK={v
1,v
4}とする。更に、各枝のコストを1、予算をL=1とする。つまり、最大1本の枝しか観測できないとする。
【0052】
このとき、各枝を観測した際の観測期待効用は以下のように求められる。
【0053】
・e1又はe3のいずれか一方を観測した場合
確率1.0でrK=0.5であるため、EU({e1})=EU({e3})=-1.0×H(0.5)=-1.0
・e2を観測した場合
確率0.5でrK=1、確率0.5でrK=0であるため、EU({e2})=-0.5×H(1)-0.5×H(0)=0
・e4を観測した場合
確率0.5でrK=0.5、確率0.5でrK=0.5であるため、EU({e4})=-0.5×H(0.5)-0.5×H(0.5)=-1.0
したがって、この場合、e2を観測するのが最も有効ということになる。この例では、e2とe4は稼働率が同じであるが、ネットワーク上での接続関係の違いが観測期待効用の違いとして反映されているといえる。
【0054】
以上のように、本実施形態で定義した観測期待効用は、ネットワークのトポロジーと稼働率の両面を加味した上での観測の有効性を表現した指標となっており、これを最大化することで、対象ネットワークの信頼性に関する情報を効率的に取得可能な観測地点を得ることができる。
【0055】
≪枝選択的観測期待効用最大化問題≫
上記の数8に示した枝選択的観測期待効用最大化問題には、次の(1)~(3)の3重の難しさが存在する。
【0056】
(1)組合せ最適化
コスト制約下で観測枝集合の最適化を実施する必要があるが、観測枝集合のパターンは全部で2|E|通りあるため、探索空間が指数オーダーで増大し、愚直に実行するとEU(・)の計算回数が膨大となる。
【0057】
(2)EU(・)の期待値計算
EU(M)を求める際に期待値の計算を実施する必要があるが、観測Mの下で得られる観測結果のパターンは全部で2|M|通りあるため、愚直には指数オーダー回数のU(・,・)の計算とそれらの和の計算とを実施することになる。
【0058】
(3)K間信頼度計算
U(M0,M1)を計算するためにrK(M0,M1)の計算を実施する必要があるが、rK(M0,M1)の計算は一般的に#P完全であり、この計算を上記の(2)で必要とされる回数だけ繰り返す必要がある。
【0059】
本実施形態では、上記の(1)~(3)の各々に対応した(手法1)~(手法3)の3つの手法を組み合わせることで、その難しさを解決する。これら3つの手法の一例を挙げると、以下のようなものがある。
【0060】
(手法1)組合せ最適化に対応する手法:Cross Entropy法(以下、CE法ともいう。)による重点サンプリング
本手法では、希少事象に関する近似計算に用いられる重点サンプリング手法であるCE法(例えば、非特許文献5や非特許文献6等を参照)を用いる。CE法は、クロスエントロピーに基づいて、希少事象に限定した最適な重点サンプリング分布に、提案分布を逐次的に近付けていく手法である。本手法では、希少事象として「EU(M)が大きいこと」を掲げることで、EU(M)が大きくなるようなMを効率的にサンプリングできるような提案分布を取得し、これにより組合せ最適化を近似的に解く。CE法を用いることで、指数オーダーの大きさをもつ探索空間内を効率的に探索可能となる。
【0061】
(手法2)EU(・)の期待値計算に対応する手法:Crude Monte Carlo法(以下、CMC法ともいう。)による近似計算
各枝の稼働率pjは既知であるため、観測結果(M0,M1)はサンプリングにより生成できる。そこで、本手法では、(M0,M1)を稼働率で定義されたベルヌーイ測度の直積測度に従って多数回サンプリングし、後述する(手法3)でrK(M0,M1)及びU(M0,M1)を求め、その平均値をとることでEU(M)を近似的に求める。これは単純なMonte Carlo法(CMC法)である。CMC法を用いることで、指数回数の和で表現される期待値をそれより少数のサンプル数で近似可能となる。
【0062】
(手法3)K間信頼度計算に対応する手法:Binary Decision Diagram(以下、BDDともいう。)によるK間信頼度の計算
BDDはブール代数を表現するためのデータ構造である。本手法では、K間連結性指示関数φK(y)を表現するBDDを構築する。そして、このBDDの各枝に稼働率pjやmjを重みとして付与し、動的計画法を実施する。これにより、厳密解としてrK(M0,M1)を効率的に計算することができる(例えば、非特許文献2等を参照)。ここで、一般に、BDDの構築が計算量の律速であり、rK(M0,M1)の計算は軽量である。本実施形態では、上記の(手法2)で必要とされる回数だけrK(M0,M1)の計算が必要となるが、K間連結性指示関数φK(y)を表現するBDDを一度構築しておけば、rK(M0,M1)の引数が変わってもBDD上の重みを変更して動的計画法を実施するだけでよいため効率的である。
【0063】
以下では、上記の(手法1)~(手法3)で説明した各手法を用いる場合について説明するが、本実施形態は、これらに限定されるものではなく、他の手法でも代替可能である。例えば、上記の(手法1)で説明した手法の代わりに、遺伝的アルゴリズム等の組合せ最適化を遂行できる別のヒューリスティック手法を用いてもよい。また、例えば、上記の(手法2)で説明した手法の代わりに、U(M0,M1)Pr(M0,M1|M)の値が大きくなるところから優先的にサンプリングを行う重点サンプリングを用いてもよい。また、例えば、上記の(手法3)で説明した手法の代わりに、モンテカルロ法等の従来技術による別のネットワーク信頼度計算手法を用いたり、予め信頼度を求める公式を明示的に算出した上でそれに引数を代入することで計算量削減を行う手法(例えば、非特許文献7や特許文献1等を参照)を用いたりしてもよい。
【0064】
≪観測地点最適化処理のアルゴリズム≫
上記の数8に示した枝選択的観測期待効用最大化問題を解いて最適な観測地点を求める処理(観測地点最適化処理)のアルゴリズムについて、
図4を参照しながら説明する。
図4は、観測地点最適化処理のアルゴリズムの一例を示す図である。本アルゴリズムの入力は対象ネットワークG(V,E)、連結性を知りたい頂点集合K、稼働率{p
j}
j、枝コスト{c
j}
j、予算L、予め決められたパラメータN
1、N
2、N
3、ρ、α、βであり、出力は最適な観測地点を表す観測枝集合M
*⊂Eである。なお、N
1、N
2及びN
3は1以上の整数、ρ>0、0<α<1、β>0である。
【0065】
まず、1行目では、与えられた対象ネットワークG(V,E)と頂点集合Kとに対して、K間連結性指示関数φK(y)を表現するBDDを構築する。次に、2行目では、CE法で用いる参照ベクトルをa0=(0.5,・・・,0.5)と初期化する。なお、参照ベクトルの要素数は|E|であり、j番目の要素はj番目の枝ejに対応する。
【0066】
3行目はCE法の反復を表し、t=1,・・・,N1に対して4行目~13行目を繰り返す。4行目はk=1,・・・,N2に対して5行目~10行目を繰り返すことを表す。5行目では、参照ベクトルat-1に従って観測枝集合Mkをサンプリングする。なお、観測枝集合のサンプリング方法については後述する。
【0067】
6行目はl=1,・・・,N3(なお、lは小文字のL)に対して7行目~9行目を繰り返すことを表す。7行目では、CMC法により、稼働率{pj}jに従って観測枝集合Mkから故障枝集合M0
k,lと稼働枝集合M1
k,lをサンプリングする。8行目では、1行目で構築されたBDDを用いて、動的計画法によりrK(M0
k,l,M1
k,l)を計算する。9行目では、U(・,・)の定義により、8行目で計算されたrK(M0
k,l,M1
k,l)からU(M0
k,l,M1
k,l)を計算する。そして、10行目では、l=1,・・・,N3に関してU(M0
k,l,M1
k,l)の平均をとることで、EU(Mk)を近似的に得る。
【0068】
そして、11行目では、
【0069】
【数9】
とする。以下、明細書のテキスト中では、上記の数9の左辺を「γ^
t」と表記する。
【0070】
次に、12行目では、上記のγ^tを用いて、以下の更新式により参照ベクトルatを更新する。
【0071】
【数10】
ここで、a
t,jは参照ベクトルa
tのj番目の要素、X
kjは観測枝集合M
kに枝e
jが含まれている場合は1、それ以外の場合は0をとる変数である。また、I
{・}は指示関数である。
【0072】
上記の12行目で参照ベクトルatが更新されることで、CE法の次の反復以降で、よりEM(M)の大きいMがサンプリングされやすくなる。
【0073】
次に、13行目では、以下の終了条件を満たすか否かを判定し、当該終了条件を満たす場合は3行目の繰り返しを抜ける。
【0074】
【数11】
この終了条件は、参照ベクトルa
tの全ての要素が0か1に十分に近くなった場合に3行目の繰り返しを抜けることを意味する。これにより、N
1回又は終了条件を満たすまで4行目~13行目が繰り返し実行される。
【0075】
そして、14行目では、最終的に得られた参照ベクトルatに従って適当な個数の観測枝集合Mをサンプリングし、これらの観測枝集合Mの中でEU(M)を最大化するものをM*とする。なお、この14行目では、例えば、4行目~13行目の最後の繰り返しで得られたEU(Mk)の中で最大の値を与えるMkをM*としてもよい。
【0076】
なお、本アルゴリズムは、BDDの構築方法やCE法の詳細(すなわち、参照ベクトルatの更新式、終了条件、観測枝集合Mのサンプリング方法等)に依存せずに適用可能である。
【0077】
・観測枝集合Mのサンプリング方法
次に、上記のアルゴリズムの5行目における観測枝集合Mのサンプリング方法の一例として、観測コスト関数C(・)を各枝のコスト和、最大化問題の制約としてナップサック制約を考える場合について説明する。
【0078】
まず、累積コストを表す変数CTempを0に初期化する。次に、枝集合E={e1,・・・,e|E|}の一様ランダムな順列{eσ(1),・・・,eσ(|E|)}を得る。この順列の順に枝の採用(つまり、観測枝集合Mに枝を追加する)又は不採用(つまり、観測枝集合Mに枝を追加しない)を決定する。
【0079】
枝eσ(j)に対して、確率at,σ(j)で仮採用、確率1-at,σ(j)で不採用とする。次に、仮採用となった枝eσ(j)に対しては、累積コストと枝eσ(j)のコストとの和CTemp+cσ(j)を計算し、これが予算Lを超えた場合は不採用とする一方で、L以下である場合は採用とし累積コストをCTemp←CTemp+cσ(j)と更新する。
【0080】
以上の方法により確率的に観測枝集合Mをサンプリングできる。なお、上記以外のC(・)の定義や制約を用いる場合には、観測枝集合Mのサンプリング方法は異なるものとなり、それに伴って上記のアルゴリズムの12行目における更新式も異なる。
【0081】
<観測地点最適化装置10の機能構成>
次に、本実施形態に係る観測地点最適化装置10の機能構成について、
図5を参照しながら説明する。
図5は、本実施形態に係る観測地点最適化装置10の機能構成の一例を示す図である。
【0082】
図5に示すように、本実施形態に係る観測地点最適化装置10は、入力部101と、観測地点最適化処理部102と、出力部103とを有する。これら各部は、例えば、観測地点最適化装置10にインストールされた1以上のプログラムが、後述するプロセッサ205等に実行させる処理により実現される。
【0083】
入力部101は、入力データ(対象ネットワークG(V,E)、連結性を知りたい頂点集合K、稼働率{pj}j、枝コスト{cj}j、予算L等)とパラメータ(N1、N2、N3、ρ、α、β等)とを任意の入力元(例えば、補助記憶装置やキーボード、マウス、通信ネットワークを介して接続される他の装置又は機器等)から入力する。なお、稼働率{pj}jは、例えば、ハザード情報等といったネットワーク被災確率を表す情報として入力されてもよい。
【0084】
観測地点最適化処理部102は、入力部101により入力された入力データとパラメータとを用いて、
図4に示すアルゴリズムで表される観測地点最適化処理を実行し、最適な観測地点を表す観測枝集合M
*⊂Eを算出する。
【0085】
出力部103は、観測地点最適化処理部102により算出された観測枝集合M*を予め決められた任意の出力先(例えば、補助記憶装置やディスプレイ、通信ネットワークを介して接続される他の装置又は機器等)に出力する。
【0086】
ここで、観測地点最適化処理部102には、BDD構築部111と、観測地点取得部112と、観測期待効用計算部113と、信頼度計算部114とが含まれる。
【0087】
BDD構築部111は、
図4に示すアルゴリズムの1行目におけるBDDの構築を実行する。BDD構築部111によって構築されたBDDは、信頼度計算部114に渡される。
【0088】
観測地点取得部112は、
図4に示すアルゴリズムの2行目における参照ベクトルa
0の初期化、3行目における繰り返しの制御、4行目における繰り返しの制御、5行目における観測枝集合M
kのサンプリング、11行目~12行目における参照ベクトルa
tの更新、13行目における終了条件の判定及び3行目の繰り返しから抜ける制御、14行目における観測枝集合M
*のサンプリングを実行する。観測地点取得部112によってサンプリングされた観測枝集合M
kは、観測期待効用計算部113に渡される。また、観測地点取得部112によってサンプリングされた観測枝集合M
*は出力部103に渡される。
【0089】
なお、
図4に示すアルゴリズムにおける14行目でサンプリングされた観測枝集合Mの中でEU(M)を最大化するものをM
*とする際には、観測枝集合Mを観測期待効用計算部113に渡し、それに対して返信されたEU(M)同士を比較すればよい。また、上述したように、
図4に示すアルゴリズムにおける14行目では、4行目~13行目の最後の繰り返しで得られたEU(M
k)の中で最大の値を与えるM
kをM
*としてもよい。
【0090】
観測期待効用計算部113は、
図4に示すアルゴリズムの6行目における繰り返しの制御、7行目における(M
0
k,l,M
1
k,l)のサンプリング、9行目における観測効用U(M
0
k,l,M
1
k,l)の計算、10行目における観測期待効用EU(M
k)の計算を実行する。観測期待効用計算部113は、観測地点取得部112から観測枝集合M
kが渡されると6行目及び7行目を実行し、(M
0
k,l,M
1
k,l)のサンプリングにより更新された稼働率{m
j}を信頼度計算部114に渡す。また、観測期待効用計算部113は、信頼度計算部114からK間信頼度r
Kが渡されると、9行目を実行する。
【0091】
信頼度計算部114は、観測期待効用計算部113から稼働率{m
j}が渡されると、
図4に示すアルゴリズムの8行目におけるK間信頼度r
K(M
0
k,l,M
1
k,l)の計算を実行する。
【0092】
なお、
図5に示す例では、各部を1台の観測地点最適化装置10が有している例を示しているが、これに限られず、例えば、各部が複数の装置に分散配置されていてもよい。例えば、BDD構築部111、観測地点取得部112、観測期待効用計算部113、及び信頼度計算部114が複数の装置に分散配置されていてもよい。
【0093】
<観測地点最適化装置10のハードウェア構成>
次に、本実施形態に係る観測地点最適化装置10のハードウェア構成について、
図6を参照しながら説明する。
図6は、本実施形態に係る観測地点最適化装置10のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0094】
図6に示すように、本実施形態に係る観測地点最適化装置10は一般的なコンピュータ又はコンピュータシステムで実現され、入力装置201と、表示装置202と、外部I/F203と、通信I/F204と、プロセッサ205と、メモリ装置206とを有する。これら各ハードウェアは、それぞれがバス207を介して通信可能に接続されている。
【0095】
入力装置201は、例えば、キーボードやマウス、タッチパネル等である。表示装置202は、例えば、ディスプレイ等である。なお、観測地点最適化装置10は、入力装置201及び表示装置202のうちの少なくとも一方を有していなくてもよい。
【0096】
外部I/F203は、記録媒体203a等の外部装置とのインタフェースである。観測地点最適化装置10は、外部I/F203を介して、記録媒体203aの読み取りや書き込み等を行うことができる。なお、記録媒体203aとしては、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、SDメモリカード(Secure Digital memory card)、USB(Universal Serial Bus)メモリカード等がある。
【0097】
通信I/F204は、観測地点最適化装置10を通信ネットワークに接続するためのインタフェースである。プロセッサ205は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の各種演算装置である。メモリ装置206は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の各種記憶装置である。
【0098】
本実施形態に係る観測地点最適化装置10は、
図6に示すハードウェア構成を有することにより、上述した観測地点最適化処理を実現することができる。なお、
図6に示すハードウェア構成は一例であって、観測地点最適化装置10は、他のハードウェア構成を有していてもよい。例えば、観測地点最適化装置10は、複数のプロセッサ205を有していてもよいし、複数のメモリ装置206を有していてもよい。
【0099】
<実施例>
以下では、人工的なネットワークと通信網によりシミュレーションを行った場合の実施例について説明する。
【0100】
本実施例では、以下の表1に記載した3種類のネットワーク((A)ランダムグラフ、(B)ランダムグラフ、(C)通信ネットワーク)を対象ネットワークとした。
【0101】
【表1】
(A)及び(B)は枝生成率0.2のエルデシュ=レーニィモデル(ERモデル)で生成したランダムグラフ、(C)は非特許文献6に記載されている通信ネットワークである。なお、|V|、|E|、L、N
2及びN
3は、上記の表1に記載した通りです。
【0102】
稼働率{pj}jは(A)~(C)のいずれの場合も[0.6,1.0]で一様分布に従い与えた。また、ρ=0.1、α=0.7、N1=20とし、終了条件は無しとした(つまり、CE法の反復はN1回全て実行される。)。更に、各枝のコストは1とした。つまり、(A)~(C)の各グラフの観測枝は最大L本選べることになる。
【0103】
まず、(A)に対する観測地点最適化結果を
図7、(B)に対する観測地点最適化結果を
図8にそれぞれに示す。これらの結果は厳密最適解と一致している。
【0104】
また、(B)のEU(M)の値に関しては、厳密な最大値は-0.20625750730195735であるのに対して、本実施形態に係る観測地点最適化装置10で計算した値は-0.21339758724528224であり、おおよそ厳密解法と一致している。
【0105】
また、(B)について、CE法の反復に対する参照ベクトルの各要素の値の変化を
図9に示す。なお、
図9では縦軸が各要素の値、横軸が反復回数tである。また、系列1~系列20は、それぞれ1番目の要素~20番目の要素に対応する。
【0106】
図9に示すように、L=5個の要素が反復回数10回程度で1に収束し、他の要素が0に収束していることがわかる(なお、1に収束した要素に対応する枝が最適な観測枝であることを意味する。)。
【0107】
また、(B)について、反復回数に対する-γ^
tの変化の様子を
図10に示す。
図10に示すように、これも反復回数10回程度でほぼ収束していることがわかる。
【0108】
以上により、本実施形態に係る観測地点最適化装置10は、CE法の反復回数が少数であっても効率的に近似解が得られることがわかった。
【0109】
次に、(C)に対する観測地点最適化結果を
図11に示す。(C)はその規模の大きさのため厳密解を求められていない。しかし、この結果の妥当性は直感的に理解することができる。すなわち、
図11では、頂点集合Kに属する頂点a、m、xに接続する枝を観測するという結果になっているが、頂点集合Kの周辺を脱すれば迂回路がたくさんあるということを考えれば、頂点集合Kの周辺の数本の連結性がK間連結性を左右するというのは自然に理解できる。
【0110】
また、(B)と同様に、(C)についても、CE法の反復に対する参照ベクトルの各要素の値の変化を
図12に示す。また、反復回数に対する-γ^
tの変化の様子を
図13に示す。ただし、
図12では、煩雑さを防ぐため、参照ベクトルの1番目の要素~36番目の要素の値の変化のみを記載し、37番目の要素~51番目の要素の値の変化については省略した。
【0111】
図12及び
図13に示すように、(B)と同様に、(C)でも反復回数が10回程度でほぼ収束していることがわかる。
【0112】
ここで、本実施形態に係る観測地点最適化装置10と比較するために、観測枝集合Mのサンプリング方法としてCE法を用いずに、単純に10N
2=10000回ランダムにサンプリングする(すなわち、参照ベクトルの各要素の値を0.5としてその後参照ベクトルの更新を一切行わずにCE法と同様にサンプリングする)方法を用いて、各観測枝集合Mに対してEU(M)を計算し、その中で最大値を与えるMを最適な観測地点集合として採用する手法を実施した。この手法では、EUの最大値として-0.26841349682012183を達成した。一方で、本実施形態に係る観測地点最適化装置10では、同じサンプリング数にあたるCE法10回目の反復で、
図13からわかるようにγ^
10≒0.15を達成している(なお、EUの値はγ^
10よりも大きくなる。)。すなわち、本実施形態に係る観測地点最適化装置10が実行する手法(CE法を用いる手法)の方が、単純なサンプリングのみの手法よりも、同じ観測枝のサンプリング数でより観測期待効用EUの大きい解が得られている。このことからも、本実施形態で提案した手法の有効性がわかる。
【0113】
本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から逸脱することなく、種々の変形や変更、既知の技術との組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0114】
10 観測地点最適化装置
101 入力部
102 観測地点最適化処理部
103 出力部
111 BDD構築部
112 観測地点取得部
113 観測期待効用計算部
114 信頼度計算部