IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7586647アルケン及び/又はアルカンの濃縮方法並びに濃縮装置
<>
  • -アルケン及び/又はアルカンの濃縮方法並びに濃縮装置 図1
  • -アルケン及び/又はアルカンの濃縮方法並びに濃縮装置 図2
  • -アルケン及び/又はアルカンの濃縮方法並びに濃縮装置 図3
  • -アルケン及び/又はアルカンの濃縮方法並びに濃縮装置 図4
  • -アルケン及び/又はアルカンの濃縮方法並びに濃縮装置 図5
  • -アルケン及び/又はアルカンの濃縮方法並びに濃縮装置 図6
  • -アルケン及び/又はアルカンの濃縮方法並びに濃縮装置 図7
  • -アルケン及び/又はアルカンの濃縮方法並びに濃縮装置 図8
  • -アルケン及び/又はアルカンの濃縮方法並びに濃縮装置 図9
  • -アルケン及び/又はアルカンの濃縮方法並びに濃縮装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-11
(45)【発行日】2024-11-19
(54)【発明の名称】アルケン及び/又はアルカンの濃縮方法並びに濃縮装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 7/04 20060101AFI20241112BHJP
   C07C 7/12 20060101ALI20241112BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20241112BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C07C7/04
C07C7/12
C07C11/06
B01D53/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020037102
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021138646
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松方 正彦
(72)【発明者】
【氏名】酒井 求
(72)【発明者】
【氏名】片岡 ▲祥▼
(72)【発明者】
【氏名】山木 雄大
(72)【発明者】
【氏名】堤内 出
(72)【発明者】
【氏名】坂本 尚之
(72)【発明者】
【氏名】久次米 正博
(72)【発明者】
【氏名】虎谷 信雄
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-309549(JP,A)
【文献】特開2018-171596(JP,A)
【文献】特開2018-154591(JP,A)
【文献】特開2004-089882(JP,A)
【文献】Separation and Purification Technology,2010年,Vol.73, No.3,p377-390,doi:10.1016/j.sepper.2010.04.027
【文献】Journal of the Japan Petroleum INstitute,2019年,Vol.62, No.2,p80-86,doi:10.1627/jpi.62.80
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜分離装置と蒸留塔とを組み合わせ、炭素数がで且つ同炭素数のアルケンとアルカンとを含む原料混合物から該アルケン及び/又は該アルカンを濃縮する方法であって、
前記原料混合物を膜分離装置に供給しアルケンを膜透過させて、該アルケンと同炭素数のアルカンを分離し濃縮するアルケン濃縮ステップ、及び
前記濃縮ステップの膜透過混合物を蒸留塔に供給し、塔頂から軽沸分を留出させ、塔底からアルケンを回収するアルケン回収ステップ、
を含む濃縮方法。
【請求項2】
前記膜分離装置は2段の膜分離装置であり、
前記アルケン濃縮ステップは、前記原料混合物を1段目の膜分離装置に供給して膜透過混合物を蒸留塔に供給するとともに、その膜未透過混合物を2段目の膜分離装置に供給してその膜透過混合物を前記1段目の膜分離装置の供給路に循環供給する、請求項1に記載の濃縮方法。
【請求項3】
前記膜分離装置の理想分離係数が5以上である請求項1又は2に記載の濃縮方法。
【請求項4】
アルケンを膜透過させて、該アルケンと同炭素数のアルカンを分離し濃縮する膜分離装置と、蒸留により軽沸分を留出させる蒸留塔と、
前記膜分離装置に接続され、炭素数がでかつ同炭素数のアルケンとアルカンとを含む原料混合物を供給する原料供給路と、
前記膜分離装置に接続され、その膜未透過アルカンを回収するアルカン回収路と、
前記膜分離装置及び前記蒸留塔に接続され、その膜透過混合物を前記蒸留塔に供給する膜透過混合物供給路と、
前記蒸留塔に接続され、蒸留塔の塔頂からの留出物を回収する軽沸分回収路と、
前記蒸留塔に接続され、蒸留塔の塔底からのアルケンを回収するアルケン回収路と、
を具備する濃縮装置。
【請求項5】
アルケンを膜透過させて、該アルケンと同炭素数のアルカンを分離し濃縮する1段目の膜分離装置及び2段目の膜分離装置と、
蒸留により軽沸分を留出させる蒸留塔と、
前記1段目の膜分離装置に接続され、炭素数がでかつ同炭素数のアルケンとアルカンとを含む原料混合物を供給する原料供給路と、
前記1段目の膜分離装置及び前記2段目の膜分離装置に接続され、前記1段目の膜分離装置の膜未透過混合物を前記2段目の膜分離装置に供給する膜未透過混合物供給路と、
前記1段目の膜分離装置及び前記2段目の膜分離装置に接続され、前記2段目の膜分離装置の膜透過混合物を前記1段目の膜分離装置に循環供給する膜透過混合物循環供給路と、
前記2段目の膜分離装置に接続され、その膜未透過アルカンを回収するアルカン回収路と、
前記1段目の膜分離装置及び蒸留塔に接続され、その膜透過混合物を前記蒸留塔に供給する膜透過混合物供給路と、
前記蒸留塔に接続され、蒸留塔の塔頂からの留出物を回収する軽沸分回収路と、
前記蒸留塔に接続され、蒸留塔の塔底からのアルケンを回収するアルケン回収路と、
を具備する濃縮装置。
【請求項6】
前記膜分離装置は、理想分離係数が5以上である請求項4又は5に記載の濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離と蒸留とを組み合わせ、同炭素数のアルケンとアルカンを含む混合物からそれらの少なくとも一方を濃縮する濃縮方法や濃縮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プロピレンやエチレンなどは、ナフサや液化石油ガスのスチームクラッキング、製油所での流動接触分解(FCC: Fluid Catalytic Cracking)、天然ガス中のプロパンの脱水素法、メタノールを原料としたMTO(Methanol To Olefin)法やMTP(Methanol To
Propylene)法等により生産されている。
そのような生産過程では、プロピレンはプロパンと分離して濃縮する必要があり、また、エチレンはエタンと分離して濃縮する必要がある。そのような同炭素数のアルケン(プロピレン、エチレン等)とアルカン(プロパン、エタン等)を含む混合物からアルケンを分離、濃縮するには、従来蒸留塔が用いられているが、その際多量のエネルギーが消費されることが知られている。
【0003】
そのような多量のエネルギーが必要とされる濃縮工程については、省エネルギー化が検討されてきており、アルケンとアルカンの混合物からアルケンを分離、濃縮する際に膜分離装置を利用することも検討されている。
【0004】
プロピレンの濃縮における膜分離装置の利用形態としては、蒸留塔を用いず、膜分離装置を1段、又は、2段で使用するもの、1段又は2段の膜分離装置と蒸留塔とをハイブリット化したものが検討されている(非特許文献1参照)。
【0005】
また、膜分離装置と蒸留塔とをハイブリッド化した濃縮において、膜分離装置を2段とし、1段目の膜分離装置の膜透過物を2段目の膜分離装置に供給し、且つ2段目の膜分離装置の未透過物を1段目の膜分離装置に循環させることが検討されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-154591号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】平成28年度 NEDO 『TSC Foresight』セミナー(第2回)松方正彦「高性能膜分離プロセスの 最新動向と将来展望」8-10頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
1段又は2段の膜分離装置と蒸留塔とをハイブリッド化したものは、原料ガス中のアルケン濃度が高い場合だけでなく比較的低い場合でも省エネルギー化が可能であるとされているところ、本発明者らが検討したところでは、省エネルギーの観点から更なる改善の余地を残していた。
本発明は、膜分離装置と蒸留塔とを組み合わせ、炭素数が2~4の範囲内であり同炭素数のアルケンとアルカンを含む混合物から少なくとも一方を濃縮する新規な濃縮方法や濃縮装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、膜分離装置と蒸留塔とをハイブリッド化した濃縮についての検討をすすめ、省エネルギーの観点から、更なる改善が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下の要旨を含む。
(1)膜分離装置と蒸留塔とを組み合わせ、炭素数が2~4の範囲内でかつ同炭素数のアルケンとアルカンとを含む原料混合物から該アルケン及び/又は該アルカンを濃縮する濃縮方法であって、
前記原料混合物を膜分離装置に供給しアルケンを膜透過させて濃縮するアルケン濃縮ステップ、及び
前記濃縮ステップの膜透過混合物を蒸留塔に供給し、塔頂から軽沸分を留出させ、塔底からアルケンを回収するアルケン回収ステップ、
を含む濃縮方法。
(2)前記膜分離装置は2段の膜分離装置であり、
前記アルケン濃縮ステップは、前記原料混合物を1段目の膜分離装置に供給して膜透過混合物を蒸留塔に供給するとともに、その膜未透過混合物を2段目の膜分離装置に供給してその膜透過混合物を前記1段目の膜分離装置の供給路に循環供給する、(1)に記載の濃縮方法。
(3)前記膜分離装置の理想分離係数が5以上である(1)又は(2)に記載の濃縮方法。
(4)アルケンを膜透過させて濃縮する膜分離装置と、
蒸留により軽沸分を留出させる蒸留塔と、
前記膜分離装置に接続され、炭素数が2~4の範囲内でかつ同炭素数のアルケンとアルカンとを含む原料混合物を供給する原料供給路と、
前記膜分離装置に接続され、その膜未透過アルカンを回収するアルカン回収路と、
前記膜分離装置及び前記蒸留塔に接続され、その膜透過混合物を前記蒸留塔に供給する膜透過混合物供給路と、
前記蒸留塔に接続され、蒸留塔の塔頂からの留出物を回収する軽沸分回収路と、
前記蒸留塔に接続され、蒸留塔の塔底からのアルケンを回収するアルケン回収路と、
を具備する濃縮装置。
(5)アルケンを膜透過させて濃縮する1段目の膜分離装置及び2段目の膜分離装置と、
蒸留により軽沸分を留出させる蒸留塔と、
前記1段目の膜分離装置に接続され、炭素数が2~4の範囲内でかつ同炭素数のアルケンとアルカンとを含む原料混合物を供給する原料供給路と、
前記1段目の膜分離装置及び前記2段目の膜分離装置に接続され、前記1段目の膜分離装置の膜未透過混合物を前記2段目の膜分離装置に供給する膜未透過混合物供給路と、
前記1段目の膜分離装置及び前記2段目の膜分離装置に接続され、前記2段目の膜分離装置の膜透過混合物を前記1段目の膜分離装置に循環供給する膜透過混合物循環供給路と、
前記2段目の膜分離装置に接続され、その膜未透過アルカンを回収するアルカン回収路と、
前記1段目の膜分離装置及び蒸留塔に接続され、その膜透過混合物を前記蒸留塔に供給する膜透過混合物供給路と、
前記蒸留塔に接続され、蒸留塔の塔頂からの留出物を回収する軽沸分回収路と、
前記蒸留塔に接続され、蒸留塔の塔底からのアルケンを回収するアルケン回収路と、
を具備する濃縮装置。
(6)前記膜分離装置は、理想分離係数が5以上である(4)又は(5)に記載の濃縮装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の濃縮方法や濃縮装置によれば、炭素数が2~4の範囲内でかつ同炭素数のアルケンとアルカンとを含む混合物からアルケンとアルカンの少なくとも一方を更に少ないエネルギーで効果的に濃縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一形態である濃縮装置の概略図である。
図2】実施例1において膜分離装置10の膜面積と膜分離装置9の膜面積の関係を示す図である。
図3】実施例1において膜分離装置10の膜面積と膜透過物(透過流れ)O中のプロパン流量を示す図である。
図4】比較例1の概略図である。
図5】実施例1と比較例1の投入エネルギーの比較の図である。
図6】比較例2の概略図である。
図7】比較例3の概略図である。
図8】比較例4の概略図である。
図9】実施例1と比較例2,3,4の投入エネルギーの比較の図である。
図10】膜の分離係数によるエネルギー消費量変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態は、膜分離装置と蒸留塔とを組み合わせ、炭素数が2~4の範囲内でかつ同炭素数のアルケンとアルカンとを含む原料混合物から該アルケン及び/又は該アルカンを濃縮する濃縮方法である。具体的には、原料混合物を膜分離装置に供給しアルケンを膜透過させて濃縮するアルケン濃縮ステップ、及び前記濃縮ステップの膜透過混合物を蒸留塔に供給し、塔頂から軽沸分を留出させ、塔底からアルケンを回収するアルケン回収ステップ、を含む。
【0014】
炭素数が2~4の範囲内でかつ同炭素数のアルケンとアルカンの組み合わせは、エチレンとエタン、プロピレンとプロパン、ブテンとブタン、が挙げられる。原料混合物は、これらのいずれかの組み合わせを含み、更に他の成分を含んでいてもよい。
【0015】
製品として求められるアルケンの濃度は、使用目的により異なる。例えば、プロピレンの場合、ポリマーグレード(99.5%以上)、ケミカルグレード(93%以上)、リファイナリーグレード(60%以上)などがあり、濃度を高くするには、その分、精製にかかるエネルギー負荷が大きくなる。
【0016】
アルケン濃縮ステップは、原料混合物を膜分離装置に供給しアルケンを膜透過させてアルケン濃度を濃縮するステップである。膜分離装置に用いられる分離膜は、同炭素数のアルケンとアルカンとを含む原料混合物からアルケンを透過できれば特段限定されず、典型的には、ゼオライト膜、MOF膜、シリカ膜が用いられる。ゼオライト膜としては、FAU型ゼオライト分離膜、BEA型ゼオライト膜があげられる。
膜分離装置の形式としては、十字流式、向流式、並流式などの形式が存在するが、いずれの形式も採用することができる。膜分離装置では、アルケンとアルカンは気体状態で膜分離されるので、原料混合物が液体を含むなどの状態に応じて、原料混合物の供給路に原料混合物を加熱する、加熱器を設けることもできる。
【0017】
膜分離装置の分離膜は、理想分離係数が通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは15以上である。理想分離係数が小さいと、十分な省エネルギー効果が得られない。分離膜の理想分離係数の上限は限定する必要がなく、実現可能な範囲(現状では、100程度まで)のものであれば利用できる。
【0018】
膜分離装置は、1段の膜分離装置であってよく、2段の膜分離装置であってもよい。
1段の膜分離装置である場合、アルケンが濃縮された膜透過混合物を蒸留塔に供給し、膜未透過混合物はアルカン高濃度混合物として回収する。
2段の膜分離装置である場合、1段の膜分離装置でアルケンが濃縮された膜透過混合物を蒸留塔に供給するとともに、アルカン高濃度混合物であるその膜未透過混合物を2段目の膜分離装置に供給する。そして2段目の膜分離装置の膜透過混合物は再度アルケンが濃縮されることから、前記1段目の膜分離装置の供給路に循環供給する。そして、2段目の膜分離装置の膜未透過混合物は、アルカン高濃度混合物として回収する。
【0019】
蒸留塔は、公知の棚段塔や充填塔のいずれのものも使用可能である。蒸留塔の棚段数は、限定されるものではないが、通常10以上300段以下とすることができる。
蒸留塔の塔底からの導出物は、リボイラで加熱された後、その一部は塔底側還流路を通じて最下段の棚段に還流され、残部は、アルケン回収路を通じてアルケンとして回収される。アルケンを気体として回収する場合には、アルケン回収路のリボイラ下流側に加熱器を設けることができる。アルケンを液体として回収する場合には、アルケン回収路のリボイラ下流側に冷却器を設けることもできる。
【0020】
蒸留塔の塔頂からは軽沸分を留出させ、その一部は、塔頂側還流路に設けたコンデンサで冷却された後、蒸留塔の最上段の棚段に還流される。
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態について、プロピレンの濃縮装置の概略図である図1に基づき説明する。
濃縮装置は、第1の蒸留塔1、第2の蒸留塔5、第3の蒸留塔15、1段目膜分離膜装置9、2段目膜分離膜装置10を備える。また、1段目の膜分離装置9に接続され、1段目の膜分離装置9に混合物を供給する原料供給路と、1段目の膜分離装置9及び2段目の膜分離装置10に接続され、1段目の膜分離装置9の膜未透過混合物を2段目の膜分離装置10に供給する膜未透過混合物供給路と、1段目の膜分離装置9及び2段目の膜分離装置10に接続され、2段目の膜分離装置10の膜透過混合物を1段目の膜分離装置9に循環供給する膜透過混合物循環供給路と、2段目の膜分離装置10に接続され、その膜未透過アルカンを回収するアルカン回収路と、1段目の膜分離装置9及び第3の蒸留塔15に接続され、その膜透過混合物を第3の蒸留塔15に供給する膜透過混合物供給路と、第3の蒸留塔15に接続され、第3の蒸留塔15の塔頂からの留出物を回収する軽沸分回収路と、第3の蒸留塔15に接続され、第3の蒸留塔15の塔底からのプロピレンを回収するプロピレン回収路と、
を備える。
【0022】
エチレン、エタン、プロピレン、プロパン、ブテン、ブタンを含む混合物Aは第1の蒸留塔1に供給される。第1の蒸留塔1では、原料混合物Aを主にエチレン及びその他の軽沸成分を含む混合物Cと、エチレンよりも沸点の高いプロピレン、プロパン、ブテン及びブタンを含む混合物Fと、に分離する。このとき、エタンの一部は混合物Cに回収されてよく、残部は混合物F中に含まれてよい。第1の蒸留塔1の段数は例えば100段であり、混合物の供給段は蒸留塔の任意の段である。
【0023】
混合物Fは、第2の蒸留塔5に供給される。第2の蒸留塔5では、原料混合物Fを主に前述の残留したエタン、プロピレン及びプロパンを含む混合物Kと、主にブテン及びブタンを含む混合物Jと、に分離する。第2の蒸留塔5の段数は例えば100段であり、混合物の供給は蒸留塔の任意の段である。
【0024】
混合物Kは、1段目の膜分離装置9に供給される。1段目の膜分離装置では混合物Kを、膜を透過した膜透過物O(透過流れともいう)と膜未透過物L(未透過流れともいう)
とに分離する。膜透過物Oに含まれるC3成分に占めるプロピレンの割合(プロピレン/(プロピレン+プロパン))は製品として求められる濃度以上であり、第3の蒸留塔15に供給される。一方膜未透過物Lは、プロパンが濃縮されていると同時に1段目の膜分離で分離できなかったプロピレンの残部が含まれており、2段目の膜分離装置10に供給される。
【0025】
2段目の膜分離装置10では、膜未透過物Lを膜透過物Nと膜未透過物Mとに分離する。膜透過物Nは1段目で分離できなかったプロピレンが濃縮されており、再度1段目の膜分離装置9に供給される。一方膜未透過物Mは、目的物であるプロピレンが非常に少なくなっているため、系外へ排出される。
【0026】
第3の蒸留塔15に供給された膜透過物Oは、第3の蒸留塔で更にプロピレンが濃縮され、塔底からの導出液Tに含まれるプロピレン濃度が製品規格を満たす濃度となり得る。従来の方法では、ここで塔頂からプロピレンを取り出し、塔底からプロパンを取り出しており、この方法では、プロピレンとプロパンの沸点差が小さいため、蒸留塔でのエネルギー消費が大きかった。本実施形態においては、蒸留塔においてプロピレンと沸点の離れたエタンを分離するため、蒸留塔でのエネルギー消費を抑えることができる。一方第3の蒸留塔15の塔頂から留出した流出分Qにはエタンが含まれる。第3の蒸留塔15の段数は例えば100段であり、膜透過物Oの供給は蒸留塔の中央付近の任意の段である。
【0027】
第1の膜分離装置の膜透過物Oは、第3の蒸留塔15においてそのアルケン濃度と棚段上のアルケン濃度との差異が最も小さくなる棚段に供給される。膜透過物Oは、その温度が供給される棚段内と大差がないように、原料混供給路の加熱器を調整することが望ましい。第3の蒸留塔15の棚段に供給される膜透過物Oの温度を該棚段内の温度に近づけるように、膜透過物供給路に膜透過物の温度を調整する加熱器及び/又は冷却器などの温度調節器を設けてもよい。
【0028】
上記濃縮装置での、膜分離装置9及び10、並びに第3の蒸留塔15が濃縮する濃縮対象は、プロピレンとプロパンを含む混合物であるが、これに限られず、エチレンとエタンとを含む混合物、1-ブテンとn-ブタンとを含む混合物であっても、濃縮することができる。
この場合、例えば公知の分離膜と蒸留塔を組み合わせることにより濃縮することができる。分離膜の前段で、目的とするアルケン、同じ炭素数のアルカン、目的アルケンよりも炭素数の少ないアルカンの混合物と、それ以外の成分を分離し、分離膜で目的とするアルケンと同じ炭素数のアルカンを分離し、後段の蒸留塔で目的とするアルケンと目的アルケンよりも炭素数の少ないアルカンを分離することでエネルギー消費を抑えることができる。
【0029】
1段目の膜分離装置に供給する混合物のアルケン濃度は特に限定されるものではないが、60モル%以上である場合に、比較的低エネルギーでの濃縮が可能となる。上限は特に限定されないが、通常90%以下である。アルケンとアルカンを含む原料混合物は、それ以外の成分や不純物などを含有しないことが望ましいが、濃縮に支障がない程度であれば、それ以外の成分や不純物を所定量以下(例えば、10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下)含有することも許容される。
【実施例
【0030】
実施例及び比較例については、汎用プロセスシミュレータPro/II v9.4を利用し、炭素数が2から4のアルカン及びアルケンの混合物から、プロピレンを分離するプロセスをシミュレーションにより評価した。シミュレーションにあたり、混合物の熱力学的物性は、Peng-Robinson式を適用、物性推算に必要なデータは、Pro/II v9.4に内蔵のデータ
を利用した。
【0031】
(フィード条件)
フィードはMTO反応器から得られる混合物を想定し、供給流量は2360kmol/h、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン、ブテン、ブタンの濃度は、それぞれ18.7、25.6、46.2、3.4、4.2、1.9モル%、温度は39.8℃、圧力は3873.6kPaとした。
【0032】
(製品規格)
ポリマーグレードのプロピレン製造を想定し、流量は1082kmol/h、製品中のプロピレンの濃度は、99.5モル%以上、プロピレンの回収率は99.5%以上とした。
【0033】
(膜性能)
膜はAg-FAU型のゼオライト膜を想定し、プロピレンの透過率は1×10-7 mol/(m・Pa・s)、プロピレンとパラフィンの透過率比を25、プロピレンとエチレンの透過率比を3と設定した。
【0034】
(実施例1)
図1に、実施例1の膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスの概略を示す。3基の蒸留塔1、5、15、リボイラ3、7、17、コンデンサ2、6、16、2基の膜分離装置9、10、圧縮機11、13、熱交換器8、12、14、1基のバルブ4を備える。
【0035】
1塔目の蒸留塔1では、主にエチレン及びエチレンよりも沸点の低い軽沸成分を塔頂から回収する。1塔目の蒸留塔1の段数は50段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、3873kPaとした。混合物の供給段は、1塔目の蒸留塔1のリボイラ3の熱量が最小となる28段目とした。1塔目の蒸留塔1の缶出液Fの流量を1333kmol/hと設定し、この缶出液に含まれるプロピレン流量を1089kmol/hと設定した。また、缶出液に含まれるエタンの流量を20kmol/hと設定した。
【0036】
2塔目の蒸留塔5では、主に、プロピレン・プロパンとブテン・ブタンを分離する。2塔目の蒸留塔5の段数は50段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、1667kPaとした。混合物の供給段は2塔目の蒸留塔5のリボイラ7の熱量が最小となる8段目とした。2塔目の蒸留塔5の留出蒸気Kの流量を1164kmol/hと設定し、この留出蒸気に含まれるプロピレン流量を1082kmol/hと設定した。
【0037】
2塔目の留出蒸気を熱交換器8で120℃に昇温した後に、膜分離装置9に供給し、主にプロピレンとプロパンを分離する。膜分離装置9の未透過流れを膜分離装置10に供給し、主にプロピレンとプロパンを分離する。膜分離装置10の透過流れNは昇圧した後に、膜分離装置9に供給する。膜分離装置9の透過流れOを昇圧した後に、3塔目の蒸留塔15に供給する。
【0038】
3塔目の蒸留塔15では、主に、プロピレンと少量含まれるエタンを分離する。3塔目の蒸留塔15の段数は150段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、1618kPaとした。膜分離装置9の透過流れOの供給段は、3塔目の蒸留塔15のリボイラ17の熱量が最小となる27段目とした。3塔目の蒸留塔15の缶出液Tの流量を1082kmol/hとし、この缶出液Tに含まれるプロピレンの濃度を99.5モル%以上となるように分離した。
【0039】
図1に示した膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスの膜分離装置9、10において、膜の分離性能(透過率比)は共通とした。膜分離の透過側圧力は200kPaとして、供給
側圧力は1667kPaとした。
【0040】
(解析例)
実施例1の膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスにおいて製品規格を満たすためには、透過流れOに含まれるプロピレンの流量が回収率を満たしており、さらに、プロピレンとプロパンの総量中のプロパン濃度が0.5モル%以下にする必要がある。
そこで上記の条件を満たすことが可能な膜分離装置9、10の膜面積についてプロセスシミュレータを用いて解析した。計算方法として、膜分離装置10の膜面積を変更した場合に、透過流れOに含まれるプロピレンの流量が1080kmol/hになるための膜分離装置9の膜面積を算出した。
【0041】
図2に膜分離装置10の膜面積を変更した場合の膜分離装置9の膜面積を示す。膜分離装置10の膜面積を大きくすることで、膜分離装置9の膜面積は小さくなる。膜分離装置10の膜面積の増加は、透過流れNの流量が増えることを意味しており、膜分離装置9、10間のリサイクル流量の増加につながる。これにより、膜分離装置10で取り除かれるパラフィンが増えるため、膜分離装置9に供給されるプロピレンの濃度が高くなる。その結果、膜分離装置9の膜面積が小さくなる。
【0042】
図3に、膜分離装置10の膜面積に対する、透過流れO中のプロパンの流量を示す。
膜分離装置10によりパラフィン(特に、プロパン)が取り除かれることで、膜分離装置9の透過流れOに含まれるプロパンの流量は低下する。実施例1では、3塔目の蒸留塔15の缶出液Tからプロピレンを回収するため、製品規格を満たすためには、透過流れOに含まれるプロパンの流量は5.41kmol/h よりも少なくする必要がある。つまり、膜分離装置10の膜面積が2656mよりも大きくする必要があることがわかる。
その一方で、膜分離装置10の膜面積を過剰に大きく設定することは、圧縮機11の負荷も増加し、投入エネルギーが多くなる。そのため、膜分離装置10の膜面積は、実施例の実現可能な領域内で小さい値を採用することで投入エネルギーを抑えることができる。
【0043】
(比較例1)
実施例1の膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスと、蒸留のみの分離プロセス(比較例1)との投入エネルギーをプロセスシミュレータにより解析した。図4に、蒸留プロセスの概略を示す。
【0044】
1塔目の蒸留塔18では、主に、エチレン・プロピレンとプロピレン・プロパン・ブテン・ブタンを分離する。1塔目の蒸留塔18の段数は50段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、3873kPaとした。混合物の供給段は、1塔目の蒸留塔18のリボイラ20の負荷が最小となる21段目とした。1塔目の蒸留塔18の缶出液流量を1313kmol/hと設定し、この缶出液に含まれるプロピレン流量を1089kmol/hと設定した。
【0045】
2塔目の蒸留塔22では、主に、プロピレン・プロパンとブテン・ブタンを分離する。2塔目の蒸留塔22の段数は50段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、1667kPaとした。混合物の供給段は、2塔目の蒸留塔22のリボイラ24の負荷が最小となる18段目とした。2塔目の蒸留塔22の留出液流量を1164kmol/hと設定し、この留出液に含まれるプロピレン流量を1082kmol/hと設定した。
【0046】
3塔目の蒸留塔25では、主に、プロピレンとプロパンを分離する。3塔目の蒸留塔25の段数は150段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、1618kPaとした。混合物の供給段は、3塔目の蒸留塔25のリボイラ27の負荷が最小となる89段目とした。3塔目の蒸留塔25の留出液流量を1082kmol/hと設定し、この留出液に含まれるプロピレンプロピレンの濃度を99.5モル%となるように分離した。
【0047】
実施例1の膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスと比較例1の蒸留プロセスの投入エネルギーを比較した結果を図5に示す。投入エネルギーは、リボイラ、熱交換器、圧縮機の値を比較した。ここで、圧縮機の投入エネルギーは、所要動力と1次エネルギーへの変換係数(9.76×10-3GJ/h/kW)から算出した値である。
【0048】
実施例1の膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスと蒸留プロセスの投入エネルギーを比較すると、膜分離を導入することでリボイラ3と17の投入エネルギーが削減されるが、リボイラ7の投入エネルギーは増加した。実施例1の膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスにおいては、圧縮機と熱交換器の投入エネルギーが必要となるが、プロセス全体の投入エネルギーは、実施例1の膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスの方が蒸留プロセスよりも約57.9%削減された。
【0049】
実施例1の膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスと、膜分離装置を1台だけ導入した膜分離と蒸留のハイブリッドプロセス(比較例2、3及び4)の投入エネルギーをプロセスシミュレータにより解析した。
【0050】
(比較例2)
図6に、3塔目の蒸留塔39の直前に膜分離装置36を導入した膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスの概略を示す。1塔目の蒸留塔28では、主に、エチレン・プロピレンとプロピレン・プロパン・ブテン・ブタンを分離する。1塔目の蒸留塔28の段数は50段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、3873kPaとした。混合物の供給段は、1塔目の蒸留塔28のリボイラ30の熱量が最小となる21段目とした。1塔目の蒸留塔28の缶出液流量を1313kmol/hと設定し、この缶出液に含まれるプロピレン流量を1089kmol/hと設定した。
【0051】
2塔目の蒸留塔32では、主に、プロピレン・プロパンとブテン・ブタンを分離する。2塔目の蒸留塔32の段数は50段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、1667kPaとした。混合物の供給段は2塔目の蒸留塔32のリボイラ34の熱量が最小となる19段目とした。2塔目の蒸留塔32の留出蒸気の流量を1164kmol/hと設定し、この留出蒸気に含まれるプロピレン流量を1082kmol/hと設定した。
【0052】
2塔目の留出蒸気を熱交換器35で加熱し、膜分離装置36に供給し、主にプロピレンとプロパンを分離。膜分離装置の面積は、3塔目の蒸留塔39のリボイラ40の負荷が最小となる1991mとした。膜分離の透過側の圧力は200kPaとした。
【0053】
膜分離の透過流れは圧縮機37により1700kPaまで昇圧して3塔目の蒸留塔39に供給する。膜分離の未透過流れも3塔目の蒸留塔39に供給する。3塔目の蒸留塔39では、主に、プロピレンとプロパンを分離する。3塔目の蒸留塔39の段数は150段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、1618kPaとした。膜分離装置35の透過流れと未透過流れの供給段は、それぞれ、3塔目の蒸留塔39のリボイラ41の負荷が最小となる8と116段目とした。3塔目の蒸留塔39の缶出液の流量を1082kmol/hとし、この缶出液に含まれるプロピレンの濃度を99.5モル%となるように分離した。
【0054】
(比較例3)
図7に、2塔目の蒸留塔50の直前に膜分離装置47を導入した膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスの概略を示す。1塔目の蒸留塔42では、主に、エチレン・プロピレンとプロピレン・プロパン・ブテン・ブタンを分離する。1塔目の蒸留塔42の段数は50段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、3873kPaとした。混合物の供給段は、1塔目の蒸留塔42のリボイラ43の負荷が最小となる21段目とした。1塔目の蒸留塔42の缶出液
流量を1313kmol/hと設定し、この缶出液に含まれるプロピレン流量を1089kmol/hと設定した。
【0055】
1塔目の蒸留塔42の缶出液を熱交換器46により加熱し蒸発させ膜分離装置47に供給し、オレフィンとパラフィンを分離する。膜分離装置47の膜面積は、2塔目の蒸留塔50のリボイラ負荷が最小となる2705mとした。膜分離の透過側の圧力は200kPaとした。
【0056】
膜分離の透過流れは圧縮機48により1700kPaまで昇圧して蒸留塔に供給し、膜分離の未透過流れも蒸留塔に供給する。2塔目の蒸留塔50では、主に、プロピレン・プロパンとブテン・ブタンを分離する。2塔目の蒸留塔50の段数は50段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、1667kPaとした。膜分離装置47の透過流れと未透過流れの供給段は、それぞれ、2塔目の蒸留塔50のリボイラ52の負荷が最小となる15と29段目とした。2塔目の蒸留塔50の留出液流量を1164kmol/hと設定し、この留出液に含まれるプロピレン流量を1082kmol/hと設定した。
【0057】
3塔目の蒸留塔53では、主に、プロピレンとプロパンを分離する。3塔目の蒸留塔53の段数は150段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、1618kPaとした。混合物の供給段は、3塔目の蒸留塔53のリボイラ55の負荷が最小となる87段目とした。3塔目の蒸留塔53の留出液流量を1082kmol/hとし、この缶出液に含まれるプロピレンの濃度を99.5モル%となるように分離した。
【0058】
(比較例4)
図8に、1塔目の蒸留塔60の直前に膜分離装置57を導入した膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスの概略を示す。混合物を熱交換器56により蒸発させ膜分離装置57に供給し、オレフィンとパラフィンを分離する。膜分離装置57の膜面積は、1塔目の蒸留塔60のリボイラ62の負荷が最小となる4123mとした。膜分離の透過側の圧力は200 kPaとした。
【0059】
膜分離の透過流れは圧縮機58により3900kPaまで昇圧して1塔目の蒸留塔59に供給し、膜分離の未透過流れも1塔目の蒸留塔60に供給する。1塔目の蒸留塔60では、主に、エチレン・プロピレンとプロピレン・プロパン・ブテン・ブタンを分離する。1塔目の蒸留塔60の段数は50段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、3873kPaとした。膜分離装置57の透過流れと未透過流れは、それぞれ、1塔目の蒸留塔60のリボイラ62の負荷が最小となる10と28段目とした。1塔目の蒸留塔60の缶出液流量を1313kmol/hと設定し、この缶出液に含まれるプロピレン流量を1089kmol/hと設定した。
【0060】
2塔目の蒸留塔64では、主に、プロピレン・プロパンとブテン・ブタンを分離する。2塔目の蒸留塔64の段数は50段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、1667kPaとした。混合物の供給段は、2塔目の蒸留塔64のリボイラ66の負荷が最小となる19段目とした。2塔目の蒸留塔64の留出液流量を1164kmol/hと設定し、この留出液に含まれるプロピレン流量を1082kmol/hと設定した。
【0061】
3塔目の蒸留塔67では、主に、プロピレンとプロパンを分離する。3塔目の蒸留塔67の段数は150段とした。蒸留塔の塔頂圧力は、1618kPaとした。混合物の供給段は、3塔目の蒸留塔67のリボイラ69の負荷が最小となる89段目とした。3塔目の蒸留塔67の留出液流量を1082kmol/hとし、この缶出液に含まれるプロピレンの濃度を99.5モル%となるように分離した。
【0062】
図1に示した膜分離と蒸留のハイブリッドプロセス(実施例)と図6、7、8に示した膜分離と蒸留のハイブリッドプロセス(比較例2,3,4)の投入エネルギーを比較した結果を図9に示す。投入エネルギーは、リボイラ、熱交換器、圧縮機の値を比較した。ここで、圧縮機の投入エネルギーは、所要動力と1次エネルギーへの変換係数(9.76×10-3GJ/h/kW)から算出した値である。
【0063】
実施例1の膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスの投入エネルギーは、比較例2、3、4の膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスの投入エネルギーよりも、それぞれ、約36、60、65%少なくなった。実施例1のとおりプロピレンの回収方法とプロパンの分離方法を変えることにより、2塔目の蒸留塔5のリボイラ7の負荷は増加量よりも、1塔目の蒸留塔1のリボイラ3と3塔目の蒸留塔15のリボイラ17の負荷の削減量の方が大きくなり、圧縮機11、13や熱交換器8の負荷を考慮しても、プロセス全体で投入エネルギーを削減できることを明らかにした。
【0064】
(比較例5)
実施例1と同様のプロセスを想定し、1塔目の蒸留塔1でエタン及びエタンよりも沸点の低い成分を全て留出液Cから回収するとして、プロセス全体のエネルギー消費量を算出した。本比較例においては、膜分離装置9に導入されるのはプロピレンとプロパンのみとなる。そのため、製品規格のプロピレンを膜分離装置9の透過流れOから回収することとなり、3塔目の蒸留塔15は不要となる。
【0065】
比較例5のプロセス全体のエネルギー消費量は、168.8GJ/hとなり、実施例1のエネルギー消費量148.9GJ/hよりも大きくなった。すなわち、第1の蒸留塔1でエタンを全量回収せず、膜分離装置9の後段の蒸留塔15により、塔頂からエタンを分離し、塔底からプロピレンを回収することで、プロセス全体のエネルギー消費量を削減できることが示された。
【0066】
(実施例2)
実施例1の膜分離と蒸留のハイブリッドプロセスにおいて、比較例1に対して省エネルギー化が達成可能な膜の分離性能を解析した。具体的には、プロピレンの透過率は固定して、パラフィンの透過率を変更することで、プロピレンとパラフィンの分離係数を変化させ、それ以外の条件は実施例1と同様にしてプロセスシミュレーションを実施した。
【0067】
図10に、膜の分離係数を変えた時のプロセス全体のエネルギー消費量を示す。本実施例において、プロピレンとパラフィンの分離係数が8よりも大きければ、比較例1よりも消費エネルギーが小さくなり、効率的な分離が可能であることが示された。
なお、これは本実施例のフィード条件の場合であって、フィード条件が変わった場合、プロセス全体の最適な運転条件を選択することにより分離係数8未満でも効果が得られる。具体的には、フィード組成を変えたり、分離膜の非透過側・透過側の圧力を変えたりすることにより、分離係数が小さい場合でも消費エネルギーを低下させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、例えば、プロピレンとプロパン等の同炭素数のアルケンとアルカンとを含む混合物からそれらの少なくとも一方を高濃度に分離、濃縮するための手段として有利に利用することができ、産業上の利用可能性は極めて高い。
本発明は、既設の蒸留塔に膜分離装置を導入する手段としても利用可能であり、また、新設の膜分離と蒸留を組み合わせた装置を設計する手段としても利用可能であり、産業上の利用可能性は極めて高い。
【符号の説明】
【0069】
1、5、15 蒸留塔
9、10 膜分離装置
2、6、16 コンデンサ
3、7、17 リボイラ
4 バルブ
11、13 圧縮機
8、12、14 熱交換器
18、22、25 蒸留塔
19、20、26 コンデンサ
20、24、27 リボイラ
21 バルブ
28、32、39 蒸留塔
36 膜分離装置
29、33、40 コンデンサ
30、34、41 リボイラ
31 バルブ
37 圧縮機
35、38 熱交換器
42、50、53 蒸留塔
47 膜分離装置
43、51、54 コンデンサ
44、52、55 リボイラ
45 バルブ
48 圧縮機
46、49 熱交換器
60、64、67 蒸留塔
57 膜分離装置
61、65、68 コンデンサ
62、66、69 リボイラ
63 バルブ
58 圧縮機
56、59 熱交換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10