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特許7595881半導体ナノ粒子及びその製造方法並びに発光デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-29
(45)【発行日】2024-12-09
(54)【発明の名称】半導体ナノ粒子及びその製造方法並びに発光デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20241202BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20241202BHJP
   C09K 11/88 20060101ALI20241202BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20241202BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20241202BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20241202BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20241202BHJP
【FI】
H01L33/50
C09K11/08 A ZNM
C09K11/08 G
C09K11/88
C09K11/64
C09K11/62
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021542896
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2020031860
(87)【国際公開番号】W WO2021039727
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2019153625
(32)【優先日】2019-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】鳥本 司
(72)【発明者】
【氏名】亀山 達矢
(72)【発明者】
【氏名】宮前 千恵
(72)【発明者】
【氏名】桑畑 進
(72)【発明者】
【氏名】上松 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小谷松 大祐
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-044142(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0299567(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
C09K 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
、M及びZを含む半導体を含むコアであって、Mが、Ag、Cu、Au及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、少なくともAgを含み、Mが、Al、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、In及びGaの少なくとも一方を含み、Zが、S、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含むコアを準備することと、
前記コアと、Al、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種である第1元素を含む化合物の少なくとも1種と、S、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種である第2元素の単体及び第2元素を含む化合物の少なくとも1種とを含む混合物を得ることと、
前記混合物を熱処理してコアシェル型半導体ナノ粒子を得ることと、を含み、
前記混合物は、前記第1元素を含む化合物と、前記第2元素の単体または第2元素を含む化合物とを、前記第1元素の総原子数と前記第2元素の総原子数との合計に対する第1元素の総原子数の比が0.6以上になる混合比で含むコアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記混合物は、添加された酸素源を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理は、前記混合物に酸素源を添加することを含む請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理して得られるコアシェル型半導体ナノ粒子に、酸素源を接触させることを含む請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体ナノ粒子及びその製造方法並びに発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体粒子はその粒径が例えば10nm以下になると、量子サイズ効果を発現することが知られており、そのようなナノ粒子は量子ドット(半導体量子ドットとも呼ばれる)と呼ばれる。量子サイズ効果とは、バルク粒子では連続とみなされる価電子帯と伝導帯のそれぞれのバンドが、粒径をナノサイズとしたときに離散的となり、粒径に応じてバンドギャップエネルギーが変化する現象を指す。
【0003】
量子ドットは、光を吸収して、そのバンドギャップエネルギーに対応する光に波長変換可能であるため、量子ドットの発光を利用した白色発光デバイスが提案されている(例えば、特開2012-212862号公報及び特開2010-177656号公報参照)。またバンド端発光が可能で低毒性の組成とし得るコアシェル型半導体ナノ粒子及びその製造方法が提案されている(例えば、特開2018-044142号公報参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バンド端発光を示す量子ドットとして、発光効率により優れる半導体ナノ粒子が求められている。本開示の一態様は、バンド端発光が可能で、発光効率に優れる半導体ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第一態様は、コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法である。製造方法は、M、M及びZを含む半導体を含むコアであって、Mが、Ag、Cu、Au及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、少なくともAgを含み、Mが、Al、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、In及びGaの少なくとも一方を含み、Zが、S、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含むコアを準備することと、コアと、Al、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種である第1元素を含む化合物の少なくとも1種と、S、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種である第2元素の単体及び第2元素を含む化合物の少なくとも1種とを含む混合物を得ることと、混合物を熱処理してコアシェル型半導体ナノ粒子を得ることとを含む。混合物は、第1元素を含む化合物と、第2元素の単体または第2元素を含む化合物とを第1元素の総原子数と第2元素の総原子数との合計に対する第1元素の総原子数の比が0.5より大きい値になる混合比で含む。
【0006】
第二態様は、コアと、コアの表面に配置されるシェルとを備え、光の照射により発光するコアシェル型半導体ナノ粒子である。コアは、M、M及びZを含む半導体を含み、Mが、Ag、Cu、Au及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、少なくともAgを含み、Mが、Al、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、In及びGaの少なくとも一方を含み、Zが、S、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。コアは、Mの総含有率が10モル%以上30モル%以下であり、Mの総含有率の総含有率が15モル%以上35モル%以下であり、Zの総含有率が35モル%以上55モル%以下である。シェルは、実質的に、Al、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種である第1元素と、S、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種である第2元素と、O元素とからなる。
【0007】
第三態様は、前記コアシェル型半導体ナノ粒子を含む光変換部材と、半導体発光素子とを備える発光デバイスである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、バンド端発光が可能で、発光効率に優れる半導体ナノ粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】コアシェル型半導体ナノ粒子の吸収スペクトルを示す図である。
図2】コアシェル型半導体ナノ粒子の発光スペクトルを示す図である。
図3】コアシェル型半導体ナノ粒子の吸収スペクトルを示す図である。
図4】コアシェル型半導体ナノ粒子の発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、コアシェル型半導体ナノ粒子及びその製造方法並びに発光デバイスを例示するものであって、本発明は、以下に示すコアシェル型半導体ナノ粒子及びその製造方法並びに発光デバイスに限定されない。
【0011】
コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法
コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、コアを準備する準備工程と、コア及びシェル形成材料を含む混合物を得る混合工程と、混合物を熱処理してコアシェル型半導体ナノ粒子を得る熱処理工程とを含む。コアは、元素M、元素M及び元素Zを含む半導体を含む。元素Mは、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、少なくともAgを含む。元素Mは、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)及びタリウム(Tl)からなる群より選ばれる少なくとも1種含み、In及びGaの少なくとも一方を含む。元素Zは、硫黄(S)、セレン(Se)及びテルル(Te)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。混合物は、コアと、シェル形成材料としてAl、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種である第1元素を含む化合物の少なくとも1種、並びにS、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種である第2元素の単体及び第2元素を含む化合物の少なくとも1種とを含む。混合物は、第1元素を含む化合物(以下、第1元素源ともいう)と、第2元素の単体または第2元素を含む化合物(以下、併せて第2元素源ともいう)とを、第1元素の総原子数と第2元素の総原子数との合計に対する第1元素の総原子数の比が0.5より大きい値になる混合比で含む。
【0012】
コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法においては、コア表面にシェルを形成する際に、シェル形成材料である第1元素源と、第2元素源とを、第1元素の含有量が第2元素に対してモル基準で過剰量となるように含む混合物を熱処理することで、発光効率に優れるコアシェル型半導体ナノ粒子を生成することができる。これは例えば、過剰に含まれる第1元素が、第2元素以外の元素、例えば、酸素と反応してシェルを構成するためと考えることができる。
【0013】
コア準備工程
コア準備工程では、元素M、元素M及び元素Zを含む半導体を含むコアを準備する。コアは半導体ナノ粒子であってよい。コアは、市販の半導体ナノ粒子から適宜選択して準備してもよく、所望の組成を有する半導体ナノ粒子を製造して準備してもよい。
【0014】
コアを構成する元素Mは、Agを含み、Cu、Au及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含んでいてもよい。元素Mにおけるアルカリ金属には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等が含まれる。アルカリ金属は、Agと同じく1価の陽イオンとなり得るため、半導体ナノ粒子の組成におけるAgの一部を置換することができる。特にLiはAgとイオン半径が同程度であり、好ましく用いられる。半導体ナノ粒子の組成において、例えば、Agの一部がアルカリ金属に置換されることで、例えば、バンドギャップが広がって発光ピーク波長が短波長にシフトする。元素Mは、In及びGaの少なくとも一方を含み、Al及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含んでいてもよい。元素Zは、S、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、少なくともSを含んでいてよい。
【0015】
コアは例えば、元素MとしてAgと、元素MとしてIn及びGaの少なくとも一方と、元素ZとしてSとを含む半導体ナノ粒子であってよい。またコアは例えば、以下の式(1)で表される組成を有する半導体ナノ粒子であってよい。
(q+3)/2 (1)
ここで、0.2<q≦1.2である。
【0016】
コアとなる半導体ナノ粒子は、以下のような製造方法で製造することができる。例えば、第1のコア製造方法は、元素Mを含む塩と、元素Mを含む塩と、元素Zの供給源と、有機溶剤とを含む第1の原料混合物を得る原料準備工程と、第1の原料混合物を熱処理して半導体ナノ粒子を得る熱処理工程とを含んでいてよい。また第2のコア製造方法は、元素Mを含む塩と、元素Mを含む塩と、有機溶剤とを含む第2の原料混合物を得る原料準備工程と、第2の原料混合物を所定の温度に加熱する昇温工程と、昇温された第2の原料混合物に元素Zの供給源を添加する添加工程とを含んでいてよい。
【0017】
第1のコア製造方法においては、元素Mを含む塩と、元素Mを含む塩と、元素Zの供給源とを一度に有機溶剤に投入して第1の原料混合物を調製し、これを熱処理することでコアを製造してもよい。この方法によれば、簡便な操作によりワンポットで再現性よくコアとしての半導体ナノ粒子を合成できる。また、有機溶剤と元素Mを含む塩とを反応させて錯体を形成し、次に、有機溶媒と元素Mを含む塩とを反応させて錯体を形成するとともに、これらの錯体と元素Zの供給源とを反応させ、得られた反応物を結晶成長させる方法でコアを製造してもよい。この場合、熱処理は元素Zの供給源と反応させる段階にて実施してよい。
【0018】
元素Mを含む塩及び元素Mを含む塩は、有機酸塩又は無機酸塩のいずれであってもよい。具体的には、無機酸塩としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩等を挙げることができる。また有機酸塩としては、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸、アセチルアセトナート塩等を挙げることができる。元素Mを含む塩及び元素Mを含む塩は、好ましくはこれらからなる群から選択される少なくとも一種であり、より好ましくは酢酸塩、アセチルアセトナート塩等の有機酸塩である。有機酸塩は有機溶剤への溶解度が高く、反応をより均一に進行させやすいことによると考えられる。
【0019】
元素Zの供給源のうちSの供給源としては、例えば、硫黄単体及び含硫化合物を挙げることができる。含硫化合物としては、具体的には、2,4-ペンタンジチオンなどのβ-ジチオン類;1,2-ビス(トリフルオロメチル)エチレン-1,2-ジチオールなどのジチオール類;ジエチルジチオカルバミド酸塩等のジアルキルジチオカルバミド酸塩;チオ尿素、モノアルキルチオ尿素、1,3-ジアルキルチオ尿素、1,1-ジアルキルチオ尿素、1,1,3-トリアルキルチオ尿素、1,1,3,3-テトラアルキルチオ尿素等の炭素数1から18のアルキル基を有するアルキルチオ尿素などが挙げられる。
【0020】
Se供給源としては、例えば、セレン単体;セレノ尿素、セレノアセトアミド、アルキルセレノール等の含Se化合物などを挙げることができる。Te供給源としては、例えば、テルル単体、Te-ホスフィン錯体、アルキルテルロールなどを挙げることができる。
【0021】
有機溶剤としては、例えば炭素数4から20の炭化水素基を有するアミン、例えば炭素数4から20のアルキルアミンもしくはアルケニルアミン、例えば炭素数4から20の炭化水素基を有するチオール、例えば炭素数4から20のアルキルチオールもしくはアルケニルチオール、例えば炭素数4から20の炭化水素基を有するホスフィン、例えば炭素数4から20のアルキルホスフィンもしくはアルケニルホスフィン等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの有機溶媒は、例えば、最終的には、得られる半導体ナノ粒子を表面修飾してもよい。有機溶剤は2種以上を組み合わせて使用してよく、例えば炭素数4から20の炭化水素基を有するチオールから選択される少なくとも1種と、炭素数4から20の炭化水素基を有するアミンから選択される少なくとも1種とを組み合わせた混合溶媒を使用してよい。これらの有機溶媒は他の有機溶剤と混合して用いてもよい。有機溶剤が前記チオールと前記アミンとを含む場合、アミンに対するチオールの含有体積比(チオール/アミン)は、例えば、0より大きく1以下であり、好ましくは0.007以上0.2以下である。
【0022】
第1の原料混合物は、元素Mを含む塩の少なくとも1種と、元素Mを含む塩の少なくとも1種と、元素Zの供給源の少なくとも1種とを、これらが互いに反応することなく含んでいてもよく、これらから形成される錯体として含んでいてもよい。また、第1の原料混合物は、元素Mを含む塩から形成されるM錯体、元素Mを含む塩から形成されるM錯体、元素Zの供給源から形成される錯体等を含むものであってもよい。錯体形成は、例えば、適当な有機溶剤中で、元素Mを含む塩と、元素Mを含む塩と、元素Zの供給源とを混合することで実施される。また、混合の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えばアルゴン雰囲気、窒素雰囲気等であってもよい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生を、低減又は防止することができる。
【0023】
第1の原料混合物では、その組成として含まれる元素Mの原子数の合計に対する元素Mの原子数の合計の比(M/M)が、例えば、0.1以上2.5以下であり、好ましくは0.2以上2.0以下、より好ましくは0.3以上1.5以下である。また、第1の原料混合物の組成では、In及びGaの原子数の合計に対するInの原子数の比(In/(In+Ga))が、例えば、0.1以上1.0以下であり、好ましくは0.25以上0.99以下である。更に、第1の原料混合物の組成では、元素Zの原子数の合計に対する元素Mの原子数の合計の比(M/Z)が、例えば、0.27以上1.0以下であり、好ましくは0.35以上0.5以下である。第1の原料混合物の組成がこれらの条件を満たすように各元素の供給源を用いることにより、バンド端発光を与えやすい半導体ナノ粒子を生成することができる。
【0024】
第1の製造方法における熱処理工程は、第1の原料混合物を所定の温度で熱処理する1段階の熱処理工程であっても、第1温度で熱処理した後、第1温度よりも高い第2温度で熱処理する2段階の熱処理工程であってもよい。熱処理を2段階で実施することにより、例えば、より良好な再現性で、バンド端発光の強度が比較的高い半導体ナノ粒子を製造することができる。ここで、第1温度での熱処理と第2温度での熱処理とは、連続して行ってもよく、第1温度での熱処理後に降温し、次いで第2温度に昇温して熱処理してもよい。
【0025】
第1の原料混合物の熱処理を1段階の熱処理工程で行う場合、熱処理温度は、例えば180℃以上であってよく、好ましくは200℃以上又は260℃以上である。また、熱処理温度は、例えば370℃以下であってよく、好ましくは350℃以下又は320℃以下である。熱処理の時間は、例えば、1分以上であってよく、好ましくは5分以上、より好ましくは7分以上である。また、熱処理の時間は、例えば、120分以下であってよく、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下又は20分以下である。
【0026】
また、第1の原料混合物の熱処理を2段階の熱処理工程で行う場合、第1温度は、例えば30℃以上であってよく、好ましくは100℃以上である。また、第1温度は、例えば200℃以下であってよく、好ましくは180℃以下である。第1温度での熱処理の時間は、例えば、1分以上であってよく、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上である。また、第1温度での熱処理の時間は、例えば、120分以下であってよく、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下である。
【0027】
第2温度は、例えば180℃以上であってよく、好ましくは200℃以上である。また、第2温度は、例えば370℃以下であってよく、好ましくは350℃以下である。第2温度での熱処理の時間は、例えば、1分以上であってよく、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上である。また、第2温度での熱処理の時間は、例えば、120分以下であってよく、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下である。
【0028】
なお、熱処理の時間は、所定の温度に到達した時点を熱処理の開始時間とし、降温又は昇温のための操作を行った時点をその所定温度における熱処理の終了時点とする。また所定の温度に到達するまでの昇温速度は、例えば、1℃/分以上100℃/分以下であってよく、又は1℃/分以上50℃/分以下であってよい。また、熱処理後における降温速度は、例えば1℃/分以上100℃/分以下であり、必要に応じて冷却してもよく、熱源を停止して放冷するだけでもよい。
【0029】
熱処理工程における雰囲気は、アルゴン等の希ガス雰囲気、窒素雰囲気等の不活性雰囲気が好ましい。不活性雰囲気下で熱処理することで、酸化物の副生を抑制することができる。
【0030】
第2のコア製造方法における準備工程では、元素Mを含む塩の少なくとも1種と、元素Mを含む塩の少なくとも1種と、有機溶剤とを含む第2の原料混合物を準備する。第2の原料混合物は、元素Mを含む塩と、元素Mを含む塩とを有機溶剤と混合することで調製できる。また第2の原料混合物は元素Mを含む塩又は元素Mを含む塩を有機溶剤と混合し、次いで残りの成分を混合して調製してもよい。得られる第2の原料混合物は、昇温された状態で未溶解物のない溶液状態であってよい。また、混合の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えばアルゴン雰囲気、窒素雰囲気等であってもよい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生を、低減又は防止することができる。
【0031】
第2のコア製造方法に用いられる元素Mを含む塩、元素Mを含む塩、及び有機溶剤は第1のコア製造方法に用いられるそれらと同様である。
【0032】
第2の原料混合物は、元素Mを含む塩の少なくとも1種と、元素Mを含む塩の少なくとも1種とを、これらが互いに反応することなく含んでいてもよく、これらから形成される錯体として含んでいてもよい。また、第2の原料混合物は、元素Mを含む塩から形成されるM錯体、元素Mを含む塩から形成されるM錯体等を含むものであってもよい。錯体形成は、例えば、適当な有機溶剤中で、元素Mを含む塩と、元素Mを含む塩とを混合することで実施される。
【0033】
第2の原料混合物では、その組成として含まれる元素Mの原子数の合計に対する元素Mの原子数の合計の比(M/M)が、例えば、0.1以上2.5以下であり、好ましくは0.2以上2.0以下、より好ましくは0.3以上1.5以下である。また、第2の原料混合物の組成では、In及びGaの原子数の合計に対するInの原子数の比(In/(In+Ga))が、例えば、0.1以上1.0以下であり、好ましくは0.25以上0.99以下である。混合物の組成がこれらの条件を満たすように各元素の供給源を用いることにより、バンド端発光を与えやすい半導体ナノ粒子を生成することができる。
【0034】
第2のコア製造方法における昇温工程では、準備した第2の原料混合物を例えば、120℃以上300℃以下の範囲にある温度に昇温する。昇温によって到達する温度は、好ましくは125℃以上、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは135℃以上であり、また好ましくは175℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下である。昇温速度は、例えば1℃/分以上50℃/分以下であり、好ましくは10℃/分以上50℃/分以下である。
【0035】
第2の原料混合物の昇温工程における雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えばアルゴン雰囲気、窒素雰囲気等が好ましい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生を、低減又は防止することができる。
【0036】
第2のコア製造方法における添加工程では、所定の温度に昇温された第2の原料混合物に、所定の温度を維持しながら、元素Zの供給源を混合物中の元素Mの原子数に対する元素Zの原子数の比の増加率が、例えば、10/分以下となるように徐々に添加する。混合物中のMの原子数に対するZの原子数の比(Z/M比)の増加率は、例えば、ある時点におけるZ/M比をその単位時間後におけるZ/M比から差し引き、単位時間を分換算した値で除して算出される。単位時間は例えば、1秒から1分の間で任意に選択される。第2の原料混合物中のMの原子数に対するZの原子数の比の増加率は、生成する粒子の粒子成長制御の点より、好ましくは0.0001/分以上2/分以下であり、より好ましくは0.0001/分以上1/分以下であり、さらに好ましくは0.001/分以上0.2/分以下であり、特に好ましくは0.001/分以上0.1/分以下である。また、好ましくは0.0002/分以上2/分以下であり、より好ましくは0.002/分以上0.2/分以下である。
【0037】
元素Zの供給源の総添加量は、最終的に得られる混合物中の元素Mの原子数に対する元素Zの原子数の比が0.1以上5.0以下となる量であり、好ましくは1.0以上2.5以下となる量である。元素Zの供給源の添加に要する所用時間は、例えば、1分間以上であればよく、好ましくは5分間以上、より好ましくは15分間以上、更に好ましくは20分間以上であり、また好ましくは120分間以下、より好ましくは60分間以下、更に好ましくは40分間以下である。
【0038】
元素Zの供給源の総添加量が、混合物中の元素Mの原子数に対する元素Zの原子数の比が0.1以上2.5以下となる量の場合、Z/M比の増加率は、例えば、0.0001/分以上1/分以下であり、好ましくは0.001/分以上0.1/分以下である。また、元素Zの供給源の総添加量が、混合物中の元素Mの原子数に対する元素Zの原子数の比が2.5を越えて5.0以下となる量の場合、Z/M比の増加率は、例えば、0.0002/分以上2/分以下であり、好ましくは0.002/分以上0.2/分以下である。
【0039】
元素Zの供給源の添加は、単位時間当たりの添加量が所要時間にわたって略同一になるように行ってよい。すなわち、元素Zの供給源の総添加量を、所要時間を単位時間で除した数で除して得られる単位量を単位時間当たりの添加量として添加してよい。単位時間は、例えば、1秒間、5秒間、10秒間、30秒間又は1分間とすることができる。元素Zの供給源は、連続的に添加されてもよく、段階的に添加されてもよい。また元素Zの供給源は、例えば、不活性ガス雰囲気下で混合物に添加されてよい。
【0040】
元素Zの供給源としては、第1のコア製造方法に用いられる元素Zの供給源と同様である。特に第2のコア製造方法においては、元素Zの供給源として、有機溶剤に溶解可能な含硫化合物が好ましく、溶解性と反応性の観点から、アルキルチオ尿素が好ましく用いられ、1,3-アルキルチオ尿素がより好ましく用いられる。アルキルチオ尿素のアルキル基は、炭素数が1から12であることが好ましく、1から8がより好ましく、1から6がより好ましく、1から4がより好ましく、1から3がさらに好ましい。アルキルチオ尿素が複数のアルキル基を有する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0041】
元素Zの供給源は、元素Zの単体、又は元素Zを含む化合物を有機溶剤に分散又は溶解した溶液として昇温された第2の原料混合物に添加されてよい。元素Zの供給源が元素Zを含む化合物の溶液であることで、添加工程における元素Zの供給源の単位時間当たりの添加量を容易に制御することができ、粒度分布のより狭い半導体ナノ粒子を効率的に製造することができる。
【0042】
元素Zの供給源となる元素Zを含む化合物を溶解する有機溶剤としては、上述した有機溶剤と同様のものを例示することができ、例えば、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有するアミンを用いることができる。
【0043】
元素Zの供給源が元素Zを含む化合物の溶液の場合、元素Zを含む化合物の濃度は、例えば1mmol/L以上500mmol/L以下であり、好ましくは10mmol/L以上50mmol/L以下である。
【0044】
第2のコア製造方法は、元素Zの供給源の添加が終了した後の混合物を120℃以上300℃以下の範囲にある温度で熱処理する熱処理工程をさらに含んでいてもよい。熱処理の温度は、混合物が昇温された温度と同一であってもよく、異なっていてもよい。熱処理の温度は、量子収率の点から、例えば120℃以上300℃以下であり、好ましくは125℃以上175℃以下、より好ましくは130℃以上160℃以下、更に好ましくは135℃以上150℃以下である。
【0045】
熱処理の時間は、半導体ナノ粒子の量子効率の点から、例えば3秒以上であり、好ましくは5分間以上、10分間以上、又は20分間以上である。熱処理時間の上限については特に限定はないが、例えば、60分以下とすることができる。熱処理する時間は所定の温度に到達した時点(例えば140℃の場合は140℃に到達した時間)を熱処理の開始時間とし、降温のための操作を行う時点を熱処理の終了時間とする。
【0046】
熱処理の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えば、アルゴン雰囲気又は窒素雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生を、低減ないしは防止することができる。
【0047】
第2のコア製造方法は、上述の工程に続いて半導体ナノ粒子を含む溶液の温度を降温する冷却工程を有していてもよい。冷却工程は、降温のための操作を行った時点を開始とし、50℃以下まで冷却された時点を終了とする。
【0048】
冷却工程は、未反応のAg塩からの硫化銀の生成を抑制する点から、降温速度が50℃/分以上である期間を含んでいてもよい。例えば、降温のための操作を行った後、降温が開始した時点において50℃/分以上とすることができる。
【0049】
冷却工程の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えば、アルゴン雰囲気又は窒素雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生を低減ないしは防止することができる。
【0050】
第1のコア製造方法又は第2のコア製造方法は、得られる半導体ナノ粒子を溶液から分離する分離工程を更に含んでいてもよく、必要に応じて、さらに精製工程を含んでいてよい。分離工程では、例えば、半導体ナノ粒子を含む溶液を遠心分離に付して、半導体ナノ粒子を含む上澄み液を取り出してよい。精製工程では、例えば、分離工程で得られる上澄み液に、アルコール等の適当な有機溶剤を添加して遠心分離に付し、半導体ナノ粒子を沈殿物として取り出してよい。なお、上澄み液から有機溶剤を揮発させることによっても、半導体ナノ粒子を取り出すことができる。取り出した沈殿物は、例えば、真空脱気、もしくは自然乾燥、または真空脱気と自然乾燥との組み合わせにより、乾燥させてよい。自然乾燥は、例えば、大気中に常温常圧にて放置することにより実施してよく、その場合、20時間以上、例えば、30時間程度放置してよい。また、取り出した沈殿物は、適当な有機溶剤に分散させてよい。
【0051】
第1のコア製造方法又は第2のコア製造方法では、アルコール等の有機溶剤の添加と遠心分離による精製工程を必要に応じて複数回実施してよい。精製に用いるアルコールとして、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール等の炭素数1から4の低級アルコールを用いてよい。沈殿を有機溶剤に分散させる場合、有機溶剤として、クロロホルム等のハロゲン系溶剤、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等の炭化水素系溶剤等を用いてよい。
【0052】
混合工程
コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法における混合工程では、準備されるコアに、Al、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種である第1元素を含む化合物(第1元素源)と、S、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種である第2元素の単体及び第2元素を含む化合物の少なくとも1種(第2元素源)とを、第1元素の総原子数と第2元素の総原子数との合計に対する第1元素の総原子数の比(以下、第1元素比ともいう)が、例えば0.5より大きい値になる混合比で混合してシェル形成用混合物を得る。シェル形成用混合物における第1元素比は、好ましくは0.6以上、又は0.7以上である。第1元素比の上限は例えば、1未満であり、好ましくは0.98以下又は0.95以下である。
【0053】
シェル形成用混合物は、準備されるコアと、第1元素源と、第2元素源とを有機溶剤中で混合することで得られてもよい。有機溶剤としては、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種とすることができ、あるいは、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種とすることができ、これらの混合物であってもよい。
【0054】
準備されるコアは分散液としてシェル形成用混合物を構成してもよい。半導体ナノ粒子であるコアが分散した液体においては、散乱光が生じないため、分散液は一般に透明(有色又は無色)のものとして得られる。コアを分散させる溶媒は、コアを作製するときと同様、任意の有機溶剤とすることができる。例えば、有機溶剤は、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種とすることができ、あるいは、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種とすることができ、あるいは炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種と炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種との組み合わせとすることができる。含窒素化合物としては、特に、特に純度の高いものが入手しやすい点と沸点が290℃を超える点とから、反応温度より高いことが好ましく、具体的な有機溶剤としては、オレイルアミン、n-テトラデシルアミン、ドデカンチオール、又はその組み合わせが挙げられる。
【0055】
コアの分散液は、分散液に占める粒子の濃度が、例えば、5.0×10-8モル/リットル以上5.0×10-4モル/リットル以下、特に1.0×10-7モル/リットル以上5.0×10-5モル/リットル以下となるように調製してよい。分散液に占める粒子の割合が5.0×10-8モル/リットル以上であると貧溶媒による凝集・沈澱プロセスによる生成物の回収が容易になる傾向がある。また5.0×10-4モル/リットル以下であるとコアを構成する材料のオストワルド熟成、衝突による融合が抑制され、粒径分布が広くなることを抑制できる傾向がある。なお、粒子の濃度は、分散液に含まれる粒子の個数をアボガドロ数で除した値を基にして算出される。
【0056】
第1元素源は、Al、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる第13族元素の少なくとも1種を含む化合物であり、例えば、第1元素の有機酸塩、無機酸塩、有機金属化合物等である。第1元素源として具体的には、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、アセチルアセトナート錯体等の有機酸塩が挙げられ、好ましくは酢酸塩、アセチルアセトナート錯体等の有機酸塩である。有機酸塩は有機溶媒への溶解度が高く、反応をより均一に進行させやすいことによると考えられる。
【0057】
第1元素源は、In及びGaの少なくとも一方を含む塩であってよい。In及びGaの少なくとも一方を含む塩は、酢酸塩、アセチルアセトナート錯体等の有機酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩等の無機酸塩等であってよい。好ましくは酢酸塩、アセチルアセトナート錯体等であってよい。
【0058】
第2元素源は、S、Se及びTeからなる群より選ばれる第16族元素の単体又は第16族元素を含む化合物である。例えば、第2元素としてSをシェルの構成元素とする場合、硫黄源は、高純度硫黄のような硫黄単体、あるいは、n-ブタンチオール、イソブタンチオール、n-ペンタンチオール、n-ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等のチオール、ジベンジルスルフィドのようなジスルフィド、チオ尿素、1,3-ジメチルチオ尿素等のアルキルチオ尿素、チオカルボニル化合物等の硫黄含有化合物であってよい。中でもチオ尿素、アルキルチオ尿素等を硫黄源として用いると、シェルが十分に形成されて、強いバンド端発光を与えるコアシェル型半導体ナノ粒子が得られやすい。
【0059】
第2元素として、Seをシェルの構成元素とする場合には、セレン単体、又はセレン化ホスフィンオキシド、有機セレン化合物(ジベンジルジセレニド、ジフェニルジセレニド等)もしくは水素化物等の化合物を、第2元素源として用いてよい。第2元素として、Teをシェルの構成元素とする場合には、テルル単体、テルル化ホスフィンオキシド、又は水素化物を、第2元素源として用いてよい。
【0060】
シェル形成用混合物は、第1元素源及び第2元素源に加えて、アルカリ金属塩を含んでいてもよい。アルカリ金属には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等が含まれる。アルカリ金属塩は、有機酸塩又は無機酸塩のいずれであってもよい。具体的には、塩としては、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩、アセチルアセトナート塩等を挙げることができ、好ましくはこれらからなる群から選択される少なくとも一種であり、より好ましくは酢酸塩等の有機酸塩である。
【0061】
シェル形成用混合物がアルカリ金属塩を含む場合、第1元素源に対するアルカリ金属塩の仕込み比は、例えば0.1以上5以下、又は0.2以上4以下であってよい。またアルカリ金属塩及び第1元素源の総和に対する第2元素源の仕込み比は、例えば0.3以上3以下、又は0.5以上2以下であってよい。
【0062】
シェル形成用混合物における第1元素源及び第2元素源の仕込み量は、分散液中に存在するコアに所望の厚さのシェルが形成されるように、分散液に含まれるコアの量を考慮して選択してよい。例えば、コアの粒子としての物質量10nmolに対して、第1元素及び第2元素から成る化学量論組成の半導体化合物が0.1μmol以上10mmol以下、特に5μmol以上1mmol以下生成されるように、第1元素源及び第2元素源の仕込み量を決定してよい。ただし、粒子としての物質量というのは、粒子1つを巨大な分子と見なしたときのモル量であり、分散液に含まれるナノ粒子の個数を、アボガドロ数(NA=6.022×1023)で除した値に等しい。
【0063】
シェル形成用混合物におけるコアの物質量に対する第1元素源の含有量は、コアの粒子数(モル)に対する第1元素源のモル比として、例えば1.6以上であり、好ましくは1.6×10以上であり、より好ましくは1×10以上であり、また例えば2.5×10以下であり、好ましくは1.3×10以下である。コアの含有量に対する第2元素源の含有量は、コアの粒子数(モル)に対する第2元素源のモル比として、例えば5.3×10以上であり、好ましくは5.3×10以上であり、また例えば8.5×10以下であり、好ましくは4.3×10以下である。
【0064】
熱処理工程
コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法における熱処理工程の一態様では、例えば、シェル形成用混合物を所定の温度で熱処理して、シェルである半導体層をコアである半導体ナノ粒子の表面に形成してコアシェル型半導体ナノ粒子を得る(ヒーティングアップ法)。具体的には、シェル形成用混合物を徐々に昇温して、そのピーク温度が200℃以上310℃以下となるようにし、ピーク温度で所定の時間保持した後、徐々に降温させるやり方で加熱してよい。昇温速度は例えば1℃/分以上50℃/分以下としてよいが、シェルの無い状態で熱処理され続けることによって生じるコアの変質を最小限に留めるため200℃までは50℃/分以上100℃/分以下が好ましい。また、200℃以上にさらに昇温したい場合は、それ以降は1℃/分以上5℃/分以下とすることが好ましい。降温速度は、例えば1℃/分以上50℃/分以下としてよい。ピーク温度が前記温度以上であると、半導体ナノ粒子を修飾している表面修飾剤が十分に脱離し、又はシェル生成のための化学反応が十分に進行する等の理由により、半導体の層(シェル)の形成が十分に行われる傾向がある。ピーク温度が前記温度以下であると、半導体ナノ粒子に変質が生じることが抑制され、良好なバンド端発光が得られる傾向がある。ピーク温度を保持する時間は、例えば1分間以上300分間以下、特に10分間以上120分間以下とすることができる。ピーク温度の保持時間は、ピーク温度との関係で選択され、ピーク温度がより低い場合には保持時間をより長くし、ピーク温度がより高い場合には保持時間をより短くすると、良好なシェル層が形成されやすい。
【0065】
コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法における熱処理工程の別の態様は、シェル形成用混合物を所定の温度で熱処理する1段階の熱処理工程であっても、第1温度で熱処理した後、第1温度よりも高い第2温度で熱処理する2段階の熱処理工程であってもよい。熱処理を2段階で実施することにより、例えば、より良好な再現性で、バンド端発光の強度が高いコアシェル型半導体ナノ粒子を製造することができる。ここで、第1温度での熱処理と第2温度での熱処理とは、連続して行ってもよく、第1温度での熱処理後に降温し、次いで第2温度に昇温して熱処理してもよい。
【0066】
シェル形成用混合物の熱処理を2段階の熱処理工程で行う場合、第1温度は、例えば30℃以上であってよく、好ましくは100℃以上である。また、第1温度は、例えば200℃以下であってよく、好ましくは180℃以下である。第1温度での熱処理の時間は、例えば、1分以上であってよく、好ましくは5分以上、より好ましくは7分以上である。また、第1温度での熱処理の時間は、例えば、120分以下であってよく、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下又は20分以下である。
【0067】
第2温度は、例えば180℃以上であってよく、好ましくは200℃以上である。また、第2温度は、例えば350℃以下であってよく、好ましくは330℃以下又は310℃以下である。第2温度での熱処理の時間は、例えば、1分以上であってよく、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上又は20分以上である。また、第2温度での熱処理の時間は、例えば、120分以下であってよく、好ましくは90分以下、より好ましくは60分以下又は40分以下である。
【0068】
なお、熱処理の時間は、所定の温度に到達した時点を熱処理の開始時間とし、降温又は昇温のための操作を行った時点をその所定温度における熱処理の終了時点とする。また所定の温度に到達するまでの昇温速度は、例えば、1℃/分以上100℃/分以下、又は1℃/分以上50℃/分以下である。また、熱処理後における降温速度は、例えば1℃/分以上100℃/分以下であり、必要に応じて冷却してもよく、熱源を停止して放冷するだけでもよい。
【0069】
熱処理の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えば、アルゴン雰囲気又は窒素雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生を、低減ないしは防止することができる。
【0070】
このようにして、シェルを形成してコアシェル構造を有するコアシェル型半導体ナノ粒子が形成される。得られるコアシェル型半導体ナノ粒子は、溶媒から分離してよく、必要に応じて、さらに精製及び乾燥してよい。分離、精製及び乾燥の方法は、先に半導体ナノ粒子であるコアの製造方法に関連して説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0071】
一実施形態において、コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、シェル形成用混合物に酸素源を添加する工程を含んでいてもよい。すなわち、コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、コア準備工程と、混合工程と、熱処理工程とを含み、混合工程が酸素源を含むシェル形成用混合物を得ることを含んでいてもよい。熱処理工程に付されるシェル形成用混合物が酸素源を含むことで、発光効率により優れるコアシェル型半導体ナノ粒子を生成することができる。
【0072】
本実施形態では、混合工程で得られるシェル形成用混合物が酸素源を含んでいる。混合工程では、準備したコアと、第1元素源、第2元素源及び酸素源とを混合してシェル形成用混合物が得られる。
【0073】
一実施形態において、コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、熱処理工程において、シェル形成用混合物に酸素源を添加する工程を含んでいてもよい。すなわち、コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、コア準備工程と、混合工程と、熱処理工程とを含み、熱処理工程がシェル形成用混合物に酸素源を添加することを含んでいてもよい。加熱状態のシェル形成用混合物に酸素源を添加することで、発光効率により優れるコアシェル型半導体ナノ粒子を生成することができる。
【0074】
本実施形態では、混合工程で得られるシェル形成用混合物を熱処理しながら、酸素源を添加する。シェル形成を1段階の熱処理で行う場合、酸素源の添加は、ピーク温度での熱処理中であってよく、ピーク温度への昇温中であってよく、ピーク温度からの降温中であってよい。シェル形成の熱処理を2段階で行う場合、第1温度での熱処理中に酸素源を添加してよく、第1温度での熱処理後に酸素源を添加してよく、第2温度での熱処理中に酸素源を添加してもよい。また、熱処理工程での酸素源を添加に加えて、熱処理前のシェル形成用混合物が予め酸素源を含んでいてもよい。
【0075】
一実施形態において、コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、熱処理工程で得られるコアシェル型半導体ナノ粒子に酸素源を接触させる工程を含んでいてもよい。すなわち、コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、コア準備工程と、混合工程と、熱処理工程とを含み、熱処理工程後に得られるコアシェル型半導体ナノ粒子に、酸素源を接触させる工程を含んでいてもよい。シェル形成用混合物から得られるコアシェル型半導体ナノ粒子に、酸素源を接触させてシェルに酸素原子を導入することで、発光効率により優れるコアシェル型半導体ナノ粒子を生成することができる。
【0076】
本実施形態では、熱処理工程で得られるコアシェル型半導体ナノ粒子に酸素源を接触させて、シェルに酸素原子を導入する。酸素源を接触させるコアシェル型半導体ナノ粒子は、熱処理工程後の未精製のものであってよく、精製処理されたものであってよい。また、酸素源を接触させるコアシェル型半導体ナノ粒子は、酸素源を含むシェル形成用混合物から得られるものであってよく、熱処理工程で酸素源がシェル形成用混合物に添加されて得られるものであってよい。
【0077】
酸素源は、シェルの組成に酸素原子を導入可能であれば特に制限はない。酸素源として具体的には、酸素原子を含む化合物、酸素原子を含むガス等を挙げることできる。酸素原子を含む化合物としては、水、アルコール等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。酸素原子を含むガスとしては、酸素ガス、オゾンガス等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。酸素源はシェル形成用混合物に酸素原子を含む化合物を溶解又は分散させて添加してもよく、シェル形成用混合物に酸素原子を含むガスを吹き込んで添加してもよい。
【0078】
酸素源の添加量又は使用量は、例えば水の場合、溶媒重量に対して6000ppm以下であり、好ましくは3000ppm以下、又は1000ppm以下である。
【0079】
コアシェル型半導体ナノ粒子のシェル表面が、後述する特定修飾剤で修飾されている場合は、上記の製造方法で得られるコアシェル型半導体ナノ粒子を修飾工程に付してもよい。修飾工程では、コアシェル型半導体ナノ粒子と、酸化数が負のリン(P)を含む特定修飾剤とを接触させて、コアシェル粒子のシェル表面を修飾する。これにより、より優れた量子収率でバンド端発光を示すコアシェル型半導体ナノ粒子が製造される。
【0080】
コアシェル型半導体ナノ粒子と特定修飾剤との接触は、例えば、コアシェル型半導体ナノ粒子の分散液と特定修飾剤とを混合することで行うことができる。またコアシェル粒子を、液状の特定修飾剤と混合して行ってもよい。特定修飾剤には、その溶液を用いてもよい。コアシェル型半導体ナノ粒子の分散液は、コアシェル型半導体ナノ粒子と適当な有機溶媒とを混合することで得られる。分散に用いる有機溶剤としては、例えばクロロホルム等のハロゲン溶剤;トルエン等の芳香族炭化水素溶剤;シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶剤などを挙げることができる。コアシェル型半導体ナノ粒子の分散液における物質量の濃度は、例えば、1×10-7mol/L以上1×10-3mol/L以下であり、好ましくは1×10-6mol/L以上1×10-4mol/L以下である。
【0081】
特定修飾剤のコアシェル型半導体ナノ粒子に対する使用量は、例えば、モル比で1倍以上50,000倍以下である。また、コアシェル型半導体ナノ粒子の分散液における物質量の濃度が1.0×10-7mol/L以上1.0×10-3mol/L以下であるコアシェル型半導体ナノ粒子の分散液を用いる場合、分散液と特定修飾剤とを体積比で1:1000から1000:1で混合してもよい。
【0082】
コアシェル型半導体ナノ粒子と特定修飾剤との接触時の温度は、例えば、-100℃以上100℃以下又は30℃以上75℃以下である。接触時間は特定修飾剤の使用量、分散液の濃度等に応じて適宜選択すればよい。接触時間は、例えば、1分以上、好ましくは1時間以上であり、100時間以下、好ましくは48時間以下である。接触時の雰囲気は、例えば、窒素ガス、希ガス等の不活性ガス雰囲気である。
【0083】
コアシェル型半導体ナノ粒子
コアシェル型半導体ナノ粒子は、コアと、コアの表面に配置されるシェルとを備え、光の照射により発光する。コアは、元素M、元素M及び元素Zを含む半導体ナノ粒子であってよい。Mは、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、少なくともAgを含む。Mは、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)及びタリウム(Tl)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、In及びGaの少なくとも一方を含む。Zは、硫黄(S)、セレン(Se)及びテルル(Te)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。コアの組成は、Mの総含有率が10モル%以上30モル%以下であり、Mの総含有率の総含有率が15モル%以上35モル%以下であり、Zの総含有率が35モル%以上55モル%以下である。シェルは、実質的に、Al、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種である第1元素と、S、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種である第2元素と、酸素(O)元素とからなる。
【0084】
コアシェル型半導体ナノ粒子では、コア自体が半導体ナノ粒子を含んでおり、シェルが第1元素と第2元素に加えて酸素元素を含んで構成されることで、優れた発光効率を達成することができる。コアシェル型半導体ナノ粒子は、例えば200nm以上500nm未満の範囲内にある波長の光の照射により、500nm以上1000nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、発光スペクトルにおける半値幅が例えば250meV以下である光を発する。半値幅は、好ましくは200meV以下、より好ましくは150meV以下である。この半値幅の下限値は例えば30meV以上である。半値幅が250meV以下であるとは、発光ピーク波長が600nmの場合には半値幅が73nm以下であり、発光ピーク波長が700nmの場合には半値幅が100nm以下であり、発光ピーク波長が800nmの場合には半値幅が130nm以下であることを意味し、コアシェル型半導体ナノ粒子がバンド端発光することを意味する。
【0085】
コアの組成にAgと、In及びGaの少なくとも一方と、S、Se又はTeとを含み、シェルの組成に第1元素、第2元素及び酸素元素を含むコアシェル型半導体ナノ粒子は、その形状及び寸法に起因して、バンド端発光を与えるものである。また、コアシェル型半導体ナノ粒子は、毒性が高いとされているCd及びPbを含まない組成のものとすることができ、Cd等の使用が禁じられている製品等にも適用可能である。したがって、この半導体ナノ粒子は、液晶表示装置に用いる発光デバイスの波長変換物質として、また、生体分子マーカー等として好適に用いることができる。
【0086】
コアの組成におけるAg、Cu、Au及びアルカリ金属の総含有率は、例えば、10モル%以上30モル%以下であり、好ましくは、15モル%以上25モル%以下である。コアの組成におけるAl、Ga、In及びTlの総含有率は、例えば、15モル%以上35モル%以下であり、好ましくは、20モル%以上30モル%以下である。コアの組成におけるS、Se及びTeの総含有率は、例えば、35モル%以上55モル%以下であり、好ましくは、40モル%以上55モル%以下である。
【0087】
コアがInとGaとを含む場合、組成におけるInとGaの原子数の和に対するInの原子数の比(In/(In+Ga))は、例えば、0.01以上1.0以下であり、好ましくは0.1以上0.99以下である。また、コアの組成におけるInとGaの原子数の和に対するAgの原子数の和の比(Ag/(In+Ga))は、例えば、0.3以上1.2以下であり、好ましくは0.5以上1.1以下である。コアがSを含む場合、コアの組成におけるAg、In及びGaの原子数の和に対するSの原子数の比(S/(Ag+In+Ga))は、例えば、0.8以上1.5以下であり、好ましくは0.9以上1.2以下である。
【0088】
コアの組成は、例えば、エネルギー分散型X線分析法(EDX)、蛍光X線分析法(XRF)、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法等によって同定される。(Ag)/(In+Ga)、S/(Ag+In+Ga)等の組成比はこれらの方法のいずれかで同定される組成に基づいて算出される。
【0089】
コアの組成において、Agはその一部が置換されてCu及びAuの少なくとも一方の元素を含んでいてもよいが、実質的にAgから構成されることが好ましい。ここで「実質的に」とは、Agに対するAg以外の元素の割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0090】
コアがアルカリ金属を含む場合、アルカリ金属の含有率は、例えば、30モル%未満であり、好ましくは、1モル%以上25モル%以下である。また、コアの組成におけるAgの原子数及びアルカリ金属(M)の原子数の合計に対するアルカリ金属(M)の原子数の比(M/(Ag+M))は、例えば、1未満であり、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.2以下である。またその比は、例えば、0より大きく、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上である。アルカリ金属は少なくともLiを含むことが好ましく、実質的にLiであることが好ましい。ここで「実質的に」とは、Liに対するLi以外のアルカリ金属の割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0091】
コアの組成において、In及びGaの少なくとも一方は、その一部が置換されてAl及びTlの少なくとも一方の元素を含んでいてもよいが、実質的にIn及びGaの少なくとも一方から構成されることが好ましい。ここで「実質的に」とは、In及びGaに対するIn又はGa以外の元素の割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0092】
コアがSを含む場合、Sはその一部が置換されてSe及びTeの少なくとも一方の元素を含んでいてもよく、実質的にSから構成されていてもよい。ここで「実質的に」とは、Sに対するS以外の元素の割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0093】
コアは、実質的にAg、In及びGaの少なくとも一方、並びにSのみから構成されてよい。ここで「実質的に」という用語は、不純物の混入等に起因して不可避的にAg、In、Ga及びS以外の元素が含まれることを考慮して使用している。
【0094】
コアの結晶構造は、正方晶、六方晶及び斜方晶からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてよい。例えば、Ag、In及びSを含み、かつその結晶構造が正方晶、六方晶、又は斜方晶である半導体ナノ粒子は、一般的には、AgInSの組成式で表されるものとして、文献等において紹介されている。本実施形態に係るコアは、例えば、第13族元素であるInの一部を同じく第13族元素であるGaで置換したものと考えることができる。コアの組成は例えば、Ag-In-Ga-S等で表されてもよい。
【0095】
なお、Ag-In-Ga-Sなどの組成式で表される半導体ナノ粒子であって、六方晶の結晶構造を有するものはウルツ鉱型であり、正方晶の結晶構造を有する半導体はカルコパイライト型である。結晶構造は、例えば、X線回折(XRD)分析により得られるXRDパターンを測定することによって同定される。具体的には、半導体ナノ粒子から得られたXRDパターンを、AgInSの組成で表される半導体ナノ粒子と仮定して既知のXRDパターン、又は結晶構造パラメータからシミュレーションを行って求めたXRDパターンと比較する。既知のパターン及びシミュレーションのパターンの中に、半導体ナノ粒子のパターンと一致するものがあれば、当該半導体ナノ粒子の結晶構造は、その一致した既知又はシミュレーションのパターンの結晶構造であるといえる。
【0096】
コアの集合体においては、異なる結晶構造のコアが一部混在していてもよい。その場合、XRDパターンにおいては、複数の結晶構造に由来するピークが観察される。
【0097】
コアは、例えば、50nm以下の平均粒径を有してよい。コアの平均粒径は、例えば、20nm以下、10nm以下又は10nm未満であってよい。コアの平均粒径が50nm以下であると量子サイズ効果が得られ易く、バンド端発光が得られ易い傾向がある。またコアの平均粒径の下限は例えば、1nmである。
【0098】
コアの粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影されたTEM像から求めることができる。具体的には、ある粒子についてTEM像で観察される粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分であって、当該粒子の内部を通過する線分のうち、最も長い線分の長さをその粒子の粒径とする。
【0099】
ただし、粒子がロッド形状を有するものである場合には、短軸の長さを粒径とみなす。ここで、ロッド形状の粒子とは、TEM像において短軸と短軸に直交する長軸とを有し、短軸の長さに対する長軸の長さの比が1.2より大きいものを指す。ロッド形状の粒子は、TEM像で、例えば、長方形状を含む四角形状、楕円形状、又は多角形状等として観察される。ロッド形状の長軸に直交する面である断面の形状は、例えば、円、楕円、又は多角形であってよい。具体的にはロッド状の形状の粒子について、長軸の長さは、楕円形状の場合には、粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さを指し、長方形状又は多角形状の場合、外周を規定する辺の中で最も長い辺に平行であり、かつ粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さを指す。短軸の長さは、外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、前記長軸の長さを規定する線分に直交し、かつ最も長さの長い線分の長さを指す。
【0100】
コアの平均粒径は、50,000倍以上150,000倍以下のTEM像で観察される、すべての計測可能な粒子について粒径を測定し、それらの粒径の算術平均とする。ここで、計測可能な粒子は、TEM像において粒子全体が観察できるものである。したがって、TEM像において、その一部が撮像範囲に含まれておらず、切れているような粒子は計測可能なものではない。1つのTEM像に含まれる計測可能な粒子数が100以上である場合には、そのTEM像を用いて平均粒径を求める。一方、1つのTEM像に含まれる計測可能な粒子の数が100未満の場合には、撮像場所を変更して、TEM像をさらに取得し、2以上のTEM像に含まれる100以上の計測可能な粒子について粒径を測定して平均粒径を求める。
【0101】
半導体ナノ粒子であるコアは、バンド端発光が可能であってよい。コアは、200nm以上500nm未満の範囲内にある波長の光を照射することにより、500nm以上650nm以下の範囲に発光ピーク波長を有して発光してよい。コアの発光スペクトルにおける半値幅は、250meV以下であり、好ましくは200meV以下、より好ましくは150meV以下である。この半値幅の下限値は例えば30meV以上である。半値幅が250meV以下であるとは、発光ピーク波長が600nmの場合には半値幅が73nm以下であり、発光ピーク波長が700nmの場合には半値幅が100nm以下であり、発光ピーク波長が800nmの場合には半値幅が130nm以下であることを意味し、半導体ナノ粒子がバンド端発光することを意味する。
【0102】
コアは、バンド端発光とともに、他の発光、例えば欠陥発光を与えるものであってよい。欠陥発光は一般に発光寿命が長く、またブロードなスペクトルを有し、バンド端発光よりも長波長側にそのピークを有する。バンド端発光と欠陥発光がともに得られる場合、バンド端発光の強度が欠陥発光の強度よりも大きいことが好ましい。
【0103】
コアのバンド端発光は、コアの形状及び平均粒径の少なくとも一方、特に平均粒径を変化させることによって、そのピーク位置を変化させることができる。例えば、コアの平均粒径をより小さくすれば、量子サイズ効果により、バンドギャップエネルギーがより大きくなり、バンド端発光のピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。
【0104】
またコアのバンド端発光は、コアの組成を変化させることによって、その発光ピーク波長を変化させることができる。例えば、組成におけるInとGaの原子数の和に対するGaの原子数の比であるGa比(Ga/(In+Ga))を大きくすることでバンド端発光の発光ピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。また、例えば、アルカリ金属としてLi等を選択し、組成におけるAgとアルカリ金属(M)の原子数の和に対するアルカリ金属(M)の原子数の比であるM比(M/(Ag+M))を大きくすることでバンド端発光の発光ピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。また、例えば、組成におけるSの一部をSeで置換し、SとSeの原子数の和に対するSの原子数の比であるS比(S/(S+Se))を大きくすることでバンド端発光の発光ピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。
【0105】
コアは、その吸収スペクトルがエキシトンピークを示してよい。エキシトンピークは、励起子生成により得られるピークであり、これが吸収スペクトルにおいて発現しているということは、粒径の分布が小さく、結晶欠陥の少ないバンド端発光に適した粒子からコア粒子群が構成されていることを意味する。また、エキシトンピークが急峻になるほど、粒径がそろった結晶欠陥の少ない粒子がコア粒子の集合体により多く含まれていることを意味する。したがって、エキシトンピークが急峻であると、発光の半値幅は狭くなり、発光効率が向上すると予想される。コアの吸収スペクトルにおいて、エキシトンピークは、例えば、350nm以上900nm以下の範囲内で観察される。
【0106】
コアは、ストークスシフトにより吸収スペクトルのエキシトンピークより長波長側に発光ピーク波長を有して発光してよい。コアの吸収スペクトルがエキシトンピークを示す場合、エキシトンピークと発光ピーク波長のエネルギー差は、例えば、300meV以下である。
【0107】
コアシェル型半導体ナノ粒子は、コアの表面にシェルを構成する半導体が配置されるコアシェル構造を有している。シェルは、コアを構成する半導体よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する半導体であって、第13族元素であるAl、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1元素と、第16族元素であるS、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2元素と、酸素元素とを含む半導体から構成される。シェルを構成する半導体には、第13族元素が1種類だけ、又は2種類以上含まれてよく、第16族元素が1種類だけ、又は2種類以上含まれていてもよい。
【0108】
シェルは、実質的に第1元素、第2元素及び酸素元素からなる半導体から構成されていてもよい。ここで「実質的に」とは、シェルに含まれるすべての元素の原子数の合計を100%としたときに、第1元素、第2元素及び酸素元素以外の元素の割合が、例えば10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であることを示す。
【0109】
シェルは、上述のコアを構成する半導体のバンドギャップエネルギーに応じて、その組成等を選択して構成してもよい。あるいは、シェルの組成等が先に決定されている場合には、コアを構成する半導体のバンドギャップエネルギーがシェルのそれよりも小さくなるように、コアを設計してもよい。例えば、Ag-In-Sからなる半導体は、1.8eV以上1.9eV以下程度のバンドギャップエネルギーを有する。
【0110】
具体的には、シェルを構成する半導体は、例えば2.0eV以上5.0eV以下、又は2.5eV以上5.0eV以下のバンドギャップエネルギーを有してよい。また、シェルのバンドギャップエネルギーは、コアのバンドギャップエネルギーよりも、例えば0.1eV以上3.0eV以下程度、0.3eV以上3.0eV以下程度、又は0.5eV以上1.0eV以下程度大きいものであってよい。シェルを構成する半導体のバンドギャップエネルギーとコアを構成する半導体のバンドギャップエネルギーとの差が前記下限値以上であると、コアからの発光において、バンド端発光以外の発光の割合が少なくなり、バンド端発光の割合が大きくなる傾向がある。
【0111】
さらに、コア及びシェルを構成する半導体のバンドギャップエネルギーは、コアとシェルのヘテロ接合において、シェルのバンドギャップエネルギーがコアのバンドギャップエネルギーを挟み込むtype-Iのバンドアライメントを与えるように選択されることが好ましい。type-Iのバンドアライメントが形成されることにより、コアからのバンド端発光をより良好に得ることができる。type-Iのアライメントにおいて、コアのバンドギャップとシェルのバンドギャップとの間には、少なくとも0.1eVの障壁が形成されることが好ましく、例えば0.2eV以上、又は0.3eV以上の障壁が形成されてよい。障壁の上限は、例えば1.8eV以下であり、特に1.1eV以下である。障壁が前記下限値以上であると、コアからの発光において、バンド端発光以外の発光の割合が少なくなり、バンド端発光の割合が大きくなる傾向がある。
【0112】
シェルを構成する半導体は、第1元素としてIn又はGaを含むものであってよい。またシェルを構成する半導体は、第2元素としてSを含むものであってよい。さらにシェルを構成する半導体は、酸素(O)元素を含んでいてよい。In又はGa、S及びOを含む半導体は、上述のコアよりも大きいバンドギャップエネルギーを有する半導体となる傾向にある。
【0113】
シェルは、その半導体の晶系がコアの半導体の晶系となじみのあるものであってよく、またその格子定数が、コアの半導体のそれと同じ又は近いものであってよい。晶系になじみがあり、格子定数が近い(ここでは、シェルの格子定数の倍数がコアの格子定数に近いものも格子定数が近いものとする)半導体からなるシェルは、コアの周囲を良好に被覆することがある。また、シェルはアモルファス(非晶質)であってもよい。
【0114】
アモルファス(非晶質)のシェルが形成されているか否かは、コアシェル構造の半導体ナノ粒子を、HAADF-STEMで観察することにより確認できる。アモルファス(非晶質)のシェルが形成されている場合、具体的には、規則的な模様(例えば、縞模様、ドット模様等)を有する部分が中心部に観察され、その周囲に規則的な模様を有するものとしては観察されない部分がHAADF-STEMにおいて観察される。HAADF-STEMによれば、結晶性物質のように規則的な構造を有するものは、規則的な模様を有する像として観察され、非晶性物質のように規則的な構造を有しないものは、規則的な模様を有する像としては観察されない。そのため、シェルがアモルファスである場合には、規則的な模様を有する像として観察されるコア(前記のとおり、正方晶系等の結晶構造を有する)とは明確に異なる部分として、シェルを観察することができる。
【0115】
また、シェルがGa-S-Oからなる場合、Gaがコアに含まれるAg及びInよりも軽い元素であるために、HAADF-STEMで得られる像において、シェルはコアよりも暗い像として観察される傾向にある。
【0116】
アモルファスのシェルが形成されているか否かは、高解像度の透過型電子顕微鏡(HRTEM)で本実施形態のコアシェル構造の半導体ナノ粒子を観察することによっても確認できる。HRTEMで得られる画像において、コアの部分は結晶格子像(規則的な模様を有する像)として観察され、シェルの部分は結晶格子像として観察されず、白黒のコントラストは観察されるが、規則的な模様は見えない部分として観察される。
【0117】
一方、シェルはコアと固溶体を構成しない半導体からなることが好ましい。シェルがコアと固溶体を形成すると両者が一体のものとなり、シェルによりコアを被覆して、コアの表面状態を変化させることによりバンド端発光を得るというメカニズムが得られなくなり得る。
【0118】
シェルは、第1元素及び第2元素の組み合わせとして、InとSの組み合わせ、GaとSとの組み合わせ、又はInとGaとSとの組み合わせを含んでよいが、これらに限定されるものではない。InとSとの組み合わせは、シェルが硫化インジウムを含む形態であってよく、また、GaとSとの組み合わせは、シェルが硫化ガリウムを含む形態であってよく、また、InとGaとSの組み合わせは、シェルが硫化インジウムガリウムを含む形態であってよい。シェルを構成し得る硫化インジウムは、化学量論組成のもの(In)でなくてよく、その意味で、硫化インジウムは式InS(xは整数に限られない任意の数字、例えば0.8以上1.5以下)で表されてよい。同様に、硫化ガリウムは化学量論組成のもの(Ga)でなくてよく、その意味で、硫化ガリウムは式GaS(xは整数に限られない任意の数字、例えば0.8以上1.5以下)で表されてよい。硫化インジウムガリウムは、In2(1-y)Ga2y(yは0よりも大きく1未満である任意の数字)で表される組成のものであってよく、あるいは、InGa1-a(aは0よりも大きく1未満である任意の数字であり、bは整数に限られない任意の数値である)で表されてよい。
【0119】
シェルを構成する酸素元素の形態は明確ではないが、例えば、Ga-O-S、Ga等であってよい。
【0120】
硫化インジウムは、そのバンドギャップエネルギーが2.0eV以上2.4eV以下であり、晶系が立方晶であるものについては、その格子定数は1.0775nmである。硫化ガリウムは、そのバンドギャップエネルギーが2.5eV以上2.6eV以下程度であり、晶系が正方晶であるものについては、その格子定数が0.5215nmである。ただし、ここに記載された晶系等は、いずれも報告値であり、実際のコアシェル構造の半導体ナノ粒子において、シェルがこれらの報告値を満たす半導体を含むとは限らない。
【0121】
コアシェル構造の半導体ナノ粒子において、シェルの厚みは0.1nm以上50nm以下の範囲内、0.1nm以上10nm以下の範囲内、特に0.3nm以上3nm以下の範囲内にあってよい。シェルの厚みが前記下限値以上である場合には、シェルがコアを被覆することによる効果が十分に得られ、優れた発光効率のバンド端発光を得られ易い。
【0122】
コアシェル型半導体ナノ粒子は、その表面が任意の化合物で修飾されていてよい。半導体ナノ粒子の表面を修飾する化合物は表面修飾剤とも呼ばれる。表面修飾剤は、例えば、コアシェル型半導体ナノ粒子を安定化させて粒子の凝集又は成長を防止する機能、コアシェル型半導体ナノ粒子の溶媒中での分散性を向上させる機能、コアシェル型半導体ナノ粒子の表面欠陥を補償して発光効率を向上させる機能等の少なくとも1つを有する。
【0123】
表面修飾剤は、例えば、炭素数4から20の炭化水素基を有する含窒素化合物、炭素数4から20の炭化水素基を有する含硫黄化合物、炭素数4から20の炭化水素基を有する含酸素化合物、炭素数4から20の炭化水素基を有する含リン化合物等であってよい。炭素数4から20の炭化水素基としては、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基などの不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数6から10の芳香族炭化水素基;ベンジル基、ナフチルメチル基などのアリールアルキル基などが挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。含窒素化合物としてはアミン類、アミド類等が挙げられ、含硫黄化合物としてはチオール類等が挙げられ、含酸素化合物としては脂肪酸類等が挙げられ、含リン化合物としては、ホスフィン類、ホスフィンオキシド類等が挙げられる。
【0124】
表面修飾剤としては、炭素数4から20の炭化水素基を有する含窒素化合物が好ましい。そのような含窒素化合物としては、ブチルアミン、イソブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エチルヘキシルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミンなどのアルキルアミン、オレイルアミンなどのアルケニルアミンが挙げられる。
【0125】
表面修飾剤としては、また、炭素数4から20の炭化水素基を有する含硫黄化合物が好ましい。そのような含硫黄化合物としては、ブタンチオール、イソブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、オクタンチオール、エチルヘキサンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等が挙げられる。
【0126】
表面修飾剤は、1種単独で用いても、異なる2種以上のものを組み合わせて用いてよい。例えば、上記において例示した含窒素化合物から選択される一つの化合物(例えば、オレイルアミン)と、上記において例示した含硫黄化合物から選択される一つの化合物(例えば、ドデカンチオール)とを組み合わせて用いてよい。
【0127】
コアシェル型半導体ナノ粒子のシェル表面は、負の酸化数を有するリン(P)を含む表面修飾剤(以下、「特定修飾剤」ともいう)で修飾されていてもよい。シェルの表面修飾剤が特定修飾剤を含んでいることで、コアシェル構造の半導体ナノ粒子のバンド端発光における量子効率がより向上する。
【0128】
特定修飾剤は、第15族元素として負の酸化数を有するPを含む。Pの酸化数は、Pに水素原子又は炭化水素基が1つ結合することで-1となり、酸素原子が単結合で1つ結合することで+1となり、Pの置換状態で変化する。例えば、トリアルキルホスフィン及びトリアリールホスフィンにおけるPの酸化数は-3であり、トリアルキルホスフィンオキシド及びトリアリールホスフィンオキシドでは-1となる。
【0129】
特定修飾剤は、負の酸化数を有するPに加えて、他の第15族元素を含んでいてもよい。他の第15族元素としては、N、As、Sb等を挙げることができる。
【0130】
特定修飾剤は、例えば、炭素数4以上20以下の炭化水素基を含リン化合物であってよい。炭素数4以上20以下の炭化水素基としては、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの直鎖又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基などの直鎖又は分岐鎖状の不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基;ベンジル基、ナフチルメチル基などのアリールアルキル基などが挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。特定修飾剤が、複数の炭化水素基を有する場合、それらは同一であっても、異なっていてもよい。
【0131】
特定修飾剤として具体的には、トリブチルホスフィン、トリイソブチルホスフィン、トリペンチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリス(エチルヘキシル)ホスフィン、トリデシルホスフィン、トリドデシルホスフィン、トリテトラデシルホスフィン、トリヘキサデシルホスフィン、トリオクタデシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンオキシド、トリイソブチルホスフィンオキシド、トリペンチルホスフィンオキシド、トリヘキシルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリス(エチルヘキシル)ホスフィンオキシド、トリデシルホスフィンオキシド、トリドデシルホスフィンオキシド、トリテトラデシルホスフィンオキシド、トリヘキサデシルホスフィンオキシド、トリオクタデシルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0132】
発光デバイス
発光デバイスは、光変換部材及び半導体発光素子を備え、光変換部材に上記において説明したコアシェル型半導体ナノ粒子を含むものである。この発光デバイスによれば、例えば、半導体発光素子からの発光の一部を、コアシェル型半導体ナノ粒子が吸収してより長波長の光が発せられる。そして、コアシェル型半導体ナノ粒子からの光と半導体発光素子からの発光の残部とが混合され、その混合光を発光デバイスの発光として利用できる。
【0133】
具体的には、半導体発光素子としてピーク波長が400nm以上490nm以下程度の青紫色光又は青色光を発するものを用い、半導体ナノ粒子として青色光を吸収して黄色光を発光するものを用いれば、白色光を発光する発光デバイスを得ることができる。あるいは、半導体ナノ粒子として、青色光を吸収して緑色光を発光するものと、青色光を吸収して赤色光を発光するものの2種類を用いても、白色発光デバイスを得ることができる。
【0134】
あるいは、ピーク波長が400nm以下の紫外線を発光する半導体発光素子を用い、紫外線を吸収して青色光、緑色光、赤色光をそれぞれ発光する、3種類の半導体ナノ粒子を用いる場合でも、白色発光デバイスを得ることができる。この場合、発光素子から発せられる紫外線が外部に漏れないように、発光素子からの光をすべて半導体ナノ粒子に吸収させて変換させることが望ましい。
【0135】
あるいはまた、ピーク波長が490nm以上510nm以下程度の青緑色光を発する半導体発光素子を用い、半導体ナノ粒子として上記の青緑色光を吸収して赤色光を発するものを用いれば、白色光を発光するデバイスを得ることができる。
【0136】
あるいはまた、半導体発光素子として波長700nm以上780nm以下の赤色光を発光するものを用い、半導体ナノ粒子として、赤色光を吸収して近赤外線を発光するものを用いれば、近赤外線を発光する発光デバイスを得ることもできる。
【0137】
コアシェル型半導体ナノ粒子は、他の半導体量子ドットと組み合わせて用いてよく、あるいは他の量子ドットではない蛍光体(例えば、有機蛍光体又は無機蛍光体)と組み合わせて用いてよい。他の半導体量子ドットは、例えば、背景技術の欄で説明した二元系の半導体量子ドットである。量子ドットではない蛍光体として、アルミニウムガーネット系等のガーネット系蛍光体を用いることができる。ガーネット蛍光体としては、セリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体、セリウムで賦活されたルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体が挙げられる。他にユウロピウム及び/又はクロムで賦活された窒素含有アルミノ珪酸カルシウム系蛍光体、ユウロピウムで賦活されたシリケート系蛍光体、β-SiAlON系蛍光体、CASN系又はSCASN系等の窒化物系蛍光体、LnSi11系又はLnSiAlON系等の希土類窒化物系蛍光体、BaSi:Eu系又はBaSi12:Eu系等の酸窒化物系蛍光体、CaS系、SrGa系、SrAl2O4系、ZnS系等の硫化物系蛍光体、クロロシリケート系蛍光体、SrLiAl:Eu蛍光体、SrMgSiN:Eu蛍光体、マンガンで賦活されたフッ化物錯体蛍光体としてのKSiF:Mn蛍光体などを用いることができる。
【0138】
発光デバイスにおいて、コアシェル型半導体ナノ粒子を含む光変換部材は、例えばシート又は板状部材であってよく、あるいは三次元的な形状を有する部材であってよい。三次元的な形状を有する部材の例は、表面実装型の発光ダイオードにおいて、パッケージに形成された凹部の底面に半導体発光素子が配置されているときに、発光素子を封止するために凹部に樹脂が充填されて形成された封止部材である。
【0139】
光変換部材の別の例は、平面基板上に半導体発光素子が配置されている場合にあっては、前記半導体発光素子の上面及び側面を略均一な厚みで取り囲むように形成された樹脂部材である。あるいはまた、光変換部材のさらに別の例は、半導体発光素子の周囲に上端が半導体発光素子と同一平面を構成するように反射材を含む樹脂部材が充填されている場合にあっては、前記半導体発光素子及び前記反射材を含む樹脂部材の上部に、所定の厚さで平板状に形成された樹脂部材である。
【0140】
光変換部材は半導体発光素子に接してよく、あるいは半導体発光素子から離れて設けられていてよい。具体的には、光変換部材は、半導体発光素子から離れて配置される、ペレット状部材、シート部材、板状部材又は棒状部材であってよく、あるいは半導体発光素子に接して設けられる部材、例えば、封止部材、コーティング部材(モールド部材とは別に設けられる発光素子を覆う部材)又はモールド部材(例えば、レンズ形状を有する部材を含む)であってよい。
【0141】
また、発光デバイスにおいて、異なる波長の発光を示す2種類以上のコアシェル型半導体ナノ粒子を用いる場合には、1つの光変換部材内で前記2種類以上の半導体ナノ粒子が混合されていてもよいし、あるいは1種類の量子ドットのみを含む光変換部材を2つ以上組み合わせて用いてもよい。この場合、2種類以上の光変換部材は積層構造を成してもよいし、平面上にドット状ないしストライプ状のパターンとして配置されていてもよい。
【0142】
半導体発光素子としてはLEDチップが挙げられる。LEDチップは、GaN、GaAs、InGaN、AlInGaP、GaP、SiC、及びZnO等からなる群から選択される1種又は2種以上からなる半導体層を備えたものであってよい。青紫色光、青色光、又は紫外線を発光する半導体発光素子は、例えば、組成がInAlGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y<1)で表わされるGaN系化合物を半導体層として備えたものである。
【0143】
発光デバイスは、光源として液晶表示装置に組み込まれることが好ましい。コアシェル型半導体ナノ粒子によるバンド端発光は発光寿命の短いものであるため、これを用いた発光デバイスは、比較的速い応答速度が要求される液晶表示装置の光源に適している。また、本実施形態のコアシェル型半導体ナノ粒子は、バンド端発光として半値幅が小さい発光ピークを示し得る。したがって、発光デバイスにおいて青色半導体発光素子によりピーク波長が420nm以上490nm以下の範囲内にある青色光を得るようにし、半導体ナノ粒子により、ピーク波長が510nm以上550nm以下、好ましくは530nm以上540nm以下の範囲内にある緑色光、及びピーク波長が600nm以上680nm以下、好ましくは630nm以上650nm以下の範囲内にある赤色光を得るようにする。又は、発光デバイスにおいて、半導体発光素子によりピーク波長400nm以下の紫外光を得るようにし、半導体ナノ粒子によりピーク波長430nm以上470nm以下、好ましくは440nm以上460nm以下の範囲内にある青色光、ピーク波長が510nm以上550nm以下、好ましくは530nm以上540nm以下の緑色光、及びピーク波長が600nm以上680nm以下、好ましくは630nm以上650nm以下の範囲内にある赤色光を得るようにする。これらによって、濃いカラーフィルターを用いることなく、色再現性の良い液晶表示装置が得られる。発光デバイスは、例えば、直下型のバックライトとして、又はエッジ型のバックライトとして用いられる。
【0144】
あるいは、コアシェル型半導体ナノ粒子を含む、樹脂もしくはガラス等からなるシート、板状部材、又はロッドが、発光デバイスとは独立した光変換部材として液晶表示装置に組み込まれていてよい。
【実施例
【0145】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0146】
(実施例1)
半導体ナノ粒子(コア)の作製
0.0833mmolの酢酸銀(AgOAc)、0.05mmolのアセチルアセトナートインジウム(In(acac)))、0.075mmolのアセチルアセトナートガリウム(Ga(acac)))及び0.2292mmolの硫黄粉末を、0.25cmの1-ドデカンチオールと2.75cmのオレイルアミンの混合液に投入して分散させた。分散液を、撹拌子とともに試験管に入れ、窒素置換を行った後、窒素雰囲気下で、試験管内の内容物を撹拌しながら、300℃で10分の加熱処理を実施した。加熱処理後、得られた懸濁液を放冷した後、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、沈殿物を取り出した。これにメタノール3mlを加えて、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、半導体ナノ粒子を沈殿させ、上澄みを捨てた。そこへ、さらにエタノール3mlを加えて、同じ条件で遠心分離に付し、半導体ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物を取り出して、乾燥した後、クロロホルムに分散させて半導体ナノ粒子分散液として、コアの分散液を得た。
【0147】
コアシェル型半導体ナノ粒子の作製
得られた半導体ナノ粒子分散液より1×10-5mmolの半導体ナノ粒子が含まれるよう分取し、減圧乾燥した。ここに、アセチルアセトナートガリウム(Ga(acac))0.16mmolとチオ尿素0.0533mmolとを量り取り、オレイルアミン3.0mL(水分値480ppm)を加えて試験管内を窒素置換した。窒素置換を行った後、窒素雰囲気下で、試験管内の内容物を撹拌しながら、第1段階の熱処理として150℃で10分、第2段階の熱処理として300℃で30分の熱処理をし、室温まで放冷した。遠心分離(4000rpm、5分間)して沈殿物を除去した。上澄みは孔径が0.20μmのメンブレンフィルターで濾過した。メタノールを加えて遠心分離(4000rpm、5分間)をし、得られた沈殿物にエタノールを加えて遠心分離(4000rpm、5分間)をして沈殿物としてコアシェル型半導体ナノ粒子を得た。
【0148】
(実施例2から4および比較例1)
コアシェル型半導体ナノ粒子の作製時の仕込み組成および第2段階の加熱時間を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてコアシェル型半導体ナノ粒子を得た。
【0149】
【表1】
【0150】
(平均粒径)
実施例1から4および比較例1で得られたコアシェル型半導体ナノ粒子の形状を、透過型電子顕微鏡(TEM、(株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名H-7650)を用いて観察するとともに、その平均粒径を8万倍から20万倍のTEM像から測定した。ここでは、TEMグリッドとして、商品名ハイレゾカーボン HRC-C10 STEM Cu100Pグリッド(応研商事(株))を用いた。得られた粒子の形状は、球状もしくは多角形状であった。平均粒径は、3か所以上のTEM画像を選択し、これらに含まれているナノ粒子のうち、画像の端において粒子の像が切れているようなものを除く合計100点以上の粒径を測定し、その算術平均を求める方法で求めた。
【0151】
(吸収・発光特性)
実施例1から4および 比較例1で得られたで得られたコアシェル型半導体ナノ粒子について、吸収スペクトル及び発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルは、ダイオードアレイ式分光光度計(アジレントテクノロジー社製、商品名Agilent 8453A)を用いて、波長を190nm以上1100nm以下として測定した。発光スペクトルは、マルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス社製、商品名PMA11)を用いて、励起波長365nmにて測定した。吸収スペクトルを図1に、発光スペクトルを図2に示す。各発光スペクトルにて観察された急峻な発光ピークの発光ピーク波長(バンド端発光)、バンド端発光の半値幅、バンド端発光の発光量子収率及びバンド端発光のストークスシフト(吸収スペクトルから得られる吸収ピークのエネルギー値から発光スペクトルから得られる発光ピークのエネルギー値を差し引いたもの)を表2に示す。表2より実施例1から4で得られたコアシェル型半導体ナノ粒子は、比較例1と比べてバンド端発光量子収率が
高くなることを確認した。
【0152】
【表2】
【0153】
(実施例5)
コアシェル型半導体ナノ粒子の作製
実施例1で得られた半導体ナノ粒子分散液より1×10-5mmolの半導体ナノ粒子が含まれるよう分取し、減圧乾燥した。ここに、アセチルアセトナートガリウム(Ga(acac)3)0.16mmolとチオ尿素0.0533mmolとを量り取り、脱水処理したオレイルアミン3.0mL(水分値50ppm)を加えて試験管内を窒素置換した。窒素置換を行った後、窒素雰囲気下で、試験管内の内容物を撹拌しながら、第1段階の熱処理として150℃で10分の熱処理をした後、純水5.35×10-5molを添加し、続いて、第2段階の熱処理として300℃で30分の熱処理をした後、室温で45分間放冷した。 遠心分離(4000rpm、5分間)して沈殿物を除去した。上澄みは孔径が0.20μmのメンブレンフィルターで濾過した。メタノールを加えて遠心分離(4000rpm、5分間)をし、得られた沈殿物にエタノールを加えて遠心分離(4000rpm、5分間)をして沈殿としてコアシェル型半導体ナノ粒子を得た。
【0154】
(実施例6から9、比較例2)
純水の添加量を表3に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にしてコアシェル型半導体ナノ粒子分散液を得た。
【0155】
【表3】
【0156】
実施例5から9および比較例2にて得られたコアシェル型半導体ナノ粒子について、実施例1と同様にして平均粒径と発光特性を測定した。結果を表4示す。また、図3に吸収スペクトルを、図4に発光スペクトルを示す。表3より実施例5から9で得られたコアシェル型半導体ナノ粒子は、比較例2と比べてバンド端発光量子収率が高くなることを確認した。
【0157】
【表4】
【0158】
(実施例10)
実施例7で得られたコアシェル型半導体ナノ粒子をクロロホルムに分散して分散液を作成した。続いて、分散液と等量のトリオクチルホスフィン(TOP)を添加・混合後、室温で24時間静置し、TOP修飾されたコアシェル型半導体ナノ粒子の分散液を得た。TOP修飾されたコアシェル型半導体ナノ粒子について、実施例1と同様にして発光特性を測定したところ、バンド端発光の量子収率は、88.8%であった。
【0159】
日本国特許出願2019-153625号(出願日:2019年8月26日)の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4