(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】化合物、及び該化合物を含有する部材
(51)【国際特許分類】
C07D 333/72 20060101AFI20241203BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
C07D333/72 CSP
C08G61/12
(21)【出願番号】P 2020133989
(22)【出願日】2020-08-06
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】大山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】秋山 誠治
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150248(JP,A)
【文献】特開2010-177635(JP,A)
【文献】特開2008-140989(JP,A)
【文献】Greyson, Eric C.; 他,Singlet Exciton Fission for Solar Cell Applications: Energy Aspects of Interchromophore Coupling,Journal of Physical Chemistry B ,2010年,114(45),14223-14232
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
[式(1)において、
R
1~R
8はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、アミノ基
、カルボキシル基、シアノ基、シリル基から選ばれる基を表し、R
7及びR
8は連結していてもよく、
mは0~3の整数を表し
nは2以上の整数を表し、
環Aは置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の2価基を表し、
Z
1及びZ
2はそれぞれ独立に、直接結合、アルケニレン基、アルキニレン基又はイミノ基を表し、
X
1及びX
2はそれぞれ独立に、NR
100、O、S、S(=O)又はS(=O)
2を表し、R
100は、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。]
【請求項2】
重量平均分子量が500以上である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物を含有する、部材。
【請求項4】
下記式(3)で表される化合物。
【化2】
[式(3)において、
R
17~R
24はそれぞれ独立に
、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、シリル基から選ばれる基を表し、
Y
1及びY
2はそれぞれ独立に、ホルミル基、イミノ基、或いは、置換基を有していてもよい、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はヘテロアリール基を表し、
X
5及びX
6はSを
表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の化合物及び該化合物を含有する部材に関するものである。本発明の化合物は、有機エレクトロニクス、全固体電池、記録メモリ、特定波長発光マーカー、特定分子センサー材料等の部材として好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
チオフェン骨格を有する化合物は、OLEDやOPVなどの有機エレクトロニクス材料や、全固体電池用負極活物質、近赤外発光材料など、様々な用途に利用できる化合物として、非常に注目を集めている。特に、平面性の拡張したベンゾチオフェン骨格を有する化合物は、キャリア移動度やパッキング性を向上させるユニットとして、大きな注目を集めている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フェナントレンの9位と8位、10位と1位にそれぞれチオフェン環が縮合した、平面性の高い骨格を有する化合物が、キャリア移動度やパッキング性が高く、有機半導体材料として有用であることが示されている。
また、非特許文献1には、2,9-bis(tert-butyldimethylsilyl)phenanthro[9,8-bc:10,1-b'c']dithiophene(PHDT-Si)が、剛性が高く、平面で拡張されたπ共役構造を持ち、強い光吸収と蛍光特性を有していることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Synthesis and optical and electrochemical properties of a phenanthrodithiophene(fused-bibenzo[c]thiophene)derivative、Yousuke Ooyama etc.、Org. Biomol. Chem., 2017,15,7302-7307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでに報告されているフェナントロビチオフェン化合物は、平面性が高すぎるため、凝集し易く、発光材料として用いる場合には、濃度消光を起こしやすいという課題がある。また、チオフェン部位へ置換基を導入する場所が限られているため、化学修飾による物性の最適化が困難である。
【0007】
本発明は、このような従来のフェナントロビチオフェン化合物の課題を解決する化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、新規ベンゾ[c]チオフェン誘導体の合成に成功し、さらにこの骨格を用いてアルデヒド基の導入や、ポリマー化させることにも成功した。本発明は、このような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] 下記式(1)で表される化合物。
【0010】
【0011】
[式(1)において、
R1~R8はそれぞれ独立に有機基を表し、R7及びR8は連結していてもよく、
mは0~3の整数を表し
nは2以上の整数を表し、
環Aは置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の2価基を表し、
Z1及びZ2はそれぞれ独立に、直接結合、アルケニレン基、アルキニレン基又はイミノ基を表し、
X1及びX2はそれぞれ独立に、NR100、O、S、S(=O)又はS(=O)2を表し、R100は、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。]
【0012】
[2] 重量平均分子量が500以上である、[1]に記載の化合物。
【0013】
[3] [1]又は[2]に記載の化合物を含有する、部材。
【0014】
[4] 下記式(3)で表される化合物。
【0015】
【0016】
[式(3)において、
R17~R24はそれぞれ独立に有機基を表し、
Y1及びY2はそれぞれ独立に、ホルミル基、イミノ基、或いは、置換基を有していてもよい、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はヘテロアリール基を表し、
X5及びX6はそれぞれ独立に、NR102、O、S、S(=O)又はS(=O)2を表し、R102はアルキル基を表す。]
【発明の効果】
【0017】
本発明の化合物は、ベンゾ[c]ヘテロールを主骨格として有し、共役の拡張で発光材料として用いた場合、高い発光効率が期待されるとともに、ねじれた構造をしており、高い溶剤溶解性も期待される。或いは、キャビティーを形成することができ、イオン伝導性に優れる、又はねじれ構造を有することから高純度化が可能であり、樹脂などへの溶融が可能である。
また、本発明の化合物は、置換基の導入の自由度が高く、化学修飾による物性の最適化やポリマー化による高分子量化を容易に行うことができ、用途に応じて所望の物性と分子量を有する化合物を実現することができる。
従って、本発明の化合物は、有機エレクトロニクス、全固体電池、記録メモリ、特定波長発光マーカー、特定分子センサー材料等の部材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】合成例1で得られた化合物bの吸収スペクトルと発光スペクトルを示すチャートである。
【
図2】合成例1で得られた化合物(3-1)の吸収スペクトルと発光スペクトルを示すチャートである。
【
図3】合成例2で得られた化合物(1-1)の吸収スペクトルと発光スペクトルを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0020】
〔式(1)で表される化合物〕
本発明の第1態様の化合物は、下記式(1)で表される新規の化合物(以下、「化合物(1)」と称す場合がある。)である。
【0021】
【0022】
[式(1)において、
R1~R8はそれぞれ独立に有機基を表し、R7及びR8は連結していてもよく、
mは0~3の整数を表し
nは2以上の整数を表し、
環Aは置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の2価基を表し、
Z1及びZ2はそれぞれ独立に、直接結合、アルケニレン基、アルキニレン基又はイミノ基を表し、
X1及びX2はそれぞれ独立に、NR100、O、S、S(=O)又はS(=O)2を表し、R100は、アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。]
【0023】
化合物(1)は、ベンゾ[c]ヘテロールを主骨格に有しており、共役の拡張と高い発光効率が期待されるとともに、ねじれた構造をしており、高い溶剤溶解性も期待される。また、置換基の導入の自由度が高く、ポリマー化による高分子量化も容易に行える。
【0024】
[式(1)中のR1~R8、環A、Z1及びZ2、X1及びX2、m、n]
(R1~R8)
R1~R8はそれぞれ独立に有機基を表す。該有機基は特に限定されないが、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、シアノ基、シリル基等が挙げられる(以下、アリール基とヘテロアリール基を「(ヘテロ)アリール基」と称す場合がある。)。また、R7及びR8は連結していてもよい。
【0025】
ハロゲンとしては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基等が挙げられる。
アルキル基は特に限定されないが、分岐していてもよく、置換されていてもよい。また、アルキル基の炭素数も特に限定されないが1以上であり、好ましくは20以下であり、より好ましくは12以下である。炭素数がこれらの範囲であることで溶剤溶解性が向上する傾向にある。
アルコキシ基は特に限定されないが、分岐していてもよく、置換されていてもよい。また、アルコキシ基の炭素数も特に限定されないが1以上であり、好ましくは20以下であり、より好ましくは12以下である。炭素数がこれらの範囲であることで溶剤溶解性が向上する傾向にある。
(ヘテロ)アリール基は特に限定されないが、単環又は縮合環からなり、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピリジル基などが挙げられる。また、(ヘテロ)アリール基の炭素数も特に限定されないが4以上、好ましくは6以上であり、好ましくは26以下であり、より好ましくは18以下である。炭素数がこれらの範囲であることで共役の拡張と適度な溶剤溶解性を付与できる傾向にある。
【0026】
上記アルキル基、アルコキシ基及び(ヘテロ)アリール基は置換基を有していてもよく、有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、シリル基等が挙げられる。これらの中でも耐久性及び溶剤溶解性向上の観点からアルキル基が好ましい。
【0027】
R1~R8は、上記の中でも水素原子、アルキル基又は(ヘテロ)アリール基であることが好ましい。また、R1~R8の組み合わせは特に限定されないが、合成上の観点から、R7とR8、R3とR6、R2とR5、R1とR4は、それぞれ同じである方が好ましい。
【0028】
また、R7及びR8は連結していてもよく、連結している場合は化合物(1)の長波長化に寄与する傾向にある。R7及びR8が連結している場合は、ひずみの低減の観点から、直接結合していることが好ましい。
【0029】
(環A)
環Aは置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の2価基を表す。
【0030】
芳香族炭化水素環としては特に限定されないが、炭素数5以上が好ましく、20以下が好ましい。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、フェナントレン環等の2価基が挙げられる。
【0031】
芳香族複素環としては特に限定されないが、炭素数3以上が好ましく、20以下が好ましい。具体的には、チオフェン、チアゾール、オキサゾール、チアジアゾール等の5員環;チエノチオフェン、ベンゾチアジアゾール等の5員環を含む縮合環;カルバゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、キナゾリン、キノキサリン等のヘテロ原子として窒素原子を有する環;ジチエノシロールなどのケイ素原子を有する環等の2価基が挙げられる。
【0032】
環Aとしては、これらの中でも、溶剤溶解性及び合成容易性の観点から、芳香族複素環基が好ましく、5員環の芳香族複素環基がより好ましく、チオフェン環の2価基がさらに好ましい。
【0033】
環Aが有していてもよい置換基としては、R1~R8のアルキル基等が有していてもよい置換基が挙げられ、好ましいものも同様である。
【0034】
(X1及びX2)
X1及びX2はそれぞれ独立に、NR100、O、S、S(=O)又はS(=O)2を表す。X1及びX2は同一でも異なっていてもよいが、合成上の観点から同一であることが好ましい。また、これらの中でも化合物(1)の安定性の観点からSであることが好ましい。
R100は、アルキル基又は(ヘテロ)アリール基を表す。アルキル基の炭素数は好ましくは1以上20以下であり、分岐でも直鎖でもよい。(ヘテロ)アリール基は単環又は縮合環からなり、炭素数も特に限定されないが4以上、好ましくは6以上であり、好ましくは26以下であり、より好ましくは18以下である。具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピリジル基などが挙げられる。また、X1及びX2がNR100である場合は、X1及びX2それぞれのR100は同一でも異なっていてもよいが、合成上の観点から同一であることが好ましい。
【0035】
(Z1及びZ2)
Z1及びZ2はそれぞれ独立に、直接結合、アルケニレン基、アルキニレン基又はイミノ基を表す。アルケニレン基及びアルケニレン基の炭素数は特に限定されないが、安定性の観点から、2以上6以下が好ましく、4以下がより好ましい。また、Z1及びZ2は同一でも異なっていてもよいが、同一であることが合成容易性の観点から好ましい。
【0036】
上記の中でもZ1及びZ2は合成容易性の観点からは直接結合であることが好ましいが、化合物(1)の長波長化の観点からは、アルケニレン基であることが好ましい。
【0037】
(m)
mは0~3の整数を表し、合成容易性の観点からは0であることが好ましいが、共役を拡張できる傾向にあるという観点からは1が好ましい。
【0038】
(n)
nは2以上の整数を表す。nの上限は特にないが、溶剤溶解性の観点から100以下であることが好ましい。
【0039】
(R1~R8、m、n、環A、X1、X2、Z1及びZ2の組み合わせ)
R1~R8、m、n、環A、X1、X2、Z1及びZ2の組み合わせは特に限定されないが、R1~R8が水素原子であり、X1とX2が同一であり、mが0であり、nが2以上100以下であり、環Aが、置換基を有していてもよい、炭素数5~20の芳香族炭化水素環又は炭素数3~20の5員環である芳香族複素環の2価基であり、Z1及びZ2が直接結合であることが、合成容易性の観点から好ましい。
【0040】
[化合物(1)の製造方法]
化合物(1)の製造方法は特に限定されないが、例えば以下のスキーム1,2が挙げられる。
【0041】
【0042】
上記式(10)で表される化合物は特開2018-150248号公報等に記載の方法で得ることができる。式(10)で表される化合物と式(11)で表される化合物とを触媒の存在下で反応させて、化合物(1)である式(12)で表される化合物を得ることができる。
【0043】
【0044】
上記式(13)で表される化合物は特開2018-150248号公報等に記載の方法で得ることができる。式(13)で表される化合物と式(14)で表される化合物とを触媒の存在下で反応させて、化合物(1)である式(15)で表される化合物を得ることができる。なお、式(13)中のZはハライド、トリアルキルスタニル基、置換基を有していてもよいボリル基、エチニル基、置換基を有していてもよいビニル基、置換基を有していてもよいアミノ基、ボロン酸エステル基を表し、式(14)中のWはトリアルキルスタニル基、置換基を有していてもよいボリル基、エチニル基、置換基を有していてもよいビニル基、置換基を有していてもよいアミノ基、ハライドを表す。Zがハライドの場合にはWはトリアルキルスタニル基、置換基を有していてもよいボリル基であることが好ましく、Zがトリアルキルスタニル基、置換基を有していてもよいボリル基、エチニル基、置換基を有していてもよいビニル基、置換基を有していてもよいアミノ基の場合には、Wはハライドであることが好ましい。
【0045】
いずれのスキームにおいても、反応条件は基質により異なるが、反応温度は10℃~200℃、反応時間10分~24時間であり、反応溶媒は特に制約はないが、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、塩化メチレン、テトラヒドロフラン(THF)等が、触媒としてはパラジウム系触媒、ニッケル系触媒、銅系触媒等が利用できる。
【0046】
[化合物(1)の具体例]
以下に、化合物(1)の具体例を示すが、本発明の化合物(1)は以下の例示化合物に限定されるものではない。
【0047】
【0048】
[重量平均分子量]
化合物(1)の重量平均分子量は特に限定されないが、1,000,000以下であることが好ましく、500,000以下であることがより好ましい。また、500以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましい。重量平均分子量がこれらの範囲であることで溶剤溶解性と共役の拡張とを両立できる傾向にある。
なお、重量平均分子量の測定方法は特に限定されないが、GPC分析を用いることができる。
【0049】
[最大吸収波長]
化合物(1)が吸収を有する場合には、最大吸収波長は340nm以上であることが好ましく、370nm以上であることがより好ましい。また、1500nm以下であることが好ましく、1400nm以下であることがより好ましい。最大吸収波長がこれらの範囲であることで共役が拡張する傾向にある。
なお、最大吸収波長の測定方法は特に限定されないが、分光光度計を用いることができる。
【0050】
〔式(2)で表される化合物〕
本発明の第2態様の化合物は、下記式(2)で表される新規の化合物(以下、「化合物(2)」と称す場合がある。)である。
【0051】
【0052】
[式(2)において、
R10~R16はそれぞれ独立に有機基を表し、
kは0~3の整数を表し
lは2以上の整数を表し、
環Bは置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の2価基を表し、
Z3及びZ4はそれぞれ独立に、直接結合、アルケニレン基、アルキニレン基又はイミノ基を表し、
X3及びX4はそれぞれ独立に、NR101、O、S、S(=O)又はS(=O)2を表し、R101はアルキル基を表す。]
【0053】
化合物(2)は、ねじれた構造を有するので非常に高い溶剤溶解性を有するとともに、キャビティーを形成し、イオン伝導性に優れた材料である。また、置換基の導入の自由度が高く、ポリマー化による高分子量化も容易に行える。
【0054】
[式(2)中のR10~R16、環B、Z3及びZ4、X3及びX4、k、l]
(R10~R16)
R10~R16はそれぞれ独立に有機基を表す。該有機基としては、式(1)におけるR1~R8で挙げたものと同義であり、好ましい範囲も同義である。
【0055】
(環B)
環Bは置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の2価基を表す。該置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環の2価基は、式(1)の環Aで挙げたものと同義であり、好ましい範囲も同義である。
【0056】
(X3及びX4)
X3及びX4はそれぞれ独立に、NR101、O、S、S(=O)又はS(=O)2を表す。X3及びX4は同一でも異なっていてもよいが、合成上の観点から同一であることが好ましい。また、これらの中でも化合物(2)の安定性の観点からSであることが好ましい。
【0057】
R101は、アルキル基を表す。アルキル基の炭素数は好ましくは1以上20以下であり、分岐でも直鎖でもよい。また、X3及びX4がNR101である場合は、X3及びX4それぞれのR101は同一でも異なっていてもよいが、合成上の観点から同一であることが好ましい。
【0058】
(Z3及びZ4)
Z3及びZ4はそれぞれ独立に、直接結合、アルケニレン基、アルキニレン基又はイミノ基を表す。アルケニレン基及びアルケニレン基の炭素数は特に限定されないが、安定性の観点から、2以上6以下が好ましく、4以下がより好ましい。また、Z1及びZ2は同一でも異なっていてもよいが、同一であることが合成容易性の観点から好ましい。
上記の中でもイミノ基が合成容易性の観点から好ましい。
【0059】
(k)
kは0~3の整数を表し、共役の拡張の観点から1であることが好ましい。
【0060】
(l)
lは2以上の整数を表す。lの上限は特にないが、溶剤溶解性の観点から100以下であることが好ましい。
【0061】
(R10~R16、k、l、環B、X3、X4、Z3及びZ4の組み合わせ)
R10~R16、k、l、環B、X3、X4、Z3及びZ4の組み合わせは特に限定されないが、kが1、lは2以上100以下、X3とX4が同一であり、環Bが、置換基を有していてもよい、炭素数5~20の芳香族炭化水素環又は炭素数3~20の5員環である芳香族複素環の2価基であり、R9=R12、R10=R13、R11=R14、R15=R16であり、Z3及びZ4がイミノ基であることが、合成容易性の観点より好ましい。
【0062】
[化合物(2)の製造方法]
化合物(2)の製造方法は特に限定されないが、例えば以下のスキーム3が挙げられる。
【0063】
【0064】
上記式(16)で表される化合物は、前記スキーム1の式(10)で表される化合物をLDA(リチウムジイソプロピルアミド)等を用いてリチオ化し、試薬と反応させる方法で得ることができる。式(16)で表される化合物及び式(17)で表される化合物とを触媒を用いて反応させて、化合物(2)である式(18)で表される化合物を得ることができる。式(16)中のZa及びZbは、ハライド、トリアルキルスタニル基、ボリル基、ボロン酸エステル基を表し、式(17)中のW2はトリアルキルスタニル基、ボリル基、ボロン酸エステル基、エチニル基、置換基を有していてもよいビニル基、置換基を有していてもよいアミノ基、ハライドを表す。式(18)中のZ3,Z4は直接結合、アルケニレン基、アルキニレン基又はイミノ基である。
【0065】
反応条件は基質により異なるが、反応温度は10℃~200℃、反応時間10分~24時間であり、溶媒は特に制約はないが、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、塩化メチレン、テトラヒドロフラン(THF)等が、触媒としてはパラジウム系触媒、ニッケル系触媒、銅系触媒等が利用できる。
【0066】
[化合物(2)の具体例]
以下に、化合物(2)の具体例を示すが、本発明の化合物(2)は以下の例示化合物に限定されるものではない。
【0067】
【0068】
[重量平均分子量]
化合物(2)の重量平均分子量は特に限定されないが、1,000,000以下であることが好ましく、500,000以下であることがより好ましい。また、500以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましい。重量平均分子量がこれらの範囲であることで溶剤溶解性と共役の拡張とを両立できる傾向にある。
なお、重量平均分子量の測定方法は特に限定されないが、GPC分析を用いることができる。
【0069】
[最大吸収波長]
化合物(2)が吸収を有する場合には、最大吸収波長は650nm以上であることが好ましく、680nm以上であることがより好ましい。また、1500nm以下であることが好ましく、1400nm以下であることがより好ましい。最大吸収波長がこれらの範囲であることで共役が拡張する傾向にある。
なお、最大吸収波長の測定方法は特に限定されないが、分光光度計を用いることができる。
【0070】
〔式(3)で表される化合物〕
本発明の第3態様の化合物は、下記式(3)で表される新規の化合物(以下、「化合物(3)」と称す場合がある。)である。
【0071】
【0072】
[式(3)において、
R17~R24はそれぞれ独立に有機基を表し、
Y1及びY2はそれぞれ独立に、ホルミル基、イミノ基、或いは、置換基を有していてもよい、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はヘテロアリール基を表し、
X5及びX6はそれぞれ独立に、NR102、O、S、S(=O)又はS(=O)2を表し、R102はアルキル基を表す。]
【0073】
化合物(3)は、ねじれ構造を有することから相溶性が高く、樹脂などへの溶融が可能な化合物である。なお、化合物(3)はインジケーター、バイオイメージング、添加剤等に用いることができる。
【0074】
[式(3)中のR17~R24、Y1及びY2、X5及びX6]
(R17~R24)
R17~R24はそれぞれ独立に有機基を表す。該有機基としては、式(1)におけるR1~R8で挙げたものと同義であり、好ましい範囲も同義である。
【0075】
(Y1及びY2)
Y1及びY2はそれぞれ独立に、ホルミル基、イミノ基、或いは置換基を有していてもよい、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0076】
アルケニル基、アルキニル基は特に限定されないが、合成容易性の観点から、好ましくは炭素数が2以上10以下であり、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは3以下である。
【0077】
(ヘテロ)アリール基は特に限定されないが、単環又は縮合環からなり、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピリジル基、チエニル基、チエノチエニル基などが挙げられる。また、炭素数も特に限定されないが4以上、好ましくは6以上であり、好ましくは26以下であり、より好ましくは18以下である。炭素数がこれらの範囲であることで共役の拡張と適度な溶剤溶解性を付与できる傾向にある。
【0078】
アルケニル基、アルキニル基、又は(ヘテロ)アリール基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、シアノ基、ハライド、アルコキシル基、アルキルアミノ基、アリール基又はヘテロアリール基等が挙げられる。
【0079】
上記の中でも、Y1及びY2は安定性の観点からヘテロアリール基であることが好ましい。また、Y1及びY2は同一でも異なっていてもよいが、同一である方が合成容易性の点からより好ましい。
【0080】
(X5及びX6)
X5及びX6はそれぞれ独立に、NR102、O、S、S(=O)又はS(=O)2を表す。X5及びX6は同一でも異なっていてもよいが、合成容易性の観点から、同一が好ましい。また、これらの中でも芳香族性と安定性の観点からSが好ましい。
【0081】
R102は、アルキル基を表す。アルキル基の炭素数は好ましくは1以上20以下であり、分岐でも直鎖でもよい。また、X5及びX6がNR102である場合は、X5及びX6それぞれのR102は同一でも異なっていてもよいが、合成上の観点から同一であることが好ましい。
【0082】
(R17~R24、Y1、Y2、X5及びX6の組み合わせ)
R17~R24、Y1、Y2、X5及びX6の組み合わせは特に限定されないが、X5及びX6が同一であり、Y1及びY2は置換基を有してもよい(ヘテロ)アリール基であり、R17=R20、R18=R21、R19=R22、R23=R24であることが、合成容易性の観点から好ましい。
【0083】
[化合物(3)の製造方法]
化合物(3)の製造方法は特に限定されないが、例えば以下のスキーム4~6が挙げられる。
なお、以下のスキーム4,5における式(19)で表される化合物も、化合物(3)に該当する。
【0084】
【0085】
上記式(19)で表される化合物は、前記スキーム1の式(10)で表される化合物をLDA(リチウムジイソプロピルアミド)等を用いてリチオ化し、DMFと反応させることにより得ることができる。式(19)で表される化合物と式(20)で表される化合物とを塩基性条件下、10℃~100℃で、THFなどの有機溶媒中で反応させて、化合物(3)である式(21)で表される化合物を得ることができる。式(20)におけるRはフェニル基であり、Y100はアリール基又はヘテロアリール基である。
【0086】
【0087】
式(19)で表される化合物と式(23)で表される化合物とをトルエンやエタノールなどの有機溶媒中、0℃~150℃で10分~24時間程度で反応させて、化合物(3)である式(24)で表される化合物を得ることができる。式(20),(24)中、Y101はアルキル基である。
【0088】
【0089】
上記式(25)で表される化合物は、前記スキーム1の式(10)で表される化合物をLDA(リチウムジイソプロピルアミド)等を用いてリチオ化し、試薬と反応させることにより得ることができる。式(25)で表される化合物と式(26)で表される化合物とを反応させて、化合物(3)である式(27)で表される化合物を得ることができる。なお、式(25)中のZcと式(26)のQのいずれかはハライド、トリアルキルスタニル基、ボリル基、ボロン酸エステル基を表し、式(26)中のY102は置換基を有していてもよい、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
【0090】
[化合物(3)の具体例]
以下に、化合物(3)の具体例を示すが、本発明の化合物(3)は以下の例示化合物に限定されるものではない。
【0091】
【0092】
[部材]
化合物(1)又は化合物(2)は、有機エレクトロニクス、全固体電池、記録メモリ、特定波長発光マーカー、特定分子センサー材料等の部材、より具体的には、近赤外発光マーカー、インジケーター、センサー、波長変換フィルム等の部材として適用可能である。
【実施例】
【0093】
以下、実施例に代わる合成例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の合成例及び合成化合物に限定されるものではない。なお、下記の合成例における各種の条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における好ましい範囲と同様に、本発明の好ましい範囲を示すものであり、本発明の好ましい範囲は前記した実施態様における好ましい範囲と下記合成例の値又は合成例同士の値の組合せにより示される範囲を勘案して決めることができる。
【0094】
また、本合成例において、測定機器は以下を用いた。
FT-IRスペクトル測定:SHIMADZU IRTracer-100ATR.
1H NMRスペクトル測定:Varian-500(500MHz)FT NMR 装置.
高性能ハイブリッド型質量分析システム(APCIおよびGC-EI):Thermo Fisher Scientific LTQ Orbitrap XLおよびJEOL JMS-T100 GCV 4G.
吸収スペクトル:SHIMADZU UV-3150分光光度計.
発光スペクトル:HORIBA FluoroMax-4蛍光測定装置.
蛍光量子収率:HORIBA FluoroMax-4蛍光測定装置(積分球とナノLED318nm付属).
サイクリックボルタンメトリー:北斗電工 電気化学分析システムHZ-7000.
【0095】
[合成例1]
<化合物aの合成>
化合物aは特開2018-150248号公報の(化合物3の合成)の方法に従って合成した。
【0096】
【0097】
N2置換した200ml三口フラスコにdry THF(100ml)と化合物a(3.3mmol,1g)を加えた。-20℃に冷却後、n-BuLi(1.59M、13mmol、8.4mL)をゆっくり滴下した。1時間後、水でクエンチし、濃縮した。濃縮物をCH2Cl2水溶液に溶かし、NH4Cl水溶液で中和した。水と飽和食塩水で洗浄後、MgSO4で乾燥させて溶媒を濃縮した。再沈殿したところ、オリゴマーと思われる黄色固体が550mg得られた。残った溶液を濃縮(450mg)し、アルミナカラム(クロロホルム:ヘキサン=1:30)で精製して化合物bを得た。化合物bの収量は40mgで、収率は4.5%であった。また、得られた化合物bのFT-IRのスペクトル測定、1H NMRスペクトル測定及びガスクロマトグラフの分析を行った。結果は以下の通りである。
【0098】
・FT-IR(ATR):ν~=3103,1503,1334 cm-1
・1H NMR(500MHz,acetone-d6)δ=7.10-7.17(m,4H),7.51(d,J=3.4Hz,2H),7.67(d,J=8.8Hz,2H),8.55(d,J=7.6Hz,2H),7.92(d,J=3.4Hz 2H)ppm
・13C NMR(125MHz,Acetone)δ=117.96,118.31,122.51,124.29,124.35,134.56,13845,139.91ppm
・GC-EI:m/z(%):[M-H]+ calcd for C16H9S2,265.01457;found,265.01442
【0099】
【0100】
N2置換したシュレンク管にdry THF(2.5ml)に溶かした化合物b(0.94mmol,250mg)を加えた。-20℃に冷却後、LDAをゆっくり滴下し、3時間後DMFを加えた。1時間後、水でクエンチし、酢酸エチルで抽出したが、この際に溶けない黒色固体が存在した。酢酸エチルで抽出後、水と飽和食塩水で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、溶媒を濃縮した(240mg)。アルミナカラム(酢酸エチル:ヘキサン=1:5)で精製し、化合物(3-1)を得た。化合物(3-1)の収量は30mg、収率は10%であった。また、得られた化合物(3-1)のFT-IRのスペクトル測定、1H NMRスペクトル測定及びガスクロマトグラフの分析を行った。結果は以下の通りである。
【0101】
・FT-IR(ATR):ν~=2723,1636,1497cm-1
・1H NMR(500MHz,acetone-d6)δ=7.48(d,J=6.7Hz,2H),7.62-7.65(m,2H),8.38(s,2H),8.55(d,J=8.8Hz,2H),10.45(s,2H)ppm
・13C NMR(125MHz,CDCl3)δ=120.85,126.04,126.75,130.47,132.74,133.51,139.52,140.75,181.05 ppm
・HRMS(APCI):m/z(%):[M+H+]calcd for C18H11O2S2,323.01950;found,323.01993
【0102】
化合物b及び化合物(3-1)のTHF溶媒中の光電特性を以下の表1に示す。
また、化合物b及び化合物(3-1)の吸収スペクトルと発光スペクトルをそれぞれ
図1,2に示す。
なお、CV測定は0.1M Bu
4NClO
4を含むAN(0.01M)中で行った。酸化電位はフェロセンの酸化還元電位を基に補正した値を示している。
【0103】
【0104】
[合成例2]
<化合物cの合成>
化合物cは、化合物aから化合物bを合成する際の副産物として得た。
【0105】
【0106】
N2置換したシュレンク管に化合物c(黄色)とTHF(3.7ml)を加え、さらにCH3NO2(3.7ml)に溶かしたFeCl3を加えた。2時間後、反応を止め溶液を濃縮した。CH2Cl2に溶解させたが、この際水にもCH2Cl2にも溶解しない化合物があり、ろ過した。CH2Cl2に溶解した化合物を水と飽和食塩水で洗浄しMgSO4で乾燥した。濃縮したところ、25mgの赤黒固体である化合物(1-1)が得られた。化合物(1-1)の重量平均分子量は800であった。
【0107】
化合物(1-1)のTHF溶媒中の光電特性を以下の表2に示す。また、吸収スペクトルと発光スペクトルを
図3に示す。
【0108】