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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-02
(45)【発行日】2024-12-10
(54)【発明の名称】三次元構造体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20241203BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241203BHJP
   C12N 11/04 20060101ALI20241203BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241203BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12Q1/02
C12N11/04
C12N15/09 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020051559
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021145645
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(72)【発明者】
【氏名】田部井 陽介
(72)【発明者】
【氏名】堀江 祐範
(72)【発明者】
【氏名】林 和花
(72)【発明者】
【氏名】塩本 周作
(72)【発明者】
【氏名】仲山 智明
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/001024(WO,A2)
【文献】特開2017-209103(JP,A)
【文献】International Journal of Nanomedicine,2019年,Vol.14, pp.9707-9719
【文献】Bioengineering,2018年,Vol.5, 43,<doi:10.3390/bioengineering5020043>
【文献】Materials Today,2018年,Vol.21, No.4, pp.326-340
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
G01N 33/00-33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞層と、
ハイドロゲルを含む透過層と、
を含み、
前記細胞層と前記透過層とは積層されており、
前記透過層は生体の皮膚と同等の物質透過性を有し、
前記細胞層は、被験物質に対するインジケーター細胞を含み、
前記透過層は、ナノ粒子を透過させず、
前記ハイドロゲルが、フィブリンを含む、
前記被験物質の皮膚透過性評価用三次元構造体。
【請求項2】
前記透過層は、厚さを変化させることにより物質透過性を調節可能である、請求項1に記載の三次元構造体。
【請求項3】
前記インジケーター細胞が、蛍光タンパク質を発現する細胞である、請求項1又は2に記載の三次元構造体。
【請求項4】
前記蛍光タンパク質を発現する細胞は、レポーター遺伝子が導入されている細胞である、請求項3に記載の三次元構造体。
【請求項5】
細胞層と
ハイドロゲルを含む透過層と、
を含み、
前記細胞層と前記透過層とは積層されており、
前記透過層は生体の皮膚と同等の物質透過性を有し、
前記細胞層は、被験物質に対するインジケーター細胞を含み、
前記透過層は、ナノ粒子を透過させず、
前記ハイドロゲルが、フィブリンを含む、三次元構造体の、
前記透過層の前記細胞層に対向する面とは反対側の面に被験物質を接触させる工程と、
前記インジケーター細胞の生理学的特性を測定する工程と、
を含む、被験物質の皮膚透過性の評価方法。
【請求項6】
前記生理学的特性が、蛍光強度により測定される、請求項に記載の評価方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の三次元構造体を含み、請求項5又は6に記載の評価方法に用いるための、被験物質の皮膚透過性評価用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元構造体及びその使用に関する。より具体的には、本発明は、被験物質の皮膚透過性評価用三次元構造体、被験物質の皮膚透過性の評価方法、被験物質の皮膚透過性評価用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノ粒子は、化粧品、塗料、電子機器、医薬品等、様々な分野で用途が拡大している。一方、ナノ粒子の生体応答機序には未解明な部分が多く、安全性への懸念が唱えられている。
【0003】
国際標準化機構(ISO)によれば、ナノ粒子は、外形寸法が1~100nmの範囲にある物質と定義されている(ISO/TS 27687:2008 Nanotechnologies - Terminology and definitions for nanoobjects-Nanoparticle, nanofibre and nanoplate)。ナノ粒子は、大きさという物理量のみで定義されるため、化学的には多くの種類があり、その数は市場に流通しているものだけでも100種類を超える。また、表面修飾等を含めるとその数は更に多くなる。しかしながら、実際に生体に影響を与えることが明らかとなっているナノ粒子はその中の一部にとどまり、多くのナノ粒子については、生体への影響は明らかにされていない。
【0004】
皮膚に接触するナノ粒子や薬剤等の経皮毒性を評価する上で、それらの皮膚透過性を評価することが重要な課題となっている。ヒトの皮膚、特に上皮層は、外界から体内を守るバリア機能を持つため、ナノ粒子や薬剤等の皮膚透過性により、体内の細胞応答が大きく異なる可能性がある。非特許文献1に記載されているように、従来、皮膚透過性試験には、ヒトの皮膚、又は、ブタ、マウス等の非ヒト動物の皮膚が用いられてきた。
【0005】
しかしながら、特にEUの化粧品業界において、安全性が担保できない新規材料の使用は規制される一方、動物実験を行った材料を含む製品の販売が全面的に禁止されている。このため、生体外でナノ粒子の経皮毒性を適切に評価できるインビトロ手法が国際的に求められている。
【0006】
ヒトの皮膚は入手困難であり、動物実験にも代替法が求められるため、近年では、被験物質の皮膚透過性評価に、培養細胞を用いて人工的に作成した三次元培養皮膚を使用することが検討されている。ところが、従来の三次元培養皮膚の作製には数週間にわたる長い培養工程が必要であり生産性に課題がある。また、従来の三次元培養皮膚は、被験物質の透過性等にばらつきが存在し、品質安定性が低い場合がある。
【0007】
また、ヒト及び動物から剥離した皮膚組織は、長期に生存を保つことができないため、一定の条件で一時的に皮膚を透過した物質量を測定することができても、長期における物質の透過や分解物の放出等が、皮膚の下層部の細胞の生理活性に与える影響を評価することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような背景のもと、本発明は、被験物質の皮膚透過性を評価する新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の三次元構造体は、被験物質の皮膚透過性評価用であり、細胞層と、前記細胞層に積層されたハイドロゲルを含む透過層と、を含み、前記透過層は生体の皮膚と同等の物質透過性を有し、前記細胞層は、被験物質に対するインジケーター細胞を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被験物質の皮膚透過性を評価する新たな技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】三次元構造体の一例を示す模式断面図である。
図2】(a)及び(b)は、実験例1において、ハイドロゲル層に対するブルーデキストランの透過率を測定した結果を示すグラフである。(c)は、アルギン酸ゲルを走査電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を示す電子顕微鏡写真である。(d)は、フィブリンゲルをSEMで観察した結果を示す電子顕微鏡写真である。
図3】実験例2における亜鉛イオンの定量結果を示すグラフである。
図4】(a)は、実験例3において、ウェル中に透過した亜鉛イオンの定量結果を示すグラフである。(b)は、実験例3において、IL-8-HaCaT細胞が発するGFPの蛍光を撮影した蛍光顕微鏡写真である。
図5】(a)及び(b)は、実験例4における定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
図6】(a)は、実験例5における亜鉛イオンの定量結果を示すグラフである。(b)は、実験例5における定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0013】
[三次元構造体]
本発明の一側面において、細胞層と、ハイドロゲルを含む透過層と、を含み、前記細胞層と前記透過層とは積層されており、前記透過層は生体の皮膚と同等の物質透過性を有し、前記細胞層は、被験物質に対するインジケーター細胞を含む、前記被験物質の皮膚透過性評価用三次元構造体が提供される。ハイドロゲルを含む透過層は、細胞層と積層されていればよく、透過層と細胞層の間に、細胞層及び透過層以外の層(例えば別の透過性の層や別の細胞層等)が配置されていてもよいが、好ましくは細胞層に接する形で透過層が積層されている。透過層の細胞層が存在する側(以下、細胞層側と称する)とは反対側(以下、被験物質適用側と称する)から適用された被験物質は、透過層を透過し細胞層に至り、細胞層に含まれるインジケーター細胞と接触することでインジケーター細胞の生理学的特性が変化する。かかる変化を観察及び評価することにより、被験物質の皮膚透過性を評価することができる。
【0014】
実施例において後述するように、本発明の三次元構造体によれば、三次元培養皮膚よりも簡便に被験物質の皮膚透過性を評価することができる。また、被験物質の皮膚透過性の評価結果の再現性も高い。
【0015】
図1は、本発明の三次元構造体の一例を示す模式断面図である。かかる例において、三次元構造体100は、細胞層120と、細胞層120の上部に配置された透過層110とを含む。透過層110はハイドロゲルを含む。透過層110は生体の皮膚と同等の物質透過性を有する。細胞層120は、被験物質に対するインジケーター細胞を含む。
【0016】
図1に示すように、三次元構造体100は、容器に収容されていてもよく、また培地等の液体に浸漬されていてもよい。図1の例では、三次元構造体100は、トランズウェルインサート130に収容され、培地141に浸漬されているが、培地に直接浸漬されていてもよい。トランズウェルインサート130のうち、細胞層120が接する領域の少なくとも一部は、透過性の高いメンブレン131から構成されており、図1の例のように、細胞層120が接する領域の全面がメンブレン131で構成されていてもよい。メンブレン131は、細胞を透過させず、培地中の成分及び細胞からの分泌物を透過させるものであればいかなるものを用いてもよい。
【0017】
透過層110のうち、細胞層120に対向する面111とは反対側の面112には、被験物質が適用される。被験物質は、面112に接触する形態であればいかなる形態で適用されてもよく、例えば被験物質を溶解又は分散させた液を添加したり、被験物質を含むゲル又はクリームを塗布したりしてよい。図1の例では、透過層110の上に培地140が添加され、後述するように、培地140に被験物質が添加される形で適用されている。また、図1の例では、トランズウェルインサート130は、ウェル150に収容されている。ウェル150とトランズウェルインサート130との間の空間には、培地141が収容されており、透過層110を透過した被験物質は、細胞層120に接触し、更にメンブレン131を透過して培地141に放出される。また、被験物質が細胞層120に含まれるインジケーター細胞に接触することにより何らかの物質を分泌する場合は、かかる分泌物もまたメンブレン131を透過して培地141に放出される。かかる培地141に放出された被験物質や分泌物の量を測定することによって、皮膚透過性を評価することもできる。
【0018】
本発明において、「透過層が生体の皮膚と同等の物質透過性を有する」とは、特定の被験物質に着目した場合に、当該被験物質が生体の皮膚を透過する透過性と、当該被験物質が本発明の三次元構造体の透過層を透過する透過性が同等であることを意味する。
【0019】
本明細書において、「被験物質が透過層を透過する」とは、被験物質が変化することなく透過層を透過すること、及び、被験物質が変化して生じた物質が透過層を透過することを含む。被験物質が変化して生じた物質とは、例えば、被験物質が溶解して生じたイオンや被験物質が結合して生じるクラスター等が挙げられる。
【0020】
本発明において、透過層は、ハイドロゲルを含むものである。細胞毒性や被験物質との反応性に影響しない限り、その他の成分を含んでもよいが、好ましくはハイドロゲルのみからなる。透過層は、好ましくはナノ粒子等の粒子を透過させないが、ナノ粒子の溶解物(イオン等の低分子物質)は透過させる。いいかえると、透過層は、粒子と溶解性の物質(金属イオン等)を分別可能であることが好ましい。また、透過層は、その組成や厚さ等を変化させることによって、透過層の物質透過性を調節可能であることが好ましい。
【0021】
透過層が含むハイドロゲルは、少なくとも使用濃度範囲において、それ自体に細胞毒性がないものが好ましい。また、透過層が含むハイドロゲルは、生体の皮膚と同等に、粒子や高分子物質の透過性と、イオン等の低分子物質の透過性に差を有する構造及び密度を有することが好ましい。ハイドロゲルは、水を内部に含む高分子材料であり、例えば、生体由来高分子(コラーゲン、エラスチン、ゼラチン、フィブリン、ヒアルロン酸、ポリペプチド等)、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド等の合成高分子、アルギン酸、ジェランガム等の多糖類、多価金属塩等が挙げられる。
【0022】
ハイドロゲルは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
実施例において後述するように、発明者らは、例えば、空隙率の低いアルギン酸ゲルは、被験物質の透過性が低すぎて何も通さないのに対し、空隙率がより高いフィブリンゲルは、透過層の厚さを調節することにより、被験物質の透過性を調節することができることを明らかにした。
【0024】
このため、透過層に含まれるハイドロゲルとして、フィブリンゲル等を用いた場合、透過層の厚さを調節することにより、被験物質の透過性を、生体の皮膚と同等の透過性に設定することができる。
【0025】
本発明の三次元構造体によれば、ナノ粒子材料やその他の化学物質、生物由来物質の経皮毒性や、ドラッグデリバリーシステムにおける医薬品の皮膚浸透性及び有効性等を、より正確にスクリーニングできるシステムを構築することができる。
【0026】
本発明の三次元構造体は、透過層の下に、被験物質に対するインジケーター細胞を含む細胞層を有する。本明細書において、インジケーター細胞とは、ある物質との接触に応答して、生理学的特性が変化する細胞を意味する。生理学的特性としては、遺伝子発現プロファイル、蛍光タンパク質等のレポータータンパク質を含むタンパク質の発現量、細胞の表現型、生存率、バイタリティ等が挙げられる。本発明の三次元構造体に用いられるインジケーター細胞は、被験物質との接触に応答して生理学的特性が変化する細胞である。
【0027】
本実施形態の三次元構造体において、細胞層が含むインジケーター細胞としては、ヒト等の哺乳類の生体由来の初代培養細胞、継代培養細胞、幹細胞、幹細胞から分化誘導された細胞、株化された細胞、各種遺伝子編集を施した細胞等を使用することができる。
【0028】
皮膚透過性を評価する観点では、インジケーター細胞として、特に、皮膚を構成し炎症反応に関わる表皮角化細胞又はHaCaT細胞等の表皮角化細胞株が好ましく用いられる。インジケーター細胞としては、これらの他にも、線維芽細胞、血管内皮細胞、ランゲルハンス細胞、末梢神経細胞等を目的に応じて適宜用いることができる。
【0029】
また、インジケーター細胞の応答性を非侵襲にリアルタイムで評価する手段として、例えば、標的遺伝子の応答配列の下流に所定の外来遺伝子(以下、レポーター遺伝子と称する。)を連結したコンストラクトを導入した細胞を好適に用いることができる。レポーター遺伝子としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、これらの派生物等が挙げられる。
【0030】
これにより、標的遺伝子の転写活性を蛍光等により検出することができる。つまり、インジケーター細胞は、蛍光タンパク質を発現する細胞であってもよいし、基質と反応して蛍光を生じる酵素を発現する細胞であってもよい。また、蛍光タンパク質を発現する細胞は、レポーター遺伝子が導入された細胞であってもよい。
【0031】
レポーター遺伝子は、発現レベルを測定する標的遺伝子の応答配列の下流に連結されている。標的遺伝子の応答配列に特に制限はないが、特に、皮膚における炎症誘発の評価にはIL-8遺伝子のプロモーターのNF-kB応答配列を好適に用いることができる。
【0032】
応答配列のその他の例としては、酸化ストレスに応答するHO-1遺伝子のARE配列、DNA損傷に応答するp53応答配列、小胞体ストレスに応答するATF6応答配列、金属ストレスに応答するMT2AのMRE配列等が挙げられる。
【0033】
ヒトIL-8遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号はNM_000584.4、NM_001354840.2等である。ヒトHO-1遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号はNM_002133.3等である。ヒトp53遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号はNM_000546.5、NM_001126112.2等である。ヒトATF6遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号はNM_007348.4等である。ヒトMT2A遺伝子のmRNAのNCBIアクセッション番号はNM_005953.5等である。
【0034】
図1に示すように、三次元構造体は、容器に収容されていてもよい。容器は、細胞の接着と増殖に適した基材からなる培養容器が好ましい。また、インジケーター細胞の応答を蛍光等で測定する観点から、容器として、光透過性が高く、自己発光しないマルチウェルタイプのカルチャープレート等を用いることが好ましい。
【0035】
特に、下部からの細胞への栄養・酸素等の供給を妨げず、三次元組織体を通過した後の被験物質の回収と評価を可能にするため、メンブレンを含む、Transwell(コーニング社)等のトランズウェルインサートを用いることが好ましい。
【0036】
被験物質としては、皮膚透過性を評価する対象のあらゆる物質が挙げられる。より具体的には、例えば、ナノ粒子、合成化合物、天然化合物、生物由来物質、医薬等が挙げられる。
【0037】
ナノ粒子は、外形寸法が1~100nmの範囲にある物質である。具体的なナノ粒子としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、SiOコートされたZnO(ZnO-Si)、酸化銅(CuO)、酸化ニッケル(NiO)、三酸化アンチモン(Sb)、一酸化コバルト(CoO)、三酸化モリブデン(MoO)、酸化イットリウム(Y)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ガドリニウム(Gd)、酸化スズ(SnO)、三酸化タングステン(WO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化第二鉄(Fe)、二酸化チタン(TiO)、酸化セリウム(CeO)、酸化アルミニウム(Al)、三酸化ビスマス(Bi)、酸化ランタン(La)、酸化インジウムスズ(ITO、In/SnO)、コバルトブルー顔料(Al/CoO)、金ナノ粒子等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0038】
これらの被験物質を生体の皮膚や本実施形態の三次元構造体に適用した場合、分解等により溶解性の物質が放出されることがある。例えば、実施例において後述するように、酸化亜鉛等の金属ナノ粒子は、溶解して金属イオンを生じる。
【0039】
この結果、一定の場所が高濃度の金属イオンに晒されることになる。従来、このような条件下での生体応答性を評価するためにはインビボの解析系を用いる必要があり、インビトロモデルでは解析することが困難であった。
【0040】
これに対し、実施例において後述するように、本発明の三次元構造体によれば、一定の場所が高濃度の金属イオンに晒された条件下における生体応答性を解析することができる。また、実施例において後述するように、例えば、溶解した亜鉛の透過性と、細胞層における炎症誘発性を同時に評価できることができるため、インビボに近い評価を行うことができる。
【0041】
[被験物質の皮膚透過性の評価方法]
一側面において、本発明は、細胞層と、ハイドロゲルを含む透過層と、を含み、前記細胞層と前記透過層とは積層されており、前記透過層は生体の皮膚と同等の物質透過性を有し、前記細胞層は、被験物質に対するインジケーター細胞を含む、三次元構造体の、前記透過層の前記細胞層に対向する面(細胞層側)とは反対側の面(被験物質適用側)に被験物質を接触させる工程と、前記インジケーター細胞の生理学的特性を測定する工程と、を含む、被験物質の皮膚透過性の評価方法を提供する。
【0042】
本発明の評価方法において、三次元構造体としては、上述した三次元構造体を用いることができる。一例として、図1に示す三次元構造体を用いた被験物質の皮膚透過性の評価方法を説明する。
【0043】
本発明の評価方法では、まず、三次元構造体100における、透過層110の細胞層120に対向する面111(細胞層側)とは反対側の面112(被験物質適用側)に被験物質を接触させる。これは、トランズウェルインサート130内の培地140に被験物質を添加すること等により実施することができる。被験物質としては、上述したものと同様のものを用いることができる。
【0044】
培地140に添加された被験物質は、溶解してイオン等の低分子物質を生じてもよい。被験物質又は被験物質から生じた低分子物質は、透過層110を透過し、細胞層120に接触し、更にメンブレン131を透過して培地141に放出される。
【0045】
被験物質又は被験物質から生じた低分子物質は、透過層110を透過して細胞層120に含まれるインジケーター細胞に接触し、インジケーター細胞の生理学的特性に影響を与える。続いて、細胞層120に含まれるインジケーター細胞の生理学的特性を測定する。
【0046】
インジケーター細胞は、レポーター遺伝子が導入された細胞であり、生理学的特性が、レポーター遺伝子の発現量に対応した蛍光強度により測定されてもよい。あるいは、インジケーター細胞の生理学的特性は、定量的リアルタイムPCRによる標的遺伝子の発現量の測定、DNAマイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子の発現量の測定、ELISA又はウエスタンブロッティングによる標的タンパク質の発現量の測定、液体クロマトグラフィー(LC)、LC-質量分析(MS)等によって、インジケーター細胞の代謝物を解析すること等により測定してもよい。被験物質の皮膚透過性は、インジケーター細胞の生理学的特性に対応づけて評価することができる。
【0047】
本発明の評価方法は、ウェル150とトランズウェルインサート130との間の空間に収容された培地141中に放出された被験物質又は被験物質から生じた低分子物質を定量する工程を更に含んでいてもよい。被験物質又は被験物質から生じた低分子物質の定量は、LC-MS、ICP発光分光分析装置(ICP-OES)等により行うことができる。培地141中に放出された被験物質又は被験物質から生じた低分子物質を定量することにより、被験物質の皮膚透過性を評価することができる。
【0048】
[被験物質の皮膚透過性評価用キット]
一側面において、本発明は、ハイドロゲルを含む、被験物質の皮膚透過性評価用キットを提供する。本実施形態のキットにより、上述した三次元構造体を作製することができる。更に、三次元構造体を用いて被験物質の皮膚透過性を評価することができる。
【0049】
本発明のキットにおいて、ハイドロゲルとしては、上述したものと同様のものを用いることができる。ハイドロゲルは、ハイドロゲルの形態でキットに含まれていてもよいし、ハイドロゲルを形成する材料の形態でキットに含まれていてもよい。
【0050】
本発明のキットは、容器を更に含んでいてもよい。容器としては、トランズウェルインサート、トランズウェルインサート及びウェルプレートの組み合わせ等を好ましく用いることができる。
【0051】
本発明のキットは、インジケーター細胞を更に含んでもよい。インジケーター細胞としては、上述したものと同様のものを用いることができる。また、前記インジケーター細胞を培養し、細胞層を調製するための培地や緩衝液等を更に含んでもよい。
【0052】
三次元構造体の作製においては、まず、トランズウェルインサートにインジケーター細胞を播種する。インジケーター細胞は、ユーザーが目的に応じて適宜用意した細胞であってもよい。あるいは、本発明のキットがインジケーター細胞を更に含んでおり、当該インジケーター細胞を播種してもよい。この結果、細胞層が形成される。続いて、細胞層にハイドロゲルを積層する。これにより、三次元構造体が形成される。形成された三次元構造体は、上述した被験物質の皮膚透過性の評価方法に好適に用いることができる。
【実施例
【0053】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実験例1]
(ハイドロゲルの透過性の検討1)
ハイドロゲルで形成した透過層に被験物質を接触させて、被験物質の透過性を検討した。ハイドロゲルとして、アルギン酸ゲル及びフィブリンゲルを使用した。また、被験物質として、ブルーデキストラン(分子量約2,000kDa)の1質量%水溶液を使用した。
【0055】
アルギン酸ゲル透過層は、24ウェルプレートのトランズウェルインサートに10mg/mLのアルギン酸水溶液を50μL、100μL又は150μL入れ、それぞれに100mMの塩化カルシウムを架橋剤として添加してゲル化することにより形成した。
【0056】
フィブリンゲル透過層は次のようにして調製した。まず、50ユニット/mLトロンビン(シグマ-アルドリッチ社)及び80mM塩化カルシウムをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解して調整したトロンビン溶液、及び、60mg/mLフィブリノーゲン(シグマ-アルドリッチ社)をPBSに溶解して調整したフィブリノーゲン溶液を調製した。続いて、トロンビン溶液:フィブリノーゲン溶液=1:5(体積比)となるように混合した溶液50μL、100μL又は150μLを、24ウェルプレートのトランズウェルインサートにそれぞれ入れて、37℃、5%CO環境下で30分間ゲル化することにより形成した。
【0057】
上述した各トランズウェルインサートを、各ウェルに300μLの水を添加した24ウェルプレートにセットした。続いて、各トランズウェルインサートにブルーデキストラン(分子量約2,000kDa)の1質量%水溶液を100μLずつ添加し、1週間インキュベートした。
【0058】
続いて、24ウェル中に透過したブルーデキストランの量を、波長620nmの吸光を測定することにより評価した。図2(a)及び(b)は、ブルーデキストランの透過率を測定した結果を示すグラフである。図2(a)はアルギン酸ゲルを用いた場合の結果であり、図2(b)は、フィブリンゲルを用いた場合の結果である。対照として、ゲルを形成していないトランズウェルインサート上にブルーデキストランの1質量%水溶液100μL添加したものを用いた。図2(a)及び(b)中、縦軸は、対照における波長620nmの吸光度を100%とした吸光度(%)を示し、横軸はハイドロゲルの体積(μL)を示す。
【0059】
その結果、フィブリンゲルは、透過層の厚さに応じて、被験物質の透過性を示すことが明らかとなった。一方、アルギン酸ゲルは、透過層の厚さに関わらず、被験物質の透過性が低い結果となった。
【0060】
図2(c)は、アルギン酸ゲルを走査電子顕微鏡(SEM)で観察した結果を示す電子顕微鏡写真である。図2(d)は、フィブリンゲルをSEMで観察した結果を示す電子顕微鏡写真である。
【0061】
[実験例2]
(ハイドロゲルの透過性の検討2)
ハイドロゲルで形成した透過層に被験物質を接触させて、被験物質の透過性を検討した。ハイドロゲルとして、フィブリンゲルを使用した。また、被験物質として、1mMの塩化亜鉛水溶液を使用した。
【0062】
フィブリンゲルは、実験例1と同様にして調製したトロンビン溶液及びフィブリノーゲン溶液を、トロンビン溶液:フィブリノーゲン溶液=1:5(体積比)となるように混合した溶液200μLを、24ウェルプレートのトランズウェルインサートに入れて、37℃、5%CO環境下で30分間ゲル化して調製した。
【0063】
続いて、上述したトランズウェルインサートを、各ウェルに1,000μLの水を添加した24ウェルプレートにセットした。続いて、各トランズウェルインサートに1mMの塩化亜鉛水溶液を100μLずつ添加してインキュベートした。
【0064】
続いて、24時間後及び48時間後に、各24ウェル中に透過した亜鉛イオンの量をICP発光分光分析装置(Inductivity coupled plasma optical emission spectrometer:ICP-OES、型式「5110VDV」、アジレントテクノロジーズ社)を用いて定量した。
【0065】
図3は、亜鉛イオンの定量結果を示すグラフである。その結果、トランズウェルインサートの下層に放出された亜鉛イオンの濃度が、経時的に上昇したことが明らかとなった。
【0066】
[実験例3]
(塩化亜鉛に対する細胞層の反応の評価)
透過層の厚さを様々に変えて、被験物質がインジケーター細胞に与える影響を評価した。透過層としては、厚さの異なるフィブリンゲルを使用した。被験物質としては、塩化亜鉛水溶液を使用した。インジケーター細胞としては、後述するIL-8-HaCaT細胞を使用した。
【0067】
《レポーター遺伝子の調製》
炎症誘発性マーカーであるIL-8遺伝子のプロモーターの下流に、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子が連結された、レポーター遺伝子のコンストラクトを作製した。具体的には、まず、ヒトゲノムDNAを鋳型とし、センスプライマー(配列番号1)及びアンチセンスプライマー(配列番号2)を用いたPCRにより、IL-8遺伝子のプロモーター領域のDNA断片を増幅した。
【0068】
続いて、増幅したDNA断片を制限酵素XhoI及びBamHIで消化し、同様に制限酵素XhoI及びBamHIで消化したpAcGFP1-1ベクター(クロンテック社)とT4DNAリガーゼ(タカラバイオ社)で連結し、コンピテントセル(DH5 alpha、ニッポンジーン社)に導入してクローニングし、レポーター遺伝子のコンストラクトを得た。
【0069】
《インジケーター細胞の調製》
ヒト表皮角化細胞株であるHaCaT細胞に、遺伝子導入試薬(製品名「Lipofectamine 3000」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いて上述したレポーター遺伝子を導入した。続いて、800μg/mLのG418(ナカライテスク社)を含む培地中で4週間継代培養し、安定導入株を得た。以下、この細胞をIL-8-HaCaT細胞という場合がある。IL-8-HaCaT細胞は、IL-8遺伝子の発現量に応じてGFPの蛍光を発する。
【0070】
《塩化亜鉛に対する細胞層の反応の評価》
IL-8-HaCaT細胞を5×10個/ウェルの細胞密度で24ウェルプレートのトランズウェルインサートに接種した。続いて、24時間インキュベートした後、IL-8-HaCaT細胞の上にフィブリンゲルを積層した。
【0071】
フィブリンゲルは、実験例1と同様にして調製したトロンビン溶液及びフィブリノーゲン溶液を、トロンビン溶液:フィブリノーゲン溶液=1:5(体積比)となるように混合した溶液を、0、50、75、100、125、150、175、200、225μLずつ添加して、37℃、5%CO環境下で30分間ゲル化して調製した。
【0072】
続いて、トランズウェルインサートに5mMの塩化亜鉛水溶液を100μLずつ添加して48時間インキュベートした。なお、フィブリンゲルを添加しなかったトランズウェルインサートには、塩化亜鉛水溶液を添加しなかった。
【0073】
続いて、各24ウェル中に透過した亜鉛イオンの量をICP発光分光分析装置(ICP-OES、型式「5110VDV」、アジレントテクノロジーズ社)を用いて定量した。また、各トランズウェルインサート上のIL-8-HaCaT細胞が発するGFPの蛍光を蛍光顕微鏡で撮影した。
【0074】
図4(a)は、各24ウェル中に透過した亜鉛イオンの定量結果を示すグラフである。また、図4(b)は、IL-8-HaCaT細胞が発するGFPの蛍光を撮影した蛍光顕微鏡写真である。図4(b)中、「w/o fibrin」はフィブリンゲルを添加していないIL-8-HaCaT細胞の結果であることを示し、「175μL」は、175μLのフィブリンゲルを積層した結果であることを示し、「200μL」は、200μLのフィブリンゲルを積層した結果であることを示し、「225μL」は、225μLのフィブリンゲルを積層した結果であることを示す。
【0075】
その結果、透過層の厚さが厚くなると共に、塩化亜鉛の透過量が低下したことが明らかとなった。また、塩化亜鉛の透過量に比例してIL-8遺伝子の発現量も低下したことが明らかとなった。
【0076】
[実験例4]
(ハイドロゲルと三次元培養皮膚の比較)
ハイドロゲルと市販の三次元培養皮膚(カタログ番号「EPI-200」、MatTek社)とを比較した。ハイドロゲルとしては、フィブリンゲルを使用した。
【0077】
まず、IL-8-HaCaT細胞を5×10個/ウェルの細胞密度で24ウェルプレートのトランズウェルインサートに接種した。続いて、24時間インキュベートした後、IL-8-HaCaT細胞の上にフィブリンゲルを積層した。
【0078】
フィブリンゲルは、実験例1と同様にして調製したトロンビン溶液及びフィブリノーゲン溶液を、トロンビン溶液:フィブリノーゲン溶液=1:5(体積比)となるように混合した溶液を、200又は225μLずつ添加して、37℃、5%CO環境下で30分間ゲル化して調製した。
【0079】
続いて、トランズウェルインサートに5mMの塩化亜鉛水溶液を100μLずつ添加して48時間インキュベートした。続いて、各トランズウェルインサート上のIL-8-HaCaT細胞によるIL-8遺伝子の発現を、定量的リアルタイムPCRにより定量した。
【0080】
全RNAの調製には市販のキット(製品名「RNeasy Mini Kit」、キアゲン社)を使用した。また、cDNAの合成には市販のキット(製品名「High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit」、アプライドバイオシステムズ社)を使用した。
【0081】
IL-8遺伝子のcDNAの定量的リアルタイムPCRには、市販のキット(製品名「TaqMan Gene Expression Assay(ID:Hs00174103_m1)」、アプライドバイオシステムズ社)を使用した。また、内部標準として、ハウスキーピング遺伝子であるβ-アクチン遺伝子のcDNAを、市販のキット(製品名「TaqMan Gene Expression Assay(ID:Hs99999903_m1)」、アプライドバイオシステムズ社)を使用した定量的リアルタイムPCRにより定量した。定量的リアルタイムPCRには、市販の装置(製品名「7300 Real-Time PCR System」、アプライドバイオシステムズ社)を使用した。
【0082】
一方、市販の三次元培養皮膚(カタログ番号「EPI-200」、MatTek社)の各ウェルに、0、2、5mMの塩化亜鉛水溶液を添加して48時間インキュベートした。続いて、各ウェルの三次元培養皮膚によるIL-8遺伝子の発現を、上述したIL-8-HaCaT細胞と同様にして定量的リアルタイムPCRにより定量した。
【0083】
図5(a)及び(b)は、定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。図5(a)はIL-8-HaCaT細胞の結果であり、図5(b)は、市販の三次元培養皮膚(カタログ番号「EPI-200」、MatTek社)の結果である。
【0084】
図5(a)及び(b)中、グラフの縦軸は、IL-8遺伝子の発現量(相対値)を示し、「ZnCl conc.」は添加した塩化亜鉛水溶液の濃度を示す。また、「*」は、塩化亜鉛非添加群に対してP<0.05で有意差があることを示し、「**」は、塩化亜鉛非添加群に対してP<0.01で有意差があることを示す。また、図5(a)中、「Fibrin volume」は、トランズウェルインサートに添加したフィブリンゲルの体積(μL)を示す。
【0085】
その結果、5mM塩化亜鉛水溶液に対して、フィブリンゲルを200~225μL積層したIL-8-HaCaT細胞が、市販の三次元培養皮膚(カタログ番号「EPI-200」、MatTek社)と同等の反応性を示すことが明らかとなった。この結果は、ハイドロゲル層の空隙率と厚みを調節することで、三次元培養皮膚と同等の透過性を再現できることを示す。
【0086】
[実験例5]
(ハイドロゲルの透過性の検討3)
ハイドロゲルで形成した透過層に被験物質を接触させて、被験物質の透過性を検討した。ハイドロゲルとして、フィブリンゲルを使用した。また、被験物質として、金属ナノ粒子を使用した。金属ナノ粒子としては、直径20~50nmの酸化亜鉛(ZnO)粒子、直径10~100nmのSiOコートされたZnO(ZnO-Si)粒子を使用した。
【0087】
まず、IL-8-HaCaT細胞を5×10個/ウェルの細胞密度で24ウェルプレートのトランズウェルインサートに接種した。続いて、24時間インキュベートした後、IL-8-HaCaT細胞の上にフィブリンゲルを積層した。
【0088】
フィブリンゲルは、実験例1と同様にして調製したトロンビン溶液及びフィブリノーゲン溶液を、トロンビン溶液:フィブリノーゲン溶液=1:5(体積比)となるように混合した溶液を、200μLずつ添加して、37℃、5%CO環境下で30分間ゲル化して調製した。
【0089】
続いて、各トランズウェルインサートに1mg/mLのZnO粒子又は1mg/mLのZnO-Si粒子を100μLずつ添加してインキュベートした。また、対照として、金属ナノ粒子を添加しないウェルを用意した。
【0090】
続いて、48時間後に、各24ウェル中に透過した亜鉛イオンの量をICP発光分光分析装置(ICP-OES、型式「5110VDV」、アジレントテクノロジーズ社)を用いて定量した。
【0091】
図6(a)は、亜鉛イオンの定量結果を示すグラフである。図6(a)中、「Control」は金属ナノ粒子を添加しなかった対照を示し、「**」は、対照に対してP<0.01で有意差があることを示す。
【0092】
その結果、透過層にZnO粒子又はZnO-Si粒子を添加すると、これらの粒子が溶解して亜鉛イオンとなり、トランズウェルインサートの下層に放出されたことが明らかとなった。
【0093】
また、各トランズウェルインサート上のIL-8-HaCaT細胞によるIL-8遺伝子の発現を、実験例4と同様にして定量的リアルタイムPCRにより定量した。
【0094】
図6(b)は、定量的リアルタイムPCRの結果を示すグラフである。図6(b)中、グラフの縦軸は、IL-8遺伝子の発現量(相対値)を示し、「Control」は金属ナノ粒子を添加しなかった対照を示し、「**」は、対照に対してP<0.01で有意差があることを示す。
【0095】
その結果、透過層を透過して放出された亜鉛イオンの量に比例して、IL-8遺伝子の発現が認められた。この結果は、ナノ粒子が皮膚下層に与える影響の評価に本実験系を適用することができることを示す。
【0096】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]細胞層と、ハイドロゲルを含む透過層と、を含み、前記細胞層と前記透過層とは積層されており、前記透過層は生体の皮膚と同等の物質透過性を有し、前記細胞層は、被験物質に対するインジケーター細胞を含む、前記被験物質の皮膚透過性評価用三次元構造体。
[2]前記透過層は、ナノ粒子を透過させない、[1]に記載の三次元構造体。
[3]前記透過層は、厚さを変化させることにより物質透過性を調節可能である、[1]又は[2]に記載の三次元構造体。
[4]前記インジケーター細胞が、蛍光タンパク質を発現する細胞である、[1]~[3]のいずれかに記載の三次元構造体。
[5]前記蛍光タンパク質を発現する細胞は、レポーター遺伝子が導入されている細胞である、[4]に記載の三次元構造体。
[6]前記ハイドロゲルが、フィブリンを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の三次元構造体。
[7]細胞層と、ハイドロゲルを含む透過層と、を含み、前記細胞層と前記透過層とは積層されており、前記透過層は生体の皮膚と同等の物質透過性を有し、前記細胞層は、被験物質に対するインジケーター細胞を含む、三次元構造体の、前記透過層の前記細胞層に対向する面とは反対側の面に被験物質を接触させる工程と、前記インジケーター細胞の生理学的特性を測定する工程と、を含む、被験物質の皮膚透過性の評価方法。
[8]前記三次元構造体が、[1]~[6]のいずれかに記載の三次元構造体である、[7]に記載の評価方法。
[9]前記生理学的特性が、蛍光強度により測定される、[7]又は[8]に記載の評価方法。
[10]ハイドロゲルを含む、被験物質の皮膚透過性評価用キット。
【符号の説明】
【0097】
100…三次元構造体、110…透過層、111,112…面、120…細胞層、130…トランズウェルインサート、131…メンブレン、140,141…培地、150…ウェル。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0098】
【文献】特開2017-209103号公報
【非特許文献】
【0099】
【文献】Godin B., and Touitou E., Transdermal skin delivery: predictions for humans from in vivo, ex vivo and animal models, Adv Drug Deliv Rev., 59 (11), 1152-1161, 2007.
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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