IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電信電話株式会社の特許一覧 ▶ 公立大学法人大阪の特許一覧

<>
  • 特許-光学特性測定装置及び方法 図1
  • 特許-光学特性測定装置及び方法 図2
  • 特許-光学特性測定装置及び方法 図3
  • 特許-光学特性測定装置及び方法 図4
  • 特許-光学特性測定装置及び方法 図5
  • 特許-光学特性測定装置及び方法 図6
  • 特許-光学特性測定装置及び方法 図7
  • 特許-光学特性測定装置及び方法 図8
  • 特許-光学特性測定装置及び方法 図9
  • 特許-光学特性測定装置及び方法 図10
  • 特許-光学特性測定装置及び方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-18
(45)【発行日】2024-12-26
(54)【発明の名称】光学特性測定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/02 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
G01M11/02 N
G01M11/02 J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021006936
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2022111486
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤志
(72)【発明者】
【氏名】古敷谷 優介
(72)【発明者】
【氏名】本田 奈月
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正治
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-053517(JP,A)
【文献】特開2015-230263(JP,A)
【文献】特開2012-202827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00- G01M 11/02
G01J 1/00
G02B 6/00
H04B 3/46- H04B 3/493
H04B 10/07- H04B 10/079
H04B 17/00- H04B 17/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチコアファイバの一端から第1コアに試験光パルスを入射して測定された、前記第1コアの後方散乱光強度P1の距離分布、及び前記第1コアと異なる第2コアの後方散乱光強度P2の距離分布と、
前記マルチコアファイバの一端から前記第2コアに試験光パルスを入射して測定された前記第2コアの後方散乱光強度P3の距離分布と、
前記マルチコアファイバの他端から前記第1コアに試験光パルスを入射して測定された前記第1コアの後方散乱光強度P4の距離分布と、
前記マルチコアファイバの他端から前記第2コアに試験光パルスを入射して測定された前記第2コアの後方散乱光強度P5の距離分布と、
を取得し、
前記後方散乱光強度P1の距離分布及び前記後方散乱光強度P4の距離分布を用いて、前記第1コアの損失寄与成分を算出し、
前記後方散乱光強度P3の距離分布及び前記後方散乱光強度P5の距離分布を用いて、前記第2コアの損失寄与成分を算出し、
前記後方散乱光強度P1の距離分布、前記後方散乱光強度P2の距離分布、前記第1コアの損失寄与成分、及び前記第2コアの損失寄与成分を用いて、損失に関する項を補正した、前記第1コアを伝搬する光強度に対する前記第1コアから前記第2コアに結合する光強度の比を求め、
損失に関する項を補正した前記光強度の比を示す、距離と結合係数とを含む関数を最小2乗近似することにより、前記第1コアから前記第2コアへの結合係数を算出する、
光学特性測定装置。
【請求項2】
損失に関する項を補正した前記光強度の比を示す前記関数は、次式で表される、
請求項に記載の光学特性測定装置。
【数C1】
但し、hは結合係数、zはマルチコアファイバの一端からの距離である。
【請求項3】
マルチコアファイバの一端から第1コアに試験光パルスを入射して測定された、前記第1コアの後方散乱光強度P1の距離分布、及び前記第1コアと異なる第2コアの後方散乱光強度P2の距離分布と、
前記マルチコアファイバの一端から前記第2コアに試験光パルスを入射して測定された前記第2コアの後方散乱光強度P3の距離分布と、
前記マルチコアファイバの他端から前記第1コアに試験光パルスを入射して測定された前記第1コアの後方散乱光強度P4の距離分布と、
前記マルチコアファイバの他端から前記第2コアに試験光パルスを入射して測定された前記第2コアの後方散乱光強度P5の距離分布と、
を取得し、
前記後方散乱光強度P1の距離分布及び前記後方散乱光強度P4の距離分布を用いて、前記第1コアの損失寄与成分を算出し、
前記後方散乱光強度P3の距離分布及び前記後方散乱光強度P5の距離分布を用いて、前記第2コアの損失寄与成分を算出し、
前記後方散乱光強度P1の距離分布、前記後方散乱光強度P2の距離分布、前記第1コアの損失寄与成分、及び前記第2コアの損失寄与成分を用いて、損失に関する項を補正した、前記第1コアを伝搬する光強度に対する前記第1コアから前記第2コアに結合する光強度の比を求め、
損失に関する項を補正した前記光強度の比を示す、距離と結合係数とを含む関数を最小2乗近似することにより、前記第1コアから前記第2コアへの結合係数を算出する、
光学特性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチコアファイバにおけるコア間の結合係数、及びフューモードファイバにおけるモード間の結合係数を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ一本当たりの伝送容量を拡大する手段の一つとして、マルチコアファイバ(MCF:Multi Core Fiber))及びフューモードファイバ(FMF:Few-Mode Fiber)が注目されている。MCF及びFMFにおいて、コア間及びモード間の結合係数は、クロストークを評価する上で重要なパラメータである。MCF及びFMFを含む空間分割多重(SDM:Space Division Multiplexing)技術の発展や実用化のためには、これらの結合係数を簡単に評価できる技術が必要である。
【0003】
MCF及びFMFの結合係数の評価においては、励振するコア及びモードと隣接するコア及びモードに結合した後方散乱光のパワー比に基づく測定法が提案されている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。
【0004】
非特許文献1の手法では、コア間の結合が無視できるほど小さいという前提のもと、MCFの結合係数を算出する。非特許文献2の手法では、モード間の結合が極めて小さいという前提のもと、FMFの結合係数を算出する。
【0005】
非特許文献1及び非特許文献2の手法を適用できる対象は、コア間及びモード間での結合が無視できるほど小さいMCF及びFMFに限定される。つまり、非特許文献1及び非特許文献2の手法では、コア間及びモード間での結合が中程度又は強結合のMCF及びFMFの結合係数を取得することはできない、という問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】M. Nakazawa, M. Yoshida, and T. Hirooka, “Nondestructive measurement of mode couplings along a multi-core fiber using a synchronous multi-channel OTDR,” Opt. Express, Vol. 20, No. 11, pp. 12530-12540 (2012).
【文献】M. Nakazawa, M. Yoshida, and T. Hirooka, “Measurement of mode coupling distribution along a few-mode fiber using a synchronous multi-channel OTDR,” Opt. Express, Vol. 22,No. 25, pp. 31299-31309 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、上記事情に着目してなされたもので、MCF及びFMFの結合係数をコア間及びモード間での結合の大きさに依存することなく測定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の光学特性測定装置及び光学特性測定方法は、
マルチコアファイバの一端から第1コアに試験光パルスを入射して測定された、前記第1コアの後方散乱光強度Pの距離分布、及び前記第1コアと異なる第2コアの後方散乱光強度Pの距離分布を取得し、
前記後方散乱光強度Pの距離分布及び前記後方散乱光強度Pの距離分布を用いて、前記第1コアを伝搬する光強度に対する前記第1コアから前記第2コアに結合する光強度の比を求め、
前記光強度の比における距離に依存する結合係数の関数を最小2乗近似することにより、前記第1コアから前記第2コアへの結合係数を算出する。
【0009】
本開示の光学特性測定装置及び光学特性測定方法は、
フューモードファイバの一端から第1モードで試験光パルスを入射して測定された、前記第1モードの後方散乱光強度Pの距離分布、及び前記第1モードと異なる第2モードの後方散乱光強度Pの距離分布を取得し、
前記後方散乱光強度Pの距離分布及び前記後方散乱光強度Pの距離分布を用いて、前記第1モードで伝搬する光強度に対する前記第1モードから前記第2モードに結合する光強度の比を求め、
前記光強度の比における距離に依存する結合係数の関数を最小2乗近似することにより、前記第1モードから前記第2モードへの結合係数を算出する。
【発明の効果】
【0010】
MCF及びFMFの結合係数をコア間及びモード間の結合の大きさに依存することなく簡易な手順で測定できる光学特性測定装置及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の第1の実施形態のシステム構成の一例を示す。
図2】本開示の第1の実施形態の光学特性測定方法の一例を示す。
図3】本開示の第2の実施形態のシステム構成の一例を示す。
図4】本開示の第2の実施形態の光学特性測定方法の一例を示す。
図5】結合係数とパワー比の関係の一例を示す。
図6】線形近似を利用したパワー比の厳密値との比較例の一例を示す。
図7】線形近似を用いて求めた結合係数の厳密値との相対誤差の一例を示す。
図8】線形近似を用いて求めた結合係数のクロストークへの影響の一例を示す。
図9】線形近似を用いて求めた結合係数のクロストークへの影響の評価の一例を示す。
図10】本開示を用いた場合のパワー比の一例を示す。
図11】結合係数の厳密値との比較例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0013】
(実施形態1)
図1に、本実施形態のシステム構成の一例を示す。本実施形態に係るシステムは、光パルス試験器11がMCF10に接続されている。MCF10の一端A側は結合器12Aに接続され、MCF10の一端B側は結合器12Bに接続されている。結合器12Aは、ファンイン/ファンアウト機能を備え、MCF10のコア101を光ファイバ21に接続し、MCF10のコア102を光ファイバ22に接続する。結合器12Bについても同様であり、MCF10のコア101を光ファイバ31に接続し、MCF10のコア102を光ファイバ32に接続する。
【0014】
光パルス試験器11は、試験光パルス生成器11-1及び受光器11-4を備える。光パルス試験器11は、試験光パルス生成器11-1及び受光器11-4を用いて光ファイバでの後方散乱波形を測定可能な任意の装置であり、例えばOTDR(OpticalTime Domain Reflectometer)である。本実施形態の後方散乱波形は、光ファイバの長手方向における後方散乱光強度の分布である。本開示では、この光ファイバの長手方向の分布を距離分布と称する。
【0015】
本実施形態では、コア101に試験光パルスを入射したときのコア101及び102の後方散乱波形が測定できるよう、光パルス試験器11がサーキュレータ11-2、スイッチ11-3を備える。サーキュレータ11-2が光ファイバ21に接続され、スイッチ11-3が光ファイバ22に接続されている。
【0016】
本開示に係る光学特性測定装置は、演算処理装置15を備える。本開示に係る光学特性測定装置は、演算処理装置15及び光パルス試験器11を備えていてもよい。本実施形態の光学特性測定装置は、コンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0017】
図2に、本実施形態の光学特性測定方法の一例を示す。本実施形態の光学特性測定方法は、S11~S15の5つの手順を備える。S11~S13は光パルス試験器11が実行し、S14~S15は光パルス試験器11からデータを取得した演算処理装置15が実行する。
【0018】
(手順S11)
試験光パルス生成器11-1が試験光パルスを生成し、サーキュレータ11-2が試験光パルスを光ファイバ21に入射する。光ファイバ21に入射された試験光パルスは、結合器12Aを介してコア101に入射され、散乱されながらコア101を伝搬する。
【0019】
コア101での後方散乱光は、結合器12Aを経由して光ファイバ21に戻る。光パルス試験器11は、サーキュレータ11-2及びスイッチ11-3を用いてコア101での後方散乱光を受光器11-4に導く。受光器11-4は、コア101での後方散乱光を受光する。演算処理装置15は、受光器11-4の受光した後方散乱光強度Pを用いて、コア101での後方散乱波形を算出する。
【0020】
このときの後方散乱光強度Pは次式で表すことができる。
【数1】
ここで、Pは試験光パルスの光強度、αはMCF10の散乱係数、Bはコア101での後方散乱光に関する捕獲率、αはコア101での損失、hは結合係数である。
【0021】
コア101からコア102に結合した光は、コア102で散乱される。コア102での後方散乱光は、結合器12Aを経由して光ファイバ22に入射される。光パルス試験器11は、スイッチ11-3を用いてコア102での後方散乱光を受光器11-4に導く。受光器11-4は、コア102での後方散乱光を受光する。演算処理装置15は、受光器11-4の受光した後方散乱光強度Pを用いて、コア102での後方散乱波形を算出する。
【0022】
このときの後方散乱光強度Pは次式で表すことができる。
【数2】
ここで、Bはコア102での後方散乱光に関する捕獲率、αはコア102での損失である。
【0023】
(手順S12)
試験光パルス生成器11-1が試験光パルスを生成し、サーキュレータ11-2及びスイッチ11-3が試験光パルスを光ファイバ22に入射する。光ファイバ22に入射された試験光パルスは、結合器12Aを介してコア102に入射され、散乱されながらコア102を伝搬する。
【0024】
コア102での後方散乱光は、結合器12Aを経由して光ファイバ22に戻る。光パルス試験器11は、スイッチ11-3を用いてコア102での後方散乱光を受光器11-4に導く。受光器11-4は、コア102での後方散乱光を受光する。演算処理装置15は、受光器11-4の受光した後方散乱光強度Pを用いて、コア102での後方散乱波形を算出する。
【0025】
このときの後方散乱光強度Pは次式で表すことができる。
【数3】
【0026】
(手順S13)
サーキュレータ11-2を光ファイバ31に繋ぎ変え、スイッチ11-3を光ファイバ32に繋ぎ変える。
【0027】
試験光パルス生成器11-1が試験光パルスを生成し、サーキュレータ11-2が試験光パルスを光ファイバ31に入射する。光ファイバ31に入射された試験光パルスは、結合器12Bを介してコア101に入射され、散乱されながらコア101を伝搬する。
【0028】
コア101での後方散乱光は、結合器12Bを経由して光ファイバ31に戻る。光パルス試験器11は、サーキュレータ11-2及びスイッチ11-3を用いてコア101での後方散乱光を受光器11-4に導く。受光器11-4は、コア101での後方散乱光を受光する。演算処理装置15は、受光器11-4の受光した後方散乱光強度Pを用いて、コア101での後方散乱波形を算出する。
【0029】
このときの後方散乱光強度Pは次式で表すことができる。
【数4】
ここで、Pは試験光パルスの光強度、LはMCF10の長さである。式(1)及び式(2)における「z」に代えて「L-z」を用いることで、一端A側を近端にした後方散乱波形にしている。
【0030】
試験光パルス生成器11-1が試験光パルスを生成し、サーキュレータ11-2及びスイッチ11-3が試験光パルスを光ファイバ32に入射する。光ファイバ32に入射された試験光パルスは、結合器12Bを介してコア102に入射され、散乱されながらコア102を伝搬する。
【0031】
コア102での後方散乱光は、結合器12Bを経由して光ファイバ32に戻る。光パルス試験器11は、スイッチ11-3を用いてコア102での後方散乱光を受光器11-4に導く。受光器11-4は、コア102での後方散乱光を受光する。演算処理装置15は、コア102の後方散乱光強度Pを用いて、コア102での後方散乱波形を算出する。
【0032】
このときのコア102の後方散乱光強度Pは次式で表すことができる。
【数5】
【0033】
(手順S14)
演算処理装置15は、手順S11~S13で取得した双方向での後方散乱波形より、コア101及びコア102の損失を算出する。例えば、演算処理装置15は、後述する式(6)又は式(8)を用いて、コア101での損失を算出する。演算処理装置15は、後述する式(7)又は式(9)を用いて、コア102での損失を算出する。
また演算処理装置15は、一端Aのコア101励振時の式(1)と式(2)より、コア間で結合したパワー比を算出する。例えば、演算処理装置15は、後述する式(10)を用いて、コア101を伝搬する光強度に対するコア101からコア102に結合した光強度の比を算出する。
【0034】
(手順S15)
演算処理装置15は、コア間での結合係数hを算出する。例えば、後述するように、式(12)に示す関数で式(11)に示すφに最小2乗近似することにより結合係数hを算出する。
以下、手順S14及びS15について詳述する。
【0035】
(コア101及びコア102の損失)
式(1)と式(4)より、コア101の損失寄与成分は次式で表すことができる。
【数6】
【0036】
式(3)と式(5)より、コア102の損失寄与成分は次式で表すことができる。
【数7】
【0037】
直線近似を行うことで、式(6)及び式(7)はそれぞれ次式で表すことができる。
【数8】
【数9】
【0038】
(コア間での結合パワー比)
コア間で結合したパワー比ηは次式で求められる。
【数10】
【0039】
(結合係数の算出)
式(10)より距離zに依存する項は、損失及び結合係数に関連する項である。ここで、損失に関する項exp(-2(α-α)z))は、コア101及び102の損失寄与成分L及びLを用いて、exp[2(α-α)z]=10^((L-L)/10)で求められる。そこで、損失に関する項exp(-2(α-α)z))をL及びLで補正したパワー比をφとすると、以下のような式が得られる。
【数11】
【0040】
式(11)から分かるように、この式は結合係数hのz依存性を表している。ここで、Kのz依存性は小さく無視できるものとすると、以下の関数でφに最小2乗近似することにより結合係数hを求めることができる。
【数12】
【0041】
(実施形態2)
図3に、本実施形態のシステム構成の一例を示す。本実施形態に係るシステムは、光パルス試験器11がFMF13に接続されている。FMF13の一端A側はモード合分波器14Aに接続され、FMF13の一端B側はモード合分波器14Bに接続されている。モード合分波器14Aは、光ファイバ41及び42をFMF13に接続する。モード合分波器14Bについても同様であり、光ファイバ51及び52をFMF13に接続する。
【0042】
モード合分波器14A及び14Bは、LP01モード及びLP11モードの合分波機能を備える。例えば、モード合分波器14Aは、光ファイバ41からのLP01モードの光及び光ファイバ42からのLP11モードの光をFMF13に入射し、FMF13からのLP01モードの光を光ファイバ41に出射し、FMF13からのLP11モードの光を光ファイバ42に出射する。FMF13の伝送するモードは任意であるが、本実施形態では2モードである例について説明する。
【0043】
光パルス試験器11は、実施形態1と同様に、試験光パルス生成器11-1、サーキュレータ11-2、スイッチ11-3、受光器11-4を備える。サーキュレータ11-2及びスイッチ11-3は、光ファイバ41及び42にモードの異なる試験光パルスを入射し、光ファイバ41及び42のいずれかから試験光パルスがFMF13で散乱された後方散乱光を受光器11-4に出力するための構成であり、サーキュレータ11-2が光ファイバ41に接続され、スイッチ11-3が光ファイバ42に接続されている。
【0044】
本開示に係る光学特性測定装置は、演算処理装置15を備える。本開示に係る光学特性測定装置は、演算処理装置15及び光パルス試験器11を備えていてもよい。本実施形態の光学特性測定装置は、コンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0045】
図4に、本実施形態の光学特性測定方法の一例を示す。本実施形態の光学特性測定方法は、S21~S25の5つの手順を備える。S21~S23は光パルス試験器11が実行し、S24~S25は光パルス試験器11からデータを取得した演算処理装置15が実行する。
【0046】
(手順S21)
試験光パルス生成器11-1が試験光パルスを生成し、サーキュレータ11-2が試験光パルスを光ファイバ41に入射する。光ファイバ41に入射された試験光パルスは、モード合分波器14Aを介してFMF13に入射され、散乱されながらFMF13を伝搬する。FMF13での後方散乱光は、モード合分波器14Aを経由し、LP01モードが光ファイバ41に入射され、LP11モードが光ファイバ42に入射される。
【0047】
光パルス試験器11は、サーキュレータ11-2及びスイッチ11-3を用いてLP01モードの後方散乱光を受光器11-4に導く。受光器11-4は、LP01モードの後方散乱光を受光する。演算処理装置15は、LP01モードの後方散乱光強度Pを用いて、LP01モードの後方散乱波形を算出する。
【0048】
このときのLP01モードの後方散乱光強度Pは式(1)で表すことができる。ただし、Pは試験光パルスの光強度、αはFMF13の散乱係数、BはLP01モードでの後方散乱光に関する捕獲率、αはFMF13でのLP01モードの損失、hは結合係数である。
【0049】
光パルス試験器11は、スイッチ11-3を用いてLP11モードの後方散乱光を受光器11-4に導く。受光器11-4は、LP11モードの後方散乱光を受光する。演算処理装置15は、LP11モードの後方散乱光強度Pを用いて、LP11モードの後方散乱波形を算出する。
【0050】
このときのLP11モードの後方散乱光強度Pは式(2)で表すことができる。ただし、BはLP11モードでの後方散乱光に関する捕獲率、αはFMF13でのLP11モードの損失である。
【0051】
(手順S22)
試験光パルス生成器11-1が試験光パルスを生成し、サーキュレータ11-2及びスイッチ11-3が試験光パルスを光ファイバ42に入射する。光ファイバ42に入射された試験光パルスは、モード合分波器14Aを介してFMF13に入射され、散乱されながらFMF13を伝搬する。
【0052】
FMF13での後方散乱光は、モード合分波器14Aを経由して光ファイバ41及び42に戻る。光パルス試験器11は、スイッチ11-3を用いてLP11モードの後方散乱光を受光器11-4に導く。受光器11-4は、LP11モードの後方散乱光を受光する。演算処理装置15は、LP11モードの後方散乱光強度Pを用いて、LP11モードの後方散乱波形を算出する。このときのLP11モードの後方散乱光強度Pは式(3)で表すことができる。
【0053】
(手順S23)
サーキュレータ11-2を光ファイバ51に繋ぎ変え、スイッチ11-3を光ファイバ52に繋ぎ変える。
【0054】
試験光パルス生成器11-1が試験光パルスを生成し、サーキュレータ11-2が試験光パルスを光ファイバ51に入射する。光ファイバ51に入射された試験光パルスは、モード合分波器14Bを介してFMF13に入射され、散乱されながらFMF13を伝搬する。
【0055】
FMF13での後方散乱光は、モード合分波器14Bを経由して光ファイバ51及び52に戻る。光パルス試験器11は、サーキュレータ11-2及びスイッチ11-3を用いてLP01モードの後方散乱光を受光器11-4に導く。受光器11-4は、LP01モードの後方散乱光を受光する。演算処理装置15は、LP01モードの後方散乱光強度Pを用いて、LP01モードの後方散乱波形を算出する。
【0056】
このときのLP01モードの後方散乱光強度Pは式(4)で表すことができる。ただし、Pは試験光パルスの光強度、LはFMF13の長さである。式(1)及び式(2)における「z」に代えて「L-z」を用いることで、一端A側を近端にした後方散乱波形にしている。
【0057】
試験光パルス生成器11-1が試験光パルスを生成し、サーキュレータ11-2及びスイッチ11-3が試験光パルスを光ファイバ52に入射する。光ファイバ52に入射された試験光パルスは、モード合分波器14Bを介してFMF13に入射され、散乱されながらFMF13を伝搬する。
【0058】
FMF13での後方散乱光は、モード合分波器14Bを経由して光ファイバ52に戻る。光パルス試験器11は、スイッチ11-3を用いてLP11モードの後方散乱光を受光器11-4に導く。受光器11-4は、LP11モードの後方散乱光を受光する。演算処理装置15は、LP11モードの後方散乱光強度Pを用いて、LP11モードの後方散乱波形を算出する。このときのLP11モードの後方散乱光強度Pは式(5)で表すことができる。
【0059】
(手順S24)
演算処理装置15は、双方向での後方散乱波形より、LP01モード及びLP11モードの損失を算出する。例えば、演算処理装置15は、式(6)又は式(8)を用いて、LP01モードの損失を算出する。演算処理装置15は、式(7)又は式(9)を用いて、LP11モードの損失を算出する。
また演算処理装置15は、一端AのLP01モードを励振時の式(1)と式(2)より、モード間で結合したパワー比を算出する。例えば、演算処理装置15は、式(10)を用いて、LP01モードからLP11モードに結合したパワー比を算出する。
【0060】
(手順S25)
演算処理装置15は、モード間での結合係数hを算出する。例えば、式(12)に示す関数で式(11)に示すφに最小2乗近似することにより結合係数hを求める。
【0061】
以下、OTDRを用いたFMFやMCFの結合係数の評価法について詳述する。
MCF及びFMFは、OTDRを用いて結合係数を評価することができることが知られている。このOTDRで得られた後方散乱波形から結合係数hの評価においては、弱導波結合の場合には、励振モード(励振コア)と結合モード(結合コア)のパワー比を線形近似して、その傾きから評価する方法が報告されている。しかしながら、結合の大きさによっては、評価できる結合係数に誤差が生じる。本資料では、結合係数の評価法について検討する。
【0062】
(結合係数の評価法)
OTDRを用いてFMF又はMCFを測定することを考える。ここでは、MCFを検討対象とする。MCFのコア101をOTDR測定したときの距離zにおける後方散乱光強度P及びコア102からの結合光の後方散乱光強度P(S=10logP(λ,z);i=1,2)は、式(1)及び式(2)で記述できる。
【0063】
したがって、コア101を励振したときのコア102の距離zにおけるクロストークは次式で定義される。
【数13】
【0064】
一方、OTDR測定からコア101に対するコア102のパワー比ηを求めると次式が求まる。
【数14】
【0065】
ここで、コア間での結合が弱い場合(hz<<1)を考えると式(14)は次式のように近似できる。
【数15】
【0066】
したがって、結合係数hは式(15)より次式のように求まる。
【数16】
【0067】
結合係数hは、パワー比、捕獲率の比及び損失差がわかると式(16)より評価できる。しかしながら、結合係数hにおいてhz<<1の条件が明らかになっていない。一方、式(14)を用いてコア間での結合を求めることを考える。この場合には、式(14)からわかるように、パワー比を次の関数
【数61】
で最小2乗法を用いて結合係数hを求めることができる。この方法は、コア間での結合の大きさに依存しないで結合係数を評価することができる。
【0068】
(シミュレーション結果)
ここでは、簡単のために、パワー比η(z)を以下のように仮定する。
【数17】
ここで、結合係数に対するパワー比の距離特性を図5に示す。
【0069】
図6に、図5に示すパワー比EX1と線形近似を利用したパワー比CV1との比較例を示す。h=0.1については、線形近似を利用した場合、距離z=2.5kmなどでEX1のパワー比とずれが生じていることが分かる。
【0070】
図7に、線形近似を用いて求めた結合係数の厳密値との相対誤差の一例を示す。図8に、線形近似を用いて求めた結合係数のクロストークへの影響の一例を示す。図7及び図8からわかるように、結合係数が0.01より小さい場合には相対誤差が小さく、クロストークも正確に求まることがわかる。結合係数が0.04以下の場合には、相対誤差が5%以下で評価できることがわかる。
【0071】
図9に、線形近似を用いて求めた結合係数のクロストークへの影響の評価の一例を示す。この評価では、ファイバ長が5kmの場合の、クロストークの厳密値との相対誤差を評価した。この評価によって、線形近似の場合、結合係数が0.04以上になると、クロストークでの相対誤差が5%以上となることがわかった。
【0072】
図10に、式(17)で近似した場合のパワー比の一例を示す。(17)で近似することで、0km~5kmのすべての地点において、パワー比と一致することが分かる。
【0073】
図11に、結合係数の厳密値との比較例を示す。線形近似を用いて結合係数hを求めた場合、結合係数が大きくなるにつれて厳密値と乖離していく。これに対し、本開示を用いて結合係数hを求めた場合、結合係数の大きさにかかわらず結合係数の厳密値と一致していた。このため、本開示は、結合係数が0.04以上の中結合及び強結合のMCFに対する結合係数であっても算出することができる。中結合及び高結合のFMFであっても同様である。
【0074】
(効果)
本開示によれば、MCF及びFMFの結合係数を結合の大きさに依存することなく簡易な手順で測定できる測定方法及び測定装置を提供することができる。
【0075】
なお、上述の実施形態では、式(12)の関数でφに最小2乗近似することにより結合係数hを求めたが、式(12)の関数で式(10)のパワー比ηに最小2乗近似することにより結合係数hを求めてもよい。また、上述の実施形態では、理解が容易になるよう、コア数及びモード数が2である例を示したが、本開示は3以上の任意のコア数及びモード数に適用可能である。例えば、3以上のコア又はモードのうちの測定対象とする2つのコアまたはモードについて上記の測定手順や数式を適用することで、本開示の作用・効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本開示は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
10:MCF
11:光パルス試験器
11-1:試験光パルス生成器
11-2:サーキュレータ
11-3:スイッチ
11-4:受光器
12A、12B:結合器
13:FMF
14A、14B:モード合分波器
15:演算処理装置
21、22、31、32、41、42、51、52:光ファイバ
101、102:コア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11