(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】SiC半導体装置の製造方法及びSiC半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/20 20060101AFI20250116BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20250116BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20250116BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L21/02 C
C30B29/36 A
C30B23/06
(21)【出願番号】P 2021548980
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2020036001
(87)【国際公開番号】W WO2021060366
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2019178072
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(73)【特許権者】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】金子 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】小島 清
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-179605(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044029(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188381(WO,A1)
【文献】特開2013-189323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/20
H01L 21/02
C30B 29/36
C30B 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC単結晶を含む被処理体上に成長層を形成する成長工程、前記成長層においてSiC半導体装置の少なくとも一部を形成するデバイス形成工程、及び、前記SiC半導体装置の少なくとも一部を前記被処理体から分離する分離工程を
含み、
前記成長工程は、SiC-C平衡蒸気圧環境下で前記被処理体上に第1の成長層を形成する工程を行い、次に、SiC-Si平衡蒸気圧環境下で前記被処理体上に第2の成長層を形成する工程を行う、SiC半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1の成長層を形成する工程では、原子数比Si/Cが1以下の準閉鎖空間を加熱することで前記SiC-C平衡蒸気圧環境を形成し、
前記第2の成長層を形成する工程では、原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間を加熱することで前記SiC-Si平衡蒸気圧環境を形成する、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記成長工程では、前記被処理体をSiC製の本体容器に収容し、
前記第1の成長層を形成する工程では、前記本体容器を加熱することで、前記本体容器の内部に前記SiC-C平衡蒸気圧環境を形成し、
前記第2の成長層を形成する工程では、Si蒸気供給源を前記本体容器に収容し、前記本体容器を加熱することで、前記本体容器の内部に前記SiC-Si平衡蒸気圧環境を形成する、請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記成長工程は、Si元素及びC元素を含む雰囲気下で前記被処理体を熱処理する請求項1
~3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記成長工程は、SiC材料が露出した準閉鎖空間内で前記被処理体を熱処理する請求項
4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記デバイス形成工程は、前記成長層上に回路パターンを形成するパターニング工程を行う請求項1~
5の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記デバイス形成工程は、前記成長層にドーパント原子を導入するドーピング工程を行う請求項1~
6の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記デバイス形成工程は、前記成長層に絶縁膜を導入する絶縁膜形成工程を行う請求項1~
7の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記デバイス形成工程は、前記成長層上に電極を形成する電極形成工程を行う請求項1~
8の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記分離工程は、前記成長層を含む前記被処理体の内部に分離層を形成する分離層形成工程、及び、前記分離層を起点に前記成長層を含む前記被処理体の一部を剥離する剥離工程を含む請求項1~
9の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記分離層形成工程は、前記内部が焦点となるよう前記被処理体にレーザを照射し前記分離層を形成する請求項
10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記被処理体をSi元素及びC元素を含む雰囲気下で熱処理し前記被処理体をエッチングするエッチング工程を行う請求項1~
11の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記エッチング工程は、SiC材料が露出した準閉鎖空間内で前記被処理体を熱処理する請求項
12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記分離工程、エッチング工程及び成長工程をこの順で含む請求項
12又は請求項
13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記分離工程及び成長工程をこの順で含む請求項1~
14の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC半導体装置の製造方法及びSiC半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC:シリコンカーバイド)は、ケイ素(Si:シリコン)と比べ絶縁破壊強度、熱伝導率及び放射線耐性等の材料物性が優れているため、電子デバイスを構成する材料として研究開発が進められている。
【0003】
SiC半導体装置の品質は、SiC単結晶ウェハの内部応力に起因する反りに影響を受ける。上記反りは、例として、SiC単結晶ウェハ上のパターニングを困難とする場合がある。また、上記反りは、SiC単結晶ウェハの吸着エラー、それに伴うマシンの停止、SiC単結晶ウェハの割れ等を引き起こし、デバイス製造を阻害する大きな要因となっている。
【0004】
そのため、SiC半導体装置の製造では、必要以上の基板厚みを有するSiCウェハが用いられる場合があり、その経済性に改善の余地がある。
【0005】
特許文献1では、エピタキシャル層を有するSiC基板を1枚ずつ製造する方法であって、種結晶基板上にエピタキシャル層を成長させること及びSiC基板を成長させることを含み、並びに得られたエピタキシャル層を有するSiC基板を種結晶基板から取り外す工程をさらに含む製造方法についての発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の記載によれば、得られたエピタキシャル層を有するSiC基板がその後の素子作製プロセスに送られるため、上記反りによるSiC半導体装置の製造プロセスへの影響を排除できるとは言い難い。
【0008】
上記事情を鑑みて、本発明は、高品質なSiC半導体装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、SiC単結晶を含む被処理体上に成長層を形成する成長工程、前記成長層においてSiC半導体装置の少なくとも一部を形成するデバイス形成工程、及び、前記SiC半導体装置の少なくとも一部を前記被処理体から分離する分離工程を含む。このような構成とすることで、本発明は、ウェハ反りが抑えられたSiCウェハ上でSiC半導体装置の少なくとも一部を形成した後に当該一部を含むSiCウェハを分離することができるため、SiCプロセスへのウェハ反りによる影響を抑えながら、経済性の優れたSiC半導体装置の製造を実現することができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記成長工程は、Si元素及びC元素を含む雰囲気下で前記被処理体を熱処理する。このような構成とすることで、歪、結晶欠陥、基底面転位(BPD:Basal Plane Dislocation)及びマクロステップバンチング(MSB)を解消又はその発生を抑止しながら高品質なSiCウェハを製造しSiC半導体装置を製造することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記成長工程は、SiC材料が露出した準閉鎖空間内で前記被処理体を熱処理する。このような構成とすることで、本発明は、歪、結晶欠陥、BPD及びMSBを解消又はその発生を抑止しながら高品質なSiCウェハを製造した上でSiC半導体装置を製造することができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記デバイス形成工程は、前記被処理体上に回路パターンを形成するパターニング工程を行う。このような構成とすることで、本発明は、ウェハ反りが抑えられたSiCウェハ上で好適にパターニングを行うことができ高品質なSiC半導体装置を製造することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記デバイス形成工程は、前記被処理体にドーパント原子を導入するドーピング工程を行う。このような構成とすることで、本発明は、ウェハ反りが抑えられたSiCウェハ上で好適にドーピングを行うことができ高品質なSiC半導体装置を製造することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記デバイス形成工程は、前記被処理体に絶縁膜を導入する絶縁膜形成工程を行う。このような構成とすることで、本発明は、ウェハ反りが抑えられたSiCウェハ上で好適に絶縁膜形成を行うことができ高品質なSiC半導体装置を製造することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記デバイス形成工程は、前記被処理体上で電極を形成する電極形成工程を行う。このような構成とすることで、本発明は、ウェハ反りが抑えられたSiCウェハ上で好適に電極形成を行うことができ高品質なSiC半導体装置を製造することができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記分離工程は、前記被処理体の内部に分離層を形成する分離層形成工程、及び、前記分離層を起点に前記被処理体の一部を剥離する剥離工程を含む。このような構成とすることで、本発明は、SiC半導体装置の少なくとも一部を含むSiCウェハの分離を、材料損失を抑えながら実現することができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記分離層形成工程は、前記内部が焦点となるよう前記被処理体にレーザを照射し前記分離層を形成する。このような構成とすることで、本発明は、剥離の起点となるSiC単結晶中の分離層を扁平に形成することができる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記被処理体をSi元素及びC元素を含む雰囲気下で熱処理し前記被処理体をエッチングするエッチング工程を行う。
このような構成とすることで、本発明は、歪、結晶欠陥、BPD及びMSBを解消又はその発生を抑止しながら高品質なSiCウェハを製造した上でSiC半導体装置を製造することができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記エッチング工程は、SiC材料が露出した準閉鎖空間内で前記被処理体を熱処理する。このような構成とすることで、本発明は、歪、結晶欠陥、BPD及びMSBを解消又はその発生を抑止しながら高品質なSiCウェハを製造した上でSiC半導体装置を製造することができる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記分離工程、エッチング工程及び成長工程をこの順で含む。このような構成とすることで、本発明は、SiC半導体装置の少なくとも一部を含む、より高品質なSiCウェハを、繰り返し製造することができるため、経済性に優れたSiC半導体装置の製造を実現することができる。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記分離工程及び成長工程をこの順で含む。このような構成とすることで、本発明は、SiC半導体装置の少なくとも一部を含む、高品質なSiCウェハを、繰り返し製造することができるため、経済性に優れたSiC半導体装置の製造を実現することができる。
【0022】
上記課題を解決するために、本発明は、基底面転位密度が<100/cm2である成長層を含み、前記成長層は、n型又はp型の基板である。このような構成とすることで、本発明は、順方向特性の劣化の要因となる積層欠陥の生成が抑えられるような高品質なSiC半導体装置を実現することができる。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記成長層のドーパント濃度は、1.0×1017/cm3以上である。このような構成とすることで、本発明は、例えば、順方向特性の劣化の要因となる積層欠陥の生成が抑えられるような高品質なSiC半導体装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高品質なSiC半導体装置を提供することができる。
【0025】
他の課題、特徴及び利点は、図面及び特許請求の範囲と共に取り上げられる際に、以下に記載される発明を実施するための形態を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】SiC半導体装置の製造工程の概略図である。
【
図5】分離工程の後の電極形成工程の概略図である。
【
図8】SiC半導体装置の製造工程の概略図である。
【
図10】成長工程及びエッチング工程に係る原料輸送の概略図である。
【
図11】成長工程及びエッチング工程に係る原料輸送の概略図である。
【
図13】BPD変換率を求める手法の説明図である。
【
図14】熱処理工程で形成したSiCウェハの説明図である。
【
図15】熱処理工程で形成したSiCウェハの説明図である。
【
図16】熱処理工程に係るアレニウスプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を交えて説明する。なお、以下に説明される一部の符号は当該図面において図示されない。
本発明の技術的範囲は、添付図面に示した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、適宜変更が可能である。
【0028】
図1に示すように、本発明の一実施形態では、SiC単結晶を含む被処理体1に成長層10を形成する成長工程S1、成長層10においてSiC半導体装置12の少なくとも一部を形成するデバイス形成工程S2、及び、形成されたSiC半導体装置12の少なくとも一部を被処理体1から分離する分離工程S3を含む。
なお、本明細書中の説明における「SiC半導体装置12」は、SiCデバイスを含むSiC材料を少なくとも含む半導体装置のことを指す。
【0029】
被処理体1は、SiC単結晶からなる原基板11を含む。原基板11は、昇華法等の既知の結晶成長法により作製されたSiCインゴットであってよいし、当該SiCインゴットから円盤状にスライスされたSiCウェハであってもよい。なお、本明細書中の説明における「SiC単結晶のポリタイプ」は、3C、4H、6H等の既知のポリタイプを指す。
【0030】
被処理体1の断面サイズは、数センチ角であり、2インチであり、3インチであり、4インチであり、6インチであり、8インチであり、又は、12インチである。当該断面サイズに制限はない。
【0031】
被処理体1の表面は、(0001)面や(000-1)面から数度(例として、0.4~8.0°)のオフ角を設ける構成としてよい。なお、本明細書の説明における「-」は、ミラー指数の表記におけるバーを指す。
【0032】
SiC半導体装置12の製造方法は、以下のように把握することができる。
1)成長工程S1は、原基板11上に成長層10を形成する。
2)デバイス形成工程S2は、成長層10を加工しSiC半導体装置12の少なくとも一部を形成する。
3)分離工程S3は、デバイス形成工程S2により形成された、SiC半導体装置12の少なくとも一部を、被処理体1から分離する。
【0033】
《成長工程S1》
図2に示すように、成長工程S1は、エピタキシャル成長工程S11及びバンチング分解工程S12を行い、原基板11上に成長層10を形成する。なお、本明細書では、成長工程S1に係る機構を後述する。また、
図2では、電界効果トランジスタ(FET)構造を有するSiC半導体装置12を例示する。
【0034】
エピタキシャル成長工程S11は、ステップ101aと低減されたテラス長W1を呈するテラス101bとを有する原基板11表面上に、ステップ102aと長大化したテラス長W2を呈するテラス102bとを有する成長層10を形成するよう、又は、バンチング(束化)された表面を有する成長層10を形成するよう、結晶成長を行う。
【0035】
また、エピタキシャル成長工程S11は、<100/cm2の基底面転位密度(BPD密度)を有する成長層を形成するよう、又は、被処理体1におけるBPDが貫通刃状転位(TED:Threading Edge Dislocation)を含む他の欠陥・転位に変換されるよう、結晶成長を行い、成長層10の少なくとも一部を形成する。
【0036】
バンチング分解工程S12は、ステップ102a及びテラス102bを有する成長層10表面上に、ステップ103aと低減されたテラス長W3を呈するテラス103bとを有する成長層10を形成するよう、又は、平坦化されたバンチングフリーな表面を形成するよう、被処理体1の表面のMSBを分解し被処理体1を結晶成長させる。このとき、成長層10の表面は、SiC単結晶におけるフルユニットの高さを呈するステップで終端される。
【0037】
本明細書中の説明における「平坦化されたバンチングフリーな表面」は、MSBが分解されたSiC表面を指す。
なお、本明細書中の説明における「MSB」は、SiC表面上のステップの内、バンチングすることで各ポリタイプのフルユニットを超えた高さを形成するようなステップを指す。
すなわち、MSBとは、4H-SiCの場合には4分子層を超えて(5分子層以上)バンチングしたステップであり、6H-SiCの場合には6分子層を超えて(7分子層以上)バンチングしたステップである。
【0038】
本発明の一実施形態において形成される成長層10の厚みは、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは350μm以下であり、より好ましくは200μm以下であり、より好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは120μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下である。
また、当該厚みは、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、より好ましくは100μm以上であり、より好ましくは150μm以上であり、さらに好ましくは200μm以上であり、さらに好ましくは350μm以上である。
【0039】
成長工程S1は、<100/cm2のBPD密度を有する成長層を形成した後、物理気相成長法(PVD法)や化学気相成長法(CVD法)等の既知の成膜手法に基づくSiCエピタキシャル成長をさらに行ってよい。
また、成長工程S1により形成された、<100/cm2のBPD密度を有する成長層10の一部は、基板111として扱われてよい。基板111は、例として、1.0×1017/cm3以上のドーパント濃度を有する。
【0040】
本明細書中の説明における「被処理体1」は、成長工程S1以降であれば、成長層10を含む被処理体1を指す。また、後述のデバイス形成工程S2や分離工程S3による「被処理体1上における各種処理」は、「被処理体1に含まれる成長層10に対する各種処理」である、と把握することができる。
【0041】
《デバイス形成工程S2》
図3に示すように、デバイス形成工程S2は、成長層10が形成された被処理体1上に回路パターン211を形成するパターニング工程S21を行う。
【0042】
〈パターニング工程S21〉
パターニング工程S21は、例として、フォトレジストを塗布するレジスト塗布工程、フォトマスクを介してフォトレジストを露光する露光工程、及び、露光されたフォトレジストを現像する現像工程を含む。
【0043】
レジスト塗布工程は、後述の露光工程において採用され得る光源の波長に選択的に反応するようなベース樹脂を含む既知のフォトレジストを被処理体1上に塗布する。
フォトレジストは、例として、当該光源がg線(波長:436nm)である場合、ノボラック樹脂及び1,2‐ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル(NQD)系化合物を含む高分子材料である。また、フォトレジストは、例として、当該光源がArFレーザ(波長:193nm)である場合、ノルボルネン等の200nm波長付近の光吸収を抑えられるような脂環基を有するベース樹脂を含む高分子材料である。
【0044】
レジスト塗布工程は、スピンコーティングやスプレーコーティング等の既知のレジスト塗布装置を利用して、被処理体1上にフォトレジストを塗布する。
このとき、レジスト塗布工程は、スピンコーティングに係る回転速度や滴下量等のプロセス条件を、フォトレジストに係る所望の膜厚等が得られるよう、設定又は最適化する。
なお、レジスト塗布工程は、フォトレジストの塗布に先行して、被処理体1表面に疎水性が付与されるよう、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)等の水酸基を除去するようなシリカ化剤を被処理体1表面に塗布してもよい。
【0045】
レジスト塗布工程は、被処理体1上にフォトレジストが塗布された後に、フォトレジスト及び被処理体1を熱処理しプリベーキングを行う。
また、レジスト塗布工程は、プリベーキングに係る加熱温度や加熱時間等のプロセス条件を、フォトレジストに係る所望の膜厚や表面粗さが得られるよう、又は、回路パターン211が好適に転写されるよう、設定又は最適化する。
【0046】
露光工程は、既知の光源、光学系及びステージを含む密着露光装置や縮小投影露光装置等の既知の露光装置と、回路パターン211を呈するフォトマスクと、を利用して被処理体1上に塗布されたフォトレジストの一部を露光する。光学系に係る投影方式は、レンズ方式やミラー方式等の既知の投影方式を採用することができる。なお、当該露光装置は、マスクレス露光の態様で、有体物であるフォトマスクを用いず露光を行ってもよい。
また、露光工程は、露光時間等のプロセス条件を、回路パターン211が好適に転写されるよう適宜、設定又は最適化する。
【0047】
露光工程は、光源として、g線(436nm波長)、i線(365nm波長)、KrFレーザ(248nm波長)、ArFレーザ(193nm波長)、F2レーザ(157nm波長)、Kr2レーザ(146nm波長)、Ar2レーザ(126nm波長)、軟X線(EUV:Extreme Ultraviolet、~13.5nm波長)、電子ビーム、X線等を採用することができる。また、露光工程は、液浸リソグラフィの態様で、投影光学系及び被処理体1間に純水を挿入し屈折率を向上させてもよい。
【0048】
露光工程は、露光の後にフォトレジストを熱処理しベーキング(PEB:Post Exposure Baking)を行ってもよい。
また、露光工程は、当該ベーキングに係る加熱温度や加熱時間等のプロセス条件を、回路パターン211が好適に転写されるよう、設定又は最適化する。
【0049】
現像工程は、露光されたフォトレジストの一部を現像液により除去(現像)する。このとき、現像工程は、フォトレジストの材料に応じて現像液の材料を適宜、選択し得る。現像液は、例として、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を含む。
また、現像工程は、現像液温度や現像時間等のプロセス条件を、回路パターン211が好適に転写されるよう、設定又は最適化する。
【0050】
現像工程は、現像されたフォトレジストのポストベーキングを行う。
また、現像工程は、当該ベーキングに係る加熱温度や加熱時間等のプロセス条件を、回路パターン211が好適に転写されるよう、設定又は最適化する。
【0051】
パターニング工程S21は、例として、レジスト塗布工程に先行し、犠牲層として利用されるハードマスクを、PVD法やCVD法等の既知の成膜手法に基づき被処理体1上に形成するハードマスク形成工程を行ってもよい。
【0052】
ハードマスク形成工程は、SiO2、TEOS‐SiO2等のシリコン酸化物や、SiN、Si3N4等のシリコン窒化物や、SiON等のシリコン酸窒化物や、BN等の窒化ボロンや、TiN等の窒化チタンや、その混合物等の高硬度かつ低応力を呈する材料を、ハードマスクとして、採用することができる。なお、当該ハードマスクには、B元素等が適宜、添加される構成としてもよい。
【0053】
パターニング工程S21は、ハードマスク及びフォトレジストをこの順で成膜してもよいし、ハードマスク、カーボン膜等の反射防止膜、及び、フォトレジストをこの順で成膜してもよく、多層構造を呈する成膜を行ってもよい。
【0054】
パターニング工程S21は、フォトレジストのみを被処理体1上に成膜し、当該フォトレジストを耐熱性、エッチング耐性及びイオン阻止能を有するハードマスクとして扱い、回路パターン211を転写する構成としてもよい。
【0055】
パターニング工程S21は、ナノインプリントの態様で、例としてSiO2材料を含むモールドを利用して、被処理体1に対して回路パターン211を転写してもよい。
【0056】
本発明の一実施形態において形成される回路パターン211の線幅は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは5.0μm以下であり、より好ましくは2.0μm以下であり、より好ましくは1.0μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下であり、さらに好ましくは0.2μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以下であり、さらに好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。また、当該線幅は、好ましくは1.0nm以上であり、より好ましくは10nm以上であり、より好ましくは20nm以上であり、より好ましくは50nm以上であり、より好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは0.2μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上であり、より好ましくは1.0μm以上であり、さらに好ましくは2.0μm以上であり、さらに好ましくは5.0μm以上である。
【0057】
デバイス形成工程S2は、パターニング工程S21の後に、回路パターン211を呈するフォトレジストを利用し、当該フォトレジストの下方の露出している表面をエッチングする選択的エッチング工程を行う。
【0058】
選択的エッチング工程は、材料選択性を呈するよう、被処理体1上の露出している表面をエッチングする。本明細書中の説明における「材料選択性を呈する」は、例えば、フォトレジスト及びSiC単結晶に係るエッチングレートのそれぞれが相違していることを指す。
【0059】
選択的エッチング工程は、例として、ウェットエッチングにより被処理体1上の露出している表面をエッチングする。
このとき、選択的エッチング工程は、エッチャント、エッチング時間、エッチング温度等のプロセス条件を、所望の材料選択性や面方位依存性やエッチングレート等を実現するよう、設定又は最適化する。当該エッチャントを含む溶液は、例として、TMAH溶液、水酸化カリウム(KOH)溶液、過マンガン酸カリウム(KMnO4)溶液、フッ化水素(HF)溶液等である。
【0060】
選択的エッチング工程は、例として、反応性ガスエッチング等の既知の熱エッチングにより、被処理体1上の露出している表面をエッチングする。
このとき、選択的エッチング工程は、エッチャント(反応ガス)や反応ガスに係る分圧や熱処理温度等のプロセス条件を、所望の材料選択性や面方位依存性やエッチングレート等を実現するよう、設定又は最適化する。当該エッチャントは、例として、H2、HCl、Cl2、O2、CIF3等の混合物である。
【0061】
選択的エッチング工程は、例として、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)等の既知のドライエッチングにより、被処理体1上の露出している表面をエッチングする。反応性イオンエッチングは、ICPやCCP等の既知の方式でプラズマを形成し、Arガス、O2ガス、NF3ガス、PF3ガス、BF3ガス、CF4ガス、CHF3ガス、SF6ガス、XeF2等の既知のガスが適宜、組み合わされる。
また、選択的エッチング工程は、バイアスパワー、ガス種、ガス分圧、放電時間等のプロセス条件を、所望の異方性やエッチングレート等を実現するよう、設定又は最適化する。
なお、選択的エッチング工程は、被処理体1上にU溝やV溝等の三次元形状を形成するよう、異方性エッチング又は深堀りエッチングを行ってよい。
【0062】
〈ドーピング工程S22〉
図3に示すように、デバイス形成工程S2は、被処理体1においてn型及び/又はp型領域を形成するよう、又は、pn接合領域を形成するよう、被処理体1にドーパント原子を導入するドーピング工程S22を行う。
【0063】
ドーピング工程S22は、例として、イオン化されたドーパント原子であるドーパントイオンを被処理体1に対して照射するイオン注入工程、及び、ドーパントイオンが照射された被処理体1を熱処理し活性化処理を行う活性化工程を含む。
【0064】
イオン注入工程は、例として、ドーパント元素を含むイオン源からイオンビームを引き出すビーム引出工程、当該イオンビームに含まれるイオン種の内の所望のイオン種を質量分離する質量分析工程、質量分離されたイオン種を含むイオンビームに対して加速エネルギーを付与する加速工程、及び、加速エネルギーが付与されたイオンビームを走査し被処理体1に対して照射する走査工程を行う。なお、イオン注入工程は、イオン阻止能を有する犠牲層である回路パターン211を利用し、所望の領域に対するドーパントイオンの照射を行う。
【0065】
イオン注入工程は、例として、N元素、P元素、Al元素及びB元素等の既知のドーパント元素をイオン化し被処理体1上に照射する。このとき、N元素及びP元素は、n型領域を形成するようSiC単結晶に添加され、Al元素及びB元素は、p型領域を形成するようSiC単結晶に添加される。
なお、SiC単結晶中においてn型又はp型の領域を形成するような元素は、当該ドーパントイオンとして適宜、採用され得る。
なお、イオン注入工程は、C元素、Si元素、Cl元素、Ar元素等の非ドーパント元素も同様にイオン化し被処理体1上に照射し得る。
【0066】
ビーム引出工程は、所望の平均自由行程が得られるよう、真空チャンバ内に設置されたドーパント元素を含むイオン源からドーパントイオンを含むイオンビームを引き出す。
また、ビーム引出工程は、例として、引出電圧を当該イオン源に印加することで当該イオンビームを引き出す。また、ビーム引出工程は、例として、当該イオン源をプラズマ環境下でイオン化させ当該イオンビームを引き出す。
当該イオン源は、固体材料であってもよいし、気体材料であってもよいし、液体金属イオン源(LMIS)であってもよいし、イオン化を促進するようなプラズマ環境を形成するためのサポートガスと固体材料とを組み合わせる構成としてもよい。なお、当該プラズマ環境は、直流電源や交流電源等を利用する既知の方式に基づき適宜、形成される。
【0067】
質量分析工程は、所望のイオン種を質量分離するよう、ビーム引出工程により引き出されたドーパントイオンを含むイオンビームに係る質量及び電荷の比率(m/z)を分析する。質量分析工程は、例として、当該イオンビームに対して電圧を印加させながら磁場を通過させ、電圧及び/又は磁場強度を調整し当該イオン種と対応するm/zを選り出す。
質量分析工程は、扇形磁場、四重極、飛行時間(TOF)、イオントラップ型等の既知の質量分析であれば適宜、採用することができる。
【0068】
加速工程は、所望のイオン注入深さを実現するよう、又は、所望のドーパントプロファイルを実現するよう、ドーパントイオンを含むイオンビームに加速エネルギーを付与する。なお、加速工程は、質量分析工程の後に行われてもよいし、質量分析工程の前後のそれぞれにおいて行われてもよい。
【0069】
走査工程は、ドーパントイオンに注入角度が付与されるよう、真空チャンバに設置されたターゲットである被処理体1の表面の少なくとも一部に対しドーパントイオンを含むイオンビームを走査する。また、走査工程は、ファラデーカップを利用する等して、当該ターゲットに照射されるイオンビームのビーム電流を評価してもよい。なお、当該ビーム電流及びビーム照射時間は、当該イオンビームに係るドーズ量の評価に用いられる。
また、イオン注入工程は、上記加速エネルギー、注入角度、ドーズ量等のプロセス条件を、所望のドーパントプロファイルが形成されるよう、設定又は最適化する。
【0070】
イオン注入工程は、2種以上のイオン種を照射するような共イオン注入を行ってよい。
当該2以上のイオン種は、例として、複数種のドーパントイオンであってもよいし、Cイオン及びドーパントイオンであってもよく、その組み合わせに制限はない。
【0071】
イオン注入工程は、所望のドーパントプロファイルが形成されるよう、複数回に亘ってドーパントイオンを被処理体1に対して照射してもよいし、加速エネルギーを複数段階に変化させながらドーパントイオンを被処理体1に対して照射してもよいし、被処理体1を加熱しながらドーパントイオンを被処理体1に対して照射してもよい。
また、イオン注入工程は、ドーパント濃度が一定となるようなボックスプロファイルを形成するよう、ドーパントイオンを被処理体1に対して照射してもよい。なお、本明細書中の説明における「所望のドーパントプロファイル」とは、製造対象であるSiC半導体装置の構造に応じて適宜、変化し得る。
【0072】
活性化工程は、ドーパントイオンの照射に起因する結晶損傷を回復し当該ドーパントイオンを活性化させるよう、Ar雰囲気等の不活性雰囲気下でドーパントイオンが照射された被処理体1を熱処理する。
また、活性化工程は、加熱温度、加熱時間、分圧等のプロセス条件を、所望のドーパントプロファイルが形成されるよう、又は、当該ドーパントイオンの活性化率が高まるよう、設定又は最適化される。
活性化工程は、例として、被処理体1表面のカーボン化を防ぐよう、被処理体1表面条にカーボン層やSiO2等のパッシベーション膜を成膜する。
【0073】
ドーピング工程S22は、n+及び/又はn‐領域を形成するよう、p+及び/又はp‐領域を形成するよう、n型又はp型のドリフト領域220を形成するよう、n型又はp型のウェル領域221を形成するよう、n型又はp型のコンタクト領域222を形成するよう、n型又はp型のボディ領域を形成するよう、n型又はp型のベース領域を形成するよう、n型又はp型のソース領域を形成するよう、n型又はp型のコレクタ領域を形成するよう、n型又はp型のフィールドストップ領域を形成するよう、n型又はp型のピラー領域を形成するよう、n型又はp型のバッファ領域を形成するよう、n型又はp型の再結合促進領域を形成するよう、n型又はp型の埋込み領域を形成するよう、halo構造を形成するよう、シャロージャンクション構造を形成するよう、又は、スーパージャンクション構造を形成するよう、被処理体1にドーパント原子を導入する。
また、ドーピング工程S22は、既知のSi系電子デバイスにおいてみられるようなプロファイルを呈するn型又はp型領域を形成するよう、被処理体1に対してドーパント原子を導入する。
なお、本明細書中の説明におけるn型領域やドリフト領域等に含まれる「領域」は、n型層やドリフト層等に含まれる「層」と同一である、と把握することができる。
【0074】
ドーピング工程S22が形成するn型又はp型領域のドーパント濃度は、好ましくは1.0×1021/cm3以下であり、より好ましくは1.0×1020/cm3以下であり、より好ましくは1.0×1019/cm3以下であり、さらに好ましくは1.0×1018/cm3以下であり、さらに好ましくは1.0×1017/cm3以下であり、さらに好ましくは1.0×1016/cm3以下である。また、当該ドーパント濃度は、好ましくは1.0×1015/cm3以上であり、より好ましくは1.0×1016/cm3以上であり、より好ましくは1.0×1017/cm3以上であり、さらに好ましくは1.0×1018/cm3以上であり、好ましくは1.0×1019/cm3以上であり、さらに好ましくは1.0×1020/cm3以上である。
なお、当該ドーパント濃度は、例として、n型コンタクト領域及びドリフト領域等の異なる領域間で相違する場合がある。
【0075】
ドーピング工程S22は、SiCエピタキシャル成長の都度、パターニング工程S21の後に被処理体1に対してドーパント原子を導入してもよい。当該SiCエピタキシャル成長は、成長工程S1によって行われてもよいし、PVD方やCVD法等の既知の成膜手法によって行われてもよい。
【0076】
図3に示すように、デバイス形成工程S2は、パターニング工程S21及びドーピング工程S22を繰り返してよい。
また、デバイス形成工程S2は、複数の回路パターン211に基づき、SiCエピタキシャル成長、パターニング工程S21及びドーピング工程S22を繰り返してよい。
また、デバイス形成工程S2は、パターニング工程S21を行わず、SiCエピタキシャル成長及びドーピング工程S22を行ってよい。
なお、デバイス形成工程S2は、ドーピング工程S22が行われる都度、回路パターン211を呈するフォトレジスト及び/又はハードマスクをエッチングする。
【0077】
〈絶縁膜形成工程S23〉
図4に示すように、デバイス形成工程S2は、被処理体1に絶縁膜230を導入する絶縁膜形成工程S23を行う。
当該絶縁膜230は、例として、FET構造等を有するSiC半導体装置においてゲート絶縁膜、素子分離用の層間絶縁膜、又は、ゲート電極240におけるフラットバンド電圧等を調整するためのキャップ層として機能する。
【0078】
絶縁膜形成工程S23が形成する絶縁膜230のEOT(Equivalent Oxide Thickness)は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、より好ましくは20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下であり、さらに好ましくは5.0nm以下であり、さらに好ましくは2.0nm以下である。また、当該EOTは、好ましくは1.0nm以上であり、より好ましくは2.0nm以上であり、より好ましくは5.0nm以上であり、より好ましくは10nm以上であり、さらに好ましくは20nm以上であり、さらに好ましくは50nm以上である。
【0079】
絶縁膜形成工程S23は、例として、既知の酸化炉と乾燥酸素(O2)や水蒸気(H2O)等の酸化種とを用いて被処理体1を熱酸化し、熱酸化SiO2膜を形成する。
このとき、絶縁膜形成工程S23は、酸化温度、酸化時間、酸化種ガスの分圧等のプロセス条件を、SiC/SiO2界面における界面準位密度が低減されるよう、SiC/SiO2界面ラフネスが低減されるよう、熱酸化SiO2膜中のカーボン残留が抑えられるよう、又は、熱酸化反応におけるCOガス発生を促進させるよう、設定又は最適化する。
【0080】
絶縁膜形成工程S23は、絶縁膜界面における界面準位密度を低減するよう、絶縁膜230を成膜した後に、熱処理やプラズマ環境を利用するドライプロセスを行ってよい。
絶縁膜形成工程S23は、例として、SiC/SiO2界面における界面準位密度が低減されるよう、上記熱酸化SiO2膜を形成した後に窒化処理を行ってもよい。当該窒化処理は、一酸化窒素(NO)雰囲気下での熱処理であってよいし、NO等の酸化窒素を励起させたプラズマ環境を利用した処理であってもよい。
【0081】
絶縁膜形成工程S23は、CVD法やALD(Atomic Layer Deposition)等の既知の成膜手法に基づき絶縁膜230を形成してよい。このとき、絶縁膜230は、熱酸化SiO2膜等のSi酸化膜に加えて、Al2O3膜、AlON膜等の金属酸化膜を含める構成としてもよい。
【0082】
〈電極形成工程S24〉
図4及び
図5に示すように、デバイス形成工程S2は、被処理体1上に電極を形成する電極形成工程S24を行う。
【0083】
電極形成工程S24は、ゲート電極240を形成するよう、ソース電極241を形成するよう、ドレイン電極242を形成するよう、ベース電極を形成するよう、エミッタ電極を形成するよう、コレクタ電極を形成するよう、アノード電極を形成するよう、カソード電極を形成するよう、オーミック電極を形成するよう、又は、ショットキー電極を形成するよう、被処理体1上で電極を形成する。
【0084】
電極形成工程S24は、例として、CVD法等の既知の手法に基づく成膜プロセスによりpoly‐Siを被処理体1上に成膜する。当該poly‐Siは、例として、パターニング工程S21、ドーピング工程S22及び選択的エッチング工程により、絶縁膜230と隣接するゲート電極240として加工される。なお、電極形成工程S24は、poly‐Si以外の金属材料をゲート電極240として、poly‐Siに代えて/加えて、採用することができる。
【0085】
電極形成工程S24は、例として、PVD法によりNi等の金属膜を被処理体1上に成膜する、当該金属膜は、例として、パターニング工程S21、ドーピング工程S22及び選択的エッチング工程により、n型又はp型のコンタクト領域222と隣接するオーミック電極であるソース電極241、又は、ドレイン電極242として形成される。
【0086】
電極形成工程S24は、金属膜を形成した後に、被処理体1を熱処理することでシリサイド化反応を行ってもよい。なお、電極形成工程S24は、TiNやTaN等のバリアメタルをソース電極241やドレイン電極242等の電極に積層させてよい。
また、電極形成工程S24は、シリサイド化反応における熱処理温度や熱処理時間等のプロセス条件を、ショットキー電極が形成されるよう、又は、ドーパント偏析効果によりオーミック電極が形成されるよう、設定又は最適化する。
【0087】
図5に示すように、電極形成工程S24は、分離工程S3の後に、PVD法によりNi等の金属膜を被処理体1上に成膜し、n型又はp型領域と隣接するオーミック電極であるドレイン電極242を裏面電極として形成してよい。
【0088】
デバイス形成工程S2は、絶縁膜形成工程S23又は電極形成工程S24により形成された、絶縁膜23又は電極は、上記ハードマスクとして利用されてもよい。
【0089】
なお、本明細書中の説明における「CVD法」は、熱CVD、PECVD(Plasma‐Enhanced CVD)、MOCVD(Metal Organic CVD)等の既知のCVD法を指し、SiC半導体装置12を構成する種々の材料の何れかを導入する上で成膜手法として採用され得る。
【0090】
なお、本明細書中の説明における「PVD法」は、真空蒸着、DCスパッタリング、RFスパッタリング、マグネトロンスパッタリング、反応性スパッタリング、分子線エピタキシー(MBE)等の既知のPVD法を指し、SiC半導体装置12を構成する種々の材料の何れかを導入する上で適宜、成膜手法として採用され得る。
【0091】
デバイス形成工程S2は、例として、トレンチゲート構造を有するSiC半導体装置12を製造するよう、選択的エッチング工程の後にドーピング工程S22、絶縁膜形成工程S23、又は、電極形成工程S24を行ってよい。
【0092】
デバイス形成工程S2は、電極形成工程S24の後に、絶縁膜形成工程S23の少なくとも一部を行ってもよい。
【0093】
本発明の一実施形態では、SiC半導体装置12の構造に応じて、所望のSiC半導体装置12の構造が実現されるよう、デバイス形成工程S2に含まれる各工程の少なくとも一部が順不同で行われ得る。
【0094】
本発明の一実施形態では、デバイス形成工程S2は、配線領域を形成してもよい。
【0095】
《分離工程S3》
分離工程S3は、被処理体1の一部を分離する。
分離工程S3は、複数本のワイヤを往復運動させることで切断するマルチワイヤソー切断や、プラズマ放電を断続的に発生させて切断する放電加工法、レーザを照射し切断の基点となる層を形成する手法を、採用することができる。
【0096】
図6に示すように、分離工程S3は、被処理体1の内部に分離層300を形成する分離層形成工程S31、及び、分離層300を起点に被処理体1の一部を剥離する剥離工程S32を含む。
【0097】
〈分離層形成工程S31〉
分離層形成工程S31は、上面から分離すべきSiC半導体装置12の厚みに相当する深さとして被処理体1の内部が焦点となるよう、被処理体1において透過性を有する波長のレーザを被処理体1に対して照射し集光させ分離層300を形成する。
このとき、分離層形成工程S31は、好ましくは、SiC半導体装置12が形成されていない被処理体1の表面に対してレーザを照射する。
【0098】
分離層形成工程S31は、吸着チャック等の慣用の手法に基づき被処理体1を保持可能な保持手段、パルス発振するレーザを照射可能な光源311、及び、当該レーザを集光可能なレンズ等の慣用の集光手段312を利用し、分離層300を形成する。
また、分離層形成工程S31は、例として、赤外レーザを当該レーザとして採用する。
なお、当該レーザの波長は、紫外光に類される波長であってもよいし、可視光に類される波長であってもよく、制限はない。
また、分離層形成工程S31は、レーザ波長、レーザ出力、レーザ走査速度、ビームスポット径、パルス幅、ピッチ幅等のプロセス条件を、被処理体1からSiC半導体装置12を好適に分離できるよう、設定又は最適化する。
【0099】
〈剥離工程S32〉
剥離工程S32は、分離層300を起点に被処理体1の一部であるSiC半導体装置12を剥離する。このとき、剥離工程S32は、分離層300に沿ってワイヤを往復運動させる、又は、超音波振動を発生させる等することで被処理体1に機械振動を付与し、分離層300を起点に被処理体1からSiC半導体装置12を剥離する。
【0100】
剥離工程S32は、吸着チャック等の慣用の手法に基づき被処理体1を保持可能な保持手段、圧電セラミックス等から形成され超音波振動を含む慣用の機械振動を発生可能な振動手段、及び、純水等の液体を供給可能な液体供給手段の少なくとも一部を利用し、分離層300を起点に被処理体1からSiC半導体装置12を剥離する。
【0101】
分離工程S3は、分離層形成工程S31に先行して、又は、剥離工程S32に先行して、被処理体1上に応力発生層であるポリマー層を形成してよい。
このとき、剥離工程S32は、当該ポリマー層を含む被処理体1を冷却することで分離層300における亀裂伝播を誘起し、分離層300を起点に被処理体1からSiC半導体装置12を剥離してよい。
また、このとき、剥離工程S32は、ポリマー層の組成や膜厚、冷却温度、冷却速度、冷却時間等のプロセス条件を、被処理体1からSiC半導体装置12を好適に分離できるよう、設定又は最適化する。
また、このとき、分離工程S3は、好ましくは、SiC半導体装置12における応力発生を抑えるよう、当該ポリマー層をSiC半導体装置12が形成されていない被処理体1の表面上に形成する。
【0102】
分離工程S3は、公知技術を採用することができる。
また、分離工程S3は、例えば、特開2013-49161号公報、特開2018-207034号公報、特表2017-500725号公報、及び、特表2017-526161号公報等の特許文献に記載の装置や方法等の少なくとも一部を採用することができる。
また、分離工程S3は、例えば、特表2017-526161号公報、特表2017-500725号公報、特開2018-152582号公報、特表2019-500220号公報、及び、特表2019-511122号公報等の特許文献に記載の装置や方法等の少なくとも一部を採用することができる。
【0103】
《エッチング工程S4》
図7に示すように、エッチング工程S4は、低減されたテラス長W3を呈する、平坦化されたバンチングフリーな表面を形成するよう、被処理体1をエッチングする。なお、エッチング工程S4に係る機構は、後述される。
【0104】
エッチング工程S4は、例として、分離工程S3により分離された被処理体1を熱処理し、被処理体1に残留した分離層300を含む表層をエッチングする。分離層300は、結晶転位301や損傷領域302を含む、と把握することができる。このとき、成長層10の表面は、SiC単結晶におけるフルユニットの高さを呈するステップで終端され得る。なお、分離層300は、歪層又はダメージ層とも解される。
【0105】
また、エッチング工程S4は、被処理体1を原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間に設置し加熱し被処理体1をエッチングする歪層除去工程S41を含む。また、エッチング工程S4は、被処理体1を原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間に設置し加熱し被処理体1をエッチングするバンチング分解工程S42を含む。
【0106】
歪層除去工程S41は、分離層300をエッチングし、バンチング(束化)された表面が露出するよう、被処理体1をエッチングする。
【0107】
バンチング分解工程S42は、平坦化されたバンチングフリーな表面を形成するよう、被処理体1をエッチングし被処理体1の表面のMSBを分解する。このとき、当該表面は、SiC単結晶におけるフルユニットの高さを呈するステップで終端される。
【0108】
図8に示すように、本発明の一実施形態は、成長工程S1、デバイス形成工程S2及び分離工程S3を少なくとも含む複数の工程が、円環をなすよう、繰り返し行われてよい。
また、本発明の一実施形態は、成長工程S1、デバイス形成工程S2、分離工程S3及びエッチング工程S4が、円環をなすよう、繰り返し行われてよい。
また、本発明の一実施形態は、デバイス形成工程S2の各工程の少なくとも一部が、分離工程S3の後に行われてもよい。
【0109】
本発明の一実施形態は、例として、ショットキーバリアダイオード(SBD)、バイポーラジャンクショントランジスタ(BJT)、FET、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)及びその組み合わせを含む既知のデバイス構造を有するSiC半導体装置12を製造することができる。
【0110】
図9に示すように、本発明の一実施形態は、ドレイン電極、アノード電極、コレクタ電極等の電極面と隣接するような、n型又はp型の基板111を含むSiC半導体装置12を製造することができる。
図9(a)に示すように、本発明の一実施形態は、n型又はp型の基板111、n型又はp型のドリフト領域220、n型又はp型のウェル領域221、n型又はp型のコンタクト領域222、絶縁膜230、ゲート電極240、ソース電極241及びドレイン電極242を含むFET構造を有するSiC半導体装置12を製造することができる。
また、
図9(b)に示すように、本発明の一実施形態は、n型又はp型の基板111、低濃度領域226、アノード電極244及びカソード電極245を含むSBD構造を有するSiC半導体装置12を製造することができる。
n型又はp型の基板111の厚みは、成長層10の厚みの範囲で制限はない。n型又はp型の基板111は、例として、オーミック電極の実現に寄与する。
【0111】
本発明の一実施形態は、プレーナゲート型構造を有するSiC半導体装置12を製造することができる。このとき、SiC半導体装置12は、FET構造やIGBT構造等の既知のデバイス構造を有してよい。
【0112】
本発明の一実施形態は、デバイス動作時のJFET抵抗が低減されるよう、トレンチゲート型構造を有するSiC半導体装置12を製造することができる。このとき、SiC半導体装置12は、FET構造やIGBT構造等の既知のデバイス構造を有してよい。
【0113】
本発明の一実施形態は、デバイス動作時のドリフト抵抗が低減されるよう、n型又はp型のピラー領域を含むスーパージャンクション構造を有する既知のSiC半導体装置12を製造することができる。このとき、SiC半導体装置12は、FET構造やIGBT構造等の既知のデバイス構造を有してよい。
【0114】
本発明の一実施形態は、デバイス動作時の電界集中効果が緩和されるよう、n型又はp型の埋込み領域を含むSiC半導体装置12を製造することできる。
なお、当該SiC半導体装置12におけるn型又はp型の埋込み領域は、例として、膜厚方向に沿ってゲート電極240の下方に設置されてもよいし、膜厚方向に沿ってソース電極241の下方に設置されてもよいし、膜厚方向と直交する方向に沿ってn型又はp型のウェル領域と並ぶガードリングを呈するよう設置されてもよい。
【0115】
本発明の一実施形態は、基底面転位密度(BPD密度)が<100/cm2である成長層を含む、BPD密度が<10/cm2である成長層を含む、又は、<1.0/cm2である成長層を含むSiC半導体装置12を製造することができる。上述のように、当該成長層は、成長層10の少なくとも一部である。
当該成長層は、上記n型又はp型領域を含むSiC半導体装置12を構成するSiC構造の少なくとも一部を指す。
また、当該成長層は、例として、n型又はp型の基板111を指す。
また、当該成長層は、例として、1.0×1017/cm3以上、2.0×1017/cm3以上、5.0×1017/cm3以上、1.0×1018/cm3以上、2.0×1018/cm3以上、又は、5.0×1018/cm3以上のドーパント濃度を有するn+又はp+領域を指す。
【0116】
本発明の一実施形態において製造されるSiC半導体装置12のセルピッチは、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは5.0μm以下であり、より好ましくは2.0μm以下であり、より好ましくは1.0μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下であり、さらに好ましくは0.2μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以下であり、さらに好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。また、当該セルピッチは、好ましくは1.0nm以上であり、より好ましくは10nm以上であり、より好ましくは20nm以上であり、より好ましくは50nm以上であり、より好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは0.2μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上であり、より好ましくは1.0μm以上であり、さらに好ましくは2.0μm以上であり、さらに好ましくは5.0μm以上である。
【0117】
〈成長工程S1及びエッチング工程S4の機構〉
本明細書は、以下、成長工程S1又はエッチング工程S4である熱処理工程に係る原料輸送機構を説明する。
【0118】
本発明の一実施形態では、熱処理工程は、被処理体1及びSiC原料4間に温度差が形成されるよう、被処理体1及びSiC原料4を熱処理する。
成長工程S1としての熱処理工程は、被処理体1を低温側に設置することで、被処理体1を結晶成長させ、被処理体1表面に成長層10を形成する。
エッチング工程S4としての熱処理工程は、被処理体1を高温側に設置することで、被処理体1をエッチングし、例えば分離層300を除去する。
【0119】
図10に示すように、被処理体1が低温側に設置されることで、裏面1aにおける成長層10の形成と、SiC原料4(主面4a)のエッチングと、が同時に行われる。
【0120】
成長工程S1及びエッチング工程S4のそれぞれは、Si元素及びC元素を含む雰囲気下で、被処理体1及びSiC原料4を準閉鎖空間内で、熱処理する。
なお、本明細書中の説明における「準閉鎖空間」は、空間内部の真空引きは可能であるが、空間内部で発生した蒸気の少なくとも一部を閉じ込め可能な空間のことを指す。
【0121】
図11に示すように、被処理体1及びSiC原料4において、以下の1)~5)の反応に基づく原料輸送が持続的に行われ、成長層10が形成される。
【0122】
1) SiC(s)→Si(v)+C(s)
2) 2C(s)+Si(v)→SiC2(v)
3) C(s)+2Si(v)→Si2C(v)
4) Si(v)+SiC2(v)→2SiC(s)
5) Si2C(v)→Si(v)+SiC(s)
【0123】
1)の説明:SiC原料4表面が熱分解されることで、SiC原料4表面からSi原子(Si(v))が脱離する。
2)及び3)の説明:Si原子(Si(v))が脱離することでSiC原料4表面に残存したC原子(C(s))は、原料輸送空間内のSi蒸気(Si(v))と反応することで、Si2C又はSiC2等となって原料輸送空間内に昇華する。
4)及び5)の説明:昇華したSi2C又はSiC2等が、温度勾配によって被処理体1の裏面1aのテラスに到達・拡散し、ステップに到達することで裏面1aの多形を引き継ぎ、ステップフロー成長の様相を呈しながら、成長層10が形成される。
【0124】
成長工程S1は、SiC原料4からSi原子を熱昇華させるSi原子昇華工程と、SiC原料4の主面4aに残存したC原子を原料輸送空間内のSi原子と結合させることで昇華させるC原子昇華工程と、を含む。
【0125】
成長工程S1は、被処理体1における裏面1aにおいて、上記ステップフロー成長に基づき成長層10を形成する。成長工程S1に含まれる各工程は逐次、行われる。
なお、成長工程S1は、輸送されたSi2C又はSiC2等が過飽和となり凝結することで成長層10を形成するため、PVT(物理気相輸送)に基づく工程と解される。
また、このような構成とすることで、成長工程S1は、被処理体1表面上のMSBの形成を抑止し、低減されたテラス長を呈する平坦化されたSiC表面を得ることができる。
【0126】
エッチング工程S4は、被処理体1表面からSi原子を熱昇華させるSi原子昇華工程と、被処理体1表面に残存したC原子を原料輸送空間内のSi原子と結合させることで昇華させるC原子昇華工程と、を含み、被処理体1表面をエッチングする。このような構成とすることで、エッチング工程S4は、被処理体1表面上のMSBを分解し、低減されたテラス長を呈する平坦化されたSiC表面を得ることができる。
【0127】
成長工程S1及びエッチング工程S4のそれぞれに係る機構は、Si元素及びC元素を含む原料の輸送である、と把握することができる。
原料輸送の駆動力は、形成された温度勾配に起因する被処理体1及びSiC原料4間の蒸気圧差である、と把握することができる。よって、被処理体1及びSiC原料4のそれぞれの表面における温度差のみならず、被処理体1及びSiC原料4間の結晶構造等に起因する化学ポテンシャル差も原料輸送の駆動力となり得る、と把握することができる。
【0128】
成長工程S1及びエッチング工程S4のそれぞれにおいて、SiC原料4は、昇華法等により作製されたSiCインゴットであってよいし、当該SiCインゴットから円盤状にスライスされたSiCウェハであってもよいし、SiC多結晶であってもよい。また、SiC原料4は、SiC多結晶を含む焼結体等の加工品であってよい。
また、成長工程S1及びエッチング工程S4のそれぞれにおいて、準閉鎖空間を形成するSiC材料や、準閉鎖空間内で露出したSiC材料は、SiC原料4となり得る。
【0129】
成長工程S1における原料輸送は、ドーパントガス供給手段により準閉鎖空間内にドーパントガスを供給されることで、成長層10のドーパント濃度を調整することができる。
ドーパントガスを供給しない場合、成長層10は準閉鎖空間内のドーパント濃度を引き継ぐ、と把握することができる。
【0130】
成長工程S1及びエッチング工程S4のそれぞれにおける原料輸送は、好ましくは、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種を有する環境下で行われる。
また、成長工程S1及びエッチング工程S4のそれぞれにおける原料輸送は、SiC‐Si又はSiC‐C平衡蒸気圧環境下で行われる。
【0131】
本明細書中の説明における「SiC‐Si蒸気圧環境」は、SiC(固体)とSi(液相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧の環境を指す。SiC‐Si平衡蒸気圧環境は、原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間が熱処理されることで形成される。
本明細書中の説明における「SiC‐C平衡蒸気圧環境」は、SiC(固相)とC(固相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧の環境を指す。SiC‐C平衡蒸気圧環境は、原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間が熱処理されることで形成される。
【0132】
成長工程S1及びエッチング工程S4のそれぞれにおける熱処理温度は、好ましくは1400℃以上であり、より好ましくは1500℃以上であり、より好ましくは1600℃以上であり、より好ましくは1700℃以上であり、より好ましくは1800℃以上であり、さらに好ましくは1900℃以上であり、さらに好ましくは2000℃以上であり、さらに好ましくは2100℃以上であり、さらに好ましくは2200℃以上である。
また、当該熱処理温度は、好ましくは2300℃以下であり、より好ましくは2200℃以下であり、より好ましくは2100℃以下であり、より好ましくは2000℃以下であり、より好ましくは1900℃以下であり、さらに好ましくは1800℃以下であり、さらに好ましくは1700℃以下であり、さらに好ましくは1600℃以下であり、さらに好ましくは1500℃以下である。
なお、成長工程S1及びエッチング工程S4のそれぞれに係る、成長レート又はエッチングレートは、当該熱処理温度によって決定される。
【0133】
成長工程S1及びエッチング工程S4のそれぞれにおける被処理体1及びSiC原料4間の温度勾配は、好ましくは0.1℃/mm以上であり、より好ましくは0.2℃/mm以上であり、より好ましくは0.5℃/mm以上であり、さらに好ましくは1.0℃/mm以上であり、さらに好ましくは2.0℃/mm以上である。また、当該温度勾配は、好ましくは5.0℃/mm以下であり、より好ましくは2.0℃/mm以下であり、より好ましくは2.0℃/mm以下であり、より好ましくは1.0℃/mm以下であり、さらに好ましくは0.5℃/mm以下であり、さらに好ましくは0.2℃/mm以下である。
なお、当該温度勾配は、一様であってもよいし、分布をもってもよい。
【0134】
〈成長工程S1及びエッチング工程S4のそれぞれに係る装置〉
本明細書は、以下、成長工程S1及びエッチング工程S4において用いられる装置について、詳細に説明する。なお、先の製造方法に示した構成と基本的に同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を簡略化する。
【0135】
図12に示すように、SiC半導体装置の製造方法に係る製造装置は、本体容器141、高融点容器142及び加熱炉143を有する。
【0136】
本体容器141は、例として、SiC多結晶を含む材料で構成される。よって、本体容器141の少なくとも一部は、原料輸送における輸送元(SiC原料4)となり得る。
【0137】
加熱された本体容器141内の環境は、例として、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の混合系の蒸気圧環境となることが望ましい。このSi元素を含む気相種としては、Si、Si2、Si3、Si2C、SiC2、SiC等を例示することができる。
また、C元素を含む気相種としては、Si2C、SiC2、SiC、C等を例示することができる。
【0138】
本体容器141のドーパント及びドーパント濃度は、形成したい成長層10のドーパント及びドーパント濃度に合わせて選択することができる。
【0139】
また、本体容器141の加熱処理時に、内部空間にSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を発生させる構成であれば、その構造を採用することができる。例として、内面の一部にSiC多結晶が露出した構成や、本体容器141内に別途、SiC多結晶を設置する構成等を示すことができる。
【0140】
本体容器141は、被処理体1を設置可能な設置具141aを備える。また、本体容器141は、互いに嵌合可能な上容器141c及び下容器141bを備える嵌合容器である。上容器141cと下容器141bの嵌合部には、微小な間隙が形成されており、この間隙から本体容器141内の排気(真空引き)が可能なよう構成されている。
【0141】
〈Si蒸気供給源〉
本体容器141は、Si蒸気供給源を有する。Si蒸気供給源は、本体容器141内の準閉鎖空間の原子数比Si/Cを、1を超えるよう調整する目的で用いられる。Si蒸気供給源としては、固体のSi(Si片やSi粉末等のSiペレット)やSi化合物を例示することができる。
【0142】
例えば、本発明の一実施形態のように、本体容器141の全体がSiC多結晶で構成されている場合には、Si蒸気供給源を設置することで、本体容器141内の原子数比Si/Cが1を超える。具体的には、化学量論比1:1を満たすSiC多結晶の本体容器141内に、化学量論比1:1を満たす被処理体1及びSiC原料4と、Si蒸気供給源と、を設置した場合には、本体容器141内の原子数比Si/Cは1を超えることとなる。
【0143】
本発明の一実施形態に係るSiC‐Si平衡蒸気圧環境は、原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間が加熱されることで形成される。また、本発明の一実施形態に係るSiC‐C平衡蒸気圧環境は、原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間が加熱されることで形成される。本発明の一実施形態に係る本体容器141は、それぞれ、SiC‐Si平衡蒸気圧環境又はSiC‐C平衡蒸気圧環境となるよう適宜、所定の部材を収容する構成としてよい。
【0144】
加熱炉143は、本体容器141の上容器141cから下容器141bに向かって温度が下がる/上がるよう温度勾配を形成するよう加熱する構成となっている。これにより、被処理体1の厚み方向に温度勾配が形成される。
【0145】
加熱炉143は、
図12に示すように、被処理体1等を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することが可能な本加熱室143cと、被処理物を500℃以上の温度に予備加熱可能な予備室143aと、本体容器141を収容可能な高融点容器142と、この高融点容器142を予備室143aから本加熱室143cへ移動可能な移動手段143b(移動台)と、を備えている。
【0146】
本加熱室143cは、平面断面視で正六角形に形成されており、その内側に高融点容器142が設置される。本加熱室143c内は、加熱ヒータ143d(メッシュヒータ)が備えられている。また、本加熱室143cの側壁や天井には多層熱反射金属板が固定されている(図示せず。)。多層熱反射金属板は、加熱ヒータ143dの熱を本加熱室143cの略中央部に向け反射させるように構成されている。
【0147】
加熱ヒータ143dは、本加熱室143c内において、被処理物が収容される高融点容器142を取り囲むように設置される。このとき、加熱ヒータ143dの外側に多層熱反射金属板が設置されることで、1000℃以上2300℃以下の温度範囲における昇温が可能となる。
【0148】
加熱ヒータ143dは、例として、抵抗加熱式のヒータや高周波誘導加熱式のヒータを採用することができる。
【0149】
加熱ヒータ143dは、高融点容器142内に温度勾配を形成可能な構成を採用してもよい。加熱ヒータ143dは、例として、上側(若しくは下側)に多くのヒータが設置されるよう構成してもよい。また、加熱ヒータ143dは、上側(若しくは下側)に向かうにつれて幅が大きくなるように構成してもよい。あるいは、加熱ヒータ143dは、上側(若しくは下側)に向かうにつれて供給される電力を大きくすることが可能なよう構成してもよい。
【0150】
本加熱室143cには、本加熱室143c内の排気を行う真空形成用バルブ143fと、本加熱室143c内に不活性ガスを導入する不活性ガス注入用バルブ143eと、本加熱室143c内の真空度を測定する真空計143gと、が接続されている。
【0151】
真空形成用バルブ143fは、本加熱室143c内を排気して真空引きする真空引ポンプと接続されている(図示せず。)。この真空形成用バルブ143f及び真空引きポンプにより、本加熱室143c内の真空度は、好ましくは、10Pa以下、より好ましくは、1.0Pa以下、最も好ましくは、10‐3Pa以下に調整することができる。この真空引きポンプとしては、ターボ分子ポンプを例示することができる。
【0152】
不活性ガス注入用バルブ143eは、不活性ガス供給源と接続されている(図示せず。
)。この不活性ガス注入用バルブ143e及び不活性ガス供給源により、本加熱室143c内に不活性ガスを10‐5~104Paの範囲で導入することができる。この不活性ガスとしては、Ar等を選択することができる。
【0153】
不活性ガス注入用バルブ143eは、本体容器141内にドーパントガスを供給可能なドーパントガス供給手段である。すなわち、不活性ガスにドーパントガス(例として、N2等)を選択することにより、成長層10のドーパント濃度を高めることができる。
【0154】
予備室143aは、本加熱室143cと接続されており、移動手段143bにより高融点容器142を移動可能に構成されている。なお、本実施形態の予備室143aは、本加熱室143cの加熱ヒータ143dの余熱により昇温可能なよう構成されている。例として、本加熱室143cを2000℃まで昇温した場合には、予備室143aは1000℃程度まで昇温され、被処理物(被処理体1や本体容器141、高融点容器142等)の脱ガス処理を行うことができる。
【0155】
移動手段143bは、高融点容器142を載置して、本加熱室143c及び予備室143a間を移動可能に構成されている。
【0156】
移動手段143bによる本加熱室143cと予備室143a間の搬送は、最短1分程で完了するため、1.0~1000℃/minでの昇温・降温を実現することができる。これにより、急速昇温及び急速降温が行えるため、昇温中及び降温中の低温成長履歴を持たない表面形状を観察することが可能である。
また、
図12において、予備室143aは本加熱室143cの下方に設置されているが、予備室143aはこれに限られず何れの方向に設置されてもよい。
【0157】
本実施形態に係る移動手段143bは、高融点容器142を載置する移動台である。この移動台と高融点容器142の接触部と、が熱の伝播経路となる。これにより、移動台と高融点容器142の接触部側が低温側となるよう高融点容器142内に温度勾配を形成することができる。
【0158】
本実施形態の加熱炉143では、高融点容器142の底部が移動台と接触しているため、高融点容器142の上容器142bから下容器142aに向かって温度が下がるように温度勾配が設けられる。
【0159】
温度勾配の方向は、移動台と高融点容器142の接触部の位置を変更することで、任意の方向に設定することができる。例として、移動台に吊り下げ式等を採用して、接触部を高融点容器142の天井に設ける場合には、熱が上方向に逃げる。そのため、温度勾配は、高融点容器142の上容器142bから下容器142aに向かって温度が上がるように温度勾配が設けられることとなる。なお、この温度勾配は、被処理体1及びSiC原料4の厚さ方向に沿って形成されていることが望ましい。また、上記のように、温度勾配は、加熱ヒータ143dの構成により形成されてもよい。
【0160】
本実施形態に係る加熱炉143内のSi元素を含む気相種の蒸気圧環境は、高融点容器142及びSi蒸気供給材料を用いて形成している。例として、本体容器141の周囲にSi元素を含む気相種の蒸気圧の環境を形成可能な方法であれば、本発明の一実施形態において、採用することができる。
【0161】
高融点容器142は、好ましくは、本体容器141を構成する材料の融点と同等若しくはそれ以上の融点を有する、高融点材料を含んで構成されている。
【0162】
高融点容器142は、例として、汎用耐熱部材であるC、高融点金属であるW,Re,Os,Ta,Mo、炭化物であるTa9C8,HfC,TaC,NbC,ZrC,Ta2C,TiC,WC,MoC、窒化物であるHfN,TaN,BN,Ta2N,ZrN,TiN、ホウ化物であるHfB2,TaB2,ZrB2,NB2,TiB2、SiC多結晶等を例示することができる。
【0163】
図12に示すように、高融点容器142は、本体容器141と同様に、互いに嵌合可能な上容器142bと、下容器142aと、を備える嵌合容器であり、本体容器141を収容可能に構成されている。上容器142bと下容器142aの嵌合部には、微小な間隙43が形成されており、この間隙43から高融点容器142内の排気(真空引き)が可能なよう構成されている。
【0164】
高融点容器142は、高融点容器142内にSi元素を含む気相種の蒸気圧を供給可能なSi蒸気供給材料を有している。
【0165】
Si蒸気供給材料は、加熱処理時にSi蒸気を高融点容器142内に発生させる構成であればよく、例として、固体のSi(Si片やSi粉末等のSiペレット)やSi化合物を例示することができる。
また、Si蒸気供給材料は、例として、高融点容器142の内壁を被覆する薄膜である。
【0166】
高融点容器142がTaC等の金属化合物である場合、Si蒸気供給材料は、例として、高融点容器142を構成する金属原子及びSi原子のシリサイド材料である。
【0167】
高融点容器142は、その内側にSi蒸気供給材料を有することにより、本体容器141内Si元素を含む気相種の蒸気圧環境を維持することができる。これは、本体容器141内のSi元素を含む気相種の蒸気圧と、本体容器141外のSi元素を含む気相種の蒸気圧と、がバランスされるため、と把握することができる。
【0168】
本明細書は、参考例1~3を交えて、本発明に係る作用効果を説明する。
《参考例1》
以下の条件で、SiC単結晶基板E10は本体容器141に収容され、本体容器141は高融点容器142に収容されている。
【0169】
〈SiC単結晶基板E10〉
多型:4H‐SiC
基板サイズ:横幅(10mm)、縦幅(10mm)、厚み(0.3mm)
オフ方向及びオフ角:<11‐20>方向4°オフ
成長面:(0001)面
MSBの有無:無し
分離層又は歪層:無し
【0170】
材料:SiC多結晶
容器サイズ:直径(60mm)、高さ(4.0mm)
SiC単結晶基板E10とSiC材料との距離:2.0mm
容器内の原子数比Si/C:1以下
【0171】
材料:TaC
容器サイズ:直径(160mm)、高さ(60mm)
Si蒸気供給材料(Si化合物):TaSi2
【0172】
上記条件で設置したSiC単結晶基板E10は、以下の条件で加熱処理されている。
加熱温度:1700℃
加熱時間:300min
温度勾配:1.0℃/mm
成長速度:5.0nm/min
本加熱室143cの真空度:10‐5Pa
【0173】
図13は、成長層E11において、BPDから他の欠陥・転位(TED等)に変換した変換率を求める手法の説明図である。
【0174】
図13(a)は、加熱工程により成長層E11を成長させた様子を示している。この加熱工程では、SiC単結晶基板E10に存在していたBPDが、ある確率でTEDに変換される。そのため、成長層E11の表面には、100%変換されない限り、TEDとBPDが混在していることとなる。
【0175】
図13(b)は、KOH溶解エッチング法を用いて成長層E11中の欠陥を確認した様子を示している。このKOH溶解エッチング法は、約500℃に加熱した溶解塩(KOH等)にSiC単結晶基板E10を浸し、転位や欠陥部分にエッチピットを形成し、そのエッチピットの大きさ・形状により転位の種類を判別する手法である。この手法により、成長層E11表面に存在しているBPD数は評価される。
【0176】
図13(c)は、KOH溶解エッチング後に成長層E11を除去する様子を示している。本手法では、エッチピット深さまで機械研磨やCMP等により平坦化した後、熱エッチングにより成長層E11を除去することで、SiC単結晶基板E10の表面は表出している。
【0177】
図13(d)は、成長層E11を除去したSiC単結晶基板E10に対し、KOH溶解エッチング法を用いてSiC単結晶基板E10中の欠陥を確認した様子を示している。この手法により、SiC単結晶基板E10表面に存在しているBPD数は評価される。
【0178】
図13に示した一連の順序により、成長層E11表面に存在するBPDの数(
図13(b)参照)と、SiC単結晶基板E10表面に存在するBPDの数(
図13(d))と、を比較することで、熱処理によりBPDから他の欠陥・転位に変換したBPD変換率を得ることができる。
【0179】
参考例1の成長層E11表面に存在するBPDの数は約0/cm2であり、SiC単結晶基板E10表面に存在するBPDの数は1000/cm2であった。すなわち、表面にMSBが存在しないSiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間に設置し加熱することによりBPDが低減・除去される、と把握することができる。
【0180】
参考例1では、本体容器141内の原子数比Si/Cが1以下となるよう本体容器141内にSiC‐C平衡蒸気圧環境が形成されているため、成長工程S1においてもBPDが低減・除去され得る、と把握することができる。
【0181】
《参考例2》
以下の条件で、SiC単結晶基板E10を本体容器141に収容し、さらに本体容器141を高融点容器142に収容した。
【0182】
〈SiC単結晶基板E10〉
多型:4H‐SiC
基板サイズ:横幅(10mm)、縦幅(10mm)、厚み(0.3mm)
オフ方向及びオフ角:<11‐20>方向4°オフ
成長面:(0001)面
MSBの有無:有り
【0183】
材料:SiC多結晶
容器サイズ:直径(60mm)、高さ(4.0mm)
SiC単結晶基板E10とSiC材料との距離:2.0mm
Si蒸気供給源:Si片
容器内の原子数比Si/C:1を超える
【0184】
本体容器141内に、SiC単結晶基板と共にSi片を収容することで、容器内の原子数比Si/Cが1を超える。
【0185】
材料:TaC
容器サイズ:直径160mm×高さ60mm
Si蒸気供給材料(Si化合物):TaSi2
【0186】
上記条件で設置したSiC単結晶基板E10は、以下の条件で加熱処理されている。
加熱温度:1800℃
加熱時間:60min
温度勾配:1.0℃/mm
成長速度:68nm/min
本加熱室143cの真空度:10‐5Pa
【0187】
図14は、成長層E11の成長前のSiC単結晶基板E10表面のSEM像である。
図14(a)は倍率×1000で観察したSEM像であり、
図14(b)は倍率×100000で観察したSEM像である。この成長層E11の成長前のSiC単結晶基板E10表面には、MSBが形成されており、高さ3.0nm以上のステップが、平均42nmのテラス幅で配列していることが把握することができる。なお、ステップ高さは、AFMにより測定した。
【0188】
図15は、成長層E11の成長後のSiC単結晶基板E10表面のSEM像である。
図15(a)は倍率×1000で観察したSEM像であり、
図15(b)は倍率×100000で観察したSEM像である。
参考例2の成長層E11表面には、MSBは形成されておらず、1.0nm(フルユニットセル)のステップが、14nmのテラス幅で規則正しく配列していることが把握することができる。なお、ステップ高さは、AFMにより測定した。
【0189】
そのため、表面にMSBが存在するSiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間に設置し加熱することによりMSBが分解された成長層E11が形成される、と把握することができる。
【0190】
参考例2では、本体容器141内の原子数比Si/Cが1を超えるようSi蒸気供給源が設置されているため、本体容器141内に、SiC‐Si平衡蒸気圧環境が形成されている。よって成長工程S1においてもSiC単結晶基板表面上のMSBは分解され得る、と把握することができる。
【0191】
《参考例3》
図16は、本発明に係るSiC単結晶基板の製造方法にて成長させた加熱温度と成長速度の関係を示すグラフである。このグラフの横軸は温度の逆数であり、このグラフの縦軸は成長速度を対数表示している。SiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1を超える空間(本体容器141内)に設置して、SiC単結晶基板E10に成長層E11を成長させた結果を〇印で示す。また、SiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1以下である空間(本体容器141内)に設置して、SiC単結晶基板E10に成長層E11を成長させた結果を×印で示している。
【0192】
また、
図16のグラフは、SiC‐Si平衡蒸気圧環境におけるSiC基板成長の熱力学計算の結果を破線(アレニウスプロット)で示し、SiC‐C平衡蒸気圧環境におけるSiC基板成長の熱力学計算の結果を二点鎖線(アレニウスプロット)で示している。
【0193】
本手法においては、SiC原料とSiC基板間の蒸気圧環境が、SiC‐C平衡蒸気圧環境又はSiC‐C平衡蒸気圧環境となる条件下で、化学ポテンシャル差や温度勾配を成長駆動力として、SiC単結晶基板E10を成長させている。この化学ポテンシャル差は、SiC多結晶とSiC単結晶の表面で発生する気相種の分圧差を例示することができる。
【0194】
ここで、SiC原料(輸送元)とSiC基板(輸送先)から発生する蒸気の分圧差を成長量とした場合、SiC成長速度は以下の数1で求められる。
【0195】
【0196】
ここで、TはSiC原料側の温度、miは気相種(SixCy)の分子量、kはボルツマン定数である。また、P輸送元i‐P輸送先iは、原料ガスが過飽和な状態となって、SiCとして析出した成長量であり、原料ガスとしてはSiC,Si2C,SiC2が想定される。
【0197】
よって、破線は、SiC(固体)とSi(液相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧環境において、SiC多結晶を原料としてSiC単結晶を成長させた際の熱力学計算の結果である。当該結果は、具体的には、数1を用いて以下の条件(i)~(iv)で熱力学計算されて得られたものである。
(i)体積一定のSiC‐Si平衡蒸気圧環境であること
(ii)成長駆動力は、本体容器141内の温度勾配と、SiC多結晶とSiC単結晶の蒸気圧差(化学ポテンシャル差)であること
(iii)原料ガスは、SiC,Si2C,SiC2である
(iv)原料がSiC単結晶基板E10のステップに吸着する吸着係数は0.001である
【0198】
また、二点鎖線は、SiC(固相)とC(固相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧環境において、SiC多結晶を原料としてSiC単結晶を成長させた際の熱力学計算の結果である。当該結果は、具体的には、数1を用いて以下の条件(i)~(iv)で熱力学計算されて得られたものである。
(i)体積一定のSiC‐C平衡蒸気圧環境である
(ii)成長駆動力は、本体容器141内の温度勾配と、SiC多結晶とSiC単結晶の蒸気圧差(化学ポテンシャル差)である
(iii)原料ガスはSiC,Si2C,SiC2である
(iv)原料がSiC単結晶基板E10のステップに吸着する吸着係数は0.001である
なお、熱力学計算に用いた各化学種のデータはJANAF熱化学表の値を採用した。
【0199】
この
図16のグラフによれば、SiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1を超える空間(本体容器141内)に設置して、SiC単結晶基板E10に成長層E11を成長させた結果(〇印)は、SiC‐Si平衡蒸気圧環境におけるSiC成長の熱力学計算の結果と傾向が一致している、と把握することができる。また、SiC単結晶基板E10を原子数比Si/Cが1以下である空間(本体容器141内)に設置して、SiC単結晶基板E10に成長層E11を成長させた結果(×印)は、SiC‐C平衡蒸気圧環境におけるSiC成長の熱力学計算の結果と傾向が一致している、と把握することができる。
【0200】
SiC‐Si平衡蒸気圧環境下においては、1960℃の加熱温度で1.0μm/min以上の成長速度を達成する、と把握することができる。また、2000℃以上の加熱温度で2.0μm/min以上の成長速度を達成する、と把握することができる。一方、SiC‐C平衡蒸気圧環境下においては、2000℃の加熱温度で1.0μm/min以上の成長速度を達成する、と把握することができる。また、2030℃以上の加熱温度で2.0μm/min以上の成長速度を達成する、と把握することができる。
【0201】
本発明によれば、成長工程S1、デバイス形成工程S2及び分離工程S3の組み合わせを、高品質なSiC半導体装置提供することができる。
【符号の説明】
【0202】
1 :被処理体
1a :裏面
4 :SiC原料
4a :主面
10 :成長層
11 :原基板
12 :成長層10に形成されたSiC半導体装置
23 :絶縁膜
43 :間隙
101a :ステップ
101b :テラス
102a :ステップ
102b :テラス
103a :ステップ
103b :テラス
111 :基板
141 :本体容器
141a :設置具
141b :下容器
141c :上容器
142 :高融点容器
142a :下容器
142b :上容器
143 :加熱炉
143a :予備室
143b :移動手段
143c :本加熱室
143d :加熱ヒータ
143e :不活性ガス注入用バルブ
143f :真空形成用バルブ
143g :真空計
211 :回路パターン
220 :ドリフト領域
221 :ウェル領域
222 :コンタクト領域
226 :低濃度領域
230 :絶縁膜
240 :ゲート電極
241 :ソース電極
242 :ドレイン電極
244 :アノード電極
245 :カソード電極
300 :分離層
301 :結晶転位
302 :損傷領域
311 :光源
312 :集光手段
E10 :SiC単結晶基板
E11 :成長層
S1 :成長工程
S11 :エピタキシャル成長工程
S12 :バンチング分解工程
S2 :デバイス形成工程
S21 :パターニング工程
S22 :ドーピング工程
S23 :絶縁膜形成工程
S24 :電極形成工程
S3 :分離工程
S31 :分離層形成工程
S32 :剥離工程
S4 :エッチング工程
W1 :テラス長
W2 :テラス長
W3 :テラス長