(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】複合タングステン酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 41/00 20060101AFI20250123BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C01G41/00 A
C09K3/00 105
(21)【出願番号】P 2021034740
(22)【出願日】2021-03-04
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中倉 修平
(72)【発明者】
【氏名】荻 崇
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/159790(WO,A1)
【文献】特開2017-107200(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186663(WO,A1)
【文献】特表2019-504814(JP,A)
【文献】特開2009-293127(JP,A)
【文献】特開2003-138376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00 -47/00
49/10 -99/00
C09K 3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式M
xW
yO
z(但し、M元素は
Cs、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表わされる複合タングステン酸化物粒子の製造方法であり、
被処理物である、タングステン源となるW源原料粉末と、M元素源となるM元素源原料粉末との混合原料粉末を含むエアロゾルを形成するエアロゾル形成工程と、
前記エアロゾルをキャリアガスで搬送しながら、1000℃以上1350℃以下で熱処理する熱処理工程と、
前記熱処理工程で得られた生成物に冷却ガスを供給して冷却する冷却工程と、を有し、
前記キャリアガスが不活性ガスと、0.1体積%以上0.9体積%以下のH
2を含む混合ガスである複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記キャリアガスが、ArとH
2の混合ガスである請求項
1に記載の複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記冷却工程において、前記生成物に対して、前記冷却ガスを2以上の方向から供給する請求項1
または請求項
2に記載の複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
前記冷却ガスは、N
2とO
2との混合ガスであり、酸素濃度が1体積%以上5体積%以下である請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
複合タングステン酸化物粒子は、a軸の格子定数が7.400Å以上7.405Å以下、c軸の格子定数が7.680Å以上7.700Å以下の第1結晶構造と、a軸の格子定数が7.415Å以上7.420Å以下、c軸の格子定数が7.600Å以上7.620Å以下の第2結晶構造との2相の結晶を経由して形成される請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合タングステン酸化物粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
良好な可視光透過率を有し透明性を保ちながら日射透過率を低下させる近赤外線遮蔽技術として、これまでさまざまな技術が提案されてきた。なかでも、無機物である導電性微粒子を用いた近赤外線遮蔽技術は、その他の技術と比較して近赤外線遮蔽特性に優れ、低コストである上、電波透過性が有り、さらに耐候性が高い等のメリットがある。
【0003】
例えば特許文献1には、赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、前記赤外線遮蔽材料微粒子は、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子を含有することを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体や、該赤外線遮蔽微粒子の製造方法等に関する技術が開示されている。特許文献1には、薄膜状の赤外線遮蔽材料微粒子分散体である赤外線遮蔽膜を製造した例等も開示されている。
【0004】
特許文献1によれば、太陽光線、特に近赤外線領域の光をより効率良く遮蔽し、同時に可視光領域の透過率を保持する等、優れた光学特性を有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体を作製することが可能となるとされている。このため、特許文献1に開示された赤外線遮蔽粒子分散体を窓ガラス等の各種用途に適用することが検討されている。
【0005】
そして、近赤外線遮蔽材料として有用な複合タングステン酸化物粒子の製造方法について、各種検討がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1の発明者は、非特許文献1において、固相法によるCs0.32WO3ナノ粒子の合成方法を提案している。しかしながら、非特許文献1に開示された合成方法では粒子径が大きく、ナノ粒子化するには粉砕プロセスが必要であった。このため、プロセスの工程数が増える可能性があった。
【0007】
非特許文献2には水熱合成法によるCsxWO3の合成方法が開示されている。しかしながら、水熱合成法では数十時間以上の合成時間を必要とする。また、水熱合成法は、後処理工程などの工程数が多い問題もある。
【0008】
非特許文献3には、誘導結合熱プラズマ技術に基づく合成方法が開示されている。しかしながら、係る合成方法は誘導結合熱プラズマの装置を導入する必要があり、コストが高くなっていた。
【0009】
特許文献2には化学式KxCsyWOzで表わされるカリウム・セシウム・タングステンブロンズ固溶体粒子調合のためのプロセスであって、式中、x+y≦1および2≦z≦3であり、前記プロセスは適切なタングステン・ソースをカリウム塩およびセシウム塩と混ぜ合わせて粉末混合物を形成し、還元雰囲気下でプラズマトーチに粉末混合物を露出することを含み、好ましくは還元雰囲気が水素/希ガス混合物から成るシースガスによって供給される、プロセスが開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献2についてもプラズマを用いる必要があり、プラズマ装置導入のためにコストが高くなっていた。また、特許文献2に開示された製造方法によれば、金属タングステンが不純物として混入することも開示されている。
【0011】
非特許文献4に示すように、エアロゾル化した原料を火炎場に供給する手法を提案した。この原料粉末の供給方法は、生産性を引き上げやすく、原料中に含まれる溶媒の影響を除去できるため、「超音波霧化装置を用いるため液滴形成速度が低く(ラボスケールで3g/Hr以下)」「溶媒を気化させて除去するために潜熱を必要とする」、を同時に解決する。ただし、非特許文献4の手法は火炎場の形成に燃焼反応を伴うことから水やカーボンが副生成物として混入するため、「溶媒、原料中に含まれる副生成物が結晶中に混入して赤外吸収特性が低い」との課題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2005/037932号
【文献】特表2012-532822号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Takeda Hiromitsu, and Kenji Adachi, "Near infrared absorption of tungsten oxide nanoparticle dispersions." Journal of the American Ceramic Society,2007 , Vol.90, Issue 12, P.4059-4061
【文献】Guo Chongshen, et al., "Novel synthesis of homogenous CsxWO3nanorods with excellent NIR shielding properties by a water controlled-release solvothermal process." Journal of Materials Chemistry,2010, Vol.20, Issue38, P.8227-8229.
【文献】Mamak Marc, et al., "Thermal plasma synthesis of tungsten bronze nanoparticles for near infra-red absorption applications." Journal of Materials Chemistry, 2010, Vol.20, Issue44, P.9855-9857.
【文献】Hidayat, Darmawan, et al. "Preparation of size-controlled tungsten oxide nanoparticles and evaluation of their adsorption performance." Materials Research Bulletin 45.2 (2010): 165-173.
【文献】Okada, Mika, et al. "Oxygen vacancies and pseudo Jahn‐Teller destabilization in cesium‐doped hexagonal tungsten bronzes." Journal of the American Ceramic Society 102.9 (2019): 5386-5400.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
既述の様に複合タングステン酸化物粒子は、近赤外線遮蔽材料として有用である。そして、低コストで、かつ少ない工程で製造することができる複合タングステン酸化物粒子の製造方法が求められている。
【0015】
しかしながら、従来開示された複合タングステン酸化物粒子の製造方法は、上述のように特殊な高コストの装置の導入を要したり、多くの工程を要したりする等の問題があった。
【0016】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、導入コストの低い設備を用いることができ、かつ工程数の少ない複合タングステン酸化物粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一側面では、一般式MxWyOz(但し、M元素はCs、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表わされる複合タングステン酸化物粒子の製造方法であり、
被処理物である、タングステン源となるW源原料粉末と、M元素源となるM元素源原料粉末との混合原料粉末を含むエアロゾルを形成するエアロゾル形成工程と、
前記エアロゾルをキャリアガスで搬送しながら、1000℃以上1350℃以下で熱処理する熱処理工程と、
前記熱処理工程で得られた生成物に冷却ガスを供給して冷却する冷却工程と、を有し、
前記キャリアガスが不活性ガスと、0.1体積%以上0.9体積%以下のH2を含む混合ガスである複合タングステン酸化物粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一側面では導入コストの低い設備を用いることができ、かつ工程数の少ない複合タングステン酸化物粒子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本開示の一態様に係る複合タングステン酸化物粒子を製造する際に好適に用いることができる複合材料製造装置の説明図である。
【
図3】
図3は、実施例1における反応部の配管内の温度プロファイルである。
【
図4】
図4は、実施例1、比較例1~比較例4で得られた複合タングステン酸化物粒子のXRDプロファイルである。
【
図5】
図5は、比較例3で得られた複合タングステン酸化物粒子のTEM像である。
【
図6】
図6は、比較例1で得られた複合タングステン酸化物粒子のTEM像である。
【
図7】
図7は、実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子のSEM像である。
【
図8】
図8は、実施例1~実施例3で得られた複合タングステン酸化物粒子のTEM像である。
【
図9】
図9は、実施例2で得られた複合タングステン酸化物粒子のSEM像である。
【
図10】
図10は、比較例5の複合タングステン酸化物粒子を製造する際に用いた複合材料製造装置の説明図である。
【
図11】
図11は、実施例3、比較例7で得られたインクの透過プロファイルである。
【
図12】
図12は、比較例5で得られた複合タングステン酸化物粒子のTEM像である。
【
図13】
図13は、比較例6で得られた複合タングステン酸化物粒子のSEM像である。
【
図14】
図14は、実施例1、実施例2で得られた複合タングステン酸化物粒子のSTEM-HAADF像である。
【
図15】
図15は、実施例1、2、比較例5、6で得られた複合タングステン酸化物粒子のXRDプロファイルである。
【
図16】
図16は、実施例1、2、比較例5、6で得られた複合タングステン酸化物粒子中の各相の含有割合を示した図である。
【
図17】
図17は、実施例1、2、比較例5、6で得られた複合タングステン酸化物粒子中のCWO相の格子定数の変化を示した図である。
【
図18】
図18は、複合タングステン酸化物粒子の生成プロセスのメカニズムの説明図である。
【
図19】
図19は、比較例5の液体噴霧熱分解法で粒子の合成と、実施例1の固体噴霧熱分解法で粒子の合成での質量流量の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係る複合タングステン酸化物粒子の製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0021】
以下、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法の一構成例について説明する。
【0022】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法は、一般式MxWyOzで表わされる複合タングステン酸化物粒子の製造方法に関し、以下のエアロゾル形成工程と、熱処理工程と、冷却工程とを有することができる。
【0023】
なお、上記一般式中のM元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素とすることができる。また、Wはタングステン、Oは酸素を表し、x、y、zはそれぞれ、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0を満たすことが好ましい。
【0024】
エアロゾル形成工程は、被処理物である、タングステン源となるW源原料粉末と、M元素源となるM元素源原料粉末との混合原料粉末を含むエアロゾルを形成できる。
【0025】
熱処理工程は、エアロゾル形成工程で形成したエアロゾルをキャリアガスで搬送しながら、1000℃以上1350℃以下で熱処理できる。
【0026】
冷却工程では、熱処理工程で得られた生成物に冷却ガスを供給して冷却できる。
【0027】
なお、熱処理工程で用いる上記キャリアガスとしては、不活性ガスと、0.1体積%以上0.9体積%以下のH2を含む混合ガスを用いることができる。
(1)複合タングステン酸化物粒子について
ここでまず、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法で製造する複合タングステン酸化物粒子について説明する。
(組成について)
複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物は、上述のように一般式MxWyOzで表記される。式中のM元素、W、O、およびx、y、zについては既述のため、ここでは説明を省略する。
【0028】
複合タングステン酸化物は、例えば正方晶、立方晶、および六方晶のいずれかの、タングステンブロンズ型の結晶構造をとることができる。本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法で得られる複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物の結晶構造は特に限定されず、正方晶、立方晶、六方晶から選択された1種類以上の結晶構造を有することができる。
【0029】
ただし、複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合、複合タングステン酸化物粒子の可視光線領域の光の透過率、および近赤外線領域の光の吸収が特に向上するため好ましい。このため、複合タングステン酸化物粒子は、六方晶の結晶構造の複合タングステン酸化物を含むことが好ましい。
【0030】
そして、M元素にCs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択された1種類以上の元素を用いると六方晶を形成し易くなる。このため、M元素はCs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択された1種類以上を含むことが好ましい。特にM元素はCsを含むことがより好ましく、M元素がCsであることがさらに好ましい。
【0031】
ここで、複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合のM元素の配置の仕方を説明する。
【0032】
Wと、6つのOと、を単位として形成される8面体、すなわち頂点にO原子を配し、中央部にW原子を配した8面体が、6個集合することでO原子より構成される六角形の空隙(トンネル)が形成される。そして、当該空隙中に、M元素が配置されて1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するとき、M元素の添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、さらに好ましくは0.33である。z/y=3の時、x/yの値が0.33となることで、M元素が六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0033】
同様に、z/y=3の時、立方晶、正方晶のそれぞれの複合タングステン酸化物にも構造に由来したM元素の添加量の上限があり、1モルのタングステンに対するM元素の最大添加量は、立方晶の場合は1モルであり、正方晶の場合は0.5モル程度である。なお、正方晶の場合の1モルのタングステンに対するM元素の最大添加量は、M元素の種類により変化するが、工業的に製造が容易なのは、上述のように0.5モル程度である。但し、これらの構造は、単純に規定することが困難であり、当該範囲は特に基本的な範囲を示した例であることから、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0034】
また、M元素は極微量でも添加することで、複合タングステン酸化物内に自由電子が生成され、目的とする赤外線吸収効果を得ることができる。このため、x/yは、0.001≦x/y≦1を満たすことが好ましい。
【0035】
また、複合タングステン酸化物は、三酸化タングステン(WO3)にM元素を添加した組成を有している。そして、三酸化タングステンでは有効な自由電子を含まないため、1モルのタングステンに対する酸素の割合を3未満としないと赤外線吸収効果を発揮することはできない。しかしながら、複合タングステン酸化物では、M元素を添加することで自由電子を生じ、赤外線吸収効果を得ることができる。このため、1モルのタングステンに対する酸素の割合は3以下とすることができる。ただし、WO2の結晶相は可視光線領域の光について吸収や散乱を生じさせ、近赤外線領域の光の吸収を低下させる恐れがある。このため、WO2の生成を抑制する観点から、1モルのタングステンに対する酸素の割合は2より大きくすることが好ましい。
【0036】
従って、上述のように2.2≦z/y≦3.0を満たすことが好ましい。
(粒子径について)
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により製造する複合タングステン酸化物粒子の粒子径は特に限定されず、使用目的等に応じて選定することができる。
【0037】
例えば透明性を保持することが要求される用途に使用する場合は、800nm以下の粒子径を有していることが好ましい。これは、粒子径が800nm以下の粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を高く保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光線領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。
【0038】
係る粒子による散乱の低減を重視するとき、粒子径は200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0039】
これは、粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400nm~780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、赤外線遮蔽膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。そして、粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。さらに粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、粒子径が小さい方が好ましい。
【0040】
このため、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により製造する複合タングステン酸化物粒子の粒子径は、用いる用途に応じて選択することができる。例えば上述のように可視光線領域の視認性を高く保持することが求められる場合には、粒子径は800nm以下とすることが好ましく、200nm以下とすることがより好ましく、100nm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により製造する複合タングステン酸化物粒子の粒子径の下限値は特に限定されないが、例えば1nm以上とすることができる。
【0041】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により得られる複合タングステン酸化物粒子の粒子径は、該粒子を例えばSEMやTEMで観察し、該粒子に外接する最小の外接円を描いた場合の直径とすることができる。
【0042】
なお、例えば後述するエアロゾル形成工程において形成するエアロゾルのサイズや、熱処理工程における熱処理温度等を調整することで、得られる複合タングステン酸化物粒子の粒子径を選択することができる。
【0043】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により得られた複合タングステン酸化物粒子を含有する赤外線遮蔽材料は近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
(2)複合タングステン酸化物粒子の製造方法について
次に、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法について具体的に説明する。
【0044】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法は混合原料粉末をエアロゾル化し、還元雰囲気のキャリアガスで搬送しながら加熱することで粉末が昇華し、最終的な粒子のサイズや結晶相や凝縮、析出過程に影響を与える冷却プロセスを冷却ガスにより制御しながら複合タングステン酸化物粒子を得る粉末供給型熱分解法(固体噴霧熱分解法)である。
【0045】
そこで、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法は、タングステン源となるW源原料粉末とM元素源となるM元素源原料粉末とを混合した混合原料粉末をエアロゾル化するエアロゾル形成工程を有することができる。そして、エアロゾルをキャリアガスで供給し1000℃以上1350℃以下で熱処理する熱処理工程を有することができる。さらに、熱処理工程を経て得られる複合タングステン酸化物粒子を、冷却ガスにより冷却して回収できる。
(エアロゾル形成工程)
エアロゾル形成工程では、被処理物である、タングステン源となるW源原料粉末とM元素源となるM元素源原料粉末とを混合した混合原料粉末からエアロゾルを形成する。なお、タングステン源となる、M元素源となるとは、それぞれタングステンを供給できる、M元素を供給できるということを意味している。
【0046】
エアロゾル形成工程は混合原料粉末の分散状態を形成させ、気流中に供給することができる装置であればよく、具体的な手段は特に限定されない。例えば本実施形態の複合タングステン酸化物の製造方法で用いることができる複合材料製造装置に備えられるエアロゾル形成部は、回転するブラシや撹拌翼等の撹拌部と、撹拌部に混合原料粉末を送りだすピストンやスクリューフィーダ等を含む粉末供給部とで構成できる。粉末供給部から供給された混合原料粉末は、撹拌部で粉末を構成する粒子に分散され、各粒子をキャリアガスに送り出すことで混合原料粉末からエアロゾルを生成できる。撹拌部は、混合原料粉末を粒子に分散できるように、ブラシや、撹拌翼の回転速度を選択でき、高速で回転させることが好ましい。
【0047】
特に粒子同士の凝集の少ないエアロゾルを安定して形成できることから、上記撹拌部には回転するブラシを好適に用いることができ、粉末供給部にはリザーバに装填された混合原料粉末をピストンにより撹拌部に供給する構成を好適に用いることができる。
【0048】
このようなエアロゾル形成部は、リザーバに装填された粉末の輸送速度、例えばピストンの移動速度によりエアロゾル中における粉末濃度が変化する。
【0049】
タングステン源としては特に限定されず、タングステンの塩等を用いることができ、例えばH2WO4や、パラタングステン酸アンモニウムを好ましく用いることができる。
【0050】
H2WO4は、タングステン以外の元素が、H(水素)、O(酸素)であり、タングステン以外の元素は後述する熱処理工程において系外に排出される。このため、タングステン源となるW源原料粉末としてH2WO4を用いることで、不純物の混入を抑制した複合タングステン酸化物粒子を得ることができるため好ましく用いることができる。
【0051】
M元素源原料粉末としては、例えばM元素を含む塩の粉末を用いることができる。M元素を含む塩の種類は特に限定されないが、例えばM元素の炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、水酸化物等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0052】
例えば、M元素がセシウムの場合についても、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、水酸化物等から選択された1種類以上を用いることができるが、炭酸塩を特に好適に用いることができる。
【0053】
なお、得られる複合タングステン酸化物中の1モルのタングステンに対する、M元素の割合、すなわちドープ量は、原料混合粉末を形成する際のW源原料粉末と、M元素源原料粉末との混合割合により決まる。このため、上記ドープ量は、例えばW源原料粉末の量と、M元素源原料粉末の量との調整により制御できる。
【0054】
混合原料粉末は、W源原料粉末とM元素源原料粉末とを、物理的に混合した混合原料粉末でもよく、W源原料粉末とM元素源原料粉末とを水などの溶媒に溶解することで溶液化し、混合した後、溶液の溶媒を乾燥などで除去して得られる混合原料粉末でも良い。得られる複合タングステン酸化物粒子の組成のバラつきを特に抑制することが求められる場合等には、W源原料粉末とM元素源原料粉末とを溶液化して混合した後、溶液の溶媒を乾燥などで除去して得られる混合原料粉末が好ましい場合がある。
【0055】
エアロゾル形成工程で分散させる混合原料粉末の粒子のサイズは特に限定されないが、粒子の直径は100μm以下であることが好ましく、10μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。粒子の直径を100μm以下とすることで、粒子の内部までより確実に昇華させられることが可能となる。なお、エアロゾル形成工程で分散される混合原料粉末の粒子のサイズは、100nm以上であることが好ましい。混合原料粉末の粒子の直径は、既述の複合タングステン酸化物粒子の粒子径と同様に測定できる。
【0056】
エアロゾル形成工程で形成したエアロゾルは、例えばキャリアガスにより搬送し、熱処理工程に供することができる。
(熱処理工程)
熱処理工程では被処理物を1000℃以上1350℃以下で熱処理する。
【0057】
被処理物であるW源原料粉末とM元素源原料粉末とを含む原料混合粉末は、1000℃以上1350℃以下に加熱される過程で蒸発し、全て原子レベルに分解されると考えられる。その後、クラスターを形成し、複合タングステン酸化物としての凝縮過程を経て複合タングステン酸化物粒子が形成されると考えられる。上記熱処理温度は、より好ましくは、1200℃以上1350℃以下で、さらに好ましくは1250℃以上1350℃以下である。
【0058】
そして、W源原料粉末や、M元素源原料粉末の分解の過程や、さらに高温の温度でタングステンとM元素とが反応して、複合タングステン酸化物が形成されていると考察される。
【0059】
このため、W源原料粉末や、M元素源原料粉末の分解を十分に進行させ、複合タングステン酸化物への不純物の混入を抑制するため、熱処理工程ではW源原料粉末や、M元素源原料粉末の分解温度以上で熱処理を行うことが好ましい。そして、W源原料粉末や、M元素源原料粉末の分解は通常500℃以下で生じると考えられる。このため、熱処理工程では、被処理物であるエアロゾルを500℃以上で熱処理できる。
【0060】
本発明の発明者らの検討によれば、熱処理温度は、得られる複合タングステン酸化物粒子の粒子径にも影響する。そして、本発明の発明者らのさらなる検討によれば、熱処理温度が上がるにつれて、得られる複合タングステン酸化物粒子の粒子径が小さくなる傾向がみられる。
【0061】
これは、熱処理温度が高くなると、生成した複合タングステン酸化物粒子の昇華に熱エネルギーが使われ、昇華により粒子が弾けて微細な粒子径の粒子が得られるためと推認される。
【0062】
このため、特に微細なナノ粒子である複合タングステン酸化物粒子を得るため、熱処理温度は1000℃以上であることが好ましい。すなわち、特に微細なナノ粒子を得ることを目的とする場合、熱処理工程では被処理物を1000℃以上で熱処理することが好ましい。
【0063】
熱処理工程において、温度の上限は、1350℃以下である。熱処理温度が、1350℃を超えると金属のWなどの異相が発生することがある。
【0064】
エアロゾルは、キャリアガスにより電気炉等に搬送され、上述の熱処理工程を実施できる。このため、例えばキャリアガスの流量等を制御することにより、熱処理工程の時間を調整することができる。
【0065】
熱処理工程に要する時間は特に限定されるものではなく、任意に選定することができる。
【0066】
既述の様に、被処理物であるW源原料粉末とM元素源原料粉末とを含む原料混合粉末は、熱処理温度に加熱される過程で蒸発し、全て原子レベルに分解される。その後、クラスターを形成し、複合タングステン酸化物としての凝縮過程を経て複合タングステン酸化物が形成される。
【0067】
熱処理工程で用いるキャリアガスは、不活性ガスと0.1体積%以上0.9体積%以下のH2を含む混合ガスである。また、キャリアガスの不活性ガスは特に限定されず、希ガス(貴ガス)や、窒素ガスから選択された1種類以上を用いることができる。上記不活性ガスは特にArが望ましい。このため、キャリアガスはArとH2の混合ガスであることが好ましい。
【0068】
キャリアガスが0.1体積%以上0.9体積%以下のH2を含むことで、既述の熱処理温度で熱処理した場合でも、異相の少ない複合タングステン酸化物粒子を得やすくなる。H2の含有率が0.9体積%を超えると、還元が進み金属Wが析出する場合がある。既述のように六方晶の複合タングステン酸化物粒子は、可視光線領域の光の透過率や、近赤外線領域の光の吸収を高める観点から好適に用いることができる。そして、既述の熱処理温度で熱処理する場合に、キャリアガス中のH2の含有割合を0.1体積%以上とすることで六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物粒子が特に得やすくなる。このため、既述のようにキャリアガス中のH2の含有割合を0.1体積%以上とすることが好ましい。
【0069】
キャリアガスの流量は、後述する複合材料製造装置のエアロゾル形成部において、エアロゾルを形成し、維持できる流量であれば良く、複合タングステン酸化物粒子の製造に用いる複合材料製造装置の大きさ等により適宜調整できる。
(冷却工程)
本実施形態で製造される複合タングステン酸化物粒子は、熱処理された後にすぐに回収されずに冷却ガスを供給して冷却する冷却工程を経て回収することが好ましい。本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法では、熱処理温度が1000℃以上1350℃以下と比較的高温になっている。このため、冷却工程で冷却することで、熱処理で加熱された生成物と高温のガスを冷却して反応を停止させ、異相の生成を抑制することが好ましい。一方、冷却工程を経ないで回収されると、生成物は、熱処理工程から吐出される高温の還元性のガスで反応が進行し、異相が生じることがある。
【0070】
具体的な冷却工程の操作は特に限定されないが、室温の冷却ガスが供給される容器へ、熱処理工程で生成した生成物を導入すればよい。なお、室温の冷却ガスとは、加熱や冷却等を行わず、周囲の温度と平衡状態にある冷却ガスを意味し、例えば5℃以上35℃以下のガスを用いることができる。特に、冷却工程では、熱処理工程で得られた生成物に対して、複数の方向から、すなわち2以上の方向から冷却ガスを供給することが好ましい。これは熱処理工程で得られた生成物に対して2以上の方向から冷却ガスを供給することで、特に急速に冷却でき、異相の発生を抑制できるからである。
【0071】
冷却ガスは、不活性ガスとO2の混合ガスが望ましい。不活性ガスとしては、Ar等の希ガスやN2などを用いることができる。コストを考慮して不活性ガスとしてはN2を好ましく用いることができる。このため、冷却ガスとしては、N2とO2との混合ガスを好適に用いることができる。冷却ガスは、酸素濃度が1体積%以上5体積%以下であることが好ましい。
【0072】
冷却ガスがO2を含むことで、熱処理工程で進行した還元反応を積極的に停止できる。このため、異相の生成を特に抑制できる。
(還元処理工程)
熱処理工程、冷却工程を経て得られた粒子、具体的には複合タングステン酸化物粒子は、赤外線吸収特性を発現しない場合があった。そこで、本発明の発明者らが検討を行ったところ、熱処理工程、冷却工程を経て得られた複合タングステン酸化物粒子について還元処理を行う還元処理工程をさらに実施することで、複合タングステン酸化物粒子は、より確実に赤外線吸収特性を発現できることを見出した。
【0073】
このため、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法は、冷却工程後に、得られた粒子を、還元性ガスを含む雰囲気下で還元処理する還元処理工程を有することが好ましい。
【0074】
還元処理の条件は特に限定されないが、還元処理後の複合タングステン酸化物粒子をX線回折パターンにより解析した場合に、金属のタングステン等が析出しないように還元処理の条件を選択することが好ましい。
【0075】
還元処理工程では、冷却工程後に得られた複合タングステン酸化物粒子を、還元性ガスを含む還元雰囲気下で昇温と降温を行うことで、すなわち熱処理を行うことで還元処理できる。
【0076】
還元処理工程の間、複合タングステン酸化物粒子は撹拌しても静置してもよく、還元処理工程での複合タングステン酸化物粒子の取り扱いは適宜選択できるが、金属のタングステンが析出しないように取扱い条件を選択することが好ましい。
【0077】
還元処理の温度(還元処理温度)は、400℃より高く700℃未満であることが好ましく、500℃以上700℃未満であることがより好ましく、600℃以上700℃未満であることがさらに好ましい。なお、室温から、還元処理の温度まで昇温後、再び室温まで降温することができる。ここでの室温は昇温開始前、または降温後の温度であり、周囲の温度もしくは周囲の温度に近い温度を意味している。
【0078】
還元処理の温度を400℃より高くすることで複合タングステン酸化物粒子について還元処理を進め、赤外線吸収特性をより確実に発揮できる。また、700℃未満とすることで、複合タングステン酸化物粒子が金属タングステンに還元されることを防止できる。
【0079】
還元雰囲気は、アルゴンなどの不活性ガスと、H2ガス(水素ガス)等の還元性ガスとの混合ガスによる雰囲気とすることが好ましく、還元性ガスはH2ガスが望ましい。
【0080】
還元性ガスとしてH2ガスを用いる場合、還元雰囲気中のH2ガスの含有量は、適宜選択できるが、H2ガスの含有量は、体積割合で0.1体積%以上10体積%以下の範囲が好ましく、2体積%以上10体積%以下の範囲がより好ましい。還元性ガスのみの雰囲気で還元すると、還元反応が過剰に進み金属のタングステンが析出することがあるので注意が必要である。
【0081】
還元処理工程の時間は、昇温から、降温までの全時間で30分以上とすることが望ましい。還元処理工程の時間の上限は特に限定されず、例えば過度に還元が進行しないように予備試験等を行い、選択することが好ましい。なお、ここでいう昇温から降温までの全時間とは、室温から昇温を開始し、還元処理温度に達した後、室温に冷却するまでの時間を意味する。なお、係る時間、複合タングステン酸化物粒子は、既述の還元雰囲気下に置かれていることが好ましい。
【0082】
このように還元処理工程を実施することで、そのメカニズムは明らかではないが、冷却工程後に得られた複合タングステン酸化物粒子について、X線回折パターンで確認された例えばCsW1.6O6相やCs2O相等の異相をCs0.32WO3相に変換させることもできる。このため、還元処理工程を実施することで、赤外線吸収特性にあまり寄与しない異相を、赤外線吸収特性を発揮できる目的の相とすることもできるため、特に赤外線吸収特性に優れた複合タングステン酸化物粒子を得ることが可能になる。
【0083】
また、本発明の発明者の検討によれば、冷却工程後に得られる複合タングステン酸化物粒子は、2種類の複合タングステン酸化物結晶の相を含む場合がある。具体的には、a軸の格子定数が7.400Å以上7.405Å以下、c軸の格子定数が7.680Å以上7.700Å以下の第1結晶構造と、a軸の格子定数が7.415Å以上7.420Å以下、c軸の格子定数が7.600Å以上7.620Å以下の第2結晶構造との2相の結晶構造を含有する場合がある。しかし、還元処理工程を行うことで、係る2種類の結晶構造の相から、赤外線吸収特性に優れた結晶構造を有する複合タングステン酸化物粒子とすることができる。
【0084】
すなわち、上記2つの結晶構造を経由して、赤外線吸収特性に優れた複合タングステン酸化物粒子を調製することもできる。
(3)複合材料製造装置
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法に好適に用いることができる複合材料製造装置の構成例について以下に説明する。
【0085】
図1は、複合材料製造装置10を模式的に示した図である。
【0086】
複合材料製造装置10は、エアロゾル形成部11と、輸送部21と、反応部31と、冷却部41、回収部51とを有することができる。
【0087】
(エアロゾル形成部)
エアロゾル形成部11には、エアロゾル発生管12と撹拌部14と混合原料粉末を撹拌部14に供給する粉末供給部16を備える。エアロゾル発生管は管状で撹拌部14と繋がる開口部13を備える。撹拌部14は、回転するブラシ15を備える。開口部13でブラシ15は、エアロゾル発生管12に露出するように配されている。また、ブラシの代わりに撹拌翼を用いても良い。
【0088】
粉末供給部16は、混合原料粉末を格納する原料リザーバ17、撹拌部に混合原料粉末を送り出すピストン18を有することができる。ピストン18の移動速度で混合原料粉末の供給速度が制御できる。ピストンの代わりに公知のスクリューフィーダ等を用いることができる。
【0089】
さらに、エアロゾル発生管12は、外部から供給されるキャリアガスの流量を制御するレギュレータ19を接続し、複合材料製造装置10にキャリアガスを供給する機能も備えることができる。
【0090】
(輸送部)
輸送部21は、エアロゾル形成部11と、反応部31との間に設けることができる。具体的には、エアロゾル発生管12について、キャリアガスの下流側で輸送部21に接続し、輸送部21は反応部31の配管32に接続できる。輸送部21により、エアロゾル発生管12から配管32へエアロゾルを供給できる。
【0091】
(反応部)
反応部31では、既述の熱処理工程を実施することができる。このため、反応部31は、例えば
図1に示したように耐熱性の配管32と、該配管32を加熱するヒーター33とを有することができる。
【0092】
配管32としては、例えばセラミック製の配管を用いることができる。不純物の混入を避ける観点から純度の高いAl2O3製の炉心管を用いるのが好ましい。炉心管のコストを下げる場合はムライトなどを用いることもできる。
【0093】
反応部31の配管32の長さL32は特に限定されるものではなく、熱処理工程の所定の温度まで加熱することができ、熱処理工程の時間を十分に確保できるように選択することが好ましい。
【0094】
反応部31の配管32の長さL32は、所定の温度まで加熱し、熱処理工程の時間を十分に確保する観点から1m以上であることが好ましい。配管32の長さの上限は特に限定されないが、過度に長くすると多くのキャリアガスを要することになり、また装置のサイズも大きくなることから、5m以下であることが好ましい。
【0095】
また、配管32の直径D32についても特に限定されないが、生産性の観点から1cm以上であることが好ましい。配管32の直径D32の上限値は特に限定さないが、その中心部と、壁面部との温度差が過度に大きくならないように選択することが好ましく、配管32の直径D32は例えば20cm以下であることが好ましい。
【0096】
なお、配管32の直径D32とは、配管32の内径を意味する。
【0097】
反応部31の配管32は、その長手方向に沿って温度勾配を有するのが通常である。そこで、例えば、反応部入口32A側の温度が低く、反応部出口32Bに向かって温度が上昇するように構成できる。
【0098】
そして、反応部出口32B近傍に温度が1000℃以上となる温度領域を形成できるように、各種条件を設定することが好ましい。
【0099】
また、特に既述の熱処理工程において被処理物を1000℃以上の温度で熱処理する場合には、反応部出口32B近傍に温度が1000℃以上となる温度領域を形成できるように、各種条件を設定することが好ましい。また、熱処理工程において、例えば1000℃以上の温度での熱処理時間を1秒以上とする場合、反応部31内の1000℃以上となる温度領域を、被処理物が通過する時間が1秒以上となるように、各種条件を設定することが好ましい。具体的には例えば、配管32内の温度分布を予め測定しておき、キャリアガスの供給速度等を調整することが好ましい。
【0100】
ただし上記形態に限定されず、配管32の長手方向に沿った温度勾配を形成せず、配管32の長手方向の温度をほぼ均一にし、所定の温度以上の温度領域を形成できるように各種条件を設定してもよい。
【0101】
冷却部41は、冷却容器42と冷却ガスを導入する冷却ガス導入管44と熱電対45とを有することができる。冷却容器42は、接続部43を備え、接続部43を反応部出口32Bに接続し、反応部31から吐出された高温ガスを受けることができる。また、反応部出口32Bと冷却容器42の距離、すなわち接続部43の長さL43はできる限り短くすることが好ましく、接続部43の長さL43は長くても20cm以下、好ましくは10cm以下、さらに好ましくは7cm以下である。そして、反応部出口32Bと接続部43の接合部分からキャリアガスが漏れることを防ぐためアルミナなどのセラミックスを主成分とする市販の耐熱セラミックス接着剤で封止することが好ましい。反応部出口32B付近でキャリアガスが漏れると、本実施形態では、キャリアガスにH
2を含むので、該水素が大気に触れて反応し、燃焼する場合があり、燃焼に起因する熱が系外に逃れることにより、得られる複合タングステン酸化物粒子の特性等に影響する恐れがある。冷却ガス導入管44には図示しない冷却ガス供給手段を接続できる。
図1では1つの冷却ガス導入管44を設けた例を示したが、係る形態に限定されない。例えば接続部43の周囲を囲む2方向以上の冷却ガス導入管44を備えても良い。例えば、反応部31で加熱され接続部43から導入する高温ガスに向かって3方向から冷却ガスを導入できるように冷却ガス導入管を接続部43の周囲に120°の間隔で配置することもできる。このように複数の冷却ガス導入管を設け、複数の方向から冷却ガスを供給することで、高温ガス(吐出ガス)が含有する熱処理工程での生成物を急速に、また効率的に冷却できる。このため、異相の発生を特に抑制できる。
【0102】
例えば既述の熱電対45により冷却容器42内の温度を測定し、冷却ガスの供給速度や、温度等を制御するように構成してもよい。
【0103】
回収部51では、冷却部41で冷却された複合タングステン酸化物粒子を回収できる。回収部51の構成は特に限定されるものではなく、製造する複合タングステン酸化物粒子の粒子径等に応じて選択することができる。回収部51としては、例えば各種フィルター52を用いることができる。もしくは、静電型捕集器を用いることができる。回収部51の下流にはバルブ61とポンプ62をそれぞれ設けることができる。
(還元処理装置)
還元処理装置では、既述の還元処理工程を実施することができる。
【0104】
還元処理装置は、既述の還元処理工程を実施できるように構成されていればよく、特に限定されない。例えば、既述の複合材料製造装置で得られた粒子である複合タングステン酸化物粒子を格納する容器と、該容器内に、該容器内を還元雰囲気とする混合ガスを供給するガス配管と、該容器を加熱する熱源を備えればよい。
【0105】
なお、容器内に、該容器内を還元雰囲気とする混合ガスを導入、排気し、被処理物である複合タングステン酸化物粒子を該混合ガスの気流下に置くこともできる。この場合には、係る気流を形成できるように、ガス配管として混合ガスの供給配管、及び排気配管を設けておくことができる。
【0106】
また、容器内の複合タングステン酸化物粒子を撹拌する撹拌羽なども併用してもよい。
【0107】
図2は還元処理装置の一構成例を模式的に示した図であり、還元処理装置70の反応管71の中心軸を通る面での断面図を示している。
【0108】
還元処理装置70は、横型の管状炉であり、反応管71の一方の口71Aに図示しないガス導入管を、該管状炉の他方の口71Bに図示しないガス排気管を取り付けて用いることができる。そして、一方の口71A側から還元雰囲気とする混合ガスを供給することで、反応管71内を還元雰囲気とすることができる。
【0109】
反応管71の周囲にはヒーター72を設けておくことができ、複合タングステン酸化物粒子は、ボート等のセラミック製の容器73に入れ、管状炉の反応管71内のヒーター72に対応した位置に配置できる。
【0110】
係る還元処理装置70を用い、反応管71内を還元雰囲気とし、ヒーター72により所望の温度に加熱することで、容器73に入れられた複合タングステン酸化物粒子74の還元処理を行うことができる。
【0111】
以上に説明した本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法によれば、エアロゾル形成部や、ヒーター等の導入コストの低い設備を用いることができ、工程数も少なくすることができ、これにより容易に複合タングステン酸化物粒子を製造できる。
【実施例】
【0112】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)評価方法について
(1-1)粉末X線回折
以下の実施例、比較例で得られた複合タングステン酸化物粒子について、粉末X線回折装置(Bruker社製 型式:D2 PHASER)を用い、粉末X線回折パターン(XRDパターン)の測定を行った。なお、線源としてはCuKα線を用い、管電圧40kV、管電流30mAとして粉末X線回折パターンの測定を行った。
(1-2)TEM像観察
得られた複合タングステン酸化物粒子について、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope 日本電子株式会社製 型式:JEM-2011)を用いて観察を行った。観察は印加電圧を200kVとして行った。
(1-3)可視光透過率、日射透過率(Visible Light Transmittance、Solar Transmittance)
インクの光学特性は、分光光度計(日立製作所株式会社製 U-4100)を用いて測定し、可視光透過率と日射透過率とは、JIS R 3106(2019)に従って算出した。
(2)実施例、比較例について
(2-1)実施例1、比較例1~比較例4
[実施例1]
実施例1は固体噴霧熱分解法で粒子の合成である。合成方法について説明する。
【0113】
図1に示した複合材料製造装置10を用いて、複合タングステン酸化物粒子として、Cs
0.32WO
3粒子の製造を行い、評価を行った。以下、具体的な条件について説明する。
【0114】
図1に示した複合材料製造装置10は、エアロゾル形成部11と、輸送部21と、反応部31と、冷却部41と、回収部51とを有している。エアロゾル形成部11と、輸送部21と、反応部31と、冷却部41、回収部51とは配管により接続されている。
【0115】
エアロゾル形成部11は、エアロゾル発生管12と撹拌部14と混合原料粉末を撹拌部14に供給する粉末供給部16を備える。エアロゾル発生管12は管状で撹拌部14と繋がる開口部13を備える。撹拌部14は、回転するブラシ15を備える。開口部13でブラシ15は、エアロゾル発生管12に露出するように配されている。
【0116】
粉末供給部16は、混合原料粉末を格納する原料リザーバ17、撹拌部に混合原料粉末を送り出すピストン18で構成される。
【0117】
さらに、エアロゾル発生管12は、図示しないキャリアガスタンクから供給されるキャリアガスの流量を制御するレギュレータ19が接続されていて、複合材料製造装置10にキャリアガスを供給する機能も備える。
【0118】
まず、W源原料粉末として、H2WO4で表される酸化タングステンの粉末を準備した。
【0119】
また、M元素源原料粉末として、炭酸セシウム(シグマアルドリッチ社製)を準備した。炭酸セシウムは水に溶解し、水溶液として用いた。
【0120】
そして、Cs2CO3水溶液とH2WO4粉末とを物質量の比でCs/W=0.33となるように混合した後、100℃で12時間乾燥し、混合原料粉末を得た。混合原料粉末をSEMで確認したところ、1μm以上2μm以下の粒子径の粉末であった。
【0121】
(エアロゾル形成工程)
エアロゾル形成部11において、1000rpm以上で高速に回転するブラシ15に対して、粉末供給部16から2g/Hrの供給速度で混合原料粉末を押し出した。ブラシ15によりキャリアガス中に分散された混合原料粉末はエアロゾルとなる。エアロゾルは、輸送部21を介して、反応部31に搬送される。すなわち、エアロゾル形成工程で形成されたエアロゾルは熱処理工程へと供給されることになる。
【0122】
キャリアガスの流量は混合原料粉末を十分に分散させるため10L/minとした。
【0123】
キャリアガスとしては、アルゴンガスと水素ガスとの混合ガスを用いた。なお、金属タングステンの生成を抑制しつつ、製造する複合タングステン酸化物粒子に酸素欠損を導入するため、0.5体積%の水素ガスを含有する、0.5体積%H2/Arガスを用いた。
【0124】
反応部31は、セラミック製の配管32を備えており、該配管32としては、長さL32が1m、直径D32が13mmの円筒形状の管を用いた。なお、直径D32は、配管32の内径を意味する。
【0125】
反応部31は、ヒーター33の温度を1300℃に設定した。
図3に反応部31内の温度プロファイルを示す。横軸の位置は反応部出口32Bからの距離を示し、配管32の中心軸に沿って測定した温度プロファイルとなる。キャリアガスの導入により、炉体で加熱された高温度領域が吐出方向側、すなわち反応部出口側にシフトした。この高温度領域から、反応部出口側に位置する温度の低い低温度領域に向かう温度変化領域で複合タングステン酸化物粒子の析出、凝縮反応が進行したと推察される。
【0126】
(冷却工程)
冷却部41は、ガラス製の冷却容器42と冷却ガスを導入する冷却ガス導入管44と熱電対45とで構成される。冷却容器42は、接続部43を備え、接続部43を反応部出口32Bに接続し、反応部31から吐出された高温ガスを冷却容器42内に導入するように構成した。反応部出口32Bと冷却容器42との間の距離を短くするため接続部43の長さL43を5cmとし、反応部出口32Bと接続部43との接合部分は市販のアルミナ耐熱接着剤で封止した。反応部31で加熱され接続部43から導入する高温ガス(吐出ガス)に向かって3方向から冷却ガスを導入できるように冷却ガス導入管を接続部43の周囲に120°の間隔で3つ配置した。冷却ガスには、窒素と酸素との混合ガスを用い、酸素濃度は3体積%であった。すなわち、冷却ガスには3体積%O2/N2ガスを用いた。また、冷却ガスは、上記3つの冷却ガス導入管から合計で10L/minの供給速度で供給した。
【0127】
回収部51には、フィルター52としてバグフィルターを配置し、冷却部41で冷却工程を終え、形成された複合タングステン酸化物粒子を回収できるように構成した。
【0128】
以上の条件により、複合タングステン酸化物粒子の製造を行った。
【0129】
実施例1では、上述のように反応部31における炉体温度を1300℃に設定した。すなわち熱処理工程において、供給されたエアロゾルは、1300℃まで昇温され、1300℃で熱処理を行った。なお、1000℃以上の熱処理温度での熱処理時間は0.8秒間であった。
【0130】
[比較例1]
比較例1では、キャリアガスとして、1体積%の水素ガスを含有する1体積%H2/Arガスを用いた。以上の点以外は、実施例1と同様に合成を行った。
[比較例2]
比較例2では、キャリアガスとして、3体積%の水素ガスを含有する3体積%H2/Arガスを用いた。以上の点以外は、実施例1と同様に合成を行った。
[比較例3]
比較例3では、熱処理工程における炉体温度を1100℃とし、キャリアガスとして、3体積%の水素ガスを含有する3体積%H2/Arガスを用いた。以上の点以外は、実施例1と同様に合成を行った。
[比較例4]
比較例4では、熱処理工程における炉体温度を1200℃とし、キャリアガスとして、3体積%の水素ガスを含有する3体積%H2/Arガスを用いた。以上の点以外は、実施例1と同様に合成を行った。
【0131】
回収部51で回収された複合タングステン酸化物粒子についての評価を行った。
【0132】
図4(A)、
図4(B)に実施例1、比較例1~比較例4のXRD測定結果を示す。何れの条件でも主相には、Cs
0.33WO
3相が確認された。
【0133】
実施例1、比較例1~比較例4では、混合原料粉末をエアロゾルとして分散させた状態で加熱するため、数秒の焼成時間でもCs0.33WO3相までの熱分解反応が進行することを確認できた。
【0134】
図4(A)には、キャリアガスに3体積%H
2/Arを用い、炉体温度を1100℃から1300℃まで変えて合成した比較例2~比較例4の複合タングステン酸化物粒子のXRD測定結果を示した。炉体温度を上昇するとCs
0.33WO
3相のピークに対する、2θが40deg付近のW相(ICDD 04-0806)のピークの割合が増加することを確認できた。炉体温度を1300℃とした比較例2では、還元の影響が強く、金属W相の割合が大きいことを確認できた。
【0135】
一方、W相の割合の少ない炉体温度を1100℃とした比較例3の複合タングステン酸化物粒子の形状をTEMにより確認したところ、
図5(A)に示すようにアモルファス粒子が纏わりついた粒子径が500nm以上の角形粒子が確認できた。また、
図5(B)に示すように数十nmサイズの球状粒子が確認できた。すなわち炉体温度が1100℃では粒子径が比較的大きな複合タングステン酸化物粒子が得られることを確認できた。
【0136】
従って、より微細な粒子を得ることを目的とする場合には、熱処理工程における温度がより高温であることが好ましいと推察される。そこで、より微細な複合タングステン酸化物粒子を得ることを目的として、熱処理温度を1300℃とし、キャリアガス中の水素濃度を変化させた例である実施例1、比較例1、比較例2において得られた複合タングステン酸化物粒子のXRD測定結果を
図4(B)に示す。
【0137】
実施例1、比較例1、比較例2の比較から、キャリアガス中の水素濃度の低下によりCs0.33WO3相のスペクトル強度に対する金属W相のピーク強度の大きさが大幅に低下することを確認できた。
【0138】
図6(A)~
図6(D)に、キャリアガスとして1体積%H
2/Arガスを用いた比較例1で得られた複合タングステン酸化物粒子のTEM像を示す。
図6(E)に、
図6(D)中の点線Aで囲まれた領域と、点線Bで囲まれた領域について、EDS分析した結果を示す。
図6(A)、
図6(B)に示すように、粒子径が100nm以下と、比較例3の場合と比較して微細な複合タングステン酸化物粒子が得られていることを確認できた。
【0139】
ただし、比較例1で得られた複合タングステン酸化物粒子についてEDS分析を行ったところ、内部にあるコントラストの高いコア部は金属のWであり、シェル部はCWO相であることを確認できた。これは混合原料粉末が昇華した際に、WO6八面体は分解してWまで還元し、W原子のみが核生成してその周囲にCs0.33WO3相がシェル相として粒子成長したためと推察される。
【0140】
これに対して、キャリアガス中の水素濃度を0.5体積%まで低減させた実施例1では、
図4(B)に示したXRD測定結果においてWのピークが消失していることが確認できた。また、
図7(A)、
図7(B)に実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子のSEM像を示す。
図7(A)、
図7(B)に示すように、粒子径が200nm以下と、比較例3の場合と比較して微細な複合タングステン酸化物粒子が得られていることを確認できた。
(2-2)実施例2、実施例3
[実施例2]
実施例2では、実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子を500℃、3体積%H
2/Arの混合ガス雰囲気で1時間還元処理を行った(還元処理工程)。還元処理には
図2に示した還元処理装置70を用いた。
【0141】
還元処理装置70は、横型の管状炉であり、セラミック製のボートである容器73に実施例1で合成した複合タングステン酸化物粒子を入れ、該容器73が反応管71内の最高温度、すなわち上記還元処理温度となる位置に配置した。そして、一方の口71Aから他方の口71Bへ、3体積%の水素ガスを含有する、水素とアルゴンとの混合ガスを流しながら、還元処理を行った。
[実施例3]
実施例3では、実施例2で得られた複合タングステン酸化物粒子2質量%と残部を分散媒であるメチルイソブチルケトンとして分散液であるインクを作製した。インクは0.3mmφZrO2ビーズを用いて、上記複合タングステン酸化物粒子と、分散媒とについて、120分間ペイントシェーカで分散、粉砕処理を行い作製した。また、実施例3に係るインクから溶媒を乾燥除去して実施例3に係る複合タングステン酸化物粒子を作製し、評価した。
【0142】
図8(A)~
図8(I)に実施例1~実施例3の複合タングステン酸化物粉末のTEM像を示す。
図8(A)~
図8(C)が実施例1の、
図8(D)~
図8(F)が実施例2の、
図8(G)~
図8(I)が実施例3の複合タングステン酸化物粒子のTEM像になる。
【0143】
図8(A)~
図8(C)より、実施例1に係る複合タングステン酸化物粒子は、粒子径が最大で200nmサイズの角形粒子と80nm以下の六角柱ナノ粒子から構成されていることを確認できた。
図8(B)に示した80nm以下の粒子としては、六角形型と四角形型の粒子が観察された。
図8(C)に六角柱型の粒子の高分解像を示す。
図8(C)に示した高分解像によれば、CWO相(複合タングステン酸化物相)の200面に帰属する3.18Åの格子縞を確認できた。しかし、
図8(C)中に丸で囲って示した格子縞の不明瞭な箇所や、矢印で示した格子縞が途中で途切れる箇所が確認できた。これらはW原子もしくはCs原子が脱離した箇所である可能性が示唆される。
【0144】
図8(D)、
図8(E)に示したTEM像から、実施例2に係る複合タングステン酸化物粒子は、緩やかに凝集しはじめ、粒子径が50nm以上200nm以下程度の範囲にまで粒子成長しているように観察された。なお、
図9(A)、
図9(B)に実施例2に係る複合タングステン酸化物粒子のSEM像を示す。
図9(A)、
図9(B)からも、粒子径について同様の傾向が確認できた。
【0145】
図8(F)に実施例2に係る複合タングステン酸化物粒子の内部構造について、高倍率で観察した結果を示す。
図8(F)から、明瞭な002面に帰属する3.64Åの格子縞を確認できた。
【0146】
図8(G)、
図8(H)から、実施例3に係る複合タングステン酸化物粒子は、50nm以上100nm以下程度の丸みを帯びた粒子と50nm以下の鱗片状粒子が確認された。鱗片状粒子をさらに高倍率で観察した
図8(I)から、数nmから数十nmサイズの粒子を確認できた。
(2-3)比較例5~比較例7
[比較例5]
比較例5は液体噴霧熱分解法で粒子の合成である。
【0147】
比較例5では、
図10に示す複合材料製造装置80を用いて複合タングステン酸化物粒子の製造を行い、評価を行った。
【0148】
図10に示す複合材料製造装置80は、
図1に示した複合材料製造装置10のエアロゾル形成部11を液滴形成部81に替えた点以外は同じ構成を有する。このため、同じ部材には同じ番号を付け、説明を省略する。
【0149】
図1に示した複合材料製造装置10が、混合原料粉末をエアロゾル化するに対し、複合材料製造装置80は、タングステン源を含む溶液とM元素源を含む溶液から液滴を形成する点が異なる。複合材料製造装置80について説明する。
【0150】
図10に示した複合材料製造装置80は、液滴形成部81と、輸送部21と、反応部31と、冷却部41と、回収部51とを有しており、液滴形成部81と、輸送部21と、反応部31と、冷却部41と、回収部51とは配管により接続されている。
【0151】
液滴形成部81には、原料溶液であるタングステン源を含む溶液を格納する第1格納部83、M元素源を含む溶液を格納する第2格納部84、液滴形成部81で形成した液滴を輸送部21等に搬送するためのキャリアガスを収納したキャリアガスタンク87を接続しておいた。
【0152】
複合材料製造装置80の液滴形成部81には、超音波噴霧装置を用いており、超音波照射部82より、装置内の溶液に超音波が照射され、液滴が形成される。
【0153】
比較例5では、タングステン源を含む溶液として、(NH4)10(W12O41)・5H2Oで表されるパラタングステン酸アンモニウム(ATP)(関東化学製 純度:88~90%)、および超純水を用いて10mmol/Lのパラタングステン酸アンモニウム水溶液を調製した。そして、係るパラタングステン酸アンモニウム水溶液は、第1格納部83に入れ、第1格納部83に配管で接続された液滴形成部81に、ポンプ85により連続して供給されるように構成した。
【0154】
また、M元素源を含む溶液として、炭酸セシウム(シグマアルドリッチ社製)、および超純水を用いて19.2mmol/Lの炭酸セシウム水溶液を調製した。そして、係る炭酸セシウム水溶液は、第2格納部84に入れ、第2格納部84に配管で接続された液滴形成部81に、ポンプ86により連続して供給されるように構成した。
【0155】
なお、上述のようにポンプ85、86により第1格納部83、および第2格納部84から、配管を介して液滴形成部81に各溶液が一定の流速で供給され、液滴形成部81上部で両溶液が混合され原料混合溶液が形成されるように構成されている。そして、液滴形成部81内で形成される原料混合溶液中の1モルのタングステンに対するセシウムのモル数の割合が0.32となるように供給速度、及び各溶液の濃度を調整した。原料混合溶液中では、5mmol/Lのパラタングステン酸アンモニウムと9.6mmol/Lの炭酸セシウムとが含まれる。
【0156】
液滴形成部81には、上述のようにキャリアガスタンク87が接続されており、キャリアガスタンク87には、キャリアガスとして0.5%H2/Arの混合ガスを充填しておいた。そして、複合タングステン酸化物粒子を製造している間、液滴形成部81には上記キャリアガスが10L/minの流量で供給されるように構成した。
【0157】
反応部31、冷却部41、回収部51は、実施例1の場合と同様に構成したため、ここでは説明を省略する。
【0158】
キャリアガスにより液滴形成部81で発生させた液滴を反応部31に供給し、熱処理工程を実施した。なお、キャリアガスの流量は10L/minとした。
【0159】
反応部31の炉体温度は1300℃に設定しており、反応部31の配管32内は、
図3に示した温度分布を有していた。反応部31に供給された液滴は1300℃まで昇温され、1000℃以上の熱処理温度で0.4秒間熱処理がなされた(熱処理工程)。
【0160】
熱処理工程を終えて得られた生成物は冷却部41に供給され冷却された後、回収部51で回収した。なお、冷却ガスには3体積%O
2/N
2ガスを用い、冷却ガスは、3つの冷却ガス導入管から合計で10L/minの供給速度で供給した。
[比較例6]
比較例6では、比較例5で得られた複合タングステン酸化物粒子を600℃、3体積%H
2/Arの混合ガス雰囲気で1時間還元処理を行った(還元処理工程)。還元処理には
図2に示した還元処理装置70を用いた。
[比較例7]
比較例7では、比較例6で得られた複合タングステン酸化物粒子2質量%と残部を分散媒であるメチルイソブチルケトンとして、分散液であるインクを作製した。インクは0.3mmφZrO
2ビーズを用いて、上記複合タングステン酸化物粒子と、分散媒とについて、120分間ペイントシェーカで分散、粉砕処理を行い作製した。
【0161】
実施例3に係るインクと比較例7に係るインクの透過プロファイルを
図11(A)に示す。
図11(A)に示した透過プロファイルによれば、実施例3は、比較例7よりも波長700nm以上900nm以下の範囲での透過率の低下が急になっている。
【0162】
これは、以下に説明するように、実施例3の元となる実施例1で得られたCs0.32WO3粒子が、比較例7の元となる比較例5で得られたCs0.32WO3粒子よりもわずかに大きかった影響と推察される。
【0163】
図12(A)~
図12(D)に、比較例5で得られた複合タングステン酸化物粒子のTEM像を示す。同じ観察倍率である、
図12(A)に示した比較例5の複合タングステン酸化物粒子と、
図8(B)に示した実施例1の複合タングステン酸化物粒子とを比較すると、実施例1と比較して、比較例5の方が微細化していることを確認できる。すなわち、液体噴霧熱分解法で合成した複合タングステン酸化物粒子は、固体噴霧熱分解法で合成した粒子よりも微細化することを確認できた。
【0164】
このため、固体噴霧熱分解法で合成した粒子は液体噴霧熱分解法で合成した複合タングステン酸化物粒子よりもわずかに大きな粒子を含み、レイリー散乱の影響が大きくなると予測される。
図13(A)~
図13(D)に比較例6の複合タングステン酸化物粒子のTEM像も示す。
【0165】
ここで、
図11(A)において波長780nm以上の赤外線領域の吸収特性は、固体噴霧熱分解法で合成した実施例3で得られた複合タングステン酸化物粒子の方が、液体噴霧熱分解法で合成した比較例7で得られた複合タングステン酸化物粒子よりも10%程度優れることを確認できた。
【0166】
また、
図11(B)に、実施例3と比較例7に係るインクを溶媒のメチルイソブチルケトンで希釈しながら、可視光透過率であるVisible Light Transmittanceと、日射透過率であるSolar Transmittanceの関係を求めた結果を示す。
【0167】
図11(B)において、実施例3、比較例7のインクを同じVisible Light Transmittance(可視光透過率)で比較すると、実施例3のインクの方がSolar Transmittance(日射透過率)が低くなることを確認できた。すなわち、固体噴霧熱分解法で合成した複合タングステン酸化物粒子のインクである実施例3のインクは、液体噴霧熱分解法で合成した複合タングステン酸化物粒子のインクである比較例7のインクと比較して、赤外線吸収特性が優れることを確認できた。固体噴霧熱分解法で合成した複合タングステン酸化物粒子のインクの赤外線吸収特性が、液体噴霧熱分解法で合成した複合タングステン酸化物粒子のインクより優れていたのは、エアロゾル形成時の溶媒の影響が除去され、結晶構造への影響が弱まったためと推察される。
【0168】
図14(A)~
図14(D)に実施例1の複合タングステン酸化物粒子と、実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子をさらに還元処理工程に供した実施例2で得られた複合タングステン酸化物粒子のSTEMによる001入射で観察したSTEM-HAADF像を示す。
図14(A)、
図14(B)が実施例1の複合タングステン酸化物粒子のSTEM-HAADF像であり、100面、010面、110面の至る箇所にコントラストの低い領域が確認され、CsおよびWが共に欠損した構造であることを確認できた。
【0169】
図14(C)、
図14(D)に、実施例1の複合タングステン酸化物粒子について還元処理を行った実施例2の複合タングステン酸化物粒子についてのSTEM-HAADF像を示す。
図14(C)、
図14(D)によれば、
図14(A)、
図14(B)で確認されたコントラストの低い領域が低減していることを確認できた。このため、還元処理を行うと、結晶内部に導入された欠損構造はほぼ消失し、結晶構造中の再配列が進行したと推察される。
【0170】
図15(A)に、実施例1、実施例2、比較例5、比較例6のXRDプロファイルを示す。さらに、
図15(B)に、
図15(A)のXRDプロファイルの2θが20°から30°の範囲を詳細に示した図を示す。
図15(B)より実施例1ではXRDプロファイル中の23度付近のピークは2つに分離していることが確認された。
【0171】
実施例1、実施例2、比較例5、比較例6で得られた複合タングステン酸化物粒子のXRDプロファイルをCs
0.32WO
3相、(Cs
2O)
0.44W
2O
6相、W相にフィッティングし、各相の割合を算出した。
図16に実施例1、実施例2、比較例5、比較例6で合成した粉末中の結晶相の質量割合を示す。なお、Cs
0.32WO
3相については、Cs、Wの座標、および格子定数を可変のパラメータとし、温度因子や、各サイトの占有率は固定してフィッティングを行った。(Cs
2O)
0.44W
2O
6相、W相については、各元素の座標、格子定数についても固定してフィッティングを行った。
【0172】
実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子は、Cs0.32WO3結晶相(Cs0.32WO3-A相)の割合が30.48質量%、Cs0.32WO3結晶相(Cs0.32WO3-B相)の割合が55.18質量%、(Cs2O)0.44W2O6相は13.45質量%、W相は0.89質量%という割合で構成された。
【0173】
実施例1の複合タングステン酸化物粒子について還元処理を行った実施例2の複合タングステン酸化物粒子では、2つに分離していたCs0.32WO3結晶相は、ほぼ1相のCs0.32WO3結晶相(Cs0.32WO3-C相)まで単相化されていることが確認できた。そして、Cs0.32WO3結晶相(Cs0.32WO3-C相)の割合は88.42質量%まで到達した。
【0174】
リードベルト解析で算出される格子定数は、実施例1のCs0.32WO3-A相のa軸が7.42014Å、c軸が7.59587Å、Cs0.32WO3-B相の格子定数は、a軸が7.40041Å、c軸が7.68855Åであった。また、実施例2のCs0.32WO3-C相の格子定数は、a軸が7.40382Å、c軸が7.61184Åであった。
【0175】
図8(A)に示したTEM像より、既述のように実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子は、数百nm程度の粒子と、80nm以下、例えば10nm程度の粒子の2種類の粒子が存在することが確認された。このため、上述のように
図15(A)の実施例1のXRDプロファイルにおいて、2θが23度付近の2つのピークが表れると考えられる。
【0176】
一方、比較例5は、Cs0.32WO3相が92.07質量%、(Cs2O)0.44W2O6相が6.76質量%、W相が1.175質量%であった。還元処理を行った比較例6ではCs0.32WO3相が93.58質量%、(Cs2O)0.44W2O6相が2.67質量%、W相が質量3.76質量%でありW相が増加する結果であった。比較例5のCs0.32WO3相の格子定数はa軸が7.40955Å、c軸が7.69694Å、比較例6のCs0.32WO3相の格子定数はa軸が7.41729Å、c軸が7.61101Åであった。
【0177】
図17に実施例1、実施例2、比較例5、比較例6の格子定数と、比較試料であるICDD04-009-6455の格子定数との関係を示す。
図17中、比較試料はReferenceとして示している。実施例1のCs
0.32WO
3-A相は、比較試料と比較して、右下に位置した。本結晶は、比較試料よりも右下という傾向から非特許文献5で報告されたCsの少ないCs
xWO
3相であると解釈される。
【0178】
一方、実施例1のCs0.32WO3-B相は、比較試料と比較して、左上に位置した。Cs0.32WO3-B相は、比較例5で得られた複合タングステン酸化物粒子のCs0.32WO3相と同様の傾向を示すことが確認できた。実施例1のCs0.32WO3-B相は、熱処理工程において、昇華現象に基づいて析出したCs、Wの欠損したナノサイズのCs0.32WO3粒子であると推察される。
【0179】
比較例5、比較例6の液体噴霧熱分解法で合成した複合タングステン酸化物粒子のCs0.32WO3相の格子定数は、還元処理を行ったとしても溶媒の影響が残留して結晶構造が伸張していることを確認できた。
【0180】
これに対して、固体噴霧熱分解法で合成した、実施例1、2の複合タングステン酸化物粒子は、熱処理工程でエアロゾルに原料を溶解した溶媒の影響がないため、上記比較例5、6の場合と、結晶構造が異なることを確認できた。Cs0.32WO3-A相の粒子は昇華現象によりナノ粒子のまま析出し、還元処理時には(Cs2O)0.44W2O6相と反応してCsが充填されながらCs欠損およびW欠損がほぼ減少し、酸素欠損の導入されたCs0.32WO3結晶に変化したと考えられる。一方、Cs0.32WO3-B相の粒子は、非特許文献5と同等のCsドープ反応、酸素欠損の導入が還元処理時に進行したと推察される。
【0181】
実施例1等の固体噴霧熱分解法で合成した粒子の形成メカニズムを
図18に示す。
図15に示したXRDプロファイルより、合成されたCs
0.32WO
3粒子は2つのルートを経由して析出すると考えられる。
【0182】
1つ目のルートは、昇華現象に基づき、ナノ粒子化してCsおよびWが共に脱離したCs
0.32WO
3粒子を経由するルートである。エアロゾル化された前駆体である混合原料粉末は、高温に加熱された炉体に投入されると、アモルファス化して昇華すると考えられる。気化したWはWO
6のクラスターの状態を維持して析出したと推察される。これは、
図6(A)~
図6(E)の比較例1のTEM像、EDS結果で示したように、同じ温度で還元の影響を強めるとWがコアとして析出するが、水素濃度を0.5体積%とした実施例1では、
図4(B)に示した様に、コアにWが確認されないことが根拠の一つである。
【0183】
昇華時には、Cs原子とWO6クラスターが混合されるが、Cs/W<0.33の場合はCs、Wの欠損した六方晶構造であり、Cs/W>0.33のときはパイロクロアの(Cs2O)0.44W2O6相を有するナノ粒子として冷却プロセス時に析出すると考えられる。
【0184】
一方、2つ目のルートは、通常の固相法と同じ、W化合物中へのCs挿入ルートを経由すると考えられる。熱処理工程において混合原料粉末中に含まれるW源原料粉末がアモルファス化して、その表面は昇華するが、内部は昇華せずにCs原子との混合のみが進行し、Cs4W11O35相などを経由してCs0.32WO3相として析出すると考えられる。そして、実施例1では、混合原料粉末の55質量%ほどの粒子を昇華現象に基づいてナノ粒子化できたと考えられる。
【0185】
ただし、何れのルートで合成された複合タングステン酸化物粒子も、必要に応じて還元処理や粉砕処理を行うことで、Cs/Wの組成比は仕込み比である0.33に漸近し、
図17において比較試料として示したCs
0.32WO
3と同等の結晶構造を有することを確認できた。
【0186】
比較例5の液体噴霧熱分解法で粒子の合成と、実施例1の固体噴霧熱分解法で粒子の合成での質量流量を
図19に示す。液体噴霧熱分解法で粒子の合成の質量流量は、ほぼ最大出力で3g/Hr程度であるが、固体噴霧熱分解法で粒子の合成では、容易に8g/Hrと2倍以上の生産性を示した。固体噴霧熱分解法は切り出し速度をさらに増加させるだけで400g/Hrまで容易にその供給速度を増加させることが可能である。従って、固体噴霧熱分解法は、特に生産性に優れた製造方法であることを確認できた。
【0187】
本実施例の結果から、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法によれば、液滴形成手段や、ヒーター等の導入コストの低い設備を用いて複合タングステン酸化物粒子を製造でき、工程数も抑制できることを確認できた。