(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】静菌用組成物、静菌方法及び加工食品
(51)【国際特許分類】
A23B 2/742 20250101AFI20250129BHJP
A23B 2/758 20250101ALI20250129BHJP
A23B 2/754 20250101ALI20250129BHJP
A23L 29/10 20160101ALI20250129BHJP
【FI】
A23B2/742
A23B2/758
A23B2/754
A23L29/10
(21)【出願番号】P 2021032808
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2020104067
(32)【優先日】2020-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大泉 太於
(72)【発明者】
【氏名】山中 佑莉
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 千夏
(72)【発明者】
【氏名】古川 周平
(72)【発明者】
【氏名】小野 浩
(72)【発明者】
【氏名】関口 伸美
(72)【発明者】
【氏名】木村 竜介
(72)【発明者】
【氏名】石田 亘
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 純子
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 俊之
(72)【発明者】
【氏名】徳田 慎也
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-113625(JP,A)
【文献】特開2005-124569(JP,A)
【文献】特開2020-022408(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107307016(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
A23L
Google
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルラ酸類と、
フェルラ酸以外の有機酸及び該有機酸の塩から選ばれる1種以上と、
ミリスチン酸のエステルとを含有する、静菌用組成物
であって、
フェルラ酸類100質量部に対し、
フェルラ酸以外の有機酸及び該有機酸の塩が100質量部以上5000質量部以下であり、
ミリスチン酸のエステル10質量部以上500質量部以下である、
静菌用組成物(ただし、フェルラ酸類100質量部に対し、ビタミンB1塩の含有量が1質量部以上のものを除く)。
【請求項2】
前記有機酸が酢酸であり、前記有機酸の塩が酢酸ナトリウムである、請求項1に記載の静菌用組成物。
【請求項3】
ミリスチン酸のエステルが、ジグリセリンミリスチン酸エステル及びショ糖ミリスチン酸エステルから選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の静菌用組成物。
【請求項4】
加工食品中に、フェルラ酸類の含量が0.005~0.1質量%、前記有機酸及び該有機酸の塩から選ばれる1種以上の含量が0.1~5質量%、並びにミリスチン酸のエステルの含量が0.005~0.2質量%となるように用いられる、請求項1~3の何れか1項に記載の静菌用組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の静菌用組成物を用いて食品を処理する工程を有する、静菌方法。
【請求項6】
前記工程では、該工程を経た食品のpHが4.0~7.0の範囲となるように食品を処理する、請求項5に記載の静菌方法。
【請求項7】
請求項1~4の何れか1項に記載の静菌用組成物を用いて食品を処理した後、得られた食品を凍結し、次いで12℃以下の凍結しない温度で解凍する工程を有する、請求項5又6に記載の静菌方法。
【請求項8】
請求項1~3の何れか1項に記載の静菌用組成物を含有する、加工食品。
【請求項9】
フェルラ酸類の含量が0.005~0.1質量%、前記有機酸及び該有機酸の塩から選ばれる1種以上の含量が0.1~5質量%、並びにミリスチン酸のエステルの含量が0.005~0.2質量%である、請求項8に記載の加工食品。
【請求項10】
フローズンチルド食品である、請求項8又は9に記載の加工食品。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか1項に記載の静菌用組成物を配合する工程を有する、加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の静菌用組成物及び静菌方法並びに前記静菌用組成物を含む加工食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野においては従来、主に食品の安心・安全の観点から、食品の保存性を向上させることが要望されてきた。近年は、食品の消費期限徒過等による販売店舗での食品の廃棄が問題となっており、食品の廃棄ロスを低減する観点からも、食品の保存性を向上させることが要望されている。特に、弁当や惣菜等の加工食品については、工場や店内の厨房で大量に製造された後、輸送、保存を経て消費者の手元に届くような流通及び販売形態が近年普及しているところ、このような加工食品は、容器に密封され加熱加圧処理されたレトルト食品に比べて、微生物の繁殖による腐敗や変質が問題となりやすいため、幅広い菌に有効な高レベルの静菌技術を適用する必要がある。
【0003】
従来、微生物の繁殖を抑え、食品の保存性を高める静菌剤として、酢酸、酢酸ナトリウム、フェルラ酸等の抗菌性を有する有機酸や有機酸塩、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤などが知られている。
特許文献1にはフェルラ酸類と有機酸、有機酸塩及びキトサンの少なくとも1種とを有効成分として含有する食品保存剤が記載されている。
特許文献2には、ビタミンB1塩とフェルラ酸類とを含有する食品保存剤が記載されている。
特許文献3にはジグリセリン脂肪酸エステルと、有機酸及び/又はその塩、アミノ酸及びアルコールからなる群から選択される少なくとも1種以上の成分と、を含有する食品の保存性向上剤が記載されている。
特許文献4には、フェルラ酸及びショ糖脂肪酸エステルを含む静菌剤が記載されている。
特許文献5には、キトサン分解物、フェルラ酸、グリシン及びアラニンの少なくとも一方とが配合された食品保存剤が記載されている。
特許文献6には、(a)グリシン、(b)重合リン酸塩、(c)有機酸、(d)モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル及びトリグリセリン脂肪酸エステルのいずれか1種以上、(e)リゾチームを含有する蒸し物用日持ち向上剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-168449号公報
【文献】特許第2008-113625号公報
【文献】特開2001-161号公報
【文献】特開2007-267632号公報
【文献】特開2011-92018号公報
【文献】特開2015-181466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加工食品においては製造環境中に存在する種々の微生物による腐敗や変質を防止することが必要である。微生物による腐敗や変質を防止するためには食品に静菌成分を添加することが従来行われている。近年、静菌成分に関して、食品の食味に影響を及ぼすことへの懸念等から、少量でも静菌効果が得られるものを求める声が高まっている。また、加工食品において製造環境中に存在する種々の微生物の中でも、環境中に比較的多く存在する乳酸菌による腐敗や変質が課題である。しかしながら、従来の静菌用組成物は乳酸菌の静菌効果が十分でないために、少量で乳酸菌の静菌効果を得にくいものであった。また静菌用組成物が乳化剤を含有する場合には、乳化剤に由来した苦味が食味に影響する場合があった。
【0006】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る静菌用組成物、静菌方法並びに加工食品及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、驚くべきことに、有機酸類の存在下においてフェルラ酸類とミリスチン酸のエステルを組み合わせて用いることで、加工食品において乳酸菌に対する静菌力を効果的に高めることができること、乳化剤として他のエステルを用いる場合に比して乳化剤由来の苦味を低減できるため、加工食品本来の食味を維持しやすいことを知見した。
【0008】
本発明は上記知見に基づくものであり、フェルラ酸類と、
フェルラ酸以外の有機酸及び該有機酸の塩から選ばれる1種以上と、
ミリスチン酸のエステルとを含有する、静菌用組成物である。
また本発明は、前記の本発明の静菌用組成物を用いて食品を処理する工程を有する、静菌方法である。
また本発明は、前記の本発明の静菌用組成物を含有する、加工食品である。
また本発明は、前記の本発明の静菌用組成物を配合する工程を有する、加工食品の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の静菌用組成物及び静菌方法によれば、食品の微生物安全性を効果的に向上させることができ、食品本来の食味を維持しやすい。本発明の加工食品及び本発明の製造方法により得られる加工食品は、本発明の静菌用組成物を含有するため、微生物安全性が高く、長期保存が可能であり、食味も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の静菌用組成物の好ましい実施形態について説明する。
本発明の静菌用組成物は、フェルラ酸類と、フェルラ酸以外の有機酸及び該有機酸の塩から選ばれる1種以上と、ミリスチン酸のエステルとの3種類の静菌成分を併用する。この構成により本発明の静菌用組成物は、従来の静菌剤では静菌が困難であった乳酸菌に対しても優れた静菌作用を発揮し、惣菜のような、レトルト処理されていない微生物が増殖しやすい食品であっても、その保存性を向上させて、鮮度や品質を良好に保持することができる。またフェルラ酸類及び有機酸類の存在下においてミリスチン酸のエステルを組み合わせて用いることで、他のエステルからなる乳化剤を組み合わせた場合に感じられる苦味が抑制され、食品本来の食味を維持しやすい。また本発明で必須とする3成分の組み合わせは、少量で乳酸菌の十分な静菌効果を得やすいため、食品の食味の維持と乳酸菌の十分な静菌効果とを両立させることが容易である。
【0011】
フェルラ酸類としては、フェルラ酸、フェルラ酸の水溶性塩及びフェルラ酸のエステルが挙げられる。フェルラ酸は植物の細胞壁などに存在し、抗酸化作用を有する。フェルラ酸の分子式はC10H10O4である。フェルラ酸はCAS番号:537-98-4で登録されており、そのIUPAC名は(E)-3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシ-フェニル)プロパン-2-エノール酸である。フェルラ酸の水溶性塩としては、フェルラ酸ナトリウム、フェルラ酸カリウム及びフェルラ酸カルシウムが挙げられる。フェルラ酸のエステルとしては、炭素原子数1以上5以下の低級アルコールとフェルラ酸とのエステルが挙げられ、具体的にはフェルラ酸メチル又はフェルラ酸エチルが挙げられる。フェルラ酸類としては、フェルラ酸を用いることが静菌性の高さ及び入手容易性の点で好ましい。
【0012】
フェルラ酸類は、植物等の天然物から抽出した抽出物でもよく、試薬等として市販されている市販品でもよく、使用者自ら化学的に合成した合成品であってもよい。これらの抽出物、市販品及び合成品は、それぞれ、フェルラ酸類の含有量が50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に一層好ましい。前記の抽出物、市販品及び合成品は、本発明の所定の効果を阻害しない範囲で、フェルラ酸類以外の他の成分を含有してもよい。
【0013】
フェルラ酸以外の有機酸としては、食用が可能な一価、二価又は三価以上のカルボン酸が挙げられ、酢酸、乳酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、アジピン酸、ソルビン酸等が挙げられる。有機酸塩としては、前記の各種有機酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩を用いることが、静菌性の効果及び食味の点で好適である。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。アルカリ土類金属塩としてはカルシウム塩が好適に挙げられる。以下では、フェルラ酸以外の有機酸及び該有機酸の塩から選ばれる1種以上を「有機酸類」ともいう。有機酸類は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。静菌性の高さ及び入手容易性及び食味の点でフェルラ酸以外の有機酸として酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、アジピン酸を用いることが好ましく、酢酸を用いることが最も好ましい。有機酸塩としては、静菌性の高さ及び入手容易性及び溶解性、緩衝力の点で、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、アジピン酸の塩が好ましく、酢酸の塩がより好ましく、酢酸のアルカリ金属塩が更に一層好ましく、酢酸ナトリウムが最も好ましい。
【0014】
ミリスチン酸のエステルとしては、例えば、モノグリセリンミリスチン酸エステル、ジグリセリンミリスチン酸エステル、ポリグリセリンミリスチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ミリスチン酸のエステルとしては、このうち、ジグリセリンミリスチン酸エステル及びショ糖ミリスチン酸エステルから選ばれる1種以上であることが、静菌性および食味の理由から好ましい。
【0015】
好適なミリスチン酸のエステルの市販品として、三菱化学ケミカルフーズ製の商品名「M-1695」(ショ糖ミリスチン酸エステル)、理研ビタミン製の商品名「ポエムDM-100」(ジグリセリンミリスチン酸エステル)が挙げられる。
【0016】
本発明の静菌用組成物において、フェルラ酸類とミリスチン酸のエステルの量比は、フェルラ酸類100質量部に対し、ミリスチン酸のエステルが10質量部以上500質量部以下であることが、静菌性の点及び食味の点で好ましく、50質量部以上500質量部以下であることがより好ましく、60質量部以上400質量部以下であることが更に好ましく、60質量部以上350質量部以下であることが特に好ましい。またフェルラ酸類と有機酸類との量比は、フェルラ酸類100質量部に対し、有機酸類が100質量部以上5000質量部以下であることが静菌性の点及び食味の点で好ましく、1000質量部以上3000質量部以下であることがより好ましい。
【0017】
静菌性の点から本発明の静菌用組成物の全質量に対して、フェルラ酸類、有機酸類及びミリスチン酸のエステルの合計量は30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましい。本発明の静菌用組成物において、フェルラ酸類、有機酸類及びミリスチン酸のエステル以外の成分を含有する場合、当該成分としては、水などの溶媒や賦形剤としてのデキストリン等の食品素材が挙げられる。
【0018】
食味を維持した静菌性の高い食品を容易に得やすい点から、本発明の静菌用組成物におけるフェルラ酸類の含量は該静菌用組成物の全質量に対して好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは1~10質量%である。同様の観点から、静菌用組成物における有機酸類の含有量は、該静菌用組成物の全質量に対して、好ましくは10~95質量%であり、より好ましくは20~80質量%であり、場合によっては60質量%以下であってもよい。同様の観点から、静菌用組成物におけるミリスチン酸のエステルの含有量は、該静菌用組成物の全質量に対して、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは1~10質量%である。
【0019】
本発明の静菌用組成物はキトサンを実質的に非含有であることが好ましい。キトサンを使用する場合、酸に溶解する必要があることに起因して作業性に劣るためである。キトサンを実質的に非含有であるとは、本発明の静菌用組成物の全質量に対して、キトサンの量が1質量%以下であることが意味することが好ましく、0.1質量%以下であることを意味することがより好ましく、0質量%であることを意味することが一層好ましい。
【0020】
本発明の静菌用組成物はビタミンB1を実質的に非含有であることが好ましい。ビタミンB1はビタミン臭が強く、苦味があるため食味に影響する場合がある。またビタミンB1は澱粉やタンパク質存在下では静菌効果が落ちることが知られており、食品に対する汎用性が低い。ビタミンB1を実質的に非含有であるとは、本発明の静菌用組成物の全質量に対して、ビタミンB1の量が1質量%以下であることが意味することが好ましく、0.1質量%以下であることを意味することがより好ましく、0質量%であることを意味することが一層好ましい。
【0021】
本発明の静菌用組成物の形態は特に限定されず、粉末状、液状、ペースト状など、あらゆる形態を採ることができる。典型的には、粉末状である。
【0022】
本発明の静菌用組成物は、食品の鮮度や品質等の劣化を抑制し、その保存性を向上させるために使用される。本発明の静菌用組成物が適用可能な食品の種類は特に限定せず、例えば、野菜、豆類、芋類、山菜、果物、畜肉、鶏肉、水産物、穀類などの各種食材の非調理品であってもよいし、惣菜、飯類、麺類、菓子類、スープ類、乳製品、豆腐類などといった調理済み又は半調理済みの食品、いわゆる加工食品であってもよい。なお、ここでいう半調理とは、未完成の調理を指す。例えば半調理品とは、味付け、切断、皮むき、串刺し、粉付けなど食材の下ごしらえを行った食品をいい、加熱済みであるが調味は完成していないもの、衣及び下味が付された状態であるが未加熱のもの、カットされた野菜などを含む。本発明の静菌用組成物は、特に加工食品に有用であり、とりわけ、レトルト食品に該当しない加熱調理済食品である惣菜に有用である。惣菜としては、例えば、和え物類、煮物類、焼き物類、茹で物類、蒸し物類、炒め物類、揚げ物類、汁物類、及びサラダ類等が挙げられる。
【0023】
本発明の静菌用組成物は、広範な微生物に有効であるが、特に乳酸菌の繁殖を効果的に抑制することを可能とする。乳酸菌の種類は特に限定されないが、一般的に、食品製造時に混入しやすい乳酸菌として、Lactobacillus属細菌、Leuconostoc属細菌、Lactococcus属細菌、Pediococcus属細菌、Weissella属細菌、Enterococcus属菌等が挙げられる。また、食品製造時に混入しやすい乳酸菌以外の微生物として、例えば、酵母、大腸菌群が挙げられる。本発明の静菌用組成物はこれらの菌の繁殖を効果的に抑制できる。例えば大腸菌群としては、Klebsiella属、Enterobacter属、Citrobacter属、Escherichia属、Leclercia属、Pantoea属、Yersinia属、Raoultella属、Rahnella属、Serratia属、Aeromonas属、Yokenella属、Erwinia属、Pectobacterium属、Kluyvera属が挙げられる。
【0024】
以下、本発明の静菌方法について説明する。本発明の静菌方法は、前述した本発明の静菌用組成物を用いるものである。後述する本発明の静菌方法については、本発明の静菌用組成物についての上記の説明が適宜適用される。
【0025】
本発明の静菌方法は、本発明の静菌用組成物を用いて食品を処理する工程(以下、「静菌処理工程」ともいう。)を有する。
静菌処理工程において、静菌用組成物を用いた食品の処理方法は、処理対象の食品に静菌用組成物を接触させ得る方法であればよく、食品の種類や静菌用組成物の形態等に応じて適宜設定することができる。例えば、食品に静菌用組成物を振りかける、まぶす、混合する、塗布する、噴霧するなどして添加する方法でもよく、液状の静菌用組成物中に食品を浸漬させる方法でもよい。あるいは、静菌用組成物を用いて食材を調理又は半調理することで食品を製造してもよい。
静菌処理工程において、静菌用組成物の使用量(食品中における静菌用組成物の構成成分の含有量)は、食品の種類や静菌用組成物の形態等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されない。処理対象の食品に対する静菌用組成物の使用量としては、後述する本発明の加工食品と同様に設定することができる。また、静菌処理工程の一実施形態では、該静菌処理工程を経た食品のpHが4.0~7.0の範囲となるように該食品を処理するところ、この食品の処理方法については後述する本発明の加工食品の製造方法と同様の方法を採用することができる。
【0026】
本発明の静菌方法の一例として、本発明の静菌用組成物で食品を処理した後、得られた食品をフローズンチルドする方法が挙げられる。フローズンチルドとは、食品を凍結し、次いで12℃以下の凍結しない温度で解凍する工程を指し、当該工程を経て得られた食品をフローズンチルド食品ともいう。フローズンチルド食品の例としては、例えば、冷凍された状態で保存され、流通された後、12℃以下の凍結しない温度で解凍及び販売される食品や、冷凍された状態で保存され、流通段階で12℃以下の凍結しない温度で解凍された後、販売される食品などが挙げられる。本方法では、本発明の静菌用組成物で処理した食品を冷凍及び解凍に供することにより、効果的に食品における乳酸菌等の静菌を図ることができる。本発明の静菌用組成物を用いる場合、特に上記のフローズンチルド工程において、解凍から24~120時間後の静菌効果に優れている。従って、本発明の静菌用組成物及びそれを用いた静菌方法は、フローズンチルド形態の食品(フローズンチルド食品)に好適である。フローズンチルドの冷凍温度としては、例えば-40℃~-10℃が好適に挙げられる。またフローズンチルドにおける解凍及びその後のチルド温度としては好ましくは0~12℃、より好ましくは0~10℃である。
【0027】
以下、本発明の加工食品について説明する。後述する本発明の加工食品については、本発明の静菌用組成物及び静菌方法についての上記の説明が適宜適用される。
【0028】
本発明の加工食品は、前述した本発明の静菌用組成物、すなわちフェルラ酸類、有機酸類及びミリスチン酸のエステルを含む静菌用組成物を含有するものである。したがって本発明の加工食品は、微生物安全性が高く、本来的に保存性が問題となりやすい形態、例えば、チルド状態で保存、流通及び/又は販売される形態又はフローズンチルドの形態であっても長期保存が可能である。また、当該加工食品が有する本来の食味、食感等の品質が維持されやすい。
【0029】
本発明の加工食品におけるフェルラ酸類の含有量は、微生物安全性の向上の観点から、該加工食品の全質量に対して、0.005質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上である。本発明の加工食品におけるフェルラ酸類の含有量の上限については、加工食品の食味等への影響を最小限にする観点から、該加工食品の全質量に対して、0.1質量%以下であることが好ましく、0.07質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明の加工食品における有機酸類の含有量は、微生物安全性の向上の観点から、該加工食品の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。本発明の加工食品における有機酸類の含有量の上限については、加工食品の食味等への影響を最小限にする観点から、該加工食品の全質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが更に一層好ましい。
【0031】
本発明の加工食品におけるミリスチン酸のエステルの含有量は、微生物安全性の向上の観点から、該加工食品の全質量に対して、0.005質量%以上、好ましくは0.01質量%以上である。本発明の加工食品におけるミリスチン酸のエステルの含有量の上限については、加工食品の食味等への影響を最小限にする観点から、該加工食品の全質量に対して、0.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
後述する実施例に示す通り、本発明では静菌成分として有機酸類、ミリスチン酸のエステルとフェルラ酸類を組み合わせることで静菌成分の量がごく微量であっても十分な静菌効果が得られる。しかしながら、このことは本発明の静菌効果の高さを示すものであり、本発明を特定の量に限定するものではない。
【0032】
本発明の静菌方法、加工食品及び加工食品の製造方法は、本発明の静菌用組成物の必須成分であるフェルラ酸類、有機酸類及びミリスチン酸のエステルを食品に外添させることを特徴の一つとする。従って、本発明において、フェルラ酸類、有機酸類及びミリスチン酸のエステルはいずれも、静菌対象となる食品に由来しないものである。このため、例えばフェルラ酸類を所定の効果が安定的に発現し得る量(具体的には例えば0.005質量%以上)含む野菜や米ぬか、米胚芽油等の食材に、有機酸類及びミリスチン酸のエステルを添加した場合は本発明の静菌方法、加工食品及び加工食品の製造方法に該当しない。
【0033】
本発明の加工食品のpHは特に制限されないが、静菌効果と食品の食味等とのバランスの観点から、pH4.0~7.0の範囲であることが好ましく、より好ましくはpH4.5~6.5の範囲である。ここでいう「食品のpH」は、フェルラ酸類、有機酸類及びミリスチン酸のエステルを含む静菌用組成物が含有された状態での食品のpHである。前記食品のpHは20-25℃で測定したpHである。食品のpHは、食品をイオン交換水又は生理食塩水で2質量倍から10質量倍に希釈し、ストマッカー又はミキサーでペースト状にして測定する。
【0034】
本発明の加工食品の製造方法は、前述した本発明の静菌用組成物を配合する工程を有する。この配合工程は、例えば、静菌用組成物を含有しない加工食品に静菌用組成物を振りかける、混合する、まぶす、塗布する、噴霧する方法によって実施することができる。あるいは、液状の静菌用組成物中に、静菌用組成物を含有しない加工食品を浸漬する方法によって実施することができる。あるいは、静菌用組成物を用いて食材を調理又は半調理することによって実施することができる。
【0035】
本発明の加工食品は、典型的には、冷凍、冷蔵若しくは常温で保存、流通及び/又は販売される調理済み食品又は半調理済み食品である。具体的には例えば、惣菜(和え物類、煮物類、焼き物類、茹で物類、蒸し物類、炒め物類、揚げ物類、汁物類、及びサラダ類等)、飯類、麺類、菓子類、スープ類、乳製品、豆腐類を例示できる。
【0036】
本発明の加工食品は、チルド状態で保存、流通及び/又は販売されるものやあるいはフローズンチルド食品であり得る。ここでいう「チルド状態」とは、加工食品の品温が凍結しない程度の低温である状態を指す。チルド状態の加工食品の品温は、好ましくは0~12℃、より好ましくは0~10℃である。加工食品の品温は、典型的には、加工食品の中心部の温度を指す。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0038】
1.植菌した乳酸菌又は大腸菌群の静菌試験
〔実施例1並びに比較例1及び2〕
(試験方法)
すり白ごま4g、練りごま7g、醤油4g、砂糖18g及びマヨネーズ7gを混合して調味液を調製した。この調味液に、フェルラ酸、酢酸ナトリウム及びミリスチン酸のエステル(ジグリセリンミリスチン酸エステル:理研ビタミン「ポエム DM-100」)を添加し、混合した。次いで上記3成分を添加した調味液35gに水切りした豆腐150g、茹でて水切りしたほうれん草100gを投入し、添加混合して白和えを得た。得られた白和えに下記の乳酸菌4菌種のカクテルを混合して10℃で保存した。フェルラ酸、酢酸ナトリウム及びジグリセリンミリスチン酸エステルの使用量は、加工食品(ほうれん草の白和え)中の割合が表1に示す量となる量であった。乳酸菌の植菌量は、加工食品(ほうれん草の白和え)に対して4菌種の合計で7cfu/gとなる量であった。植菌直前(0h)並びに植菌から72時間、96時間及び120時間をそれぞれ経過した時点の乳酸菌数を下記方法にて測定した。結果を表1に示す。
【0039】
・使用した乳酸菌4菌種カクテル
Weissella viridescens BI-315
Leuconostoc mesenteroides BI-427
Leuconostoc citreum BI-543
Leuconostoc pseudomesenteroides BI-544
4菌種のカクテルは滅菌した0.1質量%ペプトン水に上記各菌種の培養液を加えて、各菌種それぞれの濃度をペプトン水中3500cfu/mlとしたものであった。
【0040】
<乳酸菌の生菌数の測定方法>
生菌数は、表面塗抹平板法により計測した。具体的には下記の通りである。
寒天培地をあらかじめ平板として固めた培地表面に、下記方法で調製した試料液0.1mLあるいは100倍、10000倍に希釈した試料液0.1mLを滴下し、コンラージ棒で均等に塗抹し、培養した。培地及び培養条件としては、MRS寒天培地(メルク社)を用い、30℃、72時間の好気培養を採用した。
生菌数は、培地で生育したコロニー数に希釈倍数を乗じて加工食品1gあたりの生菌数(cfu/g)として計測した。測定は2連で行い、その平均値を乳酸菌の生菌数測定結果とした。
試料液は以下のようにして調製した。
(試料液の調製方法)
ほうれん草の白和えを25g量り取り、ストマッカー袋へ入れた。希釈液としてペプトン水225mlを加え、10質量倍希釈後、ストマッカー処理して試料液を得た。
【0041】
【0042】
〔実施例2並びに比較例3及び4〕
醤油5g、砂糖5g、みりん0.6g、だし汁2g及びごま油0.4gを混合して調味液を調製した。この調味液に、フェルラ酸、酢酸ナトリウム及びジグリセリンミリスチン酸エステル(理研ビタミン「ポエム DM-100」)を添加し、混合した。得られた調味液12gに、白ごまを13g、茹でて水切りしたほうれん草48g、人参15g、刻みあげ10gを投入し、添加混合してほうれん草の胡麻和えを得た。上記〔実施例1並びに比較例1及び2〕において、ほうれん草の白和えの代わりにほうれん草の胡麻和えを用いた以外は〔実施例1並びに比較例1及び2〕と同様の試験を行った。結果を表2に示す。
【0043】
【0044】
表1及び表2のいずれの結果からも、2成分併用の比較例と比較して3成分を併用する実施例は顕著な乳酸菌増殖抑制効果を有することが判る。
【0045】
〔実施例3~5並びに比較例5〕
上記〔実施例1並びに比較例1及び2〕において、フェルラ酸、酢酸ナトリウム及びミリスチン酸のエステルの使用量を表3の値に変更した。それ以外は〔実施例1並びに比較例1及び2〕と同様の試験を行い、白和え作製の時点での加工食品のpH、並びに乳酸菌接種から72時間及び96時間経過後の加工食品(ほうれん草の白和え)における乳酸菌数を測定した。結果を表3に示す。
【0046】
加工食品のpHは下記の方法で測定した。
ほうれん草の白和えをイオン交換水で5質量倍に希釈し、フードプロセッサーでペースト状にした。得られたペーストの20-25℃のpHをpHメーター(東亜ディーケーケー社製、TOAHM-30G)で測定した。
【0047】
【0048】
表3に示す通り、ごく微量のフェルラ酸類及びミリスチン酸のエステルを有機酸類に組み合わせることで、有機酸類の静菌力を大幅に向上させることができる。
【0049】
〔実施例6及び比較例6〕
上記〔実施例1並びに比較例1及び2〕において、フェルラ酸、酢酸ナトリウム及びミリスチン酸のエステルの使用量を表4の値に変更した。また、乳酸菌4種のカクテルの代わりに、下記5種の大腸菌群のカクテルを接種(植菌量は加工食品に対し5菌種の合計で7cfu/g)した。それ以外は〔実施例1並びに比較例1及び2〕と同様の試験を行い、作製時点での加工食品のpH、並びに大腸菌群接種から72時間、120時間及び180時間経過後の加工食品(ほうれん草の白和え)における大腸菌群の菌数を測定した。結果を表4に示す。
【0050】
・植菌した大腸菌群:5菌種カクテル
Klebsiella pneumoniae B87
Klebsiella oxytoca BI508
Enterobacter kobei BI594
Citrobacter sp. BI820
Pantoea agglomerans BI1038
上記の5菌種のカクテルは滅菌した0.1質量%ペプトン水に上記各菌種の培養液を加えて上記各菌種それぞれの濃度を2200cfu/mlとしたものであった。
【0051】
<大腸菌群の生菌数の測定方法>
生菌数は、表面塗抹平板法により計測した。具体的には下記の通りである。
寒天培地をあらかじめ平板として固めた培地表面に、試料液0.1mLあるいは100倍、10000倍に希釈した試料液0.1mLを滴下し、コンラージ棒で均等に塗抹し、培養した。培地及び培養条件としては、XM―G培地(日水製薬社)を用いた35℃、24時間の好気培養を採用した。
生菌数は、培地で生育したコロニー数に希釈倍数を乗じて加工食品1gあたりの生菌数(cfu/g)として計測した。測定は2連で行い、その平均値を大腸菌群の生菌数測定結果とした。
試料液は上記<乳酸菌の生菌数の測定方法>と同様にして調製した。
【0052】
【0053】
表4より、本発明の静菌用組成物は大腸菌群を効果的に静菌できることが判る。
【0054】
2.市販惣菜への添加試験
〔実施例7及び対照例1〕
レトルト処理されていない市販の惣菜としてほうれん草の白和えを購入し、10℃にて保存した。消費期限時に一部を取り分け、フェルラ酸、ミリスチン酸のエステル(ジグリセリンミリスチン酸エステル:理研ビタミン「ポエム DM-100」)及び酢酸ナトリウムをそれぞれ惣菜中の量が下記表5に記載の値となるように添加した。取り分けた残りを対照例1とした。実施例7及び対照例1の加工食品を10℃にて保存し、下記の方法にて一般生菌数を測定した。結果を表5に示す。
【0055】
<一般生菌数の測定方法>
生菌数は、表面塗抹平板法により計測した。具体的には下記の通りである。
寒天培地をあらかじめ平板として固めた培地表面に、試料液0.1mLあるいは100倍、10000倍に希釈した試料液0.1mLを滴下し、コンラージ棒で均等に塗抹し、培養した。培地及び培養条件としては標準寒天培地(栄研化学)を用いた35℃、48時間の好気培養を採用した。
生菌数は、培地で生育したコロニー数に希釈倍数を乗じて加工食品1gあたりの生菌数(cfu/g)として計測した。測定は2連で行い、その平均値を一般生菌の生菌数測定結果とした。
試料液は上記<乳酸菌の生菌数の測定方法>と同様にして調製した。
【0056】
【0057】
〔実施例8及び対照例2〕
市販のほうれん草の白和えの代わりにレトルト処理されていない市販のほうれん草の胡麻和えを用いて〔実施例7及び対照例1〕と同様の試験を行った。結果を表6に示す。
【0058】
【0059】
表5及び表6より、市販の惣菜に混在する微生物に対し、本発明の組成物が有効に増殖抑制効果を発揮することを確認した。
【0060】
3.異なる脂肪酸エステルの食味評価
〔実施例9及び10並びに比較例7~13〕
醤油16g、砂糖6g、塩6g及びほんだし(登録商標)6gを水1Lに溶かし、加熱して一度沸騰させて調味液を得た。得られた調味液に、下記表7に記載の成分を混合した後、50質量%クエン酸水溶液でpH5.6となるように調整した。人参の皮をむき、3cm程度の乱切りにした。人参:静菌成分入り調味液を質量比で1:3となるように耐熱ポリ袋に入れ、真空包装した。真空包装した包装体を30分間熱湯に入れて加熱殺菌し、人参煮を作成した。
作成後の人参煮について、固形分(人参)と調味液の量比を質量比1:1に調整した。その後、食品工場内から分離したL.mesenteroides株の菌液を上記人参煮に対し10cfu/gとなるように接種した。上記菌液はL.mesenteroides株の培養液を、滅菌した生理食塩水と混合し、103cfu/mlの菌濃度としたものであった。菌接種直前(0時間)の食味を評価し、一般生菌数を測定した。菌接種後の人参煮を25℃、24時間保存して静菌力を評価した。また菌接種直前又は菌接種から24時間後のpHを測定した。表7に記載の成分の使用量は、人参煮における含量が下記の量となるようにした。なお、植菌した人参煮サンプルは3連とし、静菌力及びpHの平均値を求めた。
【0061】
<一般生菌数の測定方法>
人参煮中の生菌数は、標準寒天培地を用いた混釈培養法を用いて計測した。
【0062】
<食味>
以下の評価基準で評価した。
○:乳化剤由来の苦みがなく、本来の食味が維持されている。
△:乳化剤由来の苦みを少し感じる。
×:乳化剤由来の苦みが強く、本来の食味が損なわれる。
【0063】
<pHの測定>
人参煮を生理食塩水で10質量倍に希釈し、ストマッカーで処理後、上澄み液の常温のpHをメトラー・トレド社のpHメーターで測定した。
【0064】
【0065】
表7から判る通り、乳化剤を含有していない比較例7と比較して、ミリスチン酸のエステルを用いた実施例9及び実施例10は静菌力と食味に優れていた。これに対し、比較例8及び9のラウリン酸のエステル、比較例10及び11のカプリン酸のエステル、比較例12及び13のカプリル酸のエステルはいずれも乳化剤由来の苦みを有し、食味が不適であった。
【0066】
〔実施例11及び12並びに比較例14~16〕
実施例11及び12はミリスチン酸のエステルの量を実施例9及び10からそれぞれ変更させた。また、比較例14~16は、用いる乳化剤の種類及び量を比較例8~13から変更させた。その点以外は〔実施例9及び10並びに比較例7~13〕と同様にして、人参煮における食味及び静菌力を評価したほか、pHを測定した。結果を表8に示す。
【0067】
【0068】
表8に示す通り、ミリスチン酸のエステルをフェルラ酸及び有機酸類と組み合わせた実施例11及び12の静菌効果は、乳化剤としてパルミチン酸又はステアリン酸のエステルを用いた比較例14~16に比較して優れていた。
【0069】
〔実施例13~15及び対照例3〕
冷凍ほうれん草を1分間熱湯中でボイルした後、水気を絞り、ほうれん草160gに対してポン酢大さじ1/2を加えて和え、ほうれん草のポン酢和えを作成した。作成後のポン酢和え全量に対して下記表9記載の成分を添加して混合した。更に食品工場内から分離したL.mesenteroides株について上記実施例9と同様に調製した菌液を、ポン酢和えに対し10cfu/gとなるように接種した。乳酸菌接種後のポン酢和えを10℃、72時間保存した時の静菌力を評価したほか、72時間保管後のpHを測定した。ポン酢和え中の一般生菌数は、標準寒天培地を用いた混釈培養法を用いて計測した。pHはポン酢和えを生理食塩水で10質量倍に希釈し、ストマッカーで処理後、上澄み液の常温のpHをpHメーター(メトラー・トレド社製)で測定した。ミリスチン酸エステルとしてはジグリセリンミリスチン酸エステル:理研ビタミン「ポエム DM-100」を用いた。
【0070】
【0071】
表9に示す通り、本発明によれば、フェルラ酸、有機酸類及びミリスチン酸のエステルの量をそれぞれ低減させた場合にも優れた静菌効果が得られることが判る。
【0072】
(ほうれん草の白和えにおける冷凍保存試験)
〔実施例16、17並びに比較例17、18〕
(試験方法)
すり白ごま4g、練りごま7g、醤油4g、砂糖18g及びマヨネーズ7gを混合して調味液を調製した。この調味液に、フェルラ酸、酢酸ナトリウム及びミリスチン酸のエステル(ジグリセリンミリスチン酸エステル:理研ビタミン「ポエム DM-100」)を添加し、混合した。次いで上記3成分を添加した調味液35gに水切りした豆腐150g、茹でて水切りしたほうれん草100gを投入し、添加混合して白和えを得た。得られた白和えに下記の乳酸菌4菌種のカクテルを混合して10℃で保存した。フェルラ酸、酢酸ナトリウム及びジグリセリンミリスチン酸エステルの使用量は、加工食品(ほうれん草の白和え)中の割合が表10に示す量となる量であった。乳酸菌の植菌量は、加工食品(ほうれん草の白和え)に対して4菌種の合計で7cfu/gとなる量であった。植菌後、白和えの半量は、10℃で保存し、72時間、120時間をそれぞれ経過した時点の乳酸菌数を下記方法にて測定した(比較例17、実施例16)。一方、植菌後、残りの半量は-20℃で72時間冷凍後、10℃で2時間かけて解凍し、そのまま10℃で保存した。解凍時点を0時間とし、10℃72時間後、120時間後に乳酸菌数を下記方法にて測定した(比較例18、実施例17)。結果を表10に示す。
【0073】
・使用した乳酸菌4菌種カクテル
Weissella viridescens BI-315
Leuconostoc mesenteroides BI-427
Leuconostoc citreum BI-543
Leuconostoc pseudomesenteroides BI-544
4菌種のカクテルは滅菌した0.1質量%ペプトン水に上記各菌種の培養液を加えて、各菌種それぞれの濃度をペプトン水中3500cfu/mlとしたものであった。
【0074】
<乳酸菌の生菌数の測定方法>
生菌数は、表面塗抹平板法により計測した。具体的には下記の通りである。
寒天培地をあらかじめ平板として固めた培地表面に、下記方法で調製した試料液0.1mLあるいは100倍、10000倍に希釈した試料液0.1mLを滴下し、コンラージ棒で均等に塗抹し、培養した。培地及び培養条件としては、MRS寒天培地(メルク社)を用い、30℃、72時間の好気培養を採用した。
生菌数は、培地で生育したコロニー数に希釈倍数を乗じて加工食品1gあたりの生菌数(cfu/g)として計測した。測定は2連で行い、その平均値を乳酸菌の生菌数測定結果とした。
試料液は以下のようにして調製した。
(試料液の調製方法)
ほうれん草の白和えを25g量り取り、ストマッカー袋へ入れた。希釈液としてペプトン水225mlを加え、10質量倍希釈後、ストマッカー処理して試料液を得た。
【0075】
【0076】
表10の比較例17、比較例18、実施例16と実施例17との比較により、本発明の特定の3成分の組み合わせた条件において、加工食品をフローズンチルドすると、効果的に静菌を図ることができることが判る。
【0077】
(ほうれん草培地における冷凍保存試験)
〔実施例18、19並びに比較例19、20〕
(試験方法)
2cm程度の長さに切断してボイルしたほうれん草をザルに上げた状態から歩留75質量%となるように水切りしたもの10g、1質量%デンプン含有TSB培地10gを混合して、ほうれん草培地を得た。ここに、フェルラ酸、酢酸ナトリウム及びミリスチン酸のエステル(ジグリセリンミリスチン酸エステル:理研ビタミン「ポエム DM-100」)を添加し、混合した。フェルラ酸、酢酸ナトリウム及びジグリセリンミリスチン酸エステルの使用量は、ほうれん草培地中の割合が表11に示す量となる量であった。乳酸菌の植菌量は、ほうれん草培地に対して4菌種の合計で7cfu/gとなる量であった。植菌後、培地の半量は、10℃で保存し、72時間、120時間をそれぞれ経過した時点の乳酸菌数を下記方法にて測定した(比較例19、実施例18)。一方、植菌後、残りの半量は-20℃で72時間冷凍後、10℃で2時間かけて解凍し、そのまま10℃で保存した。解凍時点を0時間とし、10℃72時間後、120時間後に乳酸菌数を下記方法にて測定した(比較例20、実施例19)。結果を表11に示す。
【0078】
・使用した乳酸菌4菌種カクテル
Weissella viridescens BI-315
Leuconostoc mesenteroides BI-427
Leuconostoc citreum BI-543
Leuconostoc pseudomesenteroides BI-544
4菌種のカクテルは滅菌した0.1質量%ペプトン水に上記各菌種の培養液を加えて、各菌種それぞれの濃度をペプトン水中3500cfu/mlとしたものであった。
【0079】
<乳酸菌の生菌数の測定方法>
生菌数は、表面塗抹平板法により計測した。具体的には下記の通りである。
寒天培地をあらかじめ平板として固めた培地表面に、下記方法で調製した試料液0.1mLあるいは100倍、10000倍に希釈した試料液0.1mLを滴下し、コンラージ棒で均等に塗抹し、培養した。培地及び培養条件としては、MRS寒天培地(メルク社)を用い、30℃、72時間の好気培養を採用した。
生菌数は、培地で生育したコロニー数に希釈倍数を乗じて培地1gあたりの生菌数(cfu/g)として計測した。測定は2連で行い、その平均値を乳酸菌の生菌数測定結果とした。
試料液は以下のようにして調製した。
(試料液の調製方法)
培地の液部を1ml量り取り、希釈液としてペプトン水9mlを加え、10質量倍希釈後、混合して試料液を得た。
【0080】
【0081】
表11より、ほうれん草培地試験においても、3成分の静菌剤の存在する条件下においてフローズンチルド処理を行った場合に、効果的な静菌が実現できることが判る。