(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-03
(45)【発行日】2025-03-11
(54)【発明の名称】家畜の健康状態管理システム、家畜用ウェアラブルデバイス、家畜の健康状態管理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A01K 29/00 20060101AFI20250304BHJP
G06Q 50/02 20240101ALI20250304BHJP
【FI】
A01K29/00
G06Q50/02
(21)【出願番号】P 2020136224
(22)【出願日】2020-08-12
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2019152271
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち人工知能未来農業創造プロジェクト)試験研究計画名「AIを活用した呼吸器病・消化器病・周産期疾病の早期発見技術の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの)」
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 耕治
(72)【発明者】
【氏名】岡田 浩尚
(72)【発明者】
【氏名】川上 和夫
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-007613(JP,A)
【文献】特開2019-122368(JP,A)
【文献】特開2008-228573(JP,A)
【文献】国際公開第2016/174840(WO,A1)
【文献】特開2011-234668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 29/00
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサと三次元加速度センサを備え、管理対象である牛、豚、馬、羊、山羊のいずれかである家畜の尾に装着され、前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報、を取得する検出手段と、
前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報に基づいて、前記家畜の健康状態を診断する、診断手段と、
を有しており、
前記検出手段は、前記三次元加速度センサの出力から前記家畜の尾のロール角情報を算出する姿勢指数算出手段を備え、
前記診断手段は、
前記家畜の体表温度の直近の第1の所定時間内の最高値を抽出し、前記最高値と、前記最高値を抽出した前記直近の第1の所定時間の属する日前所定数日間における各日の、前記直近の第1の所定時間の属する時間帯と同一の時間帯の前記家畜の体表温度の最高値の平均値と、の差分値である体温指標を算出する体温指標算出部と、
前記ロール角情報に基づいて前記家畜が少なくとも立位と臥位のいずれの状態であるかを判定する姿勢状態判定部と、
前記家畜が立位である時間又は臥位である時間の、第2の所定時間内の合計値である第1姿勢指標を算出する、姿勢指標算出部と、
前記家畜の活動量の、第3の所定時間内の合計値である第1活動量指標を算出する、活動量指標算出部と、
前記体温指標、前記第1姿勢指標、第1活動量指標それぞれの変動の仕方に基づいて、前記家畜の健康状態が、予め設定されている複数種類のステータスのいずれかに該当するかを判定する健康状態判定部と、を備える、
家畜の健康状態管理システム。
【請求項2】
温度センサと三次元加速度センサを備え、管理対象である牛、豚、馬、羊、山羊のいずれかである家畜の尾に装着され、前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報、を取得する検出手段と、
前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報に基づいて、前記家畜の健康状態を診断する、診断手段と、
を有しており、
前記検出手段は、前記三次元加速度センサの出力から前記家畜の尾のロール角情報を算出する姿勢指数算出手段を備え、
前記診断手段は、
前記家畜の体表温度の直近の第1の所定時間内の最高値を抽出し、前記最高値と、前記最高値を抽出した前記直近の第1の所定時間の属する日前所定数日間における各日の、前記直近の第1の所定時間の属する時間帯と同一の時間帯の前記家畜の体表温度の最高値の平均値と、の差分値である体温指標を算出する体温指標算出部と、
前記ロール角情報に基づいて前記家畜が少なくとも立位と臥位のいずれの状態であるかを判定する姿勢状態判定部と、
前記家畜の、直近の第4の所定時間内の立位である時間又は臥位である時間の合計値と、当該第4の所定時間前からさらに過去の第4の所定時間内の立位又は臥位のうち択一的に選択された姿勢と同じ姿勢である時間の合計値と、の比である第2姿勢指標を算出する姿勢指標算出部と、
前記家畜の、直近の第5の所定時間内の活動量の合計値と、当該第5の所定時間前からさらに過去の第5の所定時間内の活動量の合計値と、の比である第2活動量指標を算出する活動量指標算出部と、
前記体温指標、前記第2姿勢指標、第2活動量指標それぞれの変動の仕方に基づいて、前記家畜の健康状態が、予め設定されている複数種類のステータスのいずれかに該当するかを判定する健康状態判定部と、を備える、
家畜の健康状態管理システム。
【請求項3】
前記活動量情報には、前記家畜の姿勢変化の回数が含まれており、
前記診断手段は、前記ロール角情報に基づいて前記家畜の姿勢変化の回数を算出する姿勢変化回数算出部をさらに備え、
前記健康状態判定部は、前記家畜の姿勢変化の回数の変動の仕方の情報も用いて、前記家畜の健康状態が、予め設定されている複数種類のステータスのいずれかに該当するかを判定する、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の家畜の健康状態管理システム。
【請求項4】
前記健康状態判定部は、機械学習の手法により学習された学習済みモデルである、
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の家畜の健康状態管理システム。
【請求項5】
前記検出手段と前記診断手段はそれぞれ無線通信手段を備える別体の装置であり、
前記検出手段は、少なくとも前記温度センサ及び前記加速度センサの出力値を含む情報を、前記無線通信手段を介して前記診断手段に送信する、
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の家畜の健康状態管理システム。
【請求項6】
前記診断手段は、前記家畜の健康状態の診断結果を出力する出力部をさらに備えている、
ことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の家畜の健康状態管理システム。
【請求項7】
前記出力部には、前記家畜の健康状態の診断結果を、他の機器に無線通信により送信する無線通信手段が含まれる、
ことを特徴とする、請求項6に記載の家畜の健康状態管理システム。
【請求項8】
前記無線通信手段は、健康状態が正常でないと診断された家畜がいる場合にのみ、当該診断結果を前記家畜を識別する情報と共に前記他の機器に送信する、
ことを特徴とする、請求項7に記載の家畜の健康状態管理システム。
【請求項9】
情報処理装置において、
管理対象である牛、豚、馬、羊、山羊のいずれかである家畜の体表温度情報、
前記家畜の尾に装着された三次元加速度センサの出力から算出する前記家畜の尾のロール角情報を含む前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報、を取得する検出ステップと、
前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報に基づいて、前記家畜の健康状態を診断する診断ステップと、
を有しており、
前記診断ステップは、
体温指標算出ステップと、姿勢状態判定ステップと、姿勢指標算出ステップと、活動量指標算出ステップと、健康状態判定ステップと、を含んでおり、
前記体温指標算出ステップでは、前記家畜の体表温度の直近の第1の所定時間内の最高値を抽出し、前記最高値と、前記最高値を抽出した前記直近の第1の所定時間の属する日前所定数日間における各日の、前記直近の第1の所定時間の属する時間帯と同一の時間帯の前記家畜の体表温度の最高値の平均値、前所定数日間の各日の同一時間帯の体表温度の最高値の平均値との差分値を算出し、
前記姿勢状態判定ステップでは、前記家畜の尾のロール角情報に基づいて、前記家畜が少なくとも立位と臥位のいずれの状態であるかを判定し、
前記姿勢指標算出ステップでは、前記家畜が立位である時間又は臥位である時間の、第2の所定時間内の合計値を算出し、
前記活動量指標算出ステップでは、前記家畜の活動量の、第3の所定時間内の合計値を算出し、
前記健康状態判定ステップでは、体温指標算出ステップ、姿勢指標算出ステップ、及び活動量指標算出ステップの各ステップで算出した値の変動の仕方に基づいて、前記家畜の健康状態が、予め設定されている複数種類のステータスのいずれかに該当するかを判定する、
情報処理装置による家畜の健康状態管理方法。
【請求項10】
情報処理装置において、
管理対象である牛、豚、馬、羊、山羊のいずれかである家畜の体表温度情報、
前記家畜の尾に装着された三次元加速度センサの出力から算出する前記家畜の尾のロール角情報を含む前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報、を取得する検出ステップと、
前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報に基づいて、前記家畜の健康状態を診断する診断ステップと、
を有しており、
前記診断ステップは、
体温指標算出ステップと、姿勢状態判定ステップと、姿勢指標算出ステップと、活動量指標算出ステップと、健康状態判定ステップと、を含んでおり、
前記体温指標算出ステップでは、前記家畜の体表温度の直近の第1の所定時間内の最高値を抽出し、前記最高値と、前記最高値を抽出した前記直近の第1の所定時間の属する日前所定数日間における各日の、前記直近の第1の所定時間の属する時間帯と同一の時間帯の前記家畜の体表温度の最高値の平均値、前所定数日間の各日の同一時間帯の体表温度の最高値の平均値との差分値を算出し、
前記姿勢状態判定ステップでは、前記家畜の尾のロール角情報に基づいて、前記家畜が少なくとも立位と臥位のいずれの状態であるかを判定し、
前記姿勢指標算出ステップでは、前記家畜の、直近の第4の所定時間内の立位である時間又は臥位である時間の合計値と、当該
直近の第4の所定時間前からさらに過去の第4の所定時間内の立位又は臥位のうち択一的に選択された姿勢と同じ姿勢である時間の合計値と、の比を算出し、
前記活動量指標算出ステップでは、前記家畜の、直近の第5の所定時間内の活動量の合計値と、当該
直近の第5の所定時間前からさらに過去の第5の所定時間内の活動量の合計値と、の比を算出し、
前記健康状態判定ステップでは、体温指標算出ステップ、姿勢指標算出ステップ、及び活動量指標算出ステップの各ステップで算出した値の変動の仕方に基づいて、前記家畜の健康状態が、予め設定されている複数種類のステータスのいずれかに該当するかを判定する、
情報処理装置による家畜の健康状態管理方法。
【請求項11】
前記活動量情報には、前記家畜の姿勢変化の回数が含まれており、
前記診断ステップは、前記
家畜の尾のロール角情報に基づいて前記家畜の姿勢変化の回数を算出する姿勢変化回数算出ステップをさらに備え、
前記健康状態判定ステップでは、前記家畜の姿勢変化の回数の変動の仕方の情報も用いて、前記家畜の健康状態が、予め設定されている複数種類のステータスのいずれかに該当するかを判定する、
ことを特徴とする、請求項9または10に記載の情報処理装置による家畜の健康状態管理方法。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか一項に記載の情報処理装置による家畜の健康状態管理方法における前記の各ステップを情報処理装置に実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜の健康状態管理システム、家畜用ウェアラブルデバイス、家畜の健康状態管理方法、及びプログラム等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、畜産従事者の減少と高齢化が進む一方、一戸当たりの家畜飼養頭数は増加傾向にあり、一頭ごとに十分な観察時間を割くことが困難となりつつある。また、今後、海外との畜産物価格競争激化が予想され、家畜生産の省力化・低コスト化が喫緊の課題となっている。このことから、多数の家畜の健康状態を常時モニタリング可能な技術のニーズが高くなっている。
【0003】
これに対し、例えば、牛に装着されるウェアラブルデバイスと、管理区域内に設けられた位置情報センサから取得される情報によって、牛が、採食、飲水、歩行、横臥、走行、静止、発情、反芻のいずれの活動を行っているのかを管理する技術などが提案されている(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献のような方法によれば、人手に頼ることなく、管理対象の家畜の活動状態を管理することが可能になる。しかしながら、上記文献に記載の技術では、牛が発情状態であることは判別可能であるものの、健康状態までは正確に判別することはできない。また、管理対象の牛がどの位置にいるかを検知する手段が必要になり、大がかりなシステムとなってしまう。さらに、牛がいずれの活動状態であるかを判別するために処理すべき情報が多く、その分アルゴリズムも複雑になるため、高コストなシステムとなる虞がある。
【0006】
上記のような問題点に鑑み、本発明は、簡易なシステムの構成で、管理対象の家畜の健康状態を、精度よく知ることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明に係る家畜の健康状態管理システムは、温度センサと加速度センサを備え、管理対象である家畜に装着され、前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報、を取得する検出手段と、
前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報に基づいて、前記家畜の健康状態を診断する、診断手段と、
を有する。
【0008】
なお、「家畜の体表温度情報」、「家畜の姿勢情報」、「家畜の活動量情報」とは、それぞれ、家畜の体表温に関する情報全般、家畜の姿勢に関する情報全般、家畜の活動量に関する情報全般を意味している。
【0009】
また、ここでいう検出手段としては、例えば家畜に装着されるウェアラブルデバイスとすることができる。このような構成のシステムによれば、温度センサと加速度センサを備
えるウェアラブルデバイスと、個々の家畜に取り付けて当該センサの出力情報から、家畜の体表温度と、姿勢と、活動量を算出する演算装置と、を有する簡易なシステム構成により、家畜の健康状態を精度よく把握することが可能になる。
【0010】
また、前記家畜の姿勢情報には、前記家畜が立位と臥位のいずれの状態であるかの情報が含まれ、前記加速度センサは三次元加速度センサであり、前記検出手段は、前記家畜の尾に装着され、前記三次元加速度センサの出力から前記家畜の尾のロール角情報を算出する姿勢指数算出手段を備え、前記診断手段は、当該ロール角情報に基づいて前記家畜が立位と臥位のいずれの状態であるかを判定する姿勢状態判定手段を備える、ものであってもよい。なお、「立位」とは起立状態であることを示し、「臥位」とは横臥状態であることを示す。
【0011】
前記検出手段がこのような構成であることによって、非侵襲的かつ低負担で家畜にウェアラブルデバイスを装着することが可能になる。また、三次元加速度センサから得られる尾のロール角に基づいて、家畜の姿勢が立位と臥位のいずれかを判別することができるため、姿勢を検出するための別途の構成を省略することができる。
【0012】
また、前記診断手段は、前記家畜の体表温度の直近の第1の所定時間内の最高値を抽出し、前記最高値と、前記最高値を抽出した前記直近の第1の所定時間の属する日前所定数日間における各日の、前記直近の第1の所定時間の属する時間帯と同一の時間帯の前記家畜の体表温度の最高値の平均値と、の差分値を算出する体温指標算出部と、前記家畜が立位である時間又は臥位である時間の、第2の所定時間内の合計値を算出する、姿勢指標算出部と、前記家畜の活動量の、第3の所定時間内の合計値を算出する、活動量指標算出部と、前記算出した各値の変動の仕方に基づいて、前記家畜の健康状態が、予め設定されている複数種類のステータスのいずれかに該当するかを判定する健康状態判定部と、を備えるものであってもよい。
【0013】
或いは、前記診断手段は、前記家畜の体表温度の直近の第1の所定時間内の最高値を抽出し、前記最高値と、前記最高値を抽出した前記直近の第1の所定時間の属する日前所定数日間における各日の、前記直近の第1の所定時間の属する時間帯と同一の時間帯の前記家畜の体表温度の最高値の平均値と、の差分値を算出する体温指標算出部と、前記家畜の、直近の第4の所定時間内の立位である時間又は臥位である時間の合計値と、当該第4の所定時間前からさらに過去の第4の所定時間内の立位又は臥位から択一的に選択された姿勢と同じ姿勢である時間の合計値と、の比を算出する姿勢指標算出部と、前記家畜の、直近の第5の所定時間内の活動量の合計値と、当該第5の所定時間前からさらに過去の第5の所定時間内の活動量の合計値と、の比を算出する活動量指標算出部と、前記算出した各値の変動の仕方に基づいて、前記家畜の健康状態が、予め設定されている複数種類のステータスのいずれかに該当するかを判定する健康状態判定部と、を備えるものであってもよい。
【0014】
なお、上記の第1の所定時間、第2の所定時間、第3の所定時間、第4の所定時間、第5の所定時間は、全て又は一部が同じ時間であってもよい。また、ここでいう「複数種類のステータス」には、正常、発情、分娩、発熱性疾患、乳熱、蹄熱、の分類を含むことができる。このような処理によって家畜の健康状態を判定することで、誰であっても容易に家畜の健康状態を把握することが可能になる。
【0015】
また、前記活動量情報には、前記家畜の姿勢変化の回数が含まれており、前記診断手段は、前記ロール角情報に基づいて前記家畜の姿勢変化の回数を算出する姿勢変化回数算出部をさらに備え、前記健康状態判定部は、前記家畜の姿勢変化の回数の変動の仕方の情報も用いて、前記家畜の健康状態が、予め設定されている複数種類のステータスのいずれか
に該当するかを判定するものであってもよい。
【0016】
家畜の尾のロール角の情報からは家畜の姿勢変化(例えば、立位と臥位の変化)の回数を算出することが可能であるため、このような情報を併せて用いることで、より精度よく家畜の健康状態を判定することができる。
【0017】
また、前記健康状態判定部は、機械学習の手法により学習された学習済みモデルであってもよい。
【0018】
また、前記検出手段と前記診断手段はそれぞれ無線通信手段を備える、別体の装置であり、前記検出手段は少なくとも前記温度センサ及び前記加速度センサの出力値を含む情報を、前記無線通信手段を介して前記診断手段に送信する、ものであってもよい。
【0019】
このような構成によると、検出手段を簡素な構成とすることができ、家畜への負担をより低減し、個々のウェアラブルデバイスのコストを抑えることができる。
【0020】
また、前記診断手段は、前記家畜の健康状態の診断結果を出力する出力手段をさらに備えていてもよい。また、前記出力手段には、前記家畜の健康状態の診断結果を、他の機器に無線通信により送信する無線通信手段が含まれてもよい。
【0021】
このような構成であると、例えば携帯情報端末に健康状態の診断結果を送信させることも可能になり、場所の制限を受けることなくリアルタイムに家畜の健康状態を把握することが可能になる。
【0022】
また、本発明に係る、家畜の健康情報管理方法は、
管理対象である家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報、を取得する検出ステップと、
前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報に基づいて、前記家畜の健康状態を診断する診断ステップと、を有する。
【0023】
また、前記家畜の姿勢情報には、前記家畜の尾のロール角情報が含まれ、前記診断ステップは、前記家畜の尾のロール角情報に基づいて、前記家畜が立位と臥位のいずれの状態であるかを判定するステップをさらに有してもよい。
【0024】
前記診断ステップは、体温指標算出ステップと、姿勢指標算出ステップと、活動量指標算出ステップと、健康状態判定ステップと、を含んでおり、前記体温指標算出ステップでは、前記家畜の体表温度の直近の第1の所定時間内の最高値を抽出し、前記最高値と、前記最高値を抽出した前記直近の第1の所定時間の属する日前所定数日間における各日の、前記直近の第1の所定時間の属する時間帯と同一の時間帯の前記家畜の体表温度の最高値の平均値、前所定数日間の各日の同一時間帯の体表温度の最高値の平均値との差分値を算出し、前記姿勢指標算出ステップでは、前記家畜が立位である時間又は臥位である時間の、第2の所定時間内の合計値を算出し、前記活動量指標算出ステップでは、前記家畜の活動量の、第3の所定時間内の合計値を算出し、前記健康状態判定ステップでは、体温指標算出ステップ、姿勢指標算出ステップ、及び活動量指標算出ステップの各ステップで算出した値の変動の仕方に基づいて、前記家畜の健康状態が、予め設定されている複数種類のステータスのいずれかに該当するかを判定する、ものであってもよい。
【0025】
或いは、前記診断ステップは、体温指標算出ステップと、姿勢指標算出ステップと、活動量指標算出ステップと、健康状態判定ステップと、を含んでおり、前記体温指標算出ステップでは、前記家畜の体表温度の直近の第1の所定時間内の最高値を抽出し、前記最高
値と、前記最高値を抽出した前記直近の第1の所定時間の属する日前所定数日間における各日の、前記直近の第1の所定時間の属する時間帯と同一の時間帯の前記家畜の体表温度の最高値の平均値、前所定数日間の各日の同一時間帯の体表温度の最高値の平均値との差分値を算出し、前記姿勢指標算出ステップでは、前記家畜の、直近の第4の所定時間内の立位である時間又は臥位である時間の合計値と、当該第4の所定時間前からさらに過去の第4の所定時間内の立位又は臥位から択一的に選択された姿勢と同じ姿勢である時間の合計値と、の比を算出し、前記活動量指標算出ステップでは、前記家畜の、直近の第5の所定時間内の活動量の合計値と、当該第5の所定時間前からさらに過去の第5の所定時間内の活動量の合計値と、の比を算出し、前記健康状態判定ステップでは、体温指標算出ステップ、姿勢指標算出ステップ、及び活動量指標算出ステップの各ステップで算出した値の変動の仕方に基づいて、前記家畜の健康状態が、予め設定されている複数種類のステータスのいずれかに該当するかを判定する、ものであってもよい。
【0026】
また、前記活動量情報には、前記家畜の姿勢変化の回数が含まれており、前記診断ステップは、前記ロール角情報に基づいて前記家畜の姿勢変化の回数を算出する姿勢変化回数算出ステップをさらに備え、前記健康状態判定ステップでは、前記家畜の姿勢変化の回数の変動の仕方の情報も用いて、前記家畜の健康状態が、予め設定されている複数種類のステータスのいずれかに該当するかを判定するものであってもよい。
【0027】
また、本発明は、上記の各方法を情報処理装置に実行させるためのプログラム、そのようなプログラムを非一時的に記録したコンピュータ読取可能な記録媒体として捉えることもできる。
【0028】
また、本発明に係る学習済みモデルの作成方法は、
管理対象である家畜の健康状態を判定するための学習済みモデルの作成方法であって、
所定期間に亘る、前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報の入力を行うステップと、
入力された前記の各情報の組み合わせに基づいて、前記家畜の健康状態を示すステータスを出力させるステップと、を含む。
【0029】
また、前記学習済みモデルの作成方法は、
前記所定期間に亘る、前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報、を訓練データとし、
前記所定期間内の、前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報の変動の仕方の組み合わせに対応して予め設定されている前記家畜の健康状態を示すステータス情報を正解データとする、学習データセットを用いて、
訓練対象のモデルに学習を行わせる、ものであってもよい。
【0030】
また、本発明に係る学習済みモデルは、
管理対象である家畜の健康状態を判定するための学習済みモデルであって、
所定期間に亘る、前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報の入力に対して、
前記所定期間における、前記家畜の体表温度情報、前記家畜の姿勢情報、及び前記家畜の活動量情報の変動の仕方の組み合わせに対応して予め設定されている前記家畜の健康状態を示すステータスを出力する、ことを特徴とする。
【0031】
なお、上記構成及び処理の各々は技術的な矛盾が生じない限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、簡易なシステムの構成で、管理対象の家畜の健康状態を精度よく知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る家畜の健康管理システムの構成例の概略を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る家畜の健康管理システムの機能構成の概略を示す機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る加速度センサの加速度検出軸と牛の尾の配置関係を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る健康状態判定部によって判定される牛の健康状態の種類と、牛の体表温度の変化、横臥(臥位)時間の変化、活動量の変化との関係の例を表す一覧表である。
【
図5】
図5は、実験例1の実験データをグラフ化した説明図である。
【
図6】
図6は、実験例2の実験データをグラフ化した説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態1に係る家畜の健康管理システムの健康状態管理処理全体の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、実施形態1に係る、健康状態診断処理のサブルーティンを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、実施形態1の変形例に係る家畜の健康管理システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、実施形態1の変形例に係る健康状態診断処理のサブルーティンを示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、実験例3の実験データをグラフ化した説明図である。
【
図12】
図12は、実験例4の実験データをグラフ化した説明図である。
【
図13】
図13は、実験例5の実験データをグラフ化した説明図である。
【
図14】
図14は、実施形態2に係る家畜の健康管理システムの構成例の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。
【0035】
<実施形態1>
まず
図1から
図8に基づいて、本発明の実施形態の第1の例について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0036】
(システム構成)
図1は、本実施形態に係る家畜の健康管理システム1の概略を示す図であり、
図2は家畜の健康管理システム1の機能構成を示すブロック図である。
図1に示すように、家畜の健康管理システム1は家畜に装着されるウェアラブルデバイス110と、ウェアラブルデバイス110と無線通信で情報通信を行う情報処理端末220とを有している。無線通信については所望の公知技術を用いることができ、例えば、Wi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)などを採用することができる。また、LTE(Long Term Evolution)などの公衆無線通信網によって通信を行うのであ
ってもよい。
【0037】
(ウェアラブルデバイス)
本実施形態においては、ウェアラブルデバイス110は牛の尾の付け根付近に装着される。このため、ウェアラブルデバイス110は、図示しないが、センサモジュールと装着
ベルト部を有する構成となっている。センサモジュールは装着ベルト部に一体に、或いは着脱可能に配置され、装着ベルト部を牛の尾の付け根付近に巻き付けて固定することで、ウェアラブルデバイス110が装着される。また、ウェアラブルデバイス110はバッテリーを備えており、各センサ、制御部などに電力を供給する。バッテリーは再充電可能な二次電池とすることもできる。
【0038】
また、
図2に示すようにウェアラブルデバイス110は、温度センサ111、加速度センサ112、記憶部113、通信部114、制御部115の機能部を備えている。なお、本実施形態においては、ウェアラブルデバイス110が検出手段に相当する。
【0039】
温度センサ111は管理対象の牛の体表温度を所定時間(例えば、2分間)毎に測定し、その温度を出力する。加速度センサ112は、X軸、Y軸、Z軸の三軸方向の加速度を計測可能な、いわゆる三次元加速度センサであり、牛の尾の3軸方向の加速度を出力する。
図3に、本実施形態における3軸の方向と牛の尾の関係を示す。
図3に示すように、本実施形態においては、Y軸を牛の尾の付け根と尾の延長線上にとったものとして説明を行う。
【0040】
記憶部113は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read only memory)などのメモリ装置であり、後述する制御部115によって実行されるプログラム、各センサで測定を行うタイミング情報、各センサによる測定値、などが格納される。
【0041】
通信部114は、無線通信の方式により、情報処理端末120と情報通信を行うための通信アンテナ及び無線通信処理手段(いずれも図示せず)を備えている。通信部114の無線通信処理部は後述する制御部115から伝達されるデータを無線通信信号に変換し、当該信号をアンテナから発信する。これによって、ウェアラブルデバイス110は、通信部114を介して、各センサにより取得した牛の体表温度情報(例えば、2分毎の体表温度)、姿勢情報(例えば、後述する姿勢指数)、活動量情報(例えば、後述する活動量指数)を、情報処理端末120に送信する。
【0042】
制御部115は、CPU(Central Processing Unit)を含んで構成され、ウェアラブ
ルデバイス110の各機能部を制御する。また、姿勢指数算出部1151、活動量指数算出部1152、の各機能モジュールを備えている。
【0043】
姿勢指数算出部1151は、加速度センサ112から得られた出力値に基づいて、姿勢指数として牛の尾の所定時間(例えば2分間)毎のロール角の平均値を算出する。例えば、加速度センサ112が測定した牛の尾のX軸・Z軸加速度の所定時間毎の平均値からこれを求めるようにしてもよい。なお当該姿勢指数は、情報処理端末120に送信される姿勢情報に含まれる。
【0044】
活動量指数算出部1152は、加速度センサ112から得られた出力値に基づいて、牛の活動量指数を算出する。具体的には、牛の活動量の所定時間(例えば5秒間)最小値の、所定時間(例えば2分間)の標準偏差を算出し、これを活動量指数とする。なお、当該活動量指数は、情報処理端末120に送信される活動量情報に含まれる。
【0045】
(情報処理端末)
情報処理端末120は、制御部121、通信部122、記憶部123、入力部124、表示部125を含んで構成される。情報処理端末120は、CPU、RAM、ROMなどを備えるコンピュータとして構成することができ、例えばパーソナルコンピュータなどの汎用の情報処理装置を採用することができる。なお、本実施形態においては、情報処理端末120が診断手段に該当する。
【0046】
制御部121は、情報処理端末120の各部の制御を司り、さらに体温指標算出部1211、姿勢指標算出部1212、活動量指標算出部1213、健康状態判定部1214、の各機能モジュールを備えている。各機能モジュールについては後述する。
【0047】
通信部122は、ウェアラブルデバイス110の通信部114と無線通信の方式により情報通信を行うための通信アンテナ及び無線通信処理部(いずれも図示せず)を備えている。これにより、情報処理端末120は通信部122を介してウェアラブルデバイス110から情報を取得する。
【0048】
記憶部123は、RAM、ROM、HDD(Hard Disk Drive)或いはSSD(Solid State Drive)などの大容量記憶装置、によって構成され、制御部121が実行するプログラム、ウェアラブルデバイス110から取得した情報、牛の健康状態の履歴情報、など各種の情報が記憶される。
【0049】
入力部124は、情報処理端末120に対するユーザーの操作を受け付けるための各種入力手段であり、キーボード、マウス、タッチパネルディスプレイなど(いずれも図示せず)、所望の既知の入力手段を採用することができる。
【0050】
表示部125は、制御部121によって診断された管理対象の牛の健康状態をはじめ、各種の情報を表示する出力装置であり、例えば液晶ディスプレイモニタなどを採用することができる。
【0051】
(健康状態判定用機能モジュール)
続けて、制御部121が備える機能モジュールについて説明する。体温指標算出部1211は、体温指数を算出し、当該体温指数に基づいて、体温指標を算出する。より詳細には、記憶部123に格納された体表温度情報から、牛の体表温度の直近1時間内の最高値を体温指数として算出(抽出)し、当該抽出した体温指数と、当該体温指数を抽出した時間帯の属する日前3日間における、各日の前記時間帯と同一時間帯の牛の体表温度の最高値の平均値と、の差分値を体温指標として算出する。具体的には、例えば現在時刻を14時とすると、13時から14時の1時間内の体表温度の最高値を抽出し、記憶部123に当該最高値を格納する。そして、記憶部123から、過去3日間の13時から14時の間の体表温度の最高値の平均値を求め、当該平均値と、先に抽出した当日の13時から14時の間の体表温度の最高値との差分を算出する。
【0052】
姿勢指標算出部1212は、記憶部123に格納された牛の姿勢指数に基づいて、所定時間内(例えば過去24時間)の牛の臥位時間の合計値を、姿勢指標として算出する。具体的には、例えば、牛の尾の姿勢指数(例えばロール角の2分間の平均値)が、-0.4未満、或いは+0.4を超える場合は牛の姿勢は臥位、-0.4以上、+0.4以下であれば牛の姿勢を立位と判定する。そのうえで、所定時間内(例えば過去24時間)の牛の臥位時間の合計値を算出し、これを姿勢指標とする。即ち、本実施形態においては、姿勢指標算出部が姿勢状態判定手段を兼ねる構成となる。なお、姿勢指標を、臥位時間ではなく所定時間内の立位時間の合計値としてもよい。
【0053】
また、活動量指標算出部1213は、記憶部123に格納された牛の活動量情報に基づいて、所定時間内(例えば過去24時間)の牛の活動量指数の合計値を、活動量指標として算出する。
【0054】
健康状態判定部1214は、算出された体温指標、姿勢指標、及び活動量指標の変動の仕方に基づいて、牛の健康状態が予め設定されている複数種類のステータスのいずれかに
該当するかを判定する。具体的には、例えば、体温指標が減少し、姿勢指標が増加し、活動量指標が減少している場合には、分娩が近づいている状態にあると判定する。そして当該判定の結果が、牛の健康状態の診断結果として出力される。なお、健康状態判定部1214には、例えば深層学習などの機械学習によって学習済みの人工知能(学習モデル)を採用することができる。
【0055】
図4は、本実施形態の健康状態判定部1214によって判定される牛の健康状態の種類と、牛の体表温度(体温指標)の変化、横臥時間(姿勢指標)の変化、活動量指標の変化との関係の例を表す一覧表である。
図4に示すように、本実施形態では、各指標の増減の仕方によって、牛が「正常」、「発情」、「分娩」、「発熱性疾患」、「乳熱」、「蹄熱」のいずれであるかを判定する。
【0056】
ここで、健康状態判定部1214を人工知能とする場合には、所定期間(例えば過去3日間)に亘る、上記の各指標を訓練データとし、当該所定期間における各指標の変動の仕方の組み合わせに対応して予め設定されている上記の各健康状態を正解データとする、学習データセットを用いて学習を行った学習済みモデルを用いることができる。
【0057】
なお、家畜を例えば繋ぎ飼い等の行動が制限されている条件下で飼育している場合には、発情していたとしても、活動量はそれほど上昇しないことになるが、そのような場合であっても、姿勢が立位である時間は延長すると考えられる。このため、活動量の変化だけでは見落としてしまう可能性のある健康状態の変動も、姿勢情報と組み合わせることで検出可能になる。また、このような組み合わせによる判定を行うことにより、姿勢情報、活動量情報それぞれについて、健康状態判定のための閾値を厳格に設定することも可能になるため、精度よく健康状態の変動を検出することができる。また、分娩時においても、分娩時の家畜の飼育態様(繋ぎの状態で分娩まで済ますのか、分娩房に移動するのか)や、分娩房に移した場合にはそのサイズ、に応じて、体温指標、姿勢指標、及び活動量指標の3つの指標を用いることで、多様な飼養形態に柔軟に対応することができる。
【0058】
以下に、牛の尾にウェアラブルデバイス110を装着して実験を行った際の実験データを示す。
【0059】
(実験例1)
図5は、牛の発情時前後の体温指標、姿勢指標、及び活動量指標を時系列で表示したグラフである。
図5からは、体温指標が急に増加し、姿勢指標が減少し、活動量指標が増加する、という条件がそろったタイミングにおいて、牛が発情していることがわかる。
【0060】
(実験例2)
図6は、牛の分娩時前後の体温指標、姿勢指標、及び活動量指標を時系列で表示したグラフである。
図6からは、体温指標が上昇後に急低下した後やや上昇し、姿勢指標が急減少し、活動量指標が上昇する、という条件がそろったタイミングにおいて、牛が分娩することがわかる。
【0061】
上記各実験例から、発情、分娩といった健康管理上重要なイベントにおいて、各指標間において変動量(変動の仕方)には明確な相関性が存在していることがわかる。
【0062】
(処理の流れ)
次に、
図7及び
図8に基づいて、本実施形態における家畜の健康管理システム1によって、牛の健康状態を管理する処理の流れを説明する。
図7は、家畜の健康管理システム1による健康管理処理全体の流れを示すフローチャートである。
図7に示すように、まずウェアラブルデバイス110の温度センサ111によって、所定時間毎に管理対象の牛の体
表温度が検出される(ステップS101)。また、加速度センサ112によって牛の尾のX軸・Y軸・Z軸の加速度が検出される(ステップS102)。さらに、ステップS102で検出された値に基づいて、姿勢指数算出部1151が所定時間毎の牛の尾のロール角の平均値を算出し(ステップS103)、活動量指数算出部1152が牛の活動量指数を算出する(ステップS104)。そして、このようにして得られた体表温度情報、姿勢情報、活動量情報が、通信部130を介して情報処理端末120に送信され(ステップS105)、情報処理端末120の制御部121によって、牛の健康状態診断処理が実施される(ステップS106)。以上でルーティンが一旦終了するが、当該ルーティンは随時、繰り返し実行される。これによって、リアルタイムで牛の健康状態を把握、管理することが可能になる。
【0063】
本実施形態においては、ステップS101からステップS104の処理が検出ステップに該当する。なお、ステップS101からステップS104の処理は、必ずしもこのような順番で実行する必要はなく、ステップS101と、ステップS102からステップS104の処理の順序は入れ替わっても構わない。また、ステップS103とステップS104の処理の順序が逆になっても構わない。
【0064】
続けて、ステップS106の健康状態診断処理のサブルーティンについて説明する。
図8は、情報処理端末120で実行される牛の健康状態診断処理の流れを示すフローチャートである。
図8に示すように、まず体温指標算出部1211により、記憶部123に格納されている体表温度情報に基づき、所定時間内の体表温度の最高値が抽出され(ステップS111)、これに基づき体温指標が算出される(ステップS112)。次に、姿勢指標算出部1212により、所定時間毎の牛の立位・臥位判定が行われ(ステップS113)、これに基づいて姿勢指標が算出される(ステップS114)。さらに活動量指標算出部1213によって活動量指標が算出される(ステップS115)。続けて、健康状態判定部1214によって、健康状態の判定処理が実行され(ステップS116)、当該判定結果が、表示部125に出力され(ステップS117)、ルーティンが一旦終了する。なお、体温指標、姿勢指標、活動量指標、及び健康状態判定処理については既に説明済みであるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0065】
本実施形態においては、ステップS111からステップS116までの処理が診断ステップに該当する。また、ステップS111及びステップS112が体温指標算出ステップに、ステップS113及びS114が姿勢指標算出ステップに、ステップS115が活動量指標算出ステップに、ステップS116が健康状態判定ステップに該当する。なお、体温指標算出ステップ、姿勢指標算出ステップ、活動量指標算出ステップ、は互いの処理の順序が入れ替わっても構わない。
【0066】
以上のような構成の家畜の健康管理システム1によれば、簡易な構成のウェアラブルデバイス110を家畜に装着しておけば、家畜と離れた場所にいても、当該モジュールが装着された家畜の健康状態を知ることができる。また、家畜の健康状態が自動的に診断されるため、家畜に対する生物学的・医学的知識の乏しい者であっても、家畜の健康管理を行うことができる。
【0067】
<変形例1>
なお、上記実施形態では、活動量指標を所定時間内の牛の活動量指数の合計値とし、姿勢指標を所定時間内の家畜の臥位時間の合計値としていたが、各指標は必ずしもこれに限られるわけではない。
【0068】
例えば、活動量指標を、過去所定時間(例えば24時間)内における家畜の活動量指数合計値と、当該所定時間前からさらに過去の同一所定時間内(例えば、24時間前から4
8時間前の間)の活動量指数合計値と、の比(活動量比)としてもよい。
【0069】
また、活動量を尾の挙動の数とし、活動量指標をその挙尾の程度によって求めるようにしてもよい。具体的には、過去所定時間(例えば6時間)内のY軸の平均加速度と、当該所定時間前からさらに過去の同一所定時間内(例えば、6時間前から12時間前の間)のY軸の平均加速度との比(Y軸比)としてもよい。なお、活動量比、Y軸比、は、活動量指標として択一的に用いるのではなく、いずれも併用するのであってもよい。
【0070】
また、姿勢指標を、過去所定時間(例えば24時間)内における家畜の立位時間合計値と、当該所定時間前からさらに過去の同一所定時間内(例えば、24時間前から48時間前の間)の立位時間合計値と、の比(起立時間比)としてもよい。なお、立位時間に換えて臥位時間を用いることが可能であるのは当然のことである。
【0071】
<変形例2>
また、健康状態判定部1214が家畜の健康状態を判定するために用いる情報は、体温指標、姿勢指標、活動量指標だけに限られるものではなく、その他の情報を用いて健康状態を判定することも可能である。以下では、
図9、及び
図10を参照して、このような変形例である家畜の健康管理システム11について説明する。
図9は、本変形例に係る家畜の健康管理システム11の機能構成を示すブロック図であり、
図10は、本変形例に係る、健康状態診断処理のサブルーティンを示すフローチャートである。
【0072】
図9に示すように本変形例に係る家畜の健康管理システム11は、情報処理端末1200が姿勢変化回数算出部1215を備える構成となっている。その他の点は、実施形態1の健康管理システム1と同様であるため、実施形態1の健康管理システム1と同一の構成及び処理については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0073】
姿勢変化回数算出部1215は、加速度センサ112から得られる家畜の尾のロール角情報に基づいて、家畜の姿勢変化(例えば、立位と臥位の変化)の回数をカウントし、過去所定時間(例えば24時間)内における家畜の姿勢変化回数と、当該所定時間前からさらに過去の同一所定時間内(例えば、24時間前から48時間前の間)の姿勢変化回数と、の比(姿勢変化回数比)を算出する機能部である。
【0074】
図10に示すように、本変形例に係る健康状態判定処理のサブルーティンでは、ステップS111乃至ステップS115の処理で、体温指標、姿勢指標、活動量指標が算出された後に、姿勢変化回数比が算出される(S121)。そして、健康状態判定部1214が、体温指標、姿勢指標、活動量指標に加えて、姿勢変化回数比を用いて、健康状態判定処理を行い(S116)、診断結果が出力される(S117)。
【0075】
以下に、複数の家畜の尾にウェアラブルデバイス110を装着して実験を行った際の実験データを示す。
【0076】
(実験例3)
図11は、サンプル数25として、牛の発情時前後の体温指標、活動量比(活動量指標)、及び起立時間比(姿勢指標)、起臥回数比(即ち、姿勢変化回数比)を時系列で表示したグラフである。
図11からは、体温指標、活動量比、起立時間比が急に上昇し、起臥回数比が低下後に急上昇する、という条件がそろったタイミングにおいて、牛が発情していることがわかる。
【0077】
(実験例4)
図12は、サンプル数30として、牛の分娩時前後の体温指標、活動量比、及び起立時
間比、起臥回数比、Y軸比(活動量指数)を時系列で表示したグラフである。
図12からは、体温指標が低下し、活動量比及び起立時間比が急上昇し、Y軸比が急に低下する、という条件がそろったタイミングにおいて、牛が分娩することがわかる。
【0078】
(実験例5)
図13は、サンプル数9として、豚の分娩時前後の体温指標、活動量比、及び横臥時間比(姿勢指標)、姿勢変化回数比を時系列で表示したグラフである。
図13からは、体温指標が緩やかな低下傾向の後上昇し、活動量比及び姿勢変化回数比が急上昇し、横臥時間比が低下する、という条件がそろったタイミングにおいて、豚が分娩することがわかる。
【0079】
上記各実験例のように、活動量比、起立(又は横臥)時間比、姿勢変化回数比、Y軸比を、用いた場合であっても、これらの変動の仕方には、発情や分娩といった健康管理上重要なイベントに応じて、明確な相関性が存在していることがわかる。
【0080】
<実施形態2>
次に、
図12に基づいて、本発明の他の実施形態について説明する。
図12は本実施形態に係る家畜の健康状態管理システム2の構成例を示す概略図である。
図12に示すように、家畜の健康状態管理システム2は、複数の牛に装着されたウェアラブルデバイス210a、210b、210c、210d・・・、情報処理端末220及び携帯情報端末230を含んで構成され、これらがネットワークNによって相互に接続される。ネットワークNには、例えば、インターネット等の世界規模の公衆通信網であるWAN(Wide Area Network)や、LTE等のその他の公衆通信網が採用されてもよい。また、ネットワークN
はWi-Fi等の無線通信網を含んでもよく、必要に応じて信号の中継装置を含んでいてもよい。
【0081】
携帯情報端末230は、所望の公知技術によるものであればよく、例えば、ノートPC、タブレット端末、スマートフォン、等を採用することができる。各ウェアラブルデバイス210a、210b、210c、210d・・・、及び情報処理端末220の構成は実施形態1のものと同様であるため、詳細な説明は省略する。なお、ウェアラブルデバイス210及び情報処理端末220の通信部は、ネットワークNと接続して情報通信を行う。
【0082】
本実施形態における家畜の健康状態管理システム2では、複数のウェアラブルデバイスのそれぞれが、ネットワークNを介して、情報処理端末220に個々のウェアラブルデバイスを識別可能な識別信号と共に体表温度情報、姿勢情報、活動量情報を送信する。そして情報処理端末220では、識別情報によって識別されるウェアラブルデバイス210毎に健康状態診断の処理を実行する。
【0083】
情報処理端末220は、所定のルールに基づいて、診断結果を携帯情報端末230へ送信する。例えば、健康状態が「正常」以外の状態であると診断された牛がいる場合にのみ、当該診断結果を識別情報と共に(即ち、牛を特定できる態様で)送信するように設定することもできる。或いは、所望の牛の健康情報を定期的に送信するようにすることもできるし、ユーザーの操作に応じて任意の情報(例えば管理対象の牛の健康状態の一覧)を送信することもできる。
【0084】
上記のような構成の家畜の健康状態管理システム2によれば、ユーザーはどこにいても携帯情報端末230で、牛の健康状態の情報をリアルタイムで取得することが可能になる。また、多数の牛をまとめて自動管理できるため、人的なコストを大幅に削減することが可能になる。また、個々のウェアラブルデバイス210の構成が簡素であるため、装置のコストも抑えることができる。
【0085】
<その他>
上記の各例の説明は、本発明を例示的に説明するものに過ぎず、本発明は上記の具体的な形態には限定されない。本発明は、その技術的思想の範囲内で種々の変形及び組み合わせが可能である。
【0086】
例えば、実施形態2において、携帯情報端末を複数含む構成としてもよいし、逆にネットワーク及び携帯情報端末を構成に含まずに、複数のウェアラブルデバイスが、直接情報処理端末と情報通信を行うような構成としてもよい。また、情報処理端末をクラウドサーバなどにして、事業者が一元管理するような態様であってもよい。
【0087】
また、上記の各指数・各指標の算出や、上記の各判定処理は、ウェアラブルデバイスと情報処理端末のいずれで実行してもよい。例えば、上記の各実施形態においては、体温指数の算出を情報処理端末で行う構成となっていたが、これをウェアラブルデバイスで算出するようにしてもよい。また、姿勢に関する情報についても、姿勢指数に基づいて行われる牛の立位・臥位の判定処理をウェアラブルデバイスで行い、当該判定結果を情報処理端末に送るようにしてもよい。或いは、姿勢指数及び活動量指数についても情報処理端末で算出するようにしてもよい。さらに、情報処理端末が行っていた健康状態診断処理を全てウェアラブルデバイスで完結し、診断結果のみを外部機器に送信するような構成とすることも可能である。
【0088】
また、上記の実施形態においては、姿勢指数を三次元加速度センサのX軸・Z軸加速度から牛の尾のロール角を求めることにより算出していたが、他の方法によって求めてもよい。例えば、1軸又は2軸の加速度センサを用いて、尾の動きの頻度から、牛の姿勢状態を判別するようにしてもよい。
【0089】
なお、上記実施形態では、牛を管理対象の家畜としていたが、管理対象となる家畜は牛に限定されず、馬、羊、山羊、豚などの他の動物にも適用可能である。また、健康状態の分類も上記の例で挙げたものに限られない。
【0090】
また、上記実施形態で健康状態判定部として機械学習を行った人工知能を例示したが、これに限られず、いわゆるエキスパートシステムとしてもよい。また、人工知能に限らず、既定のプログラムに従って閾値により判定処理を行うものであっても構わない。
【符号の説明】
【0091】
1、2・・・家畜の健康管理システム
110、210・・・ウェアラブルデバイス
120、220、1200・・・情報処理端末
115、121・・・制御部
230・・・携帯情報端末