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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-18
(45)【発行日】2025-03-27
(54)【発明の名称】炭酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 68/04 20060101AFI20250319BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20250319BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250319BHJP
【FI】
C07C68/04 A
C07C69/96 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021060886
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022156941
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深谷 訓久
(72)【発明者】
【氏名】プトロ サトプリヨ ワヒュー
(72)【発明者】
【氏名】崔 準哲
(72)【発明者】
【氏名】冨重 圭一
(72)【発明者】
【氏名】三島 崇禎
(72)【発明者】
【氏名】松本 清児
(72)【発明者】
【氏名】羽村 敏
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-035521(JP,A)
【文献】特開平07-224010(JP,A)
【文献】特開平07-033715(JP,A)
【文献】特開2010-077113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウムの存在下、二酸化炭素とカルボン酸オルトエステルとを反応させ炭酸エステルを生成する反応工程を含み、
前記カルボン酸オルトエステルが式(A)で表される化合物であり、
前記炭酸エステルが式(B)で表される化合物である、炭酸エステルの製造方法。
【化1】

上記式中、R は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基であり;R は、水素原子、ハロゲノ基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基である。
【請求項2】
前記反応工程をアルコールの存在下で行う、請求項に記載の炭酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸エステルは、ポリカーボネートやポリウレタンなどの原料であり、また、溶媒、燃料添加剤、各種洗浄剤及びリチウムイオン電池の電解液等の広範な用途を有する有用な化合物である。
炭酸エステルの製造方法として、均一系触媒存在下で二酸化炭素とカルボン酸オルトエステルとの反応による製造方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
また、固体触媒とベンゾニトリルなどの存在下で二酸化炭素とアルコールとの反応で炭酸エステルを製造する方法も提案されている(例えば、特許文献3、4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-35521号公報
【文献】特開平7-224010号公報
【文献】特開2016-216363号公報
【文献】WO2019/138993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
均一系触媒又はベンゾニトリル等を用いる従来の炭酸エステルの製造方法では、炭酸エステル生成後の分離精製が複雑であるという問題がある。本発明は、二酸化炭素とカルボン酸オルトエステルとの反応により簡便に炭酸エステルを製造する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、酸化セリウムの存在下で、二酸化炭素とカルボン酸オルトエステルとの反応により炭酸エステルが生成することを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の具体的態様等を提供する。
[1]
酸化セリウムの存在下、二酸化炭素とカルボン酸オルトエステルとを反応させ炭酸エステルを生成する反応工程を含むことを特徴とする炭酸エステルの製造方法。
[2]
前記カルボン酸オルトエステルが式(A)で表される化合物であり、前記炭酸エステルが式(B)で表される化合物である、[1]に記載の炭酸エステルの製造方法。
【化1】
上記式中、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基であり;Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。
[3]
前記式(A)において、Rの全てが炭素数1~6のアルキル基であり;Rが水素原子、ハロゲノ基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基である、[2]に記載の炭酸エステルの製造方法。
[4]
前記反応工程をアルコールの存在下で行う、[1]~[3]のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、二酸化炭素とカルボン酸オルトエステルとの反応により簡便に炭酸エステルを製造することができる。反応後にろ過等により容易に触媒と炭酸エステルを分離可能であり、触媒は繰り返し利用できる。また副生成物は対応するカルボン酸エステルであり、これも蒸留により目的物である炭酸エステルと容易に分離できる。特に、アルコールの存在下で反応を行うと、カルボン酸オルトエステルは原料としてだけでなくアルコールと二酸化炭素の反応で炭酸エステルが生成する脱水剤としての役割も兼ね、高収率で炭酸エステルが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の詳細を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0008】
炭酸エステルの製造方法
本発明の一実施形態に係る炭酸エステルの製造方法は、酸化セリウムの存在下、二酸化炭素とカルボン酸オルトエステルとを反応させ炭酸エステルを生成する反応工程を含むことを特徴とする。
【0009】
二酸化炭素とカルボン酸オルトエステルとを反応させて炭酸エステルが生成する反応は、例えば、以下の反応式で表される。
【化2】
(上記式中、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基であり;Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
具体的には、例えば、二酸化炭素にオルト酢酸トリエチルを反応させて、ジエチルカーボネートと酢酸メチルを生成する反応が挙げられる。
本発明者らは、二酸化炭素とカルボン酸オルトエステルからの炭酸エステルの直接合成について検討し、酸化セリウムの存在下で、簡便に炭酸エステルを製造できることを見出した。この直接合成の反応メカニズムは以下のように推定される。まず、酸化セリウムとカルボン酸オルトエステルとが反応し、Ce-O-Rというアルコキシ基部位を有する化学種が酸化セリウム表面に生成する。このアルコキシ基部位のCe-O結合に対して二酸化炭素分子が挿入し、Ce-O-(C=O)-O-Rというカルボニル基(C=O)を持つ化学種となる。このカルボニル基(C=O)に対して、カルボン酸オルトエステル由来のもう一つのRO基が求核的に反応して、生成物である炭酸エステル(B)と、副生成物であるカルボン酸エステルを生成し、酸化セリウムが再生する。本実施形態に係る製造方法は、二酸化炭素を有効活用でき、また、ホスゲンを用いる合成法の代替となり得る、低環境負荷の炭酸エステルの製造方法である。
以下、「カルボン酸オルトエステル」、反応条件等について説明する。本明細書では、
酸化セリウムの存在下、二酸化炭素とカルボン酸オルトエステルとを反応させ炭酸エステルを生成する反応工程を、単に「反応工程」ともいう。
【0010】
<カルボン酸オルトエステル>
本発明で用いられるカルボン酸オルトエステルは、同一の炭素上に3個のアルコキシ基を持つ化合物であれば特に限定されない。3個のアルコキシ基は同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、アルコキシ基のアルキル基は、直鎖状であってもよいし分岐鎖状であってもよいし、置換されていてもよいし無置換でもよい。
【0011】
カルボン酸オルトエステルとしては、好ましくは式(A)で表される化合物が挙げられる。
【化3】
(式(A)中、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基であり;Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。)
【0012】
(R
は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基である。
のアルキル基の炭素数は特に限定されないが、通常1以上であり、また、通常30以下、好ましくは24以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは12以下、特に好ましくは6以下である。アルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
で表される無置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-ドコシル基等が挙げられる。
が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲノ基、アルキルチオ基、アミノ基、イミノ基、アミジノ基、ピロリル基、トリアジン環、トリアゾール環、ベンゾトリアゾリル基、イミダゾリル基、ベンズイミダゾリル基、キノリル基、ピリジル基、ピリミジン基、ピラジニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、プリニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、ピロリジニル基、ピラゾリル基、アニリン基、アゾ基、ジアゾ基、アジド基、シアノ基、アミド基、イミド基、ウレア基、イソシアヌル構造を含む基、ニトロ基、ニトロソ基、シアネート基、イソシアネート基、モルホリノ基、ラクタム環等が挙げられる。
生成物の汎用性と、入手容易性の観点から、Rは無置換のアルキル基であることが好ましく、Rの全てが炭素数1~6のアルキル基であることが特に好ましい。
【0013】
(R
は、水素原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。本明細書において、「炭化水素基」とは、直鎖状の飽和炭化水素基に限られず、炭素-炭素不飽和結合を有していてもよいし、分岐構造を有していてもよいし、環状構造を有していてもよい。
の炭化水素基の炭素数は特に限定されないが、通常1以上であり、また、通常30
以下、好ましくは20以下、より好ましくは12以下である。
で表される無置換の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-ドコシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、1-トリフェニレニル基、2-トリフェニレニル基等のアリール基等が挙げられる。
が有していてもよい置換基としては、Rが有していてもよい置換基として例示したものが挙げられる。
入手容易性の観点からの観点から、Rは、水素原子、ハロゲノ基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であることが特に好ましい。
【0014】
カルボン酸オルトエステルの具体例としては、例えば、オルトぎ酸トリメチル、オルトぎ酸トリエチル、オルトぎ酸トリプロピル、オルトぎ酸トリイソプロピル、オルトぎ酸トリブチル、オルトぎ酸ジエチルフェニル等のオルトぎ酸エステル;オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルト酢酸トリプロピル、オルト酢酸トリブチル、オルトクロロ酢酸トリエチル、オルトジクロロ酢酸トリエチル等のオルト酢酸エステル;オルトプロピオン酸トリメチル、オルトプロピオン酸トリエチル等のオルトプロピオン酸エステル;オルト酪酸トリメチル、オルトイソ酪酸トリメチル等のオルト酪酸エステル;オルト吉草酸トリメチル、オルト吉草酸トリエチル等のオルト吉草酸エステル;オルト安息香酸トリメチル、オルト安息香酸トリエチル等のオルト安息香酸エステル等が挙げられる。
カルボン酸オルトエステルの使用量(仕込み量)は特に限定されず、反応容器の大きさに応じて適宜決定すればよい。また、カルボン酸オルトエステルは市販品を用いてもよいし、合成して用いてもよい。
【0015】
<二酸化炭素>
反応工程は、炭酸エステルの原料として二酸化炭素(ガス)を用いる。二酸化炭素ガスの充填圧力は特に限定されないが、高い方が収率が高い傾向があり、通常0.1MPa以上、好ましくは1.0MPa以上、また、通常10MPa以下、好ましくは5.0MPa以下である。充填圧力がこの範囲であると、炭酸エステルを効率良く製造できる。なお、本明細書において、「充填圧力」とは、反応開始時点での反応器内の二酸化炭素の圧力(25℃)を意味する。二酸化炭素は、反応時の圧力が、好ましくは1MPa以上、より好ましくは2MPa以上、また、好ましくは20MPa以下、より好ましくは15MPa以下である。反応工程で用いる二酸化炭素は、工業ガスとして調製されたものだけでなく、工場や発電所等からの排出ガスから分離回収したものも用いることができる。なお、反応系においては、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、二酸化炭素以外のガス、例えば、N、Ar等の不活性ガスが含まれていてもよい。
【0016】
<酸化セリウム>
反応工程は、酸化セリウム(CeO)の存在下で行う。酸化セリウムは触媒として機能する。
酸化セリウムの使用量(仕込み量)は、オルトカルボン酸エステル1当量に対し、通常0.01当量以上であり、好ましくは0.1当量以上であり、通常1当量以下であり、好ま
しくは0.5当量以下であり、より好ましくは0.3当量以下である。
酸化セリウムは市販品を用いてもよいし、合成して用いてもよい。酸化セリウムは、反応工程に使用した後、回収して触媒として再利用することができる利点がある。例えば、反応工程の終了後、酸化セリウムをろ過で反応生成混合物の溶液から分離し、エタノールで数回洗浄後、110℃で1時間乾燥させて回収して再利用することができる。
【0017】
<溶媒>
反応工程は溶媒を使用してもよいし、使用しなくてもよいが、反応溶媒を使用することが好ましい。反応溶媒を使用することで、反応混合物中への二酸化炭素の溶解量が増加して、反応系中の二酸化炭素の濃度が高くなり、反応が進行しやすくなって炭酸エステルの収率が向上すると考えられる。
反応溶媒の種類は特に限定されないが、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリン等のアルコール;ブタン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ピリジン等の複素環式芳香族化合物;酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル、2-シアノピリジン等のニトリル;アセトン、イソプロピルケトン等のケトン等を挙げることができる。溶媒は1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0018】
中でも、反応効率向上の観点から、反応工程はアルコールの存在下で行うことが好ましい。反応工程において、カルボン酸オルトエステルは反応剤として機能する(式(1))。二酸化炭素とアルコールは酸化セリウムの存在下で反応して炭酸エステルと水を生成する(式(2))。この水がカルボン酸オルトエステルと反応して、炭酸エステルとエタノールを生成する(式(3))。このように、反応工程をアルコールの存在下で行うことにより、カルボン酸オルトエステルは反応剤としも脱水剤としても機能し、より効率良く反応を行うことができる。特に、カルボン酸オルトエステルのアルコキシ基のアルキル鎖が長い程、アルコールの存在下で反応を行うことが好ましく、その効果が顕著に発現する。
【化4】
【0019】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、例えば、カルボン酸オルトエステル1当量に対して、通常1当量以上、より好ましくは1.5当量以上、さらに好ましくは2.5当量以上、特に好ましくは4当量以上であり、通常20当量以下、好ましくは、15当量以下、より好ましくは10当量以下で用いることができる。
【0020】
<反応温度>
反応温度は特に限定されないが、高いほうが収率が高い傾向があり、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上である。また、反応温度の上限は、反応器内の圧力にもよるが、生成する炭酸エステルの熱分解を回避して高収率を実現する観点から、通常250℃以下、好ましくは230℃以下である。反応温度がこの範囲であると、炭酸エステルを効率良く製造できる。
【0021】
<反応時間>
反応時間は特に限定されず、反応温度、触媒量、反応スケール等によって適宜調整すればよい。通常、30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上であり、また、通常120時間以下、好ましくは100時間以下、より好ましくは80時間以下である。本明細書において、「反応時間」は、反応器内の温度が所定の反応温度に到達してから、当該所定の反応温度で維持する時間とする。
【0022】
<反応容器>
反応容器は、カルボン酸オルトエステルに対して安定な材質から形成されていれば特に限定されず、連続プロセス又はバッチプロセスに応じて適宜選択される。本発明の一実施形態においては、連続プロセスとしてもよいし、バッチプロセスとしてもよい。バッチプロセスの場合、好ましくは密閉型の反応容器(密閉反応容器)であり、より好ましくはカルボン酸オルトエステル及び酸化セリウム、必要に応じて溶媒の混合物の体積に対し10倍~100倍の体積を有する密閉型の耐圧性容器であり、より好ましくはステンレス製のオートクレーブである。
【0023】
<操作手順>
まず、原料のカルボン酸オルトエステルと触媒の酸化セリウムを反応容器に加える。この際、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。反応容器にカルボン酸オルトエステル及びと酸化セリウムを加えた後、反応器内を原料の二酸化炭素で満たし、二酸化炭素雰囲気とする。溶媒を用いる場合は、二酸化炭素を反応器に導入する前に、反応容器に加えればよく、カルボン酸オルトエステルと同時に反応器に加えてもよい。反応中、反応容器内には本発明の効果を著しく損なわない範囲において、窒素、アルゴン等の不活性ガス等が含まれていてもよい。また、反応中、攪拌することが好ましく、例えば、磁気撹拌子を用いることができる。反応後は、冷却し、残存するガスを排出してから、反応生成物を回収する。
【0024】
<その他工程>
本実施形態に係る炭酸エステルの製造方法においては、上記反応工程の他、任意の工程を含んでいてもよい。任意の工程としては、炭酸エステルの純度を高めるための精製工程が挙げられる。精製工程においては、ろ過、吸着、カラムクロマトグラフィー、蒸留等の有機合成分野で通常行われる精製方法を採用することができる。具体的には、目的とする炭酸エステルが液体の場合、精製は、例えば、蒸留、晶析、吸着などにより行うことができる。
また、酸化セリウムを回収する工程を設けてもよい。
【0025】
<炭酸エステル>
本発明により製造される炭酸エステルは特に限定されず、目的に応じて決定すればよい。
本発明の一実施形態に係る製造方法において式(A)で表される化合物をカルボン酸オルトエステルとして用いた場合、下記式(B)で表される化合物を好適に製造できる。
【化5】
(式(B)中、Rは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基である。)
【0026】
は式(A)で表される化合物に由来する置換基を有していてもよいアルキル基であり、式(A)で表される化合物での説明が適用される。
式(B)で表される化合物の具体的な例として、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどが挙げられる。
【実施例
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0028】
<実施例1>
磁気撹拌子を入れた10mL容積のSUS製オートクレーブ(耐圧硝子工業株式会社製)に、窒素雰囲気下でカルボン酸オルトエステルとしてオルト酢酸トリエチル(CHC(OEt))1.73g(10.7mmol)、触媒として酸化セリウムを0.368g(2.14mmol)、溶媒としてエタノール1.97g(42.8mmol)を加え、25℃の温度下でボンベから二酸化炭素ガスを、圧力計(スウェージロックFST社製
PGI-50M-MG10)が示す圧力でオートクレーブ内を充填圧力5.0MPaになるよう充填して10分間撹拌しながら保持し、密封した。その後、オートクレーブ内を1200rpmに攪拌しつつ、反応温度が160℃となるよう加熱し、20時間反応させて、炭酸エステル(ジエチルカーボネート)を得た。反応温度に到達した時のオートクレーブ内の圧力は、8.8MPaであった。冷却後、残存するガスを放出し、反応生成混合物を4-tert-ブチルトルエンを内部標準物質としてガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製 GC-2014ATF/SPL)により分析した。原料であるオルト酢酸トリエチルを基準とするジエチルカーボネートの収率は53%であった。結果を表1に示す。なお、表中、反応温度に到達した時のオートクレーブ内の圧力を「反応圧力」とする。
【0029】
<実施例2>
実施例1の反応条件に対し、反応温度を100℃とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0030】
<実施例3>
実施例1の反応条件に対し、反応温度を120℃とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0031】
<実施例4>
実施例1の反応条件に対し、反応温度を140℃とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0032】
<実施例5>
実施例1の反応条件に対し、反応温度を180℃とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0033】
<実施例6>
実施例1の反応条件に対し、反応温度を200℃とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0034】
<実施例7>
実施例1の反応条件に対し、反応温度を220℃とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0035】
<実施例8>
実施例1の反応条件に対し、充填圧力を1.0MPaとした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0036】
<実施例9>
実施例1の反応条件に対し、充填圧力を3.0MPaとした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0037】
<実施例10>
実施例1の反応条件に対し、反応時間を3時間とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0038】
<実施例11>
実施例1の反応条件に対し、反応時間を6時間とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0039】
<実施例12>
実施例1の反応条件に対し、反応時間を16時間とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0040】
<実施例13>
実施例1の反応条件に対し、反応時間を24時間とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0041】
<実施例14>
実施例1の反応条件に対し、反応時間を48時間とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0042】
<実施例15>
実施例1の反応条件に対し、反応時間を72時間とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0043】
<実施例16>
実施例1の反応条件に対し、オルト酢酸トリエチル(CHC(OEt))をオルトぎ酸トリエチル(HC(OEt))とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0044】
<実施例17>
実施例1の反応条件に対し、オルト酢酸トリエチル(CHC(OEt))をオルトプロピオン酸トリエチル(CHCHC(OEt))とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0045】
<実施例18>
実施例1の反応条件に対し、オルト酢酸トリエチル(CHC(OEt))をオルト酪酸トリエチル(CHCHCHC(OEt))とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0046】
<実施例19>
実施例1の反応条件に対し、オルト酢酸トリエチル(CHC(OEt))をオルト吉草酸トリエチル(CHCHCHCHC(OEt))とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0047】
<実施例20>
実施例1の反応条件に対し、オルト酢酸トリエチル(CHC(OEt))をオルト安息香酸トリエチル(CC(OEt))とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0048】
<実施例21>
実施例1の反応条件に対し、オルト酢酸トリエチル(CHC(OEt))をオルトクロロ酢酸トリエチル(ClCHC(OEt))とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0049】
<実施例22>
実施例1の反応条件に対し、オルト酢酸トリエチル(CHC(OEt))をオルトジクロロ酢酸トリエチル(ClCHC(OEt))とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0050】
<実施例23>
実施例1の反応条件に対し、溶媒としてエタノールを加えなかった以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0051】
<実施例24>
実施例1の反応条件に対し、溶媒としてエタノールを加えず、オルト酢酸トリエチル(CHC(OEt))をオルトぎ酸トリエチル(HC(OEt))とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0052】
<実施例25>
実施例1の反応条件に対し、溶媒としてエタノールを加えず、オルト酢酸トリエチル(CHC(OEt))をオルトプロピオン酸トリエチル(CHCHC(OEt))とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0053】
<実施例26>
実施例1の反応条件に対し、溶媒としてエタノールを加えず、オルト酢酸トリエチル(CHC(OEt))をオルト酪酸トリエチル(CHCHCHC(OEt))とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0054】
<実施例27>
実施例1の反応条件に対し、溶媒としてエタノールを加えず、オルト酢酸トリエチル(CHC(OEt))をオルト吉草酸トリエチル(CHCHCHCHC(OEt))とした以外は、実施例1と同様の操作によりジエチルカーボネートの製造を行った。結果を表1に示す。
【0055】
<実施例28>
実施例1の反応終了後、酸化セリウム(触媒)をろ過で溶液から分離し、エタノールで5回洗浄後、110℃で1時間乾燥させて回収した。この回収した酸化セリウム(触媒)を用いて、再び実施例1と同じ条件でジエチルカーボネートの製造を行った(触媒の再利用1回目)。同様の操作を繰り返し、再利用実験を4回目まで行った。結果を表2に示す。
【0056】
<実施例29>
実施例19の反応終了後、酸化セリウム(触媒)をろ過で溶液から分離し、エタノールで5回洗浄後、110℃で1時間乾燥させて回収した。この回収した酸化セリウム(触媒)を用いて、再び実施例19と同じ条件でジエチルカーボネートの製造を行った(触媒の再利用1回目)。同様の操作を繰り返し、再利用実験を4回目まで行った。結果を表3に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
上記の実施例から、酸化セリウムの存在下、二酸化炭素とカルボン酸オルトエステルとの反応により簡便に炭酸エステルを製造できることがわかった。
実施例1~7から、反応温度を高くすると炭酸エステルの収率が向上する傾向があり、160℃より高温で反応を行うと、収率の向上は緩やかになったことがわかった。反応温度を160℃より高温とすると、炭酸エステルの生成量は向上するものの、生成した炭酸エステルが一部熱分解し、収率の向上が緩やかになったものと考えられる。
実施例1、8、9より初期圧力を高くすることで炭酸エステルの収率が向上することがわかった。
実施例1、10~12から、反応時間を長くすると炭酸エステルの収率が向上する傾向があることがわかった。
実施例29、30に示される通り、使用した酸化セリウムは回収し、触媒として再利用することができる。
また、実施例1、14~28から、アルコールの存在下で反応を行うことにより炭酸エステルの収率が向上し、長鎖のカルボン酸オルトエステルほど高収率で炭酸エステルが得られる傾向があることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、二酸化炭素とカルボン酸オルトエステルとの反応により簡便に炭酸エステルを製造することができる。また、本発明の製造方法で得られる炭酸エステルは、ポリカーボネートやポリウレタンなどの原料であり、また、溶媒、燃料添加剤、各種洗浄剤及びリチウムイオン電池の電解液等の広範な用途を有し、非常に有用である。