(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-06-30
(45)【発行日】2025-07-08
(54)【発明の名称】スラグ流生成装置、前記スラグ流生成装置を備えた化学物質の処理装置、スラグ流生成方法、及びスラグ流を用いた化学物質の処理方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20250701BHJP
B01J 19/24 20060101ALI20250701BHJP
B01F 23/23 20220101ALI20250701BHJP
B01F 23/40 20220101ALI20250701BHJP
【FI】
B01J19/00 B
B01J19/24 Z
B01F23/23
B01F23/40
(21)【出願番号】P 2021117594
(22)【出願日】2021-07-16
【審査請求日】2024-06-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 慎一朗
(72)【発明者】
【氏名】武藤 明徳
【審査官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-208718(JP,A)
【文献】特開平01-207518(JP,A)
【文献】特開2014-023981(JP,A)
【文献】特開2020-032346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00 - 12/02
B01J 14/00 - 19/32
B01F 21/00 - 25/90
B01F 35/00 - 35/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流体のスラグ流を生成する装置であって、
前記複数の流体をそれぞれ保持する流体保持部、
前記複数の流体をそれぞれ常時圧送するポンプ、
前記複数の流体保持部と前記ポンプ、及び前記ポンプと流体合流部をそれぞれ接続する流路、並びに、
前記流体合流部の下流に設けられたスラグ流生成流路を有し、
前記流体合流部と前記ポンプの間の流路にはそれぞれバルブが設置され、
前記バルブにより、前記流体合流部には常に1種の流体が圧送され、それ以外の流体は排出流路に排出されるように制御される、スラグ流生成装置。
【請求項2】
前記排出流路が元の流体保持部に接続し、排出された流体が元の流体保持部に回収される、請求項1に記載のスラグ流生成装置。
【請求項3】
前記排出流路が前記流体合流部とは別の流体合流部に接続し、排出された流体が前記別の流体合流部に圧送されることにより、別のスラグ流生成流路が並列して設けられる、請求項1に記載のスラグ流生成装置。
【請求項4】
前記スラグ流生成流路で反応又は分離が行われる請求項1~3のいずれか1項に記載のスラグ流生成装置。
【請求項5】
前記ポンプの少なくとも1つが、ヘッド内を流通する流体の液体状態を保つ温度調節機構を有する請求項1~4のいずれか1項に記載のスラグ流生成装置。
【請求項6】
前記スラグ流の一相が液化二酸化炭素であり、他の相が液体である請求項5に記載のスラグ流生成装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のスラグ流生成装置を備えた化学物質の処理装置。
【請求項8】
前記スラグ流生成装置の下流に液液分離機構を有する請求項7に記載の化学物質の処理装置。
【請求項9】
前記スラグ流生成装置と前記液液分離機構の間に気液分離機構を有する請求項8に記載の化学物質の処理装置。
【請求項10】
前記気液分離機構の上部には圧力制御機構を備えた気体排出管が接続され、下部には前記液液分離機構に接続する液体排出管が接続されている請求項9に記載の化学物質の処理装置。
【請求項11】
複数の流体をそれぞれの流体保持部から流体合流部に至るそれぞれの流路にポンプで常時圧送し、前記流体合流部の下流の流路でスラグ流を生成する方法であって、
前記流体合流部と前記ポンプの間に設置されたバルブを制御して、前記流体合流部に、常に1種の流体を圧送
し、それ以外の流体を排出流路に排出する、スラグ流生成方法。
【請求項12】
前記排出流路に排出された流体を、元の流体保持部に回収する、請求項11に記載のスラグ流生成方法。
【請求項13】
前記排出流路に排出された流体を、前記流体合流部とは別の流体合流部に圧送し、別のスラグ流生成流路で並行してスラグ流の生成を行う、請求項11に記載のスラグ流生成方法。
【請求項14】
前記スラグ流を生成する流路で反応又は分離を行う請求項11~13のいずれか1項に記載のスラグ流生成方法。
【請求項15】
前記ポンプのうち少なくとも1つで、ヘッド内を流通する流体の液体状態を保つ温度調節を行う、請求項11~14のいずれか1項に記載のスラグ流生成方法。
【請求項16】
前記スラグ流の一相が液化二酸化炭素であり、他の相が液体である請求項15に記載のスラグ流生成方法。
【請求項17】
請求項11~16のいずれか1項に記載のスラグ流生成方法を含む化学物質の処理方法。
【請求項18】
生成したスラグ流を液液分離することを含む請求項11~17のいずれか1項に記載の化学物質の処理方法。
【請求項19】
生成したスラグ流を気液分離した後、液液分離することを含む請求項18に記載の化学物質の処理方法。
【請求項20】
気液分離された気体を圧力制御しながら上部から排出し、液液分離された液体を下部から排出することを含む請求項19記載の化学物質の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグ流生成装置、前記スラグ流生成装置を備えた化学物質の処理装置、並びにスラグ流生成方法、及びスラグ流を用いた化学物質の処理方法に関する。ここでの処理とは、化学物質に関する反応又は分離(抽出、吸収、晶析等)又は反応分離をさす。
【背景技術】
【0002】
従来の化学反応プロセスにおいて、スケールアップによる効率化が求められていた。さらに近年においては、環境負荷の軽減、省資源及び省エネルギーの要求も加わる。
今後の成長が期待される医薬品や機能性化学品ないしはファインケミカルのような高付加価値品の生産においては、少量生産に向くバッチ生産方式が主流である。しかし、エネルギーロスが大きく、共生成物を多く排出するため、近年、反応から分離精製までを連続操作で行うフロー生産方式(以下、「フロープロセス」という。)により各バッチ処理工程間のロスの低減を試みる動きがある。また、必要に応じて反応モジュールや分離精製モジュールを組み替えることで、多種多様な機能性化学品の製造に対応できるよう、フロープロセスに組み込まれる各単位操作をモジュール化する研究開発の動きがある(非特許文献1)。
【0003】
フロープロセスでは配管内ないしは配管の途中に接続された装置を流体が流通する過程で、温度調整、圧力調整、混合、反応、抽出、分離精製等の操作が行われる。各単位操作のモジュールの要件として、コンパクトかつ高速処理であることが求められる。特にフロープロセスにおいて、重要な対象は、互いに一部が溶け合うか、全く溶け合わない多相流体の流動が関わるプロセスである(例として、液液反応、気液反応、液液抽出、気液抽出、気液分離、液液分離)。通例、多相流体が関わるプロセスにおいて、プロセスのコンパクト化、高速処理化を目指すとき、相間物質移動抵抗を低減することが重要になる。
【0004】
多相流体プロセスにおいて、目的とする単位操作に有利な流動状態を積極的に利用するために装置をコンパクト化することも挙げられる。通例少量生産を目的としたフロープロセスでは、バッチプロセスで扱われる空間に比べてスケールが小さく、また流量が低いため、レイノルズ数が低く、層流が支配的になる。このような層流域においても、分離状態にある異なる相の流体が交互に流れるスラグ流(セグメンテッド流、テイラー流とも呼ばれる。
図1(a)、(b)に示す流動状態。)は、壁面からのせん断に由来にするスラグ内の内部循環流により、界面更新が促進されることで物質移動抵抗が低減する。また、大きな流体塊を形成可能であるため、相分離に要する時間が比較的短いという長所がある(特許文献1)。
図1は混相流の代表的な流動状態であり、例えば
図1(c)~(f)に示す流動状態では、物質移動抵抗の低減効果が得られないのに対して、(a)、(b)に示すスラグ流では、内部循環流による物質移動抵抗の低減効果が発揮される。
【0005】
従来、スラグ流は、
図2(a)、(b)に示すように、異なる相の複数の流体を、それぞれの流体に対応する複数のポンプを用いて連続的に流体合流部に圧送することにより生成されてきた(例えば、非特許文献2:Figure2、2.1. Experimental Setup)。
この方法は、複数の流体をそれぞれ圧送するポンプと流体合流部を接続するだけの簡易な構成の装置によって実現することができる。また、スラグ流は成り行き的に生成されるから、スラグ長さを制御することはできないが、液液比は、各ポンプの流量比を変えることによって、動作中に変更することができる。
【0006】
また、非特許文献3には、2つのポンプを常時圧送状態に保ちつつ、二液の流体合流部に設けた三方電磁バルブを周期的に駆動させることで、流体合流部に交互送液しスラグ流を発生させることが記載されている。このような装置を用いれば、層流支配の状況において、交互に送流を行うことが可能である。また、弁の切替周波数によってスラグ長さを制御することができる。
【0007】
非特許文献4には、常時連続相(キャリアオイル)を流し、バルブの切替とポンプの動停止によって分散相1と分散相2の間欠的な導入を制御することで、スラグ流を発生させることが記載されている。この装置を用いれば、バルブとポンプの制御により、ポンプ動作中に、流量や各スラグの長さを制御することができる。
【0008】
非特許文献5には、2台のピエゾマイクロポンプを電圧と周波数の電子的な制御により逆位相で動作させることで、スラグ流を発生させる装置が記載されている。この装置を用いれば、ポンプ動作中に電圧と周波数の制御により、流量とスラグ長さを制御することができる。また、原理的に流体が堰き止められる状態がないため、ポンプや流路内に加圧状態が発生しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】NEDO、「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」2020/06/25, https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100152.html 「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」基本計画、https://www.nedo.go.jp/content/100893512.pdf (最終更新日2021年3月3日)
【文献】Madhvanand N. Kashid、Albert Renken、Lioubov Kiwi-Minske、Gas-liquid and liquid-liquid mass transfer in microstructuredreactors、Chemical Engineering Science 66 (2011)3876-3897
【文献】門脇信傑、マイクロ化学プロセス用三方電磁弁の開発と応用、岡山大学大学院博士論文、3章、2014年3月
【文献】Shusaku Asano, Yu Takahashi,Taisuke Maki, Yosuke Muranaka, Nikolay Cherkasov & Kazuhiro Mae、Contactless mass transfer for intra-droplet extraction、Scientific Reports、10 (2020)、pp. 7685-7693
【文献】阿部秀隆、武藤明徳、連動した2台のポンプによる液液スラグ流の発生、化学工学会第86年会講演要旨K301(2021年3月8日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
スラグ流における物質移動の促進効果は、種々の流体物性に応じて流速とスラグ長さに最適点が存在し、流体物性によって異なる該最適点をカバーできる範囲で流速とスラグ長さを独立にかつ容易に制御できる技術が求められる。また、プロセスの不安定性の懸念材料となる流量変動を招くような動停止するポンプを用いることなく、常時圧送状態のポンプによってスラグ長さを制御できることが好ましい。しかしながら、これら2つの特徴を併せ持ったスラグ流生成装置は開発されていなかった。
非特許文献2の装置では、成り行き的なスラグ流の発生であるため、各ポンプの流量と流体合流部の形状やサイズ、流体物性でスラグ長さが規定されてしまい、ほぼ自由度がない。
非特許文献3に記載される装置では、スラグ長さを制御することはできるが、ポンプを常時圧送状態に保つが故に、流体が堰き止められる状態が発生し、ポンプや流路が過圧状態になって負荷がかかって破損したり、流量が変動したりする懸念がある。
非特許文献4に記載される装置では、バルブ閉止時にポンプを停止しているため、加圧による装置の損傷の心配はなく、複数のシリンジポンプを同期させて、三相スラグ流において各相のスラグ長さと流速の制御が実現されていた。しかしながら、送液するポンプを適宜動停止させることによる送液制御であるため、流量変動によるプロセスの不安定性が懸念される。
非特許文献5では、流体が堰き止められる状態がなくポンプや流路内に加圧状態が発生しない。また、ピエゾマイクロポンプ(以下、「PMP」という。)の構造上、電圧によりダイヤフラムの振幅幅を変えることと電圧変化の周波数を変えることで、ダイヤフラムが1往復して送液される流体量と平均流量を独立に制御することを可能とし、その結果スラグ長さと流速を独立に制御することができた。しかしながら、PMPは吐出圧が小さいから、送液特性を正確にコントロールすることは難しい。また、二流体のスラグ長さの比を変更する際には、ダイヤフラムが1往復して送液される流体量を変更するために該箇所もしくはPMPそのものを交換する必要があり、容易な制御とはいえなかった。
【0012】
以上の課題に鑑み、本発明は、流量の変動や送液の停止によるプロセスの不安定性を招くことなく、スラグ長さを制御し、かつ、流速とスラグ長さをそれぞれ独立して広い範囲で安定的に制御することにより、多様な相間における反応、分離操作に適したスラグ流生成装置及びスラグ流生成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では、以下の手段を採用するものである。
[1]複数の流体のスラグ流を生成する装置であって、前記複数の流体をそれぞれ保持する流体保持部、前記複数の流体をそれぞれ常時圧送するポンプ、前記複数の流体保持部と前記ポンプ、及び前記ポンプと流体合流部をそれぞれ接続する流路、並びに、前記流体合流部の下流に設けられたスラグ流生成流路を有し、前記流体合流部と前記ポンプの間の流路にはそれぞれバルブが設置され、前記バルブにより、前記流体合流部には常に1種の流体が圧送され、それ以外の流体は排出流路に排出されるように制御される、スラグ流生成装置。
[2]前記排出流路が元の流体保持部に接続し、排出された流体が元の流体保持部に回収される、前記[1]のスラグ流生成装置。
[3]前記排出流路が前記流体合流部とは別の流体合流部に接続し、排出された流体が前記別の流体合流部に圧送されることにより、別のスラグ流生成流路が並列して設けられる、前記[1]のスラグ流生成装置。
[4]前記スラグ流生成流路で反応又は分離が行われる前記[1]~[3]のいずれか1のスラグ流生成装置。
[5]前記ポンプの少なくとも1つが、ヘッド内を流通する流体の液体状態を保つ温度調節機構を有する前記[1]~[4]のいずれか1のスラグ流生成装置。
[6]前記スラグ流の一相が液化二酸化炭素であり、他の相が液体である前記[5]のスラグ流生成装置。
[7]前記[1]~[6]のいずれか1のスラグ流生成装置を備えた化学物質の処理装置。
[8]前記スラグ流生成装置の下流に液液分離機構を有する前記[7]の化学物質の処理装置。
[9]前記スラグ流生成装置と前記液液分離機構の間に気液分離機構を有する前記[8]の化学物質の処理装置。
[10]前記気液分離機構の上部には圧力制御機構を備えた気体排出管が接続され、下部には前記液液分離機構に接続する液体排出管が接続されている前記[9]の化学物質の処理装置。
[11]複数の流体をそれぞれの流体保持部から流体合流部に至るそれぞれの流路にポンプで常時圧送し、前記流体合流部の下流の流路でスラグ流を生成する方法であって、前記流体合流部と前記ポンプの間に設置されたバルブを制御して、前記流体合流部に、常に1種の流体を圧送し、それ以外の流体を排出流路に排出する、スラグ流生成方法。
[12]前記排出流路に排出された流体を、元の流体保持部に回収する、前記[11]のスラグ流生成方法。
[13]前記排出流路に排出された流体を、前記流体合流部とは別の流体合流部に圧送し、別のスラグ流生成流路で並行してスラグ流の生成を行う、前記[11]のスラグ流生成方法。
[14]前記スラグ流を生成する流路で反応又は分離を行う前記[11]~[13]のいずれか1のスラグ流生成方法。
[15]前記ポンプのうち少なくとも1つで、ヘッド内を流通する流体の液体状態を保つ温度調節を行う、[11]~[14]のいずれか1のスラグ流生成方法。
[16]前記スラグ流の一相が液化二酸化炭素であり、他の相が液体である前記[15]のスラグ流生成方法。
[17]前記[11]~[16]のいずれか1のスラグ流生成方法を含む化学物質の処理方法。
[18]生成したスラグ流を液液分離することを含む前記[11]~[17]のいずれか1の化学物質の処理方法。
[19]生成したスラグ流を気液分離した後、液液分離することを含む前記[18]の化学物質の処理方法。
[20]気液分離された気体を圧力制御しながら上部から排出し、液液分離された液体を下部から排出することを含む前記[19]の化学物質の処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、流速とスラグ長さを独立にかつ容易に制御できるので、最適な流速とスラグ長さに制御されたスラグ流により化学物質の製造装置をコンパクト化しつつ、高速処理を可能とする。
また、ポンプを常時圧送状態にできるため、プロセスの安定性を阻害しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】混相流の代表的な流動状態図 (a)二相スラグ流、(b)三相スラグ流、(c)並行流、(d)環状流、(e)液滴流、(f)分散流
【
図2】従来のスラグ流生成装置の構成図 (a)二相系、(b)三相系
【
図3】本発明のスラグ流生成装置の構成図 (a)二相系・三方バルブを用いた構成、(b)三相系・三方バルブを用いた構成、(c)二相系・二方バルブを用いた構成、(d)二相系・加圧ガスを含む構成、(e)並列化した構成例
【
図4】流体合流部の合流パターン (a)二相系、(b)三相系
【
図5】プランジャーポンプとピエゾマイクロポンプ(PMP)の送液精度を示すグラフ
【
図6】本発明のスラグ流生成装置を用いた化学物質処理装置の構成図
【
図7】本発明の実施例、比較例における流量及びバルブ切替時間と総スラグ長さの関係を示す図
【
図8】本発明の実施例におけるスラグ長さ比率の設定値と実測値の関係を示す図
【
図9】本発明の実施例におけるバルブ切替時間及び切替時間比とスラグ長さ及びスラグ長さ比率の制御に関する図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、各相が順次に導入されるスラグ流の生成装置及び生成方法、並びに上記のスラグ生成装置を備えた化学物質の処理装置及び処理方法に関し、各相をなす各流体を送液するポンプを連続動作させて連続的に各流体を圧送しつつ、各流路の流体合流部の上流側に組み込まれた切替バルブを動作させて、流体合流部には常に一流体しか圧送されず、その一流体以外は排出流路に排出される配管構成を有することにより、流速と各相のスラグ長さを制御する点に特徴を有する。
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)に基づいて説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0017】
[圧送方式]
スラグ流生成装置の最も単純な構成は、
図2(a)、(b)に示されるように、一流体を圧送するためのポンプを、送液したい流体の数だけ用意し、各ポンプの吐出口を同一の流体合流部に接続した構成である。このように、全ての流体を同時に流体合流部に導入させる方式(以下、「同時圧送方式」という。)であれば、特定の流量範囲でスラグ流が発生し、物性や流路にも応じた成り行き的なスラグ長とならざるを得ない(非特許文献2 Fig.2)。
これに対して、流体合流部に常に一流体が流れるように制御された交互圧送方式(以下、「交互圧送方式」という。)は、よりスラグ流が発生しやすい圧送方式であり、流体合流部への圧送時間を制御することでスラグ長の制御が可能となる。交互圧送方式には、ポンプを間欠動作させて間欠的に流体圧送させることで流体合流部への交互圧送を実現する方法と(特許文献1:請求項9、非特許文献4:Fig.1)、ポンプを連続動作させて連続的に流体圧送させつつ流体合流部に設置された切替バルブを動作させることで流体合流部への交互圧送を実現する方法がある(非特許文献3)。
【0018】
本実施形態のスラグ生成機構に関する圧送方式は、各ポンプを連続動作させて連続的に流体圧送させつつ、流体合流部の上流側にバルブを設け、前記流体合流部には常に一流体が流れる交互圧送方式である点で、流体合流部に設けたバルブで流体を切り替えている上記従来の交互圧送方式と大きく異なる。
図3(a)~(e)がその装置の構成例である。
図3(a)、(b)は、二相系又は三相系の流体のスラグ流を三方バルブを用いて生成し、排出流路に排出される流体は元の流体保持部に回収する構成例である。
図3(c)は、
図3(a)の各三方バルブを2つの二方バルブに置き換えた構成例である。
図3(d)は、二相流体が液体と気体である場合の構成例であり、液体の流れは
図3(c)と同様であるが、気体は、加圧ガス保持部から流量制御器を用いて一部は流体合流部に流れ、他の一部は排出流路から排出される構成例である。
図3(e)は、排出流路を別の流体合流部に接続したことにより、スラグ流生成流路を並列化することができる構成例である。
なお、いずれの構成例においても、後述の
図6に記載のように、排出流路に背圧弁が設けられていると、バルブの切替精度を調整することができるので好ましい。
【0019】
図4(a)、(b)に複数の流体が流体合流部で合流するパターンを示す。ただし、衝突順序、衝突角θ、θ’は
図4に規定されるものではない。
【0020】
[ポンプ]
ここでいうポンプは広義の流体圧送装置である。例えば、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプが含まれる。気体や液体を問わず流体の圧送を目的とした、陽圧状態の流体ストックタンクとそれに繋がった流量制御器(主にガスの圧送を想定したもの。
図3(d)参照)も同様にポンプと定義する。
前記ポンプの駆動方式は、精密な送液が行われるように高い圧送力が得られる機械式であることが好ましく、モーターの回転に連動して偏心するカムシャフトによるものであることが好ましい。代表的には、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプが挙げられる。特に、脈流発生を防止するためにヘッド(逆止的に作動する吸引側の弁と吐出側の弁に挟まれた空間を画定する筐体)を複数有するマルチプランジャーポンプが好ましい。
【0021】
図5に、後述する本実施例に使用したプランジャーポンプ(NP-KX-220P、日本精密科学株式会社、最大吐出圧力10MPa)と、比較例2に使用した往復動が圧電素子により電気式に行わるピエゾマイクロポンプ(PMP)(APP-20KG、高砂電気工業株式会社、標準吐出圧力20kPa)との送液精度の比較を示す。前者の結果の一例が
図5(a)であり、後者の結果の一例が
図5(b)である。近似直線のR
2値を指標とすると、前者はR
2=1.0(>0.999)であり、後者のR
2=0.968であることから、プランジャーポンプはPMPよりも送液精度が高いことがわかる。
【0022】
シリンジポンプは、一般的には送液可能量がシリンジ容積に制限されるが、例えば、シリンジが往復動し、一方向で送液モード、逆方向で吸引モードとなるように流路に弁を備えた配管をもつ機構を付与したシリンジポンプであれば、その制限がなくなるので、常時圧送方式に適用可能である。
【0023】
[流体]
複数の流体としては、相溶する流体同士ではスラグ流を生成しないから、完全には相溶しない流体を組み合わせる。水相と油相の液-液であってよく、液相と気相の気-液でもよい。液相は液化ガス、例えば液化二酸化炭素であってもよい。超臨界流体、亜臨界流体、イオン液体が相溶しない流体のいずれか1つであってもよい。
【0024】
流体の1つ以上が常温常圧で気体である場合、当該流体がポンプのヘッドを通過する際に液化するために、当該流体が通過するヘッドに当該流体の液体状態を保つ温度調節機能及び圧力調節機能を有することが好ましい。
スラグ流を生成し得る好ましい気体としては、31℃以下で、かつ抽出場では液相を保つように平衡温度以下に保たれている二酸化炭素があげられる。
【0025】
水相と二酸化炭素の組み合わせの一例として、ポンプ吐出時は液化二酸化炭素である場合が想定される。その場合、プロセスは二酸化炭素の臨界圧(7.4MPa)以上であることが好ましく、スラグ流領域の下流に背圧弁を設けて、ポンプから背圧弁までの圧力を制御することができる。二酸化炭素は高圧条件下でのみ、有機溶剤の代替が可能となるため、水相中の疎水性有価物は高圧二酸化炭素によって抽出されることが期待される。
【0026】
[スラグ流生成流路]
スラグ流生成流路では、スラグ流における物質移動の促進効果を利用して、反応又は分離が行われる。具体的には、液液反応、気液反応、固体触媒反応を含む反応、抽出、吸収、晶析等による分離、又は反応分離である。物質移動の促進効果には、種々の流体物性に応じて流速とスラグ長さに最適点が存在するが、本実施形態のスラグ流生成流路においては、流体物性によって異なる該最適点をカバーできる範囲で流速とスラグ長さを独立して実現することができる。
【0027】
[化学物質の処理装置及び処理方法]
本実施形態では、
図6に例示すように、スラグ流生成流路で反応、分離、又は反応分離が行われた後、前記スラグ流生成流路の下流に液液分離器を配置し、また、必要に応じて、前記スラグ流生成流路と前記液液分離器の間に気液分離器を配置して、化学物質を含む相を連続的に分離精製することができる。
気液分離器を配置する場合、気液分離器の上部には気体排出管が接続され、下部には前記液液分離器に接続する液体排出管が接続される。気体排出管には、スラグ流生成流路の圧力を制御する背圧弁が設けられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、実施例は、本発明の好適な例を示すものであり、実施例によって本発明が何ら限定されるものではない。実施例における機器の設定値範囲は、本発明の性能限界とは無関係である。
【0029】
<実施例1>
図3(a)に示す構成において、主要な要素機器として、ダブルプランジャーポンプ(日本精密科学NP-KX-220P)2機、三方バルブ(SMC株式会社、LVM105R)2機、バルブ制御用タイマー(オムロン株式会社、H5CX)1機を用いた。
一方のポンプにA液(有機相)としてトルエンを貯留するタンクを吸引配管を介して接続し、他方のポンプの吸引側にB液(水相)として水を貯留するタンクを他の吸引配管を介して接続した。各ポンプの吐出側には、それぞれの吐出配管の途中にそれぞれ三方バルブを設置し、2機の三方バルブの配線を逆位相で繋げた。三方バルブの下流側の吐出配管を内径2mmのSUSティで構成されたA液とB液の流体合流部に接続し、2機の三方バルブが交互に流体合流部と開通するようにした。前記合流部の下流に内径2mm、長さ30cmのガラスチューブからなるスラグ流生成流路を接続した。A液及びB液の総流量が、1~20mL/min相当となるように2機のポンプの流量設定値を各々1~20mL/minとした。バルブの流路が流体合流部と繋がる時間を開時間と定義し、A液(有機相)の開時間をt
or、B液(水相)の開時間t
aqと定義する。(t
or、t
aq)=(1sec、1sec)、(0.25sec、0.25sec)、(0.13sec、0.13sec)の3パターンで、三方バルブを動作させた。なお、t
or+t
aqを1周期としたとき、1秒当たりの周期の数(振動数)は、それぞれ0.5Hz、2Hz,4Hzである。前記スラグ流生成流路における有機相と水相を合わせたスラグ流の長さ(l
or+l
aq)(有機相:l
or、水相:l
aq)を測定した。このとき、これら設定値から計算される有機相と水相の割合はおおよそ1:1(スラグ長さ比率l
or/(l
or+l
aq)×100[%]は約50%)となる。
【0030】
<比較例1>
比較例1は
図2(a)に示す構成において実施した。
実施例1と同じダブルプランジャーポンプを2台用い、各ポンプでA液及びB液を同一の流量設定値で同時圧送した以外は実施例1と同様にして、比較例1とし、スラグ流生成流路におけるスラグ流の長さを測定した。
【0031】
<比較例2>
比較例2は非特許文献5に記載される構成において実施した。すなわち2台のPMP(APP-20KG、高砂電気工業株式会社)を逆位相動作になるようにマイクロポンプコントローラ(MPC―200B、高砂電気工業株式会社)に配線することで、流体合流部への交互送液を可能とした構成である。ポンプに内蔵されるダイヤフラムの振動数を40Hzとし、総流量がおおよそ40~60mL/minとなるように印可電圧を制御して動作させ、スラグ流生成流路におけるスラグ流の長さを測定した。
【0032】
<実施例2>
図3(a)に示す構成を用い、A液及びB液の総流量を10mL/minに固定し、(t
or、t
aq)の条件として、バルブ動作0.5Hzにおいて(0.2sec、1.8sec)、(0.4sec、1.6sec)、(1.6sec、0.4sec)、(1.8sec、0.2sec)、2Hzにおいて(0.1sec、0.4sec)、(0.4sec、0.1sec)、4Hzにおいて(0.05sec、0.2sec)、(0.2sec、0.05sec)と変更した以外は実施例1と同様にし、設定値から計算されるスラグ長さ比率を10、20、80、90%の範囲として、これを実施例2とした。スラグ流生成流路におけるスラグ長さ比率l
or/(l
or+l
aq)×100%を、実施例1とともに測定した。
【0033】
<実施例3>
図3(c)に示す構成、すなわち、各三方バルブがもっていた流路の開閉の機能を、2機の二方バルブ(ノルマルクローズタイプ、ノルマルオープンタイプ)によって代替した。それ以外は実施例1、2と同じ構成を用いた。
A液及びB液の総流量がおおよそ3.4mL/minとなるように2機のポンプを流量設定し、バルブの切替条件を(t
or、t
aq)=(0.12sec、0.12sec)、(0.36sec、0.12sec)、(0.60sec、0.12sec)とした以外は実施例1と同様にし、これを実施例3とし、スラグ流生成流路におけるそれぞれのスラグ流の長さl
or及びl
aqを測定した。
【0034】
図7に実施例1、及び比較例1~2の総流量におけるスラグ長さ(l
or+l
aq)を示す。
図8に実施例2におけるスラグ長さ比率(l
or/(l
or+l
aq)×100[%])を示す。
図9に実施例3における有機相と水相の各スラグ長さを示す。
【0035】
図7によると、比較例1では、総流量2~15mL/minの範囲でスラグ長さ(l
or+l
aq)が7.8mm~20.6mmであり、成り行き的なスラグ発生であるため総流量とスラグ長さが紐付いた関係であるところ、実施例1では、総流量4~15mL/minの範囲でスラグ長さ(l
or+l
aq)を6.6mm~200mmの範囲にできた。したがって、比較例1より広範囲のスラグ長さを、流量と独立して制御できたことがわかる。
比較例2では、総流量39.6~61.8mL/minの範囲でスラグ長さ(l
or+l
aq)が2.6mm~4.5mmであった。本発明は比較例2よりも長いスラグ長さをもつスラグ流の発生を得意とすることが窺える。
また、本発明では、各Hzのプロットがおおよそ線形を示すことがわかる。
【0036】
図8によると、機器の設定値から算出されるスラグ長さ比率におおよそ応じた、スラグ長さ比率(グラフ縦軸)が得られたことが分かる。特に0.5Hzにおいて、もっとも算出値に近かった。比較例1、比較例2のスラグ発生方法では、このようなスラグ長さ比率ないしはスラグ長さの制御が、電子制御で簡便に行うことは不可能であった。
【0037】
図9によると、総流量を約3.4mL/minを保ち、かつ水相スラグ長さを約2mmに保ちつつ、バルブの開閉時間によって有機相スラグ長さを2.4mm、6.7mm、10.7mmに変化させることができており、1つの三方バルブに変えて2つの二方バルブを使用する実施例3においても、実施例1、2と同様にスラグ長さ比率ないしはスラグ長さを制御できていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係るスラグ流の生成装置は、幅をもった流量範囲とスラグ長の範囲で精密度の高いスラグ流を安定的に生成することができるので、異なる流体間の物質移動を促進し、高品質な化学物質の合成反応が可能である。また、この生成装置の下流に液液分離機構、気液分離機構等を連結することにより、抽出分離等を高速、低コストで行うことが期待される。本発明により多種多様な機能性化学品を含む化学物質に関する反応から分離精製までのプロセスを連続的に行うことが可能となる。また、連続プロセスへの適用に限らず、バッチプロセスで実施される反応または抽出分離等に適用することで同様に高速、低コストで行うことが期待される。