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特表2023-546667EUVスペクトル範囲用の2値強度マスク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-07
(54)【発明の名称】EUVスペクトル範囲用の2値強度マスク
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/22 20120101AFI20231030BHJP
   G03F 1/24 20120101ALI20231030BHJP
【FI】
G03F1/22
G03F1/24
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524466
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(85)【翻訳文提出日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2021078952
(87)【国際公開番号】W WO2022084317
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】102020213307.7
(32)【優先日】2020-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】504151804
【氏名又は名称】エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139491
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 隆慶
(72)【発明者】
【氏名】オリバー ポール
(72)【発明者】
【氏名】デリック チョン
【テーマコード(参考)】
2H195
【Fターム(参考)】
2H195BA10
2H195CA01
2H195CA23
(57)【要約】
本発明は、EUV放射線で動作するEUVシステムで用いる2値強度マスク(100)であって、基板(110)と、基板に施されアブソーバ材料を含有するマスク構造(140)とを含む2値強度マスクに関する。マスク構造(140)は、第1の層材料からなる第1の層(151)及び第2の層材料からなる第2の層(152)を含む構造化された層構成体を有する。EUV放射線の波長λで、第1の層材料は1よりも大きな屈折率の実部n1を有し、第2の層材料は1よりも小さな屈折率の実部n2を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(110、810)と、
該基板に施されておりアブソーバ材料を含有するマスク構造(140、840)と
を含むEU放射線で動作するEUV装置で用いる2値強度マスク(100、700、800)であって、
前記マスク構造(140、840)は、第1の層材料の第1の層(151、851)及び第2の層材料の第2の層(152、852)を含む構造化された層構成体を有し、
前記第1の層材料は、前記EUV放射線の波長λで1よりも大きな屈折率の実部n1を有し、前記第2の層材料は、1よりも小さな屈折率の実部n2を有し、
前記マスク構造を通る前記EUV放射線の光路長が、該光路長間の経路長差が値0から前記波長λの10%を超えて逸脱しないように真空を通る前記EUV放射線の前記光路長に実質的に対応することを特徴とする2値強度マスク。
【請求項2】
請求項1に記載の強度マスクにおいて、前記第1の層(151、851)は第1の層厚d1を有し、前記第2の層(152、852)は第2の層厚d2を有し、以下の条件:
A:(d1+d2)-0.1 λ≦(d1*n1+d2*n2)≦(d1+d2)+0.1λ
B:d1*n1+d2*n2=(d1+d2)±0.1 λ
C:前記波長λは13.5nmであり、前記マスク構造を通る前記EUV放射線の前記光路長は、真空を通る前記EUV放射線の前記光路長から0.5nmを超えて逸脱しないこと
の少なくとも1つが当てはまる強度マスク。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の強度マスクにおいて、前記マスク構造(140、840)は、厳密に1つの第1の層(151、851)及び厳密に1つの第2の層(152、852)を有し、つまり前記マスク構造は厳密に2つの層を含む強度マスク。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の強度マスクにおいて、前記第1の層材料は、前記EUV放射線の波長で1.002よりも大きな屈折率の実部を有する強度マスク。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の強度マスクにおいて、前記第1の層材料及び前記第2の層材料は、それぞれが前記EUV放射線の波長で0.02よりも大きな消衰係数kを有する強度マスク。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の強度マスクにおいて、前記第1の層(151、851)は第1の層厚を有し、前記第2の層(152、852)は前記第1の層厚よりも小さな第2の層厚を有する強度マスク。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の強度マスクにおいて、前記第1の層材料は、実質的に、特に90at%の割合でアルミニウムからなる強度マスク。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の強度マスクにおいて、前記第1の層材料及び前記第2の層材料の両方がアルミニウムを含有する強度マスク。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の強度マスクにおいて、前記第1の層(151、851)は実質的にアルミニウムからなり、前記第2の層(152、852)は実質的に窒化アルミニウム(AlN)又は酸化アルミニウム(Al)からなる強度マスク。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の強度マスクにおいて、前記第1の層(151、851)は、前記基板(110、810)と前記第2の層(151、851)との間に配置される強度マスク。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の強度マスクにおいて、該2値強度マスクは反射型2値強度マスク(100、700)として設計され、前記EUV放射線に対する反射効果を有する多層構成体(120)が、前記基板(110)と前記マスク構造(140)との間に配置される強度マスク。
【請求項12】
請求項11に記載の強度マスクにおいて、前記EUV放射線に対する反射効果を有する前記多層構成体(120)は、耐酸化性の層材料、特にルテニウムからなるキャッピング層(125)を有し、前記マスク構造(140)は、前記キャッピング層(125)に施される強度マスク。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の強度マスクにおいて、前記反射型2値強度マスクはリソグラフィマスク(100、500)として設計され、前記マスク構造(140)は、露光ステップにおいて作製される所望の機能層の構造の拡大構造に実質的に対応する強度マスク。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の強度マスクにおいて、該2値強度マスクは測定マスク(700、800)として設計され、前記マスク構造(840)は、ライン格子又はピンホールアレイを形成することが好ましい特に周期格子の形態の測定構造を有する強度マスク。
【請求項15】
請求項1~10又は14のいずれか1項に記載の強度マスクにおいて、該2値強度マスクは2値透過マスク(800)の形態である強度マスク。
【請求項16】
請求項15に記載の強度マスクにおいて、前記2値透過マスク(800)は、EUV放射線に対して透過性の膜(810)の形態の基板を有し、前記膜の厚さは、1μm未満及び/又は500μm未満及び/又は200μm未満であることが好ましい強度マスク。
【請求項17】
EUV放射線で動作するEUV装置で用いる2値強度マスクを製造する方法であって、
基板を用意するステップと、
前記基板上にアブソーバ材料を含有するマスク構造を作製するステップであり、前記マスク構造の作製のために、第1の層材料からなる第1の層(151、851)及び第2の層材料からなる第2の層(152、852)を有する層構成体を作製し、続いて該層構成体を構造化するステップと
を含み、前記第1の層材料は、前記EUV放射線の波長λで1よりも大きな屈折率の実部n1を有し、前記第2の層材料は、1よりも小さな屈折率の実部n2を有し、
前記マスク構造を通る前記EUV放射線の光路長が、該光路長間の経路長差が値0から前記波長λの10%を超えて逸脱しないように真空を通る前記EUV放射線の光路長に実質的に対応する方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、実質的にアルミニウム(Al)からなる第1の層材料を用いて前記第1の層(151、851)が作製される方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、前記第2の層(152、852)は、前記第1の層(151、851)のアルミニウムと酸素又は窒素とが表面反応して前記第1の層に付着する酸化アルミニウム(Al)又は窒化アルミニウム(AlN)の第2の層を形成することにより、前記第1の層上に形成される方法。
【請求項20】
請求項17、18、又は19に記載の方法において、前記EUV放射線に対する反射効果を有する多層構成体で前記基板をコーティングするステップと、前記多層構成体上に前記アブソーバ材料を含有するマスク構造を作製するステップとを特徴とする方法。
【請求項21】
物体面に配置されたパターンを像面に結像するために設けられた光学結像系を測定する方法における、測定マスク(700、800)としての請求項1~12又は14~16のいずれか1項に記載の2値強度マスクの使用であって、前記測定マスクは、測定動作を実行するために前記物体面又は前記像面の領域に配置されてEUV放射線を照射される使用。
【請求項22】
物体面(631)に配置されたパターンを像面(632)に結像するために設けられた光学結像系(630)を干渉測定する測定系(600)であって、
第1の測定構造を有する、前記結像系の物体側に配置される第1の構造キャリア(700)と、
第2の測定構造を有する、前記結像系の像側に配置される第2の構造キャリア(800)と、を備え、
前記第1の測定構造及び前記第2の測定構造は、前記結像系を用いて前記第1の測定構造が前記第2の測定構造に結像されると干渉パターンが生成されるように相互に適合され、
さらに、前記干渉パターンを空間分解検出する検出器(650)を備えた測定系(600)において、
請求項1~12又は14のいずれか1項に記載の反射型2値強度マスクが前記第1の構造キャリアとして用いられ、且つ/又は請求項1~12又は14~16のいずれか1項に記載の2値透過マスク(800)が前記第2の構造キャリアとして用いられることを特徴とする測定系。
【請求項23】
物体面に配置されたパターンを像面に結像するために設けられた光学結像系(630)の結像品質を干渉測定する測定方法であって、
第1の測定構造を有する第1の構造キャリア(700)を前記結像系の前記物体面(631)の領域に配置するステップと、
第2の測定構造を有する第2の構造キャリア(800)を前記結像系の前記像面(632)の領域に配置するステップと、
前記第1の測定構造をEUV放射線で照明するステップと、
干渉パターンを生成するために前記第1の測定構造を前記第2の測定構造に結像するステップと、
前記干渉パターンを空間分解検出するステップと、
前記結像系の前記結像品質を表す少なくとも1つの結像パラメータを前記干渉パターンから確認するステップと
を含む測定方法において、請求項1~12又は14のいずれか1項に記載の反射型2値強度マスクが前記第1の構造キャリアとして用いられ、且つ/又は請求項1~12又は14~16のいずれか1項に記載の2値透過マスク(800)が前記第2の構造キャリアとして用いられることを特徴とする測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年10月21日に出願された書類番号10 2020 213 307.7号の独国特許出願に基づく。この独国出願の開示内容を参照により本願の内容に援用する。
【0002】
本発明は、極紫外線(EUV)で動作するEUV装置で用いる2値強度マスクと、2値強度マスクを製造する方法とに関する。上記2値マスクの種々の可能な用途を記載する。
【背景技術】
【0003】
半導体デバイス及びマイクロリソグラフィマスク等の他の微細構造コンポーネント部品を製造するために、フォトリソグラフィプロセス及び投影露光システムが特に用いられ、生成すべき構造パターンが、感光層でコーティングした機能層にマスク(リソグラフィマスク又はレチクルとも称する)を用いて縮小投影され、感光層の現像後にエッチングプロセスにより機能層に転写される。
【0004】
構造のさらなる微細化を可能にするために、中開口数で動作し、主に極紫外(EUV)域からの使用電磁放射線の波長が短いことにより特に5nm~30nmの範囲の動作波長、例えば13.5nmの動作波長で高い分解能を得る光学系が、近年開発されている。
【0005】
短波長は、高波長で透明な既知の光学材料により吸収されるので、極紫外域からの放射線(EUV放射線)は、屈折光学素子を用いて集束も導光もすることができない。したがって、EUVリソグラフィにはミラー系が用いられる。
【0006】
本願で検討するタイプの2値強度マスクは、アブソーバ材料を有する構造要素からなる横方向に構造化されたマスク構造を有する。マスク構造は、マスク構造の構造要素に入射したEUV放射線をできる限り吸収するべきだが、EUV放射線のうちマスク構造の構造要素の隣の無構造要素領域でマスクに入射した部分はマスク構造により吸収されない。したがって、マスク構造で覆われた領域は、EUV放射線に対して比較的不透明であるべきである。
【0007】
既知のEUVリソグラフィシステムは、反射型マスクを用いて動作する。生産的な動作のための反射型マスク(すなわち、例えば構造化された半導体デバイスの製造用のリソグラフィマスク)は、露光ステップにおいて作製される所望の機能層の構造の拡大構造に実質的に対応するマスク構造を担持する。
【0008】
EUV放射線で動作するEUV装置で用いる反射型2値強度マスクは、基板と、基板に施されておりEUV放射線に対する反射効果を有する多層構成体と、多層構成体に施されており少なくとも1つのアブソーバ材料を収容するマスク構造とを備える。かかる2値強度マスクは、BIMとも称する。基板は、通常は熱膨張率が非常に低い材料からなる。反射多層構成体は、例えば、動作波長のEUV放射線に対して高い反射効果を有する、ケイ素(Si)又はモリブデン(Mo)からなる複数の交互層を有することができる。アブソーバ材料としては、タンタル(Ta)又は窒化タンタル(TaN)が用いられることが多い。
【0009】
特許文献1は、特に、反射型EUVマスクの使用時のシャドウイング効果から生じ得る結像品質の低下に関する。特に、特許文献1は、最適な結像品質を得るために、開口数及びさらなる境界条件に応じてアブソーバ層の厚さ及びアブソーバ材料を適当に選択することができる方法を記載している。マスク構造の厚さを比較的小さく保つことが勧められる。多数のアブソーバ材料及びそれらの吸収係数が考慮に含まれる。
【0010】
特許文献2は、反射型2値強度マスクを製造する方法を記載している。この場合、改良されたアブソーバ層が基板により担持された反射コーティング上に作製される。このアブソーバ層は、第2の元素をドープした第1の元素を含み、元素の相互に対する比は厚さ方向に変わる。アブソーバ層を施した後に、アブソーバ層は構造化される。
【0011】
特許文献3も同様に、反射型2値強度マスクを記載している。強度マスクは、低熱膨張材料を含有する基板を備える。ミラー構造が基板上に配置される。キャップ層がミラー構造上に配置される。アブソーバ層がキャップ層上に配置される。アブソーバ層は、約0.95~約1.01の範囲の屈折率及び約0.03よりも大きな消衰係数を有する材料を含む。これは、ダイポール照明での投影露光中の望ましくない空中像のずれを低減するためである。
【0012】
技術論文である非特許文献1は、EUVリソグラフィマスクの3次元構造の結果であるマスク3D効果(M3D効果)として知られるものを最小化することを目的とした、EUVマスクの2値強度マスクのアブソーバ材料となり得るものを評価する体系的方法を記載している。1つの手法は、消衰係数が比較的大きいと同時に屈折率の実部が値1に近い材料を用いることにある。適切な特性プロファイルを有するNi-Al合金の特性を詳細に示す。
【0013】
本発明者らの研究によれば、EUV域用の2値EUVマスク強度マスクの設計を最適化するための従来技術から既知の全ての推奨事項を考慮したとしても、入射するEUV放射線に比べて反射したEUV放射線で結像誤差につながり得る波面変形が起こり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2011/157643号
【特許文献2】米国特許第6,610,447号明細書
【特許文献3】米国特許第9,709,844号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】"Ni-Al Alloys as Alternative EUV Mask Absorber" by Vu Luong et al. in: Appl. Sci. 2018, 8, 521; doi:10.3390/app8040521
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、確立された製造プロセスを用いて高品質で製造することができると共に、使用時に実質的な波面変形を起こさない、請求項1の前文に記載の2値強度マスクを提供することである。さらに別の目的は、かかる強度マスクを製造する方法を提供し、且つ可能な用途を示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的を果たすために、本発明は、請求項1の特徴を有するEUVマスクを提供する。さらに、請求項17の特徴を有する2値マスクを製造する方法が提供される。さらに、測定方法における測定マスクとしてのかかる強度マスクの使用及びそれに対応する測定方法及び測定装置が提供される。
【0018】
有利な発展形態が従属請求項で特定される。全ての請求項の文言を参照により説明の内容に援用する。
【0019】
1つの表現によれば、本発明は、EUV放射線で動作するEUV装置で用いる2値マスクを提供する。2値EUVマスクとも称することができる2値マスクは、熱膨張率が非常に低い材料からなることが好ましい基板を含む。さらに、マスクは、基板に施されアブソーバ材料を含有するマスク構造を有する。マスク構造は、基板に直接又は少なくとも1つの中間層を介在させて施すことができる。マスク構造は、EUV放射線に対する吸収効果を有することが意図されるので、マスクは、EUV放射線のうちマスク構造に入射した部分ができる限り吸収されるべきだが、アブソーバ材料のない非被覆領域でマスク構造の構造要素間に入射する部分はマスク構造により吸収されないか又は吸収ができる限り小さい、2値マスクとして設計される。かかるマスクは、本願では2値強度マスクとも称する。
【0020】
マスク構造は、第1の層材料からなる(少なくとも)第1の層及び第2の層材料からなる(少なくとも)第2の層を含む構造化された層構成体を有する。第1の層材料は、EUV放射線の波長で1よりも大きな屈折率の実部n1を有する一方で、第2の層材料は、1よりも小さな屈折率の実部n2を有する。
【0021】
個々の層を適切に設計すれば、吸収マスク構造の多層構成により、真空を通って同じ距離を進む参照波に対するマスク構造通過時の波の位相差を最適化することができる。多層構成なので、位相差を最適化するために、良好な消衰特性及び十分に小さな位相差を同時に有する単の一材料を見出す必要はない。むしろ、マスク構造の層状構成により、通過するEUV放射線の位相差に対する効果が少なくとも部分的に補償されるように、比較的確実なプロセスでそれぞれ作製される個々の層を組み合わせることが可能である。必要であれば、マスク構造を通過した放射線とマスク構造を通過していない放射線との間に位相差がない(位相差ゼロ)ような比を任意に設定することができる。しかしながら、僅かな非ゼロの位相差でも有利であり得るほど位相差が十分に小さい限り、これは通常は絶対に必要というわけではない。
【0022】
本発明の基本となる概念は、位相差の目標通りの最適化が可能なように、マスク構造の複数の層をその層厚及び層材料の屈折率に関して相互に対応付けることである。層厚は、第1の層が第1の層厚d1を有し第2の層が第2の層厚d2を有するように動作波長λを考慮して設計されることが好ましく、ここで下記の条件が当てはまる。
d1*n1+d2*n2=(d1+d2)±0.1 λ
ここで、n1は第1の層材料の屈折率の実部であり、n2は第2の層材料の屈折率の実部である。
【0023】
層厚dと層材料の対応する屈折率nとの積が、層を通る放射線の光路長を決定する。したがって、上記条件は、マスク構造の個々の層を通る光路長が、真空を通る同じEUV放射線の光路長に略対応するように全体的に挙動すべきであることを示す。動作波長λの±10%の偏差は許容されることが多い。よって、偏差の上限を大幅に超えない場合、プロセスに関する残留位相差があっても概して許容可能である。必要であれば、偏差をより小さく、例えば±5%又は±2%以下にすることもできる。その場合、残留位相差も小さくなる。
【0024】
上記条件から、屈折率n>1の層材料及び屈折率n<1の層材料の両方を用いて、個々の層の異なる位相差を少なくとも部分的に補償することができるようにしなければならないことも分かる。
【0025】
いくつかの実施形態において、マスク構造は、第1の層材料からなる厳密に1つの第1の層及び第2の層材料からなる厳密に1つの第2の層を有し、つまりマスク構造は厳密に2つの層を含む。結果として、製造を特に単純にすることができる。しかしながら、マスク構造が2つ以上の第1の層(すなわち、n1>1の第1の層材料からなる層)及び/又は2つ以上の第2の層(すなわち、n2<1の第2の層材料からなる層)を有することも可能である。かかるマスク構造は、3つ以上の、例えば4つ、5つ、又は6つの個別層を有する。その場合、個々の層の層厚は、所望の位相補償が全体的に行われるように層材料の屈折率の実部を考慮して相互に一致させる必要がある。層応力の悪影響を少なくとも部分的に補償するために、3つ以上の個別層を有する層構成体が例えば好都合であり得る。
【0026】
3つ以上の層の場合、位相差を無視できる程度にする一般式は、
【数1】
であり、ここで和は層の数にわたってとる。
【0027】
特に好都合なのは、第1の層材料がEUV放射線の波長で1.002よりも大きな屈折率の実部n1を有する実施形態である。値1から比較的大きな上方偏差がある場合、逆方向に作用する他方の層の補償に必要な層厚を比較的小さく保つことができる。
【0028】
同時にマスク構造の吸収が十分に大きいことを保証するために、好ましい実施形態において、第1の層材料及び第2の層材料がそれぞれEUV放射線の波長で0.02よりも大きな消衰係数kを有するものとする。したがって、必要な層厚を非常に小さく保つことができるので、マスク構造の層厚が大きすぎることにより起こるシャドウイング効果を制限することができる。
【0029】
逆の位相差を十分に強力に補償するために、第1の層が第1の層厚を有し、第2の層が第1の層厚よりも小さな第2の層厚を有すれば通常は有利である。したがって、第2の層を構成するために、屈折率の実部(n2)が1よりも大幅に小さい、例えば0.99未満または0.98未満の多くの異なる第2の層材料を用いることができる。
【0030】
好ましい実施形態において、実質的にアルミニウム(Al)からなる第1の層材料を用いて第1の層が作製される。実質的にアルミニウムからなる層材料では、アルミニウム元素は屈折率の実部を決定する元素である。第1の層材料は、主に(すなわち90at%以上の割合で)アルミニウム又は略アルミニウムのみからなり得るので、アルミニウムのほかに残留不純物及び/又は安定化合金成分のみが含まれる可能性がある。純アルミニウムを用いて第1の層を形成することができる。
【0031】
実質的にアルミニウムからなる第1の層を、アルミニウムを含有せずにできる限り高い消失係数に関して選択された第2の層材料、例えばタンタル(Ta)、ニッケル(Ni)、テルル(Te)、銅(Cu)、又はコバルト(Co)の第2の層と組み合わせることが可能である。
【0032】
好ましい実施形態において、他方では、第1の層材料及び第2の層材料の両方がアルミニウムを含有するものとする。これにより、化学的且つ/又は構造的特性が同様なので第1の層と第2の層との間の界面において第1の層と第2の層との間の特に良好な層の密着性を得ることができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、第1の層は実質的にアルミニウムからなり、第2の層は実質的に窒化アルミニウム(AlN)又は酸化アルミニウム(Al)からなる。
【0034】
マスク構造の層構成体における第1の層及び第2の層の配列は、位相差の所望の補償の観点から所望に応じて選択することができる。したがって、例えば、第1の層と基板との間に第2の層を配置することが可能である。これに対して、多くの実施形態において、第1の層は基板と第2の層との間に配置される。この配置では、第2の層は第1の層の保護層として働くことができる。
【0035】
本願に記載のタイプの多層の位相最適化されたマスク構造を有する2値EUV強度マスクは、種々の構成で種々の用途に有利であり得る。
【0036】
一発展形態によれば、2値強度マスクは、反射型2値強度マスクとして、すなわち反射で用いられる強度マスク(2値反射型マスク)として設計される。EUV放射線で動作するEUV装置で用いる反射型2値強度マスクは、基板と、基板に施されておりEUV放射線に対する反射効果を有する多層構成体と、多層構成体に施されておりアブソーバ材料を収容するマスク構造とを備える。したがって、この変形形態では、反射効果を有する多層構成体が基板と(位相最適化された)マスク構造との間に配置される。
【0037】
光学特性の長期安定性に関して、EUV放射線に対する反射効果を有する多層構成体が、耐酸化性の層材料からなるキャッピング層を有し、マスク構造がキャッピング層に施されていれば有利であり得る。したがって、多層構成体は、薄い保護層(キャッピング層)により上部を塞ぐことができる。キャッピング層は、例えば、ルテニウム(Ru)又は同等の特性を有する他の層材料からなり得る。キャッピング層は、その場合、マスク構造の第1の層又は第2の層の土台として働くことができる。
【0038】
反射型2値強度マスクの1つの応用分野は、EUV投影露光装置のリソグラフィマスクとしての使用である。この場合、マスク構造は、露光ステップにおいて作製される、構造化する半導体等の機能層の構造の拡大構造に実質的に対応する。
【0039】
本発明者らの認識では、本願に記載のタイプの2値EUV強度マスクは、測定技術の分野においても大いに有利となり得る。
【0040】
EUV放射線によりEUV投影系の結像品質を測定する測定動作では、反射型2値強度マスクが用いられることが多く、その場合、これは通常は測定マスク又は測定レチクルと称する。この場合、マスク構造は、測定に用いるEUV放射線を空間的に構造化することができる測定構造として設計される(例えば、国際公開第2018/007211号参照)。測定構造は、例えば、周期格子(例えば、ライン格子又はピンホールアレイ)を形成することができる。機能層マスク(リソグラフィマスク)の場合、マスク構造は、作製するチップの導体構造を表すことができ、したがって横方向構造に関しては概してはるかに複雑である。
【0041】
測定マスクは、EUV投影露光装置(例えば、スキャナ)でリソグラフィマスクと交互に、又は測定のみを目的として設定された測定機で用いることができる。
【0042】
EUV投影系の結像品質を測定するために、測定方法によっては測定する光学結像系の物体面で反射型2値強度マスク(測定マスク)が用いられる一方で、像面では部分透過型2値強度マスク(2値透過マスクとも称する)が用いられる。多くの測定方法において、例えばシアリング干渉法において、かかる2値透過マスクはセンサの前のビーム経路に配置されるので、測定目的で設けられた2値透過マスクを本願ではセンサマスクとも称する。マスク構造は、例えば、EUV放射線に対する回折効果を有する回折格子として具現することができる。基板は、用いられるEUV放射線に対して十分に透明であるべきであり、これは適切な材料(例えば、SiN)の選択により達成することができ、且つ/又は小さな厚さにより達成することができる。例えば、基板は、EU放射線に対して十分な透過を可能にするために、厚さが好ましくは1μm未満及び/又は500nm未満及び/又は200nm未満であり得る薄膜とすることができる。
【0043】
反射型2値強度マスクと比べると、EUV放射線に対する反射効果を有する多層構成体はない。マスク構造は、基板表面に直接施すことができる。必要であれば、基板とマスク構造との間にEUV透過性の中間層を配置することができ、これは例えば、反射を低減する特性(反射防止特性)及び/又は層の密着性を改善する特性を有し得る。
【0044】
本発明は、EUV放射線で動作するEUV装置で用いる2値マスクを製造する方法にも関する。本方法は、基板を用意するステップと、基板上にアブソーバ材料を含有するマスク構造を作製するステップとを含む。
【0045】
マスク構造の作製時に、第1の層材料からなる第1の層及び第2の層材料からなる第2の層を有する層構成体が作製される。続いて、所望のマスク構造の構造要素間でできる限り非吸収性の領域を露出させるために、この層構成体は適切な構造化方法を用いて構造化される。本方法は、EUV放射線の波長で1よりも大きな屈折率の実部n1を有する層材料が第1の層材料として用いられ、1よりも小さな屈折率の実部n2を有する第2の層材料が第2の層に用いられることを特徴とする。
【0046】
反射型2値強度マスクを製造する場合、EUV放射線に対する反射効果を有する多層構成体上にマスク構造が作製される前に、基板が反射効果を有する多層構成体でコーティングされる。続いて、マスク構造は、反射効果を有する多層構成体上に配置される。
【0047】
多数の従来のコーティング方法、例えば蒸着装置法(物理蒸着、PVD)、化学蒸着(CVD)法、又はスパッタリング法を個別に又は組み合わせて用いて、個々の層及び層配列を作製することができる。
【0048】
実質的にアルミニウムからなる第1の層材料を用いて第1の層を作製することが好ましい。
【0049】
第2の層は、第1の層を施す前又は第1の層を施した後に任意の適切なコーティング方法を用いて施すことができる。
【0050】
一変形形態において、実質的にアルミニウムからなる第1の層が最初に施され、第2の層は、第1の層のアルミニウムと酸素又は窒素との表面反応により第1の層上に作製され、第1の層に付着する第2の層が酸化アルミニウム又は窒化アルミニウムの反応層として形成される。アルミニウムイオンと酸素若しくは窒素イオンとのイオン化結合でアルミニウム層の酸化又はアルミニウム層の窒化により作製された第2の層は、第1の層と第2の層との間に特に良好な接着結合をもたらし、両方の層が重要な特性決定成分としてアルミニウムを含有する。
【0051】
本発明は、物体面に配置されたパターンを像面に結像するために設けられた光学結像系を測定する方法における、本願に記載のタイプの2値強度マスクの使用にも関する。2値強度マスクは、測定動作を実行するために物体面の領域に配置されてEUV放射線を照射される反射型マスク(反射型測定マスク)として設計され得る。代替として又は追加として、測定動作を実行するために像面の領域に配置されてEUV放射線を照射される2値透過マスクの形態の2値強度マスクを用いることができ、EUV放射線は、反射型マスクとの相互作用後に結像系を通して透過マスクに達する。
【0052】
本発明のさらに他の利点及び態様は、特許請求の範囲と、図を参照して以下で説明する本発明の好ましい例示的な実施形態の以下の説明とから明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】例示的な実施形態による反射型2値強度マスクの概略断面を示す。
図2】EUV放射線がAlN/Alマスク構造を伝播する場合の、真空を通る光路長差に比べた光路長差のプロファイルを表すグラフを示す。
図3】波面のゼルニケスペクトルの形態で表す、従来の反射型マスクと例示的な実施形態の位相最適化されたAl/AlNマスクとの比較のシミュレーション結果を示す。
図4】例示的な実施形態による反射型リソグラフィマスクが物体面に配置された、マイクロリソグラフィ投影露光装置の概略図を示す。
図5】反射型リソグラフィマスクのマスク構造の概略上面図を示す。
図6】EUV投影レンズの結像品質の測定に用いられる測定マスクが設けられた測定系のコンポーネントを概略的に示す。
図7】物体側に配置される反射型測定マスクのマスク構造の上面図を示す。
図8】像側に配置される2値透過マスクのマスク構造の上面図を示す。
図9図8からの像側測定マスクの一部の概略断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
EUV装置において例えばリソグラフィマスク又は測定マスクとして用いることができる2値EUV強度マスクの種々の態様を、以下に記載する。EUV装置は、EUV放射線で又はEUV域からの動作波長で動作する装置である。マスクの設計及び構造、並びにその製造及び可能な用途を、例示的な実施形態を用いて例として説明する。例示的な実施形態は、λ≒13.5nm用に設計される。
【0055】
光との相互作用時の材料の光学的特性を説明するために、複素屈折率n(ティルデ(~)付き)が概して用いられ、これは、屈折率の実部nと消衰係数kにiを乗じたものとの和としてn(ティルデ(~)付き)=n+ikに従って表すことができ、式中、積ikは屈折率の虚部を形成する。屈折率の実部は、真空中の光cの速度に比べた材料を通って進む光の位相速度を、v=c/nに従って表す。屈折率の実部が大きな材料に入ると、光は減速する。光波の周波数は一定のままなので、波長λは短くなる。消衰係数kは、材料に対する波動エネルギーの損失、すなわち減衰を表す。吸収係数αとの関係は、波長λについて関係α=4πk/λで与えられる。光は、ランベルト・ベールの法則I(x)=I-iαxに従って吸収材料において強度を失い、式中、xは材料中の経路長であり、Iは元の強度である。したがって、消衰係数kは、光が材料中で消える速さ又は吸収される大きさを指す。
【0056】
文献では、可視光域における材料の複素屈折率の実部及び虚部は、主にn-k表記で示される。EUV及びX線領域では、値1からの屈折率の実部の偏差が小さいのでδ-β表記が好まれる。関係n=1-δ及びk=βがここで当てはまる。
【0057】
まず、EUV放射線に対する反射効果を有する2値EUV強度マスクの例、すなわちEUV用の2値反射マスクについて記載する。簡単のために、2値EUV強度マスクを以下では単に「マスク」と称することもある。
【0058】
図1は、例示的な実施形態による反射型2値強度マスク100の概略断面を示す。強度マスク100は、マスクの支持コンポーネントとして働く剛性の耐反り性の基板110を有する。基板は、熱膨張率が非常に低い材料からなる。例えば、ULE(登録商標)又はZerodur(登録商標)の名称で市販されているガラスを用いることができる。
【0059】
基板110は、光学品質に滑らかに加工された平坦な基板表面112を有する。異なる層材料の多くの層を有する光学機能層系がその上に施される。
【0060】
層系は、EUV放射線に対する反射効果を有し且つ基板110に直接又は(接着促進のために)1つ又は複数のさらなる層を介在させて施された多層構成体120を含む。多層構成体120は、低屈折率及び高屈折率の層材料を交互にした多くの層対を有する。層対は、例えばモリブデン/ケイ素(Mo/Si)又はルテニウム/ケイ素(Ru/Si)の層材料の組み合わせで構成することができる。層対はそれぞれ、屈折率が比較的高い層材料からなる層と屈折率がそれに比べて低い層材料からなる層とを含む。かかる層対を「二重層」又は「2層」とも称する。比較的高屈折率の層材料及び比較的低屈折率の層材料からなる2つの層に加えて、層対は、1つ又は複数のさらなる層、例えば隣接する層間の相互拡散を低減するための介在バリア層も有し得る。多くの層対を有する多層構成体は、「分布ブラッグ反射鏡」のように働く。層構成体は、ブラッグ反射を起こす格子面が屈折率の実部が小さな材料の層により形成される結晶を模倣している。層対の最適な周期厚は、指定の波長と指定の入射角又は入射角範囲とに関してブラッグの式により求められ、この例では1nm~10nmである。
【0061】
基板110とは反対側の放射線入口側で、多層構成体120は耐酸化性の層材料からなるキャッピング層125を有し、この例ではルテニウム(Ru)が用いられる。キャッピング層125は、例えば酸化からの保護として、変質からの保護として、且つ/又は単に粒子の付着が少ない結果として表面を洗浄し易くできるという理由で、多くの機能を果たすことができる。
【0062】
アブソーバ材料を含有する横方向に構造化されたマスク構造140が、多層構成体120に、より正確にはキャッピング層125に施される。本明細書中の用語「アブソーバ材料」は、あまり厚くない層で入射するEUV放射線の大部分を吸収するのに十分なほどEUV波長に対する消衰係数kが大きい材料を指す。結果として、マスクは、EUV放射線のうちマスク構造140に入射した部分がかなりの程度まで吸収される一方で、マスク構造の構造要素から離れて反射多層構成体の非被覆領域に入射した部分は吸収ができる限り小さく主に反射される、2値強度マスクとして働く。
【0063】
図1は、マスク構造140の構造要素145を断面で示す。構造要素は、例えば、それ以外は反射効果を有する多層(多層構成体120)上に延びる規定幅の直線とすることができる。マスク構造140は、複数の層からなり、すなわち構造化された層構成体として構成される。この例では、マスク構造は、相互に重なり合った厳密に2つの層、すなわちキャッピング層125の自由表面に直接施され得る第1の層151とマスクの放射線入口側で第1の層151に直接施された第2の層152とを有する。
【0064】
例示的な実施形態において、第1の層151は、実質的にアルミニウム(Al)からなり、約66.1nm(ナノメートル)の第1の層厚d1を有する。それに直接施された第2の層152は、実質的に窒化アルミニウム(AlN)からなり、約10nmの第2の層厚d2を有する。
【0065】
強度マスクの製造中、基板110は、キャッピング層125を含む反射多層構成体120でまずコーティングされる。次に、アブソーバ材料を含有するマスク構造が多層構成体上に作製される。この目的で、広範囲の第1の層(アルミニウムからなる)が、例えばPVD法又はスパッタリングにより最初に施される。その後、その上の第2の層が、例えばPVD法又はスパッタリングにより作製される。
【0066】
続いて、層構成体は、適切な材料除去技法を用いて(例えば、電子ビームリソグラフィにより)マスク構造140に属することが意図されない領域を除去することにより構造化されるので、反射多層構成体120の表面はマスク構造の構造要素間で露出し、構造要素はできる限りシャープな側壁を維持する。
【0067】
第1の層材料(この場合はアルミニウム)及び第2の層材料(この場合は窒化アルミニウム)の選択及びそれらの厚さの設計は、EUV放射線の通過時の2つの層の効果がそれにより生じる位相差に関して少なくとも部分的に補償し合う結果として、マスク構造が全体として通過するEUV放射線に及ぼす位相シフトの影響が比較的小さくなるように行われる。
【0068】
第1の層材料の屈折率の実部(パラメータn1)は、設計波長λで1よりも大きく、文献によれば約n1=1.003のオーダである。これに対して、それに施された第2の層材料の屈折率の実部(パラメータn2)は、1よりも小さく、文献によれば約n2=0.981である。
【0069】
この例では、第1の層151及び第2の層152の層厚d1及びd2と、2つの層材料の屈折率の実部とは、
d1*n1+d2*n2=(d1+d2)±0.1λ
という条件が満たされるように相互に一致させられ、つまり2層マスク構造を通るEUV放射線の光路長は真空を通る同じEUV放射線の光路長に実質的に対応し、経路長差は好ましくは理想値0から動作波長の10%を超えて逸脱すべきでない。偏差が小さいほど好都合であり、例えば動作波長13.5nmで最大0.5nmである。
【0070】
図2は、ナノメートル単位の光路長差OPD(y軸上)をx軸上のマスク構造の深さ位置POS(ナノメートル単位)の関数として示すグラフを簡易図として示す。図示の曲線は、以下の関係に従って計算され、式中、パラメータzは深さ位置を表す。
【数2】
【0071】
位置0は、放射線入口側、すなわち第2の層152の自由表面に対応する。2層マスク構造は、キャッピング層が始まる約76ナノメートルの位置で終わる。したがって、このグラフは、AlN/Alアブソーバを上から下まで伝播中の、真空を通る光路長差に比べた光路長差のプロファイルを示す。
【0072】
真空を通過する参照波に比べて、第2の層を透過するEUV放射線は、まず光路長差OPDすなわち位相差を次第に負の方向に増やし、下のアルミニウム層(第1の層)への移行時に極値(約-0.19ナノメートル)に達することが分かる。これは、窒化アルミニウム(AlN)の屈折率の実部が1よりもわずかに小さい結果である。アルミニウム層(第1の層)のその後の透過中に、この光路長差は続いてさらに減っていき、第1の層151の下側で再度補償される。透過したEUV放射線が続いて下の多層構成体120で反射される場合、アブソーバの下から上へ戻る際に原理上は同じことが起こり、最初に正の光路長差が増え、続いてより薄いAlN層の通過時に再度補償される。
【0073】
かかる反射型マスクのいくつかの利点を以下で説明する。本発明者らは、EUVマスクとの、特にマスク構造とのEUV放射線の相互作用中の物理的プロセスを調べる厳密なシミュレーション計算を実行した。シミュレーション計算によれば、入射EUV波のうち吸収マスク構造(アブソーバ構造としても知られる)を通過する部分W1は、完全に吸収されずに後方反射後にアブソーバ材料を再度通過し、再度出たときに、EUV波のうちアブソーバ構造を越えて真空を通り反射多層コーティングへ進んでこれにより反射された部分W2に比べて位相オフセット(位相シフト)を有することから、波面変形に対する反射型マスクの大きな寄与が生じる。以下のグラフを用いて、これをより詳細に説明する。
【0074】
図3は、従来の基準マスクREFと例示的な実施形態の位相最適化されたAl/AlNマスクとの比較のシミュレーション結果を示す。濃いバーはここでは従来のマスクを表し、薄いバーは本発明による例示的な実施形態を表す。ライン格子を有するマスクでの回折を用いて結像系を通過した波面のコピーを生成し、続いてそれらのコピーを重ね合わせる、EUVシアリング干渉計として知られるものをシミュレートした。したがって、波面は、位相シフト法を用いて再構成することができる(例えば、独国特許出願公開第10 2016 212 477号又は対応する国際公開第2018/007211号参照)。
【0075】
図3のグラフでは、いくつかのゼルニケ係数ZKをX軸に示し、波面ずれの振幅AMP(ピコメートル、pm)をy軸に示す。このグラフは、波面のゼルニケスペクトルとして知られるものを示す。波面をゼルニケ多項式に分解し、各多項式の振幅をスペクトルとしてプロットする。明確化のために、振幅が0.5pmよりも大きいゼルニケ係数のみ及びZ5よりも大きなゼルニケ係数のみをグラフに示す。
【0076】
シミュレーションでは、測定された光学結像系(EUVリソグラフィ用の投影レンズ)に収差がないと仮定したので、測定技術も完璧であればグラフ中の全振幅が0に等しくなければならなくなる。したがって、バーが表す上下の振れは、前述の3Dマスク効果により主に生じる測定誤差を直接表す。位相最適化された反射型マスクの使用により大幅な改善が得られることが容易に分かる。これは特に、振幅が大きいゼルニケ、例えばZ9、Z16、及びZ17に当てはまる。
【0077】
リソグラフィマスクとして設計された反射型強度マスク500の応用例を、図4及び図5を参照して例示的な実施形態に従って記載する。図4は、EUV放射線による微細構造半導体デバイスの製造のためのマイクロリソグラフィ投影露光装置400の概略図を示す。この装置は、放射線源410、照明系420、及び投影レンズ430を有する。放射線源410は、主波長付近のEUV波長域の一次放射線を発生し、この放射線は、ビーム411の形態で照明系420へ導かれる。照明系420は、拡大、均一化、ビーム角度分布の変化等により一次放射線を変化させ、それによりその出力で照明ビーム412を発生し、照明ビーム412は、結像するパターンを担持する反射型強度マスク500に斜めに入射する(図5参照)。
【0078】
投影レンズ430は、その物体面431に配置されたパターンを物体面と光学的に共役な像面432に結像するよう設計された光学結像系である。投影レンズ通過後に、放射線は、基板ホルダ460により担持された半導体ウェーハの形態の基板450の表面の像面432の領域に入射する。
【0079】
投影レンズ130は、基準軸433を規定する。物体視野435は、この基準軸をY方向の中心とする。結像系の光学素子は、この基準軸に対して偏心し得る。
【0080】
この例では、放射線源410は、約5nm~約30nm、特に約10nm~約20nmの波長域の放射線を発生するEUV放射線源である。特に、放射線源は、主波長が約13.5nmの範囲にあるように設計され得る。EUV域からの他の波長(例えば、約6.9nmの範囲)も可能である。
【0081】
照明系420は、照明放射線をできる限り均一な強度プロファイル及び規定のビーム角度分布で発生するように設計且つ配置される光学コンポーネントを含む。この例では、ビーム誘導及び/又はビーム整形用に設けられた照明系の全ての光学コンポーネントが純粋に反射コンポーネント(ミラーコンポーネント)である。
【0082】
照明放射線は、反射型マスク500により投影レンズ430の方向に反射され、角度分布及び/又は強度分布に関して変更される。投影レンズを通って基板に達する放射線は、結像ビーム経路を形成し、そのうち2つの光線441が投影レンズ430の物体側(マスクと投影レンズとの間)に概略的に図示されており、像点に収束する2つの光線442が像側(投影レンズと基板との間)に図示されている。投影レンズの像側の収束する光線442が形成する角度は、投影レンズの像側開口数NAに関連する。この開口は、例えば0.1以上、又は0.2以上、又は0.3以上、又は0.4以上であり得る。
【0083】
投影レンズは、投影レンズの物体視野435の領域から投影レンズの像視野438へパターンを縮小して転送するよう設計される。投影レンズ430は、1/4に縮小されるが、他の縮尺、例えば1/5に縮小、1/6に縮小又は1/8に縮小、又はあまり大幅に縮小しないこと、例えば1/2に縮小も可能である。
【0084】
EUVリソグラフィ用の投影レンズの実施形態は、3つ以上又は4つ以上のミラーを通常は有する。厳密に6つのミラーが有利であることが多い(図6参照)。偶数のミラーの場合、ミラーの全てを物体面と像面との間に配置することができ、これらの平面を相互に平行な向きにすることができ、これにより投影露光装置への投影レンズの組み込みが簡略化される。
【0085】
投影露光装置の説明を簡略化するために、直交x、y、z座標系を図1に示す。z方向は基準軸133と平行であり、x-y平面は基準軸133に対して垂直、すなわち物体面及び像面と平行であり、図ではy方向は図の平面内にある。
【0086】
投影露光装置400はスキャナ型である。投影露光装置の動作中に、マスク500及び基板450はy方向と平行に逆方向に移動するので、2値反射型マスク500の異なる領域が移動するウェーハに時間的に順次転写される。ステッパ型の実施形態も可能である。
【0087】
図5は、反射型リソグラフィマスク500のマスク構造の概略上面図を示す。マスク構造は、構造化する半導体の機能層に対応し、異なる形状の、直線状、屈曲、U字形、T字形、及び異なる設計の構造要素(明色)の配置を含む。この吸収マスク構造は、例えば図1に示すように多層且つ位相最適化された構成を有し、反射多層構成体により担持される。
【0088】
反射型マスク500が本発明の例示的な実施形態に従って構成されることにより、前述の望ましくない波面変形を低レベルに保つことができる。
【0089】
光学結像系の結像品質の干渉測定のための測定系又は測定方法における本発明の例示的な実施形態による2値強度マスクの使用の可能性を、図6図7、及び図8を参照して記載する。この点で、図6は、EUV投影レンズ630の形態の光学結像系の結像品質の測定に用いられる測定系600のコンポーネントを概略的に示す。この例では、投影レンズ630は、合計6つのミラーM1~M6を有し、これらは投影レンズの物体面631の物体視野に配置されたパターンを投影レンズの像面632に配置された像視野に縮小して結像するよう配置且つ設計される。例示的な実施形態による2値強度マスクである反射型測定マスク700が物体面に配置される。図7は、反射多層構成体(図1参照)に配置されるマスク構造の上面図を示す。
【0090】
例示的な実施形態による2値透過マスク800が、像面632に配置される。図8は、2値透過マスクのマスク構造の上面図を示す。
【0091】
物体側に配置される反射型測定マスク700のマスク構造と像側に配置される透過マスク800のマスク構造とは、物体側の測定マスク700のマスク構造が像側の測定マスク800に投影レンズ630を用いて結像されると干渉パターンが生成されるように相互に適合される。これは、干渉パターンの空間分解検出のための検出器650により検出することができる。この例では、検出器は透過マスク800の下に配置されるので、透過マスク800を透過してそのマスク構造の影響を受ける測定放射線のみが検出器に達する。
【0092】
この例では、物体側に配置される反射型測定マスク700のマスク構造は、EUV放射線の測定波長の倍数に相当する周期長P1を有する単純なライン格子である。周期長は、例えば、1μm以上のオーダ、例えば2μm以上であり得る。マスク構造の吸収性の直線状構造要素は、それぞれが2層構成を有し、一方の層の層材料は1よりも小さな屈折率の実部を有し、他方の層は1よりも大きな屈折率の実部を有する。反射型測定マスク700の層構造は、比較的厚い耐反り性の基板のうち投影レンズ側でEUV反射多層構成体に配置される。
【0093】
像側に配置される測定マスク800は、2値透過マスクとして設計される。図9は、像側の測定マスク800の一部の概略断面を示す。測定マスクは、少なくとも1つの連続した切欠き806を有する安定したベースキャリア又はフレーム805を有する。キャリアは、例えばケイ素からなることができ、十分な安定性を確保するために厚さが数百マイクロメートルである。2値透過マスクの基板810は、キャリアの上側に取り付けられる。基板は、薄い平行平面板のように切欠き806に跨る薄膜の形態である。膜又は基板810は、EUV放射線に対してできる限り高い透過率を有するべきであり、それに対応して薄い。厚さは、例えば50nm~200nmの範囲、好ましくは約80nmm~120nmのオーダ、例えば100nmであり得る。窒化ケイ素(Si)又は別のケイ素セラミックを例えば基板材料として用いることができる。キャリア805の反対側の基板表面には、マスク構造840が施され、これは相互に重なり合った厳密に2つの層、すなわち基板810の自由表面に直接施される第1の層851と測定マスクの放射線入口側で第1の層851に直接施された第2の層852とを有する。例示的な実施形態において、第1の層851は実質的にアルミニウム(Al)からなるのに対し、第2の層852は実質的に窒化アルミニウムからなる。この層配置は、下の基板810が露出されるように層構造が除去された領域である円形の孔855の周期パターンが形成されるように、横方向に構造化される。マスク構造の2層構成は、孔間で保持される。孔パターンは、周期長P2未満であり1マイクロメートル未満、例えば300nm~700nmであり得る周期長P2を有する。
【0094】
測定動作中、投影レンズ通過後に、EUV放射線は放射線入口側から2値透過マスク800に入射する。マスク構造の孔を通って膜に入射する部分W2は、低吸収で検出器の方向に膜を通過する。理想的な場合、マスク構造の吸収構造要素に入射する部分W1は、完全に吸収されることになる。しかしながら、本発明者らの観察によれば、放射強度の特定の割合が、概して検出器の方向に透過マスクを通して吸収2層構造及び基板810を通過する。しかしながら、構造要素の多層構造により、既に上述した位相補償が起こり、これには、一方の層を通過時に発生した位相オフセットが他方の層を通過時に再度補償されるので、EUV放射線のうち吸収後に透過マスクを通過する部分W1がマスク構造と相互作用せずに基板810通過時にのみ吸収された部分W2と実質的に同じ位相を有するという効果がある。結果として、そうでない場合には生じ得る位相差に起因するであろう測定精度の低下を回避するか又は許容可能な低レベルに保つことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】