(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
1GHz以上、100GHz以下の範囲の電磁波に対して、吸収率が平均60%以上で、かつ反射率が平均10%以下である、請求項1または2のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
前記繊維構造体は、少なくとも一層の織編物および少なくとも一層の不織布から選択される複数の層が、縫製により一体化されたものである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の電磁波吸収体。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明にかかる電磁波吸収体は、繊維構造体からなる基体と、前記基体に付与されたカーボンナノチューブを有し、目付が100g/m
2以上であり、空隙率が50%以上であり、伝導度(σ)が0.05〜50S/mであり、比誘電率(ε)が1〜8である、電磁波吸収体である。
【0023】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、繊維構造体を基体として、これにカーボンナノチューブを付与することにより得られる材料は、空隙率を所定の範囲に調整した場合、驚くべきことに半導体の特性を発揮し、特に、空隙率、伝導度、比誘電率を前記の範囲に調整した場合に、ギガヘルツ帯の電磁波に対し、優れた吸収性能を示すことを見出した。
【0024】
本発明の電磁波吸収体においては、基体を構成する、少なくとも一部の繊維の表面にカーボンナノチューブが付着している。すなわち、前記電磁波吸収体は、カーボンナノチューブに被覆された繊維を含む、繊維構造体からなるものである。
【0025】
例えば、前記電磁波吸収体は、伝導度(σ)が0.5〜10(S/m)となるものであってもよく、0.5〜5(S/m)となるものであってもよい。例えば、前記電磁波吸収体は、比誘電率(ε)が、1〜5となるものであってもよく、1〜3となるものであってもよい。
【0026】
電磁波吸収体の目付は、繊維構造体からなる基体に、カーボンナノチューブを付着した後において、100g/m
2以上であり、例えば200g/m
2以上であってもよく、400g/m
2以上であってもよい。目付の上限は特に限定されないが、例えば、2000g/m
2であってもよく、1600g/m
2であってもよく、1000g/m
2であってもよい。例えば、目付は、200g/m
2〜500g/m
2であってもよく、400g/m
2〜2000g/m
2であってもよい。
【0027】
電磁波吸収体には、繊維、およびカーボンナノチューブに加え、バインダー樹脂が含まれていてもよい。
【0028】
前記電磁波吸収体は、周波数50GHz以上、67GHz以下の範囲の電磁波に対し、吸収率が平均60%以上であり、かつ反射率が平均15%以下、好ましくは平均10%以下(例えば平均5%以下)であることが好ましい。前記範囲の電磁波に対し、より好ましくは、吸収率は平均70%以上、さらに好ましくは、平均80%以上である。
【0029】
前記電磁波吸収体は、周波数1GHz以上、100GHz以下の範囲の電磁波に対して、吸収率が平均60%以上かつ反射率が平均10%以下であることが好ましい。前記範囲の電磁波に対する吸収率は、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0030】
例えば、前記電磁波吸収体は、周波数5.8GHzの電磁波に対し、吸収率が80%以上、反射率が10%以下となるものであってもよい。前記電磁波吸収体は、周波数20.0GHzの電磁波に対し、吸収率が80%以上、反射率が10%以下となるものであってもよい。前記電磁波吸収体は、周波数40.0GHzの電磁波に対し、吸収率が80%以上、反射率が10%以下となるものであってもよい。
【0031】
前記電磁波吸収体の空隙率は、高い電磁波吸収率を得られる点で、60%〜95%であることが好ましく、70%〜95%であることがより好ましい。
【0032】
前記電磁波吸収体の基体は、単層の繊維構造体からなるものであってもよい。あるいは、複数の繊維構造体層を有する積層体であってもよい。基体を構成する繊維構造体(積層体の場合は、各繊維構造体層)は、例えば、織物、編物、不織布、繊維ウエブ、繊維塊から選択される構造を有することができる。例えば、前記基体は不織布からなるものであってもよく、複数の不織布層からなる積層体であってもよい。あるいは、少なくとも一層の織編物層と、少なくとも一層の不織布層からなる積層体であってもよい。積層体を構成する複数の層は、例えば、縫製により一体化することができる。基体を複数層から構成した場合、単層の場合より、容易に高い空隙率が得られ、高い電磁波吸収率を得られるため好ましい。
【0033】
前記基体を構成する繊維構造体は、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維から選択される、少なくとも一種の有機系繊維からなるものであってもよい。前記繊維構造体には、合成繊維が含まれていることが好ましい。前記、繊維構造体は、実質的に合成繊維からなるものであってもよい。
【0034】
前記合成繊維は、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、PBO繊維、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系重合体、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系重合体、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂から選択される少なくとも一種の合成樹脂からなるものであってもよい。例えば、前記繊維構造体には、ポリエステル系樹脂を含んでもよい。
【0035】
前記繊維構造体は、マルチフィラメント糸からなるものであってもよい。その場合の単糸繊度は、10dtex以下であってもよく、0.1〜8dtexであってもよい。
【0036】
本発明においては、繊維構造体を形成した後、これにカーボンナノチューブを付与するため、カーボンナノチューブは繊維の表面に付着している。カーボンナノチューブの付着量は、基体を構成する繊維100質量部に対し、1〜100質量部であってもよく、好ましくは2〜80質量部、さらに好ましくは5〜50質量部であってもよく、5〜30質量部であってもよく、5〜10質量部であってもよい。
例えば、カーボンナノチューブには、多層カーボンナノチューブを用いてもよい。
【0037】
前記、本発明に係る電磁波吸収体は、下記の製造方法によって、製造されたものであってもよい。
本発明に係る電磁波吸収体は、カーボンナノチューブと界面活性剤と分散媒とを含むカーボンナノチューブ分散液とを準備する工程と、前記カーボンナノチューブ分散液を、繊維構造体を構成する繊維の表面に付着させる工程と、前記分散媒を除去する工程と、を含む、製造方法により、製造することができる。
【0038】
前記方法において、繊維にカーボンナノチューブを付着させた後、この繊維を含む繊維構造体を形成してもよい。あるいは、繊維構造体を形成したのち、例えば、繊維構造体をカーボンナノチューブの分散液に浸漬することにより、カーボンナノチューブの分散液を含浸させてもよい。
前記方法において、前記分散媒を除去する工程は、カーボンナノチューブ分散液を含浸した基体を圧搾することにより、前記分散液を除去する工程を含むものであってもよい。前記製造方法において、前記界面活性剤は、陰イオン界面活性剤と陽イオン界面活性剤の組み合わせであってもよく、両性イオン界面活性剤であってもよい。
【0039】
前記製造方法において、前記カーボンナノチューブ分散液を準備する工程において、分散媒として水を使用し、界面活性剤100質量部に対し、10〜500質量部の水和安定剤を添加してもよい。
【0040】
前記製造方法において、前記水和安定剤は、多価アルコール、ポリアルキレングリコール樹脂、ポリビニル系樹脂、水溶性多糖類、水溶性蛋白質からなる群から選択される少なくとも一種からなるものであってもよい。例えば、前記水和安定剤は、少なくとも一種の多価アルコールからなるものであってもよい。前記カーボンナノチューブの分散液は、さらにバインダーを含んでいてもよい。
【0041】
以下、上記に説明した本発明の構成に関し、さらに詳細に説明する。
[基体]
本発明において、電磁波吸収体の基体は、繊維構造体から形成される。ここで、繊維構造体とは、織物、編物、不織布、繊維ウエブ、繊維塊またはこれらが複数層重ねあわされた積層体などの、繊維が主体となって形成され、繊維間に所定の空隙を有するものを言い、繊維が主体で繊維間に空隙があれば、高分子重合体からなるバインダー等が含まれていても良い。
【0042】
(繊維)
本発明の電磁波吸収体の基体をなす繊維構造体は、カーボンナノチューブを担持する基材として各種繊維から形成される。たとえば、その原料の繊維は非合成繊維[例えば、天然繊維(綿、麻、ウール、絹など)、再生繊維(レーヨン、キュプラなど)、半合成繊維(アセテート繊維など)]などの有機系繊維であってもよいが、カーボンナノチューブを含む層との密着性などの点から、少なくとも合成繊維を含むのが好ましい。
【0043】
合成繊維は、繊維形成性の合成樹脂又は合成高分子材料(合成有機重合体)を用いて形成した繊維であり、1種類の合成有機重合体(以下単に「重合体」ということがある)から形成されていてもよいし、2種類以上の重合体から形成されていてもよい。合成樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂[芳香族ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンアリレート系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂(たとえば、全芳香族ポリエステル系樹脂など)、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ヒドロキシブチレート−ヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステル及びその共重合体)など]、ポリアミド系樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド12、ポリアミド612などの脂肪族ポリアミド及びその共重合体、脂環式ポリアミド、芳香族ポリアミドなど)、PBO樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ゲル紡糸ポリエチレンなどのポリオレフィン及びその共重合体など)、アクリル系重合体(アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体などのアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系樹脂など)、ポリウレタン系樹脂(ポリエステル型、ポリエーテル型、ポリカーボネート型ポリウレタン系樹脂など)、ポリビニルアルコール系重合体(例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体など)、ポリ塩化ビニリデン系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体など)、ポリ塩化ビニル系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体など)などを挙げることができる。これらの合成樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0044】
合成繊維が2種以上の重合体で形成されている場合は、2種以上の重合体の混合物(アロイ樹脂)で形成された混合紡糸繊維であってもよいし、又は2種以上の重合体が複数の相分離構造を形成した複合紡糸繊維であってもよい。複合紡糸繊維には、例えば、海島構造、芯鞘構造、サイドバイサイド型貼合せ構造、海島構造と芯鞘構造とが組み合わさった構造、サイドバイサイド型貼合せ構造と海島構造が組み合わさった構造などが挙げられる。
これらの合成繊維のうち、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系重合体などで構成された繊維が、カーボンナノチューブの付着性が良好であり、しかも耐屈曲疲労性に優れる点から好ましい。なかでも、汎用性及び熱的特性の点から、ポリエステル系樹脂(特に、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリC
2−4アルキレンテレフタレート系樹脂)、ポリアミド系樹脂(特に、ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド系樹脂)、ポリオレフィン系樹脂(特に、ポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂)で構成された繊維が好ましく、特にポリエステル系繊維が熱安定性および寸法安定性が良好である点からより好ましい。また、目的によっては高強力・高弾性繊維(例えば、液晶ポリエステル系繊維、液晶ポリエステルアミド繊維、液晶ポリアミド系繊維、高強力ポリエチレン繊維、PBO繊維など)なども好適に用いることができる。
【0045】
繊維の横断面形状は特に制限されず、丸形断面を有する通常の繊維であってもよく、丸形断面以外の異形断面を有する繊維であってもよい。異形断面繊維である場合は、その横断面形状は、例えば、方形、多角形、三角形、中空形、偏平形、多葉形、ドッグボーン型、T字形、V字形などのいずれであってもよい。
【0046】
繊維は、モノフィラメント糸、双糸、マルチフィラメント糸、加工したマルチフィラメント糸、紡績糸、テープヤーン、及びそれらの組み合わせなどのいずれであってもよい。マルチフィラメント糸や紡績糸などの複合糸の場合、同一の繊維同士を組み合わせた複合糸であってもよく、異なる種類の繊維を組み合わせた複合糸であってもよい。
これらのうち、柔軟性やしなやかさ、耐屈曲疲労性に優れる点から、双糸、マルチフィラメント糸、加工したマルチフィラメント糸、紡績糸(特に、合成繊維同士を組み合わせたマルチフィラメント糸、紡績糸)が好ましい。
【0047】
マルチフィラメント糸又は紡績糸の場合、単糸繊度(平均単糸繊度)は、カーボンナノチューブを含む層を多数形成する目的で、単糸繊度は10dtex以下であってもよく、例えば、0.1〜8dtex、好ましくは0.3〜7dtex、さらに好ましくは0.5〜3dtex程度である。単糸繊度が大きすぎると、カーボンナノチューブを含む層が少なくなり、導電性能が低下する傾向にある。また、単糸繊度が小さすぎると実質的にカーボンナノチューブを含む層で被覆されない表面部分が多くなるだけであり、実質的なメリットは少ない。
【0048】
(繊維構造体)
本発明において、カーボンナノチューブを付与した、目付が100g/m
2以上であり、かつ空隙率が50%以上の繊維構造体を得るために用いられる繊維構造体としては、織物、編物、多孔性紙、不織布、繊維塊などが含まれる。また、特定種類または複数の種類の繊維構造体を組み合わせた、複合型の繊維構造体とすることもできる。例えば、目的の吸収率を達成するために、特定の編織物を複数枚重ねて、所定の性能を発揮する繊維構造体とすることもできる。複数枚重ねる方法としては、所定の空隙率を得るために、多重織にしたり、部分的に縫い合わせたりする方法が挙げられる。また、複数の編織物の間にスポンジ、不織布(例えば、フェルト)等を挟んでもよい。
【0049】
編織物には、織物、編物の他、レース地、網なども含まれる。これらの編織物のうち、全面に渡って電磁波を吸収する目的から、目開きの少ない織物及び編物が好ましい。また、紙や不織布も同様で、穴や、透け通し部のないものが好ましい。
織物としては、慣用の織物(織物生地又は織布)、例えば、タフタ織などの平織、綾織又は斜紋織(ツイル織)、朱子織、パイル織などが挙げられる。
編物としても、慣用の編物(編物生地又は編布)、例えば、平編(天竺編)、経編、丸編、横編、両面編、ゴム編、パイル編などが挙げられる。
さらに、編織物は、少なくともカーボンナノチューブをコーティングした導電繊維を含んでいればよい。カーボンナノチューブを含む層で被覆した繊維とカーボンナノチューブを含まない繊維とを組み合わせて編織物を形成する場合、カーボンナノチューブを含まない繊維としては、カーボンナノチューブを含む層で被覆した繊維を構成する繊維が利用でき、なかでも、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、高強力高弾性繊維が好ましい。カーボンナノチューブを含まない繊維も、横断面形状や種類も、マルチフィラメント糸や紡績糸における単糸繊度、本数、撚り数などについても、カーボンナノチューブを含む層で被覆した繊維と同様の繊維を利用できる。
また、不織布としては、短繊維をカーディングしウエブを作成し、これを機械的(ニードルパンチなど)または接着剤などで交絡させる従来方式の製造方法で作成したもの(短繊維不織布)や、スパンボンドやメルトブローン方式のように、溶融紡糸直結型の不織布製造装置を用いて形成されたもの(長繊維不織布)であってもよい。
また、多孔性の紙としては、天然パルプ、合成パルプを主体に、必要に応じて有機繊維、無機繊維等を加え、さらにこれに発泡性粒子(マイクロカプセル内に低沸点溶剤を封入したもの)を配合して混抄することにより形成される嵩高紙を挙げることができる。
【0050】
繊維構造体の目付としては、後述するカーボンナノチューブを付着後において、100g/m
2以上であることが必要で、好ましくは、200g/m
2〜2000g/m
2である。例えば、目付は200g/m
2〜1600g/m
2であってもよく、400g/m
2〜200g/m
2であってもよく、200〜1000g/m
2であってもよく、200g/m
2〜500g/m
2であってもよい。
目付が小さすぎると電磁波吸収量が充分でなくなる傾向にあり、電磁波吸収材としての機能が充分に果たせない。目付が大きすぎると、電子機器等を取り囲む電磁波吸収材の厚みが不必要に増大し、機器の取り扱い性を阻害する傾向になりやすい。
【0051】
繊維構造体の空隙率としては、後述するカーボンナノチューブを付着後において、50%以上であることが必要であり、好ましくは、60〜95%、より好ましくは70〜95%である。空隙率が小さすぎると電磁波吸収性が不十分となり、電磁波吸収材としての機能が充分に充足されない。一方、空隙率が大きすぎると、繊維構造体の機械的性質(強度など)が不十分となり、好ましくない。
空隙率の調整は、繊維素材の選択、単繊維繊度、捲縮、織密度、織組織、バインダー付着方法、バインダー付着率、縫製方法などを変更することにより行うことが出来る。
空隙率80%以上の高空隙率の繊維構造体を得るための一例として、芯鞘型の接着性繊維を含むポリエステル系の短繊維をカーディングして形成された短繊維不織布をニードルパンチ処理した後、芯鞘型の接着性繊維でポリエステル系短繊維を融着処理することにより形成する方法を挙げることができる。
【0052】
本発明において、繊維構造体の伝導度(σ)は0.05〜50S/mであることが必要であり、伝導度が0.05S/m未満または50S/mを超えると電磁波吸収性が不十分となる。伝導度は、カーボンナノチューブの付着量が多すぎると大きくなり、カーボンナノチューブの付着量が少なすぎると小さくなるので、伝導度を考慮して、繊維構造体の繊維素材、繊維集合体組織構造およびカーボンナノチューブの素材に応じて、伝導度が上記の範囲内に入るように調整する必要がある。伝導度(σ)は、例えば0.5〜5(S/m)であってもよい。
【0053】
本発明において、繊維構造体の比誘電率(ε)は1〜8(例えば、1<ε≦8)であることが必要であり、比誘電率が8を超えると、電磁波吸収性が不十分となる。空隙率が高くなると比誘電率が低くなり、一方、極性物質が多いと比誘電率が高くなることから、極性を考慮した繊維構造体の繊維素材、繊維集合体構造の選択と、空隙率の選択により、比誘電率を上記の範囲内に調整することが可能である。例えば、比誘電率(ε)は、1〜5であってもよく、1〜3であってもよい。
【0054】
(カーボンナノチューブを含む層の形成)
本発明では、繊維構造体を形成するための繊維(単繊維、糸など)または繊維構造体(編織布または不織布など)の繊維表面を、まずカーボンナノチューブで被覆する必要がある。
電磁波吸収性能の点から、繊維構造体を形成する繊維の表面の一部(局所)だけではなく、繊維の全表面の30%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは全体(100%)をカバーする被覆率(カバー率)で、カーボンナノチューブを含む層が繊維表面に付着していることが好ましい。
繊維が、モノフィラメント糸ではなく、マルチフィラメント糸や紡績糸や不織布である場合は、糸の内側に位置する繊維表面(糸表面に露出していない繊維表面)には、カーボンナノチューブを含む層は付着していなくてもよいが、糸の表面に位置する繊維の表面だけでなく、糸の内部に位置する繊維の表面にもカーボンナノチューブを含む層が付着していると、電磁波吸収性能は一層良好になる。
【0055】
繊維表面に付着するカーボンナノチューブの割合は、繊維100質量部に対して1〜100質量部程度であってもよい。なかでも、繊維構造体の伝導度(導電性)(σ)を0.05〜50S/mとするためには、カーボンナノチューブの割合が重要であり、カーボンナノチューブの付着量(割合)は、繊維の種類、用途、カーボンナノチューブの種類、カーボンナノチューブ分散液の濃度などに応じて調整し得るが、一般的には、繊維100質量部に対して、例えば、1〜100質量部、好ましくは2〜80質量部、さらに好ましくは5〜50質量部、より好ましくは5〜30質量部(特に5〜10質量部)程度である。カーボンナノチューブの付着量が少なすぎると、伝導度(σ)が低くなりすぎ、電磁波吸収性が充分でなくなる傾向にあり、付着量が多すぎると伝導度(σ)が大きくなりすぎる傾向にある。
なお、カーボンナノチューブの付着量(割合)は、界面活性剤の付着量を含まず、カーボンナノチューブがバインダーを用いて繊維の表面に付着している場合もバインダーの付着量を含まないカーボンナノチューブ自体の付着量をいう。
【0056】
カーボンナノチューブは、特徴的な構造として、炭素の六員環配列構造を有する1枚のシート状グラファイト(グラフェンシート)が円筒状に巻かれた直径数nm程度のチューブ状構造を有する。このグラフェンシートにおける炭素の六員環配列構造には、アームチェア型構造、ジグザグ型構造、カイラル(らせん)型構造などが含まれる。前記グラフェンシートは、炭素の六員環に五員環または七員環が組み合わさった構造を有する1枚のシート状グラファイトであってもよい。カーボンナノチューブとしては、1枚のシート状グラファイトで構成された単層カーボンナノチューブの他、前記筒状のシートが軸直角方向に複数積層した多層カーボンナノチューブ(カーボンナノチューブの内部にさらに径の小さいカーボンナノチューブを1個以上内包する多層カーボンナノチューブ)、単層カーボンナノチューブの端部が円錐状で閉じた形状のカーボンナノコーン、内部にフラーレンを内包するカーボンナノチューブなどが知られている。これらのカーボンナノチューブは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらのカーボンナノチューブのうち、カーボンナノチューブ自体の強度の向上の点から、多層カーボンナノチューブが好ましい。さらに、放射線吸収性の点から、グラフェンシートの配列構造は、アームチェア型構造が好ましい。
【0057】
本発明で用いるカーボンナノチューブの製造方法は特に制限されず、従来から知られている方法によって製造できる。
具体的には、化学的気相成長法において、触媒(鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属またはフェロセン、前記金属の酢酸塩などの遷移金属化合物と、硫黄または硫黄化合物(チオフェン、硫化鉄など)の混合物など)の存在下、炭素含有原料(ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素、エタノールなどのアルコール類など)を加熱することにより生成できる。すなわち、前記炭素含有原料及び前記触媒を雰囲気ガス(アルゴン、ヘリウム、キセノンなどの不活性ガス、水素など)と共に300℃以上(例えば、300〜1000℃程度)に加熱してガス化して生成炉に導入し、800〜1300℃、好ましくは1000〜1300℃の範囲内の一定温度で加熱して触媒金属を微粒子化させると共に炭化水素を分解させることによって微細繊維状(チューブ状)炭素を生成させる。これにより生成した繊維状炭素は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含有していて純度が低く、結晶性も低いので、次に800〜1200℃の範囲内の好ましくは一定温度に保持された熱処理炉で処理して未反応原料やタール分などの揮発分を気化して除くのが好ましい。さらに、微細繊維状炭素を2400〜3000℃の温度でアニール処理して、カーボンナノチューブにおける多層構造の形成を一層促進すると共にカーボンナノチューブに含まれる触媒金属を蒸発することによって製造できる。
また、本発明で用いられるカーボンナノチューブは、保土谷化学(株)のMWNT(NT−7)、バイエル社のBaytubes(C150P)、Cナノ社のFT9000、ナノシル社のNC7000などのMWCNTの市販品を用いることもできる。
【0058】
カーボンナノチューブの平均径(軸方向に対して直交する方向の直径又は横断面径)は、例えば、0.5nm〜1μm(例えば、0.5〜500nm、好ましくは0.6〜300nm、さらに好ましくは0.8〜100nm、特に1〜80nm)程度から選択でき、単層カーボンナノチューブの場合には、例えば、0.5〜10nm、好ましくは0.7〜8nm、さらに好ましくは1〜5nm程度であり、多層カーボンナノチューブの場合は、例えば、5〜300nm、好ましくは10〜100nm、好ましくは20〜80nm程度である。カーボンナノチューブの平均長は、例えば、1〜1000μm、好ましくは1〜500μm、さらに好ましくは1〜100μm程度である。
【0059】
上記のカーボンナノチューブは、後述するように界面活性剤、必要に応じて安定剤を含有する水溶液に分散させてゾル状のペーストとし、そのなかに繊維構造体を含浸して、繊維構造体を形成する繊維表面に付着させるので、繊維構造体表面におけるカーボンナノチューブを含む層は、製造工程で用いられる分散液に含まれる界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、両性イオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれもが使用できる。
【0060】
両性イオン界面活性剤には、スルホベタイン類、ホスホベタイン類、カルボキシベタイン類、イミダゾリウムベタイン類、アルキルアミンオキサイド類などが含まれる。
スルホベタイン類としては、例えば、3−(ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホン酸塩(スルホネート)、3−(ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホン酸塩、3−(ジメチルn−ドデシルアンモニオ)プロパンスルホン酸塩、3−(ジメチルn−ヘキサデシルアンモニオ)プロパンスルホン酸塩などのジC
1−4アルキルC
8−24アルキルアンモニオC
1−6アルカンスルホン酸塩、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート(CHAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホネート(CHAPSO)などのステロイド骨格を有するアルキルアンモニオC
1−6アルカンスルホン酸塩などが挙げられる。
ホスホベタイン類としては、例えば、n−オクチルホスホコリン、n−ドデシルホスホコリン、n−テトラデシルホスホコリン、n−ヘキサデシルホスホコリンなどのC
8−24アルキルホスホコリン、レシチンなどのグリセロリン脂質、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンのポリマーなどが挙げられる。
カルボキシベタイン類としては、例えば、ジメチルラウリルカルボキシベタインなどのジメチルC
8−24アルキルベタイン、パーフルオロアルキルベタインなどが挙げられる。イミダゾリウムベタイン類としては、例えば、ラウリルイミダゾリウムベタインなどのC
8−24アルキルイミダゾリウムベタインなどが挙げられる。アルキルアミンオキシドとしては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキシドなどのトリC
8−24アルキル基を有するアミンオキシドなどが挙げられる。
これらの両性イオン界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、両性イオン界面活性剤において、塩としては、アンモニア、アミン(例えば、アミン、エタノールアミンなどのアルカノールアミン等)、アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウムなど)等との塩が挙げられる。
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えば、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのC
6−24アルキルベンゼンスルホン酸塩など)、アルキルナフタレンスルホン酸塩(例えば、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのジC
3−8アルキルナフタレンスルホン酸塩など)、アルキルスルホン酸塩(例えば、ドデカンスルホン酸ナトリウムなどのC
6−24アルキルスルホン酸塩など)、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩(例えば、ジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのジC
6−24アルキルスルホコハク酸塩など)、アルキル硫酸塩(例えば、硫酸化脂、ヤシ油の還元アルコールと硫酸とのエステルのナトリウム塩などのC
6−24アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレン(平均付加モル数2〜3モル程度)アルキルエーテル硫酸塩など)、アルキルリン酸塩(例えば、モノ〜トリ−ラウリルエーテルリン酸などのリン酸モノ〜トリ−C
8−18アルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩など)などが挙げられる。これらの陰イオン性界面活性剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。塩としては、前記両性イオン界面活性剤と同様の塩が例示できる。
【0061】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、テトラアルキルアンモニウム塩(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドなどのモノ又はジC
8−24アルキル−トリ又はジメチルアンモニウム塩など)、トリアルキルベンジルアンモニウム塩[例えば、セチルベンジルジメチルアンモニウムクロライドなどのC
8−24アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム塩など)など]、アルキルピリジニウム塩(例えば、セチルピリジニウムブロマイドなどのC
8−24アルキルピリジニウム塩など)などが挙げられる。これらの陽イオン性界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、塩としては、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)、過塩素酸などとの塩が挙げられる。
【0062】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンC
6−24アルキルエーテル)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンC
6−18アルキルフェニルエーテルなど)、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル[例えば、ポリオキシエチレングリセリンステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレングリセリンC
8−24脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレンソルビタンC
8−24脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖C
8−24脂肪酸エステルなど]、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリグリセリンモノステアリン酸エステルなどのポリグリセリンC
8−24脂肪酸エステル)などが挙げられる。これらの非イオン性界面活性剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、前記ノニオン性界面活性剤において、エチレンオキサイドの平均付加モル数は、1〜35モル、好ましくは2〜30モル、さらに好ましくは5〜20モル程度である。
【0063】
これらの界面活性剤のうち、製造工程において使用される分散液中において、カーボンナノチューブ間のファンデルワールス力による凝集及びバンドル形成を防ぎながら、カーボンナノチューブを水などの分散媒中に安定に微細に分散させることができる点から、陰イオン性界面活性剤と陽イオン性界面活性剤との組み合わせ、両性イオン界面活性剤単独のいずれかが好ましく、両性イオン界面活性剤が特に好ましい。そのため、両性イオン界面活性剤の使用下にカーボンナノチューブを分散させた分散液を用いて繊維を処理すると、カーボンナノチューブをそれらの繊維表面に、斑なく付着させることができる。
両性イオン界面活性剤としては上記で具体例として挙げたもののいずれもが使用でき、そのうちでも、スルホベタイン類、特に、3−(ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート、3−(ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホネートなどのジC
1−4アルキルC
8−24アルキルアンモニオC
1−6アルカンスルホネートが好ましい。
界面活性剤の割合は、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して、例えば、0.01〜100質量部、好ましくは0.03〜50質量部、さらに好ましくは0.05〜30質量部(特に0.1〜20質量部)程度である。
【0064】
カーボンナノチューブを含む層には、前記界面活性剤に加えて、さらにハイドレート(水和安定剤)が含まれていてもよい。水和安定剤は、カーボンナノチューブを含む層で被覆された繊維を製造する工程で用いられる分散液中において、界面活性剤の水などの液体媒体(水など)への溶解を促進してその界面活性作用を十分に発揮させるとともに、カーボンナノチューブを繊維表面に固定させるまで分散状態を維持することに寄与する。
水和安定剤の種類は、界面活性剤の種類、液体媒体(分散媒)の種類などによって異なり得るが、液体媒体として水を使用した場合は、例えば、前記非イオン性界面活性剤(界面活性剤として、非イオン性界面活性剤を使用した場合)、親水性化合物(水溶性化合物)などが使用できる。
【0065】
親水性化合物(水溶性化合物)としては、例えば、多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ショ糖など)、ポリアルキレングリコール樹脂(ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリC
2−4アルキレンオキサイドなど)、ポリビニル系樹脂(ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールなど)、水溶性多糖類(カラギーナン、アルギン酸又は塩など)、セルロース系樹脂(メチルセルロースなどのアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのヒドロキシC
2−4アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシC
1−3アルキルセルロース又はその塩など)、水溶性蛋白質(ゼラチンなど)などが例示できる。
これらの水和安定剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの水和安定剤のうち、グリセリンなどの多価アルコールなどが汎用される。
水和安定剤の割合は、前記界面活性剤100質量部に対して、例えば、0.01〜500質量部、好ましくは1〜400質量部、さらに好ましくは10〜300質量部程度である。
【0066】
(バインダー)
カーボンナノチューブを含む層には、前記界面活性剤に加えて、さらにバインダーが含まれていてもよい。バインダーにより、カーボンナノチューブと繊維との接着性を向上させる。
バインダーとしては、慣用の接着性樹脂、例えば、エチレン―酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂などが例示できる。これらの接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0067】
水性ポリエステル系樹脂としては、ジカルボン酸成分(テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸など)とジオール成分(エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのアルカンジオールなど)との反応により得られるポリエステル樹脂において、親水性基が導入されたポリエステル樹脂が使用できる。親水性基の導入方法としては、例えば、ジカルボン酸成分として、スルホン酸塩基やカルボン酸塩基などの親水性基を有するジカルボン酸成分(5−ナトリウムスルホイソフタル酸や、3官能以上の多価カルボン酸など)を用いる方法、ジオール成分として、ポリエチレングリコール、ジヒドロキシカルボン酸を用いる方法などが例示できる。
【0068】
水性アクリル系樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸又はその塩、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸−スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸−酢酸ビニル共重合体、(メタ)アクリル酸−ビニルアルコール共重合体、(メタ)アクリル酸−エチレン共重合体、これらの塩などが例示できる。
【0069】
酢酸ビニル系樹脂は、酢酸ビニル単位を含む重合体又はそのケン化物であり、例えば、ポリ酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などであってもよい。
【0070】
さらに、バインダーとしては、繊維と同系統の接着性樹脂を使用するのが好ましい。すなわち、例えば、繊維として、ポリエステル系繊維を使用した場合には、バインダーとしては水性ポリエステル系樹脂を使用するのが好ましい。
【0071】
バインダーの割合は、カーボンナノチューブを繊維表面に円滑に付着させる点から、カーボンナノチューブ100質量部に対して、例えば、50〜400質量部、好ましくは60〜350質量部、さらに好ましくは100〜300質量部(特に100〜200質量部)程度である。バインダーの割合が小さすぎるとカーボンナノチューブの付着が不十分となる傾向にあり、多すぎると繊維構造体の柔軟性を阻害する傾向にある。
【0072】
なお、本発明では、繊維の表面とカーボンナノチューブとが互いの親和性により付着されているため、バインダーは必ずしも必要ではなく、バインダーを含有しない場合であってもカーボンナノチューブを含む層が繊維の表面に強固に付着している。すなわち、本発明の繊維構造体を構成する繊維はバインダーを実質的に含有しない繊維であってもよい。
特に、繊維がポリエステル繊維で形成されている場合には、ポリエステル繊維とカーボンナノチューブとの親和性が高いため、バインダーを用いなくてもカーボンナノチューブがポリエステル繊維の繊維表面に強固に付着し、バインダーを用いなくても充分な付着強度を発現し、少量のバインダーを用いることでカーボンナノチューブの繊維表面への付着強度が一層高くなる。
【0073】
カーボンナノチューブを含む層は、さらに慣用の添加剤、例えば、表面処理剤(例えば、シランカップリング剤などのカップリング剤など)、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、染料定着剤、光沢付与剤、金属腐食防止剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、分散安定化剤、増粘剤又は粘度調整剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、充填剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0074】
(カーボンナノチューブを含む層で被覆された繊維構造体の製造方法)
カーボンナノチューブを含む層で被覆された繊維構造体は、(A)カーボンナノチューブを含む分散液を用いて、繊維構造体を構成する繊維(織布、不織布、紙等を構成する単繊維、単繊維を集束した糸など)をコーティング処理して、カーボンナノチューブが付着した繊維を作製し、これを用いて目標の繊維構造体を形成するケースと、(B)カーボンナノチューブを含む分散液を用いて繊維構造体を処理し、繊維構造体を構成する繊維の表面にカーボンナノチューブをコーティングするケースの2種類に大別される。
【0075】
(コーティング方法)
繊維又は繊維構造体にカーボンナノチューブを含む層を付着する工程において、分散液中におけるカーボンナノチューブの濃度は、特に制限されないが、目的とする電気抵抗値に応じて、分散液の全質量に対してカーボンナノチューブの含有量が0.1〜30質量%(特に0.1〜10質量%)となる範囲から適宜選択できる。バインダーを使用する場合も、カーボンナノチューブに対して所望の割合となるように、このような範囲から選択できる。
カーボンナノチューブを分散させるための分散媒(液体媒体)としては、例えば、慣用の極性溶媒(水、アルコール類、アミド類、環状エーテル類、ケトン類など)、慣用の疎水性溶媒(脂肪族又は芳香族炭化水素類、脂肪族ケトン類など)、又はこれらの混合溶媒などが使用できる。これらの溶媒のうち、簡便性や操作性の点から、水が好ましく用いられる。
また、処理に用いるカーボンナノチューブの分散液は、水などの液体媒体中にカーボンナノチューブを凝集することなく安定に分散させるために、前記界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤の使用量は、例えば、カーボンナノチューブ100質量部に対して、界面活性剤を1〜100質量部(特に5〜50質量部)程度の範囲から選択できる。
界面活性剤、特に両性イオン界面活性剤を用いたカーボンナノチューブの分散液では、界面活性剤の液体媒体(水など)への溶解を促進してその界面活性作用を十分に発揮させるために、分散液中にハイドレート(水和安定剤)を添加するのが好ましい。
水和安定剤の使用量は、界面活性剤100質量部に対して、10〜500質量部(特に50〜300質量部)程度の範囲から選択できる。
このような分散液の調製方法は、特に制限されず、カーボンナノチューブ間の凝集、バンドル化を生ずることなく、カーボンナノチューブが水などの液体媒体中に微分散状態で安定に分散した分散液を調製できる方法であれば、いずれの方法で調製してもよい。
特に、本発明では、界面活性剤(特に両性イオン界面活性剤)の存在下で、水性媒体のpHを4.0〜8.0、好ましくは4.5〜7.5、さらに好ましくは5.0〜7.0に保持しながら、水性媒体(水)中にカーボンナノチューブを分散処理する調製方法が好ましい。
【0076】
この調製方法における分散処理は、分散装置としてメディアを用いたミル(メディアミル)を用いて行うのが好ましい。メディアミルの具体例としては、ビーズミル、ボールミルなどを挙げることができる。ビーズミルを用いる場合には、直径が0.1〜10mm、好ましくは0.1〜1.5mm(例えば、ジルコニアビーズなど)などが好ましく用いられる。特に、予めボールミルを用いて、カーボンナノチューブ、界面活性剤(及び必要に応じてバインダーなど)を水性媒体中に混合してペースト状物を調製した後、ビーズミルを用いて界面活性剤を含む水性媒体を加えて分散液を調製してもよい。
この調製方法で得られる分散液においては、界面活性剤によってカーボンナノチューブ間のファンデルワールス力による凝集及びバンドル形成を生ずることなく、水性媒体中に微分散状で安定に分散しているので、この分散液を用いて処理を行うと、繊維表面にカーボンナノチューブをより均一に付着させることができる。
【0077】
カーボンナノチューブの分散液による繊維または繊維構造体のコーティング処理方法は、特に制限されず、繊維の繊維表面にカーボンナノチューブを含む層を均一に付着できる方法であればいずれの方法であってもよい。そのような処理方法としては、例えば、繊維または織物又は編物又は不織布などの繊維構造体を、カーボンナノチューブの分散液中に浸漬する方法、タッチ式ローラを用いたサイジング装置、ドクター、パッド、噴霧装置、糸プリント装置や生地プリント装置などの被覆装置を用いて繊維をカーボンナノチューブの分散液で処理する方法などが挙げられる。
分散液を用いた処理における温度は、特に限定されず、例えば、0〜150℃程度の範囲から選択でき、好ましくは5〜100℃、さらに好ましくは10〜50℃程度であり、通常、常温で処理される。
これらの処理方法のうち、均一なカーボンナノチューブを含む層を形成できる点から、カーボンナノチューブの分散液中に浸漬する方法や、プリント方法が好ましい。分散液を用いた付着処理は、1回だけの操作であってもよいし、同じ操作を複数回繰り返してもよい。
乾燥工程では、カーボンナノチューブの分散液で処理を行った繊維から液体媒体を除去し、乾燥することで、繊維表面にカーボンナノチューブを含む層が均一に薄層状態で付着した繊維または繊維構造体を得る。
乾燥温度は、分散液中の液体媒体(分散媒)の種類に応じて選択でき、分散媒として水を用いた場合には、繊維の材質にもよるが、通常、100〜230℃(特に110〜200℃)程度の乾燥温度が採用される。ポリエステル繊維の場合、例えば、120〜230℃(特に150〜200℃)程度であってもよい。
【0078】
本発明の繊維構造体は、カーボンナノチューブを含む層で被覆された繊維から織物又は編物又は不織布などの繊維構造体を製造してもよいが、カーボンナノチューブを含む層で被覆された繊維で構成された織物又は編物又は不織布などを、さらにカーボンナノチューブを含む分散液で処理することにより製造してもよい。製造条件は、前記の繊維構造体の製造方法と同様である。特に、分散液の処理方法としては、分散液中に浸漬する方法(ディップ・ニップ方式)が好ましい。
【0079】
[電磁波吸収体]
前記のようにして繊維構造体からなる基体にカーボンナノチューブが付与された、(1)目付100g/m
2以上で、(2)空隙率50%以上、(3)伝導度(σ)が0.05〜50S/m、かつ(4)比誘電率(ε)が1〜8を有する本発明の電磁波吸収体が得られる。この電磁波吸収体は、ギガヘルツ領域の周波数の電磁波に対し、高い吸収特性を示し、例えば、周波数50〜67GHzの電磁波を平均60%以上吸収し、平均15%以下反射する性能を有する電磁波吸収体とすることができ、また1GHz〜100GHzの電磁波を平均60%以上吸収する吸収率を示す一方、前記電磁波の反射率が平均10%以下であるという特性を有する電磁波吸収体とすることもできる。このような電磁波吸収特性を有するので、各種電子機器の筐体やバッテリ−ケースなどに用いられる電磁波吸収材として有用である。また、この電磁波吸収体は、単体で、あるいは必要に応じて電磁波反射材と組み合わせて使用することにより、高い電磁波遮蔽性能を有する電磁波遮蔽体を得ることができる。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
(電磁波吸収率、電磁波反射率の測定)
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社、E8361C)と、一対のホーナンテナを使用し、自由空間法により測定したSパラメータから、電磁波吸収率と反射率とを求めた。
測定には、三種類のホーンアンテナ(Schwarzbeck社製BBHA9120C、Schwarzbeck社製BBHA9170、Millitech社製SGH−15)を使用し、3−18GHz、15−40GHz、50−67GHzの三種の周波数領域で測定を行った。各領域における吸収率および反射率の平均値は、電磁波周波数に対してプロットされた吸収率の積分値および反射率の積分地をそれぞれ周波数の幅(測定領域における最大周波数と最少周波数の差)で割ることにより得られた。
またマイクロストリップライン(MSL)法により、0.01−10GHzの周波数領域で、電磁波(吸収性能)の測定を行った。プリント基板で作製されたマイクロストリップライン(MSL)上に極薄絶縁フィルムを介してサンプルを密着させ、上記ベクトルネットワークアナライザにより測定したSパラメータから、MSLへの入力電力に対する損失電力の割合として吸収率を計算した。
上記の測定に基づき、周波数1GHz〜100GHzの電磁波に対する吸収率と反射率の平均値、および50GHz〜67GHzの電磁波に対する吸収率と反射率の平均値を求めた。吸収率および反射率の平均値は、電磁波周波数に対してプロットされた吸収率の積分値および反射率の積分値をそれぞれ周波数の幅(測定領域における最大周波数と最小周波数の差)で割ることにより得られた。その際、1〜3GHzの電磁波に対する反射率、40〜50GHzの電磁波に対する反射率と吸収率、67〜100GHzの電磁波に対する反射率と吸収率は、プロットされたグラフから、外挿により推定した。
【0081】
(比誘電率εの測定)
電磁波吸収率の測定に使用した測定系と材料測定ソフトウエア(Agilent社、85071E)により、サンプルの誘電率を求めた。
【0082】
(空隙率の測定)
得られた繊維構造体サンプルの見かけ体積と重量、および構成する材料の比重から、空気の比重を0として、空隙率(%)を[{見かけ体積値−(重量値/比重)}/見かけ体積値]×100として算出した。
【0083】
<実施例1>
(1)カーボンナノチューブの水性分散液の調製
(i)3−(ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート(両性イオン界面活性剤)2.0g、グリセリン(水和安定剤)5mlおよび脱イオン水495mlを混合して、界面活性剤の水溶液(pH6.5)を調製した。
(ii)前記(i)で得られた界面活性剤の水溶液500mlおよびカーボンナノチューブ(バイエル社製、Baytube C150P)(多層;直径13〜16nm、長さ1〜10μm)30.4gを、ボールミル胴体(円筒形、内容積=1800ml、ボールの直径=150mm、ボール量の充填量=3200g)に入れて、手で攪拌してペースト状物とした後、ボールミル胴体を回転架台(アサヒ理化製作所製「AS ONE」)に載せ1時間撹拌してカーボンナノチューブを含有する液状物とした。
(iii)前記(ii)で生成したカーボンナノチューブを含有する液状物の全量をボールミル胴体から取り出して、前記(i)と同様に調製した界面活性剤の水溶液500mlを追加し、さらにバインダー(明成化学(株)製、「メイバインダーNS」、ポリエステル系バインダー)を固形成分換算で30.0g添加し、ビーズミル(WAB社製「ダイノーミル」、筒形状、内容積=2000ml、直径0.6mmのジルコニアビーズを1800g充填)に充填して、回転数300回/分の条件下に60分間撹拌して、両性イオン界面活性剤を含有するカーボンナノチューブの水性分散液[カーボンナノチューブの濃度=2.96w/w%、バインダーの含有量=2.26w/w%]を調製した。なお、ビーズミルによる撹拌操作中、水性分散液のpHは5.3〜6.8に維持されていた。
【0084】
(2)ポリエステル加工糸へのカーボンナノチューブの付着処理
市販のポリエステル加工糸(クラレトレーディング(株)製、「167T48」、167dtex/48フィラメント、酸化チタン0.3重量含有)に対して、前記(1)で得られたカーボンナノチューブの水性分散液を用い、一般的なサイジング糊付け手法でカーボンナノチューブを付着した。次いで、180℃で2分間乾燥し、カーボンナノチューブが付着した245dtex、線抵抗値が1020Ω/cmのカーボンナノチューブを含む層で被覆された繊維を得た。該繊維のカーボンナノチューブの付着量は10.5重量%であった。
【0085】
(3)織布の作成
前記(2)で得られた繊維を経糸および緯糸すべてに配置し、平織組織にて織物を作成し、経糸密度70本/インチ、緯糸密度60本/インチの目付け120g/m
2の生地(繊維構造体)を得た。
【0086】
(4)電磁波吸収率、伝導度σ、比誘電率ε、空隙率
前記(3)で得られた繊維構造体の、1〜100GHzでの電磁波吸収率は平均65.5%、電磁波反射率は平均5.8%、50〜67GHzでの電磁波吸収率は平均76.6%、電磁波反射率は平均4.3%であった。伝導度σは1.2S/m、50〜67GHzでの比誘電率εは4.6であった。また、空隙率は64%であった。
【0087】
<実施例2>
(1)繊維構造体(不織布)への塗工
前記の実施例1の(1)カーボンナノチューブ分散液を用い、ポリエステル長繊維不織布(旭化成(株)製、CC5020)をこれに浸漬し、通常のマングル機にて接圧2.0kgにて絞り、90℃の熱風循環炉にて乾燥しカーボンナノチューブをコーティングした目付22.4g/m
2の不織布を得た。該不織布のカーボンナノチューブの付着量は6.4%であった。これを10枚重ねて縫製し、一体化した目付224g/m
2の生地(繊維構造体)とした。
【0088】
(2)電磁波吸収率、伝導度σ、比誘電率ε、空隙率
前記(1)で得られた繊維構造体の、1〜100GHzでの電磁波吸収率は平均77.9%、電磁波反射率は平均3.5%、50〜67GHzでの電磁波吸収率は平均82.5%、電磁波反射率は平均2.5%であった。伝導度σは1.3、50〜67GHzでの比誘電率εは3.8であった。また、空隙率は72%であった。
【0089】
<実施例3>
(1)繊維構造体(不織布)への塗工
実施例1の(1)カーボンナノチューブ分散液を用い、ポリエステル短繊維不織布(西川ローズ(株)製、ポリエステル溶着タイプ450g/m
2)をこれに浸漬し、通常のマングル機にて接圧2.0kgにて絞り、90℃の熱風循環炉にて乾燥した。これを3度繰り返して、カーボンナノチューブをコーティングした目付498g/m
2の導電性繊維構造体を得た。該繊維構造体のカーボンナノチューブの付着量は重量5.3%であった。
【0090】
(2)電磁波吸収率、伝導度σ、比誘電率ε、空隙率
前記(1)で得られた導電性繊維構造体の、1〜100GHzでの電磁波吸収率は平均80.2%、電磁波反射率は平均4.5%、50〜67GHzでの電磁波吸収率は平均92.8%、電磁波反射率は平均1.5%であった。伝導度σは0.9S/m、50〜67GHzでの比誘電率εは1.1であった。また、空隙率は94%であった。
【0091】
<実施例4>
(1)繊維構造体への塗工
実施例1の(1)カーボンナノチューブ分散液を用い、不織布(クラレクラフレックス(株)製、商品名フレクスター(ボードタイプ)5mm厚、密度0.15g/cc、目付750g/m
2)(ポリエステルを内層、エチレン―ビニルアルコール系共重合体を外層とする芯鞘複合繊維から形成された不織布)をこれに浸漬し、通常のマングル機にて接圧2.0kgにて絞り、90℃の熱風循環炉にて乾燥した。これを3度繰り返して、カーボンナノチューブをコーティングした目付840g/m
2の導電性繊維構造体フレクスターを得た。該繊維構造体のカーボンナノチューブの付着量は6.0重量%であった。
【0092】
(2)電磁波吸収率、伝導度σ、比誘電率ε、空隙率
前記(1)で得られた繊維構造体(導電性フレクスター)の、1〜100GHzでの電磁波吸収率は平均74.2%、電磁波反射率は平均5.5%、50〜67GHzでの電磁波吸収率は平均83.5%、電磁波反射率は平均2.0%であった。伝導度σは1.1S/m、50〜67GHzでの比誘電率εは1.4であった。また、空隙率は89%であった。
【0093】
<実施例5>
(1)カーボンナノチューブの水性分散液の調製
(1)カーボンナノチューブの水性分散液の調製
(i)3−(ジメチルステアリルアンモニオ)プロパンスルホネート(両性イオン界面活性剤)2.0g、グリセリン(水和安定剤)5mlおよび脱イオン水495mlを混合して、界面活性剤の水溶液(pH6.5)を調製した。
(ii)前記(i)で得られた界面活性剤の水溶液500mlおよびカーボンナノチューブ(Nanocyl社製、CN7000)(多層;直径9.5nm、長さ1.5μm)30gを、ボールミル胴体(円筒形、内容積=1800ml、ボールの直径=150mm、ボール量の充填量=3200g)に入れて、手で攪拌してペースト状物とした後、ボールミル胴体を回転架台(アサヒ理化製作所製「AS ONE」)に載せ1時間撹拌してカーボンナノチューブを含有する液状物とした。
(iii)前記(ii)で生成したカーボンナノチューブを含有する液状物の全量をボールミル胴体から取り出して、前記(i)と同様に調製した界面活性剤の水溶液500mlを追加し、さらにバインダー(明成化学(株)製、「メイバインダーNS」、ポリエステル系バインダー)を固形成分換算で30.0g添加し、ビーズミル(WAB社製「ダイノーミル」、筒形状、内容積=2000ml、直径0.6mmのジルコニアビーズを1800g充填)に充填して、回転数300回/分の条件下に60分間撹拌して、両性イオン界面活性剤を含有するカーボンナノチューブの水性分散液[カーボンナノチューブの濃度=2.96w/w%、バインダーの含有量=2.26w/w%]を調製した。なお、ビーズミルによる撹拌操作中、水性分散液のpHは5.3〜6.8に維持されていた。
(2)繊維構造体への塗工
前記の(1)カーボンナノチューブ分散液を用い、ポリエステル長繊維不織布(旭化成(株)製、CC5020)を浸漬し、通常のマングル機にて接圧2.0kgにて絞り、90℃の熱風循環炉にて乾燥しカーボンナノチューブをコーティングした目付23.3g/m2の不織布を得た。該不織布のカーボンナノチューブの付着量は6.4重量%であった。これを10枚重ねて縫製し、一体化した目付233g/m
2の生地(繊維構造体)とした。
(3)電磁波吸収率、伝導度σ、比誘電率ε、空隙率
前記(2)で得られた繊維構造体の、1〜100GHzでの電磁波吸収率は平均83.4%、電磁波反射率は平均3.0%、50〜67GHzでの電磁波吸収率は平均92.5%、電磁波反射率は平均1.5%であった。伝導度σは2.0、50〜70GHzでの比誘電率εは2.3であった。また、空隙率は79%であった。該繊維構造体のカーボンナノチューブの付着量は6.3重量%であった。
【0094】
<比較例1>
(1)繊維構造体への塗工
実施例1の(1)カーボンナノチューブ分散液を用い、繊維構造体[クラレクラフレックス社製、商品名フレクスター(ボードタイプ)5mm厚、密度0.15g/cc]をこの分散液に浸漬して引き上げてそのまま静置し、常温で乾燥し、目付980g/m
2のカーボンナノチューブをコーティングした導電性繊維構造体フレクスターを得た。該繊維構造体のカーボンナノチューブの付着量は11.6重量%であった。
【0095】
(2)電磁波吸収率、伝導度σ、比誘電率ε、空隙率
前記(1)で得られた繊維構造体(導電性フレクスター)の、1〜100GHzでの電磁波吸収率は平均11.0%、電磁波反射率は平均で90%より大きかった。50〜67GHzでの電磁波吸収率は平均20.2%、電磁波反射率は平均で90%より大きかった。導度σは12.5S/m、50〜67GHzでの比誘電率εは6.5であった。また、空隙率は45%であった。
【0096】
<比較例2>
(1)繊維構造体への塗工
実施例1の(1)カーボンナノチューブ分散液をイオン交換水で5倍に希釈し、市販のポリエステル加工糸(クラレトレーディング(株)製、「167T48」、167dtex/48フィラメント、酸化チタン0.3重量含有)から作成したポリエステル生地(経緯ともに90本/インチ、平織り、目付120g/m
2)をこの希釈液に浸漬し、通常のマングル機にて接圧2.0kgにて絞り、90℃の熱風循環炉にて乾燥し、目付122g/m
2の導電性繊維構造体を得た。該繊維構造体のカーボンナノチューブの付着量は0.7重量%であった。
【0097】
(2)電磁波吸収率、伝導度σ、比誘電率ε、空隙率
前記(1)で得られた繊維構造体の1〜100GHzでの電磁波吸収率は平均20.2%、電磁波反射率は平均0.1%、50〜67GHzでの電磁波吸収率は平均33.5%、電磁波反射率は平均0.1%であった。伝導度σは0.012S/m、50〜67GHzでの比誘電率εは4.0であった。また、空隙率は60%であった。
【0098】
<比較例3>
(1)繊維構造体への塗工
実施例(1)の(1)カーボンナノチューブ分散液をイオン交換水で5倍に希釈し、市販のポリエステル加工糸(クラレトレーディング(株)製、「84T36」、84dtex/36フィラメント、酸化チタン0.3重量含有)から作成したポリエステル生地(経緯ともに110本/インチ、平織り、目付73g/m
2)を浸漬し、通常のマングル機にて接圧2.0kgにて絞り、90℃の熱風循環炉にて乾燥し、目付74g/m
2の導電性繊維構造体を得た。該繊維構造体のカーボンナノチューブの付着量は0.7重量%であった。
【0099】
(2)電磁波吸収率、伝導度σ、比誘電率ε、空隙率
前記(1)で得られた繊維構造体の1〜100GHzでの電磁波吸収率は平均15.5%、電磁波反射率は平均0.1%、50〜67GHzでの電磁波吸収率は平均31.0%、電磁波反射率は平均0.1%であった。伝導度σは0.014S/m、50〜67GHzでの比誘電率εは4.1であった。また、空隙率は55%であった。
【0100】
<比較例4>
(1)繊維構造体への塗工
前記の実施例1の(1)カーボンナノチューブ分散液を用い、ポリエステル長繊維不織布(旭化成(株)製、CC5020)を浸漬し、通常のマングル機にて接圧2.0kgにて絞り、90℃の熱風循環炉にて乾燥しカーボンナノチューブをコーティングした目付22.4g/m
2の不織布を得た。
(2)電磁波吸収率、伝導度σ、比誘電率ε、空隙率
前記(1)で得られた繊維構造体の1〜100GHzでの電磁波吸収率は平均15.2%、電磁波反射率は平均3.0%、50〜67GHzでの電磁波吸収率は平均25.2%、電磁波反射率は平均2.5%であった。伝導度σは1.3、50〜67GHzでの比誘電率εは3.8であった。また空隙率は、65%であった。
【0101】
実施例1〜5、比較例1〜4の結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
<実施例6>
(1)繊維構造体の加工
実施例3で得られた目付498g/m
2の導電性繊維構造体を3枚重ねて汎用の接着剤で接着し、繊維構造体を得た。
【0104】
(2)電磁波吸収率、伝導度σ、比誘電率ε、空隙率
前記(1)で得られた導電性繊維構造体の、5.8GHzでの電磁波吸収率は85.2%、電磁波反射率は0.5%であった。また、20.0GHzでの電磁波吸収率は95.0%、電磁波反射率は0.8%であった。また、40.0GHzでの電磁波吸収率は94.3%、電磁波反射率は0.9%であった。伝導度σは0.9S/m、50〜67GHzでの比誘電率εは1.1であった。また、空隙率は95%であった。これらの結果を表2に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
目付、空隙率、伝導度(σ)、比誘電率(ε)が本発明の範囲となる実施例1〜5では、1〜100GHzの周波数の電磁波に対し、カーボンナノチューブを付与された繊維構造体が高い吸収率と低い反射率を示した。特に50〜67GHzでの測定結果より、IEEEの分類でVバンド(40〜75GHz)に属する電磁波に対する、高い吸収性能と低い反射率が確認された。また実施例6に例示するように、CバンドからKaバンドまでの電磁波に対しても、特に高い吸収性能と低い反射率が得られることが確認された。これに対し、空隙率が低く伝導度の高い比較例1では、反射率が高くなり、電磁波吸収率は不十分なものであった。伝導度の低い比較例2、伝導度および目付の低い比較例3、目付の特に低い比較例4においても、電磁波吸収率は不十分なものであった。