【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、有機イリジウム化合物からなるシクロメタル化イリジウム錯体の原料と、イリジウム−炭素結合ならびにイリジウム−窒素結合を形成しうる芳香族複素環2座配位子とを反応させて、シクロメタル化イリジウム錯体を製造する方法において、前記原料として、下記一般式(1)で表される部分構造を含む有機イリジウム化合物を用いることを特徴とするシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法である。
【化3】
(一般式(1)中、Irはイリジウム原子を表し、Oは酸素原子を表す。)
【0012】
本発明者等は、シクロメタル化イリジウム錯体の原料となる有機イリジウム化合物について、好適に用いることが可能なものについて鋭意検討を積み重ねてきた。その結果、イリジウムにシュウ酸が配位する部分構造(化3)を含むイリジウム化合物を用いると、シクロメタル化イリジウム錯体を収率良く製造できることを明らかにし本発明に想到した。
【0013】
そして、本発明のシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法においては、イリジウム原料に対し10倍モル以上もの過剰な芳香族複素環2座配位子を使用することなくシクロメタル化イリジウム錯体を収率良く得ることが可能である。よって、高価な芳香族複素環2座配位子の使用量を低減して、低コストでシクロメタル化イリジウム錯体を製造することができる。
【0014】
更に、本発明のシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法によれば、望ましくない副生成物であるハロゲン架橋イリジウムダイマーの生成を回避することができる。このハロゲン架橋イリジウムダイマーの生成回避の効果は、原料である化3の部分構造を含む有機イリジウム化合物が、ハロゲンを配位子として含まないものである場合は勿論、予想外なことに、ハロゲンを配位子として含むものであっても発揮される。
【0015】
以下、本発明に係るシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法について詳細に説明する。以下の説明においては、本発明を構成する(I)イリジウム原料、(II)芳香族複素環2座配位子、(III)好適な反応条件について説明する。
【0016】
(I)イリジウム原料について
上記の通り、本発明で適用するイリジウム原料は、一般式(1)で表される部分構造を含む有機イリジウム化合物である。
【0017】
そして、一般式(1)で表される部分構造を含む有機イリジウム化合物について、好ましい有機イリジウム化合物としては、下記の一般式(2)で表される有機イリジウム化合物が挙げられる。
【化4】
(一般式(2)中、Irはイリジウム原子を表し、Oは酸素原子を表す。Lは単座又は2座配位子を表す。Yはカウンターカチオンを表す。Z=0〜3を表す。m=1〜3を表す。n=0〜4を表す。)
【0018】
一般式(2)中、Lは単座又は2座配位子を表す。このような配位子としては、芳香族複素環配位子、ハロゲン原子、アルコール配位子、H
2O配位子、ニトリル配位子、イソニトリル配位子、シアノ配位子、イソシアネート配位子、CO配位子、又は、カルボン酸配位子が好ましく、芳香族複素環配位子、ハロゲン原子、アルコール配位子、又は、水配位子がより好ましく、芳香族複素環配位子、又は、ハロゲン原子が特に好ましく、ハロゲン原子がより特に好ましい。
【0019】
一般式(2)中、Zは0〜3を表し、2又は3が好ましく、3がより好ましい。
【0020】
一般式(2)中、mは1〜3を表し、2又は3が好ましい。また、nは0〜4を表し、0又は2が好ましい。mとnの好ましい組み合わせとしては、m=3のとき、n=0が好ましい。m=2のとき、n=1又は2が好ましく、n=2がより好ましい。m=1のとき、n=2又は4が好ましく、n=2がより好ましい。
【0021】
一般式(2)中、Yはカウンターカチオンを表す。カウンターカチオンは、一般式(2)で表されるイリジウム化合物全体の電荷を0にして、塩を形成する役割を果たすものであれば何でも良い。その中でも1価のカチオンが好ましい。具体的には、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、4級アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、又は、プロトン等が挙げられ、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、4級アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、又は、スルホニウムイオンなどが挙げられる。この中でもアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、又は、プロトンが好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は、プロトンがより好ましい。
【0022】
そして、上記の一般式(2)で表される有機イリジウム化合物において、好ましい有機イリジウム化合物としては、下記の一般式(3)で表される有機イリジウム化合物が挙げられる。
【化5】
(一般式(3)中、Irはイリジウム原子を表し、Oは酸素原子を表す。Xは単座配位子を表す。Yはカウンターカチオンを表す。Q=2又は3を表す。)
【0023】
一般式(3)中、Xは単座配位子を表す。単座配位子の中でも、アニオン性の単座配位子が好ましい。このような配位子としては、芳香族複素環配位子、ハロゲン原子、アルコール配位子、H
2O配位子、ニトリル配位子、イソニトリル配位子、シアノ配位子、イソシアネート配位子、又は、CO配位子が好ましく、ハロゲン原子がより好ましく、塩素原子又は臭素原子が特に好ましい。
【0024】
一般式(3)中、Qは2又は3を表し、3が好ましい。
【0025】
尚、一般式(3)中、Yはカウンターカチオンを表し、その技術的意義及び好ましい範囲は、一般式(2)で表されるイリジウム化合物におけるカウンターカチオンと同様である。
【0026】
上記の一般式(2)で表される有機イリジウム化合物において、好ましい有機イリジウム化合物のもう一つの態様としては、下記の一般式(4)で表される有機イリジウム化合物が挙げられる。
【化6】
(一般式(4)中、Irはイリジウム原子を表し、Oは酸素原子を表す。Yはカウンターカチオンを表す。R=2又は3を表す。)
【0027】
一般式(4)中、Rは2又は3を表し、3が好ましい。
【0028】
尚、一般式(4)中、Yはカウンターカチオンを表し、その技術的意義及び好ましい範囲は、一般式(2)、(3)で表されるイリジウム化合物におけるカウンターカチオンと同様である。
【0029】
以上説明した本発明で適用するイリジウム原料を構成する一般式(1)〜(4)のいずれかで表される有機イリジウム化合物において、イリジウムの価数は3価又は4価が好ましく、3価がより好ましい。
【0030】
ここで、一般式(1)〜(4)のいずれかで表されるイリジウム化合物の例を化7と化8に示す。但し、本発明における原料化合物は、これらのイリジウム化合物に限定されない。
【0031】
【化7】
【0032】
【化8】
【0033】
(II)芳香族複素環2座配位子について
本発明に係るシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法は、上記で説明した一般式(1)で表される部分構造を含む有機イリジウム化合物に、芳香族複素環2座配位子を反応させる。
【0034】
本発明に係るシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法における芳香族複素環2座配位子としては、一般式(5)で表されるものが好ましい。
【化9】
【0035】
一般式(5)において、式中のNは窒素原子を表し、Cは炭素原子を表し、Hは水素原子を表す。
【0036】
CyAは窒素原子を含む5員環又は6員環の環状基を表し、当該窒素原子を介してイリジウムと結合している。CyAは、5員環又は6員環の含窒素芳香族複素環であることが好ましい。
【0037】
CyBは炭素原子を含む5員環又は6員環の環状基を表し、当該炭素原子を介してイリジウムと結合している。CyBは、5員環又は6員環の芳香族炭素環又は芳香族複素環であることが好ましく、5員環又は6員環の芳香族炭素環又は含窒素芳香族複素環であることがより好ましく、5員環又は6員環の芳香族炭素環であることが特に好ましい。
【0038】
CyAとCyBとが結合し新たに環構造を形成しても良い。この場合、CyAとCyBとが結合し、新たな飽和環もしくは不飽和環を形成することが好ましく、不飽和環を形成することがより好ましい。
【0039】
窒素原子を含む5員環又は6員環の環状基としては、例えば、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、シンノリン環、フタラジン環、キナゾリン環、ナフチリジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環、又は、チアジアゾール環が挙げられる。この中でも好ましくは、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、キノリン環、イソキノリン環、イミダゾール環、ピラゾール環、又は、トリアゾール環、であり、より好ましくは、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、又は、イミダゾール環であり、特に好ましくは、ピリジン環、イソキノリン環、又は、イミダゾール環である。
【0040】
炭素原子を含む5員環又は6員環の環状基としては、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、カルバゾール環、フルオレン環、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、シンノリン環、フタラジン環、キナゾリン環、ナフチリジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環、又は、チアジアゾール環が挙げられる。この中でも好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、又は、ピリミジン環であり、より好ましくは、ベンゼン環、ピリジン環、又は、ピリミジン環であり、特に好ましくは、ベンゼン環である。
【0041】
CyAとCyBとが結合することで生成した環は、CyAとCyBとが結合することでベンゾキノキサリン環、ベンゾキノリン環、ジベンゾキノキサリン環、ジベンゾキノリン環、フェナントリジン環を形成することが好ましく、ベンゾキノリン環、ジベンゾキノキサリン環、フェナントリジン環を形成することがより好ましい。ベンゾキノリン環としてはベンゾ[h]キノリン環が好ましい。ジベンゾキノキサリン環としては、ジベンゾ[f,h]キノキサリン環が好ましい。フェナントリジン環としては、イミダゾ[1,2−f]フェナントリジン環が好ましい。
【0042】
CyA、CyB、及び、CyAとCyBとが結合することで生成した環は、置換基がついても良く、隣り合った置換基が結合し環構造を形成しても良く、更に置換されても良い。
【0043】
CyA、CyB、及び、CyAとCyBとが結合することで生成した環に結合する置換基としては、例えば、以下のものがある。
【0044】
・アルキル基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上10以下であり、例えばメチル、エチル、Iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル等が挙げられる。)
・アルケニル基(好ましくは炭素数2以上30以下、より好ましくは炭素数2以上20以下、特に好ましくは炭素数2以上10以下であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニル等が挙げられる。)
・アルキニル基(好ましくは炭素数2以上30以下、より好ましくは炭素数2以上20以下、特に好ましくは炭素数2以上10以下であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニル等が挙げられる。)
・アリール基(好ましくは炭素数6以上30以下、より好ましくは炭素数6以上20以下、特に好ましくは炭素数6以上12以下であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、アントラニル等が挙げられる。)
・アミノ基(好ましくは炭素数0以上30以下、より好ましくは炭素数0以上20以下、特に好ましくは炭素数0以上10以下であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノ等が挙げられる。)
・アルコキシ基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上10以下であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシ等が挙げられる。)
・アリールオキシ基(好ましくは炭素数6以上30以下、より好ましくは炭素数6以上20以下、特に好ましくは炭素数6以上12以下であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシ等が挙げられる。)
・複素環オキシ基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシ等が挙げられる。)
・アシル基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイル等が挙げられる。)
・アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2以上30以下、より好ましくは炭素数2以上20以下、特に好ましくは炭素数2以上12以下であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル等が挙げられる。)
・アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7以上30以下、より好ましくは炭素数7以上20以下、特に好ましくは炭素数7以上12以下であり、例えばフェニルオキシカルボニル等が挙げられる。)
・アシルオキシ基(好ましくは炭素数2以上30以下、より好ましくは炭素数2以上20以下、特に好ましくは炭素数2以上10以下であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシ等が挙げられる。)
・アシルアミノ基(好ましくは炭素数2以上30以下、より好ましくは炭素数2以上20以下、特に好ましくは炭素数2以上10以下であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等が挙げられる。)
・アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2以上30以下、より好ましくは炭素数2以上20以下、特に好ましくは炭素数2以上12以下であり、例えばメトキシカルボニルアミノ等が挙げられる。)
・アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7以上30以下、より好ましくは炭素数7以上20以下、特に好ましくは炭素数7以上12以下であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ等が挙げられる。)
・スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノ等が挙げられる。)
・スルファモイル基(好ましくは炭素数0以上30以下、より好ましくは炭素数0以上20以下、特に好ましくは炭素数0以上12以下であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイル等が挙げられる。)
・カルバモイル基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイル等が挙げられる。)
・アルキルチオ基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばメチルチオ、エチルチオ等が挙げられる。)
・アリールチオ基(好ましくは炭素数6以上30以下、より好ましくは炭素数6以上20以下、特に好ましくは炭素数6以上12以下であり、例えばフェニルチオ等が挙げられる。)
・複素環チオ基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオ等が挙げられる。)
・スルホニル基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばメシル、トシル等が挙げられる。)
・スルフィニル基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニル等が挙げられる。)
・ウレイド基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイド等が挙げられる。)
・リン酸アミド基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミド等が挙げられる。)
・ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、複素環基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上12以下であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的にはイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、チエニル、ピペリジル、モルホリノ、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、カルバゾリル基、アゼピニル基等が挙げられる。)
・シリル基(好ましくは炭素数3以上40以下、より好ましくは炭素数3以上30以下、特に好ましくは炭素数3以上24であり、例えばトリメチルシリル、トリフェニルシリル等が挙げられる。)
・シリルオキシ基(好ましくは炭素数3以上40以下、より好ましくは炭素数3以上30以下、特に好ましくは炭素数3以上24であり、例えばトリメチルシリルオキシ、トリフェニルシリルオキシ等が挙げられる。)
【0045】
以上の置換基の中で、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、複素環基、又は、シリル基が好ましく、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、シアノ基、又は、複素環基がより好ましく、アルキル基、又は、アリール基が特に好ましい。これらの置換基として望ましい範囲は前記の通りであり、上記置換基で更に置換されていてもよい。また隣り合った置換基は互いに結合し環構造を形成して良い。
【0046】
アリール基や複素環基の望ましい形態として、デンドロン(原子又は環を分岐点とする規則的な樹枝状分岐構造を有する基)であることも好ましい。デンドロンの例としては、国際公開第02/067343号、特開2003−231692号公報、国際公開第2003/079736号、国際公開第2006/097717号、国際公開第2016/006523号等の文献に記載の構造が挙げられる。
【0047】
本発明で用いられる一般式(5)で表される芳香族複素環2座配位子の具体的な好ましい構造としては、例えば、化10に示す一般式(7)〜(18)で表されるものが挙げられる。これらの中でも、一般式(7)〜(10)の構造を有するものが好ましく、一般式(7)、(9)、(10)の構造を有するものがより好ましく、一般式(10)の構造を有するものが特に好ましい。
【0048】
【化10】
(式(7)〜(18)中、R
13〜R
112は、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。隣り合った置換基は結合し、更に環構造を形成しても良い。R
13〜R
112の置換基は、CyA及びCyBに記載の置換基と同義であり、望ましい範囲も同じである。)
【0049】
そして、本発明では、上述の一般式(1)で表される構造を含む有機イリジウム化合物と、上述の芳香族複素環2座配位子とを反応させてシクロメタル化イリジウム錯体を製造する。このシクロメタル化イリジウム錯体として好ましい構造は一般式(6)で表される。
【0050】
【化11】
(一般式(6)中、Irはイリジウム原子を表し、Nは窒素原子を表し、Cは炭素原子を表し、CyAは窒素原子を含む5員環又は6員環の環状基を表し、当該窒素原子を介してイリジウムと結合しており、CyBは炭素原子を含む5員環又は6員環の環状基を表し、当該炭素原子を介してイリジウムと結合している。CyAとCyBとが結合し、更に環構造を形成しても良い。)
【0051】
尚、一般式(6)における、N、C、CyA、CyBの定義は、一般式(5)と同義であり、それらの内容及び結合し得る置換基の範囲も同様となる。
【0052】
(III)好適な反応条件について
本発明に係るシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法において、好ましい反応条件について説明する。
【0053】
本発明に係るシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法では、溶媒を使用することが好ましい。溶媒として、例えば、アルコール類、飽和脂肪族炭化水素、エステル類、エーテル類、ニトリル類、非プロトン性極性溶媒、ケトン類、アミド類、芳香族炭化水素、含窒素芳香族化合物、イオン性液体、水が好ましい。この中でも、アルコール類、飽和脂肪族炭化水素、エステル類、エーテル類、非プロトン性極性溶媒、又は、アミド類がより好ましく、アルコール類、又は、非プロトン性極性溶媒(DMF、DMSOなど)が特に好ましく、アルコール類(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、更に好ましくは炭素数1以上10以下)がより特に好ましく、アルコール類の中でもジオール(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、更に好ましくは炭素数1以上10以下)が最も好ましい。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオールが好ましい。
【0054】
上記溶媒は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上の溶媒を組み合わせて用いても良い。
【0055】
本発明に係るシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法では、一般式(1)で表されるイリジウム化合物の反応系内の濃度は特に制限されるものではないが、0.001モル/L以上10.0モル/L以下が好ましく、0.001モル/L以上1.0モル/L以下がより好ましく、0.01モル/L以上1.0モル/L以下が更に好ましく、0.05モル/L以上0.5モル/L以下が特に好ましい。
【0056】
また、本発明に係る方法において、芳香族複素環2座配位子の使用量は、一般式(1)で表される部分構造を含む有機イリジウム化合物に対し、3倍モル以上10倍モル未満とするのが好ましく、3倍モル以上8倍モル未満とするのがより好ましく、3倍モル以上6倍以下とするのが特に好ましい。
【0057】
このように本発明においては、シクロメタル化イリジウム錯体を製造するために、原料となる有機イリジウム化合物に対し、10倍モル以上もの多量の芳香族複素環2座配位子を使用する必要はない。よって、高価な芳香族複素環2座配位子の使用量を低減でき、シクロメタル化イリジウム錯体の低コスト化を図ることができる。
【0058】
また、本発明におけるシクロメタル化イリジウム錯体の合成反応では、反応促進のため、反応系内に酸性物質を加えて合成を行っても良い。酸性物質添加により、有機イリジウム化合物のシュウ酸配位子の脱離を促進する効果が見られるケースがある。 但し、酸性物質添加の添加は必須ではない。
【0059】
酸性物質を添加する場合、反応系内でプロトン源として作用するもの、又はルイス酸、固体酸等のような電子対を受容できるものが適用できる。特に、酢酸、シュウ酸、吉草酸、酪酸、酒石酸などの有機酸、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸等のブレンステッド酸が好ましい。これらは、単独又は2種以上の混合物として使用できる。また、これら酸性物質は、沸点が150℃以上であることが好ましい。酸性物質の沸点が反応温度より低いと、酸性物質が還流してしまい、反応系内の温度が反応を進行させるのに十分な温度まで上昇しにくいためである。
【0060】
酸性物質を添加する場合、酸性物質とイリジウム原料とのモル比を、イリジウム原料1モルに対し酸性物質を0.5モル以上とするのが好ましい。イリジウム原料1モルに対し酸性物質が0.5モルより少ないと、十分な反応促進効果が得られず、短時間で反応を終結できないため好適でない。イリジウム原料1モルに対し酸性物質が0.5モル以上であれば、特に上限はないが、必要以上に酸性物質の添加量が多いと経済的に非効率である。このモル比は、0.5:1〜20:1がより好ましく、1:1〜10:1が更に好ましい。
【0061】
本発明に係るシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法では、イリジウム化合物と芳香族複素環2座配位子から構成される反応系を加熱することが好ましい。このときの反応温度は、50℃以上300℃未満とする。反応温度については、50℃以上250℃未満が好ましく、100℃以上250℃未満がより好ましく、140℃以上220℃未満が更に好ましく、140℃以上200℃未満が特に好ましい。尚、このときの加熱手段は特に限定されない。具体的には、オイルバス、サンドバス、マントルヒーター、ブロックヒーター、熱循環式ジャケットによる外部加熱、更にはマイクロ波照射による加熱等を利用できる。
【0062】
本発明に係るシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法では、反応時間は特に限定されない。反応時間は、0.5時間以上72時間未満が好ましく、1時間以上48時間未満がより好ましく、1時間以上24時間未満が更に好ましい。
【0063】
本発明に係るシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法では、不活性ガス(窒素、アルゴン等)雰囲気下で行うことが好ましい。また、常圧(大気圧下)で行うことが好ましい。
【0064】
そして、本発明の方法で製造されたシクロメタル化イリジウム錯体については、一般的な後処理方法で処理した後、必要があれば精製し、又は、精製せずに高純度品として用いることができる。後処理の方法としては、例えば、抽出、冷却、水や有機溶媒を添加することによる晶析、反応混合物からの溶媒を留去する操作等を、単独又は組み合わせて行うことができる。精製の方法としては、再結晶、蒸留、昇華又はカラムクロマトグラフィー等を、単独又は組み合わせて行うことができる。
【0065】
以上説明した本発明に係る方法で製造されたシクロメタル化イリジウム錯体については、有機EL素子等の燐光材料として好適に用いることができる。