【解決手段】本発明は、イネ科植物からアルコールを用いて抽出された、腸内フローラ調整能を有するイネ科植物抽出物であり、好ましくはアルキルレゾルシノールを含有する。前記イネ科植物は小麦又はライ麦が好ましい。前記腸内フローラ調整能は、バクトロイデス属及び/又はエンテロコッカス属の細菌数の、腸内の総菌数に占める割合を調整する作用であり得る。また本発明は、前記本発明のイネ科植物抽出物を含有する医薬品又は飲食品を提供する。
前記腸内フローラ調整能は、バクトロイデス属及び/又はエンテロコッカス属の細菌数の、腸内の総菌数に占める割合を調整する作用である請求項1〜3のいずれか一項に記載のイネ科植物抽出物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
腸内フローラ調整能を有する本発明のイネ科植物抽出物は、イネ科植物のアルコール抽出物である。抽出源であるイネ科植物としては、特に制限されないが、例えば、小麦、ライ麦、ライ小麦、大麦、オーツ麦、はと麦、トウモロコシ、ヒエ、アワ、キビ等の穀類が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの穀類の中でも特に小麦及びライ麦が好ましい。小麦の種類は特に制限されない。また、抽出源であるイネ科植物は、通常、その頴果を用い、抽出源であるイネ科植物が小麦の場合は、小麦粒を用いる。本発明では、イネ科植物の頴果又はその乾燥物をその粒の形状を維持したまま抽出源として用いても良く、あるいは、頴果又はその乾燥物を切断、粉砕等して得られる細片、粉砕物(粉末)を抽出源として用いても良い。
【0016】
抽出源であるイネ科植物は、頴果の外皮(果皮、種皮)を含んでいることが好ましい。本発明で抽出源として好ましく用いられるものとして、小麦全粒粉、ライ麦全粒粉、小麦ふすま、ライ麦外皮が挙げられ、特に、入手の容易さや価格等の点から小麦ふすまが好ましい。
【0017】
イネ科植物の抽出に用いるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等の1価の低級アルコール(好ましくは炭素原子数1〜4のもの)、及び1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の室温(25℃)で液体であるアルコールが挙げられる。ここでいうアルコールには、アルコールに加えてさらに水、純水、蒸留水、水道水、酸性水、アルカリ水、中性水等の水性成分を含む、含水アルコールが包含される。含水アルコール中のアルコール含有量は、通常70体積%以上、好ましくは80体積%以上、より好ましくは90体積%以上である。これらのアルコールの中でも特に、操作性や環境性の点から、エタノール(含水エタノール)が好ましい。
【0018】
イネ科植物のアルコールによる抽出方法は特に制限されないが、例えば、小麦粒又はその細片若しくは粉砕物をアルコール中に浸漬、攪拌又は還流する方法の他、超臨界流体抽出法等が挙げられる。例えば、小麦ふすまをエタノール(含水エタノール)中に浸漬、攪拌又は還流する方法の場合、抽出温度(エタノールの液温)は好ましくは2〜80℃、抽出時間は0.5〜72時間、エタノール使用量は小麦ふすま100質量部に対し好ましくは50〜2000質量部である。
【0019】
本発明のイネ科植物抽出物は、好ましくはアルキルレゾルシノールを有効成分として含有する。本発明者らの知見によれば、本発明のイネ科植物抽出物が有する腸内フローラ調整能は、下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの作用によるところが大きい。本発明のイネ科植物抽出物は、下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの1種又は2種以上を有効成分として含有することが好ましい。本発明のイネ科植物抽出物における下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの含有量は、腸内フローラ調整効果をより確実に奏させるようにする観点から、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの含有量は100質量%、即ち、本発明のイネ科植物抽出物は下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールのみから構成されていても良い。
【0021】
前記一般式(I)におけるR
1に関し、炭素原子数15〜25の飽和アルキル基としては、代表例として、n−ペンタデシル、n−ヘプタデシル、n−ノナデシル、n−ヘンイコシル、n−トリコシル、n−ペンタコシル、n−ヘプタコシル等の直鎖状のものが挙げられ、これらの他に、分岐状又は環状のものでも良い。これらの中でも、炭素原子数15〜23の飽和アルキル基が好ましい。
【0022】
また、前記一般式(I)におけるR
1に関し、炭素原子数15〜25の不飽和アルキル基としては、前記の炭素原子数15〜25の飽和アルキル基に対応するものが挙げられる。不飽和アルキル基に含まれる不飽和結合の数及び位置に特に制限はない。
【0023】
また、前記一般式(I)におけるR
2は水素原子であることが好ましく、また、R
1はR
2に対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0024】
本発明のイネ科植物抽出物に含まれ得るアルキルレゾルシノールの具体例としては、以下のものが挙げられる。
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)
【0025】
本発明のイネ科植物抽出物の好ましい一例として、下記6種類のアルキルレゾルシノールを含有するものが挙げられる。
1)前記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数15の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR15ともいう)。
2)前記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数17の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR17ともいう)。
3)前記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数19の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR19ともいう)。
4)前記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数21の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR21ともいう)。
5)前記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数23の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR23ともいう)。
6)前記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数25の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR25ともいう)。
【0026】
AR15として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数15の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)が挙げられる。
AR17として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数17の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)が挙げられる。
AR19として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数19の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)が挙げられる。
AR21として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数21の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)が挙げられる。
AR23として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数23の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)が挙げられる。
AR25として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数25飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)が挙げられる。
【0027】
本発明のイネ科植物抽出物において、AR15、AR17、AR19、AR21、AR23及びAR25の含有量は、腸内フローラ調整能の一層の向上の観点から、それぞれ、下記範囲内にあることが好ましい。
AR15の含有量は、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは0.1〜10.0質量%、更に好ましくは0.1〜5.0質量%、特に好ましくは0.5〜1.5質量%である。
AR17の含有量は、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは1.0〜20.0質量%、更に好ましくは5.0〜15.0質量%、特に好ましくは8.0〜12.0質量%である。
AR19の含有量は、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは25.0〜40.0質量%、更に好ましくは27.5〜37.5質量%、特に好ましくは30.0〜35.0質量%である。
AR21の含有量は、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは40.0〜55.0質量%、更に好ましくは42.5〜52.5質量%、特に好ましくは45.0〜50.0質量%である。
AR23の含有量は、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは1.0〜15.0質量%、更に好ましくは2.5〜12.5質量%、特に好ましくは5.0〜10.0質量%である。
AR25の含有量は、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは0〜5.0質量%、更に好ましくは0〜2.0質量%、特に好ましくは0〜1.5質量%である。
【0028】
本発明のイネ科植物抽出物は、AR15、AR17、AR19、AR21、AR23及びAR25以外の他のアルキルレゾルシノールの1種以上を含有していても良い。この他のアルキルレゾルシノールとしては、例えば、前記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数27の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR27ともいう)が挙げられる。AR27として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数27の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタコシルベンゼン(C27:0)が挙げられる。
【0029】
本発明のイネ科植物抽出物は、腸内フローラ調整能を有するアルキルレゾルシノールの含有率が高いことが好ましく、斯かる観点から、イネ科植物からアルコールを用いて抽出された抽出物は、分配クロマトグラフィー等によって精製する、あるいは常法により濃縮・蒸発乾固することが好ましい。イネ科植物のアルコール抽出物の精製に用いる分配クロマトグラフィーとしては、例えば、移動相として非水系溶媒を用いる順相クロマトグラフィー法が挙げられ、オープンカラム法、中圧カラム法、高速液体クロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択することができる。
【0030】
イネ科植物のアルコール抽出物の分配クロマトグラフィーにおける移動相としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等の1価の低級アルコール(好ましくは炭素原子数1〜4のもの)、及び1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の室温(25℃)で液体であるアルコール;ジエチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン;ヘキサン;塩化メチレン;アセトニトリル;並びにクロロホルム等が挙げられ、これら溶媒の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。複数の溶媒を組み合わせて移動相とする場合、分配クロマトグラフィーの実施中(イネ科植物のアルコール抽出物の精製中)において、複数の溶媒の混合比を一定にするイソクラクティックモードでも良く、あるいは該混合比を変化させるグラジエントモードでも良い。また、分配クロマトグラフィーにおける担体としては、目的とする有効成分を担持−放出できる担体であればいずれも用いることができるが、一般的にはシリカゲル、ポリアクリルアミドゲル、デキストランゲル等を挙げることができる。イネ科植物のアルコール抽出物の分配クロマトグラフィーにおける検出波長は、170〜320nmであれば良く、好ましくは190〜280nmである。
【0031】
腸内フローラ調整能を有する本発明のイネ科植物抽出物は、特に、生体への悪影響が報告されている悪玉菌であるバクトロイデス属又はエンテロコッカス属の細菌に対して作用し、両細菌の一方又は両方の細菌数の、腸内の総菌数に占める割合を調整する作用を有する。より具体的には、本発明のイネ科植物抽出物は、i)高脂肪食の摂取などに起因して減少したバクテロイデス属の細菌の、腸内の総菌数に占める割合を増加させ、及び/又は、ii)高脂肪食の摂取などに起因して増加したエンテロコッカス属の細菌の、腸内の総菌数に占める割合を減少させ、結果として、高脂肪食の摂取などに起因する腸内フローラ構成の乱れを抑制し、健常時の腸内フローラ構成を維持し得る。
【0032】
本発明のイネ科植物抽出物は、蛋白質を含んでいないか又は蛋白質を含んでいてもその含有量が比較的少ない、低蛋白なものである。特に、抽出源であるイネ科植物が小麦ふすまである場合、それから抽出されたイネ科植物抽出物は、蛋白質の含有量が非常に少ない低蛋白性である。本発明のイネ科植物抽出物における蛋白質の含有量は、抽出源であるイネ科植物の種類等にもよるが、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。本発明のイネ科植物抽出物は低蛋白であるため、蛋白質の摂取量を制限する必要がある腎臓疾患患者等にも好適である。
【0033】
本発明のイネ科植物抽出物は、その腸内フローラ調整能を活かし、ヒト又は動物用の医薬品、飲食品、飼料等として、あるいはそれらを製造するために使用することができる。本発明のイネ科植物抽出物の形態は特に制限されず、例えば、イネ科植物のアルコール抽出物(前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノール)を含む液状物(液体又は半液体)、該液状物中の液媒体(アルコール又は含水アルコール)を蒸発乾固して得られる乾固物又はその粉末、該乾固物又はその粉末をエタノール等のアルコールに溶解してなるアルコール溶液等が挙げられる。本発明はまた、前記本発明のイネ科植物抽出物を含有する医薬品、飲食品及び飼料を提供する。
【0034】
本発明の医薬品、即ち腸内フローラ調整剤は、前記本発明のイネ科植物抽出物を有効成分として含有する腸内フローラ調整剤(整腸剤)であり得る。また、本発明の医薬品は、経口用の任意の剤型で投与され得る。経口投与のための剤型としては、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のような固形製剤、あるいはエリキシロール、シロップ及び懸濁液のような液体製剤が挙げられる。
【0035】
本発明の飲食品又は飼料は、前記本発明のイネ科植物抽出物を有効成分として含有し、且つ腸内フローラ調整効果を企図して、その旨を表示した機能性飲食品、病者用飲食品、特定保健用飲食品、家畜用飼料、ペットフード等であり得る。本発明の飲食品又は飼料の形態は、特に限定されないが、例えば、飲料の形態としては、茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料、果汁飲料、炭酸飲料、アルコール飲料、清涼飲料等が挙げられ、食品又は飼料の形態としては、固形、半固形又は液状であり得、錠剤形態、丸剤形態、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等が挙げられる。具体的な食品の形態としては、パン類、麺類、ゼリー状食品や各種スナック類、焼き菓子、ケーキ類、チョコレート、ガム、飴、タブレット、カプセル、スープ類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、サプリメント、その他加工食品、調味料及びそれらの材料等が挙げられる。
【0036】
本発明の医薬品、飲食品又は飼料は、必要に応じて、前記本発明のイネ科植物抽出物(前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノール)以外の他の成分、例えば、他の有効成分及び/又は通常利用される添加物若しくは担体を含有していても良い。
医薬品の場合、前記他の成分としては、例えば、他の薬効成分、美容成分、栄養成分、ならびに賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、水溶性高分子、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、緩衝剤、安定化剤、酸化防止剤、増粘剤、紫外線吸収剤、活性増強剤、着色剤、甘味料、矯味剤、矯臭剤、酸味料等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
飲食品又は飼料の場合、前記他の成分としては、例えば、他の飲食品材料、栄養成分、美容成分、他の機能性素材ならびに溶剤、油、軟化剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、甘味料、香料等の添加物等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
本発明の医薬品、飲食品又は飼料における前記本発明のイネ科植物抽出物(前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノール)の摂取量は、それらの剤型や形態により異なるが、医薬品、飲食品および飼料のいずれの場合も一日あたり0.01g〜10gとなるように摂取することが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び試験例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び試験例により制限されるものではない。
【0039】
〔実施例〕
下記<抽出精製法>により、前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを含有するイネ科植物抽出物(小麦抽出物)を得た。このイネ科植物抽出物の組成は次の通り。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)1.2質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)10.9質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)33.9質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)46.4質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)7.5質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)0.1質量%。
【0040】
<抽出精製法>
小麦ふすまに質量で5倍量のエタノールを添加して、600rpm、室温の条件で、16時間撹拌抽出した。抽出物を濾過して不要物を除きエタノール抽出液を回収した後、エタノールを留去し、小麦ふすまのエタノール抽出物を得た。次いで、このエタノール抽出物を中圧クロマトグラフィーによって精製した。中圧クロマトグラフィー条件は下記の通りである。溶出開始後31〜36分に出現するピーク成分を回収して、溶媒留去し、前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを含有するイネ科植物抽出物を得た。
(中圧クロマトグラフィーの条件)
・カラム:シリカゲル(インジェクトカラム3L、ハイフラッシュカラム5L、60Å、40μm、山善株式会社製)
・移動相:ヘキサン/酢酸エチル混合溶媒(体積比)=90/10にて9分、80/20にて15分、60/40にて16分
・検出波長:254nm
【0041】
尚、前記<抽出精製法>における小麦ふすまのエタノール抽出物の精製は、中圧クロマトグラフィーに代えて、HPLCによって行うこともできる。その場合、エタノール抽出物にメタノールを添加して該エタノール抽出物の濃度が200ug/mlのメタノール添加液を調製し、該メタノール添加液を、孔径0.45μmのフィルターを通過させ、その通過分を、HPLCの試料とする。HPLCの条件は下記の通り。
(HPLCの条件)
・カラム:シリカゲル(ODS−80A、5μm、4.6×250mm、ジーエルサイエンス株式会社製)
・ガードカラム:ODS−80A、5μm、4.6×50mm、
・カラム温度:30℃
・移動相:メタノール100%
・検出波長:215nm
【0042】
〔試験例〕
実施例のイネ科植物抽出物について、下記試験により、高脂肪高ショ糖食負荷マウスの腸内フローラへの影響を調べた。その結果を
図1及び
図2に示す。
図1及び
図2中、NDは、普通食を摂餌したマウス群、HFHSDは、高脂肪高ショ糖食を摂餌したマウス群、HFHSDARは、実施例のイネ科植物抽出物が添加された高脂肪高ショ糖食を摂餌したマウス群である。
【0043】
<腸内フローラ調整作用確認試験>
普通食(ND)として、AIN93M(ミルクカゼイン使用)(オリエンタル酵母工業株式会社製)、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)として、F2HFHSD(オリエンタル酵母工業株式会社製)を用意し、また別途、HFHSDに実施例のイネ科植物抽出物を0.5質量%添加したもの(HFHSDAR)を用意した。C57BL/6JJmsSlc系統のマウス(4週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で2週間馴化飼育した後、これらのマウスをND摂餌群(全6ゲージで各ゲージ2匹)と、HFHSD摂餌群(全6ゲージで各ゲージ2匹)と、HFHSDAR摂餌群(全6ゲージで各ゲージ2匹)との3群に分け、10週間自由摂食させた。その自由摂食期間後、各ゲージ中の1日分の全糞便を回収した。回収した糞便20mgを50mLのPBSに加えて懸濁させ、その懸濁液を14000×gで10分間遠心し、その上清を除去する。この懸濁液の遠心及び上清の除去操作を3回繰り返して得られた残渣に、250μLのLysis bufferに懸濁させる。このLysis bufferは、500mMのNaClと、50mMのTris−HCl(pH8.0)と、50mMのEDTAと、4%のSDSとを混合して調製したものである。さらに懸濁液に、100mgの直径0.1mmのグラスビーズとTE飽和フェノール500μLとを加え、ホモゲナイザー((株)トミー精工製、Micro Smash MS-100R)を用いて4500rpmで30秒間ホモゲナイズした後、該懸濁液を20000×gで5分間遠心し、その上清を回収した。回収した上清を、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1の含有体積比を持つ混合液に添加後、該混合液にイソプロパノールを加えて該混合液中のDNAを沈殿させ、その沈殿物を回収した。回収した沈殿物(DNA)を、50μLのTE bufferに溶解させ、NanoDrop 2000c(Thermo Scientific)で定量PCR法によりDNA濃度を測定した。定量PCR法には、SYBR(登録商標)Premix Ex Taq
TM II(タカラバイオ株式会社製)とLightCycler
TM とを用い、95℃10秒及び95℃5秒(変性)に続いて57℃10秒(アニーリング)と72℃20秒(伸長ステップ)とを行うサイクルを45回繰り返した。プライマーは以下の配列のものを用いた。
・All bacteria: Forward;CCTACGGGAGGCAGCAG、Reverse;ATTACCGCGGCTGCTGG
・Bacteroides/Prevotella/Porphyromonas: Forward;GGTGTCGGCTTAAGTGCCAT、Reverse;CGGAYGTAAGGGCCGTGC
・Enterococcus sp.: Forward;CCCTTATTGTTAGTTGCCATCATT、Reverse;ACTCGTTGTACTTCCCATTGT
相対定量法にてリアルタイムPCRを実施し、その結果を用いてAll bacteriaと目的遺伝子との比を算出した。相対定量法を下記に述べる。任意のプールしたDNAサンプルを希釈し、それらをテンプレートにしてAll bacteria、Bacteroides/Prevotella/Porphyromonas、及びEnterococcus sp.の3対のプライマーセットでそれぞれリアルタイムPCRを実施し、プライマーセットごとの検量線を作成した。そして、マウスの糞中DNAを同量用いて3対のプライマーでそれぞれリアルタイムPCRを実施した。それぞれのCt値から検量線を元にそれぞれの相対値を求めた。
【0044】
図1は、腸内フローラ調整作用確認試験における、各マウス群の糞便中のバクトロイデス属の相対値をAll bacteriaの相対値で割ったグラフである。
図1中、ND(普通食摂餌群)は、平均値1.05、標準誤差0.09であり、HFHSD(高脂肪高ショ糖食摂餌群)は、平均値0.65、標準誤差0.08であり、HFHSDAR(実施例のイネ科植物抽出物が添加された高脂肪高ショ糖食摂餌群)は、平均値0.87、標準誤差0.10であった。
図2は、同試験における、各マウス群の糞便中のエンテロコッカス属の相対値をAll bacteriaの相対値で割ったグラフであり、
図2中、NDは、平均値0.40、標準誤差0.06であり、HFHSDは、平均値2.45、標準誤差0.48あり、HFHSDARは、平均値0.89、標準誤差0.16であった。
【0045】
図1によれば、HFHSD摂餌群の糞便中のバクテロイデス属の相対的細菌数がND摂餌群のそれに比べて有意に減少していることから、HFHSDの継続的な摂取がバクテロイデス属の相対的細菌数の減少を引き起こすことが明らかである。これは、HFHSDとして用いたF2HFHSDに、NDとして用いたAIN93Mには含まれていない牛脂及びラードが含まれていることに起因するものと推察される。これに対し、HFHSDAR摂餌群の糞便中のバクテロイデス属の相対的細菌数はHFHSD摂餌群のそれに比べて有意に増加しており、ND摂餌群のそれに近いことから、HFHSDARに含まれる実施例のイネ科植物抽出物が、バクテロイデス属の相対的細菌数を、HFHSDの継続的な摂取前の健常時における相対的細菌数に近づける作用を有することが明らかである。
【0046】
また
図2によれば、HFHSD摂餌群の糞便中のエンテロコッカス属の相対的細菌数がND摂餌群のそれに比べて有意に増加していることから、HFHSDの継続的な摂取がエンテロコッカス属の相対的細菌数の増加を引き起こすことが明らかである。これは、HFHSDとして用いたF2HFHSDに、NDとして用いたAIN93Mには含まれていない牛脂及びラードが含まれていることに起因するものと推察される。これに対し、HFHSDAR摂餌群の糞便中のエンテロコッカス属の相対的細菌数はHFHSD摂餌群のそれに比べて有意に減少しており、ND摂餌群のそれに近いことから、HFHSDARに含まれる実施例のイネ科植物抽出物が、エンテロコッカス属の相対的細菌数を、HFHSDの継続的な摂取前の健常時における相対的細菌数に近づける作用を有することが明らかである。
【0047】
以上の結果から、実施例のイネ科植物抽出物は、腸内フローラ調整能、即ち、高脂肪食の摂取に起因する腸内フローラ構成の変化を抑制し、健常時の腸内フローラ構成を維持し得る作用を有することが明らかである。
普通食(ND)として、AIN93M(ミルクカゼイン使用)(オリエンタル酵母工業株式会社製)、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)として、F2HFHSD(オリエンタル酵母工業株式会社製)を用意し、また別途、HFHSDに実施例のイネ科植物抽出物を0.5質量%添加したもの(HFHSDAR)を用意した。C57BL/6JJmsSlc系統のマウス(4週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で2週間馴化飼育した後、これらのマウスをND摂餌群(全6ゲージで各ゲージ2匹)と、HFHSD摂餌群(全6ゲージで各ゲージ2匹)と、HFHSDAR摂餌群(全6ゲージで各ゲージ2匹)との3群に分け、10週間自由摂食させた。その自由摂食期間後、各ゲージ中の1日分の全糞便を回収した。回収した糞便20mgを50mLのPBSに加えて懸濁させ、その懸濁液を14000×gで10分間遠心し、その上清を除去する。この懸濁液の遠心及び上清の除去操作を3回繰り返して得られた残渣に、250μLのLysis bufferに懸濁させる。このLysis bufferは、500mMのNaClと、50mMのTris−HCl(pH8.0)と、50mMのEDTAと、4%のSDSとを混合して調製したものである。さらに懸濁液に、100mgの直径0.1mmのグラスビーズとTE飽和フェノール500μLとを加え、ホモゲナイザー((株)トミー精工製、Micro Smash MS-100R)を用いて4500rpmで30秒間ホモゲナイズした後、該懸濁液を20000×gで5分間遠心し、その上清を回収した。回収した上清を、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1の含有体積比を持つ混合液に添加後、該混合液にイソプロパノールを加えて該混合液中のDNAを沈殿させ、その沈殿物を回収した。回収した沈殿物(DNA)を、50μLのTE bufferに溶解させ、NanoDrop 2000c(Thermo Scientific)で定量PCR法によりDNA濃度を測定した。定量PCR法には、SYBR(登録商標)Premix Ex Taq
M とを用い、95℃10秒及び95℃5秒(変性)に続いて57℃10秒(アニーリング)と72℃20秒(伸長ステップ)とを行うサイクルを45回繰り返した。プライマーは
相対定量法にてリアルタイムPCRを実施し、その結果を用いてAll bacteriaと目的遺伝子との比を算出した。相対定量法を下記に述べる。任意のプールしたDNAサンプルを希釈し、それらをテンプレートにしてAll bacteria、Bacteroides/Prevotella/Porphyromonas、及びEnterococcus sp.の3対のプライマーセットでそれぞれリアルタイムPCRを実施し、プライマーセットごとの検量線を作成した。そして、マウスの糞中DNAを同量用いて3対のプライマーでそれぞれリアルタイムPCRを実施した。それぞれのCt値から検量線を元にそれぞれの相対値を求めた。