特開2015-218130(P2015-218130A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-218130腸内フローラ調整能を有するイネ科植物抽出物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-218130(P2015-218130A)
(43)【公開日】2015年12月7日
(54)【発明の名称】腸内フローラ調整能を有するイネ科植物抽出物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/899 20060101AFI20151110BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20151110BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20151110BHJP
   A23L 1/30 20060101ALI20151110BHJP
【FI】
   A61K35/78 U
   A61K31/05
   A61P1/00
   A23L1/30 BZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-101979(P2014-101979)
(22)【出願日】2014年5月16日
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(71)【出願人】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(72)【発明者】
【氏名】大石 勝隆
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸織
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋介
(72)【発明者】
【氏名】福留 真一
(72)【発明者】
【氏名】沖田 公子
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018MD49
4B018ME11
4B018MF01
4C088AB73
4C088AB75
4C088AC04
4C088BA10
4C088BA32
4C088CA06
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA66
4C088ZA73
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA19
4C206KA01
4C206KA18
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA66
4C206ZA73
(57)【要約】
【課題】安全で副作用の少ない、腸内フローラ調整能を有するイネ科植物抽出物を提供すること。
【解決手段】本発明は、イネ科植物からアルコールを用いて抽出された、腸内フローラ調整能を有するイネ科植物抽出物であり、好ましくはアルキルレゾルシノールを含有する。前記イネ科植物は小麦又はライ麦が好ましい。前記腸内フローラ調整能は、バクトロイデス属及び/又はエンテロコッカス属の細菌数の、腸内の総菌数に占める割合を調整する作用であり得る。また本発明は、前記本発明のイネ科植物抽出物を含有する医薬品又は飲食品を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ科植物からアルコールを用いて抽出された、腸内フローラ調整能を有するイネ科植物抽出物。
【請求項2】
アルキルレゾルシノールを含有する請求項1に記載のイネ科植物抽出物。
【請求項3】
前記イネ科植物が小麦又はライ麦である請求項1又は2に記載のイネ科植物抽出物。
【請求項4】
前記腸内フローラ調整能は、バクトロイデス属及び/又はエンテロコッカス属の細菌数の、腸内の総菌数に占める割合を調整する作用である請求項1〜3のいずれか一項に記載のイネ科植物抽出物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のイネ科植物抽出物を含有する医薬品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のイネ科植物抽出物を含有する飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内フローラ調整能を有するイネ科植物抽出物に関する。腸内フローラ調整能とは、高脂肪食の摂取などに起因する腸内フローラ構成の変化を抑制し、健常時の腸内フローラ構成を維持し得る作用である。
【背景技術】
【0002】
ヒトの腸内には、100種類以上の腸内細菌が約100兆個以上存在しており、それらの腸内細菌は、宿主であるヒトが摂取した食餌に含まれる栄養分の一部を利用して生活し、他の種類の腸内細菌との間で数のバランスを保ちながら、腸内フローラあるいは腸内細菌叢などと呼ばれる一種の生態系を形成している。腸内フローラを構成する腸内細菌には、宿主に対して有益に働き腸内環境を改善し得る腸内有用菌(いわゆる善玉菌)と、宿主に対して害を及ぼし得る腸内有害菌(いわゆる悪玉菌)とがあり、宿主の健常時において両者は一定の数のバランスを保っているが、脂肪過多の食生活などが原因でそのバランスが崩れて悪玉菌が増えると腸内腐敗が促進され、それによって、便秘・下痢症状の発症、免疫機能の低下、老化促進、発ガン性物質の生成などの不都合が起こり得る。そこで、腸内環境を改善する食品因子の探索が盛んに行われており、例えば食物繊維やオリゴ糖などが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、魚介類であるタコから内臓を除去したものを凍結乾燥し粉末化して得られる、タコ粉末を有効成分として含有する整腸作用組成物が、腸内の善玉菌であるLactobacillales属の細菌を増加させる作用を有することが記載されている。この整腸作用組成物によれば、Lactobacillales属の善玉菌の増加に伴い、大半が悪玉菌として知られているClostridium属の細菌が減少するので、腸内環境が改善されるとされている。
【0004】
また特許文献2には、糖吸収抑制物質を少なくとも1種含有する腸内細菌叢構成比率調整剤が、バクテロイデス門(Bacteroidetes)の細菌を増殖させ、ファーミキューテス門(Firmicutes)の細菌を減少させる作用を有することが記載されている。近年の研究により、ヒトにおいて肥満時はバクテロイデス門に属する菌の構成比率が低く、ファーミキューテス門に属する菌の構成比率が高い状態になっており、体重減少に伴い、バクテロイデス門の構成比率が高まり、逆にファーミキューテス門の構成比率が低下することが明らかになっており、また、やせている人は太っている人と比較して、バクテロイデス門の構成比率が高く、ファーミキューテス門の構成比率が低いことも明らかになっており、特許文献2は、斯かる研究結果に基づくものである。特許文献2記載の腸内細菌叢構成比率調整剤に含まれる糖吸収抑制物質は、サラシア属植物、桑葉、ギムネマ又はこれらの抽出物に含まれる成分であり、小麦由来の物質ではない。
【0005】
また非特許文献1には、マウスに高脂肪食を負荷したことに起因する腸内細菌叢の乱れに対して、アスタキサンチン投与が制御的に作用することが記載されている。アスタキサンチンは、天然色素であるカロテノイドの一種であり、甲殻類の殻やそれらを餌とする魚の体表、サケ科魚類の筋肉の赤色部分などに見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−23482号公報
【特許文献2】特開2010−285425号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yonei Y, et al., Effects of Astaxanthin on Intestinal Microflora in Mice Fed a High-fat Diet, Anti-Aging Medicine 10(4), p.77-91, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来素材の腸内フローラ調整作用は、必ずしも十分満足のいくものとは限らなかった。高脂肪食の摂取などに起因する腸内フローラ構成の変化を抑制し、健常時の腸内フローラ構成を維持し得る効果に優れ、且つ安全で副作用が少なく、医薬品、飲食品、飼料等として利用可能な素材は未だ提供されていない。
【0009】
本発明は、安全で副作用の少ない、腸内フローラ調整能を有するイネ科植物抽出物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
Peterらは、肥満マウスの腸内フローラは、食事からエネルギーを取り込む能力が高く、それゆえ肥満が誘導されること(参考文献1参照)、及び、肥満マウスの腸内フローラ構成は、肥満ではない健常マウスのそれに比して、悪玉菌であるバクトロイデス属の細菌の割合が少なく且つ悪玉菌であるエンテロコッカス属の細菌の割合が多い傾向があること(参考文献2参照)を報告している。また、本発明者らの検討においても同様の傾向が確認されており、高脂肪高ショ糖食を一定期間摂取したマウス群の腸内フローラ構成は、普通食を一定期間摂取したマウス群のそれに比して、バクテロイデス属の細菌の割合が少なく且つ悪玉菌であるエンテロコッカス属の細菌の割合が多かった。そして、本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、イネ科植物の一種である小麦ふすまのエタノール抽出物であってアルキルレゾルシノールを含有するものが腸内フローラ調整能を有し、これを摂取することにより、生体への悪影響が報告されているバクトロイデス属及びエンテロコッカス属の細菌の、高脂肪食摂取によるバランス変動幅が大幅に低減し、腸内フローラ構成が高脂肪食摂取前の健常時のそれに近づくことを知見した。
【0011】
参考文献1:Peter J. et al. An obesity-associated gut microbiome with increased capacity for energy harvest. 2006 Nature. 444(7122):1027-31.
参考文献2:Peter J. et al. The effect of diet on the human gut microbiome: a metagenomic analysis in humanized gnotobiotic mice. 2009 Sci Transl Med. 1(6):6ra14.
【0012】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、イネ科植物からアルコールを用いて抽出された、腸内フローラ調整能を有するイネ科植物抽出物である。
また本発明は、前記イネ科植物抽出物を含有する医薬品又は飲食品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のイネ科植物抽出物は、腸内フローラ調整能を有し、高脂肪食の摂取などに起因する腸内フローラ構成の変化を抑制し、健常時の腸内フローラ構成を維持し得る。また、本発明のイネ科植物抽出物は、食経験が豊富な小麦やライ麦などのイネ科植物に含まれている成分を主体とするものであることから、長期間継続的に摂取しても生体に有害な作用をもたらす懸念が少なく、安全性が高く副作用のおそれが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、腸内フローラ調整作用確認試験における、各マウス群の糞便中のバクトロイデス属の細菌数を示すグラフである。
図2図2は、腸内フローラ調整作用確認試験における、各マウス群の糞便中のエンテロコッカス属の細菌数示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
腸内フローラ調整能を有する本発明のイネ科植物抽出物は、イネ科植物のアルコール抽出物である。抽出源であるイネ科植物としては、特に制限されないが、例えば、小麦、ライ麦、ライ小麦、大麦、オーツ麦、はと麦、トウモロコシ、ヒエ、アワ、キビ等の穀類が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの穀類の中でも特に小麦及びライ麦が好ましい。小麦の種類は特に制限されない。また、抽出源であるイネ科植物は、通常、その頴果を用い、抽出源であるイネ科植物が小麦の場合は、小麦粒を用いる。本発明では、イネ科植物の頴果又はその乾燥物をその粒の形状を維持したまま抽出源として用いても良く、あるいは、頴果又はその乾燥物を切断、粉砕等して得られる細片、粉砕物(粉末)を抽出源として用いても良い。
【0016】
抽出源であるイネ科植物は、頴果の外皮(果皮、種皮)を含んでいることが好ましい。本発明で抽出源として好ましく用いられるものとして、小麦全粒粉、ライ麦全粒粉、小麦ふすま、ライ麦外皮が挙げられ、特に、入手の容易さや価格等の点から小麦ふすまが好ましい。
【0017】
イネ科植物の抽出に用いるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等の1価の低級アルコール(好ましくは炭素原子数1〜4のもの)、及び1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の室温(25℃)で液体であるアルコールが挙げられる。ここでいうアルコールには、アルコールに加えてさらに水、純水、蒸留水、水道水、酸性水、アルカリ水、中性水等の水性成分を含む、含水アルコールが包含される。含水アルコール中のアルコール含有量は、通常70体積%以上、好ましくは80体積%以上、より好ましくは90体積%以上である。これらのアルコールの中でも特に、操作性や環境性の点から、エタノール(含水エタノール)が好ましい。
【0018】
イネ科植物のアルコールによる抽出方法は特に制限されないが、例えば、小麦粒又はその細片若しくは粉砕物をアルコール中に浸漬、攪拌又は還流する方法の他、超臨界流体抽出法等が挙げられる。例えば、小麦ふすまをエタノール(含水エタノール)中に浸漬、攪拌又は還流する方法の場合、抽出温度(エタノールの液温)は好ましくは2〜80℃、抽出時間は0.5〜72時間、エタノール使用量は小麦ふすま100質量部に対し好ましくは50〜2000質量部である。
【0019】
本発明のイネ科植物抽出物は、好ましくはアルキルレゾルシノールを有効成分として含有する。本発明者らの知見によれば、本発明のイネ科植物抽出物が有する腸内フローラ調整能は、下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの作用によるところが大きい。本発明のイネ科植物抽出物は、下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの1種又は2種以上を有効成分として含有することが好ましい。本発明のイネ科植物抽出物における下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの含有量は、腸内フローラ調整効果をより確実に奏させるようにする観点から、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの含有量は100質量%、即ち、本発明のイネ科植物抽出物は下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールのみから構成されていても良い。
【0020】
【化1】
【0021】
前記一般式(I)におけるR1に関し、炭素原子数15〜25の飽和アルキル基としては、代表例として、n−ペンタデシル、n−ヘプタデシル、n−ノナデシル、n−ヘンイコシル、n−トリコシル、n−ペンタコシル、n−ヘプタコシル等の直鎖状のものが挙げられ、これらの他に、分岐状又は環状のものでも良い。これらの中でも、炭素原子数15〜23の飽和アルキル基が好ましい。
【0022】
また、前記一般式(I)におけるR1に関し、炭素原子数15〜25の不飽和アルキル基としては、前記の炭素原子数15〜25の飽和アルキル基に対応するものが挙げられる。不飽和アルキル基に含まれる不飽和結合の数及び位置に特に制限はない。
【0023】
また、前記一般式(I)におけるR2は水素原子であることが好ましく、また、R1はR2に対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0024】
本発明のイネ科植物抽出物に含まれ得るアルキルレゾルシノールの具体例としては、以下のものが挙げられる。
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)
【0025】
本発明のイネ科植物抽出物の好ましい一例として、下記6種類のアルキルレゾルシノールを含有するものが挙げられる。
1)前記一般式(I)におけるR1が炭素原子数15の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR15ともいう)。
2)前記一般式(I)におけるR1が炭素原子数17の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR17ともいう)。
3)前記一般式(I)におけるR1が炭素原子数19の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR19ともいう)。
4)前記一般式(I)におけるR1が炭素原子数21の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR21ともいう)。
5)前記一般式(I)におけるR1が炭素原子数23の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR23ともいう)。
6)前記一般式(I)におけるR1が炭素原子数25の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR25ともいう)。
【0026】
AR15として特に好ましいものは、R1が炭素原子数15の飽和アルキル基、R2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)が挙げられる。
AR17として特に好ましいものは、R1が炭素原子数17の飽和アルキル基、R2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)が挙げられる。
AR19として特に好ましいものは、R1が炭素原子数19の飽和アルキル基、R2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)が挙げられる。
AR21として特に好ましいものは、R1が炭素原子数21の飽和アルキル基、R2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)が挙げられる。
AR23として特に好ましいものは、R1が炭素原子数23の飽和アルキル基、R2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)が挙げられる。
AR25として特に好ましいものは、R1が炭素原子数25飽和アルキル基、R2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)が挙げられる。
【0027】
本発明のイネ科植物抽出物において、AR15、AR17、AR19、AR21、AR23及びAR25の含有量は、腸内フローラ調整能の一層の向上の観点から、それぞれ、下記範囲内にあることが好ましい。
AR15の含有量は、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは0.1〜10.0質量%、更に好ましくは0.1〜5.0質量%、特に好ましくは0.5〜1.5質量%である。
AR17の含有量は、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは1.0〜20.0質量%、更に好ましくは5.0〜15.0質量%、特に好ましくは8.0〜12.0質量%である。
AR19の含有量は、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは25.0〜40.0質量%、更に好ましくは27.5〜37.5質量%、特に好ましくは30.0〜35.0質量%である。
AR21の含有量は、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは40.0〜55.0質量%、更に好ましくは42.5〜52.5質量%、特に好ましくは45.0〜50.0質量%である。
AR23の含有量は、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは1.0〜15.0質量%、更に好ましくは2.5〜12.5質量%、特に好ましくは5.0〜10.0質量%である。
AR25の含有量は、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは0〜5.0質量%、更に好ましくは0〜2.0質量%、特に好ましくは0〜1.5質量%である。
【0028】
本発明のイネ科植物抽出物は、AR15、AR17、AR19、AR21、AR23及びAR25以外の他のアルキルレゾルシノールの1種以上を含有していても良い。この他のアルキルレゾルシノールとしては、例えば、前記一般式(I)におけるR1が炭素原子数27の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR27ともいう)が挙げられる。AR27として特に好ましいものは、R1が炭素原子数27の飽和アルキル基、R2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタコシルベンゼン(C27:0)が挙げられる。
【0029】
本発明のイネ科植物抽出物は、腸内フローラ調整能を有するアルキルレゾルシノールの含有率が高いことが好ましく、斯かる観点から、イネ科植物からアルコールを用いて抽出された抽出物は、分配クロマトグラフィー等によって精製する、あるいは常法により濃縮・蒸発乾固することが好ましい。イネ科植物のアルコール抽出物の精製に用いる分配クロマトグラフィーとしては、例えば、移動相として非水系溶媒を用いる順相クロマトグラフィー法が挙げられ、オープンカラム法、中圧カラム法、高速液体クロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択することができる。
【0030】
イネ科植物のアルコール抽出物の分配クロマトグラフィーにおける移動相としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等の1価の低級アルコール(好ましくは炭素原子数1〜4のもの)、及び1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の室温(25℃)で液体であるアルコール;ジエチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン;ヘキサン;塩化メチレン;アセトニトリル;並びにクロロホルム等が挙げられ、これら溶媒の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。複数の溶媒を組み合わせて移動相とする場合、分配クロマトグラフィーの実施中(イネ科植物のアルコール抽出物の精製中)において、複数の溶媒の混合比を一定にするイソクラクティックモードでも良く、あるいは該混合比を変化させるグラジエントモードでも良い。また、分配クロマトグラフィーにおける担体としては、目的とする有効成分を担持−放出できる担体であればいずれも用いることができるが、一般的にはシリカゲル、ポリアクリルアミドゲル、デキストランゲル等を挙げることができる。イネ科植物のアルコール抽出物の分配クロマトグラフィーにおける検出波長は、170〜320nmであれば良く、好ましくは190〜280nmである。
【0031】
腸内フローラ調整能を有する本発明のイネ科植物抽出物は、特に、生体への悪影響が報告されている悪玉菌であるバクトロイデス属又はエンテロコッカス属の細菌に対して作用し、両細菌の一方又は両方の細菌数の、腸内の総菌数に占める割合を調整する作用を有する。より具体的には、本発明のイネ科植物抽出物は、i)高脂肪食の摂取などに起因して減少したバクテロイデス属の細菌の、腸内の総菌数に占める割合を増加させ、及び/又は、ii)高脂肪食の摂取などに起因して増加したエンテロコッカス属の細菌の、腸内の総菌数に占める割合を減少させ、結果として、高脂肪食の摂取などに起因する腸内フローラ構成の乱れを抑制し、健常時の腸内フローラ構成を維持し得る。
【0032】
本発明のイネ科植物抽出物は、蛋白質を含んでいないか又は蛋白質を含んでいてもその含有量が比較的少ない、低蛋白なものである。特に、抽出源であるイネ科植物が小麦ふすまである場合、それから抽出されたイネ科植物抽出物は、蛋白質の含有量が非常に少ない低蛋白性である。本発明のイネ科植物抽出物における蛋白質の含有量は、抽出源であるイネ科植物の種類等にもよるが、本発明のイネ科植物抽出物中、好ましくは5質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。本発明のイネ科植物抽出物は低蛋白であるため、蛋白質の摂取量を制限する必要がある腎臓疾患患者等にも好適である。
【0033】
本発明のイネ科植物抽出物は、その腸内フローラ調整能を活かし、ヒト又は動物用の医薬品、飲食品、飼料等として、あるいはそれらを製造するために使用することができる。本発明のイネ科植物抽出物の形態は特に制限されず、例えば、イネ科植物のアルコール抽出物(前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノール)を含む液状物(液体又は半液体)、該液状物中の液媒体(アルコール又は含水アルコール)を蒸発乾固して得られる乾固物又はその粉末、該乾固物又はその粉末をエタノール等のアルコールに溶解してなるアルコール溶液等が挙げられる。本発明はまた、前記本発明のイネ科植物抽出物を含有する医薬品、飲食品及び飼料を提供する。
【0034】
本発明の医薬品、即ち腸内フローラ調整剤は、前記本発明のイネ科植物抽出物を有効成分として含有する腸内フローラ調整剤(整腸剤)であり得る。また、本発明の医薬品は、経口用の任意の剤型で投与され得る。経口投与のための剤型としては、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のような固形製剤、あるいはエリキシロール、シロップ及び懸濁液のような液体製剤が挙げられる。
【0035】
本発明の飲食品又は飼料は、前記本発明のイネ科植物抽出物を有効成分として含有し、且つ腸内フローラ調整効果を企図して、その旨を表示した機能性飲食品、病者用飲食品、特定保健用飲食品、家畜用飼料、ペットフード等であり得る。本発明の飲食品又は飼料の形態は、特に限定されないが、例えば、飲料の形態としては、茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料、果汁飲料、炭酸飲料、アルコール飲料、清涼飲料等が挙げられ、食品又は飼料の形態としては、固形、半固形又は液状であり得、錠剤形態、丸剤形態、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等が挙げられる。具体的な食品の形態としては、パン類、麺類、ゼリー状食品や各種スナック類、焼き菓子、ケーキ類、チョコレート、ガム、飴、タブレット、カプセル、スープ類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、サプリメント、その他加工食品、調味料及びそれらの材料等が挙げられる。
【0036】
本発明の医薬品、飲食品又は飼料は、必要に応じて、前記本発明のイネ科植物抽出物(前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノール)以外の他の成分、例えば、他の有効成分及び/又は通常利用される添加物若しくは担体を含有していても良い。
医薬品の場合、前記他の成分としては、例えば、他の薬効成分、美容成分、栄養成分、ならびに賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、水溶性高分子、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、緩衝剤、安定化剤、酸化防止剤、増粘剤、紫外線吸収剤、活性増強剤、着色剤、甘味料、矯味剤、矯臭剤、酸味料等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
飲食品又は飼料の場合、前記他の成分としては、例えば、他の飲食品材料、栄養成分、美容成分、他の機能性素材ならびに溶剤、油、軟化剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、甘味料、香料等の添加物等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
本発明の医薬品、飲食品又は飼料における前記本発明のイネ科植物抽出物(前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノール)の摂取量は、それらの剤型や形態により異なるが、医薬品、飲食品および飼料のいずれの場合も一日あたり0.01g〜10gとなるように摂取することが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び試験例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び試験例により制限されるものではない。
【0039】
〔実施例〕
下記<抽出精製法>により、前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを含有するイネ科植物抽出物(小麦抽出物)を得た。このイネ科植物抽出物の組成は次の通り。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)1.2質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)10.9質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)33.9質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)46.4質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)7.5質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)0.1質量%。
【0040】
<抽出精製法>
小麦ふすまに質量で5倍量のエタノールを添加して、600rpm、室温の条件で、16時間撹拌抽出した。抽出物を濾過して不要物を除きエタノール抽出液を回収した後、エタノールを留去し、小麦ふすまのエタノール抽出物を得た。次いで、このエタノール抽出物を中圧クロマトグラフィーによって精製した。中圧クロマトグラフィー条件は下記の通りである。溶出開始後31〜36分に出現するピーク成分を回収して、溶媒留去し、前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを含有するイネ科植物抽出物を得た。
(中圧クロマトグラフィーの条件)
・カラム:シリカゲル(インジェクトカラム3L、ハイフラッシュカラム5L、60Å、40μm、山善株式会社製)
・移動相:ヘキサン/酢酸エチル混合溶媒(体積比)=90/10にて9分、80/20にて15分、60/40にて16分
・検出波長:254nm
【0041】
尚、前記<抽出精製法>における小麦ふすまのエタノール抽出物の精製は、中圧クロマトグラフィーに代えて、HPLCによって行うこともできる。その場合、エタノール抽出物にメタノールを添加して該エタノール抽出物の濃度が200ug/mlのメタノール添加液を調製し、該メタノール添加液を、孔径0.45μmのフィルターを通過させ、その通過分を、HPLCの試料とする。HPLCの条件は下記の通り。
(HPLCの条件)
・カラム:シリカゲル(ODS−80A、5μm、4.6×250mm、ジーエルサイエンス株式会社製)
・ガードカラム:ODS−80A、5μm、4.6×50mm、
・カラム温度:30℃
・移動相:メタノール100%
・検出波長:215nm
【0042】
〔試験例〕
実施例のイネ科植物抽出物について、下記試験により、高脂肪高ショ糖食負荷マウスの腸内フローラへの影響を調べた。その結果を図1及び図2に示す。図1及び図2中、NDは、普通食を摂餌したマウス群、HFHSDは、高脂肪高ショ糖食を摂餌したマウス群、HFHSDARは、実施例のイネ科植物抽出物が添加された高脂肪高ショ糖食を摂餌したマウス群である。
【0043】
<腸内フローラ調整作用確認試験>
普通食(ND)として、AIN93M(ミルクカゼイン使用)(オリエンタル酵母工業株式会社製)、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)として、F2HFHSD(オリエンタル酵母工業株式会社製)を用意し、また別途、HFHSDに実施例のイネ科植物抽出物を0.5質量%添加したもの(HFHSDAR)を用意した。C57BL/6JJmsSlc系統のマウス(4週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で2週間馴化飼育した後、これらのマウスをND摂餌群(全6ゲージで各ゲージ2匹)と、HFHSD摂餌群(全6ゲージで各ゲージ2匹)と、HFHSDAR摂餌群(全6ゲージで各ゲージ2匹)との3群に分け、10週間自由摂食させた。その自由摂食期間後、各ゲージ中の1日分の全糞便を回収した。回収した糞便20mgを50mLのPBSに加えて懸濁させ、その懸濁液を14000×gで10分間遠心し、その上清を除去する。この懸濁液の遠心及び上清の除去操作を3回繰り返して得られた残渣に、250μLのLysis bufferに懸濁させる。このLysis bufferは、500mMのNaClと、50mMのTris−HCl(pH8.0)と、50mMのEDTAと、4%のSDSとを混合して調製したものである。さらに懸濁液に、100mgの直径0.1mmのグラスビーズとTE飽和フェノール500μLとを加え、ホモゲナイザー((株)トミー精工製、Micro Smash MS-100R)を用いて4500rpmで30秒間ホモゲナイズした後、該懸濁液を20000×gで5分間遠心し、その上清を回収した。回収した上清を、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1の含有体積比を持つ混合液に添加後、該混合液にイソプロパノールを加えて該混合液中のDNAを沈殿させ、その沈殿物を回収した。回収した沈殿物(DNA)を、50μLのTE bufferに溶解させ、NanoDrop 2000c(Thermo Scientific)で定量PCR法によりDNA濃度を測定した。定量PCR法には、SYBR(登録商標)Premix Ex TaqTM II(タカラバイオ株式会社製)とLightCyclerTM とを用い、95℃10秒及び95℃5秒(変性)に続いて57℃10秒(アニーリング)と72℃20秒(伸長ステップ)とを行うサイクルを45回繰り返した。プライマーは以下の配列のものを用いた。
・All bacteria: Forward;CCTACGGGAGGCAGCAG、Reverse;ATTACCGCGGCTGCTGG
・Bacteroides/Prevotella/Porphyromonas: Forward;GGTGTCGGCTTAAGTGCCAT、Reverse;CGGAYGTAAGGGCCGTGC
・Enterococcus sp.: Forward;CCCTTATTGTTAGTTGCCATCATT、Reverse;ACTCGTTGTACTTCCCATTGT
相対定量法にてリアルタイムPCRを実施し、その結果を用いてAll bacteriaと目的遺伝子との比を算出した。相対定量法を下記に述べる。任意のプールしたDNAサンプルを希釈し、それらをテンプレートにしてAll bacteria、Bacteroides/Prevotella/Porphyromonas、及びEnterococcus sp.の3対のプライマーセットでそれぞれリアルタイムPCRを実施し、プライマーセットごとの検量線を作成した。そして、マウスの糞中DNAを同量用いて3対のプライマーでそれぞれリアルタイムPCRを実施した。それぞれのCt値から検量線を元にそれぞれの相対値を求めた。
【0044】
図1は、腸内フローラ調整作用確認試験における、各マウス群の糞便中のバクトロイデス属の相対値をAll bacteriaの相対値で割ったグラフである。図1中、ND(普通食摂餌群)は、平均値1.05、標準誤差0.09であり、HFHSD(高脂肪高ショ糖食摂餌群)は、平均値0.65、標準誤差0.08であり、HFHSDAR(実施例のイネ科植物抽出物が添加された高脂肪高ショ糖食摂餌群)は、平均値0.87、標準誤差0.10であった。
図2は、同試験における、各マウス群の糞便中のエンテロコッカス属の相対値をAll bacteriaの相対値で割ったグラフであり、図2中、NDは、平均値0.40、標準誤差0.06であり、HFHSDは、平均値2.45、標準誤差0.48あり、HFHSDARは、平均値0.89、標準誤差0.16であった。
【0045】
図1によれば、HFHSD摂餌群の糞便中のバクテロイデス属の相対的細菌数がND摂餌群のそれに比べて有意に減少していることから、HFHSDの継続的な摂取がバクテロイデス属の相対的細菌数の減少を引き起こすことが明らかである。これは、HFHSDとして用いたF2HFHSDに、NDとして用いたAIN93Mには含まれていない牛脂及びラードが含まれていることに起因するものと推察される。これに対し、HFHSDAR摂餌群の糞便中のバクテロイデス属の相対的細菌数はHFHSD摂餌群のそれに比べて有意に増加しており、ND摂餌群のそれに近いことから、HFHSDARに含まれる実施例のイネ科植物抽出物が、バクテロイデス属の相対的細菌数を、HFHSDの継続的な摂取前の健常時における相対的細菌数に近づける作用を有することが明らかである。
【0046】
また図2によれば、HFHSD摂餌群の糞便中のエンテロコッカス属の相対的細菌数がND摂餌群のそれに比べて有意に増加していることから、HFHSDの継続的な摂取がエンテロコッカス属の相対的細菌数の増加を引き起こすことが明らかである。これは、HFHSDとして用いたF2HFHSDに、NDとして用いたAIN93Mには含まれていない牛脂及びラードが含まれていることに起因するものと推察される。これに対し、HFHSDAR摂餌群の糞便中のエンテロコッカス属の相対的細菌数はHFHSD摂餌群のそれに比べて有意に減少しており、ND摂餌群のそれに近いことから、HFHSDARに含まれる実施例のイネ科植物抽出物が、エンテロコッカス属の相対的細菌数を、HFHSDの継続的な摂取前の健常時における相対的細菌数に近づける作用を有することが明らかである。
【0047】
以上の結果から、実施例のイネ科植物抽出物は、腸内フローラ調整能、即ち、高脂肪食の摂取に起因する腸内フローラ構成の変化を抑制し、健常時の腸内フローラ構成を維持し得る作用を有することが明らかである。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2015年2月9日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0043
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0043】
<腸内フローラ調整作用確認試験>
普通食(ND)として、AIN93M(ミルクカゼイン使用)(オリエンタル酵母工業株式会社製)、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)として、F2HFHSD(オリエンタル酵母工業株式会社製)を用意し、また別途、HFHSDに実施例のイネ科植物抽出物を0.5質量%添加したもの(HFHSDAR)を用意した。C57BL/6JJmsSlc系統のマウス(4週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で2週間馴化飼育した後、これらのマウスをND摂餌群(全6ゲージで各ゲージ2匹)と、HFHSD摂餌群(全6ゲージで各ゲージ2匹)と、HFHSDAR摂餌群(全6ゲージで各ゲージ2匹)との3群に分け、10週間自由摂食させた。その自由摂食期間後、各ゲージ中の1日分の全糞便を回収した。回収した糞便20mgを50mLのPBSに加えて懸濁させ、その懸濁液を14000×gで10分間遠心し、その上清を除去する。この懸濁液の遠心及び上清の除去操作を3回繰り返して得られた残渣に、250μLのLysis bufferに懸濁させる。このLysis bufferは、500mMのNaClと、50mMのTris−HCl(pH8.0)と、50mMのEDTAと、4%のSDSとを混合して調製したものである。さらに懸濁液に、100mgの直径0.1mmのグラスビーズとTE飽和フェノール500μLとを加え、ホモゲナイザー((株)トミー精工製、Micro Smash MS-100R)を用いて4500rpmで30秒間ホモゲナイズした後、該懸濁液を20000×gで5分間遠心し、その上清を回収した。回収した上清を、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1の含有体積比を持つ混合液に添加後、該混合液にイソプロパノールを加えて該混合液中のDNAを沈殿させ、その沈殿物を回収した。回収した沈殿物(DNA)を、50μLのTE bufferに溶解させ、NanoDrop 2000c(Thermo Scientific)で定量PCR法によりDNA濃度を測定した。定量PCR法には、SYBR(登録商標)Premix Ex TaqTM II(タカラバイオ株式会社製)とLightCyclerTM とを用い、95℃10秒及び95℃5秒(変性)に続いて57℃10秒(アニーリング)と72℃20秒(伸長ステップ)とを行うサイクルを45回繰り返した。プライマーは、All bacteriaについては配列表の配列番号1(Forward)及び2(Reverse)に示すものを、Bacteroides/Prevotella/Porphyromonasについては配列表の配列番号3(Forward)及び4(Reverse)に示すものを、Enterococcus sp. については配列表の配列番号5(Forward)及び6(Reverse)に示すものをそれぞれ用いた。
相対定量法にてリアルタイムPCRを実施し、その結果を用いてAll bacteriaと目的遺伝子との比を算出した。相対定量法を下記に述べる。任意のプールしたDNAサンプルを希釈し、それらをテンプレートにしてAll bacteria、Bacteroides/Prevotella/Porphyromonas、及びEnterococcus sp.の3対のプライマーセットでそれぞれリアルタイムPCRを実施し、プライマーセットごとの検量線を作成した。そして、マウスの糞中DNAを同量用いて3対のプライマーでそれぞれリアルタイムPCRを実施した。それぞれのCt値から検量線を元にそれぞれの相対値を求めた。