【課題】抗菌性層状ケイ酸塩を構成成分とする歯科用組成物の抗菌活性回復方法及び該方法により抗菌活性の回復した歯科用組成物、ならびに抗菌活性の回復した歯科用組成物の調製方法及び該方法により得られた歯科用組成物を提供すること。
【解決手段】抗菌剤を担持させた抗菌性層状ケイ酸塩を含有してなる歯科用組成物であって、抗菌剤の溶出により抗菌活性の低下した歯科用組成物を、前記抗菌剤を含む溶液中に浸漬することを特徴とする、歯科用組成物の抗菌活性回復方法。
抗菌剤を担持させた抗菌性層状ケイ酸塩を含有してなる歯科用組成物であって、抗菌剤の溶出により抗菌活性の低下した歯科用組成物を、前記抗菌剤を含む溶液中に浸漬することを特徴とする、歯科用組成物の抗菌活性回復方法。
抗菌剤を担持させた抗菌性層状ケイ酸塩を含有してなる歯科用組成物であって、抗菌剤の溶出により抗菌活性の低下した歯科用組成物を、前記抗菌剤を含む溶液中に浸漬することを特徴とする、抗菌活性の回復した歯科用組成物の調製方法。
層状ケイ酸塩が、モンモリロナイト、ヘクトライト、バイデライト、サポナイト、及びマイカからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項6記載の調製方法。
【背景技術】
【0002】
従来、所望の材料に抗菌性を付与するために種々の有機化合物や銀、銅、亜鉛等の抗菌作用を有する金属イオンが抗菌剤として用いられている。しかし、有機系抗菌性化合物は耐熱性に乏しく、また、金属イオンは耐変色性に問題があるため、様々な検討が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ケイ酸アルミニウム中に特定のビス第四級アンモニウム塩化合物を担持させることで、細菌、黴、藻類、原生動物といった数多くの微生物に対し殺滅的効果を示し、しかも高い熱安定性を有しながら持続的に抗菌力を発揮することができることから、繊維、紙、フィルム、プラスチック、ゴムなどへの練り込みが可能になると開示されている。
【0004】
ところで、歯科のう蝕、歯周病は細菌感染が引き起こす疾患であり、古くから、銀などの抗菌剤が用いられている。また、超高齢社会における義歯装着人口の増加、中でも要介護高齢者の義歯による口腔環境の悪化は誤嚥性肺炎に繋がることから、口腔環境の向上のために、歯磨剤や義歯床用材料の研究が盛んに行われている。
【0005】
例えば、層状ケイ酸塩にビス型第四アンモニウム塩化合物を担持させたものや、イオン交換が可能なイオンの一部または全部をアルカリ土類金属イオンまたは亜鉛族金属イオンで置換したフッ素置換層状ケイ酸塩にビグアナイド系抗菌剤あるいは第4級アンモニウム基を1個有する化合物を担持させたものが、該化合物の抗菌活性に関して耐熱性と持続性を向上することができ、該抗菌性層状ケイ酸塩を歯磨剤に適用可能であることが開示されている(特許文献2〜4参照)。
【0006】
また、特許文献5には、抗菌剤の粘膜滞留性を向上するために、粘膜に対する吸着性、滞留性に優れる粘土鉱物として、比表面積と平均粒子径が特定のものを用いる技術が開示されている。具体的には、スメクタイト等の水膨潤性粘土鉱物が挙げられており、該粘土鉱物に組み合わせる抗菌剤としては、粘膜への適用が可能なものであれば特に限定されないと記載されている。
【0007】
特許文献6には、従来の義歯安定剤は通常エタノール及び水によりポリ酢酸ビニル樹脂を膨潤させて必要な柔軟性と付着力を与えているところ、ポリ酢酸ビニル樹脂を基材とする義歯安定剤組成物に高度の水和力を有するモンモリロナイト等のコロイド性含水ケイ酸塩を添加することにより、組成物の水分の保持力を高め、付着力を損なうことなく長時間持続させると共に、優れた剥離性を与えることができると開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の歯科用組成物の抗菌活性回復方法は、層状ケイ酸塩に抗菌剤を担持させた抗菌性層状ケイ酸塩を含有してなる歯科用組成物を、前記抗菌剤を含む溶液中に浸漬することを特徴とする。なお、本明細書において、歯科用組成物を浸漬させる抗菌剤含有溶液のことを、単に、浸漬液と記載することもある。
【0015】
抗菌剤を層状ケイ酸塩に担持させる際、該抗菌剤はイオン化してイオン交換反応に伴って化学吸着するものと、そのままの状態で物理吸着するものとが存在することが分かっている。化学吸着するものは正の電荷を持ち、層状ケイ酸塩の層表面に存在する負の電荷と相互作用して強く結合している。また、化学吸着するものは疎水性の多原子イオンであり、層間には疎水性空間が形成されている。一方、物理吸着するものは、単独で層間に挿入(インターカレート)されることはなく、化学吸着に付随して形成された疎水性空間に疎水性相互作用により挿入される。また、物理吸着するものは結合力が弱いため、化学吸着するものに比べて溶液中で溶出しやすい。そこで、本発明者らは、抗菌剤を担持した層状ケイ酸塩に90日程度水道水を通水した後に抗菌試験を行い、抗菌効果の有無や層状ケイ酸塩の物性を調べた。より詳しくは
図1に示すが、一旦抗菌剤が挿入されると
図1の左図に示す状態となるところ、水道水を通水した後には
図1の中図に示す状態となり、物理吸着しているものは90質量%以上が減少し、化学吸着しているものは減少していないにもかかわらず抗菌効果を示さないことを見出した。また、抗菌効果を示さなくなった層状ケイ酸塩を該抗菌剤の溶液中に浸漬すると、抗菌剤が層状ケイ酸塩に物理的に再挿入していることが判明した(
図1の右図)。即ち、本発明は、層状ケイ酸塩は陽イオン交換性でありながら、一旦抗菌剤が挿入されると、イオン交換反応に伴って化学吸着したものは層間に留まり脱離しにくい一方で、物理的に吸着したものは脱離し、そこに新たな抗菌剤が物理的に再挿入されることで、抗菌活性を回復(リチャージ)させることが可能になることを本発明者らが初めて見出したことに基づくものである。
【0016】
本発明で用いられる層状ケイ酸塩としては、層状構造をとるケイ酸塩をいう。また、本発明で用いられる層状ケイ酸塩は層電荷を持つため、層間にNa
+、Mg
2+、Ca
2+などの陽イオンを水和した状態で取り込んでおり、概して親水性を有するケイ酸塩である。該ケイ酸塩は、通常、白色、薄茶色、薄灰色等の粉末状を呈するが、白色の粉末状を呈するものが好適である。
【0017】
本発明で用いられる層状ケイ酸塩としては、特に限定されるものではないが、層電荷が0.2〜0.6のスメクタイト族、層電荷が0.6〜1.0のバーミキュライト族や雲母(マイカ)などの粘土鉱物、Na型テニオライト、Li型テニオライトなどが挙げられる。具体的には、スメクタイト族においては、2八面体型スメクタイトに分類されるモンモリロナイト、バイデライトや3八面体スメクタイトに分類されるサポナイト、ヘクトライトなどが挙げられる。バーミキュライト族においては、2八面体型バーミキュライトや3八面体型バーミキュライトが挙げられる。雲母においては、金雲母、白雲母、フッ素金雲母、フッ素四ケイ素雲母、ナトリウム四ケイ素雲母、Na型テニオライト、Li型テニオライトなどが挙げられる。また、上記の他に、カネマイト、マカタイト、マガディアイト、ケニアイトなどのアルミニウムやマグネシウムを含まない層状ケイ酸塩を使用することもできる。これらは天然に存在するものを精製したものであっても、水熱法など公知の方法で合成したものであってもよい。本発明において用いられる層状ケイ酸塩の好適例としては、モンモリロナイト、ヘクトライト、バイデライト、サポナイト、マイカなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
図2に、層状ケイ酸塩の一例として、Na型モンモリロナイトの構造を模式的に示す。
【0018】
層状ケイ酸塩の平均粒径としては、特に限定されるものではなく、操作性の観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以以下、更に好ましくは50μm以下である。また、下限としては、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上である。なお、本明細書において、層状ケイ酸塩の平均粒径とは、層部分の最大面積を有する面の径を意味し、長径と短径がある場合はその平均値のことである。例えば、粒度分布計(ベックマン・コールター社製)により測定することができる。層状ケイ酸塩の平均粒径の調整は、例えば、粉砕又は篩等により分級することにより、容易に行うことができる。
【0019】
本発明で用いられる抗菌剤としては、口腔内に適用可能なものであれば特に限定はなく、各種のアニオン性抗菌剤、非イオン性抗菌剤、カチオン性抗菌剤、両イオン性抗菌剤を使用することができる。なかでも、層状ケイ酸塩との反応性の観点から、カチオン性抗菌剤が好ましく、第四級アンモニウム塩化合物がより好ましい。具体的には、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0020】
抗菌剤の使用量は、層状ケイ酸塩100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、30質量部以上が更に好ましく、200質量部以下が好ましく、180質量部以下がより好ましく、150質量部以下が更に好ましい。
【0021】
層状ケイ酸塩に抗菌剤を担持させた抗菌性層状ケイ酸塩は、公知の方法に従って調製することができる。具体的には、例えば、抗菌剤と層状ケイ酸塩とを溶媒中にて接触させることができればよく、層状ケイ酸塩をイオン交換水に添加して調製した懸濁液に、抗菌剤をイオン交換水に溶解した溶液を徐々に滴下して攪拌し、固形成分を得る。用いる溶媒の種類及びその量、攪拌時の温度及び時間、ならびにその他の条件は公知技術に従って適宜調整することができる。得られた固形成分は、ろ取後に洗浄、乾燥してもよく、乾燥後に粉砕あるいは凍結乾燥してもよい。
【0022】
得られた抗菌性層状ケイ酸塩の平均粒径としては、特に限定されるものではなく、歯科用品へ適用する観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以以下、更に好ましくは50μm以下である。また、抗菌性を発揮する観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上である。なお、平均粒径は前述と同様の方法により測定することができる。
【0023】
また、抗菌性層状ケイ酸塩中の化学吸着した抗菌剤の含有量は、特に限定されるものではなく、層状ケイ酸塩の層表面に存在する負の電荷と結合して層間を広げる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。上限としては、30質量%程度である。また、抗菌性層状ケイ酸塩中に物理吸着した抗菌剤の含有量は、特に限定されるものではなく、抗菌性を発揮する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。上限としては、45質量%程度である。本発明において、抗菌性層状ケイ酸塩中の化学吸着した抗菌剤及び物理吸着した抗菌剤の含有量は、例えば、熱分析計により測定することができる。
【0024】
歯科用組成物中の抗菌性層状ケイ酸塩の含有量は、抗菌活性が回復されるのであれば特に限定はなく、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。また、上限は特に設定されず、例えば、歯科用組成物が抗菌性層状ケイ酸塩からなるものであってもよく、100質量%以下であればよい。
【0025】
本発明における歯科用組成物においては、抗菌性層状ケイ酸塩以外に、その他の成分を本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。その他の成分としては、従来の歯科用材料にて用いられる原料であれば特に限定はなく、例えば、重合性単量体、重合開始剤、樹脂、フィラー、重合禁止剤、酸化防止剤、顔料、染料、香味剤、紫外線吸収剤、有機溶媒、粘度調整剤、緩衝剤、研磨剤等を用いることができる。また、本発明における抗菌性層状ケイ酸塩と同様に、抗菌性を示す成分や他の薬効を示す成分、防カビ剤なども用いることができる。
【0026】
例えば、義歯床用樹脂を更に含有する場合、本発明における抗菌性層状ケイ酸塩の含有量は、義歯床用樹脂100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.01質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上が更に好ましく、30質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、3質量部以下が更に好ましい。
【0027】
本発明における歯科用組成物は、前記した抗菌性層状ケイ酸塩を含有するのであれば、特に限定なく調製することができる。既成の歯科用組成物に対して本発明における抗菌性層状ケイ酸塩を調製時又は調製後に添加してもよく、添加時期や添加方法については特に限定されるものではない。例えば、抗菌性層状ケイ酸塩と樹脂、さらに必要により、その他の添加剤を含有する原料を公知の混合機を用いて混合練合して調製することができ、公知技術に従って更に成形して調製することができる。
【0028】
得られた歯科用組成物は、例えば、義歯用材料、歯科修復材料の各種歯科用材料の原材料、及び歯科用セメントとして好適に用いることができる。具体的には、人工歯、義歯床用材料、歯科充填用樹脂材料(歯科充填用レジン)、歯冠修復用樹脂材料、歯科用接着材、歯科用セメント、歯科用印象材等が挙げられる。義歯床用材料としては、義歯床用樹脂材料、硬質義歯裏装材料、軟質義歯裏装材料、粘膜調整材料、義歯修復用樹脂材料を例示することができる。また、歯科充填用レジンとしては、歯科充填用複合樹脂材料、歯科充填用低粘度樹脂材料、歯科仮封用樹脂材料、歯科用コーティング樹脂材料、及び支台築造用複合樹脂材料が例示され、歯冠修復用樹脂材料としては、歯冠修復用硬質レジン材料を例示することができる。歯科用セメントとしては、接着、合着、裏装、充填、仮封等に用いる歯科用グラスアイオノマーセメント、歯科用レジンモディファイドグラスアイオノマーセメント、及び歯科用レジンセメントを例示することができる。歯科用印象材としては、寒天印象材、アルジーネート印象材、シリコーン印象材等を例示することができる。また、これらの形状は特に限定されず、公知の歯科用材料の形状とすることができる。
【0029】
このようにして抗菌性層状ケイ酸塩を含有する歯科用組成物を得ることができる。本発明では、得られた組成物を抗菌剤を含む溶液中に浸漬して、抗菌活性を回復させる。
【0030】
抗菌剤を含む溶液としては、用いる抗菌剤によって一概には決定されず、抗菌剤を溶解できるものであれば特に限定はない。例えば、イオン交換水を好適に用いることができる。
【0031】
抗菌剤の浸漬液中の濃度(質量/体積:w/v)(%)としては、抗菌性を十分に回復させる観点から、0.0001w/v%以上が好ましく、0.001w/v%以上がより好ましく、0.01w/v%以上が更に好ましく、20w/v%以下が好ましく、10w/v%以下がより好ましく、2w/v%以下が更に好ましい。
【0032】
浸漬方法としては、組成物の一部又は全体が浸漬するのであれば特に限定はない。浸漬温度や時間は、特に限定されないが、例えば、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上であり、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下の温度で、好ましくは1〜24時間、より好ましくは2〜24時間、更に好ましくは5〜24時間浸漬する態様が挙げられる。浸漬は単回で又は断片的に複数回行ってもよく、ここでの浸漬時間は使用前に浸漬した総時間であり、単回の浸漬時間であっても、複数回浸漬した合計時間であってもよい。
【0033】
浸漬後の組成物は、公知の方法に従って、乾燥してもよい。
【0034】
かくして、歯科用組成物の抗菌活性を回復することができる。抗菌活性の回復度合いとしては、一概には決定されないが、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましい。上限は100質量%程度である。なお、ここでの抗菌活性の回復度合いとは、抗菌性層状ケイ酸塩における放出され得る抗菌剤の初期量、即ち、初期に物理吸着した抗菌剤量に対する回復量を意味する。抗菌活性の回復度合いは、抗菌剤の浸漬液中の濃度や浸漬方法、浸漬温度、浸漬時間等により調整することができる。
【0035】
また、抗菌活性回復後の歯科用組成物における抗菌性層状ケイ酸塩は、その層間距離が浸漬前と同等かより拡大したものとなる。ここで、層間距離とは層の厚み中心から隣り合う層の厚み中心までの距離をいい、使用するケイ酸塩の種類によって異なる。例えば、抗菌剤が塩化セチルピリジニウムであり、層状ケイ酸塩がモンモリロナイトである組み合わせでは、抗菌活性回復後の層間距離は、1.7nm以上が好ましく、1.9nm以上がより好ましく、2.1nm以上が更に好ましい。上限は通常4.2nm程度である。なお、浸漬前の層間距離は浸漬前にどの程度の抗菌剤が脱離したかによって異なるが、通常1.7nmから2.1nm程度である。脱離した抗菌剤は主に物理吸着した抗菌剤であり、化学吸着した抗菌剤は層間に残っている。抗菌剤の再挿入においては、物理吸着による抗菌剤が層間の化学吸着した抗菌剤間の隙間に入り込むため、層間距離はほとんど変化しない。ただし、抗菌剤の再挿入量が多くなると、層間距離の拡張を伴う。抗菌剤を担持させる前の層間距離は通常1.3nm程度である。層状ケイ酸塩の層間距離は、例えば、粉末X線回折パターンを測定して算出することができる。
【0036】
また、本発明の一態様として、抗菌剤を担持させた抗菌性層状ケイ酸塩を含有してなる歯科用組成物であって、抗菌剤の溶出により抗菌活性の低下した歯科用組成物を、前記抗菌剤を含む溶液中に浸漬することを特徴とする、抗菌活性の回復した歯科用組成物の調製方法及び該方法により得られた歯科用組成物を提供する。即ち、本発明により、一旦低下した抗菌活性を有する歯科用組成物を、抗菌剤を含む溶液中に浸漬することで、抗菌活性の回復した歯科用組成物とすることができる。なお、ここで用いる原料、その使用量や割合、調製方法については、本発明の歯科用組成物の抗菌活性回復方法における記載を参照することができる。
【0037】
また、本発明の別の態様として、本発明の歯科用組成物の抗菌活性回復方法や本発明の抗菌活性の回復した歯科用組成物の調製方法において用いるための、抗菌剤を含む抗菌活性回復用組成物を提供する。該抗菌活性回復用組成物は、抗菌剤を含み、抗菌剤を含む溶液(浸漬液)を調製することができれば特に限定はなく、該浸漬液そのものだけでなく、希釈する前や溶解する前の状態のもの(例えば、錠剤、液剤等の製剤)も含む。また、用いる原料、その使用量や割合については、本発明の歯科用組成物の抗菌活性回復方法における記載を参照することができ、その調製方法やその他の原料はその形状に応じて公知技術に従って選択することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0039】
〔CPC-モンモリロナイト(初期サンプル)の調製〕
まず、Na型モンモリロナイト(クニミネ工業製、クニピアF)5gをイオン交換水500mLに添加攪拌して、Na型モンモリロナイト懸濁液を調製した。また、塩化セチルピリジニウム(CPC)10.5gをイオン交換水250mLに添加攪拌して、CPC溶液を調製した。次に、CPC溶液をNa型モンモリロナイト懸濁液中にゆっくりと滴下し、24時間攪拌した。固形成分を水洗・ろ過し、室温(25℃)で自然乾燥した後、固形物を粉砕機を用いて微粉化してCPC-モンモリロナイト(初期サンプル)を得た。
【0040】
CPC-モンモリロナイト(初期サンプル)中のセチルピリジニウムイオン及び塩化セチルピリジニウムの含有量は、それぞれ16質量%、43質量%であった。これは、モンモリロナイト100質量部に対して、それぞれ38質量部、105質量部に相当し、抗菌剤の使用量としては143質量部となる。セチルピリジニウムイオンの含有量はモンモリロナイトの理論交換容量と一致し最大値となっている。なお、CPC-モンモリロナイト中のセチルピリジニウムイオン及び塩化セチルピリジニウムの含有量は、熱分析による質量減少量より算出した。
【0041】
試験例1(CPC-モンモリロナイトのリチャージ量)
内径5mmのガラスカラムに0.82gのCPC-モンモリロナイト(初期サンプル)を充填した。このガラスカラムに水道水を90日間通水してCPCを溶出させた後、サンプルを室温乾燥してCPC溶出サンプルを得た。得られたサンプル中のセチルピリジニウムイオン及び塩化セチルピリジニウムの含有量は、熱分析による測定から、それぞれ26質量%、6質量%であった。これはモンモリロナイト100質量部に対して、それぞれ38質量部、9質量部に相当する。即ち、セチルピリジニウムイオンの溶出はなく、塩化セチルピリジニウムの溶出量は91質量%であった。
【0042】
次いで、CPC溶出サンプル0.15gを1w/v%濃度のCPC溶液10mL中に添加して、室温(25℃)で17時間振とうしながら浸漬した。その後、室温乾燥してCPC再挿入(リチャージ)サンプルを得た。浸漬前のCPC溶出サンプルのセチルピリジニウムイオンの含有量は、モンモリロナイトの理論交換容量と一致するため、これ以上増加することはない。したがって、浸漬における溶液中のセチルピリジニウム濃度変化から塩化セチルピリジニウムの挿入量を見積もることができる。前記濃度変化を紫外・可視吸光光度法により測定し、CPC溶出サンプル1gあたりの塩化セチルピリジニウムの吸着量は250mgと測定された。これはモンモリロナイト100質量部に対して、セチルピリジニウムイオンは38質量部、塩化セチルピリジニウムは46質量部に相当し、塩化セチルピリジニウムが増加していることが確認できた。この場合の抗菌活性の回復度合いは、44質量%と算出される。
【0043】
試験例2(CPC-モンモリロナイトのリチャージによる層間距離の変化)
Na型モンモリロナイト、CPC-モンモリロナイト(初期サンプル)、CPC-モンモリロナイト(凍結乾燥物)、CPC溶出サンプル、CPC再挿入サンプル(リチャージサンプル)の粉末X線回折パターンを測定し、2θが最も低角度側のピークから層間距離を算出した。結果を表1及び
図3に示す。なお、CPC-モンモリロナイト(初期サンプル)をろ取したものについて、凍結乾燥したものも調製した。
【0044】
【表1】
【0045】
表1より、CPC-モンモリロナイト(初期サンプル)、CPC-モンモリロナイト(凍結乾燥物)、CPC溶出サンプル、CPC再挿入サンプル(リチャージサンプル)の層間距離は、Na型モンモリロナイトの層間距離に比べて増加していることから、層間にセチルピリジニウムイオン及び塩化セチルピリジニウムが存在していることが示唆される。
【0046】
試験例3(CPC-モンモリロナイトのリチャージによる抗菌活性の回復試験1)
CPC-モンモリロナイト(初期サンプル)、CPC溶出サンプル、CPC再挿入サンプル(リチャージサンプル)を用い、それぞれストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の菌懸濁液に対し0.01質量%となるように添加し、18時間後の菌の増殖を吸光度を用いて評価した。CPCを添加しない菌懸濁液の吸光度より低い吸光度を示せば、抗菌性があると評価される。抗菌性がある場合を「○」、抗菌性がない場合を「×」とした。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表2より、CPC溶出サンプルは抗菌性が一旦低下しているものの、CPC再挿入サンプル(リチャージサンプル)は抗菌性が回復していることが分かる。また、CPC再挿入サンプル(リチャージサンプル)は、ストレプトコッカス・ミュータンス、カンジダ・アルビカンスのいずれの菌に対しても、抗菌効果が示されている。
【0049】
試験例4(CPC-モンモリロナイトのリチャージによる抗菌活性の回復試験2)
試験例1と同様にして得られたCPC溶出サンプルを、1w/v%濃度のCPC溶液中にて37℃で8時間振とうしながら浸漬した。その後、室温乾燥してCPC再挿入サンプル(リチャージサンプル)を得た。
【0050】
次に、市販のPMMA粉末(商品名:UnifastIII、ジーシー社製)に対し、2質量部になるように得られたCPC再挿入サンプル(リチャージサンプル)を混合し、十分に撹拌し、混和器に入れた。これに専用液(製品名:UnifastIII、ジーシー社製)を規定量加え、素早くスパチュラにて混和し、その後、適度な餅状物となったところで、直径10mm、厚さ3mmのシリコンモールドに入れ、上部をスライドガラスで押さえ、硬化させた。硬化後、硬化物を取り出し、後述する抗菌性試験に使用した。
【0051】
また、同様に、市販の歯科用粘膜調製材・機能印象材(製品名:松風ティッシュコンディショナーII、松風社製)に対し、2質量部になるように得られたCPC再挿入サンプル(リチャージサンプル)を混合し、十分に撹拌し、混和器に入れた。これに専用液(製品名:松風ティッシュコンディショナーII、松風社製)を規定量加え、30秒間混和した。混和したペーストをガラス板の上に流し、厚みが1mmとなるように上からガラス板で圧接した。流動性が少なくなった後、上部のガラス板を外し、直径10mmにくり抜いて、後述する抗菌試験に使用した。
【0052】
24wellプレートに表3又は表4に示すサンプルを並べ、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)又はカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の菌懸濁液2mLを加え、蓋をした後、37%の培養器にて24時間培養した。24時間ごとに吸光度測定と新しい菌液への交換を行って、1週間測定を継続した。CPCを添加しない菌懸濁液の吸光度より低い吸光度を示せば、抗菌性があると評価される。抗菌性がある場合を「○」、抗菌性がない場合を「×」とした。結果を表3及び4に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
表3及び4より、CPC再挿入サンプル(リチャージサンプル)を配合した歯科用組成物は、ストレプトコッカス・ミュータンス、カンジダ・アルビカンスのいずれの菌に対しても抗菌性に優れるものであり、一旦回復した抗菌性がCPC再挿入サンプル(リチャージサンプル)から持続的に放出されていることが示唆される。
【0056】
以下に、本発明における抗菌性層状ケイ酸塩含有歯科用組成物の処方例を挙げる。
【0057】
処方例:粘膜調整材(ティッシュコンディショナー)
以下の粉末成分と本発明における抗菌性層状ケイ酸塩を混合したものに、以下の液成分と必要によりその他成分を混合することで、粘膜調整材が得られる。粉末成分:ポリメタクリル酸エチル(PEMA)、ポリメタクリル酸ブチル(PBMA)
液成分:可塑剤としての芳香族エステル(ブチルフタリルグリコール酸ブチル(BPBG)、フタル酸ブチル(DBP)、フタル酸ベンジルブチル(BBP)、安息香酸ベンジル(BB))や脂肪族エステル(セバシン酸ジブチル(DBS))の組み合わせ
その他成分:エチルアルコール
【0058】
処方例:即時重合レジン
以下の粉末成分と本発明における抗菌性層状ケイ酸塩を混合したものに、以下の液成分を混合することで、即時重合レジンが得られる。
粉末成分:メタクリル酸エステル重合体
液成分:メタクリル酸メチル