【実施例】
【0057】
以下の実施例において、以下に示す試料、試薬、装置、及び条件を使用した。
(1)試料
コムギ(Triticum aestivum)としては、国内産コムギ4品種(A〜D)及び外国産コムギ19品種(E〜W)の乾燥種子を用いた。
【0058】
デュラムコムギ(Triticum durum)は1品種の乾燥種子を用いた。
【0059】
トウモロコシ(Zea mays)としては、デントコーンの乾燥種子を用いた。
【0060】
ダイズ(Glycine max)としては、遺伝子組換えダイズであるRoundup Ready Soy系統後代品種の乾燥種子を用いた。
【0061】
コメ(Oryza sativa)としては、コシヒカリ種の乾燥種子を用いた。
【0062】
オオムギ(Hordeum vulgare)としては、在来の5品種の乾燥種子を用いた。
【0063】
オーツムギ(Avena sativa)としては、市販品種の乾燥種子を用いた。
【0064】
ライムギ(Secale cereale)としては、市販の2品種の乾燥種子を用いた。
【0065】
ナタネ(Brassica napus)としては、canola種の乾燥種子を用いた。
【0066】
アワ(Setaria italica Beauvois)としては、モチアワ種の乾燥種子を用いた。
【0067】
キビ(Panicum miliaceum Panicum)としては、モチキビ種の乾燥種子を用いた。
【0068】
マイロ(Sorghum subglabrescens)としては、市販品の乾燥種子を用いた。
【0069】
ソバ(Fagopyrum esculentum)としては、在来品種の乾燥種子を用いた。
【0070】
(2)試薬
試料からのDNA抽出には、以下の試薬を使用した。
ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)(試薬特級)(Sigma Chemical Co.)
QIAGEN DNeasy Plant Maxi Kit(QIAGEN GmbH)
QIAGEN DNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN GmbH)
【0071】
DNAの電気泳動には、以下の試薬を使用した。
酢酸(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
トリス[ヒドロキシメチル]アミノメタン(Tris)(試薬特級)(Sigma Chemical Co.)
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(試薬特級)(Sigma Chemical Co.)
アガロース粉末”LO3「TaKaRa」”(宝酒造株式会社)
エチジウムブロミド(Sigma Chemical Co.)
ブロムフェノールブルー(Sigma Chemical Co.)
キシレンシアノール(Sigma Chemical Co.)
DNAマーカー”1kbラダー”(New England Biolabs Inc.)
DNAマーカー”100bpラダー”(New England Biolabs Inc.)
【0072】
定性的PCRには、以下の試薬を使用した。
DNAポリメラーゼ”AmpliTaq Gold”(Applied Biosystems)
×10 PCR バッファーII(Applied Biosystems)
【0073】
プラスミドの作製及び精製には、以下の試薬を使用した。
DNAポリメラーゼ”AmpliTaq Gold”(Applied Biosystems)
×10 PCR バッファーII(Applied Biosystems)
DNAポリメラーゼ”KOD”(東洋紡績株式会社)
×10 PCR バッファーII(東洋紡績株式会社)
TOPO TA Cloning Kit with TOP10F’ Cells(Invitrogen Co.)
酵母エキストラクト(Difco Laboratories)
トリプトン ペプトン(Difco Laboratories)
NaCl(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
アガー粉末(TAKARA BIO)
D[−]−α−Aminobenzylpenicillin(Ampicilin)Sodium Salt(Sigma Chemical Co.)
QIAGEN Plasmid Maxi Kit(QIAGEN GmbH)
エタノール(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
2−プロパノール(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
トリス[ヒドロキシメチル]アミノメタン(Tris)(試薬特級)(Sigma Chemical Co.)
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)(試薬特級)(Sigma Chemical Co.)
制限酵素”EcoRI”(宝酒造株式会社)
制限酵素”SacI”(New England Biolabs Inc.)
制限酵素”XbaI”(New England Biolabs Inc.)
Calf Intestinal Alkaline Phosphatase (Invitrogen)
フェノール(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
クロロホルム(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
イソアミルアルコール(試薬特級)(和光純薬工業株式会社)
【0074】
定量的PCRには、TaqMan Universal PCRマスターミックス(Applied Biosystems)を使用した。
【0075】
(3)装置
試料からのDNA抽出には、粉砕器”Multi Beads Shocker MB301”(安井器械株式会社.)を使用した。
【0076】
DNAの電気泳動には、電気泳動装置”Mupid 2”(Advance Co.,Ltd.)を使用した。
【0077】
定性的PCRには、サーマルサイクラー”PTC−200”(MJ Research Inc.)を使用した。
【0078】
定量的PCRには、定量的PCR装置”ABI PRISM 7700 Sequence Detector System”(Applied Biosystems)を使用した。
【0079】
(4)条件
プライマー及びプローブの合成は、Operon社に委託した。
【0080】
制限酵素消化は、各制限酵素のマニュアルに従い実施した。すなわち、各DNA溶液と酵素に添付の×10バッファー、蒸留水、及び制限酵素を混合し、通常37℃2時間反応した。
【0081】
制限酵素消化後のDNA断片は、アガロースゲル電気泳動で分離した。ゲルからの精製はQIAGEN社製キットを使用した。すなわち、目的DNAを含んだゲルを加熱融解し、DNAをシリカ膜に結合させた。次に、エタノールを含む溶液等でシリカ膜を洗浄した後、蒸留水で溶出した。
【0082】
制限酵素消化プラスミドの脱リン酸化の際には、制限酵素消化後、脱塩処理したプラスミドをCIAP(GIBCO社製)と専用バッファーを混合し、37℃で30分間反応した。反応後フェーノル処理によりCIAPを失活せしめ、エタノール沈殿で脱リン酸化プラスミドを回収した。
【0083】
DNAのライゲーションには、宝酒造株式会社製DNAライゲーション・キットVer.2を使用した。すなわち、目的DNAを混合し、キットの反応混合液(soln I)を等量加え、16℃で30分間静置することによりDNAをライゲーションした。
【0084】
形質転換には、東洋紡績株式会社製Competent Cell E. coli DH5aを使用した。融解した10〜50mLのコンピテントセルを氷上でDNAと30分間混合静置し、42℃で50秒間ヒートショック後、氷上に戻し、2分後37℃に暖めておいたSOC培地を450mL添加、37℃で1時間インキュベートした。この溶液をサークルグロー培地
Amp+プレートに100mL/plate展開し、37℃で16時間培養した。
【0085】
プラスミド精製の目的での培養は、培地サークルグローを用いて実施した。プラスミド産生の選択圧にはAmp耐性を利用し、終濃度100mg/mLのアンピシリンを用いた。培養は、37℃の試験管振盪器で、14乃至16時間行った。
【0086】
PCRには、アプライドバイオシステムズ社製AmpliTaq Gold polymeraseを使用した。なお、表1に記載の反応組成を用い、表2に記載の反応条件を用いた。
【表1】
【表2】
【0087】
TAクローニングはインビトロジェン社製TOPO TAクローニングシステムを用いた。方法は同社マニュアルに従い実施した。
【0088】
DNAのシーケンシングはベックマンコールター社製CEQ8000を用い実施した。方法は同社マニュアルに従い実施した。キットとして同社DTCS Quick Startマスターミックスを用いた。
【0089】
リアルタイムPCRには、TaqMan法を使用した。キットには、TAKARAプレミックスEx Taq(登録商標)(Perfect Real Time) Code No.RR039Aを使用した。リアルタイムPCRを実施する際には、各種ゲノムDNA濃度を希釈せずにテンプレートとした。また、表3のようにプレミックス、ROX、プライマー、及びプローブを混合して、マスターミックスを調整した。次に、16mL/ウェルのマスターミックスと4mL/ウェルのテンプレートDNAとを混合し、表4に記載の条件に従って反応を開始させた。
【表3】
【表4】
【0090】
テンプレートDNA(Plasmid pWIG04)は、表5のように希釈した。希釈には、5ng/mLのColE1溶液を用いた。
【表5】
【0091】
少量の種子の粉砕する場合、マルチビーズショッカーを粉砕機として使用した。粉砕の際には、2mLチューブに種子を1粒入れ、金属コーンを入れふたをし、2000rpm、10秒間2回粉砕し、粉砕された粉末から直接DNA抽出した。
【0092】
ゲノムDNAの調製には、QIAGEN Plant Mini Kitを使用した。操作は、キットマニュアルに従った。具体的には、粉砕種子に400mLのAP1溶液、4mLのRNaseAを添加し、攪拌した。次に、65℃で10分間インキュベートした。インキュベート中に、2、3回攪拌した。次に、130mLのAP2を添加し、攪拌後10分間氷上で放置した。次に、遠心分離(15000rpm=20000g、5分、室温)し、上清をQIAshredderに全量アプライし、さらに遠心分離(15000rpm、2分、室温)した。次に、デカントでパススルー上清を別容器に移し1.5容積(675mL)のAP3/Eを添加し、攪拌した。次に、半量をSpinカラムにアプライし、遠心分離(10000rpm、1分、室温)した。フロースルーを捨て、残量を同処理した。その後、新しいチューブにカラムをおき、500mLのAW添加、遠心分離(10000rpm、1分、室温)した。同処理後、フロースルーを捨て、さらに遠心分離(15000rpm,2分、室温)した。1.5mLの新しいチューブにカラムをおき50mLのAEを添加し、、室温に5分間放置した後、遠心分離(10000rpm、1分、室温)した。
【0093】
DNAの定量には、分光光度計(GeneSpec)を使用した。定量を実施する際には、5mmのセルを用い、希釈率を1とした。また、対照にKit溶出液(AE)を用いた。
【0094】
(実施例1:標準プラスミドの構築)
国内産コムギの品種Aの種子よりゲノムDNAを抽出し、抽出したDNAを鋳型にして、表6に記載のプライマーを用いPCRを行った。
【表6】
【0095】
得られた増幅DNAをInvitrogen社TOPO TA cloningキットを用い、ベクターpCR4 TOPOにTAクローニングした。次に、得られた、プラスミドを制限酵素EcoRIで消化後、350bpの断片を電気泳動ゲルからの切出し法により精製した。その後、国際公開第2007/132760号パンフレットに記載のpWIG02を制限酵素EcoRIで消化し、脱リン酸化後、ここに精製断片をライゲーションし、標準プラスミドpWIG04を構築した。得られたクローンは制限酵素マッピングにより挿入断片を確認後、DNAシーケンシングにより全配列の確認を行った。確認された配列は全て目的配列と一致した。
【0096】
(実施例2:PRP遺伝子中の増幅領域の検索)
PRP遺伝子のうち、コムギ品種により検出量の変動が無い領域の検索を行った。コムギPRP遺伝子はオオムギのPRP遺伝子と相同性が有ることから、オオムギとは交差しない領域をプライマーとする事が望ましい。そこでオオムギ5品種に交差せず、コムギ3品種で増幅するプライマー領域を検索した。表7に記載のフォワード側プライマーPRP8Fを、リバース側プライマーPRPds6R又はPRPds7Rと組合せて、検索を行った。その結果、
図1に示すように、フォワード側プライマーPRP8Fとリバース側プライマーPRPds6Rとの組み合わせを用いると、コムギからはPCR産物が増幅するが、オオムギからはPCR産物が増幅しないことが確認された。また、フォワード側プライマーPRP8Fとリバース側プライマーPRPds7Rとの組み合わせを用いた場合も、コムギからはPCR産物が増幅するが、オオムギからはPCR産物が増幅しないことが確認された。
【表7】
【0097】
(実施例3:プローブの検索)
実施例2の検討により、種特異的遺伝子のPCR増幅領域として、PRP8F及びPRPds6Rで増幅される領域と、PRP8F及びPRPds7Rで増幅される領域とが好ましい事が確認された。そこで、これらの領域に対してプライマーに適合するプローブを設計した。プローブの設計はプライマー設計支援ソフト、Primer Express、又はPrimer3(The development of Primer3 and the Primer3 web site was funded by Howard Hughes Medical Institute and by the National Institutes of Health, National Human Genome Research Institute. under grants R01−HG00257 (to David C. Page) and P50−HG00098 (to Eric S. Lander).: http://frodo.wi.mit.edu/cgi−bin/primer3/primer3_www.cgi)を使用した。設計したプローブ配列を表8に示す。設計したプローブ配列から、蛍光標識プローブを合成した。なお、蛍光標識プローブにおいて、5‘末端を蛍光物質としてFAMで修飾し、3’末端をクエンチャーとしてTAMRAで修飾した。
【表8】
【0098】
(実施例4:リアルタイムPCRの条件設定)
実施例3で合成した蛍光標識プローブを用い、標準プラスミドpWIG04を鋳型にして、TaqMan法によるリアルタイムPCRの条件設定を行った。具体的には、プライマー濃度、プローブ濃度、PCR反応温度、及び時間についての各パラメーターを可変させ、リアルタイムPCRの最適条件を見出した。選択された条件を以下に示す。
【表9】
【表10】
【0099】
(実施例5:コムギ品種における普遍性の確認)
実施例4でリアルタイムPCRの最適条件を見出した後、コムギ品種23種について、TaqMan法によるリアルタイムPCRにより、コムギ種特異的DNAの検出量を比較した。プライマーとしては、配列番号4に記載のPRP8Fと配列番号6に記載のPRPds6Rとを用いた。また、プローブには、配列番号7に記載のPRP3−Taqを用いた。その結果、
図2に示すように、23種類総てのコムギ品種からPRPが検出され、PRPのコムギ種特異的遺伝子としての普遍性が確認された。
【0100】
(実施例6:特異性の確認試験)
本発明の実施の形態に係る方法で他の作物と交差しないことを確認する目的で、特異性試験を実施した。他の作物として、オオムギ、オーツムギ、ライムギ、コメ、マイロ、ナタネ、トウモロコシ、ソバ、アワ、及びキビを用いた。これら他の作物からDNAを抽出し、実施例4で見出した最適条件に従って、抽出したDNAを鋳型にしてリアルタイムPCRを行った。プライマーとしては、配列番号4に記載のPRP8Fと、配列番号5に記載のPRPds6Rとを用いた。また、プローブには、配列番号7に記載のPRP−Taq3を用いた。
図3に示すように、コムギで検出された値に対し、これら他の作物の非特異的検出率はオオムギ5品種全てで0.2%以下であり、他の作物は0.05%以下であった。したがって、非特異的検出率はコムギ検出における標準誤差をはるかに下回り、これら他の作物が、コムギ種特異的遺伝子の定量に影響を及ぼさないことが確認された。
【0101】
(実施例7:定量PCR装置の機種間誤差の検討)
定量PCR装置は多種類の装置が販売されており、装置ごとに性能が異なる場合もある。そこで本発明の実施の形態に係るプライマーセット及びプローブを用いて、その定量値に、定量PCR装置の機種間誤差が生じるかどうかを検討した。定量PCR 装置はApplied Biosystems社製PRISM7700及びApplied Biosystems 7500 リアルタイムPCRシステムを用いた。PCR反応試薬としてはTAKARAプレミックスEx Taq(登録商標)(Perfect Real Time) Code No.RR039Aを使用した。プライマーセットはPRP8F、PRPds6RをプローブはPRP−Taq3を用いた。鋳型には実施例1に記載したプラスミドpWIG04を用いた。プラスミドpWIG04を一反応あたり、10000、31623、10000、3162、1000、316、100、32コピー含むように希釈列を作成した。定量PCR反応は実施例4に示す方法を用いた。その結果、
図4に示すように、両機共に鋳型DNA希釈範囲で同様な増幅を示す事が確認された。したがって、本発明の実施の形態に係るプライマーセットとプローブは機種間誤差を生じさせないことが確認された。
【0102】
(配列表の説明)
本明細書の配列表に記載された配列番号1乃至17は、以下の配列を示す。
[配列番号:1] PRP遺伝子中の部分塩基配列。
[配列番号:2] フォワードプライマーPRP3Fの塩基配列。
[配列番号:3] リバースプライマーPRPds3Rの塩基配列。
[配列番号:4] フォワードプライマーPRP8Fの塩基配列。
[配列番号:5] リバースプライマーPRPds6Rの塩基配列。
[配列番号:6] リバースプライマーPRPPds7Rの塩基配列。
[配列番号:7] プローブの塩基配列。
【0103】
本明細書において塩基を略号で表示する場合、IUPAC−IUB Commision on Biochemical Nomenclatureによる略号、あるいは当該分野における慣用略号を用いる。以下に、略号の例を示す。
【0104】
a : アデニン、t : チミン、g : グアニン、c : シトシン。
なお、PRPのGnebank番号はX52472であり、PRP−ESTのGnebank番号はCV772819であり、オオムギPRPのGnebank番号はBE601897であり、オオムギPRPcDNAのGnebank番号はCB881611である。