特許第5951448号(P5951448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5951448
(24)【登録日】2016年6月17日
(45)【発行日】2016年7月13日
(54)【発明の名称】概日リズム調整剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20160630BHJP
   A61K 36/22 20060101ALI20160630BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20160630BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20160630BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20160630BHJP
【FI】
   A61K31/05
   A61K36/22
   A61K36/899
   A61P25/02 103
   A61P25/20
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-241533(P2012-241533)
(22)【出願日】2012年11月1日
(65)【公開番号】特開2013-256486(P2013-256486A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2012-111161(P2012-111161)
(32)【優先日】2012年5月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(72)【発明者】
【氏名】大石 勝隆
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 歴
(72)【発明者】
【氏名】大西 芳秋
(72)【発明者】
【氏名】冨田 辰之介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 奈々子
(72)【発明者】
【氏名】福留 真一
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋介
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 健二
【審査官】 鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−302505(JP,A)
【文献】 特表2002−500088(JP,A)
【文献】 PNAS,2007年,Vol.104, No.40,p.15899-15904
【文献】 Chemical Reviews,1999年,Vol.99, No.1,p.1-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/05
A61K 36/22
A61K 36/899
A61P 25/02
A61P 25/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを有効成分とする概日リズム調整剤。
【化1】
(式中、R1 は飽和または不飽和のアルキル基を表し、R2 は水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項2】
上記一般式(I)におけるR1 が、R2 に対してパラ位に結合した請求項1記載の概日リズム調整剤。
【請求項3】
上記一般式(I)におけるR1 が、炭素原子数15〜27の飽和または不飽和のアルキル基である請求項1または2記載の概日リズム調整剤。
【請求項4】
上記一般式(I)におけるR1 が炭素原子数15または21の飽和アルキル基であり、R2 が水素原子である請求項1または2に記載の概日リズム調整剤。
【請求項5】
アルキルレゾルシノールとして、穀類またはナッツ類から抽出したアルキルレゾルシノール含有抽出物を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の概日リズム調整剤。
【請求項6】
アルキルレゾルシノール含有抽出物が、穀のアルコール抽出物である請求項5記載の概日リズム調整剤。
【請求項7】
穀類が小麦またはライ麦であり、ナッツ類がカシューナッツである請求項5または6に記載の概日リズム調整剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の日内リズムを調整するための概日リズム調整剤に関する。本発明の概日リズム調整剤は、アルキルレゾルシノールを有効成分とする。
【背景技術】
【0002】
概日リズムの変調による多くの疾患が知られている。これらの疾患を改善するために、様々な概日リズム調整剤が提案されている。
例えば、概日リズム調整剤として、メラトニンなどの内分泌ホルモンを有効成分とする概日リズム調整剤が知られているが、内分泌ホルモンによる改善は、副作用の発現により安全性の問題があり、安全性の高い素材が求められている。
また、社会的問題となっている睡眠障害の中に概日リズム睡眠障害があり、それを根本的に改善する為に周期を調節する素材が求められている。
【0003】
食品由来の概日リズム調整剤についての報告もある。例えば、特許文献1には、温州みかんから抽出されたクリプトキサンチンおよび/またはそのエステル体を有効成分とする体内時計正常化効果を有する組成物が提案されている。
また、特許文献2には、アラキドン酸含有油脂を有効成分とする日内リズム正常化組成物が提案されている。
【0004】
一方、合成されたアルキルレゾルシノールおよびその誘導体や、小麦、ライ麦などの穀類の種皮やカシューナッツなどのナッツ類の種皮から抽出されたアルキルレゾルシノール含有抽出物が、抗肥満作用、抗酸化作用、抗免疫作用などを有することは報告されているが、概日リズム調整作用を有していることは知られていない。
【0005】
アルキルレゾルシノールは、天然の非イソテルぺノイド系フェノール性両親媒性化合物であるレゾルシノール脂質として広く植物に含まれることが報告されている(非特許文献1)。非特許文献1には、レゾルシノール脂質の給源となる植物として、ウルシ科、イチョウ科、ヤマモガシ科、ヤブコウジ科、サクラソウ科、ニクズク科、アヤメ科、サトイモ科、キク科のヨモギ、マメ科、イネ科が報告されている。なお、アルキルレゾルシノールの毒性に関しては、カシューナッツの殻由来の炭素原子数15の飽和アルキル基を有する4−アルキルレゾルシノールを、ラットに5g/kg体重の量で経口投与しても、明らかな毒性は観察されなかったことが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−084192号公報
【特許文献2】特許第4633048号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chemical Reviews (1999) 、 Vol.99 、 No.1 、 pp.1-25、 Arkadiusz Kozubek et al.
【非特許文献2】Nutrition Reviews (2004)、 Vol.62 、 No.3 、 pp.81-95 、 Alastair B. Ross et al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、食品由来で、長期服用しても安心かつ安全な概日リズム調整剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意検討した結果、アルキルレゾルシノールやアルキルレゾルシノールを高含有する穀類抽出物が、体内時計遺伝子発現や概日行動リズムに影響することを知見した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを有効成分とする概日リズム調整剤、および、下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを含有する穀類またはナッツ類から抽出したアルキルレゾルシノール含有抽出物を有効成分として含有する概日リズム調整剤を提供するものである。
【0011】
【化1】
(式中、R1 は飽和または不飽和のアルキル基を表し、R2 は水素原子またはメチル基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の概日リズム調整剤は、概日リズムの変調を調整し、生体の日内リズムを正常化するために有効である。また、有効成分であるアルキルレゾルシノールおよびアルキルレゾルシノール含有抽出物は、安全性が高く、副作用がないので、本発明の概日リズム調整剤は、使用上の問題がなく有利である。
また、本発明の概日リズム調整剤は、概日リズム睡眠障害の改善に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の概日リズム調整剤(アルキルレゾルシノールの合成品)体内時計遺伝子発現への影響を示すグラフである。
図2】実施例2の概日リズム調整剤(小麦ふすまからエタノール抽出して得られたアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物)の体内時計遺伝子発現への影響を示すグラフである。
図3】実施例3の概日リズム調整剤(ライ麦からエタノール抽出して得られたアルキルレゾルシノール含有ライ麦エタノール抽出物)の体内時計遺伝子発現への影響を示すグラフである。
図4】試験例2におけるアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物の高脂肪食負荷マウスの飲水行動リズムへの影響を示すグラフである。
図5】試験例3におけるアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物の高脂肪食負荷マウスのコルチコステロン分泌への影響を示すグラフである。
図6】試験例4におけるアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物のストレス負荷マウスの輪回し行動への影響を示すグラフである。
図7】試験例5におけるアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物の高脂肪高ショ糖食負荷マウスの飲水行動リズムへの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の概日リズム調整剤は、上記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを有効成分とするものである。該アルキルレゾルシノールは、概日リズムの変調を調整し、生体の日内リズムを正常化する作用(概日リズム調整作用)を有する。
【0015】
上記一般式(I)におけるR1 で表される飽和または不飽和のアルキル基は、その炭素原子数により制限されるものではないが、炭素原子数15〜27であることが好ましく、炭素原子数15〜25であることがより好ましい。
【0016】
炭素原子数15〜27の飽和アルキル基としては、代表例として、n−ペンタデシル、n−ヘプタデシル、n−ノナデシル、n−ヘンイコシル、n−トリコシル、n−ペンタコシル、n−ヘプタコシルなどの直鎖状のものが挙げられ、これらのほかに、分岐状または環状のものでもよい。これらの中でも、炭素原子数15〜25の飽和アルキル基が好ましく、炭素原子数15〜25の直鎖飽和アルキル基がさらに好ましい。
【0017】
炭素原子数15〜27の不飽和アルキル基としては、上記の炭素原子数15〜27の飽和アルキル基に対応するものが挙げられる。不飽和アルキル基に含まれる不飽和結合の数および位置に特に制限はない。
【0018】
また、上記一般式(I)におけるR2 は水素原子であることが好ましく、また、R1 はR2 に対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0019】
本発明の概日リズム調整剤において有効成分として用いられる上記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの具体例としては、以下のものが挙げられる。
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタコシルベンゼン(C27:0)
【0020】
上記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールとしては、R1 が炭素原子数15〜25の飽和アルキル基であり、R2 が水素原子であるものが特に好ましく、とりわけ、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)が好ましい。
【0021】
上記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールは、常法により合成することができ、また市販品として入手することもできる。また、植物から常法により抽出したものを用いることもできる。アルキルレゾルシノールを含有する植物としては、ウルシ科、イチョウ科、ヤマモガシ科、ヤブコウジ科、サクラソウ科、ニクズク科、アヤメ科、サトイモ科、キク科のヨモギ、マメ科、イネ科などが挙げられる。これらの植物の中でも、イネ科植物は、可食性有効成分としてのアルキルレゾルシノールの研究が進んでおり、本発明の概日リズム調整剤に用いる有効成分の給源に適している。イネ科植物の中でも、特に小麦、ライ麦は、上記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの含量が全粒重量の0.015〜0.3質量%程度と高く、給源として好適である。
また、カシューナッツなどのナッツ類も本発明の概日リズム調整剤の有効成分であるアルキルレゾルシノールの給源として好適である。
【0022】
アルキルレゾルシノールとして、穀類またはナッツ類から抽出したアルキルレゾルシノール含有抽出物を用いる場合、該アルキルレゾルシノール含有抽出物としては、アルコール抽出物が好ましい。
アルコールによる抽出方法は特に制限されないが、上記各種形態のイネ科植物種子を、アルコール中に浸漬、攪拌又は還流等する方法、ならびに超臨界流体抽出法等が挙げられる。
抽出に用いることができるアルコールは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等の低級アルコール、および1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の室温で液体であるアルコールを挙げられ、操作性や環境性の点から、エタノールが好ましい。また上記有機アルコールには、さらに水性成分が含まれている含水アルコールも包含される。含水アルコール中のアルコール含有量は、通常70体積%以上、好ましくは80体積%以上、より好ましくは90体積%以上であるのが望ましい。抽出方法は常法に従って行われる。
【0023】
本発明の概日リズム調整剤は、有効成分である上記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノール、および必要に応じて薬学的に許容される種々の担体、賦形剤、安定化剤、その他の添加剤、その他の成分を含有するものである。本発明の概日リズム調整剤は、常法により製剤化することができ、その場合、本発明の概日リズム調整剤の剤型は、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などの経口剤、または上記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを、溶解補助剤と共に滅菌蒸留水または滅菌生理食塩水に溶解し、アンプル封入した注射用製剤などの非経口剤である。また、その他の成分としては、その他の薬効作用を有する成分、各種ビタミン類、生薬、ミネラル類などを、本発明の概日リズム調整作用を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0024】
本発明の概日リズム調整剤中の有効成分の含有量は、特に制限されるものではなく、概日リズム調整剤の剤型、投与される者の症状や年齢性別などによって適宜変化させることができ、ヒトを対象とする場合、通常、本発明の概日リズム調整剤の有効成分の投与量が成人1人1日当たり0.01〜10gとなるように含有させることが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例および試験例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例および試験例により制限されるものではない。
【0026】
実施例1
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)の合成品をナミキ商事より購入した(RESEARCHEM社製)。これを概日リズム調整剤とした。
【0027】
実施例2
下記の(抽出法)により、小麦ふすまからアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を得た。これを概日リズム調整剤とした。該抽出物に含まれるアルキルレゾルシノールは、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)を主成分とするものであった。
(抽出法)
小麦ふすまに5倍量のエタノールを添加して、150rpm、室温の条件で、2時間振とう抽出した。次いで、3500rpm、室温の条件で、15分間遠心分離して、上清を遠心濃縮機で乾燥した。得られた濃縮物の重量を測定して、420mg/mLとなるようにエタノールに溶解して、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を得た。
【0028】
実施例3
実施例2において、小麦ふすまの代わりにライ麦を用いた以外は、実施例2と同様に実施して、110mg/mLとなるようにエタノールに溶解して、ライ麦からアルキルレゾルシノール含有ライ麦エタノール抽出物を得た。これを概日リズム調整剤とした。該抽出物に含まれるアルキルレゾルシノールは、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)を主成分とするものであった。
【0029】
実施例4
下記の(抽出法)により、小麦ふすまからアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を得た。これを概日リズム調整剤とした。該抽出物に含まれるアルキルレゾルシノールは、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)を主成分とするものであった。
(抽出法)
小麦ふすまに5倍量のエタノールを添加して、600rpm、室温の条件で、16時間撹拌抽出した。抽出物を濾過して不要物を除きエタノール抽出液を回収した後、エタノールを留去し溶媒抽出物を得た。
次いで、この小麦エタノール抽出物を中圧クロマトグラフィーによって精製した。中圧クロマトグラフィー条件は下記の通りである。溶出開始後31〜36分に出現するピーク成分を回収して、溶媒留去し、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を得た。
<中圧クロマトグラフィー条件>
カラム: シリカゲル(インジェクトカラム3L、ハイフラッシュカラム5L、60Å、40μm、山善株式会社)
移動相: ヘキサン/酢酸エチル(体積比)=90/10にて9分、80/20にて15分、60/40にて16分
検出波長:254nm
【0030】
試験例1
実施例1〜3の概日リズム調整剤(1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物およびアルキルレゾルシノール含有ライ麦エタノール抽出物)について、下記の(試験方法)により、体内時計遺伝子発現への影響を調べた。その結果を図1図2および図3にそれぞれ示す。
図1から明らかなように、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼンを添加することで、Bmal1発現の概日リズムの位相を後退させ、周期を0.5時間短縮させた。
図2から明らかなように、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を添加することで、Bmal1発現の概日リズムの振幅を増大させた。図3から明らかなように、アルキルレゾルシノール含有ライ麦エタノール抽出物を添加することで、Bmal1発現の概日リズムの位相を後退させ、振幅を増大させた。
(試験方法)
発現タンパク質の迅速な分解をもたらすPEST配列を含むルシフェラーゼ発光ベクターpGL3-dLuc(Promega社製) に、時計遺伝子Bmal1のプロモーター領域(RORE配列及び転写開始部位を含む、−97〜+27)を組み込んで、組換えベクターを作製した。次に、マウス繊維芽細胞NIH3T3細胞株を約5×105 個、35mm培養ディッシュに播種して24時間培養後、前記組換えベクターをトランスフェクトした。
前記培養細胞を用いて、候補物質のスクリーニングを行った。トランスフェクトから24時間後、100nMデキサメサゾンを加えた培地で2時間培養することにより刺激を与え、各細胞のリズムの位相を同調させた。次に、NIH3T3細胞株の発光基質ルシフェリンを含む培地に被検物質を添加し、細胞培養を続けながら、リアルタイムでレポーター遺伝子による化学発光を測定した。被検物質は、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物およびアルキルレゾルシノール含有ライ麦エタノール抽出物である。1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼンは、エタノールに25mMの濃度で溶解したものを12.5μMとなるように培地に添加した。アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物およびアルキルレゾルシノール含有ライ麦エタノール抽出物は、それぞれ420mg/mL、110mg/mLとなるようにエタノールに溶解したものを、1.68mg/mL、0.33mg/mLとなるように培地に添加した。また、コントロールには、被検物質の溶媒であるエタノールを同じタイミングで添加し、発光量の変化を比較した。発光は10分毎に1分間測定した。発光量の測定には、AB-2550 Kronos Dio(アトー株式会社製)を用いた。
【0031】
試験例2
実施例4の概日リズム調整剤(アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物)について、下記の(試験方法)により、高脂肪食負荷マウスの飲水行動リズムへの影響を調べた。1日の飲水行動を6時間毎(L1;明期前半、L2;明期後半、D1;暗期前半、D2;暗期後半)に集計しその結果を図4に示す。NDは普通食摂餌マウス群、HFは高脂肪食摂餌マウス群、HFARはアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を0.5質量%添加した高脂肪食摂餌マウス群である。
図4から明らかなように、普通食摂餌群では、暗期後半に比べて暗期前半の飲水行動量が多い(朝型)のに対して、高脂肪食摂餌群では、暗期前半に比べて暗期後半の飲水行動量が多くなっている(夜型)。アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物の0.5質量%混餌で、高脂肪食負荷による飲水行動の夜型化を朝型に正常化させることがわかる。
続いて恒暗条件下で飼育して飲水行動リズムの周期を測定した。表1から明らかなように、概日リズム調整剤(アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物)を摂取した群は普通食摂餌および高脂肪食摂餌を摂取した群と比較して周期が有意に短縮されていた。暗期後半の活動量増加の抑制は、周期の短縮と関連する。一連の試験によって高脂肪食負荷による夜型化を改善することができた。
概日リズム調整剤を摂取することで、NDやHFの摂取より有意に周期が短くなることから、早起きを促進する効果や、体内時計周期が長いことに起因する睡眠相後退症候群の改善に有効である。
(試験方法)
普通食(ND)として、D12450B(Rodent Diet with 10% kcal% fat、Research Diets社製)、高脂肪食(HF)として、D12492(Rodent Diet with 60% kcal% fat、ResearchDiets社製)を用いた。アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物は、高脂肪食に0.5質量%添加した。
全期間を通して、マウスは個飼いとし、マウスの飲水行動は、クロノバイオロジーキット(Stanford Systems、CA)を用いて測定した。
C57BL/6JJmsSlc系統のマウス(4週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で2週間馴化飼育した。馴化飼育期間後、マウスを普通食摂餌群(6匹)、高脂肪食摂餌群(6匹)、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物添加高脂肪食群(5匹)の3群に分け、10週間自由摂食させた。自由摂取10週間後、恒暗状態にして飲水行動リズムを測定した。
【0032】
【表1】
【0033】
試験例3
実施例4の概日リズム調整剤(アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物)について、下記の(試験方法)により、高脂肪食負荷マウスのコルチコステロン分泌への影響を調べた。その結果を図5に示す。
図5から明らかなように、普通食摂餌群では、暗期直前にピークとなる血中コルチコステロン濃度の日内変動が認められる。高脂肪食摂餌群においては、ピークとなる時刻の遅れ(位相後退)とともに、日内変動の振幅が減衰することが分かる。ところが、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物の0.5質量%混餌では、高脂肪食負荷による血中コルチコステロンリズムの位相後退や振幅の減衰を正常化させることがわかる。
(試験方法)
普通食(ND)として、D12450B(Rodent Diet with 10% kcal% fat、Research Diets社製)、高脂肪食(HF)として、D12492(Rodent Diet with 60% kcal% fat、ResearchDiets社製)を用いた。アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物は、高脂肪食に0.5%添加した。
C57BL/6JJmsSlc系統のマウス(4週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で2週間馴化飼育した。
馴化飼育期間後、マウスを普通食摂餌群、高脂肪食摂餌群、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物添加高脂肪食群の3群(各群24匹)に分け、10週間自由摂食させた。
10:00から4時間毎に各群4匹ずつマウスを殺処分し、全採血後、血漿を分離した。血漿サンプルは−80℃で凍結保存し、市販のキット(AssayPro, St. Charls, MO)を用いて血中コルチコステロンの濃度を測定した。
【0034】
試験例4
実施例の概日リズム調整剤(アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物)について、下記の(試験方法)により、ストレス負荷マウスの輪回し行動への影響を調べた。その結果を図6に示す。
図6から明らかなように、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物の0.5質量%混餌で、ストレス性睡眠障害マウスの明期の行動量の増加を抑制し、正常化させることがわかる。
(試験方法)
粉末飼料AIN-93M(オリエンタル酵母工業株式会社製)にアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を0.5質量%添加した後、ペレット化を行った飼料を調製した。対照として、ペレット化したAIN-93Mを用いた。
マウスは、全期間を通して、回転かご(SW-15s、有限会社メルクエスト)内で個別飼育した。マウスの活動量は、クロノバイオロジーキット(Stanford Systems、CA)を用いて測定した。
Slc:B6C3F1系統のマウス(4週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で飼育した。被検群(アルキルレゾルシノール群、12匹)には、食餌としてアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物含有AIN-93Mを、対照群(11匹)には、AIN-93Mを与え、4週間自由摂食させた(非ストレス飼育期間)。
非ストレス飼育期間後、物理的に遮蔽してマウスが回転輪から降りられないように制限することにより、ストレス性睡眠障害を2週間連続的に誘発した(ストレス飼育期間)。このストレス性睡眠障害マウスは、一般的な睡眠障害に外挿できるリズム障害を示す。例えば、夜行性であるマウスの本来の非活動期である昼間(明期)の活動量が増加するとともに、活動期である夜(暗期)の活動量の減少が認められる。
【0035】
試験例5
実施例4の概日リズム調整剤(アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物)について、下記の(試験方法)により、高脂肪高ショ糖食負荷マウスの飲水行動リズムへの影響を調べた。1日の飲水行動を6時間毎(L1;明期前半、L2;明期後半、D1;暗期前半、D2;暗期後半)に集計しその結果を図7に示す。NDは普通食摂餌マウス群、HFHSDは高脂肪高ショ糖食摂餌マウス群、HFHSDARはアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を0.5質量%添加した高脂肪高ショ糖食摂餌マウス群である。
図7から明らかなように、普通食摂餌群に比べて高脂肪高ショ糖食摂餌群では、明期の活動量が増加している。しかし、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物の0.5質量%混餌で、高脂肪高ショ糖食摂餌群による明期の活動量増加を抑制していた。また、高脂肪高ショ糖食摂餌群において、D1に比べてD2に活動量が高くなる現象(夜型化)を、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物が、有意に改善していた。
(試験方法)
普通食(ND)として、AIN93M(ミルクカゼイン使用)(オリエンタル酵母工業株式会社製)、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)として、F2HFHSD(オリエンタル酵母工業株式会社製)を用いた。アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物は、高脂肪高ショ糖食に0.5質量%添加した。
全期間を通して、マウスの飲水行動はクロノバイオロジーキット(Stanford Systems、CA)を用いて測定した。
C57BL/6JJmsSlc系統のマウス(4週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で2週間馴化飼育した。馴化飼育期間後、マウスを普通食摂餌群(9ケージ)、高脂肪高ショ糖食摂餌群(9ケージ)、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物添加高脂肪高ショ糖食群(9ケージ)の3群に分け、6週間自由摂食させた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7