【実施例】
【0025】
以下、実施例および試験例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例および試験例により制限されるものではない。
【0026】
実施例1
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)の合成品をナミキ商事より購入した(RESEARCHEM社製)。これを概日リズム調整剤とした。
【0027】
実施例2
下記の(抽出法)により、小麦ふすまからアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を得た。これを概日リズム調整剤とした。該抽出物に含まれるアルキルレゾルシノールは、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)を主成分とするものであった。
(抽出法)
小麦ふすまに5倍量のエタノールを添加して、150rpm、室温の条件で、2時間振とう抽出した。次いで、3500rpm、室温の条件で、15分間遠心分離して、上清を遠心濃縮機で乾燥した。得られた濃縮物の重量を測定して、420mg/mLとなるようにエタノールに溶解して、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を得た。
【0028】
実施例3
実施例2において、小麦ふすまの代わりにライ麦を用いた以外は、実施例2と同様に実施して、110mg/mLとなるようにエタノールに溶解して、ライ麦からアルキルレゾルシノール含有ライ麦エタノール抽出物を得た。これを概日リズム調整剤とした。該抽出物に含まれるアルキルレゾルシノールは、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)を主成分とするものであった。
【0029】
実施例4
下記の(抽出法)により、小麦ふすまからアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を得た。これを概日リズム調整剤とした。該抽出物に含まれるアルキルレゾルシノールは、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)を主成分とするものであった。
(抽出法)
小麦ふすまに5倍量のエタノールを添加して、600rpm、室温の条件で、16時間撹拌抽出した。抽出物を濾過して不要物を除きエタノール抽出液を回収した後、エタノールを留去し溶媒抽出物を得た。
次いで、この小麦エタノール抽出物を中圧クロマトグラフィーによって精製した。中圧クロマトグラフィー条件は下記の通りである。溶出開始後31〜36分に出現するピーク成分を回収して、溶媒留去し、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を得た。
<中圧クロマトグラフィー条件>
カラム: シリカゲル(インジェクトカラム3L、ハイフラッシュカラム5L、60Å、40μm、山善株式会社)
移動相: ヘキサン/酢酸エチル(体積比)=90/10にて9分、80/20にて15分、60/40にて16分
検出波長:254nm
【0030】
試験例1
実施例1〜3の概日リズム調整剤(1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物およびアルキルレゾルシノール含有ライ麦エタノール抽出物)について、下記の(試験方法)により、体内時計遺伝子発現への影響を調べた。その結果を
図1、
図2および
図3にそれぞれ示す。
図1から明らかなように、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼンを添加することで、Bmal1発現の概日リズムの位相を後退させ、周期を0.5時間短縮させた。
図2から明らかなように、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を添加することで、Bmal1発現の概日リズムの振幅を増大させた。
図3から明らかなように、アルキルレゾルシノール含有ライ麦エタノール抽出物を添加することで、Bmal1発現の概日リズムの位相を後退させ、振幅を増大させた。
(試験方法)
発現タンパク質の迅速な分解をもたらすPEST配列を含むルシフェラーゼ発光ベクターpGL3-dLuc(Promega社製) に、時計遺伝子Bmal1のプロモーター領域(RORE配列及び転写開始部位を含む、−97〜+27)を組み込んで、組換えベクターを作製した。次に、マウス繊維芽細胞NIH3T3細胞株を約5×10
5 個、35mm培養ディッシュに播種して24時間培養後、前記組換えベクターをトランスフェクトした。
前記培養細胞を用いて、候補物質のスクリーニングを行った。トランスフェクトから24時間後、100nMデキサメサゾンを加えた培地で2時間培養することにより刺激を与え、各細胞のリズムの位相を同調させた。次に、NIH3T3細胞株の発光基質ルシフェリンを含む培地に被検物質を添加し、細胞培養を続けながら、リアルタイムでレポーター遺伝子による化学発光を測定した。被検物質は、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物およびアルキルレゾルシノール含有ライ麦エタノール抽出物である。1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼンは、エタノールに25mMの濃度で溶解したものを12.5μMとなるように培地に添加した。アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物およびアルキルレゾルシノール含有ライ麦エタノール抽出物は、それぞれ420mg/mL、110mg/mLとなるようにエタノールに溶解したものを、1.68mg/mL、0.33mg/mLとなるように培地に添加した。また、コントロールには、被検物質の溶媒であるエタノールを同じタイミングで添加し、発光量の変化を比較した。発光は10分毎に1分間測定した。発光量の測定には、AB-2550 Kronos Dio(アトー株式会社製)を用いた。
【0031】
試験例2
実施例4の概日リズム調整剤(アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物)について、下記の(試験方法)により、高脂肪食負荷マウスの飲水行動リズムへの影響を調べた。1日の飲水行動を6時間毎(L1;明期前半、L2;明期後半、D1;暗期前半、D2;暗期後半)に集計しその結果を
図4に示す。NDは普通食摂餌マウス群、HFは高脂肪食摂餌マウス群、HFARはアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を0.5質量%添加した高脂肪食摂餌マウス群である。
図4から明らかなように、普通食摂餌群では、暗期後半に比べて暗期前半の飲水行動量が多い(朝型)のに対して、高脂肪食摂餌群では、暗期前半に比べて暗期後半の飲水行動量が多くなっている(夜型)。アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物の0.5質量%混餌で、高脂肪食負荷による飲水行動の夜型化を朝型に正常化させることがわかる。
続いて恒暗条件下で飼育して飲水行動リズムの周期を測定した。表1から明らかなように、概日リズム調整剤(アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物)を摂取した群は普通食摂餌および高脂肪食摂餌を摂取した群と比較して周期が有意に短縮されていた。暗期後半の活動量増加の抑制は、周期の短縮と関連する。一連の試験によって高脂肪食負荷による夜型化を改善することができた。
概日リズム調整剤を摂取することで、NDやHFの摂取より有意に周期が短くなることから、早起きを促進する効果や、体内時計周期が長いことに起因する睡眠相後退症候群の改善に有効である。
(試験方法)
普通食(ND)として、D12450B(Rodent Diet with 10% kcal% fat、Research Diets社製)、高脂肪食(HF)として、D12492(Rodent Diet with 60% kcal% fat、ResearchDiets社製)を用いた。アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物は、高脂肪食に0.5質量%添加した。
全期間を通して、マウスは個飼いとし、マウスの飲水行動は、クロノバイオロジーキット(Stanford Systems、CA)を用いて測定した。
C57BL/6JJmsSlc系統のマウス(4週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で2週間馴化飼育した。馴化飼育期間後、マウスを普通食摂餌群(6匹)、高脂肪食摂餌群(6匹)、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物添加高脂肪食群(5匹)の3群に分け、10週間自由摂食させた。自由摂取10週間後、恒暗状態にして飲水行動リズムを測定した。
【0032】
【表1】
【0033】
試験例3
実施例4の概日リズム調整剤(アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物)について、下記の(試験方法)により、高脂肪食負荷マウスのコルチコステロン分泌への影響を調べた。その結果を
図5に示す。
図5から明らかなように、普通食摂餌群では、暗期直前にピークとなる血中コルチコステロン濃度の日内変動が認められる。高脂肪食摂餌群においては、ピークとなる時刻の遅れ(位相後退)とともに、日内変動の振幅が減衰することが分かる。ところが、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物の0.5質量%混餌では、高脂肪食負荷による血中コルチコステロンリズムの位相後退や振幅の減衰を正常化させることがわかる。
(試験方法)
普通食(ND)として、D12450B(Rodent Diet with 10% kcal% fat、Research Diets社製)、高脂肪食(HF)として、D12492(Rodent Diet with 60% kcal% fat、ResearchDiets社製)を用いた。アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物は、高脂肪食に0.5%添加した。
C57BL/6JJmsSlc系統のマウス(4週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で2週間馴化飼育した。
馴化飼育期間後、マウスを普通食摂餌群、高脂肪食摂餌群、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物添加高脂肪食群の3群(各群24匹)に分け、10週間自由摂食させた。
10:00から4時間毎に各群4匹ずつマウスを殺処分し、全採血後、血漿を分離した。血漿サンプルは−80℃で凍結保存し、市販のキット(AssayPro, St. Charls, MO)を用いて血中コルチコステロンの濃度を測定した。
【0034】
試験例4
実施例の概日リズム調整剤(アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物)について、下記の(試験方法)により、ストレス負荷マウスの輪回し行動への影響を調べた。その結果を
図6に示す。
図6から明らかなように、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物の0.5質量%混餌で、ストレス性睡眠障害マウスの明期の行動量の増加を抑制し、正常化させることがわかる。
(試験方法)
粉末飼料AIN-93M(オリエンタル酵母工業株式会社製)にアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を0.5質量%添加した後、ペレット化を行った飼料を調製した。対照として、ペレット化したAIN-93Mを用いた。
マウスは、全期間を通して、回転かご(SW-15s、有限会社メルクエスト)内で個別飼育した。マウスの活動量は、クロノバイオロジーキット(Stanford Systems、CA)を用いて測定した。
Slc:B6C3F1系統のマウス(4週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で飼育した。被検群(アルキルレゾルシノール群、12匹)には、食餌としてアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物含有AIN-93Mを、対照群(11匹)には、AIN-93Mを与え、4週間自由摂食させた(非ストレス飼育期間)。
非ストレス飼育期間後、物理的に遮蔽してマウスが回転輪から降りられないように制限することにより、ストレス性睡眠障害を2週間連続的に誘発した(ストレス飼育期間)。このストレス性睡眠障害マウスは、一般的な睡眠障害に外挿できるリズム障害を示す。例えば、夜行性であるマウスの本来の非活動期である昼間(明期)の活動量が増加するとともに、活動期である夜(暗期)の活動量の減少が認められる。
【0035】
試験例5
実施例4の概日リズム調整剤(アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物)について、下記の(試験方法)により、高脂肪高ショ糖食負荷マウスの飲水行動リズムへの影響を調べた。1日の飲水行動を6時間毎(L1;明期前半、L2;明期後半、D1;暗期前半、D2;暗期後半)に集計しその結果を
図7に示す。NDは普通食摂餌マウス群、HFHSDは高脂肪高ショ糖食摂餌マウス群、HFHSDARはアルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物を0.5質量%添加した高脂肪高ショ糖食摂餌マウス群である。
図7から明らかなように、普通食摂餌群に比べて高脂肪高ショ糖食摂餌群では、明期の活動量が増加している。しかし、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物の0.5質量%混餌で、高脂肪高ショ糖食摂餌群による明期の活動量増加を抑制していた。また、高脂肪高ショ糖食摂餌群において、D1に比べてD2に活動量が高くなる現象(夜型化)を、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物が、有意に改善していた。
(試験方法)
普通食(ND)として、AIN93M(ミルクカゼイン使用)(オリエンタル酵母工業株式会社製)、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)として、F2HFHSD(オリエンタル酵母工業株式会社製)を用いた。アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物は、高脂肪高ショ糖食に0.5質量%添加した。
全期間を通して、マウスの飲水行動はクロノバイオロジーキット(Stanford Systems、CA)を用いて測定した。
C57BL/6JJmsSlc系統のマウス(4週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で2週間馴化飼育した。馴化飼育期間後、マウスを普通食摂餌群(9ケージ)、高脂肪高ショ糖食摂餌群(9ケージ)、アルキルレゾルシノール含有小麦ふすまエタノール抽出物添加高脂肪高ショ糖食群(9ケージ)の3群に分け、6週間自由摂食させた。