【文献】
SHOBANA,S. et al.,Composition and enzyme inhibitory properties of finger millet (Eleusine coracana L.) seed coat phenolics: Mode of inhibition of α-glucosidase and pancreatic amylase,Food Chemistry,2009年,Vol.115, No.4,p.1268-1273
【文献】
ROSS, A.B. et al.,Dietary Alkylresorcinols: Absorption, Bioactivities, and Possible Use as Biomarkers of Whole-grain Wheat- amd Rye-rich Foods,Nutrition Reviews,2004年,Vol.62, No.3,p.81-95
【文献】
Ju-Sung Kim, et al.,The inhibitory effects of ethanol extracts from sorghum, foxtail millet and proso millet on α-glucosidase and α-amylase activities,Food Chemistry,2011年,Vol.124, No.4,p.1647-1651
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の耐糖能異常改善剤は、イネ科植物種子のアルコール抽出物の分配クロマトグラフィーのピーク成分を有効成分として含有する。このピーク成分(本発明の耐糖能異常改善剤の有効成分)には、好ましくは、下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを複数種含む、特定アルキルレゾルシノール混合物が含有されている。この特定アルキルレゾルシノール混合物は、血糖値の上昇を抑制し、糖尿病を含む耐糖能異常を改善する作用を有する。
【0014】
アルキルレゾルシノールは、天然の非イソテルぺノイド系フェノール性両親媒性化合物であるレゾルシノール脂質として、種々の植物に含まれていることが知られており、アルキルレゾルシノールの給源としては、イネ科植物以外にも、例えば、ウルシ科、イチョウ科、ヤマモガシ科、ヤブコウジ科、サクラソウ科、ニクズク科、アヤメ科、サトイモ科、キク科のヨモギ、マメ科等が知られている。これらの植物の中でも、イネ科植物は、可食性有効成分としてのアルキルレゾルシノールの研究が進んでいること等から、本発明においては、アルキルレゾルシノールの給源として、イネ科植物を採用している。
【0015】
アルキルレゾルシノールの給源として利用可能なイネ科植物としては、特に制限されないが、例えば、小麦、デュラム小麦、ライ麦、ライ小麦、大麦、オーツ麦、はと麦、トウモロコシ、イネ、ヒエ、アワ、キビ等の穀類が挙げられ、これら1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの穀類の中でも、高い活性が得られる点から、特に小麦、デュラム小麦等のコムギ属の植物が好ましく、小麦が更に好ましい。イネ科植物種子としては、任意の形態のイネ科植物種子で良く、例えば、イネ科植物種子(好ましくは種子外皮;糟糠類)そのもの;当該イネ科植物種子を切断、粉砕若しくは粉末化したもの;当該イネ科植物種子を乾燥したもの;当該イネ科植物種子を乾燥後粉砕若しくは粉末化したもの等でも良い。イネ科植物種子外皮を含む好適な例としては、ふすま、末粉、籾殻、ぬか等が挙げられる他、外皮を伴った種子も挙げられる。
【0016】
イネ科植物種子のアルコールによる抽出方法は特に制限されないが、例えば、上記各種形態のイネ科植物種子をアルコール中に浸漬、攪拌又は還流する方法の他、超臨界流体抽出法等が挙げられる。前者の方法の場合、抽出温度は2〜100℃が好ましく、抽出時間は30分〜72時間が好ましく、アルコール使用量は、イネ科植物種子100質量部に対し50〜2000質量部が好ましい。
【0017】
イネ科植物種子の抽出に用いられるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等の1価の低級アルコール(好ましくは炭素原子数1〜4のもの)、及び1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の室温(25℃)で液体であるアルコールが挙げられる。これらのアルコールの中でも、操作性や環境性の点から、エタノールが好ましい。尚、イネ科植物種子の抽出に用いられるアルコールとしては、アルコール以外の水性成分(水、純水、蒸留水、水道水、酸性水、アルカリ水、中性水等)が含まれている含水エタノールを用いることもできる。含水アルコール中のアルコール含有量は、通常70体積%以上、好ましくは80体積%以上、より好ましくは90体積%以上である。
【0018】
本発明において、イネ科植物種子のアルコール抽出物は、そのまままたは濃縮、乾燥して耐糖能異常改善剤とすることができるが、公知の方法、例えば分配クロマトグラフィーで精製してもよい。イネ科植物種子のアルコール抽出物の精製に用いられる分配クロマトグラフィーは、本発明の耐糖能異常改善剤の有効成分(特定アルキルレゾルシノール混合物)が得られる手法であればその種類は問わないが、移動相として非水系溶媒を用いる順相クロマトグラフィー法が好ましく、オープンカラム法、中圧カラム法、高速液体クロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択することができる。
【0019】
分配クロマトグラフィーにおける移動相としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等の1価の低級アルコール(好ましくは炭素原子数1〜4のもの)、及び1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の室温(25℃)で液体であるアルコール;ジエチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン;ヘキサン;塩化メチレン;アセトニトリル;並びにクロロホルム等が挙げられ、これら溶媒の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。複数の溶媒を組み合わせて移動相とする場合、分配クロマトグラフィーの実施中(イネ科植物種子のアルコール抽出物の精製中)において、複数の溶媒の混合比を一定にするイソクラクティックモードでも良く、あるいは該混合比を変化させるグラジエントモードでも良い。
【0020】
分配クロマトグラフィーにおける担体としては、目的とする有効成分を担持−放出できる担体であればいずれも用いることができるが、一般的にはシリカゲル、ポリアクリルアミドゲル、デキストランゲル等を挙げることができる。
【0021】
イネ科植物種子のアルコール抽出物の分配クロマトグラフィーにおける検出波長は、170〜320nmであれば良く、好ましくは190〜280nmである。
【0022】
イネ科植物種子(好ましくはコムギ属の植物)のアルコール抽出物(好ましくはエタノール抽出物)の精製に好適な分配クロマトグラフィーの例として、下記分配クロマトグラフィーA及びBが挙げられる。
・分配クロマトグラフィーA:担体としてシリカゲル及び移動相としてヘキサン−酢酸エチル混合溶媒を用いた中圧カラム法(中圧クロマトグラフィー)を用い、且つその分配クロマトグラフィーの実施中に、移動相を「ヘキサン−酢酸エチル混合溶媒においてヘキサンの含有割合が相対的に高いもの」から「ヘキサン−酢酸エチル混合溶媒においてヘキサンの含有割合が相対的に低いもの」へと変化させ(即ち、「ヘキサン大−少」へのグラジエントモードで用い)、且つ検出波長254nmでのピーク成分を分取する。
・分配クロマトグラフィーB:担体としてシリカゲル及び移動相としてメタノールを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、且つ検出波長215nmでのピーク成分を分取する。
【0023】
本発明の耐糖能異常改善剤における有効成分の含有量、即ち、イネ科植物種子のアルコール抽出物の分配クロマトグラフィーのピーク成分(特定アルキルレゾルシノール混合物)の含有量は、耐糖能異常の予防・治療効果が奏されれば特に限定はされないが、耐糖能異常の予防・治療効果をより確実に奏させるようにする観点から、本発明の耐糖能異常改善剤中、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上とするのが好適である。上記有効成分(特定アルキルレゾルシノール混合物)の含有量は100質量%、即ち、本発明の耐糖能異常改善剤は上記有効成分(特定アルキルレゾルシノール混合物)のみから構成されていても良い。
【0024】
本発明の耐糖能異常改善剤の有効成分であり、イネ科植物種子のアルコール抽出物の分配クロマトグラフィーのピーク成分に好ましくは含有されている、特定アルキルレゾルシノール混合物について説明すると、特定アルキルレゾルシノール混合物は、上記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを複数種含む。
【0025】
上記一般式(I)におけるR
1に関し、炭素原子数15〜25の飽和アルキル基としては、代表例として、n−ペンタデシル、n−ヘプタデシル、n−ノナデシル、n−ヘンイコシル、n−トリコシル、n−ペンタコシル、n−ヘプタコシル等の直鎖状のものが挙げられ、これらの他に、分岐状又は環状のものでも良い。これらの中でも、炭素原子数15〜23の飽和アルキル基が好ましい。
【0026】
また、上記一般式(I)におけるR
1に関し、炭素原子数15〜25の不飽和アルキル基としては、上記の炭素原子数15〜25の飽和アルキル基に対応するものが挙げられる。不飽和アルキル基に含まれる不飽和結合の数及び位置に特に制限はない。
【0027】
また、上記一般式(I)におけるR
2は水素原子であることが好ましく、また、R
1はR
2に対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0028】
上記特定アルキルレゾルシノール混合物に含まれ得るアルキルレゾルシノールの具体例としては、以下のものが挙げられる。
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)
【0029】
上記特定アルキルレゾルシノール混合物の好ましい一例として、下記6種類のアルキルレゾルシノールを含有するものが挙げられる。本発明者らの知見によれば、下記6種類のアルキルレゾルシノールは、血糖値の上昇抑制作用に特に優れ、耐糖能異常の予防・治療に有効である。
1)上記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数15の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR15ともいう)。
2)上記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数17の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR17ともいう)。
3)上記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数19の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR19ともいう)。
4)上記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数21の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR21ともいう)。
5)上記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数23の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR23ともいう)。
6)上記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数25の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR25ともいう)。
【0030】
AR15として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数15の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)が挙げられる。
AR17として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数17の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)が挙げられる。
AR19として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数19の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)が挙げられる。
AR21として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数21の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)が挙げられる。
AR23として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数23の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)が挙げられる。
AR25として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数25飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)が挙げられる。
【0031】
AR15、AR17、AR19、AR21、AR23及びAR25の含有量は、耐糖能異常を効果的に予防・治療する観点から、それぞれ、下記範囲内にあることが好ましい。
AR15の含有量は、上記特定アルキルレゾルシノール混合物中、好ましくは0.1〜10.0質量%、更に好ましくは0.1〜5.0質量%、特に好ましくは0.5〜1.5質量%である。
AR17の含有量は、上記特定アルキルレゾルシノール混合物中、好ましくは1.0〜20.0質量%、更に好ましくは5.0〜15.0質量%、特に好ましくは8.0〜12.0質量%である。
AR19の含有量は、上記特定アルキルレゾルシノール混合物中、好ましくは25.0〜40.0質量%、更に好ましくは27.5〜37.5質量%、特に好ましくは30.0〜35.0質量%である。
AR21の含有量は、上記特定アルキルレゾルシノール混合物中、好ましくは40.0〜55.0質量%、更に好ましくは42.5〜52.5質量%、特に好ましくは45.0〜50.0質量%である。
AR23の含有量は、上記特定アルキルレゾルシノール混合物中、好ましくは1.0〜15.0質量%、更に好ましくは2.5〜12.5質量%、特に好ましくは5.0〜10.0質量%である。
AR25の含有量は、上記特定アルキルレゾルシノール混合物中、好ましくは0〜5.0質量%、更に好ましくは0〜2.0質量%、特に好ましくは0〜1.5質量%である。
【0032】
上記特定アルキルレゾルシノール混合物は、AR15、AR17、AR19、AR21、AR23及びAR25以外の他のアルキルレゾルシノールの1種以上を含有していても良い。この他のアルキルレゾルシノールとしては、例えば、上記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数27の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR27ともいう)が挙げられる。AR27として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数27の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタコシルベンゼン(C27:0)が挙げられる。
【0033】
また、上記特定アルキルレゾルシノール混合物は、アルキルレゾルシノール以外の他の成分を含んでいても良く、このアルキルレゾルシノール以外の他の成分の含有量は、上記特定アルキルレゾルシノール混合物中、好ましくは30質量%以下である。
【0034】
上記特定アルキルレゾルシノール混合物の好ましい一例として、次の組成を有するものが挙げられる。即ち、AR15として1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)を1.2質量%、AR17として1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)を10.9質量%、AR19として1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)を33.9質量%、AR21として1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)を46.4質量%、AR23として1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)を7.5質量%、及びAR25として1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)を0.1質量%含有する特定アルキルレゾルシノール混合物である。
【0035】
本発明の耐糖能異常改善剤は、イネ科植物種子のアルコール抽出物の分配クロマトグラフィーのピーク成分(上記特定アルキルレゾルシノール混合物)、並びに必要に応じて薬学的又はサプリメント等の保健用食品において許容される種々の担体、賦形剤、その他の添加剤、その他の成分を含有するものである。本発明の耐糖能異常改善剤は、常法により製剤化することができ、その場合、本発明の耐糖能異常改善剤の剤型は、錠剤、散剤、液剤、シロップ剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口剤である。また、本発明の耐糖能異常改善剤に含有可能な「その他の成分」としては、その他の薬効作用を有する成分や健康食品素材(例えば血糖値の上昇抑制作用を有する成分や素材)、各種ビタミン類、生薬、ミネラル類等が挙げられる。
【0036】
本発明の耐糖能異常改善剤中の有効成分(特定アルキルレゾルシノール混合物)の含有量は、耐糖能異常改善剤の剤型、投与又は摂取する者の症状や年齢性別等によって適宜変化させることができ、人を対象とする場合、通常、本発明の耐糖能異常改善剤の有効成分の投与量又は摂取量が1人(60kg換算で)1日当たり0.5〜5000mg、好ましくは10〜4500mg、より好ましくは42〜4200mgとなるように含有させることが好適である。また、本発明の耐糖能異常改善剤をイヌやネコ等の愛玩動物に投与又は摂取させる場合には、当該有効成分の1日の投与又は摂取量は、0.015〜150mg/体重1kg、好ましくは0.05〜150mg/体重1kg、より好ましくは0.13〜130mg/体重1kgとなるように含有させることが好適である。
【0037】
本発明の耐糖能異常改善剤は、前述のように医薬又は保健用食品として、人又は動物に直接投与若しくは摂取させても良いが、飲食品又はペットフード等の動物用飼料に添加・配合して摂取させても良い。この場合、耐糖能異常改善剤を添加・配合する飲食品としては特に限定されないが、例えばパン類、ご飯類、麺類、タブレット、キャンディー等の菓子類、清涼飲料、ジュース、栄養ドリンク等の飲料等が挙げられる。また、ペットフードとしてはドライタイプ、セミドライ・セミモイストタイプ、モイストタイプの何れでも良いが、これらに限定されるものではなく、また、耐糖能異常改善剤の飲食品又は動物用飼料への添加・配合方法も、特に制限されるものではなく、飲食品又は動物用飼料の製造前に原料・素材に直接配合しても良く、該製造工程中に添加しても良く、製造された飲食品又は動物用飼料に添加しても良い。また、本発明の耐糖能異常改善剤を飲食品や動物用飼料に配合して摂取させる場合、本発明における特定アルキルレゾルシノール混合物に富む食品素材、例えば小麦ふすまや小麦やライ麦等の全粒粉と組み合わせても良い。このとき、飲食品や動物用飼料中の特定アルキルレゾルシノール混合物の量が前述の摂取量になるようにそれぞれの配合量を調整すれば良い。
【0038】
本発明の耐糖能異常改善剤及び飲食品又は動物用飼料は、脂肪や糖類に富み、高カロリーな食事や飼料を摂取していても優れた耐糖能異常改善効果を奏するが、糖尿病の予防・治療のために推奨されている低カロリー食やペットフードと組み合わせても良い。この場合、インスリン注射や血糖降下剤を用いることなく、高い耐糖能異常改善効果を達成することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び試験例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び試験例により制限されるものではない。
【0040】
〔実施例〕
下記<抽出精製法>により、小麦ふすま(イネ科植物種子)から特定アルキルレゾルシノール混合物を得、これを耐糖能異常改善剤とした。小麦ふすまから得られた特定アルキルレゾルシノール混合物(実施例の耐糖能異常改善剤)の組成は次の通り。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)1.2質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)10.9質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)33.9質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)46.4質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)7.5質量%。
・1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)0.1質量%。
【0041】
<抽出精製法>
小麦ふすまに5倍量のエタノールを添加して、600rpm、室温の条件で、16時間撹拌抽出した。抽出物を濾過して不要物を除きエタノール抽出液を回収した後、エタノールを留去し、小麦ふすま(イネ科植物種子)のエタノール抽出物を得た。次いで、このエタノール抽出物を中圧クロマトグラフィーによって精製した。中圧クロマトグラフィー条件は下記の通りである。溶出開始後31〜36分に出現するピーク成分を回収して、溶媒留去し、目的とする特定アルキルレゾルシノール混合物を得た。
(中圧クロマトグラフィーの条件)
・カラム:シリカゲル(インジェクトカラム3L、ハイフラッシュカラム5L、60Å、40μm、山善株式会社製)
・移動相:ヘキサン/酢酸エチル混合溶媒(体積比)=90/10にて9分、80/20にて15分、60/40にて16分
・検出波長:254nm
【0042】
尚、上記<抽出精製法>におけるエタノール抽出物の精製は、中圧クロマトグラフィーに代えて、HPLCによって行うこともできる。その場合、エタノール抽出物にメタノールを添加して該エタノール抽出物の濃度が200ug/mLのメタノール添加液を調製し、該メタノール添加液を、孔径0.45μmのフィルターを通過させ、その通過分を、HPLCの試料とする。HPLCの条件は下記の通り。
(HPLCの条件)
・カラム:シリカゲル(ODS−80A、5μm、4.6×250mm、ジーエルサイエンス株式会社製)
・ガードカラム:ODS−80A、5μm、4.6×50mm、
・カラム温度:30℃
・移動相:メタノール100%
・検出波長:215nm
【0043】
〔試験例1〕
実施例の耐糖能異常改善剤について、下記試験により、高脂肪高ショ糖食負荷マウスの耐糖能への影響を調べた。その結果を
図1〜
図3に示す。
図1〜
図3中、NDは、普通食を摂餌したマウス群、HFHSDは、高脂肪高ショ糖食を摂餌したマウス群、HFHSDARは、実施例の耐糖能異常改善剤(特定アルキルレゾルシノール混合物)が添加された高脂肪高ショ糖食を摂餌したマウス群である。また、
図1〜
図3において、*(アスタリスクが1つ)は、NDとHFHSD又はHFHSDARとの間における有意差が、有意水準p<0.01で認められたことを示す。
【0044】
<血糖値低下作用確認試験(自由摂取による実施)>
普通食(ND)として、AIN93M(ミルクカゼイン使用)(オリエンタル酵母工業株式会社製)、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)として、F2HFHSD(オリエンタル酵母工業株式会社製)を用意し、また別途、HFHSDに実施例の耐糖能異常改善剤(特定アルキルレゾルシノール混合物)を0.5質量%添加したもの(HFHSDAR)を用意した。C57BL/6JJmsSlc系統のマウス(4週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で2週間馴化飼育した後、これらのマウスを、ND摂餌群(9ケージ)と、HFHSD摂餌群(9ケージ)と、HFHSDAR摂餌群(9ケージ)との3群に分け、馴化期間と同じ明暗サイクル下で6週間自由摂食させた。その自由摂食期間中、随時、マウス尾部より微量採血を行い、血糖値測定器(アキュチェックコンフォート:ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用いて血糖値を測定し、それらの平均値を算出した。その結果を
図1に示す。
【0045】
図1から明らかなように、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)摂餌群は、普通食(ND)摂餌群に比べて、空腹時の血糖値が有意に増加しており、このことから、HFHSDの摂取が高血糖を引き起こす原因となることが明らかである。しかし、このような高血糖の原因となり得るHFHSDに実施例の耐糖能異常改善剤を所定量添加した、HFHSDARを摂餌した群は、HFHSD摂餌群に比べて空腹時の血糖値が低くなっており、これにより、実施例の耐糖能異常改善剤による耐糖能異常の予防・治療効果が確認された。
【0046】
<糖負荷試験>
上記<血糖値低下作用確認試験>の実施後、マウスを4時間絶食させた後に、1g/体重1kgのグルコース溶液をマウスの腹腔内に投与し、糖負荷直前(0分)、糖負荷後15分後、30分後、60分後、90分後、120分後それぞれにおいて、上記<血糖値低下作用確認試験>と同様の方法により血糖値を測定した。AUC
0-120min値は、Woleverらの方法(Wolever TM, Jenkins DJ, Jenkins AL, Josse RG: The glycemic index: methodology and clinical implications. Am J Clin Nutr 1991;54:846-854)に従って算出した。それらの結果を
図2及び
図3に示す。
【0047】
図2及び
図3から明らかなように、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)摂餌群は、普通食(ND)摂餌群に比べて、血中血糖値(
図2参照)及びAUC
0-120min(
図3参照)が有意に大きくなっており、このことから、HFHSDの摂取が高血糖を引き起こす原因となることが明らかである。しかし、このような高血糖の原因となり得るHFHSDに実施例の耐糖能異常改善剤を所定量添加した、HFHSDARを摂餌した群は、HFHSD摂餌群に比べて血中血糖値及びAUC
0-120minが小さくなっており、これにより、実施例の耐糖能異常改善剤による耐糖能異常の予防・治療効果が確認された。
【0048】
〔試験例2〕
実施例の耐糖能異常改善剤の投与方法について、下記試験により、高脂肪高ショ糖食負荷マウスの耐糖能への影響を調べた。その結果を
図4〜
図8に示す。
図4〜
図8中、HFHSDは、高脂肪高ショ糖食の摂餌期間中にブランクを強制的に経口投与したマウス群、HFHSD+ARsは、高脂肪高ショ糖食の摂餌期間中に実施例の耐糖能異常改善剤(特定アルキルレゾルシノール混合物)を強制的に経口投与したマウス群である。また、
図6〜
図8において、*(アスタリスクが1つ)は、HFHSDとHFHSD+ARsとの間における有意差が、有意水準p<0.01で認められたことを示す。
【0049】
<血糖値低下作用確認試験(強制経口投与による実施)>
実施例の耐糖能異常改善剤(特定アルキルレゾルシノール混合物)にオリーブオイルとエタノールを加えて懸濁させた餌(耐糖能異常改善剤懸濁液)と、高脂肪高ショ糖食(HFHSD)とを用意した。またブランクとして、オリーブオイルとエタノールとの懸濁液も用意した。C57BL/6J HamSlc ob/obのマウス(5週齢の雄性、日本エスエルシー株式会社)を明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(0:00点灯、12:00消灯)で3週間馴化飼育した。3週間の馴化期間後、これらのマウスを、暗期の終期(ZT=23、点灯の1時間前)にブランクを投与する群と、暗期の初期(ZT=13、消灯から1時間経過後)にブランクを投与する群と、暗期の終期(ZT=23)に耐糖能異常改善剤懸濁液を投与する群と、暗期の初期(ZT=13)に耐糖能異常改善剤懸濁液を投与する群との4群に分けて、馴化期間と同じ明暗サイクル下で試験を実施した。マウスの活動期は、通常、暗期である。試験期間中、ブランク又は耐糖能異常改善剤懸濁液のマウスへの投与は、強制的な経口投与によって行い、また、4群の何れに対しても、4日間連続投与後、2日間投与を中止し、その後5日間連続投与した。耐糖能異常改善剤懸濁液の投与量は、アルキルレゾルシノールとして0.025g/匹とした。3週間の馴化期間と試験期間とを通じて、マウスに対し高脂肪高ショ糖食(HFHSD)の自由摂取を継続した。その自由摂取期間中、前記<血糖値低下作用確認試験(自由摂取による実施)>と同様の方法でマウスの血糖値を随時測定し、それらの平均値を算出した。その際、ブランクを投与したマウスの血糖値を100%とし、それに対する耐糖能異常改善剤懸濁液を投与した群の血糖値の比率を
図4〜
図7に示した。
図4及び
図5は何れも、2日間の非投与期間前の4日間の連続投与期間(前期試験期間)後の測定結果を示すものであり、
図4は、投与を暗期の終期に実施した場合、
図5は、投与を暗期の初期に実施した場合である。また、
図6及び
図7は何れも、5日間の連続投与期間(後期試験期間)後、即ち合計9日間の投与期間経過後の測定結果を示すものであり、
図6は、投与を暗期の終期に実施した場合、
図7は、投与を暗期の初期に実施した場合である。
【0050】
HFHSDの摂取が高血糖を引き起こす原因となることは、試験例1の結果から明らかであり、試験例2のマウスは、高血糖の原因となりうる食生活を送っていたと言える。このようなマウスに対し、前期試験期間において活動期(暗期)の終期(ZT=23)に耐糖能異常改善剤を強制的に経口投与すると、空腹時の血糖が低くなる(
図4参照)が、前期試験期間において活動期(暗期)の初期(ZT=13)に同様に投与しても、空腹時血糖の低下は認められなかった(
図5参照)。しかし、全試験期間の終了後においては、活動期の終期(ZT=23)に耐糖能異常改善剤を投与した場合(
図6参照)は勿論のこと、活動期の初期(ZT=13)に耐糖能異常改善剤を投与した場合(
図7参照)も、空腹時血糖が有意に低くなった。
【0051】
このように、実施例の耐糖能異常改善剤の強制経口投与を行うと、耐糖能異常の予防・治療効果が得られる。また、耐糖能異常改善剤の投与を活動期の初期に実施した場合、前期試験期間は目立った予防・治療効果が見られず(
図5参照)、後期試験期間になって予防・治療効果が見られるようになったのに対し(
図7参照)、耐糖能異常改善剤の投与を活動期の終期に実施した場合、前期試験期間から予防・治療効果が認められ(
図4参照)、その予防・治療効果は後期試験期間も維持された(
図6参照)。以上のことから、実施例の耐糖能異常改善剤の経口投与あるいは経口摂取は、耐糖能異常の予防・治療に有効であり、また、その投与あるいは摂取は、前期試験〜後期試験までのようにある程度の期間継続すれば投与・摂取時期に関係なく所望の効果が達成されるが、活動期(マウスであれば暗期)の終期(後半)に実施するのがより効果的である。
【0052】
<脂肪肝改善効果確認試験>
上記<血糖値低下作用確認試験(強制経口投与による実施)>の実施後、マウスを解剖して肝臓中の中性脂肪量を測定した。その結果、活動期(暗期)の初期(ZT=13)に実施例の耐糖能異常改善剤を投与したマウスにおいては、肝臓中の中性脂肪量の減少はやや認められたのに対し、活動期(暗期)の終期(ZT=23)に実施例の耐糖能異常改善剤を投与したマウスは、肝臓中の中性脂肪が有意に減少した(
図8参照)。以上のことから、本発明の耐糖能異常改善剤の経口投与あるいは経口摂取は、脂肪肝の予防・治療にも有効であり、また、その投与あるいは摂取は、前期試験〜後期試験までのようにある程度の期間継続すれば投与・摂取時期に関係なく所望の効果が達成されるが、活動期(マウスであれば暗期)の終期(後半)に実施するのがより効果的である。