【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 独立行政法人科学技術振興機構、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「コヒーレントイジング/XYマシーンの原理と応用」「大規模時分割多重化光パラメトリック発振器」「量子フィードバック回路開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リング共振器は、前記イジングモデルの前記複数のスピンに擬似的に対応する、連続した前記複数の擬似的スピンパルスと、前記イジングモデルの前記複数のスピンに対応しない、連続した複数のダミーパルスと、を周回伝搬させており、
前記暫定的スピン測定部が1セット分の測定を終了してから1セット分の測定を再開するまでに、前記リング共振器を周回伝搬する前記複数のダミーパルスが、前記リング共振器から前記暫定的スピン測定部への分岐箇所をそれぞれ1回通過する
ことを特徴とする請求項1に記載のイジングモデルの量子計算装置。
前記複数のダミーパルスと、前記暫定的スピン測定部が前記複数の疑似的スピンパルスの位相測定に用いる局部発振光と、の干渉結果が、前記複数のダミーパルスの予め定められた発振位相から想定される予め定められた干渉結果となるように、前記複数の疑似的スピンパルスと、前記暫定的スピン測定部が前記複数の疑似的スピンパルスの位相測定に用いる局部発振光と、の干渉タイミングを制御する局部発振光制御部、をさらに備える
ことを特徴とする請求項4又は5に記載のイジングモデルの量子計算装置。
前記複数のダミーパルスと、前記相互作用実装部が前記複数のダミーパルスへの光注入に用いる予め定められた発振位相を有する複数のダミー注入パルスと、の干渉結果が、前記複数のダミーパルスの予め定められた発振位相から想定される予め定められた干渉結果となるように、前記複数の疑似的スピンパルスと、前記相互作用実装部が前記複数の疑似的スピンパルスへの光注入に用いる相互作用が考慮された発振位相を有する複数のスピン注入パルスと、の干渉タイミングを制御する注入パルス制御部、をさらに備える
ことを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載のイジングモデルの量子計算装置。
前記相互作用実装部は、前記暫定的スピン測定部が1セット分の測定を終了してから1セット分の測定を再開するまでの期間が長いほど、前記複数の擬似的スピンパルスに対して注入される光の振幅を大きく制御する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のイジングモデルの量子計算装置。
前記縮退光パラメトリック発振器は、前記暫定的スピン測定部が1セット分の測定を終了してから1セット分の測定を再開するまでの期間が長いほど、前記複数の擬似的スピンパルスの縮退光パラメトリック発振のポンプレートを小さく制御する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のイジングモデルの量子計算装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の問題を解決するための特許文献1、2及び非特許文献1について説明する。NP完全問題は、磁性体のイジングモデルに置き換え可能であり、磁性体のイジングモデルは、レーザー又はレーザーパルスのネットワークに置き換え可能である。
【0009】
ここで、磁性体のイジングモデルでは、相互作用する原子ペアにおいて、スピン配列のエネルギーが最低となるように、スピンの方向は、逆方向(反強磁性の相互作用の場合)又は同方向(強磁性の相互作用の場合)を指向しようとする。
【0010】
一方で、レーザー又はレーザーパルスのネットワークでは、相互作用するレーザーペア又はレーザーパルスペアにおいて、発振モードの閥値利得が最低となるように、発振の偏光若しくは位相は、逆回転若しくは逆位相(反強磁性の相互作用の場合)又は同回転若しくは同位相(強磁性の相互作用の場合)を指向しようとする。
【0011】
つまり、1つのレーザーペア又はレーザーパルスペアからなるシステムでは、発振モードの閥値利得が最低となるように、発振の偏光又は位相を最適化することができる。しかし、多くのレーザーペア又はレーザーパルスペアからなるシステムでは、「ある」レーザーペア又はレーザーパルスペアで発振の偏光又は位相を最適化しようとすれば、「他の」レーザーペア又はレーザーパルスペアで発振の偏光又は位相を最適化できない。そこで、多くのレーザーペア又はレーザーパルスペアからなるシステムでは、レーザー又はレーザーパルスのネットワークの「全体」として発振の偏光又は位相の「妥協点」を探索する。
【0012】
ただし、レーザー又はレーザーパルスのネットワーク全体で発振の偏光又は位相を最適化するときには、各々のレーザーペア又はレーザーパルスペアで別個の発振モードを立ち上げるのではなく、レーザー又はレーザーパルスのネットワーク全体で1つの発振モードを立ち上げるように、各レーザー間又は各レーザーパルス間で同期を図る必要がある。
【0013】
このように、特許文献1、2及び非特許文献1では、各レーザー又は各レーザーパルスについてポンプエネルギーを制御し、レーザー又はレーザーパルスのネットワーク全体で閾値利得が最低となる1つの発振モードを立ち上げ、各レーザー又は各レーザーパルスの発振の偏光又は位相を測定し、ひいては各イジングスピンの方向を測定する。よって、量子アニールマシン及び量子断熱マシンにおける準安定状態へのトラップの問題及びイジング相互作用の実装速度の問題を解決することができる。
【0014】
そして、特許文献1、2及び非特許文献1では、物理的に近くに位置するサイト間のイジング相互作用の大きさのみならず、物理的に遠くに位置するサイト間のイジング相互作用の大きさも自由に制御することができる。よって、サイト間の物理的距離とは無関係に、NP完全問題などからマッピングされた人工的なイジングモデルを解くことができる。
【0015】
次に、特許文献1、2について、具体的に説明する。まず、2つの面発光レーザーの間で交換される光の振幅及び位相を制御することにより、2つの面発光レーザーの間の擬似的なイジング相互作用の大きさ及び符号を実装する。次に、各々の面発光レーザーが光を交換する過程で定常状態に到達した後に、各々の面発光レーザーの発振の偏光又は位相を測定することにより、各々の面発光レーザーの擬似的なイジングスピンを測定する。
【0016】
ここで、面発光レーザーのネットワーク全体で、発振の偏光又は位相を最適化した1つの発振モードを立ち上げるためには、面発光レーザーの間で同期を図る必要がある。そこで、マスターレーザーから面発光レーザーへの注入同期を用いて、面発光レーザーの発振周波数を同一周波数に揃えている。しかし、面発光レーザーの自走周波数は、マスターレーザーの発振周波数と若干異なるため、初期状態での面発光レーザーの発振の位相は、定常状態での面発光レーザーの発振の0相又はπ相のいずれかの位相の方向に偏ってしまう。よって、初期状態の位相偏りによる誤答が生じる可能性が高い。
【0017】
そして、イジングサイトがM個であるとき、面発光レーザーはM個必要であり、面発光レーザーの間の光路部はM(M−1)/2個必要である。さらに、面発光レーザーの間の光路部の長さを正確に調節しなければ、面発光レーザーの間の擬似的なイジング相互作用の大きさ及び符号を正確に実装することができない。よって、イジングサイトが多数になると、イジングモデルの量子計算装置が大規模かつ複雑になる。
【0018】
次に、非特許文献1について、具体的に説明する。まず、2つのレーザーパルスの間で交換される光の振幅及び位相を制御することにより、2つのレーザーパルスの間の擬似的なイジング相互作用の大きさ及び符号を実装する。次に、各々のレーザーパルスが光を交換する過程で定常状態に到達した後に、各々のレーザーパルスの発振の位相を測定することにより、各々のレーザーパルスの擬似的なイジングスピンを測定する。
【0019】
ここで、レーザーパルスのネットワーク全体で、発振の位相を最適化した1つの発振モードを立ち上げるためには、レーザーパルスの間で同期を図る必要がある。そこで、縮退光パラメトリック発振器及びリング共振器を用いて、レーザーパルスの発振周波数を同一周波数に揃えている。そして、マスターレーザーによる注入同期を用いないで、縮退光パラメトリック発振器による下方変換を用いるため、初期状態でのレーザーパルスの発振の位相は、定常状態でのレーザーパルスの発振の0相又はπ相のいずれの位相の方向にも偏らない。よって、初期状態の位相偏りによる誤答が生じる可能性が低い。
【0020】
次に、非特許文献1に開示の技術を実現する第1の方法について、具体的に説明する。ここでは、リング共振器から分岐してリング共振器へと合流する、レーザーパルスの間の間隔に等しい長さを有する遅延線上に、レーザーパルスの間で交換される光の振幅及び位相を制御する変調器を配置する。そして、先行するレーザーパルスの一部は遅延線を伝搬し変調器で変調され、後続するレーザーパルスは遅延線を伝搬せずリング共振器を伝搬し、これらのレーザーパルスは合波され、よって、レーザーパルスの間で光が交換される。このように、リング共振器におけるレーザーパルスの周回伝搬が繰り返される過程で、レーザーパルスが定常状態に到達した後に、レーザーパルスの位相を測定する。
【0021】
つまり、イジングサイトがM個であるときには、遅延線は(M−1)種必要であり、変調器は(M−1)個必要である。そして、レーザーパルスの間の間隔に等しい長さを有する遅延線の長さを正確に調節しなければ、レーザーパルスの間の擬似的なイジング相互作用の大きさ及び符号を正確に実装することができない。よって、イジングサイトが多数になると、第1の方法でも、イジングモデルの量子計算装置が大規模かつ複雑になる。
【0022】
次に、非特許文献1に開示の技術を実現する第2の方法について、具体的に説明する。ここでは、リング共振器から分岐する場所において、レーザーパルスの位相を測定する検波器を配置する。そして、イジングモデルの結合係数及び測定されたレーザーパルスの位相に基づいて、イジングモデルの相互作用を計算する計算機を配置する。さらに、リング共振器へと合流する場所において、計算されたイジングモデルの相互作用に基づいて、レーザーパルスに注入される光の振幅及び位相を制御する変調器を配置する。このように、検波器、計算機及び変調器により構成されるフィードバックループが繰り返される過程で、レーザーパルスが定常状態に到達した後に、レーザーパルスの位相を測定する。
【0023】
つまり、イジングサイトがM個であるときでも、検波器、計算機及び変調器はそれぞれ1個のみ必要である。そして、その長さを正確に調節すべき光路部(特許文献1、2)や遅延線(第1の方法)は不要である。よって、イジングサイトが多数になっても、第2の方法では、イジングモデルの量子計算装置が小規模かつ単純になる。
【0024】
ところで、レーザーパルスの間の擬似的なイジング相互作用は、瞬時相互作用に近いことが望ましく、遅延相互作用でないことが望ましい。よって、検波器が全レーザーパルスの位相を測定してから、全レーザーパルスがリング共振器を「1周」して、変調器が全レーザーパルスに注入される光の振幅及び位相を制御するまでに、計算機が全レーザーパルスが関わるイジングモデルの全相互作用を計算することが望ましい。
【0025】
しかし、計算機が全レーザーパルスが関わるイジングモデルの全相互作用を計算する時間は、イジングサイト数の自乗(2体のイジング相互作用の場合)に比例して増加するため、イジングサイト数が多数になると、計算機のクロックやメモリの制限により、全レーザーパルスがリング共振器を「1周」する時間より長くなることが考えられる。
【0026】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、イジングスピン測定ステップ、イジング相互作用計算ステップ及びイジング相互作用実装ステップにより構成されるフィードバックループが繰り返される過程で、全レーザーパルスが関わるイジングモデルの全相互作用を計算する時間を十分に確保することにより、イジングサイト数が多数になっても、系全体の動作を安定にして、誤答が生じる可能性を低くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するために、全レーザーパルスがリング共振器を「1周」する時間を実効的に長くすることとした。イジングスピン測定ステップは、全イジングスピン1セット分の測定を終了してから、全イジングスピン1セット分の測定を再開するまで、測定を中断する。イジング相互作用計算ステップは、イジングスピン測定ステップが、全イジングスピン1セット分の測定を終了してから、全イジングスピン1セット分の測定を再開するまでに、直近のイジングスピンの測定に基づいて、全イジングスピンが関わる全イジング相互作用を十分な時間の余裕を持って計算することができる。
【0028】
具体的には、本開示は、イジングモデルの複数のスピンに擬似的に対応し同一の発振周波数を有する複数の擬似的スピンパルスを縮退光パラメトリック発振させる縮退光パラメトリック発振器と、前記複数の擬似的スピンパルスを周回伝搬させるリング共振器と、前記複数の擬似的スピンパルスが前記リング共振器を周回伝搬するたびに、前記複数の擬似的スピンパルスの位相を暫定的に測定することにより、前記複数の擬似的スピンパルスの擬似的なスピンを暫定的に測定するにあたって、1セット分の測定を終了してから1セット分の測定を再開するまで測定を中断する暫定的スピン測定部と、前記暫定的スピン測定部が1セット分の測定を終了してから1セット分の測定を再開するまでに、前記イジングモデルの結合係数及び前記暫定的スピン測定部が直近に測定した前記複数の擬似的スピンパルスの擬似的なスピンに基づいて、前記複数の擬似的スピンパルスが関わる全相互作用を暫定的に計算する相互作用計算部と、前記相互作用計算部が前記複数の擬似的スピンパルスが関わる全相互作用の暫定的な計算を終了した後に、前記複数の擬似的スピンパルスに対して注入される光の振幅及び位相を制御することにより、前記相互作用計算部が直近に計算した前記複数の擬似的スピンパルスが関わる全相互作用の大きさ及び符号を暫定的に実装する相互作用実装部と、前記暫定的スピン測定部、前記相互作用計算部及び前記相互作用実装部により構成されるフィードバックループが繰り返される過程で、前記複数の擬似的スピンパルスが定常状態に到達した後に、前記複数の擬似的スピンパルスの位相を測定することにより、前記複数の擬似的スピンパルスの擬似的なスピンを測定する擬似的スピン測定部と、を備えることを特徴とするイジングモデルの量子計算装置である。
【0029】
この構成によれば、全レーザーパルスがリング共振器を「1周」する時間を実効的に長くすることにより、イジング相互作用計算ステップは、直近のイジングスピンの測定に基づいて、全イジングスピンが関わる全イジング相互作用を十分な時間の余裕を持って計算することができる。
【0030】
また、本開示は、前記リング共振器は、前記イジングモデルの前記複数のスピンに擬似的に対応する、連続した前記複数の擬似的スピンパルスを周回伝搬させており、前記暫定的スピン測定部が1セット分の測定を終了してから1セット分の測定を再開するまでに、前記リング共振器を周回伝搬する前記複数の擬似的スピンパルスが、前記リング共振器から前記暫定的スピン測定部への分岐箇所をそれぞれ1回以上通過することを特徴とするイジングモデルの量子計算装置である。
【0031】
この構成によれば、複数の擬似的スピンパルスが、リング共振器から暫定的スピン測定部への分岐箇所をそれぞれ1回以上通過する間に、イジング相互作用計算ステップは、直近のイジングスピンの測定に基づいて、全イジングスピンが関わる全イジング相互作用を十分な時間の余裕を持って計算することができる。
【0032】
また、本開示は、前記リング共振器は、前記イジングモデルの前記複数のスピンに擬似的に対応する、連続した前記複数の擬似的スピンパルスと、前記イジングモデルの前記複数のスピンに対応しない、連続した複数のダミーパルスと、を周回伝搬させており、前記暫定的スピン測定部が1セット分の測定を終了してから1セット分の測定を再開するまでに、前記リング共振器を周回伝搬する前記複数のダミーパルスが、前記リング共振器から前記暫定的スピン測定部への分岐箇所をそれぞれ1回通過することを特徴とするイジングモデルの量子計算装置である。
【0033】
この構成によれば、複数のダミーパルスが、リング共振器から暫定的スピン測定部への分岐箇所をそれぞれ1回通過する間に、イジング相互作用計算ステップは、直近のイジングスピンの測定に基づいて、全イジングスピンが関わる全イジング相互作用を十分な時間の余裕を持って計算することができる。
【0034】
また、本開示は、前記縮退光パラメトリック発振器は、前記複数のダミーパルスの発振位相及び発振強度を、それぞれ、予め定められた位相及び予め定められた強度に制御し、前記イジングモデルの量子計算装置は、前記複数のダミーパルスを参照信号として用いて、自装置の位相特性のキャリブレーションを実行することを特徴とするイジングモデルの量子計算装置である。
【0035】
この構成によれば、最適解が分かっていない発振位相及び計算過程で時間変化する発振強度を有する複数の疑似的スピンパルスを参照信号として用いず、予め定められた発振位相及び予め定められた発振強度を有する複数のダミーパルスを参照信号として用いて、イジングモデルの量子計算装置の位相特性のキャリブレーションを実行することができる。
【0036】
また、本開示は、前記複数のダミーパルスの発振強度が、前記予め定められた強度に最大化されるように、前記リング共振器の共振長を制御するリング共振長制御部、をさらに備えることを特徴とするイジングモデルの量子計算装置である。
【0037】
この構成によれば、イジングモデルの量子計算装置の設置環境(例えば、温度等)が時間変動することに応じて、リング共振器の共振長が時間変動するときでも、リング共振器の共振長を一定値に安定化することができる。よって、複数の疑似的スピンパルスがリング共振器を複数回又は単数回だけ周回伝搬するたびに、縮退光パラメトリック発振器中の位相感応増幅器における増幅強度、暫定的スピン測定部における局部発振光との干渉タイミング、及び、相互作用実装部における注入パルスとの干渉タイミングを安定化することができる。そして、縮退光パラメトリック発振器中の位相感応増幅器におけるパルス安定化、暫定的スピン測定部におけるパルス位相測定、及び、相互作用実装部における相互作用実装を正確に実行することができ、ひいては、イジングモデルの量子計算装置の計算精度を大幅に向上させることができる。
【0038】
また、本開示は、前記複数のダミーパルスと、前記暫定的スピン測定部が前記複数の疑似的スピンパルスの位相測定に用いる局部発振光と、の干渉結果が、前記複数のダミーパルスの予め定められた発振位相から想定される予め定められた干渉結果となるように、前記複数の疑似的スピンパルスと、前記暫定的スピン測定部が前記複数の疑似的スピンパルスの位相測定に用いる局部発振光と、の干渉タイミングを制御する局部発振光制御部、をさらに備えることを特徴とするイジングモデルの量子計算装置である。
【0039】
この構成によれば、複数の疑似的スピンパルスがリング共振器を複数回又は単数回だけ周回伝搬するたびに、暫定的スピン測定部における局部発振光との干渉タイミングを安定化することができる。よって、暫定的スピン測定部におけるパルス位相測定を正確に実行することができ、ひいては、イジングモデルの量子計算装置の計算精度を大幅に向上させることができる。
【0040】
また、本開示は、前記複数のダミーパルスと、前記相互作用実装部が前記複数のダミーパルスへの光注入に用いる予め定められた発振位相を有する複数のダミー注入パルスと、の干渉結果が、前記複数のダミーパルスの予め定められた発振位相から想定される予め定められた干渉結果となるように、前記複数の疑似的スピンパルスと、前記相互作用実装部が前記複数の疑似的スピンパルスへの光注入に用いる相互作用が考慮された発振位相を有する複数のスピン注入パルスと、の干渉タイミングを制御する注入パルス制御部、をさらに備えることを特徴とするイジングモデルの量子計算装置である。
【0041】
この構成によれば、複数の疑似的スピンパルスがリング共振器を複数回又は単数回だけ周回伝搬するたびに、相互作用実装部における注入パルスとの干渉タイミングを安定化することができる。よって、相互作用実装部における相互作用実装を正確に実行することができ、ひいては、イジングモデルの量子計算装置の計算精度を大幅に向上させることができる。
【0042】
また、本開示は、前記相互作用実装部は、前記暫定的スピン測定部が1セット分の測定を終了してから1セット分の測定を再開するまでの期間が長いほど、前記複数の擬似的スピンパルスに対して注入される光の振幅を大きく制御することを特徴とするイジングモデルの量子計算装置である。
【0043】
スピンの測定及び相互作用の実装を中断するときには、スピンの測定及び相互作用の実装を中断しないときと比べて、レーザーパルスに対する注入強度が実効的に小さくなる。この構成によれば、スピンの測定及び相互作用の実装の中断期間が長いほど、レーザーパルスに対する注入強度を大きくすることにより、スピンの測定及び相互作用の実装を中断するときでも、スピンの測定及び相互作用の実装を中断しないときと同様に、レーザーパルスに対する注入強度及びポンプゲインのバランスを維持することができる。
【0044】
また、本開示は、前記縮退光パラメトリック発振器は、前記暫定的スピン測定部が1セット分の測定を終了してから1セット分の測定を再開するまでの期間が長いほど、前記複数の擬似的スピンパルスの縮退光パラメトリック発振のポンプレートを小さく制御することを特徴とするイジングモデルの量子計算装置である。
【0045】
スピンの測定及び相互作用の実装を中断するときには、スピンの測定及び相互作用の実装を中断しないときと比べて、レーザーパルスに対する注入強度が実効的に小さくなる。この構成によれば、スピンの測定及び相互作用の実装の中断期間が長いほど、レーザーパルスに対するポンプゲインを小さくすることにより、スピンの測定及び相互作用の実装を中断するときでも、スピンの測定及び相互作用の実装を中断しないときと同様に、レーザーパルスに対する注入強度及びポンプゲインのバランスを維持することができる。
【0046】
また、本開示は、前記相互作用実装部は、前記イジングモデルのグラフ平均次数が高いほど、前記複数の擬似的スピンパルスに対して注入される光の振幅を小さく制御することを特徴とするイジングモデルの量子計算装置である。
【0047】
この構成によれば、グラフ次数が高いレーザーパルスに対する注入強度を小さくすることにより、グラフ次数が高いイジングスピンがσ=±1の間で振動することを防止するため、系全体の動作が不安定とならず、誤答が生じる可能性が低くなる。
【発明の効果】
【0048】
以上に説明したように、本開示によれば、イジングスピン測定ステップ、イジング相互作用計算ステップ及びイジング相互作用実装ステップにより構成されるフィードバックループが繰り返される過程で、全レーザーパルスが関わるイジングモデルの全相互作用を計算する時間を十分に確保することにより、イジングサイト数が多数になっても、系全体の動作を安定にして、誤答が生じる可能性を低くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0050】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0051】
(本開示のイジングモデルの量子計算装置の構成及び原理)
本開示のイジングモデルの量子計算装置Qの構成を
図1に示す。本開示では、イジングハミルトニアンを、1体〜3体の相互作用を含むとして、数式1のようにする。
【数1】
【0052】
縮退光パラメトリック発振器1は、イジングモデルの複数のスピンσ
1〜σ
4に擬似的に対応し同一の発振周波数を有する複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4を縮退光パラメトリック発振させる。リング共振器2は、複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4を周回伝搬させる。複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4は、SP1、SP2、SP3、SP4、SP1、SP2、SP3、SP4、・・・の順序で、後述のフィードバックループに入る。
【0053】
暫定的スピン測定部3は、複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4がリング共振器2を周回伝搬するたびに、複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4の位相を暫定的に測定することにより、複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4の擬似的なスピンσ
1〜σ
4を暫定的に測定する。具体的には、暫定的スピン測定部3は、局部発振パルスLOを用いて、複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4に対して、ホモダイン検波を行う。
【0054】
相互作用計算部4は、ある擬似的スピンパルスSPiが関わるイジングモデルの結合係数λ
i、J
ij、K
ijk及び暫定的スピン測定部3が暫定的に測定した他の擬似的スピンパルスSPj、SPkの擬似的なスピンσ
j、σ
kに基づいて、ある擬似的スピンパルスSPiが関わる相互作用(σ
iに対する比例係数−λ
i−ΣJ
ijσ
j−ΣK
ijkσ
jσ
k)を暫定的に計算する。
図1では、i、j、k=1〜4の場合を示している。
【0055】
ここで、NP完全問題などが、イジングモデルにマッピングされた後、相互作用計算部4は、イジングモデルの結合係数λ
i、J
ij、K
ijkを入力する。
【0056】
相互作用実装部5は、ある擬似的スピンパルスSPiに対して注入される光の振幅及び位相を制御することにより、相互作用計算部4が暫定的に計算したある擬似的スピンパルスSPiが関わる相互作用(σ
iに対する比例係数−λ
i−ΣJ
ijσ
j−ΣK
ijkσ
jσ
k)の大きさ及び符号を暫定的に実装する。具体的には、相互作用実装部5は、局部発振パルスLOを用いて、ある擬似的スピンパルスSPiに対して、注入光パルスを生成する。
【0057】
擬似的スピン測定部6は、暫定的スピン測定部3、相互作用計算部4及び相互作用実装部5により構成されるフィードバックループが繰り返される過程で、複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4が定常状態に到達した後に、複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4の位相を測定することにより、複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4の擬似的なスピンσ
1〜σ
4を測定する。具体的には、擬似的スピン測定部6は、局部発振パルスLOを用いて、複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4に対して、ホモダイン検波を行う。
【0058】
ここで、擬似的スピン測定部6が、イジングモデルのスピンσ
1〜σ
4を出力した後、イジングモデルは、NP完全問題などにデマッピングされる。
【0059】
このように、縮退光パラメトリック発振器1でポンプエネルギーを制御し、複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4のネットワーク全体で閾値利得が最低となる1つの発振モードを立ち上げ、複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4の発振位相を測定し、複数の擬似的スピンパルスSP1〜SP4に対応する各イジングスピンの方向を測定する。
【0060】
図1の説明では、暫定的スピン測定ステップと相互作用実装ステップの間に、縮退光パラメトリック増幅ステップが入らない。この場合には、タイムラグがほとんど生じないため、イジングモデルのサイト間のほとんど遅延のない相互作用を実装することができる。
【0061】
変形例として、暫定的スピン測定ステップと相互作用実装ステップの間に、縮退光パラメトリック増幅ステップが入ってもよい。この場合には、タイムラグがある程度生じるものの、イジングモデルのサイト間の実質には遅延のない相互作用を実装することができる。
【0062】
図1における計算内容について詳述する。局部発振パルスLOの発振位相0は、初期状態から定常状態まで変化しない。各擬似的スピンパルスSPの発振位相φ(t)は、初期状態においては、0及びπのいずれかをランダムにとり(各擬似的スピンパルスSPは、縮退光パラメトリック発振器1により、縮退光パラメトリック発振されて、スクイーズド状態にある。)、定常状態においては、0及びπのいずれかをイジング相互作用に応じてとる。定常状態におけるφ(定常)=0、πは、それぞれ、σ=+1、−1に対応する。
【0063】
各擬似的スピンパルスSPについて、1体の相互作用の結合係数λ
iが正であるときには、当該擬似的スピンパルスSPの擬似的なスピンσが+1であることが、エネルギー的に有利である。よって、相互作用実装部5は、当該擬似的スピンパルスSPの発振位相φ(定常)が0であるような発振モードが、立ち上がりやすいようにする。
【0064】
各擬似的スピンパルスSPについて、1体の相互作用の結合係数λ
iが負であるときには、当該擬似的スピンパルスSPの擬似的なスピンσが−1であることが、エネルギー的に有利である。よって、相互作用実装部5は、当該擬似的スピンパルスSPの発振位相φ(定常)がπであるような発振モードが、立ち上がりやすいようにする。
【0065】
2つの擬似的スピンパルスSPについて、2体の相互作用の結合係数J
ijが正であるときには、2つの擬似的スピンパルスSPの擬似的なスピンσが同符号であることが、エネルギー的に有利である。よって、相互作用実装部5は、2つの擬似的スピンパルスSPの発振位相φ(定常)が同相であるような発振モードが、立ち上がりやすいようにする。
【0066】
2つの擬似的スピンパルスSPについて、2体の相互作用の結合係数J
ijが負であるときには、2つの擬似的スピンパルスSPの擬似的なスピンσが異符号であることが、エネルギー的に有利である。よって、相互作用実装部5は、2つの擬似的スピンパルスSPの発振位相φ(定常)が逆相であるような発振モードが、立ち上がりやすいようにする。
【0067】
3つの擬似的スピンパルスSPについて、3体の相互作用の結合係数K
ijkが正であるときには、(1)3つの擬似的スピンパルスSPの擬似的なスピンσが+1であること、又は、(2)2つの擬似的スピンパルスSPの擬似的なスピンσが−1であり、1つの擬似的スピンパルスSPの擬似的なスピンσが+1であることが、エネルギー的に有利である。よって、相互作用実装部5は、(1)3つの擬似的スピンパルスSPの発振位相φ(定常)が0であるような発振モード、又は、(2)2つの擬似的スピンパルスSPの発振位相φ(定常)がπであり、1つの擬似的スピンパルスSPの発振位相φ(定常)が0であるような発振モードが、立ち上がりやすいようにする。
【0068】
3つの擬似的スピンパルスSPについて、3体の相互作用の結合係数K
ijkが負であるときには、(1)3つの擬似的スピンパルスSPの擬似的なスピンσが−1であること、又は、(2)2つの擬似的スピンパルスSPの擬似的なスピンσが+1であり、1つの擬似的スピンパルスSPの擬似的なスピンσが−1であることが、エネルギー的に有利である。よって、相互作用実装部5は、(1)3つの擬似的スピンパルスSPの発振位相φ(定常)がπであるような発振モード、又は、(2)2つの擬似的スピンパルスSPの発振位相φ(定常)が0であり、1つの擬似的スピンパルスSPの発振位相φ(定常)がπであるような発振モードが、立ち上がりやすいようにする。
【0069】
もっとも、イジングモデルの量子計算装置Qの全体において、一体として1つの発振モードが立ち上がるようにするのであり、各擬似的スピンパルスSPにおいて、上述の発振モードが実際に立ち上がることもあれば、必ずしも立ち上がらないこともある。
【0070】
図1における計算原理について詳述する。各擬似的スピンパルスSP1、SP2、SP3、SP4において、I成分強度c
i及びQ成分強度s
iについて、レート方程式は、ファンデルポール方程式に対応して、数式2、3のようになる。
【数2】
【数3】
【0071】
tは、無次元時間であり、t=γ
Sτ/2である。τは、実時間である。γ
Sは、シグナル光の共振器内減衰率である。c
i及びs
iは、それぞれ、規格化後のI成分及びQ成分の強度であり、c
i=C
i/A
s及びs
i=S
i/A
sである。C
i及びS
iは、それぞれ、規格化前のI成分及びQ成分の強度である。規格化因子A
sは、p(後述する規格化後のポンプレート)=2におけるシグナル光の強度であり、A
s=√(γ
Sγ
p/2κ
2)である。γ
pは、ポンプ光の共振器内減衰率である。κは、縮退光パラメトリックゲインである。pは、規格化後のポンプレートであり、p=F
p/F
thである。F
pは、規格化前のポンプレートである。規格化因子F
thは、閾値ポンプレートであり、F
th=γ
S√(γ
p)/4κである。
【0072】
数式2の−c
i及び数式3の−s
iは、共振器内損失に関わる項である。数式2の+pc
i及び数式3の−ps
iは、線形利得に関わる項である。数式2の−(c
i2+s
i2)c
i及び数式3の−(c
i2+s
i2)s
iは、飽和利得に関わる項である。これらの項は、光注入による摂動項を含まない、ファンデルポール方程式を構成する。
【0073】
数式2、3のζ
iが関わる項は、1体の相互作用に関わる項であり、ファンデルポール方程式に対する、光注入による摂動項である。相互作用実装部5が、擬似的スピンパルスSPiに対して、1体の相互作用(σ
iに対する比例係数−λ
iと同符号で比例する−ζ
i)を実装するための注入光パルスを生成する方法を説明する。
【0074】
相互作用計算部4は、1体の相互作用(σ
iに対する比例係数−λ
iに比例する−ζ
i)を計算する。ζ
iが正であるときには、相互作用実装部5は、局部発振パルスLO(発振位相0)に対して、発振位相をそのまま維持する位相変調を行い、|ζ
i|に比例する振幅変調を行い、注入光パルスを生成する。ζ
iが負であるときには、相互作用実装部5は、局部発振パルスLO(発振位相0)に対して、発振位相をπだけ遅くする位相変調を行い、|ζ
i|に比例する振幅変調を行い、注入光パルスを生成する。
【0075】
数式2、3のξ
ijが関わる項は、2体の相互作用に関わる項であり、ファンデルポール方程式に対する、光注入による摂動項である。相互作用実装部5が、擬似的スピンパルスSPiに対して、2体の相互作用(σ
iに対する比例係数−ΣJ
ijσ
jと同符号で比例する−Σξ
ijσ
j)を実装するための注入光パルスを生成する方法を説明する。
【0076】
暫定的スピン測定部3は、本周回前に、擬似的スピンパルスSPjの発振位相φ
j(t)及び擬似的なスピンσ
jを測定している。相互作用計算部4は、2体の相互作用(σ
iに対する比例係数−ΣJ
ijσ
jに比例する−Σξ
ijσ
j)を計算する。i、j番目のサイト間について、ξ
ijが正であるときには、相互作用実装部5は、局部発振パルスLO(発振位相0)に対して、発振位相をφ
j(t)に移すが更なる逆相化を施さない位相変調を行い、|ξ
ij|に比例する振幅変調を行い、注入光パルスを生成する。i、j番目のサイト間について、ξ
ijが負であるときには、相互作用実装部5は、局部発振パルスLO(発振位相0)に対して、発振位相をφ
j(t)に移して更なる逆相化を施す位相変調を行い、|ξ
ij|に比例する振幅変調を行い、注入光パルスを生成する。相互作用実装部5は、i、j番目のサイト間の全組み合わせについて、上述のように注入光パルスを生成する。
【0077】
数式2、3のχ
ijkが関わる項は、3体の相互作用に関わる項であり、ファンデルポール方程式に対する、光注入による摂動項である。相互作用実装部5が、擬似的スピンパルスSPiに対して、3体の相互作用(σ
iに対する比例係数−ΣK
ijkσ
jσ
kと同符号で比例する−Σχ
ijkσ
jσ
k)を実装するための注入光パルスを生成する方法を説明する。
【0078】
暫定的スピン測定部3は、本周回前に、擬似的スピンパルスSPj、SPkの発振位相φ
j(t)、φ
k(t)及び擬似的なスピンσ
j、σ
kを測定している。相互作用計算部4は、3体の相互作用(σ
iに対する比例係数−ΣK
ijkσ
jσ
kに比例する−Σχ
ijkσ
jσ
k)を計算する。i、j、k番目のサイト間について、χ
ijkが正であるときには、相互作用実装部5は、局部発振パルスLO(発振位相0)に対して、発振位相を後述するφ
jk(t)に移すが更なる逆相化を施さない位相変調を行い、|χ
ijk|に比例する振幅変調を行い、注入光パルスを生成する。i、j、k番目のサイト間について、χ
ijkが負であるときには、相互作用実装部5は、局部発振パルスLO(発振位相0)に対して、発振位相を後述するφ
jk(t)に移して更なる逆相化を施す位相変調を行い、|χ
ijk|に比例する振幅変調を行い、注入光パルスを生成する。相互作用実装部5は、i、j、k番目のサイト間の全組み合わせについて、上述のように注入光パルスを生成する。
【0079】
ここで、φ
jk(t)はσ
jσ
k=cosφ
jk(t)を満たすところ、φ
jk(t)をこのように定義する必要がある理由を説明する。つまり、擬似的スピンパルスSPiに対して、2体の相互作用(σ
iに対する比例係数−ΣJ
ijσ
jに比例する−Σξ
ijσ
j)を実装するためには、擬似的スピンパルスSPi、SPjを線形に重ね合わせるのみで足りる。しかし、擬似的スピンパルスSPiに対して、3体の相互作用(σ
iに対する比例係数−ΣK
ijkσ
jσ
kに比例する−Σχ
ijkσ
jσ
k)を実装するためには、擬似的スピンパルスSPi、SPj、SPkを線形に重ね合わせるのみでは足らない。
【0080】
しかし、擬似的スピンパルスSPi、SPj、SPkの間の非線形効果を利用すれば、イジングモデルの量子計算装置Qの回路構成が複雑になる。そこで、σ
jσ
k=cosφ
jk(t)とおけば、擬似的スピンパルスSPi及び注入光パルスの間の線形の重ね合わせが利用できて、イジングモデルの量子計算装置Qの回路構成が簡易になる。
【0081】
さらに、各擬似的スピンパルスSPi及び各注入光パルスの線形の重ね合わせの範囲内で、イジングモデルの4体以上の相互作用を実装することができる。つまり、イジングモデルの4体以上の相互作用を実装するときには、上述と同様にσ
jσ
kσ
l・・・=cosφ
jkl・・・(t)(N体の相互作用について、左辺は(N−1)個のσの積)とおいて、擬似的スピンパルスSPi及び注入光パルスの線形の重ね合わせを行う。
【0082】
定常状態において、数式2、3は、それぞれ、数式4、5のようになる。
【数4】
【数5】
【0083】
数式2のp−(c
i2+s
i2)は、擬似的スピンパルスSPiについての飽和利得である。ここで、定常状態において、ネットワーク全体についての飽和利得は、ネットワーク全体についての光子減衰率に等しく、I成分c
iは、有限値であるが、Q成分s
iは、0である。よって、ネットワーク全体についての光子減衰率Γは、数式6のようになる。
【数6】
【0084】
ここで、数式6の最右辺の第1項は、数式4の左辺の第3〜5項を摂動項としたときにおける、摂動の0次の寄与を示す。そして、数式6の最右辺の第2〜4項は、数式4の左辺の第3〜5項を摂動項としたときにおける、摂動の1次の寄与を示す。さらに、σ
i=sgn(c
i)〜sgn(c
i(0))(c
i(0)は摂動の0次の寄与)を用いている。
【0085】
ここで、レーザーの媒質が均一な媒質であるときには、レーザーシステム全体として、最小の光子減衰率Γを実現する発振位相状態{σ
i}が選択される。つまり、レーザーシステム全体として、1個の特定の発振モードが選択される。そして、発振モードの間の競合に起因して、1個の特定の発振モードは、他の発振モードを抑制する。つまり、レーザーシステム全体として、数式6のΓは最小化される。一方で、レーザーシステム全体として、数式6のMは一定である。よって、レーザーシステム全体として、数式6の−Σζ
iσ
i−Σξ
ijσ
iσ
j−Σχ
ijkσ
iσ
jσ
kは最小化される。つまり、数式1のイジングハミルトニアンを最小化する基底状態が実現されたことになる。
【0086】
(本開示のイジングモデルの量子計算方法の遅延フィードバック)
本開示のイジングモデルの量子計算方法の第1の手順を
図2に示す。第1の手順では、イジングサイト数が1000個であることから、擬似的スピンパルスSP
iが1000個周回伝搬している。そして、擬似的スピンパルス1セット{SP
i}が1回周回するたびに、暫定的スピン測定ステップ及び相互作用実装ステップが実行されている。
【0087】
ここで、擬似的スピンパルスSP
iの間の擬似的なイジング相互作用は、瞬時相互作用に近いことが望ましく、遅延相互作用でないことが望ましい。よって、暫定的スピン測定部3が全擬似的スピンパルスSP
iの位相を測定してから、全擬似的スピンパルスSP
iがリング共振器2を「1周」して、相互作用実装部5が全擬似的スピンパルスSP
iに注入される光の振幅及び位相を制御するまでに、相互作用計算部4が全擬似的スピンパルスSP
iが関わるイジングモデルの全相互作用を計算することが望ましい。
【0088】
しかし、相互作用計算部4が全擬似的スピンパルスSP
iが関わるイジングモデルの全相互作用を計算する時間は、イジングサイト数の自乗(2体のイジング相互作用の場合)に比例して増加するため、イジングサイト数が多数になると、相互作用計算部4(例えば、FPGA)のクロックやメモリの制限により、全擬似的スピンパルスSP
iがリング共振器2を「1周」する時間より長くなることが考えられる。
【0089】
本開示のイジングモデルの量子計算方法の第2の手順を
図3に示す。第2の手順では、イジングサイト数が1000個であることから、擬似的スピンパルスSP
iが1000個周回伝搬している。そして、全擬似的スピンパルスSP
iが関わるイジングモデルの全相互作用を計算する時間を十分に確保するため、全擬似的スピンパルスSP
iがリング共振器2を「1周」する時間を実効的に長くすることとした。つまり、暫定的スピン測定部3が全擬似的スピンパルスSP
iの位相を測定してから、全擬似的スピンパルスSP
iがリング共振器2を「L周」して、相互作用実装部5が全擬似的スピンパルスSP
iに注入される光の振幅及び位相を制御するまでに、相互作用計算部4が全擬似的スピンパルスSP
iが関わるイジングモデルの全相互作用を計算しており、相互作用計算に十分な時間の余裕を持たせている。
【0090】
具体的には、暫定的スピン測定部3は、擬似的スピンパルス1セット{SP
i}分の測定を終了してから、擬似的スピンパルス1セット{SP
i}分の測定を再開するまで、測定を中断する。ここで、暫定的スピン測定部3が、擬似的スピンパルス1セット{SP
i}分の測定を終了してから、擬似的スピンパルス1セット{SP
i}分の測定を再開するまでに、リング共振器2を周回伝搬する複数の擬似的スピンパルスSP
iが、リング共振器2から暫定的スピン測定部3への分岐箇所をそれぞれL回通過する。そして、リング共振器2を周回伝搬する複数の擬似的スピンパルスSP
iは、リング共振器2から暫定的スピン測定部3への分岐箇所をそれぞれL回通過する間には、縮退光パラメトリック発振器1によるゲイン及びフィードバックループへの出力によるロスを受けるのみである。
【0091】
そして、相互作用計算部4は、暫定的スピン測定部3が、擬似的スピンパルス1セット{SP
i}分の測定を終了してから、擬似的スピンパルス1セット{SP
i}分の測定を再開するまでに、直近のスピンの測定に基づいて、全擬似的スピンパルスSP
iが関わる全相互作用を計算する。さらに、相互作用実装部5は、相互作用計算部4が、全擬似的スピンパルスSP
iが関わる全相互作用の計算を終了した後に、直近の相互作用の計算に基づいて、全擬似的スピンパルスSP
iに対して注入される光の振幅及び位相を制御する。
【0092】
このように、全擬似的スピンパルスSP
iがリング共振器2を「1周」する時間を実効的に長くすることにより、相互作用計算部4は、直近のスピンの測定に基づいて、全擬似的スピンパルスSP
iが関わる全相互作用を、十分な時間の余裕を持って計算することができる。具体的には、複数の擬似的スピンパルスSP
iが、リング共振器2から暫定的スピン測定部3への分岐箇所をそれぞれL回通過する間に、相互作用計算部4は、直近のスピンの測定に基づいて、全擬似的スピンパルスSP
iが関わる全相互作用を、十分な時間の余裕を持って計算することができる。
【0093】
本開示のイジングモデルの量子計算方法の第3の手順を
図4に示す。第3の手順では、イジングサイト数が1000個であることから、擬似的スピンパルスSP
iが1000個周回伝搬しており、イジングサイト数に対応しないものの、ダミーパルスが1000個周回伝搬している。そして、全擬似的スピンパルスSP
iが関わるイジングモデルの全相互作用を計算する時間を十分に確保するため、全擬似的スピンパルスSP
iがリング共振器2を「1周」する時間を実効的に長くすることとした。つまり、暫定的スピン測定部3が全擬似的スピンパルスSP
iの位相を測定してから、全ダミーパルスが暫定的スピン測定部3を「1回」やり過ごして、相互作用実装部5が全擬似的スピンパルスSP
iに注入される光の振幅及び位相を制御するまでに、相互作用計算部4が全擬似的スピンパルスSP
iが関わるイジングモデルの全相互作用を計算しており、相互作用計算に十分な時間の余裕を持たせている。
【0094】
具体的には、暫定的スピン測定部3は、擬似的スピンパルス1セット{SP
i}分の測定を終了してから、擬似的スピンパルス1セット{SP
i}分の測定を再開するまで、測定を中断する。ここで、暫定的スピン測定部3が、擬似的スピンパルス1セット{SP
i}分の測定を終了してから、擬似的スピンパルス1セット{SP
i}分の測定を再開するまでに、リング共振器2を周回伝搬する複数のダミーパルスが、リング共振器2から暫定的スピン測定部3への分岐箇所をそれぞれ1回通過する。そして、リング共振器2を周回伝搬する複数のダミーパルスは、リング共振器2から暫定的スピン測定部3への分岐箇所をそれぞれ1回通過する間には、縮退光パラメトリック発振器1によるゲイン及びフィードバックループへの出力によるロスを受けるのみである。
【0095】
そして、相互作用計算部4は、暫定的スピン測定部3が、擬似的スピンパルス1セット{SP
i}分の測定を終了してから、擬似的スピンパルス1セット{SP
i}分の測定を再開するまでに、直近のスピンの測定に基づいて、全擬似的スピンパルスSP
iが関わる全相互作用を計算する。さらに、相互作用実装部5は、相互作用計算部4が、全擬似的スピンパルスSP
iが関わる全相互作用の計算を終了した後に、直近の相互作用の計算に基づいて、全擬似的スピンパルスSP
iに対して注入される光の振幅及び位相を制御する。
【0096】
このように、全擬似的スピンパルスSP
iがリング共振器2を「1周」する時間を実効的に長くすることにより、相互作用計算部4は、直近のスピンの測定に基づいて、全擬似的スピンパルスSP
iが関わる全相互作用を、十分な時間の余裕を持って計算することができる。具体的には、複数のダミーパルスが、リング共振器2から暫定的スピン測定部3への分岐箇所をそれぞれ1回通過する間に、相互作用計算部4は、直近のスピンの測定に基づいて、全擬似的スピンパルスSP
iが関わる全相互作用を、十分な時間の余裕を持って計算することができる。
【0097】
なお、ダミーパルスは、量子計算に用いられず、長いリング共振器2又は狭いパルス間隔を必要とするが、周回の先頭の目印や共振器の安定化等、別用途に使用可能である。本開示のイジングモデルの量子計算装置の位相特性安定化を
図5に示す。
【0098】
イジングモデルの量子計算装置Qの設置環境(例えば、温度等)が時間変動することに応じて、リング共振器2の共振長が時間変動することがある。よって、リング共振器2の共振長を一定値に安定化することができなければ、複数の疑似的スピンパルスがリング共振器2を複数回又は単数回だけ周回伝搬するたびに、縮退光パラメトリック発振器1中の位相感応増幅器10における増幅強度、暫定的スピン測定部3における局部発振光との干渉タイミング、及び、相互作用実装部5における注入パルスとの干渉タイミングを安定化することができない。そして、縮退光パラメトリック発振器1中の位相感応増幅器10におけるパルス安定化、暫定的スピン測定部3におけるパルス位相測定、及び、相互作用実装部5における相互作用実装を正確に実行することができず、ひいては、イジングモデルの量子計算装置Qの計算精度を大幅に向上させることができない。
【0099】
そこで、
図5に示すように、イジングモデルの量子計算装置Qの位相特性のキャリブレーションを実行するのである。ここで、位相特性のキャリブレーションに用いる参照信号として、最適解が分かっていない発振位相及び計算過程で時間変化する発振強度を有する複数の疑似的スピンパルスを用いることは、実装上困難である。しかし、位相特性のキャリブレーションに用いる参照信号として、予め定められた発振位相及び予め定められた発振強度を有する複数のダミーパルスを用いることは、実装上簡便である。
【0100】
具体的には、縮退光パラメトリック発振器1は、複数のダミーパルスの発振位相及び発振強度を、それぞれ、予め定められた位相及び予め定められた強度に制御する。そして、イジングモデルの量子計算装置Qは、複数のダミーパルスを参照信号として用いて、自装置Qの位相特性のキャリブレーションを実行する。そのために、イジングモデルの量子計算装置Qは、
図1に示した構成に加えて、
図5に示した構成として、リング共振長制御部7、局部発振光制御部8及び注入パルス制御部9をさらに備える。
【0101】
リング共振長制御部7は、光測定部71、フィードバック制御部72及び位相制御部73を備える。複数のダミーパルス及び複数の疑似的スピンパルスは、リング共振器2上の位相測定地点及び局部発振光制御部8への分波地点を経由して、リング共振長制御部7に入力される。ここで、リング共振器2の共振長が時間変動しなければ、縮退光パラメトリック発振器1中の位相感応増幅器10における増幅強度が安定化されるため、複数のダミーパルスの発振強度は、予め定められた強度に最大化される。しかし、リング共振器2の共振長が時間変動すれば、縮退光パラメトリック発振器1中の位相感応増幅器10における増幅強度が安定化されないため、複数のダミーパルスの発振強度は、予め定められた強度に最大化されない。
【0102】
光測定部71は、複数のダミーパルスの発振強度を測定する。位相制御部73は、リング共振器2の共振長を制御する。フィードバック制御部72は、光測定部71が測定した発振強度が、予め定められた強度に最大化されるように、位相制御部73をフィードバック制御する。フィードバック制御部72は、レーザーの発振周波数の安定化技術である、PDH(Pound−Drever−Hall)法又はFM(Frequency Modulation)サイドバンド法等を、応用することができる。
【0103】
局部発振光制御部8は、光測定部81、フィードバック制御部82及び位相制御部83を備える。複数のダミーパルス及び複数の疑似的スピンパルスは、リング共振器2上の位相測定地点及びリング共振長制御部7への分波地点を経由して、局部発振光制御部8に入力される。局部発振光は、位相制御部83において、局部発振光制御部8に入力される。
【0104】
光測定部81は、複数のダミーパルスと、暫定的スピン測定部3が複数の疑似的スピンパルスの位相測定に用いる局部発振光と、の干渉結果を出力する。位相制御部83は、複数の疑似的スピンパルスと、暫定的スピン測定部3が複数の疑似的スピンパルスの位相測定に用いる局部発振光と、の干渉タイミングを制御する。フィードバック制御部82は、光測定部81が出力した干渉結果が、複数のダミーパルスの予め定められた発振位相から想定される予め定められた干渉結果となるように、位相制御部83をフィードバック制御する。ここで、光測定部81、位相制御部83及び
図5に示した合波地点は、暫定的スピン測定部3と局部発振光制御部8との間で共通して使用することができる。
【0105】
注入パルス制御部9は、光測定部91、フィードバック制御部92及び位相制御部93を備える。複数のダミー注入パルス及び複数のスピン注入パルスは、位相制御部93において、注入パルス制御部9に入力される。ここで、複数のダミー注入パルスは、相互作用実装部5が複数のダミーパルスへの光注入に用いる、予め定められた発振位相を有するパルスである。そして、複数のスピン注入パルスは、相互作用実装部5が複数の疑似的スピンパルスへの光注入に用いる、相互作用が考慮された発振位相を有するパルスである。
【0106】
リング共振器2を周回伝搬する複数のダミーパルス及び複数の疑似的スピンパルスと、位相制御部93が出力した複数のダミー注入パルス及び複数のスピン注入パルスは、リング共振器2上の光注入地点において合波される。リング共振器2上の光注入地点において合波された複数のパルスは、リング共振器2及び光測定部91に向けて分波される。
【0107】
光測定部91は、複数のダミーパルスと、相互作用実装部5が複数のダミーパルスへの光注入に用いる予め定められた発振位相を有する複数のダミー注入パルスと、の干渉結果を出力する。位相制御部93は、複数の疑似的スピンパルスと、相互作用実装部5が複数の疑似的スピンパルスへの光注入に用いる相互作用が考慮された発振位相を有する複数のスピン注入パルスと、の干渉タイミングを制御する。フィードバック制御部92は、光測定部91が出力した干渉結果が、複数のダミーパルスの予め定められた発振位相から想定される予め定められた干渉結果となるように、位相制御部93をフィードバック制御する。ここで、位相制御部93及びリング共振器2上の光注入地点は、相互作用実装部5と注入パルス制御部9との間で共通して使用することができる。
【0108】
イジングモデルの量子計算装置Qの位相特性のキャリブレーションを実行するにあたり、以下の事項に留意する:(1)リング共振長制御部7、局部発振光制御部8及び注入パルス制御部9によるキャリブレーションを並行に実行してもよい。(2)リング共振長制御部7によるキャリブレーションを終了させてから、局部発振光制御部8及び注入パルス制御部9によるキャリブレーションを並行に実行してもよい。(3)キャリブレーションの動作速度が遅いときには、複数の疑似的スピンパルスがリング共振器2を複数回だけ周回伝搬するたびに、キャリブレーションを実行してもよい。(4)キャリブレーションの動作速度が速いときには、複数の疑似的スピンパルスがリング共振器2を単数回だけ周回伝搬するたびに、キャリブレーションを実行してもよい。(5)キャリブレーション及びイジングモデル計算を並行に実行してもよい。(6)キャリブレーションを終了させてから、イジングモデル計算を実行してもよい。(7)リング共振長制御部7、局部発振光制御部8及び注入パルス制御部9は、複数のダミーパルス及び複数の疑似的スピンパルスについて、それらの間の境界及びそれぞれの番号を把握することが望ましい。
【0109】
イジングモデルの量子計算装置Qの設置環境(例えば、温度等)が時間変動することに応じて、リング共振器2の共振長が時間変動するときでも、リング共振器2の共振長を一定値に安定化することができる。よって、複数の疑似的スピンパルスがリング共振器2を複数回又は単数回だけ周回伝搬するたびに、縮退光パラメトリック発振器1中の位相感応増幅器10における増幅強度、暫定的スピン測定部3における局部発振光との干渉タイミング、及び、相互作用実装部5における注入パルスとの干渉タイミングを安定化することができる。そして、縮退光パラメトリック発振器1中の位相感応増幅器10におけるパルス安定化、暫定的スピン測定部3におけるパルス位相測定、及び、相互作用実装部5における相互作用実装を正確に実行することができ、ひいては、イジングモデルの量子計算装置Qの計算精度を大幅に向上させることができる。
【0110】
以下では、第2の手順における量子計算の時間発展及び計算結果を示す。前提として、1体及び3体の相互作用を考えず、2体の相互作用のみを考えて、イジングハミルトニアンを数式7のようにして、レート方程式を数式8、9のようにする。
【数7】
【数8】
【数9】
【0111】
数式8、9によれば、イジングモデルの量子計算装置Q全体の動作が不安定とならず、誤答が生じる可能性が低くなるかどうかは、フィードバック遅延L周により決まるのみならず、結合係数ξ及びポンプレートpにより決まることが分かる。
【0112】
(結合係数ξをフィードバック遅延L周で補償する方法)
スピンの測定及び相互作用の実装を中断するときには、スピンの測定及び相互作用の実装を中断しないときと比べて、擬似的スピンパルスSP
iに対する注入強度が実効的に小さくなる。つまり、第2の手順では、第1の手順と比べて、結合係数ξが実効的に1/(L+1)倍となる。そして、第3の手順では、第1の手順と比べて、結合係数ξが実効的に1/(1+1)=1/2倍(擬似的スピンパルス及びダミーパルスは同数)となる。
【0113】
そこで、スピンの測定及び相互作用の実装の中断期間が長いほど、擬似的スピンパルスSP
iに対する注入強度を大きくすることにより、スピンの測定及び相互作用の実装を中断するときでも、スピンの測定及び相互作用の実装を中断しないときと同様に、擬似的スピンパルスSP
iに対する注入強度及びポンプゲインのバランスを維持することを考える。例えば、第2の手順では、新たな結合係数をξ’=(L+1)ξとする。そして、第3の手順では、新たな結合係数をξ’=(1+1)ξ=2ξとする。
【0114】
第2の手順において結合係数ξをフィードバック遅延L周で補償しない場合及び補償する場合における、ランダムグラフの量子計算の時間発展を、それぞれ、
図6、7に示す。第2の手順において結合係数ξをフィードバック遅延L周で補償しない場合及び補償する場合における、ランダムグラフの量子計算の計算結果を、
図8に示す。
【0115】
図6〜8におけるランダムグラフでは、頂点数は、800であり、平均次数<k>は、47.94であり、次数分布は、二項分布である。
【0116】
図6及び
図8の上段の黒三角のプロットでは、ポンプレートp=1.1であり、結合係数ξ’=ξ=−0.06/√<k>=−0.009であり、結合係数ξは、フィードバック遅延L周で補償されていない。√<k>については、
図8を用いて後述する。
【0117】
図6の場合には、フィードバック遅延L周が増加するに従って、量子計算精度が単調に減少しているが、I成分c
iが振動する振る舞いは見られない。
【0118】
図7及び
図8の上段の黒丸印のプロットでは、ポンプレートp=1.1であり、結合係数ξ’=(L+1)ξ=−0.06(L+1)/√<k>=−0.009(L+1)であり、結合係数ξは、フィードバック遅延L周で補償されている。
【0119】
図7の場合には、フィードバック遅延0、1周では、I成分c
iが振動する振る舞いは見られず、量子計算精度が高くなっており、フィードバック遅延2、3周では、I成分c
iが振動する振る舞いが見られるが、I成分c
iは正及び負の間を振動するわけではなく、量子計算精度が維持されている。
【0120】
図7の場合には、フィードバック遅延4、5周では、I成分c
iが振動する振る舞いが見られて、I成分c
iは正及び負の間を振動しており、量子計算精度が低くなっている。これは、フィードバック遅延L周を考えに入れたとしても、結合係数ξ’=(L+1)ξが大き過ぎるためであると考えられる。
【0121】
図8の上段に、結合係数ξを√<k>で規格化する場合を示し、
図8の下段に、結合係数ξを√<k>で規格化しない場合を示す。結合係数ξを√<k>で規格化しない場合には、結合係数ξを√<k>で規格化する場合と比べて、フィードバック遅延4、5周以上では、I成分c
iの正及び負の間の振動が激しくなっていることが読み取れる。
【0122】
このように、グラフ次数が高い擬似的スピンパルスSPiに対する注入強度を小さくすることにより、グラフ次数が高いイジングスピンがσ=±1の間で振動することを防止するため、イジングモデルの量子計算装置Q全体の動作が不安定とならず、誤答が生じる可能性が低くなる。なお、
図6〜8では、結合係数ξを√<k>で規格化しているが、変形例として、結合係数ξを単純に<k>で規格化してもよい。
【0123】
第2の手順において結合係数ξをフィードバック遅延L周で補償しない場合及び補償する場合における、スケールフリーグラフの量子計算の時間発展を、それぞれ、
図9、10に示す。第2の手順において結合係数ξをフィードバック遅延L周で補償しない場合及び補償する場合における、スケールフリーグラフの量子計算の計算結果を、
図11に示す。
【0124】
図9〜11におけるスケールフリーグラフでは、頂点数は、800であり、平均次数<k>は、11.735であり、次数分布は、べき乗則である。
【0125】
図9及び
図11の上段の黒三角のプロットでは、ポンプレートp=1.1であり、結合係数ξ’=ξ=−0.06/√<k>=−0.018であり、結合係数ξは、フィードバック遅延L周で補償されていない。√<k>については、
図11を用いて後述する。
【0126】
図9の場合には、フィードバック遅延L周が増加するに従って、量子計算精度が単調に減少しているが、I成分c
iが振動する振る舞いは見られない。
【0127】
図10及び
図11の上段の黒丸印のプロットでは、ポンプレートp=1.1であり、結合係数ξ’=(L+1)ξ=−0.06(L+1)/√<k>=−0.018(L+1)であり、結合係数ξは、フィードバック遅延L周で補償されている。
【0128】
図10の場合には、フィードバック遅延0、1周では、I成分c
iが振動する振る舞いは見られず、量子計算精度が高くなっており、フィードバック遅延2〜5周では、I成分c
iが振動する振る舞いが見られるが、I成分c
iは正及び負の間を振動するわけではなく、量子計算精度が維持されている。
【0129】
図10の場合には、
図7の場合と異なり、フィードバック遅延4、5周では、I成分c
iが振動する振る舞いが見られるが、I成分c
iは正及び負の間を振動するわけではなく、量子計算精度が維持されている。これは、
図10の場合には、
図7の場合と比べて、平均次数<k>が小さいことから、注入強度が小さいためであると考えられる。
【0130】
図11の上段に、結合係数ξを√<k>で規格化する場合を示し、
図11の下段に、結合係数ξを√<k>で規格化しない場合を示す。結合係数ξを√<k>で規格化しない場合にも、結合係数ξを√<k>で規格化する場合と同様に、フィードバック遅延4、5周以上でも、I成分c
iの正及び負の間の振動が激しくなっていないことが読み取れる。
【0131】
とはいえ、グラフ次数が高い擬似的スピンパルスSPiに対する注入強度を小さくすることにより、グラフ次数が高いイジングスピンがσ=±1の間で振動することを防止するため、イジングモデルの量子計算装置Q全体の動作が不安定とならず、誤答が生じる可能性が低くなる。なお、
図9〜11では、結合係数ξを√<k>で規格化しているが、変形例として、結合係数ξを単純に<k>で規格化してもよい。
【0132】
第2の手順において結合係数ξをフィードバック遅延L周で補償しない場合及び補償する場合における、完全グラフの量子計算の時間発展を、それぞれ、
図12、13に示す。第2の手順において結合係数ξをフィードバック遅延L周で補償しない場合及び補償する場合における、完全グラフの量子計算の計算結果を、
図14に示す。
【0133】
図12〜14における完全グラフでは、頂点数は、800であり、平均次数<k>は、799であり、次数分布は、一様分布である。
【0134】
図12及び
図14の上段の黒三角のプロットでは、ポンプレートp=1.1であり、結合係数ξ’=ξ=−0.06/√<k>=−0.002であり、結合係数ξは、フィードバック遅延L周で補償されていない。√<k>については、
図14を用いて後述する。
【0135】
図12の場合には、フィードバック遅延L周が増加するに従って、量子計算精度が単調に減少しているが、I成分c
iが振動する振る舞いは見られない。
【0136】
図13及び
図14の上段の黒丸印のプロットでは、ポンプレートp=1.1であり、結合係数ξ’=(L+1)ξ=−0.06(L+1)/√<k>=−0.002(L+1)であり、結合係数ξは、フィードバック遅延L周で補償されている。
【0137】
図13の場合には、フィードバック遅延0、1周では、I成分c
iが振動する振る舞いは見られず、量子計算精度が高くなっており、フィードバック遅延2〜5周では、I成分c
iが振動する振る舞いが見られるが、I成分c
iは正及び負の間を振動するわけではなく、量子計算精度が維持されている。
【0138】
図13の場合には、
図7の場合と異なり、フィードバック遅延4、5周では、I成分c
iが振動する振る舞いが見られるが、I成分c
iは正及び負の間を振動するわけではなく、量子計算精度が維持されている。これは、
図13の場合には、
図7の場合と比べて、平均次数<k>が大きいことから、結合係数ξ’が小さいためであると考えられる。
【0139】
図14の上段に、結合係数ξを√<k>で規格化する場合を示し、
図14の下段に、結合係数ξを√<k>で規格化しない場合を示す。結合係数ξを√<k>で規格化しない場合には、結合係数ξを√<k>で規格化する場合と比べて、フィードバック遅延4、5周以上では、I成分c
iの正及び負の間の振動が激しくなっていることが読み取れる。
【0140】
このように、グラフ次数が高い擬似的スピンパルスSPiに対する注入強度を小さくすることにより、グラフ次数が高いイジングスピンがσ=±1の間で振動することを防止するため、イジングモデルの量子計算装置Q全体の動作が不安定とならず、誤答が生じる可能性が低くなる。なお、
図12〜14では、結合係数ξを√<k>で規格化しているが、変形例として、結合係数ξを単純に<k>で規格化してもよい。
【0141】
(ポンプレートpをフィードバック遅延L周で補償する方法)
スピンの測定及び相互作用の実装を中断するときには、スピンの測定及び相互作用の実装を中断しないときと比べて、擬似的スピンパルスSP
iに対する注入強度が実効的に小さくなる。つまり、第2の手順では、第1の手順と比べて、結合係数ξが実効的に1/(L+1)倍となる。そして、第3の手順では、第1の手順と比べて、結合係数ξが実効的に1/(1+1)=1/2倍(擬似的スピンパルス及びダミーパルスは同数)となる。
【0142】
そこで、スピンの測定及び相互作用の実装の中断期間が長いほど、擬似的スピンパルスSP
iに対するポンプゲインを小さくすることにより、スピンの測定及び相互作用の実装を中断するときでも、スピンの測定及び相互作用の実装を中断しないときと同様に、擬似的スピンパルスSP
iに対する注入強度及びポンプゲインのバランスを維持することを考える。例えば、第2の手順では、新たなポンプレートをp’=p/(L+1)として、ポンプレートを小さくした代償として、新たな計算時間を(L+1)倍にする。そして、第3の手順では、新たなポンプレートをp’=p/(1+1)=p/2として、ポンプレートを小さくした代償として、新たな計算時間を1+1=2倍にする。
【0143】
第2の手順においてポンプレートpをフィードバック遅延L周で補償する場合における、ランダムグラフの量子計算の計算結果を、
図15に示す。
図15におけるランダムグラフでは、
図6〜8におけるランダムグラフと同様に、頂点数は、800であり、平均次数<k>は、47.94であり、次数分布は、二項分布である。
【0144】
ポンプレートp’=p/(L+1)であり、結合係数ξ’=ξ=−0.06/√<k>=−0.009であり、ポンプレートpは、フィードバック遅延L周で補償されており、
図15における計算時間は、
図6〜8における計算時間の(L+1)倍である。
【0145】
ポンプレートp=0.3の場合には、フィードバック遅延0〜2周では、量子計算精度が高くなっており、フィードバック遅延2〜4周では、量子計算精度が急落しており、フィードバック遅延4〜10周では、量子計算精度が低迷している。ポンプレートp=0.5の場合には、フィードバック遅延0〜8周では、量子計算精度が高くなっており、フィードバック遅延8〜10周では、量子計算精度が急落している。ポンプレートp=0.7の場合には、フィードバック遅延0〜10周において、量子計算精度が高くなっている。ポンプレートp=0.9、1.1の場合には、フィードバック遅延が増加するに従って、量子計算精度が単調に減少している。このように、ポンプレートp=0.5、0.7あたりが、ポンプレートpの最適値であると考えられる。
【0146】
第2の手順においてポンプレートpをフィードバック遅延L周で補償する場合における、スケールフリーグラフの量子計算の計算結果を、
図16に示す。
図16におけるスケールフリーグラフでは、
図9〜11におけるスケールフリーグラフと同様に、頂点数は、800であり、平均次数<k>は、11.735であり、次数分布は、べき乗則である。
【0147】
ポンプレートp’=p/(L+1)であり、結合係数ξ’=ξ=−0.06/√<k>=−0.018であり、ポンプレートpは、フィードバック遅延L周で補償されており、
図16における計算時間は、
図9〜11における計算時間の(L+1)倍である。
【0148】
ポンプレートp=0.3の場合には、フィードバック遅延が増加するに従って、量子計算精度が単調に減少している。ポンプレートp=0.5の場合には、フィードバック遅延0〜10周において、若干の単調な減少はあるものの、量子計算精度が高くなっている。ポンプレートp=0.7の場合には、フィードバック遅延0〜10周において、量子計算精度が高くなっている。ポンプレートp=0.9、1.1の場合には、フィードバック遅延が増加するに従って、量子計算精度が単調に減少している。このように、ポンプレートp=0.5、0.7あたりが、ポンプレートpの最適値であると考えられる。
【0149】
第2の手順においてポンプレートpをフィードバック遅延L周で補償する場合における、完全グラフの量子計算の計算結果を、
図17に示す。
図17における完全グラフでは、
図12〜14における完全グラフと同様に、頂点数は、800であり、平均次数<k>は、799であり、次数分布は、一様分布である。
【0150】
ポンプレートp’=p/(L+1)であり、結合係数ξ’=ξ=−0.06/√<k>=−0.002であり、ポンプレートpは、フィードバック遅延L周で補償されており、
図17における計算時間は、
図12〜14における計算時間の(L+1)倍である。
【0151】
ポンプレートp=0.3の場合には、フィードバック遅延0〜3周では、量子計算精度が高くなっており、フィードバック遅延3〜4周では、量子計算精度が急落しており、フィードバック遅延4〜10周では、量子計算精度が低迷している。ポンプレートp=0.5の場合には、フィードバック遅延0〜9周では、量子計算精度が高くなっており、フィードバック遅延9〜10周では、量子計算精度が急落している。ポンプレートp=0.7の場合には、フィードバック遅延0〜10周において、量子計算精度が高くなっている。ポンプレートp=0.9、1.1の場合には、フィードバック遅延が増加するに従って、量子計算精度が単調に減少している。このように、ポンプレートp=0.5、0.7あたりが、ポンプレートpの最適値であると考えられる。
【0152】
(結合係数ξ及びポンプレートpを設定する方法)
図6〜14では、結合係数ξをフィードバック遅延L周で補償する一方で、ポンプレートpをフィードバック遅延L周に関わらず固定としている。
図15〜17では、ポンプレートpをフィードバック遅延L周で補償する一方で、結合係数ξをフィードバック遅延L周に関わらず固定としている。以下では、フィードバック遅延L周で補償する以前の結合係数ξ及びポンプレートpを設定する方法を説明する。
【0153】
第2の手順において結合係数ξ及びポンプレートpを可変とする場合における、ランダムグラフの量子計算の計算結果を
図18に示す。
図18におけるランダムグラフでは、
図6〜8、15におけるランダムグラフと同様に、頂点数は、800であり、平均次数<k>は、47.94であり、次数分布は、二項分布である。なお、
図18における結合係数ξは、√<k>により規格化される以前のものである。
【0154】
フィードバック遅延が短時間であるほど、高い量子計算精度を与える結合係数ξ及びポンプレートpの領域が広くなり、フィードバック遅延が長時間であるほど、高い量子計算精度を与える結合係数ξ及びポンプレートpの領域(|ξ|〜0.04、p〜0.55の付近の領域)が狭くなる。
【0155】
第2の手順において結合係数ξ及びポンプレートpを可変とする場合における、スケールフリーグラフの量子計算の計算結果を
図19に示す。
図19におけるスケールフリーグラフでは、
図9〜11、16におけるスケールフリーグラフと同様に、頂点数は、800であり、平均次数<k>は、11.735であり、次数分布は、べき乗則である。なお、
図19における結合係数ξは、√<k>により規格化される以前のものである。
【0156】
フィードバック遅延が短時間であるほど、高い量子計算精度を与える結合係数ξ及びポンプレートpの領域が広くなり、フィードバック遅延が長時間であるほど、高い量子計算精度を与える結合係数ξ及びポンプレートpの領域(|ξ|〜0.09、p〜0.60の付近の領域)が狭くなる。
【0157】
ここで、解きたいNP完全問題に対応するイジングモデルが、
図18、19におけるランダムグラフ又はスケールフリーグラフに近似する場合には、
図18、19における高い量子計算精度を与える結合係数ξ及びポンプレートpの領域を採用することができる。
【0158】
そして、解きたいNP完全問題に対応するイジングモデルに近似するグラフが、サイト数の小さいものである場合には、フィードバック遅延は、短時間で十分であり、高い量子計算精度を与える結合係数ξ及びポンプレートpの領域は、(結合係数ξ、ポンプレートp)の組み合わせ最適化問題を厳密に解くまでもなく、容易に探索することができる。
【0159】
しかし、解きたいNP完全問題に対応するイジングモデルに近似するグラフが、サイト数の大きいものである場合には、フィードバック遅延は、長時間が必要であり、高い量子計算精度を与える結合係数ξ及びポンプレートpの領域は、(結合係数ξ、ポンプレートp)の組み合わせ最適化問題を厳密に解く必要があり、容易に探索することができない。
【0160】
そこで、解きたいNP完全問題に対応するイジングモデルに近似するグラフが、サイト数の小さいものであっても、サイト数の大きいものであっても、以下のようにする。まず、フィードバック遅延が0周である場合における、高い量子計算精度を与える結合係数ξ及びポンプレートpの領域を採用する。次に、
図6〜14のように、結合係数ξをフィードバック遅延L周で補償する一方で、ポンプレートpをフィードバック遅延L周に関わらず固定とする。又は、
図15〜17のように、ポンプレートpをフィードバック遅延L周で補償する一方で、結合係数ξをフィードバック遅延L周に関わらず固定とする。