(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6551921
(24)【登録日】2019年7月12日
(45)【発行日】2019年7月31日
(54)【発明の名称】可溶化剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/40 20060101AFI20190722BHJP
A61K 31/353 20060101ALI20190722BHJP
A61K 31/716 20060101ALI20190722BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20190722BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20190722BHJP
【FI】
A61K47/40
A61K31/353
A61K31/716
A61K9/08
A23L29/00
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-71049(P2015-71049)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-190803(P2016-190803A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2018年2月9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104307
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 尚司
(72)【発明者】
【氏名】北村 進一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 志保
(72)【発明者】
【氏名】中野 歩美
(72)【発明者】
【氏名】舟根 和美
(72)【発明者】
【氏名】原 博
【審査官】
谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−140521(JP,A)
【文献】
特開2013−116055(JP,A)
【文献】
株式会社シー・アイ・バイオ,平成18〜20年バイオベンチャー企業研究開発支援事業 サイクロデキストラン混合抗う蝕性甘味食品生産システムの開発成果報告会 株式会社シー・アイ・バイオ」発表資料,2009年 3月 6日,発表スライドの[研究成果の概要5](3)〜(4)
【文献】
舟根和美 他,日本農芸化学会大会講演予稿集,2009年 3月 5日,2009年号,第80頁,[高分子サイクロデキストラン(CI)によるイソフラボンの包接]
【文献】
澱粉工業学会誌,2008年 7月20日,第55巻、特別号,第29頁,[サイクロデキストランの包接作用の検証]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/40
A23L 29/00
A61K 9/08
A61K 31/353
A61K 31/716
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY
/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜数分子のグルコースがα-1,3-結合で環状デキストランに結合したα-1,3-分枝シクロデキストランからなるポリフェノールの可溶化剤。
【請求項2】
前記ポリフェノールは、Pappが1×10-6以上かつlogPが0.5以上である請求項1に記載の可溶化剤。
【請求項3】
前記ポリフェノールは、フラボン、フラボノール又はそれらの配糖体である請求項1に記載のポリフェノールの可溶化剤。
【請求項4】
1〜数分子のグルコースがα-1,3-結合で環状デキストランに結合したα-1,3-分枝シクロデキストランのみの使用であって、
ポリフェノールの水に対する溶解度を高めるための使用。
【請求項5】
前記ポリフェノールは、Pappが1×10-6以上かつlogPが0.5以上である請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記ポリフェノールは、フラボン、フラボノール又はそれらの配糖体である請求項4に記載の使用。
【請求項7】
1〜数分子のグルコースがα-1,3-結合で環状デキストランに結合したα-1,3-分枝シクロデキストランのみの使用であって、
ポリフェノールの細胞膜透過性を高めるための使用(但しヒトに対する治療への使用は除く)。
【請求項8】
前記ポリフェノールは、Pappが1×10-6以上かつlogPが0.5以上である請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記ポリフェノールは、フラボン、フラボノール又はそれらの配糖体である請求項7に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶化剤、特にイソフラボンやフラボン等のフラボノイドに代表されるポリフェノールの溶解度や膜透過性を高める可溶化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
α-1,3-分枝シクロデキストランは、数分子のD-グルコースがα-1,6-結合で環状に繋がったオリゴ糖であるシクロデキストランに、α-1,3-結合で分岐した1個ないし数個のD-グルコースがα-1,6-結合した分枝環状イソマルトオリゴ糖である。
【0003】
シクロデキストランはデンプンやその部分分解物から微生物を用いて製造され、例えば特許文献1(特開2008−167744号公報)には5〜33分子のグルコースが環状に結合したシクロデキストランが得られることが示されている。このように微生物を用いて生産されたシクロデキストラン中には、1〜数個のD-グルコースがα-1,3-結合で分岐したα-1,3-分枝シクロデキストランが副生物として産生されることが知られている(特許文献2参照)。この副生物の1つである1個のD−グルコースがα-1,3結合で分岐したα-1,3-分枝シクロデキストランはフラーレンの可溶化剤として利用され得ることも知られている(特許文献3参照)。
【0004】
ところで、生体の生理機能を調整する働き(体調調節機能)を有する食品成分(食品機能性化合物)は、消化管内で溶解し、膜透過を経て体内に吸収されることでその機能を発揮する。FDAにより提唱されたBCS(Biopharmaceutics Classification System)によると、医薬品などの生体機能性化合物は、水に対する溶解性と膜透過性の程度によって、高い溶解性と高い膜透過性を有するクラス1、低い溶解性と高い膜透過性を有するクラス2、高い溶解性と低い透過性を有するクラス3、低い溶解性と低い膜透過性を有するクラス4の4つのクラスに分類される。クラス2に属する医薬品では、インビトロにおける溶解性とインビボにおけるバイオアベイラビィティとの間に相関が認められている。この分類に従うと、食品機能性化合物の多くはクラス2に分類される。例えば、大豆などに多く含まれるイソフラボンや柑橘類に多く含まれるフラボン、例えばヘスペリジンはクラス2に含まれる。これらクラス2に分類される食品機能性化合物は溶解性が低く、それらが有する機能を生体内で十分に発揮されるためには、水溶液中の濃度を高める必要がある。
図1にポリフェノール類のP
appとlogPとの相関図を示す。後述するように、P
appは膜の透過性を示す指標であり、logPは水に対する溶解性を示す指標であるが、
図1に示したように、フラボノイド類の多くは、P
app及びlogPはそれぞれ0よりも大きく、膜透過性の高い化合物は溶解度が低い傾向にある。従って、このような化合物の溶解度を高めることで、高い膜透過性、すなわち体内への吸収や体内におけるバイオアベイラビリティが大きく改善することが期待される。
【0005】
これまで、ヘスペリジンなどのフラボノイドの可溶性を高める技術として、特許文献4(特開平10−101075号公報)にアルカリに溶解したフラボノイドを増粘多糖類の溶液に添加した後にpHを3〜8に調整する方法が記載されている。また、吸収されたヘスペレチンの代謝物を長時間血中に保つ方法として、特許文献5(特開2014−47173号公報)には、糖転移させたヘスペリジンと酵素分解レシチンを含有する表面処理剤で表面処理されたヘスペレチンとを同時に投与する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、前者の方法ではアルカリを用いた後にpH調整する必要がある。後者の方法ではヘスペリジンをさらに配糖体する必要があるだけでなく、糖転移させたヘスペリジンが消化管中で加水分解された結果、吸収に時間が掛かることが指摘されている。また、後者においては、ヘスペリジンのアグリコンであるヘスペレチンは表面処理剤によって安定に分散されたものである。従って、当該技術は、ヘスペレチンの可溶化により吸収を高める技術ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−167744号公報
【特許文献2】特開平10−229876号公報
【特許文献3】特開2012−140521号公報
【特許文献4】特開平10−101075号公報
【特許文献5】特開2014−47173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明はクラス2に分類される食品機能性成分、特にフラボノイドなどのポリフェノールの溶解度を高め、体内への吸収を高める新規の可溶化剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明に係るポリフェノールの可溶化剤は、α-1,3-分枝シクロデキストランからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によると、クラス2に分類されるポリフェノールの溶解度が高められる結果、それが体内に吸収されることで食品機能性成分が有する諸機能が有効に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は各種ポリフェノールのP
appとlogPの相関を示す図である。
【
図2】
図2は環状イソマルトオリゴ糖混合物の組成を示すクロマトグラフである。
【
図3】
図3は単一重合度の環状イソマルトオリゴ糖の分取に用いた分枝環状イソマルトオリゴ糖混合物の組成を示すクロマトグラフである。
【
図4】
図4は環状イソマルトオリゴ糖混合物を用いたヘスペレチンの溶解度試験の結果を示す図である。
【
図5】
図5は環状イソマルトオリゴ糖混合物を用いたヘスペレチンの膜透過試験の結果を示す図である。
【
図6】
図6は単一重合度のイソマルトオリゴ糖を用いたヘスペレチンの溶解度試験の結果を示す図である。
【
図7】
図7は単一重合度のイソマルトオリゴ糖を用いたヘスペレチンの膜透過性試験の結果を示す図である。
【
図8】
図8は単一重合度の環状イソマルトオリゴ糖の分取に用いた分枝環状イソマルトオリゴ糖混合物を用いた各種フラボノイドの溶解度試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願発明に係る可溶化剤は、α-1,3-分枝シクロデキストランからなる。本願において、可溶化剤とは対象化合物の水における溶解度を高める物質を意味し、可溶化剤と共に用いることで、それを用いない場合に比べて水に溶けうる濃度を高める。溶解度が高められたか否かは、例えばlogPや飽和濃度を指標として判断される。logPは、オクタノールと水の2相システムにおいて、対象化合物がオクタノール相に溶解している濃度と、水に溶解している濃度の比として定義される。
【0013】
本願発明に係る可溶化剤は、1〜数個のグルコースがα-1,6-結合した分枝を有するα-1,3-分枝シクロデキストラン(以下、「環状分枝イソマルトオリゴ糖」ということもある。)を有効成分とする。分枝するグルコースの重合度は9までであり、その中でも、特に1分子のグルコースがシクロデキストランにα-1,3-結合で枝分かれしたα-1,3-分枝シクロデキストランが好ましく用いられる。また、環状分枝イソマルトオリゴ糖の環状部分を構成するグルコース分子の数は3〜33であり、好ましくは6〜13、望ましくは7〜12であって、好ましい環状分枝イソマルトオリゴ糖を構成するグルコースの分子数は分子内総数で7〜14、望ましくは8〜13である。
【0014】
本発明に係る可溶化剤は、1種類の単一重合度の環状分枝イソマルトオリゴ糖からなる場合でもよく、重合度の異なる2種以上の環状分枝イソマルトオリゴ糖の混合物からなる場合のいずれでもよい。また、混合物の場合、重合度の異なる環状分枝イソマルトオリゴ糖の組成比は、可溶化対象物(被可溶化物)の種類に応じて適宜選択できる。
【0015】
本発明に係る可溶化剤は、環状分枝イソマルトオリゴ糖のみからなる場合だけでなく、分枝のない環状イソマルトオリゴ糖が含まれることもある。当該環状非分枝イソマルトオリゴ糖を構成するグルコース分子の数は3〜33、好ましくは6〜13、望ましくは7〜12である。環状非分枝イソマルトオリゴ糖も1種類の単一重合度の環状非分枝イソマルトオリゴ糖からなる場合でもよく、重合度の異なる2種以上の環状非分枝イソマルトオリゴ糖からなる場合のいずれでもよい。
【0016】
環状非分枝イソマルトオリゴ糖との混合物からなる可溶化剤は、可溶化剤中に99.9999%〜0.001%、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは1%以上、望ましくは5%以上、さらに望ましくは10%以上の環状分枝イソマルトオリゴ糖を含む。
【0017】
本発明における可溶化対象物はポリフェノールである。本願発明において、ポリフェノールは、分子内に複数のフェノール性のヒドロキシ基を持つ植物成分の総称を意味し、天然に存在するこれらの配糖体を含む概念で用いられる。ポリフェノールは例えば、フラボノイドであり、フェノール酸であり、クルクミノイドであり、スチルベノイドであり得る。フラボノイドは、2つの芳香環(A環、B環)が3つの炭素原子を介して結合したピラン環(C環)を中央にもった基本構造を有する化合物である。フラボノイドは、例えば、フラボンであり、フラボノールであり、ジヒドロフラボンであり、イソフラボンであり、フラバノンであり、フラバンであり、アントシアニンであり、カルベン類であり得る。フェノール酸は、1つの芳香環に直接又は2つの炭素原子を介してカルボキシル基が結合した構造を有する化合物である。フェノール酸は、フェルラ酸のようなヒドロキシ桂皮酸系の化合物であり、没食子酸のようなヒドロキシ安息香酸系の化合物であり得る。なお、本発明では、ポリフェノールの中でもクラス2に分類される化合物、さらには、P
appが1×10
-6以上かつlogPが0.5以上の化合物が好ましく用いられる。もちろん、logPが0.5未満の化合物の溶解度を高めることもできるので、これらの化合物への使用が排除されるものではない。ここで、P
appは膜透過係数であって、化合物の膜透過速度と相関した値である。P
appが大きいと膜透過速度が大きく、腸管における吸収やバイオアベイラビリティが大きいとされる。P
appは、Caco-2細胞を使った膜透過試験(例えばBock et al., Across Barriers, 2003, 1やTian et al. Int. J. Pharm., 367, 2009, 58が参照される。)によって求められる。また、logPは「OECD GUIDELINE FOR THE TESTING OF CHEMICALS」に規定された方法("Partition Coefficient (n-octanol/water): Shake Flask Method")によって求められる。
【0018】
本発明における可溶化対象物は、より具体的に言えば、例えば、フラボンである、タンゲレチン、オウゴニン、クリシン、アカセチン、アビゲニン、ルテオリン、バイカレイン、スクテラレインであり、フラボノールである、ガランギン、ケンペリド、ケンペロール、タマリキセチン、ケルセチン、ミリセチン、モリンであり、ジヒドロフラボンである、ヘスペレチン、ナリンゲニン、エリオジクチオール、タキシホリンであり、イソフラボンである、ホルモノネチン、ゲニステイン、ダイゼインであり、カルコン類であるイソリキリチゲニンであり、フラバンであるエピカテキンであり、クルクミノイドであるクルクミン、スチルベノイドであるレスベラトロールであり得る。また、配糖体は、例えば、イソビテキシン(スクラテライン)であり、DXG(ジオスメチン-7-O-β-D-キシロピラノシル-(1-6)-β-D-グルコピラノシル)であり、ルテオロシドであり、バイカリンであり、DG(ジオスメチン-7-O-β-グルコピラノシド)であり、ケルシトリンであり、イソケルシトリンであり、IRR(イソラムネチン-3-O-ルチノシド)であり、ミリシトリンであり、ルチンであり、ダイジンであり、ゲニスチンであり、ゲルセチン-3-グルコシドであり、ルテオリン-7-グルコシドであり得る。
【0019】
本発明に係る可溶化剤はポリフェノール、特に難溶性ポリフェノールの水に対する溶解性を高める。この結果、膜透過性が高まり、難溶性であったポリフェノールの体内への吸収性が高められる。可溶化剤の使用量は適宜当業者によって定められる。その使用量は、対象となるポリフェノールによっても異なるが、ポリフェノールと可溶化剤の量比は、例えば、モル比でポリフェノールに対して可溶化剤が0.001以上1000以下であり、好ましくは0.01〜100であり、望ましくは0.05〜50である。
【0020】
本発明に係る組成物は、前記の環状分枝イソマルトオリゴ糖と前記のフラボノイド類を含む。組成物に含まれる環状分枝イソマルトオリゴ糖は、単一重合度の環状分枝イソマルトオリゴ糖のみであってもよく、重合度の異なる2種以上の環状分枝イソマルトオリゴ糖の混合物であってもよい。混合物の場合、重合度の異なる環状分枝イソマルトオリゴ糖の組成比は、可溶化対象物の種類等に応じて適宜選択できる。分枝するグルコースの重合度は9までであり、その中でも、特に1分子のグルコースがシクロデキストランにα-1,3-結合で枝分かれしたα-1,3-分枝シクロデキストランが好ましい。また、環状分枝マルトオリゴ糖の環状マルトオリゴ糖を構成するグルコース分子の数は3〜33であり、好ましくは6〜13、望ましくは7〜12であって、好ましい環状分枝マルトオリゴ糖を構成するグルコースの分子数は分子内総数で7〜14、望ましくは8〜13である。
【0021】
本発明に係る組成物は、分枝のない環状イソマルトオリゴ糖を含み得る。この場合、1種類の単一重合度の環状イソマルトオリゴ糖を含む場合であるか、重合度の異なる2種以上の環状イソマルトオリゴ糖を含む場合のいずれでもよい。当該環状非分枝イソマルトオリゴ糖を構成するグルコース分子の数は3〜33、好ましくは6〜13、望ましくは7〜12である。また、重合度の異なる2種以上の環状イソマルトオリゴ糖を含む場合、その組成比は可溶化対象物の種類等に応じて適宜選択できる。
【0022】
本発明に係る組成物は、その用途は限られず、例えば、ヒトを対象とした食品組成物であり、ヒト以外の動物や魚類、鳥類等を対象とした飼料であり、ヒトやヒト以外の動物、魚類等を対象とした医薬組成物であり、化粧用組成物であり、その他の工業用組成物でもあり得る。ポリフェノールの膜透過性を向上させる観点からは、ヒトを含む動物や魚類、鳥類等に、経口又は経皮的に摂取される組成物が好ましい。
【0023】
本発明に係る組成物の形態も特に限定されず、例えば、粉末状であり、固形状であり、液状であり、クリームなどの半固形状であり得る。本発明に係る組成物は、これらの形態に調製するため、環状分枝イソマルトオリゴ糖やポリフェノールを必須の成分とし、さらには環状非分枝イソマルトオリゴ糖の他、種々の添加剤を含み得る。添加剤は、例えば水やアルコールなどの基剤であり、乳糖やデンプンなどの賦形剤であり、酸化防止剤であり、安定剤であり、pH調整剤であり、香料であり、着色剤であり得る。さらに、本発明に係る組成物は、ポリフェノール以外に薬効成分などその他の活性成分を含み得る。
【0024】
本発明に係る組成物中のポリフェノールや可溶化剤の配合量は当業者により適宜設定され得る。ポリフェノールの配合量は、例えば、組成物中少なくとも0.0001質量%、好ましくは0.001質量%以上、さらに望ましくは0.01質量%以上である。また、組成物中、好ましい可溶化剤の配合量は組成物中のポリフェノールを可溶化できる量であって、組成物中の可溶化剤の配合量は、ポリフェノールの配合量に対して、例えばモル比で可溶化剤が0.001以上1000以下、好ましくは0.01〜100であり、望ましくは0.1〜10である。もちろん、可溶化剤はポリフェノールの配合量に対する必要量より過剰に存在しても差し支えない。
【0025】
以上のように本発明に係る可溶化剤の使用は、ポリフェノール、特に難溶性のポリフェノールの水に対する溶解度を高め、ヒトやその他の動物等に対するバイオアベイラビリティの向上が期待される。この結果、ポリフェノールが有する体調調節機能が十分に発揮される。もっとも、本発明はポリフェノールが有する体調調節機能を発揮させることを目的とすることのみに限定されるものではなく、組成物の用途に制限されることなくポリフェノールの溶解度を高めるための全ての使用が意図される。
【0026】
以下、本発明について下記の実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限られないのは言うまでもない。
【実施例1】
【0027】
血中コレステロール値や血圧上昇の抑制効果などが報告されているヘスペレチン(P
app:18.3,logP:1.5)について、環状イソマルトオリゴ糖がその溶解性及び膜透過性に与える影響を調べた。グルコースの重合度が異なる単一重合度であるオリゴ糖として、分枝のない重合度が7〜10の環状イソマルトオリゴ糖(CI7〜CI10)と、1分子のグルコースがα-1,3-で分岐した重合度が7及び8の単一重合度である分枝環状イソマルトオリゴ糖(CI8、CI9)と、10個のグルコースがα-1,6-結合で直鎖に結合した直鎖イソマルトオリゴ糖(LI10)、及びこれらの混合物(CImix)を用いた。当該混合物は次の方法で作製された。特開平7−8276号公報に記載された方法に従ってサイクロデキストランを作製し、得られたサイクロデキストランの水溶液に70%エタノールを加えて沈殿物を除去した後、吸着樹脂(ダイヤイオンHP20:商品名)に吸着させ、10%エタノールで溶出することで得た。当該混合物中の各環状イソマルトオリゴ糖の組成を
図2に示した。混合物中には、全体の環状イソマルトオリゴ糖中に分枝環状イソマルトオリゴ糖が約10%含まれていた(
図2参照)。
【0028】
単一重合度の環状イソマルトオリゴ糖は次の方法で作製された。特開2008−167744号に記載の方法に従って得られたサイクロデキストランにショ糖を加えた溶液で、Gregory L. Coteらの方法(A method for surveying and classifying Leuconostoc. spp. Glucansucrases according to strain-dependent acceptor product patterns, J Ind Microbiol Biotechnol (2005) 32: 53-60)にならってグルカンを生産する乳酸菌を培養してサイクロデキストランにα-1,3分岐を導入した後(Kazumi Funane et al., Journal of Applied Glycoscience, (2003) 50:379-382 参考)、当該培養液をC18カラム(Waters Preparative社製)に吸着させ、20%エタノールで溶出することで分枝環状オリゴ糖画分を得た。その後、ODSカラム(DaisopakSP-120-5-ODS-BP,250mm×20mm I.D.,ダイソー社製)を用いたリサイクリングHPLCシステムで分取した。この混合物には、重合度が8、9、10である分枝環状イソマルトオリゴ糖(CI9,CI10,CI11)が全体の環状イソマルトオリゴ糖中に約30%含まれていた(
図3)。なお、Chem drawにより算出したヘスペレチンのlogPは2.29であった。
【0029】
ヘスペレチンに対して、モル比で5倍量の各オリゴ糖と100μlの超純水を加えて十分に混合した。混合液を遠心分離(10,000g)して、その上清を、HPLC-UV(Cadenza CD-C18(250×4.6 mm i.d.,Ser.MK12HAV,Imtakt社製)、検出波長283nm)により分析して、混合液中の濃度(溶解度)を求めた。
【0030】
膜透過性はCaco-2細胞を用いた膜透過モデルにより調べた。Caco-2細胞を用いた膜透過性試験はTianら(2009)の方法に準じて行った。試験は室温で行った。8ml培地を入れたコラーゲンコートディッシュに2.0×10
5個ずつ細胞を撒き,37℃,5%CO
2雰囲気下のCO
2インキュベーター内で培養した。培地交換は一週間に三度行った。6ウェルプレートにコラーゲンコートしたインサートを入れ、その上に2.0×10
5個ずつ撒いた。3週間培養し、単層膜を形成しているものを実験に用いた。細胞は継代数が47〜52のものを用いた。培養培地には、DMEM培地(4500mg Glucose/L)に抗生物質-抗真菌剤(100Units/ml Penicillin、100μg/ml Streptomycin、0.25μg/ml Amphotericin B)およびMEM非必須アミノ酸溶液を5%(v/v)添加し、56℃、30分間熱処理をしたウシ胎児血清を10%(v/v)添加したものを用いた。得られた単層膜の頂端膜(Apical:AP)側をHBSS(Hank's Balanced Salt Solution) Bufferで一度洗浄し,基底膜(Basolateral:BL)側をPBS(Phosphate Buffered Saline)(-)で三度洗浄した。AP側を1mlのHBSS Bufferで、BL側を2mlのHBSS Bufferで満たしたのち、CO
2インキュベーター内で1時間静置した。AP側に各化合物の濃度が20μMとなるように上記の上清を加えた。BL側の溶液を添加後30分、60分、90分後に100μlずつ回収し、溶液中の化合物濃度をHPLC-UVにより求め,次式によりP
app AP→BLを求めた。
P
app AP→BL=(ΔQ/Δt)/(A・C
0)
式中、ΔQ/Δt:化合物のAP側からBL側への透過速度(μmol/sec)
A:トランスウェルインサートの表面積(cm
2)
C
0:添加時の化合物濃度(μmol/cm
3)
【0031】
それらの結果を
図4及び
図5に示した。分枝環状オリゴ糖を含む環状オリゴ糖の混合物はヘスペレチンの溶解度を高めた(
図4参照)。また、当該環状オリゴ糖の混合物はヘスペレチンの膜透過性を大きく改善した(
図5参照)。
【0032】
また、上記の混合物を分離して得られた単一重合度の分枝環状オリゴ糖及び単一重合度の分枝のない環状オリゴ糖を用いたところ、同数のグルコースからなる環を有するオリゴ糖(CI8とCIb9、並びに、CI9とCIb10)を比較した場合には、分枝環状イソマルトオリゴ糖(CIb9,CIb10)の方が分枝のない環状イソマルトオリゴ糖(CI8,CI9)に比べてそれぞれヘスペレチンの溶解度及び膜透過性を大きく改善した(
図6及び
図7)。
【実施例2】
【0033】
次にlogPの異なる種々のポリフェノールと環状イソマルトオリゴ糖の混合物を用いて、ポリフェノールの溶解度を調べた。溶解度は、終濃度が0, 5, 10, 20 mMのオリゴ糖混合物の水溶液100μLを、終濃度が1, 5, 10 mMとなるように水を添加した液を超音波洗浄機で5分間、超音波破砕で30秒間処理をして得られた懸濁液に添加して、37℃で30分間インキュベーションした。その後、遠心分離(20℃,5min,9300g)した上清を50%メタノールで希釈し、LC-MS(Column:Thermo Accucore RP-MS(2.1×100mm)、LC-MS/MS ACCELA TSQ QUANTUM ACCESS MAX(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)で分析し、混合液中の濃度(溶解度)を求めた。実施例1と同様の方法により求めた。環状イソマルトオリゴ糖混合物は、実施例1において、単一重合度の環状オリゴ糖の単離に用いたC18カラム分取画分を用いた。その結果を
図8及び
図9に示した。なお、
図8及び
図9に示す化合物のうち、ケルセチン(a)と、レスベラトロール(h)、ナリンゲニン(j)と、ゲニステイン(e)はそれぞれ、P
appが0.5以上であって、logPが1.0×10
-6以上の化合物である。
【0034】
図8及び
図9に示したように、分枝環状イソマルトオリゴ糖を含む環状イソマルトオリゴ糖混合物はポリフェノールの溶解度を高めた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、クラス2に分類されるポリフェノールの水への溶解性を高めて、体内への吸収性を改善する新たな可溶化剤を提供する。