(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150939
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 23/00 20160101AFI20220929BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20220929BHJP
A23L 33/21 20160101ALI20220929BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220929BHJP
【FI】
A23L23/00
A23L7/10 Z
A23L33/21
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021053761
(22)【出願日】2021-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 捺津美
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋介
(72)【発明者】
【氏名】菅野 明彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 知之
(72)【発明者】
【氏名】木本 匡昭
【テーマコード(参考)】
4B018
4B023
4B036
【Fターム(参考)】
4B018LB09
4B018LB10
4B018LE04
4B018MD49
4B018ME01
4B018ME02
4B018ME14
4B018MF04
4B018MF07
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4B023LE08
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4B023LK15
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4B036LC01
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4B036LH24
4B036LH29
4B036LH38
4B036LH39
4B036LK01
4B036LP01
4B036LP05
4B036LP21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】小麦ふすまを配合して健康志向に応えつつ、加圧加熱処理する場合に生じやすい風味や食味の低下及び褐変を簡便に効果的に抑制することができる、小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品の製造方法は、小麦ふすまとして、白小麦由来の小麦ふすまを用いることを特徴とする。前記白小麦由来の小麦ふすまは、熱処理したものを用いることも好適である。また前記白小麦は、オーストラリア・スタンダード・ホワイト及びウエスタン・ホワイトのうち一種以上を用いることが好適である。小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品は、白小麦由来の小麦ふすまを乾燥質量換算で5~80質量%配合してなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品の製造方法であって、
小麦ふすまとして、白小麦由来の小麦ふすまを用いることを特徴とする、小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品の製造方法。
【請求項2】
前記白小麦由来の小麦ふすまとして、熱処理したものを用いる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記白小麦として、オーストラリア・スタンダード・ホワイト及びウエスタン・ホワイトのうち一種以上を用いる、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品中に、前記白小麦由来の小麦ふすまを乾燥質量換算で5~80質量%含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
品温102~130℃で3~120分加圧加熱する加圧加熱殺菌工程を含む、請求項1~4いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記加圧加熱殺菌食品が、ソース又はスープから選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記小麦ふすまの平均粒径が30~180μmである、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
白小麦由来の小麦ふすまを乾燥質量換算で5~80質量%配合してなる、小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品の製造方法、及び小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康意識の高まりから、ビタミン、ミネラルなどの栄養素や、食物繊維等の機能性成分を含む、小麦ふすまなどの穀物外皮を用いて、パンや焼き菓子等のベーカリー食品、麺類等の加工飲食品を製造することが行われている。
小麦ふすまを含む飲食品の喫食形態として、ソースやスープなどの液状食品も要望されるところ、ソースやスープなどの液状食品は、加熱加圧処理を施し、常温保存可能なレトルト食品等の加圧加熱食品として提供されることも多い。
【0003】
小麦ふすまが配合された加圧加熱食品として、例えば、特許文献1には、粉粋したふすまを加水加熱処理してペースト状ふすまとし、これを耐熱性容器に封入し、これに加圧加熱のレトルト処理を施してペースト状包装ふすまを得ることが知られている。
また特許文献2には、穀物外皮を原料とした食物繊維を含む飲食品の記載があり、特許文献2の実施例4には、コーンポタージュを製造した例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-262586号公報
【特許文献2】特開平3-49662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、小麦ふすまを配合したソースやスープなどの液状食品をレトルト処理して加圧加熱食品を製造すると、保管後喫食したときに小麦ふすまが有するエグミをより強く感じたり、小麦ふすまを配合しない場合に比して褐変が目立ち見た目が悪化することがあることを知見した。これらの不都合は、例えば加熱調理条件や加圧加熱条件を調整する等の対策を講じることにより抑制することは可能であるが、当該対策の効果の程度は、風味や色調などの液状食品元来の特性によって異なるため、統一的な対策を講じることが困難である。
【0006】
特許文献1の技術は、食感と風味に優れ、異物感なく、多量の食物繊維を含んだ麺類を得ることを目的とするものであり、小麦ふすまを含む液状食品を加熱加圧処理すること及びその場合の課題について記載されていない。
特許文献2の技術は、植物繊維質原料をアルカリ抽出し、その抽出物を酵素で処理して得られたヘミセルロースの部分分解物を飲食品に含有させる技術であり、小麦ふすまを含む液状食品を加熱加圧処理すること及びその場合の課題について記載されていない。
【0007】
したがって、本発明の課題は、小麦ふすまを配合して健康志向に応えつつ、加圧加熱処理する場合に生じやすい風味や食味の低下及び褐変を簡便に効果的に抑制することができる、小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品の製造方法であって、小麦ふすまとして、白小麦由来の小麦ふすまを用いることを特徴とする、小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品の製造方法を提供するものである。
【0009】
また本発明は、白小麦由来の小麦ふすまを乾燥質量換算で5~80質量%配合してなる、小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品の製造方法及び小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品によれば、小麦ふすまを配合して健康志向に応えつつ、加圧加熱処理する場合に生じやすい風味や食味の低下及び褐変を簡便に効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を、その好ましい実施形態に基づいて説明する。以下の説明では、「X~Y」(X及びYは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」を意味し、「X~Y[Z]」(X及びYは任意の数字、[Z]は任意の単位)と記載した場合、特に断らない限り「X[Z]以上Y[Z]以下」を意味する。
【0012】
本発明は、小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品の製造方法、及び小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品に関する。本明細書における加圧加熱殺菌液状食品の「液状食品」とは、常温常圧で流動性を有する食品を指し、例えば固形状のソースやルウは本発明から除外される。
【0013】
以下に、小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品の製造方法及び小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品の一実施形態を説明する。
本実施形態の製造方法は、白小麦由来の小麦ふすま(白小麦ふすま)を得る工程、及び白小麦ふすまを配合した液状食品に加圧加熱殺菌処理を施す工程を備える。
【0014】
〔白小麦ふすまを得る工程〕
まず、原料となる小麦の穀粒を粉砕し、胚乳及び胚芽を分離して、穀物外皮である小麦ふすまを得る。粉砕に用いられる小麦の穀粒は、穀粒に加水して調質してもよく、又は加水調質せずに粉砕してもよい。穀粒粉砕物から小麦ふすま画分を採取する方法は特に制限されず、例えば篩分け等の公知の分級方法により、穀粒粉砕物を、小麦ふすま画分とそれ以外の成分とに分離し、小麦ふすま画分を採取する方法を利用できる。
【0015】
穀粒の粉砕は、本技術分野で通常用いられる粉砕方法を用いることができ、例えば、ロール式粉砕、衝撃式粉砕、気流式粉砕等の方法を用いることができる。穀粒の粉砕は、1回のみ行ってもよく、同一の又は異なる粉砕方法で複数回行ってもよい。例えば、ロール式粉砕と衝撃式粉砕とを組み合わせてこの順で実施してもよく、ロール式粉砕を多段階で複数回行ってもよい。また、衝撃式粉砕に用いる粉砕機としては、衝撃板と回転ローター間で機械的衝撃により粉砕を行うものであれば特に限定されない。穀粒の粉砕効率とふすまの分離効率とを両立して高める観点から、ロール式粉砕を採用することが好ましい。
【0016】
本発明は、液状食品の製造方法において、イネ科コムギ属の一種である小麦を原料として得られる小麦ふすまを原料として用いる。一般的に、小麦頴果(小麦の穀粒)は、胚乳部、外皮部(外皮及び種皮)並びに胚芽(胚部)に大別されるところ、小麦穀粒を粉砕し、胚乳部及び胚芽を除去して得られた外皮部由来の画分が、小麦ふすまとなる。
【0017】
小麦は、その穀粒を視認したときに観察される色に応じて、赤小麦と白小麦との二つの種類に大別される。赤小麦は、外皮部に赤色色素を含有する小麦であり、小麦穀粒を視認したときに、赤色、赤褐色又は褐色として観察される。一方、白小麦は、外皮部に赤色色素を略含有しない小麦であり、小麦穀粒を視認したときに、白色又は淡黄色として観察される。これらのうち、小麦ふすまの原料として白小麦を用いることが好ましい。白小麦を用いることによって、小麦ふすまを配合した液状食品を加圧加熱処理する場合に増強されやすい、小麦外皮である小麦ふすまに由来するエグミや不快臭等の食味や風味の低下を簡便に抑制することができる。また白小麦を用いることによって、小麦ふすまを配合した液状食品を加圧加熱処理する場合に生じやすい液状食品の褐変を簡便に抑制することができる。褐変が抑制される機構は定かではないが、赤小麦の小麦ふすまを用いた場合には、ふすま由来色素の液状食品への移行と加熱時に生じるメイラード反応などの褐変反応が相まって、強い褐変が生じるのに対して、白小麦の小麦ふすまを用いた場合には、ふすま由来色素の移行が生じにくく、結果として褐変が抑制されるのではないかと推測している。白小麦を用いることによる褐変の抑制によって、見栄えの低下を抑制することができる。またエグミの抑制のために、本来加えることが不要なマスキング原料を追加してエグミを抑制する必要がなくなる利点もある。なお、液状食品の種類に応じて、乳等の異味マスキング効果を有する原料を本来配合すべきである場合に、液状食品に、それらの成分を配合することを排除するものではない。白小麦を用いることにより、食感が滑らかなものとなる利点もある。
【0018】
本発明に用いられる白小麦の具体例としては、普通小麦では、オーストラリア・スタンダード・ホワイト(ASW、オーストラリア産)、プライムハード(PH、オーストラリア産)、ソフトホワイト(SW、アメリカ合衆国産)、ウエスタン・ホワイト(WW、アメリカ合衆国産)、デュラム小麦(世界各国で生産)等が挙げられる。これらの白小麦は、例えば遺伝学的特徴で適宜選別することができる。
【0019】
また普通小麦は、小麦穀粒の硬さに応じて、硬質小麦と、軟質小麦と、硬質と軟質との中間の硬さを有する中間質小麦との三つの種類に大別される。これらの種類のうち、加圧加熱殺菌液状食品の褐変抑制の観点から、白小麦のうち、中間質小麦又は軟質小麦に分類される白小麦を用いることが好ましく、中間質小麦に分類される白小麦を用いることがより好ましい。白小麦且つ普通小麦を例にとると、硬質小麦としてはPH等が挙げられ、中間質小麦としてはASW等が挙げられ、軟質小麦の具体例としてはWW等が挙げられる。
【0020】
以上の理由から、液状食品に小麦ふすまとして配合する小麦ふすまとしては、白小麦由来の小麦ふすま(白小麦ふすま)を用いることが好ましく、ASW及びWWのうち少なくとも一種を用いることがより好ましく、ASWを用いることが更に好ましい。このような白小麦ふすまを、液状食品に配合することによって、得られる加圧加熱殺菌液状食品が、健康増進の観点から有用であることに加えて、エグミの発生が抑制され、食味、風味が良好であり、褐変が抑制されたものとなる。
【0021】
白小麦ふすまは、乾熱処理及び湿熱処理などの熱処理が施されたものを用いることが好ましく、湿熱処理されたものを用いることがより好ましい。熱処理が施されているものを用いることによって、エグミの発生が一層抑制され、風味が一層向上した加圧加熱殺菌液状食品が得られる。熱処理が湿熱処理であると、より一層エグミの発生が抑えられ、より一層良好な風味を有する加圧加熱殺菌液状食品が得られる。
【0022】
また熱処理を経ることによって、白小麦ふすまを細かく粉砕することができるので、白粒径の小さい小麦ふすまを生産性高く得る点で有利である。また、熱処理工程を経ることによって、アミラーゼやプロテアーゼなどの各種酵素の活性を低減、あるいは失活させることができるため、液状食品の製造時における粘度安定性を更に向上できる点で特に有利である。
白小麦ふすまに熱処理が施されているか否かの判断は、例えば酵素活性の測定やグルテンバイタリティの測定によって行うことができる。具体的には、酵素活性を例にとると、熱処理された白小麦ふすまは未加熱の白小麦ふすまよりも酵素活性が少ないか、又は検出限界未満であるので、この点で区別可能である。
【0023】
湿熱処理は、処理対象(小麦ふすま)中の水分を維持するか、又は水分を外部から供給して、処理対象を加熱する処理である。湿熱処理においては、水、飽和水蒸気、過熱水蒸気等の水分を供給して用いることができる。
熱処理として乾熱処理を行う場合、白小麦ふすまの品温が好ましくは80~200℃、更に好ましくは90~150℃となるようにして、好ましくは1~120分間、更に好ましくは3~50分間処理を行う方法を例示できる。乾熱処理においては、例えば特開2004-9022号公報に記載されている熱処理撹拌装置と同様の構成を有する装置に小麦ふすまを導入して、前記温度及び時間になるように行うことができる。この熱処理撹拌装置は、被処理物を収容する円筒状容器と、該容器の内部に備えられた中空構造の回転シャフトと、該シャフトに連通して形成された中空のパイプスクリューと、回転シャフト及びパイプスクリュー内に蒸気を供給する蒸気供給源とを備え、回転シャフト及びパイプスクリュー内に蒸気を供給して生じた伝熱を、回転シャフト及びパイプスクリューを介して被処理物に伝播させて、乾熱処理できるように構成されている。
【0024】
乾熱処理は、処理対象(小麦ふすま)を水分無添加の条件で加熱する処理であり、処理対象中の水分を積極的に蒸発させながら行う加熱処理である。乾熱処理は、例えば、オーブンでの加熱、焙焼窯での加熱、恒温槽を用いる加熱、熱風を吹き付ける加熱、高温低湿度環境での放置などによって実施することができる。
熱処理として湿熱処理を行う場合、水蒸気を導入する密閉系容器内において、白小麦ふすまの品温が、好ましくは80~110℃、更に好ましくは85~95℃となるようにして、好ましくは1~60秒間、更に好ましくは3~30秒間滞留させることにより行う方法を例示できる。湿熱処理においては、例えば特許第2784505号公報に記載の粉粒体加熱装置に、被処理物である小麦ふすまと、飽和水蒸気とを導入して前記温度及び時間になるように行うことができる。この粉粒体加熱装置は、飽和水蒸気の吹込口を有し、被処理物を収容する円筒形圧力容器と、該容器の一端に配された投入口から投入された粉粒体を撹拌しながら、該容器の他端に配された排出口に向けて移送するように、円筒内径に近い寸法の複数の棒状羽根を回転軸上に有する撹拌手段とを備えている。特に、湿熱処理を行うことによって、エグミが抑制され、得られる加圧加熱殺菌液状食品の風味がより一層良好なものとなる。
【0025】
小麦ふすまに起因するざらつきを抑制して、加圧加熱殺菌液状食品を食感のよいものとする観点から、小麦ふすまは、その平均粒径が好ましくは30~180μm、より好ましくは50~150μm、更に好ましくは70~120μm、一層好ましくは80~100μmである。本発明における平均粒径は、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製、「マイクロトラック粒径分布測定装置9200FRA」)を用いて乾式で測定したときの累積体積50容量%における体積累積粒径D50を指す。このような平均粒径を有する白小麦ふすまは、例えば篩や空気分級機等の分級によって容易に得ることができる。
【0026】
〔白小麦ふすまを配合した液状食品に加圧加熱殺菌処理を施す工程〕
本発明における加圧加熱殺菌液状食品は、典型的には、白小麦ふすまを配合した液状食品に、加圧加熱殺菌処理を施すことによって得られる。
白小麦ふすまを配合した液状食品、及びそれに加圧加熱殺菌処理を施して得られる加圧加熱殺菌液状食品(以下、まとめて液状食品ともいう)は、白小麦ふすまが配合された液状食品であれば、どのような種類の食品であってもよく、ソース、スープ、液状ルウ、あん、たれ、ドレッシング又は惣菜が例示される。液状食品は、流動性を有する食品であり、例えば、水分量が60質量%以上であり、好ましくは60~95質量%、より好ましくは65~90質量%である。水分量は、絶乾法ベースで求められ、具体的には、絶乾処理した液状食品と該絶乾前の質量差を、該絶乾処理前の液状食品の質量に対する百分率として算出することができる。液状食品は、典型的には常温保存後そのまま喫食できるスープ、ソースなどを指す。
【0027】
液状食品は、好ましくは、ソース、スープ、又は惣菜である。液状食品の味には、制限はなく、例えば、ソースとしては、ミートソース、デミグラスソース、カルボナーラソース、チーズソース、ホワイトソース、ケチャップソース、アラビアータソース、トマトソース、ブラウンソース、カレーソース、コンソメソース、中華風ソース、オイルソース、タラコソース、バジルソース、バターソース、塩、味噌もしくは醤油ベースのソースなどが挙げられる。スープとしては、トマトスープ、コンソメスープ、わかめスープ等が挙げられる。液状食品である惣菜は、液状部と具材を有する惣菜類を指し、そのような惣菜としては、例えばシチュー、肉じゃが、ロールキャベツ等が挙げられる。上述したソース、スープ及び惣菜の具体例は、例示であり、ソース、スープ及び惣菜は上述のものに限定されない。ソースは、通常、他の食材又は料理とともに喫食される。
【0028】
また白小麦ふすまは、固形の具材の原料に含めない形で液状食品に配合することが、固形の具材の品質に影響を与えない観点から好ましい。また白小麦ふすまは、小麦の全粒粉の一部としてではなく、白小麦ふすま単独で、液状食品に配合することが好ましい。
白小麦ふすまは、粉体のまま、あるいは水等に溶解若しくは分散した状態として、液状食品の他の成分と混合することが好ましい。
液状食品の調整は、液状食品の種類に応じて該液状食品製造の常法に従って行うことができる。典型的には、白小麦ふすま及び他の原材料を、水(冷水でも温水でもよい)等の液体に添加し、公知の攪拌装置を用いて混合することで調製する。原材料を添加する液体は、通常は水であるが特に制限されず、例えば、水に塩などの調味料を溶解又は分散させた調味液等を用いることもできる。原材料を添加するという表現には、原材料を液体に添加する場合と原材料に液体を添加する場合の両方が含まれる。
例えば、液状食品には白小麦ふすま以外の原材料を添加してもよく、他の原材料としては、液状食品の種類に応じた各種の原材料を添加することができる。一例を挙げれば、白小麦ふすま以外の穀粉類、大豆蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材;動植物油脂、粉末油脂等の油脂類;かんすい、焼成カルシウム、膨張剤、乳化剤、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料、アルコール、保存剤、酵素剤、食物繊維、デキストリン(難消化性含む)、増粘剤、保水剤、pH調整剤、酸化還元剤等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
白小麦ふすま以外の穀粉類としては、白小麦ふすま以外の、穀粉及び澱粉が挙げられる。穀粉としては、米類、大麦類、トウモロコシ類、モロコシ類、ヒエ類、アワ類、キビ類、オーツ麦類(カラス麦類)及びライ麦類等の各種穀類の粉末が挙げられる。澱粉としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉などの未加工澱粉、及び前記の各未加工澱粉に、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理等の処理を施したもの等の各種加工澱粉等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
液状食品は、非粉体の固形具材を含んでいてもよい。非粉体の具材としては、例えば、鶏、豚、牛等の畜肉類の塊肉;ソーセージ、ハム、ベーコン等の畜肉加工物;キャベツ、レタス、キュウリ、トマト等の未加熱又は加熱済みの野菜類;ニンジン、ジャガイモ等の根菜類;みかん、いちご、桃、梨、メロン、いちじく、パイナップル等の果実類;鶏卵等の卵類;カスタードクリーム、ホイップクリーム、生クリーム等のクリーム類;バター、ジャム、マーガリン等のスプレッド類等が挙げられる。これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
非粉体の固形具材の一例としては、例えば、液状食品が、ミートソースである場合の挽肉類、液状食品がトマトスープである場合のトマト果肉、液状食品が肉じゃがである場合のジャガイモ等が挙げられる。
【0031】
本発明に係る小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品は、その全量中に、白小麦ふすまを乾燥質量換算で、好ましくは5~80質量%、より好ましくは10~80質量%、更に好ましくは15~80質量%含む。白小麦ふすまを、このような量配合することで、小麦ふすまによる健康増進機能を期待でき、またエグミ及び褐変が抑制された風味、食味、見栄え等に一層優れる。白小麦ふすまの乾燥質量換算の含有量は、以下のようにして測定される。
(含有量の測定方法)
白小麦ふすまの乾燥質量換算の含有量は、絶乾法ベースで求められる。具体的には、液状食品に添加する白小麦ふすまの絶乾処理後の質量を、白小麦ふすまを添加した液状食品の絶乾処理後の質量に対する百分率として算出することができる。
【0032】
加圧加熱殺菌処理は、典型的には、常温保存を可能とするための殺菌処理であり、100℃超で5分以上加熱処理する。好ましくは、一般的な条件、例えば、厚生労働省による「容器包装詰加圧加熱殺菌食品の製造基準」に従った処理を行い、例えば100℃超、好ましくは品温102~130℃で3~120分間加熱処理する。より好ましくは、品温120℃で4分間加熱する処理、又はこれと同等以上の効果を有する加圧加熱殺菌処理である。
加圧加熱殺菌処理は、白小麦ふすまが配合された加圧加熱殺菌処理前の液状食品を、密封包装した状態で行うことが好ましい。密封包装した状態で行うことで、保存性や取扱性に優れた常温保存可能な小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品が容易に得られる。これに代えて、加圧加熱殺菌処理後に密封包装することもできる。密封包装とは、収容物に対して、固体、液体及び気体のすべての混入を防ぐように包装された形態を指す。密封包装するために用いられる容器は、密封可能な形態であれば特に制限はなく、プラスチック、ガラス、金属若しくはこれらの組み合わせからなる袋体又は成形体等を用いることができ、より具体的には、プラスチック容器、瓶、缶、パウチ容器等が挙げられる。食品混合物を密封包装する際に、不活性ガス置換充填等のガス置換処理等の微生物制御処理が施されてもよい。
【0033】
本発明に係る小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品は、典型的には、通常のレトルト食品と同様に、密閉包装された状態で保管、流通、保存等された後、密閉包装が開封されて喫食される。喫食前に加熱を行わなくてもよいが、喫食前に、湯煎、電子レンジ等により加熱を行うことも好ましい。本発明に係る小麦ふすま含有加圧加熱殺菌液状食品によれば、小麦ふすまが配合されて健康の維持増進への寄与を図ることができる上に、加圧加熱処理する場合に生じやすい風味や食味の低下及び褐変を簡便に抑制されているので、風味、食味が良好であり、褐変に伴う不都合も抑制される。
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されない。
【実施例0034】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
〔実施例1、2及び比較例1〕
小麦ふすまの原料となる小麦として、以下に示す白小麦又は赤小麦を用いた。この小麦籟果を精選してロール式粉砕機にて粉砕し、その粉砕物を目開き200μmの篩で分級して、篩上残存物として小麦ふすま画分を採取した。
次いで、採取した小麦ふすま画分を、ターボミル(東京製粉機製作所製)を用いて衝撃的粉砕を行った後、この粉砕物に対して、特許第2784505号明細書に記載される粉粒体加熱装置を用いて飽和水蒸気を導入しながら、品温90℃で5秒間の条件で湿熱処理を行った。続いて、湿熱処理後の粉砕物を、衝撃式微粉砕機(ACMパルベライザー、ホソカワミクロン社製)を用いて微粉砕し、その後、目開き150μmの篩を用いて分級し、篩を通過する粒径150μm未満の分級物を分取して、粉末状の小麦ふすまを得た(平均粒径約90μm、水分量8.6質量%)。
【0036】
各実施例及び比較例で用いた原料小麦は、以下のとおりとした。
・実施例1,3:ASW(白小麦且つ中間質小麦)
・実施例2,4:WW(白小麦且つ軟質小麦)
・比較例1,2:1CW(No.1カナダ・ウエスタン・レッド・スプリング;赤小麦且つ硬質小麦)
【0037】
〔実施例3,4及び比較例2〕
実施例1、2及び比較例1と同様の方法で、上述の白小麦又は赤小麦の小麦ふすま画分を採取し、ターボミルを用いて衝撃的粉砕を行った後、この粉砕物に対して、特開2004-9022号公報に記載の熱処理攪拌装置と同様の構成の装置を用いて、被乾熱物の品温が120℃となるように25分間加熱して、乾熱処理を行った。続いて、乾熱処理後の粉砕物を、上述の衝撃式微粉砕機を用いて微粉砕し、その後、目開き150μmの篩を用いて分級し、篩を通過する粒径150μm未満の分級物を分取して、粉末状の小麦ふすまを得た(平均粒径約90μm、水分量8.6質量%)。
【0038】
〔加圧加熱殺菌液状食品の製造〕
(1)ソースの製造
各実施例及び比較例で得た熱処理小麦ふすまと、以下に示す原材料とを以下に示す割合で混合して液状食品を得た後、加圧加熱殺菌処理して、加圧加熱殺菌液状食品としてミートソースを製造した。
具体的には、鍋に油とひき肉を加え、肉を崩しながら赤みがなくなるまで炒め、玉葱と人参を加えてさらに炒めた後、水に事前分散させたふすまとトマトペースト、調味料、香辛料を全て加えてひと煮たちさせることでミートソースを製造した。さらに上記の方法で製造したミートソースをレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌(品温123℃,20分)を行った。ふすまは予めふすま重量に対して2倍量の水に分散して配合した。
<ミートソースの原材料>(以下に示す原材料の単位は「質量部」である。)
・小麦ふすま :10
・油 :1
・玉葱 :18
・人参 :1.5
・ひき肉 :7
・トマトペースト :13
・水 :43
・調味料、香辛料等:6.5
・ 合計 :100
得られたミートソース(加圧加熱殺菌液状食品)は、水分量が75.5%程度であり、小麦ふすまの乾燥質量換算の配合量は約37質量%であった。乾燥質量換算の配合量は、次式で求められる。乾燥質量換算の配合量(%)=〔小麦ふすまの乾燥質量/液状食品の乾燥質量)×100
本明細書における乾燥質量は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)分析マニュアルに基づく質量であり、同マニュアルに記載の方法で測定された水分量を測定対象物の全質量から差し引いた質量を指す。
【0039】
(2)スープの製造
各実施例及び比較例で得た熱処理小麦ふすまと、以下に示す原材料とを以下に示す割合で混合して液状食品を得た後、加圧加熱殺菌処理して、加圧加熱殺菌液状食品としてのトマトスープを製造した。
具体的には、鍋に小麦ふすまと小麦ふすまの2倍量の水を加えて分散させた。これにトマトペーストとその他の原材料を加えてよく撹拌した後に、残りの水と牛乳を加えてひと煮たちさせることでトマトスープを製造した。さらに上記の方法で製造したトマトスープをレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌(品温115℃,30分)を行った。
<トマトスープの原材料>(以下に示す原材料の単位は「質量部」である。)
・小麦ふすま :10
・トマトペースト :7
・牛乳 :10
・水 :70.9
・調味料、香辛料等:2.1
・ 合計 :100
使用した小麦ふすまの水分量が8.6質量%、得られたトマトスープ(加圧加熱殺菌液状食品)の水分量が87%程度であり、小麦ふすまの乾燥質量換算の配合量は約70質量%であった。
【0040】
〔評価〕
各実施例及び比較例で得た各小麦ふすまを用いて製造したミートソース及びトマトソースについて、喫食直前に100℃で3分湯煎加熱した後、レトルトパウチを開封して、10名の専門パネラーに喫食してもらった。
10名の専門パネラーに風味(エグミの程度)及び褐変の程度を、以下の評価基準1及び2で評価してもらい、10名の点数の算術平均値を表1に示した。風味は、点数の算術平均値が大きいほど、小麦ふすま由来のエグミが少なく、風味に優れる。褐変は、点数の算術平均値が大きいほど褐変が少なく、例えば見栄えが良好である。
【0041】
<風味の評価基準(評価基準1)>
5点:エグミをほとんど感じない。
4点:エグミをわずかに感じる。
3点:エグミをやや感じるが、大きな支障はない。
2点:エグミを感じる。
1点:エグミを強く感じる。
【0042】
<褐変の評価基準(評価基準2)>
5点:褐変がほとんどない。
4点:褐変がわずかに生じている。
3点:褐変がやや生じているが、大きな支障はない。
2点:褐変が生じている。
1点:褐変が強く生じている。
【0043】
【0044】
表1に示すように、赤小麦由来の小麦ふすまを用いた比較例と比較して、白小麦由来の小麦ふすまを用いた実施例は、エグミ及び褐変の評価結果が良く、小麦ふすまとして、白小麦ふすまを用いることで、簡便な方法によって、加圧加熱殺菌処理に伴うエグミの発生等の風味食味の低下や褐変を効果的に抑制することができることが判る。また実施例1,2の結果と実施例3,4の対比から、湿熱処理を施した白小麦ふすまが、乾熱処理を施した白小麦ふすまよりもエグミの抑制効果が高いことが判る。