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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022057701
(43)【公開日】2022-04-11
(54)【発明の名称】小麦由来アラビノキシランの定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/02 20060101AFI20220404BHJP
   A23L 7/10 20160101ALN20220404BHJP
【FI】
G01N33/02
A23L7/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020166091
(22)【出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野崎 聡美
(72)【発明者】
【氏名】河原 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】木本 匡昭
【テーマコード(参考)】
4B023
【Fターム(参考)】
4B023LE30
4B023LK08
4B023LK10
4B023LK12
(57)【要約】
【課題】小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの定量を高精度で行うことができる技術を提供すること。
【解決手段】本発明の小麦由来アラビノキシランの定量方法では、小麦含有加工食品中のアラビノキシランについての暫定的な定量値と、該小麦含有加工食品における小麦由来成分を特定代替成分に置換した対照品中のアラビノキシランについての定量値とに基づいて、該小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの含有量を算出する。前記特定代替成分は、アラビノキシランを構成する糖を含有せず、澱粉類及び精製グルテンを含有する。前記特定代替成分における前記澱粉類及び前記精製グルテンの合計含有量が70質量%以上、該特定代替成分における該澱粉類と該精製グルテンとの含有質量比が、前者:後者=92:8~88:12である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦由来成分の加熱処理を経て製造された小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの定量方法であって、
前記小麦含有加工食品中のアラビノキシランを所定の方法で定量し、暫定的な定量値を得る第1の工程と、
前記小麦含有加工食品における小麦由来成分を特定代替成分に置換した対照品を調製し、該対照品中のアラビノキシランを前記第1の工程と同じ方法で定量する第2の工程と、
前記第1の工程で得られた暫定的な定量値と前記第2の工程で得られた定量値とに基づいて、前記小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの含有量を算出する第3の工程とを有し、
前記特定代替成分は、アラビノキシランを構成する糖を含有せず、澱粉類及び精製グルテンを含有し、
前記特定代替成分における前記澱粉類及び前記精製グルテンの合計含有量が70質量%以上、該特定代替成分における該澱粉類と該精製グルテンとの含有質量比が、前者:後者=92:8~88:12である、小麦由来アラビノキシランの定量方法。
【請求項2】
前記特定代替成分は、前記澱粉類として地下茎由来の澱粉を50質量%以上含有する、請求項1に記載の小麦由来アラビノキシランの定量方法。
【請求項3】
前記地下茎由来の澱粉は、馬鈴薯澱粉及びタピオカ澱粉から選択される1種以上である、請求項2に記載の小麦由来アラビノキシランの定量方法。
【請求項4】
前記精製グルテンにおける加水分解糖としてのアラビノース、キシロース及びガラクトースそれぞれの含有量が1.0g/100g未満である、請求項1~3の何れか1項に記載の小麦由来アラビノキシランの定量方法。
【請求項5】
前記小麦含有加工食品は、前記小麦由来成分として小麦ふすまを該小麦含有加工食品中の穀粉類に対して15質量%以上含有する、請求項1~4の何れか1項に記載の小麦由来アラビノキシランの定量方法。
【請求項6】
前記小麦含有加工食品は、小麦由来アラビノキシランを0.4g/100g以上含有する、請求項1~5の何れか1項に記載の小麦由来アラビノキシランの定量方法。
【請求項7】
前記小麦含有加工食品は、ベーカリー食品又は麺類である、請求項1~6の何れか1項に記載の小麦由来アラビノキシランの定量方法。
【請求項8】
包装体と、該包装体に収容された小麦含有加工食品とを含む小麦含有加工食品包装体であって、
前記包装体に、前記小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの含有量が示されているとともに、該小麦由来アラビノキシランの含有量が、請求項1~7の何れか1項に記載の定量方法によって定量されたものであることが示されている、小麦含有加工食品包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康意識の高まりから、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどの栄養素や、機能性成分に富み、良好な風味を有する小麦ふすまを用いて、パンや麺類等の小麦含有加工食品が製造されている。小麦ふすまに含まれる機能性成分の一つに、アラビノース及びキシロースを主体とするヘミセルロースの一種である小麦由来アラビノキシランがある。小麦由来アラビノキシランは抗肥満作用を示すことが知られており、肥満、脂肪肝、高脂血症等の予防及び改善に利用され、これを含む機能性飲食品が市販されている。
【0003】
一方、小麦由来アラビノキシランの定量方法については、小麦含有加工食品等の定量対象物から調製したサンプルに含まれるアラビノキシランを加水分解し、その加水分解後のサンプル中のアラビノース含量、キシロース含量、更には必要に応じガラクトース含量を測定し、その測定値に基づいてサンプル中のアラビノキシラン含量を算出する方法が一般的である。しかし、小麦含有加工食品の多くは小麦以外の他の食材由来の原材料を含み、それら他の原材料、例えば寒天、豆類、乳製品、甘味料等には、アラビノース、キシロース及びガラクトースが糖としてあるいは食物繊維の構成糖として含まれているため、単に前記方法に従って小麦含有加工食品に含まれるアラビノキシラン含量を定量した場合、その定量値が、小麦以外の他の原材料由来のアラビノキシランの含有量を含んだものとなる場合があり、その場合は小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランを定量することができない。
【0004】
そこで、定量対象物の小麦含有加工食品とは別に、定量対象物から定量対象成分(例えば小麦由来アラビノキシラン)を含む原材料(例えば小麦粉、小麦ふすま)を除いたブランク品を調製し、前者及び後者それぞれについて定量対象成分を定量し、前者の定量値から後者の定量値を差し引くことで定量対象成分を定量する方法が知られている(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“小麦ブラン由来アラビノキシランの定量試験法および定性試験法”、一般財団法人日本食品分析センター、[online]、[2020年9月5日検索]、インターネット〈URL:https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc04/bunsekihoho?bunsekihohoFile=E421%255CE421_bunsekihoho.pdf〉
【非特許文献2】“マ・マー わたし思いのもち麦リゾット 完熟トマトソースの軟消化性デキストリン(食物繊維として)の分析法”、一般財団法人日本食品分析センター、[online]、[2020年9月5日検索]、インターネット〈URL:https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc04/bunsekihoho?bunsekihohoFile=D558%255CD558_bunsekihoho.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1及び2に記載の定量方法、すなわち定量対象物から定量対象成分を含む原材料を除いたブランク品を用いて定量する方法を、ベーカリー食品、麺類等の小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの定量に用いた場合、ブランク品が小麦含有加工食品としての体をなさないという問題が生じる場合がある。特に小麦由来成分を比較的多く含む小麦含有加工食品(例えばホットケーキ、パン、そば等)から小麦粉や小麦ふすまなどの小麦由来成分を除いたブランク品は、生地の粘度が著しく低下して小麦含有加工食品の本来の形状を維持できない、生地焼成時の火抜けが悪く焦げ付き易い、茹で調理中に煮崩れする等の問題が生じやすく、定量試験に使用できない場合がある。
【0007】
本発明の課題は、小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの定量を高精度で行うことができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、小麦由来成分を比較的多く含む小麦含有加工食品、具体的には例えば、小麦由来成分の含有量が、該小麦含有加工食品中の穀粉類に対して30質量%以上である小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの定量を高精度で行い得る方法について種々検討した結果、定量対象物の対照品として、非特許文献1及び2に記載されているような、定量対象物から小麦由来成分を除いたブランク品を用いる代わりに、小麦由来成分を特定代替成分に置換したものを用いることで、ブランク品で見られた小麦含有加工食品としての体をなさないという問題を解決でき、小麦由来アラビノキシランを高精度で定量できることを知見した。
【0009】
本発明は、前記知見に基づいてなされたもので、
小麦由来成分の加熱処理を経て製造された小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの定量方法であって、
前記小麦含有加工食品中のアラビノキシランを所定の方法で定量し、暫定的な定量値を得る第1の工程と、
前記小麦含有加工食品における小麦由来成分を特定代替成分に置換した対照品を調製し、該対照品中のアラビノキシランを前記第1の工程と同じ方法で定量する第2の工程と、
前記第1の工程で得られた暫定的な定量値と前記第2の工程で得られた定量値とに基づいて、前記小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの含有量を算出する第3の工程とを有し、
前記特定代替成分は、アラビノキシランを構成する糖を含有せず、澱粉類及び精製グルテンを含有し、
前記特定代替成分における前記澱粉類及び前記精製グルテンの合計含有量が70質量%以上、該特定代替成分における該澱粉類と該精製グルテンとの含有質量比が、前者:後者=92:8~88:12である、小麦由来アラビノキシランの定量方法である。
【0010】
また本発明は、包装体と、該包装体に収容された小麦含有加工食品とを含む小麦含有加工食品包装体であって、
前記包装体に、前記小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの含有量が示されているとともに、該小麦由来アラビノキシランの含有量が、前記の本発明の定量方法によって定量されたものであることが示されている、小麦含有加工食品包装体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの定量を高精度で行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の定量方法の対象物である小麦含有加工食品は、小麦由来成分を含有する。本明細書において「小麦由来成分」とは、イネ科コムギ属の小麦を由来とする成分を指し、典型的には、小麦頴果(小麦の穀粒)を由来とする成分である。具体的には例えば、小麦粉、小麦ふすま、小麦蛋白(グルテン)、小麦澱粉が挙げられる。小麦含有加工食品は、小麦由来成分の1種以上を含有し得る。
【0013】
小麦含有加工食品における小麦由来成分の含有量は特に制限されないが、本発明は、小麦由来成分を比較的多く含有し、小麦由来成分に特有の物性が比較的強く発現している小麦含有加工食品、換言すれば、小麦由来成分を除いてしまうと、小麦由来成分に特有の物性が発現せず小麦含有加工食品としての体をなさなくなるような小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの定量に特に有用である。以上を考慮すると、本発明の所定の効果をより一層確実に奏させるようにする観点から、小麦含有加工食品における小麦由来成分の含有量は、該小麦含有加工食品中の穀粉類に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。なお、小麦含有加工食品における小麦由来成分の含有量の上限は、小麦含有加工食品の種類等に応じて適宜設定されるものであり、本発明では特に制限されず100質量%でもよい。
前記と同様の観点から、小麦含有加工食品の製造方法において、該小麦含有加工食品の原材料として用いる穀粉類における小麦由来成分の含有量は、該穀粉類の全質量に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。
【0014】
本明細書において「穀粉類」とは、穀粉、澱粉及び小麦由来蛋白を指す。小麦含有加工食品は穀粉類から選択される1種以上を含む。
穀粉としては、例えば、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、デュラム粉等の小麦粉(小麦由来成分);小麦ふすま(小麦由来成分);そば粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉、ライ麦粉、はとむぎ粉、ひえ粉、あわ粉等が挙げられる。
澱粉としては、例えば、小麦澱粉(小麦由来成分)、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉等の未加工澱粉、及びこれら未加工澱粉にエーテル化、エステル化、アセチル化、α化、架橋処理、酸化処理、油脂加工等の処理の1つ以上を施した加工澱粉等が挙げられる。ここでいう「澱粉」は、小麦粉等の穀粉から分離されたものを意味し、穀粉中に含有されている澱粉とは区別される。小麦含有加工食品は、穀粉類として少なくとも小麦由来成分の1種を含有し、更に、小麦由来成分以外の穀粉類の1種以上を含有し得る。
小麦由来蛋白は、小麦に由来する蛋白であり、グルテンや、グルテンを構成するグリアジン、グルテニンなどが例示される。後述する対照品における「特定代替成分」に含まれるグルテンは精製グルテンに限定されるが、それ以外の用途で小麦含有加工食品(対照品)に含まれるグルテンは精製、非精製を問わない。ここでいう「小麦由来蛋白」は、小麦粉等の穀粉から分離されたものを意味し、穀粉中に含有されている澱粉とは区別される。
【0015】
前記と同様の観点、すなわち本発明の所定の効果をより一層確実に奏させるようにする観点から、小麦含有加工食品は、小麦由来成分として小麦ふすまを該小麦含有加工食品中の穀粉類に対して15質量%以上含有することが好ましく、20質量%以上含有することがより好ましい。「小麦ふすま」は、小麦穀粒を粉砕し、胚乳部及び胚芽を除去して得られた外皮部由来の画分である。
【0016】
前記と同様の観点から、小麦含有加工食品は、小麦由来アラビノキシランを0.4g/100g以上含有することが好ましく、4g/100g以上含有することがより好ましい。「アラビノキシラン」は、キシロースの主鎖にアラビノースの側鎖が結合して構成される、ヘミセルロースの一種である。アラビノキシランは、アラビノース及びキシロースに加えて、これらの単糖以外の糖が結合して構成されていてもよい。アラビノキシランを構成するアラビノース及びキシロース以外の糖としては、グルコース、ガラクトース等が挙げられる。なお、小麦含有加工食品における小麦由来アラビノキシランの含有量の上限は、小麦含有加工食品の種類等に応じて適宜設定されるものであり、本発明では特に制限されない。
【0017】
本発明の定量方法の対象物である小麦含有加工食品は、小麦由来成分以外の他の成分を含有してもよい。斯かる他の成分としては、前記の小麦由来成分以外の穀粉類の他に、例えば、大豆蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材;動植物油脂、粉末油脂等の油脂類;かんすい、焼成カルシウム、膨張剤、乳化剤、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料、アルコール、保存剤、酵素剤、増粘剤、保水剤、pH調整剤、酸化還元剤等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明の定量方法の対象物である小麦含有加工食品は、小麦由来成分の加熱処理を経て製造されるものである。小麦含有加工食品は、典型的には、小麦由来成分又はこれを含む製造中間体(例えば生地)を加熱調理する工程を経て製造される。前記「加熱調理」は、加熱処理を含む調理方法であればよく、例えば、焼成、揚げ調理、茹で調理、蒸し調理が挙げられ、これらの2種類以上の組み合わせでもよい。
【0019】
小麦含有加工食品の具体例として、ベーカリー食品、麺類が挙げられる。
本明細書において「ベーカリー食品」とは、穀粉類を主原料とし、これに水等の生地調製用液体を加え、更に必要に応じてイーストや膨張剤(ベーキングパウダー等)、食塩、砂糖などの副原料を加えて得られた発酵又は非発酵生地を、焼成して得られる食品を指す。ベーカリー食品の具体例として、ホットケーキ、スポンジケーキ、パン、たこ焼き、お好み焼き、チヂミ、クレープ、大判焼き、ビスケット、クッキー等が挙げられる。
本明細書において「麺類」とは、穀粉類を主原料とし、これに水等の生地調製用液体を加えて得られた生地を圧延又は引き伸ばしして麺帯生地とし、該麺帯生地を更に引き伸ばし、切り出し、打ち抜くなどの方法により、細長い形状又は薄板状などの麺線状に成形し、その麺線状の生地(生麺)又はその乾燥物(乾麺)を加熱調理(例えば茹で調理)して得られる食品を指す。麺類の具体例として、そば、中華麺、つけめん、焼きそば、素麺、冷麦、うどん、パスタ、麺皮等が挙げられる。
小麦含有加工食品の中でも、ベーカリー食品、麺類は、特に二次加工、加熱処理時の物性について、小麦由来成分の影響が大きく、小麦含有加工食品中のアラビノキシランの定量において、本発明による恩恵を得られやすい。
【0020】
本発明の定量方法は、定量対象物である小麦含有加工食品中のアラビノキシランを所定の方法で定量し、暫定的な定量値を得る「第1の工程」を有する。前記第1の工程において、小麦含有加工食品中のアラビノキシランの定量方法は特に制限されず、従来公知の方法を適宜利用できる。
前記第1の工程で得られるアラビノキシランの定量値は、目的とする小麦由来アラビノキシランの含有量のみならず、小麦以外の他の原材料由来のアラビノキシランの含有量を含み得るものであり、それ故に「暫定的」なものである。本発明の定量方法では、この暫定的な定量値を、後述する第2の工程で得られた対照品についてのアラビノキシランの定量値を用いて、後述する第3の工程で修正することで、目的とする小麦由来アラビノキシランの含有量を定量する。
【0021】
前記第1の工程における小麦由来アラビノキシランの定量方法の一例として、小麦含有加工食品に含まれるアラビノキシランをはじめとする多糖類を加水分解し、その加水分解で得られた加水分解糖を定量し、暫定的な定量値を得る方法(以下、「定量方法A」とも言う。)が挙げられる。前記第1の工程で前記定量方法Aを採用した場合、加水分解糖についての暫定的な定量値を得る。加水分解糖は、典型的には、アラビノース、キシロース及びガラクトースを含む。
前記定量方法Aは、例えば、小麦含有加工食品から調製したサンプル(例えば小麦含有加工食品の粉砕物)に酸を加えるなどして、該サンプルに含まれるアラビノキシラン等の多糖類を加水分解し、その加水分解物におけるアラビノース、キシロース及びガラクトースそれぞれの含有量を、高速液体クロマトグラフィーなどの公知の測定方法を用いて定量することによって実施できる。
【0022】
本発明の定量方法は、前記第1の工程に加えて更に、小麦含有加工食品における小麦由来成分を特定代替成分に置換した対照品を調製し、該対照品中のアラビノキシランを該第1の工程と同じ方法で定量する「第2の工程」を有する。
前記第2の工程における対照品中のアラビノキシランの定量方法は、前記第1の工程における小麦含有加工食品中のアラビノキシランの定量方法と同じとする。例えば、前記第1の工程で前記定量方法Aを採用した場合、前記第2の工程でも該定量方法Aに準じて、対照品中のアラビノキシランを定量する。すなわち前記第2の工程は、対照品に含まれるアラビノキシランをはじめとする多糖類を加水分解し、その加水分解で得られた加水分解糖を前記第1の工程と同じ方法で定量する工程であり得る。具体的には例えば、対照品から調製したサンプル(例えば対照品の粉砕物)に酸を加えるなどして、該サンプルに含まれるアラビノキシラン等の多糖類を加水分解し、その加水分解物におけるアラビノース、キシロース及びガラクトースそれぞれの含有量を、高速液体クロマトグラフィーなどの公知の測定方法を用いて定量する。
【0023】
本発明の定量方法においては、前記の第1の工程及び第2の工程の実施順序は特に制限されず、どちらを先に行ってもよく、両工程を並行して行ってもよい。
【0024】
本発明の定量方法は、前記第1の工程で得られた暫定的な定量値と前記第2の工程で得られた定量値とに基づいて、該小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの含有量を算出する「第3の工程」を有する。前記第3の工程において、定量対象物である小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの含有量の算出は、典型的には、前記第1の工程で得られた小麦含有加工食品についての暫定的な定量値から、前記第2の工程で得られた対照品についての定量値を差し引くことで実施できる。
例えば、前記の第1の工程及び第2の工程の双方で前記定量方法Aを採用した場合、両工程で得られた定量値を下記式(1)に代入することで、目的の小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの含有量を算出することができる。なお、下記式(1)は、例えば非特許文献1にも実質的に同様のものが記載されており、公知である。
【0025】
アラビノキシランの含有量(g/100g)=0.88×{(A-Ap)+(X-Xp)-0.7×(G-Gp)} …(1)
・A:前記第1の工程で得られたアラビノースの暫定的な定量値(定量対象物である小麦含有加工食品におけるアラビノースの含有量)(単位:g/100g)
・Ap:前記第2の工程で得られたアラビノースの定量値(対照品におけるアラビノースの含有量)(単位:g/100g)
・X:前記第1の工程で得られたキシロースの暫定的な定量値(定量対象物である小麦含有加工食品におけるキシロースの含有量)(単位:g/100g)
・Xp:前記第2の工程で得られたキシロースの定量値(対照品におけるキシロースの含有量)(単位:g/100g)
・G:前記第1の工程で得られたガラクトースの暫定的な定量値(定量対象物である小麦含有加工食品におけるガラクトースの含有量)(単位:g/100g)
・Gp:前記第2の工程で得られたガラクトースの定量値(対照品におけるガラクトースの含有量)(単位:g/100g)
【0026】
本発明の定量方法は、前記第2の工程における定量対象物である対照品が、小麦含有加工食品における小麦由来成分(小麦粉、小麦ふすま、小麦蛋白、小麦澱粉等)を特定代替成分に置換したものである点で特徴付けられる。この本発明に係る対照品は、小麦含有加工食品から小麦由来成分を除いただけのブランク品には含有されていない、特定代替成分を含有するため、前述した、ブランク品で見られた小麦含有加工食品としての体をなさないという問題を起こし難い。
【0027】
前記特定代替成分はアラビノキシランを構成する糖を含有しない。前記特定代替成分がアラビノキシランを構成する糖を含有するものであると、例えば前記第2の工程で、多糖類の加水分解工程を含む前記定量方法Aによって対照品の定量を行った場合に、その定量値(加水分解物における加水分解糖の含有量)が比較的大きなものとなり、小麦由来アラビノキシランの定量精度が低下するおそれがある。
前記「アラビノキシランを構成する糖」は、典型的には、アラビノース、キシロース及びガラクトースであり、前記特定代替成分はこれら3種類の単糖を含有しない。
前記「含有しない」には、前記特定代替成分におけるアラビノキシランを構成する糖の合計含有量がゼロである場合のみならず、該合計含有量が通常の定性定量分析では検出が困難となるような極微量(例えば0.2g/100g未満)である場合が包含される。以下、前記特定代替成分は「アラビノキシランを構成する糖を含有しない」とは、それらの糖の合計含有量が0.2g/100g未満であることを指す。
【0028】
小麦由来アラビノキシランの定量精度を一層高める観点から、前記特定代替成分のみならず、該特定代替成分を含有する対照品が、アラビノキシランを構成する糖を含有しない、すなわち対照品におけるアラビノキシランを構成する糖の含有量が0.2g/100g未満であることがより好ましい。
【0029】
前記特定代替成分は、澱粉類及び精製グルテンを含有する。すなわち本発明に係る対照品は、澱粉類及び精製グルテンを含有する。
本明細書において「精製グルテン」とは、普通小麦の小麦粉又はその製造工程で生じる蛋白質を多く含む画分から、定法に従って製造することができる粗蛋白含量が高いグルテンを指す。精製グルテンにおける粗蛋白含量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
【0030】
前記特定代替成分は、澱粉類として地下茎由来の澱粉を50質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することがより好ましい。
小麦由来アラビノキシランの定量精度の向上の観点から、前記特定代替成分におけるアラビノキシラン及びその構成糖(例えばアラビノース、キシロース、ガラクトース)の含有量は少ないほど好ましく、これらを含有しないことが最も好ましいところ、地下茎由来の澱粉は、地上茎由来の澱粉(例えば、小麦澱粉、米澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ)に比べてアラビノキシラン及びその構成糖の含有量が少ないため、前記のとおり、特定代替成分の澱粉類は地下茎由来の澱粉を主体とすることが好ましい。
地下茎由来の澱粉としては、例えば、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉等が挙げられる。地下茎由来の澱粉は、未加工澱粉でも加工澱粉でもよい。地下茎由来の澱粉の好ましい具体例として、アセチル化タピオカ澱粉、エーテル化タピオカ澱粉が挙げられる。
前記特定代替成分における地下茎由来の澱粉の含有量の上限は特に制限されず、対照品(小麦含有加工食品)の種類等に応じて適宜設定できる。
【0031】
前記特定代替成分に含有される精製グルテンも、澱粉類と同様に、アラビノキシラン及びその構成糖を含有しないことが最も好ましいが、精製グルテンの製造工程上、アラビノキシラン及びその構成糖を完全に排除することは技術的に困難であることから、精製グルテンにおけるアラビノキシラン及びその構成糖の合計含有量は極力低減させることが、小麦由来アラビノキシランの定量精度の向上の観点から望ましい。具体的には、精製グルテンにおける加水分解糖としてのアラビノース、キシロース及びガラクトースそれぞれの含有量は、好ましくは1.5g/100g未満、より好ましくは1.0g/100g未満である。
【0032】
前記特定代替成分における澱粉類及び精製グルテンの合計含有量は、該特定代替成分の全質量に対して、70質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。前記特定代替成分における澱粉類及び精製グルテンの合計含有量が70質量%未満では、該特定代替成分を含有する対照品が小麦含有加工食品としての体をなさないものとなるおそれがある。
残部には、前記特定代替成分の機能を損ねない範囲で、糖類(デキストリン含む)、蛋白質素材、油脂類、増粘剤等を配合してもよい。
前記特定代替成分における澱粉類及び精製グルテンの合計含有量の上限は特に制限されず、対照品(小麦含有加工食品)の種類等に応じて適宜設定できる。
【0033】
前記特定代替成分における澱粉類と精製グルテンとの含有質量比は、前者:後者=92:8~88:12であり、好ましくは前者:後者=90.5:9.5~88.2:11.8、である。前記特定代替成分における澱粉類と精製グルテンとの含有質量比が前記範囲から外れると、該特定代替成分を含有する対照品が小麦含有加工食品としての体をなさないものとなるおそれがある他、精製グルテン濃度が高くなるとアラビノキシラン量の計算に影響を及ぼすおそれがある。
【0034】
本発明に係る対照品は、原材料として小麦由来成分(小麦粉、小麦ふすま、小麦蛋白、小麦澱粉等)を用いずに、前記特定代替成分を用いる点以外は、基本的に、定量対象物である小麦含有加工食品と同様の方法で調製することができる。
【0035】
本発明には、包装体と、該包装体に収容された小麦含有加工食品とを含む小麦含有加工食品包装体が包含される。以下、この本発明の小麦含有加工食品包装体について説明する。本発明の小麦含有加工食品包装体について特に説明しない点は、前述の本発明の定量方法についての説明が適宜適用される。
【0036】
前記包装体は、小麦含有加工食品を収容することができ、且つ該小麦含有加工食品の成分表示等を印刷可能なものであればよく、形態及び材質は特に制限されない。前記包装体の形態としては、例えば、箱状、袋状等が挙げられる。前記包装体の素材としては、例えば、紙、プラスチック、紙、織布、金属等が挙げられる。
【0037】
前記包装体には、該包装体に収容されている小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの含有量が示されているとともに、該小麦由来アラビノキシランの含有量が、前述した本発明の定量方法によって定量されたものであることが示されている。斯かる小麦由来アラビノキシランの含有量及びその定量方法に関する情報の提示方法は特に制限されず、例えば、1)包装体の外面又は内面に印刷されていてもよく、2)包装体の内部に小麦含有加工食品とともに内包された印刷用紙等の印刷媒体に印刷されていてもよく、3)包装体又はこれに内包された印刷媒体にインターネットのURLが記載され、そのURLにアクセスすることで提示されるようになっていてもよい。
【0038】
本発明の小麦含有加工食品包装体によれば、小麦含有加工食品中の重要な機能性成分の一つであり、消費者の関心が比較的高いと考えられる小麦由来アラビノキシランの含有量が示されているとともに、その含有量の定量方法が示されているので、該小麦含有加工食品包装体の製品としての信頼性を高めることができる。
【実施例0039】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
〔実施例1、比較例1~2:ホットケーキ中の小麦由来アラビノキシランの定量〕
小麦含有加工食品の一種である「ホットケーキ」中の小麦由来アラビノキシランの定量を行った。具体的には、定量対象物である本製品のホットケーキミックスと、対照品のホットケーキミックスとを調製し、下記手順でホットケーキを製造した。各実施例及び比較例どうしは、対照品のミックス組成が互いに異なる。ホットケーキミックスの製造時における生地の焼成歩留まりは、各実施例及び比較例ともに88質量%とした。前記生地歩留まりは、生地の原材料の合計重量に対する鉄板に流した生地の重量の割合であり、前記焼成歩留まりは、鉄板に流した生地の重量に対する焼成後の生地すなわちホットケーキの重量の割合である。
そして、各実施例及び比較例それぞれについて、本製品のホットケーキ中のアラビノキシランの含有量を定量して暫定的な定量値を得るとともに(第1の工程)、対照品のホットケーキ中のアラビノキシランの含有量を定量し(第2の工程)、それらの定量値を前記式(1)に代入して、本製品のホットケーキ中の小麦由来アラビノキシランの含有量を算出した(第3の工程)。前記の第1の工程及び第2の工程における定量方法は、それぞれ具体的には、本製品又は対照品のホットケーキの一部を採取してミルで粉砕し、その粉砕物を酸処理して、該粉砕物に含まれている多糖類を加水分解し、その加水分解で得られた加水分解糖(アラビノース、キシロース、ガラクトース)をHPLCで定量することによって行った。
また、小麦含有加工食品ではないが、焼成前のホットケーキミックスについても、前記のホットケーキと同様の方法で第1ないし3の工程を実施し、本製品のホットケーキミックス中の小麦由来アラビノキシランの含有量を算出した。
以上の結果をミックスの組成とともに下記表1に示す。
【0041】
(ホットケーキの製造手順)
1.牛乳と卵とを混合し、その混合液から漉し器を用いて固形物を取り除く。
2.ボウルに、前記混合液を42.5g入れ、更にホットケーキ用ミックスを45g入れる。
3.前記ボウルの内容物をホイッパーで混合し、生地を調製する。斯かる混合は、先ず20秒/30回で混合し、次に10秒/30回で混合し、最後に10秒20回で混合する条件とする。
4.予め170℃に設定した鉄板の上に、前記生地を流して約3分間焼成した後、ひっくり返して約3分間焼成する。
【0042】
ホットケーキの製造に用いた原材料の詳細は下記のとおりである。
・小麦粉(小麦由来成分):薄力粉、日清製粉株式会社製、商品名「フラワー」
・小麦ふすま(小麦由来成分):日清製粉株式会社の湿熱処理ふすま
・デキストリン(小麦由来成分の代替成分):三和澱粉工業株式会社製、商品名「NON-GMOコーンデックスF」(加水分解糖としてのアラビノース、キシロース、ガラクトースの含有量はいずれも検出限界以下(0.2g/100g未満))
・タピオカ澱粉:(小麦由来成分の代替成分)アセチル化タピオカ澱粉、日本食品化工株式会社製、商品名「日食MT-01」(加水分解糖としてのアラビノース、キシロース、ガラクトースの含有量はいずれも検出限界以下(0.2g/100g未満))
・精製グルテン(小麦由来成分の代替成分):日本コロイド株式会社製、商品名「スーパーグル85H(N)」(加水分解糖としてのアラビノースの含有量0.3g/100g、加水分解糖としてのキシロースの含有量0.2g/100g、加水分解糖としてのガラクトースの含有量0.8g/100g)
なお、実施例1の小麦由来成分の代替成分(タピオカ澱粉、精製グルテン)の加水分解糖としてのアラビノース、キシロース、ガラクトースの含有量はいずれも検出限界以下(0.2g/100g未満)であった。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すとおり、実施例1は、対照品用ミックスが、小麦由来成分である小麦粉及び小麦ふすまの代替成分として、タピオカ澱粉及び精製グルテンを含有するため、該対照品用ミックスを用いて調製された生地から製造された対照品のホットケーキは、ホットケーキとしての体をなし、アラビノキシランの含有量の定量試験に供することができた。
そして、対照品のホットケーキは、アラビノースの含有量(前記式(1)のApに相当)及びキシロースの含有量(前記式(1)のXpに相当)は何れも検出限界未満であったのに対し、ガラクトースの含有量(前記式(1)のGpに相当)は1.0g/100gであった。対照品のホットケーキミックス中のガラクトースの含有量は検出限界未満であることから、該ミックスから調製した生地の焼成物であるホットケーキに含まれていた含有量1.0g/100gのガラクトースは、該生地を調製する際に使用した牛乳に由来するものと推察される。こうして得られた本製品及び対照品それぞれの各単糖の定量値を前記式(1)に代入することで、本製品のホットケーキ中の小麦由来アラビノキシランの含有量として、3.1g/100gが算出された。
一方、比較例1及び2は、何れも対照品がホットケーキとしての体をなさず、アラビノキシランの含有量の定量試験に供することができなかった。具体的には、比較例1の対照品は、生地の粘度が極めて低くハンドリング性に劣り、焼成するために鉄板上に生地を流した際に薄く広がり、著しく焦げ付いたため、焼成後の生地の全量を回収することができなかった。また比較例2の対照品は、比較例1の対照品に比べればハンドリング性は高いものの、生地の火抜けが悪く、焼成時間が実施例1と乖離したため、焼成時に生地の一部が鉄板に焦げ付き、焼成後の生地の表面の焦げが顕著であった。
このことから、小麦由来成分の加熱処理を経て製造された小麦含有加工食品中の小麦由来アラビノキシランの定量方法において、該小麦含有加工食品の対照品における小麦由来成分の代替成分としては、澱粉類及び精製グルテンの両方を含有するものが有効であることがわかる。
【0045】
〔実施例2、比較例3:茹でそば中の小麦由来アラビノキシランの定量〕
小麦含有加工食品の一種である「茹でそば」中の小麦由来アラビノキシランの定量を行った。具体的には、定量対象物である本製品の茹でそば用原料粉及び対照品の茹でそば用原料粉をそれぞれ調製し、各原料粉に水を加えて8分間混合してそば生地を調製した。次に、調製したそば生地を製麺ロールで成形して約1.35mm厚の麺帯生地を製造した後、No.20角の切り刃を用いて麺帯生地から麺線を切り出して生そば(生麺)を得、該生そばを常温で乾燥して、含水率13質量%の乾そば(乾麺)を得た。こうして得られた本製品及び対照品それぞれの乾そば100gを充分量の沸騰水中で茹で歩留まりが260質量%となるように茹で調理した後、速やかに冷水中で冷して水を切り、茹でそばを製造した(水分68.8%)。製造した茹でそばは、茹で調理後速やかにナス型フラスコに入れ、凍結乾燥機にて水分を除去した。
そして、各実施例及び比較例それぞれについて、本製品の茹でそば(凍結乾燥処理後の茹でそば)中のアラビノキシランの含有量を定量して暫定的な定量値を得るとともに(第1の工程)、対照品の茹でそば(凍結乾燥処理後の茹でそば)中のアラビノキシランの含有量を定量し(第2の工程)、それらの定量値を前記式(1)に代入して、本製品の茹でそば中の小麦由来アラビノキシランの含有量を算出した(第3の工程)。前記の第1の工程及び第2の工程における定量方法は、それぞれ具体的には、本製品又は対照品の茹でそばの一部を採取してミルで粉砕し、その粉砕物を酸処理して、該粉砕物に含まれている多糖類を加水分解し、その加水分解で得られた加水分解糖(アラビノース、キシロース、ガラクトース)をHPLCで定量することによって行った。
以上の結果を原料粉の組成とともに下記表2に示す。
【0046】
茹でそばの製造に用いた原材料の詳細は下記のとおりである。
・そば粉:日穀製粉株式会社製、商品名「亀寿(月)」
・グルテン(小麦由来成分):市販精製グルテン
・小麦ふすま(小麦由来成分):日清製粉株式会社の湿熱処理ふすま
・タピオカ澱粉(小麦由来成分の代替成分):前記ホットケーキに製造に用いたものと同じ
・精製グルテン(小麦由来成分の代替成分):前記ホットケーキに製造に用いたものと同じ
【0047】
【表2】
【0048】
表2に示すとおり、実施例2は、対照品用原料粉が、小麦由来成分である小麦粉及び小麦ふすまの代替成分として、タピオカ澱粉及び精製グルテンを含有するため、該対照品用原料粉を用いて調製された生地から製造された対照品の茹でそばは、茹でそばとしての体をなし、アラビノキシランの含有量の定量試験に供することができた。
そして、対照品の茹でそば(凍結乾燥処理後)は、アラビノースの含有量(前記式(1)のApに相当)が0.4g/100g、キシロースの含有量(前記式(1)のXpに相当)が0.3g/100g、ガラクトースの含有量(前記式(1)のGpに相当)が0.3g/100gであった。この対照品に含まれるアラビノース、キシロース及びガラクトースは、そば粉に由来するものと推察される。こうして得られた本製品及び対照品それぞれの各単糖の定量値を前記式(1)に代入することで、凍結乾燥処理後の茹でそば中の小麦由来アラビノキシランの含有量として、6.4g/100gが算出された。これを凍結乾燥処理前の数値で計算すると、2.0g/100gとなる。
一方、比較例3は、対照品が茹でそばとしての体をなさず、アラビノキシランの含有量の定量試験に供することができなかった。具体的には、比較例3の対照品は、そば生地のつながりが極めて悪く、麺帯生地から生そばに切り出した際にちぎれてしまい、麺線とは言い難い細片状となった。この細片状の生そばをそのまま常温で乾燥して乾そばとし、該乾そばを茹で調理したところ、そばが沸騰水中に散逸し、茹でそばとして回収することができなかった。